説明

画像記録方法、インクセット、及びインクジェット記録物

【課題】カールの発生を抑えて、耐擦過性及び再現性の高い画像の記録が行なえる画像記録方法を提供する。
【解決手段】水性インクをインクジェット法で吐出して画像を記録する画像記録方法であって、記録媒体上に、SP値が9.5以上の樹脂粒子を含み、水性インクに含まれる溶媒の前記記録媒体への浸透を遮断する遮断層を形成する遮断層形成工程と、前記遮断層の上を、水性インク中の成分を固定化する素材を用いて固定化処理する固定化処理工程と、前記遮断層上の固定化処理された領域に、顔料、樹脂粒子、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤、及び水を含有する水性インクをインクジェット法により吐出して画像を記録する画像記録工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像記録方法、インクセット、及びインクジェット記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用の被記録媒体及びそれに用いるインクとしては、例えば発色濃度、定着性、解像度など、高品位の画像を形成するための技術が種々検討されている。
【0003】
例えば普通紙に記録を行なう等、画像記録用の被記録媒体は多種多様であり、記録された画像の定着性や解像度などの品質が不充分になったり、記録後の記録媒体にカールが発生し、充分な性能が得られていない場合がある。例えば、一般の印刷等で用いられるアート紙やコート紙等の「塗工紙」や上質紙等の「非塗工紙」に水性インクを用いて記録を行なうと、インク中の水分で紙中のセルロース繊維間の水素結合の切断、再結合等により、カールと呼ばれる紙の変形が発生することが知られている。
また、インクジェット記録の高速化も図られてきており、シャトルスキャン方式ではなく、1回のヘッド操作で記録可能なシングルパス方式で高速記録する場合の記録適性が求められている。この場合、速やかにインクを吸収することが求められるが、例えばベタ画像部などのように多量のインクが付与される等の場合には、多量のインク溶媒が吸収されることになり、カールの発生も生じやすくなる。
【0004】
カールの防止策としては、インクに糖類等のカール防止剤を添加する方法や、搬送部の紙抑え機構を強めて強制的にカールを抑える等の方法が提案されているが、いずれも充分にカールを抑えるまでには至っていない。
【0005】
カールの抑制に関連する技術として、インクで記録するに先立って紙にアルコール液を付与し、記録位置では紙が実質的に乾燥した状態にした後にインクで画像を記録する紙カール抑制方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、インクの浸透を抑制する処理液をインクとは別に付与するインクジェットプリント方法(例えば、特許文献2参照)、インク打滴前に基材を撥液的にする技術(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2004−136458号公報
【特許文献2】特開平9−254376号公報
【特許文献3】米国特許第6283589明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したアルコール液を用いた紙カール抑制方法では、アルコールを水性インク打滴前に紙に付与するため、インクのハジキや画像の滲みが生じてしまう問題がある。この問題を解消するために、アルコール液を紙に付与した後に紙表面を乾燥させようとすると、その後にインクを打滴した際のカールの発生を防止できない。
【0007】
また、インクの浸透を抑制する処理液を用いたインクジェットプリント方法では、処理液中のカチオン活性剤などの成分の働きにより、インク中の色素を不溶化(凝集)させ得るため、インク中の色素(染料)の紙内部への浸透は抑制されるものの、インク中の溶媒(水)は反応しないため、紙中への浸透は抑制されず、紙のカールを抑えることはできない。
【0008】
さらに、予め基材を撥液的にする技術では、基材(紙)の撥液化によりインク中の溶媒が受ける毛細管力が小さくなるため、浸透は抑制されるが、インクドットの広がりも抑制されてしまうため、インクドット同士に隙間ができてしまい、結果として画像の光学濃度が著しく低下してしまうほか、ドットの位置誤差に起因するスジムラが強調されて高品質の画像を得ることはできない。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、カールの発生を抑えて、耐擦過性及び再現性の高い画像の記録が行なえる画像記録方法、インクセット、及びインクジェット記録物を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、記録媒体上に水性インクの溶媒(主として水分)の浸透を遮断する遮断層と水性インク中の成分を固定化する領域(好ましくは固定化層)とを順次設け、この領域もしくは固定化層に水性インクを与えて画像を形成する場合に、遮断層を予め設けた場合にはインク溶媒が浸透し難くなるが、水性インクで記録された画像の耐擦過性は、記録媒体上に固定化された画像、つまりインクドット(インク滴)中に残る水溶性有機溶剤の濃度に起因するとの知見、更には遮断層(遮断用液組成物)中の樹脂粒子の溶解度パラメータ(本明細書中において「SP値」ともいう。)と水性インク中の水溶性有機溶剤のSP値とが所定の関係にあることが、遮断層の遮断機能(カール性)と高品位な画像形成性を保持しながら、インクドット中の水溶性有機溶剤に由来する画像の耐擦過性の低下防止に寄与するとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0011】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 水性インクをインクジェット法で吐出して画像を記録する画像記録方法であって、記録媒体上に、SP値(溶解度パラメータ)が9.5[(cal/cm0.5]以上の樹脂粒子を含み、水性インクに含まれる溶媒の前記記録媒体への浸透を遮断する遮断層を形成する遮断層形成工程と、前記遮断層の上を、水性インク中の成分を固定化する素材を用いて固定化処理する固定化処理工程と、前記遮断層上の固定化処理された領域(以下、「固定化処理領域」ともいう。)に、顔料、樹脂粒子、SP値(溶解度パラメータ)が10〜14[(cal/cm0.5]の範囲の水溶性有機溶剤、及び水を含有する水性インクをインクジェット法により吐出して画像を記録する画像記録工程と、を有する画像記録方法である。
【0012】
<2> 遮断層に含まれる前記樹脂粒子が、ポリエステル系樹脂粒子であることを特徴とする前記<1>に記載の画像記録方法である。
<3> 前記水性インク中の成分を固定化する素材が、2価以上の酸又は2価以上の金属の塩であることを特徴とする前記<1>又は前記<2>に記載の画像記録方法である。
<4> 前記遮断層形成工程の後、前記固定化処理工程前に乾燥処理又は熱処理を行なって遮断層を皮膜化する皮膜化工程を有することを特徴とする前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の画像記録方法である。
【0013】
<5> 前記遮断層形成工程は、遮断層の形成をインクジェット法により行なうことを特徴とする前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の画像記録方法である。
<6> 前記遮断層形成工程は、遮断層を前記画像記録工程で画像が形成される画像形成領域に選択的に形成することを特徴とする前記<5>に記載の画像記録方法である。
<7> 前記画像記録工程の後、圧力を付与する圧力付与手段及び加熱手段の少なくとも一方を用いて前記画像を定着処理する定着工程を更に有することを特徴とする前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載の画像記録方法である。
【0014】
<8> 顔料、樹脂粒子、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インクと、SP値が9.5以上の樹脂粒子及び水を含み、水性インクに含まれる溶媒の浸透を遮断するための造膜が可能な遮断用液組成物と、前記水性インクと混合したときに水性インク中の成分を固定化する素材を含む固定化用液組成物と、を有するインクセットである。
【0015】
<9> 前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載の画像記録方法に用いられることを特徴とする前記<8>に記載のインクセットである。
<10> 前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載の画像記録方法により記録されたインクジェット記録物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カールの発生を抑えて、耐擦過性及び再現性の高い画像の記録が行なえる画像記録方法、インクセット、及びインクジェット記録物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の画像記録方法について詳細に説明し、該説明を通じて本発明のインクセット及び記録されたインクジェット記録物について詳述する。
【0018】
<画像記録方法>
本発明の画像記録方法は、水性インクをインクジェット法で吐出して記録媒体上に画像を記録するものであり、具体的には、記録媒体上に、SP値が9.5以上の樹脂粒子を含み、水性インクに含まれる溶媒の前記記録媒体への浸透を遮断する遮断層を形成する遮断層形成工程と、形成された遮断層の上を、水性インク中の成分を固定化する素材を用いて固定化処理する固定化処理工程と、遮断層上の固定化処理された領域に、顔料、樹脂粒子、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤、及び水を含有する水性インクをインクジェット法により吐出して画像を記録する画像記録工程と、を少なくとも設けて構成したものである。
【0019】
本発明においては、画像の記録に際して初めに記録媒体上に水性インク中の溶媒(主として水分)の浸透を遮断(水溶性有機溶剤の浸透の低下を含んでもよい。)する遮断層を形成するが、この遮断層を形成するための遮断用液組成物は記録媒体上に付与されると皮膜化してインク溶媒が記録媒体に浸透することを抑制し、カールの発生を抑える効果を示す。しかし、同時にインク溶媒の記録媒体への浸透も抑制されることになり、着滴後のインクの固化が抑制されて着弾干渉、滲みを併発し易くなるため、固定化層等の固定化処理が施された領域を遮断層上に設け、この領域(例えば固定化層)上にインクを打滴することでインクが増粘又はインク中の成分が凝集してインクを固定化し、高品位な画像の形成が可能になる。このとき、水性インクはインク溶媒を抱き込んだ状態で固定化されるが、水性インク中の水分は乾燥で除去されていく一方、水性インク中の水溶性有機溶剤は画像中、つまりインクドット(インク滴)中に残って乾燥が進むにつれ濃度が高くなる結果、得られた画像の耐擦過性が著しく悪化する傾向がある。本発明においては、遮断層中の樹脂粒子のSP値と水性インク中の水溶性有機溶剤のSP値とを近い範囲にするので、画像の耐擦過性が向上する。画像の耐擦過性が向上する理由については明らかになっていないが、乾燥や定着時の加熱によりインク滴中に残存する水溶性有機溶剤が、遮断層、記録媒体側に拡散浸透していくためと推定される。
【0020】
具体的には、遮断層に含まれる樹脂粒子のうちの少なくとも1種のSP値を9.5以上とし、かつ水性インクに含まれる水溶性有機溶剤のうちの少なくとも1種のSP値を10〜14の範囲とする。水性インク中の水溶性有機溶剤のSP値が10〜14の範囲であっても、遮断層中の樹脂粒子のSP値が9.5未満であると、耐擦過性が悪化する。逆に、遮断層中の樹脂粒子のSP値が9.5以上であっても、水性インク中の水溶性有機溶剤のSP値が14を超えると、親水性になりすぎカールが発生しやすく、耐擦過性も悪化する。また、遮断層中の樹脂粒子のSP値が9.5以上であっても、水性インク中の水溶性有機溶剤のSP値が10未満であると、溶媒遮断性が低下してカールを防止することができない。
本発明においては、効果の点で中でも、遮断層に含まれる樹脂粒子のうちの少なくとも1種のSP値(SP1)が9.5以上であって、水性インクに含まれる水溶性有機溶剤のうちの少なくとも1種のSP値(SP2)が10〜14の範囲であって、かつSP1とSP2との差が4.5以下であることがより好ましい。
【0021】
ここで、本発明におけるSP値について説明する。
SP値は、ハンセン(Hansen)溶解度パラメータを用いる。ハンセン(Hansen)溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項δd,極性項δp,水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間に表したものであるが、本発明においてはSP値をδ[(cal/cm0.5]で表し、下記式を用いて算出される値を用いる。
δ[(cal/cm0.5]=(δd+δp+δh0.5
なお、この分散項δd,極性項δp,水素結合項δhは、ハンセンやその研究後継者らにより多く求められており、Polymer Handbook (fourth edition)、VII-698〜711に詳しく掲載されている。
また、多くの溶媒や樹脂についてのハンセン溶解度パラメータの値が調べられており、例えば、Wesley L.Archer著、Industrial Solvents Handbookに記載されている。遮断層又は水性インクが2種以上の水溶性有機溶剤を含む場合には、遮断層では少なくとも1種のSP値が9.5以上であればよく、水性インクでは少なくとも1種のSP値が10〜14の範囲であればよい。
【0022】
本発明の画像記録方法は、水性インクの打滴に先立って、樹脂粒子及び水を含む液を遮断用液組成物として紙等の記録媒体上に付与して遮断層を形成し、さらにその上に、水性インク中の成分を固定化する固定化用液組成物を付与して固定化処理領域(例えば固定化層)を形成し、さらにその上に水性インクを吐出することにより画像を記録する。
以下、本発明の画像記録方法を構成する各工程について詳述する。
【0023】
−遮断層形成工程−
遮断層形成工程は、記録媒体上に、SP値が9.5以上の樹脂粒子の少なくとも1種を含み、水性インクに含まれる主として水分の記録媒体への浸透を遮断する遮断層を形成する。遮断層は、樹脂粒子を含んで造膜性を持ち、水性インク中の主溶媒である水の浸透を抑制しながら、更に樹脂粒子のSP値を9.5以上にし、併用する水性インク中の樹脂粒子のSP値との差を所定範囲に保つことで、画像をなす着滴インク中の水溶性有機溶剤の残留が緩和されるので、画像記録後のカールを抑えつつ、記録画像の耐擦過性が向上する。
【0024】
遮断層は、SP値が9.5以上の樹脂粒子を含み、記録媒体への付与後に皮膜化することにより、画像形成中における主として水の浸透を遮断(水に加えて水溶性有機溶剤の浸透が減少してもよい)する性質が得られ、水性インク中に含まれる水溶性有機溶剤の浸透性を得ることができる組成物(遮断用液組成物)を用いて形成することができる。
【0025】
樹脂粒子としては、例えば、溶媒中にポリマー成分をエマルジョンの形態で分散もしくは溶解させたものを用いることができる。前記溶媒としては、有機溶剤又は水を用いることができる。有機溶剤としては、特に制限なく、例えば、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、オクタン、イソオクタン、等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、γブチロラクトン、等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、等のアルコール系の溶媒、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド等アミド系溶剤、更には後述の水性インクに用いられる水溶性有機溶剤も好適に使用できる。
また、塗布する場合に用いる溶媒は、その塗布性、ラテックスなどのポリマー成分の造膜性、液の安定性、遮断液の塗布・乾燥時におけるカール調整などの観点から適宜調整して使用され、複数の溶媒を混合して使用することも可能である。
特に、環境負荷の低減、製造設備負荷の軽減、液の安定性の観点、水性インクの溶媒の遮断性の観点では、水と水溶性有機溶剤とを混合して用いることが有効である。この場合、カールの発生に注意して混合比、混合する水溶性有機溶剤の種類を選択する必要があり、水溶性有機溶剤の混合比率としては、3体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上が更に好ましく、20体積%以上60体積%以下が特に好ましい。
【0026】
本発明における遮断層では、樹脂粒子の少なくとも1種のSP値を9.5以上とする。このSP値が9.5未満であると、後述の水性インク中の樹脂粒子のSP値との関係で着滴したインク滴(インクドット)中の水溶性有機溶剤の残留が抑制できず、画像の耐擦過性が低下する。遮断層中の樹脂粒子のSP値は、遮断層に要求される機械的物性、液の安定性、遮断液の塗布性などの観点で選択することができるが、水性インク中の水の浸透を抑えつつ水溶性有機溶剤のインク滴中での残留を低減する観点から、9.5以上とし、9.8〜11の範囲がより好ましい。
樹脂粒子のSP値は、樹脂粒子を構成するモノマーの種類、組成、ポリマーの密度により自由に調整することができる。SP値については既述の通りである。
【0027】
SP値が9.5以上の樹脂粒子の具体例としては、ポリエステル類(SP値:10付近)、ポリ塩化ビニル類(SP値:9.6付近)、ポリ塩化ビニリデン類(SP値:12.2付近)などの粒子が好ましく、ポリエステル類、ポリ塩化ビニル類がより好ましく、ポリエステル類の粒子が特に好ましい。これらの粒子は、ラテックスとして用いることができ、例えば、ポリエステル系ラテックス、ポリ塩化ビニル系ラテックス、ポリ塩化ビニリデン系ラテックスなどを用いることができる。また、市販品としては、ポリエステル系ラテックスとして、プラスコート Z−561(SP値:10)〔互応化学工業(株)製〕、バイロナールMD−1200(SP値:10)、バイロナールMD−1100(SP値:10)、バイロナールMD−1480(SP値:10)〔以上、東洋紡(株)製〕、塩化ビニル系ラテックスとして、ビニブラン−900(SP値:10.4)、ビニブラン−609(SP値:10.2)〔以上、信越化学工業(株)製〕などを使用できる。
上記のうち、分散安定性の観点で、ポリエステル系ラテックスが好ましい。
【0028】
また、遮断層に含まれる樹脂粒子は、SP値以外に求められる機能(溶媒遮断性、皮膜性、密着性、塗布性など)の観点から選択することが可能である。
例えば、樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)には、特に制限はないが、液の安定性、洗浄性の観点からは、室温以上、すなわち30℃以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。遮断性の観点からは、皮膜性が高い方が好ましく、Tgは低い方が好ましく、具体的には、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく。50℃以下が更に好ましい。実際には、上記のようなさまざまな観点から適切なTgの範囲で使用される。
なお、Tgの算出は、後述の水性インクにおいて記載の方法と同様に下記式により算出される値である。
1/Tg=Σ(Xk/Tgk)
【0029】
ラテックス粒子の平均粒径は、10nm〜1μmの範囲が好ましく、10〜500nmの範囲がより好ましく、20〜200nmの範囲が更に好ましく、50〜200nmの範囲が特に好ましい。また、ラテックスの粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つポリマー微粒子を2種以上混合して使用してもよい。
【0030】
また、ラテックス粒子の重量平均分子量(Mw)は、8000〜100000の範囲が好ましく、より好ましくは10000〜50000の範囲である。
【0031】
遮断層の形成は、浸透抑制材をインクジェット法で吐出する方法、スプレー塗布法、ローラー塗布法等の任意の方法を選択することができる。中でも、後述の水性インクが吐出される領域などに選択的に形成することが可能である観点から、インクジェット法によるのが好ましい。
【0032】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0033】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0034】
樹脂粒子の遮断層中における含有量としては、0.1〜5.0g/mが好ましく、0.5〜3.0g/mがより好ましい。樹脂粒子の含有量は、0.1g/m以上であると溶媒の浸透防止効果が良好であり、5.0g/m以下であると画像の耐擦過性の向上の点で有利である。
【0035】
遮断層の形成に際しては、遮断層形成前に予め記録媒体の温度を遮断層中の樹脂粒子の最低造膜温度より高くしておくことが望ましい。予め記録媒体の遮断層形成面を昇温することにより、造膜し易くなり、カール防止の点で有利である。記録媒体を加熱する加熱手段としては、記録媒体の遮断層形成面と反対側(例えば、記録媒体を自動搬送する場合は記録媒体を載せて搬送する搬送部材の下方)にヒーター等の発熱体を設置する方法や、記録媒体の遮断層形成面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。中でも、記録媒体の遮断層形成面と反対側から加熱しながら、記録媒体の遮断層形成面に温風や熱風をあてる方法が、造膜し易くなり、カール防止の点で好ましい。
【0036】
また、記録媒体の種類(材質、厚み等)や環境温度等によって、記録媒体の表面温度は変化するため、記録媒体の表面温度を計測する計測部と該計測部で計測された記録媒体の表面温度の値を加熱制御部にフィードバックする制御機構を設けて温度制御しながら遮断層を形成することが好ましい。記録媒体の表面温度を計測する計測部としては、接触又は非接触の温度計が好ましい。
【0037】
遮断層形成工程の後には、後述の固定化処理工程を設ける前に、形成された遮断層を乾燥する乾燥処理及び加熱する熱処理の少なくとも一方を設けて皮膜化を促進する皮膜化工程を設けることができる。後述の遮断用液組成物を記録媒体上に膜状に設けた後、これに温風又は熱風などの乾燥風をあてたり、ヒーター等の加熱器を用いて熱を与えることにより、遮断層をなす皮膜の形成を促進し、水性インクが付与されたときの溶媒の浸透をより抑制することができる。
この場合、乾燥処理は、50〜130℃の温度範囲の温風又は熱風をあてることにより好適に行なえる。また、熱処理は、40〜80℃の温度範囲で加熱することにより好適に行なえる。また、皮膜形成効率を上げる点で、乾燥処理と熱処理とを同時に行なってもよい。例えば、記録媒体の遮断層形成面側に乾燥処理を施し、遮断層非形成面に熱処理を施すことができる。
【0038】
−固定化処理工程−
固定化処理工程は、前記遮断層形成工程で形成された遮断層の上を、水性インク中の成分を固定化する素材を用いて固定化処理する。固定化処理工程は、形成された遮断層の上に、水性インク中の成分を固定化する素材を含む固定化層を形成する場合が好ましい(以下、固定化層が形成される場合を「固定化層形成工程」ともいう。)。遮断層上を固定化処理する(好ましくは固定化層を形成する)ことにより、水性インク中の成分が凝集しあるいは水性インクが増粘することで、前記遮断層を設けた場合に生じやすい水性インクの着弾干渉、滲みが防止され、付与された水性インク中の成分を固定化してラインや微細像などを均質に描画することができる。これより、高品位な画像が得られる。
【0039】
固定化処理(又は固定化層)には、水性インク中の成分を固定化する素材と必要に応じて樹脂粒子やその他の構成素材を含む組成物(後述の固定化用液組成物)が用いられる。樹脂粒子を更に含むと、記録媒体への付与後に皮膜化させる点で好ましく、固定化層を形成するのに好適である。塗布後に皮膜化することにより、顔料浮遊をより効果的に抑止することができる。固定化用液組成物は、水性インク中の成分を固定化する素材に加え、必要に応じて樹脂粒子やその他の構成素材を用いて構成することができる。
【0040】
<水性インク中の成分を固定化する素材>
固定化処理領域(好ましくは固定化層)及びこれを形成するための固定化用液組成物は、水性インク中の成分を固定化する素材の少なくとも1種を含有する。該素材により、水性インクを増粘又は水性インク中の成分を凝集させて画像を固定化することができる。
【0041】
水性インク中の成分を固定化する素材としては、例えば、水性インクと反応してインク中の成分を析出あるいは不溶化させる素材、水性インク中の成分を含む半固体状の物質(ゲル)を生成する素材などが好ましい。具体的には、2価以上の金属の塩、2価以上の酸又はその塩、ポリアリルアミン及びその誘導体などを挙げることができる。中でも、水性インクと接触したときに速やかに反応するように高い溶解性を持つ観点から、2価以上の酸又はその塩がより好ましい。水性インク中の成分を固定化する素材は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記2価以上の金属の塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)、の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0043】
前記2価以上の酸としては、その第1pKaが4.0以下の酸が好ましく、より好ましくは3.5以下の酸である。具体的には、例えば、リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸などが好適に挙げられる。
【0044】
水性インク中の成分を固定化する素材の固定化処理領域(例えば固定化層)中における含有量は、固定化する水性インクの液滴量に応じて調整することができるが、単位面積あたりの付与量(固形分)で、0.3g/m〜2.0g/mの範囲が好ましく、0.4g/m〜1.0g/mの範囲がより好ましい。該付与量は、0.3g/m以上であるとインクの固定化が良好に行なうことができ、2.0g/m以下であると酸が多く残存することなくインク固定化に有効に利用され、画像の耐擦過性の向上に有利である。
【0045】
<樹脂粒子>
固定化処理領域及びこれを形成するための固定化用液組成物は、固定化処理領域を層状の固定化層として設ける点から、樹脂粒子を含有することが好ましい。ここでの樹脂粒子は、特に制限なく任意に選択することができる。樹脂粒子としては、例えば、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等の微粒子が挙げられる。樹脂粒子としては、これら微粒子を含むポリマーラテックスを用いることができる。中でも、アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂の微粒子を含むポリマーラテックスが好ましい例として挙げることができる。
【0046】
酸性溶液、もしくは2価以上の金属の塩を含有する溶液として用いられるという性質上、分散安定性に優れたラテックスが好ましい。このようなラテックスとしては、ソープフリーラテックスが好適であり、例えばソープフリーポリエステルラテックスなどが好適に挙げられる。具体的には、このようなラテックスの市販品として、バイロナールMD−1200(Tg:67℃)、バイロナールMD−1100(Tg:40℃)〔以上、東洋紡(株)製〕、プラスコート Z−561(Tg:64℃)、プラスコート Z−221(Tg:47℃)〔互応化学工業(株)製〕などを挙げることができる。
【0047】
樹脂粒子のTgとしては、10〜80℃の範囲が好ましく、20〜70℃の範囲がより好ましい。Tgは、10℃以上であると液のハンドリングが良好であり、80℃以下であると画像の耐擦過性の向上の観点で有利である。
【0048】
ラテックス粒子の重量平均分子量(Mw)は、8000〜500000の範囲が好ましく、より好ましくは10000〜20000の範囲である。
【0049】
ラテックス粒子の平均粒径は、10nm〜1μmの範囲が好ましく、20〜200nmの範囲がより好ましい。また、ラテックスの粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つポリマー微粒子を2種以上混合して使用してもよい。
【0050】
樹脂粒子の固定化層中における含有量は、固定化される水性インクの液滴量に応じて調整することができるが、固形分で0.1g/m〜2.0g/mの範囲が好ましく、0.2g/m〜1.0g/mの範囲がより好ましい。樹脂粒子の含有量は、0.1g/m以上であると耐擦過性が良好になり、2.0g/m以下であるとパイルハイトの問題もない。
【0051】
<その他の構成素材>
固定化処理領域は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、更にその他の成分として他の構成素材を用いて構成することができる。他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。また、後述の水性インクに使用可能なその他の添加剤として列挙されたものを挙げることができる。
【0052】
固定化用液組成物のpH(25℃)は、6以下が好ましく、より好ましくはpHは4以下である。中でも、pH(25℃)は1〜4の範囲が好ましく、特に好ましくは、pHは1〜3である。この場合、後述の水性インクのpH(25℃)は、7.5以上(より好ましくは8以上)であることが好ましい。
中でも、本発明においては、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、水性インクのpH(25℃)が7.5以上であって、固定化用液組成物のpH(25℃)が4以下である場合が好ましい。
【0053】
固定化処理領域(例えば固定化層)の形成は、インクジェット法で吐出する方法、スプレー塗布法、ローラー塗布法等の任意の方法を選択することができる。中でも、後述の水性インクが吐出される領域などに選択的に形成することが可能である観点から、インクジェット法によるのが好ましい。インクジェット法の詳細については既述の通りである。
【0054】
本発明においては、既述の遮断層が形成されている領域(遮断用液組成物が予め付与されている領域)に固定化処理領域(例えば固定化層)を形成(固定化用液組成物を付与)するため、固定化用液組成物は遮断層で遮られて記録媒体の内部に浸透し難くなっている。したがって、固定化処理領域の形成に際しては、固定化用液組成物を付与した後に固定化用液組成物中の溶媒を乾燥(蒸発)させる乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥(蒸発)させることにより、後述の水性インク中の成分が凝集した後に記録媒体(特に浸透抑制材)と接着せずに固定化用液組成物中に浮遊する現象(色材浮遊)を防止でき、画像を構成するドット(水性インクの液滴)を所望の位置に固定することができる。このとき、固定化用液組成物の乾燥において、固定化用液組成物の膜面温度は、固定化用液組成物中に樹脂粒子を含むときには、樹脂粒子のTg以下になるように乾燥させることが好ましい。乾燥時の膜面温度がTg以下であると、固定化用液組成物中の樹脂粒子が皮膜化せず、固定化用液組成物中の「水性インク中の成分を固定化する素材」の反応性を保つことができる。更には、溶媒の保持能力が維持され、画像の耐擦過性が向上する。
【0055】
−画像記録工程−
画像記録工程は、前記固定化処理工程で形成された固定化処理領域(好ましくは固定化層)の上に、顔料、樹脂粒子、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤、及び水を含有する水性インクをインクジェット法により吐出して画像を記録する。本発明においては、固定化用液組成物を用いて予め形成された固定化処理領域又は固定化層の上に水性インクを設けて画像をなすインクの固定化を行なうことにより、ギャザリング、滲み、インクドット間の着弾干渉を抑えることが可能となるため、高精細、高速記録が可能である。具体的には、1200dpi以上の高精細な画像を例えば500mm/秒以上の搬送速度で印字可能なシングルパス方式のインクジェット法での記録が可能である。
【0056】
水性インクが吐出されると、水性インクが固定化用液組成物又は固定化用液組成物を乾燥させてなる固定化層と接触した際に、水性インク中の成分のうち、少なくとも顔料及び樹脂粒子が固定化される。
なお、インクジェット法の詳細については遮断層形成工程で既述した通りである。
【0057】
水性インクは、単色画像の形成のみならず、多色画像(例えばフルカラー画像)の形成に用いられ、所望の1色又は2色以上を選択して画像記録することができる。フルカラー画像を記録する場合は、水性インクとしてマゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができる。また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。
また、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の色調以外のレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)、白色(W)の色調のインク組成物や、いわゆる印刷分野における特色のインク組成物等を用いることができる。
上記の各色調のインク組成物は、着色剤として用いる顔料の色相を所望により変更することにより調製できる。
なお、水性インクの詳細については後述する。
【0058】
−他の工程−
前記画像記録工程の後には、水性インク中の溶媒(特に水)を乾燥除去する乾燥工程を設けることができる。また、水性インク中の溶媒を乾燥除去することに代えて又は乾燥除去すると共に、記録媒体の表面に多孔質体のローラー等を接触させて水性インク中の溶媒を吸収除去する工程を設けてもよい。
【0059】
更に、画像記録工程の後に、少なくとも画像に圧力を付与する圧力付与手段及び少なくとも画像を加熱する加熱手段の少なくとも一方を用いて記録媒体上の画像を定着処理する定着工程を設けてもよい。例えば、画像記録工程後に、記録媒体の表面に加熱された加熱ロールや熱板などを接触又は圧着する処理を行なうことができる。この場合、水性インク及び遮断層中に含まれる樹脂粒子を溶融させることができ、水性インク中の成分と遮断層との間、及び遮断層と記録媒体との間の密着力を向上させることができる。このとき、加熱温度は、水性インク中の樹脂粒子のTg、固定化層(固定化用液組成物)中の樹脂粒子のTg、及び遮断層(遮断用液組成物)中の樹脂粒子のTgより高いことが好ましい。
【0060】
−記録媒体−
本発明の画像記録方法に用いることができる記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像形成においては、水性インクの溶媒(水、水溶性有機溶剤を含む。)の浸透によりカールしてしまい、著しい品質低下を生じるが、本発明の画像記録方法によると、カールの発生を抑制して高品位の画像の記録が可能である。
【0061】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができる。記録媒体としては、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、日本製紙(株)製の「ユーライト」、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)、並びにインクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることができる。
【0062】
<インクセット>
本発明のインクセットは、顔料、樹脂粒子、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インクと、SP値が9.5以上の樹脂粒子を含み、水性インクに含まれる溶媒の浸透を遮断するための造膜が可能な遮断用液組成物と、前記水性インクと混合したときに水性インク中の成分を固定化する素材を含む固定化用液組成物と、を少なくとも設けて構成したものである。
【0063】
本発明のインクセットは、既述の画像記録方法と同様に、遮断層中の樹脂粒子のSP値と水性インク中の水溶性有機溶剤のSP値とを近い範囲にするので、着滴したインク滴(インクドット)中に残留する水溶性有機溶剤の量を低減することができ、画像の耐擦過性が向上する。ここで、樹脂粒子を含んで遮断層が予め設けられるので、インク溶媒である水の浸透を抑制してカールが抑えられる。画像の耐擦過性が向上する理由については明らかになっていないが、乾燥や定着時の加熱によりインク滴中に残存する水溶性有機溶剤が、遮断層、記録媒体側に拡散浸透していくためと推定される。
【0064】
前記遮断用液組成物は、少なくともSP値が9.5以上の樹脂粒子を含み、主として水分の浸透を遮断(水溶性有機溶剤の浸透が減少してもよい)するための造膜が可能な構成としたものである。遮断用液組成物を用いて造膜することにより、主として水分の浸透を遮断できる遮断層を形成することができる。また、遮断用液組成物中の樹脂粒子のSP値が9.5以上であるので、水性インク中の水溶性有機溶剤との関係から着滴したインク滴中の水溶性有機溶剤の残留が抑えられ、画像の耐擦過性が向上する。
遮断用液組成物を構成する樹脂粒子等の各成分の詳細については既述の通りである。
【0065】
樹脂粒子の遮断化用液組成物中における含有量としては、組成物の全固形分に対して、5〜60質量%の範囲が好ましく、20〜50質量%の範囲がより好ましい。樹脂粒子の含有量は、5質量%以上であると良好に皮膜化できて溶媒の浸透遮断性が良好であり、60質量%以下であると液の安定性の点で有利である。

【0066】
固定化用液組成物は、水性インクと混合したときに水性インク中の成分を固定化する素材を含み、好ましくは造膜が可能なように構成される。固定化用液組成物は、必要に応じて樹脂粒子や他の成分を用いて構成される。固定化用液組成物を画像記録時に水性インクと接触、混合させることで、水性インクを増粘又は水性インク中の成分を凝集させることにより画像を固定化する。樹脂粒子を更に含むと、固定化用液組成物の皮膜化を良好に行なえるので、画像の固定化がより向上する。これにより、前記遮断用液組成物に遅れて付与される水性インクの着弾干渉、滲みが防止され、ラインや微細像などを均質に描画できる。
固定化用液組成物を構成する樹脂粒子、顔料を固定化する素材等の各成分の詳細については既述の通りである。
【0067】
顔料を固定化する素材の固定化用液組成物中における含有量としては、組成物の全質量に対して、5〜30質量%の範囲が好ましく、8〜20質量%の範囲がより好ましい。顔料を固定化する素材の含有量は、5質量%以上であると水性インクの凝集、増粘が良好に行なえ、30質量%以下であると液の保存安定性、洗浄性、画像のべとつき、付与量の安定性の点で有利である。
【0068】
樹脂粒子を含む場合、樹脂粒子の固定化用液組成物中における含有量としては、組成物の全固形分に対して、0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.5〜15質量%の範囲がより好ましい。ラテックスの含有量は、0.1質量%以上であると皮膜化できて画像の固定化が良好に行なえ、20質量%以下であると画像描画性の点で有利である。
【0069】
−水性インク−
水性インクは、顔料、樹脂粒子、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤、及び水を含んでなり、必要に応じて分散剤、及びその他の添加剤などの他の成分を更に用いて構成することができる。
【0070】
以下、本発明における水性インクの構成成分について詳細に説明する。
(樹脂粒子)
本発明の水性インクは、樹脂粒子の少なくとも1種を含有する。樹脂粒子を含有することにより、主に水性インクの記録媒体への定着性及び耐擦過性をより向上させることができる。樹脂粒子は、既述の固定化用液組成物又はこれを乾燥させてなる固定化処理領域(例えば固定化層)と接触した際に凝集、又は分散不安定化してインクを増粘させることにより、水性インク、すなわち画像を固定化させる機能を有する。このような樹脂粒子は、水及び含水有機溶媒に分散されているものが好ましい。
【0071】
前記樹脂粒子としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられ、ラテックスとして用いることができる。例えばスチレン系ラテックス、アクリル系ラテックス、酢酸ビニル系ラテックス、ポリエステル系ラテックス等、種々のラテックスを用いることができる。特に、アクリル系ラテックスが好ましい。
【0072】
また、固定化用液組成物又はこれを乾燥させてなる固定化処理領域(例えば固定化層)と接触した際に凝集、又は分散不安定化してインクを増粘させる樹脂粒子(特にラテックス)としては、pH変化に応答してゼータ電位が変化するものが好ましく、例えば、カルボン酸基を粒子表面に有し、pHの低下により分散安定性が低下する樹脂粒子(特にラテックス)が好ましい。
また、2価以上の金属イオンにより不安定化するアニオン性官能基を粒子表面に有する樹脂粒子も好適である。粒子表面にカチオン性の官能基とアニオン性の官能基とを有し、pH変化によりその極性が変換する極性変換樹脂粒子(特にラテックス)も好適である。
更には、ソープフリーラテックスも、反応性が高く好適である。
【0073】
ラテックス粒子のガラス転移温度(Tg)は、既述の固定化用液組成物に含まれる樹脂粒子のTgcとの関係を満たす範囲であれば特に制限はないが、水性インクの保存安定性の観点から、室温以上、具体的には30℃以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。
【0074】
樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、下記の式により算出される値である。
1/Tg=Σ(Xk/Tgk)
ここで、ポリマーがk=1〜nのn個のモノマー成分が共重合しているとした場合、Xkはk番目のモノマーの重量分率(ΣXk=1)を表し、Tgkはk番目のモノマーの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度)を表す。但し、Σはkが1からnまでの和である。なお、各モノマーの単独重合体のガラス転移温度(Tgk)は、Polymer Handbook (3rd Edition) [J.Brandrup, E. H. Immergut著 (Wiley-Interscience, 1989)]などに記載されており、広く一般に知られている。
【0075】
ラテックス粒子の平均粒子径は、10nm〜1μmの範囲が好ましく、10nm〜500nmの範囲がより好ましく、20nm〜200nmの範囲が更に好ましく、50nm〜200nmの範囲が特に好ましい。また、ラテックス粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。
また、単分散の粒径分布を持つポリマー微粒子を2種以上混合して使用してもよい。
【0076】
ラテックスとして市販品を使用してもよい。具体的には、アロンHD−5(Tg:45℃)〔東亞合成化学(株)製〕、ジョンクリル537(Tg:49℃)、ジョンクリル775(Tg:37℃)〔BASFジャパン(株)製〕、ジュリマーET−410(Tg:44℃)〔日本純薬(株)製〕等が挙げられる。
【0077】
(顔料)
本発明の水性インクは、顔料の少なくとも1種を含有する。顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。
【0078】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。
【0079】
前記有機顔料のうち、オレンジ又はイエロー用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・オレンジ31、C.I.ピグメント・オレンジ43、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー13、C.I.ピグメント・イエロー14、C.I.ピグメント・イエロー15、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー93、C.I.ピグメント・イエロー94、C.I.ピグメント・イエロー128、C.I.ピグメント・イエロー138、C.I.ピグメント・イエロー151、C.I.ピグメント・イエロー155、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー185等が挙げられる。
【0080】
マゼンタ又はレッド用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・レッド2、C.I.ピグメント・レッド3、C.I.ピグメント・レッド5、C.I.ピグメント・レッド6、C.I.ピグメント・レッド7、C.I.ピグメント・レッド15、C.I.ピグメント・レッド16、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド53:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド123、C.I.ピグメント・レッド139、C.I.ピグメント・レッド144、C.I.ピグメント・レッド149、C.I.ピグメント・レッド166、C.I.ピグメント・レッド177、C.I.ピグメント・レッド178、C.I.ピグメント・レッド222、C.I.ピグメント・バイオレット19等が挙げられる。
【0081】
グリーン又はシアン用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・ブルー15、C.I.ピグメント・ブルー15:2、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16、C.I.ピグメント・ブルー60、C.I.ピグメント・グリーン7、及び米国特許4311775号明細書に記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン、等が挙げられる。
【0082】
ブラック用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・ブラック1、C.I.ピグメント・ブラック6、C.I.ピグメント・ブラック7等が挙げられる。
【0083】
また、有機顔料の平均粒子径は、透明性・色再現性の観点からは小さい方がよいが、耐光性の観点からは大きい方が好ましい。これらを両立には、前記平均粒子径は10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。また、有機顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ有機顔料を2種以上混合して使用してもよい。
【0084】
顔料の含有量としては、水性インクの全質量に対して、1〜25質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%が更に好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0085】
(分散剤)
本発明の水性インクは、分散剤の少なくとも1種を含有する。前記顔料の分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
【0086】
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、インクを低粘度に保ちつつ、顔料を水溶媒に安定に分散させることができる。低分子の界面活性剤型分散剤は、分子量2,000以下の低分子分散剤である。また、低分子の界面活性剤型分散剤の分子量は、100〜2,000が好ましく、200〜2,000がより好ましい。
【0087】
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基とは、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基とを連結するための連結基も適宜有することができる。
【0088】
前記親水性基は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組み合わせたベタイン型等である。
【0089】
前記アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであればいずれでもよいが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0090】
前記カチオン性基は、プラスの荷電を有するものであればいずれでもよいが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素又はリンのカチオン性基であることがより好ましい。また、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることがさらに好ましい。
【0091】
前記ノニオン性基は、ポリエチレンオキシドやポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
【0092】
前記親水性基は、アニオン性基であることが好ましい。アニオン性基は、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0093】
また、低分子の界面活性剤型分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理液と接触させて凝集反応を促進させる観点から、pKaが3以上であることが好ましい。低分子の界面活性剤型分散剤のpKaは、テトラヒドロフラン−水(3:2=V/V)溶液に低分子の界面活性剤型分散剤1mmol/Lを溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。低分子の界面活性剤型分散剤のpKaが3以上であると、理論上pH3程度の液と接したときにアニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子の界面活性剤型分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。かかる観点からも、低分子の界面活性剤型分散剤は、アニオン性基としてカルボン酸基を有する場合が好ましい。
【0094】
前記疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等の構造を有しており、特に炭化水素系であることが好ましい。また、疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また、疎水性基は、1本鎖状構造又はこれ以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
【0095】
前記ポリマー分散剤のうち、水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物が挙げられる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グーアガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子等が挙げられる。
【0096】
また、天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子等が挙げられる。
【0097】
更に、合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
【0098】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンアクリル酸のホモポリマーや、他の親水基を有するモノマーとの共重合体などのように、カルボキシル基が導入されたものが親水性高分子化合物として好ましい。
【0099】
ポリマー分散剤のうち、非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0100】
分散剤の重量平均分子量は、3,000〜100,000が好ましく、より好ましくは5,000〜50,000であり、更に好ましくは5,000〜40,000であり、特に好ましくは10,000〜40,000である。
【0101】
顔料(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0102】
(SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤)
本発明における水性インクは、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含有する。SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤は、既述のように遮断層中の樹脂粒子との関係で画像の耐擦過性を向上するほか、水溶性有機溶剤に求められる機能(乾燥防止、湿潤、浸透制御、インク粘度調整など)の観点により選択することが可能である。
【0103】
乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また、浸透促進等の浸透制御には、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤などとして用いることができる。
【0104】
SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤としては、例えば、イソペンチルアルコール(10)、1,3−ブチレングリコールジアセテート(10.1)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(10.2)、1−オクタノール(10.3)、トリエチレングリコール(10.3)、ジプイロピレングリコールモノメチルエーテル(10.4)、シクロペンタノン(10.4)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(10.5)、エチルセルソルブ(10.5)、1−ブチルアルコール(10.6)、N,N−ジメチルアセトアミド(10.8)、1−ペンタノール(10.9)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(10.9)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(10.9)、3−メトキシブタノール(10.9)、プロピレングリコールフェニルエーテル(11.1)、1−ブタノール(11.4)、シクロヘキサノール(11.4)、エチレングリコールモノブチルエーテル(11.5)、イソプロピルアルコール(11.5)、n−プロピルアルコール(11.8)、N,N−ジメチルホルムアミド(11.9)、N−エチルホルムアミド(11.9)、ベンジルアルコール(12.1)、ジエチレングリコール(12.1)、トリオキシプロピレングリコール(12.1)、エタノール(12.7)、ポリオキシプロピテングリセリルエーテル類(10.6〜12.9)、ジプロピレングリコール(13.3)、1,3−ブチレングリコール(13.8)、などが挙げられる。なお、各化合物のカッコ内の数値はSP値を表し、単位は(cal/cm0.5である。
【0105】
前記SP値以外に水溶性有機溶剤に求められる機能(乾燥防止、湿潤、浸透制御、インク粘度調整など)を付与する観点から選択する場合、機能別に下記化合物を挙げることができる。
例えば、乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤であることが好ましい。このような水溶性有機溶剤の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体が挙げられる。このうち、乾燥防止剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。乾燥防止剤は、1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
乾燥防止剤の含有量は、水性インク中に10〜50質量%の範囲とするのが好ましい。
【0106】
浸透促進剤としては、水性インクを記録媒体(印刷用紙など)により良く浸透させる目的で好適である。このような水溶性有機溶剤の具体例としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を好適に用いることができる。浸透促進剤は、1種単独で用いても2種以上併用してもよい。浸透促進剤の含有量は、水性インク中に5〜30質量%の範囲であるのが好ましい。また、浸透促進剤は、画像の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない量の範囲内で使用することが好ましい。
【0107】
インク粘度調整のための水溶性有機溶剤の具体例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。この場合も、水溶性有機溶剤は1種単独で用いるほか、2種以上を併用してもよい。
【0108】
SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤の水性インク中における含有量としては、耐擦過性の向上効果の点で、水性インク中の水溶性有機溶剤の全質量の2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤は、吐出安定性の観点からは、水性インクの全質量に対して、5〜60質量%の範囲の含有量が好ましく、より好ましくは7〜40質量%の範囲の含有量である。
水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0109】
(その他の添加剤)
本発明における水性インクは、上記成分以外にその他の添加剤を用いて構成することができる。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水性インクの場合はインクに直接添加し、また、油性染料を分散物として用いる場合は染料分散物の調製後に分散物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相又は水相に添加してもよい。
【0110】
前記紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させることができる。紫外線吸収剤としては、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載のベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号明細書等に記載のベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載の桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載のトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載の化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される、紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0111】
前記褪色防止剤は、画像の保存性を向上させることができる。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤が挙げられる。有機系の褪色防止剤としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類等が挙げられ、金属錯体系の褪色防止剤としては、ニッケル錯体、亜鉛錯体等が挙げられる。より具体的には、リサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載の化合物や、特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載の代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を用いることができる。
【0112】
前記防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。防黴剤の含有量は、水性インクに対して0.02〜1.00質量%の範囲が好ましい。
【0113】
前記pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。pH調整剤は、水性インクの保存安定性を向上させることができる。pH調整剤は、水性インクのpHが6〜10となるように添加するのが好ましく、pHが7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0114】
前記表面張力調整剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤等が挙げられる。
表面張力調整剤の添加量は、水性インクの表面張力を20〜60mN/mに調整できる範囲が好ましく、20〜45mN/mに調整できる範囲がより好ましく、25〜40mN/mに調整できる範囲が更に好ましい。添加量が前記範囲内であると、インクジェット法で良好に打滴することができる。
【0115】
前記界面活性剤の具体例としては、炭化水素系では、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&ChemicaLs社製)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシド等のアミンオキシド型の両性界面活性剤も好ましい。
更に、特開昭59−157636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)に界面活性剤として挙げられたものも用いることができる。
また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等を用いることにより、耐擦性を良化することもできる。
【0116】
また、これら表面張力調整剤は、消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等も使用可能である。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0118】
(実施例1)
[水性インクの調製]
《シアンインクC1−1の調製》
−シアン分散液の調製−
反応容器に、スチレン6部、ステアリルメタクリレート11部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成(株)製)4部、プレンマーPP−500(日本油脂(株)製)5部、メタクリル酸5部、2−メルカプトエタノール0.05部、及びメチルエチルケトン24部を加え、混合溶液を調液した。
【0119】
一方、滴下ロートに、スチレン14部、ステアリルメタクリレート24部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成(株)製)9部、プレンマーPP−500(日本油脂(株)製)9部、メタクリル酸10部、2−メルカプトエタノール0.13部、メチルエチルケトン56部、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部を加え、混合溶液を調液した。
【0120】
そして、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後これに、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をメチルエチルケトン12部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー分散剤溶液を得た。
【0121】
得られたポリマー分散剤溶液の一部について、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1質量%に希釈し、高速GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)HLC−8220GPCにて、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgeL SuperHZ2000(東ソー(株)製)を3本直列につなぎ、重量平均分子量を測定した。その結果、重量平均分子量は、ポリスチレン換算で質量平均分子量が25,000であった。
【0122】
また、得られたポリマー分散剤溶液を固形分換算で5.0g、シアン顔料Pigment Blue 15:3(大日精化(株)製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L(リットル;以下同様)の水酸化ナトリウム8.0g 及びイオン交換水82.0gを、0.1mmジルコニアビーズ300gと共にベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス社製)で1000rpmで6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが充分に留去できるまで減圧濃縮し、さらに顔料濃度が10%になるまで濃縮して、水不溶性微粒子Aとしてのシアン分散液C1を調製した。
得られたシアン分散液C1の体積平均粒子径(二次粒子)を、Micorotrac粒度分布測定装置(Version 10.1.2−211BH(商品名)、日機装(株)製)で動的光散乱法により測定したところ、77nmであった。
【0123】
上記のようにシアン分散液C1を調製した後、さらに、水不溶性微粒子Bとしてアクリル系ラテックス(ジョンクリル537)を遠心分離により粗大粒子を除いてから用いると共に、有機溶剤、イオン交換水を用いることにより、下記組成になるようにインクを調製した。調製後、得られたインクを5μmフィルタを通して粗大粒子を除去し、インクC1−1とした。
【0124】
<シアンインクC1−1の組成>
・シアン顔料(Pigment BLue 15:3、大日精化(株)製) ・・・4質量%
・ポリマー分散剤 ・・・2質量%
・アクリル系ラテックス(ジョンクリル537(Tg:49℃)、BASFジャパン(株)製) ・・・8質量%
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値:10.9;和光純薬(株)製) ・・・10質量%
・グリセリン(SP値:16.5;和光純薬(株)製) ・・・20質量%
・オルフィンE1010(日信化学(株)製) ・・・1質量%
・イオン交換水(SP値:23.4) ・・・55質量%
【0125】
《シアンインクC1−2の調製》
前記インクC1−1の調製において、ジョンクリル537(アクリル系ラテックス)をジョンクリル551(Tg:9℃、BASFジャパン(株)製)に代えたこと以外は、インクC1−1の調製と同様の方法で下記組成のインクC1−2を調製した。
【0126】
《シアンインクC1−3〜C1−7の調製》
前記シアンインクC1−1の調製において、組成中のジエチレングリコールモノエチルエーテルを、ポリプロピレングリセルエーテル(SP値:12.1)、ジプロピレングリコール(SP値:13.3)、グリセリン(SP値:16.5)、2−エチルヘキサノール(SP値:9.6)、イオン交換水(SP値:23.4)にそれぞれ代えたこと以外は、シアンインクC1−1の調製と同様にして、シアンインクC1−3〜C1−7の5種類のシアンインクを調製した。
【0127】
《シアンインクC2−1の調製》
Cabojet250(キャボット社製;15%シアン顔料分散液)26.7g、アクリル系ラテックスを固形分換算で8g、グリセリン20g、ジエチレングリコールモノエチルエーテル10g、オルフィンE1010(日信化学(株)製)1gを混合し、最後にイオン交換水で総量が100gになるようにメスアップし、下記組成のインクC2−1を調製した。
【0128】
<シアンインクC2−1の組成>
・シアン顔料分散液(Cabojet250、キャボット社製) ・・・4質量%
・アクリル系ラテックス(ジョンクリル537(Tg:49℃)、BASFジャパン(株)製) ・・・8質量%
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル ・・・10質量%
(SP値:10.9;和光純薬(株)製)
・グリセリン(SP値:16.5;和光純薬(株)製) ・・・20質量%
・オルフィンE1010(日信化学(株)製) ・・・1質量%
・イオン交換水(SP値:23.4) ・・・57質量%
【0129】
《マゼンダインクM1−1の調製》
マゼンタ顔料(CromophtaL Jet Magenta DMQ、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)400g、オレイン酸ナトリウム(和光純薬(株)製)40g、グリセリン(和光純薬(株)製)200g、及びイオン交換水1360gを混合して乳鉢で1時間混練した後、日本精機(株)製の小型攪拌機付超音波分散機US−600CCVP(600W、超音波発振部50mm)で20分間、粗分散を行なった。
【0130】
次に、この粗分散液と0.05mmジルコニアビーズ1.3kgをスーパーアペックスミル(形式SAM−1、コトブキ技研興業(株)製)に供給し、回転数2500rpm、処理流量15L/hで160分間分散を実施した。分散終了後、32μm濾布で濾過し、20質量%の水不溶性微粒子Aとしてのマゼンタ顔料分散液M1を得た。
前記シアン分散液の場合と同様の方法で、得られたマゼンタ顔料分散液M1の平均粒径を測定したところ、70nmであった。
【0131】
上記のようにマゼンタ分散液M1を調製した後、さらに、水不溶性微粒子Bとしてアクリル系ラテックス(ジョンクリル537)を遠心分離により粗大粒子を除いてから用いると共に、有機溶剤、イオン交換水を用いることにより、下記組成になるようにインクを調製した。調製後、得られたインクを5μmフィルタを通して粗大粒子を除去し、マゼンタインクM1−1とした。
【0132】
<マゼンタインクM1−1の組成>
・マゼンタ顔料(CromophtaL Jet Magenta DMQ) ・・・4質量%
・オレイン酸ナトリウム(分散剤) ・・・0.4質量%
・アクリル系ラテックス(ジョンクリル537(Tg:49℃)、BASFジャパン(株)製) ・・・8質量%
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル ・・・10質量%
(SP値:10.9;和光純薬(株)製)
・グリセリン(SP値:16.5;和光純薬(株)製) ・・・20質量%
・オルフィンE1010(日信化学(株)製) ・・・1質量%
・下記フッ素系界面活性剤1 ・・・0.1質量%
・イオン交換水(SP値:23.4) ・・・56.5質量%
【0133】
【化1】

【0134】
[固定液(固定化用液組成物)の調製]
《固定液T−1の調製》
下記組成の各成分を混合して、固定液T−1を調製した。
<固定液T−1の組成>
・クエン酸(和光純薬(株)製) ・・・15部
・水酸化ナトリウム(和光純薬(株)製) ・・・1.5部
・前記フッ素系界面活性剤1 ・・・1部
・イオン交換水 ・・・82.5部
【0135】
[遮断液(遮断用液組成物)の調製]
《遮断液B−1の調製》
下記構造の分散安定用樹脂[Q−1]10g、酢酸ビニル(SP値:9.4)100g、及びアイソパーH(エクソン社製)384gの混合溶液を、窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。その後、これに重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソバレロニトリル)〔以下、「A.I.V.N.」と略記することがある。)0.8gを加え、3時間反応させた。重合開始剤の添加から20分後に白濁が生じ、反応温度は88℃まで上昇した。次いで、この重合開始剤を更に0.5g加え、2時間反応させた後、温度を100℃に上げ、2時間攪拌して未反応の酢酸ビニルを留去した。冷却後、200メッシュのナイロン布を通し、白色分散物を得た。得られた白色分散物は、重合率90%で平均粒径0.23μmの単分散性の良好なラテックス分散溶液「以下、これを「遮断液B−1」とする。」であった。
白色分散物の一部を遠心分離機(回転数1×10r.p.m.、回転時間60分間)にかけて、沈降した樹脂粒子分を補集、乾燥させた後、この樹脂粒子分の重量平均分子量(Mw)、及びガラス転移点(Tg)を測定したところ、Mwは2×10(前記同様に高速GPCで測定、ポリスチレン換算値)、Tgは38℃であった。
【0136】
【化2】



【0137】
《遮断液B−2〜B−4の調製》
下記組成の各成分を混合して、遮断液B−2、B−3、B−4を調製した。
<遮断液B−2の組成>
・SBRラテックス(SP値:8.6;日本ゼオン(株)製)・・・8部(固形分)
・前記フッ素系界面活性剤1 ・・・1部
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル ・・・20部
(SP値:10.9;和光純薬(株)製)
・イオン交換水(SP値:23.4) ・・・91部
<遮断液B−3の組成>
・MD−1200 ・・・8部(固形分)
(ポリエステル系ラテックス(SP値:10)、東洋紡(株)製)
・前記フッ素系界面活性剤1 ・・・1部
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル ・・・20部
(SP値:10.9;和光純薬(株)製)
・イオン交換水(SP値:23.4) ・・・91部
<遮断液B−4の組成>
・ビニブラン−900 ・・・8部(固形分)
(塩化ビニル系ラテックス(SP値:10.4)、信越化学工業(株)製)
・前記フッ素系界面活性剤1 ・・・1部
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル ・・・20部
(SP値:10.9;和光純薬(株)製)
・イオン交換水(SP値:23.4) ・・・91部
【0138】
[画像記録及び評価]
上記のようにして得られたインク、固定液、及び遮断液を用いて下記の打滴試験を行なって画像を記録し、形成された画像に対して、下記の方法で画像品質、カール、画像の耐擦過性を評価した。
【0139】
《画像記録》
まず、図1に示すように、2つの駆動ロールに張架された回転ベルトを備え、この回転ベルトの進行方向(矢印方向)に向かって順次、遮断液を吐出する遮断液吐出用ヘッド11、遮断液を乾燥風をあてて乾燥させる第1乾燥器14、固定液を吐出する固定液吐出用ヘッド12、遮断液を乾燥風をあてて乾燥させる第2乾燥器15、インク吐出用ヘッドセット13、画像を乾燥風をあてて乾燥させる第3乾燥器16、及び回転ベルトに圧接する加熱ロール17が配設されたインクジェット装置を準備した。インク吐出用ヘッドセット13は、ベルトの進行方向(矢印方向)にシアンインク吐出用ヘッド13C、マゼンタインク吐出用ヘッド13M、イエローインク吐出用ヘッド13Y、及びブラックインク吐出用ヘッド13Bkが順次配置されており、各ヘッドは1200dpi/10inch幅フルラインヘッド(駆動周波数:25kHz、記録媒体の搬送速度530mm/sec)であり、各色をシングルパスで主走査方向に吐出して記録できるようになっている。また、加熱ロールは、60℃に調温されている。
また、回転ベルトの第1〜第3乾燥器が設けられている側と反対側には、第1乾燥器、第2乾燥器、第3乾燥器とそれぞれ回転ベルトを介して対向する位置に、ヒーター24,25,26が配置されている。本実施例では、ヒーター25はオフにしてある。
【0140】
図1に示すように構成されたインクジェット装置の遮断液吐出用ヘッド11、固定液吐出用ヘッド12、シアンインク吐出用ヘッド13C、マゼンタインク吐出用ヘッド13Mに繋がるそれぞれのインクタンクに上記で得たインク、固定液、及び遮断液を装填して、記録媒体20にベタ画像及び1200dpiのライン画像を記録した。記録媒体には、日本製紙(株)製の「ユーライト」(坪量84.9g/m)を用いた。
画像の記録に際し、遮断液、固定液、シアンインク、及びマゼンタインクは、解像度1200dpi×600dpi、インク滴量3.5plにて吐出した。このとき、ライン画像は、1200dpiの幅1ドットのライン、幅2ドットのライン、幅4ドットのラインをシングルパスで主走査方向に吐出して記録し、ベタ画像は、ユーライトをA5サイズにカットしたサンプルの全面にインクを吐出してベタ画像とした。
画像の記録はまず、ユーライト上に遮断液吐出用ヘッド11から遮断液をシングルパスで吐出した後、着滴した遮断液を着滴面の裏側(背面)から70℃のヒーター24で加熱しながら、第1乾燥器14より120℃、5m/secの温風を10秒間あてて乾燥させた。続いて、固定液吐出用ヘッド12から固定液をシングルパスで吐出し、着滴した固定液を第2乾燥器15より25℃、5m/secの冷風を15秒間あてて乾燥させた。その後、シアンインク吐出用ヘッド及びマゼンタインク吐出用ヘッドにより、シアンインク、マゼンタインクを各々シングルパスで吐出して画像を記録した後、インク着滴面の裏側(背面)から60℃のヒーター26で加熱しながら、第3乾燥器16より120℃、5m/secの温風を15秒間あてて乾燥させた。画像乾燥後、80℃に調温されたPFA(テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体である完全フッ素化の熱可塑性フッ素樹脂)製の加熱ローラー17でニップ圧1.0mPaにて加熱圧着する操作(工程)を3回繰り返して画像を定着した。
【0141】
【表1】

【0142】
《画像評価》
−1.画像品質(描画性)−
上記のようにしてユーライト上に記録された、幅1ドットのライン、幅2ドットのライン、幅4ドットのラインについて、下記の評価基準にしたがって描画性を評価した。評価結果は下記表2に示す。
<評価基準>
1:全てのラインが均質なラインであった。
2:幅1ドットのラインは均質であったが、幅2ドット及び幅4ドットのラインの一部にライン幅の不均一やラインの切れ、液溜まりが認められた。
3:幅1ドットのラインは均質であったが、幅2ドット及び幅4ドットのラインの全般にライン幅の不均一やラインの切れ、液溜まりが認められた。
4:ライン全体にライン幅の不均一やラインの切れ、液溜まりが顕著に認められた。
【0143】
−2.カール−
全面にベタ画像が形成されたA5サイズのサンプルを25℃、50%RHの環境下に72時間放置した後、平面に置いた際の各サンプルの四隅(4頂点)の浮き上がり(高さ)を測定して、下記の評価基準にしたがって評価した。なお、記録面の中央付近が盛り上がるように紙がカールした場合は、紙をひっくり返して四隅が平面の上方に反り上がるように配置し測定を行なった。
<評価基準>
1:4点の浮き上がりの算術平均が0.3cm未満であった。
2:4点の浮き上がりの算術平均が0.3cm以上0.5cm未満であった。
3:4点の浮き上がりの算術平均が0.5cm以上0.7cm未満であった。
4:4点の浮き上がりの算術平均が0.7cm以上であった。
【0144】
−3.耐擦過性−
全面にベタ画像が形成されたA5サイズのサンプルを25℃、50%RHの環境下に72時間放置し、放置後のサンプルのベタ画像表面を、記録していないユーライト(以下、本評価において未使用サンプルという。)を重ねて荷重200kg/mをかけて10往復擦った。その後、未使用サンプルとベタ画像を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
1:未使用サンプルへの色の付着がなく、擦られたベタ画像の劣化も認められなかった。
2:未使用サンプルには色が付着したが、擦られたベタ画像の劣化は認められなかった。
3:未使用サンプルには色が付着し、擦られたベタ画像の劣化も認められた。
4:擦られたベタ画像が脱落し、紙面(ユーライト)が露出した。
【0145】
【表2】

【0146】
前記表2に示すように、実施例では、画像記録後のカールが抑制され、記録された画像は、品質が高く、耐擦過性にも優れていた。これに対し、比較例では、カールを抑えながら、画像の品質及び耐擦過性まで高めることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明の画像記録方法の実施に用いるインクジェット記録装置の構成例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0148】
11…遮断液吐出用ヘッド
12…固定液吐出用ヘッド
13…インク吐出用ヘッドセット
17…加熱ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクをインクジェット法で吐出して画像を記録する画像記録方法であって、
記録媒体上に、SP値が9.5以上の樹脂粒子を含み、水性インクに含まれる溶媒の前記記録媒体への浸透を遮断する遮断層を形成する遮断層形成工程と、
前記遮断層の上を、水性インク中の成分を固定化する素材を用いて固定化処理する固定化処理工程と、
前記遮断層上の固定化処理された領域に、顔料、樹脂粒子、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤、及び水を含有する水性インクをインクジェット法により吐出して画像を記録する画像記録工程と、
を有する画像記録方法。
【請求項2】
遮断層に含まれる前記樹脂粒子が、ポリエステル系樹脂粒子であることを特徴とする請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項3】
前記水性インク中の成分を固定化する素材が、2価以上の酸又は2価以上の金属の塩であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像記録方法。
【請求項4】
前記遮断層形成工程の後、前記固定化処理工程前に乾燥処理又は熱処理を行なって皮膜化を促進する皮膜化工程を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の画像記録方法。
【請求項5】
前記遮断層形成工程は、遮断層の形成をインクジェット法により行なうことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の画像記録方法。
【請求項6】
前記遮断層形成工程は、遮断層を前記画像記録工程で画像が形成される画像形成領域に選択的に形成することを特徴とする請求項5に記載の画像記録方法。
【請求項7】
前記画像記録工程の後、圧力を付与する圧力付与手段及び加熱手段の少なくとも一方を用いて前記画像を定着処理する定着工程を更に有することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の画像記録方法。
【請求項8】
顔料、樹脂粒子、SP値が10〜14の範囲の水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インクと、
SP値が9.5以上の樹脂粒子及び水を含み、水性インクに含まれる溶媒の浸透を遮断するための造膜が可能な遮断用液組成物と、
前記水性インクと混合したときに水性インク中の成分を固定化する素材を含む固定化用液組成物と、
を有するインクセット。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の画像記録方法に用いられることを特徴とする請求項8に記載のインクセット。
【請求項10】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の画像記録方法により記録されたインクジェット記録物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−226598(P2009−226598A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71055(P2008−71055)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】