説明

疲労特性に優れる溶接継手の作製方法

【課題】疲労特性に優れる溶接継手の作成方法を提供する。
【解決手段】溶接継手を作成する際、鋼板表面上において、ビード止端部が形成される個所を予測し、予め、Siを30質量%以上含んだ物質を、少なくとも前記個所を含むように、塗布もしくは固定した後、溶接し、(1)止端形状を改良し、(2)最終パスを除く溶接金属の特性の確保し、(3)ソリッドワイヤなどへのSi添加の回避により硬化を防止し、疲労特性を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビード断面の止端部の形状が良好で、疲労特性に優れる溶接継手の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、橋梁、貯槽、及び建設機械等の溶接構造物においては、大型化とそれに伴う軽量化を目的に、使用鋼材の高強度化が求められている。
高強度化により、使用鋼材を少なくすることができ、構造物の軽量化が達成でき、Cr,Ni,Mo等を添加した引張強度レベルが300〜590MPaの鋼材が一般に用いられている。
【0003】
しかし、鋼材の引張強度が増加しても溶接継手の疲労強度は、鋼材の引張強度ほどには向上せず、この原因として、溶接継手の溶接部に生じる引張残留応力も増大することが挙げられる。
【0004】
特許文献1は、溶接継手の疲労強度を向上させる溶接方法に関し、溶接後の冷却過程において溶接金属をマルテンサイト変態させ、室温においてマルテンサイ ト変態の開始時よりも膨張した状態とし、溶接継手の溶接金属に生じた引張残留応力を低減、あるいは引張残留応力に代えて圧縮残留応力を与え、溶接施工後に、研削等の特別な後処理を行わなくても溶接継手の疲労強度が向上させることが記載されている。
【0005】
特許文献1記載の溶接方法では、マルテンサイト変態開始温度が250℃未満170℃以上と低温側の鉄合金系溶接材料(溶接ワイヤ)を用いる。
【特許文献1】特開平11−138290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された溶接材料による溶接継手は、疲労強度は向上するものの、Cr,Ni等を溶接材料に含有するため、経済的に不利であることが指摘されていた。
【0007】
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、ビード止端形状の観点から溶接継手の疲労強度を向上させる溶接継手の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は以下の手段により達成される。
1. 溶接継手の作製方法であって、溶接に先立ち鋼材表面上においてビード止端部が形成される個所をSi:30質量%以上含んだ物質で被覆し、溶接することを特徴とする疲労特性に優れた溶接継手の作製方法。
2. 溶接金属の化学組成に、Si:3.0質量%以上を含むことを特徴とする1記載の溶接継手の作製方法。
3. 下記(1)式によるKt値が、2.3以下であることを特徴とする1または2記載の溶接継手の作製方法。
Kt=[1+f(θ)×{g(ρ)−1}]・・・(1)
ここでf(θ):溶接余盛り角の影響、g(ρ):止端半径の影響
f(θ)=[1−exp{−0.90×(W/2h)0.5×(πーθ}]
/[1−exp{−0.90×(W/2h)0.5×(π/2)}]・・・(2)
g(ρ)=1+2.2×[(h/ρ)/{2.8×(W/t)−2}]0.68・・・(3)
ここで、W=(t+4×h)+0.3×(t+2×h
h:リブ方向脚長、θ:余盛角、t:主板(母材)厚、tp:リブ板厚、hp:主板方向脚長、ρ:止端半径
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶融金属と鋼材表面のぬれ性(以下単に「ぬれ性」と記載する。)を向上させるSiを、溶接される鋼材側から供給するため、(1)止端形状改良効果:鋼材に接する最終パスのみSiを添加させることにより,止端形状を向上させる効果。
【0010】
(2)最終パスを除く溶接金属の特性の確保:Siが供給される溶接金属は鋼材に接する最終パスのみのため,継手全体の基本特性(機械的特性,溶接性,溶接作業性)は確保
される。ワイヤに直接Siを添加すると,特に1パスめの溶接に対する割れの発生や溶接金属の「伸び」の悪化に大きく影響する。
【0011】
(3)ソリッドワイヤなどへのSi添加回避:ソリッドワイヤなどにSiを添加すると,ワイヤ全体が硬化してしまうため,ワイヤの製造が困難になる。
などの効果が得られ、溶接金属の靭性といった溶接継手の基本特性を低下させることなく、疲労特性に優れた溶接継手が作製でき、産業上、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、積層される複数のビードのうち、止端部を形成するビードにのみ、ぬれ性を向上させるSiが供給されるように、溶接前に、鋼材上にSi含有材で被覆することを特徴とする。Siはフラックスを形成し、溶接金属と鋼材表面のぬれ性を改善し、止端部においてアンダーカットなどの疲労ノッチの発生を防止する。
【0013】
図1は、本発明に係る溶接継手の作製方法を、3層からなる多層盛T字溶接継手の場合について説明する図で、T開先にビード1を形成した後(a)、鋼材表 面上において、ビード2の止端部が形成される個所を、積層図などから、予め予測し、鋼材上の該当する個所にSi含有材を載置して被覆し(b)、その後、溶接してビード2を形成する(c)。前記T継手は、ビード3を溶接して完成される(d)。
【0014】
Si含有材は、Siを30質量%以上含んだ物質とする。30質量%未満の場合、上述した良好なビード形状が得られない。
【0015】
溶接継手において、疲労ノッチは、ビード止端部のアンダーカットから発生することが多いので、Si含有材は、少なくともビード止端部が形成される個所を被覆するように鋼材上に載置すればよい。例えば、直径1mm程度のフェロシリコン粒を幅10mm程度の帯状に溶接線に沿って敷き詰めてもよい。
【0016】
本発明では、Si含有材の形状は特に規定せず、粉末状、粒状、板状などでよい。これらは単に置くだけでもよいが、市販の粘着テープ、のりなどにより固定するのが好ましい。Si含有材は、典型的にはシリコン鉄合金のフェロシリコンを使用するが、Si含有材であれば化合物の形態は指定しない。
【0017】
尚、本発明では、溶接材料は溶接される鋼材に適合したものを適宜選定すればよい。また、溶接パスの回数や継手形状を問わず、溶接金属が接触する鋼板上に上述した処理を施しても良い。
【実施例】
【0018】
2片の鋼材をリブ板11と主板12とし、3層の多層盛T字継手を手溶接とCO溶接で作製し、疲労特性:200万回疲労強度を調査した。図2に積層法とビード2の形状の測定方法(止端半径:ρ、余盛角度:θ)を示す。
【0019】
溶接は、鋼材表面上で、2層目のビードの止端部2が形成される位置に表2に示すSi含有材(厚さ1mm、幅10mmの帯板)を載置して行った。尚、CO溶接は表1に示すソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤについて行った。
【0020】
表1に溶接材料、表2にSi含有材(比較材も含む)、表3に溶接される鋼材の成分組成をそれぞれ示す。また、溶接条件は電流300A、電圧30.5V,溶接速度45cm
/minとした。
【0021】
表4に溶接継手の作製に用いた溶接材料と鋼材の組合わせ、および溶接金属中のSi量を示す。また、併せて、溶接材料の金属量、フラックス量、シールドガスの種類を示す。
【0022】
表5に得られた溶接継手の特性として溶接金属中のSi量,ビード形状(止端半径ρ,余盛角度θ)と疲労試験結果を示す。本発明例記号1〜4はいずれもSi含有量が3.0%以上であった。
【0023】
本発明例1〜4のビード形状について(1)式によるKt値を求めたところ、いずれも2.3以下で、一方、比較例は、2.3を超えていた。
Kt=[1+f(θ)×{g(ρ)−1}]・・・(1)
ここでf(θ):溶接余盛り角の影響、g(ρ):止端半径の影響
f(θ)=[1−exp{−0.90×(W/2h)0.5×(πーθ}]
/[1−exp{−0.90×(W/2h)0.5×(π/2)}]・・・(2)
g(ρ)=1+2.2×[(h/ρ)/{2.8×(W/t)−2}]0.68・・・(3)
ここで、W=(t+4×h)+0.3×(t+2×h
h:リブ方向脚長、θ:余盛角、t:主板(母材)厚、tp:リブ板厚、hp:主板方向脚長、ρ:止端半径
本発明例1〜4についてはビード形状が良好で、120MPa以上の200万回疲労強度が得られた。一方、比較例記号5,6は、Kt値が2.3を超え、ビード形状が不良で、疲労特性に劣る。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明例。
【図2】実施例(止端半径、余盛角度の測定方法)。
【符号の説明】
【0030】
1、2、3 ビード
11 鋼板(リブ)
12 鋼板(主板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接継手の作製方法であって、溶接に先立ち鋼材表面上においてビード止端部が形成される個所をSi:30質量%以上含んだ物質で被覆し、溶接することを特徴とする疲労特性に優れた溶接継手の作製方法。
【請求項2】
溶接金属の化学組成に、Si:3.0質量%以上を含むことを特徴とする請求項1記載の溶接継手の作製方法。
【請求項3】
下記(1)式によるKt値が、2.3以下であることを特徴とする請求項1または2記載の溶接継手の作製方法。
Kt=[1+f(θ)×{g(ρ)−1}]・・・(1)
ここでf(θ):溶接余盛り角の影響、g(ρ):止端半径の影響
f(θ)=[1−exp{−0.90×(W/2h)0.5×(πーθ}]
/[1−exp{−0.90×(W/2h)0.5×(π/2)}]・・・(2)
g(ρ)=1+2.2×[(h/ρ)/{2.8×(W/t)−2}]0.68・・・(3)
ここで、W=(t+4×h)+0.3×(t+2×h
h:リブ方向脚長、θ:余盛角、t:主板(母材)厚、tp:リブ板厚、hp:主板方向脚長、ρ:止端半径

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−305630(P2006−305630A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90589(P2006−90589)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】