説明

異種合金鋼の溶接用溶接フィラー及びそれを用いた方法

本発明は、実質的に異なるクロム含量を有した異なる合金鋼片を接合する、例えば高合金フェライト鋼に対して低合金フェライト鋼、オーステナイト系ステンレス鋼に対して低合金フェライト鋼、又はオーステナイト系ステンレス鋼に対して高合金フェライト鋼を接合するための溶接フィラー組成物を提供する。一態様において、本発明は、溶接フィラーの質量により合計で少なくとも50%を構成するニッケル、鉄及びクロム;溶接フィラーの質量により合計で50%未満を構成するニオブ、炭素、マンガン、モリブデン及びケイ素を、並びに20以下の炭素に対するニオブの割合を含む溶接フィラーのための組成物を提供する

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般的には溶接に関する。より詳細には、本発明は、異なる合金含量を有する鋼片を互いに溶接する場合に、鋼片の継手間の応力を減少させるために使用する、溶接フィラー組成物に向けられている。
【0002】
(関連する技術の説明)
多くの高温配管用途において、異なる化学組成を有する材料を接合することが、頻繁に必要とされる。機器の操作温度及び圧力の増加に従い、配管部品はより高度に合金化された材料を必要とする。依然として、より高度に合金化された材料から全ての部品を製造することはより費用がかかり、そのため低合金化材料とより高度に合金化された材料の組み合わせが、コストを減少させる方法としてしばしば使用される。このコスト削減方法は、異なる合金含量を有した材料を接合する能力を必要とする。例えば、低合金鋼であるフェライト鋼と高合金含量鋼であるオーステナイト鋼を溶接することが望ましいことがある。
しかしながら、異なる組成を有する材料の溶接により製造された部品に関しては問題が存在する。例えば高い温度の適用において利用される部品は、操作及び中断時間の間の温度勾配をたびたび経験する。各材料の熱膨張率において相違があるため、溶接継手における高い応力が、該温度勾配の結果として経験される。
【0003】
溶接継手で経験される高い応力に対応するため、異なる材料の接合に対する種々のアプローチが、過去において試みられてきた。一のアプローチは、2つの異なる材料の熱膨張率の中間の熱膨張率を有する溶加材を使用することである。他のアプローチは、例えばエレクトロスラグ技術により、一の接合片から他方の接合片まで化学組成を連続的に変化させた継手を形成することである。他のアプローチは、これら継手を形成するための粉末冶金成分の使用を用いることである。熱処理は、トランジション継手をよりよい条件とするためのこれら継手、及び厳しい操作条件に抵抗するための相互連結結合の形成の前及び後の両方で使用されてきた。依然として、これら技術は入り交じった結果を達成し、改善の余地を残す。
他の技術は、段のあるトランジション継手の使用を含み、該技術においては、部材が共に溶接される複数の部分からあらかじめ形成されている。該部材の部分は、共に接合される材料間の化学組成の勾配及び物理特性の勾配を一般的に提供するように選択される。例えば、いくつかの部分のクロム含量及び膨張の熱係数は、部材の一末端と他の末端の間で徐々に変化する。該段のあるトランジション継手が一般的に良好に作用することが見出されたとはいえ、多重溶接部品は相対的に高価である。
【0004】
実用的な工業において、異種材料間の溶接継手の耐用年数は望まれるよりも短い。各材料における熱膨張率の間の相違に伴う問題に加えて、炭素の移動が、これら継手における短い耐用年数を引き起こす。炭素の移動は、溶接継手が上昇した温度条件にさらされるいかなる時にも生じる。この現象に関する一次領域は、フェライト鋼及び溶加材の間の接触面におけるものである。炭素は、ベース金属に近い溶接又は溶加材における濃度において増加する傾向がある。炭素は一般的に、ベース金属から溶加材に移動して、溶加材に弱い炭化物の構造、及びベース金属に低い炭素濃度を有する弱いゾーンを生成する。
異種材料の溶接継手を悩ませる他の問題は、微少な亀裂である。時間の経過と共に、微少な亀裂が、溶接継手において応力及び疲労を引き起こし、結果として最終的に破損に導く。微少な亀裂の減少又は除去により、溶接継手の寿命を延長できる。溶接継手のより長い寿命は、種々の機器又は配管部分の寿命に関するかなりのコストを削減できる。
従って、異種材料を接合するための向上したフィラー組成物又は溶接調合物が強く望まれる。該フィラー組成物は、異種材料の間の溶接継手に伴う問題、例えば熱膨張率、炭素移動及び微少な亀裂の相違に関する問題に対応できる。
【0005】
(本発明の概要)
従って、本発明は、実質的に異なるクロム含量を有した異なる合金鋼片、例えば高合金フェライト鋼に対する低合金フェライト鋼、オーステナイト系ステンレス鋼に対する低合金フェライト鋼、又はオーステナイト系ステンレス鋼に対する高合金フェライト鋼の接合のための溶接フィラー組成物、及びこれを用いた方法を提供する。
一態様において、本発明は、以下を含む溶接フィラーのための組成物を提供する:溶接フィラーの質量により合計で少なくとも50%を構成するニッケル、鉄及びクロム;溶接フィラーの質量により合計で50%未満を構成するニオブ、炭素、マンガン、モリブデン及びケイ素;並びに約20以下の炭素に対するニオブの割合。
他の態様において、溶接フィラーのための組成物は、約42質量%以下の鉄、10質量%以下のクロム、1.5質量%以下のニオブ、0.12質量%以下の炭素、2質量%以下のマンガン、2.5質量%以下のモリブデン、0.5質量%以下のケイ素、差分のニッケル、約20以下の炭素に対するニオブの割合を含む。
【0006】
本発明は、以下を含む溶接方法も提供する:約12%より低いクロム含量を有する第一の鋼ワークピースを準備し;約5%より多く、かつ第一の鋼ワークピースのクロム含量よりも多いクロム含量を有する第二の鋼ワークを準備し;溶接フィラーを使用して第一の鋼ワークピースと第二の鋼ワークピースの間に継手を形成し、ここで該溶接フィラーは、溶接フィラーの質量合計で少なくとも50%を構成するニッケル、鉄及びクロム;溶接フィラーの質量合計で50%未満を構成するニオブ、炭素、マンガン、モリブデン及びケイ素;及び約20以下の炭素に対するニオブの割合を含む。
【0007】
他の態様において、該方法は、約12%より少ないクロム含量を有する第一の鋼ワークピースを準備し:約5%より多く、かつ第一の鋼ワークピースのクロム含量より多いクロム含量を有する第二の鋼ワークを準備し;かつ溶接フィラーを使用して該第一の鋼ワークピースと第二の鋼ワークピースの間で継手を形成することを含み、ここで該溶接フィラーは、約10質量%以下のクロム、2.5質量%以下のモリブデン、42質量%以下の鉄、1.5質量%以下のニオブ、2質量%以下のマンガン、0.5質量%以下のケイ素、0.12質量%以下の炭素、差分のニッケル、及び約20以下の炭素に対するニオブの割合を含む。
本発明の他の特徴は、好ましい態様が詳細に述べられる以下の記載から明らかとなろう。
【0008】
(好ましい態様の説明)
一般的に、本発明は、異なる合金鋼片の接合用の向上した溶接フィラー組成物及び方法を提供する。より具体的には、本発明は、実質的に異なるクロム含量を有した異なる合金鋼片の接合、例えば高合金フェライト鋼に対する低合金フェライト鋼、オーステナイト系ステンレス鋼に対する低合金フェライト鋼、又はオーステナイト系ステンレス鋼に対する高合金フェライト鋼の接合用の、向上した溶接フィラー組成物及び方法を提供する。本発明は、ワークピース間の継手における応力を減少させ、かつ溶接継手の微少な亀裂を減少又は排除することにより、及び炭素移動の量を減少させることにより、溶接継手の寿命を延長する、向上した溶接フィラー組成物及び方法をも提供する。以下の文は、本発明の種々の態様を記載する;しかしながら、本発明の範囲を制限することを意図しない。他に記載がない限りは、言及されるパーセンテージは、質量パーセンテージであることが認識されなければならない。
【0009】
一態様において、本発明は、2つの異なる合金鋼片の間に溶接継手、例えば、高合金フェライト鋼片に対して低合金フェライト鋼片、オーステナイト系ステンレス鋼片に対して低合金フェライト鋼片、又はオーステナイト系ステンレス鋼片に対して高合金フェライト鋼片の接合を形成するための、溶接フィラー組成物を提供する。“高合金フェライト鋼”が5−12%のクロム含量を有している一方で、用語“低合金フェライト鋼”又は“低合金鋼”の使用は、5%以下のクロムを有する鋼である炭素鋼と同じような鋼を意味するものとして理解されなければならない。用語“ステンレス”鋼の使用は、12質量%のクロムの最小値を有し、オーステナイト系ステンレス鋼を含む合金鉄を意味する。しかしながら、一般的に、オーステナイト鋼は、15%以上のクロム含量を有する。
【0010】
該溶接フィラーは、約0.07−0.12%C、0−0.5%Si、0.8−2.0%Mn、8.0−10.0%Cr、1.5−2.5%Mo、35−42%Fe、0.9−1.5%Nb及び差分のNiの組成を有する。意図するように機能する溶接フィラーのために、トランプエレメントの低いレベル、例えば最大で0.010%のP及び/又は0.010%のS、及びニオブの使用の結果として存在し得る痕跡量のタンタルを有することも許容される。
上記溶接フィラー組成物における種々の成分は、特定の問題に対処することにより、溶接継手の寿命を延長することを助ける。例えば溶接される二つの鋼片間の熱膨張率における差異を補正するため、とりわけ、クロム含量における差異が10質量%以上である、オーステナイト系ステンレス鋼片に対する低合金フェライト鋼片の接合の場合に、特定量のクロムが、二つの鋼片のクロム含量における不均衡により、該溶接フィラー中に取り込まれても良い。該二つの鋼片のクロム含量における差異を補償するため、該溶接フィラー組成物は、接合されるべき二つの鋼片のクロム含量の間のクロム含量、例えば約8−10質量%のクロム含量を含まなければならない。
【0011】
溶接フィラー組成物に対するクロムの添加は、溶接継手の機械的強度の維持を強化し又は助けて、該溶接継手が高温及び/又は高圧力状態によく抵抗できるようにする。クロムは、とりわけ熱による割れに対する抵抗の提供において有用である。溶接フィラーにおける他の成分も、溶接継手を強化する。例えば、モリブデンの添加は、この点において役立ち、加えて腐食に対する抵抗を提供する。ケイ素は、脱酸素材として添加してもよく、及びその添加は、溶接継手を強化するのに役立ち得る。
炭素移動問題にかかわらず、いくらかの量の炭素は、溶接継手の機械的強度を維持するために、溶接フィラー中に使用されても良い。好ましくは、少量の炭素を添加して、溶接継手の機械的強度を提供し、二つの鋼片及び溶加材の接合部分で起こり得る炭素移動の量を制限する。添加できる炭素の量は、好ましくは、溶接継手における、機械的強度を提供し、かつ炭素移動を最小化する量の炭素が存在する、約0.07−0.12%である。
【0012】
炭素移動の程度は、溶接フィラーの化学的性質のさらなる調整により、遅延又は緩和できる。これは、炭素及び結果物の炭化物を安定化できる他の元素、例えばニオブの添加により達成されてもよい。しかしながら、過剰な量のニオブは溶接継手の強度を損ない得るため、溶接フィラー組成物中のニオブの量は相対的に少量でなければならない。ニオブの好ましい量は、約0.9−1.5質量%である。好ましい態様において、炭素に対するニオブの割合は、約20以下、及び好ましくは約10から20でなければならない。微少な亀裂を減少又は排除できるため、この炭素に対するニオブの割合も重要である。
【0013】
他の態様において、本発明は、二つの異なる合金鋼片の接合、例えば高合金フェライト鋼に対する低合金フェライト鋼、オーステナイト系ステンレス鋼に対する低合金フェライト鋼、又はオーステナイト系ステンレス鋼に対する高合金フェライト鋼の接合方法を提供する。該合金鋼片は、上記のような溶接フィラー組成物を用いた溶接により、共に接合できる。二つの異なる合金鋼片を接合する本方法は、種々の接合、例えばすみ肉溶接、突合わせ溶接、重ね溶接、角溶接及びへり溶接を形成するために使用できるが、これらに限定されない。本溶接フィラーを用いた鋼片の溶接は、充分な熱が溶接フィラーを溶融させるために供給され、鋼片の融合を促進できる、本技術において公知のいかなる方法により達成できる。溶接技術の例は、ガス溶接、アーク溶接、電子ビーム溶接(EBW)、レーザービーム溶接(LBW)、及びエレクトロスラグ溶接を含むが、これらに限定されない。さらに、アーク溶接は、カーボンアーク、フラックス入りアーク、被覆金属アーク、ガス金属アーク、ガスタングステンアーク、プラズマ転移アーク及びサブマージアークを含む。
【0014】
該溶接フィラー組成物は、種々の形態で、例えばベアワイヤー又はベアロッド、電極、フラックス又は粉末、又はこれらの組み合わせにおいて供給されても良い。ベアワイヤー、電極、フラックス又は粉末の間の選択は、使用する溶接技術の種類に依存する。例えば、ベアワイヤー又はベアロッドはガス溶接又はガスタングステンアーク溶接において、溶接フィラーを供給するために使用されてもよく、該方法においてワイヤー又はロッドは、電流を伝えず、かつ電源に取り付けられない。ガス溶接及びガスタングステンアーク溶接の両方において、該ワイヤー又はロッドが加熱によって溶融する場合、該溶接フィラー組成物は接合領域に供給され、それによって溶接フィラーが供給される。ガス溶接における熱源はガスの炎であり、これに対しガスタングステンアーク溶接における熱源は、タングステン電極により発生した電気アークである。特にガスタングステンアーク溶接に対して、タングステン電極は、いかなる材料も溶接に供給しないことが理解されなければならない。該電極は、非消耗性の電極としても公知であり、該電極において電極チップは溶融して溶接の一部を形成することはない。
【0015】
該ワイヤー又はロッドは、本技術で公知のいかなる方法、例えば金型を通過する溶融したフィラー材料の押し出しを通じて製造してもよく、ここで、金型の形状及びサイズは、ワイヤー又はロッドの切断面の形状及び直径に影響を及ぼす。いかなる適切な断面形状も使用できる。ワイヤー又はロッドの直径又は厚みは、所望の溶融速度に依存して変動させることができ、この場合厚いワイヤー又はロッドはよりゆっくりとした溶融速度を与える。
ワイヤー又はロッドの組成は、同一であっても、又は溶接に対する該フィラー成分の供給の制御のため、その長さに沿って変わっても良い。例えば、ワイヤー又はロッドの組成は、その長さに沿って不変であってもよく、その長さに沿って徐々に変わってもよく、又はその長さに沿って不連続に変わっても良い。ワイヤーの場合において、“ワイヤー”は、種々のフィラー組成物の成分を含んだ複数の細いワイヤーを代替的に含んでもよく、ここで該細いワイヤーは、束ねられ又はねじられて、より大きな“単一の”ワイヤーを形成する。代わりに、それぞれ異なる組成物を有する個別のワイヤーを、ガス溶接方法の間に加えて、所望の溶接フィラー組成物を供給することができる。
【0016】
アーク溶接の他の形態、例えば被覆金属アーク、サブマージアーク、ガス金属アーク、フラックス入りアーク及びメタル入りアーク溶接において、電極は溶接フィラー材料の少なくともいくつかの部分を供給するために使用される。被覆金属アーク、サブマージアーク及びフラックス入りアークにおいて、フラックスは、溶接フィラー組成物を与えるために使用されるであろう。この状況において、該フラックスは、電極と共に具体化し、又は電極から分離して具体化しても良い。
これら他の形態のアーク溶接に関して、該アーク溶接の電極は、熱を供給するための電気アークを発生させるだけでなく、それによりそのチップが溶融して溶接フィラーへの溶融した材料となる。この種の電極は、消耗電極として公知である。該電極は、電源につなげられていることを除き、ワイヤー又はロッドと構造的に似ている。さらに、該電極は、ベア電極、被覆電極、フラックス入り電極かそれともメタル入り電極であって良い。適切な電極の選択は、アーク溶接技術の種類に依存する。例えば、ガス金属アーク及びサブマージアーク溶接は、ベア電極を用いる。被覆金属アーク溶接は、被覆電極を用いる。フラックス入りアーク溶接は、フラックス入り電極を用いる。メタル入りアーク溶接は、メタル入り電極を用いる。
【0017】
ガス金属アーク及びサブマージアーク溶接の場合において、ベア電極は、必要な量の熱を電気アークを通じて供給し、かつその結果としてそれにより溶融し溶接のためのフィラー材料を提供する。該ベア電極は、心線のみを含み、かつガス溶接及びガスタングステンアーク溶接用の上記ワイヤーと同じ方法にて使用、及び製造できる。しかしながら、サブマージアーク溶接における該溶接フィラーは、電極及びワークピースを取り囲み、及び電極により発生した電気アークを遮蔽するために使用される粒状フラックスから、その組成の部分を得ても良い。なぜなら、該溶接が電極チップ及び粒状フラックスの両方から形成されてもよく、該溶接フィラー組成物は、一部をベア電極に、及び一部を粒状フラックスに分布しても良いからである。電極及びワークピースを被覆する個別のフラックス粒子の位置が無作為なため、該粒状フラックスにおけるフィラー材料は、個別のフラックス粒中に均一に分散されていなければならない。
【0018】
溶接を形成するための被覆金属アーク溶接を使用する場合、被覆電極が使用され、電気アークを発生し、電極チップを溶融させる。該被覆電極は、心線を取り囲むフラックス被覆を含む。該フラックスの被覆は、溶接をする間のガスシールド、及びその溶融を通してフィラー組成物に対して他の成分を添加する手段を提供する。結果として、溶接フィラー組成物の部分は、心線中にあることができ、かつ他の部分はフラックス被覆中にあることができる。代わりに、全体の溶接フィラー組成物を心線中に含むことができ、フラックス被覆はガスシールドのみを提供する。該心線は、本技術で公知のいかなる方法、例えばガス溶接において使用するベアワイヤー又はロッドに関して言及した方法により製造できる。該心線は、その長さに沿ってフィラー材料の均等な分配を、フィラー材料の徐々に変わる濃度を、又はその長さに沿ってフィラー材料の一連の異なる断面層を有しても良い。心線が形成された後、該フラックス材料を心線に被覆しても良い。心線と同様に、フラックス被覆は、フィラー材料の均一な分布、フィラー材料の徐々に変化する濃度、又は使用されるであろうフィラー材料の一連の断面層を有していても良い。
【0019】
フラックス入りアーク溶接において、該フラックス入り電極は、電気アークを発生し、電極チップを溶融させるために要求される熱を供給する。該フラックス入り電極は、フィラー組成物を提供し及び溶接する間のガスシールドを提供するフラックス含有コアを含む。フラックス材料を含みかつ保護するため、金属のさやがフラックス入り電極の外面を覆う。この設計のため、溶接フィラー組成物の一部は、フラックスコア中にあることができ、かつ他の部分は金属のさや中にあることができる。代わりに、全体の溶接フィラー組成物が、金属のさや中に含まれることができ、フラックスコアは単にガスシールドを提供する。該フラックスコアは、一般的に、金属のさやを形成するために、及びそれによりフラックス材料を保持するために巻き上げられる平坦な金属ストリップに含まれる粒状フラックスを含む。本技術の分野で公知のいかなる手段も、粒状フラックス及び金属のさやを製造するために使用できるが、いくつかの考慮をしなければならない。粒状フラックスは、溶接フィラー組成物に寄与する可能性があるからであり、該溶接フィラーは、個々の粒子中で均一に分配されていなければならず、なぜならば金属さやが充填される場合、これら粒子は製造工程において、より無作為に動くためである。金属さやについては、平坦な金属ストリップ中に溶接フィラー組成物を取り込むための、例えば、ストリップに沿って均等に該フィラー組成物を分配する、ストリップを横切って徐々に変化する濃度で該フィラー組成物を広げる、又はフィラー組成物の成分の断面層を形成する等の種々の方法が存在する。
【0020】
メタル入りアーク溶接において、メタル入り電極は、電気アークを発生させて、電極チップを溶解するために用いられる。メタル入り電極は金属、例えば鉄の粉末を含むコア、及び電極の外面を覆う金属のさやを有する。本発明の溶接フィラーをメタル入り電極に取り込む方法は、フラックス入り電極で述べたものと同じであっても良く、なぜならば金属粉末が金属のさやに含まれるコアに導入されることを除き、メタル入り電極の設計は、フラックス入り電極と類似するためである。該金属粉末は、溶接フィラー中に用いられる一以上の金属成分を含んでも良い。該金属粉末が、溶接フィラーの一以上の金属成分を含む場合、金属のさや中における個々の粉末粒子の無作為の配置のため、該溶接フィラー成分は、粉末中に均等に分配されなければならない。該金属のさやは、溶接フィラーの一以上の金属成分を含んでも良い。本技術で公知のいかなる手段も、金属さやを製造するため、及び溶接フィラー成分を組み込むために使用しても良い。例えば、フラックス入り電極の場合におけるものとして、金属さやは、平坦な金属ストリップであってよく、ここで、溶接フィラー組成物は、均等に、徐々に変化する濃度で、又はストリップを横切って断面層に分配され、その後粉末を含むために巻き取られる。
【0021】
ベアワイヤー又はロッド、ベア電極、被覆電極、フラックス入り電極、メタル入り電極及び粒状フラックスから誘導される溶接フィラー材料に加えて、上記態様における溶接フィラー組成物は粉末形態であることもできる。粉末の使用は、典型的には、プラズマ転移アーク溶接及びレーザービーム溶接に結び付いている。該粉末溶接フィラーは、本技術で公知のいかなる手段によっても製造できる。例えば、溶融フィラー材料を、容易に粉末に粉砕されるシートに引くことができる。溶接フィラー組成物は、溶接フィラー成分が粉末中に均等に分散されるように、粉砕の前に均等に分配されなければならない。該溶接フィラーは、直接粉末形態で使用できる。先に言及したように、粉末溶接フィラーは、プラズマ転移アーク溶接又はレーザービーム溶接で用いても良い。粉末溶接フィラーは、はんだ付け又はろう付けのペーストとしての用途のために、ペースト又はセメント中に分散することもできる。
さらに、当業者は、電極、ワイヤー及び粉末の異なる組み合わせを通じて、溶接フィラー組成物を容易に誘導することもできる。例えば、被覆された電極は、溶接フィラー組成物のいくらかの部分を、溶接フィラー組成物の他の部分を送達するための付加的なワイヤー及び粉末の導入と共に供給できる。ある種のガスシールドアーク溶接に関して、ベア電極及びベアワイヤーを粉末と共に使用して、溶接フィラー材料を供給することができる。おそらく、粒状フラックス及び粉末は、ベア電極との組み合わせにおいて、サブマージアーク溶接に使用される場合、溶接フィラー材料を供給できる。
【0022】
前述が、本発明の種々の態様を表している一方で、付加、変更、改良及び置き換えが、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく行い得るため、前述の記載が制限すると考えてはならないことを認識すべきである。本発明は、他の形態、構造、配置、比率及び他の要素、材料及び成分の使用において具体化されても良いことが、当業者に対して明らかであろう。例えば、該方法が、低合金フェライト鋼片及び高合金フェライト鋼片又はオーステナイト系ステンレス鋼片の溶接、及び高合金フェライト鋼片及びオーステナイト系ステンレス鋼片の溶接に関して述べているとしても、該組成物及び方法は、溶接される片間でかなり大きいクロム含量の相違を有する、他の鋼又は金属合金片の溶接に適合できる。従って、本明細書で開示した態様は、全ての点において説明として考えられるべきであり、添付した特許請求の範囲により示される本発明の範囲を制限せず、前述の記載に制限されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む溶接フィラー組成物:
溶接フィラーの質量により合計で少なくとも50%を構成するニッケル、鉄及びクロム;
前記溶接フィラーの質量により合計で50%未満を構成するニオブ、炭素、マンガン、モリブデン及びケイ素;及び
約20以下の炭素に対するニオブの割合。
【請求項2】
前記ニッケルが、前記溶接フィラーの質量により約41−54%を構成する、請求項1の組成物。
【請求項3】
前記鉄が、前記溶接フィラーの質量により約35−42%を構成する、請求項1の組成物。
【請求項4】
前記クロムが、前記溶接フィラーの約8−10%を構成する、請求項1の組成物。
【請求項5】
前記ニオブが、前記溶接フィラーの質量により約0.9−1.5%を構成する、請求項1の組成物。
【請求項6】
前記炭素が、前記溶接フィラーの質量により約0.07−0.12%を構成する、請求項1の組成物。
【請求項7】
前記マンガンが、前記溶接フィラーの質量により約0.8−2.0%を構成する、請求項1の組成物。
【請求項8】
前記モリブデンが、前記溶接フィラーの質量により約1.5−2.5%を構成する、請求項1の組成物。
【請求項9】
前記ケイ素が、前記溶接フィラーの質量により約0.5%以下を構成する、請求項1の組成物。
【請求項10】
前記炭素に対するニオブの割合が、約10から20である、請求項1の組成物。
【請求項11】
以下を含む溶接フィラー組成物:
約42質量%以下の鉄;
約10質量%以下のクロム;
約1.5質量%以下のニオブ;
約0.12質量%以下の炭素;
約2質量%以下のマンガン;
約2.5質量%以下のモリブデン;
約0.5質量%以下のケイ素;
ニッケルを含む差分;及び
約20以下の、炭素に対するニオブの割合。
【請求項12】
以下をさらに含む、請求項11の組成物:
約35−42質量%の鉄;
約8−10質量%のクロム;
約0.9−1.5質量%のニオブ;
約0.07−0.12質量%の炭素;
約0.8−2.0質量%のマンガン;
約1.5−2.5質量%のモリブデン;
約0.5質量%以下のケイ素;
ニッケルを含む差分;及び
約10から20の、炭素に対するニオブの割合。
【請求項13】
以下を含む溶接方法:
約12%より低いクロム含量を有する第一の鋼ワークピースを準備し;
約5%より多く、かつ前記第一の鋼ワークピースのクロム含量より多いクロム含量を有する第二の鋼ワークを準備し;次いで
溶接フィラーを用いて溶接して、前記第一の鋼ワークピースと前記第二の鋼ワークピースとの間に継手を形成し、ここで、前記溶接フィラーは、前記溶接フィラーの質量により合計で少なくとも50%を構成するニッケル、鉄及びクロム、並びに前記溶接フィラーの質量により合計で50%未満を構成する、ニオブ、炭素、マンガン、モリブデンおよびケイ素を含み、かつ約20以下の炭素に対するニオブの割合を有する。
【請求項14】
前記第一の種類の鋼が、低合金フェライト鋼又は高合金フェライト鋼を含む、請求項13の方法。
【請求項15】
前記第二の種類の鋼が、高合金フェライト鋼又はオーステナイト系ステンレス鋼を含む、請求項13の方法。
【請求項16】
前記ニッケルが、前記溶接フィラーの質量により約41−54%を構成する、請求項13の方法。
【請求項17】
前記鉄が、前記溶接フィラーの質量により約35−42%を構成する、請求項13の方法。
【請求項18】
前記クロムが、前記溶接フィラーの質量により約8−10%を構成する、請求項13の方法。
【請求項19】
前記ニオブが、前記溶接フィラーの質量により約0.9−1.5%を構成する、請求項13の方法。
【請求項20】
前記炭素が、前記溶接フィラーの質量により約0.07−0.12%を構成する、請求項13の方法。
【請求項21】
前記マンガンが、前記溶接フィラーの質量により約0.8−2%を構成する、請求項13の方法。
【請求項22】
前記モリブデンが、前記溶接フィラーモリブデンの質量により約1.5−2.5%を構成する、請求項13の方法。
【請求項23】
前記ケイ素が、前記溶接フィラーの質量により約0.5%を構成する、請求項13の方法。
【請求項24】
前記炭素に対するニオブの割合が、約10から20である、請求項13の方法。
【請求項25】
前記溶接フィラーがさらに、約8−10%のクロム、1.5−2.5%のモリブデン、35−42%の鉄、0.9−1.5%のニオブ、0.8−2%のマンガン、0.5%以下のケイ素、0.07−0.12%の炭素、ニッケルを含む差分、及び10から20の間の炭素に対するニオブの割合を含む、請求項13の方法。
【請求項26】
以下を含む溶接方法:
約12%より少ないクロム含量を有する第一の鋼ワークピースを準備し;
約5%より多く、かつ前記第一の鋼ワークピースの前記クロム含量より多いクロム含量を有する第二の鋼ワークを準備し;次いで
溶接フィラーを用いて溶接して、前記第一の鋼ワークピースと前記第二の鋼ワークピースとの間で継手を形成し、ここで、前記溶接フィラーは、約10質量%以下のクロム、2.5質量%以下のモリブデン、42質量%以下の鉄、1.5質量%以下のニオブ、2質量%以下のマンガン、0.5質量%以下のケイ素、0.12質量%以下の炭素、ニッケルを含む差分、及び約20以下の炭素に対するニオブの割合を含む。
【請求項27】
前記溶接フィラーが、さらに、約8−10質量%のクロム、1.5−2.5質量%のモリブデン、35−42質量%の鉄、0.9−1.5質量%のニオブ、0.8−2質量%のマンガン、0.5質量%以下のケイ素、0.07−0.12質量%の炭素、ニッケルを含む差分、及び約10から20の炭素に対するニオブの割合を含む、請求項26の方法。
【請求項28】
以下を含む溶接方法:
低合金フェライト鋼又は高合金フェライト鋼を含む材料で作られる、第一の鋼ワークピースを準備し;
高合金フェライト鋼又はオーステナイト系ステンレス鋼を含む材料で作られる、第二の鋼ワークピースを準備し;次いで
溶接フィラーを用いて溶接して、前記第一の鋼ワークピースと前記第二の鋼ワークピースの間に継手を形成し、ここで、前記溶接フィラーが約10質量%以下のクロム、2.5質量%以下のモリブデン、42質量%以下の鉄、1.5質量%以下のニオブ、2質量%以下のマンガン、0.5質量%以下のケイ素、及びニッケルを含む差分を含む。
【請求項29】
前記溶接フィラーがさらに約8−10質量%のクロム、1.5−2.5質量%のモリブデン、35−42質量%の鉄、0.9−1.5質量%のニオブ、0.8−2質量%のマンガン、0.5質量%以下のケイ素、0.07−0.12質量%の炭素、ニッケルを含む差分、及び10から20の間の炭素に対するニオブの割合を含む組成物を有する、請求項28の方法。

【公表番号】特表2007−536089(P2007−536089A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511633(P2007−511633)
【出願日】平成17年5月4日(2005.5.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/015837
【国際公開番号】WO2005/108003
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(391013276)エレクトリック パワー リサーチ インスチテュート インコーポレイテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】ELECTRIC POWER RESEARCH INSTITUTE,INCORPORATED
【Fターム(参考)】