説明

異方性導電接着材の除去方法

【課題】 基板の接続端子部に残されている異方性導電接着材の残渣を、短時間でリード電極に傷を付けるおそれなく、良好な作業環境下できれいに除去する。
【解決手段】 基板の接続端子部11aに電子部品を電気的・機械的に接続するために用いられた異方性導電接着材12を接続端子部11aから除去するにあたって、異方性導電接着材12に対して、その異方性導電接着材12に含まれている絶縁性樹脂のガラス転移温度以上に加熱された水蒸気を吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リペアのために電子部品が取り去られて基板の接続端子部上に残された異方性導電接着材を除去する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異方性導電接着材は、絶縁性樹脂内に導電性粒子を含ませた導電接着材で、多数の接続リード端子同士を一括して電気的かつ機械的に接続する場合に用いられる。熱硬化型と紫外線硬化型とがあり、フィルム状にしたものがACF(anisotropic conductive film)と呼ばれる異方性導電フィルムである。
【0003】
液晶表示パネルでは、その端子部にチップ部品を実装する場合やフレキシブル基板を接続する場合に用いられているが、これらの電子部品を接続したのちの検査で接続不良と判定された場合には、コスト的な観点および産業廃棄物対策上の観点から、一旦接続した電子部品を取り去り、できるだけリペア(再利用)するようにしている。
【0004】
このリペア時の問題として、チップ部品やフレキシブル基板などの電子部品は異方性導電接着材から比較的容易に剥がすことができるが、異方性導電接着材はテープ状のものであっても剥がしにくく、往々にして基板(液晶表示パネルでは端子部)側に残される。
【0005】
この異方性導電接着材の残渣を除去するため、特許文献1に記載の発明では、アセトンなどの有機溶剤を異方性導電接着材の残渣に塗布して膨潤させたのち、その残渣をブラシで擦りとるようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−197856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1による除去方法には、次のような問題がある。有機溶剤で異方性導電接着材を膨潤させるには長時間を要する(例えば、3〜24時間程度)。そればかりでなく、時間の管理にも注意を要する。すなわち、適正時間に達していない場合には膨潤不足となり、適正時間を過ぎると乾燥してしまう。特に、膨潤不足の状態でブラシやヘラなどで剥離を行うと、無理な剥離によりリード電極を傷つけることがある。
【0008】
また、有機溶剤の塗布量も次の点で問題となる。すなわち、連続したACFを介して複数の電子部品が基板に接続されており、その中の例えば一つの電子部品が接続不良でリペアしようとする場合、そのリペア部分に残されているACF残渣に対する有機溶剤の塗布量が多すぎると、他の正常に接続されている電子部品の部分にまで有機溶剤が浸透し、接続不良を引き起こすことがある。さらに、有機溶剤の使用は作業環境をも悪化させるので好ましくない。
【0009】
したがって、本発明の課題は、有機溶剤を用いることなく、基板の接続端子部に残されている異方性導電接着材の残渣を、短時間でリード電極に傷を付けるおそれなく、良好な作業環境下できれいに除去できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、基板の接続端子部に電子部品を電気的・機械的に接続するために用いられた異方性導電接着材を上記基板の接続端子部から除去する異方性導電接着材の除去方法において、上記異方性導電接着材に対して、上記異方性導電接着材に含まれている絶縁性樹脂のガラス転移温度以上に加熱された水蒸気を吹き付けることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1において、上記水蒸気を上記異方性導電接着材に吹き付けるにあたって、除去すべき上記異方性導電接着材の周りを筒状の枠体で囲むことを特徴としている。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、上記請求項2において、上記枠体内の少なくとも対向する一対の内壁面に沿って、上記異方性導電接着材に対して非接触で、かつ、上記内壁面との間に所定の隙間を形成する仕切板を設け、上記水蒸気を上記仕切板と上記枠体の内壁面との間から吹き込むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、異方性導電接着材に対して、その絶縁性樹脂のガラス転移温度以上に加熱された水蒸気を吹き付けることにより、異方性導電接着材が軟化し、基板と異方性導電接着材との界面の接着力が弱められるため、異方性導電接着材を綿棒などできれいに拭き取ることができる。また、水蒸気であることから作業環境が悪化することもない。
【0014】
水蒸気を異方性導電接着材に吹き付けるにあたって、除去すべき異方性導電接着材の周りを筒状の枠体で囲むようにした請求項2に記載の発明によれば、水蒸気を効率的に利用することができ、請求項1の効果がより高められるとともに、残渣を含んだ水が漏出しないため、電子部品が隣接して配置されている場合、他の電子部品に対して悪影響を与えることもない。
【0015】
また、枠体内の少なくとも対向する一対の内壁面に沿って、異方性導電接着材に対して非接触で、かつ、内壁面との間に所定の隙間を形成する仕切板を設け、水蒸気を仕切板と枠体の内壁面との間から吹き込むようにした請求項3に記載の発明によれば、異方性導電接着材の端部に水蒸気が集中してかけられるため、水蒸気による剥離作用を最大限発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、図1ないし図3により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
本発明は、基板の接続端子部上に残されている異方性導電接着材に対して、異方性導電接着材に含まれている絶縁性樹脂のガラス転移温度以上に加熱された水蒸気を吹き付けることを特徴とするものであるが、この実施形態の説明では、上記の温度以上に加熱された水蒸気を高温水蒸気という。高温水蒸気には純水または超純水を用いることが好ましい。
【0018】
図1に、この高温水蒸気により除去される異方性導電接着材を有する基板の接続端子部の一例として液晶表示パネル10を示す。この液晶表示パネル10は、図示しない周辺シール材を介して貼り合わされ、内部に液晶物質が封入された一対の透明電極基板11,12を備えており、その一方の透明電極基板11に接続端子部11aが連設されている。
【0019】
図示されていないが、接続端子部11aにはパネル内の透明電極に連なるリード電極が短冊状に形成されており、この例では、そのリード電極に異方性導電フィルム12を介して液晶駆動用の3つのベアチップ13が実装されるが、この場合、その中央に配置されるベアチップは接続後の検査により接続不良と判定され、異方性導電フィルム12上から取り外されている。したがって、図1のAで示す部分がリペア対象部分である。
【0020】
本発明において、異方性導電フィルム12に代えて異方性導電接着液が用いられてもよい。また、異方性導電接着材に含まれる絶縁性樹脂は、熱硬化型,紫外線硬化型のいずれであってもよい。
【0021】
上記リペア対象部分Aの異方性導電フィルム12に対して高温水蒸気を吹き付けるにあたって、図2に示す筒状の枠体20を用いることが好ましい。この枠体20は、リペア対象部分Aの周りを囲む大きさで、その下端には枠体内からの漏水を防止する意図で例えばシリコーンゴムからなるシール脚21が設けられている。
【0022】
なお、この例のように、テープ状をなす異方性導電フィルム12の一部分(リペア対象部分A)のみを剥がす場合、枠体20の幅を異方性導電フィルム12の幅よりも広くし、図3に示すように、異方性導電フィルム12の両端面12a,12aが高温水蒸気に晒されるようにすることが好ましい。
【0023】
より好ましくは、枠体20内に異方性導電フィルム12の両端面12a,12aに向けて高温水蒸気を吹き付けるための仕切板22を設ける。すなわち、枠体20内の少なくとも対向する一対の内壁面、この例では異方性導電フィルム12の両端面12a,12aに沿って配置される内壁面20a,20aとの間に所定の隙間を形成する仕切板22,22を設け、その隙間から高温水蒸気を吹き込むようにする。なお、図2に示すように、仕切板22を枠体20の4つの内壁面に対向する内枠として形成してもよい。
【0024】
異方性導電フィルム12に高温水蒸気を当てると、異方性導電フィルム12は軟化し始め、これにより異方性導電フィルム12と接続端子部11aの界面での接着力が低下することになる。
【0025】
また、異方性導電フィルム12の軟化の進行に伴って、上記界面に高温水蒸気が入り込みやすくなり、接着力がさらに弱められる。これは、接着のメカニズムが水素結合によるものであり、その水素結合が水分により切れるためである。この意味で、異方性導電フィルム12に対する高温水蒸気の吹き付け圧は高い方が好ましい。
【0026】
このように、本発明によれば、高温水蒸気の吹き付けにより異方性導電フィルム12が軟化して、接続端子部11aとの接着力が弱められるため、例えば綿棒などにより擦るだけで、リペア対象部分Aの異方性導電フィルム12を容易、かつ、きれいに剥がし取ることができる。時間的には、ほとんどの場合、3〜10分程度で除去作業を完了することができる。
【0027】
しかも、枠体20を用いることにより、図1のように、リペア対象部分Aに隣接して正常に接続されている他のベアチップ13が配置されている場合には、その他のベアチップ13に悪影響を与えることもない。
【0028】
さらには、枠体20内に仕切板22を設けて、図3に示すように、異方性導電フィルム12の両端面12a,12aに高温水蒸気を集中して吹き付けるようにすることにより、異方性導電フィルム12の剥離を一層促進させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、上記実施形態で説明した液晶表示パネルのみでなく、基板の接続端子部に異方性導電接着材を介してチップ部品やフレキシブル基板などの電子部品を接続する分野において、リペアなどのために接続端子部から異方性導電接着材を除去する場合のすべてに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態の説明用としてリペア部分を有する液晶表示パネルの接続端子部を示す斜視図。
【図2】本発明で好ましく用いられる枠体の一例を示す斜視図。
【図3】本発明の作用を説明するための模式的な断面図。
【符号の説明】
【0031】
10 液晶表示パネル
11a 接続端子部
12 異方性導電フィルム
13 ベアチップ
20 枠体
21 シール脚
22 仕切板
A リペア部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の接続端子部に電子部品を電気的・機械的に接続するために用いられた異方性導電接着材を上記基板の接続端子部から除去する異方性導電接着材の除去方法において、
上記異方性導電接着材に対して、上記異方性導電接着材に含まれている絶縁性樹脂のガラス転移温度以上に加熱された水蒸気を吹き付けることを特徴とする異方性導電接着材の除去方法。
【請求項2】
上記水蒸気を上記異方性導電接着材に吹き付けるにあたって、除去すべき上記異方性導電接着材の周りを筒状の枠体で囲むことを特徴とする請求項1に記載の異方性導電接着材の除去方法。
【請求項3】
上記枠体内の少なくとも対向する一対の内壁面に沿って、上記異方性導電接着材に対して非接触で、かつ、上記内壁面との間に所定の隙間を形成する仕切板を設け、上記水蒸気を上記仕切板と上記枠体の内壁面との間から吹き込むことを特徴とする請求項2に記載の異方性導電接着材の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−198572(P2006−198572A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15298(P2005−15298)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】