説明

異常検出装置および方法

【課題】アクチュエータの個体差や、動作条件、周囲温度、経年劣化等による影響を受けることなく、アクチュエータの異常状態の検出精度を確実に向上させることができ、ひいては安全性を高めることができる異常検出装置および方法を提供する。
【解決手段】アクチュエータ6に供給される電流値のうち、定常状態の電流を通常電流成分、過渡状態の電流を異常電流成分と定義し、前記電流値から通常電流成分を減算することにより異常電流成分を算出し、この異常電流成分を監視して、該異常電流成分が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、アクチュエータ6に異常が発生したと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに供給される電流値を監視し、該アクチュエータにおける異常状態を検知するための異常検出装置に関する。ここでアクチュエータ(Actuator)とは、入力された電力を物理運動量に変換するものであり、機械ないし電気回路を構成する機械要素であり、一般には伸縮や屈伸といった単純な運動を行うものが該当する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクチュエータを利用して電動で各種動作を行う装置は無数にあり、その中でも例えば、自動車や列車に搭載される車両用シートにおいては、快適な着座感を得るために、前後方向のスライド位置を調整したり、あるいはシートバックのリクライニング角度を調整する等、シート全体の位置やシートの可動部位を電動によって適宜調整できるものが知られている。
【0003】
このような車両用シートにおいては、電動によって各種調整を行う場合に、その可動領域にある物を挟み込んでしまうことがあり、物の挟み込んだ状態に気付かずに調整を続行すると、物を壊してしまったり、アクチュエータが故障する虞もある。かかる問題に対処すべく、アクチュエータに供給される電流値を監視し、該アクチュエータの異常状態を検知するための異常検出装置が既に提案されている。
【0004】
具体的には例えば、特許文献1には、ヘッドレストを上下自動駆動する自動調整を行う制御手段を備える電動シートにおいて、ヘッドレストの移動に伴って、過負荷検出回路の出力が過負荷を示すものに切り換わったときに、コントローラはヘッドレストの駆動を停止する技術が開示されている(特に段落0065,0082等参照。)。
【0005】
また、特許文献2には、二つのモータの作動情報としての駆動電流を、検出抵抗によってそれぞれ検出すると共に、その駆動対応電圧への駆動電流の変換後に、駆動対応電圧を、所定の基準電圧値との比較のもとで、スイッチング回路でそれぞれ監視し、モータの駆動対応電圧が基準電圧値を超えたとき、その対応するモータの運転を、定電圧運転から定電流運転に切り換える技術が開示されている(特に段落0024〜0027等参照。)。
【0006】
さらに、特許文献3には、複数の負荷への電源分配を制御する電子制御ユニットをシートに搭載し、この電子制御ユニットに、各負荷へ供給される電流値を測定する電流測定手段と、該電流測定手段によって測定された電流値が閾値を超えると異常として検知する異常検知手段とを設け、異常が生じたときには電流の供給を停止する等して回路や負荷を保護できる技術が開示されている(特に段落0009,0010等参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開2000−219067号公報
【特許文献2】特開2005−33933号公報
【特許文献3】特開2007−331716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したような従来の異常検出装置では、何れもアクチュエータの過電流を検出し、挟み込み等の異常を検出するものであるが、アクチュエータの個体差や、同じアクチュエータでも動作条件、周囲温度条件、経年劣化等により、電流値にバラツキが発生する。そのため、従来の固定閾値との比較による電流監視では、異常状態でないのに誤検知してしまうことがあるという問題があった。
【0009】
かかる問題を解決する簡単な対策として、前記固定閾値にマージンをプラスする方法も考えられるが、過電流の比較対象範囲が徒に広がることになる。従って、検出精度が低下するという新たな問題を招いてしまうことが想定される。
このように、従来の固定閾値での電流監視では、確実かつ精度良く異常状態を検出することができないという問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような従来の技術の有する問題点に着目してなされたものであり、アクチュエータの個体差や、動作条件、周囲温度条件、経年劣化等による影響を受けることなく、異常電流成分と固定閾値の比較のもとで、アクチュエータの異常状態の検出精度を確実に向上させることができ、ひいては安全性を高めることができる異常検出装置および方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]アクチュエータ(6)に供給される電流値を監視し、該アクチュエータ(6)における異常状態を検知するための異常検出装置(10)において、
前記アクチュエータ(6)に供給される電流値のうち、定常状態の電流を通常電流成分、過渡状態の電流を異常電流成分と分離して定義し、前記電流値から前記通常電流成分を減算することにより前記異常電流成分を算出する演算手段(12)と、
前記演算手段(12)により算出された前記異常電流成分を監視して、該異常電流成分が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記アクチュエータ(6)に異常が発生したと判定する判定手段(13)と、を有することを特徴とする異常検出装置(10)。
【0012】
[2]前記演算手段(12)は、前記アクチュエータ(6)の動作開始直後の一定期間内においては、該アクチュエータ(6)に供給される電流値の全てを前記通常電流成分と仮定し、前記異常電流成分を算出しない処理を行うことを特徴とする[1]に記載の異常検出装置(10)。
【0013】
[3]前記判定手段(13)により前記アクチュエータ(6)に異常が発生したと判定された場合に、前記アクチュエータ(6)の動作を停止または逆方向に動作させる回避制御手段(16)を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の異常検出装置(10)。
【0014】
[4]前記アクチュエータ(6)に供給される電流値を監視して、該電流値が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記判定手段(13)とは別に前記アクチュエータ(6)に異常が発生したと判定する第1補助判定手段(14)を有することを特徴とする[1],[2]または[3]に記載の異常検出装置(10)。
【0015】
[5]前記アクチュエータ(6)に供給される電流値を監視して、該電流値の一定期間内における変化量が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記判定手段(13)とは別に前記アクチュエータ(6)に異常が発生したと判定する第2補助判定手段(15)を有することを特徴とする[1],[2],[3]または[4]に記載の異常検出装置(10)。
【0016】
[6]前記アクチュエータ(6)は、車両用シート(1)においてその一部を電動により動作させるための駆動源であることを特徴とする[1],[2],[3],[4]または[5]に記載の異常検出装置(10)。
【0017】
[7]アクチュエータ(6)に供給される電流値を監視し、該アクチュエータ(6)における異常状態を検知するための異常検出方法において、
前記アクチュエータ(6)に供給される電流値のうち、定常状態の電流を通常電流成分、過渡状態の電流を異常電流成分と分離して定義し、前記電流値から前記通常電流成分を減算することにより前記異常電流成分を算出し、
前記異常電流成分を監視して、該異常電流成分が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記アクチュエータ(6)に異常が発生したと判定することを特徴とする異常検出方法。
【0018】
次に、前述した解決手段に基づく作用を説明する。
前記[1]に記載の異常検出装置(10)によれば、先ずアクチュエータ(6)に供給される電流値のうち、定常状態の電流を通常電流成分、過渡状態の電流を異常電流成分と分離して定義する。演算手段(12)によって、アクチュエータ(6)に供給される電流値から通常電流成分だけ減算することにより、前記異常電流成分を算出する。アクチュエータ(6)の個体差、動作条件、周囲温度、経年劣化による電流値のバラツキは、通常電流成分に吸収され、異常電流成分には影響を与えない。
【0019】
そして、判定手段(13)により、前記算出された異常電流成分を監視して、該異常電流成分が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記アクチュエータ(6)に異常が発生したと判定する。このように、異常電流成分のみを抽出して監視することで、個体差等による電流値のバラツキの影響を受けることなく、アクチュエータ(6)の異常状態の監視を行うことができる。
【0020】
前記[7]に記載の異常検出方法によっても、前記[1]に記載の異常検出装置(10)と同様の作用効果を得ることができる。なお、本発明に係る異常検出装置(10)ないし方法が監視対象とするアクチュエータ(6)であるが、具体的には例えば、前記[6]に記載したように、車両用シート(1)において、その一部を電動により動作させるための駆動源であれば、本発明を容易に適用することができる。
【0021】
また、前記[2]に記載の異常検出装置(10)によれば、前記演算手段(12)は、アクチュエータ(6)の動作開始直後の一定期間内においては、該アクチュエータ(6)に供給される電流値の全てを通常電流成分と仮定し、異常電流成分を算出しない処理を行う。これにより、アクチュエータ(6)の動作開始直後は突入電流や不安定な電流が発生しやすいが、これらを異常状態と誤って判断することを未然に防止することができる。
【0022】
また、前記[3]に記載の異常検出装置(10)によれば、前記判定手段(13)によりアクチュエータ(6)に異常が発生したと判定された場合に、アクチュエータ(6)の動作を停止または逆方向に動作させる回避制御手段(16)を有する。かかる回避制御手段(16)によって、無駄な電力の供給や各種回路の負担を無くすことができ、あるいは物の挟み込みが発生している場合、かかる挟み込みを迅速に解消して安全性を高めることができる。
【0023】
また、前記[4]に記載の異常検出装置(10)によれば、前記アクチュエータ(6)に供給される電流値を監視して、該電流値が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記判定手段(13)とは別にアクチュエータ(6)に異常が発生したと判定する第1補助判定手段(14)を有する。かかる第1補助判定手段(14)によって、より確実かつ安全に異常状態を検出することができる。
【0024】
さらにまた、前記[5]に記載の異常検出装置(10)によれば、前記アクチュエータ(6)に供給される電流値を監視して、該電流値の一定期間内における変化量が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記判定手段(13)とは別にアクチュエータ(6)に異常が発生したと判定する第2補助判定手段(15)を有する。
【0025】
かかる第2補助判定手段(15)によっても、より確実かつ安全に異常状態を検出することができる。なお、電流値の変化量による判断も、あくまで補助的な役割を果すものであり、誤検出が起きないように固定閾値を高めに設定しておくと良い。前記電流値のみの判断で用いる固定閾値についても同様である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る異常検出装置および方法によれば、アクチュエータの個体差や、同じアクチュエータでも動作条件、周囲温度条件、経年劣化等により、電流値にバラツキが発生した場合でも、固定閾値による電流監視が可能になる。
【0027】
つまり、アクチュエータの個体差や、動作条件、周囲温度条件、経年劣化等による影響を受けることなく、異常電流成分と固定閾値の比較のもとで、アクチュエータの異常状態の検出精度を確実に向上させることができ、ひいては安全性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面に基づき本発明を代表する実施の形態を説明する。
図1は、本実施の形態に係る異常検出装置10を概略的に示すブロック図であり、図2は、同じく異常検出装置10および方法を説明するフローチャートである。図3および図4は、異常検出装置10および方法を適用する車両用シート1の動作を示す側面図である。
【0029】
図3および図4に示すように、本実施の形態における車両用シート1は、例えば列車内に複数並べて方向転換可能に配置される電動レッグレスト付きの腰掛けである。車両用シート1は、座部2の後端に背凭れ3を起倒可能に組み合わせて成り、座部2の前端には、レッグレスト4が電動可能に設けられている。また、座部2の両側には、一対の肘掛け5,5が固定されている。
【0030】
レッグレスト4は、座部2の底面側に配設されたアクチュエータ6によって、座部2の前端より下方へ向かって斜め後側に垂下する収納状態(図3参照。)と、座部2の前端より前方へ向かって斜め下側に傾斜して延びる展開状態(図4参照。)とに移動可能に設けられている。車両用シート1の主な動作は、背凭れ3のリクライニングの他、レッグレスト4の収納ないし展開、および挟み込み等の異常状態の検知による停止ないし逆動作のみである。
【0031】
アクチュエータ6は、レッグレスト4を前述したように動作させるための駆動源であり、具体的には例えば電動シリンダー等から成る。なお、アクチュエータ6には、図示省略したが駆動用電力を供給するための給電線が接続されている。また、レッグレスト4を格納位置ないし使用位置に移動させるための操作スイッチ7が、例えば一方の肘掛け5の上部前方に配設されている。
【0032】
アクチュエータ6は、図1に示す制御手段8によって制御される。制御手段8は、操作スイッチ7等からの信号を受けてアクチュエータ6を駆動し、レッグレスト4の動作を制御するものである。かかる制御手段8は、具体的には例えば、各種制御の中枢的機能を果たすCPU(中央処理装置)と、CPUの実行するプログラムや各種の固定的データを記憶するROMと、プログラムを実行する上で一時的に必要になるデータを記憶するためのRAM等を主要部とする回路により構成されている。
【0033】
本発明の根幹を成す異常検出装置10は、前記制御手段8と同一または別の制御手段から構成されており、その機能として、図1に示すように、電流取得手段11と、演算手段12と、判定手段13と、第1補助判定手段14と、第2補助判定手段15と、回避制御手段16とを有している。これらの機能は、何れもCPUによって実現されるものである。
【0034】
異常検出装置10は、前記制御手段8を介してアクチュエータ6に電流を供給する電源回路20を備えており、該電源回路20の途中に電流取得手段11は設けられている。電流取得手段11は、アクチュエータ6に供給される電流値を、例えばA/D変換器により取り込むものである。
【0035】
演算手段12は、アクチュエータ6に供給される電流値のうち、定常状態の電流を通常電流成分、過渡状態の電流を異常電流成分と分離して定義し、前記電流値から通常電流成分を減算することにより異常電流成分を算出するものである。なお、異常電流成分の算出方法の詳細については後述する。
【0036】
判定手段13は、前記演算手段12により算出された異常電流成分を監視して、該異常電流成分が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、アクチュエータ6に異常が発生したと判定するものである。
回避制御手段16は、前記判定手段13によりアクチュエータ6に異常が発生したと判定された場合に、アクチュエータ6の動作を停止または逆方向に動作させるものであり、かかる指令を前記制御手段8に出力するように設定されている。
【0037】
第1補助判定手段14は、前記電流取得手段11を介して電流値を監視して、該電流値が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記判定手段13とは別にアクチュエータ6に異常が発生したと判定するものである。
第2補助判定手段15は、前記電流取得手段11を介して電流値を監視して、該電流値の一定期間内における変化量が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記判定手段13や第1補助判定手段14とは別に、アクチュエータ6に異常が発生したと判定するものである。
【0038】
次に、本実施の形態に係る異常検出装置10の作用、すなわち異常検出方法について説明する。
本異常検出方法においては、その基本的な原理として、定常状態の電流を通常電流成分、過渡状態の電流を異常電流成分と定義し、アクチュエータ6を動作させる電流が、通常電流成分と異常電流成分とで構成されると考える。
【0039】
すなわち「電流値=通常電流成分+異常電流成分」と表すことができるため、
「異常電流成分=電流値−通常電流成分」となる。ここで通常電流成分は、定常状態であるため、電流波形の傾きが0の成分から生成することができ、異常電流成分は、電流値から通常電流成分を減算することにより算出することができる。なお、異常電流成分の詳細な算出方法については後述する。
【0040】
車両用シート1におけるレッグレスト4の作動時に、該レッグレスト4に物が当たる等して余分な力が加わると、アクチュエータ6の電流値は上昇し、異常電流成分に変化が生じる。そのため、アクチュエータ6の動作を監視する場合、異常電流成分を監視することにより、アクチュエータ6の動作が正常か異常かの判断が可能になる。
【0041】
また、アクチュエータ6の個体差、動作条件、周囲温度、経年劣化等により電流への影響はあるが、電流のバラツキは通常電流成分に吸収されるため、バラツキは異常電流成分には現れない。すなわち、異常電流成分を監視することにより、アクチュエータ6の個体差、動作条件、周囲温度、経年劣化等の影響を受けず、正確にアクチュエータ6の異常を検知することが可能になる。
【0042】
異常電流成分について、さらに補足すれば、図5は、アクチュエータ6の周囲温度が低温時(a)と高温時(b)の電流値の波形の一例を示すグラフであり、図6は、同じくアクチュエータ6の周囲温度が低温時(a)と高温時(b)の異常電流成分の波形の一例を示すグラフである。なお、各グラフ中における矢印は、レッグレスト4に物が当たる等した異常発生を示すものである。
【0043】
図5に示すように、低温時(a)と高温時(b)の電流値を比較すると、低温時(a)の電流値が高くなる傾向がある。しかしながら、図6に示すように、低温時(a)と高温時(b)の異常電流成分を比較すると、異常電流成分に関しては、低温時(a)と高温時(b)の波形が同じ傾向を示している。このことから、異常電流成分は、温度変化の影響を受けない特性を持っていることが分かる。
【0044】
次に、図2に示すフローチャートに沿って、異常電流成分の詳細な算出方法について説明する。電流値の取り込みのサンプリング周期は20msとする。また、数式で使用する定数は、実際の実験結果に基づいて決定したものである。
最初に、アクチュエータ6に供給される電流値を、例えばA/D変換器により取り込んで測定する(ステップS110)。かかる処理は、前記電流取得手段11によって実行される。
【0045】
取得した電流値は、前記第1補助判定手段14によって監視され、該電流値が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、後述する判定手段13とは別にアクチュエータ6に異常が発生したと判定する。これにより、いっそう確実かつ安全に異常状態を検出することができる。
【0046】
次に、電流値の変化量を算出する(ステップS120)。すなわち、下記式を用いて、本実施の形態では20サイクル前と現在(一定期間内)との差を算出している。
【数1】

【0047】
このように、電流値の変化量を算出する処理も、前記演算手段12によって実行されるが、ここで算出された電流値の変化量:ΔI(n)は、前記第2補助判定手段15によって監視され、該電流値の変化量が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、後述する判定手段13とは別にアクチュエータ6に異常が発生したと判定する。これにより、前記第1補助判定手段14による補助的な判定と相俟って、より確実かつ安全に異常状態を検出することができる。
【0048】
そして、今度は下記式を用いて、前記電流値の中から通常電流成分を算出する。ここでは先ず、アクチュエータ6の動作が一定時間以上経過したか否かを判定し(ステップS130)、一定時間未満の場合には、当該電流値を通常電流成分とする(ステップS150)。また、一定時間以上経過の場合は、前記ステップS120で算出した電流の変化量が一定範囲内(−0.1〜0.1)のとき、当該電流値を通常電流成分とし(ステップS160)、続いて通常電流成分からノイズを除去する(ステップS170)。すなわち、重み付き加算処理によって通常電流成分を平均化する。かかる処理も前記演算手段12によって実行される。
【数2】

【0049】
このようにして通常電流成分を算出する処理(ステップS170)も、前記演算手段12によって実行される。特に演算手段12は、前述したようにアクチュエータ6の動作開始直後の一定期間(0.8秒未満)内においては、該アクチュエータ6に供給される電流値の全てを通常電流成分と仮定し、異常電流成分を算出しない処理を行う。これにより、アクチュエータ6の動作開始直後は突入電流や不安定な電流が発生しやすいが、これらを異常状態と誤って判断することを未然に防止することができる。
最後に、前記電流値から通常電流成分を減算することにより異常電流成分を算出する(ステップS180)。すなわち、下記式を用いて異常電流成分を算出するが、ゼロ以下の異常電流成分Isig(n)はゼロとする。
【数3】

【0050】
以上のように演算手段12によって算出された異常電流成分は、図1に示す判定手段13によって常に監視され、該異常電流成分が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、判定手段13は、アクチュエータ6に異常が発生したと判定する。アクチュエータ6の個体差、動作条件、周囲温度、経年劣化による電流値のバラツキは、通常電流成分に吸収され、異常電流成分には影響を与えない。すなわち、比較する固定閾値の幅を十分に狭く設定することが可能となる。
【0051】
これにより、異常電流成分のみを抽出して監視することで、個体差等による電流値のバラツキの影響を受けることなく、アクチュエータ6の異常状態の監視を行うことができる。従って、アクチュエータの異常状態の検出精度を確実に向上させることができ、ひいては安全性を高めることができる。
【0052】
さらにまた、図1に示す回避制御手段16は、前記判定手段13、あるいは第1補助判定手段14や第2補助判定手段15によりアクチュエータ6に異常が発生したと判定された場合に、アクチュエータ6の動作を停止または逆方向に動作させる指令を前記制御手段8に出力する。かかる指令を受けた制御手段8は、アクチュエータ6の動作を直ちに停止したり、さらにアクチュエータ6を逆方向に駆動させることにより、例えば車両用シート1のレッグレスト4の異常が検知されるまでの移動方向と逆方向に移動させて、物の挟み込み等を解除することができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、異常検出装置ないし方法を適用するアクチュエータ6は、前述した車両用シート1におけるレッグレスト4の駆動源に限られないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態に係る異常検出装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る異常検出装置および方法を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態に係る異常検出装置を装備する車両用シートの動作を示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る異常検出装置を装備する車両用シートの動作を示す側面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る異常検出装置においてアクチュエータに供給される電流値の波形の一例を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に係る異常検出装置においてアクチュエータに供給される電流値のうち異常電流成分波形の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1…車両用シート
2…座部
3…背凭れ
4…レッグレスト
5…肘掛け
6…アクチュエータ
7…操作スイッチ
8…制御手段
10…異常検出装置
11…電流取得手段
12…演算手段
13…判定手段
14…第1補助判定手段
15…第2補助判定手段
16…回避制御手段
20…電源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータに供給される電流値を監視し、該アクチュエータにおける異常状態を検知するための異常検出装置において、
前記アクチュエータに供給される電流値のうち、定常状態の電流を通常電流成分、過渡状態の電流を異常電流成分と分離して定義し、前記電流値から前記通常電流成分を減算することにより前記異常電流成分を算出する演算手段と、
前記演算手段により算出された前記異常電流成分を監視して、該異常電流成分が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記アクチュエータに異常が発生したと判定する判定手段と、を有することを特徴とする異常検出装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記アクチュエータの動作開始直後の一定期間内においては、該アクチュエータに供給される電流値の全てを前記通常電流成分と仮定し、前記異常電流成分を算出しない処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記判定手段により前記アクチュエータに異常が発生したと判定された場合に、前記アクチュエータの動作を停止または逆方向に動作させる回避制御手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記アクチュエータに供給される電流値を監視して、該電流値が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記判定手段とは別に前記アクチュエータに異常が発生したと判定する第1補助判定手段を有することを特徴とする請求項1,2または3に記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記アクチュエータに供給される電流値を監視して、該電流値の一定期間内における変化量が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記判定手段とは別に前記アクチュエータに異常が発生したと判定する第2補助判定手段を有することを特徴とする請求項1,2,3または4に記載の異常検出装置。
【請求項6】
前記アクチュエータは、車両用シートにおいてその一部を電動により動作させるための駆動源であることを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載の異常検出装置。
【請求項7】
アクチュエータに供給される電流値を監視し、該アクチュエータにおける異常状態を検知するための異常検出方法において、
前記アクチュエータに供給される電流値のうち、定常状態の電流を通常電流成分、過渡状態の電流を異常電流成分と分離して定義し、前記電流値から前記通常電流成分を減算することにより前記異常電流成分を算出し、
前記異常電流成分を監視して、該異常電流成分が予め設定した所定の固定閾値を超えた場合に、前記アクチュエータに異常が発生したと判定することを特徴とする異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−63305(P2010−63305A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228266(P2008−228266)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(390010054)小糸工業株式会社 (136)
【Fターム(参考)】