説明

疑似導波管型伝送線路及びそれを用いたアンテナ

【課題】 ミリ波でも有効な平面構造の左手系伝送線路を簡単な構造で実現する。
【解決手段】 本発明の伝送線路1は、主誘電体層3の両面に主接地導体層4,5が積層されてなる主誘電体基板2を備えている。主誘電体基板2には、主誘電体層3を貫通し、両面の主接地導体層4,5の間を接続する主接地導体ポスト7が複数列設されてなる主接地導体ポスト列6が2列配置されている。上側の主接地導体層4における2列の主接地導体ポスト列6の間には、該主接地導体ポスト列6の略列幅方向へ延びる略長孔状のスリット8が該主接地導体ポスト列6の列長方向へ複数列設されている。このスリット付き主接地導体層4における各スリット8には、該スリット付き主接地導体層4に対して電気的に浮遊した浮遊導体9がそれぞれ配設されている。この伝送線路1は、両面の主接地導体層4及び2列の主接地導体ポスト列6で囲まれた部分を主導波路10として構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密に並べた金属ポスト列で壁面を形成した導波路であるSIW(Substrate Integrated Waveguide)構造に基づく、左手系伝送線路として機能させることができる疑似導波管型伝送線路及びそれを用いたアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
右手系伝送線路は、等価的な誘電率εと透磁率μが同時に正となる右手系媒質による伝送線路である。これに対し、左手系伝送線路は、等価的な誘電率εと透磁率μが同時に負となる左手系媒質による伝送線路である。
【0003】
SIW線路は、上下面をグランドとする誘電体基板に金属ポストを連続的に配置した擬似導波管構造となっており(非特許文献1)、低コスト性、低損失性、高集積性などの特徴を備えている。
【0004】
SIW構造ではないが、導波管構造に関し、遮断領域導波管が実効的に負の誘電率となることを利用し、直列に装荷した短絡スタブ導波管と組み合わせることで左手系導波管を構成した例が報告されている(非特許文献2,3)。
【0005】
また、SIW構造ではなく、導波管構造でもないが、下面をグランドとする誘電体基板の上面に導体からなるストリップ線路を形成した構造を有するマイクロストリップ線路に関し、信号伝送路としてのストリップ線路に断線部を設け、その断線部の間隙下に浮遊導体を配置することで直列容量を形成し、これにより右手/左手系複合伝送線路を構成した例が報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Hirokawa, and M. Ando, "Single-layer feed waveguide consisting of posts for plane TEM wave excitation in parallel plates", IEEE Trans. Antennas Propagat., Vol.46, No.5, pp.625-630, May 1998
【非特許文献2】多恵馬,真田,久保、「遮断領域導波管と短絡スタブによる左手系導波管の伝送特性」、2008年電子情報通信学会総合大会エレクトロニクス講演論文集1、107頁、March 2008
【非特許文献3】岩崎,鴨田,T.Derham,九鬼、「60GHz帯周波数走査アンテナ用傾斜溝付き右手/左手系導波管」、2008年電子情報通信学会総合大会エレクトロニクス講演論文集1、113頁、March 2008
【非特許文献4】廣田,田原,米田、「右手/左手系複合線路を用いたフォワードカプラの基礎検討」、2008年電子情報通信学会総合大会エレクトロニクス講演論文集1、111頁、March 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、左手系伝送線路については、従来、例えば、非特許文献2,3のように導波管構造に関する構成例が存在していたが、SIW構造に基づく疑似導波管型の左手系伝送線路の構成例はなかった。仮にSIW構造に対し非特許文献2,3に開示された短絡スタブ構造を採用することも考えられるが、そうすると、大型化し、SIW線路の高集積性という特徴が失われてしまうという課題がある。
【0008】
また、信号を伝送するための導体の線路を有しない疑似導波管構造からなるSIW線路は、ストリップ線路に対応する構成を有していないため、非特許文献4の構成をそのままSIW線路に採用することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、第1の発明の疑似導波管型伝送線路は、
主誘電体層の両面に主接地導体層が積層されてなる主誘電体基板を備え、
該主誘電体基板には、前記主誘電体層を貫通し、両面の前記主接地導体層間を接続する主接地導体ポストが複数列設されてなる主接地導体ポスト列が2列配置されており、
少なくとも一方の前記主接地導体層における前記2列の主接地導体ポスト列の間には、該主接地導体ポスト列の略列幅方向へ延びる略長孔状のスリットが該主接地導体ポスト列の列長方向へ複数列設されており(以下、前記スリットが列設された前記主接地導体層を「スリット付き主接地導体層」という。)、
前記両面の主接地導体層及び前記2列の主接地導体ポスト列で囲まれた部分が、主導波路として構成されている。
【0010】
前記スリットは、前記疑似導波管型伝送線路が左手系で機能するために必要な直列容量を前記主導波路に付与するように、該スリットの短辺側の幅が狭く形成されたり、蛇行状に形成されたりした態様を例示する。
【0011】
この構成によれば、前記複数のスリットで該主導波路に直列容量を付与することにより、主導波路が実効的に負の透磁率になるようにすることができる。そして、遮断領域における導波管が実効的に負の誘電率になることを利用し、左手系伝送線路を実現するようにしている。
【0012】
第2の発明の疑似導波管型伝送線路としては、前記第1の発明において、
前記スリット付き主接地導体層は、その各前記スリットに、該スリット付き主接地導体層に対して電気的に浮遊した浮遊導体がそれぞれ配設された態様を例示する。
【0013】
この構成によれば、前記複数のスリット及び前記複数の浮遊導体により、前記主導波路に付与する直列容量をさらに増大させることができる。また、前記直列容量は、前記浮遊導体の配置、形状、サイズ等を調節することにより調節できるので、伝送線路の設計が容易になる。
【0014】
第3の発明の疑似導波管型伝送線路としては、前記第1の発明又は第2の発明において、
前記スリット付き主接地導体層の反主誘電体層側には、遮蔽用誘電体層と遮蔽用接地導体層とが順に積層されてなる遮蔽層部が設けられ、
該遮蔽層部には、前記遮蔽用誘電体層を貫通し、前記スリット付き主接地導体層及び前記遮蔽用接地導体層間を接続する遮蔽用接地導体ポストが複数列設されてなる遮蔽用接地導体ポスト列が2列配置されており、
2列の該遮蔽用接地導体ポスト列の間には、前記スリット付き主接地導体層における全ての前記スリットが位置しており、
前記スリット付き主接地導体層、前記遮蔽用接地導体層、及び前記2列の遮蔽用接地導体ポスト列で囲まれた部分が、前記主導波路から前記スリットを介して漏れようとする電磁波を遮断する遮蔽用遮断領域導波路として構成された態様を例示する。
【0015】
ここで、「前記スリット付き主接地導体層の反主誘電体層側」とは、前記スリット付き主接地導体層における主誘電体層側でない側を意味しており、前記スリット付き主接地導体層が前記浮遊導体を備えている場合(前記第2の発明の場合)、該浮遊導体を備えたスリット付き主接地導体層の反主誘電体側を意味している。
【0016】
この構成によれば、前記主導波路からのエネルギーの漏れを防止することができる。
【0017】
第4の発明のアンテナは、
前記第1の発明又は第2の発明の疑似導波管型伝送線路に対する入力信号の周波数を制御することにより、前記スリットからのエネルギーの放射方向を制御するようにしている。
【0018】
この構成によれば、前記スリットや前記浮遊導体の配置、形状、サイズ等を適宜設計することによりエネルギーの放射量を制御することができ、前記入力信号の周波数を制御することによりエネルギーの放射方向を制御することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る疑似導波管型伝送線路によれば、ミリ波でも有効な平面構造の左手系伝送線路を簡単な構造で実現できるという優れた効果を奏する。
また、本発明に係る疑似導波管型伝送線路を用いたアンテナによれば、疑似導波管型伝送線路の特徴である低コスト性、低損失性、高集積性を備えるとともに、ミリ波でも有効な平面構造のアンテナを簡単な構造で実現できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を具体化した第一実施形態に係る伝送線路の概略斜視図である。
【図2】同伝送線路の単位セルの構成を示す分解斜視図である。
【図3】導波管型伝送線路の等価回路を示す図である。
【図4】同伝送線路の概略構成を示す側断面図である。
【図5】同伝送線路の分散曲線(数値解析結果)を示すグラフである。
【図6】同伝送線路の散乱パラメータ(数値解析結果)を示すグラフである。
【図7】同実験用伝送線路の入力部を示す平面図である。
【図8】実験用伝送線路を示す画像である。
【図9】同実験用伝送線路の散乱パラメータ(測定結果)を示すグラフである。
【図10】本発明を具体化した第二実施形態に係る伝送線路の単位セルの構成を示す分解斜視図である。
【図11】同伝送線路におけるスリットの形態例を示す図であり、(a)はスリットを直線状に形成した例、(b)はスリットを蛇行状に形成した例を示す図である。
【図12】本発明を具体化した第三実施形態に係る伝送線路の単位セルの構成を示す分解斜視図である。
【図13】同伝送線路の分散曲線(数値解析結果)を示すグラフである。
【図14】同伝送線路の散乱パラメータ(数値解析結果)を示すグラフである。
【図15】本発明を具体化した第四実施形態に係るアンテナの単位セルの構成を示す分解斜視図である。
【図16】同アンテナの分散曲線(数値解析結果)を示すグラフである。
【図17】同アンテナのx−z面内の放射特性(数値解析結果)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜図9は本発明を具体化した第一実施形態の伝送線路1を示している。この伝送線路1は、図1及び図2に示すように、主誘電体層3の両面に主接地導体層4,5が積層されてなる主誘電体基板2を備えている。主誘電体基板2には、主誘電体層3を貫通し、両面の主接地導体層4,5の間を接続する主接地導体ポスト7が複数列設されてなる主接地導体ポスト列6が2列配置されている。上側の主接地導体層4における2列の主接地導体ポスト列6の間には、該主接地導体ポスト列6の略列幅方向(y方向)へ延びる略長孔状のスリット8が該主接地導体ポスト列6の列長方向(z方向)へ複数列設されている。このスリット付き主接地導体層4は、その各スリット8に、該スリット付き主接地導体層4に対して電気的に浮遊した浮遊導体9がそれぞれ配設されている。この伝送線路1は、上下両面の主接地導体層4,5及び2列の主接地導体ポスト列6で囲まれた部分が主導波路10として構成されている。
【0022】
主誘電体層3は、比誘電率εr1の誘電体からなり、厚さd1に形成されている。主接地導体ポスト7は、半径rの接地された金属ポストからなっており、間隔sで配置され、主接地導体ポスト列6をなしている。2列の主接地導体ポスト列6は、間隔afをおいて平行に配置されている。主誘電体基板2の両面の主接地導体層4,5は、接地された金属膜からなっており、上面の主接地導体層4のスリット8は、幅lg,長さaeに形成されており、周期sで配置されている。上面の主接地導体層4の上部には、比誘電率εr2の誘電体からなり、厚さd2に形成された誘電体フィルム11が積層されており、該誘電体フィルム11の上部であって、各スリット8の真上には、幅lp,長さaeの金属膜からなる浮遊導体9がそれぞれ配設されている。主接地導体ポスト7の周期は必ずしもスリット8の周期に一致させる必要は無いが、ここではこれらを一致させることにより、伝送線路1が周期sの単位セル1aにより構成されるようにしている。スリット8及び浮遊導体9と主接地導体ポスト7とは、互いに半周期ずらして配置されている。
【0023】
本発明の伝送線路1が左手系伝送線路として機能する理由を説明する。SIWは、接地導体ポストの径と配置間隔を調節することで、ある等価幅を持つ擬似H面導波管として機能する。この導波管を伝わる電磁波の基本モードであるTE10モードは図3(a)の等価回路で表せる。ここで、LR=μ[H/m]、CR=ε[F/m]、LL=μ(a/π)2[H/m]、μは導波管内の媒質の透磁率、εは導波管内の媒質の誘電率、aは導波管の幅である。
【0024】
並列アドミタンス(あるいは線間アドミタンス)Y=j(ωε−(π/a)2/(ωμ))はCRとLLの並列共振周波数ωc=(π/a)/(εμ)1/2以上で容量性(正のサセプタンス)、以下で誘導性(負のサセプタンス)となる。
【0025】
直列インピーダンスZ=jωLRは(常に)誘導性(正のリアクタンス)なので、この線路に波が伝搬しうるためにはYは容量性(正のサセプタンス)でなければならない。
【0026】
ωc以下ではYは誘導性(負のサセプタンス)となり線路には波は伝搬しないので、ωcは遮断周波数と呼ばれる。
【0027】
Yをωc=(π/a)/(εμ)1/2を用いて書き直すと、Y=jωε0εr(ω2−ωc2)/ω2=jωε0εeffとなる。ここで、εeff=εr(ω2−ωc2)/ω2は実効比誘電率でありω<ωcでは負となる(εrは導波管内の媒質の比誘電率)。
【0028】
このSIWに対して、図3(b)のように直列容量CLを装荷すると直列インピーダンスはZ=j(ωLR−1/(ωCL))となり、ωse=1/(LRL1/2以下で容量性(負のリアクタンス)となる。CLを挿入することで、Zは容量性(負のリアクタンス)かつYは誘導性(負のサセプタンス)、すなわち等価的にμ<0かつε<0の帯域が出現しこの帯域内において左手系の伝搬が可能となる。
【0029】
そこで、本発明では、図4に示すように、主接地導体層4に列設したスリット8と、該スリット8の真上に配置された浮遊導体9とにより、SIWに直列にキャパシタンスCLを装荷するようにした。このとき、d1が大きく、d2が小さい程キャパシタンスを大きくできると考えられる。
【0030】
本発明の伝送線路1における図2の単位セル1aについての分散特性を、電磁界シミュレータHFSS(High Frequency Structure Simulator、アンソフト社製)を用いて数値解析した。右手系(以下、「RH」という。)モードと左手系(以下、「LH」という。)モードの間の遮断帯域が無くなるように、スリット8および浮遊導体9の寸法を調整し図5に示す分散曲線を得た。このときのパラメータは、次の通りである。主誘電体基板2及び誘電体フィルム11として、それぞれεr1=2.2,d1=0.508mm(DiClad880)とεr2=10.2,d2=0.061mm(AD10)の誘電体部材を想定した。SIWは、半径r=0.2mmの主接地導体ポスト7を横幅af=6.6mm,周期s=0.8mmで並べて構成し、16GHzを遮断周波数fcに選んだ。このときのSIWと等価となる導波管幅aeは、6.32mmである。本例では、浮遊導体9およびスリット8の横幅をaeに選んだ。lp,lgは、0.6mm,0.2mmである。主導波路10の遮断周波数fcである16GHzを境にして、低周波数側では、周波数の増加に従い位相定数βが減少する左手系線路の特性が現れ、高周波数側では、通常のSIWの分散特性が見られる。このように伝送線路1の遷移周波数f0は16GHzになっている。次に、この単位セル1aを12セル接続して構成した右手/左手系複合伝送線路(以下、「CRLH−TL」という。)の散乱パラメータ(Sパラメータ)として、反射係数S11及び透過係数S21の周波数特性を数値解析した結果を図6に示す。解析においては実験で用いる測定系を考慮して入出力端子にはマイクロストリップ線路15を用いCRLH−TLとは図7に示すテーパ16を介して接続している。このテーパ16は、マイクロストリップ線路15の幅wsを特性インピーダンスが50Ωとなるように1.53mmとするとともに、13GHzでの反射が少なくなるように、ly=1mm,lz=3.5mmと設計した。
【0031】
図8に試作したSIWと浮遊導体9によるCRLH−TLを示す。端子には2.4mmのコネクタを用いており、全長は約50mmである。構造パラメータは数値解析で示したものと同じである。散乱パラメータの測定結果を図9に示す。11.2GHzから15GHzに周波数が低くなるに従って位相の変化が大きくなるLHモードの特徴を示す伝送帯域が見られる。しかしながら、測定結果のLHモードは数値解析結果に比べ中心周波数が1.1GHz高く、帯域幅は48%に狭くなっている。また、18GHz付近に遮断帯域が現われている。これらは回路作成上、主誘電体基板2と浮遊導体9を装荷した誘電体フィルム11の間の密着が不完全であり、直列容量が設計値に満たなかったためであると考える。
【0032】
以上のように、本発明の伝送線路1は左手系伝送線路として使用でき、平面基板で実現できるため構造が簡単である。
【0033】
次に、図10〜図11は本発明を具体化した第二実施形態を示している。この伝送線路20は、以下に示す点において、主に第一実施形態と相違している。従って、同実施形態と共通する部分については、同一符号を付することにより重複説明を省く(以下、他の実施形態についても同様とする。)。
【0034】
第一実施形態のスリット付き主接地導体層4は、その各スリット8に、該スリット付き主接地導体層4に対して電気的に浮遊した浮遊導体9がそれぞれ配設されているが、図10に示すように、本例の伝送線路20は、浮遊導体9が設けられていない点が相違している。各スリット8の真上に、誘電体フィルム11を介して浮遊導体9を設けた方が伝送線路20に装荷する直列容量が増大し、設計が容易であるが、本例のように浮遊導体9を省いても左手系伝送線路の実現は可能である。但し、伝送線路20に十分な直列容量が装荷されるように、スリット8の幅を小さくしたり、スリット8の実効的な長さを大きくしたり(図11(b)参照)、スリット8内を誘電体で満たしたり、スリット8上に第一実施形態と同様に誘電体フィルム11(AD10)を積層したりすることが好ましい。
【0035】
本例の伝送線路20における単位セル20aについての分散特性を、電磁界シミュレータHFSSを用いて解析した。このときのパラメータは、次の通りである。主誘電体基板2及び誘電体フィルム11は第一実施形態と同一のものとした。SIWは、半径r=0.2mmの主接地導体ポスト7を横幅af=6.6mmで並べて構成し、16GHzを遮断周波数fcに選んだ。このときのSIWと等価となる導波管幅aeは、6.32mmである。本例では、スリット8の横幅をaeに選んだ。lgは、0.2mmである。入出力回路は第一実施形態と同じマイクロストリップ線路15及びテーパ16を使用した。なお、表1及び表2の解析結果中、「LH伝搬が見られた」とは、周波数が低くなるに従って位相の変化が大きくなるLHモードの特徴を示す伝送帯域が見られたことを意味している。
【0036】
図10及び図11(a)に示す形態のスリット8の場合の解析結果を表1に示す。スリット8上に誘電体フィルム11を積層した場合に、伝送線路に十分な直列容量が装荷され、LH伝搬が現れたと考える。
【0037】
【表1】

【0038】
また、図11(b)に示す形態のスリット8の場合の解析結果を表2に示す。このときs=0.8mmとした。スリット8上に誘電体フィルム11を積層したり、スリット8の幅等(図11(b)におけるa〜c)を小さく設定したりした場合に、伝送線路に十分な直列容量が装荷され、LH伝搬が現れたと考える。
【0039】
【表2】

【0040】
次に、図12〜図14は本発明を具体化した第三実施形態を示している。第一実施形態の構造では浮遊導体9が露出しているため外部への放射が起こるが、本例の伝送線路30は、浮遊導体9の上部を遮蔽した構造としており、以下に示す点において、主に第一実施形態と相違している。
【0041】
本例の伝送線路30は、第一実施形態の伝送線路1に、次の構成が付加されている。すなわち、図12に示すように、スリット付き主接地導体層4の反主誘電体層側には、遮蔽用誘電体層32と遮蔽用接地導体層33とが順に積層されてなる遮蔽層部31が設けられている。該遮蔽層部31には、遮蔽用誘電体層32を貫通し、スリット付き主接地導体層4及び遮蔽用接地導体層33の間を接続する遮蔽用接地導体ポスト35が複数列設されてなる遮蔽用接地導体ポスト列34が2列配置されており、2列の該遮蔽用接地導体ポスト列34の間には、スリット付き主接地導体層4における全てのスリット8が位置している。この伝送線路30は、スリット付き主接地導体層4、遮蔽用接地導体層33、及び2列の遮蔽用接地導体ポスト列34で囲まれた部分が、主導波路10からスリット8を介して漏れようとする電磁波を遮断する遮蔽用遮断領域導波路(以下、「遮蔽用導波路」という。)36として構成されている。
【0042】
具体的には、同図に示すように第一実施形態の構造の上部に比誘電率εr3,厚さd3の遮蔽用誘電体層32を置き、その上部に遮蔽用接地導体層33を置いている。さらに、下層の主接地導体ポスト7を延長し、この延長部分を遮蔽用接地導体ポスト35とし、最上部の遮蔽用接地導体層33と接続している。
【0043】
第一実施形態の構造と比較するために主導波路10である下層のSIWのパラメータは不変として、上層の遮蔽用誘電体層32の厚さd3、スリット8および浮遊導体9の寸法ae,lgを調整しHFSSを用いた数値計算設計によってパラメータを決定した。すなわち、εr3=2.2,d3=1.0mm,ae=5.2mm,lg=0.1mmとした。このときの分散曲線を図13に示す。同図よりLHモードの帯域は10GHzから16GHzであり、第一実施形態よりもLHモードの遮断周波数が2GHz高域に移動している。これは、主接地導体ポスト7及び遮蔽用接地導体ポスト35に干渉しないように浮遊導体9の長さaeを短縮し、直列容量が減少したためである。次に、この単位セル30aを12セル接続して構成したCRLH−TLの散乱パラメータの数値解析結果を図14に示す。入出力回路は第一実施形態のものと同じマイクロストリップ線路15及びテーパ16を用いているので整合は良くないが、同図から10GHzから16GHzに周波数が低くなるに従って位相の変化が大きくなる図13のLHモードの分散特性を良く反映した伝送特性がみられる。数値計算は無損失を仮定しているが、第一実施形態(図6)の場合、|S112+|S212<1となっており、外部への放射が無視できないことを示している。一方、図14の場合|S112+|S212=1となっており、外部への放射が抑制されていることがわかる。
【0044】
なお、本例ではd1≠d3の場合について数値解析を行ったが、構造が簡単になるように、d1=d3=0.508mmとした場合の数値解析でも同様の結果が得られている。また、本例の計算では、遮蔽用接地導体ポスト35の間隔は、簡単のために主接地導体ポスト7の間隔と同じに選んでいるが、この場合、主導波路10の遮断周波数fc以上の周波数では遮蔽用導波路36も遮断領域とはならず、電磁波を伝搬してしまい不要な共振の原因となる。このため、主導波路10で使用する周波数帯域全体に渡って、遮蔽用導波路36が遮断領域となるように、遮蔽用接地導体ポスト35の間隔を主接地導体ポスト7の間隔よりも狭くする等の最適化が必要である。
【0045】
本例の伝送線路では、第一実施形態の線路に対し、放射を抑制するために浮遊導体9の上部に遮蔽のための層を設けたが、この場合も平面基板を積層して構成できる。
【0046】
次に、図15〜図17は本発明を具体化した第四実施形態を示している。このアンテナ40は、第一実施形態と同様に構成された伝送線路に対する入力信号の周波数を制御することにより、スリット8からのエネルギーの放射方向を制御するようにしたものである。
【0047】
本例のアンテナ40における図15の単位セル40aについて、電磁界シミュレータHFSSを用いて数値解析を行った。このときのパラメータは、次の通りである。主誘電体基板2及び誘電体フィルム11は第一実施形態と同一のものとした。SIWは、半径r=0.2mmの主接地導体ポスト7を横幅af=6.6mm,周期s=1.0mmで並べて構成し、16GHzを遮断周波数fcに選んだ。このときのSIWと等価となる導波管幅aeは、6.32mmである。本例では、浮遊導体9およびスリット8の横幅をaeに選んだ。lp,lgは、0.637mm,0.363mmである。入出力回路は第一実施形態と同じマイクロストリップ線路15及びテーパ16を使用した。本解析によって求めた分散曲線を図16に示す。主導波路10の遮断周波数fcを境に高域に右手系(RH)、低域に左手系(LH)のモードをもつCRLH−TLの分散特性が見られる。図17は20個の単位セル40aで構成された線路からのx−z面内の放射特性(それぞれの最大値で正規化)を示している。同図より漏洩波領域内(β2<ω2μ0ε0)のLHモード(fL=13.5GHz)の場合は後方へ、遷移周波数(β=0)付近(fT=15.7GHz)では垂直に、RHモード(fR=20.5GHz)の場合は前方に放射していることがわかる。
【0048】
本例では、主導波管に設けられたスリット8を塞ぐように浮遊導体9が配置されているが、これらの配置形状を最適化したり、これらを省いた構成としたりすることで放射特性の向上が期待できる。
【0049】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)各実施形態において、上下を逆に構成すること。
(2)各実施形態において、主接地導体層5にもスリット8や誘電体フィルム11及び浮遊導体9を設けること。
(3)第二実施形態の伝送線路を、第四実施形態と同様にアンテナとして使用すること。
【符号の説明】
【0050】
1 伝送線路
2 主誘電体基板
3 主誘電体層
4 スリット付き主接地導体層
5 主接地導体層
6 主接地導体ポスト列
7 主接地導体ポスト
8 スリット
9 浮遊導体
10 主導波路
11 誘電体フィルム
15 マイクロストリップ線路
16 テーパ
20 伝送線路
30 伝送線路
31 遮蔽層部
32 遮蔽用誘電体層
33 遮蔽用接地導体層
34 遮蔽用接地導体ポスト列
35 遮蔽用接地導体ポスト
36 遮蔽用遮断領域導波路
40 アンテナ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主誘電体層の両面に主接地導体層が積層されてなる主誘電体基板を備え、
該主誘電体基板には、前記主誘電体層を貫通し、両面の前記主接地導体層間を接続する主接地導体ポストが複数列設されてなる主接地導体ポスト列が2列配置されており、
少なくとも一方の前記主接地導体層における前記2列の主接地導体ポスト列の間には、該主接地導体ポスト列の略列幅方向へ延びる略長孔状のスリットが該主接地導体ポスト列の列長方向へ複数列設されており(以下、前記スリットが列設された前記主接地導体層を「スリット付き主接地導体層」という。)、
前記両面の主接地導体層及び前記2列の主接地導体ポスト列で囲まれた部分が、主導波路として構成された疑似導波管型伝送線路。
【請求項2】
前記スリット付き主接地導体層は、その各前記スリットに、該スリット付き主接地導体層に対して電気的に浮遊した浮遊導体がそれぞれ配設された請求項1記載の疑似導波管型伝送線路。
【請求項3】
前記スリット付き主接地導体層の反主誘電体層側には、遮蔽用誘電体層と遮蔽用接地導体層とが順に積層されてなる遮蔽層部が設けられ、
該遮蔽層部には、前記遮蔽用誘電体層を貫通し、前記スリット付き主接地導体層及び前記遮蔽用接地導体層間を接続する遮蔽用接地導体ポストが複数列設されてなる遮蔽用接地導体ポスト列が2列配置されており、
2列の該遮蔽用接地導体ポスト列の間には、前記スリット付き主接地導体層における全ての前記スリットが位置しており、
前記スリット付き主接地導体層、前記遮蔽用接地導体層、及び前記2列の遮蔽用接地導体ポスト列で囲まれた部分が、前記主導波路から前記スリットを介して漏れようとする電磁波を遮断する遮蔽用遮断領域導波路として構成された請求項1又は2記載の疑似導波管型伝送線路。
【請求項4】
請求項1又は2記載の疑似導波管型伝送線路に対する入力信号の周波数を制御することにより、前記スリットからのエネルギーの放射方向を制御するようにしたアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−187141(P2010−187141A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29176(P2009−29176)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月2日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC 電子情報通信学会 2008年ソサイエティ大会講演論文集」(DVD)に発表
【出願人】(806000011)財団法人岡山県産業振興財団 (12)
【Fターム(参考)】