説明

癌の拡張及び/又は転移の発生の識別、診断、防止又は治療におけるスラグ遺伝子又はその複製、転写又は発現生成物を使用する使用方法

本発明はスラグ遺伝子を発現する癌細胞を有する癌に罹っている患者のような癌患者における癌の転移の広がり又は発生の識別、防止又は治療に使用することができるスラグ遺伝子、その複製、転写又は発現生成物及びスラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はスラグ遺伝子の発現又は翻訳生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は癌細胞がスラグ(Slug)遺伝子を発現している癌を有する被験体のごとき、癌患者の癌の拡張及び/又は転移の発生の識別、診断、防止又は治療におけるスラグ遺伝子及びその複製、転写又は発現生成物、ならびにスラグ遺伝子の調節に関連するか又はその発現又は翻訳の生成物の排泄又は劣化に関連する生成物を使用する使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌治療における最近の進歩は癌の適切な治療を計画しかつ正確な見通しを行なうために、その正確な病巣部位及び他の組織への考え得る拡張を判断するために、癌の存在、癌の種類及びその段階を検知するためのその処理における高感度の方法を有することが必要であることを示している。癌の正確な診断はもっとも適切な治療(化学療法、外科的切除等)を選択しかつ治療効果のある治療の最終点を明示することによって患者の不安を減少することができるので、癌による死亡数を減少しかつ患者の生活の質を改善するのを助けることができる。
【0003】
予知マーカーは患者の癌の治療及び発生の重要な情報を供給する。実際に、ある種類の初期癌の治療における系統的な補助治療の適用に関して、高いリスク及び低いリスクの患者の識別が主要目的の1つである。種々の予知マーカーが知られており、古典的なマーカーは例えば腫瘍のサイズ、リンパ節の状態、組織の病的変化、ステロイド受容体の状態を検知し、第2世代マーカーは例えば増殖率、DNAの倍数関係、癌遺伝子、成長因子受容体及び糖タンパク質を検知し、それらは治療の決定を行なうのに非常に有用であることを示している(マグガイアー、タブリュー・エル著、アメリカ臨床癌研究学会の教育パンフレット、再起及び生存に関する予後経過を示す要因、第25回年次総会、第89頁乃至第92頁、1989年「McGuire,W.L.,Prognostic Factors for Recurrence and Survival,in Educational Booklet American Xociety of Clinical Oncology,25th Annual Meeting,89−92,1989」、コンテッソ等著、臨床癌研究ヨーロッパジャーナル、第25巻、第403頁乃至第409頁、1989年「Contesso et al.,Eur.J.Clin.Oncol.,25:403−409,1989」)。種々のマーカーを組み合わせることによって低いリスク及び高いリスクの患者を識別する目途を完全に満足させる公知の予知マーカーはないけれども、患者の予知の予測を改善することは可能かも知れず、それゆえ、研究は、癌の予知、治療後のその進行及び残留疾患において支援するためにすでに利用可能な予知マーカーに付加され得る新規な予知マーカーに関して継続している。しかしながら、癌の予知と同じように重要なのは、癌を有する被験者(癌患者)の疾患の重要度を判断するか、又は癌患者に施された治療の効果を監視する、癌をすでに発生しているそれらの患者における考え得る転移の診断である。
【0004】
癌の侵入及び転移の原因である遺伝子要素はまだ知られていない。それゆえ、簡単な方法で分析することができる侵入力の診断マーカーを認定するのが有用である。
【発明の開示】
【0005】
中胚葉性未分化細胞(mesenchymal)及び悪性腫瘍細胞の両方における種々の癌細胞において、通常の細胞に比べて、スラグ遺伝子及び/又はその複製、転写又は翻訳生成物(gDNA,mRNA又はタンパク質)について著しく上昇したレベルの発現が存在することが、意外にも、いまや見出され、それは現行の診断方法に対する代替的な方法を提案する。それは侵入力(癌の拡張及び/又は腫瘍の侵入)の診断マーカーとしてかつ癌細胞の侵入活性を調整するための治療標的としてスラグ遺伝子及び/又はその関連の生成物を使用することができるためである。それゆえ、スラグ遺伝子及びその複製、転写又は発現生成物、ならびにスラグ遺伝子の調節に関連する生成物又は発現又は翻訳のその生成物の排泄又は劣化に関連する生成物の発現又は抑制は癌患者の転移を発生する危険を評価するのに使用することができる。
【0006】
スラグ遺伝子及びその複製、転写又は発現生成物、ならびにスラグ遺伝子の調節に関連する生成物又は発現又は翻訳のその生成物の排泄又は劣化に関連する生成物の発現又は抑制は癌患者、特にその癌細胞が転移を発生するようなスラグ+(すなわち、その癌細胞がスラグ遺伝子を発現する)である癌に冒されている被験者の素因を評価するのに、又は腫瘍の悪影響を評価するのに、ならびに癌患者の疾患の重大度を評価するのに及び/又は癌患者に施された治療の効果を監視するのに使用することができる。
【0007】
それゆえ、本発明の1つの態様は生体外で(i)癌細胞が転移を発生するスラグ+である癌に冒されている被験者のような癌患者の素因を評価するか、又は(ii)癌患者の疾患の重大度を判断するか、又は(iii)癌患者に施された治療の効果を監視するための方法において、前記癌患者からの血液のサンプル又はその誘導体中における、前記患者の種に特有のスラグ遺伝子の複製、転写又は翻訳の少なくても1つの生成物及び/又はスラグ遺伝子の調節に関連するか又はその発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物を分析することを特徴とする生体外方法に関する。
【0008】
本発明の他の態様は癌細胞がスラグ+である癌に冒されている被験者のごとき癌患者における転移の発生を治療、防止又は最小にするための医薬組成物を開発するためにスラグ又はその作用の抑制体に関する。
【0009】
本発明のさらに他の態様は明細書に記載した内容から当該技術分野において通常の知識を有する者には明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1はCombitTA−スラグ移植遺伝子の構造ならびに成長因子を有していないBa/F3細胞の生存におけるスラグの発現及び作用を示す。図1AはCombitTA−スラグベクターを示す概略図である。図1BはBa/F3細胞(媒体中で−tet,+tet)中のCombitTA−スラグに関するRT−PCRによるスラグのテトラサイクリン依存発現の分析結果を示す。PCR生成物はナイロン膜に移されそしてスラグに特有のプローブにより分析された。アクチンがDNAの完全な状態及びローディング(loading)の同質性を確保するために使用された。図1CはIL−3の不存在下でスラグを発現するBa/F3細胞の生存に関する結果を示す。IL−3を供給された媒体中で急激に成長した細胞は0日で5×10 に達し、IL−3が取り出されそしてそれらは培養された。それはBa−F3+p190細胞と、IL−3の存在下で成長させたBa−F3細胞と、IL−3の不存在下で成長させたスラグでトランスフェクトさせたBa−F3細胞の生存できる細胞の数を示す。図1DはIL−3の取り出し後ヌクレオゾーム序列により細胞死亡が同時に起こることを示す。IL−3の取り出し後24時間で、低分子量のDNAは分離された。低分子量のDNAはBA/F3+BCR 細胞(レーン1)と、IL−3の存在下で成長させたBA/F3細胞(レーン2)と、IL−3及びドキシサイクリン(−tet)の不存在下で成長させたBA/F3Combi−スラグ細胞(レーン3)と、IL−3の不存在下でかつドキシサイクリン(−tet)の存在下で成長させたBA/F3Combi−スラグ細胞(レーン4)から生じた。DNAはα P−dCTPで最終的にラベル付けされ、2%アガロースゲル電気泳動により分解され、そして放射能写真撮影によって可視化された。
【0011】
図2はCombitTA−スラグ遺伝子導入マウスにおける移植遺伝子の発現を示す。図2AはEcoRIで消化後の尻尾から取った小断片からのDNAのサザン法による遺伝子導入マウスの識別を示す。マウススラグcDNAが移植遺伝子の検出のために使用された。RT−PCRによって移植遺伝子の発現が示されている(図2B)。CombitTA−スラグ及び内因性スラグの発現がCombitTA−スラグ及び対照マウスから得られた組織サンプルのRT−PCRにより分析された。PCR生成物はナイロン膜に移されそして特殊なプローブによるハイブリッド化によって分析された。アクチンがDNAの完全な状態及びローディング(loading)の同質性を確保するために使用された。図2Cはスラグ/−マウス(媒体中の−tet,+tet)からの骨髄のサンプルのCombitTA−スラグ用のRT−PCRによるスラグのテトラサイクリン依存の発現の分析結果を示す。
【0012】
図3はCombitTA−スラグ遺伝子導入マウスにおける中胚葉性未分化細胞癌の存在を示す。図3Aは野生型菌株及びCombitTA−スラグによりマウスの脾臓からのヘマトキシリン/エオシンで染色させた組織部分の巨視的な外観を示す。CombitTA−スラグマウスの脾臓は通常の脾臓の構造における変化を示す。図3Bはヘマトキシリン/エオシンで染色後のCombitTA−スラグマウスの固体腫瘍の組織構造の外観を示す図である。図3CはCombitTA−スラグマウスの種々の組織の組織構造の外観を示す図である。スラグ(スラグ+細胞)を発現する細胞は器官限界の社会秩序にそむき、個々に移動しかつ種々の領域に転移を発生する。図3Dは CombitTA−スラグマウスの白血病の表現型の特徴を示す。CombitTA−スラグマウスの血液細胞は流動血球計算によって分析され、異なる細胞が抗体の特殊な組み合わせにより識別され、10000個の細胞が各サンプルから分析され、そして死亡細胞はヨウ化プロピジウムで染色後の分析により排除された。
【0013】
図4はテトラサイクリンでの治療によるスラグ発現の抑制後のCombitTA−スラグマウスの表現型を示す。図4AはRT−PCRによる遺伝子導入のCombitTA−スラグマウス(水中における−tet,+tet)の血液中のスラグのテトラサイクリン依存発現の分析結果を示す。アクチンがDNAの完全な状態及び積み込み(ローディング)の同質性を確保するために使用された。図4Bは分析された血液の細胞及び4週間、テトラサイクリン(4g/l)での治療によりスラグ発現を抑制した後のCombitTA−スラグマウスのヘマトキシリン/エオシンで染色させた組織部分の細胞の表現型の特徴(流動血球計算による検討に従って)を示す。
【0014】
図5はBCR−ABLを発現する細胞中のスラグの発現を示す。ヒトスラグ(hSlug)及びマウススラグ(mSlug)の発現がRT−PCRにより分析されそして増幅生成物がナイロン膜に移されかつ特殊なプローブでのハイブリッド化によって分析された。アクチンがDNAの完全な状態及び積み込み(ローディング)の同質性を確保するために使用された。図5AはBCR−ABL、Ba/F3+p190(レーン1)及びBa/F3+p210(レーン2)の両方を発現しているBa/F3細胞中及びBa/F3細胞(レーン3)中のスラグの発現の分析結果を示す。図5BはBCR−ABL 及びBCR−ABL 遺伝子導入マウスからの血液中のスラグの発現の結果を示す。その結果は対照マウス(レーン1)及びBCR−ABL (レーン2乃至4)及びBCR−ABL (レーン5及び6)遺伝子導入マウスの血液から集められた。図5Cはスラグがヒト白血病系中及びt(9;22)を有する患者からのサンプル中に存在することを示し、すなわち、対照ヒト血液(レーン1)、骨髄白血病細胞系U937(レーン2)、白血病T ALL−SIL系(レーン3)およびKOPTI(レーン4)、プレ−B 697白血病細胞系(レーン5)、t(9;22)を有する患者からの血液(レーン6乃至8;患者1及び3はPh−B−ALLを現わし、そして患者2は骨髄母細胞の危機を現わす)、白血病細胞系t(9;22)−陽性K562(レーン9),TOM−1(レーン10)及びNalm−1(レーン11)中にスラグが存在することを示す。
【0015】
図6はスラグがBCR−ABLを発現しているマウスの腫瘍の発生に必要であることを示す。図6Aは血液塗布(ギムザ染色)及び組織(ヘマトキシリン/エオシンで染色された部位)の組織構造の外観を示す。図6Bは骨髄(bm)及び抗体の特殊な組み合わせを有する血液(pb)の流動血球計算による分析結果を示す。指示される遺伝子型のマウスは交配されかつ子孫の遺伝子型が決定された。強調すべきことは、BCR−ABL マウスはMac−1及びB220を同時に発現する萌芽期細胞(blastocytes)の存在を特徴づける急性リンパ母細胞白血病(B−ALL)を有していることにある。この型の白血病は、また、脾臓、肝臓及び肺の浸潤によって及び血液塗布中の中胚葉性萌芽期細胞(lymphoblastocytes)の存在によって特徴付けられている。しかしながら、BCR−ABL (マウスはスラグ(スラグ/−)不存在下においては白血病を発生しなかった。
【0016】
図7は乳癌の細胞系及び組織中のhSlugの発現の分析結果を示す。スラグの発現はRT−PCRによって分析された。レーン1は陽性を示す対照(スラグ、K562を発現するヒト系)を示し、レーン3はcDNAなしの対照を示し、レーン4−7は乳癌の初期組織を示し、レーン8はMCF−7細胞系を示す。
【0017】
図8は健康な(ヒト)個体の血液中のhSlugの発現の分析結果を示す。レーン1はcDNAなしの対照を示し、レーン2−3は陽性を示す対照のような乳癌を有する固体からの血液を示し、レーン4−8は健康な個体からの血液を示す。
【0018】
図9は転移した乳癌を有する(ヒト)個体中のhSlugの発現の分析結果を示す。hSlugの発現はRT−PCRによって分析された。レーン1は陽性を示す対照のようなK562を示し、レーン3はcDNAなしの対照を示し、レーン4−9は転移した乳癌を有する患者を示す。
【0019】
図10は段階TNMOにおける乳癌を有する(ヒト)患者のhSlugの発現の分析結果を示す。hSlugの発現はRT−PCRによって分析された。レーン1は陽性を示す対照のようなK562で、レーン3はcDNAなしの対照で、レーン4は転移した乳癌で、レーン5−6は段階TNMOの乳癌を示す。
【0020】
本発明は一般にスラグ遺伝子の発現が被験者の癌の拡張及び/又は腫瘍の浸潤に関連する発見に関するものである。それゆえ、スラグ遺伝子及びその複製、転写又は発現生成物、ならびにスラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はその発現又は翻訳生成物の排泄又は劣化に関連する生成物の発現又は抑制は癌細胞が転移を発生するスラグ+である癌に冒されている被験者のような癌患者の危険を評価するのに使用することができ、その結果として、スラグ遺伝子及びその複製、転写又は発現生成物、ならびにスラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はその発現又は翻訳生成物の排泄又は劣化に関連する生成物は癌の悪性のマーカーであり、そして癌の治療に関して非常に魅力的な標的を構成する。
【0021】
スラグ遺伝子は上皮−中胚葉性未分化細胞の転位に含まれるジンクフィンガー型(スラグ)「zinc finger type(Slug)」の転写因子をコード化する脊椎動物に存在する遺伝子である(ニート等著、化学、第264巻、第835頁乃至849頁、1994年「Nieto et al.,Science 264,835−849,1994」)。癌細胞の検出及び/又は治療におけるスラグ遺伝子又はその転写又は発現生成物の使用は国際出願公開第WO02/059361号パンフレットに記載されている。スラグ遺伝子及びその発現生成物(Slug)の使用も造血幹細胞の生体外膨張において、及び/又は男性の生殖器不全の問題の治療において、移植又は遺伝子治療用の造血幹細胞の切断において国際出願公開第WO03/046181号パンフレットに記載されている。
【0022】
いまや意外にも、スラグ遺伝子は健康な個体の血液中に発現されず、しかも実際には癌又は腫瘍細胞に発現されるということが発見されたのである。明らかにスラグ遺伝子は隣接する細胞に付着する癌細胞を阻止するE−カドヘリン(E−cadherin)の生成を抑制する。このプロセスにおいて、悪性細胞が転移を引き起こす他の組織及び器官に侵入し、それゆえスラグ遺伝子及びその複製、転写又は発現生成物、ならびにスラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はその発現又は翻訳の生成物の排泄又は劣化に関連する生成物の発現又は抑制は癌細胞が転移を発生するスラグ+である癌に冒されている被験者のような癌患者の素因を評価するために、又は腫瘍の悪性を評価するために、ならびに癌患者の疾患の重大度を評価するために及び/又は癌患者に施された治療の効果を監視するために使用することができる。
【0023】
従って、本発明の1つの態様は(i)癌細胞が転移を発生するスラグ+である癌に冒されている被験者のような癌患者の素因を評価するため、又は(ii)前記癌患者の疾患の重大度を評価するため、又は(iii)前記癌患者に施された治療の効果を監視するための生体外方法に関するものであって、該方法は前記被験者からの血液サンプル又はその誘導体における前記患者の種に特有のスラグ遺伝子の複製、転写又は翻訳の少なくても1つの生成物及び/又は前記スラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はその発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物を分析することからなっている。
【0024】
この明細書において使用された用語「分析」は測定及び/又は検出及び/又は識別及び/又は定量化することを含んでいる。
【0025】
さらに、使用された用語「被験者」は人間を含む哺乳動物のようなあらゆる脊椎動物を含んでいる。
【0026】
本発明の方法は癌を有する多くの被験者、すなわち癌に冒されている被験者又は癌細胞又は腫瘍細胞がスラグ遺伝子(スラグ+癌細胞)を発現する癌に冒されていると疑われる被験者に適用することができる。スラグ遺伝子を発現する癌細胞の例は、とくに、白血病及び個体腫瘍、例えば、急性脊髄白血病の細胞、t(17;19)転座を有する白血病細胞、リンパ腫、肉腫、例えばPAX3−FKHR転座を発現する平滑筋組織からなる悪性腫瘍の細胞のような中胚葉性未分化細胞癌又は上皮癌の細胞、BCR−ABLを発言する細胞、肺癌、例えば、小さい細胞の肺癌、婦人科腫瘍、卵巣癌、乳癌、結腸癌、例えば、カジャル(Cajal)間質細胞(SCF−依存細胞の1つの型)から引き出された結腸腫瘍等の細胞を包含している。特定の実施形態において、前記被験者は乳癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、肉腫、リンパ腫、白血病又は細胞がスラグ+である他の多くの癌のような中胚葉性未分化細胞癌又は上皮癌に冒されている人間である。
【0027】
癌を有する被験者から得られた血液サンプル又はその誘導体中の前記被験者の種に特有のスラグ遺伝子の複製、転写又は翻訳の少なくとも1つの生成物及び/又はスラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はその発現又は翻訳の生成物の排泄又は劣化に関連する生成物の存在は転移を発生する癌を有する被験者の素因を示している。そのうえ、前記生成物の存在及び量は癌を有する被験者の疾患の重大度及び/又は被験者に施された治療の有効性を評価しそして有効でない場合に被験者に適用される治療処方計画の変更を実施しそしてその有効性を監視するために癌を有する被験者に施される治療の効果を示すことができる。
【0028】
本発明の方法は前記被験者の種に特有のスラグ遺伝子の複製、転写又は翻訳の少なくとも1つの生成物及び/又はスラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はその発現又は翻訳の生成物の排泄又は劣化に関連する生成物を含む被験者からの血液サンプル又はその誘導体を使用して実施され得る。ここで使用されるような用語「血液」は血液全体又はその断片を包含する。血液は通常の方法によって被験者から採取される。血液誘導体は血漿、血清、細胞断片等を含み、これらは当該技術に熟練した者に知られる通常の方法によって得ることができる。血液誘導体は通常の方法によって被験者から採取される。
【0029】
特定の実施形態において、本発明の方法は細胞がスラグ+である癌を有する被験者のような癌患者からの血液サンプル又はその誘導体中の、例えば前記スラグ遺伝子又はその断片のゲノムDNA(gDNA)のような前記被験者の種に特有のスラグ遺伝子の複製の生成物の分析からなっている。
【0030】
他の特定の実施形態において、本発明の方法は細胞がスラグ+である癌を有する被験者のような癌患者からの血液サンプル又はその誘導体中の、例えばスラグ遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)、該mRNAの断片、前記スラグ遺伝子の転写又は発現の生成物をコード化するRNAに対する相補的DNA(cDNA)、該cDNAの断片、又はそれらの混合物のような被験者の種に特有のスラグ遺伝子の転写の生成物の分析からなっている。
【0031】
前記遺伝子の発現又は抑制を示すスラグ遺伝子の複製又は転写の生成物の分析は核酸を検出し、識別し及び/又は定量化するための適宜な試験の手段によって実施され得る。一般的に、前記試験はマッピング、配列化、ハイブリッド化、増幅化等の反応及び、例えば比色計、レントゲン線量測定器、ルミネッセンス(例えば、生物発光、化学発光等)等の技術により、放射性及び非放射性の適宜な技術による反応生成物の可視化に基づいている。前記試験の例は配列化、S1ヌクレアーゼによるマッピング、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)、ポリメラーゼ鎖反応と組み合わせた逆転写(RT−PCR)、質量的PCR、リアルタイムPCR、ハイブリッド化、サザン法、ノーザン法、RNA保護分析等を含んでいる。例示として、スラグ遺伝子の複製又は転写の生成物の分析は例えばRT−PCR及び適宜なマーカー、例えば放射性ヌクレオチド、ハプテン、酵素等で任意に標識化されたスラグに特有のプローブによるハイブリッド化により、スラグ遺伝子の複製又は転写の生成物のすべて又は断片の酵素増幅からなる分析により実施される。
【0032】
特定の実施形態において、スラグ遺伝子の発現(又は抑制)はスラグ遺伝子に対応しているmRNAのレベルを測定することによって又は生成されたスラグ遺伝子の複写の数を測定することによって評価することができる。この明細書で使用される意味において、mRNAのレベルの測定は対照サンプルの細胞中のスラグmRNAのレベルと前記mRNAのレベルを直接又は相対的に比較することによって試験サンプルの細胞中のスラグタンパク質に翻訳され得るmRNAのレベルを質的に又は量的に測定又は評価することが可能であるあらゆる方法を含んでいる。更に、生成されたスラグ遺伝子の複写の数の測定は複写の数を対照サンプルの細胞中に生成されたスラグ遺伝子の複写の数と直接又は相対的に比較することにより、試験サンプルの細胞中に生成されたスラグ遺伝子の複写の数を質的に又は量的に測定又は評価することが可能であるあらゆる方法を含んでいる。スラグ遺伝子の複写の数の測定はあらゆる適宜な通常の方法によって、例えば、染色体外の2倍の断片[染色体外の2倍の分(dmin)]又は一体化された均質に染色している領域(hars)を可視化することによって(ゲブハート等著、乳癌の研究及び治療、第8巻、第125頁、1986年「Gebhart et al.,Breast Cancer Res.Treat.8:125,1986」及びデュトリーラックス等著、癌遺伝子及び細胞遺伝子学、第49巻、第203頁、1990年「Dutrillaux et al.,Cancer Genet.Cytogenet.49:203,1990」)、又はスラグ遺伝子のヌクレオチド配列に鑑みて通常の方法によって得られた適宜なプローブを使用するハイブリッド化技術によって実施することができる。加えて、スラグmRNAのレベルは他の適宜な方法によって、例えば、ノーザン法、S1ヌクレアーゼによるマッピング、PCR,RT−PCR、ハイブリッド化の技術、アレイ等による分析によって決定することができる。
【0033】
他の特定の実施形態において、本発明の方法は細胞がスラグ+である癌を有する被験者のような癌患者からの血液サンプル又はその誘導体中の、例えば、前記被験者の種に特有のスラグ遺伝子の翻訳の生成物、例えば、スラグタンパク質又はその断片を分析することからなっている。
【0034】
スラグ遺伝子の翻訳の生成物の分析はタンパク質を検出し、識別し及び/又は定量化するあらゆる適宜な試験の手段によって、例えば、抗体、流動血球計算、プロテオミックス(proteomics)等の使用に基づく技術によって実施することができる。例として、スラグタンパク質の発現はウエスタンオロット検定又はドット−スロット検定(ジャルカネン等著、細胞生物学ジャーナル、第101巻、第976頁乃至第985頁、1985年「Jalkanen et.al.,J.Cell.Biol.101:976−985,1985)」及びジャルカネン等著、細胞生物学ジャーナル、第105巻、第3087頁乃至第3096頁、1987年「Jalkanen et al.,J.Cell.Biol.105:3087−3096,1987」)によって、又はスラグタンパク質又はその断片、例えばその抗原断片に対する抗体によって特定の認知が提供される抗原−抗体型の交差反応による複合体の形成及び複合体の可視化に基づいている免疫検定の手段によって分析することができ、前記複合体の可視化は放射性又は非放射性双方のあらゆる適宜な技術によって、例えば適宜なマーカーによって標識化される副次的な抗体をそのために適宜に使用している比色計、レントゲン線量測定器、ルミネッセンス(例えば、生物発光、化学発光等)等の技術によって形成される。前記免疫検定の例は、ELISA(酵素結合免疫吸着剤アッセイ)、RIA(放射線免疫アッセイ)、免疫組織化学、免疫傾向及び免疫沈降アッセイ等を含んでいる。使用される抗体はスラグタンパク質又はその断片に対する抗体、例えば担体と任意に結合されるスラグタンパク質の抗原断片に対する抗体である。抗体は多クローン又は好ましくは単クローンにすることができ、それらのクローンは例えばハイブリドーマ(融合細胞)技術(コーラー等著、ネイチャー、第256巻、第495頁、1975)年「Kohler et al.,Nature 256:495,1975」)を使用する通常の方法によって得ることができる。変形例において、抗体の断片、例えば、Fab,F(ab') 等を使用することができる。
【0035】
スラグ発現を測定するための他の方法は流動血球計算(ワード・エム・エス著、病理学、第31巻、第382頁乃至第392頁、1999年「Ward M.S.,Pathology,31:382−392,1999」)及びプロテオミック(パンデー・エム・アンド・エム著、ネイチャー第405巻、第837頁乃至第846頁、2000年「Pandey M.& Mann M.,Nature 405:837−846,2000」及びチャンバース等著、病理学ジャーナル、第92巻、第280頁乃至288頁、2000年「Chambers et al.,J.Pathol.192:280−288,2000」等を含んでいる。
【0036】
特定の実施形態において、スラグ遺伝子の翻訳の生成物の分析は、抗体の使用、例えばタンパク質又はその断片の決定基を認知するスラグタンパク質又はその断片に特有の多クローン抗体又は好ましくは単クローン抗体の使用、及び通常の方法によって形成された複合体の可視化を含んでいる検定(アッセイ)の手段によって実施される。
【0037】
加えて、スラグ遺伝子の翻訳の生成物の発現は適宜なマーカー、例えばX−線、核磁気共鳴(NMR)等によって検出可能なマーカーに結合される反スラグ抗体の使用に基礎を置いている生体内での画像診断技術を使用して生体内で検出することができる。画像による腫瘍診断の外観は腫瘍画像化(癌の放射化学的検出、エス・ダブリュー・バーチール及びビー・エー・ローデス出版、マソン・パブリッシング社発行、1982年「The Radiochemical Detection of Cancer,S.W.Burchiel&B.A.Rhodes,eds.,Masson Pablishing Inc.,1982」)に示されている。
【0038】
他の特定の実施形態において、本発明の方法は細胞がスラグ+である癌を有する被験者のような癌患者からの血液サンプル又はその誘導体中の被験者の種に特有のスラグ遺伝子の調節に関連する生成物の分析を含んでいる。ここに使用した表現「スラグ遺伝子の調節に関連する生成物」は核酸レベル及びタンパク質レベル双方においてスラグ遺伝子の調節に直接的又は間接的に含まれる生成物に関するものである。特定の実施形態において、スラグ遺伝子の調節に関連する生成物は該遺伝子の調節に伴われる転写因子である。スラグ遺伝子の調節に関連する前記生成物の例は幹細胞因子(SCF)、c−kitサイトカイン等を含んでいる。
【0039】
他の特定の実施形態において、本発明の方法は細胞がスラグ+である癌を有する被験者のような癌患者からの血液サンプル又はその誘導体中の被験者に特有のスラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物の分析を含んでいる。ここに使用される表現「スラグ遺伝子の発現又は翻訳のその生成物の排泄又は劣化に関連する生成物」は核酸レベル及びタンパク質レベル双方においてスラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に直接的又は間接的に伴われるあらゆる生成物に関連するものである。特定の実施形態において、スラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する前記生成物は核酸レベル及びタンパク質レベル双方においてスラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化を直接的に又は間接的に生じるタンパク質又は抗体である。
【0040】
スラグ遺伝子の調節に関連する生成物ならびにそれらの性質(ヌクレオチド又はペプチド)に依存しているスラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物は従来の方法によって分析することができる。
【0041】
特定の実施形態において、スラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はスラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物はヌクレオチドの性質からなり、該生成物はスラグ遺伝子の複製又は転写の生成物に関連して前述した核酸を適切な反応物(開始剤、プローブ、等)を使用して検出し、識別し及び/又は定量化するための適宜な試験によって分析することができる。
【0042】
そのうえ、他の特定の実施形態において、スラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はスラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物はペプチド又はタンパク質の性質からなり、該生成物はスラグ遺伝子の翻訳の生成物に関連して前述したタンパク質のようなタンパク質を検出し、識別し及び/又は定量化するための適宜な試験によって分析することができる。
【0043】
前述されたように、その細胞がスラグ+である癌を有する被験者のような癌患者から得られた血液サンプル又はその誘導体中の被験者に特有のスラグ遺伝子の複製、転写又は翻訳の生成物及び/又はスラグ遺伝子の調節に関する生成物又はその発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物の存在は癌の拡張及び/又は転移の発生に対する癌患者の素因を示すか、又は癌患者の疾患の重大度を示すか、又は患者に適用された治療の有効性を評価するために癌患者に施された治療の効果を示す。
【0044】
それゆえ、スラグ遺伝子の発現又はスラグタンパク質の活性のすべて又は部分的な抑制は転移を発生する癌を有する被験者の危険または素因を治療し、防止し又は最小にするために有用である。
【0045】
従って、本発明は更にその細胞がスラグ+(Slug+)である癌を有する被験者のような癌患者における転移の発生を治療し、防止し又は最小にするためのスラグ遺伝子、その複製、転写又は翻訳の生成物の減少、制止又は抑制に関するものである。スラグ遺伝子、その複製、転写又は翻訳の生成物の減少、制止又は抑制はスラグ又はその作用の抑制体の使用によって達成することができる。スラグ遺伝子、その複製、転写又は翻訳の生成物ならびにスラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はスラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物は癌患者の転移の発生の治療又は防止に使用することができるスラグ又はその作用の抑制体の研究に使用され得る。
【0046】
それゆえ、本発明の他の態様はその細胞がスラグ+(Slug+)である癌を有する被験者のような癌患者における転移の発生を治療し、防止し又は最小にするための医薬組成物を開発するためにスラグ又はその作用の抑制体を使用する使用方法に関するものである。
【0047】
この明細書に使用した用語「スラグ又はその機能の抑制体」は、スラグ遺伝子の発現に干渉し、スラグ遺伝子を減少し、無効にし又は抑制するあらゆる化合物ならびにスラグタンパク質又はスラグ遺伝子の作用と干渉することができる化合物又はスラグ遺伝子及びその複製、転写又は翻訳の生成物によって調節された作用を抑制するか又は減少する化合物、例えば、核酸レベル(gDNA,cDNA,RNA)又はタンパク質レベル(Slug)においてスラグと干渉するような能力を有する化合物を含んでいる。スラグ遺伝子及びその複製、転写又は翻訳の生成物によって調節された作用は細胞移動、例えば、上皮−中胚葉性未分化細胞のトランジションにおけるメラニン形成細胞及び造血細胞系の発生及び生存、ライジッヒ細胞の移動及び/又は生存、造血幹細胞の流動、DNA中のダメージに対する抵抗、放射に対する細胞の抵抗等を含んでいる。スラグ遺伝子及び/又はその複製、転写又は翻訳の生成物によって調節された作用は種々のメカニズムによって、例えばスラグの内因性の生成を抑止することによって抑止されるか又は減少させることができる。スラグの抑制体として潜在的に有用である化合物の例はジンクフィンガー型(zinc finger type)の非作用転写因子を含んでいる。
【0048】
一般的に、スラグ遺伝子の作用との干渉は抗体の使用によってタンパク質を不活性化するか又は優性遺伝子の欠点に匹敵する前記タンパク質の作用を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイムによって発生されるmRNAを不活性化しているその発現を防止することによって(チョー・ワイ等著、分子生物学ジャーナル、1997年、第273巻、第525頁乃至第532頁「Choo Y,et al.,J.Mol.Biol.,1997,273:525−532」及びコバレーダ・シー及びサンチェス−ガルシア・アイ著、血液、2000年、第95巻、第731頁乃至第737頁「Cobaleda C.and Sanchez−Garcia I.,Blood,2000,95:731−737」)及び/又は、一般的に、スラグ遺伝子の発現を抑制するか又は転写又は翻訳のその生成物の形成又は活性化を抑制するか又は抑止するあらゆる化合物を使用することによって、DNAレベルにおいて作用させることができる。例示として、前記スラグ又はその作用の抑制体はタンパク質、ペプチド、非作用の「ジンクフィンガー」型の転写因子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、抗体又は抗体断片にすることができる。
【0049】
特定の実施形態において、スラグの抑制体はアンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわち、スラグ遺伝子を発現する細胞、例えば、スラグタンパク質を発現する腫瘍細胞に投与されるとき、例えばスラグ遺伝子の発現を減少し、無効にし、又は抑制することができる化合物であり、かくして、スラグタンパク質のレベルを減少するか又はそれらを完全に除去するか、又はスラグ遺伝子の転写又は翻訳の生成物の形成又は活性化を抑制又は抑止することができる。前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは例えばスラグ遺伝子のmRNAに特別に結合する可能性があり、それによってスラグタンパク質のその翻訳を防止する。とくに、ヒトスラグ遺伝子(hSlug)又はヒトスラグタンパク質(hSlug)の、スラグ遺伝子及び/又はスラグタンパク質のgDNA,cDNA又はmRNAについての情報は国際出願公開第WO02/059361号パンフレットならびに前記書類に包含される参考文献に見出することができ、加えてマウススラグ遺伝子(mSlug)又はマウススラグタンパク質(mSlug)についての情報はニート等著の文献(ニート等、科学、第264巻、第835頁乃至第849頁1994年「Nieto et al.,Science,264:835−849,1994」)に見出することができる。前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは適切なヌクレオチド配列と非常に厳しい条件下でスラグ遺伝子又はその複製又は転写の生成物のヌクレオチド配列とハイブリッド化のための適切な長さとからなっている。例示によれば、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドはスラグ遺伝子のヌクレオチド配列又は例えば、65°Cで、SSPE 5×及び0.5% SDS又は同等の条件のような非常に厳しい条件下でスラグ遺伝子のヌクレオチド配列とハイブリッド化することができるヌクレオチド配列の少なくても8個の連続ヌクレオチド、好ましくは、少なくても12,16又は20個の連続ヌクレオチドからなっている。スラグ遺伝子の発現を防止するために使用され得るアンチセンスオリゴヌクレオチドの例は国際出願公開第WO02/059361号パンフレットに見出すことができる。
【0050】
他の特定の実施形態において、スラグ又はその作用の抑制体は完全なスラグタンパク質又は担体と任意に結合されるその抗原断片のようなその断片を認知する抗体のようなアンチ(反)スラグ抗体である。アンチ(反)スラグ抗体は従来の方法、例えばハイブリドーマ技術によって得ることができる、多クローン又は、好ましくは単クローンにすることができ。変形例において、抗体の断片、例えばスラグタンパク質又はその抗原断片を認知する従来の方法によって得ることができるFab,F(ab’) 等を使用することができる。
【0051】
本発明によって提供する医薬組成物は治療有効量及び医薬的に許容し得る賦形剤において少なくとも1つのスラグの抑制体又はその作用の抑制体からなっている。前記医薬組成物はスラグの1つ又はそれ以上の抑制体又はその作用の1つ又はそれ以上の抑制体、すなわち、スラグ遺伝子の発現を減少し、無効にし又は抑制することができる1つ又はそれ以上の化合物を含むことができ、それゆえ、特に、その癌細胞がスラグ+である癌を有する被験者のような癌患者の転移の発生を防止又は治療するのに有用である。腫瘍細胞又は癌のスラグ+細胞の例は特に白血病及び個体腫瘍、例えば、急性脊髄白血病の細胞、t(17;19)転座を有する白血病細胞、リンパ腫、肉腫、例えばPAX3−FKHR転座を発現する平滑筋組織からなる悪性腫瘍の細胞のような中胚葉性未分化細胞又は上皮癌の細胞、BCR−ABLを発現する細胞、肺癌、例えば、小さい細胞の肺癌、婦人科腫瘍、卵巣癌、乳癌、結腸癌、例えば、カジャル間質細胞(SCF−依存細胞の1つの型)から引き出された結腸腫瘍等の細胞を包含している。
【0052】
それゆえ、スラグの抑制体又はその作用の抑止体は更に付属又は主要な療法として前記腫瘍及び癌の治療に使用することができる。
【0053】
本発明によって供給される医薬組成物の生成に使用され得る賦形剤は特に前記医薬組成物を投与する方法に依存する。使用される賦形剤及びその製造方法の投与活性原理の種々の方法はガレニカル薬局の論文(Tratise of Galenical Pharmacy,C.Fauli and Trillo,Luzan 5,S.A.de Ediciones,1993)に見出すことができる。
【0054】
特定の実施形態において、本発明によって供給される医薬組成物は静脈経路(i.v.)又は腹腔経路(i.p.)による投与に向けられる組成物である。他の特定の実施形態において、本発明によって供給される医薬組成物はウイルス又は非ウイルスベクターとスラグ又はその作用の抑制体とからなる遺伝子療法における使用に向けられる組成物である。例示によると、前記ベクターは例えばレトロウイルス、アデノウィルス等に基礎を置いたウイルスベクター又はDNA−リポソーム、DNA−ポリマー、DNA−ポリマーリポソーム複合体等のような非ウイルスベクターにすることができる(アカデミックプレス社、1999年、フアン、フン及びワグナーによる編集、遺伝子療法のための非ウイルスベクター「Nonviral Vectors for Gene Terapy,editedby Huang,Hung&Wagner,Academic Press,1999」参照)。
【0055】
以下の実施例は本発明を例示しそしていずれの場合であっても本発明を制限するものではない。
【0056】
実施例1
スラグ発現の調節解除による癌の発生
I.材料及び方法
細胞培養
使用した細胞系はBa/F3造血先駆体細胞系(パラシオス及びシュタインメッツ著、細胞、第41巻、第727頁、1985年「Palacios and Steinmetz,Cell,41:727,1985」)及びヒトタンパク質BCR−ABL (Ba/F3+p190)及びBCR−ABL (Ba/F3+p210)を発現するBa/F3細胞(サンチェス−ガルシア及びグリュッツ著、アメリカ合衆国国立科学学会会報、第92巻、第2287頁乃至第5291頁、1995年「Sanchez−Garcia and Grutz,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92:5287−5291,1995」)を含んでいる。細胞は10%のウシ胎児血清(FBS)で補充されたダルベッコ変性イーグル媒体(DMEM)中に保持され、IL−3(インターロイキン−3)のソースとしてWEHI−3Bで調節された10%の媒体が必要なときに添加された。
【0057】
細胞トランスフェクション及び生存試験
Ba/F3細胞は20μgのCombitTA−スラグプラスミドでエレクトロポーレイション(960μF,220V)によってトランスフェクトされた。ネオマイシン抵抗細胞(Ba/F3+CombitTA−スラグ)の個体群がテトラサイクリン(20ng/ml)の存在及び不存在においてCombitTA−スラグの発現を検出するためにRT−PCR(逆転写−ポリメラーゼ鎖反応)によって分析された。これらの細胞はテトラサイクリンの不存在において成長されたときIL−3の使用中止に抵抗した。IL−3の使用中止に対する細胞の抵抗が確認され、そして細胞の生存能力がトリパンブルーの排除により測定された。
【0058】
RT−PCR
マウスの細胞系中及びマウス中のCombitTA−スラグ及び内因性のスラグの発現を分析するために、RT−PCRが50ngの任意のヘキサメロンと、3μgのトータルRNAと、200ユニットの逆転写酵素スーパースクリプトIIRNaseH(GIBCO/BRL)とを含有している20μlの反応容量において製造業者の指示に続いて実施された。以下に記載した特殊なプライマーの配列を使用して、1分間94°Cで、1分間56°Cでそして2分間72°Cで30サイクルが実施された。
−Combi−poyA−Bl:5’−TTGAGTGCATTCTAGTTGTG−3’;
−前進−mSlug:5’−GTTTCAGTGCAATTTATGCAA−3’;
−後退−mSlug:5’−TTATACATACTATTTGGTTG−3’.
【0059】
β−アクチンのRNAの増幅はRNAサンプルの品質を保証するために対照として使用した。
【0060】
加えて、ヒト細胞系中及びPh 陽性患者からの血液サンプル中のhSlugの発現を分析するために、PCR反応に使用されたサイクルのパラメータ及び特殊なプライマーの配列は以下のとおりであった。
hSlug:1分間94°Cで、1分間56°Cそして2分間72°Cで30サイクル、前進のプライマー5’−GCCTCCAAAAAGCCAAACTA−3’及び後退のプライマー5’−CACAGTGATGGGGCTGTATG−3’;
c−ABL:1分間94°Cで、1分間56°Cそして2分間72°Cで30サイクル、前進のプライマー5’−GTATCATCTGACTTTGAGCC−3’及び後退のプライマー5’−GTACCAGGAGTGTTTCTCCA−3’.
【0061】
c−ABLのmRNAの増幅はサンプルの品質対照として使用した。
【0062】
サザン法による分析
複数のマウスの尻尾の断片から得られたDNAは前述(ガルシア・フェルナンデス等著、1997年、アメリカ合衆国国立科学学会会報、第94巻、第13239頁乃至第13244頁「Garcia Hernandez et al.,1997,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,94,13239−13244」)したように制限エンドヌクレアーゼにより分解され、0.8%アガロースゲル電気泳動によって分離され、そしてハイボンド−Nフィルタ(アメルシャム)に移動された。DNAは紫外線照射に対する露光によりフィルタに定着された。フィルタは P(上記に引用したガルシア・フェルナンデス等著の1997年の文献)により放射性で標本化されたスラグの完全なcDNA(ペレス・ロサダ等著、2002年、血液、第100(4)巻、第1274頁乃至第1286頁「Perez Losada et al.,(2002),Blood,100(4):1274−1286」)に対応しているスラグの完全な配列からのcDNAプローブによりハイブリッド化された。
【0063】
遺伝子導入マウスの発生
CombitTA−スラグマウス
マウススラグcDNA(mSlug)(ニート等著、科学、第264巻、第836頁乃至第849頁、1994年「Nieto et al.,Science264:835−849,1994」)はCombi−tTAベクター中でクローン化された(シュルツ等著、1996、ネイチャー・生物工学、第14巻、第499頁乃至第503頁「Schultze et al.,(1996)Nature Biotechnology,14:499−503」)。集合体(アセンブリ)はNotIによる分解によって直線にするように切断され、そしてCBA×C57B/J6マウス(ジャクソン・ラボラトリー)の受精された卵子に注入された。遺伝子導入マウスはEcoRIによる分解後、尻尾の小さい断片からのDNAのサザン分析によって識別された。mSlugのcDNAは移植遺伝子の検出のために使用された。
【0064】
スラグΔ 突然変異を有するマウス
スラグタンパク質をコード化している完全な遺伝子配列の抑制によって発生された、スラグΔ 突然変異についてホモ及びヘテロ接合であるマウス(スラグΔ 突然変異マウス又はスラグのないマウス)は以前に説明した(チャン等著、1996年、発生生物学、第198巻、第2770頁乃至第2855頁「Jiang et al.,(1998),Developmental Biology,198:2770−2855」)。
【0065】
ヘテロ接合スラグ+/−マウス(スラッグΔ マウス)は複合ヘテロ接合マウスを生産するためにCombitTA−スラグ遺伝子導入マウス及びBCR−ABL遺伝子導入マウス(欧州特許第1354962号明細書)と交配された。第1世代の動物はCombi−tTA及びBCT−ABL に関してヘテロ接合スラグ(Slug−/−)を有しないマウスを得るために交配された。
【0066】
組織構造分析
この研究で扱われた動物は標準の死体解剖に服従させた。すべての主要な器官は解剖顕微鏡により検査され、それらの各々からのサンプルはパラフィンに埋め込まれ、断片が調製されかつ組織構造的に検査された。すべてのサンプルは解剖された組織の生存可能な同質の部分から得られかつ次の2〜5分で定着された。それから、ヘマトキシリン及びエオシンで染色された組織サンプルが再び検査された。同一年齢のマウスが比較研究のために使用された。
【0067】
表現型分析
以下の単クローン抗体が流動血球計算、CD45R/B220,Igm,Macl,Gr−1(ファルミンゲン)に使用された。ルーチン技術によって得られた種々の組織サンプルから得られた単一細胞懸濁液がそれぞれ室温又は4°CにおいてFc受容体への結合を阻止するためにマウスCD32/CD16に対する純化された抗体によりかつ種々の抗体の適宜な希釈により培養された。サンプルはリン酸塩で緩衝された生理食塩水(PBS)溶液によって2度洗浄されそしてPBS中で再度懸濁された。サンプル中の死亡細胞はヨウ化プロピジウムで染色することによって排除された。サンプル及びデータはFACScan流動血球計算によりかつセルクエスト(CellQuest)コンピュータプログラム(ベクトン・ディッキンソン)により分析された。
【0068】
低分子量DNAの分析
低分子量DNAは下記に記載したように分離された。細胞は1.5mlの培養液中に集められ、それらは1500rpm(400×g)で1分間遠心分離され、そしてペレットが300μlのプロティナーゼ(タンパク質分解酵素)K緩衝液中に懸濁された。55°Cで1晩培養後、DNAはエタノールにより沈殿され、50μg/mlのRNAase Aを含有している200μlのTE緩衝液(トリス−EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸))中で再び懸濁されそして37°Cで2時間培養された。DNAはフェノール/クロロフォルムにより抽出されかつエタノールで沈殿された。DNAアリコート(2μg)がα P−dCTPにより最終的に標本化されそして2%アガロースゲル電気泳動に従わした。電気泳動後、ゲル中のDNAはハイボンド−N膜(アメルシャム)に移されそして−70°Cで2時間、放射能写真撮影に服従させた。
【0069】
腫瘍形成能力の試験
種々の癌の腫瘍形成能力を調査するために、200μlのPBS中に懸濁された10細胞が無胸腺(毛がない)の雄のマウスの両脇腹に皮下注射された。その動物及び腫瘍の成長は3週間監視された。
【0070】
II.結果
CombitTA−スラグマウスの産出
スラグ発現の調節解除が癌の発生に必要かどうかを判断するために、幾つかの遺伝子導入(CombitTA−スラグ)が産出され、スラグ遺伝子の発現は外因的に調節させることができた。このため、単一プラスミドにおいて、遺伝子発現を方向付ける転写促進剤及びtet−オペレーター(tetO)最小プロモターを有するCombi−tTAシステムを使用した。この方法は同じ染色体の同じ点において前進cis形状におけるレポーター遺伝子についての転写促進剤の同一数のコピーの相互進化を保証し、かつ交配中の対照要素の遺伝子の分離を防止する。tetO最小プロモターの制御下でのmSlug遺伝子の挿入はBa/F3造血先駆体細胞系において試験されたCombitTA−スラグプラスミドを発生する(図1A)。VP16(tTA内)の生存可能な転写促進領域に溶解されたtet抑制体タンパク質はテトラサイクリンの不存在下で遺伝子工学的に処理されたtet最小プロモターに結合しかつCombitTA−スラグの転写を活性化する。エフェクター分子の不存在において、この遺伝子は発現されずそしてプロモターは抑圧される(図1B)。2日間培養後、テトラサイクリンの存在及び不存在の両方において、CombitTA−スラグの発現が測定された。この方法において、CombitTA−スラグの存在はテトラサイクリン(20ng/ml)の不存在においてBa/F3細胞中に検出されたが、テトラサイクリンの存在においては検出されなかった。これらのデータはテトラサイクリンがCombitTA−スラグの誘導を完全に抑制することを示している。スラグの発現がIL−3の使用中止によって誘発される断片化からBa/F3細胞を保護するという事実はすでに立証されている(イヌカイ等著、1999年、分子細胞、第4巻、第343頁乃至第352頁)。それゆえ、次に本発明はIL−3の使用中止後24時間、CombitTA−スラグを発現したBa/F3細胞の生存を調査した。スラグの発現はIL−3の使用中止によって誘起された死亡に抗するようにCombitTA−スラグを発現しているすべてのBa/F3細胞に十分であった。テトラサイクリンによる治療はIL−3の使用中止に対するBa/F3細胞の感度を取り戻した(図1C及び図1D)。
【0071】
CombitTA−スラグマウスの2つの転写遺伝子系が形成された(図2A)。両方において、CombitTA−スラグの発現が分析された組織のすべてにおいて再生可能に検出された(図2B)。前記CombitTA−スラグマウスの生理学的重要性がスラグなしのマウス(スラグΔ 突然変異マウス)と交配することによって分析された。突然変異スラグを有するホモ接合マウスを特徴づける貧血及び着色の欠点はCombitTA−スラグ遺伝子導入マウスと交配されたこの型のマウスには発生しなかった。CombitTA−スラグの発現は水中でテトラサイクリン(20ng/ml)を投与したマウスにおいて転写促進が検出不能なレベルに降下した(図2C)ので、転写促進によって引き起こされた。
【0072】
CombitTA−スラグ遺伝子導入マウスにおける癌の発生
ヒトにおいて、スラグは染色体異常(白血病又は肉腫)の結果として溶融遺伝子を発現する間葉癌細胞に結合される。この理由のために、本発明はCombitTA−スラグ遺伝子導入マウスが中胚葉性未分化細胞癌を発生したかどうかを調査し、そしてCombitTA−スラグ遺伝子導入マウスが9ヶ月の年齢から健康が衰え始める徴候を明らかに示したことを観察した。
【0073】
これらのマウスの臨床写真は中胚葉性未分化細胞癌の発生(90%が白血病をそして10%が肉腫を発生した)により、急激に悪化し(図3A及び図3B)、それはケージ内での移動の減少、増大した呼吸量、立毛、震え及び実質的な体重減少によって臨床的に特徴付けられた。この条件が持続しそして動物は犠牲にされた。肉眼による検査は脾臓肥大症(図3A)又は肉腫(図3B)を示した。一般的に、胸腺は正常であった。これらの観察は中胚葉性未分化細胞癌と一致した。しかしながら、上皮の変化又は悪性腫瘍はCombitTA−スラグの広い範囲の発現にも拘わらず分析されたCombitTA−スラグマウスのいずれにおいても観察されなかった。これらの動物の組織構造の検査は造血及び非造血組織の際立った白血病のろ過を現した(図3C)。分析された白血病のマウスからの血液の単核細胞は、B−細胞急性リンパ細胞白血病又は急性脊髄白血病として発生された白血病の診断を可能にした(図3のD)。
【0074】
CombitTA−スラグ遺伝子導入マウスから得られた健康なマウス中に皮下移植された細胞は組織構造の検査から推論され得るように、同一の型の腫瘍を発生した。そのうえ、腫瘍を形成している細胞がCombitTA−スラグ生成物の存在を現したPCRによってドナーから形成されることが立証された。このデータは悪性腫瘍としてCombitTA−スラグ遺伝子導入マウスに発生した腫瘍を特定することができ、スラグが中胚葉性未分化細胞癌を発生することを立証しそしてスラグが発生する拡張ための腫瘍の従前の形成を必要としないことを示す。
【0075】
スラグによって誘起された変化の不可逆性
上記の結果はスラグの発現が移動する能力を有する細胞を付与することを立証している。従って、スラグ(核酸又は発現生成物)は、ヒトの癌の侵入能力を制御するための魅力的な治療標的になる。そうであるならば、スラグを過剰に発現する細胞はスラグの発現のそれらのレベルの変更で成長及び拡張のパターンの変化を表示することが期待され得る。それゆえ、スラグの抑制の結果は10匹のCombitTA−スラグ遺伝子導入マウスの表現型の検査によって評価され、そのさい白血病の存在がテトラサイクリンによる治療前のそれらの血液の分析によって確認された。CombitTA−スラグ遺伝子導入マウスへの水中でのテトラサイクリン(4g/l)の2週間の投与はスラグの発現を抑制した(図4A)。しかしながら、テトラサイクリンによる治療に続いているスラグ発現の抑制にも拘わらず、分析された10匹のCombitTA−スラグマウスのいずれにおいても表現型の変形は観察されなかった。テトラサイクリンにより治療された動物の流動血球計算分析は血液中の白血病細胞の持続を現し(図4B)、そして組織構造の検査は非造血組織の侵入を確認した(図4B)。
【0076】
スラグの抑制はBCR−ABL 白血病の発生を生体内で阻止する。
中胚葉性未分化細胞癌に関連する癌遺伝子によってもたらされる悪性の形質変換を理解するための重大な段階はそれらの通常の環境外で細胞を成長させるこれらの腫瘍タンパク質によって変性される遺伝子の識別である。スラグが白血病及び肉腫を発生するのに十分でありそしてスラグの発現それ自体から独立してこれらの細胞の成長を引き起こすのに十分であることを立証したけれども、これらの結果は中胚葉性未分化細胞癌と関連する癌遺伝子が悪性の形質変換を発生するのにスラグを必要とすることを意味するものではない。BCR−ABL癌遺伝子(サンチェス−ガルシア・アンド・グリュッツ著、PNAS、1995年、第92巻、第5287頁乃至第5291頁)がこれを調査するためのモデルとして使用された。BCR−ABL癌遺伝子はBA/F3細胞中の及びBCR−ABLを発現する遺伝子導入マウスから引き出された萌芽期細胞中のスラグの発現を活性化する(図5A及び図5B)。スラグの発現は、また、Ph −陽性ヒト白血病を有する患者から得られた萌芽期細胞中に発生し、これに反してスラグ遺伝子の生成物は正常なヒトサンプルの細胞には存在しなかった(図5C、レーン1)。反対に、スラグは慢性の脊髄白血病CML)を有する患者及び急性のリンパ管白血病(ALL)を有する患者から引き出されたt(9;22)−陽性細胞系に存在しており、Ph −陽性の患者の細胞中及びt(9;22)がない他の白血病細胞系中にB早期697系、脊髄U937、及び細胞系T ALL−SIL及びKOPTI−KIを含んでいる(図5C)。これらの観察はスラグの発現が中胚葉性未分化細胞腫瘍に共通している特徴を示している。
【0077】
スラグがBCR−ABLによって誘起される白血病の発生に必要であるかどうかを示すために、本発明はスラグの存在及び不存在においてBCR−AABL の白血病誘導能力を調査した。ヒトにおいて、この癌遺伝子は脊髄マーカーを同時に発現する白血病のB細胞に結合される。次に、BCR−AABL 遺伝子導入マウスが生み出された。7乃至9ヶ月の年齢の間のBCR−AABL 遺伝子導入マウスの組織構造及び表現型の検査は造血及び非造血組織中に萌芽期細胞の存在を確認した(図6A)。ヒトに引き起こされる方法と非常に類似した方法において、これらの萌芽期細胞は脊髄及びB細胞マーカーを同時に発現する(図6B)。次に、本発明はスラグの不存在においてBCR−AABL −B−ALL(タイプBの急性リンパ母細胞白血病を有する遺伝子導入マウス「欧州特許第1354962号」)の生物学的調査を企てた。スラグ遺伝子の特殊な突然変異に関して、12匹のBCR−AABL 遺伝子導入マウスが生み出された。6乃至9ヶ月の間の年齢でこれらのBCR−AABL ×スラグ/−マウスの血液が周期的に分析されそして萌芽期細胞は検出されなかった。マウスは12ヶ月の年齢で犠牲にされ、そして死体解剖は造血及び非造血組織の顕著な形態異常がないことを示した。組織構造および表現型の双方の広い範囲の分析にも拘わらず、白血病の徴候はBCR−AABL ×スラグ/−マウスに観察されなかった(図6)。これらの結果は、スラグがBCR−AABL 癌細胞の発生に基本的な役割を演じていることを示している。
【0078】
III.解説
スラグを発現するマウスによって発生された表現型の態様の各々においてスラグの重要性が詳細に調査された。この調査は単一のプラスミドにおいてマウス中のテトラサイクリンによる遺伝子発現の増大した誘導及び顕著な制御を可能にするテトラサイクリンの初期の2成分系統の調節及び発現の要素を含んでいるシステムを使用した。マウスにおいて、スラグは上皮−中胚葉性未分化細胞トランジションに含まれなかった。この概念に従って、上皮の変化又は悪性腫瘍は分析されたCombitTA−スラグ遺伝子導入マウスのいずれにも観察されなかった。スラグを発現するマウス中のスラグの発現に関するヒト表現型のすべての態様の分析はこれらのマウスが中胚葉性未分化細胞癌、主として白血病を有していることを示した。
【0079】
造血システムにおいて、正常な妥協しない幹細胞は発達した細胞に分化した。このトランジション中にスラグの発現は不活性化されている。組織構造状況において、これらの正常な妥協しない幹細胞が移動するとき、スラグはそれらの生存を助けかつそれらにそれらの機能を達成させることを可能にする。これが一定の時間内に達成されない場合に、これらの細胞は特別な外部信号の不存在に応答して断片化を受ける。それゆえ、CombtTA−スラグ遺伝子導入マウスにおいて観察される中胚葉性未分化細胞癌は形質変換がそれらの通常の環境の外部で分化されない細胞を成長させるのを可能にする遺伝子の変化に依存することを生体内での立証を有している(図3)。これらの結果はスラグの発現が移動能力を有する細胞を付与することを明らかにしている。その場合にスラグはヒト癌の侵入能力を制御するための魅力のある治療標的になる。しかしながらスラグによって付与された生存が生体内で可逆である(図1)けれども、スラグによって誘起された変化は生体内でのその実際の発現から独立している。
【0080】
これらの発見はまたBCR−ABL癌遺伝子に依存する細胞の形質変換の体系にスラグの生物学的機能を見定めている。ここで示されたデータはBCR−ABL癌遺伝子がスラグの発現を誘発することを示している。実際にスラグの発現は中胚葉性未分化細胞腫瘍(白血病及び肉腫の両方)において稀ではなく、そして中胚葉性未分化細胞腫瘍において形質変換が他の遺伝子変化によって発生された。これは、スラグが腫瘍侵入にBCR−ABL−陽性白血病にだけでなく、また、他の中胚葉性未分化細胞癌に伴われるかもしれないことを示唆している。
【0081】
スラグがBCR−ABLによって誘発される白血病の発生に必要であるかどうかを示すために、BCR−AABL の白血病誘導能力がスラグの存在及び不存在において調査された。得られた結果はスラグがBCR−ABL癌の生物学において基本的な役割を有することを示している。これらのデータはBCR−ABL溶融タンパク質を含んでいる腫瘍細胞が種々の環境において欠陥のある細胞の異常な生存及び移動を促進する(図3)、スラグを構造的に発現するモデルと一致している。スラグは中胚葉性未分化腫瘍の細胞中に頻繁に見出されるので、スラグはBCR−ABLによる形質変換に特別に関連する役割より癌の生物学の一般的な役割を有することが可能である。かくして、スラグの発現は他のタンパク質と関連する白血病及び肉腫に共通する侵入のルートを構成する。
【0082】
結論において、スラグは中胚葉性未分化細胞腫瘍に広く分布している腫瘍侵入のメカニズムを呈示する。かくして、スラグは腫瘍侵入能力を制御するための魅力的な治療標的であり、そして悪性腫瘍のマーカーとして考えることができる。
【0083】
実施例2
癌の早期の拡張のマーカーとしてのスラグ遺伝子の発現
I.材料及び方法
乳癌の診断を有している124人の患者が選択され(転移した乳癌を有する81人の患者及び段階TNMOの乳癌を有している43人の患者)、患者が第1の治療サイクルを受ける前にそれらの患者から10mlの血液が採取され、そして患者が最後の治療サイクルを受ける前に同量が採取された。追加の化学療法による治療の終了において、患者は最初の2年間、3ヶ月ごとに監視され、そして次の3年の間、6ヶ月ごとに、すなわち、合計5年にわたって監視された。
【0084】
スラグ発現の分析
血液中のスラグ遺伝子の発現の判断に使用された手順(原理体系)は以下のとおりであった。
・製造業者の指示に従ってQIAamp(商標)キットを使用する末梢血液からRNAの抽出
・製造業者の指示に従ってDNAse Iを有するサンプルを治療することによる汚染DNAの除去
・製造業者の指示に従ってプロメガ(Promega)(商標)キットを使用するDNAseにより治療されたRNAからcDNAの獲得
・cDNAの完全な状態が適切なオリゴス(Oligos)によるアクチンの増幅によって確認された:
アクチン−F:5’−TAG GAA TCC ATG GCC ATG GCC ACT GCC GCA TCC TCT TCC−3’
アクチン−B:5’−CAC GAT GGA GGG GCC GGA CTC ATC−3’
1分間95°C、1分間55°C、1分30秒間72°Cで30サイクル
・スラグ遺伝子の発現を検出するためのRT−PCR。以下の特徴を有するオリゴスが使用された:
hSlug−F:5’−AGC GAA CTG GAC ACA CAT A−3’
hSlug−B:5’−AAT GCT CTG TTG CAG TGA G−3’
1分間95°C、1分間55°C、1分30秒間72°Cで30サイクル
・RT−PCRの結果を見るために、1時間55Vで、1%アガロースゲル中で電気泳動(ガルシア−フェルナンデス等著、1997年、PNAS、第94巻、第13239頁乃至第13244頁)。
・ナイロン膜への移動及びスラグプローブによるハイブリッド化(ガルシア−フェルナンデス等著、1997年、PNAS、第94巻、第13239頁乃至第13244頁)。
【0085】
II. 結果
最初に、細胞系及び乳癌の腫瘍組織中のスラグの発現が調査された。図7に示したように、乳腺癌から引き出されたMCF−7細胞系(図7、レーン8)、及び1次乳癌(図7、レーン4乃至7)の両方がスラグを発現する。
【0086】
乳癌中のスラグの存在を確認した後、乳癌を有している患者の血液中のスラグの発現の調査が企てられた。図8に示すように、スラグは健康な個体の血液中に発現されない;しかしながら、スラグの発現は生存可能な化学療法による治療により標的にされた転移した乳癌の場合の58%に検出された(図9)。
【0087】
スラグの発現が転移された乳癌の明白な大多数に検出された場合に、段階TNMOの乳癌と診断された患者の研究が企てられた。図10に示したように、スラグの存在は段階TNMOの乳癌を有する患者の65%に検出された。
【0088】
III.解説
得られた結果はスラグが乳癌及び他の種類の癌、即ち上皮及び中胚葉性未分化細胞の両方の癌の早期の広がりのマーカーとして役立つことができることを示している。それゆえ、血液中のスラグの発現の調査は癌患者において診断、治療の利益及び再発を監視するのに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】CombitTA−スラグ移植遺伝子の構造ならびに成長因子を有していないBa/F3細胞の生存中のスラグの発現及び作用を示す図である。
【図2】CombitTA−スラグ遺伝子導入マウスにおける移植遺伝子の発現を示す図である。
【図3】CombitTA−スラグ遺伝子導入マウスにおける中胚葉性未分化細胞癌の存在を示す図である。
【図4】テトラサイクリンでの処理によるスラグ発現の抑制後のCombitTA−スラグマウスの表現型を示す図である。
【図5】BCR−ABLを発現する細胞中のスラグの発現を示す図である。
【図6】スラグがBCR−ABLを発現しているマウスの腫瘍の発生に必要であることを示す図である。
【図7】乳癌の細胞系及び組織中のhSlugの発現の分析結果を示す図である。
【図8】健康な(ヒト)個体の血液中のhSlugの発現の分析結果を示す図である。
【図9】転移した乳癌を有する(ヒト)個体中のhGlugの発現の分析結果を示す図である。
【図10】段階TNMOの乳癌を有している患者(ヒト)のhSlugの発現の分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体外で、(i)転移を発生する癌を有する癌患者の素因を評価するか、又は(ii)癌患者の病気の重大度を判断するか、又は(iii)癌患者に施された治療の効果を監視するための方法において、前記癌患者からの血液のサンプル又はその誘導体中における前記患者の種に特有のスラグ遺伝子の複製、転写又は翻訳の少なくとも1つの生成物及び/又は前記スラグ遺伝子の調節に関連する生成物又はその発現又は翻訳の生成物の調節、排出又は劣化に関連する生成物を分析することを特徴とする生体外方法。
【請求項2】
スラグ遺伝子の複製の生成物がスラグ遺伝子のゲノムDNA(gDNA)のすべて又は断片からなることを特徴とする請求項1に記載の生体外方法。
【請求項3】
転写の生成物がスラグ遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)と、該mRNAの断片と、スラグ遺伝子の転写又は発現の生成物をコード化するRNAに対する補完DNA(cDNA)と、該cDNAの断片と、それらの混合物とから選択されることを特徴とする請求項1に記載の生体外方法。
【請求項4】
スラグ遺伝子の複製の生成物又は転写の生成物の分析が核酸を検出し、識別し及び/又は定量化するための手段によって実施されることを特徴とする請求項2又は3に記載の生体外方法。
【請求項5】
翻訳の生成物がスラグタンパク質又はその断片であることを特徴とする請求項1に記載の生体外方法。
【請求項6】
スラグタンパク質又はその断片がタンパク質を検出し、識別し及び/又は定量化するための試験の手段によって分析されることを特徴とする請求項5に記載の生体外方法。
【請求項7】
スラグ遺伝子の調節に関連する生成物が分析されることを特徴とする請求項1に記載の生体外方法。
【請求項8】
スラグ遺伝子の調節に関連する生成物の分析がその性質に依存して核酸又はタンパク質を検出し、識別し及び/又は定量化するための試験の手段によって実施されることを特徴とする請求項7に記載の生体外方法。
【請求項9】
スラグ遺伝子の調節に関連する生成物が遺伝子の調節にかかわる転写因子であることを特徴とする請求項1又は7に記載の生体外方法。
【請求項10】
スラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物が分析されることを特徴とする請求項1に記載の生体外方法。
【請求項11】
スラグ遺伝子の発現又は翻訳の生成物の調節、排泄又は劣化に関連する生成物の分析がその性質に依存して、核酸又はタンパク質を検出し、識別し及び/又は定量化するための試験の手段によって実施されることを特徴とする請求項10に記載の生体外方法。
【請求項12】
前記患者が人間であることを特徴とする請求項1に記載の生体外方法。
【請求項13】
前記患者は癌細胞がスラグ+である癌を有していることを特徴とする請求項1又は12に記載の生体外方法。
【請求項14】
前記患者が中胚葉性未分化細胞癌又は上皮癌を有していることを特徴とする請求項1又は13に記載の生体外方法。
【請求項15】
前記患者が白血病、リンパ腫、肉腫、肺癌、婦人科腫瘍、卵巣癌、乳癌、又は結腸癌を有していることを特徴とする請求項1又は13に記載の生体外方法。
【請求項16】
癌患者の転移の発生を治療、防止又は最小にするための医薬組成物を開発するためにスラグ又はその作用の阻害物質を使用する使用方法。
【請求項17】
スラグ又はその作用の阻害物質がスラグ遺伝子の複製、転写又は翻訳と干渉することができる生成物であるか、スラグタンパク質の作用又はスラグ遺伝子の作用と干渉することができる生成物であるか、又はスラグ遺伝子又は複製、転写又は翻訳のその生成物によって調節された作用を抑制又は減少する生成物であることを特徴とする請求項16に記載の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−517590(P2008−517590A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537315(P2007−537315)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国際出願番号】PCT/ES2005/000574
【国際公開番号】WO2006/045874
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(507136279)
【Fターム(参考)】