説明

異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法

【課題】 球状非架橋有機樹脂粒子から異形化フィラーを製造する方法において、粒子を異形化する装置にかかる負荷をできるだけ低くし、且つ微粉の副生も抑制すること。
【解決手段】 球状ポリメチルメタクリレート粒子等の球状非架橋有機樹脂粒子を加熱、好適には、非架橋有機樹脂の融点近傍から、融点よりも100℃高い温度範囲で加熱して融着させ、得られた融着粒子塊を、解砕処理後の粒子の平均粒径が、融着に供した球状非架橋有機樹脂粒子の平均粒径と実質的に変動しないように解砕して異形化非架橋有機樹脂フィラーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法に関する。詳しくは、粉液型硬化性材料の粉材として好適に使用される異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着材や充填修復材として、粉末状の成分と液状の成分とからなり、この両者を混合することにより、得られたペースト中で硬化反応を開始、進行させる硬化性組成物(以下、「粉液型硬化性材料」ともいう)が広く一般工業界において用いられている。歯科分野においても例外ではなく、例えば、メチルメタクリレート等のラジカル重合性単量体を主とする液材と、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等の非架橋有機樹脂フィラーを主とする粉材を混合することにより硬化させる、歯科用レジンセメント、義歯床材料、即時重合レジンなどが市販されている(以下、これらを「粉液型歯科用硬化性材料」ともいう)。すなわち、こうした粉液型硬化性材料には、レドックス系等のラジカル重合開始剤が配合されており、その作用により、ラジカル重合性単量体の重合反応が進行し、ペーストは硬化する。また、この時、前記非架橋有機樹脂フィラーの一部は、該ラジカル重合性単量体に徐々に溶解していき粘性を増加させ、ペーストの操作性を高め、さらには上記重合反応も促進する。
【0003】
翻って、上記粉液型歯科用硬化性材料においては、粉材と液材の混合後、ペーストが硬化するまでの間に、歯科医が歯科治療に供するに十分な操作時間(この操作時間を「可使時間」と称する;一般的には、40秒〜2分、より好適には1〜3分が良好とされている)が確保されることが必要であり、上記非架橋有機樹脂フィラーのラジカル重合性単量体への溶解速度は、あまりに速すぎても好ましくは無いが、硬化時間を早め(硬化時間は、一般的には遅くても7分以内、特に、5分以内が良好とされている。)、患者を早期に健常な状態に回復させることを勘案すれば一定の迅速さが求められる。したがって、上記粉材に含有させる非架橋有機樹脂フィラーは液材と混合した際に溶解し易くするために、球状のものよりも、液材との接触面積が多くなる、比表面積が大きい不定形のものが好適に使用される。具体的には0.5〜3.0m/g程度、より好適には0.6〜2.0m/g程度のBET比表面積値を有する粒子が適しており、これらは一般に5〜200μm程度、より好適には7〜100μm程度の平均粒径を有している。
【0004】
しかして、該不定形な非架橋有機樹脂フィラーは、懸濁重合法や乳化重合法により製造された球状非架橋有機樹脂粒子をボールミルやジェットミル・振動ミル等を用いて機械的に粉砕し異形化することにより得るのが一般的である(例えば、非特許文献1参照)。また、この球状非架橋有機樹脂粒子の効率的な粉砕方法として、凍結粉砕法を行うことも知られている(非特許文献2参照)。
【0005】
【非特許文献1】小菅,「歯科材料・器械」,日本歯科理工学会,平成12年,第19巻,第1号,p.92−101
【非特許文献2】池田,「粉砕・分級と表面改質」,第1版,粉体工学会,2001年4月,p.145‐146
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記球状非架橋有機樹脂粒子の機械的粉砕は、通常、該粒子は弾性に富むため容易ではなく、これは凍結粉砕法を適用しても満足できるものではなかった。したがって、粉砕時間の長時間化が避けられず、粉砕装置への負荷が増すことが問題であった。
【0007】
また、十分に粉砕しようと高負荷条件で粉砕装置を運転した場合には、目的とする粒径の異形化粒子の他に、粒径が極度に小さい微粉が大量に副生する問題も生じていた。具体的には、4μm以下の粒径の微粒子の生成である。しかして、この場合、製造する異形化粒子を前記粉液型歯科用硬化性材料の粉材用フィラーとして用いると、該粉材を液材と混合した際には、上記微粉が僅かな時間で直ぐに液材に溶解してしまい、その粘度を混合初期から増大させ、十分な可使時間が確保できなくなる問題を引き起こしていた。
【0008】
従って、球状非架橋有機樹脂粒子を機械的に粉砕して異形化フィラーを製造する方法においては、粒子を異形化する装置にかかる負荷をできるだけ低くすることが望ましく、さらに、微粉の副生も抑制するのが好ましく、改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った。その結果、球状非架橋有機樹脂粒子同士を加熱して融着させ、次いでこれを解砕する異形化処理を行うことで、前記装置への低負荷運転が可能となり、更には微粉の混入も大きく低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、球状非架橋有機樹脂粒子を加熱して融着させ、得られた融着粒子塊を解砕することを特徴とする異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法である。
【0011】
この異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法において、球状非架橋有機樹脂粒子を融着させるための加熱を、非架橋有機樹脂の融点近傍から、200℃を超えない範囲で且つ融点よりも100℃高い温度範囲で実施するのが好ましい。
【0012】
また、異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法において、融着粒子塊の解砕を、解砕処理後の粒子の平均粒径が、融着に供した球状非架橋有機樹脂粒子の平均粒径に対して±20%以内の変化率であるように実施するのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法は、球状非架橋有機樹脂粒子を原料とし、これを加熱溶融した融着粒子塊を解砕するものであり、引き剥がされた各粒子は、該融着面近傍が粗面化しているため異形化し、もとの球状粒子よりも比表面積が大きく増大したものになる。したがって、粉液型歯科用硬化性材料における粉材として使用した場合には、溶解速度が速く、患者への負担が少ない早期に硬化するものになる。
【0014】
そして、本発明の製造方法では、前記融着粒子塊の解砕は、球状粒子を不定形になるまで細々に粉砕するのよりも簡単に実施でき、ボールミル等の機械的粉砕装置を用いたとしても低負荷運転で達成できる。加えて、このように粒子に対する負荷が小さいため、微粉の副生も大きく低減させることができる。したがって、上記粉液型歯科用硬化性材料の粉材として用いた場合、前記硬化時間が早いだけでなく、粉材と液材を混合した初期の粘度上昇を穏やかなものにすることができ、良好な筆積み性で、可使時間を十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、球状非架橋有機樹脂粒子を加熱して融着させ、得られた融着粒子塊を解砕することにより非架橋異形化有機樹脂フィラーを製造する。
【0016】
原料である球状粒子を構成する有機樹脂は、製造される異形化フィラーを粉液型硬化性材料に用いた場合において、液材のラジカル重合性単量体に溶解可能とするため、非架橋のものを使用する。このような非架橋有機樹脂としては、例示すれば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体等のポリアルキルメタクリレート類;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリスチレン類等である。粉液型硬化性材料の粉材として使用した際に、得られる硬化体の強度が高くなることから、ポリアルキルメタクリレート類を使用することが好ましい。更には、歯科用接着性レジンセメントに使用する等の特に高い硬化体靭性が必要な場合は、ポリメチルメタクリレートを用いることが、より好ましい。無論、これらの球状非架橋有機樹脂粒子は、非架橋有機樹脂の種類が異なる2種以上を併用しても良い。これらの非架橋有機樹脂は、通常、重量平均分子量が3万〜100万、より好適には10万〜50万のものが使用される。
【0017】
なお、本発明において、非架橋有機樹脂粒子が球状であるとは、粒子が全体的に丸みを帯びていることを意味し、真球状のものが最も好ましいが、必ずしも真球状である必要はなく、略球状であってもよい。具体的には、走査型や透過型の電子顕微鏡で球状非架橋有機樹脂粒子の写真をとり、その単位視野内に観察される粒子を無作為に100個選択し、各々について粒子の最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した平均均斉度が0.6以上の粒子であるのが好ましく、0.8以上の粒子であるのが特に好ましい。
【0018】
斯様な球状非架橋有機樹脂粒子のBET比表面積は、微粉を少なくするという観点および懸濁重合法により均一な粒度分布の粒子を得た場合の通常の上限値という観点、さらには得られる異形化非架橋有機樹脂フィラーの前記粉液型歯科用硬化性材料の粉材への適正も考察すれば0.05〜2.0m/gであるのが好ましく、0.1〜1.5m/gであるのがより好ましい。特に、粉液型歯科用硬化性材料、特に歯科用接着性レジンセメントに使用した場合において、塗布時の筆積み性が良好であり、被膜厚さも薄くなることから、0.3〜1.2m/gであるのが最も好ましい。これらのBET比表面積値を有する球状非架橋有機樹脂粒子が通常有する平均粒径を示せば、5〜200μmであり、7〜100μmがより好ましく、10〜50μmが最も好ましい値になる。
【0019】
なお、本発明において有機樹脂粒子のBET比表面積は、窒素吸着法により測定した値(m/g)である。具体的には、JISZ8830に規定される方法にしたがって、粒子を25℃にて4時間真空乾燥処理した後に比表面積値を測定する。この乾燥に際して、表面に吸着物質の除去を目的とした加熱処理を行なうと粒子が再融着し比表面積が変化する危険性があるので、斯様な可熱処理は行なわない。
【0020】
また、有機樹脂粒子の平均粒径は、Mie散乱理論に基づく、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置により測定した、体積基準で表示したメジアン径である。この測定方法によれば、単分散する粒子の粒径はそのまま一次粒径として測定され、他方、凝集粒子の粒径は凝集粒径として測定されるので、粒径の測定においては、水、エタノール、または水とエタノールの混合溶媒等に必要に応じて界面活性剤を使用して有機樹脂粒子を超音波処理等により実用上、十分なレベルまで分散させたものを被測定試料とする。無論、上記分散溶媒は有機樹脂粒子が溶解または膨潤しないものを使用する。
【0021】
上記球状非架橋有機樹脂粒子は、懸濁重合法や乳化重合法により製造するのが一般的であり、その製造方法は既に種々公知であり、これ等に従えば良い。
【0022】
次に、上記球状非架橋有機樹脂粒子を融着する方法について説明する。
本発明において、球状非架橋有機樹脂粒子の融着は、複数の粒子が、その表面の一部で互いに融合して連接した状態をいう。具体的には、粒子を常圧下で静置した状態で加熱して、その表面を融解させ、接する粒子同士を、接触箇所近傍で融合させ融着粒子塊とする。融着が均一に行なえる観点から、粒子が流動しない強さで送風して加熱処理するのは好適な態様である。
【0023】
上記融着する際の加熱温度の下限値は該粒子を構成する非架橋有機樹脂の融点近傍である。ここで、有機樹脂は必ずしも融点に達していなくても、その近傍、一般には該融点から10℃程度低い温度ではすでに相当に軟化しており、粒子同士の接触点では十分に融合可能になる。したがって、融着温度の下限値は、上記非架橋有機樹脂の融点だけでなく、上記程度低い近傍でも許容できるが、より十分に融着させるためには、融点以上であるのが好ましく、さらには融点よりも30℃高い温度、特に40℃高い温度であるのがより好ましい。
【0024】
他方、融点よりもあまり高温に曝すと、粒子同士の融合度合いが高まり、粒子個々の独立性が低下し一体化して、次工程における解砕が困難になる。これらを勘案して、加熱温度の上限値は、200℃を超えない範囲、より好適には180℃を超えない範囲で且つ融点よりも100℃高い温度である。また、粒子を過度に融合させ
る要因は、上記加熱温度の他にも、加熱時間やは粒子の粒径も関与するため、効率的な加熱時間である5分〜24時間(より好適には20分〜15時間)、前記球状非架橋有機樹脂粒子の好適な平均粒子径5〜200μm(より好適には7〜100μm)の条件で、上記加熱温度のさらなる好適な上限を特定すれば、融点よりも90℃高い温度になる。すなわち、前記好適な平均粒径の球状非架橋有機樹脂粒子を用い、上記温度で加熱するのであれば、加熱時間を前記24時間を越えない範囲で長くしても、得られる融着体は、通常、粒子が連接した状態に留まり、過度に融合が進行して一体化するようなことはない。
【0025】
なお、球状非架橋有機樹脂粒子を形成する有機樹脂の融点は、示差走査熱量測定法(DSC)や示差熱分析法(DTA)により実測すれば良い。
【0026】
本発明において、上記方法により得られた融着粒子塊は、再度、個々の非架橋有機樹脂粒子に解砕される。しかしながら、この解砕は、融着する各粒子を引き剥がすだけであるので、砕料を不定形になるまで細々に粉砕するよりも格段に簡単に行える。すなわち、融着粒子塊の解砕は、ボールミル等の機械的粉砕装置を用いたとしても、低負荷の運転で達成できる。
【0027】
ここで、上記解砕に用いる機械的粉砕装置としては、振動ボールミル、回転ボールミル、遊星ミル等のボールミル(容器駆動媒体ミル)類の他、衝撃破砕機(ハンマークラッシャー)、遠心ローラミルやゼゴミル等のローラミル、高速回転ミル(衝撃せん断ミル)、乳鉢等のらい解機、湿式ミル等の媒体攪拌ミル、またはジェットミル等が制限なく使用できる。このうち、多量に処理し易く、且つ低負荷運転し易い等の理由から、回転ボールミルを使用するのが特に好ましい。
【0028】
上記機械的粉砕装置の夫々は、前記球状非架橋有機樹脂粒子の融着粒子塊が、前記解砕される低負荷運転で使用されるものであり、個々の非架橋有機樹脂粒子自体が破壊されるような高負荷な条件では使用しない。ここで、微粉とは、前記したように、異形化樹脂フィラーを粉液型歯科用硬化性材料の粉材用に用いた場合において、十分な可使時間の確保の妨げになる4μm以下の粒径の微粒子を言う。
【0029】
上記機械的粉砕装置の低負荷運転は、解砕処理後の粒子と融着に供した球状非架橋有機樹脂粒子の平均粒径が実質的に同等であり、粒子塊の残存や、微粉の生成は実用上無視できる量であるように実施する。具体的には、解砕処理後の粒子の平均粒径が、融着に供した球状非架橋有機樹脂粒子の平均粒径に対して±20%以内、好ましくは±10%以内の変化率であるように実施するのが好ましい。なお、解砕されて生成した異形化粒子は、融着面の粗面化の激しさ等によっては、その粒径が、原料であった球状非架橋有機樹脂粒子の粒径よりも若干大きくなることもあり得る。
【0030】
さらに、本発明では、解砕処理後の粒子において、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合が5%以下、より好ましくは2%以下であるように、解砕を実施するのが良好である。
【0031】
このような低負荷な機械的粉砕装置の運転は、砕料を粉砕して不定形フィラーを製造する場合における通常の激しい運転条件でも、運転時間を短時間化することで実施可能である。すなわち、解砕の運転時間は、通常5分〜50時間、好適には5時間〜40時間の範囲から採択されるが、同じBET比表面積のフィラーを製造するのであれば、上記砕料を粉砕して不定形フィラーを製造する場合に比較して、同じ運転条件で、少なくとも1/2以下に短時間化することができる。無論、機械的粉砕装置の運転条件を、よりマイルドにすれば、運転時間が比較的長時間化しても、装置への負荷が少なく、微粉も発生し難い状態で解砕できるため、運転制御が容易であり好ましい。
【0032】
粉砕装置が回転ボールミルである場合を例に、その運転条件を示せば、回転数は5〜200r.p.m.であることが好ましく、10〜100r.p.m.であることがより好ましい。また、ボールの材質も何ら制限なく使用できるが、比重は4.5g/cmより小さいものが低負荷であるため好ましく、アルミナボールや樹脂製のボールを用いることが特に好適である。ボールの大きさとしては、直径1〜40mmであることが好ましく、5〜30mmであることがより好ましい。さらに、装置内に投入する球状非架橋有機樹脂粒子は、ボールの全質量に対して1〜30%の質量であることが好ましく、5〜20%であることがより好ましい。
【0033】
なお、上記解砕をより均一に行う目的で、該融着粒子塊の解砕に先立って、ロールクラッシャー等の圧縮破砕機やカッターミル等のせん断粗砕機を用いて、融着粒子塊を小粒、具体的には最大粒径が1cm程度の大きさに粗砕しておくことは好適な態様である。
【0034】
さらに、上記解砕により製造された非架橋異形化有機樹脂フィラーは、必要により篩処理を行い、粗大粒子が混入していた場合において除去しても良い。
【0035】
以上説明した、本発明の方法により製造される非架橋異形化有機樹脂フィラーは、通常、BET比表面積が0.5〜3.0m/gであり、このうち、0.6〜2.0m/gのもの、さらには特に0.7〜1.5m/gのものは粉液型歯科用硬化性材料の粉材に適している。通常、本発明の方法により異形化することにより、得られる異形化非架橋有機樹脂フィラーのBET比表面積は、原料である球状非架橋有機樹脂粒子のBET比表面積よりも少なくとも1.05倍以上に増大し、好適には1.10〜8倍、さらに好適には1.20〜5倍に増大する。また、この非架橋異形化有機樹脂フィラーの平均粒径は、通常、5〜200μmであり、このうち粉液型歯科用硬化性材料の粉材に適したものは、7〜100μm、さらには10〜50μmのものである。
【0036】
斯様な性状を有する非架橋異形化有機樹脂フィラーは、粉液型硬化性材料、の粉材用フィラー、特に、上記したように歯科用の該材料の粉材用フィラーに好適であり、具体的には、歯科用レジンセメント、義歯床材料、即時重合レジン等が挙げられる。最も好ましくは、歯科用レジンセメントの粉材用フィラーである。これらの粉液型硬化性材料は、通常、メチルメタクリレート等のラジカル重合性単量体を主成分として含む液材と、本発明の方法により得られる非架橋異形化有機樹脂フィラーを主成分として含む粉材の2包装に分けられ、該液材と粉材のいずれか一方、または両方には有効量の重合開始剤が含有される態様をしている。
【実施例】
【0037】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例および比較例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、各物性値の測定は以下の方法により実施した。
(1)粒子のBET比表面積;
粒子のBET比表面積は、窒素吸着法BET測定装置(「フローソーブ2」、マイクロメリティック社製)により測定した。具体的には、ガラスサンプル瓶に1.2gの粒子を入れ、デシケーター中で25℃にて4時間真空乾燥処理した試料を用いて、「フローソーブ2」の手順に従い、比表面積値を測定した。なお、デガス処理は加熱せず、25℃にて実施した。測定セルには、0.8gの試料を添加し測定した。
(2)粒子の平均粒径;
Mie散乱理論に基づく、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(「LA950」、堀場製作所製)により測定した。具体的には、0.05%の市販界面活性剤(家庭用洗剤)を含む水を分散媒として使用し、あらかじめ測定試料を、超音波洗浄器で2分間処理して分散させた懸濁液を、測定試料とした。「LA950」の操作手順に従い、平均粒子径ならびに粒度分布を測定した。なお、平均粒子径は体積基準で表示したメジアン径の値を採用した。また、パラメータとして使用する、粒子の屈折率は、PMMAおよびPEMAのいずれも1.49であった。なお、分散媒である水の屈折率は1.33であった。
(3)球状非架橋有機樹脂粒子の融点;
融点は、示差熱分析装置(「EXSTAR6000」、Seiko Instruments製)を使用し測定した。測定条件は、約10mgの試料を使用し、リファレンスには約17gのAlを使用し、温度プログラム20℃から200℃まで10℃/分で昇温し、50ml/分のアルゴンガス雰囲気下で測定した。
【0038】
実施例1
懸濁重合法により調製した、平均粒径17.8μm、重量平均分子量35万、BET比表面積値0.40m/g、融点116.5℃のポリメチルメタクリレート(PMMA)製の球状非架橋有機樹脂粒子の120gを10cm×15cmのステンレス製バットに入れ、送風乾燥機(商品名「Fine Oven DF42」 ヤマト科学株式会社製)にて静置状態で、155℃、8時間加熱処理を行い融着させた。
【0039】
次いで、得られた融着粒子塊を、ロールクラッシャーのローラー間隔を5mmに設定し粗砕を行い、粒径が大きいものでも10mmの粗砕物を得た。さらに、内容積1Lの樹脂ポット(ナイロン製、内径110mm、内高100mm)にアルミナ製ボールを内容積の約80%(直径20mmの球状のアルミナボールの800gと直径25mmの球状のアルミナボールの550g)、および100gの粗砕物を投入し、回転数80r.p.m.にて回転ボールミルを使用し解砕処理を8時間行い異形化PMMA1フィラーを製造した。
【0040】
得られた異形化PMMA1フィラーのBET比表面積値は0.71m2/gであった。また、異形化PMMA1の平均粒径は18.2μmであり、その変化率は粒径が増加する方向に2.8%であった。さらに、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.2%であった。
【0041】
実施例2
実施例1において、回転ボールミルによる融着粒子塊の解砕時間を35時間に変更し、その他は実施例1と同様の条件下で実施して、異形化PMMA2フィラーを製造した。
【0042】
異形化PMMA2フィラーのBET比表面積値0.87m2/gであった。また、異形化PMMA2フィラーの平均粒径は19.1μmであり、その変化率は粒径が増加する方向に変化率は6.8%であった。さらに、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.4%であった。
【0043】
実施例3
懸濁重合法により調製した、平均粒径42.8μm、重量平均分子量25万、BET比表面積値0.36m/g、融点68.5℃のポリエチルメタクリレート(PEMA)製の球状非架橋有機樹脂粒子120gを実施例1と同様の条件で融着させた。
【0044】
次いで、得られた融着粒子塊について、実施例1と同様の粗砕処理および解砕処理を行い、異形化PEMA1フィラーを製造した。
【0045】
得られた異形化PEMA1フィラーのBET比表面積値は0.40m2/gであった。また、異形化PEMA1フィラーの平均粒径は46.9μmであり、その変化率は粒径が増加する方向に9.6%であった。さらに、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.6%であった。
【0046】
実施例4
懸濁重合法により調製した、平均粒子径40.8μm、重量平均分子量30万、BET比表面積値0.37m/g、融点116.5℃のPMMA製の球状非架橋有機樹脂粒子120gを実施例1と同様の条件で融着させた。
【0047】
次いで、得られた融着粒子塊について、実施例1と同様の粗砕処理および解砕処理を行い、異形化PMMA3フィラーを製造した。
【0048】
得られた異形化PMMA3フィラーのBET比表面積値は0.63m2/gであった。また、異形化PMMA3フィラーの平均粒径は42.2μmであり、その変化率は粒径が増加する方向に3.4%であった。さらに、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.4%であった。
【0049】
実施例5
懸濁重合法により調製した、平均粒子径80.6μm、重量平均分子量30万、BET比表面積値0.20m/g、融点116.5℃のPMMA製の球状非架橋有機樹脂粒子の120gを実施例1と同様の条件で融着させた。
【0050】
次いで、得られた融着粒子塊について、実施例1と同様の粗砕処理および解砕処理を行い、異形化PMMA4フィラーを製造した。
【0051】
得られた異形化PMMA4フィラーのBET比表面積値は0.41m2/gであった。また、異形化PMMA4フィラーの平均粒径は84.1μmであり、その変化率は粒径が増加する方向に4.3%であった。さらに、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.5%であった。
【0052】
実施例6
懸濁重合法により調製した、平均粒子径151.7μm、重量平均分子量30万、BET比表面積値0.10m/g、融点116.5℃のPMMA製の球状非架橋有機樹脂粒子の120gを実施例1と同様の条件で融着させた。
【0053】
次いで、得られた融着粒子塊について、実施例1と同様の粗砕処理および解砕処理を行い、異形化PMMA5フィラーを製造した。
【0054】
次いで、得られた融着粒子塊について、実施例1と同様の粗砕処理および解砕処理を行い異形化PMMA5フィラーを製造した。
【0055】
得られた異形化PMMA5フィラーのBET比表面積値は0.26m2/gであった。また、異形化PMMA5フィラーの平均粒径は158.2μmであり、その変化率は粒径が増加する方向に5.6%であった。さらに、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.5%であった。
【0056】
実施例7
懸濁重合法により調製した、平均粒子径40.8μm、重量平均分子量30万、BET比表面積値0.37m/g、融点116.5℃のPMMA製の球状非架橋有機樹脂粒子の120gを実施例1と同様の条件で融着させた。次いで、得られた融着粒子塊について、実施例1と同様の粗砕処理を行った。
【0057】
内容積1Lの樹脂ポット(ナイロン製、内径110mm、内高100mm)にアルミナ製ボールを内容積の約80%(直径20mmの球状のアルミナボールの800gと直径25mmの球状のアルミナボールの550g)、および上記粗砕処理を行った融着粒子塊を100g投入し、振動ボールミル(ニューライトミル 中央化工機工業株式会社製)を使用し振動数1200r.p.m.にて解砕処理を1時間行い、異形化PMMA6フィラーを製造した。
【0058】
得られた異形化PMMA6フィラーのBET比表面積値は2.2m2/gであった。また、異形化PMMA6フィラーの平均粒径は35.5μmであり、その変化率は粒径が減少する方向に13.1%であった。また、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は2.2%であった。
【0059】
実施例8
実施例1において、平均粒子径17.8μm、重量平均分子量35万、BET比表面積値0.40m/g、融点116.5℃のポリメチルメタクリレート(PMMA)製の球状非架橋有機樹脂粒子の融着温度を165℃に変更し、その他は実施例1と同様の条件下で実施して、異形化PMMA7フィラーを製造した。
【0060】
得られた異形化PMMA7フィラーのBET比表面積値は1.4m2/gであった。また、異形化PMMA7フィラーの平均粒径は17.7μmであり、その変化率は粒径が減少する方向に0.1%であった。また、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.7%であった。
【0061】
実施例9
実施例1において、融着温度を130℃に変更し、その他は実施例1と同様の条件下で実施して、異形化PMMA8フィラーを製造した。
【0062】
異形化PMMA8フィラーのBET比表面積値0.56m2/gであった。また、異形化PMMA8フィラーの平均粒径は18.3μmであり、その変化率は粒径が増加する方向に変化率は2.8%であった。さらに、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.0%であった。
【0063】
実施例10
実施例1において、融着時間を30分に変更し、その他は実施例1と同様の条件下で実施して、異形化PMMA9フィラーを製造した。
【0064】
異形化PMMA9フィラーのBET比表面積値0.69m2/gであった。また、異形化PMMA9フィラーの平均粒径は18.0μmであり、その変化率は粒径が増加する方向に変化率は1.1%であった。さらに、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.2%であった。
【0065】
実施例11
実施例1において、融着時間を13時間に変更し、その他は実施例1と同様の条件下で実施して、異形化PMMA10フィラーを製造した。
【0066】
異形化PMMA10フィラーのBET比表面積値0.74m2/gであった。また、異形化PMMA10フィラーの平均粒径は18.5μmであり、その変化率は粒径が増加する方向に変化率は3.9%であった。さらに、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.2%であった。
【0067】
比較例1
内容積1Lの樹脂ポット(ナイロン製、内径110mm、内高100mm)に対し、アルミナ製ボールを内容積の約80%(直径20mmの球状のアルミナボールの800gと直径25mmの球状のアルミナボールの550g)、および懸濁重合法により調製した、平均粒子径17.8μm、重量平均分子量35万、BET比表面積値0.40m/g、融点116.5℃のPMMA製の球状非架橋有機樹脂粒子の100gを投入し、回転数80r.p.m.にて回転ボールミルを使用し8時間処理し未融着PMMA1フィラーを製造した。
【0068】
得られた未融着PMMA1フィラーのBET比表面積値は0.40m2/gであった。また、平均粒子径は17.8μmであり、その変化率は0.0%であった。また、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は0.2%であった。
【0069】
上記のとおり未融着PMMA1フィラーのBET比表面積値は、8時間の処理では変化がなく、原料とほぼ変わらない形態であった。
【0070】
比較例2
内容積1Lの樹脂ポット(ナイロン製、内径110mm、内高100mm)にアルミナ製ボールを内容積の約80%(直径20mmの球状のアルミナボールの800gと直径25mmの球状のアルミナボールの550g)、および100gの懸濁重合法により調製した、平均粒子径40.8μm、重量平均分子量30万、BET比表面積値0.37m/g、融点116.5℃のPMMA製の球状非架橋有機樹脂粒子を投入し、振動ボールミル(ニューライトミル 中央化工機工業株式会社製)を使用し振動数1200r.p.m.にて処理時間を8時間行い未融着PMMA2フィラーを製造した。
【0071】
得られた未融着PMMA2フィラーのBET比表面積値は3.2m2/gであった。また、未融着PMMA3フィラーの平均粒径は18.3μmであり、その変化率は粒径が減少する方向に55.1%であった。また、全粒子の体積の総和に占める、4μm以下の粒径の微粒子の該値の割合は11.7%であった。
【0072】
応用例1〜7,比較応用例1〜2
応用例および比較応用例で使用した化合物とその略称を下記に示した。
[ラジカル重合性単量体]
MMA;メチルメタクリレート
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
UDMA;1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサンと1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,4,4−トリメチルヘキサンの混合物
D2.6E;2,2−ビス[(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]
MMPS;2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
DMEM;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート
[重合禁止剤]
BHT;ジブチルヒドロキシトルエン
[重合開始剤]
PhBTEOA;テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
[バナジウム化合物]
BMOV;ビス(マルトラート)オキソバナジウム(4価)
【0073】
77.9質量%のMMAと15質量%のUDMAと4質量%のHEMAと3質量%のPhBTEOAと0.1質量%のBHTの混合物からなる組成の液材に、表1に示した非架橋樹脂フィラーの98質量%と2質量%のMMPSとからなる各粉材を組合せ、粉液型歯科用レジンセメントを各製造した。
【0074】
これら各粉液型歯科用レジンセメントについて、下記に示す、可使時間の評価(1)、硬化時間の評価(2)、並びにエナメル質に対する接着強度(3)を測定し、結果を表1に示した。
【0075】
(1)可使時間の評価方法
23℃において、粉材と液材の比率が質量比で1.1:1.0となるように混合し、粉材と液材とを混合した時点をスタートとし、攪拌用ヘラを使用し5秒間隔でかき混ぜながら、ペーストが糸引き状となりヘラにつくようになる時点を可使時間の終了時間とした。前記したように可使時間は40秒〜2分、特には1〜3分が好適とされている。
【0076】
(2)硬化時間の評価方法
熱電対の先にアルミ箔を巻き、それを硬化時間測定用モールド(厚さ1mmのワックスシートに直径6mmの穴を開けたもの)2個ではさんだ。次に室温(23℃)で、粉材と液材の比率が質量比で1.1:1.0となるように混合し、得られたセメントペーストをモールドに流し込み、混和開始後1分後に37℃恒温槽に入れた。混和開始から最大発熱点までの時間を測定し、硬化時間とした。前記したように硬化時間は、一般的には遅くとも7分以内、特には5分以内が良好とされている。
【0077】
(3)エナメル質に対する接着強度
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に、歯科用プライマー(20質量%のPMと0.2質量%のBMOVと30質量%の水と3質量%のDMEMと10質量%のイソプロピルアルコールと35質量%のアセトンおよび2質量%のD2.6Eの混合物からなる組成)を歯面に塗布し、20秒間放置した後圧縮空気を約5秒間吹き付けた。その後、粉液型歯科用レジンセメントの粉材と液材とを質量比で1.1:1.0となるように混合し、この混合物を模擬窩洞内に充填した後、その上から直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して、接着試験片を作製した。接着試験片は各条件につき5個作製し、平均値および標準偏差を調べた。
【0078】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにてエナメル質との接着強度を測定した。
【0079】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状非架橋有機樹脂粒子を加熱して融着させ、得られた融着粒子塊を解砕することを特徴とする異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法。
【請求項2】
球状非架橋有機樹脂粒子を融着させるための加熱を、非架橋有機樹脂の融点近傍から、200℃を超えない範囲で且つ融点よりも100℃高い温度範囲で実施する請求項1記載の異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法。
【請求項3】
融着粒子塊の解砕を、解砕処理後の粒子の平均粒径が、融着に供した球状非架橋有機樹脂粒子の平均粒径に対して±20%以内の変化率であるように実施する請求項1または請求項2に記載の異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法。
【請求項4】
非架橋有機樹脂が、ポリメチルメタクリレートである請求項1〜3のいずれか一項に記載の異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法。
【請求項5】
粉液型歯科用硬化性材料における粉材用である請求項1〜4のいずれか一項に記載の異形化非架橋有機樹脂フィラーの製造方法。

【公開番号】特開2010−150480(P2010−150480A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332647(P2008−332647)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】