説明

疾患治療用医薬及び糖尿病治療用医薬

活性炭の医薬としての有効活用を図ること、特に活性炭と他の疾患治療剤を併用投与することにより、活性炭単独による疾患治療効果を向上させた優れた医薬を提供する。活性炭と疾患治療剤を有効成分とする疾患治療用医薬。特に、活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬。活性炭としては、多孔性の球形炭素質物質が好ましく、特に多孔性の球形炭素質物質吸着剤が好ましい。また、抗糖尿病剤としては、α−グルコシダーゼ阻害剤及びインスリンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、活性炭と他の疾患治療剤を有効成分とする疾患治療用医薬、特に活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする抗糖尿病作用が増強された糖尿病治療用医薬、すなわち糖尿病治療薬に関する。
【背景技術】
活性炭は医薬として知られている。例えば、多孔性の球形炭素質物質吸着剤は慢性腎不全患者および肝臓疾患患者に有効であることが開示されている(特公昭62−11611号公報参照)。また、多孔性の球形炭素質物質吸着剤がラットを用いた1型糖尿病モデルに対して改善効果があるとされている(特許第3338119号公報参照)。
活性炭は安全性が高く、強い副作用はない。例えば、活性炭の急性毒性及び亜急性毒性試験において異常所見や中毒症状が見られなかったことが開示されている(特公昭62−11611号公報参照)。
しかしながら、活性炭自体の医薬としての薬効、特に抗糖尿病効果は弱く、未だ医薬としての有効活用がなされているということができない。
一方、疾患治療剤として知られている薬剤のなかには副作用を有するものも多く、この副作用が薬剤投与に際して大きな問題ともなっている。例えば、抗糖尿病剤であるα−グルコシダーゼ阻害剤の服用においては、腹部膨満感や高頻度および悪臭の放屁或いは下痢(軟便)等の副作用が発現している。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、活性炭の医薬としての有効活用を図ること、特に活性炭と他の疾患治療剤を併用投与することにより、活性炭単独による疾患治療効果を向上させ或いは併用効果により疾患治療剤の使用量を減少させ副作用を軽減することができる優れた医薬を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、2型糖尿病(NIDDM)及びその予備軍である耐糖能不全或いは境界型糖尿病患者に対して、活性炭と抗糖尿病剤を併用して適用することにより、血糖降下促進作用が相乗的に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、活性炭と併用投与する抗糖尿病剤によって引き起こされる副作用を活性炭が低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、活性炭は消化管から吸収されること無く作用するため、体内で他剤との薬物相互作用をすることなく、どのような疾患治療剤との併用も可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、活性炭と疾患治療剤を有効成分とする疾患治療用医薬である。
前記疾患治療用医薬における活性炭は、多孔性の球形炭素質物質であることが好ましく、さらに好ましくは多孔性の球形炭素質物質吸着剤である。
さらに、本発明は、活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬である。
前記糖尿病治療用医薬における活性炭は、多孔性の球形炭素質物質であることが好ましく、さらに好ましくは多孔性の球形炭素質物質吸着剤である。
前記抗糖尿病剤は、炭水化物消化酵素阻害剤、インスリン、インスリン抵抗性改善剤或いは糖尿病合併症治療剤であることが好ましく、α−グルコシダーゼ阻害剤、α−アミラーゼ阻害剤及びインスリンであることがより好ましく、更に好ましくはα−グルコシダーゼ阻害剤及びインスリンであることが好ましく、この糖尿病治療用医薬は、腹部膨満感、高頻度及び悪臭の放屁並びに下痢(軟便)の抑制された糖尿病治療用医薬であることができる。
前記糖尿病治療用医薬は、2型糖尿病治療用医薬であることができる。
本発明における糖尿病治療用医薬等の「医薬」とは、2種以上から構成される医薬の組合わせを含む概念であり、本発明ではこれを「組合わせ」と表記している。
したがって、本発明の実施態様として具体的には、
(1)活性炭と疾患治療剤を有効成分とする疾患治療用組合わせ。
(2)活性炭が、多孔性の球形炭素質物質である前記(1)記載の疾患治療用組合わせ。
(3)活性炭が、多孔性の球形炭素質物質吸着剤である前記(1)記載の疾患治療用組合わせ。
(4)活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
(5)活性炭が、多孔性の球形炭素質物質である前記(4)記載の糖尿病治療用組合わせ。
(6)活性炭が、多孔性の球形炭素質物質吸着剤である前記(4)記載の糖尿病治療用組合わせ。
(7)抗糖尿病剤が、α−グルコシダーゼ阻害剤ならびにα−アミラーゼ阻害剤である前記(4)〜(6)のいずれか一項に記載の糖尿病治療用組合わせ。
(8)抗糖尿病剤が、インスリンである前記(4)〜(6)のいずれか一項に記載の糖尿病治療用組合わせ。
(9)抗糖尿病剤が、糖尿病合併症治療剤である前記(4)〜(6)のいずれか一項に記載の糖尿病治療用組合わせ。
(10)腹部膨満感、高頻度及び悪臭の放屁並びに下痢(軟便)の抑制された糖尿病治療用組合わせである前記(7)記載の糖尿病治療用組合わせ。
(11)糖尿病治療用組合わせが、2型糖尿病治療用組合わせである前記(4)〜(10)のいずれか一項に記載の糖尿病治療用組合わせ。
を挙げることができる。
本発明によれば、活性炭と疾患治療剤との併用により、効果的な治療が可能となる、例えば、活性炭と抗糖尿病剤との経口的併用投与により効果的(相乗的な)な血糖低下作用が得られ、抗糖尿病剤の投与量を低下させることができる等のメリットを生じる。特に、2型糖尿病に対して有効に発揮される。また、併用投与する抗糖尿病剤による副作用の軽減が図られ、例えば、α−グルコシダーゼ阻害剤の服用において発現する腹部膨満感や高頻度および悪臭の放屁或いは下痢(軟便)等の副作用を効果的に改善することができる。
また、糖尿病の進展により惹起される合併症において、症状を増悪させるウレミックトキシン(尿毒素)の除去が活性炭によりなされ、合併症を軽減することができる。
また、活性炭は消化管から吸収されること無く作用するため、体内での他剤との薬物相互作用をすることなく、どのような疾患治療剤との併用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
本発明に用いられる活性炭は既知の物質であり、例えば、木材(オガ屑)、石炭、石油、ヤシ殻、石油系もしくは石炭系の各種ピッチ類、セルロース、リグニン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、フェノール樹脂、ジビニルベンゼン重合体、レーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)等の高分子化合物等を原料として既知の方法により製造できるものである。
また、本発明に用いられる活性炭を形状の観点からみると、球状活性炭、粉末活性炭、粒状活性炭、繊維状活性炭、構造活性炭(スポンジ状、ビーズ状)等が挙げられる。
本発明においては、いずれの形状の活性炭をも用いることができるが、よりよい効果を発揮する点で、なかでも球状活性炭を用いることが好ましい。本発明における球状活性炭としては、実質的に球状であれば構わず、例えば、いわゆる多孔性の球形炭素質物質である球形活性炭が用いられる。さらに球形活性炭の他に、多孔性の球形炭素質物質(球形活性炭)を高温で酸化処理及び還元処理して調製される加工物である、多孔性の球形炭素質物質吸着剤が用いられ、これらの球形活性炭、多孔性の球形炭素質物質吸着剤が好ましく用いられる。本発明においては、特に多孔性の球形炭素質物質吸着剤を用いることが好適である。
前記球状活性炭は、粒径範囲として直径0.05〜2mmであることが好ましい。また、2mmを越えると服用し難いだけでなく、目的とする薬理効果も迅速に発現しにくくなる。
さらに、細孔半径80オングストローム以下の空隙量が0.2〜1.0ml/gの球形活性炭が好ましい。
本発明において好ましく用いられる球形活性炭は、直径が0.05〜2mmの活性炭であることが好ましい。球形活性炭を製造する基本的な方法は、原料を炭化した後で活性化するものである。球形活性炭を調製するに当たっては、特に限定されず公知の方法で調製することができるが、例えば、以下の3種の方法で調製することができる。まず第1の方法は、活性炭の粉末原料をピッチ等のバインダーで小粒球形に造粒し、次いで不活性雰囲気中で600〜1000℃に加熱焼成して炭化し、続いて、水蒸気雰囲気中で850〜1000℃で賦活する。第2の方法は、例えば特公昭51−76号公報に記載されているように、ピッチ類を溶融状態で小粒球形状にし、次いで酸素により不融化した後、前記の第1の方法と同様の条件で炭化賦活する。第3の方法は、例えば特公昭59−10930号公報に記載されているように、ピッチ類を溶融状態で紐状ピッチとし、これを破砕した後で熱水中に投入して球状化し、次いで酸素により不融化した後、前記の第1の方法と同様の条件で炭化賦活する。
なお、活性化の方法としては、水蒸気賦活の他に、薬品賦活、空気賦活又は炭酸ガス賦活等の方法を用いることができる。
本発明において好ましく用いられる多孔性の球形炭素質物質吸着剤は、好ましくは、直径0.05〜2mm、及び細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2〜1.0ml/g(自動吸着量測定装置を用いたメタノール吸着法による)の球形活性炭を、高温で酸化処理(酸化雰囲気で高温熱処理をする。)及び還元処理(窒素、アルゴンもしくはヘリウム雰囲気等の炭素に対して不活性な雰囲気で高温熱処理をする。)して調製される。なお、酸化熱処理は、好ましくは酸素含有量0.5〜25容量%、より好ましくは酸素含有量3〜10容量%の雰囲気中で、好ましくは300〜700℃、より好ましくは400〜600℃の温度で行われる。還元処理は、好ましくは700〜1100℃、より好ましくは800〜1000℃の温度で窒素雰囲気中で行われる。
高温での酸化及び還元処理により、得られる多孔性の球形炭素質物質吸着剤(以下、多孔性の球形炭素質物質吸着剤を「球形吸着炭」ともいう。)の酸性基及び塩基性基を、全酸性基(A)0.30〜1.20meq/g、全塩基性基(B)0.20〜0.70meq/g、及び全酸性基(A)/全塩基性基(B)0.40〜2.5の範囲に調整することが好ましい。ここで、全酸性基(A)及び全塩基性基(B)とは、常法によって以下のように定量される物性である。
(イ)全酸性基(A)
0.05規定のNaOH溶液50ml中に、200メッシュ以下に粉砕した球形吸着炭1gを添加し、48時間振盪した後、球形吸着炭を濾別し、中和滴定により求められるNaOHの消費量。
(ロ)全塩基性基(B)
0.05規定のHCl溶液50ml中に、200メッシュ以下に粉砕した球形吸着炭1gを添加し、24時間振盪した後、球形吸着炭を濾別し、中和滴定により求められるHClの消費量。
本発明における前記球形吸着炭の一例としては、特公昭62−11611号公報に記載の球形炭素質物質吸着剤を挙げることができる。
以下に、球形吸着炭の調製例を示す。
偏向顕微鏡下の異方性領域が偏在しないピッチ(水素原子/炭素原子比=0.55;流動点=220℃)300g及びナフタレン100gを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、180℃で溶解混合し、PVA(ゴーセノール)の0.5%水溶液1200gを加え、次いで140℃で30分間激しく撹拌した後、撹拌下で室温まで冷却して球形粒子を得た。大部分の水を濾別した後、得られた球形粒子を抽出器に入れ、ヘキサンを通液してナフタレンを抽出除去し、通風乾燥した。次いで、流動床を用いて、加熱空気を流通して25℃/hで300℃まで昇温し、更に300℃に2時間保持して不融化した。続いて、水蒸気中で900℃まで昇温し、900℃で2時間保持して炭化賦活を行い、多孔質の球形活性炭を得た。得られた球形活性炭の直径は0.05〜1.0mmであり、細孔半径80オングストローム以下の空隙量は0.755ml/gであった(自動吸着量測定装置を用いたメタノール吸着法による)。
こうして得られた球形活性炭を、流動床を用いて、600℃で酸素濃度3%の雰囲気下で3時間処理した後、窒素雰囲気下で950℃まで昇温し、950℃で30分間保持して、球形吸着炭を得た。この球形吸着炭の直径は0.05〜1mmであり、細孔半径80オングストローム以下の空隙量は0.751ml/g(自動吸着量測定装置を用いたメタノール吸着法による)、全酸性基(A)は0.542meq/g、全塩基性基(B)は0.525meq/g、そして全酸性基(A)/全塩基性基(B)は1.03であった。
本発明に係る活性炭は市販品を用いることができ、例えば球形吸着炭である、クレメジン(細粒)(呉羽化学工業株式会社製)が市販されている。
本発明において、活性炭と併用投与される疾患治療剤としては、例えば、糖尿病、糖尿病合併症(動脈硬化症、高血圧、腎症、神経症、糖尿病性網膜症、糖尿病性白内障)肝臓病、腎臓病、精神病、神経疾患、高脂血症、高血圧症、痛風(高尿酸血症)、網膜症、白内障、動脈硬化症、膵炎、高過酸化脂質血症、ガン、悪液質、クローン病(抗炎症、痔疾患)、エリスロポエチン貧血、ネフローゼ症候群、肥満、リポ蛋白質リパーゼ低血症、マトリックス形成亢進、ビタミンD代謝異常、骨粗ショウ症、炎症、胃腸障害、膠原病等の治療剤を挙げることができる。
本発明においては、後で証明するように、活性炭と疾患治療剤を併用投与することにより、疾患治療剤の治療効果を活性炭が向上させ、また両者の相乗的な治療効果を発揮させることができる。したがって、活性炭と疾患治療剤を有効成分とする疾患治療用医薬として有用である。
本発明においては、前記疾患治療剤として抗糖尿病剤を用いると、糖尿病治療用医薬、すなわち糖尿病治療薬として、抗糖尿病剤の治療効果を向上させたり、糖尿病治療効果を相乗的に向上させることができる。
抗糖尿病剤としては、前記活性炭以外のものであれば特に限定されるものではなく、例えば、インスリン、α−グルコシダーゼ阻害剤、α−アミラーゼ阻害剤、インスリン抵抗性改善剤(例えば、ピオグリタゾン、TAK−559、ロジグリタゾン、CS−011、muraglitazar、MK−767、LY−818、netoglitazone、JT−501、AZ−422、isaglitazone、BMS−298585、KRP−297、GW−409544、FK−614、NNC−610029(DRF−2725)等)、ビグアナイド剤(例えば、メトフォルミン等)、スルフォニルウレア剤(例えば、グリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド等)、インスリン分泌促進剤(例えば、ナテグリニド等)、糖尿病合併症治療剤(アルドース還元酵素阻害剤(例えば、エパルレスタット等)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤(例えば、エナラプリル、セタプリル、カプトリル、イミダプリル、シラザプリル、デラプリル、リシノプリル、キナプリル、アラセプリル、トランドラプリル、ベリンドプリル、テモカプリル、ベナゼプリルナ等)、PKC−β阻害剤、アンジオテンシンII拮抗剤等(例えば、ロサルタン、カンデサルタン(シレキセチル)、バルサルタン、エプロサルタン、ゾラサルタン、テルミサルタン、オルメサルタン(メドキソミル)等)、カルシウム拮抗剤(アムロジピン、エホニジピン、プラニジピン、ジルチアゼム、ニカルジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、バルニジピン、ベニジピン、マニジピン、レルカニジピン、アゼルニジピン等)等が挙げられる。
これらの抗糖尿病剤のなかでは、α−グルコシダーゼ阻害剤、α−アミラーゼ阻害剤、インスリン、インスリン抵抗性改善剤、或いは糖尿病合併症治療剤を用いることが効果的であり、好ましくは、α−グルコシダーゼ阻害剤、インスリン、糖尿病合併症治療薬である。疾患治療剤としての抗糖尿病剤としてα−グルコシダーゼ阻害剤或いはインスリンを用いることにより、α−グルコシダーゼ阻害剤或いはインスリンの抗糖尿病効果に対して活性炭の併用が顕著な効果向上効果を発揮する。
また、本発明においては、抗糖尿病剤としてα−グルコシダーゼ阻害剤或いはα−アミラーゼ阻害剤を用いることにより、α−グルコシダーゼ阻害剤或いはα−アミラーゼ阻害剤投与による腹部膨満感や高頻度および悪臭の放屁或いは下痢(軟便)等の副作用を活性炭との併用投与により軽減させることができる。
α−グルコシダーゼ阻害剤は既知の物質であり、その使用に際しては特に限定されるものではなく、例えばアカルボース、ボグリボース、バリエナミン、エピバリオール、マオウ、シソ、クローブ、オールスパイス、オレガノ、ペパーミント、ローズマリー、バジル等の抽出物等が挙げられる。
本発明に係るα−グルコシダーゼ阻害剤は市販品を用いることができ、例えばベイスン錠(武田薬品工業株式会社製)、グルコバイ(バイエル社製)等が市販されている。
また、本発明のインスリンは既知の物質であり、市販品を用いる事ができ、例えばノボラピッド登録商標注、ヒューマログ注、ノボリン登録商標R注、ヒューマリンR注等が市販されている。また、投与形態により注射剤、気道内噴霧インスリン製剤等がある。
本発明における活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬、すなわち糖尿病治療薬(以下、糖尿病治療薬ともいう。)は、特に2型糖尿病患者に対して効果を発揮することが特徴的である。なお、前記2型糖尿病治療薬としての用途は、後で証明するように、本発明ではじめて見出したヒトに対する活性炭の抗2型糖尿病剤としての用途を基本とするものである。
本発明の疾患治療用医薬は、好ましくは経口的に投与され、その投与量は、構成成分である活性炭及び疾患治療剤のそれぞれが通常用いられる量になるような量的範囲で投与される。すなわち、活性炭の経口投与量は1日当たり通常0.2〜20gであり、また、一方の疾患治療用医薬は、薬によってそれぞれに適した量が投与されるが、例えば、α−グルコシダーゼ阻害剤の場合、1日当たり通常0.01〜1000mg、好ましくは0.1〜500mgである。前記疾患治療用医薬は、1日1ないし数回に分けて投与(服用)し、さらに症状によって適宜増減する。インスリンは用いられる製剤や回数により或いは症状により、低血糖を引き起こさないそれぞれ適した量が投与されるが、当該患者の治療に用いられる量が適用される。
本発明の前記疾患治療用医薬を投与するに当たっては、前記活性炭と疾患治療剤を1剤として製剤化したものを投与することもでき、またそれぞれ別々に投与することもできる。すなわち、活性炭を有効成分とする疾患治療用医薬と、疾患治療剤を有効成分とする疾患治療用医薬とを別々に投与することもできる。本発明においては、医薬の安定化及び医薬の吸着の面から別々に投与できる医薬形態が好ましい。したがって、別々に投与して用いる疾患治療用医薬及び糖尿病治療薬の医薬形態を、それぞれ疾患治療用組合わせ、糖尿病用組合わせと表現することにより、本発明に係る好ましい実施態様として、
(1)活性炭と疾患治療剤を有効成分とする疾患治療用組合わせ。
(2)活性炭が、多孔性の球形炭素質物質である前記(1)記載の疾患治療用組合わせ。
(3)活性炭が、多孔性の球形炭素質物質吸着剤である前記(1)記載の疾患治療用組合わせ。
(4)活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
(5)活性炭が、多孔性の球形炭素質物質である前記(4)記載の糖尿病治療用組合わせ。
(6)活性炭が、多孔性の球形炭素質物質吸着剤である前記(4)記載の糖尿病治療用組合わせ。
(7)抗糖尿病剤が、α−グルコシダーゼ阻害剤ならびにα−アミラーゼ阻害剤である前記(4)〜(6)のいずれか一項に記載の糖尿病治療用組合わせ。
(8)抗糖尿病剤が、インスリンである前記(4)〜(6)のいずれか一項に記載の糖尿病治療用組合わせ。
(9)抗糖尿病剤が、糖尿病合併症治療剤である前記(4)〜(6)のいずれか一項に記載の糖尿病治療用組合わせ。
(10)腹部膨満感、高頻度及び悪臭の放屁並びに下痢(軟便)の抑制された糖尿病治療用組合わせである前記(7)記載の糖尿病治療用組合わせ。
(11)糖尿病治療用組合わせが、2型糖尿病治療用組合わせである前記(4)〜(10)のいずれか一項に記載の糖尿病治療用組合わせ。
を挙げることができる。
本発明の疾患治療用医薬、とりわけ糖尿病治療薬は、活性炭、抗糖尿病剤等の疾患治療剤をそれぞれ、または混合して、散剤、顆粒、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、スティック剤、分包包装体、又は懸濁剤等の任意の投与形態で与えることができる。
以上から、本発明の特に好ましい実施態様としては、
(1)活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬。
(2)多孔性の球形炭素質物質吸着剤と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬。
(3)活性炭とα−グルコシダーゼ阻害剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬。
(4)多孔性の球形炭素質物質吸着剤とα−グルコシダーゼ阻害剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬。
(5)活性炭とインスリンを有効成分とする糖尿病治療用医薬。
(6)多孔性の球形炭素質物質吸着剤とインスリンを有効成分とする糖尿病治療用医薬。
(7)活性炭と糖尿病合併症治療剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬。
(8)多孔性の球形炭素質物質吸着剤と糖尿病合併症治療剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬。
さらに、
(9)活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする2型糖尿病治療用医薬。
(10)多孔性の球形炭素質物質吸着剤と抗糖尿病剤を有効成分とする2型糖尿病治療用医薬。
(11)活性炭とα−グルコシダーゼ阻害剤を有効成分とする2型糖尿病治療用医薬。
(12)多孔性の球形炭素質物質吸着剤とα−グルコシダーゼ阻害剤を有効成分とする2型糖尿病治療用医薬。
(13)活性炭とインスリンを有効成分とする2型糖尿病治療用医薬。
(14)多孔性の球形炭素質物質吸着剤とインスリンを有効成分とする2型糖尿病治療用医薬。
(15)活性炭と糖尿病合併症治療剤を有効成分とする2型糖尿病治療用医薬。
(16)多孔性の球形炭素質物質吸着剤と糖尿病合併症治療剤を有効成分とする2型糖尿病治療用医薬。
さらに、
(17)活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
(18)多孔性の球形炭素質物質吸着剤と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
(19)活性炭とα−グルコシダーゼ阻害剤を有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
(20)多孔性の球形炭素質物質吸着剤とα−グルコシダーゼ阻害剤を有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
(21)活性炭とインスリンを有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
(22)多孔性の球形炭素質物質吸着剤とインスリンを有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
(23)活性炭と糖尿病合併症治療剤を有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
(24)多孔性の球形炭素質物質吸着剤と糖尿病合併症治療剤を有効成分とする糖尿病治療用組合わせ。
さらに、
(25)活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする2型糖尿病治療用組合わせ。
(26)多孔性の球形炭素質物質吸着剤と抗糖尿病剤を有効成分とする2型糖尿病治療用組合わせ。
(27)活性炭とα−グルコシダーゼ阻害剤を有効成分とする2型糖尿病治療用組合わせ。
(28)多孔性の球形炭素質物質吸着剤とα−グルコシダーゼ阻害剤を有効成分とする2型糖尿病治療用組合わせ。
(29)活性炭とインスリンを有効成分とする2型糖尿病治療用組合わせ。
(30)多孔性の球形炭素質物質吸着剤とインスリンを有効成分とする2型糖尿病治療用組合わせ。
(31)活性炭と糖尿病合併症治療剤を有効成分とする2型糖尿病治療用組合わせ。
(32)多孔性の球形炭素質物質吸着剤と糖尿病合併症治療剤を有効成分とする2型糖尿病治療用組合わせ。
等を挙げることができる。
なお、活性炭は消化管から吸収されること無く作用する観点から、体内での他剤との薬物相互作用をすることがなく、どのような疾患治療剤との併用組み合わせも可能であることがあげられる。
【実施例】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
男性(56才)の耐糖能不全患者の血糖値を以下の試験法にしたがって測定した。前記男性に対し、食事負荷試験(米飯150g)を行い、次いで、食後クレメジン細粒(呉羽化学工業株式会社)(球形吸着炭)2gを経口投与した。血糖測定はグルテストエースRセット(製造元;株式会社アークレイファクトリー、販売元;株式会社三和化学研究所)を用い、食事負荷前、食後1時間、食後2時間、食後3時間値を測定した。なお、対照として試料投与なしで、食事負荷試験のみで同様の測定を行った。測定結果(血糖値;単位mg/dl)を表1に示した。
表1

表1から明らかなように、対照には血糖値の増加がみられたが、クレメジン細粒投与により2時間値が大幅に低下し高血糖状態の改善が見られた。
[実施例2]
実施例1と同じ男性の血糖値を以下の試験法にしたがって測定した。前記男性に対し、α−グルコシダーゼ阻害剤ベイスン錠(武田薬品工業株式会社製)0.2mgを食前に経口投与し、実施例1同様の食事負荷試験を行い、次いで、食後以下の(1)〜(2)の試料をそれぞれ経口投与した。
(1)クレメジン細粒(呉羽化学工業株式会社)(球形吸着炭)2g
(2)クレメジン細粒(呉羽化学工業株式会社)(球形吸着炭)4g
血糖測定は実施例1と同様の方法で行った。測定結果(血糖値;単位mg/dl)を表2に示した。なお、表2には対照として、ベイスン錠及びクレメジン細粒投与なし、並びにクレメジン細粒投与なしの結果を併せて示してある。
表2

表2から明らかなように、ベイスン及びクレメジンの併用投与により用量依存的に血糖の低下作用が観察された。また、ベイスン投与により見られた腹部膨満感及び放屁はクレメジン細粒投与により大幅に改善が見られた。
[実施例3]
インスリンとの併用
女性(89才)のインスリン治療2型糖尿病患者に対し、食前にインスリン12単位を投与した後、食事負荷試験(米飯100g)を行い、ついで食後クレメジン細粒(呉羽化学工業株式会社)4gを経口投与した。血糖測定はグルテストエースRセット(製造元;株式会社アークレイファクトリー、販売元;株式会社三和化学研究所)を用い、食事負荷前、1時間、2時間、3時間値を測定した。クレメジン細粒投与により2時間、3時間値が大幅に低下し高血糖状態の改善が見られた。測定結果(血糖値;単位mg/dl)を表3に示した。

表3から明らかなように、対照に比し、クレメジン細粒投与により2時間、3時間値が大幅に低下し高血糖状態の改善が見られた。
[実施例4]
手指のこわばり、膝関節の痛みを有するリウマチ罹病暦22年のリウマチ患者の女性(56才)に対し、クレメジン細粒(呉羽化学工業株式会社)(球形吸着炭)2gを一日2回経口的に投与した。抗リウマチ薬の投与歴はリドーラ+ロキソニンの後リマチルに変更した。リマチル投与で炎症は大幅に改善されたが、手指のこわばり、手表皮の角化には改善が見られなかった。クレメジンの投与により一ヵ月後に手指のこわばりは軽減され且つ手表皮の角化が改善し日常生活が良好となり、明らかな治療効果が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭と疾患治療剤を有効成分とする疾患治療用医薬。
【請求項2】
活性炭が、多孔性の球形炭素質物質である請求項1記載の疾患治療用医薬。
【請求項3】
活性炭が、多孔性の球形炭素質物質吸着剤である請求項1記載の疾患治療用医薬。
【請求項4】
活性炭と抗糖尿病剤を有効成分とする糖尿病治療用医薬。
【請求項5】
活性炭が、多孔性の球形炭素質物質である請求項4記載の糖尿病治療用医薬。
【請求項6】
活性炭が、多孔性の球形炭素質物質吸着剤である請求項4記載の糖尿病治療用医薬。
【請求項7】
抗糖尿病剤が、炭水化物消化酵素阻害剤である請求項4乃至6のいずれか一項に記載の糖尿病治療用医薬。
【請求項8】
抗糖尿病剤が、α−グルコシダーゼ阻害剤である請求項4乃至6のいずれか一項に記載の糖尿病治療用医薬。
【請求項9】
抗糖尿病剤が、インスリンである請求項4乃至6のいずれか一項に記載の糖尿病治療用医薬。
【請求項10】
糖尿病治療用医薬が、糖尿病合併症治療用医薬である請求項4乃至6のいずれか一項に記載の糖尿病治療用医薬。
【請求項11】
腹部膨満感、高頻度及び悪臭の放屁並びに下痢(軟便)の抑制された糖尿病治療用医薬である請求項7記載の糖尿病治療用医薬。
【請求項12】
糖尿病治療用医薬が、2型糖尿病治療用医薬である請求項4乃至9のいずれか一項に記載の糖尿病治療用医薬。

【国際公開番号】WO2005/060980
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516544(P2005−516544)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019799
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(503473345)
【Fターム(参考)】