異種材料接合体の製造方法
【課題】接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ精密な異種材料接合体を高い精度で得ることが可能な異種材料接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】一方の板状部材2は、側面から接合面に沿った複数の溝部が設けられ、側面に複数の開口部11と、接合面上に溝部に対応した形状の間隙となる非接合領域と、非接合領域で区画され、二つの板状部材2、3間を接合する複数の接合領域と、が形成されてなり、一対の押型5で板状部材積層体4をシート状の離型材8を介して挟持した状態で、開口部11に近い離型材8のシート状の縁部分を押型5に設けられた固定部6に固定しながら、ろう材が融解する温度以上に加熱するとともに、加熱雰囲気の圧力をろう材の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧して、非接合領域で余剰となるろう材を開口部11より蒸気として排出する。
【解決手段】一方の板状部材2は、側面から接合面に沿った複数の溝部が設けられ、側面に複数の開口部11と、接合面上に溝部に対応した形状の間隙となる非接合領域と、非接合領域で区画され、二つの板状部材2、3間を接合する複数の接合領域と、が形成されてなり、一対の押型5で板状部材積層体4をシート状の離型材8を介して挟持した状態で、開口部11に近い離型材8のシート状の縁部分を押型5に設けられた固定部6に固定しながら、ろう材が融解する温度以上に加熱するとともに、加熱雰囲気の圧力をろう材の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧して、非接合領域で余剰となるろう材を開口部11より蒸気として排出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材料接合体の製造方法に関する。更に詳しくは、接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ異種材料接合体、例えば、セラミックスハニカム構造体成形用金型に用いられる高度な成形性が要求される口金等のような接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ精密な異種材料接合体を高い精度で得ることが可能な異種材料接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルミニウム(Al)又はAlを主成分とする金属からなるAl金属部材と、該Al金属部材とは異なる材料からなる異種部材とを接合したAl金属接合体において、前記Al金属部材と前記異種部材との接合界面に、Hv硬さ20〜80(マイクロビッカース;荷重100gf)で且つ厚さ0.1〜3mmの軟質金属層を備えたAl金属接合体が開示されている。
【0003】
このような異種材料接合体を製造する際には、例えば、異種材料からなる二つの板状部材を積層した後、積層した板状部材を一対の押型によって挟持した状態で加熱することにより、積層した二つの板状部材を接合させる方法を用いることがある。
【0004】
セラミック質のハニカム構造体の製造方法としては、従来から、成形原料(坏土)を導入する裏孔と、この裏孔に連通する格子状等のスリットとが形成された口金基体を備えたハニカム構造体成形用口金を用いて押出成形する方法が広く行われている。この口金は、通常、口金基体の一方の面に、ハニカム構造体の隔壁厚さに対応する幅のスリットが格子状等に設けられており、その反対側の面(他方の面)に、スリットと連通する裏孔が大きな面積で開口して設けられている。そして、この裏孔は、通常、格子状等のスリットが交差する位置に対応して設けられ、両者は、口金基体内部で連通している。従って、裏孔から導入されたセラミック原料等の成形原料は、比較的内径の大きな裏孔から、幅の狭いスリットへと移行して、このスリットの開口部からハニカム構造の成形体(ハニカム成形体)として押出される。
【0005】
このようなハニカム構造体成形用口金を構成する口金基体としては、例えば、ステンレス合金や超硬合金等の一種類の合金から構成された板状の部材や、例えば、スリットを形成するための部材と裏孔を形成するための部材とのように、異なる二種類の板状の部材を接合して形成された板状の部材が用いられている(例えば、特許文献2または3参照)。
【0006】
従来のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、このような口金基体に、上記したスリットと裏孔とを機械加工して形成している。
【0007】
【特許文献1】特開平10−5992号公報
【特許文献2】特開2000−326318号公報
【特許文献3】特開2003−285308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ異種材料接合体としての従来のハニカム構造体成形用口金の製造方法において、異なる二種類の板状部材を接合させて口金基体を得る際に、それらの板状部材の間にろう材を配し加熱して二種類の板状部材を接合させることがあるが、例えば、一方の板状部材に予め裏孔とこの裏孔と連通して側面から接合面に沿って設けられた溝部とを形成し、この板状部材と他の板状部材とを接合させる場合は、予め形成した裏孔および溝部内にろう材が侵入し、侵入したろう材が裏孔および溝部内に残留してしまう。このため、スリットの加工時において、裏孔および溝部内のろう材が抵抗となり、スリット加工用の砥石等の工具が破損してしまうことや、形成したスリットに歪みが生じてしまうという問題があった。また、このように裏孔および溝部内にろう材が残留すると、ハニカム構造体を成形する際に、裏孔および溝部からスリットへと連通する流路が、ろう材によって塞がれてしまうことや狭められてしまうことがあり、成形品の品質に悪影響を与えるという問題もあった。
【0009】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ異種材料接合体を高い精度で得ることが可能な異種材料接合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明によれば、以下の異種材料接合体の製造方法が提供される。
【0011】
[1]異種材料からなる二つの板状部材の間の接合面にろう材を配した状態で積層して板状部材積層体を得、前記板状部材積層体を加熱することにより、前記二つの板状部材が接合された異種材料接合体を製造する異種材料接合体の製造方法であって、前記二つの板状部材の一方の板状部材は、側面から前記接合面に沿った複数の溝部が設けられるとともに、前記側面においては前記溝部と連通しつつ開口した複数の開口部と、前記接合面上においては前記溝部で形成された非接合領域と、前記非接合領域で区画され、前記二つの板状部材間を接合する複数の接合領域と、が形成されてなり、一対の押型で前記板状部材積層体をシート状の離型材を介して挟持した状態で、前記開口部に近い前記離型材のシート状の縁部分を前記押型に設けた固定部で固定しながら、前記ろう材が融解する温度以上に加熱するとともに、加熱雰囲気の圧力を前記ろう材の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧して、前記非接合領域の間隙で余剰となる前記ろう材を前記開口部より蒸気として排出する異種材料接合体の製造方法。
【0012】
[2]前記離型材として、ケイ素、炭素、窒化アルミ、酸化アルミ、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む材料からなるシート状のものを用いる前記[1]に記載の異種材料接合体の製造方法。
【0013】
[3]前記ろう材として、銅、銀、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つを含む金属又は合金のろう材を用いる前記[1]または[2]に記載の異種材料接合体の製造方法。
【0014】
[4]前記板状部材積層体を、前記押型によって0.1〜100MPaの圧力をかけて挟持する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0015】
[5]前記二つの板状部材の一方の板状部材として、オーステナイト相の冷却によってマルテンサイト変態、ベイナイト変態、及びパーライト変態からなる群より選択される少なくとも一つの相変態を起こし得る金属又は合金から構成されたものを用いる前記[1]〜[4]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0016】
[6]前記二つの板状部材の他方の板状部材として、炭化タングステン基超硬合金から構成されたものを用いる前記[1]〜[5]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0017】
[7]前記溝部の幅を50〜1000μmとした前記[1]〜[6]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0018】
[8]前記接合領域の面積の最小値を0.1〜100mm2とした前記[1]〜[7]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0019】
[9]前記異種材料接合体を構成する一方の板状部材に、成形原料を導入するための裏孔を前記溝部と連通するように形成するとともに、前記異種材料接合体を構成する他方の板状部材に、前記成形原料を格子状に成形するためのスリットを前記溝部と連通するように形成して、ハニカム構造体を成形するための口金を前記異種材料接合体として製造する前記[1]〜[8]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の異種材料接合体の製造方法は、二つの板状部材を接合させた接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ異種材料接合体、例えば、セラミックスハニカム構造体成形用金型に用いられる口金等の異種材料接合体の製造方法であって、この異種材料接合体の製造方法で得られた口金をセラミックスハニカム構造体用金型として用いれば、高度な成形性を実現することが可能である。
【0021】
特に本発明の異種材料接合体の製造方法は、非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ接合面を有した異種材料接合体の製造時に、非接合領域を流路としてろう材の蒸気が排出されるための開口部を確保することでろう材蒸気の残留を防ぐことが可能である。即ち、開口部に近い位置に配置されたシート状の離型材が熱あるいは押し圧によって反り返って開口部を塞がないように押圧部に設けられた固定部で離型材の縁部を押えることで開口部を確保してろう材の蒸気を排出し、ろう材の蒸気の残留を防ぐ。このため、大口径かつセル密度の高いセラミックスハニカム構造体の成形用金型に用いられる口金等の異種材料接合体を非常に高い精度で得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の異種材料接合体の製造方法の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
図1は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法における板状部材積層体を製造する工程を模式的に示す断面図であり、図2は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法によって得られた異種材料接合体を模式的に示す断面図である。更に、図3は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法における異種材料接合体をハニカム構造体を成形するための口金として製造したものを模式的に示す断面図である。また、図4は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法における、板状部材積層体を押型の間で挟持した状態で加熱する工程を模式的に示す説明図である。図5は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法における、板状部材積層体を真空容器中の断熱容器中において押型の間で挟持した状態で加熱する工程を模式的に示す説明図である。
【0024】
なお、図1〜図3においては、板状部材積層体又は異種材料接合体を側方から見た断面図である。図4、図5においては、板状部材積層体又は異種材料接合体を側方から見た模式的説明図である。図9、図10においてはそれぞれ図2中に示す模式的なX−X’断面図、模式的なY−Y’断面図を示す。図11においては図3中の模式的なZ−Z’断面図を示す。
【0025】
本実施の形態の異種材料接合体の製造方法は、図1に示すように、異種材料からなる二つの板状部材2、3の間の接合面28にろう材27を配した状態で積層して板状部材積層体4を得、図5に示すように、前記板状部材積層体4を、例えば、ヒータ7の輻射熱10によって加熱することにより、二つの板状部材2、3が接合された異種材料接合体1を製造する異種材料接合体の製造方法である。
【0026】
そして更に本実施の形態の異種材料接合体の製造方法においては、図1に示すように二つの板状部材2、3の一方の板状部材2に側面から接合面28に沿った複数の溝部37が設けられるとともに、側面においては図4に示すような溝部37と連通しつつ開口した複数の開口部11と、接合面28上においては図10にしめすような溝部37で形成された非接合領域31と、非接合領域31で区画され、二つの板状部材2、3間を接合する複数の接合領域32と、を形成されてなるものである。
【0027】
また更に本実施の形態の異種材料接合体の製造方法においては、図4に示すような一対の押型5で板状部材積層体4をシート状の離型材8を介して挟持した状態で、開口部11に近い離型材8のシート状の縁部分を押型5に設けられた固定部6に固定しながら、ろう材27が融解する温度以上に加熱するとともに、加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧して、非接合領域31で余剰となるろう材27を開口部11より蒸気として排出するものである。開口部11においては図10の矢印で示すようにろう材の蒸気が外部へ排出する役割も果たしている。
【0028】
板状部材積層体4を一対の押型5の間で挟持した状態で加熱する際には、図5に示すように、加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧することが可能な真空容器19内部の断熱容器16中において板状部材積層体4を挟持した押型5の周囲に配設したヒータ7等によって加熱することができる。
【0029】
また、押型5は加熱する工程において用いられるため、押型5として、その融点が500℃以上であり、且つ、板状部材積層体4を構成する板状部材2,3の接合温度の1.5倍以上の融点を有する材料からなるものを用いることが好ましい。このような押型5を用いることにより、押型5の板状部材積層体4への加圧を十分に行うことができ、異種材料接合体を製造した後に、押型5を容易に取り外すことができ、繰り返し使用することができる。更に、加熱する工程における押型5の熱変形を緩和することができる。
【0030】
なお、上記接合温度とは、接合のために加熱される温度のことであり、具体的には、加熱した時に到達する最高温度である。
【0031】
なお、特に限定されることはないが、押型5の融点は、1000℃以上であることが更に好ましく、1500℃以上であることがより好ましい。このような材料を用いることにより、加熱する工程において板状部材積層体を強固に挟持することができる。また、押型5は、上記した接合温度の2倍以上であることが更に好ましい。
【0032】
押型5を構成する具体的な材料としては、板状部材積層体4を構成する板状部材2,3の少なくとも一方の熱伝達率(W/m2・K)の1.5倍以上の熱伝達率(W/m2・K)を有する材料であれば特に制限はないが、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、黄銅、タングステン、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ケイ素、炭素、窒化アルミ、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む材料を好適例として挙げることができる。
【0033】
また、上記した材料のうち、タングステン、モリブデン、炭素、窒化アルミ等をより好適に用いることができ、更に、材料がより安価なものであるとともに、加工性も良好であることから、炭素を特に好適に用いることができる。
【0034】
なお、上記した炭素、例えば、等方性グラファイトカーボンは、その密度によって大きく熱伝達率が変化するため、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法において押型の材料として炭素を用いる場合には、その密度が1.5Mg/m3以上であることが好ましく、1.7Mg/m3以上であることが更に好ましい。
【0035】
このような密度の炭素は、従来の押型に用いられている材料と比較して高い熱伝達性を有するとともに、融点についても極めて高いことから、さまざまな材質の板状部材を用いた異種材料接合体の製造方法に利用することができる。
【0036】
このように構成された押型5は、極めて良好な熱伝達であり、図5に示すように断熱容器16中でヒータ7等の輻射熱10によって素早く加熱することができる。
【0037】
また、一対の押型5によって板状部材積層体4を挟持する際には、図4に示すように、一対の押型5と板状部材積層体4との間に、予めシート状の離型材8を配した状態で、板状部材積層体4を挟持し、押型5の挟持面15から板状部材積層体4により均等に熱を伝達させることができるように、押型5と板状部材積層体4との間に隙間を作らないようにすることが好ましい。
【0038】
このように構成することによって、板状部材積層体4(又は、得られる異種材料接合体1(図2参照))と、押型5の挟持面15との融着を有効に防止することができるとともに、板状部材積層体4と押型5との密着性を向上させることができる。
【0039】
なお、シート状の離型材8として弾性率が十分に小さいことが好ましい。具体的な弾性率としては、100GPa以下であることが好ましく、10GPa以下であることが更に好ましい。このように構成することによって、押型と板状部材との隙間を埋めて、密着を向上させ熱伝達を向上させることができるとともに、面圧分布を均一にすることができる。
【0040】
なお、この離型材8の材料については特に制限はないが、熱伝達の優れた材料からなるものであることが好ましく、例えば、ケイ素、炭素、窒化アルミ、酸化アルミ、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む材料からなるシート状のものを好適に用いることができる。なお、シート状の離型材8は、その厚さが十分に薄いことが好ましく、具体的には、厚さが1mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることが更に好ましい。
【0041】
通常、板状部材積層体とシート状の離型材8とは、熱膨張係数が大きく異なることが多い。一般に板状部材積層体の方が熱膨張係数が大きく、更にその熱膨張の違いから昇温中に位置ずれを生じる恐れがある。このため、シート状の離型材8のサイズを板状部材積層体のサイズに合うようにあらかじめカットして使うということが困難である。最低でも、シート状の離型材のサイズを板状部材積層体のサイズよりも5mm程度は大きめにカットして用いないと、板状部材積層体が離型材よりもはみ出てしまい、離型材としての役割をはたさないことがある。
【0042】
このような離型材8を用いることにより、板状部材積層体4と押型5との密着性をより向上させることができ、押型5の挟持面15からの熱を、板状部材積層体4の表面に、より均等に伝達することが可能になる。
【0043】
また、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法において押型5によって板状部材積層体4を挟持する際には、積層した板状部材2,3の種類や構造によっても異なるが、例えば、押型5によって0.1〜100MPaの圧力をかけて挟持することが好ましい。このように構成することによって、二つの板状部材2,3の接合後に生じる反りを矯正して、歪みのない異種材料接合体1(図2参照)を得ることができる。
【0044】
また、図1に示すように、板状部材積層体4を構成する二つの板状部材2,3は、その二つの板状部材2,3の材質に特に制限はないが、例えば、二つの板状部材2,3の一方の板状部材(例えば、板状部材2)として、オーステナイト相の冷却によってマルテンサイト変態、ベイナイト変態、及びパーライト変態からなる群より選択される少なくとも一つの相変態を起こし得る金属又は合金から構成されたものを用いることができる。
【0045】
更に、二つの板状部材2,3のうちの一方の板状部材2として上記した金属又は合金から構成されたものを用いた場合には、他方の板状部材3として、炭化タングステン基超硬合金から構成されたものを好適に用いることができる。
【0046】
このような二つの板状部材2,3を用いることにより、例えば、押出成形等に用いられる口金のように、特に、その一部分にのみ優れた耐摩耗性が求められる異種材料接合体1(図2参照)を製造することができる。
【0047】
また、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法において、異種材料からなる二つの板状部材2,3を積層して板状部材積層体4を得る際には、図1に示すように、二つの板状部材2,3の間にろう材27を配した状態で積層し、二つの板状部材2,3の間にろう材27を配した板状部材積層体4を得る。このように構成することによって、二つの板状部材2,3の接合が容易となって、二つの板状部材2,3の接合面28における接合強度が向上する。
【0048】
なお、特に限定されることはないが、ろう材27としては、二つの板状部材2,3のうちの少なくとも一方の内部に浸透し得る材料からなるものであることが好ましい。このような材料からなるろう材27を用いることにより、二つの板状部材2,3の接合面にろう材27が板状部材積層体の層のままの状態で存在することがなく、機械的強度の低下を有効に防止することができる。
【0049】
本実施の形態の異種材料接合体の製造方法に用いられるろう材27としては、銅、銀、金、ニッケル、及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むろう材を好適例として挙げることができる。
【0050】
また、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法においては、例えば、異種材料接合体を構成する一方の板状部材2に、成形原料を導入するための裏孔26を形成するとともに、異種材料接合体を構成する他方の板状部材3に、図3に示すように成形原料を格子状に成形するためのスリットを形成して、異種材料接合体として、図12に示すような、ハニカム構造体を成形するための口金21を製造することもできる。図13は、図12中の平面αでの断面図である。隣接する裏孔26から導入される成形材料が溝部37で合流し、流速が整えられ、接合面28においてろう材27によって接合された他方の板状部材3には溝部37と対応する位置にスリット25が設けられている。このスリットから所望のハニカム形状の成形体を成形することができる。
【0051】
図9、図10においてはそれぞれ図2中に示す模式的なX−X’断面図、模式的なY−Y’断面図を示す。図9に示すように規則的に配置された裏孔26が成型材料の導入孔となって溝部37において隣接する裏孔どうしが連通し、成形材料の流速が均等化される。また図10に示すような接合面28においては異種材料接合体の側面となる外周の全周に渡って溝部37が形成されることで開口部11が設けられ、この開口部11を通じて加熱時にろう材の蒸気が図中の矢印のように排出されるものである。本実施の形態の異種材料接合体の製造方法によれば図10に示すような接合面28において、接合領域32の面積の最小値を0.1〜100mm2とすることが好ましい。本実施の形態の異種材料接合体の製造方法によれば、接合領域32の面積の最小値が0.1〜100mm2の範囲であって図10に示すような複雑な形状であっても高い精度で充分な強度で異種材料の接合を行うことができる。
【0052】
従来の異種材料接合体の製造方法においては、この開口部11は、従来の異種材料接合体の製造方法においては図6に示すような異種材料積層体4の模式的断面図のように、シート状の離型材8が上カーボン板17と下カーボン板18を備えた押し型5と、異種材料積層体4との間に直接設けられていたため、図7に示すように異種材料積層体4の加熱時において離型材8の縁部に反り返りを生じて、側面に設けられた開口部11を覆ってしまう問題も生じていた。
【0053】
このため、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法においては、図8に示すように異種材料積層体4の加熱する工程における加熱時に離型材8の縁部に反り返しを生じさせないために下カーボン板18を備えた押し型5に固定部6を設け、この固定部6で離型材8の縁部を固定するものとした。このとき、接合面28に沿って設けられた溝部37が開口部11と連通しているので、この開口部11からろう材27の蒸気が排出される。ただし、一対の押し型5に設ける固定部6は開口部11が近い側の一方であれば良く、開口部が上カーボン板17を備えた押し型5に近い場合には、この上カーボン板17に固定部を設け、カーボン板17と異種材料積層体4との間に設けられた離型材(図示せず)の縁部を固定する。
【0054】
この固定部6は、シート状の離型材8の縁部が開口部11に覆うのを防ぐものであればよく、押型5の狭持面15に溝形状を設け、この溝形状の内部に縁部を収容して固定部6とすることもできる。固定部6の形状や構造については特に限定するものではない。固定部6の一例として図8に示すように、板状部材積層体4の縁部分からの距離が0〜100mmの位置に設けた溝状の隙間を下カーボン板18(押型5)の表面に設けて、シート状の離型材8を固定部6としての溝状の隙間の中に折り曲げて固定することが好ましく、この距離を5〜50mmとすることがより好ましい。
【0055】
図10に示すように接合面28においては裏孔26および溝部37と対応するそれぞれの非接合領域38、39とが開口部11とともに連通している。溝部37によって区画される複数の精密かつ複雑な形状の接合領域32はろう材の浸透作用によって充分な強度で接合される。接合面28における複数の接合領域32で接合される他方の板状部材3に設けられるスリット25を図3中のZ−Z’断面図として図11に示す。このスリット25は溝部37と対応した位置に設け、スリット25の幅を成形する用途に応じて所望の幅に調節することで、成形用口金21として用いることができる。
【0056】
従来のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、一方の板状部材2と他方の板状部材3とを、ろう材(例えば、純銅)の融解する温度以上に加熱して接合させる際には、ろう材(純銅)の融解し、且つ加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧することより、接合時に裏孔26内に侵入するろう材27を気化して取り除いていたが、一方の板状部材に形成した裏孔26および溝部37内にろう材27の一部が侵入し、裏孔26および溝部37内に残留してしまう。
【0057】
裏孔26および溝部37内にろう材27が残留すると、他方の板状部材3を貫通するようにスリット25(図3参照)を形成する際に、このろう材27が抵抗となり、形成したスリット25(図6参照)に歪みを生じさせたり、スリット25(図6参照)を形成するための砥石等の工具を破損させることがある。また、裏孔26内にろう材27が残留すると、ハニカム構造体成形用口金1の裏孔26からスリット25まで連通する流路が塞がってしまったり、狭まったりするため、成形品の品質に悪影響を与えるという問題もあった。また近年のハニカム構造体の口径の増大や薄壁の高密度化に伴って、接合面の接合領域と非接合領域とがともに緻密になり要求される精度が高くなり、ろう材の蒸気が接合面内部のこの非接合領域から充分に排出されずに残留した場合、わずかな量であっても影響が無視できなくなった。
【0058】
本実施の形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、ろう材(銅)の融解し、且つ加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧し、更に溝部37と連通した開口部11を側面に設けて離型材8の縁部がこの開口部11をふさがないように押し型5に設けられた固定部6で固定することで接合時に裏孔26および溝部37内に侵入するろう材27を気化して開口部11から取り除くことができる。このため、口金基体22の一部を構成する他方の板状部材3にスリット25を形成する際に、裏孔26内に侵入したろう材27が抵抗になることがなく、歪み等のないスリット25を正確で簡便に形成することができる。また、より高品質な製品を得ることができるようになる。
【0059】
このような口金21は、成形原料を導入するための裏孔26が形成された板状部材2と、この成形原料を格子状に成形するためのスリット25が形成された板状部材3とが接合された異種材料接合体1からなる口金21である。図3中の口金21のZ−Z’断面を図11に示す。図11に示すように口金21にスリット25が格子状に形成され、このようなスリット25を形成することで図22に示すような多孔質の隔壁13によって区画形成された流体の流路となる複数のセル14を有したハニカム構造体12の押出成形用に用いることができる。
【0060】
なお、図22に示すようなハニカム構造体12は、内燃機関、ボイラー、化学反応機器及び燃料電池用改質器等の触媒作用を利用する触媒用担体や、排気ガス中の微粒子捕集フィルター等に好適に用いることができる。
【0061】
図8に示すような口金21を製造する際には、例えば、まず、図1に示すように、二つの板状部材2,3のうちの一方の板状部材2に裏孔26を形成し、この裏孔26を形成した板状部材2と、他の板状部材3とを積層して板状部材積層体4を得る。
【0062】
上記した裏孔26は、例えば、電解加工(ECM加工)、放電加工(EDM加工)、レーザ加工、ドリル等の機械加工等による従来公知の方法によって形成することができる。
【0063】
裏孔26の開口径の大きさは、製造するハニカム構造体成形用口金1の大きさや、押出成形するハニカム構造体12(図22参照)の形状等によって適宜決定することができるが、例えば、裏孔26の開口径の大きさは、10〜0.1mmであることが好ましく、3〜0.5mmであることが更に好ましい。このような裏孔26を形成する方法については特に制限はないが、例えば、電解加工(ECM加工)、放電加工(EDM加工)、レーザ加工、ドリル等の機械加工等による従来公知の方法を好適に用いることができる。ただし、この裏孔は上述のように一方の板状部材2あらかじめ設けておいても良いし、異種材料接合体1を形成してから設けるものであっても良い。
【0064】
また、本実施の形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、図1に示すように、一方の板状部材に裏孔26を形成する前又は裏孔26を形成した後に、一方の板状部材の一方の表面に、スリットの形状に対応した格子状の溝部37を形成する。この格子状の溝部37は、裏孔26から導入された成形材料の緩衝部として機能するため、得られたハニカム構造体成形用口金は、裏孔から導入した成形原料を支障なく滑らかに移動させることができ、高度な成形性を実現するとともに、高精度にハニカム構造体を成形することができる。
【0065】
また、このような格子状の溝部37を接合面に沿って形成しておくことにより、口金基体の一部を構成する他方の板状部材に研削加工等によりスリットを形成する場合に、この格子状の溝部37まで連通した時点でスリットの形成を停止することができ、一方の板状部材を余分に加工する必要がない。このため、加工に用いる砥石等の劣化を有効に防止することができる。さらに、このように裏孔と溝部とを予め形成することにより、熱膨張係数の差による熱応力が小さくなるので、一方の板状部材と他方の板状部材とを接合させた際に、接合面28における剥れを少なくすることができる。
【0066】
このような格子状の溝部37を形成する方法としては、例えば、ダイヤモンド砥石による研削加工や放電加工(EDM加工)等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、溝部37の深さは0.1〜3.0mmで、幅が0.1〜1.0mmとすることが好ましい。
【0067】
次に、図5に示すように、得られた板状部材積層体4を、真空容器19の断熱容器16内部で炭素を主成分とする材料からなる押型5(上カーボン板17、下カーボン板18)の間で挟持した状態で加熱して、ろう材(銅)の融解し、且つ加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧し、更に溝部37と連通した開口部11を側面に設けて離型材8の縁部がこの開口部11をふさがないように押し型5に設けられた固定部6で固定することで接合時に裏孔26および溝部37内に侵入するろう材27を気化して開口部11から取り除くことができる。板状部材積層4を構成する二つの板状部材2,3を接合させる。
【0068】
次に、図3に示すように、他方の板状部材3に成形原料を格子状に成形するためのスリット25を形成して、ハニカム構造体を成形するための口金21(異種材料接合体1)を製造する。
【0069】
上記したスリット25、例えば、ダイヤモンド砥石による研削加工や放電加工(EDM加工)等による従来公知の方法によって形成することができる。
【0070】
特に、このような口金21を製造する場合には、一方の板状部材2として、オーステナイト相の冷却によってマルテンサイト変態、ベイナイト変態、及びパーライト変態からなる群より選択される少なくとも一つの相変態を起こし得る金属又は合金から構成されたものを用い、更に、他方の板状部材3として、炭化タングステン基超硬合金から構成されたものを用いることにより、耐摩耗性に優れた口金21を製造することができる。
【0071】
なお、本発明の異種材料接合体の製造方法は、異種材料からなる二つの板状部材が接合された異種材料接合体を製造するための製造方法であるが、勿論、同種の材料からなる二つの板状部材を接合して板状部材接合体を製造する製造方法としても好適に用いることができる。なお、このような同種材料からなる板状部材接合体を製造する際には、使用する材料として、同種の材料からなる二つの板状部材を用いること以外は、これまでに説明した異種材料接合体の製造方法と同様の方法によって板状部材接合体を製造することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例)
一方の板状部材に成形原料を導入するための裏孔と、一方の板状部材の接合面とする表面に、スリットの形状に対応した格子状の溝部を窒化ボロン砥石による研削加工で形成し、この接合面にはろう材を配して、一方の板状部材と他方の板状部材とを積層して板状部材積層体を得る。次にこの板状部材積層体を離型材を介して押型で狭持した状態で真空容器内で加熱して口金基体を得、得られた口金基体の一部を構成する他方の板状部材に、一方の板状部材の溝部と連通するスリットを形成してハニカム構造体成形用口金を製造した。
【0074】
実施例においては、SUS630(C;0.07以下,Si;1.00以下,Mn;1.00以下,P;0.040以下,S;0.030以下,Ni;3.00〜5.00,Cr;15.50〜17.50,Cu;3.00〜5.00,Nb+Ta;0.15〜0.45,Fe;残部(単位は質量%))から構成された一方の板状部材と、WC−16質量%Coの炭化タングステン基超硬合金から構成された他方の板状部材と、銅から構成されたろう材と、を用いてハニカム構造体成形用口金の製造を行った。
【0075】
一方の板状部材は、その面の大きさが直径215mmの円形で、厚さが15mmであり、他方の板状部材は、その面の大きさが直径210mmの正方形で、厚さ2.5mmであり、ろう材は、その面の大きさが直径210mmの円形で、厚さが0.010mmである。シート状の離型材は、その面の大きさが220mm×220mmの正方形で厚さが0.2mmである。
【0076】
まず、一方の板状部材に、後の工程で形成する格子状のスリットの交点に相当する位置に、開口径1.14mmの裏孔を電解加工(ECM加工)によって形成した。更に、接合面となる表面のスリットに相当する位置に格子状の溝部を縦横ともに同じ幅で0.3mmとし、深さ0.5mmで間隔を0.8mmあけて設けることにより、裏孔と側面の開口部とを連通させた。
【0077】
次に、一方の板状部材と他方の板状部材とを、その間にろう材を配して積層し一対の押型で離型材を介して狭持し、押型に設けられた固定部によって離型材の縁部が開口部を塞がないように固定した。次いでろう材(銅)が融解し、且つこのろう材の蒸気圧よりも低い圧力まで加熱減圧して、一方の板状部材と他方の板状部材とを接合させて口金基体を得た。具体的な加熱条件は、加熱温度1120℃とし、圧力0.133Pa以下とした。
【0078】
得られた口金基体を常温まで降温した後、他方の板状部材に、一方の板状部材の裏孔と連通するスリットを形成してハニカム構造体成形用口金を得た。スリットは、ダイヤモンド砥石によって四角形の格子状に形成した。スリットの幅は約100μm、深さは約2.5mmとし、隣接するスリット相互の間隔は約1000μmとした。
【0079】
本実施例のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、開口部が離型材で覆われることがないため、裏孔内に侵入したろう材が加熱時に気化してこの開口部を通じて除去されていた。このため、他方の板状部材にスリットを形成する際に、ろう材が抵抗になることがなく、歪みのないスリットを正確且つ簡便に形成することができた。また、得られたハニカム構造体成形用口金は、裏孔内にろう材が残留しておらず、且つスリットの幅が均一に形成されていることから、高品質なハニカム構造体を形成することができた。さらに、得られたハニカム構造体成形用口金は、格子状の溝部が緩衝部となるため、裏孔から導入した成形原料を支障なく滑らかに移動させることができ、高度な成形性を実現するとともに、高精度にハニカム構造体を成形することができた。
【0080】
なお、一方の板状部材の裏孔および溝部内に侵入したろう材の除去についての確認は、超音波探傷検査によって行った。図14に実施例の解析結果を示す。また、図14中の領域A’を図16に示す。
【0081】
(比較例)
実施例と同様の材料を用い、加熱する工程において、離型材の縁部を固定部で固定しないで加熱し、接合させて口金基体を得た以外は、実施例と同様の方法にてハニカム構造体成形用口金を製造した。
【0082】
本比較例のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、加熱終了後に、一方の板状部材の裏孔および溝部内にろう材が残留していたため、スリットの加工時における抵抗が大きく、均一の幅のスリットを形成することができなかった。また、得られたハニカム構造体成形用口金は、裏孔からスリットへと連通する流路がろう材によって塞がれている箇所があり、成形品に欠陥等を生じさせることがあった。一方の板状部材の裏孔および溝部内に侵入したろう材の除去についての確認は、実施例と同様に超音波探傷検査によって行った。図15に比較例の解析結果を示す。また、図15中の領域Aを図17に示す。
【0083】
実施例の領域A’中の領域B’領域C’、領域D’とそれぞれ対応する位置の比較例の領域A中の領域B、領域C、領域Dとを比較した解析結果を比較写真としてそれぞれ、図19、図20、図18に示す。各図において接合領域は黒く、非接合領域は灰色に表示される。実施例においては非接合領域がろう材によって塞がれることがなく、比較例においてはろう材によって非接合領域が塞がれている(各比較写真の黒い部分)ことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の異種材料接合体の製造方法は、異種材料からなる二つの板状部材が接合された異種材料接合体を製造する方法、特に、セラミックスハニカム構造体成形用金型等に用いられる口金のように、その一部分にのみ優れた耐摩耗性が求められ、接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ精密な異種材料接合体を高い精度で得ることが可能な異種材料接合体の製造方法として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、板状部材積層体を製造する工程を模式的に示す説明図であり、板状部材積層体を側方から見た模式的断面図である。
【図2】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態によって得られた異種材料接合体を側方から見た模式的断面図である。
【図3】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態の他の例における、他方の板状部材にスリットを形成する工程を模式的に示す説明図であり、板状部材積層体の表面に垂直な断面図である。
【図4】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、押型で板状部材積層体を挟持する状態を模式的に示す模式的説明図である。
【図5】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、真空容器中で板状部材積層体を押型の間で挟持した状態で加熱する工程を模式的に示す模式的説明図である。
【図6】従来の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、加熱前の離型材の状態を示す説明図であり、板状部材積層体を側方から見た側面図である。
【図7】従来の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、加熱時の離型材の状態を示す説明図であり、板状部材積層体を側方から見た側面図である。
【図8】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、加熱前および加熱時の離型材の状態を示す説明図であり、板状部材積層体を側方から見た側面図である。
【図9】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態によって得られた異種材料接合体の図2中のX−X’断面図である。
【図10】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態によって得られた異種材料接合体の接合面を示す図2中のY−Y’断面図である。
【図11】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、他方の板状部材にスリットを形成する工程を模式的に示す説明図であり、図3中のZ−Z’断面図である。
【図12】ハニカム構造体を成形するための口金を模式的に示す斜視図である。
【図13】図12に示すハニカム構造体成形用口金を平面αで切断した断面を示す模式的断面図である。
【図14】実施例におけるハニカム構造体を成形するための口金の接合面の接合良否を示す超音波探傷検査の解析写真である。
【図15】比較例におけるハニカム構造体を成形するための口金の接合面の接合良否を示す超音波探傷検査の解析写真である。
【図16】図14中の実施例の領域A’を示す一部拡大写真である。
【図17】図14中の比較例の領域Aを示す一部拡大写真である。
【図18】領域D’および領域Dを比較する一部拡大比較写真である。
【図19】領域B’および領域Bを比較する一部拡大比較写真である。
【図20】領域C’および領域Cを比較する一部拡大比較写真である。
【図21】従来の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、押型で板状部材積層体を挟持する状態を模式的に示す模式的説明図である。
【図22】図8に示す口金によって押出成形されたハニカム構造体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0086】
1:異種材料接合体、2:板状部材(一方の板状部材)、3:板状部材(他方の板状部材)、4:板状部材積層体、5:押型、6:固定部、7:ヒータ、8:離型材、10:輻射熱、11:開口部、12:ハニカム構造体、13:隔壁、14:セル、15:挟持面、16:断熱容器、17:上カーボン板、18:下カーボン板、19:真空容器、21:口金、25:スリット、26:裏孔、27:ろう材、28:接合面、31:非接合領域、32:接合領域、37:溝部、38:非接合領域、39:非接合領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材料接合体の製造方法に関する。更に詳しくは、接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ異種材料接合体、例えば、セラミックスハニカム構造体成形用金型に用いられる高度な成形性が要求される口金等のような接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ精密な異種材料接合体を高い精度で得ることが可能な異種材料接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルミニウム(Al)又はAlを主成分とする金属からなるAl金属部材と、該Al金属部材とは異なる材料からなる異種部材とを接合したAl金属接合体において、前記Al金属部材と前記異種部材との接合界面に、Hv硬さ20〜80(マイクロビッカース;荷重100gf)で且つ厚さ0.1〜3mmの軟質金属層を備えたAl金属接合体が開示されている。
【0003】
このような異種材料接合体を製造する際には、例えば、異種材料からなる二つの板状部材を積層した後、積層した板状部材を一対の押型によって挟持した状態で加熱することにより、積層した二つの板状部材を接合させる方法を用いることがある。
【0004】
セラミック質のハニカム構造体の製造方法としては、従来から、成形原料(坏土)を導入する裏孔と、この裏孔に連通する格子状等のスリットとが形成された口金基体を備えたハニカム構造体成形用口金を用いて押出成形する方法が広く行われている。この口金は、通常、口金基体の一方の面に、ハニカム構造体の隔壁厚さに対応する幅のスリットが格子状等に設けられており、その反対側の面(他方の面)に、スリットと連通する裏孔が大きな面積で開口して設けられている。そして、この裏孔は、通常、格子状等のスリットが交差する位置に対応して設けられ、両者は、口金基体内部で連通している。従って、裏孔から導入されたセラミック原料等の成形原料は、比較的内径の大きな裏孔から、幅の狭いスリットへと移行して、このスリットの開口部からハニカム構造の成形体(ハニカム成形体)として押出される。
【0005】
このようなハニカム構造体成形用口金を構成する口金基体としては、例えば、ステンレス合金や超硬合金等の一種類の合金から構成された板状の部材や、例えば、スリットを形成するための部材と裏孔を形成するための部材とのように、異なる二種類の板状の部材を接合して形成された板状の部材が用いられている(例えば、特許文献2または3参照)。
【0006】
従来のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、このような口金基体に、上記したスリットと裏孔とを機械加工して形成している。
【0007】
【特許文献1】特開平10−5992号公報
【特許文献2】特開2000−326318号公報
【特許文献3】特開2003−285308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ異種材料接合体としての従来のハニカム構造体成形用口金の製造方法において、異なる二種類の板状部材を接合させて口金基体を得る際に、それらの板状部材の間にろう材を配し加熱して二種類の板状部材を接合させることがあるが、例えば、一方の板状部材に予め裏孔とこの裏孔と連通して側面から接合面に沿って設けられた溝部とを形成し、この板状部材と他の板状部材とを接合させる場合は、予め形成した裏孔および溝部内にろう材が侵入し、侵入したろう材が裏孔および溝部内に残留してしまう。このため、スリットの加工時において、裏孔および溝部内のろう材が抵抗となり、スリット加工用の砥石等の工具が破損してしまうことや、形成したスリットに歪みが生じてしまうという問題があった。また、このように裏孔および溝部内にろう材が残留すると、ハニカム構造体を成形する際に、裏孔および溝部からスリットへと連通する流路が、ろう材によって塞がれてしまうことや狭められてしまうことがあり、成形品の品質に悪影響を与えるという問題もあった。
【0009】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ異種材料接合体を高い精度で得ることが可能な異種材料接合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明によれば、以下の異種材料接合体の製造方法が提供される。
【0011】
[1]異種材料からなる二つの板状部材の間の接合面にろう材を配した状態で積層して板状部材積層体を得、前記板状部材積層体を加熱することにより、前記二つの板状部材が接合された異種材料接合体を製造する異種材料接合体の製造方法であって、前記二つの板状部材の一方の板状部材は、側面から前記接合面に沿った複数の溝部が設けられるとともに、前記側面においては前記溝部と連通しつつ開口した複数の開口部と、前記接合面上においては前記溝部で形成された非接合領域と、前記非接合領域で区画され、前記二つの板状部材間を接合する複数の接合領域と、が形成されてなり、一対の押型で前記板状部材積層体をシート状の離型材を介して挟持した状態で、前記開口部に近い前記離型材のシート状の縁部分を前記押型に設けた固定部で固定しながら、前記ろう材が融解する温度以上に加熱するとともに、加熱雰囲気の圧力を前記ろう材の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧して、前記非接合領域の間隙で余剰となる前記ろう材を前記開口部より蒸気として排出する異種材料接合体の製造方法。
【0012】
[2]前記離型材として、ケイ素、炭素、窒化アルミ、酸化アルミ、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む材料からなるシート状のものを用いる前記[1]に記載の異種材料接合体の製造方法。
【0013】
[3]前記ろう材として、銅、銀、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つを含む金属又は合金のろう材を用いる前記[1]または[2]に記載の異種材料接合体の製造方法。
【0014】
[4]前記板状部材積層体を、前記押型によって0.1〜100MPaの圧力をかけて挟持する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0015】
[5]前記二つの板状部材の一方の板状部材として、オーステナイト相の冷却によってマルテンサイト変態、ベイナイト変態、及びパーライト変態からなる群より選択される少なくとも一つの相変態を起こし得る金属又は合金から構成されたものを用いる前記[1]〜[4]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0016】
[6]前記二つの板状部材の他方の板状部材として、炭化タングステン基超硬合金から構成されたものを用いる前記[1]〜[5]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0017】
[7]前記溝部の幅を50〜1000μmとした前記[1]〜[6]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0018】
[8]前記接合領域の面積の最小値を0.1〜100mm2とした前記[1]〜[7]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【0019】
[9]前記異種材料接合体を構成する一方の板状部材に、成形原料を導入するための裏孔を前記溝部と連通するように形成するとともに、前記異種材料接合体を構成する他方の板状部材に、前記成形原料を格子状に成形するためのスリットを前記溝部と連通するように形成して、ハニカム構造体を成形するための口金を前記異種材料接合体として製造する前記[1]〜[8]のいずれかに記載の異種材料接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の異種材料接合体の製造方法は、二つの板状部材を接合させた接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ異種材料接合体、例えば、セラミックスハニカム構造体成形用金型に用いられる口金等の異種材料接合体の製造方法であって、この異種材料接合体の製造方法で得られた口金をセラミックスハニカム構造体用金型として用いれば、高度な成形性を実現することが可能である。
【0021】
特に本発明の異種材料接合体の製造方法は、非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ接合面を有した異種材料接合体の製造時に、非接合領域を流路としてろう材の蒸気が排出されるための開口部を確保することでろう材蒸気の残留を防ぐことが可能である。即ち、開口部に近い位置に配置されたシート状の離型材が熱あるいは押し圧によって反り返って開口部を塞がないように押圧部に設けられた固定部で離型材の縁部を押えることで開口部を確保してろう材の蒸気を排出し、ろう材の蒸気の残留を防ぐ。このため、大口径かつセル密度の高いセラミックスハニカム構造体の成形用金型に用いられる口金等の異種材料接合体を非常に高い精度で得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の異種材料接合体の製造方法の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
図1は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法における板状部材積層体を製造する工程を模式的に示す断面図であり、図2は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法によって得られた異種材料接合体を模式的に示す断面図である。更に、図3は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法における異種材料接合体をハニカム構造体を成形するための口金として製造したものを模式的に示す断面図である。また、図4は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法における、板状部材積層体を押型の間で挟持した状態で加熱する工程を模式的に示す説明図である。図5は、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法における、板状部材積層体を真空容器中の断熱容器中において押型の間で挟持した状態で加熱する工程を模式的に示す説明図である。
【0024】
なお、図1〜図3においては、板状部材積層体又は異種材料接合体を側方から見た断面図である。図4、図5においては、板状部材積層体又は異種材料接合体を側方から見た模式的説明図である。図9、図10においてはそれぞれ図2中に示す模式的なX−X’断面図、模式的なY−Y’断面図を示す。図11においては図3中の模式的なZ−Z’断面図を示す。
【0025】
本実施の形態の異種材料接合体の製造方法は、図1に示すように、異種材料からなる二つの板状部材2、3の間の接合面28にろう材27を配した状態で積層して板状部材積層体4を得、図5に示すように、前記板状部材積層体4を、例えば、ヒータ7の輻射熱10によって加熱することにより、二つの板状部材2、3が接合された異種材料接合体1を製造する異種材料接合体の製造方法である。
【0026】
そして更に本実施の形態の異種材料接合体の製造方法においては、図1に示すように二つの板状部材2、3の一方の板状部材2に側面から接合面28に沿った複数の溝部37が設けられるとともに、側面においては図4に示すような溝部37と連通しつつ開口した複数の開口部11と、接合面28上においては図10にしめすような溝部37で形成された非接合領域31と、非接合領域31で区画され、二つの板状部材2、3間を接合する複数の接合領域32と、を形成されてなるものである。
【0027】
また更に本実施の形態の異種材料接合体の製造方法においては、図4に示すような一対の押型5で板状部材積層体4をシート状の離型材8を介して挟持した状態で、開口部11に近い離型材8のシート状の縁部分を押型5に設けられた固定部6に固定しながら、ろう材27が融解する温度以上に加熱するとともに、加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧して、非接合領域31で余剰となるろう材27を開口部11より蒸気として排出するものである。開口部11においては図10の矢印で示すようにろう材の蒸気が外部へ排出する役割も果たしている。
【0028】
板状部材積層体4を一対の押型5の間で挟持した状態で加熱する際には、図5に示すように、加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧することが可能な真空容器19内部の断熱容器16中において板状部材積層体4を挟持した押型5の周囲に配設したヒータ7等によって加熱することができる。
【0029】
また、押型5は加熱する工程において用いられるため、押型5として、その融点が500℃以上であり、且つ、板状部材積層体4を構成する板状部材2,3の接合温度の1.5倍以上の融点を有する材料からなるものを用いることが好ましい。このような押型5を用いることにより、押型5の板状部材積層体4への加圧を十分に行うことができ、異種材料接合体を製造した後に、押型5を容易に取り外すことができ、繰り返し使用することができる。更に、加熱する工程における押型5の熱変形を緩和することができる。
【0030】
なお、上記接合温度とは、接合のために加熱される温度のことであり、具体的には、加熱した時に到達する最高温度である。
【0031】
なお、特に限定されることはないが、押型5の融点は、1000℃以上であることが更に好ましく、1500℃以上であることがより好ましい。このような材料を用いることにより、加熱する工程において板状部材積層体を強固に挟持することができる。また、押型5は、上記した接合温度の2倍以上であることが更に好ましい。
【0032】
押型5を構成する具体的な材料としては、板状部材積層体4を構成する板状部材2,3の少なくとも一方の熱伝達率(W/m2・K)の1.5倍以上の熱伝達率(W/m2・K)を有する材料であれば特に制限はないが、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、黄銅、タングステン、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ケイ素、炭素、窒化アルミ、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む材料を好適例として挙げることができる。
【0033】
また、上記した材料のうち、タングステン、モリブデン、炭素、窒化アルミ等をより好適に用いることができ、更に、材料がより安価なものであるとともに、加工性も良好であることから、炭素を特に好適に用いることができる。
【0034】
なお、上記した炭素、例えば、等方性グラファイトカーボンは、その密度によって大きく熱伝達率が変化するため、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法において押型の材料として炭素を用いる場合には、その密度が1.5Mg/m3以上であることが好ましく、1.7Mg/m3以上であることが更に好ましい。
【0035】
このような密度の炭素は、従来の押型に用いられている材料と比較して高い熱伝達性を有するとともに、融点についても極めて高いことから、さまざまな材質の板状部材を用いた異種材料接合体の製造方法に利用することができる。
【0036】
このように構成された押型5は、極めて良好な熱伝達であり、図5に示すように断熱容器16中でヒータ7等の輻射熱10によって素早く加熱することができる。
【0037】
また、一対の押型5によって板状部材積層体4を挟持する際には、図4に示すように、一対の押型5と板状部材積層体4との間に、予めシート状の離型材8を配した状態で、板状部材積層体4を挟持し、押型5の挟持面15から板状部材積層体4により均等に熱を伝達させることができるように、押型5と板状部材積層体4との間に隙間を作らないようにすることが好ましい。
【0038】
このように構成することによって、板状部材積層体4(又は、得られる異種材料接合体1(図2参照))と、押型5の挟持面15との融着を有効に防止することができるとともに、板状部材積層体4と押型5との密着性を向上させることができる。
【0039】
なお、シート状の離型材8として弾性率が十分に小さいことが好ましい。具体的な弾性率としては、100GPa以下であることが好ましく、10GPa以下であることが更に好ましい。このように構成することによって、押型と板状部材との隙間を埋めて、密着を向上させ熱伝達を向上させることができるとともに、面圧分布を均一にすることができる。
【0040】
なお、この離型材8の材料については特に制限はないが、熱伝達の優れた材料からなるものであることが好ましく、例えば、ケイ素、炭素、窒化アルミ、酸化アルミ、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む材料からなるシート状のものを好適に用いることができる。なお、シート状の離型材8は、その厚さが十分に薄いことが好ましく、具体的には、厚さが1mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることが更に好ましい。
【0041】
通常、板状部材積層体とシート状の離型材8とは、熱膨張係数が大きく異なることが多い。一般に板状部材積層体の方が熱膨張係数が大きく、更にその熱膨張の違いから昇温中に位置ずれを生じる恐れがある。このため、シート状の離型材8のサイズを板状部材積層体のサイズに合うようにあらかじめカットして使うということが困難である。最低でも、シート状の離型材のサイズを板状部材積層体のサイズよりも5mm程度は大きめにカットして用いないと、板状部材積層体が離型材よりもはみ出てしまい、離型材としての役割をはたさないことがある。
【0042】
このような離型材8を用いることにより、板状部材積層体4と押型5との密着性をより向上させることができ、押型5の挟持面15からの熱を、板状部材積層体4の表面に、より均等に伝達することが可能になる。
【0043】
また、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法において押型5によって板状部材積層体4を挟持する際には、積層した板状部材2,3の種類や構造によっても異なるが、例えば、押型5によって0.1〜100MPaの圧力をかけて挟持することが好ましい。このように構成することによって、二つの板状部材2,3の接合後に生じる反りを矯正して、歪みのない異種材料接合体1(図2参照)を得ることができる。
【0044】
また、図1に示すように、板状部材積層体4を構成する二つの板状部材2,3は、その二つの板状部材2,3の材質に特に制限はないが、例えば、二つの板状部材2,3の一方の板状部材(例えば、板状部材2)として、オーステナイト相の冷却によってマルテンサイト変態、ベイナイト変態、及びパーライト変態からなる群より選択される少なくとも一つの相変態を起こし得る金属又は合金から構成されたものを用いることができる。
【0045】
更に、二つの板状部材2,3のうちの一方の板状部材2として上記した金属又は合金から構成されたものを用いた場合には、他方の板状部材3として、炭化タングステン基超硬合金から構成されたものを好適に用いることができる。
【0046】
このような二つの板状部材2,3を用いることにより、例えば、押出成形等に用いられる口金のように、特に、その一部分にのみ優れた耐摩耗性が求められる異種材料接合体1(図2参照)を製造することができる。
【0047】
また、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法において、異種材料からなる二つの板状部材2,3を積層して板状部材積層体4を得る際には、図1に示すように、二つの板状部材2,3の間にろう材27を配した状態で積層し、二つの板状部材2,3の間にろう材27を配した板状部材積層体4を得る。このように構成することによって、二つの板状部材2,3の接合が容易となって、二つの板状部材2,3の接合面28における接合強度が向上する。
【0048】
なお、特に限定されることはないが、ろう材27としては、二つの板状部材2,3のうちの少なくとも一方の内部に浸透し得る材料からなるものであることが好ましい。このような材料からなるろう材27を用いることにより、二つの板状部材2,3の接合面にろう材27が板状部材積層体の層のままの状態で存在することがなく、機械的強度の低下を有効に防止することができる。
【0049】
本実施の形態の異種材料接合体の製造方法に用いられるろう材27としては、銅、銀、金、ニッケル、及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むろう材を好適例として挙げることができる。
【0050】
また、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法においては、例えば、異種材料接合体を構成する一方の板状部材2に、成形原料を導入するための裏孔26を形成するとともに、異種材料接合体を構成する他方の板状部材3に、図3に示すように成形原料を格子状に成形するためのスリットを形成して、異種材料接合体として、図12に示すような、ハニカム構造体を成形するための口金21を製造することもできる。図13は、図12中の平面αでの断面図である。隣接する裏孔26から導入される成形材料が溝部37で合流し、流速が整えられ、接合面28においてろう材27によって接合された他方の板状部材3には溝部37と対応する位置にスリット25が設けられている。このスリットから所望のハニカム形状の成形体を成形することができる。
【0051】
図9、図10においてはそれぞれ図2中に示す模式的なX−X’断面図、模式的なY−Y’断面図を示す。図9に示すように規則的に配置された裏孔26が成型材料の導入孔となって溝部37において隣接する裏孔どうしが連通し、成形材料の流速が均等化される。また図10に示すような接合面28においては異種材料接合体の側面となる外周の全周に渡って溝部37が形成されることで開口部11が設けられ、この開口部11を通じて加熱時にろう材の蒸気が図中の矢印のように排出されるものである。本実施の形態の異種材料接合体の製造方法によれば図10に示すような接合面28において、接合領域32の面積の最小値を0.1〜100mm2とすることが好ましい。本実施の形態の異種材料接合体の製造方法によれば、接合領域32の面積の最小値が0.1〜100mm2の範囲であって図10に示すような複雑な形状であっても高い精度で充分な強度で異種材料の接合を行うことができる。
【0052】
従来の異種材料接合体の製造方法においては、この開口部11は、従来の異種材料接合体の製造方法においては図6に示すような異種材料積層体4の模式的断面図のように、シート状の離型材8が上カーボン板17と下カーボン板18を備えた押し型5と、異種材料積層体4との間に直接設けられていたため、図7に示すように異種材料積層体4の加熱時において離型材8の縁部に反り返りを生じて、側面に設けられた開口部11を覆ってしまう問題も生じていた。
【0053】
このため、本実施の形態の異種材料接合体の製造方法においては、図8に示すように異種材料積層体4の加熱する工程における加熱時に離型材8の縁部に反り返しを生じさせないために下カーボン板18を備えた押し型5に固定部6を設け、この固定部6で離型材8の縁部を固定するものとした。このとき、接合面28に沿って設けられた溝部37が開口部11と連通しているので、この開口部11からろう材27の蒸気が排出される。ただし、一対の押し型5に設ける固定部6は開口部11が近い側の一方であれば良く、開口部が上カーボン板17を備えた押し型5に近い場合には、この上カーボン板17に固定部を設け、カーボン板17と異種材料積層体4との間に設けられた離型材(図示せず)の縁部を固定する。
【0054】
この固定部6は、シート状の離型材8の縁部が開口部11に覆うのを防ぐものであればよく、押型5の狭持面15に溝形状を設け、この溝形状の内部に縁部を収容して固定部6とすることもできる。固定部6の形状や構造については特に限定するものではない。固定部6の一例として図8に示すように、板状部材積層体4の縁部分からの距離が0〜100mmの位置に設けた溝状の隙間を下カーボン板18(押型5)の表面に設けて、シート状の離型材8を固定部6としての溝状の隙間の中に折り曲げて固定することが好ましく、この距離を5〜50mmとすることがより好ましい。
【0055】
図10に示すように接合面28においては裏孔26および溝部37と対応するそれぞれの非接合領域38、39とが開口部11とともに連通している。溝部37によって区画される複数の精密かつ複雑な形状の接合領域32はろう材の浸透作用によって充分な強度で接合される。接合面28における複数の接合領域32で接合される他方の板状部材3に設けられるスリット25を図3中のZ−Z’断面図として図11に示す。このスリット25は溝部37と対応した位置に設け、スリット25の幅を成形する用途に応じて所望の幅に調節することで、成形用口金21として用いることができる。
【0056】
従来のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、一方の板状部材2と他方の板状部材3とを、ろう材(例えば、純銅)の融解する温度以上に加熱して接合させる際には、ろう材(純銅)の融解し、且つ加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧することより、接合時に裏孔26内に侵入するろう材27を気化して取り除いていたが、一方の板状部材に形成した裏孔26および溝部37内にろう材27の一部が侵入し、裏孔26および溝部37内に残留してしまう。
【0057】
裏孔26および溝部37内にろう材27が残留すると、他方の板状部材3を貫通するようにスリット25(図3参照)を形成する際に、このろう材27が抵抗となり、形成したスリット25(図6参照)に歪みを生じさせたり、スリット25(図6参照)を形成するための砥石等の工具を破損させることがある。また、裏孔26内にろう材27が残留すると、ハニカム構造体成形用口金1の裏孔26からスリット25まで連通する流路が塞がってしまったり、狭まったりするため、成形品の品質に悪影響を与えるという問題もあった。また近年のハニカム構造体の口径の増大や薄壁の高密度化に伴って、接合面の接合領域と非接合領域とがともに緻密になり要求される精度が高くなり、ろう材の蒸気が接合面内部のこの非接合領域から充分に排出されずに残留した場合、わずかな量であっても影響が無視できなくなった。
【0058】
本実施の形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、ろう材(銅)の融解し、且つ加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧し、更に溝部37と連通した開口部11を側面に設けて離型材8の縁部がこの開口部11をふさがないように押し型5に設けられた固定部6で固定することで接合時に裏孔26および溝部37内に侵入するろう材27を気化して開口部11から取り除くことができる。このため、口金基体22の一部を構成する他方の板状部材3にスリット25を形成する際に、裏孔26内に侵入したろう材27が抵抗になることがなく、歪み等のないスリット25を正確で簡便に形成することができる。また、より高品質な製品を得ることができるようになる。
【0059】
このような口金21は、成形原料を導入するための裏孔26が形成された板状部材2と、この成形原料を格子状に成形するためのスリット25が形成された板状部材3とが接合された異種材料接合体1からなる口金21である。図3中の口金21のZ−Z’断面を図11に示す。図11に示すように口金21にスリット25が格子状に形成され、このようなスリット25を形成することで図22に示すような多孔質の隔壁13によって区画形成された流体の流路となる複数のセル14を有したハニカム構造体12の押出成形用に用いることができる。
【0060】
なお、図22に示すようなハニカム構造体12は、内燃機関、ボイラー、化学反応機器及び燃料電池用改質器等の触媒作用を利用する触媒用担体や、排気ガス中の微粒子捕集フィルター等に好適に用いることができる。
【0061】
図8に示すような口金21を製造する際には、例えば、まず、図1に示すように、二つの板状部材2,3のうちの一方の板状部材2に裏孔26を形成し、この裏孔26を形成した板状部材2と、他の板状部材3とを積層して板状部材積層体4を得る。
【0062】
上記した裏孔26は、例えば、電解加工(ECM加工)、放電加工(EDM加工)、レーザ加工、ドリル等の機械加工等による従来公知の方法によって形成することができる。
【0063】
裏孔26の開口径の大きさは、製造するハニカム構造体成形用口金1の大きさや、押出成形するハニカム構造体12(図22参照)の形状等によって適宜決定することができるが、例えば、裏孔26の開口径の大きさは、10〜0.1mmであることが好ましく、3〜0.5mmであることが更に好ましい。このような裏孔26を形成する方法については特に制限はないが、例えば、電解加工(ECM加工)、放電加工(EDM加工)、レーザ加工、ドリル等の機械加工等による従来公知の方法を好適に用いることができる。ただし、この裏孔は上述のように一方の板状部材2あらかじめ設けておいても良いし、異種材料接合体1を形成してから設けるものであっても良い。
【0064】
また、本実施の形態のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、図1に示すように、一方の板状部材に裏孔26を形成する前又は裏孔26を形成した後に、一方の板状部材の一方の表面に、スリットの形状に対応した格子状の溝部37を形成する。この格子状の溝部37は、裏孔26から導入された成形材料の緩衝部として機能するため、得られたハニカム構造体成形用口金は、裏孔から導入した成形原料を支障なく滑らかに移動させることができ、高度な成形性を実現するとともに、高精度にハニカム構造体を成形することができる。
【0065】
また、このような格子状の溝部37を接合面に沿って形成しておくことにより、口金基体の一部を構成する他方の板状部材に研削加工等によりスリットを形成する場合に、この格子状の溝部37まで連通した時点でスリットの形成を停止することができ、一方の板状部材を余分に加工する必要がない。このため、加工に用いる砥石等の劣化を有効に防止することができる。さらに、このように裏孔と溝部とを予め形成することにより、熱膨張係数の差による熱応力が小さくなるので、一方の板状部材と他方の板状部材とを接合させた際に、接合面28における剥れを少なくすることができる。
【0066】
このような格子状の溝部37を形成する方法としては、例えば、ダイヤモンド砥石による研削加工や放電加工(EDM加工)等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、溝部37の深さは0.1〜3.0mmで、幅が0.1〜1.0mmとすることが好ましい。
【0067】
次に、図5に示すように、得られた板状部材積層体4を、真空容器19の断熱容器16内部で炭素を主成分とする材料からなる押型5(上カーボン板17、下カーボン板18)の間で挟持した状態で加熱して、ろう材(銅)の融解し、且つ加熱雰囲気の圧力をろう材27の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧し、更に溝部37と連通した開口部11を側面に設けて離型材8の縁部がこの開口部11をふさがないように押し型5に設けられた固定部6で固定することで接合時に裏孔26および溝部37内に侵入するろう材27を気化して開口部11から取り除くことができる。板状部材積層4を構成する二つの板状部材2,3を接合させる。
【0068】
次に、図3に示すように、他方の板状部材3に成形原料を格子状に成形するためのスリット25を形成して、ハニカム構造体を成形するための口金21(異種材料接合体1)を製造する。
【0069】
上記したスリット25、例えば、ダイヤモンド砥石による研削加工や放電加工(EDM加工)等による従来公知の方法によって形成することができる。
【0070】
特に、このような口金21を製造する場合には、一方の板状部材2として、オーステナイト相の冷却によってマルテンサイト変態、ベイナイト変態、及びパーライト変態からなる群より選択される少なくとも一つの相変態を起こし得る金属又は合金から構成されたものを用い、更に、他方の板状部材3として、炭化タングステン基超硬合金から構成されたものを用いることにより、耐摩耗性に優れた口金21を製造することができる。
【0071】
なお、本発明の異種材料接合体の製造方法は、異種材料からなる二つの板状部材が接合された異種材料接合体を製造するための製造方法であるが、勿論、同種の材料からなる二つの板状部材を接合して板状部材接合体を製造する製造方法としても好適に用いることができる。なお、このような同種材料からなる板状部材接合体を製造する際には、使用する材料として、同種の材料からなる二つの板状部材を用いること以外は、これまでに説明した異種材料接合体の製造方法と同様の方法によって板状部材接合体を製造することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例)
一方の板状部材に成形原料を導入するための裏孔と、一方の板状部材の接合面とする表面に、スリットの形状に対応した格子状の溝部を窒化ボロン砥石による研削加工で形成し、この接合面にはろう材を配して、一方の板状部材と他方の板状部材とを積層して板状部材積層体を得る。次にこの板状部材積層体を離型材を介して押型で狭持した状態で真空容器内で加熱して口金基体を得、得られた口金基体の一部を構成する他方の板状部材に、一方の板状部材の溝部と連通するスリットを形成してハニカム構造体成形用口金を製造した。
【0074】
実施例においては、SUS630(C;0.07以下,Si;1.00以下,Mn;1.00以下,P;0.040以下,S;0.030以下,Ni;3.00〜5.00,Cr;15.50〜17.50,Cu;3.00〜5.00,Nb+Ta;0.15〜0.45,Fe;残部(単位は質量%))から構成された一方の板状部材と、WC−16質量%Coの炭化タングステン基超硬合金から構成された他方の板状部材と、銅から構成されたろう材と、を用いてハニカム構造体成形用口金の製造を行った。
【0075】
一方の板状部材は、その面の大きさが直径215mmの円形で、厚さが15mmであり、他方の板状部材は、その面の大きさが直径210mmの正方形で、厚さ2.5mmであり、ろう材は、その面の大きさが直径210mmの円形で、厚さが0.010mmである。シート状の離型材は、その面の大きさが220mm×220mmの正方形で厚さが0.2mmである。
【0076】
まず、一方の板状部材に、後の工程で形成する格子状のスリットの交点に相当する位置に、開口径1.14mmの裏孔を電解加工(ECM加工)によって形成した。更に、接合面となる表面のスリットに相当する位置に格子状の溝部を縦横ともに同じ幅で0.3mmとし、深さ0.5mmで間隔を0.8mmあけて設けることにより、裏孔と側面の開口部とを連通させた。
【0077】
次に、一方の板状部材と他方の板状部材とを、その間にろう材を配して積層し一対の押型で離型材を介して狭持し、押型に設けられた固定部によって離型材の縁部が開口部を塞がないように固定した。次いでろう材(銅)が融解し、且つこのろう材の蒸気圧よりも低い圧力まで加熱減圧して、一方の板状部材と他方の板状部材とを接合させて口金基体を得た。具体的な加熱条件は、加熱温度1120℃とし、圧力0.133Pa以下とした。
【0078】
得られた口金基体を常温まで降温した後、他方の板状部材に、一方の板状部材の裏孔と連通するスリットを形成してハニカム構造体成形用口金を得た。スリットは、ダイヤモンド砥石によって四角形の格子状に形成した。スリットの幅は約100μm、深さは約2.5mmとし、隣接するスリット相互の間隔は約1000μmとした。
【0079】
本実施例のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、開口部が離型材で覆われることがないため、裏孔内に侵入したろう材が加熱時に気化してこの開口部を通じて除去されていた。このため、他方の板状部材にスリットを形成する際に、ろう材が抵抗になることがなく、歪みのないスリットを正確且つ簡便に形成することができた。また、得られたハニカム構造体成形用口金は、裏孔内にろう材が残留しておらず、且つスリットの幅が均一に形成されていることから、高品質なハニカム構造体を形成することができた。さらに、得られたハニカム構造体成形用口金は、格子状の溝部が緩衝部となるため、裏孔から導入した成形原料を支障なく滑らかに移動させることができ、高度な成形性を実現するとともに、高精度にハニカム構造体を成形することができた。
【0080】
なお、一方の板状部材の裏孔および溝部内に侵入したろう材の除去についての確認は、超音波探傷検査によって行った。図14に実施例の解析結果を示す。また、図14中の領域A’を図16に示す。
【0081】
(比較例)
実施例と同様の材料を用い、加熱する工程において、離型材の縁部を固定部で固定しないで加熱し、接合させて口金基体を得た以外は、実施例と同様の方法にてハニカム構造体成形用口金を製造した。
【0082】
本比較例のハニカム構造体成形用口金の製造方法においては、加熱終了後に、一方の板状部材の裏孔および溝部内にろう材が残留していたため、スリットの加工時における抵抗が大きく、均一の幅のスリットを形成することができなかった。また、得られたハニカム構造体成形用口金は、裏孔からスリットへと連通する流路がろう材によって塞がれている箇所があり、成形品に欠陥等を生じさせることがあった。一方の板状部材の裏孔および溝部内に侵入したろう材の除去についての確認は、実施例と同様に超音波探傷検査によって行った。図15に比較例の解析結果を示す。また、図15中の領域Aを図17に示す。
【0083】
実施例の領域A’中の領域B’領域C’、領域D’とそれぞれ対応する位置の比較例の領域A中の領域B、領域C、領域Dとを比較した解析結果を比較写真としてそれぞれ、図19、図20、図18に示す。各図において接合領域は黒く、非接合領域は灰色に表示される。実施例においては非接合領域がろう材によって塞がれることがなく、比較例においてはろう材によって非接合領域が塞がれている(各比較写真の黒い部分)ことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の異種材料接合体の製造方法は、異種材料からなる二つの板状部材が接合された異種材料接合体を製造する方法、特に、セラミックスハニカム構造体成形用金型等に用いられる口金のように、その一部分にのみ優れた耐摩耗性が求められ、接合面における非接合領域と接合領域とが複雑に入り組んだ精密な異種材料接合体を高い精度で得ることが可能な異種材料接合体の製造方法として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、板状部材積層体を製造する工程を模式的に示す説明図であり、板状部材積層体を側方から見た模式的断面図である。
【図2】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態によって得られた異種材料接合体を側方から見た模式的断面図である。
【図3】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態の他の例における、他方の板状部材にスリットを形成する工程を模式的に示す説明図であり、板状部材積層体の表面に垂直な断面図である。
【図4】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、押型で板状部材積層体を挟持する状態を模式的に示す模式的説明図である。
【図5】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、真空容器中で板状部材積層体を押型の間で挟持した状態で加熱する工程を模式的に示す模式的説明図である。
【図6】従来の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、加熱前の離型材の状態を示す説明図であり、板状部材積層体を側方から見た側面図である。
【図7】従来の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、加熱時の離型材の状態を示す説明図であり、板状部材積層体を側方から見た側面図である。
【図8】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、加熱前および加熱時の離型材の状態を示す説明図であり、板状部材積層体を側方から見た側面図である。
【図9】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態によって得られた異種材料接合体の図2中のX−X’断面図である。
【図10】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態によって得られた異種材料接合体の接合面を示す図2中のY−Y’断面図である。
【図11】本発明の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、他方の板状部材にスリットを形成する工程を模式的に示す説明図であり、図3中のZ−Z’断面図である。
【図12】ハニカム構造体を成形するための口金を模式的に示す斜視図である。
【図13】図12に示すハニカム構造体成形用口金を平面αで切断した断面を示す模式的断面図である。
【図14】実施例におけるハニカム構造体を成形するための口金の接合面の接合良否を示す超音波探傷検査の解析写真である。
【図15】比較例におけるハニカム構造体を成形するための口金の接合面の接合良否を示す超音波探傷検査の解析写真である。
【図16】図14中の実施例の領域A’を示す一部拡大写真である。
【図17】図14中の比較例の領域Aを示す一部拡大写真である。
【図18】領域D’および領域Dを比較する一部拡大比較写真である。
【図19】領域B’および領域Bを比較する一部拡大比較写真である。
【図20】領域C’および領域Cを比較する一部拡大比較写真である。
【図21】従来の異種材料接合体の製造方法の一の実施の形態における、押型で板状部材積層体を挟持する状態を模式的に示す模式的説明図である。
【図22】図8に示す口金によって押出成形されたハニカム構造体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0086】
1:異種材料接合体、2:板状部材(一方の板状部材)、3:板状部材(他方の板状部材)、4:板状部材積層体、5:押型、6:固定部、7:ヒータ、8:離型材、10:輻射熱、11:開口部、12:ハニカム構造体、13:隔壁、14:セル、15:挟持面、16:断熱容器、17:上カーボン板、18:下カーボン板、19:真空容器、21:口金、25:スリット、26:裏孔、27:ろう材、28:接合面、31:非接合領域、32:接合領域、37:溝部、38:非接合領域、39:非接合領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種材料からなる二つの板状部材の間の接合面にろう材を配した状態で積層して板状部材積層体を得、前記板状部材積層体を加熱することにより、前記二つの板状部材が接合された異種材料接合体を製造する異種材料接合体の製造方法であって、
前記二つの板状部材の一方の板状部材は、側面から前記接合面に沿った複数の溝部が設けられるとともに、前記側面においては前記溝部と連通しつつ開口した複数の開口部と、前記接合面上においては前記溝部で形成された非接合領域と、前記非接合領域で区画され、前記二つの板状部材間を接合する複数の接合領域と、が形成されてなり、
一対の押型で前記板状部材積層体をシート状の離型材を介して挟持した状態で、前記開口部に近い前記離型材のシート状の縁部分を前記押型に設けた固定部で固定しながら、前記ろう材が融解する温度以上に加熱するとともに、加熱雰囲気の圧力を前記ろう材の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧して、前記非接合領域の間隙で余剰となる前記ろう材を前記開口部より蒸気として排出する異種材料接合体の製造方法。
【請求項2】
前記離型材として、ケイ素、炭素、窒化アルミ、酸化アルミ、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む材料からなるシート状のものを用いる請求項1に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項3】
前記ろう材として、銅、銀、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つを含む金属又は合金のろう材を用いる請求項1または2に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項4】
前記板状部材積層体を、前記押型によって0.1〜100MPaの圧力をかけて挟持する請求項1〜3のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項5】
前記二つの板状部材の一方の板状部材として、オーステナイト相の冷却によってマルテンサイト変態、ベイナイト変態、及びパーライト変態からなる群より選択される少なくとも一つの相変態を起こし得る金属又は合金から構成されたものを用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項6】
前記二つの板状部材の他方の板状部材として、炭化タングステン基超硬合金から構成されたものを用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項7】
前記溝部の幅を50〜1000μmとした請求項1〜6のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項8】
前記接合領域の面積の最小値を0.1〜100mm2とした請求項1〜7のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項9】
前記異種材料接合体を構成する一方の板状部材に、成形原料を導入するための裏孔を前記溝部と連通するように形成するとともに、前記異種材料接合体を構成する他方の板状部材に、前記成形原料を格子状に成形するためのスリットを前記溝部と連通するように形成して、前記異種材料接合体としてハニカム構造体を成形するための口金を製造する請求項1〜8のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項1】
異種材料からなる二つの板状部材の間の接合面にろう材を配した状態で積層して板状部材積層体を得、前記板状部材積層体を加熱することにより、前記二つの板状部材が接合された異種材料接合体を製造する異種材料接合体の製造方法であって、
前記二つの板状部材の一方の板状部材は、側面から前記接合面に沿った複数の溝部が設けられるとともに、前記側面においては前記溝部と連通しつつ開口した複数の開口部と、前記接合面上においては前記溝部で形成された非接合領域と、前記非接合領域で区画され、前記二つの板状部材間を接合する複数の接合領域と、が形成されてなり、
一対の押型で前記板状部材積層体をシート状の離型材を介して挟持した状態で、前記開口部に近い前記離型材のシート状の縁部分を前記押型に設けた固定部で固定しながら、前記ろう材が融解する温度以上に加熱するとともに、加熱雰囲気の圧力を前記ろう材の蒸気圧よりも低い圧力まで減圧して、前記非接合領域の間隙で余剰となる前記ろう材を前記開口部より蒸気として排出する異種材料接合体の製造方法。
【請求項2】
前記離型材として、ケイ素、炭素、窒化アルミ、酸化アルミ、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む材料からなるシート状のものを用いる請求項1に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項3】
前記ろう材として、銅、銀、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つを含む金属又は合金のろう材を用いる請求項1または2に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項4】
前記板状部材積層体を、前記押型によって0.1〜100MPaの圧力をかけて挟持する請求項1〜3のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項5】
前記二つの板状部材の一方の板状部材として、オーステナイト相の冷却によってマルテンサイト変態、ベイナイト変態、及びパーライト変態からなる群より選択される少なくとも一つの相変態を起こし得る金属又は合金から構成されたものを用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項6】
前記二つの板状部材の他方の板状部材として、炭化タングステン基超硬合金から構成されたものを用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項7】
前記溝部の幅を50〜1000μmとした請求項1〜6のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項8】
前記接合領域の面積の最小値を0.1〜100mm2とした請求項1〜7のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【請求項9】
前記異種材料接合体を構成する一方の板状部材に、成形原料を導入するための裏孔を前記溝部と連通するように形成するとともに、前記異種材料接合体を構成する他方の板状部材に、前記成形原料を格子状に成形するためのスリットを前記溝部と連通するように形成して、前記異種材料接合体としてハニカム構造体を成形するための口金を製造する請求項1〜8のいずれか1項に記載の異種材料接合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図21】
【図22】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図21】
【図22】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−220120(P2009−220120A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64310(P2008−64310)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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