説明

異常時モータ減速停止制御手段を有する数値制御装置

【課題】数値制御部の異常時にモータを短時間で停止させる。また、モータにブレーキをかけるタイミングも制御可能とする。
【解決手段】数値制御装置10が稼働中、数値制御部11の異常を異常検出回路14で検出する。異常検出回路14の異常検出信号で、サーボ部12のモータ減速停止制御回路12aが作動し、速度指令「0」で速度制御を行いモータ22を停止させる。また、モータ22の実速度が設定速度以下になると、DO信号をオフにさせるオフ指令信号をPMC部13に出力する。PMC部13は、このオフ指令信号により、ブレーキ制御用DOのオフまたは全てのDO信号をオフとする。これにより、モータ22に設けられたブレーキ装置のブレーキがかかり、モータ22を停止させる。モータ22は減速停止制御されるから、最短時間で停止できる。また、ブレーキをかけるタイミングも設定制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置に関し、特に数値制御装置の数値制御部での異常発生時に該数値制御装置で制御される機械のモータを非常停止させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
数値制御装置は、該数値制御装置で制御される機械に設けられたモータを制御するサーボ部と、機械へのDI/DO信号(入出力信号)を制御するプログラマブル・マシン・コントローラ部(以下PMC(Programmable Machine Control)部と記載する)と、サーボ部やPMC部に指令を出したり、データのやりとりを行う数値制御部とで構成されている。
図2は、従来の数値制御装置10’と該数値制御装置10’で制御される機械24を含めたシステムの概要図である。サーボ部15は数値制御部11からの移動指令に従い、機械のモータ22の位置、速度、電流の制御を行う。また、PMC部16は機械24に対するDI/DO信号を、I/O制御部(以下I/Oユニットと記載する)23を介して制御する。特に、機械の可動軸が重力等の外力の影響を受けて移動するような場合、該可動軸を駆動するモータにブレーキ装置が設けられているが、このブレーキ装置のオン/オフもこのPMC部16からのDO信号によってI/Oユニット23を介して制御されるようになっている。又、数値制御部11の異常を検出する異常検出回路14が設けられている。
【0003】
数値制御部11は、制御プログラムを実行し、機械の各軸を駆動制御するサーボ部15に移動指令を分配し、各サーボ部15では、この移動指令と図示していない位置、速度検出器からフィードバックされる位置、速度のフィードバック信号に基づいて、位置、速度のフィードバック制御を行い、さらには、電流のフィードバック制御を行って駆動指令をアンプ21に出力する。アンプ21はPWM制御等を行いモータ22を駆動制御する。
一方、PMC部16は、I/Oユニット23を介してDI/DO信号を送受信し、機械24に設けられたセンサやアクチュエータ、周辺機器等を、I/Oユニット23を介してオン/オフ制御している。上述したようにモータ22に設けられたブレーキ装置もこのDO信号(出力信号)によってオン/オフも制御している。
以上のように数値制御装置10’は、サーボ部15で機械の可動軸を駆動するモータを駆動制御し、PMC部16で、各種センサからの信号を受信し、各種アクチュエータ、周辺機器をオン/オフ制御し、機械24を駆動制御する。
【0004】
数値制御装置10’の稼働中、異常検出回路14は数値制御部11の異常を検出すると、サーボ部15に異常検出信号を出力する。サーボ部15では、この異常検出信号を受信すると、アンプ21への駆動指令信号を停止する。アンプ21は、駆動指令信号が停止すると、モータ22への動力を切断する。モータ22への動力が切断されることにより、モータ22によりダイナミックブレーキがかかり、可動部の移動は停止する。
【0005】
一方、PMC部16は、数値制御部11と定期的にデータのやりとりを行っており、数値制御部11とのデータのやりとりが一定時間以上途絶えた場合、異常発生として全てのDO信号(出力信号)をオフとする。このDO信号のオフにより、モータ22に設けられたブレーキ装置のブレーキが作動し、モータ22にブレーキがかかることになる。
従来の数値制御システムでは、数値制御部11に異常が発生したとき、上述したような、非常停止制御が行われている。
【0006】
又、数値制御システムの非常停止を行うものとして、オペレータの安全を確保するために、オペレータが危険な状態になったことを検知するセンサを設け、該センサからの信号で、モータへの動力を遮断して停止させる。この場合、動力の遮断をアラーム検出手段で検知してアラーム出力を出すが、前記センサからの信号に基づいてモータへの動力を遮断した場合には、該センサからの信号によってアラーム検出手段を無効にして、アラームを出力しないようにして、システムの再復帰を容易にした発明が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特許3153593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術においては、非常停止時にモータの動力を遮断することによってモータの回転、及び該モータで駆動される可動部の移動停止を行わせている。そのため、高速移動中に異常が発生し、モータ及び可動部の移動を停止させる場合、モータの動力が遮断されるだけであるから、モータ及び可動部は惰走し、その惰走距離が長くなるという問題がある。
又、可動部が垂直方向に移動するような重力軸等のように、モータ以外の外部からの力が作用し移動するような可動部においては、モータの動力を遮断しても可動部はこの重力等の外部からの力の作用で移動してしまう。このため、このように可動部を駆動するモータにはブレーキ装置が取り付けられており、モータへの動力を遮断したとき、前述したように、ブレーキ装置によりモータにブレーキをかけて、その移動を停止するようにしている。
【0009】
しかし、上述した従来の方法では、モータの停止とブレーキ信号のタイミングが制御されておらず、ブレーキ信号がモータ停止よりも遅れた場合、重力軸等にブレーキがかかるまでの時間に、この重力軸の可動部は落下、移動することになり問題である。
そこで、本発明の目的は、数値制御部に異常が発生したとき、モータ及び可動部を短時間で停止させる数値制御装置を得ること。また、モータにブレーキをかけるタイミングも制御可能とした数値制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、モータを制御するサーボ部と、機械へのDI/DO信号を制御するプログラマブル・マシン・コントローラ部と、サーボ部に指令を出し、プログラマブル・マシン・コントローラ部とはデータのやりとりを行う数値制御部とで構成されている数値制御装置において、数値制御部の異常を検出する異常検出手段と、前記サーボ部に設けられ、前記異常検出手段から数値制御部の異常検出信号を受けてモータを減速停止させるモータ減速停止制御手段とを設け、数値制御部の異常発生時に、モータを減速制御して速やかに停止させるようにする。
また、モータ減速停止制御手段は、フィードバックされてくるモータの実速度が設定速度以下となると、プログラマブル・マシン・コントローラ部にDO信号をオフする信号を送出する手段を備え、プログラマブル・マシン・コントローラ部は、DO信号をオフする信号を受けてDO信号をオフにする手段を備えるものとした。
もしくは、前記プログラマブル・マシン・コントローラ部に、前記異常検出手段から異常検出信号を受信してDO信号をオフする手段を備えるものとした。
さらに、前記モータにブレーキ装置を備え、前記プログラマブル・マシン・コントローラ部によりDO信号がオフにされることにより、前記ブレーキ装置のブレーキが作動するようにした。
【発明の効果】
【0011】
数値制御部の異常が検出されたとき、モータを制御して停止させることにより、短時間でモータ及び該モータで駆動される可動部を停止させることができる。また、モータの減速停止とタイミングを合わせてDO信号をオフにさせることができるので、重力等の外力が作用し移動するような可動部を駆動するモータの場合、該モータの回転停止とタイミングを取って、該モータにブレーキ装置によりブレーキをかけることができる。また、モータに対して減速停止制御を行うと同時にブレーキ装置によるブレーキを同時に動作させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の数値制御装置と該数値制御装置で制御される機械の要部を含む数値制御システムの概要図である。なお、図1において、図2に示した従来例と同じ要素は同一符号を付している。
【0013】
数値制御装置10は、数値制御部11、サーボ部12、PMC部13及び数値制御部11の異常を検出する異常検出回路14で構成されている。そして、本実施形態の数値制御装置10は、図2に示した従来の数値制御装置10’と比較し、サーボ部12にモータ減速停止制御回路12a、ウェイトタイマ12bが設けられていること、および、PMC部13において、サーボ部12から出力されるオフ指令信号に基づいてブレーキ制御用DOのオフまたは全てのDO信号をオフとする点で相違するものであり、他は、従来例と同じである。
数値制御部11は、制御プログラムを実行し、機械の各軸のモータ22を駆動制御するサーボ部12に移動指令を分配し、サーボ部12では、この移動指令とモータ22等に取り付けられた図示していない位置、速度検出器からフィードバックされる位置、速度のフィードバック信号に基づいて、位置、速度のフィードバック制御を行い、さらには、電流のフィードバック制御を行って駆動指令をアンプ21に出力する。アンプ21はPWM制御等を行いモータ22を駆動制御する。
【0014】
一方、PMC部13はI/Oユニット23介して、機械24に設けられたセンサ等からの信号(DI信号)を入力し、アクチュエータ、周辺機器等にDO信号(出力信号)を出力し、アクチュエータ、周辺機器等をオン/オフ制御する。上述したように、モータに設けられたブレーキ装置のブレーキ信号のオン/オフもこのDO信号で制御している。
この通常時の動作は、従来と同一であるが、異常検出回路14が数値制御部11の異常を検出したときの動作が従来と相違するものである。
【0015】
数値制御装置10の稼働中に、異常検出回路14により数値制御部11の異常が検出されると、異常検出回路14は、サーボ部12に異常検出信号を出力する。サーボ部12では、この異常検出信号を受信すると、ウェイトタイマ12bをスタートさせ、モータ減速停止制御回路12aを起動し、数値制御部11からの移動指令に基づいてそれまで実行していた、位置、速度フィードバック制御から、速度指令「0」の速度のフィードバック制御のみのモータ減速停止制御回路12aの動作に切り換える。異常検出信号が検出する前までは位置、速度のフィードバック制御がなされ、モータ22は、指令速度で回転しているが、異常検出信号がサーボ部12に入力されると、速度指令が「0」となり速度のフィードバック制御が実施される。モータ22及び該モータ22で駆動される可動部は速度指令が「0」となっても、直ちに停止することができず、移動する。その結果、速度偏差が増大し、モータ22にはそれまでの移動方向とは逆方向に移動させるトルクがかかり、モータ22及び可動部は急速に減速され停止することになる。このようにモータ22は減速制御されて急速に停止する。又、モータ減速停止制御回路12aにおいては、モータ22に取り付けられている速度検出器からフィードバックされる実速度を監視し、該実速度が設定所定速度以下になると、PMC部13にDO信号をオフにさせるオフ指令信号を出力する。
【0016】
PMC部13は、このオフ指令信号を受信すると、ブレーキ制御用DOのオフまたは全てのDO信号をオフとする手段を設ける。このDO信号のオフにより、I/Oユニット23を介してモータ22に取り付けられているブレーキ装置のブレーキ信号もオフとなり、モータ22にブレーキをかけてモータ22を停止及びロックすることになる。これによって、重力が作用する可動部が非常停止時に落下することを確実に防止できる。又、従来のようにダイナミックブレーキをかけてモータを惰走させて停止させるものではなく、速度制御してモータ22の回転を減速停止させるものであるから、最短距離、最短時間でモータ22及び該モータ22で駆動される可動部を停止させることができる。そして、ウェィトタイマ12bが所定時間を計時してタイムアップすると、サーボ部12はアンプ21への信号の送出を停止し、数値制御部11の異常検出時の非常停止動作は終了する。
【0017】
なお、サーボ部12のモータ減速停止制御回路12aがオフ指令信号を出力するタイミングは、モータ22の実速度が設定所定速度以下になったときであり、この設定所定速度を「0」とすれば、モータ22の実速度が「0」になったときブレーキがかかることになる。又、ウェィトタイマ12bで計時する時間は、モータが最高速度で回転中において異常が検出され、速度「0」の指令で速度フィードバックがなされて停止する時間より少し長い時間に設定されている。
【0018】
このように、モータ22の駆動制御を行うサーボ部12が直接、PMC部13にDO信号オフの指示を行うため、モータ22の停止とブレーキのかかるタイミングがこまやかに制御され、重力が作用する可動部等の落下を防止できる。また、高速移動中においても、異常発生時からのモータ及び可動部が停止するまでの距離を短くできるものである。
【0019】
上述したサーボ部12に設けられるモータ減速停止制御回路12a、ウェイトタイマ12bは、ハードウェアの専用回路で構成してもよいが、通常サーボ部12はプロセッサとメモリ等で構成され、位置、速度のフィードバック制御をソフトウェア処理で実行していることから、このモータ減速停止制御回路12a、ウェイトタイマ12bもソフトウェア処理によって実行させるようにする。すなわち、サーボ部12に異常検出信号が入力されると、サーボ部12のプロセッサは、位置、速度のフィードバック制御に代えて速度指令を「0」とする速度フィードバック制御を実行し、モータ22を駆動するようにする。
【0020】
又、上述した実施形態では、サーボ部12よりPMC部13へDO信号をオフにさせるオフ指令信号を送出するようにしているが、異常検出回路14から出力される異常検出信号をPMC部13にも入力し、この異常検出信号をDO信号をオフにさせるオフ指令信号としてもよい。このオフ指令信号によりPMC部13はブレーキ制御用DOのオフまたは全てのDO信号をオフとする。この場合、モータ22は、サーボ部12によって、速度が「0」になるように速度フィードバック制御がなされ、減速停止制御されると共に、ブレーキ装置によりブレーキがかけられてモータ22の回転が阻止されることになり、モータ22の回転及び該モータ22で駆動される可動部の移動は急速に停止することになる。数値制御部11の異常を検出したとき、できるだけ早くモータ及び可動部の移動を停止させたい場合には、このサーボ部12のモータ減速停止制御回路12aによる減速停止制御とブレーキ装置による制動を同時に作動させて急速に停止させる方法を採用すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態の数値制御装置と該数値制御装置で制御される機械の要部を含む数値制御システムの概要図である。
【図2】数値制御装置と該数値制御装置で制御される機械を含めたシステムの従来例の概要図である。
【符号の説明】
【0022】
10、10’ 数値制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御するサーボ部と、機械へのDI/DO信号を制御するプログラマブル・マシン・コントローラ部と、サーボ部に指令を出し、プログラマブル・マシン・コントローラ部とはデータのやりとりを行う数値制御部とで構成されている数値制御装置において、
数値制御部の異常を検出する異常検出手段と、
前記サーボ部に設けられ、前記異常検出手段から数値制御部の異常検出信号を受けてモータを減速停止させるモータ減速停止制御手段と、
を有することを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
前記モータ減速停止制御手段は、フィードバックされてくるモータの実速度が設定速度以下となると、プログラマブル・マシン・コントローラ部にDO信号をオフする信号を送出する手段を備え、プログラマブル・マシン・コントローラ部は、DO信号をオフする信号を受けてDO信号をオフにする手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記プログラマブル・マシン・コントローラ部は、前記異常検出手段から異常検出信号を受信し、DO信号をオフする手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記モータはブレーキ装置を備え、前記プログラマブル・マシン・コントローラ部によりDO信号がオフにされることにより、前記ブレーキ装置のブレーキが作動するようにした請求項2または請求項3に記載の数値制御装置。

【図1】
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【図2】
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