説明

画像検査装置、画像検査方法、及びプログラム

【課題】多種多様な定型帳票を対象に、帳票種識別を精度良く行う。
【解決手段】基準画像を入力する基準画像入力手段と、被検査画像を入力する被検査画像入力手段と、基準画像と被検査画像とを整合する画像整合手段と、整合された画像に対して座標変換処理を施すことにより複数のパラメータを算出する算出手段と、複数のパラメータの各値と、複数のパラメータのそれぞれに対応して予め定められた複数の基準値とをそれぞれ比較する比較手段と、比較手段の比較結果に基づいて、被検査画像の受け入れの可否を判断する判断手段と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像検査装置、画像検査方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被検査対象であるデータ画像が、リファレンス(基準)であるマスター画像と同種のものか別種のものかを判定し、特にデータ画像とマスター画像を定型帳票画像とする帳票種識別の分野に関する画像検査装置が一般的に知られている。
【0003】
定型帳票のデータ処理システムにおいては、通常、帳票上に記入された文字の自動読み取り(OCR:Optical Character Reader(光学的文字読取装置))を実行する際、各文字の記入位置情報等の帳票定義データを併せて必要とする。したがって、複数種類の定型帳票を対象とする場合、帳票定義データが帳票種毎に異なるため、OCRに先立って、入力された画像の帳票種を識別する必要がある。
【0004】
従来は、各帳票種毎に特有のマークや記号を帳票上に印刷しておき、その有無を認識して帳票種を識別する方法が一般的であったが、専用の帳票設計が必要で、既存業務のシステム化に際して帳票の切り替えに伴う手間とコストがかかってしまうこと、マークや記号上にノイズ・つぶれ・かすれが発生すると識別できないこと、が問題となっていた。
【0005】
この問題を解決するため、例えば特許文献1では、罫線情報の照合に基づいて帳票種識別を行う方法が示されている。また、特許文献2では、罫線に限らず、プレ印刷文字等を含めた複数の対応点を入力画像(データ画像)とリファレンス画像(マスター画像)との間で見い出すことにより、対応点間の座標変換を求め、当該変換係数に基づいて算出される相違度、或いは係数と閾値との比較をもって、帳票種識別を行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、特有のマークや記号を必要とせず、罫線全体の情報を総合的に用いるので、入力画像の一部にノイズ・つぶれ・かすれがあっても識別が可能となるものの、罫線のない帳票には適用することができないという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載された方法による識別では、座標変換の係数から算出される1つの相違度や係数値そのものを評価しており、座標変換が齎す幾何的なずれ・歪みの各作用を個別に・直接的に評価することができないという問題がある。
【0008】
代表的な座標変換の手法としてアフィン変換がある。アフィン変換とは、変換前の画像座標を(x、y)、変換後の画像座標を(X、Y)としたときに、X=a*x+b*y+e、Y=c*x+d*y+fで示される座標変換式によって、(X、Y)の輝度を(x、y)の輝度で置き換える処理のことをいい、一次の座標軸変換式で表される画像の幾何学的変換で、撮像系の比較的単純な歪みの補正や、対称物体の置き方のずれを補正して、複数画像間の位置合わせを行う場合に一般的に用いられる手法である。
【0009】
アフィン変換が齎す幾何的なずれ作用には回転・変倍・平行移動があり、歪み作用にはせん断・伸縮がある。これらを1つの相違度に集約してしまっては、識別を精度良く行うにも限界があるし、アフィン変換係数そのものを閾値と比較したのでは、幾何的なずれ・歪みを間接的に評価しているに過ぎず、やはり識別精度には限界がある。
【0010】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、専用の帳票を必要とせず、罫線のない帳票にも適用可能で、しかも精度の良い識別を行うことができる画像検査装置、画像検査方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明における画像検査装置は、基準画像を入力する基準画像入力手段と、被検査画像を入力する被検査画像入力手段と、前記基準画像と前記被検査画像とを整合する画像整合手段と、前記整合された画像に対して座標変換処理を施すことにより複数のパラメータを算出する算出手段と、前記複数のパラメータの各値と、前記複数のパラメータのそれぞれに対応して予め定められた複数の基準値とをそれぞれ比較する比較手段と、前記比較手段の比較結果に基づいて、前記被検査画像の受け入れの可否を判断する判断手段と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特有のマークや記号、また罫線のない帳票を含めた、多種多様な定型帳票を対象に、帳票種識別を精度良く行うことができる画像検査装置、画像検査方法、及びプログラムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る画像検査装置の構成について説明する概略ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る画像検査装置の動作について説明する動作フローである。
【図3】本発明の実施形態に係る画像検査装置における整合ずれ度について、データ画像原点に対するマスター画像上のベクトルについて説明する図である。
【図4】本発明の実施形態に係る画像検査装置における整合歪み度ついて、せん断作用と伸縮作用について説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に係る画像検査装置における基準値(閾値)と、整合ずれ度と整合歪み度との判定結果を示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る画像検査装置の動作について説明する動作フローである。
【図7】本発明の実施形態に係る画像検査装置に実行させるプログラムを格納するコンピュータの構成について説明する概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化乃至省略する。本発明は、要するに、基準画像と被検査画像とを整合し座標変換を施すことにより求められた複数のパラメータの各値が、それぞれに対応して予め定められた複数の基準値の条件を満たすとき、被検査画像を受け入れることが特徴になっている。この本発明の特徴について、以下の図面を用いて詳細に解説する。
【0015】
最初に、本発明の実施形態に係る画像検査装置について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る画像検査装置の構成について説明する概略ブロック図である。図1において、画像検査装置100は、基準画像となるマスター画像を入力するマスター画像入力部101と、被検査対象画像となるデータ画像を入力するデータ画像入力部102と、マスター画像入力部101及びデータ画像入力部102から入力されたマスター画像及びデータ画像を一時的に格納するマスター画像バッファ111及びデータ画像バッファ112と、マスター画像バッファ111から出力されたマスター画像とデータ画像バッファ112から出力されたデータ画像とを整合する画像整合部103と、画像整合部103により整合されたマスター画像とデータ画像とに対してアフィン変換を施し、アフィン変換係数を一時的に格納するアフィン変換係数バッファ113とから構成される。
【0016】
さらに、アフィン変換により算出されたマスター画像とデータ画像との間の整合ずれ度を算出する整合ずれ度算出部104と、整合歪み度を算出する整合歪み度算出部105と、整合ずれ度を一時的に格納する整合ずれ度バッファ114と、整合歪み度を一時的に格納する整合歪み度バッファ115と、整合ずれ度バッファ114から出力された整合ずれ度と、整合歪み度バッファ115から出力された整合歪み度とに基づいて、画像検査結果を判定する結果判定部106とから構成される。
【0017】
次に、本発明の実施形態における画像検査装置の動作について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る画像検査装置の動作について説明する動作フローである。図2において、まず、ステップ201(以下、「S201」等という。)の処理では、スキャナ等により構成されるマスター画像入力部101へ入力されたマスター画像は、デジタル画像データとしてマスター画像バッファ111(図1)へ保存される。
【0018】
同様に、S202の処理では、スキャナ等により構成されるデータ画像入力部102へ入力されたデータ画像は、デジタル画像データとしてデータ画像バッファ112へ保存される。続いて、S203の処理では、画像整合部103において、マスター画像バッファ111上のマスター画像とデータ画像バッファ112上のデータ画像とを互いに整合させるためのアフィン変換処理が施され、アフィン変換係数が算出される。
【0019】
なお、アフィン変換処理については、一般的に用いられている公知の方法を採用することとし、ここでは詳細な説明を省略する。また、仮に、マスター画像とデータ画像との差異が極端に大きい等の理由によって、適切なアフィン変換処理が施されず、アフィン変換係数が算出されない場合には、この時点でデータ画像はリジェクトされる。そして、適切なアフィン変換処理が施され、アフィン変換係数が算出されるとき、その変換式は次の<数式1>に従う。
【0020】
<数式1>
X=a*x+b*y+e
Y=c*x+d*y+f
ここで、(x、y)は、データ画像上の座標であり、(X、Y)は、対応するマスター画像上の座標を意味する。また、a、b、c、d、e、及びfは、アフィン変換係数である。そして、<数式1>中のアフィン変換係数aからfは、アフィン変換係数バッファ113(図1)へ格納される。
【0021】
次に、S204の処理では、整合ずれ度算出部104(図1)において、アフィン変換係数バッファ113に格納されたアフィン変換係数を用いて整合ずれ度が算出される。データ画像上の横軸単位ベクトルVx=(1、0)は、<数式1>にてx=1、y=0を代入すれば分かる通り、アフィン変換処理が施されるにより、マスター画像上のベクトルVX=(a、c)へ写像される(ここでは、データ画像原点(0、0)の写像先(e、f)からの相対ベクトルで考えることとする。)。
【0022】
同様に、データ画像上の縦軸単位ベクトルVy=(0、1)は、マスター画像上のベクトルVY=(b、d)へ写像される。ここで、図3を参照して、データ画像原点に対するマスター画像上のベクトルについて説明する。図3は、本発明の実施形態に係る画像検査装置における整合ずれ度について、データ画像原点に対するマスター画像上のベクトルについて説明する図である。
【0023】
図3では、画像左下隅を原点とし、垂直上向きをy軸として描いているが、画像処理分野でよく用いられるように、画像左上隅を原点とし、垂直下向きをy軸としても良い。ベクトルVXと水平線とのなす角をαとすると、アフィン変換処理によるデータ画像横軸の回転量として、tanαの絶対値を用いることができる。同様に、ベクトルVYと垂直線とのなす角をβとすると、データ画像縦軸の回転量として、tanβの絶対値を用いることができる。そして、それらの平均を全体の回転量パラメータP1とする。
【0024】
すなわち、
<数式2>
P1=(|tanα|+|tanβ|)/2=(|c/a|+|b/d|)/2
ここで、パラメータP1はアフィン変換による回転作用の度合いを示すものであり、回転がなければ0、回転作用が大きくなるに従って増加する量である。一方、ベクトルVXとVYの大きさは、そのままアフィン変換処理による横変倍率Rxと縦変倍率Ryとをそれぞれ表している。
【0025】
すなわち、
<数式3>
Rx=|VX|=SQRT{a*a+c*c}
Ry=|VY|=SQRT{b*b+d*d}
なお、SQRT{・・・}は平方根を示す。
【0026】
ここで、変倍作用として、2倍の拡大と1/2の縮小とを同等に評価したり、3倍の拡大と1/3の縮小とを同等に評価したりするには、変倍率が1以上であればその値を用い、変倍率が1未満であればその逆数を用いれば良いことになる。つまり、横方向と縦方向の変倍作用はそれぞれMAX(Rx、1/Rx)、MAX(Ry、1/Ry)として表現できる。なお、MAX(A、B)は、AとBの内の大きい方を表すものとする。そして、それらの平均と等倍(無変倍)との間の乖離を全体の変倍量パラメータP2とする。
【0027】
すなわち、
<数式4>
P2={MAX(Rx、1/Rx)+MAX(Ry、1/Ry)}/2−1
ここで、パラメータP2はアフィン変換処理による変倍作用の度合いを示すものであり、変倍がなければ0、変倍作用が大きくなるに従って増加する量である。
【0028】
また、アフィン変換係数eとfの絶対値は、そのままアフィン変換処理による横移動量と縦移動量とをそれぞれ表しているが、単位を画素の単位であるピクセルから、物理的長さの単位であるミリメートルに変換する。ここで、用紙サイズのピクセル値を求める計算式は、用紙の一辺の長さ(mm)*解像度(dpi:dot per inch)/25.4であるから、横解像度Hx(dpi)と縦解像度Hy(dpi)とを用いて単位の変換を行い、それらの平均を全体の平行移動量パラメータP3とする。
【0029】
すなわち、
<数式5>
P3={(e*25.4/Hx)+(f*25.4/Hy)}/2
ここで、パラメータP3はアフィン変換処理による平行移動作用の度合いを示すものであり、平行移動がなければ0、平行移動作用が大きくなるにつれて増加する量である。このようして、図2のS204の処理において、3つの成分からなる整合ずれ度(P1、P2、P3)が得られ、整合ずれ度バッファ114(図1)へ格納される。
【0030】
次に、整合歪み度算出部105(図1)において、アフィン変換係数バッファ113に格納されたアフィン変換係数を用いて整合歪み度が算出される。ここで、図4を参照して、整合歪み度における、せん断作用と伸縮作用について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る画像検査装置における整合歪み度ついて、せん断作用と伸縮作用について説明する図である。
【0031】
アフィン変換処理が正方形を平行四辺形に歪ませる作用は、正方形の各辺の長さを保ったまま菱形に変形させるせん断作用と、正方形の直角を保ったまま縦横の辺の長さが異なる矩形に変形させる伸縮作用とに分けて考えることができる。せん断作用については、作用が強まるほど、前述したベクトルVXとVYのなす角θは直角から乖離する。この乖離の度合いを、cosθの絶対値で評価したものを、せん断量パラメータP4とする。
【0032】
すなわち、
<数式6>
P4=|cosθ|=|VX−VY|/|VX||VY|=|a*b+c*d|/(Rx*Ry)
ここで、パラメータP4はアフィン変換処理によるせん断作用の度合いを示すものであり、せん断がなければ0、せん断作用が大きくなるにつれて増加する量である。
【0033】
また、伸縮作用については、作用が強まるほど、ベクトルVXの大きさRxを一辺とする正方形と、ベクトルVYの大きさRyを一辺とする正方形とのスケール差が広がる。このスケール差を面積差によって評価し、面積差を横Rx*縦Ryの矩形の面積で正規化したものを伸縮量パラメータP5とする。
【0034】
すなわち、
<数式7>
P5={MAX(Rx*Rx、Ry*Ry)−MIN(Rx*Rx、Ry*Ry)}/(Rx*Ry)
ここで、MIN(A、B)は、AとBの内の小さい方を表すものとする。パラメータP5はアフィン変換処理による伸縮作用の度合いを示し、伸縮がなければ0、伸縮作用が大きくなるにつれて増加する量である。このようして、図2のS205の処理において、2つの成分からなる整合歪み度(P4、P5)が得られ、整合歪み度バッファ115(図1)へ格納される。
【0035】
整合ずれ度パラメータP1からP3と整合歪み度パラメータP4、P5とは、そのいずれの要素も、0に近いほどデータ画像がマスター画像と無理なく整合し得ることを示す指標である。そこで、図2のS206の処理において、結果判定部106(図1)において、整合ずれ度バッファ114と整合歪み度バッファ115上のパラメータP1からP5と、各要素に対応するマスター画像の基準値(閾値)T1からT5とを比較し、すべての要素が基準値(閾値)以下であれば(S206:Yes)、当該データ画像を受け入れ(S207)、1つでも基準値(閾値)を超える要素があれば(S206:No)、リジェクトする(S208)。
【0036】
すなわち、
if(P1≦T1)AND(P2≦T2)AND(P3≦T3)AND(P4≦T4)AND(P5≦T5)
then 受け入れ
else リジェクト
なるロジックをもって検査結果が判定される。
【0037】
ここで、基準値(閾値)と、整合ずれ度と整合歪み度との判定結果の具体例を用いて説明する。図5は、本発明の実施形態に係る画像検査装置における基準値(閾値)と、整合ずれ度と整合歪み度との判定結果を示す図である。図5に示す例では、ケース(a)は、パラメータP1からP5のすべてが基準値(閾値)以下であるため「受け入れ」と判定されるが、ケース(b)は、パラメータP2、P4、P5がそれぞれ基準値(閾値)を上回っているため「リジェクト」と判定される。
【0038】
次に、本発明の他の実施形態における画像検査装置の動作について説明する。他の実施形態の動作のうち、上述した実施形態と同一部分については説明を省略する。上述した実施形態との相違点は、整合ずれ度パラメータP1からP3及び整合歪み度パラメータP4、P5と比較されるべき基準値(閾値)として、事前の学習によってマスター画像に適応して決定された値を用いていることである。
【0039】
このため、予め特定のマスター画像mに対して、受け入れるべきデータ画像を多数収集し、上記実施形態において説明した方法を用いて各データ画像についてのパラメータP1からP5を算出する。収集されたデータ画像の中で最大のパラメータP1値をM1、最大のパラメータP2値をM2…、(以下、パラメータP5まで同様)、…とする。
【0040】
この他の実施形態における画像検査装置の動作について図6を用いて具体的に説明する。図6は、本発明の他の実施形態に係る画像検査装置の動作について説明する動作フローである。図6において、まず、S601の処理では、パラメータP1からP5までの値の各最大値であるM1からM5に対して0が代入されることにより、最大値の初期化が行われる。
【0041】
次に、S602の処理では、マスター画像mと次のデータ画像が、それぞれマスター画像入力部101及びデータ画像入力部102に入力される。そして、S603の処理では、整合ずれ度算出部104及び整合歪み度算出部105において、整合ずれ度パラメータP1からP3及び整合歪み度パラメータP4、P5が算出される。
【0042】
そして、S604の処理において、P1がパラメータP1の最大値であるM1より大であるか否かが判断され、P1がM1よりも大(S604:Yes)であれば、そのP1を最大値M1として更新し(S605)、P1がM1未満(S604:No)あれば、最大値M1を更新せずにS606へ移行する。
【0043】
このような最大値を求める処理を、パラメータP2からP5についてまで実施し、S606の処理において、入力された画像が最後であるか否かが判断される。入力された画像が最後でないときには(S606:No)、S602の処理へ戻り、入力された画像が最後であるときには(S606:Yes)、S607の処理へ移行する。
【0044】
S607の処理では、基準値(閾値)が決定される。すなわち、予め特定のマスター画像mに対して、受け入れるべきデータ画像を多数収集し、上述した実施形態において説明した動作フローを実行することにより、各データ画像についてパラメータP1からP5を算出する。そして、収集されたデータ画像の中で最大のP1値をM1、最大のP2値をM2…、(以下、P5まで同様)、…とすると、これらのマスター画像mに対する基準値(閾値)T1mからT5mを次式の通り決定しておく。
【0045】
すなわち、
<数式8>
T1m=K*M1
T2m=K*M2
T3m=K*M3
T4m=K*M4
T5m=K*M5
ここで、右辺のK倍のファクターは、収集から漏れた未知のデータ画像を考慮したマージンに相当するものであり、一例としてK=1.2を用いることができる。ここまでが事前学習の動作フローである。
【0046】
そして、画像検査を行うときは、新たなデータ画像がマスター画像mとの照合のためデータ画像入力部102(図1)に入力されると、上述した実施形態で説明した動作フローに従って、当該データ画像についてのパラメータP1からP5が算出され、上式の基準値(閾値)(T1mからT5m)を用いて、
if(P1≦T1m)AND(P2≦T2m)AND(P3≦T3m)AND(P4≦T4m)AND(P5≦T5m)
then 受け入れ
else リジェクト
なるロジックをもって検査結果が決定される。
【0047】
このように他の実施形態によれば、収集されたデータ画像はすべてマスター画像mとして受け入れられ、新たなデータ画像についても同様に受け入れられるものと期待される。また、リジェクトすべきデータ画像が入力された場合には、そのパラメータP1からP5の中には基準値(閾値)以下となるものも僅かながらもあり得るが、5つのパラメータすべてが同時に基準値(閾値)以下となる可能性は非常に低く、上記AND条件のロジックによって正確にリジェクトできると考えられる。
【0048】
また、本発明のさらに他の実施形態では、整合ずれ度パラメータであるP1、P2、P3で得られたずれ度合いの、それぞれのパラメータを単独で閾値処理によって判断するのではなく、
<数式9>
G=α*P1+β*P2+γ*P3
という一次元の評価式にて評価を行い、Gの値を閾値T6において判断を行う。α、β、γには例として、1.0、1.5、0.012等を用いることができる。
【0049】
すなわち、
if(G<T6)
then 受け入れ
else リジェクト
なるロジックをもって検査結果が判定される。
【0050】
ここで、P3は変換における原点の平行移動量に依存するパラメータであり、この値が大きかったとしても、形状の変化とは無関係である。そのため、スキャンの条件等によっては、γの係数を0として判断しても良い。
【0051】
また、ここでP1は変換における、回転の成分に依存しており、θが小さい場合に、tanθ≒c/aが成立することを仮定している。P3と同様に、回転していても形状は変わらないわけであるが、P1の値が大きくなると仮定が成立しなくなることもあり、一定値で判断しても良い。
【0052】
なお、本発明のさらに他の実施形態では、整合ずれ度パラメータであるP1、P2、P3で得られたずれ度合いの、それぞれのパラメータを単独で閾値処理によって判断することと、上述した一次元の評価式にて評価を行うこととを併用し、個々のパラメータ及びGの値が基準を満たすことを受け入れる条件としても良い。
【0053】
また、本発明のさらに他の実施形態では、整合歪み度パラメータであるP4、P5で得られた歪度合いの、それぞれのパラメータを単独で閾値処理によって判断するのではなく、
<数式10>
DI=δ*P4+ε*P5
という一次元の評価式にて評価を行い、DIの値を閾値T7において判断を行う。δ、εには、例として、1.0、0.5を用いることができる。
【0054】
すなわち、
if(DI<T7)
then 受け入れ
else リジェクト
なるロジックをもって検査結果が判定される。
【0055】
そして、歪度合いについては、形状の変化に直結するために、ずれ量よりも厳しい閾値で判断するほうが、経験上精度が上がることが分かっている。
【0056】
本発明のさらに他の実施形態は、上記した「ずれ量よりも厳しい閾値で判断するほうが、経験上精度が上がる。」点を考慮したものであり、
<数式11>
T=α*P1+β*P2+γ*P3+δ*P4+ε*P5
の評価式と閾値T8によって判断を行うことも可能である。
【0057】
すなわち、
if(DI<T8)
then 受け入れ
else リジェクト
なるロジックをもって検査結果が判定される。
【0058】
ここで係数α〜εは、全てのシステムで固定とするのではなく、運用の評価の時点で正常処理されたデータの統計解析を行い、各パラメータの寄与度を重みに反映するということができる。さらに、重みに反映するのは寄与度ではなく、統計解析して分かったずれ、歪み度の分散の最大値も利用できるため、これらはそれぞれのパラメータP1〜P5の閾値であるT1〜T5に反映させることができる。
【0059】
そして、データを統計解析することで、パラメータP1〜P5の相関も分かるため、例えば「P3とP5の値は相関関係が高いためにどちらか一方だけを計算することで閾値処理ができる。」ということが判明した場合に、P3を計算する処理を省くという対応も可能である(γを0にするということもできるが、そもそも計算を行わない方が、処理時間の高速化に繋がる。)。
【0060】
一部のデータ収集を行い、パラメータの最適化を随時行う場合には、他のメリットもある。例えば1拠点で処理を行っていたところから、拠点数を増やすということになり、他のスキャナでの運用も始まったとする。あるところに少し古めのスキャナが配備されて、スキャン時のスキューが起こる確率が増えたとすると、従来データよりも、正しいにもかかわらずリジェクトされるという現象が増える。そのデータ等の状況を鑑みて閾値や係数を調整することも可能である。
【0061】
なお、本発明の実施形態に係る画像検査装置の各動作はコンピュータ上のプログラムに実行させることもできる。図7は、本発明の実施形態に係る画像検査装置に実行させるプログラムを格納するコンピュータの構成について説明する概略ブロック図である。CD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)等の記録媒体に記録された本発明の実施形態に係るプログラムは、図7のCD−ROMドライブ705を通じて(又は、一旦ハードディスク701に蓄えられることもある。)、プログラム実行時にはメモリ706上にロードされ、CPU(Central Processing Unit)702からの指令によってプログラムの処理ステップが順次実行される。
【0062】
マスター画像及びデータ画像に相当するデジタル画像データは、予めハードディスク701上に蓄えられるか、又は実行時に図示しないスキャナを通じて取り込まれた後、メモリ706上にロードされて参照される。検査の判定結果はメモリ706に保存され、必要に応じてハードディスク701に格納されたり、ディスプレイ703に出力されたり、通信装置704を介してネットワーク上へ送出されたり、或いは図示しないプリンターを通じて紙上に印字される。
【0063】
以上説明したように、本発明では、基準画像と被検査画像とを整合し座標変換を施すことにより求められた複数のパラメータの各値が、それぞれに対応して予め定められた複数の基準値の条件を満たすとき、被検査画像を受け入れることにより、特有のマークや記号、また罫線のない帳票を含めた、多種多様な定型帳票を対象に、帳票種識別を精度良く行うことができる画像検査装置、画像検査方法、及びプログラムを得ることが可能となった。
【0064】
以上、本発明の好適な実施形態により本発明を説明した。ここでは特定の具体例を示して本発明を説明したが、特許請求の範囲に定義された本発明の広範囲な趣旨及び範囲から逸脱することなく、これら具体例に様々な修正及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
100 画像検査装置
101 マスター画像入力部
102 データ画像入力部
103 画像整合部
104 整合ずれ度算出部
105 整合歪み度算出部
111 マスター画像バッファ
112 データ画像バッファ
113 アフィン変換計数バッファ
114 整合ずれ度バッファ
115 整合歪み度バッファ
700 コンピュータ
701 ハードディスク
702 CPU
703 ディスプレイ
704 通信装置
705 CD−ROMドライブ
706 メモリ
707 キーボード/マウス
【先行技術文献】
【特許文献】
【0066】
【特許文献1】特開2003−109007号公報
【特許文献2】特許第3932201号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準画像を入力する基準画像入力手段と、
被検査画像を入力する被検査画像入力手段と、
前記基準画像と前記被検査画像とを整合する画像整合手段と、
前記整合された画像に対して座標変換処理を施すことにより複数のパラメータを算出する算出手段と、
前記複数のパラメータの各値と、前記複数のパラメータのそれぞれに対応して予め定められた複数の基準値とをそれぞれ比較する比較手段と、
前記比較手段の比較結果に基づいて、前記被検査画像の受け入れの可否を判断する判断手段と、
を含むことを特徴とする画像検査装置。
【請求項2】
前記複数のパラメータは、前記基準画像に対する前記被検査画像のずれ度合い及び歪度合いを示すパラメータであることを特徴とする請求項1に記載の画像検査装置。
【請求項3】
前記判断手段は、前記複数のパラメータの各値が、対応する前記複数の基準値の条件を満たすとき、前記被検査画像を受け入れることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像検査装置。
【請求項4】
前記基準画像に対する前記被検査画像のずれ度合いを示すパラメータは、前記基準画像に対する前記被検査画像の回転量、変倍量、及び平行移動量の中の少なくとも1つを含むものであることを特徴とする請求項2に記載の画像検査装置。
【請求項5】
前記基準画像に対する前記被検査画像の歪度合いを示すパラメータは、前記基準画像に対する前記被検査画像のせん断量及び伸縮量の中の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2に記載の画像検査装置。
【請求項6】
前記座標変換処理は、アフィン変換処理であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の画像検査装置。
【請求項7】
基準画像入力手段が、基準画像を入力する工程と、
被検査画像入力手段が、被検査画像を入力する工程と、
画像整合手段が、前記基準画像と前記被検査画像とを整合する工程と、
算出手段が、前記整合する工程により整合された画像に対して座標変換処理を施すことにより複数のパラメータを算出する工程と、
比較手段が、前記複数のパラメータの各値と、前記複数のパラメータのそれぞれに対応して予め定められた複数の基準値とをそれぞれ比較する工程と、
判断手段が、前記比較する工程の比較結果に基づいて、前記被検査画像の受け入れの可否を判断する工程と、
を含むことを特徴とする画像検査方法。
【請求項8】
画像検査装置のコンピュータに実行させるプログラムであって、
基準画像入力手段が、基準画像を入力する処理と、
被検査画像入力手段が、被検査画像を入力する処理と、
画像整合手段が、前記基準画像と前記被検査画像とを整合する処理と、
算出手段が、前記整合する処理により整合された画像に対して座標変換処理を施すことにより複数のパラメータを算出する処理と、
比較手段が、前記複数のパラメータの各値と、前記複数のパラメータのそれぞれに対応して予め定められた複数の基準値とをそれぞれ比較する処理と、
判断手段が、前記比較する処理の比較結果に基づいて、前記被検査画像の受け入れの可否を判断する処理と、
を含むことを特徴とするプログラム。
【請求項9】
前記基準画像に対する前記被検査画像のずれ度合いを示すパラメータは、前記基準画像に対する前記被検査画像の回転量、変倍量、及び平行移動量の中の少なくとも1つを含む1次元の式で表され、その式で計算されたずれ度合いによって受け入れの判断をすることを特徴とする請求項2に記載の画像検査装置。
【請求項10】
前記基準画像に対する前記被検査画像の歪度合いを示すパラメータは、前記基準画像に対する前記被検査画像のせん断量及び伸縮量の中の少なくとも1つを含む1次元の式で表され、その式で計算された歪度合いによって受け入れの判断をすることを特徴とする請求項2に記載の画像検査装置。
【請求項11】
前記基準画像に対する前記被検査画像のずれ度合い、歪度合いを示すパラメータから判断処理を行うための1次元の式によって、一致度合いを計算し、その値によって受け入れの判断をすることを特徴とする請求項2に記載の画像検査装置。
【請求項12】
前記複数のパラメータは、前記基準画像に対する前記被検査画像のずれ度合い及び歪度合いを示すパラメータであることを特徴とする請求項7に記載の画像検査方法。
【請求項13】
前記基準画像に対する前記被検査画像のずれ度合いを示すパラメータは、前記基準画像に対する前記被検査画像の回転量、変倍量、及び平行移動量の中の少なくとも1つを含む1次元の式で表され、その式で計算されたずれ度合いによって受け入れの判断をすることを特徴とする請求項12に記載の画像検査方法。
【請求項14】
前記基準画像に対する前記被検査画像の歪度合いを示すパラメータは、前記基準画像に対する前記被検査画像のせん断量及び伸縮量の中の少なくとも1つを含む1次元の式で表され、その式で計算された歪度合いによって受け入れの判断をすることを特徴とする請求項12に記載の画像検査方法。
【請求項15】
前記基準画像に対する前記被検査画像のずれ度合い、歪度合いを示すパラメータから判断処理を行うための1次元の式によって、一致度合いを計算し、その値によって受け入れの判断をすることを特徴とする請求項12に記載の画像検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−77291(P2013−77291A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−178021(P2012−178021)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】