説明

疲れ目抑制のための食品

【課題】 通常の手段では対応の出来にくい、回復に時間のかかる疲れ目を改善する手段を提供する。
【解決手段】 癌化若しくは不死化していない、角膜上皮細胞の培養において、紫外線を角膜上皮細胞が死滅しない程度照射し、被験物質の存在下で培養した場合、非存在下で培養した場合よりも細胞が生存する蓋然性が高いか否かを判定し、蓋然性がより高い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していると判定し、蓋然性がより低い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していないと判定することを指標とし、疲れ目抑制のための食品素材を評価する。クワ科クワ、マメ科カワラケツメイ、キク科キク、キク科ベニバナ、ナス科クコ及びスイカズラ科クロミノウグイスカグラから選択される植物の植物体の一部乃至は全部の抽出物乃至はその溶媒除去物であるが前記評価法において適した食材として評価された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品の評価法、該評価法によって有効であると鑑別された素材を含有する食品に関し、更に詳細には、疲れ目の抑制に有用な食品の評価法、該評価法によって疲れ目の抑制に有効であると鑑別された素材を含有する疲れ目抑制用の食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会は車の運転やVDT(Visual Display Terminal)作業、パソコンやテレビなど目を使い続ける時代である。加えて、睡眠時間が極端に短くなり、起きている時間が長くなるなどライフスタイル自体も目に対して負担を強いるものになっている。環境の面では、大気汚染に由来するオゾンホールの拡大が、紫外線の地上到達量を激増させ、紫外線による目の損傷も増えていると言える。斯くの如くに、現代社会は、目にとって負担の極めて多い環境と言え、それに伴い、疲れ目や眼精疲労などの目のトラブルに悩む人が急増している。この為、疲れ目等の目のトラブル症状改善に有効な医薬品、食品などQOL(Quality Of Life)の向上が期待される商品が望まれている。
【0003】
一般的には、疲れ目と眼精疲労とは区別されて認識されたり、使用されたりはしていないが、専門の眼科の定義では、この二者は明確に区別されている。すなわち、疲れ目は生理的な疲労であり、眼精疲労は病的な疲労の範疇に入る。言い換えれば、疲れ目は休息によって回復し、眼精疲労は休息によってもその症状が改善しないものと言うことができる(非特許文献1)。しかしながら精神的な疲労の度合いで疲れ目が眼精疲労に、また眼精疲労が単なる疲れ目になり得ることもあるので、実態としては、このような定義、区別もあいまいと言わざるを得ない。疲れ目の中には、休息によって回復するものの、その回復に時間を要し、さりとて、その予後が良いため眼精疲労とは言い難いものがあるし、眼精疲労においては、初期症状は極めて重篤であり、病的であることには間違いがないが、その予後は極めて良く、回復に時間をそう長くは要しないものも存する。
【0004】
病理学的には、眼精疲労の原因は定義付けされており、視器要因、内環境要因・心的要因、外環境要因の3種類に大別されている(例えば、非特許文献2を参照)。中でも、外環境要因は非常に大きなウエイトを占めることが推測され、中でも光刺激要素(有害光線)は角膜に直接的なダメージを与えるため、紫外線が眼精疲労の重要なファクターと考えられている。紫外線によって角膜に障害を引き起こすメカニズムは、現在もまだ完全には分かっていない(例えば、特許文献1を参照)が、特にUV−B波が原因(非特許文献3)となって活性酸素種が脂質やタンパク質、DNAなどと反応することによってダメージを与えているのではないかと考えられている(例えば、非特許文献4を参照)。一方、疲れ目の原因は現在定義付けがされておらず、又、事実として、原因が不明な部分も存する。その主たる症状としては目が「ショボショボする、チカチカする、ズキズキする、ゴロゴロする、ヒリヒリする、ぼんやりする」などが挙げられる。いわば、この様な症状を呈する、目のトラブルの総称が「疲れ目」に分類されており、一種の症候群ともいえる。
【0005】
この様な目のトラブルの内、特に近年その対応が必要とされているのは、前述の如く、疲れ目であって、その回復に時間を要する、比較的重篤なものである。これは、この様な症状が近年急増している状況と、その根本的な原因が不明であるためである。この為、この様な疲れ目に対する対応は、充分に目の休養をすることと、ビタミン類などを含有する目薬の投与で姑息な対応しか存しないと言える。
【0006】
一方、日常的な食品を通じて疲れ目を改善する試みとしては、例えば、ブルーベリーの様なアントシアニンを多く含む果実を摂取しやすいジャムなどの形に加工して、摂取することなどが知られている。(例えば、特許文献2を参照)しかしながら、この方法では、通常の疲れ目には対応できても、回復に時間のかかる疲れ目への効果は得られない。一方、癌化若しくは不死化していない、角膜上皮細胞の培養において、被験物質の存在下で培養した場合、非存在下で培養した場合よりも細胞が生存する蓋然性が高いか否かを判定し、蓋然性がより高い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していると判定し、蓋然性がより低い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していないと判定することを指標とすることを特徴とする、疲れ目抑制のための食品素材の評価法は全く知られていないし、この様な評価法で有効と鑑別された食材を含有する食品が、前記回復に時間を要する疲れ目の改善に有用であることも全く知られていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2005−60279号公報
【特許文献2】特開2001−224320号公報
【非特許文献1】渥美一成 「調節・眼精疲労」、第5−6頁、講談社、2001年
【非特許文献2】井上正康ら、「疲労の科学」、第17−26頁、金原出版、1999年
【非特許文献3】Zigman.S Photochem Photobiol. 57(6) , 1060-1068(1993)
【非特許文献4】J.CEJKOVA et al. Physiol.Res. 53 , 1-10(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、通常の手段では対応の出来にくい、回復に時間のかかる疲れ目を改善する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、通常の手段では対応の出来にくい、回復に時間のかかる疲れ目を改善する手段を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、回復に時間を要する疲れ目の原因が、光刺激による角膜細胞の損傷であることを見出した。この知見を元に、癌化若しくは不死化していない、角膜上皮細胞の培養において、被験物質の存在下で培養した場合、非存在下で培養した場合よりも細胞が生存する蓋然性が高いか否かを判定し、蓋然性がより高い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していると判定する評価法で選別した素材を食品に配合し、これを摂取することにより、前記の回復に時間を要する疲れ目の改善が容易に行えることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
【0010】
(1)癌化若しくは不死化していない、角膜上皮細胞の培養において、紫外線を角膜上皮細胞が死滅しない程度照射し、被験物質の存在下で培養した場合、非存在下で培養した場合よりも細胞が生存する蓋然性が高いか否かを判定し、蓋然性がより高い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していると判定し、蓋然性がより低い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していないと判定することを指標とすることを特徴とする、疲れ目抑制のための食品素材の評価法。
(2)前記細胞の生存する蓋然性が、生存細胞数の増加で表されることを特徴とする、(1)に記載の疲れ目抑制のための食品素材の評価法。
(3)前記癌化若しくは不死化していない、角膜上皮細胞が、ヒト正常角膜上皮細胞であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の疲れ目抑制のための食品素材の評価法。
(4)紫外線の照射量が50〜100mJ/cmであることを特徴とする、請求項1〜3何れか1項に記載の食品素材の評価法。
(5)(1)〜(4)に記載の評価法において、非存在下での培養に比して生存する蓋然性が高いことを特徴とする、疲れ目抑制のための食品を製造するための素材。
(6)クワ科クワ、マメ科カワラケツメイ、キク科キク、キク科ベニバナ、ナス科クコ及びスイカズラ科クロミノウグイスカグラから選択される植物の植物体の一部乃至は全部の抽出物乃至はその溶媒除去物であることを特徴とする、(5)に記載の素材。
(7)抽出溶媒が、アルコール及び/又は水であることを特徴とする、(5)又は(6)に記載の素材。
(8)(5)〜(7)何れか1項に記載の食品素材を含有してなる疲れ目抑制のための食品。
(9)クワ科クワ、マメ科カワラケツメイ、キク科キク、キク科ベニバナ、ナス科クコ及びスイカズラ科クロミノウグイスカグラから選択される植物の植物体の一部乃至は全部の抽出物乃至はその溶媒除去物を含有することを特徴とする、疲れ目抑制のための食品。
(10)疲れ目が、角膜上皮細胞への物理的刺激に起因する化学的ダメージによるものであることを特徴とする、(8)又は(9)に記載の食品。
(11)物理的刺激に起因する化学的ダメージが、紫外線によるダメージであることを特徴とする、(10)に記載の食品
(12)疲れ目抑制効果を有する旨の表示を有することを特徴とする、(8)〜(11)何れか1項に記載の食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通常の手段では対応の出来にくい、回復に時間のかかる疲れ目を改善する手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(1)調査
本発明者らは、通常の手段では対応の出来にくい、回復に時間のかかる疲れ目を改善する手段を開発するに先立ち、疲れ目において回復を阻害している因子を調べる目的で、回復しにくい、疲れ目を自覚している人9人と、疲れ目の自覚のない人10人を対象に、生活パターンをアンケートにより調査した。アンケートでは、無作為に抽出した1日において、どの様な行動を取ったのかを30分単位での行動表に詳細に記載してもらった。集まった19枚の行動表を比較して、疲れ目に影響を及ぼしそうな行動を洗い出し、その行動に費やされた時間の平均を求めると次の表1に示す結果になった。これより、光による影響が大きいことが判る。特に、屋外での作業時間の寄与が大きく、光の中でも紫外線の影響が大きいことが推測された。紫外線の作用を勘案すると、紫外線が目の組織を自覚できない程度に損傷し、その損傷が蓄積することにより、回復しにくい疲れ目が発生することが推定された。
【0013】
【表1】

【0014】
この様な知見を元に、市販されている正常ヒト角膜上皮細胞を用いて、角膜上皮細胞への紫外線の影響を検討した。紫外線照射量が多いと角膜上皮細胞は照射後3日以内に死滅するが、80mJ/cm程度のエネルギー量では、30%程度の生存が確認された。即ち、線量の少ない紫外線照射により、角膜上皮細胞の部分傷害が起こり、この様な傷害が蓄積することにより、回復しにくい疲れ目が生じることが推察される。このことは線量の少ない紫外線を角膜上皮細胞に照射することによって、回復しにくい疲れ目モデルが作成できることを示唆する。
【0015】
(2)本発明の疲れ目抑制のための食品素材の評価法
本発明の疲れ目抑制のための食品素材の評価法は、この様な知見を利用したものであり、回復しにくい疲れ目を改善すべき食品素材であるか否かを評価するためのものであって、癌化若しくは不死化していない、角膜上皮細胞の培養において、紫外線を角膜上皮細胞が死滅しない程度照射し、被験物質の存在下で培養した場合、非存在下で培養した場合よりも細胞が生存する蓋然性が高いか否かを判定し、蓋然性がより高い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していると判定し、蓋然性がより低い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していないと判定することを指標とすることを特徴とする。
【0016】
前記角膜上皮細胞は、癌化或いは不死化していないものであれば、ヒトのものであってもウサギやモルモットのような実験動物のものであっても良く、実験動物より角膜を採取し、トリプシン処理などをして細胞を分散させ、これを継代培養して用いても良いが、この様な正常角膜上皮細胞には市販品が存し、かかる市販品を購入し利用することが出来る。好ましい市販品としては、正常ヒト角膜上皮細胞である「HCEC」(クラボウ株式会社製)が好ましく例示できる。かかる角膜上皮細胞は必要に応じ、数代継代し、形質を安定させた後、試験に供する。試験では、角膜上皮細胞に紫外線を、角膜上皮細胞が完全には死滅しない程度の量の紫外線を照射し、致命的ではない程度の傷害を与える。この様な紫外線量としては、50〜100mJ/cmが好ましく例示できる。紫外線の線源としてはBLBランプやSEランプが好適に例示できる。
【0017】
紫外線照射された細胞は、被験物質の存在下及び非存在下で24〜96時間培養される。培地は、特段の限定はないが、市販品を購入して使用することが好ましく、市販品としては、例えばクラボウ株式会社より販売されている「EpiLife」が好適に例示できる。培養条件は、37℃で二酸化炭素濃度5容量%含有の気流中で行うのが好ましい。被験物質としては食品素材が好ましく、食品素材としては、採取した原形のものでも良いし、乾燥、粉砕、抽出などを行った加工品でも良い。
【0018】
培養後、細胞は生細胞測定試薬SF(ナカライテスク社)にて発色させ、測定波長450nmで吸光度を測定し、生存細胞数を計測する。被験物質の存在下で培養した場合、非存在下で培養した場合よりも細胞が生存する蓋然性が高い場合、疲れ目改善作用が存したと判別する。
【0019】
(3)本発明の食品素材
本発明の食品素材は、前記評価法において疲れ目抑制、改善作用を有すると判別されたものであることを特徴とし、具体的には、クワ科クワ、マメ科カワラケツメイ、キク科キク、キク科ベニバナ、ナス科クコ及びスイカズラ科クロミノウグイスカグラから選択される植物の植物体の一部乃至は全部の抽出物乃至はその溶媒除去物であることを特徴とする。これらの植物は何れも漢方生薬の基源植物であり、抽出物やその溶媒除去物を得る部位としては、漢方で使用されている部位を用いることが好ましく、クワであれば葉の部分の乾燥物を用いることが好ましく、カワラケツメイであれば地上部を乾燥させたものが好ましく、キク、ベニバナであれば花蕾の乾燥物を用いることが好ましく、クコであれば果実の乾燥物を用いることが好ましく、クロミノウグイスカグラ(ハスカップ)であれば果実を用いることが好ましい。抽出は常法に従って行えば良く、植物体1質量部に対して1〜100質量部の溶媒を加えて、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬すればよい。所望により攪拌を加えることも出来る。抽出後は所望により不溶物を濾過で除去し、減圧溜去や凍結乾燥によって濃縮することが出来る。抽出に用いる溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水乃至はエタノール等のアルコールが特に好適に例示できる。かかる食品素材は前記の本発明の疲れ目改善作用の評価法にて、角膜上皮細胞の生存率を上昇せしめ、疲れ目抑制、改善のための食品素材として適していると判断されたものである。この判断の基準は非存在下に比して15%以上の生存率の上昇を見ることである。
【0020】
(4)本発明の食品
本発明の食品は、疲れ目の抑制、改善のための食品であって、前記本発明の食品素材を含有することを特徴とする。本発明の食品が、この様な作用を発現するためには、前記食品素材を、食品全量に対し1〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%含有することが好ましい。又、かかる食品の摂取量は200〜1000mgを1日1回乃至は数回に亘って摂取することが好適に例示できる。又、この様な使用態様を使用者に遵守させるために、本発明の食品には、疲れ目抑制効果を有する旨の表示及び摂取に際して異常を感じた場合には摂取を直ちに中止する旨の表示を明確に有することが好ましい。
【0021】
本発明の食品においては、前記の必須成分である食品素材以外に、通常食品組成物で使用される任意の成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、着色剤、矯味矯臭剤、崩壊剤、分散剤、増量剤、被覆剤、糖衣剤などが好ましく例示できる。これらの必須成分及び任意成分を常法に従って処理することにより、本発明の食品は製造することが出来る。
【0022】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、かかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0023】
製造例1(クワハ抽出物の製造)
クワハ(クワ科クワの葉)の乾燥物100gを水1リットルに加え、還流抽出器にて100℃で3時間加熱抽出し、熱時ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した後に凍結乾燥してクワハ抽出物14.2gを得た。
【実施例2】
【0024】
製造例2(サンペンズ抽出物の製造)
サンペンズ(マメ科カワラケツメイの地上部)の乾燥物100gを水1リットルに加え、還流抽出器にて100℃で3時間加熱抽出し、熱時ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した後に凍結乾燥してサンペンズ抽出物14.1gを得た。
【実施例3】
【0025】
製造例3(キクカ抽出物の製造)
キクカ(キク科キクの花)の乾燥物100gを水1リットルに加え、還流抽出器にて100℃で3時間加熱抽出し、熱時ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した後に凍結乾燥してキクカ抽出物25.3gを得た。
【実施例4】
【0026】
製造例4(コウカ抽出物の製造)
コウカ(キク科ベニバナの花)の乾燥物100gを水1リットルに加え、還流抽出器にて100℃で3時間加熱抽出し、熱時ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した後に凍結乾燥してコウカ抽出物34.1gを得た。
【実施例5】
【0027】
製造例5(クコシ抽出物の製造)
クコシ(ナス科クコの果実)の乾燥物100gを水1リットルに加え、還流抽出器にて100℃で3時間加熱抽出し、熱時ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した後に凍結乾燥してクコシ抽出物64.5gを得た。
【実施例6】
【0028】
製造例6(ハスカップ抽出物の製造)
ハスカップ(スイカズラ科クロミノウグイスカグラの果実)100gを水1リットルに加え、還流抽出器にて100℃で3時間加熱抽出し、熱時ろ過した。ろ液を減圧下で濃縮した後に凍結乾燥してハスカップ抽出物21.6gを得た。
【実施例7】
【0029】
試験例
正常ヒト角膜上皮細胞(「HCEC」;クラボウ株式会社製)を使用した。96穴プレートに細胞数10,000cells/cmになるように培養溶液(「EpiLife」;クラボウ株式会社製)へ接種し、37℃、二酸化炭素濃度5vol%中に静置した。2日後に培地を交換し、さらに2日間培養した後、紫外線照射を行った。紫外線照射時には、培地を除いてリン酸緩衝液を加え、80mJ/cmのUV−B波を照射した。照射後にリン酸緩衝液を除き、培地中に各検体を0.01%(終濃度)となるように添加して、3日間37℃、二酸化炭素濃度5vol%中に静置した。3日間の静置後、細胞数を生細胞測定試薬SF(ナカライテスク社)にて発色させ、測定波長450nmで吸光度を測定した。
【0030】
紫外線(UV−B波 80mJ/cm)した後、3日間培養した際の細胞生存率を下記表2に示す。コントロール(紫外線非照射)の生存率を100%とした。検体無添加の細胞の生存率は33.2±13.05であったのに対し、各検体で検体無添加よりも高い生存率を示した。特にクワハ、キクカ、ハスカップに関しては有意な差が得られており、紫外線照射による角膜上皮細胞壊死抑制作用を有することが明らかとなった。これより、実施例1〜6の抽出物は本発明の食品素材であることが判明した。
【0031】
【表2】

【実施例8】
【0032】
製剤例
下記の表3に示す処方に従って、本発明の食品を製造した。即ち、処方成分をフローコーターに仕込み、適宜水分を噴霧しながら流動層造粒し、引き続き40℃の温風を4時間送風し、顆粒を得た。この顆粒を打錠機で打錠し、本発明の食品である錠剤1(250mg錠)を得た。同時に、ハスカップ抽出物をショ糖に置換した比較例も同時に作成した。
【0033】
【表3】

【実施例9】
【0034】
前記実施例8の錠剤1と比較例とを用いて、本発明の食品の効果を確かめた。即ち、目の疲れを訴える20〜50代のモニターを、試験群と対照群の2群にそれぞれ15名ずつ分け、上記表3に示す錠剤1を試験群に、比較例を対照群に与え、これらを1日1回2錠ずつ、10日間飲用してもらった。飲用試験終了後にアンケートを行い疲れ目の状態の変化を答えてもらった。10日間飲用後のアンケート結果を下表に示す。
質問は、「飲用前と比較して、目の疲れはどうなったか」という質問に対する回答である。 アンケート結果より、試験群の食品組成物は対象群に比べて目の疲れの緩和を感じさせることが分かった。したがって、ハスカップ抽出物を特定の割合で含む場合には、紫外線による角膜上皮細胞壊死が原因と思われる疲れ目防止効果が得られることがわかった。又、このことより回復しにくい疲れ目の原因が紫外線などの光による角膜上皮細胞の損傷であることも裏付けられた。
【0035】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、疲れ目抑制、改善のための食品に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌化若しくは不死化していない、角膜上皮細胞の培養において、紫外線を角膜上皮細胞が死滅しない程度照射し、照射後被験物質の存在下で培養した場合、非存在下で培養した場合よりも細胞が生存する蓋然性が高いか否かを判定し、蓋然性がより高い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していると判定し、蓋然性がより低い場合、疲れ目抑制のための食品素材としてより適していないと判定することを指標とすることを特徴とする、疲れ目抑制のための食品素材の評価法。
【請求項2】
前記細胞の生存する蓋然性が、生存細胞数の増加で表されることを特徴とする、請求項1に記載の疲れ目抑制のための食品素材の評価法。
【請求項3】
前記癌化若しくは不死化していない、角膜上皮細胞が、ヒト正常角膜上皮細胞であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の疲れ目抑制のための食品素材の評価法。
【請求項4】
紫外線の照射量が50〜100mJ/cmであることを特徴とする、請求項1〜3何れか1項に記載の食品素材の評価法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の評価法において、非存在下での培養に比して生存する蓋然性が高いことを特徴とする、疲れ目抑制のための食品を製造するための素材。
【請求項6】
クワ科クワ、マメ科カワラケツメイ、キク科キク、キク科ベニバナ、ナス科クコ及びスイカズラ科クロミノウグイスカグラから選択される植物の植物体の一部乃至は全部の抽出物乃至はその溶媒除去物であることを特徴とする、請求項5に記載の素材。
【請求項7】
抽出溶媒が、アルコール及び/又は水であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の素材。
【請求項8】
請求項5〜7何れか1項に記載の食品素材を含有してなる疲れ目抑制のための食品。
【請求項9】
クワ科クワ、マメ科カワラケツメイ、キク科キク、キク科ベニバナ、ナス科クコ及びスイカズラ科クロミノウグイスカグラから選択される植物の植物体の一部乃至は全部の抽出物乃至はその溶媒除去物を含有することを特徴とする、疲れ目抑制のための食品。
【請求項10】
疲れ目が、角膜上皮細胞への物理的刺激に起因する化学的ダメージによるものであることを特徴とする、請求項8又は9に記載の食品。
【請求項11】
物理的刺激に起因する化学的ダメージが、紫外線によるダメージであることを特徴とする、請求項10に記載の食品
【請求項12】
疲れ目抑制効果を有する旨の表示を有することを特徴とする、請求項8〜11何れか1項に記載の食品。

【公開番号】特開2007−89450(P2007−89450A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281937(P2005−281937)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】