説明

留置針装置

【課題】組み立て時のシールド筒に対する外ハブ位置決め機能や、接着剤や溶着材料の浸入規制機能を損なうことなく、血液や薬液が滞留しにくい留置針装置を提供する。
【解決手段】留置針装置を構成するシールド20はシールド筒21と外針51を保持する外ハブ130とを備える。外ハブのシールド筒内に嵌入される固定部33は、シールド筒の内周面に接合される接合部34と、接合部より小さな外寸法を有する溝35と、シールド筒の内周面に形成された当接面25に当接することにより外ハブをシールド筒に対してシールド筒の長手方向において位置決めする位置決め部36とをこの順に有する。溝とシールド筒の内周面との間の空間39をシールドの内腔29に連通させる流路が固定部に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質の外針と硬質の内針とを備え、外針の先端から内針の先端を突出させた状態で患者に穿刺し、その後、内針を外針から後退させることができるように構成された留置針装置に関する。
【背景技術】
【0002】
留置針装置は、輸液、輸血、体外血液循環などの処置に広く使用される。このような処置において、金属針を血管内に留置すると血管が傷付けられる可能性がある。そこで、軟質の外針と硬質の内針とを備えた留置針装置が知られている。外針の先端から内針の先端を突出させた状態で外針及び内針を患者の血管に穿刺し、その後、内針を外針から後退させ、外針のみを患者に留置する。留置された軟質の外針は患者の血管を傷付ける可能性は低い。
【0003】
特許文献1に、このような留置針装置の一例が記載されている。軟質の外針は、シールドと呼ばれる略筒状体の前端に固定されている。ハブ(内ハブ)が、シールドの内腔内にシールドの長手方向に移動可能に収納されている。ハブの前端に硬質の内針が固定され、ハブの後端に柔軟なチューブが固定されている。内針とチューブとはハブを介して連通している。シールド内において、ハブを前端側に移動させると、内針の先端が外針の先端から突出し、ハブを後端側に移動させると内針は外針から後退しシールド内に収納される。
【0004】
図18は、従来の留置針装置において、外針951が固定されているシールド920の前端部分の概略構成を示した断面図である。シールド920は、略円筒形状を有するシールド筒921と、シールド筒921の一端(前端)に接合された外ハブ930とを備える。図18では、留置針装置を構成するハブやこれに保持された内針の図示を省略している。
【0005】
図19は、外ハブ930の側面図である。外ハブ930は、軟質の外針951が挿入されて保持される円筒形状の外針保持部931、略漏斗形状を有する中間部932、シールド筒921内に挿入されてシールド筒921に固定される固定部933を、この順に備えている。固定部933の外周面には、接合部934、溝935、位置決め部936が、外針保持部931側からこの順に形成されている。接合部934、溝935、位置決め部936の外周面はいずれも円筒面である。接合部934の外径及び位置決め部936の外径はほぼ同じであり、溝935の外径はこれらの外径より小さい。
【0006】
図18に示されているように、シールド筒921の内周面は、内径が長手方向において一定である円筒面で構成された円筒面部923を備え、シールド筒921の前端側から所定の領域の内周面には、円筒面部923より大きな内径を有する円筒面で構成された径大部924が形成されている。円筒面部923と径大部924との間には、両者の内径差に起因する円環状の当接面925が形成されている。
【0007】
以上のように構成されたシールド筒921と外ハブ930との組み立ては以下のように行われる。最初に、外ハブ930の固定部933をシールド筒921の径大部924内に挿入する。外ハブ930の位置決め部936の先端をシールド筒921の当接面925に当接させることにより、外ハブ930をシールド筒921に対してシールド筒921の長手方向において位置決めすることができる。次いで、外ハブ930の接合部934とシールド筒921の径大部924とを接合する。接合方法としては、接着剤による方法(接着法)、高周波溶着やレーザ溶着等の溶着による方法(溶着法)などがある。接着法では、外部から接合部934と径大部924との間に接着剤を付与する。接着剤は、毛細管現象により接合部934と径大部924との間のわずかな隙間に浸入し広がって、接合部934と径大部924との間に接着剤からなる接合層980を形成する。溶着法では、高周波やレーザ等によって溶融した溶着材料が毛細管現象により接合部934と径大部924との間のわずかな隙間に広がって、接合部934と径大部924との間に溶着材料からなる接合層980を形成する。かくして、接合層980を介して外ハブ930をシールド筒921に固定することができる。
【0008】
接着剤や溶着材料がシールド筒921の円筒部923にまで流れると、円筒部923内でのハブの移動に支障をきたす。そこで、接合部934に隣接して溝935が形成されている。溝935と径大部924との間に形成された相対的に大きな空間(隙間)939は、接着剤や溶着材料が毛細管現象でこれに浸入するには大きすぎる。従って、接着剤や溶着材料は空間939内に浸入することはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4506834号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、外ハブ930の一端に形成された相対的に大径の位置決め部936は、シールド筒921の内周面に形成された当接面925に当接することにより外ハブ934を位置決めする機能を有し、相対的に小径の溝935は径大部924との間に空間939を形成して接着剤や溶着材料の浸入を規制する機能を有している。
【0011】
このような従来の留置針装置では、位置決め部936と径大部924との間に接着剤や溶着材料は浸入しないから、位置決め部936と径大部924との間に液密なシールを形成することは困難である。従って、留置針装置の使用時においてシールド920の内腔929内を充満する血液や薬液が位置決め部936と径大部924との間のわずかな隙間を通って空間939に浸入し、空間939内に滞留することがある。空間939に血液が滞留すると例えば血栓が発生し、薬液が滞留すると例えば細菌が増殖する。その結果、空間939内の血栓や細菌が、位置決め部936と径大部924との間のわずかな隙間を通ってシールド920の内腔929に移動し、患者の体内に侵入してしまうという危険がある。
【0012】
位置決め部936と径大部924との間の隙間を実質的にゼロにすればすれば、空間939に血液や薬液が浸入するのを防止することができるかも知れない。ところが、このような設計では、径大部924内に位置決め部936を挿入することが困難になるので、シールド920の組み立て作業性が悪化する。また、仮に組み立てることができたとしても、位置決め部936と径大部924との嵌合部分に応力が残留し、位置決め部936又は径大部924に割れが発生する危険が高くなる。
【0013】
本発明は、従来の留置針装置の外ハブが有していた、組み立て時のシールド筒に対する位置決め機能や接着剤や溶着材料等の接合材料の浸入規制機能を損なうことなく、血液や薬液が滞留しにくい留置針装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の留置針装置は、内腔を有するシールドと、前記シールドの前端に固定された軟質の外針と、前記シールドの前記内腔内に配置され、前記シールドの長手方向に移動可能なハブと、前記ハブの前端に固定された硬質の内針と、前記ハブの後端に接続されたチューブとを備える。前記ハブが前記シールドの前記内腔の前端側に位置し且つ前記内針が前記外針を貫通して前記外針の先端から突出する初期位置と、前記ハブが前記シールドの前記内腔の後端側に位置し且つ前記内針が前記シールドの前記内腔内に収納される後退位置とに前記ハブが変位する。前記シールドは、略円筒形状を有するシールド筒と、外ハブとを備える。前記外ハブは、その前端に前記外針を保持する外針保持部を備え、その後端に前記シールド筒内に嵌入される固定部を備える。前記固定部は、前記シールド筒の内周面に接合される接合部と、前記接合部より小さな外寸法を有する溝と、前記シールド筒の内周面に形成された当接面に当接することにより前記外ハブを前記シールド筒に対して前記シールド筒の長手方向において位置決めするための位置決め部とを、前記外針保持部側からこの順に有する。前記溝と前記シールド筒の内周面との間の空間を前記内腔に連通させる流路が前記固定部に形成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、固定部に、溝とシールド筒の内周面との間の空間をシールドの内腔に連通させる流路が形成されているので、当該空間に血液や薬液が滞留するのを低減することができる。
【0016】
しかも、外ハブは、シールド筒の当接面に当接する位置決め部と、接合部に隣接した溝とを有している。従って、シールドの組み立て時に外ハブをシールド筒に対してシールド筒の長手方向において位置決めする位置決め機能や、接着剤や溶着材料等の接合材料の浸入を規制する浸入規制機能は、損なわれることなく従来と同様に確保される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、ハブが初期位置にある、本発明の実施形態1にかかる留置針装置の上方から見た斜視図である。
【図2】図2は、図1の2−2線を含む垂直面に沿った本発明の実施形態1にかかる留置針装置の矢視断面図である。
【図3】図3Aは本発明の実施形態1にかかる留置針装置を構成するシールド筒の側面図、図3Bはその中心軸を通る垂直面に沿ったシールド筒の断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態1にかかる留置針装置を構成するシールド筒の前端及びその近傍部分の拡大斜視図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態1にかかる留置針装置を構成する外ハブの後端側から見た斜視図である。
【図6】図6Aは本発明の実施形態1にかかる留置針装置を構成する外ハブの側面図、図6Bはその平面図である。
【図7】図7Aは、本発明の実施形態1にかかる留置針装置を構成するハブの前側から見た斜視図、図7Bは図7Aの7B−7B線を含む面に沿ったハブの矢視断面図、図7Cは図7Aの7C−7C線を含む面に沿ったハブの矢視断面図である。
【図8】図8Aは本発明の実施形態1にかかる留置針装置に用いられるストッパーの上方から見た斜視図、図8Bはその下方から見た斜視図である。
【図9】図9は、ハブが後退位置にある本発明の実施形態1にかかる留置針装置の上方から見た斜視図である。
【図10】図10は、図9の10−10線を含む垂直面に沿った本発明の実施形態1にかかる留置針装置の矢視断面図である。
【図11】図11Aは、本発明の実施形態1にかかる留置針装置の外ハブ及びその近傍の構成を示した切り欠き側面図、図11Bは、その切り欠き平面図である。
【図12】図12は、本発明の実施形態2にかかる留置針装置を構成する外ハブの後端側から見た斜視図である。
【図13】図13Aは本発明の実施形態2にかかる留置針装置を構成する外ハブの側面図、図13Bはその平面図である。
【図14】図14Aは、本発明の実施形態2にかかる留置針装置の外ハブ及びその近傍の構成を示した切り欠き側面図、図14Bは、その切り欠き平面図である。
【図15】図15は、実施例に用いたコンゴーレッド水溶液の検量線を示す。
【図16】図16Aは比較例にかかる留置針装置に用いた外ハブの平面図、図16Bは実施例1にかかる留置針装置に用いた外ハブの平面図、図16Cは実施例2にかかる留置針装置に用いた外ハブの平面図である。
【図17】図17は、比較例及び実施例1,2の吸光度の測定結果示した図である。
【図18】図18は、従来の留置針装置において、外針が固定されているシールドの前端部分の概略構成を示した断面図である。
【図19】図19は、従来の留置針装置に使用される外ハブの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の上記の留置針装置において、前記位置決め部に切り欠きを形成することにより前記流路が形成されていることが好ましい。あるいは、前記溝の底面に開口を形成することにより前記流路が形成されていていることが好ましい。これらによれば、簡単な構成で、溝とシールド筒の内周面との間の空間を内腔に連通させる流路を形成することができる。
【0019】
前記位置決め部が、前記外ハブを前記シールド筒に対して回転方向に位置決めするための回転方向規制部を備えることが好ましい。これにより、簡単な構成で、外ハブをシールド筒に対して回転方向に位置決めすることができる。
【0020】
この場合において、前記回転方向規制部が、初期位置にある前記ハブと嵌合して前記ハブを回転方向に位置決めすることが好ましい。これにより、ハブが初期位置にあるときに、外針の先端から突出した内針をシールドに対して回転方向に位置決めすることができる。
【0021】
初期位置にある前記ハブが前記位置決め部に当接することにより、前記ハブは前記シールドに対して前記シールドの長手方向に位置決めされることが好ましい。これにより、ハブが初期位置にあるときに、外針の先端からの内針の突出長さを容易に管理することができる。
【0022】
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態の構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、以下の各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0023】
(実施形態1)
図1は、ハブが初期位置にある、本発明の実施形態1にかかる留置針装置100の上方から見た斜視図である。以下の説明の便宜のため、留置針装置100の長手方向をZ軸、Z軸と直交する水平方向軸及び上下方向軸をそれぞれX軸及びY軸とする直交座標系を設定する。Y軸の矢印の側(即ち、図1の紙面の上側)を「上側」、これと反対側を「下側」と呼ぶ。但し、「水平方向」及び「上下方向」は、留置針装置100の実際の使用時の向きを意味するものではない。更に、患者に穿刺する側(Z軸の矢印の側、即ち、図1の紙面の左側)を「前側」、これと反対側を「後側」と呼ぶ。図2は、図1の2−2線を含む垂直面(YZ面)に沿った留置針装置100の矢視断面図である。
【0024】
留置針装置100は、シールド20を備える。シールド20は、シールド筒21と、シールド筒21の一端(前端)に固定された外ハブ130とを有する。
【0025】
図3Aはシールド筒21の側面図、図3Bはその中心軸を通る垂直面に沿ったシールド筒21の断面図である。図4はシールド筒21の前端及びその近傍部分の拡大斜視図である。シールド筒21は、その長手方向に沿った貫通孔が形成された筒状体である。シールド筒21の内周面の大部分は、内径が長手方向において一定である円筒面で構成された円筒面部23からなる。シールド筒21の内周面の前端側から所定距離の領域には、円筒面部23より大きな内径を有する円筒面で構成された径大部24が形成されている。円筒面部23と径大部24とは隣接し、その境界部分には、両者の内径差に起因する当接面25が形成されている。当接面25は、Z軸方向(シールド筒21の長手方向)に直交する方向と略平行な面であり、Z軸に沿って見たその形状は円形である。図4に示されているように、当接面25の一部(本実施形態では上側部分)が円筒面部23側(後ろ側)に湾曲して凹部27を形成している。本実施形態では、凹部27のZ軸と直交する方向から透視した形状は円弧形状である。図3Bに示されているように、シールド筒21の内周面の後端近傍には、周方向に連続する係止突起22が円筒面部23上に形成されている。
【0026】
図5は外ハブ130の後端側から見た斜視図、図6Aは外ハブ130の側面図、図6Bは外ハブ130の平面図である。外ハブ130は、軟質の外針51が挿入されて保持される(図2参照)円筒形状の外針保持部31、略漏斗形状を有する中間部32、シールド筒21の径大部24内に挿入されてシールド筒21に固定される固定部33を、この順に備えている。固定部33は、接合部34、溝35、一対の位置決め部36a,36bを、外針保持部31側からこの順に備える。接合部34の外周面及び溝35の外周面は、いずれも円筒面である。一対の位置決め部36a,36bは、外ハブ130のZ軸と平行な中心軸30aに対して対称位置に配置されている。一対の位置決め部36a,36bの外周面は、共通する円筒面の一部を構成する。一対の位置決め部36a,36bは、位置決め部36a,36bを含む円筒形状から位置決め部36a,36b以外の2つの部分(図5の二点鎖線で示した部分)38aを切り欠いて除去して得られる形状と実質的に同じ形状を有している。
【0027】
接合部34の外寸法と一対の位置決め部36a,36bの外寸法とはほぼ同じであり、溝35の外寸法はこれらより小さい。一対の位置決め部36a,36bのうちの一方36aの後端には、他方36bの後端に比べて後ろ側(外針保持部31とは反対側)に突出した凸部37が形成されている。図6Bに示されているように、凸部37の平面視形状は円弧である。
【0028】
シールド筒21及び外ハブ130の材料としては、特に制限はないが、硬質材料が好ましく、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等を用いることができる。シールド筒21及び外ハブ130が透明又は透光性を有すると、その内腔内の血液やハブ40を透視することができるので好ましい。
【0029】
図1、図2に戻り、外ハブ130の外針保持部31に軟質の外針51が固定されている。外針51は略円筒形状を有する。外針51の材料としては、特に制限はないが、軟質材料が好ましく、例えば、ポリプロピレン、ポリウレタン系エラストマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等を用いることができる。外針51が透明又は透光性を有すると、その内腔内の血液や内針50を透視することができるので好ましい。なお、外ハブ130及び外針51を、上記の軟質材料を用いて一体に形成してもよい。
【0030】
図1において、参照符号29a,29bは、X軸と略平行に延びた翼である。翼29a,29bは、略円筒形状の固定部材28に一体的に設けられている。固定部材28をシールド筒21の外ハブ130側端近傍の外周面に外装することにより、翼29a,29bがシールド20に装着されている。翼29a,29bの材料としては、特に制限はないが、軟質材料が好ましく、例えば、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエチレン、オレフィン系又はポリスチレン系の熱可塑性エラストマー等を用いることができる。なお、翼29a,29bは、シールド20に一体に成形されていてもよい。
【0031】
図2に示されているように、シールド20の内腔29内にはハブ(内ハブ)40が、シールド20の長手方向(即ち、前後(Z軸)方向)に移動可能に挿入されている。ハブ40の前端には金属製の硬質の内針50が固定されている。内針50は略円筒形状を有し、その先端は鋭利に加工されている。ハブ40の後端には樹脂製の柔軟なチューブ60の一端が接続されている。チューブ60の他端は、例えば血液透析を行うための血液回路に接続されている。ハブ40の外周面にOリング49が装着されている。Oリング49はシールド筒21の円筒面部23(図3B参照)に密着し、シールド20の内腔29において、Oリング49よりも外針51側の血液がOリング49よりもチューブ60側に漏洩するのを防ぐ。ハブ40の材料としては、特に制限はないが、硬質材料が好ましく、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等を用いることができる。チューブ60の材料としては、特に制限はないが、軟質材料が好ましく、例えば、塩化ビニル等を用いることができる。
【0032】
図7Aはハブ40の前側から見た斜視図、図7Bは図7Aの7B−7B線を含む面に沿ったハブの矢視断面図、図7Cは図7Aの7C−7C線を含む面に沿ったハブ40の矢視断面図である。図7Bの断面と図7Cの断面とはハブ40の中心軸40aにおいて直交する。ハブ40は、一端(前端)に、円錐面状の外面を有する前部41を有し、他端に円筒面状の外面を有する後部42を有する。縦貫路43が、ハブ40の中心軸40aに沿って前部41から後部42までハブ140を縦貫している。図2に示されているように、内針50は、前部41側から縦貫路43内に挿入されて、ハブ40に保持される。後部42がチューブ60内に挿入されて、ハブ40とチューブ60とが接続される。かくして、内針50とチューブ60とは、ハブ40の縦貫路43を通じて連通される。
【0033】
前部41と後部42との間の、ハブ40の外周面に、周方向に連続する環状溝44が形成されている。図2に示されているように、環状溝44にOリング49が装着される。
【0034】
ハブ40の外周面に、環状溝44と前部41との間に、環状溝44側から径大部45及び径小部46がこの順に互いに隣接して形成されている。径大部45及び径小部46の外周面はいずれも円筒面である。径小部46の外径は、前部41の最大径とほぼ同じであり、且つ、径大部45の外径よりも小さい。前部41、径小部46、及び径大部45には、これらを直径方向(中心軸40aに直交する方向)に横貫する横貫路47が形成されている。横貫路47は、縦貫路43と交差し且つ連通している。横貫路47が径大部45に形
成する開口端縁47aの横貫路47の貫通方向に沿って見た形状は、円弧である。
【0035】
後部42の周囲に、片持ち支持された4つの弾性片48が、ハブ40の中心軸40aに対して等角度間隔で配置されている。弾性片48は、ハブ40の中心軸40aに対して略平行に延びている。弾性片48の後部42とは反対側の面には、嵌合溝48aとテーパ面48bとが形成されている。嵌合溝48aは、ハブ40の周方向に沿った凹部(溝)である。テーパ面48bは、嵌合溝48aに対して弾性片48の自由端側に隣接し、嵌合溝48a側で外径が大きな円錐面の一部をなす。
【0036】
図1、図2では、ハブ40はシールド20の内腔29の前端側に位置している。シールド20に対するハブ40のこの位置を本発明では「初期位置」と呼ぶ。初期位置では、ハブ40に保持された内針50は外針51を貫通し、その先端は外針51の先端から外部に突出している。
【0037】
ハブ40を初期位置を維持するために、ストッパー70が用いられる。図8Aはストッパー70の上方から見た斜視図、図8Bはその下方から見た斜視図である。ストッパー70は、挿入部72と、一対の固定部73と、基部71とを備える。挿入部72は一対の固定部73の間に配置され、挿入部72及び一対の固定部73は基部71の前端から前側に向かってZ軸と平行に延びている。挿入部72の、その長手方向に垂直な面(即ち、XY面に平行な面)に沿った断面は、下側が開放した略U字形状を有する。挿入部72及び基部71の下面には、Z軸方向と平行な溝74が形成されている。この溝74内にチューブ60が嵌入される(図2参照)。固定部73は、YZ面と平行な主面を有する板状体である。
【0038】
図1、図2に示されているように、シールド筒21の後端から、ストッパー70の挿入部72をシールド筒21の内腔29内に挿入する。ストッパー70をシールド20内に可能なかぎり深く挿入すると、挿入部72の先端がハブ40の弾性片48の後端に衝突し、ハブ40の径大部45が外ハブ130の後端に衝突して(後述する図11A、図11B参照)、ハブ40はシールド20の内腔29内の初期位置に配置される。ハブ40に接続されたチューブ60は、挿入部72及び基部71の下面に一直線状に形成された溝74に嵌入する。ストッパー70の一対の固定部73は、シールド20のシールド筒21の両側に位置している。ストッパー70の基部71は、シールド20外に位置している。
【0039】
以上のように構成された本実施形態1の留置針装置100の使用方法及び作用を説明する。
【0040】
図1、図2に示すように内針50が外針51の先端から突出した状態で、内針50及び外針51を患者の血管に穿刺する。穿刺する際に内針50は反力を受ける。この反力によって内針50及びこれを保持するハブ40が外針51及びシールド20に対して後方に向かって移動するのを防止する必要がある。このため、作業者は、ストッパー70がシールド20に対して移動することがないように留置針装置100を把持しながら穿刺する。
【0041】
内針50及び外針51を患者の血管内に穿刺した後、ストッパー70をシールド20から抜き去り、続いて、シールド20からチューブ60を引き出す。チューブ60の前端にはハブ40が接続されているので、チューブ60が引かれることによって、ハブ40及びこれに保持された内針50がシールド20に対して後方に移動する。
【0042】
シールド筒21の後端近傍の内周面には係止突起22(図2、図3B参照)が形成されている。ハブ40が係止突起22まで移動すると、ハブ40の弾性片48は後部42側に弾性変形しながら、テーパ面48bが係止突起22上を摺動する。次いで、テーパ面48bが係止突起22を乗り越えると、弾性片48が弾性回復し、嵌合溝48aに係止突起22が嵌入する。嵌合溝48aと係止突起22とが嵌合したときの、シールド20に対するハブ40の位置を本発明では「後退位置」と呼ぶ。
【0043】
図9は、ハブ40が後退位置にある留置針装置100の上方から見た斜視図である。図10は、図9の10−10線を含む垂直面(YZ面)に沿った留置針装置100の矢視断面図である。図10に示されているように、ハブ40の嵌合溝48aとシールド筒21の係止突起22とが嵌合している。また、ハブ40に保持された内針50は外針51から抜き去られ、シールド20の内腔29内に収納されている。この状態で翼29a,29bの上から粘着テープを患者の皮膚に貼り付け、留置針装置100を患者に固定する。外針51のみが患者に穿刺された状態で留置される。後退位置では、柔軟な外針51内に硬質の内針50が存在しないので、患者が動くなどにより、患者に対する留置針装置100の姿勢が仮に変化しても、外針51が患者の血管等を傷付けることはない。
【0044】
図11Aは、本発明の実施形態1にかかる留置針装置100の外ハブ130及びその近傍の構成を示した切り欠き側面図、図11Bは、その切り欠き平面図である。図11A、図11Bでは、シールド筒21内の構造を理解できるように、シールド筒21のみを切り欠いている。また、初期位置に配置されたハブ40を併せて図示しているが、ハブ40に装着されたOリング49、ハブ40に接続されたチューブ60、及びストッパー70の図示を省略している。また、外針51の図示も省略している。
【0045】
図11A、図11Bを用いて、本実施形態1の外ハブ130の作用を説明する。
【0046】
本実施形態1において、シールド筒21と外ハブ130との組み立ては、以下のように行われる。
【0047】
最初に、外ハブ130の固定部33(図5、図6A、図6B参照)をシールド筒21の径大部24(図3B、図4参照)内に挿入する。外ハブ130の位置決め部36a,36bの後端をシールド筒21の当接面25に当接させることにより、外ハブ130をシールド筒21に対してシールド筒21の長手方向(Z軸方向)において位置決めする。同時に、外ハブ130の位置決め部36aの後端を突出させた凸部37を、シールド筒21の当接面25に形成された凹部27に嵌入させることにより、外ハブ130をシールド筒21に対して回転方向(外ハブ130の中心軸30a回り方向)において位置決めする。
【0048】
次いで、外ハブ130の接合部34とシールド筒21の径大部24とを接合する。接合方法としては、接着剤による方法(接着法)、高周波溶着やレーザ溶着等の溶着による方法(溶着法)などがある。接着法では、外部から接合部34と径大部24との間に接着剤を付与する。接着剤は、毛細管現象により接合部34と径大部24との間のわずかな隙間に浸入し広がって、接合部34と径大部24との間に接合層80を形成する。溶着法では、高周波やレーザ等によって溶融した溶着材料が毛細管現象により接合部34と径大部24との間のわずかな隙間に広がって、接合部34と径大部24との間に溶着材料からなる接合層80を形成する。かくして、接合層80を介して外ハブ130がシールド筒21に固定される。
【0049】
従来の留置針装置(図18)と同様に、接合部34に隣接して溝35が形成されている。溝35と径大部24との間に形成された相対的に大きな空間(隙間)39は、接着剤や溶着材料が毛細管現象でこれに浸入するには大きすぎる。従って、接着剤や溶着材料は空間39内に浸入することはない。
【0050】
以上のように、本実施形態1では、従来の留置針装置(図18)と同様に、シールド20の組み立て時に、位置決め部36a,36bの後端をシールド筒21の当接面25に当接させることにより、外ハブ130をシールド筒21に対してシールド筒21の長手方向において位置決めすることができる。また、接合部34に隣接する、相対的に小径の溝35が径大部24との間に空間39を形成するので、接着剤や溶着材料等の接合材料が空間39内に浸入するのを規制することができる。
【0051】
更に、本実施形態1の外ハブ130では、その後端に形成された位置決め部が、溝35に達する深さ(中心軸30a方向の寸法)を有する2つの切り欠き38aによって周方向に分断されている(図5、図6A、図6B参照)。これにより、図11A、図11Bから容易に理解できるように、溝35と径大部24との間の空間39は、切り欠き38a(即ち、一対の位置決め部36a,36bが形成されていない部分)を介して、シールド20の内腔29と連通する。従って、留置針装置100の使用時には内腔29内の血液や薬液は、空間39内をも充満するが、血液や薬液は切り欠き38aによって形成された流路を通じて空間39と内腔29との間を自由に行き来することができる。従って、溝と径大部との間の空間に血液や薬液が滞留することによって発生した血栓や細菌が患者の体内に浸入するという従来の留置針装置の問題の発生を低減することができる。
【0052】
図11Aに示されているように、位置決め部36a,36bの厚さ(図11Aにおいて上下方向寸法)は、当接面25の半径方向寸法より大きい。従って、位置決め部36a,36bが当接面25に当接したとき、位置決め部36a,36bの内側の一部が円筒面部23よりも内腔29内に突出する。この突出した位置決め部36a,36bのbの部分にハブ40の径大部45を当接させることにより、ハブ40をシールド20に対してその長手方向において正確に位置決めすることができる。また、図11Bに示されているように、位置決め部36aの後端に突出した凸部37をハブ40の横貫路47の開口端縁47a
(図7A参照)に嵌合させることにより、ハブ40をシールド20に対してその回転方向(ハブ40の中心軸40a回り方向)において正確に位置決めすることができる。このように、本実施形態1では、外ハブ130の位置決め部36a,36b及び凸部37を用いて、初期位置にあるハブ40を、シールド20の長手方向及び回転方向において正確に位置決めすることができる。これにより、図1に示すハブ40の初期位置において、内針50の外針51からの突出長さ及び内針50の回転方向の向きを正確に規制することができる。
【0053】
上記の例では、外ハブ130の後側に2つの切り欠き38aを形成することによって2つの位置決め部36a,36bを形成したが、切り欠き及び位置決め部の数は本例のような各2つに限定されず、1つ又は3つ以上であってもよい。但し、シールド20の組み立て易さや位置決め部による位置決め精度の観点からは、位置決め部の数は複数であることが好ましい。また、切り欠き38a及び位置決め部36a,36bの寸法も特に制限はない。切り欠きが溝35の底面にまで達していていてもよい。切り欠き及び位置決め部の数や寸法は、溝35と径大部24との間の空間39をシールド20の内腔29と連通させることができる範囲で任意に設定することができる。更には、空間39内での血液や薬液の滞留が低減するように設定することが好ましい。切り欠き及び位置決め部をそれぞれ複数個設ける場合には、切り欠き及び位置決め部は中心軸30aに対してそれぞれ等角度間隔で配置されることが好ましい。
【0054】
上記の例では、位置決め部36aの後端に、ハブ40を回転方向に位置決めするための凸部37を形成したが、凸部37を省略することができる。
【0055】
(実施形態2)
本実施形態2の留置針装置は、外ハブの固定部33の構成に関して実施形態1の留置針装置100と異なる。以下の説明で参照する図面において、実施形態1の留置針装置100と同じ部材については同一の符号を付して、それらの説明を省略する。以下、実施形態1と異なる点を中心に本実施形態2の留置針装置を説明する。
【0056】
図12は、本発明の実施形態2にかかる留置針装置を構成する外ハブ230の後端側から見た斜視図、図13Aは外ハブ230の側面図、図13Bは外ハブ230の平面図である。実施形態1の外ハブ130と同様に、本実施形態2の外ハブ230も、軟質の外針51を保持する円筒形状の外針保持部31、略漏斗形状を有する中間部32、シールド筒21の径大部24内に挿入されてシールド筒21に固定される固定部33を、この順に備えている。固定部33は、接合部34、溝35、位置決め部36を、外針保持部31側からこの順に備える。接合部34、溝35、位置決め部36の外周面はいずれも円筒面である。接合部34の外寸法及び位置決め部36の外寸法はほぼ同じであり、溝35の外寸法はこれらの外寸法より小さい。本実施形態2では、位置決め部36に実施形態1で形成した切り欠き38aは形成されていない。この代わりに、本実施形態2では、溝35の底面に、互いに対向する位置に一対の開口(貫通孔)38bが形成されている。位置決め部36の後端には、後ろ側(外針保持部31とは反対側)に突出した凸部37が形成されている。図13Bに示されているように、凸部37の平面視形状は円弧である。
【0057】
本実施形態2の留置針装置は、外ハブ230の構成を除いて実施形態1の留置針装置100と同じである。
【0058】
図14Aは、本発明の実施形態2にかかる留置針装置の外ハブ230及びその近傍の構成を示した切り欠き側面図、図14Bは、その切り欠き平面図である。図14A、図14Bでは、シールド筒21内の構造を理解できるように、シールド筒21のみを切り欠いている。また、初期位置に配置されたハブ40を併せて図示しているが、ハブ40に装着されたOリング49、ハブ40に接続されたチューブ60、及びストッパー70の図示を省略している。また、外針51の図示も省略している。
【0059】
図14A、図14Bを用いて、本実施形態2の外ハブ230の作用を説明する。
【0060】
本実施形態2において、シールド筒21と外ハブ230との組み立ては、実施形態1と概略同じであり、以下のように行われる。
【0061】
最初に、外ハブ230の固定部33(図12、図13A、図13B参照)をシールド筒21の径大部24(図3B、図4参照)内に挿入する。外ハブ230の位置決め部36の後端をシールド筒21の当接面25に当接させることにより、外ハブ230をシールド筒21に対してシールド筒21の長手方向(Z軸方向)において位置決めする。同時に、外ハブ230の位置決め部36の後端から突出した凸部37を、シールド筒21の当接面25に形成された凹部27に嵌入させることにより、外ハブ230をシールド筒21に対して回転方向(外ハブ230の中心軸30a回り方向)において位置決めする。
【0062】
次いで、外ハブ230の接合部34とシールド筒21の径大部24とを接合する。接合方法としては、接着剤による方法(接着法)、高周波溶着やレーザ溶着等の溶着による方法(溶着法)などがある。接着法では、外部から接合部34と径大部24との間に接着剤を付与する。接着剤は、毛細管現象により接合部34と径大部24との間のわずかな隙間に浸入し広がって、接合部34と径大部24との間に接合層80を形成する。溶着法では、高周波やレーザ等によって溶融した溶着材料が毛細管現象により接合部34と径大部24との間のわずかな隙間に広がって、接合部34と径大部24との間に溶着材料からなる接合層80を形成する。かくして、接合層80を介して外ハブ230がシールド筒21に固定される。
【0063】
従来の留置針装置(図18)と同様に、接合部34に隣接して溝35が形成されている。溝35と径大部24との間に形成された相対的に大きな空間(隙間)39は、接着剤や溶着材料が毛細管現象でこれに浸入するには大きすぎる。従って、接着剤や溶着材料は空間39内に浸入することはない。
【0064】
以上のように、本実施形態2では、従来の留置針装置(図18)と同様に、シールド20の組み立て時に、位置決め部36の後端をシールド筒21の当接面25に当接させることにより、外ハブ230をシールド筒21に対してシールド筒21の長手方向において位置決めすることができる。また、接合部34に隣接する、相対的に小径の溝35が径大部24との間に空間39を形成するので、接着剤や溶着材料等の接合材料が空間39内に浸入するのを規制することができる。
【0065】
更に、本実施形態2の外ハブ230では、溝35の底面に2つの開口(貫通孔)38bを形成してしている(図12、図13A、図13B参照)。これにより、図14A、図14Bから容易に理解できるように、溝35と径大部24との間の空間39は、開口38bを介して、シールド20の内腔29と連通する。従って、留置針装置100の使用時には内腔29内の血液や薬液は、空間39内をも充満するが、血液や薬液は開口38bによって形成された流路を通じて空間39と内腔29との間を自由に行き来することができる。従って、溝と径大部との間の空間に血液や薬液が滞留することによって発生した血栓や細菌が患者の体内に浸入するという従来の留置針装置の問題の発生を低減することができる。
【0066】
図14Aに示されているように、位置決め部36の厚さ(図14Aにおいて上下方向寸法)は、当接面25の半径方向寸法より大きい。従って、位置決め部36が当接面25に当接したとき、位置決め部36の内側の一部が円筒面部23よりも内腔29内に突出する。この突出した位置決め部36の部分にハブ40の径大部45を当接させることにより、ハブ40をシールド20に対してその長手方向において正確に位置決めすることができる。また、図14Bに示されているように、位置決め部36の後端に突出した凸部37をハブ40の横貫路47の開口端縁47a(図7A参照)に嵌合させることにより、ハブ40
をシールド20に対してその回転方向(ハブ40の中心軸40a回り方向)において正確に位置決めすることができる。このように、本実施形態2では、実施形態1と同様に、外ハブ230の位置決め部36及び凸部37を用いて、初期位置にあるハブ40を、シールド20の長手方向及び回転方向において正確に位置決めすることができる。これにより、図1に示すハブ40の初期位置において、内針50の外針51からの突出長さ及び内針50の回転方向の向きを正確に規制することができる。
【0067】
本実施形態2の外ハブ230は、その後端に円環状の位置決め部36を有しているので、その後端に周方向に分離した位置決め部36a,36bを有する実施形態1の外ハブ130に比べて、機械的強度が向上する。
【0068】
上記の例では、外ハブ230の溝35の底面に2つの開口38bを形成したが、開口38bの数は本例のような2つに限定されず、1つ又は3つ以上であってもよい。また、開口38bの寸法も特に制限はない。上記の例では、開口38bのZ軸方向寸法は、溝35の幅(Z軸方向新法)と略同一であったが、両寸法が同一である必要はない。開口38bの数や寸法は、溝35と径大部24との間の空間39をシールド20の内腔29と連通させることができる範囲で任意に設定することができる。更には、空間39内での血液や薬液の滞留が低減するように設定することが好ましい。開口38aを複数個設ける場合には、開口38aは中心軸30aに対して等角度間隔で配置されることが好ましい。
【0069】
上記の例では、位置決め部36の後端に、ハブ40を回転方向に位置決めするための凸部37を形成したが、凸部37を省略することができる。
【0070】
上記の実施形態1,2は例示に過ぎない。本発明はこれらの実施形態1,2に限定されず、適宜変更することができる。
【0071】
例えば、本発明の留置針装置の外ハブには、実施形態1で説明した切り欠き38aと実施形態2で説明した開口38bの両方が形成されていてもよい。これにより、空間39と内腔29とを連通させる流路の数及び断面積が増えるので、空間39内での血液や薬液の滞留を更に低減することができる。
【0072】
外ハブ130,230及びハブ40を回転方向に位置決めするための回転方向規制部の構成は、上記の実施形態1,2で示した円弧形状を有する凸部37に限定されない。例えば円弧形状以外の凸形状であってもよいし、凹形状や凹凸形状など凸形状以外の形状であってもよい。外ハブに設けられる回転方向規制部の形状に嵌合する形状が、シールド筒21の内周面及びハブ40に設けられる。なお、外ハブが回転方向規制部を有していなくてもよい。
【0073】
外ハブの固定部33を除く留置針装置の構成は、自由に変更することができる。例えば、ストッパー70は、上記の実施形態で示した構成以外の構成を有していてもよい。あるいは、ストッパー70を省略してもよい。後退位置にあるハブ40とシールド20との嵌合構造は、上記以外の構成を有していてもよい。あるいは、当該嵌合構造を省略してもよい。
【0074】
外ハブの接合部34とシールド筒21の径大部24とを接合する方法は、上記に限定されない。例えば、高周波溶着及びレーザ溶着以外の任意の溶着法を用いることができる。溶着法において、接合層80を形成するために接合部34と径大部24との間にこれらとは異なる材料を挿入して溶着してもよい。接着法及び溶着法以外の任意の接合方法を用いることもできる。
【実施例】
【0075】
留置針装置内の液体の滞留試験を行った。
【0076】
[コンゴーレッド水溶液の調整と検量線の作成]
メスシリンダーにコンゴーレッド2.5gと蒸留水とを加えて全量を0.1Lにした(溶液1)。溶液1を混和し、25g/Lのコンゴーレッド水溶液とした。25g/Lのコンゴーレッド水溶液を0.1mL取り、蒸留水0.9mLに希釈した(溶液2)。さらに溶液2を0.1mL取り、蒸留水9.9mLに希釈し、最終的に25mg/Lの溶液に調整した(溶液3)。溶液3を1mL取り、蒸留水1mLに希釈(1/2希釈)して12.5mg/Lの溶液を得た。以降、同様に1/2希釈を繰り返し、25mg/Lから0.0008mg/Lまで濃度が異なる合計16種類のコンゴーレッド水溶液を得た。
【0077】
分光光度計を用いて、16種類のコンゴーレッド水溶液及び蒸留水の、500nmの吸光度を測定し、検量線を作成した。結果を図15に示す。濃度と吸光度との関係を示す検量線(回帰直線)の決定係数R2はほぼ1であり、濃度と吸光度との間に極めて高い直線性が認められた。これより、コンゴーレッド水溶液の濃度が0.0244〜25mg/L、500nmの吸光度(ABS 500)が0.0244〜1.564の範囲で測定・比較が可能であることを確認した。
【0078】
[留置針装置の作成]
外ハブのみが異なる3種類の留置針装置を作成した。図16A、図16B、図16Cは、順に比較例、実施例1、実施例2の留置針装置に用いた外ハブの平面図である。これらの図において、実施形態1,2で説明した図面に示した要素と同じ要素には同一の符号を付している。
【0079】
図16Aに示した比較例の外ハブ530は、図19に示した従来の外ハブ930の位置決め部936の後端に凸部37を形成したものと実質的に同じである。図16Aに、接合部34、溝35、位置決め部36のそれぞれの外径D34,D35,36及び長さL34,L35,L36の各寸法を併せて示す。
【0080】
図16Bに示した実施例1の外ハブ130は、実施形態1で説明した外ハブに対応し、比較例の外ハブ530の位置決め部36に一対の切り欠き38aを形成して幅W36を有する位置決め部36a,36b(位置決め部36bは位置決め部36aの背後にあるため見えない)を形成したものである。図16Bに、位置決め部36a,36bの幅W36を併せて示す。実施例1の外ハブ130の各部の寸法は、切り欠き38aが形成されている点を除いて比較例の外ハブ530と同じである。
【0081】
図16Cに示した実施例2の外ハブ230は、実施形態2で説明した外ハブに対応し、比較例の外ハブ530の溝35の底面に一対の開口(貫通孔)38bを形成したものである。図16Bに、開口38bの幅W38及び長さL38を併せて示す。実施例2の外ハブ230の各部の寸法は、開口38bが形成されている点を除いて比較例の外ハブ530と同じである。
【0082】
上記の外ハブ530,130,230をそれぞれ備え、実施形態1で説明したのと同じ構成の3種類の留置針装置を作成した。外ハブの接合部34とシールド筒の径大部とは接着剤を用いて接合した。
【0083】
[留置針装置内のコンゴーレッドの滞留試験]
比較例、実施例1、実施例2の3種類の留置針装置について、以下の方法でコンゴーレッドの滞留試験を行った。
【0084】
内ハブ40を後退位置(図9、図10参照)に移動させ、内ハブ40の嵌合溝48aとシールド筒21の係止突起22とを嵌合させた。内ハブ40が後退位置にあるときの留置針装置の内容量は約0.95mLであった。
【0085】
25g/Lのコンゴーレッド水溶液を充填したシリンジを、留置針装置のチューブ60の後端に接続した。当該シリンジを用いて留置針装置の内腔29内に25g/Lのコンゴーレッド水溶液を注入した。
【0086】
蒸留水を充填した、上記シリンジとは別の容量100mLのシリンジを用意した。コンゴーレッド水溶液を充填した上記のシリンジに代えて、この蒸留水充填シリンジをチューブ60の後端に接続した。
【0087】
蒸留水充填シリンジをシリンジポンプにセットし、80mL/hの流速で蒸留水を留置針装置に流入させた。流入開始から1時間後にシリンジポンプを停止し、留置針装置の内腔29内に存在する溶液を回収した。分光光度計を用いて回収した溶液の500nmの吸光度を測定した。測定は、比較例については4回、実施例1,2についてはそれぞれ3回行った。測定して得た吸光度はいずれも図15に示した検量線の検出(比較可能)領域内にあった。
【0088】
吸光度の測定結果を図17に示す。図17において、棒グラフの高さは吸光度の平均値を、「ひげ」は±σ(σ:標準偏差)の範囲を表す。図17より、比較例に比べて、実施例1,2では、留置針装置内の溶液の滞留が低減されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の利用分野は特に制限はなく、輸液、輸血、体外血液循環などの処置を行う際の留置針装置として広範囲に利用することができる。中でも、血液透析用の留置針装置として好ましく利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
20 シールド
21 シールド筒
25 当接面
27 凹部
29 シールドの内腔
31 外針保持部
33 固定部
34 接合部
35 溝
36,36a,36b 位置決め部
37 凸部(回転方向規制部)
38a 切り欠き(流路)
38b 開口(流路)
39 空間
40 ハブ
50 内針
51 外針
60 チューブ
70 ストッパー
80 接合層
100 留置針装置
130,230 外ハブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔を有するシールドと、
前記シールドの前端に固定された軟質の外針と、
前記シールドの前記内腔内に配置され、前記シールドの長手方向に移動可能なハブと、
前記ハブの前端に固定された硬質の内針と、
前記ハブの後端に接続されたチューブとを備え、
前記ハブが前記シールドの前記内腔の前端側に位置し且つ前記内針が前記外針を貫通して前記外針の先端から突出する初期位置と、前記ハブが前記シールドの前記内腔の後端側に位置し且つ前記内針が前記シールドの前記内腔内に収納される後退位置とに前記ハブが変位する留置針装置であって、
前記シールドは、略円筒形状を有するシールド筒と、外ハブとを備え、
前記外ハブは、その前端に前記外針を保持する外針保持部を備え、その後端に前記シールド筒内に嵌入される固定部を備え、
前記固定部は、前記シールド筒の内周面に接合される接合部と、前記接合部より小さな外寸法を有する溝と、前記シールド筒の内周面に形成された当接面に当接することにより前記外ハブを前記シールド筒に対して前記シールド筒の長手方向において位置決めするための位置決め部とを、前記外針保持部側からこの順に有し、
前記溝と前記シールド筒の内周面との間の空間を前記内腔に連通させる流路が前記固定部に形成されていることを特徴とする留置針装置。
【請求項2】
前記位置決め部に切り欠きを形成することにより前記流路が形成されている請求項1に記載の留置針装置。
【請求項3】
前記溝の底面に開口を形成することにより前記流路が形成されている請求項1に記載の留置針装置。
【請求項4】
前記位置決め部が、前記外ハブを前記シールド筒に対して回転方向に位置決めするための回転方向規制部を備える請求項1〜3のいずれかに記載の留置針装置。
【請求項5】
前記回転方向規制部が、初期位置にある前記ハブと嵌合して前記ハブを回転方向に位置決めする請求項4に記載の留置針装置。
【請求項6】
初期位置にある前記ハブが前記位置決め部に当接することにより、前記ハブは前記シールドに対して前記シールドの長手方向に位置決めされる請求項1〜5のいずれかに記載の留置針装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−106885(P2013−106885A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256047(P2011−256047)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】