説明

疾患を診断、治療又はモニタリングするための可溶性CEACAM8の使用及びアポトーシスを予防する化合物のスクリーニング方法

本発明は、可溶性CEACAM6若しくはCEACAM8の新規使用又は可溶性CEACAM8に特異的な物質に関する。本発明の他の目的は、アポトーシスをインビトロで予防するCEACAM1特異的及び/又はCEACAM6特異的化合物の使用に関する。本発明はまた、アポトーシスを予防する化合物のスクリーニング方法及びヒト顆粒球におけるアポトーシスを予防する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性CEACAM6及び/又は可溶性CEACAM8の新規使用又は可溶性CEACAM8に特異的な物質に関する。本発明の他の目的は、アポトーシスをインビトロ(in vitro)で予防するCEACAM1特異的及び/又はCEACAM6特異的化合物の使用に関する。本発明は、また、アポトーシスを予防する化合物のスクリーニング方法及びヒト顆粒球におけるアポトーシスを予防する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
顆粒球は、病原体感染に対する防御の最前線を形成する。顆粒球は、感染部位に到達すると同時に、食作用及び細胞内殺菌、炎症性メディエーターの産生並びに細胞毒性酵素及びタンパク質の放出による炎症反応に関与する。顆粒球動員がもたらす不幸な結果は、急性炎症中に二次的な組織損傷を引き起こす可能性を意味し、従って、顆粒球の活性及び半減期は厳密に調節されなければならない。顆粒球の生存は、炎症の消散に必須な過程であるアポトーシスにより制限される。アポトーシスは、それによって細胞が細胞固有の自殺プログラムを実行するプログラム細胞死のことを言う。アポトーシスプログラムは、事実上すべての多細胞生物を通じて進化的に保存されていると考えられている。多くの場合、アポトーシスは、健康な生存細胞においては能動的に抑制されなければならないデフォルトのプログラムである。アポトーシス過程による細胞死は、DNA断片化、細胞膜のブレブ形成(blebbing)及び膜の完全性(integrity)の喪失に先立って、細胞膜外葉(outer leaflet)上へのホスファチジルセリンの出現として検出される膜の非対称性の初期発現を伴ってやってくる。通常、顆粒球は寿命が短い細胞である。循環中の半減期はわずか6〜20時間であり、続いてアポトーシスを受ける。アポトーシスを受けるという細胞の決定は、種々の調節刺激及び環境要因により影響を受ける。アポトーシス促進剤及び抗アポトーシス剤は、共に顆粒球の寿命を変化させる。
【0003】
アポトーシスの生理学的アクチベーターには、腫瘍壊死因子(TNF)、Fasリガンド(FasL)、トランスフォーミング成長因子A、神経伝達物質グルタミン酸、ドーパミン、N-メチル-D-アスパラギン酸、増殖因子除去、マトリックス付着の喪失、カルシウム及び糖質コルチコイドが含まれることが知られている。損傷に起因するアポトーシス誘導因子は、熱ショック、ウイルス感染、細菌毒素、癌遺伝子myc、rel及びE1A、腫瘍抑制因子p53、細胞障害性T細胞、酸化剤、フリーラジカル及び栄養枯渇を含む。更にまた、治療に起因するアポトーシス誘導因子もまた知られており、γ線、UV放射線並びに種々の化学療法薬、例えばシスプラチン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、メトトレキサート及びビンクリスチンを含む。特に、FasL及びスタウロスポリンは顆粒球におけるアポトーシスの強力な誘導因子である。反対に、炎症性サイトカイン、例えばGM-CSF、G-CSF及びIL-6は、寿命を長くすることによって多核顆粒球(PMN)を増加させることができる。PECAM-1などの膜アンカー型タンパク質もまた、顆粒球におけるアポトーシスを調節することが記載されている。多様な細胞型に影響を与え、それによって細胞選択的ターゲッティングが妨げられることは、上記誘導因子のすべてにとって不利である。
【0004】
最近、Singer et al. (2005) Eur. J. Immunol. 35 (6): 1949-1959 らは、ラット顆粒球における自発的及びFasL誘導アポトーシスの遅延をCEACAM1が引き起こすことを示した。そのことは、CEACAM1へのリガンド結合が、炎症反応中の顆粒球の寿命及び機能を長引かせることを意味する。CEACAM1は、CEAファミリーに属する膜貫通結合糖タンパク質であり、それ自体は免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CEACAM1は、上皮、血管内皮及び白血球において多量に発現している。CEACAM1のほかにも、ヒト顆粒球は、他の3つのCEAファミリーメンバー、即ち、CEACAM3(CD66d、CGM1)、CEACAM6(CD66c、NCA、NCA50/90)及びCEACAM8(CD66b、CGM6、NCA95)を発現する。このことは、CEACAM1のみを発現するげっ歯類顆粒球とは対照的である。特に自己免疫疾患にも副作用にも望ましくない持続性免疫反応を予防するツールの発表はなされていない。
【0005】
膜結合型CEACAM8に特異的な物質は、ヒト自己免疫疾患及び/又は痛風の予防又は治療処置に使用できることがEP1780220A1の開示により知られている。CEACAM8はヒト顆粒球系の細胞においてのみ発現され、それによって、特異的ターゲッティングによる副作用の低下が期待される。CEACAM8は、顆粒球の表面上に存在するばかりでなく、顆粒球の二次顆粒中にも保存されている。CEACAM8は、活性化と同時に、顆粒球内の貯蔵プールから細胞膜へ移動することができる。しかしながら、細胞固定化CEACAM8への物質の輸送及び相互作用並びに顆粒球に関連する疾患の狭いスペクトルにより使用は限定されている。
【0006】
US2007/0071758A1は、免疫系の調節のための方法及び組成物を教示している。特に、癌の治療において、腫瘍浸潤リンパ球療法の有効性が増強されるようにリンパ球活性が調節される。この目的のためにCEACAM1結合剤が投与されるが、これはCEACAMタンパク質ファミリーメンバーを含むことができる。この相互作用は、膜貫通結合CEACAM1タンパク質に割り当てられている。しかしながら、この文献は、潜在的結合剤及びそのアミノ酸配列の開示を欠いており、ただ、CEACAM1自体の結合能及びCEACAM5とCEACAM1標的との結合能が注記されているにすぎない。反対に、CEACAM1がCEACAM6に結合できないことが明らかにされ、このことは、CEACAM6パラログ(paralogue)としてのCEACAM8に同様に結合できないことを示唆している。
【0007】
従って、本発明の基礎を形成する技術的問題は、ヒトの自己免疫疾患、癌及び他のいくつかの疾患を治療するための更なる物質、特に有効性を改善し、副作用を最小限にする物質を提供することである。
【発明の概要】
【0008】
顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、上皮細胞、内皮細胞及び/又は肝細胞に関連する疾患の診断、予防若しくは治療処置のための医薬の製造及び/又はモニタリングのための、可溶性CEACAM6及び/若しくは可溶性CEACAM8又はその部分の有効量又は前記化合物をコードするDNAの使用により、本発明はこの問題を解決する。
【0009】
CEACAM8は、分子量およそ95kDaを有するグリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型膜糖タンパク質である。これはCEAファミリーのメンバーであり、CGM6(NCA-W272)遺伝子の産物である。膜アンカー型に加えて、可溶型CEACAM8は、刺激後に細胞外に放出される。指定された膜結合型CEACAM8を標識化するリーダー配列を除いては、CEACAM8の2つの型のいずれも同じアミノ酸配列を含む。膜にタンパク質を固定するためのGPIアンカーを付加することによりCEACAM8を翻訳後修飾する酵素は、このリーダー配列を認識する。これまでは、ヒトにおける放出された可溶性CEACAM8の根本的な生物学的機能は見いだされていない。
【0010】
PMNは、最初に損傷及び急性炎症によりプライミングされることが知られている。プライミングは、細胞がその生物学的な活動をより効率的に実施するための準備を特徴とする細胞の一定の状態を意味する。GM-CSFによっても顆粒球のプライミングを誘導することができ、これにより、更にアポトーシス率が低下し、新規タンパク質の合成が誘導される。このプライミングはCEACAM8濃度の増加と共に引き起こされるが、現在までもっぱら膜アンカー型CEACAM8に割り付けられてきた。驚くべきことに、CEACAM8濃度の増加は、顆粒中に待機し、他の刺激、例えばT細胞からのサイトカインによる刺激後に放出される可溶性CEACAM8の産生促進に基づくものであって、膜アンカー型CEACAM8に基づくものではないことを本発明者は明らかにした。可溶性CEACAM8は、CEACAM1とCEACAM6に強く結合するが、ホモフィリックなCEACAM8-CEACAM8結合を欠くこともまた見出された。従って、インビトロ細胞間接着研究において、密接に関連したCEACAM6に対してのみヘテロフィリックな接着を媒介する膜アンカー型と比較して、可溶性CEACAM8はより優れた結合能を示す。放出された可溶性CEACAM8は、すべてのCEACAM1及び/又はCEACAM6発現細胞型、例えば上皮細胞、内皮細胞、リンパ内皮細胞及びすべての造血細胞(顆粒球、B及びTリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ又は樹状細胞)と相互作用することができる。可溶性CEACAM8の機能的役割は、前述の疾患パターンにおける広範囲の機能を誘導するために用いられる。他のCEACAM分子と対照的に、CEACAM8はOpaタンパク質を含有する細菌株(例えば、ナイセリア属(Neisseria)又はヘモフィルス属(Haemophilus))に結合しない。
【0011】
US2007/0071758A1の教示とは正反対に、本発明者は、CEACAM6に結合するCEACAM1の予期せぬ能力を示した。上記の可溶性CEACAM8に関する記載と同様にして、CEACAM1とのホモフィリック相互作用及びヘテロフィリック相互作用を活用できる。
【0012】
加えて、本発明者は、増殖を共刺激する可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8の驚くべき効果を明らかにした。これは、特にヒト多核顆粒球(PMN)及び/又は末梢血単球細胞(PBMC)に向けられるが、他のCEACAM1及び/又はCEACAM6発現細胞型にも好都合に影響を及ぼすことができる。特に、驚くべきことに、CEACAM8により引き起こされる細胞死は、顆粒球上の表面結合CEACAM1及びCEACAM6に結合する可溶性CEACAM8を用いるヒト顆粒球の前処置により予防される。可溶性CEACAM8に関して、この作用は初めて示された機能である。更にまた可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8は、Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、上皮細胞、内皮細胞及び/又は肝細胞を同時活性化又は同時抑制することができる。注目すべきは、前述の細胞型を操縦するために、PMNの内顆粒からCEACAM8が自然に放出されることである。CEACAM8の分泌は、すべてのCEACAM1及び/又はCEACAM6発現細胞型における種々の機能を誘導するための新規生理学的方法を提示している。従って、これらの細胞型に関連する種々の疾患を診断、治療及び/又はモニタリングすることができる。
【0013】
更に詳細には、ヒト自己免疫疾患、痛風、免疫反応の異常、癌及び/又は感染症の診断及び/又はモニタリングのために、可溶性CEACAM6及び/若しくは可溶性CEACAM8又はその部分の有効量又は前記化合物をコードするDNAが使用される。
【0014】
本発明はまた、診断、予防若しくは治療処置のための医薬の製造及び/又はヒト痛風、癌及び/若しくは感染症のモニタリングのための、完全長可溶性CEACAM6及び/若しくは完全長可溶性CEACAM8の有効量又は前記化合物をコードするDNAの使用に関する。
【0015】
本発明によれば、癌の診断、予防若しくは治療処置のための医薬の製造及び/又はモニタリングのために、可溶性CEACAM6及び/若しくは可溶性CEACAM8又はその部分の有効量又は完全長可溶性CEACAM6及び/若しくは完全長可溶性CEACAM8の有効量又は前記化合物をコードするDNAが用いられ、ここで腫瘍に近接した新生血管を可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8で標識することにより癌が診断又はモニタリングされる。
【0016】
可溶性CEACAM6及び可溶性CEACAM8は、別々に使用することもできるし、一緒に使用することもできる。可溶性CEACAM6及びCEACAM8の単回使用の効果がおおよそ同じであれば、可溶性CEACAM8の使用が好ましい。CEACAM8は、ホモフィリック相互作用を欠くため、貯蔵などにより不活化され得ない。両方の化合物を使用することにより相乗効果を得ることができる。後者の場合、同時又は順次に化合物を使用することができる。
【0017】
可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8はまた、同じ機能を有するバリアント、変異体、タンパク質の部分又は相同配列も含む。等価なタンパク質、即ち、発明が教示するタンパク質と機能において類似するタンパク質を製造するためのいくつかの方法が当業者に知られている。従って、本発明は、前述の修飾もまた含む。例えば、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、挿入、移動、逆位及び/又は付加により変異体を製造することができる。特定のアミノ酸は類似した物理化学的特性を示し、互いの間での置換が可能である。CEACAMタンパク質のバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸のアルキル化、アリール化又はアセチル化などの修飾、エナンチオマーの取り込み及び/又はCEACAMタンパク質と1つ若しくは複数のアミノ酸、ペプチド又はタンパク質との融合に由来するものであることができる。本発明の意味において、CEACAM6及び/又はCEACAM8は、アフィニティークロマトグラフィーの精製タグに融合させることが好ましい。CEACAMタンパク質の部分は、特定の機能の発現に十分な領域への限定に関連する。すべての改変は、機能を保つ必要性により必然的に制限される。しかしながら、CEACAMタンパク質の部分は、シグナルカスケードもまた引き起こす結合部位の解析に基づいて大変小さなものであることができる。本発明の意味において、任意のサイズのCEACAM部分と、相同性がCEACAMタンパク質全体に関連する相同配列とは明確に区別される。好ましくは、天然の可溶性CEACAM6又はCEACAM8と同じ特徴を有するそれらの誘導体との相同性は、少なくとも60%、より好ましくは75%、最も好ましくは90%に達する。同様に、任意のサイズの前述の部分がバリアント又は変異体に改変された場合、相同性が考えられる。加えて、先行技術において、同じ機能を有する非相同ペプチドを製造するための多くの技術が記載されている。本発明の問題を解決する場合、本発明の教示は、本発明の成分に基づいてこのような手順により開発されるすべてのペプチド誘導体を含む。
【0018】
本発明はまた、ヒト自己免疫疾患、痛風、免疫反応の異常、癌及び/又は感染症の診断、予防若しくは治療処置のための医薬の製造及び/又はモニタリングのための、可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8をコードするDNAに関する。アミノ酸配列及びその誘導体に関する本明細書の前記教示は、基礎をなすDNAに対して無制限に有効かつ適用可能である。
【0019】
好ましくは、本発明の可溶性CEACAMは、組換え発現され、精製される。それによって、その構築物をStrep-tag、Hisタグ、GSTタグ、Arg-tag又はカルモジュリン結合タンパク質(CBP)などのアフィニティークロマトグラフィー用タグに融合させることができる。例えば、CBPは、例えばカラムマトリックスとして用いられるカルモジュリン樹脂に結合する。このカラムにタンパク質懸濁液を充填し、それからCBPを欠く全成分が直ちに溶離される。非特異的な結合剤を洗浄ステップで除去した後、CBP融合構築物をカラムから除去する。あるいは、当業者に公知の技術を用いて、このタンパク質配列をコードするDNAを製造、増幅、改変又は合成することができる。続いて、このDNAをベクターに導入し、細胞内で転写及び翻訳をさせることができる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、可溶性CEACAM6又はCEACAM8とヒトFc部分とを結合させた構築物が用いられる。ヒトH鎖Fcドメインに融合させた、CEACAM6又はCEACAM8それぞれの可溶性細胞外ドメインをコードするcDNAは、適切なcDNA分子及び特定のプライマー組み合わせを用いてPCRにより製造できる。このフラグメントを発現ベクターにクローニングし、HEK293細胞などの、Fc構築物の産生のために樹立されたヒト細胞にこれをトランスフェクトする。細胞培養上清を採取し、分泌されたCEACAM6-Fc又はCEACAM8-Fcを、それぞれプロテインGセファロースカラムで単離し、最後に構築物を透析する。Fc領域は補体カスケードのエフェクターであるが、抗体の抗原結合性には関与しない。精製タグは、ヒトにおいてはなんら免疫反応を引き起こさず、CEACAM6又はCEACAM8の活性成分にそれぞれ結合され続けることができる。その結果として、切断段階を省くことにより、下流処理が簡易化される。取り扱い又は適用が、目的とするCEACAM分子単独を必要とする場合、パパイン酵素を用いてFc領域を酵素的に切断除去することができ、単独のCEACAM6又はCEACAM8はFPLCにより精製される。
【0021】
可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8は、好ましくは、治療処置に用いられる。治療に関連した効果は、疾患、異常及び/又は急性痛風発作の1以上の症状をある程度軽減し、疾患又は病的状態と関連する、又はその原因となる1以上の生理学的又は生化学的パラメータを部分的又は完全に正常に戻す。例えば、増殖反応を促進し疾患症状を完全に根絶するために化合物が明確な期間投与されるとすれば、モニタリングは一種の治療と見なされる。同一化合物でも、異なる化合物でも投与することができる。本発明の意味において、急性痛風発作に対して、あるいは、自己免疫疾患、癌又は感染症発生の何らかの前提条件、例えば家族性素因、遺伝的欠損、以前感染した疾患又は感染源との以前の又は予想される接触を被験者が有する場合、予防的処置が推奨される。
【0022】
自己免疫疾患は、有害な標的と誤って帰属された生体組織に対する過剰免疫反応に関係する。自己免疫疾患により重篤な炎症が引き起こされ、それは最終的に罹患臓器の損傷をもたらす。本発明の一実施形態において、可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8は、関節炎、関節症、自己免疫性肝炎、慢性胃炎、大腸炎、例えば潰瘍性大腸炎、I型糖尿病、クローン病、多発性硬化症、神経皮膚炎、膵炎、乾癬及び/又はリウマチ、好ましくは関節炎、関節症、慢性胃炎、クローン病、慢性単純性苔癬、膵炎、リウマチ及び/又は乾癬、より好ましくは関節炎、関節症、リウマチ及び/又は乾癬、最も好ましくは関節症、リウマチ及び/又は乾癬の予防又は治療処置のための医薬の製造のために用いられる。
【0023】
本発明の他の実施形態において、免疫反応の診断及び/又はモニタリングのための医薬の製造のために、可溶性CEACAM6及び/若しくは可溶性CEACAM8又はその部分の有効量又は前記化合物をコードするDNAが用いられる。本明細書において、先天性(非適応、自然、非特異的)免疫反応及び獲得(適応 特異的)免疫反応の両方を調節することができる。末梢血単核細胞(PBMC)の免疫反応が調節されることが特に好ましい。T細胞は移植片拒絶において重要な役割を果たすため、このような低反応レベルに対する調節作用により、好都合に拒絶反応を予防することができる。正常な免疫反応の改変のほかにも、免疫反応の病原性異常を治療するために調節作用を適用することもできる。異常の種類に応じて、個体の効果的な保護のために免疫反応が増強され、あるいは自己損傷を停止するために免疫反応が抑制される。特に、後者の介入は、過剰活性顆粒球を効果的に不活化するために用いられる。
【0024】
本発明記載の可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8は、好ましくは、腫瘍性疾患の予防、診断、経過観察及び/又は治療に用いることができる。更にまた、腫瘍及び転移を含む癌疾患の予防及び/又は治療にこれらの分子を用いるのが好ましい。好ましい実施形態において、治療又は予防的に阻止される、あるいは再発が予防される癌疾患又は腫瘍は、耳鼻咽頭領域、肺、縦隔、消化管、泌尿生殖器系、婦人科医学系、乳房、内分泌系、皮膚、骨及び軟部組織肉腫の癌疾患若しくは腫瘍性疾患、中皮腫、黒色腫、中枢神経系新生物、乳児期の癌疾患若しくは腫瘍性疾患、リンパ腫、白血病、腫瘍随伴症候群、原発巣が不明な腫瘍の転移(CUP症候群)、腹膜播種、免疫抑制関連悪性腫瘍及び/又は腫瘍転移から選択される。より具体的には、腫瘍は以下の種類の癌を含むことができる:乳房、前立腺及び結腸の腺癌;気管支において発症する肺癌の全種類;骨髄癌、黒色腫、肝癌、神経芽細胞腫;乳頭腫;アプドーマ、分離腫、鰓腫;悪性カルチノイド症候群;カルチノイド心疾患、癌腫(例えば、ウォーカー癌腫、基底細胞癌、扁平基底癌、ブラウン・ピアース癌、乳管癌、エールリッヒ癌、非浸潤性癌、キャンサー2カルチノーマ、メルケル細胞癌、粘液癌、非小細胞気管支癌、燕麦細胞癌、乳頭癌、硬癌、細気管支肺胞上皮癌、気管支癌、扁平上皮癌及び移行上皮癌);組織球性機能障害;白血病(例えばB細胞白血病、混合細胞型白血病、ナル細胞白血病、T細胞白血病、慢性T細胞白血病、HTLV-II関連白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、マスト細胞白血病及び骨髄性白血病に関連して);悪性組織球症、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、孤立性形質細胞腫;細網内皮症、軟骨芽細胞腫;軟骨腫、軟骨肉腫;線維腫;線維肉腫;巨細胞腫;組織球腫;脂肪腫;脂肪肉腫;白血肉腫;中皮腫;粘液腫;粘液肉腫;骨腫;骨肉腫;ユーイング肉腫;滑膜腫;腺線維腫;腺リンパ腫;癌肉腫、脊索腫、頭蓋咽頭腫、未分化胚細胞腫、過誤腫;間葉細胞腫;中腎腫、筋肉腫、エナメル上皮腫、セメント質腫;歯牙腫;奇形腫;胸腺腫、絨毛芽腫;腺癌、腺腫;コランギオーマ;コレステリン腫;円柱腫;嚢胞腺癌、嚢胞腺腫;顆粒膜細胞腫;ギナンドロブラストーマ;汗腺腫;膵島細胞腫;ライディッヒ細胞腫;乳頭腫;セルトリ細胞腫、卵胞膜細胞腫、平滑筋腫;子宮平滑筋肉腫;筋芽細胞腫;筋腫;横紋筋肉腫;横紋筋腫;横紋筋肉腫;上衣腫;神経節性神経腫、神経膠腫;髄芽腫、髄膜腫;神経鞘腫;神経芽細胞腫;神経上皮腫、神経線維腫、神経腫、傍神経節腫、非クロム親和性傍神経節腫、被角血管腫、好酸球増多を伴う血管リンパ組織過形成;硬化性血管腫;血管腫;グロムス腫瘍;血管内皮腫;血管腫;血管外皮細胞腫、血管肉腫;リンパ管腫、リンパ管平滑筋腫症、リンパ管肉腫;松果体腫;乳腺葉状腫瘍;血管肉腫;リンパ管肉腫;粘液肉腫、卵巣癌;肉腫(例えば、ユーイング肉腫、実験的、カポジ肉腫及びマスト細胞肉腫);新生物(例えば、骨新生物、乳房悪性新生物、消化器系新生物、大腸新生物、肝臓新生物、膵臓新生物、下垂体新生物、睾丸新生物、眼窩新生物、頭頸部新生物、中枢神経系新生物、聴器新生物、骨盤新生物、気道新生物及び尿路新生物);神経線維腫症並びに子宮頚部擦過細胞異形成。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、可溶性CEACAM8は、内皮細胞の血管新生、即ち内皮細胞及び/又はリンパ管内皮細胞の新生に影響を発揮する。成人においては、血管新生及びリンパ管新生は、通例、腫瘍により誘導される管において生じる。更にまた、内皮細胞は、増殖の刺激を受けた場合にのみCEACAM1を発現する。CEACAM1に最も親和性の高い可溶性CEACAM8は、CEACAM8を化学療法薬に結合させることにより、薬物のターゲッティングに用いることができる。化学療法薬は、サイトカイン、ケモカイン、アポトーシス促進剤、インターフェロン、放射性部分又はそれらの組み合わせを含むことができ、核酸代謝、タンパク質代謝、細胞分裂、DNA複製、プリン生合成、ピリミジン生合成、アミノ酸生合成、遺伝子発現、mRNAプロセシング、タンパク質合成、アポトーシス又はそれらの組み合わせを調節する。
【0026】
腫瘍の治療処置に加えて、可溶性CEACAM8は、好ましくは、新生血管、特に腫瘍の周囲の血管を標識することにより癌診断に用いられる。診断は、検出可能部分による臨床像の認識を意味する。CEACAM8の標識は、その固有の特徴及び適用される検出法によって決まり、当業者には公知である。本発明による適切な検出法の例は、ルミネセンス、VIS着色、放射性放出、電気化学プロセス又は磁気である。本発明の診断法は、簡単に迅速に行うことができる。
【0027】
可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8はまた、病原体、特に感染症の防御及び排除の診断、療法及び/又はモニタリングに使用される。本発明の意味において、“伝染病”は、ウイルス、ウイロイド、細菌、真菌、原生動物、多細胞寄生虫又はプリオンとして知られる異常なタンパク質を含む1以上の病原体の存在に起因する、宿主に損傷を与える、又は宿主を害する臨床的に明らかな疾患である。これらの病原体は、動物及び植物のどちらにも疾患を引き起こすことができる。伝染病の伝染は、感染個体との接触、水、食物、風媒吸入、媒介性動物による広がりを含むいくつかの経路により起こりうる。外来病原体による宿主生物の有害コロニー形成の過程において、感染生物は、増殖するために宿主の資源を利用しようとする。感染病原体は、宿主の正常な機能を妨げ、慢性創傷、壊疽、感染した四肢の喪失を、そして死すらももたらしうる。感染に対する宿主の反応は炎症である。CEACAM6及び/又はCEACAM8タンパク質は、病原体による哺乳動物の感染及び進行疾患の発生を予防するために、あるいは感染性病原体により引き起こされる疾患を治療するために投与することができる。本アプローチは、速やかな効果、即ち所定の感染疾患をできるだけ早く治癒するか又はウイルス感染を直ちに防御する効果を目指す
【0028】
本発明の他の目的は、活性成分として可溶性CEACAM6及び/若しくは可溶性CEACAM8又はその部分の有効量又は前記成分をコードするDNAを、場合により薬学的に許容されるアジュバントと共に含む医薬組成物である。本発明の意味における“医薬組成物”は、全身状態又は生物の特定の領域の状態の病原性改変が少なくとも一時的に認められるような自己免疫疾患、痛風、免疫反応の異常、癌及び/又は感染症を患っている患者の予防、診断、療法、経過観察又はアフターケアに用いることができる、医療分野における任意の薬剤である。
【0029】
本発明の活性CEACAMは、目的部位への指向性輸送、標的細胞内の取り込み及び/又は分布を促進する他の分子と融合又は複合化させることができる。
【0030】
本明細書において、用語“有効量”又は“有効投与量”又は“投与量”は同義で用いられ、疾患又は病的状態に対する予防又は治療に関連する効果を有する医薬化合物の量を意味する。予防効果は、疾患の発生又はたった1つの代表による浸潤後の病原体による感染でさえも予防し、それによってその後の病原体の増殖が厳密に抑制されるか、あるいはそれが完全に不活性化までもされる。治療に関連した効果は、疾患の1以上の症状をある程度軽減し、疾患又は病的状態と関連する、又はその原因となる1以上の生理学的又は生化学的パラメータを部分的又は完全に正常に戻す。タバコ乱用の抑制の所望の予防又は治療効果を得るための、本発明記載の医薬組成物を投与するためのそれぞれの投与量又は用量範囲は十分に高い。当然のことながら、特定のヒトに対する特定の投与量レベル、投与頻度及び投与期間は、用いられる特定の化合物の活性、年齢、体重、一般健康状態、性別、食事、投与時期、投与経路、排泄率、薬物の組み合わせ及び特定の療法の重症度を含む種々の要素によって決まる。公知の手段及び方法を用いれば、当業者は、ルーチン試験として正確な投与量を決定することができる。
【0031】
通常の固体若しくは液体担体、希釈剤及び/若しくは添加剤並びに薬品製造工学の通常のアジュバントを用いる公知の方法で、対象とする投与法に応じた適切な用量で本発明の組成物が製造される。これらの薬学的に許容される賦形剤は、塩、緩衝液、増量剤、キレート剤、抗酸化剤、溶媒、結合剤、滑沢剤、錠剤コーティング、フレーバー添加物、風味剤、防腐剤及び縣濁化剤を含む。本発明の意味において、“アジュバント”は、同時に、一斉に又は順次に投与される場合、可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8に対する特定の免疫反応を可能にする、増強する又は修飾するすべての物質を意味する。注射液のための既知のアジュバントは、例えばアルミニウム組成物(水酸化アルミニウム又はリン酸アルミニウムなど)、サポニン(QS21、ムラミルジペプチド又はムラミルジペプチドなど)、タンパク質(γ-インターフェロン又はTNFなど)、M59、スクワレン又はポリオールである。単回剤形を製造するために活性物質と混合される賦形剤材料の量は、治療受容者及び特定の投与方法によって異なる。
【0032】
可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8は、経口投与に適した形態、例えば錠剤、フィルム錠剤、ロゼンジ、カプセル、ピル、粉末剤、溶液、分散剤、懸濁液若しくはそれらのデポ剤、経皮投与に適した形態、例えば溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ゲル、エマルジョン若しくはバンドエイド、非経口投与に適した形態、例えば座剤及び静脈内注入、皮下注射又は筋肉内投与に適した形態(終わりの3つの例は溶液及び懸濁液である)に適合される。本物質はまた、上記の適切な製剤において、局所投与、経粘膜投与、経尿道投与、膣投与、直腸投与又は経肺投与に適したものであることができる。
【0033】
投与方法に応じて、本化合物は種々の方法で製剤化できる。本製剤における治療活性成分の濃度は、約0.1〜100wt%の間で変化させることができる。溶液は、単独で、あるいは他の治療と組み合わせて投与することができる。好ましい実施形態において、注射されるCEACAMタンパク質は、水溶性型、例えば薬学的に許容される塩であり、これには酸及び塩基付加塩の両方が含まれると解される。注射液には、担体タンパク質、例えば血清アルブミン、緩衝液、安定化剤、着色剤などの1以上を含むこともできる。添加剤は当該分野で公知であり、種々の製剤において用いられる。
【0034】
更に、可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8の使用に関する本明細書の教示は、これらのCEACAMが適用できるときはいつも無制限に有効であると考えられる。
【0035】
本発明はまた、顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、上皮細胞、内皮細胞及び/又は肝細胞に関連する疾患の予防又は治療処置のための医薬の製造のための可溶性CEACAM8に特異的な物質の使用にも関する。可溶性CEACAM8に対するこのような物質の使用により、種々の刺激に応じて活性化顆粒球により自然に放出される可溶性CEACAM8により引き起こされる機能的効果が抑制される。従って、可溶性CEACAM8に特異的な物質の使用は、膜アンカー型CEACAM8に特異的な物質を使用する方法に加えて、治療のための他の方法になる。可溶性CEACAM8に特異的な物質は可溶性CEACAM8に結合しそれを不活化してその機能、例えば増殖効果を抑制するので、膜アンカー型CEACAM8に特異的な物質は、制約なくアポトーシスの誘導を実施できる。この二重の影響は、特に効果的な顆粒球のノックアウトをもたらし、それは相乗的な利益を示す。増殖抑制以外にも、他の機能を効果的に抑制することができる。可溶性CEACAM8の遮断により免疫反応は調節され、血管新生又は炎症の中心へのT細胞の集積を排除することができる。例えば、それぞれ外傷又は痛風により血液又は水が充満した痛んだ膝における免疫系の過剰反応は低下するか、又は完全に予防されることすらもある。
【0036】
本発明の一実施形態において、癌及び/又は感染症の予防又は治療処置のための医薬の製造のために可溶性CEACAM8に特異的な物質が用いられる。可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8を用いる視点からの前述の臨床像に関連する本明細書の教示は、適切な場合の可溶性CEACAM8に特異的な物質の使用、特に反対の目的を有する使用に無制限に有効かつ適用可能であると考えられる。
【0037】
本明細書において、用語“特異的物質”は、確かな結合を確実にするための、可溶性CEACAM8又はそのバリアントに高親和性を有する分子を含む。天然CEACAM8とそのバリアントとの間の変異の程度は、特異的物質による認識の必要条件により必然的に制限される。特異的物質により認識される可溶性CEACAM8の標的上の結合部位は、抗体が結合するエピトープなどの、限定された小さな領域であることができる。このような領域は、単離された分子として使用することもできるし、CEACAM8以外の他のタンパク質に挿入された領域として使用することもできる。このような領域及びエピトープのそれぞれはまた、本発明の意味におけるCEACAM8特異的物質の標的である可溶性CEACAM8バリアントに含まれる。可溶性CEACAM8に特異的な物質は、核酸、ペプチド、タンパク質、炭水化物、ポリマー及び、分子量50〜1.000Daの小分子を含む。タンパク質又はペプチドは、好ましくは、抗体、サイトカイン、リポカリン、受容体、レクチン、アビジン、リポタンパク質、糖タンパク質、オリゴペプチド、ペプチドリガンド及びペプチドホルモンからなる群から選択される。核酸は、好ましくは、一本鎖若しくは二本鎖のDNA若しくはRNA、オリゴヌクレオチド、アプタマー若しくはシュピーゲルマー又はそれらの部分である。好ましい低分子量リガンドの例はステロイドである。適切な特異的物質はEP1780220A1(参照により本願に組み込まれる)に詳細に記載されている。
【0038】
膜アンカー型CEACAM8に特異的な物質と可溶性CEACAM8に特異的な物質の効果は相関しているため、一般にCEACAM8に特異的な物質を適用することが可能である。そうすることにより、ヒト自己免疫疾患、痛風、免疫反応の異常、癌及び/又は感染症の予防又は治療処置のための医薬の製造のために、好ましくはCEACAM8に単一特異的な物質が用いられる。用語“単一特異的な”は、単一標的の特異的認識を特徴とする結合様を意味する。本発明に用いられる単一特異的な物質は、CEACAM8標的又はそのバリアントのみを認識する。受容体/リガンド-相互作用は、高親和性、高選択性であり、他の標的分子、特に他のCEACAMに対して交差反応性が最小か又はないことすらあることにより特徴づけられる。他のCEACAMを有する他の細胞型への不健康で有害な影響は、CEACAM8への単一特異的結合により好都合に克服される。例えば、CEACAM8特異的物質は、上皮、内皮、樹状細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、Bリンパ球又はTリンパ球には干渉しない。本発明の一実施形態において、単一特異的な物質はモノクローナル抗体mAb 80H3、mAb B13.9、mAb B4-EA4、mAb BIRMA 17C、mAb BL-B7、mAb G10F5、mAb MF25.1、mAb 12-140-5、mAb JML-H16、mAb Kat4c、mAb TET2、mAb YG-C46A8、mAb YG-C51B9、mAb C76G4及び/又はmAb YG-C94G7であり、好ましくはmAb 80H3、mAb B13.9、mAb B4-EA4、mAb BIRMA 17C、mAb BL-B7、mAb G10F5、JML-H16及び/又はmAb MF25.1であり、より好ましくはmAb 80H3及び/又はmAb B13.9であり、最も好ましくはmAb 80H3である。モノクローナル抗体のコード表示は、HLDA(ヒト白血球分化抗原)抗体データベースにおけるクローン名を指す。本発明の他の実施形態において、物質はポリクローナル抗体であり、好ましくはウサギ抗ヒト癌胎児性抗原ポリクローナル抗体である。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、CEACAM8の膜アンカー型と可溶型とを区別することができる物質が用いられる。本明細書において、単一特異的結合物質の使用は、未修飾可溶性CEACAM8であって、その翻訳後修飾、例えばGPIアンカー型を有さないものの特異的認識のことを言う。
【0040】
インビトロでのヒト顆粒球におけるアポトーシスの予防のためのCEACAM1及び/又はCEACAM6に特異的な化合物の使用は、本発明の更に他の目的である。例えば、モノクローナル抗体80H3により模倣される膜アンカー型CEACAM8へのリガンド結合は、ヒト顆粒球におけるアポトーシスの有意な誘導をもたらすが、CEACAM1、CEACAM3及びCEACAM6に結合する抗体は、生存PMNの百分率を変化させない。CEACAM8により引き起こされる細胞死は、顆粒球上の表面結合CEACAM1及びCEACAM6に結合する化合物を用いるヒト顆粒球の前処置により予防されることを、本発明者は初めて明らかにした。従って、化合物は膜アンカー型CEACAM1及び/又は膜アンカー型CEACAM6に特異的であることが好ましい。本発明の一実施形態において、化合物は核酸、ペプチド、炭水化物、ポリマー、分子量50〜1.000Daの小分子並びにタンパク質、好ましくは抗体、サイトカイン及びリポカリンの群から選択される。本発明の好ましい実施形態において、化合物は可溶性CEACAM8、モノクローナル抗体及び/若しくはポリクローナル抗体又はその部分又は前記化合物をコードするDNAである。特に好ましいモノクローナル抗体はマウス抗CEACAM1 mAb 4/3/17及び/又は抗CEACAM6 mAb 13H10である。好ましい可溶性CEACAM8は可溶性ヒトCEACAM8-Fcである。診断、予防若しくは治療処置のための医薬の製造及び/又はモニタリングのための可溶性CEACAM8の使用に関する本明細書の前記教示は、適切な場合のアポトーシス予防のための化合物のインビトロでの使用に無制限に有効かつ適用可能であると考えられる。
【0041】
膜アンカー型CEACAM8に特異的な、アポトーシス誘導のための物質ならびCEACAM1及び/又はCEACAM6に特異的な化合物を等モル量用いる場合、アポトーシス誘導物質で処置した対照と比較して、生存率は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも100%、最も好ましくは少なくとも110%である。生存率は対照に関連した相対的測定であって、その生存は本質的に100%未満であることは理解される必要がある。発明化合物の増殖効果の結果、誘導されたアポトーシス及び本来受けるアポトーシスは共に抑制され、それにより対照と比較してデータが100%を超える場合がある。好ましい実施形態において、等モル量の抗CEACAM8 mAb 80H3及び可溶性CEACAM8-Fc並びに顆粒球を5時間インキュベートしたものにデータが適用される。
【0042】
従って、本発明は、ヒト細胞試料とCEACAM1及び/又はCEACAM6に特異的な少なくとも1つの化合物とをインキュベートすることにより細胞の増殖を刺激する方法に関する。本発明の一実施形態において、CEACAM1及びCEACAM6に特異的な化合物として可溶性CEACAM6及び/又は可溶性CEACAM8と培養したPBMCをヒト試料は含む。増殖率は、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも65%、最も好ましくは少なくとも85%有意に上昇する。材料及び実験手順の更なる詳細は、特に好ましい実施例において示されている。予備刺激した細胞を用いる場合、増殖を刺激するのにこれらの物質は特に有効である。
【0043】
更にまた、本発明は、顆粒球を含むヒト試料とCEACAM1及び/又はCEACAM6に特異的な少なくとも1つの化合物とをインキュベートし、特定のインキュベーションを生成させ、それによってアポトーシスを予防することによりヒト顆粒球におけるアポトーシスを予防する方法として実施できる。試験される試料は、適切な医療(good medical practice)に従ってヒトから採取される。本発明において、試料は、好ましくは血液、血清、血漿、唾液又は尿からなる。生検により組織試料を採取することもできる。試料を精製して、水素結合形成阻害剤などの妨害成分を除去することができ、あるいは顆粒球は試料中で濃縮することができる。下流処理及び/又は濃縮は、遠心分離又はゲル濾過などの常法により実施される。収率を上げるために、いくつかの方法を組み合わせることが推奨される。ヒト細胞試料は保存、例えば冷凍保存され、特定の期間培養されるか、又は直ちにCEACAM1及び/若しくはCEACAM6又はそれらのバリアントに特異的な化合物と共にインキュベートされる。インキュベーションは、化学変換なしに実現することができる、特異的化合物とCEACAM1及び/又はCEACAM6との接触、例えば抗体-CEACAM結合を意味し、あるいは生化学反応、例えば酵素-CEACAM複合体によるものを含むこともできる。化学液の添加及び/又は物理的手法の適用、例えば熱の影響により、試料中の顆粒球及び/又はCEACAMタンパク質の接触性を改善することができる。標準的方法に従った顆粒球の培養及びインキュベーションは当業者に公知である。インキュベーションの結果として、化合物-CEACAM1複合体及び/又は化合物-CEACAM6複合体を含む特異的インキュベーション産物が形成される。化合物は、膜アンカー型CEACAM1及び/又はCEACAM6に特異的であることが好ましい。
【0044】
顆粒球は、それ自体アポトーシスに感受性を有する(即ち、自然にアポトーシスを受ける)場合もあり、アポトーシス促進剤に暴露させる場合もある。予防されるアポトーシス過程は、本明細書に記載の技術によりモニターできる。このインビトロ法は、好ましくは、自己免疫疾患を患っているヒトの試料に適用される。いくつかの特異的化合物を試験することにより、ヒト被験者の治療に最も適した化合物の選択が可能になる。選択された化合物のインビボ(in vivo)投与量は、そのインビトロデータを考慮して、特定の顆粒球のアポトーシス感受性に好都合に事前調節される。従って、治療効果は著しく増強される。好ましくは、単一特異的な化合物が選択される。より好ましくは、化合物は可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAであり、最も好ましくは可溶性ヒトCEACAM8-Fcである。診断、予防若しくは治療処置のための医薬の製造及び/又はモニタリングのための可溶性CEACAM8の使用ばかりでなく、インビトロでヒト顆粒球におけるアポトーシスを予防するCEACAM1特異的及び/又はCEACAM6特異的化合物の使用に関する本明細書の前記教示は、適切な場合、ヒト顆粒球におけるアポトーシスを予防する方法に無制限に有効かつ適用可能であると考えられる。
【0045】
顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、上皮細胞、内皮細胞及び/又は肝細胞に関連する疾患の治療方法であって、このような治療を必要とするヒトに、可溶性CEACAM8に特異的な少なくとも1つの物質の有効量が投与される前記方法は、本発明の他の目的である。顆粒球、Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、上皮細胞、内皮細胞及び/又は肝細胞に関連する疾患の治療方法であって、このような治療を必要とするヒトに、可溶性CEACAM6及び/若しくはCEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAの有効量が投与される前記方法を提供することは、本発明の更に他の目的である。本発明の前記教示及びその実施形態は、適切な場合、その治療方法に無制限に有効かつ適用可能であると考えられる。
【0046】
更にまた本発明は、アポトーシスを予防する化合物のスクリーニング方法であって、
・膜アンカー型CEACAM8及び膜アンカー型CEACAM1及び/又は膜アンカー型CEACAM6を発現することができる細胞試料を用意し、
・試料を部分に分割し、
・少なくとも1つの部分とスクリーニングされる化合物とをインキュベートし、
・前記部分と膜アンカー型CEACAM8に特異的な少なくとも1つの物質とをインキュベートし、
・前記部分におけるアポトーシス率と、前記化合物と共にインキュベートしていない他の部分とを比較し、
・アポトーシスを予防する、膜アンカー型CEACAM1及び/又は膜アンカー型CEACAM6への化合物の特異的結合を検出する
段階を含む前記方法を教示している。
【0047】
WO03/002764A2に公表されている方法は、CEACAMファミリーの糖タンパク質抗原の発現を検出することによる、治療的に有用な化合物の同定を教示している。しかしながら、この方法は、アポトーシスに対する感受性を増加させるために任意のCEACAMメンバーの発現の改変に取り組んでいる。それに反して、本発明者は、アポトーシスを予防する化合物のスクリーニング方法を開示する。これらの化合物は、任意のCEACAM分子の遺伝子又は遺伝子産物の発現に干渉せず、膜アンカー型CEACAM1及び/又はCEACAM6であると更に明記された遺伝子産物の機能を妨げる。
【0048】
本発明の方法は、CEACAM1及び/又はCEACAM6によるシグナルカスケードに影響を発揮し細胞のアポトーシス率を低下させると共に増殖を促進する化合物の同定を可能にする。細胞試料とは、初代細胞又は遺伝子操作された細胞のことを言う。後者は、CGM6(NCA-W272)遺伝子又はその部分を有する適切なベクターを用いたトランスフェクションにより膜アンカー型CEACAM8を発現することができる。更にまた、遺伝子操作された細胞は、適切なベクターを用いるトランスフェクションにより膜アンカー型CEACAM1及び/又はCEACAM6を発現することができる。好ましくは、組換え細胞は真核由来である。本発明のスクリーニング方法に好ましい初代細胞はヒト顆粒球である。ヒト顆粒球は細胞株として樹立することもできる。更にまた、膜アンカー型CEACAM8及びCEACAM1及び/又はCEACAM6を発現する細胞を含む細胞ホモジネート又は組織抽出物を使用することができる。細胞試料は複数の部分に分割される。少なくとも2つの部分が用意される。1つはスクリーニングに用いられ、もう1つは陰性対照として役立つ。好ましくは、スクリーニング用部分の数は、対照部分の数よりも多い。通例、多数の部分がハイスループットスクリーニングにかけられる。
【0049】
本発明の方法においてスクリーニングされる化合物は何ら限定されるものではない。本発明の一実施形態において、化合物は核酸、ペプチド、炭水化物、ポリマー、分子量50〜1.000Daの小分子並びにタンパク質、好ましくは抗体、サイトカイン及びリポカリンの群から選択される。これらの化合物は、多くの場合、ライブラリーにおいて入手可能である。インビトロでヒト顆粒球におけるアポトーシスを予防するためのCEACAM1/6特異的化合物の使用に関する本明細書の前記教示は、適切な場合にアポトーシスを予防する物質のスクリーニング方法に無制限に有効かつ適用可能であると考えられる。細胞試料の別個の部分内で単一化合物をインキュベートすることが好ましい。しかしながら、1つの部分内で少なくとも2つの化合物をインキュベートすることにより、化合物の協同効果を研究することも可能である。化合物の非存在下で、細胞の更なる部分が同時にインキュベートされる。細胞のインキュベーション過程は種々のパラメータ、例えば細胞型及び検出感度によって決まり、その最適化は当業者に公知の常法に従う。
【0050】
本発明の方法の次の段階において、細胞は処置されてアポトーシスを引き起こす。その部分は、膜アンカー型CEACAM8に特異的な少なくとも1つの物質と共にインキュベートされる。本発明の一実施形態において、物質は核酸、ペプチド、炭水化物、ポリマー、分子量50〜1.000Daの小分子並びにタンパク質、好ましくは抗体、サイトカイン及びリポカリンの群から選択される。本発明の好ましい実施形態において、物質はモノクローナル抗体であり、好ましくはmAb 80H3、mAb B13.9、mAb B4-EA4、mAb BIRMA 17C、mAb BL-B7、mAb G10F5、mAb MF25.1、mAb 12-140-5、mAb JML-H16、mAb Kat4c、mAb TET2、mAb YG-C46A8、mAb YG-C51B9、mAb C76G4及び/又はmAb YG-C94G7であり、より好ましくはmAb 80H3、mAb B13.9、mAb B4-EA4、mAb BIRMA 17C、mAb BL-B7、mAb G10F5及び/又はmAb MF25.1であり、最も好ましくはmAb 80H3及び/又はmAb B13.9である。本発明の他の好ましい実施形態において、物質はポリクローナル抗体であり、好ましくはポリクローナルウサギ抗ヒト癌胎児性抗原である。
【0051】
本発明の意味における有効化合物の同定は、生存率、アポトーシス率又はアポトーシスキネティクスの速度定数をそれぞれ測定することにより直接に行われる。従って、生存細胞数又はアポトーシス細胞数は、それぞれ特定の時間で測定される。当該技術分野で公知の方法は、アネキシンV及び/又はヨウ化プロピジウムを用いる染色又はアポトーシス中に放出されるヌクレオソームのサンドイッチELISAの測定を含む。他の方法は、サイトケラチンのカスパーゼ誘導タンパク質分解及び産生されたこの線維状タンパク質のネオエピトープを免疫化学的に記録する。測定値は、実験の最初の細胞数及びインキュベーション時間に関連する。特定の時間後のアポトーシス細胞数が多ければ多いほど、最初のアポトーシス率又は速度定数がそれぞれ大きい。算出されたアポトーシス率、定数、化合物でインキュベートした部分のアポトーシス細胞数又は生存細胞数が陰性対照と比較される。アポトーシスを予防する化合物は、対応する陰性対照値を超える細胞生存率のあらゆる値又は対応する陰性対照を下回る細胞死のあらゆる値で示される。
【0052】
アポトーシスを予防することが明らかにされた化合物の中で、それぞれ又は一部の代表が更なる分析のために選択される。好ましくは、対照と最も食い違いの大きい化合物が選択される。CEACAM受容体結合によって開始されるのではない他のシグナル伝達を排除するために、前記化合物は膜アンカー型CEACAM1及び/又はCEACAM6に対する特異性に関して分析され、更なる受容体への同時ドッキングが生じた場合に連関経路によりアポトーシスが予防される交差反応性について更に試験される。ゲルシフト実験、Biacore測定、X線構造分析、競合結合研究などの、特異的及び/又は単一特異的結合を検出するためのいくつかの方法が当該技術分野で公知である。本発明の好ましい実施形態において、アポトーシスを予防する物質の、膜アンカー型CEACAM1及び/又はCEACAM6に対する単一特異的結合が検出される。
【0053】
代わりに、CEACAM1及びCEACAM6を発現できないが、膜アンカー型CEACAM8を発現できる細胞を、化合物で処置する陰性対照として用いることができる。この方法において、アポトーシスは、必然的にCEACAM1又はCEACAM6により影響されることができない。陰性対照におけるアポトーシスに対する感受性のどのような低下も、本発明が基づく経路以外の他の経路によって引き起こされる。スクリーニング用又は対照として用いる異なる細胞型は、同等の半減期及びアポトーシス挙動を示すことが必要であり、後者はアポトーシス細胞と類似した特徴を有し、同じ方法で検出されることが好ましい。CEACAM1/6欠損細胞は、初代細胞、細胞株、組換え細胞、細胞ホモジネート及び組織抽出物に由来することができる。例えば、ヒト顆粒球のCEACAM1/6欠損変異体は陰性対照として用いられる。この改変方法は、各化合物のインキュベーションを少なくとも2回必要とする。好ましくは、実際のスクリーニングと対照実験とに対して等しい数の試験が適用される。アポトーシス感受性の破壊並びにCEACAM1及び/又はCEACAM6に対する化合物の特異性を並行して評価することにより、より多数の試験が補正される。化合物の特異性の直接分析は、膜アンカー型CEACAM1及びCEACAM8を発現することができる細胞部ばかりでなく、膜アンカー型CEACAM6及びCEACAM8を発現することができる細胞部を提供することにより更に改善できる。化合物の非存在下でインキュベートされるCEACAM1/6欠損細胞部(いわゆる陰性対照の陰性対照)における生存又はアポトーシス並行試験において、それぞれ生存又はアポトーシスを相互に関連付けることによって評価が行われる。このことは、CEACAM1/6欠損細胞が前もって複数の部分に必然的に分割されていることを意味する。本発明の意味における望ましい化合物は、化合物の有りなしでインキュベートし、CEACAM1/6欠損細胞部における後者のレベルが等価でなければならないCEACAM1/6欠損細胞部における生存細胞の両方のレベルと比較して、CEACAM8及びCEACAM1及び/又はCEACAM6を発現する細胞部におけるあらゆるより高い生存細胞レベルにより示される。
【0054】
本発明の他の側面において、B細胞又はT細胞増殖のために、可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAの有効量が用いられる。好ましい実施形態において、可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAが、B細胞及び/又はT細胞を共刺激するか又はそれに対して他の効果を有する他の化合物と組み合わせて用いられる。
【0055】
本発明の他の側面において、可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAの有効量が、慢性若しくは急性の感染及び/又は化学療法若しくは放射線治療による免疫不全患者の治療のために用いられる。
【0056】
驚くべきことに、可溶性CEACAM8又はその部分の有効量又は前記化合物をコードするDNAとB細胞又はT細胞とを接触させることにより、それぞれの細胞の効率的な増殖をもたらすことが見出された。この点に関して、用語“増殖”は、それぞれの細胞の細胞増殖及び/又は細胞活性化の指標として考えられるべきである。
【0057】
患者が低いB細胞数若しくはT細胞数を患うか、又はそれを患うことが予想される場合、それぞれの細胞試料を単離し、これらの細胞をインビトロで増殖させ、増殖させた細胞を同じ患者に再移植するか、又は最初の患者と適合する患者に再移植するか、又は並行して免疫抑制剤で処置している患者に再移植するのが通常の医療である。
【0058】
一次B細胞又はT細胞が、例えば慢性若しくは急性の感染及び/又は化学療法若しくは放射線治療などの、患者の免疫系に影響を有する恐れのある事件の前又はそれに付随した前記患者由来である場合、このことは特に興味が持たれる。このような状況においては、患者から、一次B細胞又はT細胞が単離され、これらの細胞の増殖が可能な条件下、インビトロで培養される。その間に、その患者は例えば放射線療法で処置され、その治療が完了したときに、増殖させたB細胞又はT細胞がその患者に再移植される。
【0059】
特に、養子免疫療法においては可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAの有効量が用いられる。
【0060】
養子免疫療法において、例えば癌を攻撃するためにT細胞による細胞障害性反応が用いられる。手短かに言えば、患者の癌に対する天然の又は遺伝子操作された反応性を有するT細胞が、種々の手段を用いてインビトロで増殖され、ついで癌患者に養子細胞移植される。患者の癌に天然に存在する反応性を有するT細胞は、患者自身の腫瘍に浸潤しているのが見出される。その腫瘍を採取し、高濃度のインターロイキン-2(IL-2)、抗CD3抗体及びアロ反応性フィーダーを用いてインビトロでこれらの腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を増殖させる。次いで、これらのT細胞を、IL-2の外因性投与に加えて、患者に再移植する。これまで、51%の奏功率が示されている。一部の患者において、検出不能なサイズにまで腫瘍が縮小した。操作されたT細胞の場合は、腫瘍関連抗原に対して反応性を有すると同定されたT細胞受容体(TCR)を、ゲノム組み込み能力はあるが複製能力のないウイルスにクローニングする。患者自身のリンパ球をこれらのウイルスに暴露させ、次いで非特異的に又は操作されたTCRを用いて刺激して増殖させる。次いで、この細胞を患者に再移植する。この療法は、難治性IV期癌患者に臨床奏功を有することが示されている。米国立癌研究所外科部門(the Surgery Branch of the National Cancer Institute)(メリーランド州ベセズダ)は、侵襲性黒色腫を患う患者について、この形態の癌治療を活発に研究している。
【0061】
今回、一次又は操作されたB細胞又はT細胞のインビトロ増殖の促進に可溶性CEACAM8が効果を有することが見出された。
【0062】
本発明はまた、インビトロでB細胞又はT細胞を増殖させる方法であって、
a)B細胞又はT細胞を用意し;
b)B細胞又はT細胞と、可溶性CEACAM8又はその部分の有効量又は前記化合物をコードするDNAとを接触させ;
c)B細胞又はT細胞を培養する
段階を含む前記方法に関する。
【0063】
必要に応じて、本方法は、段階c)の細胞を冷凍保存する更なる段階を含むことができる。
【0064】
他の側面において、本発明は、上記で概説した方法に従って増殖させたB細胞又はT細胞に関する。
【0065】
本発明は更に、4週間を超える貯蔵寿命を有する医薬の製造に使用する可溶性CEACAM8若しくはその部分にも関する。
【0066】
貯蔵寿命は、あらゆる医薬の非常に重要なパラメータである。貯蔵寿命が短ければ、その医薬はより高価となる。なぜなら、その医薬は大量に製造及び保存することができないが、要求があり次第製造し迅速に販売する必要があるからである。4週間を超える貯蔵寿命により、経済的に興味ある製造・販売システムが可能となり、そのようなものとして、可溶性CEACAM8若しくはその部分を含む医薬の提供が可能となる。
【0067】
本発明は、いくつかの利点を有する。本発明の範囲において、可溶性CEACAM6及び/又は可溶性CEACAM8が初めて特徴づけられ、ヒト自己免疫疾患、痛風、免疫反応の異常、癌及び/又は感染症の診断、予防若しくは治療処置のための医薬の製造及び/又はモニタリングのための医薬組成物の提供がもたらされた。所望の効果に応じて、可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8が、膜結合型CEACAM1及び/又はCEACAM6の機能に正に影響を与えるために用いられるか、あるいは可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8、特にCEACAM8に対する物質が、膜結合型CEACAM1及び/又はCEACAM6に負に影響を与えるために用いられる。
【0068】
分泌された可溶性CEACAM6及びCEACAM8は、種々の細胞型上に発現された他のCEACAMに結合し、増殖、活性化、アポトーシスなどのそれらの機能を調節する可能性がある。前述の増殖及びアポトーシスの効果は相互に関連づけられ、膜アンカー型CEACAM8に対する特異的物質により引き起こされるアポトーシス作用が予防される。これは、可溶性CEACAM8に関して見出された初めての機能である。可溶性CEACAM8は、刺激物に露出させた後に分泌され、T細胞、B細胞、NK細胞、顆粒球、樹状細胞、内皮及び上皮などの種々の細胞に結合できる。その結果として、可溶性CEACAM8の使用は、広域スペクトルの治療及び診断用途のための有望な新規方法である。T細胞との相互作用は、刺激顆粒球を効率的に不活化するために特に有用である。先行技術のEP1780220A1と対照的に、顆粒球は直接攻撃されずに、自己免疫刺激を引き起こすT細胞及び顆粒球のT細胞媒介性活性化が影響を受ける。顆粒球の負の作用は、すべて好都合におさえられている。
【0069】
本発明の基礎をなす原理は、可溶性CEACAM6及びCEACAM8の膜アンカー型CEACAM1及びCEACAM6に対する予期せぬ結合である。従って、可溶性CEACAM6又はCEACAM8は、CEACAM1及び/又はCEACAM6に特異性を有し、それによって、インビトロでのヒト顆粒球におけるアポトーシスの予防などの同じ機能を引き起こす任意の化合物を代わりに用いることができる。これらの化合物は、本発明のスクリーニング方法を用いて好都合にスクリーニングすることができる。
【0070】
膜アンカー型標的CEACAM1及び/又はCEACAM6並びに膜アンカー型標的CEACAM8は異なる機能を引き起こす。CEACAM1及び/又はCEACAM6に特異的なリガンドを捕捉し、CEACAM8に特異的な他のリガンドを提供することを同時に行うことにより、有効機能が相乗的に促進される。本発明は、CEACAM8に対する抗体である単一物質により両方の作用が可能である。
【0071】
すべての化合物及び物質は、高親和性、特異性及び安定性を特徴とし、かつ低い製造コスト及び容易な取り扱いを特徴とする。これらの特徴は、再現性のある作用(交差反応性の欠如も含まれる)及び適合する標的構造との信頼性のある安全な相互作用の基礎を形成する。
【0072】
本発明は、本明細書記載の特定の方法、医薬組成物又は使用に限定されないことが理解されるべきであり、そのようなものとして、もちろん事柄は変化しうる。本明細書に用いられている用語法は、ただ特定の実施形態を説明するだけが目的であって、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。本明細書において、添付の特許請求の範囲も含めて、用語の単数形、例えば"a"、"an"及び"the"は、文脈により明確に否定されない限りは、それらの対応する複数指示対象を含む。従って、例えば"物質(a subustance)"とは1以上の異なる物質を含み、"方法(a method)"とは、当業者に公知の等価な段階及び方法を含む等々である。特記しない限り、本明細書で用いられるすべての学術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0073】
適切な実施例を下記に示すが、本発明の実施又は試験に本明細書記載のものと類似する、又は等価な方法及び材料を用いることは可能である。以下の実施例は実例として示したものであって、限定を意図したものではない。実施例中、混在する活性を有さない標準的な試薬及び緩衝液(実際に可能な限り)が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】膜結合型CEACAM8により引き起こされ、可溶性CEACAM8-Fcでの前処置により抑制される、ヒト顆粒球におけるアポトーシス率の改変を示す図である。
【図2】可溶性CEACAM6又はCEACAM8によるPBMC増殖の共刺激を示す図である。
【図3】可溶性CEACAM8によるPBMC増殖の共刺激及び、可溶性CEACAM8に対する抗体結合による共刺激効果の破壊を示す図である。
【図4】可溶性CEACAM1と比較して改善された可溶性CEACAM8の貯蔵寿命を示す図である。
【図5】CEACAM1を発現しているHeLa細胞及びHDMECに対する、可溶性CEACAM8のCEACAM1特異的結合を示す図である。
【図6】A549細胞のCEA誘導アポトーシスに対する可溶性CEACAM8の効果を示す図である。
【図7】HDMECの誘導アポトーシスに対する可溶性CEACAM8の効果を示す図である。
【図8】B細胞増殖に対する可溶性CEACAM8の効果を示す図である。
【図9】T細胞増殖に対する可溶性CEACAM8の効果を示す図である。
【実施例】
【0075】
実施例1
適切なcDNA分子及び特異的プライマーの組み合わせを用いたPCRにより、ヒトH鎖Fcドメインに融合させたCEACAM8の可溶性細胞外ドメイン(huCEACAM8-Fc)をコードするcDNAを作成した。pcDNA3.1(+)発現ベクター(インビトロgen社、カリフォルニア州サンディエゴ)のHindIII-EcoRI部位及びEcoRI-XhoI部位(Fc)に、CEACAM8及びFcのcDNAフラグメントを順次クローニングし、配列決定し、HEK293細胞にトランスフェクトした。このような構築物を作成する原理は、Singer et al. (2005) Eur. J. Immunol. 35 (6): 1949-1959 に記載されている(これは参照により本願に組み込まれる)。このFcキメラタンパク質を、10日間無血清Pro293s-CDM培地(BioWhittaker社、メリーランド州Walkersville)に蓄積させ、プロテインA/G-セファロースアフィニティークロマトグラフィーで回収した。Pyrogent plusゲルクロット(Gel-Clot)アッセイ(BioWhittaker社)を用いて、抗体及びFc-構築物製剤のエンドトキシン濃度を測定し、検出限界(0.06U/ml)以下であることが認められた。構築物huCEACAM6-Fcも同様に作成した。
【0076】
インビトロ細胞間接着研究において、膜アンカー型CEACAM8は密接に関連したCEACAM6へのヘテロフィリックな接着をもっぱら媒介し、ホモフィリックな結合活性は認められないことが以前に記載された。可溶性CEACAM8は、CEACAM1及びCEACAM6に強く結合することが今回初めて明らかにされたが、可溶性CEACAM8はやはりホモフィリックCEACAM8-CEACAM8結合をなんら示さない。表1におけるBiacore結果は、CEACAM1及びCEACAM6のホモフィリック結合を示し、それぞれの相対単位(relative unit;RU)は110及び50である。可溶性CEACAM8のホモフィリック結合は存在しなかった。検体としてのCEACAM1(Biacoreチップ上に固定化)とリガンドとしてのCEACAM8(可溶型でさっと通過させる)との結合は、はるかに強い最大の結合(1490RU)を示した。リガンドとしてのCEACAM6は、検体としてのCEACAM8の最も強力な相互作用パートナーと思われた(780RU)。
【表1】

【0077】
従って、表2に示すように、放出された可溶性CEACAM8は、すべてのCEACAM1及び/又はCEACAM6発現細胞型、即ち上皮細胞、内皮細胞、リンパ内皮細胞並びにすべての造血細胞(顆粒球、B及びTリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞)と相互作用できる。
【表2】

【0078】
実施例2
特記しない限り、材料はSigma社(ドイツ・タウフキルヒェン)から入手した。完全培地には、RPMI 1640(Gibco-Life Technology社、ドイツ・エッゲンシュタイン)に2mM L-グルタミン(Gibco社)、100U/mlペニシリン(Gibco社)、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco社)及び10%熱失活FCS(Gibco社)を添加したものを用いた。CEACAM8(mAb 80H3)に結合するマウスモノクローナル抗体は、Immunotech社(フランス・マルセイユ)から入手した。CEACAM1に結合するマウスモノクローナル抗体(4/3/17)及びCEACAM6に結合するモノクローナル抗体(mAb 13H10)は、F. Grunert(Institute for Immunobiology, Freiburg, Germany、現在 Genovac社)から提供を受けた。CEACAM3に結合するマウスモノクローナル抗体(mAb Col-1)は、Schlom(米国立癌研究所、米国メリーランド州ベセズダ)から入手した。
【0079】
ラット及び健常ドナーのヘパリン添加(5U/ml)末梢血から顆粒球を単離した。Plasmasteril(Fresenius社、ドイツ・バート・ホンブルク)による赤血球沈降後、Ficoll-Paque(Amersham社)を用いる勾配遠心分離により、白血球リッチ血漿のPMN及びPBMCを分離した。冷0.2%NaCl溶液に20秒間繰り返し懸濁させて、ペレット分画の残存赤血球を溶解し、次いで冷PBSで洗浄した。形態学的基準及びPMNの特異的分化マーカーを用いるFACScan分析により判断して、残存細胞の96%以上は顆粒球であった。トリパンブルー染色で測定して、細胞生存率は>97%であった。
【0080】
顆粒球は、最終容量100μlに最終濃度100.000細胞でRPMI培地に再懸濁した。次いで、前述のように、マウスモノクローナル抗体(30μg/ml)の有り無しで、37℃で5〜6時間細胞をインキュベートした。初期と後期のアポトーシス/壊死性細胞を測定し区別するために、アネキシンV及びヨウ化プロピジウム(PI)の二重染色に基づく手順を採用した。アネキシンVは、初期アポトーシス細胞における細胞膜外葉に出現するホスファチジルセリンに結合する。後期アポトーシス細胞において、細胞膜は透過性となり、DNAにインターカレートするPIの取り込みが可能になる。従って、アネキシンVは初期と後期のアポトーシス細胞の両方を標識するが、PIは後期アポトーシス/壊死性細胞のみを標識する。製造業者のプロトコル(Bender MedSystems社、オーストリア・ウイーン)に従って、FITC結合アネキシンV及びPIで標識した。FACScan装置でのフローサイトメトリー及びCellQuestソフトウェア(BD Biosciences社)により標識細胞を分析した。
【0081】
PBS、対照Fc(30μg/ml)又はCEACAM8-Fc(30μg/ml)を用いる10分間のプレインキュベーションの後、アイソタイプ適合対照Ig(白い柱)又は抗CEACAM8 mAb 80H3(30μg/ml、黒い柱)の存在下で5時間顆粒球を培養した。前記のFITC-アネキシンV/ヨウ化プロピジウムでの二重染色及びフローサイトメトリーにより細胞生存率を評価した。膜アンカー型CEACAM8の機能を探求するために、リガンド結合を模倣するモノクローナル抗体mAb 80H3を用いて、新鮮分離顆粒球におけるアポトーシスに対するその効果を試験した。80H3は、CEACAM8に特異的に結合するが、他のCEACAM分子には結合しないことが知られている。健常ドナーから単離されたヒト顆粒球におけるアポトーシスは、モノクローナル抗体80H3を用いる5時間のインキュベーション後に明らかに増加した(抗CEACAM8抗体、対照におけるおおよそ73%に対しておおよそ40%)。このことは、CEACAM8がヒトPMNにおいてアポトーシスを誘導することを意味する。しかしながら、可溶性CEACAM8はmAb 80H3によりこの効果を抑制される。典型的な結果を図1に示す。
【0082】
実施例3
可溶性CEACAM8及びCEACAM6は、末梢血単球細胞(PBMC)の増殖を共刺激する:新鮮分離PBMCを、PHAの存在下又は非存在下で3日間インキュベートした。その後、製造業者のプロトコルに従って、CellTiter 96 Aqueous one solution reagent(Promega社)により増殖を評価した。可溶性CEACAM8-Fc又はCEACAM6-Fcの存在下で増殖率は有意に増加したが、CEACAM1-Fc又は対照タンパク質-Fcの存在下では増殖率は有意に増加しなかった(図2)。CEACAM8-Fc及び特異的可溶性CEACAM8結合抗体と共に細胞をインキュベートする並行処置により、共刺激効果は無効になった(図3)。
【0083】
実施例4
CEACAM1がホモフィリック(それ自身への結合)及びヘテロフィリック(CEACAM5、CEACAM6及び、本願において我々により新たに明らかにされたCEACAM8への結合)細胞間接着受容体分子(Singer,B.B. CEACAM1. UCSD-Nature Molecules Pages (doi:10. 1038/mp. a003597. 01) (2005)であることは一般に認められている。対照的に、CEACAM8はホモフィリックな相互作用はしない。従って、CEACAM1の長期間の貯蔵により、そのリガンド結合力が抑止されることが想定される。その目的のために、比較的新鮮に単離された(4℃で1週間)試料又は長期間貯蔵した(4℃で少なくとも4ヶ月間)試料のいずれかで、CEACAM1-Fc及びCEACAM8-Fcの結合能を分析した。
【0084】
CEACAM1-Fc及びCEACAM8-Fcの結合のフローサイトメトリー分析:Hela、Hela-CEACAM1又はヒト皮膚内皮細胞(HDEMEC)(5×105)を、それぞれヒトCEACAM1-Fc及びCEACAM8-Fc(30μg/ml、3%FCS/PBSで希釈)と4℃で1時間インキュベートし、氷冷したPBSで洗浄し、FITC標識抗ヒトFc F(ab)2抗体と共にインキュベートした。結合していないラットCEACAM1-Fcを用いてバックグラウンド蛍光を測定した。場合によっては、CEACAM1特異抗体(クローン283340、R&D systems社)を用いる対照染色を行った。試料はフローサイトメーター(BD Biosciences社、カリフォルニア州サンディエゴ)で測定し、CellQuestソフトウェアを用いてデータを解析した。PI染色により同定される死細胞は、測定からは除外した。
【0085】
図4に示すように、可溶性CEACAM8の貯蔵寿命は、可溶性CEACAM1の貯蔵寿命と比較して長期である。4週間貯蔵後、可溶性CEACAM8は、1週間貯蔵後の反応性と同等の反応性を示したが、一方、可溶性CEACAM1の反応性は経時的に有意に減少した。従って、可溶性CEACAM8は、適度な貯蔵寿命、特に4週間を超える貯蔵寿命を有する医薬の製造に使用することができる。
【0086】
実施例5
静止内皮細胞と対照的に、活性化した増殖している内皮細胞はその細胞表面にCEACAM1を発現する。成人においては、このような新生内皮細胞の増殖は腫瘍形成の初期に誘導される。従って、リガンドとして可溶性CEACAM8を用いる膜結合型CEACAM1のターゲッティングは、診断目的(例えば、MRTのために鉄又は鉄負荷ビーズに結合させて、あるいは超音波処理のために空気/ガスで充満させて)に使用できるばかりでなく、治療薬の製造(例えば、放射能、細胞毒、マイクロバブル及びナノバブルに充填した薬物に結合させて)にも使用できる。
【0087】
CEACAM1-Fc及びCEACAM8-Fcの結合のフローサイトメトリー分析:Hela、Hela-CEACAM1又はヒト皮膚内皮細胞(HDEMEC)(5×105)を、それぞれヒトCEACAM1-Fc及びCEACAM8-Fc(30μg/ml、3%FCS/PBSで希釈)と4℃で1時間インキュベートし、氷冷したPBSで洗浄し、FITC標識抗ヒトFc F(ab)2と共にインキュベートした。結合していないラットCEACAM1-Fcを用いてバックグラウンド蛍光を測定した。場合によっては、CEACAM1特異抗体(クローン283340、R&D systems社)を用いる対照染色を行った。試料はフローサイトメーター(BD Biosciences社、カリフォルニア州サンディエゴ)で測定し、CellQuestソフトウェアを用いてデータを解析した。PI染色により同定される死細胞は、測定からは除外した。
【0088】
図5に示すように、可溶性CEACAM8タンパク質は、CEACAM1を発現しているHeLa細胞及びHDMEC(増殖しているヒト微小血管内皮細胞)に特異的に結合する。データは示さず:ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(ヒト臍帯静脈内皮細胞)はCEACAM1を発現せず、可溶性CEACAM8はヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に結合しない。興味深いことに、癌細胞は主にHDMECにより血管新生を誘導するが、ヒト臍帯静脈内皮細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC))によっては誘導しない。従って、可溶性CEACAM8は、例えば血管新生内皮細胞を検出するための診断剤として使用できる。従って、ターゲッティングリガンドである可溶性CEACAM8は、例えば、MRTのために鉄又は鉄負荷ビーズに結合させて、あるいは超音波処理のために空気/ガスで充満させて診断に使用できるばかりでなく、治療薬、例えば、放射能、細胞毒、マイクロバブル及び/又はナノバブルに充填した薬物に結合させた治療薬の製造にも使用できる。
【0089】
実施例6
ごく最近、可溶性CEA(別名CEACAM5)がヒト上皮細胞株HT29においてアポトーシスを誘導することが公表された(Nittka S, Bohm C, Zentgraf H, Neumaier M.: The CEACAM1-mediated apoptosis pathway is activated by CEA and triggers dual cleavage of CEACAM1. Oncogene. 2008 Jun 12;27(26):3721-8)。従って、可溶性CEACAM8が、同様なアポトーシス促進特性を示すかどうかを分析した。
【0090】
HDMEC及びA549細胞におけるアポトーシスの誘導及び分析:12ウェルプレートにHDMEC及びA549細胞を播種し、5%CO2加湿雰囲気下、37℃で、前述のように単独又は組み合わせの対照Fc-タンパク質(1μg/ml 10%FCS/DMEM)、CEA(1μg/ml 10%FCS/DMEM)又はCEACAM8-Fc(1μg/ml 10%FCS/DMEM)の存在下又は非存在下で24時間インキュベートした。次いで、トリプシン処理で細胞を採取し、10%FCS/DMEMで洗浄し、更に使用するまで氷上に保存した。初期と後期のアポトーシス細胞を測定し区別するために、我々はアネキシンV及びPIの二重染色に基づく手順を採用した。アネキシンVは、初期アポトーシス細胞における細胞膜外葉に出現するPSに結合する。後期アポトーシス細胞において、細胞膜は透過性となり、DNAにインターカレートするPIの取り込みが可能になる。従って、アネキシンVは初期と後期のアポトーシス細胞の両方を標識するが、PIは後期アポトーシスのみを標識する。製造業者のプロトコル(Immunotools社、ドイツ)に従って、FITC結合アネキシンV及びPIで標識した。CellQuestソフトウェア(BD Biosciences社)を用いるFACScan装置でのフローサイトメトリーにより標識細胞を分析した。
【0091】
図6に示すように、CEACAM8の存在下での24時間の上皮細胞株A549の培養により、未処置細胞又はFc対照と比較して生細胞は変化しなかった(細胞生存率:49%、57%、58%)。対象的に、CEA処置により、明らかにアポトーシスが誘導された(細胞生存率5%)。興味深いことに、可溶性CEACAM8の存在下でのCEAのインキュベーションによりアポトーシスの誘導が抑制され(細胞生存率51%)、これは対照Fcの存在下でCEAで調べた試料においては見られない効果である(細胞生存率6%)。
【0092】
実施例7
活性化し、増殖している微小血管内皮細胞(HDMEC)における可溶性CEACAM8の効果を研究するために、可溶性CEACAM8の存在下又は非存在下で細胞を24時間インキュベートし、上記で概説したように測定を行った。
【0093】
図7に示すように、未処置対照と比較して可溶性CEACAM8では生細胞数は変わらなかった(共に67%)。従って、CEACAM8自身は内皮細胞に悪影響を示さなかった。従って、内皮系に関しては、可溶性CEACAM8の治療応用中の悪影響の恐れを除外することができる。興味深いことに、アポトーシス誘導物質の存在下で、アポトーシス誘導物質単独(17%)と比較して、可溶性CEACAM8は生細胞分画を66%まで有意に増加させた。
【0094】
この所見は、ヒト内皮細胞における可溶性CEACAM8の抗アポトーシス作用を初めて示している。更にまた、この効果は、CEACAM8特異抗体での試料のプレインキュベーションにより予防することができた(21%)。総合すれば、これらの所見は、内皮細胞における可溶性CEACAM8の新しい機能的役割を示しており、それは、炎症反応及び癌発生の種々の期において通例効果として生じる内皮細胞死及び血管の破壊の予防におけるこれまでに知られていない内皮戦略をもたらす。
【0095】
実施例8
免疫受容体による抗原認識により、適応免疫反応における成熟T細胞及びB細胞の活性化が開始される。しかしながら、全面的なB細胞及びT細胞の活性化には、B細胞受容体(BCR)及びT細胞受容体(TCR)と抗原との結合ばかりでなく、例えばB細胞の場合はヘルパーT細胞によりCD40-CD40リガンド(CD40L)相互作用を介して示される共刺激シグナルも必要とする。このように、細胞表面分子CD40を介するシグナル伝達は、Bリンパ球の増殖及び分化に重要な役割を果たしていることが知られている。それにもかかわらず、B細胞はT細胞受容体(TCR)共刺激にとっても重要である。なぜなら、B細胞はT細胞に抗原を提示することができるので、自然免疫細胞の機能的特徴を有しているからである。活性化に応答して顆粒球により特異的に放出される糖タンパク質である可溶性CEACAM8により引き起こされるBCR及びTCRシグナル伝達のコレセプター調節作用がここで初めて示される。
【0096】
B細胞増殖アッセイ:Ficoll-Paqueを用いる勾配遠心分離により健常ドナーからPBMCを調製した。10%(v/v)熱失活FCS(インビトロgen Life Thechnologies社)、3mM L-グルタミン、0.01M HEPES、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシン(すべてSigma-Aldrich社製)を添加したRPMI 1640(Biochrom社)に細胞を再懸濁し、刺激の前に終夜インキュベートした。エンドトキシン汚染に関してすべての試薬を試験した。96ウェル平底マイクロタイタープレートにおいて、0.2ml/ウェルのPBMC(2.5x104)(3連)を、図の説明にように、CD40、抗ヒトIgG+IgM+IgA F(ab')2抗体(Jackson ImmunoResearch社)、CEACAM8-Fc、ラットCEACAM1-Fc(非結合対照)単独又は種々の組み合わせで3日間刺激するか、あるいは処置せずに放置した。製造業者のプロトコルに従って、CellTiter 96 Aqueous one solution reagent(Promega社)により細胞増殖を評価した。Sunrise-ELISA読取り機(Tecan社)において490nmでの吸光度を検出した。
【0097】
T細胞増殖アッセイ:Ficoll-Paqueを用いる勾配遠心分離により健常ドナーからPBMCを調製した。10%(v/v)熱失活FCS(インビトロgen Life Thechnologies社)、3mM L-グルタミン、0.01M HEPES、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシン(すべてSigma-Aldrich社製)を添加したRPMI 1640(Biochrom社)に細胞を再懸濁し、刺激の前に終夜インキュベートした。エンドトキシン汚染に関してすべての試薬を試験した。96ウェル平底マイクロタイタープレートにおいて、0.2ml/ウェルのPBMC(2.5x104)(3連)を、図の説明にように、CD3(クローンMEM-57、Immunotools社、ドイツ)、抗ヒトCD28抗体(クローン12E8、Immunotools社、ドイツ)、CEACAM8-Fc、ラットCEACAM1-Fc(非結合対照)の単独又は種々の組み合わせで3日間刺激するか、あるいは処置せずに放置した。製造業者のプロトコルに従って、CellTiter 96 Aqueous one solution reagent(Promega社)により細胞増殖を評価した。Sunrise-ELISA読取り機(Tecan社)において490nmでの吸光度を検出した。
【0098】
図8に示すように、ヤギポリクローナル抗IgM-IgG-IgE抗体と組み合わせた可溶性CEACAM8-Fcで細胞を処置することにより、Bリンパ球をインビトロで増殖させることができる。可溶性CEACAM8の共刺激効果は、抗IgM-IgG-IgE抗体と組み合わせたCD40の確立された共刺激効果とほぼ同じ効果を示した。CEACAM8-Fc単独、CD40単独、ラットCEACAM1-Fc及び抗IgM-IgG-IgE抗体と組み合わせたラットCEACAM1-Fcは、なんら効果を示さなかった。
【0099】
図9に示すように、マウスモノクローナルCD3抗体と組み合わせた可溶性CEACAM8-Fcで細胞を処置することによりインビトロでTリンパ球を増殖させることができる。可溶性CEACAM8の共刺激効果は、抗CD3抗体と組み合わせたCD28の確立された共刺激効果とほぼ同じ効果を示した。CEACAM8-Fc単独、CD3単独、CD28単独、ラットCEACAM1-Fc及びラットCEACAM1-Fcと組み合わせた抗CD3抗体は何ら効果を示さなかった。
【0100】
可溶性CEACAM8により引き起こされるB細胞及びT細胞増殖は、免疫不全患者、重篤な慢性又は急性感染を有する患者及び化学療法又は放射線治療を受けている患者を強くするための未来の治療として使用できる。
【0101】
増殖させたBリンパ球及びTリンパ球は凍結保存することができ、凍結保存した材料は、その後少なくとも5年間使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B細胞又はT細胞増殖のための、可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物の有効量をコードするDNAの使用。
【請求項2】
可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAが他の化合物と組み合わせて用いられる、請求項1記載の使用。
【請求項3】
養子免疫療法における可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物の有効量をコードするDNAの使用。
【請求項4】
慢性若しくは急性の感染及び/又は化学療法若しくは放射線治療による免疫不全患者の治療のための、可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAの有効量の使用。
【請求項5】
インビトロでB細胞又はT細胞を増殖させる方法であって、
(1)B細胞又はT細胞を用意する工程、
(2)B細胞又はT細胞を、可溶性CEACAM8又はその部分の有効量又は前記化合物をコードするDNAと接触させる工程、
(3)B細胞又はT細胞を培養する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法により増殖させたB細胞又はT細胞。
【請求項7】
凍結保存した、請求項6記載のB細胞又はT細胞。
【請求項8】
インビトロでのヒト顆粒球におけるアポトーシスの予防のための、CEACAM1及び/又はCEACAM6に特異的な化合物の使用。
【請求項9】
前記化合物が、可溶性CEACAM8、モノクローナル抗体及び/若しくはポリクローナル抗体又はその部分又は前記化合物をコードするDNAであり、好ましくは可溶性CEACAM8、マウスmAb 4/3/17及び/又はmAb 13H10であり、より好ましくは可溶性ヒトCEACAM8-Fcである、請求項8記載の使用。
【請求項10】
CEACAM1及び/又はCEACAM6に特異的な少なくとも1種の化合物と、顆粒球を含むヒト試料とをインキュベートすることによりヒト顆粒球におけるアポトーシスを予防する方法。
【請求項11】
前記化合物が、可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAであり、好ましくは可溶性ヒトCEACAM8-Fcである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
アポトーシスを予防する化合物のスクリーニング方法であって、
(1)膜アンカー型CEACAM8及び膜アンカー型CEACAM1及び/又は膜アンカー型CEACAM6を発現することができる細胞試料を用意する工程、
(2)試料を部分に分割する工程、
(3)少なくとも1つの部分を、スクリーニングされる化合物とインキュベートする工程、
(4)前記部分を、膜アンカー型CEACAM8に特異的な少なくとも1種の物質とインキュベートする工程、
(5)前記部分におけるアポトーシス率を、前記化合物と共にインキュベートしていない他の部分と比較する工程、
(6)アポトーシスを予防する、膜アンカー型CEACAM1及び/又は膜アンカー型CEACAM6への化合物の特異的結合を検出する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記試料が、ヒト顆粒球を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ヒト癌及び/又は感染症の予防又は治療処置のための医薬の製造のための、可溶性CEACAM8に特異的な物質の使用。
【請求項15】
前記物質が、モノクローナル抗体であり、好ましくはmAb 80H3、mAb B13.9、mAb B4-EA4、mAb BIRMA 17C、mAb BL-B7、mAb G10F5、mAb MF25.1、mAb 12-140-5、mAb JML-H16、mAb Kat4c、mAb TET2、mAb YG-C46A8、mAb YG-C51B9、mAb C76G4及び/又はmAb YG-C94G7であり、より好ましくはmAb 80H3、mAb B13.9、mAb B4-EA4、mAb BIRMA 17C、mAb BL-B7、mAb G10F5、mAb JML-H16及び/又はmAb MF25.1であり、最も好ましくはmAb 80H3及び/又はmAb B13.9である、請求項14記載の使用。
【請求項16】
ヒト自己免疫疾患、痛風、免疫反応の異常、癌及び/又は感染症の診断、及び/又はモニタリングのための、可溶性CEACAM6及び/若しくは可溶性CEACAM8又はその部分又は前記化合物をコードするDNAの有効量の使用。
【請求項17】
診断、予防若しくは治療処置のための医薬の製造及び/又はヒト痛風、癌及び/若しくは感染症のモニタリングのための、完全長可溶性CEACAM6及び/若しくは完全長可溶性CEACAM8又は前記化合物をコードするDNAの有効量の使用。
【請求項18】
腫瘍に近接した新生血管を可溶性CEACAM6及び/又はCEACAM8で標識することにより癌が診断又はモニタリングされる、請求項16及び17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
4週間を超える貯蔵寿命を有する医薬の製造に使用する可溶性CEACAM8若しくはその部分。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−539917(P2010−539917A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526308(P2010−526308)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/062930
【国際公開番号】WO2009/040418
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(508334199)シャリテ−ウニヴェルジテーツメディツィン・ベルリン (3)
【氏名又は名称原語表記】CHARITE−UNIVERSITAETSMEDIZIN BERLIN
【Fターム(参考)】