説明

病巣組織リアルタイム位置同定装置およびこれを用いたX線治療装置

【課題】X線治療装置を小形化および高速化するために、治療対象の病巣組織の動きに追従して、その位置をリアルタイムに同定できる小形の位置同定装置が必要であった。病巣組織の近傍に埋め込まれる低侵襲性でX線撮像に適したマーカも必要であった。これらを使って、高速で高精度なX線治療方法を提供する。
【解決手段】本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置は、1または2以上のX線源が平面または円弧状曲面に配置され、前記X線源に対向して配置されたX線センサを備え、患者が仰臥するカウチに取り付けられるか6軸又は7軸ロボットのヘッドに取り付けられる。前記X線源はマイクロフォーカスX線源であって、フラットパネルセンサなどと組み合わせて高速のX線撮像ができる。病巣組織の近傍に埋め込まれるマーカは形状記憶合金製または超弾性合金製であって、患者に低侵襲性である。これらを使って、リアルタイムに高精度なX線治療を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線治療において病巣組織または病巣組織の近傍に埋め込まれたマーカの位置を同定する位置同定装置とこれを用いたX線治療方法に関する。さらに詳しく言えば、病巣組織の位置同定または特殊なマーカを使用してマーカの位置同定をリアルタイムに行うことができる位置同定装置と、この位置同定装置の位置同定結果に基づいてX線治療を行うX線治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線治療において、治療用X線の照射が病巣組織に集中し、健全な組織に照射されることを避けるためには、治療対象の病巣組織またはその近傍に埋め込まれたマーカの位置を正確に同定する必要がある。しかし、治療対象の病巣組織は、患者の呼吸等により移動するため、その位置同定には動体追跡手段を必要とする。この動体追跡手段に関連して種々の提案が行われている。
【0003】
特許文献1記載の動体追跡照射装置は、腫瘍近傍に埋め込まれたAuなどの球形腫瘍マーカを第1の方向から撮像する第1のX線透視装置と、腫瘍マーカを第2の方向から第1のX線透視装置と同時に撮像する第2のX線透視装置を備え、これらのX線透視装置によって取得した画像データをコンピュータによって画像データ処理と演算処理を行い、腫瘍マーカの3次元座標データを作成する。この動体追跡照射装置において、X線透視装置のX線管は治療室床下に設置され、画像センサ部のイメージインテンシファイアは治療室の天井に設置される。得られた腫瘍マーカの3次元座標が予め与えられた範囲内にある時のみ治療用X線が照射される。特許文献1記載の発明によれば、同定された腫瘍マーカの3次元座標が許容範囲内にあるときのみ治療用X線を照射するので、総合的な治療時間の短縮には限界がある。さらに、装置が大形であり、多くの医療施設に普及させるためには障害となる。また、腫瘍マーカの径は、1mm乃至2mmあり、これを腫瘍近傍に埋め込むためには切開手術が必要であり、患者への負担が大きい。
【0004】
特許文献2記載のX線CT装置は、ガントリーの回転機構を取り去り、被検体の周りに多数の小形X線管と、被検体を透過したX線を検出する多数のX線センサを備える。この発明によれば、被検体の周りの小形X線管とX線センサを同時的に動作させて、瞬時に画像データを獲得することができる。このため、臓器の動きよりも高速に撮像するため、心臓の動きなど臓器の連続撮影が可能である。特許文献2記載の発明によれば、多数のX線管による照射とそれに対応したX線センサによる検出を同時的に行うため、X線管に対応するX線センサを必要とし、さらに取得した画像データの量が多いため処理に時間を要する。したがって、臓器の画像の再構成のほか、その3次元位置を同定するまで時間がかかるので、X線治療装置の位置同定装置として使用しても、リアルタイムにX線治療を実施することは難しい。さらに、装置も大形となる。
【0005】
図9に、従来のX線CT装置の構成図を示す。特許文献3記載の回転機構のない連続処理型X線CT装置は、図9に示すように、多数の高速スイッチング型微小X線源101と、半導体X線検出器アレイ104との組み合わせにより、回転機構をなくし、X線CT装置の小形化が可能となる。また、X線の発生順が任意に設定できるので、特定部位や特定角度において細かく撮像し、他の部位や角度においては粗くスキャンすることにより高速化を図ることもできる。特許文献3記載の発明によれば、複数のX線源は、選択的に順次照射するが、各々に対応したX線検出器アレイを必要とする。さらに、X線源とX線検出器アレイは、患者を囲むように環状に配置されるため、構造が大形になる。
【0006】
特許文献4記載の患者モニタは、立体視カメラでカウチに仰臥する患者を撮影し、そのビデオ画像をコンピュータで画像処理して、患者の動きと呼吸のモデルを生成する。その後、治療中の患者の動きおよび呼吸がモニタリングされ、先に生成されたモデルと比較され、異常な動きおよび呼吸を検出したら、治療装置に対して中断するなどの処置がされる。特許文献4記載の発明によれば、患者の動きや異常な呼吸の検出は、体表面上の観測データによって行われるが、実際の病巣組織の動きを表すものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3053389号公報
【特許文献2】特許第4002984号公報
【特許文献3】特開2007−267980号公報
【特許文献4】特表2010−502244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
正確なX線治療を実施するためには、事前に策定された治療計画データに沿って、治療用X線が病巣組織のみに照射されるように病巣組織の形状、位置を正確に把握する必要がある。しかし、病巣組織は、患者の呼吸などにより絶えず移動しているため、動体追跡を行い、適当なタイミングを狙ってX線を照射するか、または病巣組織の動きにリアルタイムに追従できるような高速の位置同定とX線照射を実施する必要がある。病巣組織の位置同定装置として、特許文献1乃至特許文献4に開示されている従来技術は、装置自体が大形であって、多くの医療施設に普及させるためには、装置の小形化と低コスト化が必要である。また、特許文献4に開示されている発明のように、患者の動きや呼吸動作を体表面についてモニタリングしても、実際に治療する病巣組織の動きとの間には誤差が発生する。そこで、病巣組織の近傍に埋め込まれたマーカや病巣組織の位置を直接、高速に同定する必要がある。さらに、マーカや病巣組織の正確な形状と位置の同定には、画像分解能を向上させる必要がある。さらにまた、特許文献1に開示されているように、従来のマーカは直径が1〜2mmの球形マーカであって、これを病巣組織近傍へ埋め込むためには、切開手術などの処置が必要で、患者への負担が大きい。マーカを埋め込む場合でも、患者に対して侵襲性の低い方法が望まれる。そこで、低侵襲性のマーカを使用するか、またはマーカを使用せずに病巣組織の位置を直接検出してその動きを追跡でき、しかも従来のCT装置のような大形装置を使用せずに、リアルタイムに病巣組織の位置同定ができる小形の装置が望まれる。
【0009】
本発明の目的は、X線治療において、病巣組織の位置同定をリアルタイムにしかも高精度に行うことができる小形の病巣組織位置同定装置を提供することであり、他の目的は、前記位置同定に基づいて、高速で、正確なX線治療を行うX線治療方法を提供することである。さらに具体的な目的は、前記病巣組織位置同定装置において患者の負担を軽減することができる低侵襲性のマーカを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明による請求項1記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置は、X線源と前記X線源に対向して配置されたX線センサを備え、カウチに仰臥する患者の病巣組織近傍に埋め込まれたマーカまたは病巣組織に向けて前記X線源よりX線を照射し、照射されたX線を前記X線センサによって検出してマーカまたは病巣組織の位置を同定する装置において、1または2以上のX線源が、平面または円弧状曲面に配置されたX線源群と、前記X線源群に対向して1または2以上で構成された平面または円弧状曲面形状のX線センサが配置され、患者の病巣組織近傍に埋め込まれるマーカと、前記X線源群の照射タイミングを制御するX線源制御装置と、前記X線センサの位置、角度等を制御するX線センサ制御装置と、前記X線センサの出力データを画像処理して再構成画像を作成する画像処理装置と、前記X線源制御装置、前記X線センサ制御装置および前記画像処理装置を制御する中央処理装置と、前記マーカまたは病巣組織の撮像画像を表示する画像表示装置とを備え、前記X線源群および前記X線センサは、前記カウチに取り付けられ、前記X線源制御装置および前記X線センサ制御装置からの信号によって、各々その位置および姿勢を制御することができ、前記X線源群のX線源は、前記X線源制御装置の信号に従って逐次1台ずつ照射し、前記X線センサおよび前記画像処理装置は、前記X線源より照射されたX線を逐次検出して、リアルタイムに前記マーカまたは病巣組織の3次元の位置を同定することを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置である。
【0011】
本発明による請求項2記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置は、請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線源群は、1または2以上の未封入のX線源が、平面または円弧状曲面に配置され、全ての前記X線源が1の真空容器内に封入されたことを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置である。
【0012】
本発明による請求項3記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置は、請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線源は、X線ビームの焦点スポット径が100μm以下のマイクロフォーカスX線源であることを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置である。
【0013】
本発明による請求項4記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置は、請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線センサおよび前記画像処理装置は、前記マーカまたは病巣組織の3次元の位置を5ms以下で同定することを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置である。
【0014】
本発明による請求項5記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置は、請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線源群および前記X線センサは、6軸または7軸ロボットアームに対向関係を維持して取り付けられ、前記X線源制御装置および前記X線センサ制御装置からの信号によって、各々その位置および姿勢を制御することができることを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置である。
【0015】
本発明による請求項6記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置は、請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記マーカは、形状記憶合金製または超弾性合金製であって、前記病巣組織近傍に埋め込まれることによってコイル状または有刺形状に変形することを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置である。
【0016】
本発明による請求項7記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置は、請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線源は少なくとも2種類の出力エネルギーを選択的に切り替えて、交互に照射することができることを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置である。
【0017】
本発明による請求項8記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置を用いたX線治療方法は、X線治療に先立って策定された治療計画に基づいて、治療用X線源で病巣組織に照射して行うX線治療において、1または2以上のX線源が、平面または円弧状曲面に配置された位置検出用X線源群と、前記位置検出用X線源群に対向して1または2以上で構成された平面または円弧状曲面形状の位置検出用X線センサが配置され、患者の病巣組織近傍に埋め込まれるマーカと、前記位置検出用X線源群の照射タイミングを制御するX線源制御装置と、前記位置検出用X線センサの位置、角度等を制御するX線センサ制御装置と、前記位置検出用X線センサの出力データを画像処理して再構成画像を作成する画像処理装置と、前記X線源制御装置、前記X線センサ制御装置および前記画像処理装置を制御する中央処理装置と、前記マーカまたは病巣組織の撮像画像を表示する画像表示装置とを備え、前記位置検出用X線源群のX線源は、前記X線源制御装置の信号に従って逐次1台ずつ照射し、前記位置検出用X線センサおよび前記画像処理装置は、前記位置検出用X線源群より照射されたX線を逐次検出して、リアルタイムに前記マーカまたは病巣組織の3次元の位置を同定することを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置の出力データと治療計画データとを逐次比較照合し、前記データ間に差異がある場合は、前記治療計画データに一致するように治療用X線源の照射条件を補正し、病巣組織に向けて照射し、照射された治療用X線源のX線を治療用X線検出センサによって検出し、検出されたデータと前記治療計画データ間に差異がある場合は、前記治療用X線源の照射条件を前記治療計画データに一致するように補正しながら前記治療用X線源を繰り返し照射することを特徴とするX線治療方法である。
【0018】
本発明による請求項9記載のX線治療方法は、請求項8記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置を用いたX線治療方法において、治療計画策定後、X線治療のためカウチ上に仰臥した患者に対して、前記病巣組織リアルタイム位置同定装置を使って前記マーカまたは病巣組織の3次元の位置を同定し、前記病巣組織リアルタイム位置同定装置の出力データと前記治療計画データとを比較照合し、前記データ間に差異がある場合は、前記カウチの位置または姿勢を補正して、前記マーカまたは病巣組織の位置および姿勢を前記治療計画データに合致させた後、X線治療を実施することを特徴とするX線治療方法である。
【発明の効果】
【0019】
以上の構成の本発明によれば、X線治療において、病巣組織の位置同定をリアルタイムにしかも高精度に行うことができる小形の病巣組織位置同定装置を提供することができる。本発明による病巣組織位置同定装置をX線治療装置に組み込むことによって、高速、高精度でしかも小形のX線治療装置を構成することができ、多くの医療機関への普及が期待される。さらに、本発明による位置同定装置で用いられ病巣組織近傍に埋め込まれるマーカは、埋め込むまでは直径10μm以下の線状なので、注射器のような注入器によって、患者に負担をかけることなく容易に埋め込むことができる。しかも、埋め込み後は、コイル状などの形状に変化するので組織内で移動しにくく、またX線撮像で明確に認識できる。さらに、本発明による病巣組織位置同定装置を使用するX線治療方法によれば、X線治療を開始する直前に、治療計画データの検証を行って、治療計画データ取得時からマーカや病巣組織の状態に変化がないか治療計画データの検証を行うことができるので、X線治療の精度が向上する。また、マーカや病巣組織の動きをリアルタイムに検出し、その位置を同定することができるので、X線照射のタイミングを選ぶことなく、高速にX線治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置の実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置のX線源群の実施例を示す構成図である。
【図3】本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置のX線源群のその他の実施例を示す構成図である。
【図4】本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置で使用するマーカの説明図であり、(a)は形状記憶合金製のマーカ(マルテンサイト変態状態)とその注入器の概略図、(b)は形状記憶合金製のマーカ(逆変態状態)の概略図、(c)は超弾性合金製のマーカ(除荷状態)の概略図である。
【図5】本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を6軸または7軸ロボットに搭載した他の実施形態を示す構成図である
【図6】本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を使用するX線治療方法を説明するためのX線治療装置の実施例の構成図である。
【図7】本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を使用するX線治療方法の工程フロー図である。
【図8】本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を使用するX線治療方法を説明するためのX線治療装置の位置検出用X線源と治療用X線源の照射タイミングを示すタイミング図である。
【図9】従来のX線CT装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、各図中において同等または相当の機能を示す部分については同じ符号を用いている。
【0022】
図1は、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置の実施形態を示す構成図である。図2は、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置のX線源群の実施例を示す構成図である。図3は、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置のX線源群の他の実施例を示す構成図である。X線源群1とX線センサ2は、対向関係を維持して、カウチ9に取り付けられ、それぞれX線源制御装置5とX線センサ制御装置6によって、位置や姿勢を自由に制御することができる。
【0023】
〔位置同定用X線源〕X線源20は、電子源21、グリッド22、陽極23、電子レンズ25およびターゲット26で構成される。電子源21から放射された電子ビーム24は、グリッド22で中心軸に集束され、陽極23によって加速され、電子レンズ25によって、さらに集束されて、ターゲット26に直径100μm以下の微小焦点を結ぶ。ターゲット26に衝突した電子ビーム24によって、X線27が発生する。X線27は、コリメータ28によって照射野が絞られる。X線源20は、X線ビームの焦点スポット径が100μm以下のマイクロフォーカスX線源とする。マイクロフォーカスX線源を使用することによって、画像分解能が向上し、鮮明な透視画像を得ることができる。さらに、マイクロフォーカスX線源を使用することで、屈折コントラスト撮像法を適用できるので、一層鮮明な画像を得ることができる。また、X線源20の出力エネルギーを2種類に切り替えることによって、エネルギーサブトラクション法を適用することができる。これは、同一の被写体に対して2種類のエネルギー分布を有するX線を照射して2枚のX線画像を取得し、これら2枚のX線画像の各ピクセルを対応させて、それぞれの画像信号間で適当な重みづけ係数を乗算した後、減算を行って特定の物質の画像を表す差信号を生成する方法である。この方法を使用することによって、マーカや病巣組織を一層鮮明に画像化することができる。2種類のエネルギー分布をもったX線は、X線源の陰極−陽極間の電圧を制御して発生させる。以上説明したような撮像技術を使うことによって、病巣組織自体をX線撮像することができる。
【0024】
図2(a)は、スチール、セラミックまたはガラス製の真空容器29に封入されたX線源20を平面状に並べて配置した実施例であり、図2(b)は、真空容器29に封入されたX線源20を円弧状に並べて配置した実施例である。図2に示すX線源20は、単体で真空容器29に封入されている。
一方、図3(a)および(b)に示すX線源群1はひとつの真空容器29内に複数のX線源20を封入したものである。複数のX線源20は、スチール、セラミックまたはガラス製の真空容器29内に位置決め固定される。
図2に示すX線源群1は、X線源20が単体で真空容器に封入されているので、X線源20の台数の変更、取り換えなど取扱いが容易である。その反面、図3に示す実施例に比べて大形になり、しかも重量も重くなる。一方、図3に示すX線源群1は、図2に示すX線源群1に比べて、小形、軽量に構成することができる。その反面、X線源20の台数変更や取り換えは容易ではないので、用途に応じたX線源群1を準備する必要がある。
【0025】
〔位置同定用X線センサ〕図1において、X線センサ2は、フラットパネルセンサが好適に利用できる。フラットパネルセンサは、高速動作、高分解能な製品で市販され、普及している。また、フォトンセンサを使用すれば、さらに高速、高精度を実現することができる。本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置の目的は、病巣組織またはマーカの位置を同定することなので、フラットパネルセンサの全画素をスキャンする必要はなく、スキャン画素を間引くことによって、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置が必要とするフレームレートを確保することは可能である。X線センサ2は、単体でも2台以上配置してもよい。X線センサ2で検出されたマーカまたは病巣組織の2方向以上からの投影データは、画像処理装置7へ送出される。画像処理装置7は、DLT(Direct Linear Transformation)法などを用いて、マーカまたは病巣組織の2次元座標から3次元座標を求める。さらに、投影データを再構成して、3次元画像に変換する。施術者は、マーカまたは病巣組織の3次元画像を画像表示装置8によって確認しながらX線治療を行うことができる。
【0026】
〔中央処理装置等〕中央処理装置4、X線源制御装置5、X線センサ制御装置6および画像処理装置7は、カウチ9を支える台座に収めることが好ましい。これによって、病巣組織リアルタイム位置同定装置を一層小形化することができる。
【0027】
図4は、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置と共に使用し、病巣組織近傍に埋め込むマーカの外形図である。病巣組織の近傍に埋めるマーカは、従来、人体に悪影響がなく、X線を良く吸収する重金属、例えばAuやPt製の直径1〜2mmの球形あるいは直径0.3mm以上のコイル形状であった。この種のマーカは、切開手術または専用ニードルを用いて、病巣組織の近傍に埋め込むため、患者への負担が大きかった。
【0028】
本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置に使用するマーカは、Pd、Au、PtおよびTiなど人体に無害な金属によって組成される形状記憶合金製または超弾性合金製であって、体内に埋め込む前は、図4(a)に示すように直径数μmの線材31である。これは、コイル状形状に記憶処理されたマーカをマルテンサイト変態温度以下で引き伸ばし線状化したものである。この線状化したマーカが体内に埋め込まれると、体温によってマルテンサイト変態温度以上に上昇し、コイル状形状に逆変態し、図4(b)に示すように、直径10μm〜100μm、長さ0.1mm〜1mmのコイル状に変化する。本発明による装置で使用するマーカは、図4(a)に示すような注入器32によって病巣組織近傍に埋め込まれる。注入器32の先端部は、細い注射針と同様なので、患者への負担を大幅に軽減することができる。また、マーカを超弾性合金によって製造することで、体内に埋め込まれた後は、図4(c)に示すように、有刺形状34に広がり、病巣組織近傍に確実に留置される。
【0029】
図5は、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を6軸または7軸ロボットに搭載した他の実施形態を示す構成図である。病巣組織リアルタイム位置同定装置を6軸または7軸ロボット30に搭載することによって、同装置をカウチに取り付けた場合に比べて、多様な照射姿勢をとることができるので、マーカまたは病巣組織のより正確な位置情報および再構成画像を取得することができる。さらに、治療用X線源を搭載したロボットと一体化することで、X線治療装置を一層小形化することができる。
【0030】
〔X線治療方法〕図6は、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を使ったX線治療方法を説明するためのX線治療装置の実施例の構成図を示す。図1の本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置の実施形態を示す構成図に、治療用X線源10および治療用X線検出センサ11が付加されている。図7は、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を使ったX線治療方法の工程を示すフローチャートである。図8は、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を含むX線治療装置における位置検出用X線源と治療用X線源の照射タイミングを示すタイミング図である。図6乃至図8を使って、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を使用するX線治療方法について説明する。
【0031】
X線治療に先立って、CT、MRIなどの装置を使って、治療対象部位すなわち標的体積の決定を行い、X線治療のための照射方法、照射野、X線ビームの線質、線量分割法などを含めた適切な治療計画が策定される(ステップ40)。一般的なX線治療の手順では、治療計画策定後、具体的なX線治療のステップへ移るが、本発明によるX線治療方法においては、大きく3つのステップに分かれる。図7において、第1のステップは、X線治療の直前に、本発明による病巣組織リアルタイム位置同定装置を使って、治療計画データの検証を行うステップである(ステップ50)。この検証は、治療対象病巣組織(以下、治療対象ターゲットという)またはその近傍に埋め込まれたマーカ3の状態が治療計画策定後変化していないか確認することを目的とする。位置検出用X線源から低エネルギーのX線を治療対象ターゲット又はマーカに照射して(ステップ51)、X線治療開始直前の治療対象ターゲット又はマーカの位置情報や形状情報を取得し、治療計画データと比較照合する(ステップ52)。この検証の結果、治療計画データとX線治療開始直前のデータ間に差異がある場合は、治療計画データに合致するように、カウチ9の位置や姿勢を補正し、必要に応じて、治療用X線源10の設定条件の補正を行う(ステップ54)。
【0032】
治療計画データの検証が完了した後、第2のステップ(ステップ60)および第3のステップ(ステップ70)から構成される具体的なX線治療のステップに移る。ステップ62からステップ76までの一連のステップは、病巣組織の治療に必要な線量を確保するため、200pps以上(5ms以下)の繰返し周期で実行される。これは、治療用X線源10の照射時間が、X線源を構成するマイクロ波源の制約から約4μsに制限を受けるためである。治療計画装置を構成する各機器は、まず最初に初期値に設定される(ステップ61)。この時、前記治療計画データの検証結果は初期値に反映されている。ステップ60は、X線治療中移動する治療対象ターゲット又はマーカの動きをリアルタイムに追跡し、その位置を同定するステップである。まず、位置検出用X線源群1が治療対象ターゲット又はマーカに向けてX線を照射する(ステップ62)。位置検出用X線は、低エネルギーのため、位置検出用X線センサ2が十分に認識するまで時間を要し、例えば、3ms必要となる。位置検出用X線の照射が終了した後、図8に示す治療対象ターゲット又はマーカの位置同定時間(TSHX )内に治療対象ターゲット又はマーカの位置を検出し(ステップ63)、そのデータと治療計画データの位置情報および画像データが比較照合されて、治療対象ターゲット又はマーカが同定される(ステップ64)。この位置同定時間(TSHX )は、2ms以下に設定される。このように、治療対象ターゲット又はマーカの位置同定を5ms以下で実行することができる。
もし、治療計画データと位置検出用X線源によって検出されたデータ間に差異がある場合は、治療用X線源10の照射条件を補正する(ステップ66)。
【0033】
次に、ステップ70の具体的なX線治療ステップに移る。治療用X線源10から高エネルギーの治療用X線が治療対象ターゲットに向けて照射される(ステップ71)。この照射のタイミングは、図8に示すように、治療対象ターゲット又はマーカの位置同定時間(TSHX )後に照射される。治療用X線の照射時間(TWHX )は、位置検出用X線源の照射時間(TWLX )に比べると十分に短く設定され、4μs程度である。照射された治療用X線は、治療対象ターゲットを透過して治療用X線検出センサ11で検出される(ステップ72)。この検出されたデータは、治療計画データと比較照合されて、治療計画データ通りに照射が行われたか検証される(ステップ73)。検証の結果、差異がある場合は、治療用X線源の照射条件が補正されて(ステップ75)、次の照射に反映される。以上説明したステップ62からステップ76までの一連のX線治療ステップは、治療計画データに基づいてX線治療終了まで繰り返し実行される。
【0034】
以上、詳しく説明した実施例について、本発明の範囲内で種々の変形を施すことができる。位置検出用X線源20の任意の配置や個数の組み合わせにより、多種な患部に適した多様な位置同定用X線源の準備が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 X線源群
2 X線センサ
3 マーカ又は病巣組織
4 中央処理装置
5 X線源制御装置
6 X線センサ制御装置
7 画像処理装置
8 画像表示装置
9 カウチ
10 治療用X線源
11 治療用X線検出センサ
20 X線源
21 電子源
22 グリッド
23 陽極
24 電子ビーム
25 電子レンズ
26 ターゲット
27 X線
28 コリメータ
29 真空容器
30 6軸又は7軸ロボット
31 マルテンサイト変態状態の形状記憶合金製マーカ
32 マーカ注入器
33 逆変態状態の形状記憶合金製マーカ
34 除荷状態の超弾性合金製マーカ
40 治療計画策定ステップ
50 治療計画データ検証ステップ
60 マーカ又は病巣組織位置同定ステップ
70 X線治療ステップ
100 撮像リング
101 X線源
102 X線
103 被写体
104 X線検出器アレイ
105 制御回路
106 信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と前記X線源に対向して配置されたX線センサを備え、カウチに仰臥する患者の病巣組織近傍に埋め込まれたマーカまたは病巣組織に向けて前記X線源よりX線を照射し、照射されたX線を前記X線センサによって検出してマーカまたは病巣組織の位置を同定する装置において、
1または2以上のX線源が、平面または円弧状曲面に配置されたX線源群と、
前記X線源群に対向して1または2以上で構成された平面または円弧状曲面形状のX線センサが配置され、
患者の病巣組織近傍に埋め込まれるマーカと、
前記X線源群の照射タイミングを制御するX線源制御装置と、
前記X線センサの位置、角度等を制御するX線センサ制御装置と、
前記X線センサの出力データを画像処理して再構成画像を作成する画像処理装置と、
前記X線源制御装置、前記X線センサ制御装置および前記画像処理装置を制御する中央処理装置と、
前記マーカまたは病巣組織の撮像画像を表示する画像表示装置と、
を備え、
前記X線源群および前記X線センサは、前記カウチに取り付けられ、前記X線源制御装置および前記X線センサ制御装置からの信号によって、各々その位置および姿勢を制御することができ、
前記X線源群のX線源は、前記X線源制御装置の信号に従って逐次1台ずつ照射し、前記X線センサおよび前記画像処理装置は、前記X線源より照射されたX線を逐次検出して、リアルタイムに前記マーカまたは病巣組織の3次元の位置を同定することを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線源群は、1または2以上の未封入のX線源が、平面または円弧状曲面に配置され、全ての前記X線源が1の真空容器内に封入されたことを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線源は、X線ビームの焦点スポット径が100μm以下のマイクロフォーカスX線源であることを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線センサおよび前記画像処理装置は、前記マーカまたは病巣組織の3次元の位置を5ms以下で同定することを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線源群および前記X線センサは、6軸または7軸ロボットアームに対向関係を維持して取り付けられ、前記X線源制御装置および前記X線センサ制御装置からの信号によって、各々その位置および姿勢を制御することができることを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記マーカは、形状記憶合金製または超弾性合金製であって、前記病巣組織近傍に埋め込まれることによってコイル状または有刺形状に変形することを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の病巣組織リアルタイム位置同定装置において、前記X線源は少なくとも2種類の出力エネルギーを選択的に切り替えて、交互に照射することができることを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置。
【請求項8】
X線治療に先立って策定された治療計画に基づいて、治療用X線源で病巣組織に照射して行うX線治療において、
1または2以上のX線源が平面または円弧状曲面に配置された位置検出用X線源群と、
前記位置検出用X線源群に対向して1または2以上で構成された平面または円弧状曲面形状の位置検出用X線センサが配置され、
患者の病巣組織近傍に埋め込まれるマーカと、
前記位置検出用X線源群の照射タイミングを制御するX線源制御装置と、
前記位置検出用X線センサの位置、角度等を制御するX線センサ制御装置と、
前記位置検出用X線センサの出力データを画像処理して再構成画像を作成する画像処理装置と、
前記X線源制御装置、前記X線センサ制御装置および前記画像処理装置を制御する中央処理装置と、
前記マーカまたは病巣組織の撮像画像を表示する画像表示装置と、
を備え、前記位置検出用X線源群のX線源は、前記X線源制御装置の信号に従って逐次1台ずつ照射し、前記位置検出用X線センサおよび前記画像処理装置は、前記位置検出用X線源群より照射されたX線を逐次検出して、リアルタイムに前記マーカまたは病巣組織の3次元の位置を同定することを特徴とする病巣組織リアルタイム位置同定装置の出力データと治療計画データとを逐次比較照合し、前記データ間に差異がある場合は、前記治療計画データに一致するように治療用X線源の照射条件を補正し、病巣組織に向けて照射し、照射された治療用X線源のX線を治療用X線検出センサによって検出し、検出されたデータと前記治療計画データ間に差異がある場合は、前記治療用X線源の照射条件を前記治療計画データに一致するように補正しながら前記治療用X線源を繰り返し照射することを特徴とするX線治療方法。
【請求項9】
請求項8に記載のX線治療方法において、治療計画策定後、X線治療のためカウチ上に仰臥した患者に対して、前記病巣組織リアルタイム位置同定装置を使って前記マーカまたは病巣組織の3次元の位置を同定し、前記病巣組織リアルタイム位置同定装置の出力データと前記治療計画データとを比較照合し、前記データ間に差異がある場合は、前記カウチの位置または姿勢を補正して、前記マーカまたは病巣組織の位置および姿勢を前記治療計画データに合致させた後、X線治療を実施することを特徴とするX線治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−234932(P2011−234932A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109491(P2010−109491)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(599008285)株式会社エーイーティー (8)
【Fターム(参考)】