説明

画像表示システム

【課題】歪み補正データの容量を小さくし、かつ光学歪みの個体差にも容易に対応する。
【解決手段】画像表示システム1000は、画像信号に応じた原画を形成する画像形成素子101R,101L、及び該画像形成素子からの光を観察者の眼に導く光学系102R,102Lを有する画像表示装置100と、該光学系により生ずる画像の光学歪みに対する逆の歪みを含む画像信号を画像表示装置に出力する制御装置200とを有する。制御装置は、逆歪みに関する基準データを記憶した第1の記憶手段210R,210Lを有し、画像表示装置は、該光学系に対する逆歪みに関するデータであって、基準データに対する差分データを記憶した第2の記憶手段103R,103Lを有する。制御装置は、基準データと差分データとに基づいて逆歪みを含む画像信号を生成する画像生成手段202R,202Lを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるヘッドマウントディスプレイ等の画像表示装置を含む画像表示システムに関し、特に画像表示装置で生じる画像の光学歪みを電気的に補正する機能を備えた画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドマウントディスプレイ(頭部装着型画像表示装置:以下。HMDという)は、LCD等の画像形成素子に形成された原画の像を、レンズやプリズム型光学素子等を用いた光学系によって拡大して観察者の眼に導く。画像形成素子は、HMDにケーブルや無線を介して外部の制御ユニットから供給される画像信号に応じて原画を表示する。
【0003】
このようなHMDにおいて、光学系に起因する画像の歪み(光学歪み)を電気的な画像処理によって補正する技術が多く提案されている。例えば、光学歪みとは逆の歪みを含む画像信号を制御ユニットで生成してHMDに供給する。
【0004】
そして、逆歪みを含む画像信号の生成方法として、HMDが搭載する光学系の歪み特性に応じた歪み補正データテーブルを選択し、該補正データを用いて、歪みのない元の画像信号を、逆歪みを含む画像信号に補正する方法が特許文献1にて開示されている。また、歪み補正テーブルを記憶するメモリ容量を削減するため、点対称な歪みの特性を利用して、画像全体の補正データではなく、画像の1/2や1/4の領域の補正データを対称領域に対しても使用する方法が特許文献2に開示されている。その他、RGB各色の画像信号に対して個別に歪み補正を行うことで、光学系の色収差による画像の劣化も補正する方法が特許文献3にて開示されている。
【特許文献1】特開平6−268925号公報
【特許文献2】特開平5−176216号公報
【特許文献3】特開平9−113823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、最近では表示する画像の解像度が高くなり、これに伴って歪み補正テーブル等の歪み補正に必要なデータ容量が増大している。このため、特許文献2に開示された方法だけでは、必要なメモリ容量の増大を抑えるには十分ではない。また、膨大な補正データの読み込みに時間がかかるという問題が生ずる。さらに、個々のHMDの光学系には、製造誤差や組立て誤差による個体差があり、該個体差による光学歪みの差に対しても適切に対応する必要がある。
【0006】
本発明は、歪み補正データの容量を小さくし、かつ光学歪みの個体差にも容易に対応できるようにした画像表示システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての画像表示システムは、画像信号に応じた原画を形成する画像形成素子、及び該画像形成素子からの光を観察者の眼に導く光学系を有する画像表示装置と、該光学系により生ずる画像の光学歪みに対する逆の歪みを含む画像信号を画像表示装置に出力する制御装置とを有する。制御装置は、逆歪みに関する基準データを記憶した第1の記憶手段を有し、画像表示装置は、該光学系に対する逆歪みに関するデータであって、基準データに対する差分データを記憶した第2の記憶手段を有する。そして、制御装置は、基準データと差分データとに基づいて逆歪みを含む画像信号を生成する画像生成手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制御装置側の第1の記憶手段は、設計値等から算出された代表的な補正データである基準データを記憶しておけばよく、画像表示装置側の第2の記憶手段は、光学系の個体差に対応する補正データとしての差分データを記憶しておけばよい。これにより、各記憶手段の必要容量の増大を抑えつつ、制御装置側では基準データと差分データを用いて光学系の個体差に対応した逆歪みを含む画像信号を容易に生成することができる。また。各記憶手段が記憶すべき補正データ量を抑えることで、データ読み込みスピードの高速化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図1には、本発明の実施例1である頭部装着型画像表示システムの構成を示している。
【0011】
該画像表示システム1000は、画像表示装置としてのヘッドマウントディスプレイ(HMD)100と制御装置としての制御ユニット200とにより構成されている。
【0012】
HMD100は、不図示の観察者の頭部に装着され、該観察者の左右の眼に画像を提示する。なお、以下の説明において、符号の後にRが付された構成要素は右眼用であることを示し、Lが付された構成要素は左眼用であることを示す。
【0013】
HMD100は、LCDや有機EL等の表示パネル(画像形成素子)101R,101Lを有する。また、HMD100は、該表示パネル101R,101Lに表示(形成)された原画の拡大像(つまりは表示パネルからの光)をそれぞれ、観察者の右眼ER及び左眼ELに導く光学系102R,102Lを有する。
【0014】
さらに、HMD100には、EEPROM等により構成されるメモリ(第2の記憶手段)103R,103Lが設けられている。
【0015】
光学系102R,102Lは、レンズや複数の反射面を有するプリズム型の光学素子等によって構成されており、原画の拡大像(提示画像)を歪ませる。この光学系102R,102Lで生じる画像の歪み(歪曲)を、以下、光学歪みという。
【0016】
一方、制御ユニット200は、画像入力部201R,201Lと、画像処理手段としての歪み補正処理部202R,202Lと、画像出力部203R,203Lとを有する。
【0017】
画像入力部201R,201Lは、DVI等のインターフェース(I/F)に代表される、画像信号を伝送用信号からデジタル信号に変換するための変換回路である。
【0018】
画像入力部201R,201Lには、パーソナルコンピュータ、DVDプレーヤ等の画像供給装置300の右眼用及び左眼用画像生成部300R,300Lからの画像信号が入力される。
【0019】
また、画像出力部203R,203Lは、LVDS等に代表される、画像デジタル信号をHMD100内に表示パネル101R,101Lへ伝送するのに適した伝送信号に変換する回路である。
【0020】
また、歪み補正処理部202R,202Lは、画像入力部201R,201Lに入力された画像信号(歪みのない画像信号)から、光学系102R,102Lの光学歪みに対して逆の歪みを含む画像信号(以下、逆歪み画像信号という)を生成する処理を行う。逆歪み画像信号の生成には、後述する歪み補正基準データと歪み補正差分データとを用いる。
【0021】
さらに、制御ユニット200は、ROM等のメモリ210R,210Lを有する。これらのメモリ210R,210Lには、逆歪み画像信号を生成するために用いられる歪み補正基準データがテーブルデータとして記憶されている。
【0022】
また、HMD100のメモリ103R,103Lには、歪み補正処理部202R,202Lにおいて歪み補正基準データとともに逆歪み画像信号を生成するのに用いられる歪み補正差分データがデータテーブルとして記憶されている。
【0023】
詳しくは後述するが、これら歪み補正基準データと歪み補正差分データとを用いて逆歪み画像信号を生成することで、HMD100の光学歪みに関する個体差(左右の光学系102R,102L間の個体差を含む)を反映した逆歪み画像信号を生成できる。また、これにより、制御ユニット200は、同機種の(設計的に同じ)HMD100であれば、どのHMDを接続した場合でも歪みの少ない画像を提示することができる。
【0024】
次に、歪み補正処理部202R,202Lでの逆歪み画像信号の生成処理について説明する。
【0025】
まず、画像入力部201R,201Lから入力された画像信号(以下、入力画像という)から逆歪み画像信号(以下、出力画像という)を生成するのに必要な歪み補正データ(歪み補正基準データ+歪み補正差分データ)について説明する。
【0026】
本実施例での歪み補正データは、図2及び図3に示すように、出力画像の座標(Xon,Yon)(ただし、Xon,Yonは整数)へマッピングする入力画像の座標(Xn,Yn)のデータである。つまり、例えば図2に示すように、出力画像の座標(1000,1000)に変換されるべき入力画像の座標(988,989)を示すデータである。この歪み補正データは、設計値や理論値ではなく、実際の(実測した)光学歪みに対応した補正データである。
【0027】
本実施例では、この歪み補正データを、制御ユニット200側のメモリ210R,210Lに記憶された歪み補正基準データと、HMD100側のメモリ103R,103Lに記憶された歪み補正差分データとを用いて生成する。
【0028】
歪み補正基準データは、光学設計値から求められる理論的な光学歪み座標から算出した座標データである。また、その光学歪みの近似式から算出した座標データとしてもよい。
【0029】
一方、歪み補正差分データは、実測して得られた光学歪みの座標と歪み補正基準データ上での座標との差分値を示す差分データ(dxn,dyn)である。
【0030】
つまり、歪み補正基準データは光学系の設計上での補正データであり、歪み補正差分データは、実際のHMD100の組立て後に測定された光学歪みに対応した、歪み補正基準データとの差分データである。
【0031】
ここで、歪み補正差分データの要素であるdxnとdynは、単なる製造上の公差又はアライメントのずれによって生じるずれ量に相当することを想定しているため、dxnとdynの値としては、XnとYnに比べて非常に小さい値である。したがって、歪み補正差分データ(dxn,dyn)の1単位のデータ量(ビット数)もきわめて小さい。このため、HMD100側のメモリ103R,103Lに必要な容量も小さくて済む。
【0032】
なお、歪み補正差分データに含まれる複数のデータ単位に同じ又は互いに近い値が多い場合は、ランレングス符号化やハフマン符号化等のデータ圧縮技術を用いることで、さらにデータ量を削減することができる。
【0033】
歪み補正処理部202R,202Lの動作としては、補正テーブル演算処理部211R,211Lにおいて、HMD100側のメモリ103R,103Lから歪み補正差分データを読み込む。また、制御ユニット200内のメモリ210R,210Lから歪み補正基準データを読み込む。そして、歪み補正差分データ(dxn,dyn)と歪み補正基準データ(Xn,Yn)とから、実際の光学歪みに適合する歪み補正データ(X′n=Xn+dxn,Y′n=Yn+dyn)を算出する。
【0034】
次に、データ座標変換処理部212R,212Lで、入力画像に対して歪み補正データを適用し、1フレームごとに順次フレームメモリ(RAM)204R,104Lにてマッピングする。こうして生成された出力画像は、フレームメモリ204R,104Lから読み出されて、画像出力部203R,203LからHMD100に出力される。
【実施例2】
【0035】
図4には、本発明の実施例2である画像表示システムのうち制御ユニット200′の構成を示している。本実施例では、RGBの3つの色(第1、第2及び第3色)のそれぞの入力画像に対して逆歪み画像信号である出力画像を生成する場合について説明する。画像表示システムの基本的な構成は、実施例1と同じである。ここでは、実施例1と異なる点に関してのみ説明する。
【0036】
本実施例では、図4に示すように、歪み補正処理部202′の構成が実施例1と異なる。なお、図4中の各構成要素の符号にはR,Lを付していないが、実際には、各構成要素には、右眼用及び左眼用がある。
【0037】
実施例1では、光学設計値等から算出される歪み補正基準データと、実測された光学歪みから求められた歪み補正データと歪み補正基準データとの差分に相当する歪み補正差分データをデータテーブルとして各メモリに記憶していた。
【0038】
これに対し、本実施例では、図5にも示すように、歪み補正処理部202′内のメモリ221には、第1色用(ここではGREEN用)の入力画像に対する歪み補正基準データ(第1色基準データ)が記憶されている。
【0039】
一方、HMD側のメモリ103には、第2及び第3色用(ここではRED及びBLUE用)の入力画像に対する、GREEN用歪み補正基準データとの差分データであるRED及びBLUE用歪み補正差分データ(第2及び第3色差分データ)を記憶している。
【0040】
これにより、データ座標変換処理部224は、GREENの入力画像に対しては、GREEN用歪み補正基準データをそのまま歪み補正データとして用いてGREENの出力画像を生成する。
【0041】
また、RED及びBLUE歪み補正テーブル演算処理部222,223ではそれぞれ、GREEN用歪み補正基準データとRED及びBLUE用歪み補正差分データから、RED及びBLUE用歪み補正データが生成される。そして、データ座標変換処理部224は、RED及びBLUEの入力画像に対して、RED及びBLUE用歪み補正データを用いて、RED及びBLUEの出力画像を生成する。
【0042】
こうして生成されたGREEN,RED及びBLUEの出力画像は、画像出力部203を介してHMDに出力される。HMDは、GREEN,RED及びBLUEの出力画像のデータに基づくカラー原画を表示パネルに形成し、拡大されたカラー画像を観察者に提示する。
【0043】
これにより、3つの色の入力画像に対して制御ユニット200′側で持つメモリ221で記憶すべきデータの容量を削減することができる。また、HMD側のメモリ103で記憶すべきデータの容量も、3つの色用の歪み補正差分データを記憶する場合に比べて削減することができる。しかも、個々の光学系で発生する色収差も良好に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例1である画像表示システムの概略構成を示すブロック図。
【図2】実施例1における歪み補正処理の説明図。
【図3】実施例1における歪み補正データの構成を示す図。
【図4】本発明の実施例2である画像表示システムにおける歪み補正処理部の構成を示す図。
【図5】実施例2における歪み補正データの構成を示す図。
【符号の説明】
【0045】
100 HMD
101R,101L 表示パネル
102R,102L 光学系
103,103R,103L メモリ
200 制御ユニット
202,202R,202L 歪み補正処理部
210R,210L,221 メモリ
204R,204L フレームメモリ
300 画像供給装置
1000 画像表示システム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像信号に応じた原画を形成する画像形成素子、及び該画像形成素子からの光を観察者の眼に導く光学系を有する画像表示装置と、
前記光学系により生ずる画像の光学歪みに対する逆の歪みを含む画像信号を前記画像表示装置に出力する制御装置とを有し、
前記制御装置は、前記逆歪みに関する基準データを記憶した第1の記憶手段を有し、
前記画像表示装置は、前記光学系に対する前記逆歪みに関するデータであって、前記基準データに対する差分データを記憶した第2の記憶手段を有し、
前記制御装置は、前記基準データと前記差分データとに基づいて前記逆歪みを含む画像信号を生成する画像生成手段を有することを特徴とする画像表示システム。
【請求項2】
前記画像形成素子は、第1、第2及び第3色の画像信号に応じたカラー原画を形成し、
前記第1の記憶手段は、前記第1色用の前記逆歪みに関する基準データである第1色基準データを記憶し、
前記第2の記憶手段は、前記第2及び第3色用の前記逆歪みに関するデータであって、前記第1色基準データに対する差分データである第2色差分データ及び第3色差分データとを記憶し、
前記画像生成手段は、前記第1色基準データに基づいて前記第1色の前記逆歪みを含む画像信号を生成し、前記第1色基準データと前記第2及び第3色差分データとに基づいて前記第2及び第3色の前記逆歪みを含む画像信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の画像表示システム。
【請求項3】
前記画像表示装置は、観察者の頭部に装着される頭部装着型画像表示装置であることをと特徴とする請求項1又は2に記載の画像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−258802(P2008−258802A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97146(P2007−97146)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】