説明

異種移植反応を決定する方法

本発明は、異種移植片として宿主に導入することが企図されている細胞を組み換えるもしくは操作する方法を提供するが、細胞の組み換えもしくは操作は少なくとも1つの適切なレポーター系の含有物を含む。レポーター系の含有物は、適切かつ便宜的な測定システムを通しての異種移植片のモニタリングおよび当該の異種移植パラメーターの決定を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞もしくは組織を遺伝子組み換えもしくは遺伝子操作する、そして前記細胞もしくは組織を、特に異種移植片として非ヒト動物に導入する方法に関するが、特に異種移植片に限らない。異種移植細胞もしくは組織になされた1つ以上の遺伝子組み換えは、宿主動物に移植された細胞内での細胞の生理的過程の報告を可能にするようなことであり、異種移植片内での細胞の生理的過程をモニタリングする、および/または薬物もしくはその他の治療的介入が異種移植片へ及ぼす作用をモニタリングすることを目的とするが、特に限定されない。本発明は、遺伝子操作細胞および/またはそのような遺伝子操作細胞を含む組織を含む生成物およびそれらの使用をさらに含む。
【背景技術】
【0002】
動物における実験的異種移植片は、癌の研究および抗癌薬もしくはその他の治療手技の有効性を試験する際に極めて重要な手段である。実験的異種移植片は、さらにまたより一般的には、薬物もしくは他の化合物または生体系における生物学的物質もしくは生物学的作用物質の作用機構の試験において潜在的用途を有する。例えば、免疫不全SCIDマウスにおいて癌異種移植片を生成するため、ならびに疾患の進行および治療薬が異種移植腫瘍に及ぼす作用をモニタリングするためにヒト前立腺細胞系を使用することが、米国特許第6,107,540号および第6,365,797号に記載の先行技術から、分かっている。しかし、先行技術の実験的な取り組みから入手できる情報は限られている。これは、十分に、または効果的に測定できる異種移植片生理学について情報を提供するパラメーターがほんの少数しかないことに起因する。さらに、異種移植片自体が主として動物の淘汰を必要とするような侵襲的な方法、または面倒な方法によってしか入手できないという問題がある。したがって、異種移植片の測定は、ごく限られた特定時点でしか行うことができない。さらにまた別の問題は、異種移植片の細胞増殖状態の定量的評価にある。主として、異種移植片のサイズの測定はその指標として使用されるが、そのような測定は不正確になる傾向があり、異種移植腫瘍の進行または退行の場合に発生する可能性のあるかすかな変化を拾い上げることができない。
【0003】
宿主内への異種移植片の導入から生成できる情報の量および質を決定する改良された方法は、現行方法を用いて反応が明らかになる前に、関係するメカニズムについての知識に基づいて反応の極めて初期の段階を検出する能力を含み、先行技術に対する直接的利点を提供するであろう。そのような方法は宿主内の異種移植片の生理的過程を理解するために有益であるだけではなく、異種移植動物モデルにおける候補治療薬の有効性およびそれらが生理的過程に及ぼす作用の測定の改良も提供するであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、異種移植片として宿主内へ導入することを目的とする細胞の組み換えもしくは操作にあり、細胞の組み換えもしくは操作は少なくとも1つの適切なレポーター系の含有物を含む。レポーター系を含有すると、有益には適切かつ便宜的な測定システムを通して当該異種移植パラメーターを決定することができる。したがって、先行技術に関連する問題の多くを緩和することができ、実験的異種移植片からの情報を拡大することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1態様によると、動物モデルにおける異種移植片の進行をモニタリングする方法であって、
(i)細胞を動物に移植する前もしくは後のいずれかに、少なくとも1つのレポーター分子および/またはレポーター遺伝子を前記細胞に組み込むことができるように、前記細胞を遺伝子組み換えもしくは遺伝子操作するステップと、
(ii)前記組み換え細胞を前記動物モデルに移植して、異種移植片を十分な期間にわたり増殖させるステップと、
(iii)前記レポーター分子もしくはレポーター遺伝子に関連する選択された生化学的/生理的反応の少なくとも1つのパラメーターを測定するステップと、を含む方法が提供される。
【0006】
好ましくは、複数の遺伝子組み換えもしくは遺伝子操作細胞が存在するが、より好ましくは、該細胞はヒトもしくは非ヒト起源であり、例えば腫瘍由来の一次分離株の形状であるか、または不死化もしくは株化細胞系の形状であってもよい。
【0007】
好ましくは、動物宿主に移植される組み換え細胞は、例えば、肝臓、脳、腸、副腎、腎臓、皮膚、または異種移植片にとって望ましいいずれか他の器官もしくは組織の腫瘍由来の細胞を含む群から選択されるが、これに限定されない。細胞はそのような腫瘍から直接調製できる、または、例えばhttp://dtp.nci.nih.gov/branches/btb/tumor−catalog.pdf.に列挙された腫瘍細胞系のリストから選択された細胞系などの株化細胞系であってよいが、これに限定されない。
【0008】
本発明の異種移植細胞は腫瘍細胞には限定されず、例えば胚幹細胞であってよく、または哺乳動物もしくは非哺乳動物起源のあらゆるタイプの生きた細胞由来であってもよいことは理解されるであろう。例えば、適切なレポーター反応を生じる細菌細胞は宿主動物における所定のパラメーターを検出するために使用できる。
【0009】
少なくとも1つのレポーター分子またはレポーター遺伝子をそれらに組み込めるように一過性もしくは安定性に組み換えもしくは操作されている細胞を以下では便宜的に「レポーター細胞/系」と呼ぶ。
【0010】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通して、用語「含む」および「含有する」ならびに例えば「含んでいる」および「含まれた」などのこれらの用語の変形は、「〜を含むがそれらに限定されない」ことを意味しており、他の構成要素、整数、成分、添加物もしくはステップを除外する(および除外しない)ことは企図されていない。
【0011】
本明細書での「レポーター分子」についての言及は、核酸またはアミノ酸配列を標識するために使用される化学成分を含むことが企図されている。好ましくは、それらにはタンパク質、抗原、酵素、酵素基質、蛍光物質、化学発光物質、色素物質もしくは放射性核種が含まれるが、それらに限定されない。レポーター分子は、特定の核酸またはアミノ酸配列に関連している、それらの存在を確定する、そして定量を可能にすることがある。
【0012】
本明細書での「レポーター遺伝子」についての言及は、機能的タンパク質をコードする核酸およびそのフラグメントを含むことが企図されている。本発明において言及したレポーター遺伝子は正常な生理的過程以外の多くの様々な特性および事象を「報告」することができ、例えば天然であるか逆方向遺伝学試験のために組み換えられているかに関わらずプロモーターの強度;遺伝子送達系の効率;遺伝子産物の細胞内運命;タンパク質輸送の結果;ツーハイブリッドシステム内の2種のタンパク質の相互作用またはワンハイブリッドシステム内のタンパク質と核酸の相互作用;翻訳開始シグナルの効率;分子クローニングの成功;および外因性物質が生理的過程に及ぼす作用、を報告できる。
【0013】
レポーター遺伝子は、直接的もしくは間接的にアッセイ可能なタンパク質をコードする核酸配列である。レポーター遺伝子は、それらのタンパク質産物が不適切である、または予想されるアッセイにとって適用できない他のコーディング領域に代えて使用される。当分野において知られていて本発明の方法において使用できる適切なレポーター遺伝子は、クロラムフェニコール−アセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質、分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)、主要尿タンパク質(MUP)またはヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を含むがそれらに限定されないタンパク質をコードするそれらの遺伝子から選択される。適切なレポーター遺伝子の上記のリストは網羅的または排他的ではなく、本出願の範囲を限定することは企図されていないことは理解されるであろう。当業者であれば、本発明の方法に同等に適用できるまた別のレポーター系を選択することができる。
【0014】
レポーター遺伝子は、レポータータンパク質だけが作製されるように、またはレポータータンパク質が他のタンパク質に融合させられる(融合タンパク質)ように他の配列に付着させることができることは理解されるであろう。
【0015】
本明細書での「レポーター物質」についての言及は、プロテアーゼもしくはキナーゼまたはタンパク質もしくはRNAまたは細胞タンパク質もしくはmRNA安定化において変化をもたらすいずれか他の生化学成分を含むことが企図されている。
【0016】
好ましくは、動物モデルは齧歯類であり、そしてより好ましくは、野生型または例えば薬物代謝の特性が修飾されているような、特別に選択された遺伝的背景を備えるマウスもしくはラットである。
【0017】
好ましくは、動物モデルはその中に移植されたレポーター細胞/系の2つ以上の相違する集団を有していてよい。
【0018】
本発明の方法は、好ましくは宿主細胞ゲノムの複製とともに組み込まれたレポーター遺伝子の複製を可能にする方法で、1つ以上のレポーター分子もしくはレポーター遺伝子もしくは導入遺伝子を選択された細胞に組み込むことによってレポーター系になるようにヒトもしくは非ヒト起源の遺伝子組み換え細胞を使用するステップを含む。好ましくは、レポーター分子もしくは導入遺伝子は、細胞が非ヒト動物に移植されるとインビボの細胞の生理的過程の便宜的モニタリングを可能にするために適合する。レポーター細胞もしくは系からの「読み出し」もしくは情報は、定性的もしくは定量的データの形状であってよく、そしてこのデータを解明するための侵襲性もしくは非侵襲性方法を含んでいてよい。したがって、本発明の1つの方法は便宜的に長期間にわたって複数回の測定を行うことのできる動物モデルを提供する。
【0019】
好ましくは、本発明の方法は、異種移植片を異種移植腫瘍として増殖させるステップをさらに含む。
【0020】
好ましくは、レポーター細胞/系は、適切な培地に懸濁させた個別細胞または組織断片のいずれかとして動物宿主に導入することができる。レポーター細胞/系は宿主動物内で全身的に増殖するか、または移植部位で移植腫瘍として増殖することがあるが、続発部位での転移性腫瘍の有無にかかわらず、必ずしも腫瘍として増殖するとは限らない。
【0021】
好ましくは、宿主細胞は適切な免疫抑制剤の投与手段によって免疫抑制される、または例えば制限はないが、SCIDなどの免疫不全系統である。あるいは、レポーター系は、レポーター細胞が宿主動物と同遺伝子型である免疫学的に正常な動物においても増殖させることができる。
【0022】
好ましくは、レポーター細胞/系は、1つもしくは複数の導入遺伝子を発現するように遺伝子操作されている。レポーター細胞/系は、移植時点で既に1つ以上の導入遺伝子を発現していてよい、または例えば、ウイルスベクターによって、特別に標的を定めた方法で導入遺伝子をインビボでトランスフェクトされてもよい。したがって、本発明の方法は便宜的にも宿主動物への細胞の移植前または移植後に細胞のトランスフェクションを許容することは理解されるであろう。
【0023】
好ましくは、レポーター細胞/系導入遺伝子は、レポーター細胞増殖中に発生する、または投与された化合物もしくは生物学的物質の毒物学的もしくは薬理学的作用によって誘発された細胞生理学の変化に反応した重要な生化学的パラメーターの測定を許容するエレメントを含んでいてよい。
【0024】
好ましくは、適切なレポーター分子もしくは導入遺伝子によってモニタリングできる細胞の生理的過程には、
a)例えばレポーター細胞数、細胞周期の変調もしくは有糸分裂分画、細胞分化、血管形成、低酸素状態、細胞死または細胞溶解(例えばアポトーシス、壊死による)などの異種移植片の増殖もしくは分化もしくは死のパラメーター、
b)例えば酸化ストレス、DNA損傷、ミトコンドリア機能、膜摂動、GSH枯渇、受容体媒介毒性、酵素阻害、補因子アベイラビリティ、pHもしくは浸透圧の変化、カルシウムホメオスタシスの摂動、細胞分化、タンパク質の代謝回転、ユビキチン化、タンパク質のミスフォールディングなどの毒性のメカニズム、
c)例えば細胞内シグナリング経路、受容体相互作用に及ぼす作用、遺伝子転写、翻訳もしくはタンパク質安定性、ホルモンもしくは成長因子受容体の変調;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体の変調、例えばMAPキナーゼもしくはホスファターゼシグナリング、p53シグナリング、rasシグナリングなどの細胞内シグナル伝達経路などに及ぼす作用、などの薬物作用のメカニズム、
d)薬物耐性のメカニズム、薬物送達もしくは薬物バイスタンダー効果の誘導、が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
レポーター細胞は、その発現産物が関連パラメーターの便宜的決定を許容する少なくとも1つの導入遺伝子の組み込みを通して上記のプロセスの決定を促進するように遺伝子組操作することができる。
【0026】
適切な導入遺伝子は、好ましくは結果としてレポータータンパク質の産生を生じさせる遺伝子の発現を促進する天然もしくは人工プロモーター配列を含む。
【0027】
好ましくは、レポーター発現産物は転写的または転写後に検出可能である。
【0028】
本発明の1つの実施形態(転写的報告)では、プロモーターが遺伝子転写を促進する能力は、関連パラメーターにポジティブまたはネガティブのどちらかで依存するので、遺伝子産物の直接感知は関連パラメーターの読み出しを提供する。
【0029】
本発明のまた別の実施形態(転写後報告)では、プロモーターは構成的に活性であるか、または決定されるパラメーターからは独立した因子によって誘導性できるが、遺伝子産物は関連パラメーターの読み出しを促進する方法でレポーター細胞内のプロセスに影響を及ぼす、またはレポーター細胞内のプロセスによって影響を受ける。読み出しを入手するそのような方法の例には、例えば、その安定性が関連パラメーターにポジティブもしくはネガティブに依存する遺伝子転写産物もしくはタンパク質;その転写後修飾状態、例えばリン酸化の程度、またはその細胞レベル以下局在もしくは発現細胞からのその分泌が関連パラメーターに依存するタンパク質、またはそれらの修飾が測定可能な読み出しを提供するように同一細胞内での内因性遺伝子転写産物もしくはタンパク質またはその他の導入遺伝子の産物のいずれかの修飾を触媒する酵素活性を備えるタンパク質、が含まれる。
【0030】
転写的報告を使用する実施形態では、例えば、転写は適切な遺伝子プロモーター、例えば、限定はされないが、低酸素状態を検出するための血管内皮成長因子(VEGF)プロモーター;酸化ストレスを検出するための誘導性一酸化窒素シンテターゼ(iNOS)プロモーターもしくはヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)プロモーターもしくはシクロ−オキシゲナーゼ−2(COX−2)プロモーター;アポトーシスを検出するための組織トランスグルタミナーゼプロモーターもしくはPeg3/pwlプロモーター、DNA損傷を検出するための14−3−3タンパク質プロモーターもしくはGADD153プロモーターを通して媒介され得ることは予想されている。適切な遺伝子プロモーターの上記のリストは本発明の方法に限定されると企図されないことは理解されるであろう。プロモーターのリストは網羅的でも排他的でもなく、当業者であればモニタリングもしくは測定することが望ましい細胞の生理学的パラメーターを検出できるプロモーターを選択できる。
【0031】
転写後報告を使用する実施形態では、それは例えば細胞質タンパク質から核への、または膜結合形から分泌形への転位を生じさせるプロテアーゼ活性の結果として例えばタンパク質組み換えを実行できるタンパク質の生成を通して、または例えばプロエンザイムもしくは転写調節因子の活性化または活性酵素もしくは転写調節因子の不活性化または血液中への分泌もしくは尿中への排泄(例、アラニンアミノトランスフェラーゼ)を生じさせることができるタンパク質開裂を通して実行できる。転写後報告は、さらにまた例えばタンパク質もしくはmRNAの安定化における変化をもたらすタンパク質もしくはRNAの産生を含むことができる。
【0032】
好ましくは、レポーター細胞/系は、重要な細胞生理的パラメーターまたは細胞内シグナル経路活性化への反応の検出を促進するための遺伝子エレメントを含むことができる。例えば、導入遺伝子発現の産物は、分泌された身体の生成物中、例えば尿(例えば、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、hCG)、便、息もしくは唾液中での便宜的な非侵襲性アッセイを許容するために選択できる。あるいは、導入遺伝子発現の生成物は、例えば非侵襲性方法による、例えばグルコース利用率の生物発光測定、血圧測定、経皮的動脈血酸素分圧測定、核磁気共鳴測定またはポジトロン放射断層撮影法によるアッセイを許容するために選択できる。あるいは、導入遺伝子発現の産物は、例えば血液中(例えば分泌アルカリホスファターゼ、SEAP)または異種移植組織(例えばβ−ガラクトシダーゼもしくは細胞由来RNAの「リアルタイム」PCRによって)中での便宜的侵襲性アッセイを可能にするために選択してもよい。
【0033】
血液、組織もしくは身体生成物中で測定される導入遺伝子レポーター生成物は、好ましくは例えばイムノアッセイ(例えば、ラジオイムノアッセイもしくは酵素結合イムノアッセイ(ELISA))もしくは酵素アッセイ、または比色アッセイもしくはクロマトグラフィーアッセイ(例えば、HPLC)または質量分析アッセイもしくは核磁気共鳴分光法によってアッセイすることができる。
【0034】
本発明のまた別の実施形態では、レポーター細胞/系は、例えば侵襲性および非侵襲性介入術または複数の当該パラメーターの同時測定からの個別パラメーターの複数の形態の「読み出し」を可能にする、または例えば血管形成に続発性の細胞増殖についてのように他のパラメーターに続発性である測定されたパラメーターについて制御できる複数の導入遺伝子を組み込むことができる。
【0035】
あるいは、相違するプロモーターの制御下での導入遺伝子発現のレポータータンパク質生成物は、例えば明確に識別可能なエピトープタグに対する配列をコードする導入遺伝子のコーディング配列に組み込むことによってイムノアッセイによって識別できる。
【0036】
本方法のステップ(iii)に記載されている本発明の方法の特別な長所は、
a)特に異種移植片の増殖中もしくは分化中もしくは死が発生した際の、または処理に反応したレポーター細胞の増殖を正確に測定するステップと、
b)レポーター細胞の分化もしくは死が発生した場合に分化もしくは死のメカニズムを決定するステップと、
c)これらが反応において一次レポーター細胞異種移植片とは相違するかどうかを確証するために続発性転移腫瘍におけるプロセスをモニタリングするステップと、
d)レポーター細胞における生化学的プロセスに関連するパラメーターの非侵襲性測定を行うステップと、
e)例えば、非分裂細胞に比較した分裂細胞に対して、または正常酸素状態細胞と対照的に低酸素状態細胞に対して、薬物の特異的毒性から発生する薬物耐性細胞集団を同定するステップと、
f)例えばp53を発現する、および発現しない細胞中で腫瘍細胞増殖または処理に対する反応に遺伝的背景が及ぼす影響を決定するステップと、
g)半減期の短い、もしくは排泄されるレポーターを用いて力学的測定を行うステップと、
h)インビボの薬物作用の標的を決定または確認するステップと、
i)薬物バイスタンダー効果を測定するステップ、および遺伝的調節に含まれるプロモーターエレメントを同定するステップと、および
j)細胞内薬物濃度を決定し、そしてそれにより薬物を組み込む細胞を決定するステップと、を含む方法を提供することにある。
【0037】
本発明のさらに別の態様によると、遺伝子組み換えもしくは遺伝子操作細胞を含む生成物が提供され、該細胞が少なくとも1つのレポーター分子もしくはレポーター遺伝子を含むように組み換えもしくは操作されている。
【0038】
好ましくは、該生成物は上述した特徴のいずれか1つ以上をさらに含む。
【0039】
本発明のさらに別の態様によると、SFN遺伝子のプロモーター領域およびヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を含み、hCGの発現がSFNプロモーターによって制御される人工遺伝子構築物が提供される。
【0040】
好ましくは、SFN遺伝子の5’調節プロモーター領域は排出性レポーターであるヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)へ結合している。
【0041】
本発明の1つの実施形態では、3’末端はAmpへ結合しており、hCGはmycなどのエピトープタグを含むが、当業者であれば3’末端への他の適切な変更を行うことは理解されるであろう。
【0042】
本発明のさらに別の態様によると、上述したようにこの構築物を含有するヒト腫瘍由来細胞系が提供される。
【0043】
本発明のさらに別の態様によると、上述したようにこの構築物を含有するヒト腫瘍由来細胞系を含有する動物モデルが提供される。
【0044】
本発明のさらに別の態様によると、下記の例、
a)特に、しかし排他的ではなく異種移植片の増殖中もしくは分化中もしくは死が発生した際の、または処理に反応したレポーター細胞増殖を測定するステップと、
b)レポーター細胞の分化もしくは死が発生した場合に分化もしくは死のメカニズムを決定するステップと、
c)これらが反応において一次レポーター細胞異種移植片とは相違する場合に続発性転移腫瘍におけるプロセスをモニタリングするステップと、
d)レポーター細胞/系における生化学的プロセスに関連するパラメーターの非侵襲性測定を行うステップと、
e)例えば、非分裂細胞と比較して分裂細胞に対して、または正常酸素状態細胞と対照的に低酸素状態細胞に対して、薬物の特異的毒性から発生する薬物耐性細胞集団を同定するステップと、
f)例えばp53を発現する、および発現しない細胞中で、腫瘍細胞増殖もしくは処理に対する反応に遺伝的背景が及ぼす影響を決定するステップと、
g)半減期の短い、もしくは排泄されるレポーター分子もしくは遺伝子を用いて力学的測定を行うステップと、
h)インビボの薬物作用の標的を決定または確認するステップと、
i)薬物バイスタンダー効果を測定するステップ、および遺伝的調節に含まれるプロモーターエレメントを同定するステップと、
j)細胞内薬物濃度を決定し、そしてそれにより薬物を組み込む細胞を決定するステップと、および
k)インビボの薬物作用の標的を決定または確認するステップと、のいずれか1つ以上における本発明の方法または生成物の使用が提供される。
【0045】
本発明のさらに別の態様によると、上述したように少なくとも1つのレポーター細胞/系および任意でそのための1組の取扱説明書を含むキットが提供される。本発明のキットはレポーター細胞の懸濁液として供給できることが予想されている。
【0046】
本発明を、単に例としてのみ以下の図面を参照しながら説明する。
【0047】
材料および方法
レポーターの選択
Stratifin(SFN)遺伝子(14−3−3σとしても知られている)のプロモーターは、DNA損傷の結果として発生するG2/M停止のマーカーである。SFN遺伝子は、γ線照射またはアドリアマイシン(ドキソルビシンとしても知られている)を用いて処理した後ヒト腫瘍由来細胞系内でのG2/M停止中のp53依存性メカニズムを介して転写的にアップレギュレートされることが証明されている[1]。SFNの発現は、その発現がG2/Mチェックポイントを通して進行を停止させると思われる点で、G2/M停止に機能的に関係していると思われる[1]。さらに、SFNプロモーターの転写活性化は、その転写活性化機能がDNA損傷によって活性化される腫瘍抑制因子タンパク質BRCA1に反応して発生する可能性がある[2]。SFN誘導がp53発現の変化に先行し[3]、そしてBRCA1発現がp53欠損HCC1937細胞内でのG2/M停止およびSFN誘導のために必要かつ十分である[4]という事実は、この誘導経路がp53非依存性であることを示している。そこで、DNA損傷によるSFNの誘導は、p53依存性経路およびp53非依存性経路の両方を介して発生すると思われる[1、3、4]。
【0048】
SFN遺伝子の5’調節プロモーター領域が分泌性レポーターであるヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)へ結合している人工遺伝子構築物を生成した。この構築物を含有するヒト腫瘍由来細胞系をインビトロで組み換えて試験した。これを次にインビボ異種移植片実験で使用して抗癌剤を用いた処理に反応したhCGの排泄の変化を証明した。
【0049】
SFN−hCG構築物の生成
このレポーター構築物は、Red/ET相同遺伝子組み換え系(Genebridges社)を利用して組み換えクローニング法を用いて構築した。
【0050】
SFNのゲノムクローン(sfn PROTEIN)は、Human Ensemblサイト、http://www.ensembl.org/Homo_sapiens(Sanger Instituteによって後援されている)を用いて同定した。全コーディング領域およびプロモーターを含有するヒトPACクローンRPCI−50o24が同定され、正常調節のためには調節領域が必須であると見なされた。5’および3’UTRの両方を含有するPACクローンをさらにPCRによって検証した。スクリーニングに使用したSFNオリゴは以下のとおりであった。
48,671−48,690bpをポジショニングするためのSFN検証用オリゴ
SFN_フォワード ATG GTC CTG TGT GTG TCA C(配列番号1)
SFN_リバース CAG GGG AAC TTT ATT GAG A(配列番号2)
【0051】
次に正確なPCR産物を生じたクローンを以下のとおりに処理した。検証したPACクローンはプラスミドpSC101BADgbaA(Genebridges社)を用いて形質転換させた。このプラスミドは、組み換えプロセスのために必須のリコンビナーゼを提供する。PAC/pSC101BADgbaAクローンをさらに制限酵素分析によってpSC101BADgbaAの存在について検証した。正確な制限酵素パターンを生じたクローンだけを使用した。
【0052】
hCG(myc):Ampターゲティング構築物の生成は下記のとおりに実施したが、しかし我々の試験結果はこの構築物がこのようなタグの不在下で有効であることを示しているので、この構築物が必ずしもmycなどのエピトープタグを含む必要はないことは理解されるであろう:hCG(myc):Ampテンプレートは、事前にpXENバックボーンの同等物上にクローニングされていた。これを消化し、直線状にして、バックグラウンドを減少させた。ターゲティング分子を生成するために以下のオリゴヌクレオチド(BioSpring社)を使用した。
US−SFNhCG
TGGTCCCAGGCAGCAGTTAGCCCGCCGCCCGCCTGTGTGTCCCCAGAGCCATGGAGATGTTCCAGGGGCTG(配列番号3)
LS−SFNamp
TAGCGTTCGGCCTGCTCTGCCAGCTTGGCCTTCTGGATCAGACTGGCTCTTTACCAATGCTTAATCAGTGA(配列番号4)
【0053】
次の反応条件を使用した。39.5μLのdH2O、5μLの10×Tuning Buffer(Eppendorf社)、2μLの10mM dNTPS(Roche社)、1μLのUS−SFNhCG(100pmol)、1μLのLS−SFNamp(100pmol)、0.5μLのTriple Master Taqポリメラーゼ(Eppendorf社)。
【0054】
PCRブロック条件(MWG):94℃で1分間×1サイクル、93℃で30秒間、56℃で30秒間×30サイクル、72℃で2分30秒間、72℃で5分間×1サイクル。このようにして生成した分子を図1に示した。
【0055】
このPCRにかけたターゲティング分子を、全PCR反応上でDpn1消化を実施することによって(バックグラウンドをさらに減少させるために)処理した(これはテンプレートであるメチル化DNAを優先的に切断する)。消化したPCR反応物をエタノールで沈降させ、水に再懸濁させると、0.5μg/μLの最終DNA濃度が生じた。PAC(RPCI−5Oo24)を含有するpSC101BADgbaAは下記のとおりに培養した。一晩の1mLのLB培養液(カナマイシン70μg/mLおよびテトラサイクリン3μg/mLを添加した)を1000rpm(毎分回転数)で攪拌しながら30℃で増殖させた。翌日、上記と同様に添加した3本の1.4mLのLb培養をセットし、30μLの一晩培養を接種し、攪拌しながら2時間にわたり30℃で増殖させた。2時間後、30μLのL−アラビノース(10%)を用いて2本の培養を誘導し、全細胞をさらに1時間にわたり攪拌しながら37℃へ変化させた(これはリコンビナーゼを誘導し、pSC101BADプラスミドがそれ以上複製するのを停止させる)。得られた培養液は、さらに氷冷無菌水であれば1mL中で3回洗浄することによってエレクトロコンピテントにするために処理した。これらの細胞を次にPCRにかけたターゲティング分子を用いてエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、細胞を37℃の1mLのLBブロスで70分間にわたり回収した。回収した細胞はLB選択寒天培地(カナマイシン70μg/mLおよびアンピシリン20μg/mL)上にプレートアウトし、37℃で一晩増殖させた。得られたコロニーを図2に示した組み換えPACの生成のための正確な組み換え事象についてスクリーニングし、制限酵素地図領域の詳細は図3に示した。
【0056】
スクリーニング形態は、5’末端についてはhCGおよびSFNの接合部から3’末端についてはAmpおよびSFNの接合部にわたるPCRであった。ポジティブクローンが同定されると、pSC101BADgbaAプラスミドを組み換えPAC内に再導入し、以前に記載したとおりに検証した。次の段階では、10Kbの上流配列および一部の9Kbの下流配列を用いてpACYC184バックボーン上へ組み換えSFN遺伝子のサブクローニングを行った。これは再び、組み換えクローニングの使用により達成された。サブクローニング標的構築物は下記のオリゴを用いるPCRを使用して生成した。
SFNサブクローニング用オリゴ
SFNサブクローン・フォワード
TGCAGTGAGCCGAGATCTCGCCACTGCACTACTCCAGCCTGGGCGACAGAGCTTACGCCCCGCCCTGCCACTC(配列番号5)
SFNサブクローン・リバース
GGATATGGGAGCCAGCCACATTCATACAGGGCACACATGAACACACACATGTCAAACATGAGAATTACAA(配列番号6)
【0057】
PCR条件は、使用したテンプレートが直線状pACYC184であることを除いて、以前に記載したとおりであった。PCR産物は以前に記載したとおりに処理した。サブクローニングSFN標的構築物(SFNサブクローン中間体)は、図4に示したとおりに生成した。
【0058】
pSC101BADgbaAを含有する組み換えSFN hCG(myc):Ampは、以前に記載したようにエレクトロコンピテントにし、SFNサブクローン中間体を用いてエレクトロポレーションした。結果として生じた形質転換物は、クロラムフェニコール15μg/mLおよびアンピシリン20μg/mLを添加したLB寒天プレート上にプレートアウトする前に1mLのLB中に回収した。潜在的形質転換物は多数の診断用制限酵素消化物を用いてスクリーニングし、正確な制限酵素パターンを提供することによって評価した。正確な制限酵素パターンを生じるクローンは、400mLの液体培養(15μg/mLのクロラムフェニコールおよび20μg/mLのアンピシリンを添加したLBブロス)を増殖させることによってバルク調製し、Qiagen Maxiキット(キットにに付いているプロトコールにしたがって)を用いてmaxiprepした。最終構築物の制限酵素地図は図5に示した。
【0059】
SFN−hCG(myc)−Ampレポーター構築物を含有する細胞系の生成
前立腺腫瘍細胞系PC3は、インビトロで単層として増殖することができ、先天的無胸腺ヌードマウスにおいて異種移植片として増殖させると皮下腫瘍を形成するp53-/-細胞系である。重要なことに、この細胞系は抗癌薬を用いた処理後にG2/M停止を受ける能力を有する[5]。
【0060】
SFN−hCG(myc)−Ampレポーター構築物は、FuGene試薬(Roche社、イーストサセックス州ルイス)を用いて6ウェル組織培養プレート上のPC3細胞内へトランスフェクトした。構築物DNA(1μg/ウェルに相当する)をFuGene試薬(3μL/ウェル)へ添加し、無血清含有培地を加えて100μL/ウェルにした。その中で細胞が増殖している培地を吸引して除去し、1ウェル当たり100μLの上記混合液に交換した。一過性トランスフェクションのために、該構築物の添加24時間後の細胞を実験のために使用した。
【0061】
安定性細胞系を生成するために、上記のとおりにトランスフェクションを実施した。24時間後、細胞をトリプシン処理し、10cm径組織培養皿(10cm径の皿につき6ウェルプレート中の1ウェル)へ移した。細胞を選択前7日間にわたりこれらの皿上で増殖させた。この時点の後、G418(細胞培養培地中で20ng/mL)を添加し、培養皿はコロニーが目に見えるようになるまで(約1週間)維持した。トリプシン中に浸漬したクローニングディスクを用いて個々のコロニーを拾い、24ウェルプレートのそれぞれのウェルへ移した。コロニーを次に6ウェルプレート、次にT25フラスコで増殖させ、インビトロ誘導および異種移植片実験に使用するために十分な細胞が存在するようになるまで増殖させた。
【実施例1】
【0062】
インビトロ実験の例示
エトポシドは、培養細胞中でBRCA1結合メカニズムを介してG2/M停止を誘導することが知られている[6]。
【0063】
構築物の添加24時間後の一過性トランスフェクト細胞をエトポシド(50μM)により処理した、または未処理で放置した。50μMエトポシドの存在下または不在下で24時間後に、培地のサンプルを採取し、酵素結合免疫吸着検定法(Free Betaヒト絨毛性性腺刺激ホルモンキット、Alpha Diagnostic International社、米国テキサス州)によってhCGについてアッセイした。この実験の結果を図6に示した。
【0064】
これは、SFN−hCG(myc)−Ampレポーター構築物を含有するPC3細胞が周辺培地中へhCGを分泌すること、そしてさらに、細胞をエトポシド処理した場合は分泌量が増加することを証明している。
【0065】
SFN−hCG(myc)−Ampレポーター構築物を含有する安定性細胞系の生成後に、細胞をさらにエトポシドを用いて試験した。細胞を6ウェルプレートにプレートアウトし、一晩おいて付着させた。翌日、それらはエトポシド(50もしくは400μM)または溶剤(ジメチルスルホキシド)を用いて処理した。エトポシドの存在下または不在下での24時間後に、培地のサンプルを採取し、上記のとおりに酵素結合免疫吸着検定法によってhCGについてアッセイした。この実験の結果を図7に示した。
【0066】
これは、SFN−hCG(myc)−Amp構築物を含有するように安定的に操作したPC3細胞が周囲培地中にhCGを分泌したことを証明している。一過性トランスフェクタント中と同様に、細胞をエトポシドを用いて処理した場合は分泌量が増加した。さらに、細胞を高濃度のエトポシドへ曝露させた場合には分泌されたhCGの量が増加した(400μM対50μM)。
【実施例2】
【0067】
インビボの異種移植片
SFN−hCG(myc)−Ampレポーター構築物を用いて安定的にトランスフェクトしたPC3細胞を先天性無胸腺ヌードマウスにおける充実性皮下腫瘍として増殖させた。マウスを次に、G2/M停止を誘導することによって作用する抗癌薬を用いて処理した。この例証のために選択した薬物はエトポシドおよびカンプトテシンであった[12]。
【0068】
この実験のために、野生型PC3細胞(hCGを発現または分泌しない)およびSFN−hCG(myc)−Ampレポーター構築物を含有する安定性細胞系を使用した。
【0069】
野生型および組み換えPC3腫瘍細胞系は、10%〜15%熱不活化ウシ胎児血清、2mM L−グルタミン、ペニシリン(50IU/mL)、ストレプトマイシン(50μg/mL)を添加したRPMI培地中で培養した。PC3/SFN細胞のための培養培地はさらにG418(200μg/mL)を含有していた。培養液は37℃、5% CO2に設定した加湿培養器内でインキュベートした。細胞を採取し、プールし、遠心分離し、そして低温培地中に再懸濁させた。これを同等量の冷却マトリゲルと混合したので、腫瘍細胞注射溶液は、腫瘍細胞/培地と各細胞系に対するマトリゲルの50:50混合液であった。野生型もしくはトランスフェクトしたPC3細胞を動物1匹当たり2.5×106で注射した。全細胞系を、右側腹部にのみ100μLの量で注射した。
【0070】
試験群は、各々が動物4匹を含む計4群から構成されていた。1群のマウスには野生型PC3細胞を移植し、残り3群には遺伝子操作細胞を移植した。腫瘍増殖は、細胞移植後に腫瘍の径が2〜5mmに達するまで週2回測定した。腫瘍容積(V)は式:V=4/3π((dl+d2)/4)3(式中、d=平均径(n=2))を用いて計算した。
【0071】
処理は、腫瘍移植の5週間後に開始した。野生型PC3−異種移植マウスは未処理のままにした;その他全てのマウスには溶剤単独(DMSO/生理食塩水)または試験物質を投与した。カンプトテシン(30mg/kg)およびエトポシド(40mg/kg)を腹腔内に10mL/kgで単回投与した。さらに、エトポシド(25mg/kg)を連続3日間にわたり単一群のマウスに投与した(腹腔内;10mL/kg)。薬物の投与前、投与中および投与後に尿サンプルを採取した。動物を処理48時間後に致死させた。尿をhCGについて分析し、数値は尿中クレアチニンレベルに対して標準化した。
【0072】
野生型PC3細胞を注射したマウスの尿中では、腫瘍容積が大きかったにもかかわらずhCGは検出されなかった(データは示していない)。これとは逆に、hCGはトランスフェクトPC3細胞を注射したマウスの尿中で検出され、これはここで検出されたhCGが異種移植腫瘍から発現したことを示唆していた。図8に示したように、腫瘍容積と尿中hCGレベルとの間には正相関が見られた。これは、腫瘍容積と標準化尿中hCG発現との間に関係があることを示している。腫瘍容積が大きいほど、hCG発現のレベルが高くなった。
【0073】
標準化hCGレベルは、図9に示したように、マウスに賦形剤単独、40mg/kgのエトポシドもしくは30mg/kgのカンプトテシン各々の単回用量を投与したときに0.54倍、4.29倍および5.29倍へ増加した。
【0074】
エトポシドおよびカンプトテシンはどちらも、図10に示したように、賦形剤コントロールと比較して個別マウスにおいてhCG発現を有意に増加させた。これは、異種移植腫瘍におけるhCG発現が、DNA損傷が増加した結果として抗癌薬のエトポシドおよびカンプトテシンによって誘導されることを証明している。これは、投与前数値に比較して薬物投与の48時間後には尿中でhCGのレベル上昇が検出されたことによって証明された。
【0075】
マウスに25mg/kgでエトポシドを連続3回投与し、そして尿サンプルを薬物の投与前、投与中および投与後に採取した。第1回投与後には、標準化hCG発現の急増が生じたが、試験物質の第2回投与後にはこのレベルにとどまっていた。その後のhCGのレベルは、エトポシドの第3回投与の24時間後および48時間後にはコントロールレベルへ低下した。この例は図11に示した。エトポシドの連続3回の投与後のhCGレベルの低下は、DNA損傷の結果としての細胞死が腫瘍の内部で発生していたことを示した。これは、エトポシドがPC3/SFN細胞に対する抗腫瘍作用を呈示し、それによってhCG発現癌細胞の数を減少させ、hCG尿中レベルの減少を生じさせることを示唆した。
【0076】
[文献]
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】SFN−hCG(myc):Ampターゲティング構築物の生成を示す。
【図2】SFN−hCG(myc):PACクローンを示す。
【図3】図2の制限酵素地図の詳細を示す。
【図4】SFNサブクローン中間体の生成を示す。
【図5】最終構築物の制限酵素地図を示す。
【図6】一過性に感染したPC3細胞中でのエトポシドによるhCGの誘導を示す。
【図7】SFN−hCG(myc)−Amp構築物を含有するように安定的に操作されたPC3細胞中でのエトポシドによるhCGの誘導を示す。
【図8】腫瘍容積と標準化尿中hCG発現(投与前)との関係のグラフを示す。
【図9】投与48時間後の腫瘍容積に比較した標準化尿中hCG発現を示す。
【図10】個別マウスの投与48時間後の腫瘍容積に比較した標準化尿中hCG発現を示す。
【図11】25mg/kg(エトポシド)を連続3回投与された単一マウスにおける標準化尿中hCGレベルを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト宿主動物における異種移植片の進行をモニタリングする方法であって、
(i)細胞を動物に移植する前もしくは後に、少なくとも1つのレポーター分子および/またはレポーター遺伝子および/またはレポーター物質を前記細胞に組み込むことができるように、前記細胞を遺伝子組み換えもしくは遺伝子操作するステップと、
(ii)前記組み換え細胞を前記宿主動物に移植し、異種移植片を十分な期間にわたり増殖させるステップと、および
(iii)前記レポーター分子もしくはレポーター遺伝子に関連する選択された生化学的/生理的反応の少なくとも1つのパラメーターを測定するステップと、を含む方法。
【請求項2】
ヒトもしくは非ヒト起源である複数の遺伝子組み換えもしくは遺伝子操作細胞が提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が正常組織もしくは腫瘍由来の一次分離株である、または不死化もしくは株化細胞系である、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記レポーター分子が、タンパク質、抗原、酵素、酵素基質、蛍光物質、化学発光物質、色素物質または放射性核種からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記レポーター遺伝子が、タンパク質であるクロラムフェニコール−アセチルトランスフェラーゼ、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼもしくは緑色蛍光タンパク質、分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)、主要尿タンパク質(MUP)またはヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)をコードする遺伝子から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記レポーター物質がプロテアーゼもしくはキナーゼである、または前記レポーターがタンパク質もしくはmRNA安定化における変化を生じさせるタンパク質もしくはRNAである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記宿主動物が齧歯類である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記齧歯類がマウスまたはラットである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記齧歯類が、特別に選択された遺伝的背景を有する野生型もしくは遺伝子操作マウスもしくはラットである、請求項7または8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記宿主動物がその中に移植されたレポーター細胞/系の2つ以上の相違する集団を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記レポーター分子もしくはレポーター遺伝子もしくはレポーター物質に関連する選択された生化学的/生理学的反応の少なくとも1つのパラメーターを測定するステップを含むステップが定性的もしくは定量的測定を含み、さらにそのようなデータを確証するために侵襲性方法または非侵襲性方法を含んでいてよい、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記異種移植片が続発部位での転移性腫瘍を伴う、または伴わない異種移植腫瘍として増殖させられる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記移植組み換え細胞が、適切な培地中に懸濁させた個別細胞または腫瘍フラグメントのいずれかとして宿主動物に導入される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記移植された組み換え細胞が、全身性で、または移植部位での異種移植腫瘍のいずれかとして宿主動物内で増殖させられる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記宿主動物が、適切な免疫抑制剤の投与によって免疫抑制されている、または免疫不全系統である、または免疫学的に正常であるいずれかであり、前記移植組み換え細胞が前記宿主動物と同遺伝子型である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記レポーター細胞/系が、1つもしくは複数の導入遺伝子を発現するように遺伝子操作されている、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記レポーター細胞/系が移植時点に1つ以上のレポーター遺伝子もしくはレポーター物質を発現する、または特別に対象を定めた方法で前記1つ以上のレポーター遺伝子もしくはレポーター物質を用いてインビボでトランスフェクトされる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記1つ以上のレポーター遺伝子もしくはレポーター物質が、レポーター細胞/系の増殖中に発生する細胞生理機能の変化、または投与された生体異物化合物もしくは生物学的物質の毒性効果もしくは薬理効果の結果としての細胞生理機能の変化のいずれかに反応して生化学的パラメーターの測定を可能する少なくとも1つのエレメントを含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記レポーター分子もしくはレポーター遺伝子もしくはレポーター物質に関連する選択された生化学的/生理学的反応の少なくとも1つのパラメーターを測定するステップが、下記のパラメーター、
a)レポーター細胞数、細胞周期の変調もしくは有糸分裂分画、細胞分化、血管形成、低酸素状態、壊死による細胞死、細胞溶解もしくはアポトーシス、
b)酸化的ストレス、DNA損傷、ミトコンドリア機能、膜摂動、GSH枯渇、受容体媒介毒性、酵素阻害、補因子有効性、pHもしくは浸透圧の変化、カルシウムホメオスタシスの摂動、細胞分化、タンパク質の代謝回転、ユビキチン化またはタンパク質のミスフォールディング、
c)細胞内シグナリング経路、受容体相互作用に及ぼす作用、遺伝子転写、翻訳もしくはタンパク質安定性、ホルモンもしくは成長因子受容体の変調、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体の変調、細胞内シグナル伝達経路、MAPキナーゼもしくはホスファターゼシグナリング、p53シグナリングまたはrasシグナリングに及ぼす作用、および
d)薬物耐性のメカニズム、薬物送達もしくは薬物バイスタンダー効果の誘導、
のいずれか1つ以上を測定もしくはモニタリングするステップを含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記レポーター遺伝子が、レポータータンパク質の産生を引き起こす遺伝子の発現を促進する天然もしくは人工プロモーター配列を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記プロモーターが構成的に活性である、または誘導性である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記1つ以上のレポーター遺伝子発現産物が転写または転写後に報告可能である、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
転写的報告が、血管内皮成長因子(VEGF)、一酸化窒素シンテターゼ(iNOS)プロモーター、ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)プロモーター、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)プロモーター、トランスグルタミナーゼプロモーター、Peg3/pwlプロモーター、14−3−3タンパク質プロモーターまたはGADD153プロモーターを含む群から選択される遺伝子プロモーターのいずれか1つによって媒介される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
転写後報告が、例えば細胞質タンパク質の核への移行、もしくは膜結合形から分泌形への転位を引き起こすプロテアーゼ活性の結果としてタンパク質修飾をもたらすタンパク質の生成を通して、あるいはプロエンザイムもしくは転写調節因子の活性化、または活性酵素もしくは転写調節因子の不活性化または血液中への分泌もしくは尿中への排泄のタンパク質開裂を通して媒介される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
転写後報告が、タンパク質もしくはmRNAの安定化における変化をもたらすタンパク質もしくはRNAの産生を通して媒介される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
転写後報告が、タンパク質を発現する細胞が死ぬかもしくは溶解する際に分泌もしくは排出されるタンパク質、例えばアラニンアミノトランスフェラーゼの産生を通して媒介される、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記レポーター分子もしくはレポーター遺伝子もしくはレポーター物質に関連する選択された生化学的/生理学的反応の少なくとも1つのパラメーターを測定するステップが非侵襲性もしくは侵襲性アッセイのいずれかによって行われ、
(i)前記非侵襲性アッセイが、排出された身体生成物中において、または生物発光測定、血圧測定、経皮的動脈血酸素分圧測定、核磁気共鳴測定、またはポジトロン放射断層撮影測定によって行われる、または
(ii)侵襲性アッセイが血液もしくは異種移植レポーター生成物に対して行われる、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
請求項1に記載の方法によって生成される、遺伝子組み換え細胞もしくは遺伝子操作細胞を含む生成物であって、前記細胞が少なくとも1つのレポーター分子もしくはレポーター遺伝子を含むように前記細胞が組み換えもしくは操作されている生成物。
【請求項29】
請求項2から27に記載されたいずれか1つ以上の特徴をさらに含む、請求項28に記載の生成物。
【請求項30】
SFN遺伝子のプロモーター領域およびヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を含む人工遺伝子構築物であって、hCGの発現が前記SFNプロモーターによって制御される構築物。
【請求項31】
前記SFN遺伝子の5’調節プロモーター領域がhCGへ結合している、請求項30に記載の構築物。
【請求項32】
請求項30または31の構築物を含有するヒト腫瘍由来細胞系。
【請求項33】
請求項32に記載のヒト腫瘍由来細胞系を含有する非ヒト動物。
【請求項34】
以下の状態、
a)特に、限定はされないが、異種移植片の増殖中もしくは分化中もしくは死が発生したときの、または処理に反応したレポーター細胞の増殖を測定するステップと、
b)レポーター細胞の分化もしくは死が発生した際の分化もしくは死のメカニズムを決定するステップと、
c)これらが反応において一次レポーター細胞異種移植片とは相違する場合に続発性転移腫瘍におけるプロセスをモニタリングするステップと、
d)レポーター細胞/系における生化学的プロセスに関連するパラメーターの非侵襲性測定を行うステップと、
e)例えば、非分裂細胞と比較した分裂細胞に対して、または正常酸素状態細胞と対照的に低酸素状態細胞に対して、薬物の特異的毒性から発生する薬物耐性細胞集団を同定するステップと、
f)例えばp53を発現する、および発現しない細胞中で腫瘍細胞増殖または処理に対する反応に遺伝的背景が及ぼす影響を決定するステップと、
g)半減期の短い、もしくは排泄されるレポーター分子もしくは遺伝子を用いて力学的測定を行うステップと、および
h)インビボの薬物作用の標的を決定または確認するステップと、
i)薬物バイスタンダー効果を測定するステップ、および遺伝的調節に含まれるプロモーターエレメントを同定するステップと、
j)細胞内薬物濃度を決定し、それにより薬物を取り込む細胞を決定するステップと、および
k)インビボの薬物作用の標的を決定または確認するステップと、のいずれか1つ以上における、請求項1に記載の方法または請求項28または30に記載の生成物の使用。
【請求項35】
請求項28または29のいずれかに規定した少なくとも1つのレポーター細胞/系を備える生成物および任意選択的にそのための1組の取扱説明書を含むキット。
【請求項36】
前記生成物がレポーター細胞の懸濁液として供給される、請求項35に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2006−522598(P2006−522598A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506102(P2006−506102)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001543
【国際公開番号】WO2004/090532
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505379799)シーエックスアール・バイオサイエンシズ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】