説明

画像診断装置

【課題】造影剤の濃度に応じて、より適切に造影イメージングスキャンにおける制御タイミングを決定することである。
【解決手段】画像診断装置は、濃度変化取得手段、トリガ生成手段及び制御手段を備える。濃度変化取得手段は、被検体に注入された造影剤の濃度の時間変化に対応するデータを取得する。トリガ生成手段は、前記データに対する第1の閾値処理によって異常データが検出された場合に、前記異常データを除くデータに対する第2の閾値処理によってトリガを生成する。制御手段は、前記トリガに基づいて前記被検体の造影イメージングのための制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線CT (computed tomography)装置により造影剤の注入を伴う造影イメージングが行われている。X線CT装置による造影イメージングでは、造影剤の注入後におけるデータ収集タイミングを決定するために、イメージングに先だって関心領域(ROI: region of interest)内における造影剤の濃度に応じたCT値の変化がモニタリングされる。そして、ROI内におけるCT値が予め設定された閾値を超えたタイミングをトリガとして、イメージングスキャンが開始される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−114049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のX線CT装置による造影イメージングでは、CT値変化の測定対象となるROI内又はROI付近にX線の高吸収体等のアーチファクトの要因となる物体が存在すると、造影剤の濃度に関わらずCT値が上昇するため、イメージングスキャンの開始のためのトリガタイミングが誤って設定されるという問題がある。
【0005】
これは、磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置を用いて造影イメージングを行う場合においても同様である。すなわち、MRI装置によりROI内における造影剤の濃度に応じた信号値をモニタリングしてデータ収集タイミングを決定する場合、アーチファクトにより信号値が上昇すると、データ収集タイミングが誤って設定されるという問題がある。
【0006】
更に、造影剤の濃度に応じて撮像モードの変更等の各種制御を行う場合においても、アーチファクトの発生に関わらず制御タイミングを適切に決定することが重要である。
【0007】
本発明は、造影剤の濃度に応じて、より適切に造影イメージングスキャンにおける制御タイミングを決定することが可能な画像診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る画像診断装置は、濃度変化取得手段、トリガ生成手段及び制御手段を備える。濃度変化取得手段は、被検体に注入された造影剤の濃度の時間変化に対応するデータを取得する。トリガ生成手段は、前記データに対する第1の閾値処理によって異常データが検出された場合に、前記異常データを除くデータに対する第2の閾値処理によってトリガを生成する。制御手段は、前記トリガに基づいて前記被検体の造影イメージングのための制御を行う。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る画像診断装置の機能ブロック図。
【図2】異常データを伴うTDCに対する第1及び第2の閾値処理を行ってトリガ信号を生成する方法の一例を説明する図。
【図3】図2に示すTDCの生成対象となったROIから異常値を呈する画素の範囲を除外した例を示す図。
【図4】異常データを伴うTDCに対する第1及び第2の閾値処理を行ってトリガ信号を生成する方法の別の一例を説明する図。
【図5】図1に示す画像診断装置により造影剤のTDCをモニタリングすることによって設定したタイミングで被検体の造影イメージングを実行する流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る画像診断装置について添付図面を参照して説明する。
【0011】
図1は本発明の実施形態に係る画像診断装置の機能ブロック図である。
【0012】
画像診断装置1は、被検体の造影イメージングを行う機能を有する。そのために、画像診断装置1は、造影剤注入装置2、データ収集系3、スキャン制御部4、データ処理系5、入力装置6及び表示装置7を有する。画像診断装置1の構成要素のうち、デジタルデータを処理する構成要素は、コンピュータにプログラムを読み込ませることによって構築することができる。画像診断装置1の例としては、造影イメージングを行うことが可能なX線CT装置及びMRI装置が挙げられる。
【0013】
造影剤注入装置2は、被検体に造影剤をボーラス注入又は静注する機能を有する。
【0014】
データ収集系3は、所定の条件に従ってスキャンを実行することによって被検体から生体データを収集する機能を有する。画像診断装置1がX線CT装置である場合には、X線管及びX線検出器等の構成要素により被検体から生体データとしてX線検出データを収集するデータ収集系3が構成される。一方、画像診断装置1がMRI装置である場合には、コイル及び磁石等の構成要素により被検体から生体データとしてMRデータを収集するデータ収集系3が構成される。
【0015】
スキャン制御部4は、データ処理系5から出力されるトリガ信号に基づいてデータ収集系3を制御することによって、イメージングスキャン及びイメージングスキャンに先立つプレスキャンをデータ収集系3に実行させる機能を有する。イメージングスキャンは、診断画像データとして造影画像データを収集するためのスキャンである。また、プレスキャンとしては、ROI設定用の画像データを収集するためのスキャンやイメージングスキャンの開始タイミングを決定するために所望のROIにおける造影剤の濃度をモニタリングするためスキャンなどがある。このため、スキャン制御部4には、入力装置6からの情報に従ってROIを設定する機能が備えられる。
【0016】
更に、スキャン制御部4には、データ処理系5から出力されるトリガ信号に基づいて造影イメージングを行うために必要なデータ収集系3の制御を行う機能及び造影イメージングを行うために必要な情報を表示装置7やその他の機器に出力する機能が備えられる。例えば、スキャン制御部4には、被検体のROI内における造影効果を示すCT値等の指標が所定の値を超えた場合にガイド音声を出力させる機能、造影効果を示す指標がピークを過ぎた場合にデータ処理系5を制御して撮像間隔を長くする機能、造影効果を示す指標がピークを過ぎた場合にデータ処理系5を制御してX線管に供給される管電流を低下させる機能、造影効果を示す指標が所定の値以下となった場合にデータ処理系5を制御して撮像を終了させる機能のように、トリガ信号に基づいて撮像モードの変更を行う機能や情報を出力させる機能が備えられる。
【0017】
データ処理系5は、画像データ生成部8、時間濃度曲線(TDC: Time Density Curve)取得部9、トリガ生成部10及び異常通知部11を有する。また、TDC取得部9は、ROI設定部12及びROI補正部13を有する。更に、トリガ生成部10は第1の閾値処理部14及び第2の閾値処理部15を有する。
【0018】
画像データ生成部8は、データ収集系3によるイメージングスキャン又はプレスキャンによって収集された生体データに対する画像再構成処理を行うことによって画像データを生成する機能と、生成した画像データを表示装置7に表示させる機能を有する。
【0019】
TDC取得部9は、データ収集系3によるプレスキャンによって収集された生体データに基づいて造影剤の濃度の時間変化に対応するデータを造影剤のTDCとして取得する機能と、造影剤のTDCを表示装置7に表示させる機能を有する。
【0020】
例えば、画像診断装置1がX線CT装置である場合には、X線CT画像データに設定されたROI内におけるCT値の変化として造影剤のTDCを作成することができる。また、画像診断装置1がMRI装置である場合には、MR画像データに設定されたROI内における画素値又は所定の領域から収集されたMR信号の信号値の変化として造影剤のTDCを作成することができる。
【0021】
ROI設定部12は、入力装置6からの情報に従って造影剤のTDCを作成するためのROIを設定する機能を有する。尚、ROI内には、複数の画素位置が存在するため、複数の画素値又はCT値の平均値等の代表値を用いてROIごとに1つのTDCを作成することができる。従って、複数のROIを設定することによって、複数のTDCを作成することもできる。
【0022】
ROI補正部13は、異常なTDCが作成された場合に、データが異常値を呈する範囲を閾値処理によって特定し、ROIから異常値を呈する範囲を除外した範囲を新たなROIに設定するROIの補正処理を実行する機能を有する。つまり、ROI補正部13によるROIの補正処理によって、TDC取得部9は、異常なTDCが作成された場合に、異常値を呈する範囲を除外した範囲のデータを用いてTDCを作成できるように構成される。尚、異常なTDCが作成されたか否かの情報は、トリガ生成部10の第1の閾値処理部14からROI補正部13に与えられる。
【0023】
トリガ生成部10は、造影剤のTDCに対する第1の閾値処理によってTDCの異常データを検出する機能、異常データが検出された場合に、異常データを除くTDCに対する第2の閾値処理によってトリガ信号を生成する機能を有する。換言すれば、トリガ生成部10は、TDCに対する第2の閾値処理によってトリガ信号の生成条件が満たされたとしても、第1の閾値処理によって第2の閾値処理の対象となったTDCのデータが異常データであると判定された場合には、トリガ信号を生成しないように構成される。つまり、第1の閾値処理と第2の閾値処理は、どちらを先に実行してもよい。
【0024】
また、トリガ生成部10は、生成したトリガ信号をスキャン制御部4に出力することによってスキャン制御部4にスキャンの開始、撮影モードの変更又は必要な情報の出力を実行させる機能を備えている。
【0025】
第1の閾値処理部14は、TDCの局所的なデータが異常データであるか否かの判定を行うためのTDCに対する第1の閾値処理を行う機能を有する。例えば、造影剤のTDCの値又は変動量に対して第1の閾値を設定し、TDCの値又は変動量が第1の閾値を超えた場合に、第1の閾値を超えた部分のTDCを異常データと判定することができる。第1の閾値は、例えば過去に観測されたTDCの異常値に基づいて経験的に決定することができる。
【0026】
第2の閾値処理部15は、トリガ信号の生成タイミングを決定するためのTDCに対する第2の閾値処理を行う機能を有する。第2の閾値処理は、トリガ信号がイメージングスキャンの開始のための信号であれば、TDCの値が第2の閾値を超えた場合に、トリガ信号の生成条件が満たされたと判定する処理とすることができる。また、トリガ信号が撮像モードの変更や情報の出力のための信号であれば、撮像モードの変更や情報の出力のための条件に従ってTDCに対する第2の閾値及び第2の閾値処理の方法が設定される。第2の閾値は、トリガ信号の生成タイミングを決定するために従来から用いられている経験的な値に決定することができる。
【0027】
以下、第2の閾値処理部15においてイメージングスキャンを開始させるためのトリガ信号の生成条件を判定し、トリガ生成部10がイメージングスキャンを開始させるためのトリガ信号を生成する場合を例に説明する。
【0028】
図2は、異常データを伴うTDCに対する第1及び第2の閾値処理を行ってトリガ信号を生成する方法の一例を説明する図であり、図3は、図2に示すTDCの生成対象となったROIから異常値を呈する画素の範囲を除外した例を示す図である。
【0029】
図2において横軸は時間を示し、縦軸はROI内におけるCT値を示す。また、図2中の点線は、ROI内におけるCT値の時間的変化として表されたTDCを示し、実線の丸印はTDCを生成するための各時刻におけるCT値のプロットデータを示す。
【0030】
図3(A)に示すようにX線CT画像上にROIを設定し、プレスキャンによって造影剤注入後の被検体からX線検出データをダイナミック収集してリアルタイムにROI内のCT値を計算すると、ROIにおけるTDCを取得することができる。そして、TDCとしてROI内における造影剤の濃度をモニタリングすることができる。
【0031】
造影剤は、徐々にROI内に流れ込むため、TDCがROI内における造影剤の濃度に対応していれば、TDCは急激に上昇又は減少することはなく連続的に徐々に上昇する。しかし、図3(A)に示すようにROI付近にX線の高吸収体が存在すると、高吸収体の影響によってX線CT画像データのROI内にアーチファクトが生じる場合がある。ROI内にアーチファクトが出現すると、TDCは急激に上昇した後、再び急激に減少する。
【0032】
このため、図2に示すように、TDCが第2の閾値TH2を超えた場合にイメージングスキャンのトリガ信号が生成される場合において、アーチファクトによってTDCが急激に上昇して第2の閾値TH2を超えると、造影剤がROI内に到達していないにも関わらずトリガ信号が生成されてしまう。
【0033】
そこで、TDC上のあるCT値が第2の閾値TH2を超えた場合に、直前にサンプリングされたCT値との差分ΔCTが算出される。そして、CT値の差分ΔCTと第1の閾値TH1を比較し、第1の閾値TH1よりもCT値の差分ΔCTの方が大きい場合には、トリガ信号を生成しないようにトリガ生成部10を制御することができる。例えば、ROIが頸動脈に設定されている場合には、第1の閾値TH1を30 HU (Hounsfield Unit)程度に設定することができる。
【0034】
このような第1の閾値処理によって、TDCの変動量の指標である隣接するCT値の差分ΔCTが急激に変化した場合に、TDCの上昇がアーチファクトに起因するものと判定してトリガ信号を生成しないようにすることができる。
【0035】
尚、上述したように、CT値の差分ΔCTと第1の閾値TH1を比較し、CT値の差分ΔCTが第1の閾値TH1以下であると判定された場合にCT値と第2の閾値TH2との比較判定を行うようにしてもよい。また、隣接するCT値間における差分ΔCTをTDCの変動量の指標とすれば、十分にCT値の上昇の原因がアーチファクトによるものか否かを判定できると考えられるが、あるCT値とそれ以前のn個(nは自然数)のCT値の平均値との差分をTDCの変動量の指標として第1の閾値TH1と比較するようにしてもよい。
【0036】
ただし、図2に示すように、アーチファクトによってCT値が急激に上昇し、次にサンプリングされたCT値も第2の閾値TH2を超えた場合には、隣接するCT値の差分ΔCTが小さな値となる。
【0037】
そこで、あるCT値と直線のCT値との差分ΔCTが第1の閾値TH1を超えて、CT値が異常データであると判定された場合には、少なくとも所定の時間ΔTが経過するまでトリガ信号を生成しないようにトリガ生成部10を制御することができる。所定の時間ΔTは、過去における異常データの出現時間などに基づいて経験的に決定することができる。
【0038】
また、上述したように、ROI補正部13によりCT値が異常値を呈する範囲を特定して図3(B)に示すようにROIから除外すれば、図2の点線の丸印で示すようにCT値を正常な値に補正することができる。この場合、ROI内からアーチファクトが除外されているため次にサンプリングされるCT値も正常な値に補正される。
【0039】
このようなトリガ生成部10の制御により、TDCに異常データが発生して上昇しても、イメージングスキャンが開始されることなくTDCをモニタリングするためのプレスキャンを引続き実行することができる。
【0040】
そして、図2に示すように造影剤の濃度に従って徐々にTDCが上昇することによってCT値が第2の閾値TH2を超えた場合には、直前にサンプリングされたCT値との差分ΔCTが第1の閾値TH1以下となる。このため、適切なタイミングでトリガ信号を生成することができる。
【0041】
図4は、異常データを伴うTDCに対する第1及び第2の閾値処理を行ってトリガ信号を生成する方法の別の一例を説明する図である。
【0042】
図4において横軸は時間を示し、縦軸はROI内におけるCT値を示す。また、図2中の点線は、ROI内におけるCT値の時間的変化を表すTDCを示し、実線の丸印はTDCを生成するための各時刻におけるCT値のプロットデータを示す。
【0043】
図4に示すようにTDCを構成するCT値に対して異常値を除外するための第1の閾値TH1及びトリガ信号の生成条件を判定する第2の閾値TH2を設定することもできる。すなわち、CT値自体をTDCの変動量の指標として第1の閾値処理を行うことができる。この場合、第1の閾値TH1は、第2の閾値TH2及び造影剤の到達によって上昇し得る想定値を十分に超える値に設定される。このため、アーチファクトによってCT値が第2の閾値TH2を超えたとしても、第1の閾値TH1を超えれば、トリガ信号は生成されない。
【0044】
また、図4の点線の丸印で示すようにROI内からアーチファクト部分を除外してCT値を補正したり、CT値が異常データであると判定された場合に少なくとも所定の時間ΔTが経過するまでトリガ信号を生成しないようにトリガ生成部10を制御することができる。
【0045】
異常通知部11は、第1の閾値処理部14において異常データが検出された場合に異常データの検出情報を表示装置7に表示させる機能を有する。つまり、異常通知部11は、ユーザにTDCの上昇がアーチファクトによるものである等の情報を通知する機能を有する。
【0046】
次に画像診断装置1の動作および作用について説明する。ここでは、画像診断装置1がX線CT装置であり、図2に示す第1及び第2の閾値処理を行ってイメージングスキャンのトリガ信号を生成する場合を例に説明する。
【0047】
図5は、図1に示す画像診断装置1により造影剤のTDCをモニタリングすることによって設定したタイミングで被検体の造影イメージングを実行する流れを示すフローチャートである。
【0048】
まずステップS1において、造影剤のTDCの作成対象となるROIの設定用の画像データがプレスキャンによって収集される。すなわち、スキャン制御部4による制御下において、データ収集系3は、S&S (scan & scan)モード、S&V (scan & view)モード、ヘリカルスキャンモード、ボリュームスキャンモード等の所望のモードのプレスキャンを実行することによって被検体の検査対象となる部位におけるX線検出データを収集する。
【0049】
具体的には、データ収集系3に備えられるX線管からX線が被検体に曝射され、被検体を透過したX線がX線検出装置により検出される。X線検出装置により検出されたX線検出データはデータ収集システム(DAS: data acquisition system)により収集され、X線検出データがデジタル信号としてDASからデータ処理系5に出力される。
【0050】
そうすると、データ処理系5の画像データ生成部8は、X線検出データに対する画像再構成処理を行うことによって画像データを生成し、生成した画像データを表示装置7に表示させる。
【0051】
次に、ステップS2において、ROI設定部12は、入力装置6からの情報に従って造影剤のTDCを作成するためのROIを設定する。すなわち、ユーザが表示装置7に表示された画像を参照し、入力装置6を操作することによってROIの設定情報をROI設定部12に入力すると、ROI設定部12はROIの設定情報に従って図3(A)に示すようにROIを設定する。
【0052】
次に、ステップS3において、造影剤注入装置2は、被検体に造影剤を注入する。
【0053】
次に、ステップS4において、スキャン制御部4による制御下において、データ収集系3は、被検体に注入されたTDCのモニタリング用のプレスキャンを実行する。すなわちステップS1と同様な流れで、DASからX線検出データがデータ処理系5に出力される。但し、TDCのモニタリング用のプレスキャンでは、X線検出データがダイナミック収集される。
【0054】
次に、ステップS5において、データ処理系5のTDC取得部9は、X線検出データの画像再構成処理によってX線CT画像データをリアルタイムに生成し、X線CT画像データのROI内におけるCT値を測定する。そして、TDC取得部9は、ROI内におけるCT値の時間変化を造影剤のTDCとして作成し、作成した造影剤のTDCを表示装置7に表示させる。
【0055】
尚、造影剤のTDCを表示装置7に表示させずに、TDC取得部9が各時刻におけるCT値を記憶するようにしてもよい。
【0056】
次に、ステップS6において、第2の閾値処理部15は、トリガ信号の生成タイミングを決定するためのTDCに対する第2の閾値処理を行う。すなわち、第2の閾値処理部15は、最新の時刻においてサンプリングされたROI内のCT値が予め設定された第2の閾値TH2を超えたか否かを判定する。そして、CT値が第2の閾値TH2を超えていないと判定された場合には、引続きステップS4からのTDCのモニタリング用のプレスキャンが実行され、造影剤のTDCが求められる。
【0057】
一方、図3(A)に示すようなROI付近におけるX線の高吸収体の影響により、X線CT画像データにアーチファクトが出現すると、CT値が急激に上昇する。このため、第2の閾値処理部15により、CT値が第2の閾値TH2を超えたと判定される場合がある。
【0058】
そうすると、ステップS7において、第1の閾値処理部14は、第2の閾値TH2を超えたと判定されたCT値と直前にサンプリングされたCT値との差分ΔCTを算出する。
【0059】
次に、ステップS8において、第1の閾値処理部14は、第2の閾値TH2を超えたCT値がアーチファクトに起因して上昇した異常データであるか否かを判定するために、CT値の差分ΔCTに対する第1の閾値処理を行う。すなわち、第1の閾値処理部14は、CT値の差分ΔCTが予め設定された第1の閾値TH1を超えたか否かを判定する。
【0060】
そして、CT値の差分ΔCTが第1の閾値TH1を超えたと判定された場合には、引続きステップS4からのTDCのモニタリング用のプレスキャンが実行され、造影剤のTDCが求められる。このため、アーチファクトによりCT値が第2の閾値TH2を超えたとしても、アーチファクトに起因して大きく変動したCT値の差分ΔCTは第1の閾値TH1を超えるため、TDCのモニタリング用のプレスキャンが引続き実行される。
【0061】
ここで、必要に応じて、ステップS9において、第1の閾値処理部14は、異常データの検出情報を異常通知部11に与え、異常通知部11は表示装置7にTDCの上昇がアーチファクトによるものである等の異常データの発生情報を表示させる。このため、ユーザは、CT値の上昇がアーチファクトによるものであると確認することができる。
【0062】
また、必要に応じて、ステップS10において、ROI補正部13は、ROI内においてCT値が異常値を呈する範囲、例えば、CT値が第2の閾値TH2を超えている画素の範囲やCT値の差分ΔCTが第1の閾値TH1を超えている画素の範囲を閾値処理によって特定する。そして、ROI補正部13は、図3(B)に示すように特定した異常データの範囲をROIから除外するROIの補正処理を行う。これにより、補正後のROIからサンプリングされたCT値はアーチファクトの影響を受けることなく正常な値を呈することとなる。
【0063】
更に、必要応じて、ステップS11において、トリガ生成部10は、所定の時間ΔTの経過待ちを行う。これにより、アーチファクトの影響によるCT値の急激な上昇が終わり、CT値は正常値に戻る。
【0064】
尚、ステップS9、ステップS10及びステップS11の処理は、互いに独立して任意の順序で行うことができる。
【0065】
一方、造影剤がROI内に到達すると、CT値が徐々に上昇し、第2の閾値TH2を超える。この場合、ステップS8において、第1の閾値処理部14は、CT値の差分ΔCTが第1の閾値TH1を超えていないと判定する。
【0066】
この場合、ステップS12において、トリガ生成部10は、イメージングスキャンの開始タイミングとなるトリガ信号を生成し、生成したトリガ信号をスキャン制御部4に出力する。
【0067】
そうすると、ステップS13において、トリガ信号を受けたスキャン制御部4は、データ収集系3を制御し、データ収集系3は造影イメージングスキャンを実行する。これにより、ROI内が造影剤によって染影された造影CT画像データを診断用の画像データとして収集することができる。
【0068】
尚、上述したように、異常データの検出のための第1の閾値処理をトリガ信号の生成条件の判定のための第2の閾値処理より先に行ってもよい。
【0069】
つまり以上のような、画像診断装置1は、造影剤のTDCに対する閾値処理によってTDCの変動が造影剤に起因するものであるか他の原因によるものであるかを判定し、造影剤に起因してTDCが上昇又は下降した場合にのみイメージングスキャンの開始、撮像モードの変更又は情報の出力のタイミングを決定するためのトリガ信号を生成するようにしたものである。
【0070】
このため、画像診断装置1によれば、造影剤の濃度をモニタリングするためのデータが造影剤以外の要因によって上昇又は下降しても、造影イメージングスキャンの開始タイミング、撮像モードの変更タイミング又は情報の出力タイミングが不適切なタイミングに設定されることを回避することができる。すなわち、造影イメージングスキャンを制御するためのトリガ信号を適切なタイミングで生成することができる。
【0071】
例えば、X線CT装置により収集された造影X線CT画像データにアーチファクトが出現したとしても、アーチファクトの出現により上昇したTDCの部分を除外して適切なタイミングでトリガ信号を生成することができる。
【0072】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0073】
1 画像診断装置
2 造影剤注入装置
3 データ収集系
4 スキャン制御部
5 データ処理系
6 入力装置
7 表示装置
8 画像データ生成部
9 時間濃度曲線(TDC: Time Density Curve)取得部
10 トリガ生成部
11 異常通知部
12 ROI設定部
13 ROI補正部
14 第1の閾値処理部
15 第2の閾値処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に注入された造影剤の濃度の時間変化に対応するデータを取得する濃度変化取得手段と、
前記データに対する第1の閾値処理によって異常データが検出された場合に、前記異常データを除くデータに対する第2の閾値処理によってトリガを生成するトリガ生成手段と、
前記トリガに基づいて前記被検体の造影イメージングのための制御を行う制御手段と、
を備える画像診断装置。
【請求項2】
前記濃度変化取得手段は、前記異常データが検出された場合に、前記異常データに対応するデータ領域を除くデータ領域について前記造影剤の濃度の時間変化に対応するデータを取得するように構成される請求項1記載の画像診断装置。
【請求項3】
前記トリガ生成手段は、前記データの値又は変動量が閾値を超えた場合に、前記閾値を超えたデータを前記異常データとして検出するように構成される請求項1記載の画像診断装置。
【請求項4】
前記トリガ生成手段は、前記異常データが検出された場合に、少なくとも所定の時間が経過した後に前記トリガを生成するように構成される請求項1記載の画像診断装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記トリガを開始タイミングとして前記被検体の造影イメージングを行うように構成される請求項1記載の画像診断装置。
【請求項6】
前記異常データが検出された場合に前記異常データの検出情報を表示装置に表示させる異常通知手段を更に備える請求項1記載の画像診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−95927(P2012−95927A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247967(P2010−247967)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】