説明

異方性磁石の製造方法

【課題】高い生産性で異方性磁石を製造できる方法を提供する。
【解決手段】剛体から成る成形型内で磁石材料粉末を圧縮加工する異方性磁石の製造方法であって、上記成形型M内で5MPa以下の圧力で熱間圧縮加工する第1工程、および引き続き上記同一の成形型M内で5s−1以上の歪速度で熱間圧縮加工する第2工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い生産性で異方性磁石を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石(NdFe14B)等の希土類磁石で代表される強力な永久磁石は、高い磁束密度を達成するために磁化容易軸(c軸)が特定方向に配向した高い異方性を有することが必要である。
【0003】
特許文献1に、磁石粉末を成形固化した後に、歪を加えて結晶を配向させる鉄−希土類系永久磁石の製造方法が開示されている。配向性の高い磁石を製造できるとされている。
【0004】
しかしこの方法では、熱間プレス加工等により成形する工程と、冷却固化後に、熱間ダイアップセット加工等により歪を付与する工程とで、異なる加工型に材料を移し変える必要があり、生産性が悪いという問題があった。
【0005】
特許文献2に、磁石合金を鞘体に収容し、500℃以上の温度に加熱し、次いで8s−1以上の歪速度で鍛造する方法が開示されている。
【0006】
しかしこの方法では、鍛造の際に鞘体が塑性変形してしまい、鞘体を再利用することができず、生産性が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平04−020242号公報
【特許文献2】特開2002−516925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い生産性で異方性磁石を製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
剛体から成る成形型内で磁石材料粉末を圧縮加工する異方性磁石の製造方法であって、
上記成形型内で5MPa以下の圧力で熱間圧縮加工する第1工程、および
引き続き上記同一の成形型内で5s−1以上の歪速度で熱間圧縮加工する第2工程
を含むことを特徴とする異方性磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、先ず第1工程において5MPa以下で熱間低圧下することにより、粉末粒子同士をある程度凝着させて粒子間の滑りを抑制した状態とした後、引き続き第2工程において同じ成形型内で5s−1以上の高い歪速度で熱間圧縮加工することにより、粒子間の滑りに優先して粒子自体すなわち結晶に大きな歪を付与して配向させ、異方性の高い磁石材料を製造できる。
【0011】
プロセス全体を通して一貫して「同一」の「剛体」の成形型内で圧縮加工を行なうので、型の変更も鞘体の使用も必要なく、高い生産性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、従来技術(特許文献1)による成形固化→据え込みの工程を示す。
【図2】図2は、本発明による軽圧下→高歪速度圧縮の工程を示す。
【図3】図3は、1次圧縮時の圧力と残留磁束密度との関係を示す。
【図4】図4は、2次圧縮時の歪速度と残留磁束密度との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の特徴を特許文献1の従来技術と比較して説明する。
【0014】
まず図1を参照して、従来技術を説明する。
【0015】
先ず、図(1)の第1工程で、筒状のダイD1とパンチP1とから成る成形型M1で磁石材料の粉末W’を成形し固化して一体のワークWとする。Fは成形圧力である。
【0016】
次に、成形固化されたワークWを成形型M1から取り出して、第2工程で据え込みを行なうための一回り大きい別の成形型M2に移し変える。
【0017】
次に、図1(2)の第2工程で、筒状のダイD2とパンチP2から成る据え込み用成形型M2内でワークWの据え込みを行なって歪を付与し、結晶を配向させる。
【0018】
第1工程の「成形固化」なしで直接第2工程の「据え込み」を行なうと、磁石材料の粉末粒子同士の滑りが生じ、粉末粒子の再配列・緻密化が起きるだけで、結晶に歪を付与することはできず、結晶を配向させることができない。
【0019】
そのため従来技術では、先ず第1工程の「成形固化」により、磁石材料の粉末粒子同士を結合させ、圧縮した際の粒子同士の滑りを抑制する必要がある。しかし、第1工程の成形固化により材料(ワーク)の密度が著しく高まる。そこで第2工程では、結晶を配向させるためには、一回り大きい成形型に材料を移し変えて据え込みを行なう必要がある。
【0020】
このようにプロセスの途中で別の成形型へ移し変える操作が必要になり、生産性が悪いという問題があった。
【0021】
この問題を解決するために、本発明は以下に説明する特徴を有する。
【0022】
図2を参照して本発明を説明する。
【0023】
先ず、図2(1)の第1工程で、筒状のダイDとパンチPから成る成形型M内で、5MPa以下の低い圧下力Fで圧縮加工することにより、磁石材料W’の粉末粒子同士を互いの接点のみで小さく塑性変形させて仮結合し、低密度の成形体Wとする。これにより、粉末粒子W’同士の滑りを実質的に抑制する。
【0024】
次に、図2(2)の第2工程で、第1工程と同じ成形型M内に低密度成形体Wを収容したままの状態で、5s−1以上の高い歪速度で圧縮加工する。
【0025】
熱間加工温度において、低密度のワークWを5s−1以上の高い歪速度で圧縮加工することにより、粒子同士の滑りを抑制して結晶に大きな歪を付与し、結晶を配向させることができる。5s−1未満の歪速度では、粉末粒子同士の滑りが支配的になって単に粒子が移動するだけで、結晶に大きな歪を付与することができない。
【実施例】
【0026】
〔実施例1〕
合金組成14.6Nd74.2Fe4.5Co0.5Ga6.2B(原子比)に対応する割合で配合した原料をアーク炉で溶解し、合金ビレットを得た。
【0027】
このビレットをAr雰囲気中でメルトスピニングし、リボン状の薄片を得た。この薄片は厚さ30μm程度で、非晶質と結晶質の混合物であった。
【0028】
次に、このリボン状薄片を200μm程度に粉砕し、粉末状の材料を得た。
【0029】
得られた材料を、第1工程として、内径φ10mmの超硬製ダイス中へ充填し、超硬製パンチにより成形圧力0.5MPaで加圧しながら600℃で5分加熱した。これにより上記の成形圧力および温度で熱間圧縮加工が行なわれた。引き続き、第2工程として、同じ成形型内で歪速度50s−1で圧縮加工した。すなわち、600℃を成形開始温度とする熱間圧縮加工を行なった。
【0030】
〔比較例1〕
実施例1と同様に成形体を得た。ただし、第2工程で歪速度0.1s−1で圧縮加工した点のみが実施例1と異なる。
【0031】
≪磁気特性の評価≫
実施例1および比較例1で作製した成形体について、その中心部からワイヤーカットにより2mm角の試料を切り出し、振動試料型磁力計(VSM)により、加圧方向の磁気特性(残留磁束密度)を測定した。表1に結果を示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1中の配向度とは、残留磁束密度を飽和磁束密度で除した値である。本発明による実施例1は、比較例1に比べて著しく高い配向度が得られた。
【0034】
〔実施例2〕
合金組成14.6Nd74.2Fe4.5Co0.5Ga6.2B(原子比)に対応する割合で配合した原料をアーク炉で溶解し、合金ビレットを得た。
【0035】
このビレットをAr雰囲気中でメルトスピニングし、リボン状の薄片を得た。この薄片は厚さ30μm程度で、非晶質と結晶質の混合物であった。
【0036】
次に、このリボン状薄片を200μm程度に粉砕し、粉末状の材料を得た。
【0037】
<第1工程>
得られた材料(9.0g)を、内径φ10mmの超硬製ダイスに充填し、超硬製パンチにより種々の成形圧力(0.5MPa、5MPa、50MPa、200MPa)を印加しながら、600℃で5分間加熱した。これにより上記各成形圧力で熱間圧縮加工が行なわれた。
【0038】
これにより得られた材料の密度は、それぞれ5.2g/cm、6.1g/cm、7.4g/cm、7.6g/cmであった。この密度は、投入した粉末重量(9.0g)と、成形機の変位計から求めた加熱開始後5分におけるワーク高さとから算出した。すなわち、材料は成形型の中に収容されたままの状態で維持している。この材料の真密度は7.6g/cmである。したがって、それぞれの成形圧力で加熱したワークの、真密度に対する割合は、68%、80%、97%、100%である。
【0039】
<第2工程>
上記の加熱終了後、直ちに、パンチにより種々の歪速度50s−1、5s−1、0.1s−1で、面圧が500MPaになるまで圧縮した。すなわち、600℃を成形開始温度とする熱間圧縮加工を行なった。圧縮終了後、直ちに冷却し、成形体を得た。
【0040】
≪磁気特性の評価≫
実施例2で作製した成形体について、その中心部からワイヤーカットにより2mm角の試料を切り出し、振動試料型磁力計(VSM)により、加圧方向の磁気特性(残留磁束密度)を測定した。図3、4に結果を示す。
【0041】
図3、4の結果から、高い残留磁束密度を持つ成形体を得るためには、下記(1)(2)の条件を満たすことが必要であることが分かった。
【0042】
(1)第1工程での熱間圧縮加工は成形圧力5MPa以下で行なう必要がある。好ましくは0.5MPa以下にする。
【0043】
(2)第2工程での熱間圧縮加工は歪速度5s−1で行なう必要がある。好ましくは50s−1以上にする。
【0044】
このように本発明によれば、プロセス全体を通して一貫して「同一」の「剛体」の成形型内で圧縮加工を行なうので、型の変更も鞘体の使用も必要なく、従来は得られなかった高い生産性を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、高い生産性で異方性磁石を製造できる方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛体から成る成形型内で磁石材料粉末を圧縮加工する異方性磁石の製造方法であって、
上記成形型内で5MPa以下の圧力で熱間圧縮加工する第1工程、および
引き続き上記同一の成形型内で5s−1以上の歪速度で熱間圧縮加工する第2工程
を含むことを特徴とする異方性磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−44021(P2012−44021A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184686(P2010−184686)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】