説明

異常診断装置

【課題】振動センサの出力信号から車軸軸受または車輪の異常を検出して、異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのかを特定することができる異常診断装置を提供すること。
【解決手段】車軸軸受または車輪の振動を検出する振動センサ111の出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部150Aと、センサ信号処理部に150Aよりサンプリングした振動データを基に車軸軸受および車輪の異常診断を行なう診断処理部150Bとを備える。診断処理部150Bは、センサ信号処理部150Aからの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを軸受診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを車輪診断用の振動データとして処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等に用いられる回転或いは摺動する部品の異常診断装置に関し、特に、該部品の異常の有無や前兆、或いはその異常部位を特定する異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の回転部品は、一定期間使用した後に、車軸軸受やその他の回転部品について、損傷や摩耗等の異常の有無が定期的に検査される。この定期的な検査は、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することにより行なわれ、回転部品に発生した損傷や摩耗は、作業者が目視による検査により発見するようにしている。そして、検査で発見される主な欠陥としては、軸受の場合、異物の噛み込み等によって生ずる圧痕、転がり疲れによる剥離、その他の摩耗等、歯車の場合には、歯部の欠損や摩耗等、車輪の場合には、フラット等の摩耗があり、いずれの場合も新品にはない凹凸や摩耗等が発見されれば、新品に交換される。
【0003】
しかし、機械設備全体を分解して、作業者が目視で検査する方法では、装置から回転体や摺動部材を取り外す分解作業や、検査済みの回転体や摺動部材を再度装置に組込み直す組込み作業に多大な労力がかかり、装置の保守コストに大幅な増大を招くという問題があった。
【0004】
また、組立て直す際に検査前にはなかった打痕を回転体や摺動部材につけてしまう等、検査自体が回転体や摺動部材の欠陥を生む原因となる可能性があった。また、限られた時間内で多数の軸受を目視で検査するため、欠陥を見落とす可能性が残るという問題もあった。さらに、この欠陥の程度の判断も個人差があり実質的には欠陥がなくても部品交換が行なわれるため、無駄なコストがかかることにもなる。
【0005】
そこで、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することなく、実稼動状態で回転部品の異常診断を行なう様々な方法が提案された(例えば、特許文献1〜3参照。)。最も、一般的なものとしては、特許文献1に記載されるように、軸受部に加速度計を設置し、軸受部の振動加速度を計測し、更に、この信号にFFT(高速フーリエ変換)処理を行なって振動発生周波数成分の信号を抽出して診断を行なう方法が知られている。
【0006】
また、鉄道車両の車輪の転動面において、ブレーキの誤動作等による車輪のロックや滑走によるレールとの摩擦・摩耗によって生じるフラットと呼ぶ平坦部の検出方法としても種々提案されている(例えば、特許文献4〜6参照。)。特に特許文献4では、振動センサや回転測定装置等により鉄道車両車輪、および列車が通過する線路の欠陥状態を検出する装置について提案している。
【特許文献1】特開2002−22617号公報
【特許文献2】特開2003−202276号公報
【特許文献3】特開2004−257836号公報
【特許文献4】特表平9−500452号公報
【特許文献5】特開平4−148839号公報
【特許文献6】特表2003−535755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4に記載の欠陥状態の検出装置では、異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのか、あるいは線路または他の異常によるものなのかを識別できないという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車軸軸受または車輪の振動を検出する振動センサの出力信号から車軸軸受および車輪の異常振動を検出して、その異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのかを特定することができる異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、下記の構成により達成される。
(1) 振動特性の異なる複数の部品を有する機械装置の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを第1の振動特性の部品診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを第2の振動特性の部品診断用の振動データとして処理することを特徴とする異常診断装置。
(2) 鉄道車両の車軸軸受および車輪の異常診断装置であって、
車軸軸受および車輪の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に車軸軸受および車輪の異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを軸受診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを車輪診断用の振動データとして処理することを特徴とする異常診断装置。
(3) 前記診断処理部が、車軸軸受の回転速度と振動のエンベロープ波形を処理して得られる周波数ピークとに基づいて車軸軸受の異常を検出し、車輪の回転に同期して生じる振動のレベルが閾値を超える頻度に基づいて車輪の異常を検出し、それぞれの異常の検出結果に基づいて異常診断を行なうことを特徴とする上記(2)の異常診断装置。
(4) 前記信号処理手段が、
複数の振動センサの出力信号を1チャネルずつ切換えてサンプリングすることを特徴とする上記(2)〜(3)のいずれかの異常診断装置。
(5) 振動センサの出力信号を車輪の回転に同期してサンプリングし加算平均処理して得られる振動データを基に車軸軸受および車輪の異常診断を行なうように構成したことを特徴とする上記(3)または(4)の異常診断装置。
(6) 振動特性の異なる複数の部品を有する機械装置の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつそれを第1の振動特性の部品診断用と第2の振動特性の部品診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理することを特徴とする異常診断装置。
(7) 鉄道車両の車軸軸受および車輪の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつそれを車軸軸受診断用と車輪診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理することを特徴とする異常診断装置。
(8) 車軸軸受と車輪それぞれについて複数回異常検出を実施し、それぞれの複数回分の集計値から統計的に異常診断を行なうことを特徴とする上記(3)、(4)、(5)、(7)のいずれかの異常診断装置。
(9)異常を検出する際に使用したデータを保存しておく機能を有することを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかの異常診断装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の異常診断装置によれば、下記(I)〜(IV)の効果が得られる。
(I)振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを第1の振動特性の部品診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを第2の振動特性の部品診断用の振動データとして処理するので、両振動特性の部品の振動を検出する振動センサの出力信号から両振動特性の部品の異常振動をリアルタイムで検出して、その異常振動が第1の振動特性の部品の異常によるものか、第2の振動特性の部品の異常によるのかを特定することができる。
(II)振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを軸受診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを車輪診断用の振動データとして処理するので、車軸軸受および車輪の振動を検出する振動センサの出力信号から車軸軸受および車輪の異常振動をリアルタイムで検出して、その異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのかを特定することができる。
(III)振動データを連続して取り込みつつそれを第1の振動特性の部品診断用と第2の振動特性の部品診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理するので、両振動特性の部品の振動を検出する振動センサの出力信号から両振動特性の部品の異常振動をリアルタイムで検出して、その異常振動が第1の振動特性の部品の異常によるものか、第2の振動特性の部品によるのかを特定することができる。
(IV)振動データを連続して取り込みつつそれを車軸軸受診断用と車輪診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理するので、車軸軸受および車輪の振動を検出する振動センサの出力信号から車軸軸受および車輪の異常振動をリアルタイムで検出して、その異常振動が車輪のフラットによるものか、車軸軸受によるのかを特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る異常診断装置の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、第4実施形態、第5実施形態、第6実施形態、第7実施形態、および第8実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1(a)は本発明の異常診断装置を搭載した鉄道車両の概略平面図、図1(b)は同鉄道車両の概略側面図、図2は車軸軸受と振動センサとの位置関係を例示する概略図、図3は本発明に係る異常診断装置の第1実施形態のブロック図、図4は本発明の異常診断装置による4チャネル分の振動データの取り込みおよびデータ解析のタイムチャート、図5は図3の診断処理部の動作内容を示すフローチャート、図6は車軸軸受の傷の部位と、傷に起因して発生する振動発生周波数の関係を数式で示す図、図7は本発明に係る異常診断装置の第2実施形態のブロック図、図8は本発明に係る異常診断装置の第3実施形態のブロック図、図9は図8の診断処理部の動作内容を示すフローチャート、図10は本発明に係る異常診断装置の第4実施形態のブロック図、図11は本発明に係る異常診断装置の第5実施形態のブロック図、図12は本発明に係る異常診断装置の第6実施形態のブロック図、図13は本発明に係る異常診断装置の第6実施形態における診断処理部の動作内容を示すフローチャート、図14(a)は軸受はく離診断用データと車輪フラット診断用データの時間−周波数平面上における関係を示す概念図、図14(b)は軸受と車輪の周波数範囲の関係を示す概念図、図15は本発明に係る異常診断装置の第7実施形態における診断処理部の動作内容を示すフローチャート、図16は第8実施形態における診断処理部の部分ブロック図、そして図17は本発明に係る異常診断装置の第8実施形態における診断処理部の動作内容を示すフローチャートである。
【0013】
(第1実施形態)
まず、図1〜図6を参照して、第1実施形態の異常診断装置について説明する。
図1に示すように、一両の鉄道車両100は前後2つの車台によって支持され、各車台には4個の車輪101が取り付けられている。各車輪101の回転支持装置(軸受箱)110には、運転中に回転支持装置110から発生する振動を検出する振動センサ111が取り付けられている。
【0014】
鉄道車両100の制御盤115には、4チャネル分のセンサ信号を同時(ほぼ同時)に取り込んで診断処理を実施する異常診断装置150が2つ搭載されている。即ち、各車台に設けられている4つの振動センサ111の出力信号が各々信号線116を介して車台毎に別の異常診断装置150に入力される。また、異常診断装置150には、車輪101の回転速度を検出する回転速度センサ(図示省略)からの回転速度パルス信号も入力される。
【0015】
図2に示すように、回転支持装置110には、1例として回転部品である車軸軸受130が設けられており、車軸軸受130は、回転軸(不図示)に外嵌される回転輪である内輪131と、ハウジング(不図示)に内嵌される固定輪である外輪132と、内輪131および外輪132との間に配置された複数の転動体である玉133と、玉133を転動自在に保持する保持器(不図示)とを備える。振動センサ111は、重力方向の振動加速度を検出し得る姿勢に保持されてハウジングの外輪132近傍に固定されている。振動センサ111には、加速度センサ、AE(acoustic emission)センサ、超音波センサ、ショックパルスセンサ等、種々のものを使用することができる。
【0016】
図3に示すように、異常診断装置150は、センサ信号処理部150Aと、診断処理部(MPU)150Bとを有する。センサ信号処理部150Aは、4つの増幅・濾波器(AFILT)151を備えている。そして、4つの振動センサ111の出力信号が増幅・濾波器151に個別に入力されるようになっている。各増幅・濾波器151は、アナログアンプの機能とアンチエリアシングフィルタの機能とを兼ね備えている。これら4つの増幅・濾波器151で増幅且つ濾波された4チャネルのアナログ信号は、診断処理部(MPU)150Bの信号に基づいて、スイッチ機能として働くマルチプレクサ(MUX)152にて1チャネルごとの信号に切換えて、AD変換器(ADC)153にてデジタル信号に変換されて、診断処理部(MPU)150Bに取り込まれる。一方、回転速度センサからの回転速度パルス信号は、波形整形回路155によって整形された後、タイマカウンタ(図示省略)により単位時間当りのパルス数がカウントされ、その値が回転速度信号として診断処理部(MPU)150Bに入力される。診断処理部(MPU)150Bは、振動センサ111により検出された振動波形と回転速度センサにより検出された回転速度信号とをもとに異常診断を実行する。診断処理部(MPU)150Bによる診断結果はラインドライバ(LD)156を介して通信回線120(図1参照)に出力される。通信回線120は警報機に接続されており、車輪101のフラット等の異常発生時には然るべき警報動作がなされるようになっている。
【0017】
診断処理部(MPU)150Bは、回転速度センサにより検出された回転速度信号が略一定の所定速度(本実施形態では、185〜370min−1)であるときに、サンプリング周波数fsと、サンプリング数Nsを一定にした波形ブロックデータを処理して、車輪101のフラットの検出を行なう。具体的には、fs=2kHz、Ns=2000、とすると、ブロックデータの区間長=1secである。この1秒間にフラットによる振動波形パルスをカウントした回数と、回転速度センサで検出した車速から1秒間に車輪101が回転する回数とを比較することでフラットの検出を行なう。
【0018】
車輪101でフラットが発生している状態での振動加速度は大きく、通常の車両の振動で起きる振動加速度の値は、それよりも小さいことが多い。また、レール継ぎ目の振動は、フラットと同等、若しくは、それよりも大きい振動加速度のレベルとなる。さらに、レールのカーブにおけるレールと車輪101の摩擦からくる振動加速度のレベルも、フラットやレール継ぎ目によるものと同等である。
【0019】
一方、フラットは1回転で1回の衝撃が起るのに対して、レールの継ぎ目による衝撃の場合は、より長い周期で発生し、レール摩擦による衝撃の場合は、不規則に発生する。そこで、本実施形態では、フラット特有の振動加速度の閾値を越える衝撃(パルス)発生の規則性に着目して、ほぼ一定速度における単位時間あたりの衝撃波回数をカウントし、そのカウント数がほぼ車輪の回転数に一致していれば、フラットが発生している可能性が高い、として異常診断を行なう。
【0020】
更に、本実施形態では、同じ車輪101について繰り返し診断処理を行なうアルゴリズムを設計し、パルス数のカウント数のバラツキやノイズの影響等を考慮した、統計的判断手法により異常診断の信頼性を向上させる。
【0021】
図4は、異常診断装置150による4チャネル分の振動データの取り込みとデータ解析のタイムチャートを示している。振動データは絶え間なく異常診断装置150に取り込まれるが、診断対象に応じて一定のサンプリング区間に分割することができる。軸受130の診断(はく離検出)に必要な取り込み周期T1は1秒未満で十分であり、レールと車輪101との接触ノイズの影響を減らすためにも、できるだけ短時間であることが望ましい。反対に、車輪101の転動面の異常を検出するには、車輪101が一回転する毎の衝撃を検出する必要があるので、1秒程度の長い周期T2が必要である。
【0022】
軸受診断用の振動データの取り込み周期T1を4チャネル分の振動データの取り込みに要する時間に一致させてたとえば0.67秒とし、サンプリング周波数を20kHzとすると、1周期T1の間に4×0.67×20,000点のデータが取り込まれる。したがって、車輪診断用の振動データの取り込み周期T2を1秒とすると、軸受診断用の振動データの取り込み周期T1で振動データの取り込みを行なったのでは0.33秒不足することになる。そこで、1区間、即ち、周期T1分のデータと一つ前の区間の最後の0.33秒分のデータを継ぎ足すことにより、周期T2分のデータとする。ただし、データ数は後述するようにフィルタリング後のデシメート処理により間引くことができるので、1チャネル当り2,000点以下とすることができる。その結果、車輪101と軸受130の診断を4チャネル分実行するのに要する時間を周期T1、即ち、0.67秒よりも小さくして、車輪・軸受診断データの処理時間に余裕を持たせることができる。
【0023】
本実施形態では、診断処理部(MPU)150Bは、上記振動データの取り込みと車輪・軸受診断データ処理とを並行して行なう。即ち、4チャネル分の振動データの取り込み周期T1内に車輪・軸受診断データ処理を完了するリアルタイム処理を行なう。このリアルタイム処理は、センサ信号処理部150Aのマルチプレクサ152とAD変換器153とを診断処理部(MPU)150Bが割り込み制御してデータサンプリングすることにより実現される。また、ダイレクトメモリーアクセスコントローラ(DMA)によるデータサンプリングによっても実現できる。
【0024】
このように、車輪・軸受診断データの処理時間に余裕を持たせ、振動データの取り込みと車輪・軸受診断データの処理とを並行して行なうことにより、データの取りこぼしをなくすことができるので、レールの不規則性や車体の揺れ、荷重変動等による確率過程を含んだデータを統計処理して得られる診断結果の信頼性を高めることができる。
【0025】
図5は、診断処理部(MPU)150Bの動作フローを示している。診断処理部(MPU)150Bは、振動データの取り込み、即ち、4チャネル分のセンサ信号のAD変換およびサンプリング(即ち、S100)と軸受・車輪診断データ処理(即ち、S200)とを並行して実施する。
【0026】
車輪・軸受診断データ処理(即ち、S200)では、4チャネル分の振動データの更新(即ち、S201)がなされる度に、回転速度検出処理(即ち、S202)、診断処理(即ち、S203)、診断結果の記憶保持処理(即ち、S204)および判定結果の出力処理(即ち、S205)を順次実施する。
【0027】
回転速度検出処理(即ち、S202)は、回転速度センサの信号に基づいて軸受130の回転速度を検出する処理である。
【0028】
診断処理(即ち、S203)は、軸受診断処理(即ち、S210)と車輪診断処理(即ち、S220)とからなる。
【0029】
軸受診断処理(即ち、S210)は、軸受130の回転速度と振動のエンベロープ波形を処理して得られる周波数ピークとに基づいて軸受130の異常を検出する処理である。軸受診断処理(即ち、S210)では、まず取り込んだ振動データから高域(3kHz以上)と低域(200Hz以下)の成分を減衰させた中域の振動データを抽出するバンドパスフィルタ(BPF)処理(即ち、S211)を実行し、抽出されたデータに対し、所定の間引き率でデシメート処理(即ち、S212)を実行した後、絶対値処理(即ち、S213)、低域(1kHz以下)の成分を抽出するローパスフィルタ処理(即ち、S214)を順次実行する。そして、抽出されたデータに対し更にデシメート処理(即ち、S215)を実行した後、ゼロ補間高速フーリエ変換(FFT)処理(即ち、S216)を実行することにより、分解能1Hzの周波数データを得る。この周波数データに対して平滑化微分によるピーク検出処理(即ち、S217)を実施し、回転速度と軸受内部諸元から得られる軸受欠陥の基本周波数(図6参照)と4次までの比較を行なって一致、不一致を判定する(即ち、S218:軸受欠陥判定処理)。
【0030】
車輪診断処理(即ち、S220)は、車輪110の回転に同期して衝撃が生じる現象から車輪110の異常を検出する処理である。車輪110の回転に同期して生じる衝撃の主な発生原因は、車輪110の転動面に生じたフラットと呼ばれる平坦部の存在である。車輪診断処理(即ち、S220)では、まず取り込んだ振動データから所定周波数(1kHz)以下の成分を抽出するローパスフィルタ(LPF)処理(即ち、S221)を実行し、抽出されたデータに対し、所定の間引き率でデシメート処理(即ち、S222)を実行した後、図4で説明したように、1サンプリング区間(周期T1)よりも長い区間(周期T2)のデータを確保するために現在のサンプリング区間の1つ前のサンプリング区間の最後の1/3のデータを現在のサンプリング区間のデータの最初に継ぎ足すオーバーラップ処理(即ち、S223)を実行する。次に、このオーバーラップ処理(即ち、S223)を経たデータのうち閾値を超えたデータをピークホールド処理(即ち、S224)により絶対値化して一定時間(τ)だけ閾値を超えた値に保持する。この保持時間(τ)は、車輪110の回転速度によって決まり、車輪1回転分よりも短い値に選定される。この絶対値化して一定時間保持するピークホールド処理は、安定なピーク計測を可能とする。そして、パルスが閾値を越えた回数をカウントして(即ち、S225:閾値超え回数カウント処理)、カウント数が車輪110の回転数と一致するかどうか判定する(即ち、S226:車輪欠陥判定処理)。
【0031】
軸受診断処理(即ち、S210)および車輪診断処理(即ち、S220)は、ステップS201で更新された4チャネル分の振動データに対して繰り返される。即ち、1回のデータ更新毎に軸受診断処理(即ち、S210)と車輪診断処理(即ち、S220)とがそれぞれ4回ずつ実施される。そして、各回の判定処理(即ち、S218、S226)による判定結果は診断処理部(MPU)150B内に記憶保持される(即ち、S204)。診断処理部(MPU)150Bは、最新の判定結果から遡って過去N回分の判定処理(即ち、S218、S226)の結果を記憶保持しており、そのN回分の判定結果から統計的に異常判定を行ない、その結果を出力する(即ち、S205)。
【0032】
即ち、本実施形態では、車軸軸受130、車輪101とも1回の欠陥周波数との一致、車輪回転数の一致があっただけでは異常と判定しない。周波数の一致は確率過程に基づくものであるので、複数回分の集計値から統計的に判断する必要があるからである。
統計的判断手法として一般的にはスペクトルの積算平均をあげることができるが、本実施形態で用いている判断手法では、軸受であればスペクトルの一致度を整数値で表したデータを複数回例えば16回分加算して、基準値に達していれば異常と判断し、そうでなければ異常とは判断しないが、鉄道車両の車軸軸受の異常診断には十分適用できる。軸受に小さな剥離が生じたとしても、潤滑やシール等が十分になされていれば一気に進行することはなく、鉄道車両の走行に影響を及ぼす危険性は小さく、鉄道車両の走行に影響を及ぼす程の異常の発生は通常温度ヒューズ等、別の手段が感知することになっているからである。
【0033】
上記のように、本実施形態の異常診断装置は、車軸軸受130または車輪101の振動を振動センサ111で検出し、振動センサ111の出力信号をセンサ信号処理部150Aでサンプリングし、その振動データを基に、診断処理部(MPU)150Bが車軸軸受130および車輪101の異常診断を行なう。その際、診断処理部(MPU)150Bは、センサ信号処理部150Aからの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを軸受診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを車輪診断用の振動データとして処理する。このように、軸受診断用の振動データと車輪診断用の振動データとに分けて処理することにより、異常振動が車輪101のフラットによるものか、車軸軸受130によるのかを特定して正確な診断を実施できる。
【0034】
また、本実施形態の異常診断装置では、各車台の4つの回転支持装置110に個々に取り付けられた4つの振動センサ111からの4チャネル分のセンサ信号を同時(ほぼ同時)に取り込みつつ、すべてのチャネルについてデータ取り込み時間内に診断データ処理が完了するリアルタイム処理を実施するので、データの取りこぼしがなく、極めて信頼性の高い異常診断を行なうことができる。
【0035】
(第2実施形態)
図7は第2実施形態(上述した第1実施形態の変形例)のブロック図である。この異常診断装置150は、診断処理部150Bとして、マルチプレクサ(MUX)およびAD変換器(ADC)を備えたMPUを用いている。即ち、MPUがセンサ信号処理部150Aの一部の機能を兼ね備えている。この構成によれば、異常診断装置150内の回路を簡略化でき、DMAコントローラ(DMAC)157等、他のMPU内蔵回路との連携をソフトウエアによって簡単に実現できるので、第1実施形態の構成よりも効率の良いソフトウエア制御が可能となる。
【0036】
(第3実施形態)
図8は第3実施形態(上述した第2実施形態の変形例)のブロック図である。この異常診断装置150は、図7の構成に加えて、記憶素子としてバックアップ電池(Batt)161を有するスタティックランダムアクセスメモリー(SRAM)162を備えている。また、MPU内蔵のカレンダ時計回路(RTC)163を有効としたハード構成を採用することにより、異常時のデータを保存可能としている。
【0037】
図9は第3実施形態における診断処理部150Bの車輪・軸受診断データ処理の内容を示している。診断処理部150Bは、4チャネル分の振動データの更新(即ち、S201)がなされる度に、軸受診断処理(即ち、S310)と車輪診断処理(即ち、S320)とを実施する。そして、軸受診断処理(即ち、S310)により得られた軸受振動のエンベロープ波形のスペクトル強度が基準値以上か否かを判定(即ち、S311)し、基準値未満の場合は(即ち、S311でFalse)、軸受診断処理(即ち、S310)の結果をN回分の集計のために記憶保持(即ち、S204)する。また、車輪診断処理(即ち、S320)により得られた、振動レベル閾値を超えたイベントのカウント数が車輪101の回転数と一致したか否かを判定(即ち、S321)し、一致しなかった場合は(即ち、S321でFalse)、N回分の集計のために記憶保持(即ち、S204)する。
【0038】
一方、スペクトル強度が基準値以上(即ち、S311でTrue)の場合は、軸受振動のエンベロープ波形のスペクトル強度をカレンダ時計回路(RTC)163から読み取った日時情報とともにSRAM162に保存する(即ち、S330)。また、振動レベル閾値を超えたイベントのカウント数が車輪101の回転数と一致した場合(即ち、S321でTrue)は、車輪診断における時間波形のデータをカレンダ時計回路(RTC)163から読み取った日時情報とともにSRAM162に保存する(即ち、S330)。保存データ量がSRAM162の許容量に達したら、最も過去のデータを削除する(即ち、S331)。
【0039】
この実施形態によれば、異常判定結果を警報機に送信して警報処理を行なうとともに、スペクトルの内容等については、SRAM162に保存されているデータを読み出して保守用のコンピュータに送信することにより、車両の保守情報として利用できる。
【0040】
(第4実施形態)
図10は第4実施形態(上述した第3実施形態の変形例)のブロック図である。この異常診断装置150は、マルチプレクサ(MUX)152とAD変換器(ADC)153とをMPU内に2組ずつ備えることにより、1つのモジュールで8チャネルのセンサ信号によるリアルタイム診断を可能としている。このようなセンサ信号入力の多チャネル化は、MPUの計算能力が許すならば、AD変換器の数を増やすか、変換速度の速いAD変換器とマルチプレクサを使用することで何チャネルでも可能である。尚、図10の例では、カレンダ時計回路(RTC)163をMPUに内蔵せず、バックアップ電池(Batt)付きのものをMPUに外付けにしている。
【0041】
(第5実施形態)
図11は第5実施形態(上述した第2実施形態の変形例)のブロック図である。この異常診断装置150は、図7で説明した異常診断装置の構成に1回転信号分周回路165を付加したものである。波形整形回路155の出力は、診断処理部(MPU)150Bと1回転信号分周回路165とに入力される。1回転信号分周回路165は、波形整形回路155により整形された回転数比例正弦波を分周し、1回転に1パルスの回転同期信号を診断処理部(MPU)150Bに与える。診断処理部(MPU)150Bは、一定速度の区間でこの回転同期信号をトリガとしてデータのサンプリングを行ない、そのデータを加算平均処理して異常診断を行なう。車輪101が1回転する毎に発せられる回転同期信号をトリガとしてサンプリングしたデータを加算平均処理することにより、車輪101の回転に同期する信号以外の成分がキャンセルされ、車輪101の回転に同期した成分だけが残るので、衝撃レベルの閾値による判定によって車輪101のフラットの検出を精度良く行なうことができる。
【0042】
(第6実施形態)
図12は第6実施形態のブロック図である。この異常診断装置150は、センサ信号処理部150Aと、診断処理部(MPU)150Bとを有する。センサ信号処理部150Aは、1つの増幅器(Amp)171と1つの濾波器(LPF)172とを備えている。そして、4つの振動センサ111の出力信号(アナログ信号)が1つの増幅器(Amp)171に入力され、増幅された後、1つの濾波器(LPF)172に入力されるようになっている。即ち、この実施形態では、4つの振動センサ111からの4チャネルの出力信号を増幅・濾波するために増幅器(Amp)171および濾波器(LPF)172を用いている。そして、増幅器(Amp)171および濾波器(LPF)172で増幅且つ濾波されたアナログ信号が診断処理部(MPU)150Bに取り込まれ、診断処理部(MPU)150B内のAD変換器(ADC)153にてデジタル信号に変換されるようになっている。一方、回転速度センサからの回転速度パルス信号は、波形整形回路155によって整形された後、診断処理部(MPU)150Bに取り込まれ、診断処理部(MPU)150B内のタイマカウンタ(TCNT)173により単位時間当りのパルス数がカウントされ、その値が回転速度信号として処理されるようになっている。診断処理部(MPU)150Bは、振動センサ111により検出された振動波形と回転速度センサにより検出された回転速度信号とをもとに異常診断を実行する。診断処理部(MPU)150Bによる診断結果はラインドライバ(LD)156を介して通信回線120(図1参照)に出力される。通信回線120は警報機に接続されており、車輪101のフラット等の異常発生時には然るべき警報動作がなされるようになっている。
【0043】
振動センサ111の出力信号から検出できる異常は、車軸軸受130の剥離と車輪101のフラット(摩耗)である。どちらも1kHz付近までの周波数帯域の振動信号として検知できる。そこで、この第6実施形態では、振動センサ111の出力信号を増幅・濾波するために、増幅器(Amp)171および濾波器(LPF)172を使用している。そして、濾波器(LPF)172により濾波されAD変換器(ADC)153にてデジタル信号に変換されたデータをソフトウエア処理により車軸軸受診断用と車輪診断用とに分離して、両者の異常診断を行なう。
【0044】
車軸軸受130に発生する異常の中で、静止輪の外輪軌道の剥離が最も起こりやすい。そこで、車軸軸受130については、静止輪の外輪軌道の剥離を検出対象とする。
【0045】
車軸軸受130の剥離と車輪101のフラットとでは欠陥の周波数帯域が10倍程度異なる。車輪101の回転速度(r/s)は、車輪フラットの基本周波数に等しい。診断すべき回転速度の範囲は4〜10r/s(基本周波数:4〜10Hz)である。これに対して車軸軸受130の静止輪の外輪軌道に欠陥がある場合、同じ回転速度の範囲(4〜40r/s)でも、欠陥の基本周波数は33〜83Hzである。どちらも4次までの高調波を検査する場合、車輪101については4〜40Hz、車軸軸受130については33〜330Hzがそれぞれの必要とされるDFTによる周波数分析範囲である。車軸軸受130の診断の際の周波数分解能は1.0Hzで十分である。しかし、車軸軸受130の診断には1.0Hzでは分解能が足りない上に、オフセットによるFFT低域におけるDC成分の影響を受けやすい。
【0046】
そこで、この第6実施形態では、AD変換器(ADC)153にてデジタル信号に変換(サンプリング)したデータを、車軸外輪軌道はく離解析用(車軸軸受診断用)と車輪フラット解析用(車輪診断用)のサンプリング周波数の異なる2種類のデータに変換して処理する。
【0047】
図13は、第6実施形態における診断処理部(MPU)150Bの動作フローを示している。診断処理部(MPU)150Bは、4つの振動センサ111から出力され、増幅器(Amp)171と濾波器(LPF)172とを経て送られてくるセンサ信号を、AD変換器(ADC)153にてサンプリングしデジタル信号に変換する(即ち、S401)。そして、AD変換器(ADC)153の出力信号に対してソフトウエアにより実現されるFIRローパスフィルタリングによりデシメーション処理(即ち、S402)を施す。この例では、AD変換器(ADC)153におけるサンプリングを8kHzの周波数で3秒間単位で実施している。また、デシメーション処理(即ち、S402)では、サンプリング周波数fsを2kHzに落とすために、デシメーション率Mを4としてデータ数を1/4に削減している。
【0048】
診断処理部(MPU)150Bは、デシメーション処理(即ち、S402)を経たデータを、車軸外輪軌道はく離解析用(以下、「軸受用」と記す。)と車輪フラット解析用(以下、「車輪用」と記す。)のサンプリング周波数の異なる2種類のデータに変換する(図14(a)参照)。
【0049】
軸受用のデータは、デシメーション処理(即ち、S402)を経たデータを4分割して0.75秒ごとのデータ区間に分けることにより得られる(即ち、S411)。得られたデータに絶対値化処理(即ち、S412)およびAC化処理(即ち、S413)を順次施する。そして更に、1区間あたりおよそ0.25秒(sec)分の0を追加することにより約1秒分のデータ区間長とし(即ち、S414)、周波数分解能を約1.0HzにしてFFTを行なう(即ち、S415)。FFTの入力データ数は2048個である。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、車速と軸受諸元データから外輪欠陥周波数Zfcを求め、基本波から4次までのピーク検出を行なう(即ち、S416)。そして、外輪欠陥周波数Zfcと周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(即ち、S417)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車軸軸受130の異常判定を行なう。
【0050】
車輪用のデータは、デシメーション処理(即ち、S402)を経たサンプリング周波数fsが2kHzのデータを、絶対値化処理(即ち、S421)後、濾波器(LFP)によりデシメーション率Mを4としてデシメーション処理(即ち、S422)することによりサンプリング周波数fsを250Hzまで落とすことにより得られる。この時点でのデータ数は750個となるが、0詰め補間(即ち、S424)を行なって約4秒分のデータとすることで、周波数分解能を約0.25HzにしてFFTを実施する(即ち、S425)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、ピーク検出を行なう(即ち、S426)。そして、車輪フラットの基本周波数から4次までの高次成分と周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(即ち、S427)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車輪101の異常判定を行なう。車輪フラットの基本周波数はタイマカウンタ(TCNT)173により回転速度パルス信号の単位時間当りのパルス数をカウントすることにより求められる。
【0051】
上記のように、4つの振動センサ111の各々に対して、増幅器(Amp)171および濾波器(LPF)172を一組ずつ備え、マルチプレクサ(MUX)152を介してAD変換器(ADC)153にてデジタル信号に変換(サンプリング)したデータを、軸受用と車輪用のサンプリング周波数の異なる2種類のデータに変換し、2系統に分けてFFTを含む処理を行なうことにより、軸受と車輪の異常診断を高精度且つ高効率に行なうことができる。これに対し、一度のFFTで周波数領域が大部分異なる軸受と車輪の両方の周波数範囲を調べた場合、計算コストに見合った精度(分解能)が実現できない(図14(b)参照)。
なお、上記の例では、デジタル処理の大部分をソフトウエアによって行なっているが、その一部またはすべてをFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウエアで実現してもよい。
【0052】
(第7実施形態)
図15は、第7実施形態における診断処理部(MPU)150Bの動作フローを示している。この例では、AD変換器(ADC)153におけるサンプリングを16kHzの周波数で3秒間単位で実施している(即ち、S501)。また、デシメーション処理(即ち、S502)では、サンプリング周波数fsを4kHzに落とすため、デシメーション率Mを4としてデータ数を1/4に削減している。
【0053】
診断処理部(MPU)150Bは、デシメーション処理(即ち、S502)を経たデータを、軸受用と車輪用のサンプリング周波数の異なる2種類のデータに変換する(図14(a)参照)。
【0054】
軸受用のデータは、デシメーション処理(即ち、S502)を経たデータを3分割して1.0秒ごとのデータ区間に分けることにより得られる(即ち、S511)。得られたデータに絶対値化処理(即ち、S512)およびAC化処理(即ち、S513)を順次施する。そして、0補間処理を完全に省略するか或いは僅かな端数のみ、例えば、4000データに96個の0を補間するような0補間処理を行ない、周波数分解能を約1.0HzにしてFFTを行なう(即ち、S514)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、車速と軸受諸元データから外輪欠陥周波数Zfcを求め、基本波から4次までのピーク検出を行なう(即ち、S515)。そして、外輪欠陥周波数Zfcと周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(即ち、S516)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車軸軸受130の異常判定を行なう。
【0055】
車輪用のデータは、デシメーション処理(即ち、S502)を経たサンプリング周波数fsが4kHzのデータを、絶対値化処理(即ち、S521)後、更に濾波器(LFP)によりデシメーション処理(即ち、S522)することによりサンプリング周波数fsを500Hzまで落とすことにより得られる。得られたデータにAC化処理(即ち、S523)を順次施する。その後、0詰め補間(即ち、S524)を行なって約4秒分のデータとすることで、周波数分解能を約0.25HzにしてFFTを実施する(即ち、S525)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後、ピーク検出を行なう(即ち、S526)。そして、車輪フラットの基本周波数から4次までの高次成分と周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(即ち、S527)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車輪101の異常判定を行なう。
【0056】
この第7実施形態のように、軸受用のデータ処理において、0補間処理を完全に省略するか或いは僅かな端数のみ補間するような0補間処理を行なうことにより、FFT処理の回数を減らすことができる。即ち、第6実施形態との比較では、同時間に実行するFFT処理の回数が4回から3回に減っている。ただし、第6実施形態のように0補間処理を行なってFFT区間を短い時間に区切った方がレール雑音などを回避できるFFT区間を増やすことができる。
【0057】
(第8実施形態)
図16(a)、図16(b)は第8実施形態における診断処理部(MPU)150Bの部分ブロック図である。図16(a)では、図12のハードウエア構成において、診断処理部(MPU)150B内のAD変換器(ADC)153の前段(入力側)に絶対値回路(ABS)181を設け、更にその後段にローパスフィルタ(LPF)182を設けている。図16(b)では、図12のハードウエア構成において、診断処理部(MPU)150B内のAD変換器(ADC)153の前段(入力側)にエンベロープ回路(ENV)191を設け、更にその前段にハイパスフィルタ(HPF)192を設けている。
【0058】
図17は、第8実施形態における診断処理部(MPU)150Bの動作フローを示している。診断処理部(MPU)150Bは、4つの振動センサ111から出力され、増幅器(Amp)171と濾波器(LPF)172とを経て送られてくるセンサ信号を、AD変換器(ADC)153にてサンプリングしデジタル信号に変換する(即ち、S601)。そして、AD変換器(ADC)153の出力信号に対して診断処理部(MPU)150B内のローパスフィルタ182によりデシメーション処理を施す。この例では、AD変換器(ADC)153におけるサンプリングを2kHzの周波数で3秒間単位で実施している。また、ローパスフィルタ182は、デシメーション率Mを4としてデータ数を1/4に削減している。
【0059】
軸受用のデータは、ローパスフィルタ182によるデシメーション処理を経たデータを4分割して0.75秒ごとのデータ区間に分けることにより得られる(即ち、S611)。得られたデータに絶対値回路181による絶対値化処理を施した後、AC化処理(即ち、S612)を施す。そして更に、1区間あたりおよそ0.25秒(sec)分の0を追加することにより約1秒分のデータ区間長とし(即ち、S613:0詰め補間)、周波数分解能を約1.0HzにしてFFTを行なう(即ち、S614)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、車速と軸受諸元データから外輪欠陥周波数Zfcを求め、基本波から4次までのピーク検出を行なう(即ち、S615)。そして、外輪欠陥周波数Zfcと周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(即ち、S616)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車軸軸受130の異常判定を行なう。
【0060】
車輪用のデータは、振動センサ111から出力されるセンサ信号を絶対値回路181により絶対値化処理を施し、2kHzでサンプリングした後、デシメーション率Mを8としてデシメーション処理(即ち、S621)することによりサンプリング周波数fsを250Hzまで落とすことにより得られる。得られたデータにAC化処理(即ち、S622)を施す。そして更に、0詰め補間(即ち、S623)を行なって約4秒分のデータとすることで、周波数分解能を約0.25HzにしてFFTを実施する(即ち、S624)。FFTの前にはハニング(Hanning)窓処理を行なっておく。FFT後は、基本波から4次までの高次成分のピーク検出を行なう(即ち、S625)。そして、車輪フラットの基本周波数から4次までの高次成分と周波数ピークとの比較を行ない、両者の一致度を算出しておく(即ち、S626)。この処理を一定回数繰り返して得られた一致度合計点数に基づいて車輪101の異常判定を行なう。
【0061】
この第8実施形態では、図13においてソフトウエアにより実施されていたデシメーション処理(即ち、S402)と絶対値化処理(即ち、S412)とを高速処理が可能なハードウエアで実施することにより、ソフトウエアによる信号処理を簡略化している。AD変換器(ADC)153におけるサンプリング周波数fsを図13の場合の8kHzからその1/4の2kHzに下げても、高精度且つ高効率の異常判定を可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(a)は本発明の異常診断装置を搭載した鉄道車両の概略平面図、そして(b)は同鉄道車両の概略側面図である。
【図2】車軸軸受と振動センサとの位置関係を例示する概略図である。
【図3】本発明に係る異常診断装置の第1実施形態のブロック図である。
【図4】異常診断装置による4チャネル分の振動データの取り込みおよびデータ解析のタイムチャートである。
【図5】図3の診断処理部の動作内容を示すフローチャートである。
【図6】車軸軸受の傷の部位と、傷に起因して発生する振動発生周波数の関係を示す図である。
【図7】本発明に係る異常診断装置の第2実施形態のブロック図である。
【図8】本発明に係る異常診断装置の第3実施形態のブロック図である。
【図9】図8の診断処理部の動作内容を示すフローチャートである。
【図10】本発明に係る異常診断装置の第4実施形態のブロック図である。
【図11】本発明に係る異常診断装置の第5実施形態のブロック図である。
【図12】本発明に係る異常診断装置の第6実施形態のブロック図である。
【図13】本発明に係る異常診断装置の第6実施形態における診断処理部の動作内容を示すフローチャートである。
【図14】(a)は軸受はく離診断用データと車輪フラット診断用データの時間−周波数平面上における関係を示す概念図、そして(b)は軸受と車輪の周波数範囲の関係を示す概念図である。
【図15】本発明に係る異常診断装置の第7実施形態における診断処理部の動作内容を示すフローチャートである。
【図16】(a)および(b)は第8実施形態における診断処理部の部分ブロック図である。
【図17】本発明に係る異常診断装置の第8実施形態における診断処理部の動作内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
100 鉄道車両
101 車輪
110 回転支持装置
111 振動センサ
130 車軸軸受
150 異常診断装置
150A センサ信号処理部
150B 診断処理部
152 マルチプレクサ
162 SRAM
165 1回転信号分周回路
171 増幅器
172 濾波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動特性の異なる複数の部品を有する機械装置の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを第1の振動特性の部品診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを第2の振動特性の部品診断用の振動データとして処理することを特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
鉄道車両の車軸軸受および車輪の異常診断装置であって、
車軸軸受および車輪の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に車軸軸受および車輪の異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつ一定周期毎の区間に分割し、1区間分の振動データを軸受診断用の振動データとして処理するとともに、1区間分の振動データの先頭にその1つ前の区間の最後の所定時間分のデータを継ぎ足したものを車輪診断用の振動データとして処理することを特徴とする異常診断装置。
【請求項3】
前記診断処理部が、車軸軸受の回転速度と振動のエンベロープ波形を処理して得られる周波数ピークとに基づいて車軸軸受の異常を検出し、車輪の回転に同期して生じる振動のレベルが閾値を超える頻度に基づいて車輪の異常を検出し、それぞれの異常の検出結果に基づいて異常診断を行なうことを特徴とする請求項2記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記信号処理手段が、
複数の振動センサの出力信号を1チャネルずつ切換えてサンプリングすることを特徴とする請求項2〜3のいずれか一項記載の異常診断装置。
【請求項5】
振動センサの出力信号を車輪の回転に同期してサンプリングし加算平均処理して得られる振動データを基に車軸軸受および車輪の異常診断を行なうように構成したことを特徴とする請求項3または4記載の異常診断装置。
【請求項6】
振動特性の異なる複数の部品を有する機械装置の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつそれを第1の振動特性の部品診断用と第2の振動特性の部品診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理することを特徴とする異常診断装置。
【請求項7】
鉄道車両の車軸軸受および車輪の異常診断装置であって、
前記機械装置の振動を検出する振動センサの出力信号をサンプリングするセンサ信号処理部と、
前記センサ信号処理部によりサンプリングした振動データを基に異常診断を行なう診断処理部と、
を備え、
前記診断処理部が、
前記センサ信号処理手段からの振動データを連続して取り込みつつそれを車軸軸受診断用と車輪診断用のサンプリング周波数またはサンプリング長の異なる2種類のデータに変換して処理することを特徴とする異常診断装置。
【請求項8】
車軸軸受と車輪それぞれについて複数回異常検出を実施し、それぞれの複数回分の集計値から統計的に異常診断を行なうことを特徴とする請求項3、4、5、7のいずれか一項記載の異常診断装置。
【請求項9】
異常を検出する際に使用したデータを保存しておく機能を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−170815(P2007−170815A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289152(P2005−289152)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】