癌を治療するための無機セレン
本発明は、腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための方法および組成物における、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用、特に、栄養所要量を超える量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用を開示する。本発明はまた、腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための、セレン酸またはその薬学的に許容される塩と、ホルモン除去療法および細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤の1つまたは両方を組み合わせた使用を開示する。ある態様において、本発明の方法は、癌、特に、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌(例えば、前立腺癌)を治療または予防するのに有用である。さらに、本発明は、ホルモン依存性癌を治療するための方法および組成物における、セレン酸またはその薬学的に許容される塩と、ホルモン除去療法および任意に、細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を組み合わせた使用を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的には、腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための方法および組成物におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用、特に、栄養所要量を超える量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。本発明はまた、腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための、セレン酸またはその薬学的に許容される塩と、ホルモン除去療法、細胞増殖抑制剤、または細胞傷害剤の少なくとも1つを組み合わせた使用に関する。ある特定の態様において、本発明の方法は、癌、特に、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌(例えば、前立腺癌)の治療または予防に有用である。さらに、本発明は、ホルモン依存性癌を治療するための方法および組成物における、セレン酸またはその薬学的に許容される塩と、ホルモン除去療法、任意に、細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を組み合わせた使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌予防薬としてのセレン化合物の使用に大きな関心がある。過去20年に及ぶ研究から、乳腺(Ip, C. 1981, Cancer Res. 41 :4386-4390)、結腸(Reddy et al. 1981, Cancer Res. 47:5901-5904)、肺および前立腺 (Clark et al. 1996, Jama 276:1957-1963)の腫瘍において、セレン化合物に癌予防作用があることが述べられている。有機セレノメチオニンを用いた前立腺癌予防の第2相臨床試験および第3相臨床試験が現在行われている(Nelson et al. 1999, 前記)。
【0003】
化学予防研究に用いられるセレン化合物は大まかに無機セレン型と有機セレン型に分類することができる。無機セレンの代表的な形態である亜セレン酸ナトリウム(Na2SeO3)は比較的毒性があり、一本鎖および二本鎖切断DNA損傷を引き起こすのに対して、代表的な有機セレン実体であるセレノメチオニン(SeMet)は比較的毒性がなく、DNA損傷を引き起こさない(Lu et al. 1995, 前記; Sinha et al. 1996, 前記; Stewart et al, 1999, 前記)。
【0004】
有機セレノメチオニンは食事性セレンの主要な構成成分であり、一連の複雑な中間体を介して細胞のセレン含有タンパク質(例えば、チオレドキシン還元酵素およびグルタチオンペルオキシダーゼ)に取り込まれる(Allan et al. 1999, Annu. Rev. Nutr. 19:1-16)。これらのセレノシステイン含有セレン含有酵素(例えば、抗酸化物質グルタチオニン(glutathionine)ペルオキシダーゼおよび酸化還元を調節するチオレドキシン)は変異原性酸化ストレスに対する細胞応答に関与するので、栄養所要量を超えるセレン取り込みレベルは、細胞の還元環境を促進することによって細胞の抗癌活性を高めると長く提案されてきた(Allan et al. 1999, 前記)。
【0005】
しかしながら、セレン化合物の抗腫瘍作用の内容はセレン元素が投与される化学形態に左右されることが次第に明らかになってきている(IP, C. 1998, J. Nutr. 128:1845-1854)。メチルセレニン酸の形態をした有機セレンは、DU145前立腺癌細胞において、G1停止ならびにDNA断片化およびカスパーゼを介したPARP切断(これらはアポトーシスの2つのマーカーである)を誘導する(Jiang et al. 2001, Cancer Res. 61:3062-3070)。
【0006】
対照的に、亜セレン酸は、S期停止、およびカスパーゼ機能とは関係の無いアポトーシスDNA断片化を誘導する(Jiang et al. 2002, Mol. Cancer Ther. 1:1059-1066)。無機セレン化合物についても違いが報告されており、亜セレン酸およびセレン酸は異なる機構を介してリンパ球の成長を阻害する(Spyrou et al. 1996, Cancer Res. 56:4407-4412)。これらの違いは、部分的には、インビトロ細胞培養とインビボ研究の間の代謝およびバイオアベイラビリティの相違によって説明がつくかもしれない(Dong et al. 2003, Cancer Res. 63:52-59)。
【0007】
ホルモン依存性癌はホルモン受容体を有する腫瘍細胞を含み、これらの腫瘍細胞の成長および増殖はホルモンの存在によって促進される。ホルモン依存性腫瘍(例えば、前立腺癌、精巣癌、甲状腺癌、乳癌、卵巣癌、および子宮癌)の腫瘍細胞の成長および増殖を少なくともある一定の期間にわたって止めるために、ホルモン除去療法(外科的または化学的)が用いられる。
【0008】
前立腺癌はヒト男性における主要な癌であり、進行前立腺癌腫の成長を有する患者の治療は典型的には医学的去勢または外科的去勢を伴う(Huggins, C. and Hodges, C.V. 1941, Cancer Res. 1 :293-297)。80%までの患者が、中央値で12〜18ヶ月続く一時的応答を示した後に、去勢テストステロン値にもかかわらず、継続した腫瘍成長が明らかになる(Petrylak, D.P. 1999, Urology 54:30-35)。一旦、アンドロゲン非依存性の成長が確立したら、平均余命の中央値は9〜12ヶ月である。従来の化学療法は疼痛スコアを改善し、生活の質を高めることができるが、有意な生存上の利益を全くもたらさない。
【0009】
アンドロゲン非依存性成長への移行の根底にある分子機構は完全に理解されていない。受容体発現のアップレギュレーション、相手を選ばない(promiscuous)リガンド結合、ならびに他の成長シグナル伝達カスケードによるリガンド非依存性受容体トランス活性化を含む、アンドロゲン受容体シグナル伝達の変化が役割を果たしている可能性がある(Feldman, B.J. and Feldman, D. 2001, Nat. Rev. Cancer 1:34-45)。
【0010】
同時に、前立腺癌細胞は細胞死の誘導を防ぐ多数の機構を獲得し、これは、化学療法抵抗性の部分的な説明となる(Gurumurthy et al. 2001, Cancer Metastasis Rev. 20:225-243)。これにおけるPI3K/Akt経路の役割がますます認められてきている。Aktは、膜受容体によって刺激されたPI3Kリン酸化に応答して活性化されるセリン/スレオニンキナーゼである。次に、Aktは、Forkhead(FKHR)転写因子、Bad、カスパーゼ9、GSK-3β、およびmTORを含むアポトーシス制御に関与するいくつかのタンパク質の活性を調節する(Vivanco, I. and Sawyers, C.L. 2002, Nat. Rev. Cancer 2:289-501)。Aktの過剰活性はアンドロゲン非依存性前立腺癌においてよく見られ(多くの場合、PI3Kを不活性化するホスファターゼであるPTENの機能が低下した結果である)、アンドロゲン非依存性成長を引き起こすのに十分である(Whang et al. 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:5246-5250)。
【0011】
腫瘍細胞における放射線療法耐性もPI3K/Akt経路のアップレギュレーションと結び付けられている(Soderlund et al. 2005, Int. J. Oncol., 26:25-32; Zhan et al. 2004, Histol. Histopathol, 19:915-923; Tanno et al. 2004, Cancer Res., 64:3486-3490; Li et al. 2004, Oncogene, 23:4594-4602; McKenna et al., 2003, Genes Chromosomes Cancer, 28:330-338; Liang et al. 2003, Mol. Cancer Ther. 2:353-360)。
【0012】
セレン含有化合物を化学予防剤として臨床に使用することへの関心は、Clark et al. (1996, 前記)の発表後に広くいきわたるようになった。これらの結果は、前立腺癌の化学予防剤として栄養所要量を超えるセレノメチオニンを用いた多数のヒト臨床試験を盛んに促進した(Meuillet et al. 2004, J. Cell Biochem. 91:443-458)。しかしながら、前立腺癌の長い自然歴と比較して比較的短い介入時間を考えると、セレンは、正常な前立腺上皮から新形成へのトランスフォーメーションを阻止するのではなく、悪性細胞の成長を阻害する可能性が高い(Corcoran et al 2004, J. Urol. 171:907-910)。セレンの抗癌活性はセレン元素それ自体に関連するものではなく、セレンの化学的形態に左右されるという証拠が蓄積している(Menter et al. 2000, Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 9:1171-1182; Jiang et al. 2002, 前出; Kim et al. 2003, Biochem. Pharmacol. 66:2301-2311)。この活性の機構も不明である。
【0013】
しかしながら、投与されたセレン化合物に応じてインビボでのヒト前立腺腫瘍細胞の腫瘍進行に著しく違いがあることが注目されてきた。例えば、無機セレン酸ナトリウムは、有機セレノメチオニン、メチルセレノシステイン、またはセレン化酵母と比較して腫瘍進行を有意に遅らせる(Corcoran et al. 2004, 前記)。さらに、ある特定のセレン化合物(例えば、亜セレン酸ナトリウム)は、ある特定の用量で使用した時に細胞に対して毒性があることが見出されている(Jiang et al 2002,前記)。
【0014】
従って、癌成長を治療または予防するために適切な形態のセレン化合物を特定することが必要である。特に、より効果的な治療レジメを設計するために、癌細胞に対する様々なセレン化合物の、根底にある選択的な分子作用機構を理解する必要がある。
【発明の開示】
【0015】
発明の概要
本発明は一部、ある特定のタイプの無機セレン化合物(すなわち、セレン酸)が、特に、多量におよび栄養所要量を超える量で用いられた時に、他のセレン化合物と比較して腫瘍細胞の増殖(ホルモン非依存性腫瘍細胞およびホルモン依存性腫瘍細胞の増殖を含む)を有意に阻害するという発見に基づいている。セレン酸およびその薬学的に許容される塩は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞(特に、前立腺腫瘍細胞)に対して阻害作用を有し、細胞増殖抑制剤、細胞傷害剤、および放射線療法(放射線療法は任意に放射線増感剤と共に施される)の少なくとも1つと組み合わせて用いられた時に、腫瘍細胞成長に対して強い相乗的阻害作用を有することも見出されている。さらに、セレン酸およびその薬学的に許容される塩は、ホルモン除去療法、ならびに任意に、細胞増殖抑制剤、細胞傷害剤、および放射線療法(放射線療法は任意に放射線増感剤と共に投与される)の1つまたは複数と組み合わせて用いられた時にホルモン依存性腫瘍細胞の成長に対して阻害作用を有することが見出されている。
【0016】
従って、1つの局面において、本発明は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための方法を提供する。これらの方法は、一般的には、腫瘍細胞を、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩に曝露する工程を含む。ある態様において、Aktシグナル伝達経路の活性化は、Akt、mTOR、GSK-3β、およびFKHRより選択される少なくとも1つのメンバーの活性化を含む。このタイプの例示的な例において、Aktシグナル伝達経路の活性化はAktのリン酸化(例えば、AktのThr308残基およびSer473残基のリン酸化)を含む。他の態様において、Aktシグナル伝達経路の活性化はPTENの不活性化を含む。ある態様において、Aktシグナル伝達経路は過剰に活性化されている。ある態様において、腫瘍細胞が曝露されるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は栄養所要量を超える量である。適切には、腫瘍細胞は、口の扁平上皮癌、甲状腺癌、肝細胞癌、前立腺癌、線維肉腫、卵巣癌、子宮癌または子宮内膜癌、膵臓癌、胃癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、結腸癌、黒色腫、急性白血病、ならびに脳癌(例えば、星状細胞腫およびグリア芽細胞腫)より選択される。ある特定の態様において、腫瘍細胞は、前立腺癌細胞(ホルモン非依存性前立腺癌細胞を含む)である。
【0017】
別の局面において、本発明は、被験体において癌(特に、ホルモン非依存性癌またはホルモン依存性癌)を治療するための方法を提供する。これらの方法は、一般的には、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を被験体に投与する工程を含む。ある態様において、治療的有効量は栄養所要量を超える量である。ある特定の態様において、癌は、前立腺癌(特に、ホルモン非依存性前立腺癌またはホルモン依存性前立腺癌)である。従って、関連する局面において、本発明は、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を、前立腺癌(特に、ホルモン非依存性前立腺癌またはホルモン依存性前立腺癌)の治療を必要とする被験体に投与する工程を含む、前立腺癌を治療するための方法を提供する。
【0018】
さらに別の局面において、本発明は、ホルモン依存性の腫瘍細胞成長を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩およびホルモン除去療法に腫瘍細胞を曝露する工程を含む、腫瘍細胞のホルモン依存性成長を阻害するための方法を提供する。
【0019】
さらに別の局面において、本発明は、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩をホルモン除去療法と組み合わせて投与する工程を含む、被験体におけるホルモン依存性癌を治療するための方法を提供する。ホルモン依存性癌は、適切には、アンドロゲン依存性癌およびエストロゲン依存性癌より選択される。ある特定の態様において、ホルモン依存性癌は、前立腺癌などのアンドロゲン依存性癌である。ある態様において、ホルモン依存性癌は、前立腺癌、精巣癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮内膜癌、甲状腺癌、および下垂体癌より選択される。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0021】
なおさらなる局面において、本発明は、PC-3前立腺癌、3B6リンパ腫、BL41リンパ腫、およびHTB123/DU4473乳房腫瘍より選択される癌以外の、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0022】
なおさらなる局面において、本発明は、ホルモン依存性癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。ここで、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、ホルモン除去療法と組み合わせて投与するように処方される。
【0023】
さらに別の局面において、本発明は、癌を治療または予防するための薬学的組成物を提供する。この組成物は、一般的には、栄養所要量を超える量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩および薬学的に許容される担体を含む。
【0024】
前記で大まかに述べられた方法および使用のある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、細胞増殖抑制剤、細胞傷害剤、または放射線療法(放射線療法は任意に放射線増感剤と共に施される)の少なくとも1つと組み合わせて投与される。他の態様において、セレン酸は、少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を含む組成物に処方される。さらに他の態様において、セレン酸は、放射線療法と組み合わせて使用するために放射線増感剤を含む組成物に処方される。
【0025】
発明の詳細な説明
1.定義
特別の定義のない限り、本明細書において使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験において本明細書に記載のものと同様のまたは等価な任意の方法および材料を使用することができるが、好ましい方法および材料を説明する。本発明の目的のために、以下の用語を下記で定義する。
【0026】
冠詞「a」および「an」は、その冠詞の1つの文法上の対象または1を超える(すなわち、少なくとも1つまでの)文法上の対象を指すために本明細書において用いられる。一例として、「1つの元素(an element)」は1つの元素または1を超える元素を意味する。
【0027】
本明細書で使用する用語「約」は、基準となる数量、レベル、値、寸法、サイズ、または量に対して30%、20%、または10%と程度異なる数量、レベル、値、寸法、サイズ、または量を意味する。
【0028】
本明細書で使用する用語「Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量」とは、癌を治療もしくは予防する、または腫瘍細胞の成長を阻害するという状況では、Aktシグナル伝達経路を拮抗するのに有効な量または一連の用量のセレン酸を投与することを意味する。Aktシグナル伝達経路の拮抗は、Aktもしくは経路の上流メンバーの発現を阻止する、もしくは下げることによって、またはAkt遺伝子もしくは経路の上流遺伝子メンバーの発現産物のレベルもしくは機能活性を下げることによって、またはAktのリン酸化を阻止する、もしくは下げることによって、Aktの活性化を阻止する、もしくは下げることを含む。この量は、治療しようとする個体の健康状態および身体状態、治療しようとする個体の分類群、組成物の処方、医学的状態の評価、ならびに他の関連要因に応じて変化する。この量は、日常的な試験によって決定することができる比較的広い範囲の中に入ると予想される。ある特定の態様において、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量は、セレン酸の栄養所要量を超える量である。
【0029】
「アンドロゲン」とは、男性の性的特徴の発達を促すホルモンを意味する。アンドロゲンの非限定的な例には、テストステロン、アンドロステンジオン、ジヒドロエピアンドロステロン、およびジヒドロテストステロンが含まれる。
【0030】
用語「アンドロゲン依存性癌」または「アンドロゲン依存性腫瘍細胞」は、細胞の生存、成長、および/または増殖のためにアンドロゲンに依存する癌または腫瘍細胞を意味する。典型的には、「アンドロゲン依存性癌」は、アンドロゲン(例えば、テストステロンもしくは他の男性ホルモン)の過剰な蓄積、アンドロゲンに対するアンドロゲン受容体の感度の増大、またはアンドロゲンにより刺激される転写の増大に起因し、一般的には、アンドロゲン刺激の低下の恩恵を得る。
【0031】
用語「アンドロゲン非依存性癌」または「アンドロゲン非依存性腫瘍細胞」は、アンドロゲンの存在または非存在に非感受性の癌または腫瘍細胞を意味する。
【0032】
句「Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌」および「Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞」は、重要な細胞生存経路であるPTEN/PI3K/Akt経路が調節解除されている癌および腫瘍細胞を意味する。どの理論にも作用方法にも拘束されるつもりはないが、ホスホイノシチド3-キナーゼPI3Kの活性化が多様な栄養シグナルによって誘導されると、リン酸化脂質産物であるホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PIP3)およびホスホチジルイノシトール(phosphotidylinositol)-3,4-二リン酸(PIP2)が膜直下に蓄積すると考えられている(Vanhaesebroeck et al 2001, Annu. Rev. Biochem. 70:535; Cantley et al 2002, Science, 296:1655)。次に、これらのリン脂質の濃度が膜直下微小環境において上昇するとホスホイノシチド依存性キナーゼ(PDK-1およびPDK-2)が蓄積し、セリン/スレオニンキナーゼAktが活性化する。腫瘍抑制タンパク質PTENは、通常、PIP3をPIP2に変換する脂質ホスファターゼとして作用することによって、PI3Kの重要な負の制御因子として働く。PTENが不活性化またはPTEN機能が消失すると、Aktシグナル伝達経路は慢性的に活性化する。Aktが活性化されている、またはPTENが不活性化されている腫瘍細胞には、癌腫を含む様々なタイプの腫瘍細胞が含まれる。例えば、Aktが活性化されている、またはPTENが不活性化されている癌には、口の扁平上皮癌、甲状腺癌、下垂体癌、肝細胞癌(肝細胞癌腫を含む)、前立腺癌(前立腺癌腫を含む)、精巣癌、線維肉腫、卵巣癌(卵巣癌腫を含む)、子宮癌(子宮内膜癌を含む)、膵臓癌(膵臓癌腫を含む)、胃癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、結腸癌、黒色腫、急性白血病、ならびに脳癌(例えば、星状細胞腫およびグリア芽細胞腫)が含まれるが、これに限定されない。ある態様において、癌は、造血性新生物疾患(造血由来の過形成性細胞/新生細胞が関与する疾患(例えば、リンパ腫およびリンパ球性白血病)を含む)である。リンパ腫の非限定的な例には、T細胞リンパ腫(末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)、皮膚T細胞リンパ腫(CTCLs)、大顆粒リンパ球性白血病(LGFs)を含む)、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、および非ホジキンリンパ腫が含まれる。リンパ球性白血病の例示的な例には、低分化急性白血病(例えば、急性巨核芽球性白血病)、骨髄性疾患(急性前骨髄球性白血病(APML)、急性骨髄性白血病(AML)、および慢性骨髄性白血病(CML)を含むが、これに限定されない)、リンパ系悪性腫瘍(B細胞系列およびT細胞系列のものを含む急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、毛様細胞性白血病(HLL)、およびワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)を含むが、これに限定されない)が含まれる。
【0033】
句「Akt経路が過剰に活性化されている癌」、「Aktが過剰に活性化されている癌」などは、Aktが過剰に発現されているだけでなく、Aktのキナーゼ活性がThr308残基およびSer473残基のリン酸化によって正に高められている癌を意味する。これは、AktアイソフォームAkt3によって例証される。初代乳癌細胞株および初代前立腺癌細胞株では、Akt3 mRNAの発現レベルは正常細胞より約2〜4倍高いが、Akt3キナーゼ活性は約20〜60倍上昇している(Nakatani et al 1999, J. Biol. Chem. 274:21528)。Aktは、薬剤に耐性または抵抗性の腫瘍または癌において過剰に活性化されていることが多い。Aktが過剰に活性化されている癌またはAktが構成的に活性化されている癌の例には、アンドロゲン非依存性前立腺癌およびエストロゲン受容体欠損乳癌が含まれるが、これに限定されない。
【0034】
本明細書で使用する用語「癌腫」は、上皮細胞による被覆または裏打ちのある器官(例えば、皮膚、子宮、肺、乳房、または前立腺)において発生する癌の形態を意味する。癌腫は、周囲の器官に直接浸潤し得るが、必ずしも浸潤するとは限らず、肝臓、リンパ節、または骨などの離れた部位に転移し得る。
【0035】
本明細書および以下の特許請求の範囲の全体にわたって、状況によって特別に必要とされない限り、単語「含む(comprise)」ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの語尾変化は、述べられた整数もしくは工程または整数もしくは工程の集まりを含むことを意味するが、他の任意の整数もしくは工程または整数もしくは工程の集まりを排除することを意味しないことが理解されるだろう。
【0036】
本明細書で使用する用語「細胞増殖抑制剤」は、細胞増殖または細胞分裂を阻害することができるが、必ずしも細胞を死滅するとは限らない物質を意味する。適切には、細胞増殖抑制剤は癌細胞の増殖を阻害する。
【0037】
本明細書で使用する用語「細胞傷害剤」または「細胞傷害療法」は、細胞に対して有害であり、最終的には細胞死を引き起こす物質または療法を意味する。ある態様において、細胞傷害剤は、癌細胞などの急速に分裂している細胞を傷つけ、癌細胞死を引き起こす(特に、非癌細胞に損傷を与えることなく、または非癌細胞に対してより少なく損傷を与えながら、癌細胞死を引き起こす)。細胞傷害療法の一例は放射線療法である。
【0038】
本明細書で使用する用語「薬剤耐性」および「抵抗性」は、癌を治療するのに、または腫瘍細胞を死滅するのに通常用いられる治療に対して非応答性または部分的に非応答性の癌または腫瘍細胞を意味する。
【0039】
用語「ホルモン除去」および「ホルモン除去療法」は、癌細胞の生存および成長に必要であり得るホルモンを奪うことを意味する。ホルモン除去は、精巣または卵巣などのホルモン産生器官の外科的除去によって行われてもよく、ホルモン生合成もしくは分泌を妨げる化合物、ホルモン受容体を拮抗もしくはブロックする化合物、または手段によっては、ホルモンが生物学的効果を発揮しないようにする化合物を用いて化学的に行われてもよい。例えば、テストステロンから、より活性のあるジヒドロテストステロンへの変換は、フィナステリドなどの5α還元酵素阻害剤によってブロックすることができる。
【0040】
用語「ホルモン依存性癌」または「ホルモン依存性腫瘍細胞」は、生存、成長、および/または増殖のためにホルモンの存在に依存している癌または腫瘍細胞を意味する。ホルモン依存性癌には、前立腺癌、精巣癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮内膜癌、甲状腺癌、および下垂体癌が含まれるが、これに限定されない。
【0041】
本明細書で使用する用語「ホルモン依存性腫瘍細胞の成長を阻害する量」とは、癌を治療もしくは予防する、または腫瘍細胞の成長を阻害するという状況では、癌もしくは腫瘍細胞の成長および/もしくは増殖を阻害するのに有効な、または腫瘍細胞死を引き起こすのに有効な量または一連の用量のセレン酸を投与することを意味する。この量は、治療しようとする個体の健康状態および身体状態、治療しようとする個体の分類群、組成物の処方、医学的状態の評価、ならびに他の関連要因に応じて変化する。この量は、日常的な試験によって決定することができる比較的広い範囲の中に入ると予想される。ある特定の態様において、ホルモン依存性腫瘍細胞の成長を阻害する量は、セレン酸の栄養所要量を超える量である。
【0042】
本明細書で使用する用語「と組み合わせて」は、癌または腫瘍細胞に対する少なくとも2種類の薬剤の効果が少なくとも部分的に同じ期間にわたって生じるような、これらの薬剤による癌の治療またはこれらの薬剤への腫瘍細胞の曝露を意味する。少なくとも2種類の薬剤の投与は、1種類の組成物で同時に行われてもよく、それぞれの薬剤が別々の組成物で同時にまたは連続して投与されてもよい。
【0043】
句「腫瘍細胞の成長を阻害する」は、腫瘍細胞の成長が停止または低下し、細胞増殖または細胞分裂が停止または低下することを意味するとみなされる。これは細胞分裂停止とも知られる。腫瘍細胞の成長は、重量または体積または細胞数または細胞代謝活性(すなわち、MTTアッセイ法)によって測定することができる。
【0044】
「薬学的に許容される担体」とは、局所投与、局部投与、または全身投与において安全に使用することができる固体または液体の増量剤、希釈剤、または封入用物質を意味する。
【0045】
セレン酸に関して本明細書で使用する用語「薬学的に許容される塩」は、ヒトおよび動物への投与のために毒物学的に安全な金属イオン塩を意味する。例えば、セレン酸の適切な金属イオン塩には、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、ニッケル塩、および亜鉛塩が含まれるが、これに限定されない。セレン酸の好ましい塩は、ナトリウム塩Na2SeO4である。
【0046】
本明細書で使用する用語「放射線療法」は、癌または癌細胞(例えば、腫瘍細胞)の高エネルギー放射線による治療または高エネルギー放射線への曝露を意味する。放射線療法の有効性は、セレン酸またはその薬学的に許容される塩によって高められ得る。さらに、放射線療法は、放射線増感剤の投与によってさらに高められ得る。放射線増感剤の例示的な例には、エファプロキシラル、エタニダゾール、フルオソール、ミソニダゾール、ニモラゾール、テモポルフィン、およびチラパザミンが含まれるが、これに限定されない。
【0047】
本明細書において同義に用いられる用語「被験体」または「個体」または「患者」は、予防または治療が望まれる任意の被験体(特に、脊椎動物被験体、より詳細には、哺乳動物被験体)を意味する。本発明の範囲内にある適切な脊椎動物には、霊長類、鳥類、家畜動物(例えば、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ)、臨床検査動物(例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)、コンパニオンアニマル(例えば、ネコおよびイヌ)、ならびに捕獲された野生動物(例えば、キツネ、シカ、ディンゴ)が含まれるが、これに限定されない。好ましい被験体は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌またはホルモン依存性癌(特に、前立腺癌)の治療または予防を必要とするヒトである。しかしながら、前記の用語は症状が存在することを意味しないことが理解されるだろう。
【0048】
本明細書で使用する用語「栄養所要量を超える」は、栄養上必要であると考えられている量を上回る量を意味する。成人において、推奨されるセレン所要量は55μg/dayである。妊娠している女性および授乳している女性の推奨所要量は60〜70μg/dayである。栄養所要量を超える量のセレンは、推奨所要量以上のセレンを被験体にもたらす。例えば、セレンの栄養所要量を超える量は、0.15mg/kg〜20.0mg/kg、0.1mg/kg〜14mg/kg、0.1mg/kg〜13mg/kg、0.1mg/kg〜12mg/kg、0.1mg/kg〜10mg/kg、0.1mg/kg〜9mg/kg、0.1mg/kg〜8mg/kg、0.1mg/kg〜7mg/kg、0.1mg/kg〜6mg/kg、0.15mg/kg〜5mg/kg、0.15mg/kg〜4mg/kg、0.15mg/kg〜3mg/kg、0.15mg/kg〜2mg/kg、0.15mg/kg〜1mg/kg、特に、0.1mg/kg〜14mg/kg、さらに特に、0.15mg/kg〜5mg/kgでもよい。
【0049】
本明細書で使用する用語「治療的有効量」とは、癌を治療もしくは予防する、または腫瘍細胞の成長を阻害するという状況では、癌もしくは腫瘍細胞の成長および/もしくは増殖を阻害するのに有効な、または癌もしくは腫瘍細胞の死を引き起こすのに有効な量(単一用量または一連の用量の一部)のセレン酸またはその薬学的に許容される塩の投与を意味する。有効量は、治療しようとする個体の健康状態および身体状態、治療しようとする個体の分類群、組成物の処方、医学的状態の評価、ならびに他の関連要因に応じて変化する。この量は、日常的な試験によって決定することができる比較的広い範囲の中に入ると予想される。ある特定の態様において、治療的有効量は栄養所要量を超える量である。
【0050】
2.腫瘍細胞の成長および増殖を阻害するための方法ならびに癌を治療するための方法
本発明は一部、セレン酸が亜セレン酸などの他の形態のセレンとは対照的に、Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞の成長または増殖の阻害に有効であることを確かめたことに基づいている。従って、一局面において、本発明は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための方法を提供する。この方法は、一般的には、腫瘍細胞を、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩に曝露する工程を含む。適切には、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、栄養所要量を超える量である。栄養所要量を超える量は、一般的には、約0.015mg/kg〜20.0mg/kg、通常、約0.1m/kg〜14mg/kg、より通常は、約0.15mg/kg〜5mg/kgである。
【0051】
本発明は、癌腫を含む様々なタイプの腫瘍細胞および癌に対して有効に使用することができる。例示的な例において、Aktが活性化されている癌またはPTENが不活性化されている癌には、口の扁平上皮癌、甲状腺癌、下垂体癌、肝細胞癌(肝細胞癌腫を含む)、前立腺癌(前立腺癌腫を含む)、精巣癌、線維肉腫、卵巣癌(卵巣癌腫を含む)、子宮癌(子宮内膜癌を含む)、膵臓癌(膵臓癌腫を含む)、胃癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、結腸癌、黒色腫、急性白血病、ならびに脳癌(例えば、星状細胞腫およびグリア芽細胞腫)が含まれるが、これに限定されない。ある態様において、癌は、造血性新生物疾患(造血由来の過形成性細胞/新生細胞が関与する疾患(例えば、リンパ腫およびリンパ球性白血病)を含む)である。リンパ腫の非限定的な例には、T細胞リンパ腫(末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL);皮膚T細胞リンパ腫(CTCLs);大顆粒リンパ球性白血病(LGFs)を含む)、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、および非ホジキンリンパ腫が含まれる。リンパ球性白血病の例示的な例には、低分化急性白血病(例えば、急性巨核芽球性白血病)、骨髄性疾患(急性前骨髄球性白血病(APML)、急性骨髄性白血病(AML)、および慢性骨髄性白血病(CML)を含むが、これに限定されない)、リンパ系悪性腫瘍(B細胞系列およびT細胞系列のものをを含む急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、毛様細胞性白血病(HLL)、およびワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)を含むが、これに限定されない)が含まれる。ある特定の態様において、腫瘍細胞は、前立腺癌または前立腺癌腫の細胞である。従って、関連する局面において、本発明は、Aktが活性化されている癌を治療するための方法を提供する。この方法は、一般的には、Aktが活性化されている癌の治療を必要とする被験体に、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を投与する工程を含む。ある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、前記で広範囲に定義された、栄養所要量を超える量である。ある態様において、癌は、前立腺癌(特に、薬剤耐性前立腺癌またはアンドロゲン非依存性前立腺癌)である。
【0052】
ある態様において、腫瘍細胞または癌は薬剤耐性である。ある態様において、腫瘍細胞または癌は過剰活性Akt経路を有する(例えば、アンドロゲン非依存性前立腺癌およびエストロゲン受容体欠損乳癌)。
【0053】
ある特定の態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤と組み合わせて投与される。細胞増殖抑制剤の非限定的な例は、(1)微小管安定化剤(タキサン、パクリタキセル、ドセタキセル、エポシロン、およびラウリマリドなどがあるが、これに限定されない);(2)キナーゼ阻害剤(この例示的な例には、Iressa(登録商標)、Gleevec、Tarceva(商標)(エルロチニブHCl)、BAY-43-9006、splitキナーゼドメイン受容体型チロシンキナーゼサブグループ阻害剤(例えば、PTK787/ZK 222584およびSU11248)が含まれる);(3)受容体キナーゼ標的化抗体(これには、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))、ベバシズマブ(Avastin(商標))、リツキシマブ(ritusan(登録商標))、ペルツズマブ(Omnitarg(商標))が含まれるが、これに限定されない);(4)mTOR経路阻害剤(この例示的な例には、ラパマイシンおよびCCI-778が含まれる);(5)Apo2L/Trail、抗血管新生剤(エンドスタチン、コンブレスタチン、アンギオスタチン、トロンボスポンジン、および血管内皮成長阻害剤(VEGI)などがあるが、これに限定されない);(6)抗新生物性免疫療法ワクチン(この代表的な例には、活性化T細胞、非特異的免疫増強剤(すなわち、インターフェロン、インターロイキン)が含まれる);(7)抗生物質細胞傷害剤(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、およびミトザントロン(mitozantrone)などがあるが、これに限定されない);(8)アルキル化剤(この例示的な例には、メルファラン、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、クロランブシル、フォテムスチン、ブスルファン、テモゾロミド、およびチオテパが含まれる);(9)ホルモン抗新生物剤(この非限定的な例には、ニルタミド、酢酸シプロテロン、アナストロゾール、エキセメスタン、タモキシフェン、ラロキシフェン、ビカルタミド、アミノグルテチミド、酢酸リュープロレリン、クエン酸トレミフェン、レトロゾール、フルタミド、酢酸メゲストロール、および酢酸ゴセレリンが含まれる);(10)生殖腺ホルモン(酢酸シプロテロンおよび酢酸メドキシプロゲステロンなどがあるが、これに限定されない);(11)代謝拮抗物質(この例示的な例には、シタラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、トポテカン、ヒドロキシウレア、チオグアニン、メトトレキセート、コラスパーゼ、ラルチトレキセド、およびカピシタビンが含まれる);(12)同化剤(ナンドロロンなどがあるが、これに限定されない);(13)副腎ステロイドホルモン(この例示的な例には、酢酸メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、およびプレドニゾンが含まれる);(14)新生物剤(イリノテカン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、エトポシド、およびダカルバジンなどがあるが、これに限定されない);ならびに(15)トポイソメラーゼ阻害剤(この例示的な例には、トポテカンおよびイリノテカンが含まれる)より選択される。
【0054】
ある態様において、細胞増殖抑制剤は核酸分子であり、適切には、アンチセンスまたはsiRNA組換え核酸分子である。他の態様において、細胞増殖抑制剤はペプチドまたはポリペプチドである。さらに他の態様において、細胞増殖抑制剤は低分子である。細胞増殖抑制剤は、薬剤の取り込みまたは送達を高めるように適切に改変されている細胞傷害剤でもよい。このような改変された細胞傷害剤の非限定的な例には、ペグ化細胞傷害薬またはアルブミン標識細胞傷害薬が含まれるが、これに限定されない。
【0055】
ある特定の態様において、細胞増殖抑制剤は微小管安定化剤であり、特に、タキサン、好ましくは、パクリタキセルである。
【0056】
ある態様において、細胞傷害剤は、アントラサイクリン(例えば、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、およびミトザントロン(mitozantrone))、CMF薬剤(例えば、シクロホスファミド、メトトレキセート、および5-フルオロウラシル)、または他の細胞傷害剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ブレオマイシン、トポテカン、イリノテカン、メルファラン、クロランブシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびマイトマイシン-C)より選択される。
【0057】
本発明はまた、セレン酸およびその薬学的に許容される塩が、ホルモン除去療法、任意に、細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤と組み合わせて用いられた時に、ホルモン依存性腫瘍細胞の成長に対して阻害作用を有することを発見したことを開示する。従って、本発明の別の局面は、被験体におけるホルモン依存性癌を治療するための方法を提供する。この方法は、一般的には、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を、ホルモン除去療法と組み合わせて投与する工程を含む。適切には、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、前記で大まかに定義された、セレン酸の栄養所要量を超える量である。ある態様において、ホルモン依存性癌は、前立腺癌、精巣癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮癌、甲状腺癌、または下垂体癌、特に、前立腺癌または乳癌より選択される。
【0058】
ホルモン除去療法は、癌または腫瘍細胞から、癌または腫瘍細胞の生存、成長、および/または増殖に必要なホルモンを奪う任意の療法であってもよい。ホルモン除去療法は、精巣または卵巣などのホルモン産生器官の除去によって外科的に行われてもよい。または、ホルモン除去療法は、ホルモン生合成もしくは分泌を妨げる化合物、ホルモン受容体を拮抗もしくはブロックする化合物、または手段によっては、ホルモンが生物学的効果を発揮しないようにする化合物を用いて化学的に行われてもよい。化学的ホルモン除去療法のための例示的な薬剤には、GnRHアゴニストまたはアンタゴニスト(例えば、セトロレリクス)、アンドロゲン受容体を妨げる薬剤(ビカルタミドなどの非ステロイド剤およびシプロテロンなどのステロイド剤を含む)、ならびにステロイド生合成を妨げる薬剤(例えば、ケトコナゾール)が含まれる。前立腺癌のホルモン除去療法としてセレン酸またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて使用するのに適した化学薬品には、非ステロイド抗アンドロゲン(例えば、ニルタミド、ビカルタミド、およびフルタミド);GnRHアゴニスト(例えば、酢酸ゴセレリン、リュープロレリン、およびトリプトレリン);5α還元酵素阻害剤(例えば、フィナステリド);ならびに酢酸シプロテロンが含まれるが、これに限定されない。乳癌におけるホルモン除去療法としてセレン酸またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて使用するのに適した化学薬品には、アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール);エキセメスタン、タモキシフェン、アミノグルテチミド、クエン酸トレミフェン、レトロゾール、酢酸メゲストロール、および酢酸ゴセレリンが含まれるが、これに限定されない。卵巣癌および子宮癌(子宮内膜癌を含む)におけるホルモン除去療法としてセレン酸またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて使用するのに適した化学薬品には、プロゲスチン(例えば、酢酸メゲストロール、レボノルゲストロール(levonorgestrol)、およびノルゲストロール)が含まれるが、これに限定されない。
【0059】
ある態様において、ホルモン依存性癌を治療するための方法は、細胞増殖抑制剤(例えば、前記で定義された細胞増殖抑制剤)または細胞傷害剤を投与する工程をさらに含む。好ましい細胞増殖抑制剤は、微小管安定化剤(特に、タキサン、さらに特に、パクリタキセル)である。
【0060】
本発明のある特定の態様は、被験体における癌を治療するための方法に関する。この方法は、一般的には、被験体に、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を投与する工程を含む。これらの方法を実施するために、被験体を監督する人は、被験体の特定の状態または状況に対して、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の有効な剤形を決定することができる。セレン酸の治療的有効量は、癌の治療または予防(症状(例えば、癌細胞の増殖)をこうむらないようにすること、このような症状を食い止めること、ならびに/または癌に関連する既にある症状(例えば、疼痛、体液の蓄積、尿閉、悪心、消化不良、ガス、食欲、排便の変化、および体重減少)を治療することを含む)に有効な量である。ある態様において、治療的有効量は、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の栄養所要量を超える量である。ある特定の態様において、セレン酸は、適切には、塩であるセレン酸ナトリウム(Na2SeO4)の形態をしている。
【0061】
本発明の方法において使用するための投与方法、投与されるセレン酸の量、およびセレン酸製剤を以下で議論する。癌が治療されているかどうかは、疾患の経過を示す1つまたは複数の診断パラメータを適切な対照と比較して測定することによって決定される。ヒト被験体の場合、「適切な対照」は治療前の個体でもよく、プラセボによって治療されているヒト(例えば、同年齢の対照または類似の対照)でもよい。本発明によれば、癌の治療は、(i)癌の素因があり得るが、癌と診断されていない被験体において癌を予防すること(従って、治療は癌の予防的処置となる);(ii)腫瘍形成を阻害すること(すなわち、癌の発達を止めること);または(iii)癌に起因する症状を緩和することを含む、および包含するが、これらに限定されるわけではない。
【0062】
本発明の方法は、癌と診断された個体、癌を有すると疑われる個体、感受性があることが知られている個体および癌を発症する可能性が高いと考えられている個体、または以前に治療された癌の再発を生じる可能性が高いと考えられている個体の治療に適している。
【0063】
前記の方法のある特定の態様において、癌は、前立腺癌(特に、薬剤耐性前立腺癌またはアンドロゲン非依存性前立腺癌)であり、治療は、任意に、前記で定義されたような細胞増殖抑制剤(例えば、パクリタキセルなどの微小管安定化剤)または細胞傷害剤の投与をさらに含む。
【0064】
他の態様において、前立腺癌はアンドロゲン感受性前立腺癌であり、治療は、任意に、ホルモン除去療法および/または前記で定義されたような細胞増殖抑制剤、もしくは細胞傷害剤、もしくは放射線療法(任意に、放射線増感剤と共に施される)と組み合わせて施される。適切には、ホルモン除去療法は、外科的去勢、フィネステリド、ニルタミド、酢酸シプロテロン、ビコルタミド、酢酸リュープロレリン、フルタミド、および酢酸ゴセレリンより選択される。好ましくは、細胞増殖抑制剤は、微小管安定化剤(特に、タキサン、さらに特に、パクリタキセル)である。
【0065】
本発明の方法による治療の例示的な被験体は脊椎動物(特に、哺乳動物)である。ある特定の態様において、被験体は、ヒト、ヒツジ、ウシ(cattle)、ウマ、ウシ(bovine)、ブタ、イヌ、およびネコからなる群より選択される。好ましい被験体はヒトである。
【0066】
セレン酸または薬学的に許容される塩は、抗癌剤送達の当技術分野において公知の多数の技法に従って処方されてもよい。もちろん、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、全ての製剤が全ての投与経路に適しているとは限らないことを頭に入れて、多数の手段によって投与することができる。セレン酸またはその薬学的に許容される塩は固体または液体の形態で投与することができる。適用は、経口、直腸、鼻、局所(頬および舌下を含む)、または吸入によるものでもよい。セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、従来の薬学的に許容されるアジュバント、担体、および/または希釈剤と共に投与することができる。
【0067】
固体の適用形態は、錠剤、カプセル、散剤、丸剤、香錠、坐剤、および顆粒の投与形態を含む。これらはまた、担体または添加剤(例えば、フレーバー、染料、希釈剤、軟化剤、結合剤、防腐剤、持続性薬剤、および/または封入用材料)を含んでもよい。液体の投与形態は、溶液、懸濁液、およびエマルジョンを含む。これらは前記の添加剤と共に提供されてもよい。
【0068】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の溶液または懸濁液は、操作性に適した粘度があると仮定して注射することができる。注射には粘度がありすぎる懸濁液は、必要であれば、このような目的のために設計された装置を用いて移植することができる。徐放形態は、一般的には、非経口手段または腸手段を介して投与される。非経口投与は、本発明を実施するために用いられるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の別の投与経路である。「非経口」は、注射ならびに鼻投与、腟投与、直腸投与、および頬投与に適した製剤を含む。
【0069】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の投与は経口長期投与製剤を伴ってもよい。経口投与製剤は、好ましくは、1日1回〜1日3回、徐放性カプセルもしくは錠剤の形態で、または水性溶液として投与される。セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、毎日、連続して、週1回または週3回のいずれかで静脈内投与されてもよい。
【0070】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の投与は、徐放性カプセルもしくは錠剤の形態で毎日の投与(好ましくは、1日1回)、または水溶液として1日1回の投与を含んでもよい。
【0071】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩および少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤の組み合わせは、固体または液体の形態で、1種類の製剤もしくは組成物で、または別々の製剤もしくは組成物で投与されてもよい。ある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩および1種類または複数の種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤は、1種類の錠剤もしくはカプセルとして、または別々の錠剤もしくはカプセルとして経口投与される。他の態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩および1種類または複数の種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤は、1種類の組成物または別々の組成物で静脈内投与される。
【0072】
本発明の方法は、他の公知の癌治療(例えば、外科手術、化学療法、および放射線療法があるが、これに限定されない)と組み合わせて使用することができる。ある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、高精度放射線外部照射(conformal external beam radiotherapy)(4〜8週間にわたって分割して50〜100Grey与える)、シングルショットまたは分割照射のいずれか、高線量率近接照射療法(high dose rate brachytherapy)、永久組織内近接照射療法(permanent interstitial brachytherapy)、全身放射性同位体(例えば、ストロンチウム89)などがあるが、これに限定されない放射線療法と組み合わせて用いられる。ある態様において、放射線療法は放射線増感剤と組み合わせて施されてもよい。放射線増感剤の例示的な例には、エファプロキシラル、エタニダゾール、フルオソール、ミソニダゾール、ニモラゾール、テモポルフィン、およびチラパザミンが含まれるが、これに限定されない。他の態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は腫瘍摘出術と組み合わせて用いられる。
【0073】
本発明はまた、癌を治療または予防するための薬学的組成物(一般的には、栄養所要量を超える量(適切には、約0.5mg〜約1.0g)のセレン酸またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物)を提供する。ある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、約5.0mg〜約700mgである。例示的な例において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、単回一日量の場合、約7.5mg〜250mg、特に、50mg〜200mg、例えば、100〜150mgである。薬学的組成物は、Aktが活性化もしくは過剰に活性化されている癌またはホルモン依存性癌を治療するための薬学的組成物でもよい。ある態様において、薬学的組成物は、前立腺癌(特に、薬剤耐性前立腺癌またはアンドロゲン非依存性前立腺癌)の治療に有用である。
【0074】
ある態様において、薬学的組成物は、少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤をさらに含む。他の態様において、薬学的組成物は、ホルモン除去化学薬品をさらに含む。さらに他の態様において、薬学的組成物は、少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤および/または細胞傷害剤ならびにホルモン除去化学薬品をさらに含む。さらに他の態様において、薬学的組成物は、放射線療法と使用するための放射線増感剤をさらに含んでもよい。
【0075】
本発明の薬学的組成物は、非免疫原性かつセレン酸と生体適合性であり、ならびにインタクトな分子として生体吸収、生分解、排泄が可能な、さらなる任意の成分を含んでもよい。製剤は使いやすい形態で供給されてもよく、投与の前にビヒクルの添加を必要とする無菌の粉末または液体として供給されてもよい。無菌であることが望ましければ、製剤は無菌条件下で作成されてもよく、混合物の個々の成分は無菌でもよく、製剤は使用前に滅菌濾過されてもよい。このような溶液は、適切な薬学的に許容される担体(緩衝液、塩、賦形剤、防腐剤などがあるが、これに限定されない)を含有してもよい。
【0076】
ある態様において、本発明の方法においてセレン酸またはその薬学的に許容される塩を投与するために、徐放経口製剤が用いられる。これらの製剤は、一般的には、血流への吸収を遅らせるために、溶解度の低いセレン酸またはその薬学的に許容される塩を含む。さらに、これらの製剤は、他の成分、薬剤、担体など(これらも、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の吸収を遅らせるように働いてもよい)を含んでもよい。マイクロカプセル化、ポリマー捕捉システム、および浸透圧ポンプ(生体腐食性でもよく、生体腐食性でなくてもよい)もまた、カプセルまたはマトリックスからのセレン酸またはその薬学的に許容される塩の拡散を遅延または制御するために用いられてもよい。
【0077】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩は単独でまたは別の薬剤の一部として使用することができる。従って、本発明はまた、Aktが活性化されている癌を治療するための、またはホルモン依存性癌を治療するための(このような治療では薬剤はホルモン除去療法と組み合わせて投与するように処方される)、セレン酸またはその薬学的に許容される塩を含む薬剤も意図する。
【0078】
本発明がどういったものであるかということをさらにはっきりと理解できるようにし、実際に効果を発揮するために、本発明の特定の好ましい態様を、以下の限定されない実施例に関連して今から説明する。
【0079】
実施例
実施例1
セレン酸ナトリウムを用いたプロテインキナーゼB/AKT活性化の阻害による前立腺腫瘍進行の抑制
材料および方法
細胞培養
細胞培養実験は、American Type Culture Collection(Manassas, Virginia, USA)から入手したPC-3細胞株を伴った。細胞を、10%ウシ胎仔血清および1%抗生物質/抗真菌剤混合物(Invitrogen)を添加したRPMI 1641(Invitrogen)において日常的に培養した。細胞を、5%CO2において37℃に維持した。セレン酸ナトリウムおよびセレノメチオニン(Sigma)を蒸留水に溶解して10mM原液として作成し、フィルター滅菌した後に、インビトロ実験用に培地で希釈した。
【0080】
動物実験
動物実験は、BALB/cヌードマウスの使用を伴った。実験の1日目に、6週齢BALB/cヌードマウスにケタミン100mg/kgおよびキシラジン20mg/kgを腹腔内注射して麻酔した。本質的にCorcoran, N.M., Najdovska, M., and Costello, A.J. (2004), J. Urol, 171:907-910に記載のように、拡大下で1×106個のPC-3細胞(生存率95%超)を背側外側前立腺に注射した。
【0081】
実験の3日目に、全てのマウスを、D19101最小セレン食餌(分析セレン含有率0.07ppm)(Research Diets Inc., New Brunswick, New Jersey, USA)に切り替えた。次いで、飲料水に溶かして5ppmセレン(セレン酸ナトリウム)を与えるか、または何も添加していない水を与えるように、マウスを無作為に割り付けた。添加して5週間後に、マウスを選抜し、次いで、腫瘍を含む前立腺を秤量し、ノギスを用いて測定した。次いで、後腹膜腔を拡大下で頭側に向かって腎静脈のレベルまで調べ、0.5mmを超えるリンパ節を識別した。
【0082】
組織試料におけるアポトーシスの程度は、in situ TUNEL Cell Death Detection Kit(Roche Applied Science)を用いて製造業者の説明書に従って測定した。隣接する切片のH&E染色上で壊死が無い領域の中の無作為に選択された10個の視野において、高倍率(×400)で茶色に染色された細胞の数を数えた。
【0083】
腫瘍細胞の増殖率は、インビボでのBrdUの取り込みによって測定した。選抜の2時間前に、マウスに50mg/kg BrdU(Sigma)を腹腔内注射した。5μm切片を切り出し、無水エタノールで4℃で10分間固定した。切片をPBSで再水和し、DNAを変性するために、2N HClの中で37℃で1時間インキュベートした。スライドを0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.5)に浸漬することによって、酸を中和した。試料をPBSで3回洗浄した後、0.1%BSA を含むPBSで希釈した5μg/mLの濃度の抗ブロモデオキシウリジン(BrdU)モノクローナル抗体(Roche Applied Science)と、室温で1時間、次いで、4℃で一晩インキュベートした。試料をPBSで3回洗浄し、ビオチン化連結免疫グロブリン混合物(biotinylated link immunoglobulin mixture)(DAKO Corporation)と1時間インキュベートした。試料をPBSで3回洗浄した後、ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(BD Biosciences)とインキュベートし、DAB(Enhanced Liquid Substrate System, Sigma)を用いて免疫染色を明らかにした。高倍率(×400)で10個の視野を無作為に選択し、茶色に染色された細胞の数を数えた。
【0084】
PC-3成長曲線
2×105個のPC-3細胞を一晩付着させることによって、PC-3成長曲線の分析を行った。16時間後に、血清の存在下で指示した濃度のセレン酸ナトリウムを含むように培地を交換し、指定された時点まで増殖させた。次いで、上清および細胞を採取し、混合し、生細胞をトリパンブルー排除アッセイ法によって評価した。実験を三通り行った。
【0085】
BrdU取り込みアッセイ法および免疫蛍光法
BrdU取り込みアッセイ法および免疫蛍光法は、2.5×103個のPC-3細胞をプレートし、一晩付着させることによって行った。16時間後に、血清の存在下で指示した濃度のセレン酸ナトリウムを含むように培地を交換した。36時間後、セレン酸ナトリウムを含有する培地を新しくし、1μL/mLのCell Proliferation Labeling Reagent (BrdU/FrdU, Amersham Biosciences)を添加した。細胞をさらに16時間インキュベートし、次いで、PBSで3回洗浄し、4%PFAで室温で10分間固定した。
【0086】
一次抗体としてマウスモノクローナル抗BrdU抗体を使用し、二次抗体として抗マウス488 Alexaを使用した。BrdUを取り込んだ細胞のパーセントは、DAPI陽性細胞数当たりの緑色に染色された核の数を数えることによって求めた。カバーガラス1枚あたり100個のDAPI陽性細胞を数え、実験を三通り行った。
【0087】
細胞周期ブロックレベルの測定
細胞周期ブロックのレベルの測定は、血清を48時間欠乏させることによって同調させた5×105個のPC-3細胞をプレートした後に、指示した濃度のセレン酸ナトリウムを新鮮な血清含有培地に添加することを伴った。細胞を、指示した時点まで増殖させ、次いで、採取し、PBSで洗浄し、氷冷70%エタノールで15分間固定した。細胞をPBSで洗浄し、40μg/mLヨウ化プロピダム(propidum iodide)(Sigma)および100μg/L RNaseを含有するPBSに再懸濁した。それぞれの測定についてDNAヒストグラムを作成し、G1ピークおよびG2/Mピークに存在する細胞の割合を求めた。3回の独立した実験について結果を得た。
【0088】
MTT成長アッセイ法
MTT成長アッセイ法は、96ウェルプレートに1ウェル当たり1×103個のPC-3細胞をプレートし、細胞を一晩付着させることを伴った。16時間で、培地を、指示した濃度のセレン酸ナトリウムまたはセレノメチオニンを含有する新鮮な培地と交換した。セレン酸ナトリウムの成長阻害に及ぼすPI3K阻害の付加的な影響を確かめる実験のために、セレン酸ナトリウムと共に、50μMの濃度のLY294002(Promega, Madison, WI, USA)を添加した。この実験の対照には、等量のLY294002希釈剤(DMSO)を与えた。次いで、MTT成長アッセイ法を、製造業者のプロトコール(Sigma)に従って行った。
【0089】
抗体およびイムノブロッティング
特別の定めのない限り、以下の抗体を、Cell Signaling Technology(Beverly, MA, USA)から入手した:抗p27KIP1(bd Pharmingen)、抗p21CIP1、抗サイクリンd1、抗サイクリンd3、抗CDK4、抗CDK6、抗リン酸化rb(Ser807/811)、抗RB、抗リン酸化Akt(Ser473)、抗リン酸化Akt(Thre308)、抗Akt、抗リン酸化PDK1(Ser241)、抗リン酸化PDK1(Tyr373/376)、抗リン酸化GSK-3β、抗リン酸化mTOR(Ser2448)、抗mTOR、抗βIIIチューブリン(Promega)。
【0090】
細胞周期調節タンパク質に及ぼすセレン酸ナトリウムの影響を確かめるために、5×105個のPC-3細胞を、指示した時間にわたって0.5mMセレン酸ナトリウムで処理した。網膜芽細胞腫タンパク質のリン酸化に及ぼすセレン酸の影響を確かめるために、2×105細胞を一晩付着させ、次いで、血清を24時間欠乏させた後、指示した時間にわたって0.5mMセレン酸ナトリウムで処理した。PI3K/Aktシグナル伝達カスケードに関与するタンパク質のリン酸化に及ぼすセレン酸の影響を確かめるために、5×105個のPC-3細胞を10時間付着させた。細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、細胞を、指示した時間にわたって0.5mMセレン酸ナトリウムで処理した。細胞を、ELB(250mM NaCl, 50mM HEPES pH 7.0, 5mM EDTA, 0.5mM DTT, 0.2% TX100, 20mMフッ化ナトリウム, 2mMナトリウムパーバナデート(sodium pervanadate), Complete Protease Inhibitor Cocktail(Roche))で溶解した。溶解産物を4℃で15分間遠心分離した。BCAシステム(Sigma)を用いてタンパク質濃度を求め、等量のタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルの各レーンにロードした。タンパク質をPVDF(Millipore)膜に転写し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)および化学ルミネセンス(SuperSignal West Dura(Pierce)を使用する)が結合した抗マウス二次抗体または抗ウサギ二次抗体で検出した。Restore Western Blot Stripping Buffer(Pierce)を用いて、膜をストリッピングした。
【0091】
細胞トランスフェクションおよび免疫蛍光法
トランスフェクションの前日に、5×105個のPC-3細胞を24ウェルディッシュに播種し、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、0.8μgのpcDNA3-GFP-FKHRwt構築物(Dr Bill Sellers, Dana-Farber Institute, Bostonからの贈与)で一過的にトランスフェクトした。細胞を0.2% Triton X-100で透過処理し、核内容物をDAPIで染色した。カバーガラスを蛍光封入剤(DAKO)で封入した。緑色蛍光の細胞分布を、Leica落射蛍光顕微鏡を用いて二重蛍光細胞において測定した。
【0092】
統計解析
特別の定めのない限り、データは平均+SEで示した。群間の差(図1A〜D)はスチューデント検定を用いて解析し、p<0.05で有意であるとみなした。全ての統計解析は、SPSS 9.05 for Windows(SPSS, Chicago, Illinois)ソフトウェアを用いて行った。
【0093】
結果
結果から、セレン酸ナトリウムは同所性マウスモデルにおける前立腺癌腫細胞の増殖を阻害することが分かった。以下のように、セレン酸ナトリウムで処置された動物と対照群の比較を行った。図1Aに示したように腫瘍含有前立腺の重量の平均を比較し、図1Bに示したように腫瘍体積の平均を比較した。リンパ節転移の平均数も評価した。セレン酸ナトリウムは、前立腺重量指数により評価された対照と比較して原発腫瘍成長を有意に阻害することが示されたのに対して、2群間の腫瘍体積の差は有意に達しなかった。セレン酸ナトリウム群の腹膜後リンパ節の数は対照と比較して有意に少なかった(図1C)。
【0094】
セレン酸ナトリウムによって引き起こされる腫瘍成長の阻害は、腫瘍細胞増殖に及ぼす阻害作用のために、または腫瘍細胞アポトーシスの増大によって起こった可能性がある。これらの2つの機構を区別するために、対照およびセレン酸ナトリウムで処置された前立腺において、増殖細胞におけるヌクレオチド類似体BrdUの取り込みを分析し、Tunelアッセイ法を用いてアポトーシスマーカーを分析した。セレン酸ナトリウムは前立腺腫瘍対対照においてBrdU取り込みを有意に弱めたが(図1D,E)、2群間でアポトーシスに有意な差はなかった(図1D)。これらの結果から、セレン酸ナトリウムは腫瘍細胞死を増強するのではなく腫瘍細胞増殖を妨げるように作用することが分かった。
【0095】
結果から、セレン酸ナトリウムは前立腺癌腫細胞を細胞周期のG1期で止めることも分かった。インビボで観察された腫瘍進行に及ぼすセレン酸ナトリウムの阻害作用がインビトロでの腫瘍細胞成長の阻害につながるかどうか解明するために、ヒト前立腺癌腫PC-3細胞を播種し、16時間培養した。次いで、細胞を、漸増濃度のセレン酸ナトリウムの存在下または非存在下でインキュベートした。インキュベーションの24時間後、48時間後、および72時間後に、細胞の総数を数えた。図2Aに示したように、セレン酸ナトリウムの非存在下で培養したPC-3細胞の数は72時間にわたって一様に増加した。対照的に、セレン酸ナトリウムの存在下では、PC-3細胞数は用量依存的に有意に減少した。0.01mM〜0.1mMの用量では、細胞数が増加する速度は遅くなったのに対して、0.25mM〜0.5mMのさらに高い用量では全ての細胞数増加がブロックされた。これらの結果から、セレン酸ナトリウムは細胞周期の進行を妨げることが示唆された。PC-3細胞を、0.05mM〜0.25mMの濃度のセレン酸ナトリウムに、54時間、本質的に前記のように播種した。次いで、G1/S期を通過した細胞における蛍光ヌクレオチド類似体BrdU/FrdUの取り込みを、免疫蛍光顕微鏡観察によって確かめた。0.25mMセレン酸ナトリウムに54時間曝露された細胞の代表的な画像を図2Bに示した。この用量のセレン酸ナトリウムへの曝露は、BrdU/FrdU陽性核によって評価されたようにPC-3細胞のG1/S進行を著しく妨げた。
【0096】
漸増濃度のセレン酸ナトリウムの存在下または非存在下での細胞周期分布をフローサイトメトリーでも分析した。細胞周期の代表的なヒストグラムを図2Cに示し、平均パーセント値を図2Dに示した。PC-3細胞を0.25mMおよび0.5mMのセレン酸ナトリウムで24時間処理すると、G1にある細胞集団のパーセントが対照群の55%からセレン酸ナトリウム処理試料の69〜70%の範囲に増加した(図2D)。逆に、漸増濃度のセレン酸ナトリウムの存在下でインキュベートすると、G2/M期にある細胞のパーセントが対照の28%から19%および24%に減少した。48時間にわたるセレン酸ナトリウム処理によって、G1にある細胞集団のパーセントは用量依存的および時間依存的に増加したのに対して、薬物処理によってG2/M期にあるPC-3細胞のパーセントは減少した。
【0097】
セレンの癌化学予防作用はセレン微量元素の存在によって完全に説明することができず、セレン化合物それ自体がこの活性に重要であることが次第に明らかになってきている(Corcoran et al 2004, 前記; Kim et al 2003, 前記)。PC-3細胞の増殖に対する無機セレン酸ナトリウムの効果と有機セレノメチオニンの効果を、増殖指標の尺度としてMTTアッセイ法を用いて比較した。図2Eに示したように、0.25mMおよび0.5mMの用量のセレン酸ナトリウムは72時間でPC-3細胞の増殖を著しく低下させたのに対して、同じ用量のセレノメチオニンが細胞増殖を低下させる効果は低かった。セレン酸ナトリウムの最小用量0.01mMで、わずかであるが再現性のある細胞数の増加が観察された(図2E)。全体的に見て、これらのデータは、セレン酸ナトリウムがG1からS期への細胞周期進入を妨げることによって細胞増殖を阻害することを示している。
【0098】
これらの結果からまた、セレン酸ナトリウムは細胞周期阻害タンパク質のアップレギュレーションを誘導するが、セレノメチオニンは誘導しないことも分かった。増殖細胞がG1を通過する規則正しい進行は、主として、Rbのリン酸化およびE2F転写因子の放出を調節するサイクリンD/cdk4/cdk6キナーゼ複合体の連続活性化によって調節される。重要な細胞周期調節タンパク質に対するセレン酸ナトリウム処理の効果を確かめるために、本質的に既に説明したように、0.5mMセレン酸ナトリウムを用いて、24時間まで様々な期間にわたってPC-3細胞を処理した。次いで、総細胞タンパク質を分離し、サイクリンD1、D3cdk4、およびcdk6の存在についてイムノブロットアッセイ法で分析した。サイクリンD1の発現レベルは14時間から有意に低下したのに対して、cdk4レベルは6時間でピークに達し、24時間まで時間依存的に低下した(図3A)。p27KIP1およびp21CIP1/WAF1などのCDK阻害因子は細胞周期進行の重要な負の制御因子である。これらの分子は、G1期にサイクリンD/CDK複合体に結合することによってCDKキナーゼ活性をブロックして、Rb遺伝子ファミリーのメンバーのリン酸化およびG1期からS期への移行を妨げる。これらの細胞周期阻害因子に対するセレン酸ナトリウムの効果を確かめるために、同じPC-3細胞溶解産物におけるp27KIP1およびp21CIP1の発現レベルを前記のように分析した。セレン酸ナトリウムで処理すると、p27KIP1レベルは24時間まで時間依存的に増加し、レベルが低下したのに対して、p21CIP1レベルは著しく増加し、6時間でピークに達し、その後に低下した(図3A)。同じ条件下でセレン酸ナトリウムで処理したPC-3細胞では、Rb(ser807/811)リン酸化の時間依存的な著しい低下も観察された(図3B)。Pc-3細胞において、細胞周期阻害因子タンパク質p27KIP1レベルに対する無機セレン化合物の効果と有機セレン化合物の効果を比較した。図3Cに示したように、セレノメチオニンは、分析した期間にわたってp27KIP1レベルに対してほとんど効果を示さなかったのに対して、セレン酸ナトリウムは、対照(0時間)およびセレノメチオニンレベルと比較してp27KIP1総タンパク質レベルを著しく増加させた(図3C)。これらのデータは、サイクリンD1レベルおよびRbリン酸化の低下、ならびに同時に起こる細胞周期阻害タンパク質p27KIP1およびp21CIP1/WAF1の増加が、無機セレン化合物によって誘導されるG1停止の調節において重要な役割を果たしている可能性が高く、有機セレンはこれらの効果を誘導できないことを示している。
【0099】
これらの結果から、セレン酸ナトリウムはプロテインキナーゼB/Akt活性化を強力に阻害するが、セレノメチオニンは阻害しないことも分かる。腫瘍抑制タンパク質PTENが消失することによってPI3K細胞生存経路の調節が失われることは、ヒト新形成(Vivanco, I. and Sawyers, C.L. 2002, 前記)、特に、前立腺腫瘍(Visakorpi, 1999, Ann. Chir. Gynaecol, 88:11-16; Li et al 1997, Science, 275: 1943-1947)の共通の特徴である。エフェクターキナーゼAktを介するPI3K経路は、サイクリンD1の分解を妨げ、細胞周期阻害タンパク質p27KIP1およびp21WAF1/CIP1の発現に負の影響を及ぼすことによって、細胞増殖の調節において重要な役割を有する(Graff et al 2002, J. Biol. Chem., 275:24500-24505)。PC-3細胞はPTENの発現を失っており、構成的に活性化されたPI3K経路活性(Chakraborty et al 2001, Cancer Res., 61:7255-7263. Beresford et al 2001, J. Interferon Cytokine Res., 21:313-322)、特に、Aktキナーゼ活性を有する。
【0100】
セレン酸ナトリウムがPI3K経路の活性を妨げることができるかどうか確かめるために、PC-3細胞を、様々な曝露時間にわたってセレン酸ナトリウム(0.5mM)で処理した。全細胞溶解産物におけるAktのリン酸化状態を、活性化特異的抗体を用いて測定した。図4Aに示したように、セレン酸ナトリウムは、無機セレンに曝露して10分以内に、Akt Ser473およびThr308のリン酸化の一過的増加を誘導した。次いで、この増加の後に、Aktが著しくかつ長期に非活性化されたのに対して、総細胞Aktレベル(pan Akt)は本質的に変化しなかった(図3A)。Aktは、PDK1によって細胞膜でThr308がリン酸化される(Vanhaesebroeck, B. and Alessi, D.R. 2000, Biochem. J., 346 Pt3:561-576)。セレン酸ナトリウムがAktの上流にあるPDK1活性をダウンレギュレートするように作用したかどうか確かめるために、PDK1のリン酸化状態を、リン酸化特異的PDK1 ser241抗体およびtyr373/376抗体を用いて分析した。図4Bに示したように、PC-3細胞の0.5mMセレン酸ナトリウムへの6時間までの曝露は、PDK1のリン酸化状態に影響を及ぼさなかった。このことは、セレン酸ナトリウムは、PDK1キナーゼ活性をブロックすることによってAkt活性化を阻害しないことを示している。セレン酸ナトリウムを用いて観察されたAkt活性化の一過的増加がPI3K経路の上流成分に依存するかどうか確かめるために、PC-3細胞をP13K阻害剤LY294002(50μM)による前処理を行って(1時間)、または前処理を行わずに、セレン酸ナトリウム(0.5mM)で10分間処理した。図4Cにおいて観察されるように、セレン酸ナトリウムで10分間処理すると、リン酸化特異的抗体によって評価されたようにAkt活性化が増加した。しかしながら、この増加は、LY294002による前処理によって完全にブロックされた。このことは、セレン酸ナトリウムによって誘導されるAktリン酸化の一過的増加がPI3K経路の上流成分を必要とすることを示している。
【0101】
PC-3細胞を0.5mMセレン酸ナトリウムまたはセレノメチオニンで様々な時間にわたって処理し、Ser473でのAktリン酸化を評価することによって、PC-3細胞におけるAkt活性化に対する無機セレン化合物の効果を比較した。図4Dに示したように、セレノメチオニンは、測定した全ての時間でAktリン酸化に影響を及ぼすことができたのに対して、セレン酸ナトリウムはAkt活性化を著しく阻害した。
【0102】
これらの結果から、セレン酸ナトリウムは細胞生存P13K経路の下流エフェクターを阻害することもわたった。PTEN腫瘍抑制因子の下流にあるPI3Kシグナル伝達の潜在的なエフェクターには、多数のAktキナーゼ基質(例えば、BAD、カスパーゼ9、IKKα、およびForkhead転写因子FKHR、FKHRL1、およびAFX)が含まれる(Biggs, et al 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96:7421-7426; Brunet et al 1999, Cell, 96:857-868; Cardone et al 1998, Science, 282:1318-1321. Datta et al 1997, Cell, 91:231-241; Kops et al 1999, Nature, 398:630-634; Ozes et al 1999, Nature, 401:82-85; Tang et al 1999, J. Biol. Chem., 274:16741-16746)。
【0103】
PTENヌル細胞では、Forkhead転写因子ファミリーのメンバーは調節解除され、不活性であり、転写を活性化できない細胞質に異常に局在している(Nakamura et al 2000, Mol. Cell. Biol, 20:8969-8982)。このような細胞にPTEN機能を再導入すると、FKHRの核移行が誘導され、最終的に、PTENヌル細胞においてG1停止が引き起こされる(Nakamura et al 2000, 前記)。従って、PTENヌルPC-3細胞におけるセレン酸ナトリウムによるAkt活性化の阻害は、細胞質から核へのFKHRの再配置を同様に誘導するはずである。GFP-FKHR発現構築物でトランスフェクトされたPC-3細胞を、LY294002(50μM,1時間)またはセレン酸ナトリウム(0.5mM,3時間)またはセレノメチオニン(0.5mM,3時間)で処理し、蛍光Forkheadタンパク質の細胞局在化に対する処理の効果を観察した。図5AおよびBに示したように、GFP-FKHR融合タンパク質は未処理対照PC-3細胞の細胞質に局在していた。LY294002またはセレン酸ナトリウムで処理すると、GFP-FKHR融合タンパク質の細胞質から核への著しい再局在化が誘導された。しかしながら、セレノメチオニンは、GFP-FKHRの細胞質から核への再局在化を誘導できなかった。これらの結果は、重要なAkt基質タンパク質FKHRの活性化の阻害によるAktシグナル伝達のブロックにおけるセレン化合物間の選択性を裏付けている。
【0104】
Aktのさらに2つの下流エフェクター/基質が、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β,GSK-3β(Moule et al 1997, J. Biol. Chem., 272:7713-7719; Van Weeren et al 1998, J. Biol. Chem., 273:13150-13156)およびラパマイシンの哺乳動物標的であるmTORタンパク質(Nave et al 1999, Biochem. J., 344 Pt2:427-431; Sekulic et al 2000, Cancer Res., 60:3504-3513)である。
【0105】
セレン酸ナトリウムがこれらのAkt基質も活性化できるかどうか確かめるために、PC-3細胞を様々な時間にわたってセレン酸ナトリウム(0.5mM)で処理し、全細胞溶解産物を、GSK-3βおよびmTORに対するリン酸化特異的抗体でプローブした。図5Cおよび5Dに示したように、セレン酸ナトリウムは、mTORおよびGAK-3βのリン酸化状態の低下を誘導した。
【0106】
考察
前記の結果は、ホルモン抵抗性前立腺癌に対する高用量セレン酸ナトリウム添加の効果を証明している。セレン酸ナトリウムは、G1停止を誘導することによって、用量依存的および時間依存的にPC-3細胞の増殖を阻害することが示されたが、アポトーシスレベルを増大させなかった。G1停止は、細胞周期阻害タンパク質p27KIP1およびp21CIP1/WAF1の発現の増大ならびにサイクリンD1の発現の低下を伴った。Rbのリン酸化もセレン酸によって抑制された。セレン酸はセレノメチオニンとは対照的にPI3KエフェクターであるAktの活性レベルを著しく低下させた。PI3K/Akt経路の重要な下流エフェクターであるmTOR、GSK-3β、およびFKHR転写因子の活性化もセレン酸によって阻害されたが、セレノメチオニンでは阻害されなかった。これらの結果は、PI3K/Akt経路に対する無機セレン酸の特異的な阻害作用を証明し、この化合物が、癌(特に、PTENヌル腫瘍などのPI3K/Akt経路の過剰活性化によって引き起こされる癌)を治療するための療法において役に立つ可能性があることを示唆している。
【0107】
セレン酸ナトリウム対セレノメチオニンの抗腫瘍作用に関与する分子機構もまた本研究において解明されている。無機セレン酸ナトリウムは、アポトーシスに影響を全く及ぼすことなく細胞増殖を妨げることによってインビボで腫瘍進行を阻害した。インビトロで用量依存的および時間依存的なPC-3細胞増殖の低下が観察され、セレン酸ナトリウムはアポトーシス細胞の割合を高めることなくG1停止を誘導することによって、これらの細胞のS期進行を阻害することができた(これはフローサイトメトリーによって観察された)。
【0108】
細胞周期の進行はCDKによって制御される。CDKの活性はCDK阻害因子によって阻害される。G1-S移行を通る進行は、G1サイクリンおよびCDKの活性によって制御されるとみなされている。cdk1などのサイクリンはG1細胞周期進行を刺激するのに対して(Baldin et al 1993, Genes Dev., 7:812-821)、Rbは、細胞周期プロセスと遺伝子制御を結び付ける重要な下流標的であるように思われる(Weintraub et al 1995, Nature, 375:812-815)。cdk4/cdk6/サイクリンD複合体によるRbのリン酸化がRb/E2F複合体を破壊すると、E2Fは、DNA合成および細胞周期進行に必要な遺伝子を活性化できるようになる(Harbour et al 1999, Cell, 98:859-869)。
【0109】
この結果から、Rb Ser807/811のリン酸化と同様にサイクリンD1レベルが低下したのに対して、cdk6およびcdk4レベルは比較的変化しなかったことが分かる。これらの結果は、高用量セレン酸が、PC-3細胞において、重要な細胞周期進行タンパク質のレベルおよび活性化を特異的に妨げることによってG1停止を誘導することを証明している。p27KIP1レベルは高用量セレン酸への曝露後に上昇するが、高用量セレノメチオニンでは上昇しないことが分かっている。p27KIP1レベルの上昇は、血清欠乏後(Coats et al 1996, Science, 272:877-880)または接触阻止後(Polyak et al 1994, Cell 78:59-66)の、ある範囲の正常細胞における特徴であり、G1停止に必要である。p27KIP1は細胞周期進行の負の制御因子として中心的な役割を果たしており、従って、このタンパク質のレベルの上昇は、セレン酸によって誘導される観察されたG1停止の理論的な解釈をもたらす。P21CIP1発現はまた、サイクリン/CDK複合体を阻害することによって、およびDNA合成を阻害することによってG1停止を引き起こす(Johnson, G.G. and Walker, C.L. 1999, Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 39:295-312)。
【0110】
PI3K経路は、増殖および生存に関する多くの細胞機能において中心的な役割を有し、PTEN腫瘍抑制タンパク質の消失によるこの経路の調節解除は、前立腺悪性腫瘍における共通の事象である(Whang et al 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:5246-5250)。PI3K経路の活性化はサイクリンD1発現の誘導に必要とされ(Muise-Helmericks et al 1998, J. Biol. Chem. 273:29864-29872)、DU145およびPC-3前立腺癌腫細胞において、この経路をPI3K特異的阻害剤LY294002で阻害するとG1停止が起こることが最近報告されている(Gao, et al 2003, Biochem. Biophys. Res. Commun. 310:1124-1132)。PI3K経路の主要な下流エフェクターはプロテインキナーゼB/Aktである。Aktは、PTENの無い前立腺腫瘍(例えば、PC-3細胞)において構成的に活性化されている。これらの結果から、高用量セレン酸は、これらの細胞に存在する活性化Aktのレベルを著しく下げることができたが、セレノメチオニンは下げることができなかったことが分かる(PI3Kの下流にあるAkt活性化を直接誘導すると考えられているキナーゼPDK1の活性化の変化が検出されなかったので、活性化Aktのレベルに特異的に作用する効果である)(Vivanco, I. and Sawyers, C.L. 2003, 前記)。これらの結果は、セレン酸が、今のところまだ十分に特徴付けられていないホスファターゼを介して、Aktの脱リン酸を増大するように作用する可能性があることを示唆している。
【0111】
興味深いことに、Akt活性化に対するセレン酸の効果は2つの別個の作用機序に従うように思われる。最初に、セレン酸はAktリン酸化の増加を誘導する。この増加は、LY294002による前処理によって阻害されたように、PI3K依存的である。次いで、この一過的増加の後に、Akt活性化が長期間著しく阻害される。この阻害は、高用量セレン酸ナトリウムの増殖阻害がLY294002によって強まらないので、Aktの上流成分を伴わない。セレン酸ナトリウムはまた、下流AktエフェクターであるmTORおよびGSK-3βならびにFKHR転写因子の活性化を妨げることができ、このことは、セレン酸の阻害作用が重要なPI3KエフェクターキナーゼAktに焦点が合っていることと一致する。
【0112】
メチルセレニン酸もまた、処理24時間以内にDU-145細胞のG1停止ならびにカスパーゼを介した経路によるアポトーシスを誘導する(Jiang et al 2001, 前記)。3μMと低い用量でG1停止が誘導されたが、これは、アポトーシスともAktリン酸の低下とも関連しなかった(Jiang et al 2002, 前記)。しかしながら、5μMというさらに高い用量では、Akt活性化が用量依存的に低下し、カスパーゼを介したアポトーシスが開始した。LY294003によるPI3K経路の阻害は、DU-145細胞においてアポトーシスを誘導しなかった。このことは、メチルセレニン酸により誘導されるPI3K経路のブロックはアポトーシス誘導に関与しなかったことを示している(Jiang et al 2002, 前記)。低用量メチルセレニン酸は、低用量ではAkt阻害およびアポトーシスと無関係にG1停止を誘導するが、高用量ではAktをブロックし、アポトーシスを誘導し、本研究と際立った対照をなしている。セレン酸ナトリウムは、アポトーシスを誘導することなく、PI3K経路の阻害によって(具体的にはAktレベルで)G1停止を誘導した。従って、セレン酸の抗増殖作用は他のセレン化合物で観察されたものより焦点が合っているように思われる。
【0113】
本発明の発見に基づいて、および慢性Akt活性化がインビボ癌モデルにおける化学療法耐性と関連していると仮定すると(Tanaka et al 2000, Oncogene, 19:5406-5412)、腫瘍モデルでの併用療法においてセレン酸と化学療法剤を使用するための魅力的な機構基盤が得られる。
【0114】
実施例2
セレン酸ナトリウムとパクリタキセルの相乗効果による前立腺腫瘍成長の低下
材料および方法
1×106個の前立腺腫瘍PC-3細胞をヌードマウスの前立腺に注射した。3日後、セレン酸ナトリウムの形態で5ppmのセレンを、セレン酸を与えるマウスの飲料水に投与した。パクリタキセルを与える動物には、10mg/kgのパクリタキセルを10%Cremophor EL/25%エタノール/65%PBS溶液に溶解して、1週間に1回、腹腔内投与した。1群につき10匹の動物を使用した。注射の5週間後、動物を屠殺し、前立腺を取り出し、従属物を取り除き、腫瘍を秤量した。後腹膜腔をリンパ節腫脹について調べ、直径が0.5mmを超えるリンパ節を切除した。次いで、50ミクロン間隔で腫瘍をステップ切片(step section)を作成し、腫瘍体積を、デジタル化した画像から標準的な体積測定式(a+b2/2)を用いて計算した。
【0115】
結果
図6は、セレン酸とパクリタキセルが前立腺腫瘍重量を小さくするように相乗作用を示すことを証明する。対照群には、パクリタキセルを用いずにパクリタキセル可溶化担体Cremophorおよびエタノールを与えた。Cremophorは、ある程度の抗腫瘍作用を有することが知られており、恐らく、このことが、この実験においてセレン酸単独の抗腫瘍作用が対照と比較して低くないことを説明している。図6に示した結果から、セレン酸およびパクリタキセルが相乗作用を示して、セレン酸単独およびパクリタキセル単独の相加効果を上回って腫瘍重量を小さくすることが分かる。セレン酸は、重要な細胞生存経路であるPI3K/Akt経路を阻害する。この経路はヒト腫瘍の高い割合でアップレギュレートされ、この経路の過剰活性化は、化学療法剤に対する化学療法抵抗性の発生と高い相関関係がある。
【0116】
これらの結果は、セレン酸およびパクリタキセルの併用療法を用いてインビボで前立腺腫瘍を同時治療すると、いずれかの治療単独より大きな抗腫瘍作用を誘導できることを示している。セレン酸は、腫瘍細胞が化学療法薬パクリタキセルに対する化学療法抵抗性を誘導する能力を妨げることができた。従って、ヌードマウスにおいて、PC-3細胞を動物の前立腺に注射することによって前立腺腫瘍を誘導し、その後に、動物をセレン酸またはパクリタキセルを単独でまたは組み合わせて5週間治療し、次いで、腫瘍を分析した。図6に示したように、併用療法には、いずれかの治療単独の相加効果を上回る腫瘍重量の減少に著しい相乗効果があった。対照群には、パクリタキセルを用いずにパクリタキセル可溶化担体Cremophor ELおよびエタノールを与えた。Cremophor ELは抗腫瘍作用を有することが知られており、恐らく、このことが、この実験においてセレン酸が単独で対照と比較して低くないことを説明している。観察された相乗効果はインビトロよりインビボで大きい。このことは、セレン酸が血管内皮細胞ならびに腫瘍細胞それ自体の成長に対して抗血管新生作用を有し、相乗効果を説明するのは、インビボでしか観察できないこの組み合わせ効果であるという考えを裏付けている。
【0117】
図7は、腫瘍の組織切片を示す。セレン酸とパクリタキセルの組み合わせには、パクリタキセル単独と比較して腫瘍サイズおよび腫瘍体積を有意に小さくする相乗効果があることが分かる。セレン酸およびパクリタキセルのこの有意な相乗効果は、図8に示した腫瘍体積のグラフでも明らかである。
【0118】
前立腺腫瘍成長に対する薬剤の効果を確かめるために、パクリタキセル単独による治療を受けた動物および併用療法による治療を受けた動物からの腫瘍体積を測定した。図7に示したように、併用療法には腫瘍サイズの低下に対して著しい効果があり、腫瘍体積に対しても著しい効果があった(図8)。この効果は統計的に有意であった(P<0.05)。
【0119】
従って、図6〜8に示したインビボデータは、前立腺腫瘍の重量および体積を小さくするセレン酸とパクリタキセルの相乗効果を証明している。この効果は、相乗効果を示した2種類の化合物いずれかの薬剤単独の相加効果より大きかった。このことは、セレン酸が血管内皮細胞ならびに腫瘍細胞の成長に対して抗血管新生作用を有し、相乗効果を説明するのは、インビボで観察できるこの組み合わせ効果であるという発見を裏付けている。セレン酸単独では、腫瘍体積に対する効果より、腫瘍の微小血管密度の低下に対する効果の方が大きかった。これは直接的な抗血管新生作用を示している。
【0120】
実施例3
セレン酸および亜セレン酸の比較試験
材料および方法
細胞毒性
5μMまたは50μMのセレン酸ナトリウムまたは亜セレン酸ナトリウムを用いて処理した後の細胞毒性は、トリパンブルー排除による細胞毒性の測定を伴った。5×103個のヒト前立腺癌PC-3細胞を24ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMまたは50μMのセレン酸または亜セレン酸で処理した。5μMまたは50μMの用量範囲は0.1mg/kg〜1.25mg/kgに相当する。セレン酸または亜セレン酸を添加して24時間後、48時間後、72時間後、および96時間後に、細胞を採取し、生細胞のパーセント(トリパンブルー染色によって評価した)を求めた。図9のグラフに示した結果は、3回の独立した実験の平均およびSDを示している。図9から、セレン酸は細胞分裂停止性であるが、ほぼ同じ濃度の亜セレン酸は細胞傷害性であることが分かる。従って、亜セレン酸は動物における併用療法に適さないだろう。
【0121】
セレン酸の相対細胞傷害作用と亜セレン酸の相対細胞傷害作用を区別するために、ヒト前立腺癌腫細胞PC-3を、2種類の濃度5μMもしくは50μM(0.2〜1.9mg/kgの用量に相当する)のセレン酸または5μMもしくは50μM(0.18〜1.8mg/kgの用量に相当する)亜セレン酸を用いて処理した。次いで、処理を添加して24〜96時間後に連続して、組織培養ウェル中の全ての細胞を採取した。次いで、生細胞のパーセントを、トリパンブルー排除アッセイ法を用いて求めた。全ての時点ならびに低濃度および高濃度の両方でセレン酸は、これらの細胞に対して細胞傷害性でなかった。セレン酸処理試料における生細胞のパーセントは対照非処理試料と等しかった(図9)。この効果は全ての時点を通じて維持され、多くの時点について統計的有意性に達した(図9、星印の付いた時点を参照されたい)。セレン酸には、細胞に対して、証明された細胞分裂停止作用があるが、亜セレン酸には細胞傷害作用がある。
【0122】
細胞遺伝毒性
5×105個のPC-3細胞を6ウェルディッシュにプレートし、24時間後に、細胞を、1μg/mLもしくは10μg/mLのパクリタキセル、または500μM(19mg/kg)のセレン酸、または500μM(18mg/kg)の亜セレン酸を用いて指示した時間にわたって処理した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、ELB溶解緩衝液中で溶解し、全細胞溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、指示した抗体でブロットおよびプローブした。ヒストンH2AXのリン酸化はDNA損傷(典型的に、DNA二本鎖または一本鎖の切断による損傷)の数分以内に起こり、DNA損傷の非常に感度の高い測定値である。
【0123】
DNA損傷の誘導におけるセレン酸と、亜セレン酸と、タキサンであるパクリタキセルとの違いを確かめるために、これらの化合物を用いて、PC-3細胞を漸増期間にわたって処理し、次いで、溶解した。ヒストンH2A.Xのリン酸化についてタンパク質抽出物を、リン酸化特異的抗体を用いてプローブした。結果を図10に示した。図10から、亜セレン酸は遺伝毒性であり、DNA鎖の切断を誘導するのに対して、セレン酸およびパクリタキセルは誘導しないことが分かる。高濃度(500μM;19mg/kgの用量に相当する)のセレンならびに漸増濃度のパクリタキセルでさえも、ヒストンH2A.Xのリン酸化によって評価されたようにDNA損傷を誘導しなかった。対照的に、等濃度(500μM;18mg/kgの用量に相当する)の亜セレン酸は処理30分以内にDNA損傷を誘導する。これは、同じ試料において同時に起こるβチューブリンレベル低下により示されたように、この処理の全体的な毒性作用にもかかわらず、時間と共に増大する効果である(図10)。
【0124】
Akt活性化
5×105個のPC-3細胞を6ウェルディッシュにプレートし、24時間後、細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、細胞を、指示したセレン化合物(全て125μM(4〜9mg/kgの用量範囲に相当する))で6時間処理した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、ELB溶解緩衝液で溶解し、全細胞溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、最初に、活性化特異的Akt抗体(Ser408)でブロットおよびプローブし、次いで、ブロットをストリッピングし、ローディング対照として総Akt特異的抗体(pan Akt)で再プローブした。発色させたフィルムからのシグナル強度をスキャンし、総Aktレベルと相関させた活性Aktの強度をプロットした。
【0125】
Akt活性化状態に対する異なるセレン化合物の効果を比較するために、PC-3細胞を、図11に示したように7種類のセレン化合物で処理した。図11から、セレン酸ナトリウム(ATE)だけがAkt活性化を阻害し、リン酸化Aktレベルを対照(con)レベルより低く下げることが分かる。対照的に、亜セレン酸(Sel acid)、亜セレン酸ナトリウム(ITE)、二酸化セレン(SeO2)、硫化セレン(SeS2)、メチルセレノシステイン(MSC)、セレノシステイン(SeC)は全て対照(con)レベルを超えてAkt活性化を誘導する。
【0126】
高用量の亜セレン酸の効果を確かめるために、5×105個のPC-3細胞を6ウェルディッシュにプレートし、24時間後、細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、細胞を、500μM(18〜19mg/kgの用量範囲に相当する)の亜セレン酸ナトリウムまたはセレン酸ナトリウムで1時間処理した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、ELB溶解緩衝液で溶解し、全細胞溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、最初に活性化特異的Akt抗体(Ser408)でブロットおよびプローブした。
【0127】
図12から、ほぼ同じ高用量のセレン酸ナトリウム(ATE)と比較して、500μMの高用量の亜セレン酸ナトリウム(ITE)でもAkt活性化を阻害しないことが分かる。セレン酸で観察されたものとほぼ同じAkt活性化レベルを、高用量レベルの亜セレン酸が阻害できるかどうかを確かめるために、PC-3細胞を、500μM(18〜19mg/kg)のセレン酸ナトリウムまたは亜セレン酸ナトリウムで1時間処理し、Akt活性化を、リン酸化特異的抗体を用いて確かめた。この期間は、この時点で500μM(18mg/kg)の亜セレン酸が全体的なタンパク質分解を誘導しないという理由で選択された。図12に示したように、セレン酸は対照未処理細胞と比較してAkt活性化を阻害したのに対して、亜セレン酸はAkt活性化を阻害できなかった。
【0128】
アポトーシス
5×105個のPC-3細胞を6ウェルディッシュにプレートし、24時間後、細胞を、1ng/mL、10ng/mL、100ng/mL、および1μg/mL、101μg/mLパクリタキセル、または100μM、250μM、もしくは500μM(4〜19mg/kgに相当する)セレン酸ナトリウム、または100μM、250μM、もしくは500μM(3.6〜18mg/kgに相当する)亜セレン酸ナトリウムで16時間処理した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、ELB溶解緩衝液で溶解し、全細胞溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、抗切断PARP(PARP)特異的抗体および抗βチューブリン(チューブリン)特異的抗体でブロットおよびプローブした。
【0129】
亜セレン酸について証明されているように(Jiang, C. et al, 2004 Mol. Can. Ther. 3:877)、遺伝毒性損傷を誘導する薬剤はp53依存性機構を介したアポトーシスプログラムを誘発する。パクリタキセルなどの微小管安定化剤は内因性アポトーシス経路を介してアポトーシスを誘導する。セレン酸のアポトーシス促進機構と亜セレン酸のアポトーシス促進機構を区別するために、PC-3細胞を漸増濃度のこれらの化合物で16時間処理し、アポトーシスのマーカータンパク質である切断PARPのレベルを分析した。図13から、セレン酸および亜セレン酸は異なる機構を介してアポトーシスを誘導することが分かる。パクリタキセルおよびセレン酸はアポトーシス促進性PARPタンパク質の切断を誘導するのに対して、亜セレン酸は誘導しない。亜セレン酸はまた、その細胞毒性の基礎をなす細胞チューブリンの著しい分解も誘導する。従って、セレン酸および亜セレン酸は、PARPおよびチューブリンに対する効果により証明されたように異なる機構を介してアポトーシスを誘導するように思われる。全データから、Akt経路に対する様々なセレン化合物の効果ははっきりと区別されることが分かる。
【0130】
実施例4
5×104個のヒト前立腺癌アンドロゲン感受性LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、50μMセレン酸ナトリウムで処理したか、または処理しなかった(対照)。化合物を添加して72時間後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0131】
図14に示したように、セレン酸はアンドロゲン除去と相乗作用を示して、処理72時間後に親LNCaP細胞増殖を低下させた。
【0132】
実施例5
5×104個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、50μMセレン酸で処理したか、または処理しなかった(対照)。セレン酸ナトリウムを添加して72時間後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0133】
図15に示したように、セレン酸はアンドロゲン除去と相乗作用を示して、処理72時間後にCSS LNCaP細胞増殖を低下せた。アンドロゲン非依存性細胞は親LNCaP細胞よりセレン処理に対して感受性が高い。
【0134】
実施例6
1×105ヒト前立腺癌アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLy294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0135】
図16に示したように、5μMのセレン酸だけが、処理9日後に、アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞の増殖を著しく低下させる(p<0.95)。
【0136】
実施例7
1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、化合物の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0137】
図17に示したように、5μMのセレン酸だけがアンドロゲン除去と相乗作用を示して、処理9日後に、アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞の増殖を著しく低下させる(p<0.95)。
【0138】
実施例8
1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLY294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0139】
図18に示したように、5μMのセレン酸だけが、テストステロンの存在下でさえ、処理9日後に、アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞の増殖を著しく低下させる(p<0.95)。
【0140】
実施例9
1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLY294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0141】
図19に示したように、5μMのセレン酸だけがアンドロゲン除去と相乗作用を示して、処理の9日後に、アンドロゲン感受性CSS LNCaP細胞の増殖を著しく低下させる(p<0.95)。
【0142】
実施例10
1×105個のヒト腎臓上皮Q293細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLY294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0143】
図20に示したように、処理9日後に、5μMセレン酸はQ293細胞の増殖を有意にもたらさないが、PI3K阻害剤LY294002は増殖を有意にもたらす(p<0.95)。従って、セレン酸の阻害作用は細胞特異的である。
【0144】
実施例11
1×105個のヒト腎臓上皮Q293細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLY294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0145】
図21に示したように、処理9日後に、5μMセレン酸はアンドロゲン除去(CSS培地中で増殖)と組み合わせた場合でもQ293細胞の増殖を有意にもたらさないが、PI3K阻害剤LY294002は増殖を有意にもたらす(p<0.95)。従って、セレン酸の阻害作用は細胞特異的である。
【0146】
実施例4〜11の材料および方法
細胞培養
親アンドロゲン感受性LNCaP細胞株は、American Type Culture Collection (Manassas, Virginia, USA)から入手し、10%ウシ胎仔血清および1%抗生物質/抗真菌剤混合物(Invitrogen)を添加したRPMI1641(Invitrogen)において日常的に培養した。細胞を5%CO2において37℃に維持した。アンドロゲン非依存性LNCaP細胞を選択するために、LNCaPを、5%チャコール処理血清(CSS)(Invitrogen)(全ての検出可能な微量テストステロンが除去されている)を含むRPMI1641(Invitrogen)において6〜8週間培養し、テストステロンの非存在下で自由に増殖することができるLNCaP細胞株を得た。これらの細胞をCSS LNCaPと呼ぶ。
【0147】
Q293細胞は、5%ウシ胎仔血清および1%抗生物質/抗真菌剤混合物(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)において日常的に培養したヒト腎臓上皮細胞株である。
【0148】
セレン酸ナトリウムは、蒸留水に溶解して10mM原液として作成し、フィルター滅菌した後に、インビトロ実験用に培地で希釈した。PI3K阻害剤LY294002は、50mM原液でDMSOに溶解し、インビトロ実験用に細胞培地で希釈した。
【0149】
細胞成長曲線
5×104(図1〜2)〜1×105個のLNCaP、CSS LNCaP、またはQ293細胞を一晩付着させた。数時間後、培地を、指示したように正常血清またはチャコール処理血清(CSS)の存在下でセレン酸ナトリウムまたはLY294002を含むように交換し、指定の時点まで増殖させた。次いで、上清および細胞を採取し、混合し、生細胞をトリパンブルー排除アッセイ法によって評価した。実験は三通り行った。
【0150】
統計解析
特別の定めのない限り、データは平均±SEで示した。処理群および対照群の差はペアワイズt検定を用いて解析し、p<0.05で有意であるとみなした。星印は、対応する対照値と有意に異なる値を示す。統計解析は、SPSS 9.05 for Windows(SPSS, Chicago, Illinois)ソフトウェアを用いて行った。
【0151】
本明細書において引用された全ての特許、特許出願、および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0152】
本明細書におけるどの参考文献の引用によっても、このような参考文献が本願に対する「先行技術」として利用できると認めるものであると解釈してはならない。
【0153】
明細書全体を通して、この目的は、本発明をいずれか1つの態様または特徴の特定の集まりに限定することなく、本発明の好ましい態様を説明することであった。従って、当業者であれば、本開示を考慮して、本発明の範囲から逸脱することなく、例証された特定の態様において様々な修正および変更が可能なことを理解するだろう。このような全ての修正および変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】セレン酸ナトリウムが同所性マウスモデルにおける前立腺腫瘍細胞の増殖を阻害することを示すグラフ表示および写真表示である。6週齢雄BALB/cヌードマウスの背側外側前立腺に1×106個のPC-3細胞を注射した。次いで、1群あたり10匹の動物に、5週間、飲料水に溶かして5ppmセレン酸ナトリウム(NaSe)を与えたか、処置を行わなかった(Con)。次いで、動物を選抜した。(A)図1(A)は、セレン酸ナトリウムを与えたマウスでは、腫瘍含有前立腺の重量が小さかったことを図示する。(B)図1(B)は、セレン酸ナトリウムを与えたマウスでは、ノギスを用いて測定した腫瘍体積がわずかに小さかった(が、有意でなかった)ことを図示する。(C)次いで、後腹膜腔を拡大下で頭側に向かって腎静脈のレベルまで調べ、0.5mmを超えるリンパ節の数(リンパ節数)を数えた。図1(C)は、セレン酸ナトリウムを与えたマウスでは、0.5mmを超えるリンパ節の数が少なかったことを示す。結果は平均+/-SEを示す。図1(A)および1(C)は、対照に対してp<0.05を有する。(D)図1(D)は、前立腺腫瘍試料からのBrdU陽性細胞核およびTunel陽性細胞核の集計を示す。結果は、非処理群(Con)およびセレン酸ナトリウム群(NaSe)からの4つの腫瘍試料の高倍率視野あたりの平均+/-SEを示す。(E)図1(E)は、非処理(対照)およびセレン酸ナトリウム(NaSe)前立腺腫瘍組織試料からのBrdU陽性核の代表的な免疫組織化学試料(×100倍率)を示す。
【図2】セレン酸ナトリウムがG1細胞周期ブロックを誘導することによって前立腺癌腫細胞の増殖を阻害することを示すグラフ表示および写真表示である。(A)2×105個のPC-3細胞を6ウェルプレートに播種し、16時間インキュベートした。次いで、指示した濃度のセレン酸ナトリウムを添加し、インキュベーションを指示した時点にわたって続けた。次いで、非付着細胞画分および付着細胞画分を採取し、プールし、トリパンブルー排除アッセイ法によって生細胞の総数を数えた。図1(A)は、生細胞数に対する異なる濃度のセレン酸ナトリウムの効果を図示する。(B)2.5×104個のPC-3細胞を24ウェルプレートに播種し、16時間後に、0.05mM、0.1mM、または0.25mMセレン酸ナトリウムに36時間曝露し、次いで、BrdU/FrdU増殖細胞標識試薬(Roche)をさらに16時間添加した。細胞を洗浄し、固定し、BrdU/FrdUの核への取り込みがあるかどうか染色し、細胞核を識別するためにDAP1で染色した。結果を図2(B)に示した。(C)2×105個のPC-3細胞をT25フラスコに播種し、16時間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、無血清培地中でさらに48時間インキュベートした。次いで、細胞を、0.0mM、0.1mM、0.25mM、または0.5mMセレン酸ナトリウムを含有する新鮮な血清(FCS,10%)でさらに24時間または48時間再刺激した。次いで、細胞を採取し、固定し、ヨウ化プロプリウム(proprium iodide)で染色し、FACS分析を行った。3回の独立した実験の細胞周期のG1期およびG2/M期にある細胞の平均パーセントのグラフプロットを、図2(D)に示した。(E)細胞増殖をMTTアッセイ法によって評価した。1×104個のPC-3細胞を96ウェルプレートに播種し、16時間インキュベートした。次いで、指示した濃度のセレン酸ナトリウムまたはセレノメチオニンを添加し、73時間後に、MTTアッセイ法によって細胞増殖指標を測定した。結果を図2(E)に示した。全ての結果について、示した値は、少なくとも3回の独立した実験からの平均+S.D.である。
【図3】セレン酸ナトリウムが細胞周期阻害タンパク質のアップレギュレーションおよび網膜芽細胞腫タンパク質の脱リン酸を誘導することを示す写真表示である。(A)7.5×105個のPC-3細胞を6cmディッシュに播種し、次いで、16時間後に、非同調的に増殖している細胞を、指示した時間にわたって0.5mMセレン酸ナトリウムで処理し、次いで、細胞をELB緩衝液で溶解し、等量の全細胞溶解産物(75μg)を12%SDS-PAGEゲルにおいて分離し、指示した一次抗体で膜をプローブした。結果を図3(A)に示した。(B)5×105個のPC-3細胞を6ウェルプレートに播種し、10時間インキュベートし、洗浄し、血清を16時間欠乏させ、次いで、示した時点にわたってセレン酸ナトリウム(0.5mM)で処理した。細胞をELB緩衝液で溶解し、全細胞溶解産物(75μg)を10%SDS-PAGEゲルにロードし、指示した抗体で膜をプローブした。結果を図3(B)に示した。(C)2×105個のPC-3細胞を6ウェルプレートに播種し、16時間インキュベートし、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)またはセレノメチオニン(SeMet,0.5mM)で、指示した時間にわたって処理し、全細胞溶解産物(75μg)を12.5%SDS-PAGEゲルにおいて流し、指示した抗体で膜をプローブした。結果を図3(C)に示した。
【図4】PTEN欠損PC-3細胞において、セレン酸ナトリウムは慢性Akt活性化を阻害するが、セレノメチオニンは阻害しないことを示す写真表示である。(A)PC-3細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)を指示した期間にわたって添加し、全細胞溶解産物(75μg)を10%SDS-PAGEゲルにロードし、膜をリン酸化特異的Akt抗体およびpan-Akt抗体でプローブした。結果を図4(A)に示した。(B)(A)からの同じ溶解産物(75μg)を、ローディング対照としてリン酸化特異的PDK1抗体およびβIIIチューブリン抗体でプローブした。結果を図4(B)に示した。(C)PC-3細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM,10分間)またはLY294002(50μM,1時間)を単独でまたは組み合わせて添加し、次いで、細胞を溶解し、全細胞溶解産物(75μg)を10%SDS-PAGEゲルにおいて分離し、リン酸化特異的抗体およびpan Akt抗体で膜をプローブした。結果を図4(C)に示した。(D)PC-3細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)またはセレノメチオニン(SeMet,0.5mM)で、指示した異なる期間にわたって処理し、次いで、等量の全細胞溶解産物(75μg)を10%SDS-PAGEゲルにおいて分離し、リン酸化特異的抗体およびpan Akt抗体で膜をプローブした。結果を図4(D)に示した。
【図5】セレン酸ナトリウムはForkhead転写因子の核への移行およびPI3K細胞生存経路エフェクタータンパク質活性のダウンレギュレーションを誘導するが、セレノメチオニンは誘導しないことを示すグラフ表示および写真表示である。(A)PC-3細胞を、Lipofectamine2000試薬を用いてGFP-Forkhead発現構築物(GFP-FKHR,0.8μg)でトランスフェクトし、次いで、24時間後、血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)もしくはセレノメチオニン(Se Met,0.5mM)で3時間、またはLY294002(10μM)で1時間処理した。次いで、細胞を固定し、核および細胞質のGFP蛍光状態を観察した。DAPI染色は細胞核を示している。結果を図5(A)に示した。(B)図5(B)は、(A)の結果の平均+S.D.のグラフ図を示す。全ての実験は三通り行い、各処理について少なくとも70個のトランスフェクト細胞を評価した。(C),(D)PC-3細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)で、指示した期間にわたって処理し、全細胞溶解産物((C)では75μg、(D)では100μg)をSDS-PAGEゲルにおいて分離し、指示した抗体で膜をプローブした。βIIIチューブリンは(C)ではローディング対照として働いた。非同調的に増殖しているPC-3細胞を、LY294002(10μM)と共に、または伴わずに、指示した濃度のセレン酸ナトリウム(Na2SeO4)で72時間処理した。次いで、MTTアッセイ法を用いた増殖指標のために細胞を処理した。結果は、少なくとも3回の独立した実験の平均+S.D.を示す。
【図6】マウスの前立腺腫瘍を、セレン(セレン酸の形態をしている)単独で、またはタキソール(パクリタキセル)と組み合わせて処置したインビボ結果を示すグラフ表示および写真表示である。この処置は、Cont(対照群)、セレン(セレン酸ナトリウム)、およびタキソール(パクリタキセル)を含む。対照群は、パクリタキセルを含まないパクリタキセル可溶化担体cremophorおよびエタノールで処置した。グラフのY軸は前立腺腫瘍の重量(mg)を示す。図は平均±SDを示す。
【図7】タキソール(パクリタキセル)単独で処置された前立腺腫瘍、またはタキソールとセレン酸ナトリウムを組み合わせて処置された前立腺腫瘍の組織切片を示す写真表示である。セレン酸ナトリウムおよびパクリタキセルは、前立腺腫瘍サイズを小さくするのに相乗作用を示した。図7は、パクリタキセル単独で処置した動物(タキソール)およびセレン酸ナトリウムとパクリタキセルを組み合わせて処置した動物(タキソール+セレン酸)からの腫瘍切片の画像を示す。腫瘍切片をHEで染色した。両画像とも同じ倍率で撮影し、直接比較することができる。
【図8】マウスの前立腺腫瘍を、タキソール(パクリタキセル)(T)単独で、またはセレン酸ナトリウムと組み合わせて(S+T)処置したインビボ結果を示すグラフ表示である。グラフのY軸は前立腺腫瘍の体積(mm3)を示す。図は平均+SDを示す。
【図9】5μMまたは50μMのセレン酸ナトリウムまたは亜セレン酸ナトリウムの細胞毒性作用(24時間後、48時間後、72時間後、および96時間後にトリパンブルー排除によって測定した)を示すグラフ表示である。亜セレン酸およびセレン酸の細胞毒性はトリパンブルー排除によって測定した。結果は、3回の独立した実験の平均±SDを示す。各試料の細胞総数と比較した生細胞のパーセントをY軸に示し、処理をx軸に示した。
【図10】PC-3細胞に対する1μg/mLもしくは10μg/mLのタキソール(パクリタキセル)、または500μM(19mg/kgの用量に相当する)のセレン酸ナトリウム、または500μM(18mg/kgの用量に相当する)の亜セレン酸ナトリウムの指示した時間にわたる効果を示した写真表示である。処理細胞の溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、次いで、指示した抗体でブロットおよびプローブした。亜セレン酸はDNA損傷を誘導することが示されたのに対して、セレン酸およびパクリタキセルは誘導しないことが示された。処理PC-3細胞からの全細胞溶解産物をPVDF膜に転写し、リン酸化特異的ヒストンH2A.X抗体(P H2A.X)でプローブし、次いで、膜をストリッピングし、ローディング対照(チューブリン)としてβ-チューブリン抗体で再プローブした。
【図11】Akt活性化に対する異なるセレン化合物の効果を示すグラフ表示である。処理:対照(con);セレン酸ナトリウム(ATE);亜セレン酸(Sel acid);亜セレン酸ナトリウム(ITE);二酸化セレン(SeO2);硫化セレン(SeS2);メチルセレノシステイン(MSC);およびセレノシステイン(SeC)。総Aktタンパク質レベルと相関させた活性Aktの相対シグナル強度をy軸に示した。グラフから、セレン酸ナトリウム(ATE)だけがAkt活性化を阻害し、対照(con)レベルより下にリン酸化Aktレベルを下げることが分かる。対照的に、亜セレン酸(Sel acid)、亜セレン酸ナトリウム(ITE)、二酸化セレン(SeO2)、硫化セレン(SeS2)、メチルセレノシステイン(MSC)、セレノシステイン(SeC)は全てAkt活性化を対照(con)レベルより上に誘導する。
【図12】Akt活性化に対する高用量の亜セレン酸ナトリウムおよびセレン酸ナトリウムの効果を示す写真表示である。500μMの亜セレン酸ナトリウム(ITE)は、ほぼ同じ用量のセレン酸ナトリウム(ATE)と比較してAkt活性化を阻害しない。処理されたPC-3細胞の溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、リン酸化特異的Akt抗体(ser408)P-Akt抗体を用いてブロットおよびプローブした。
【図13】1ng/mL、10ng/mL、100ng/mL、および1μg/mL、10μg/mLのタキソール(パクリタキセル)、または100μM、250μM、もしくは500μM(4〜19mg/kgの用量に相当する)のセレン酸ナトリウム(ATE)、または100μM、250μM、もしくは500μM(3.6〜18mg/kgの用量に相当する)の亜セレン酸ナトリウム(ITE)を用いてPC-3細胞を16時間処理した結果を示す写真表示である。処理された細胞の溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、切断PARPタンパク質およびβ-チューブリン(対照)に対する特異的抗体を用いてブロットおよびプローブした。タキソールおよびセレン酸はアポトーシス促進性PARPタンパク質の切断を誘導するのに対して、亜セレン酸は誘導しないことが示された。亜セレン酸はまた、その細胞毒性の基礎をなす細胞βチューブリンの著しい分解も誘導する。
【図14】アンドロゲンの存在下または非存在下で増殖させた親LNCaP細胞を、セレン酸ナトリウム(50μM)で3日間処理した後のパーセント成長阻害を示すグラフ表示および写真表示である。5×104個のヒト前立腺癌アンドロゲン感受性LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に50μMセレン酸ナトリウムで処理したか、またはセレン酸による処理を行わなかった(対照)。セレン酸を添加して72時間後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図15】アンドロゲンの存在下または非存在下で増殖させたCSS LNCaP細胞株を、セレン酸ナトリウム(50μM)で3日間処理した後のパーセント成長阻害を示すグラフ表示である。5×104個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に50μMセレン酸ナトリウムで処理したか、またはセレン酸による処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムを添加して72時間後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図16】アンドロゲンの存在下で増殖させた親LNCaP(正常血清,NS LNCaP)細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)またはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞を6ウェルプレートに播種し、8時間後に、セレン酸ナトリウム(5μM)、LY294002(10μM)で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸またはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図17】アンドロゲンの非存在下で(チャコール処理血清,CSSにおいて)増殖させた親NS LNCaP細胞を、セレン酸ナトリウム(5μM)またはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト前立腺癌感受性NS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウム、10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸またはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図18】アンドロゲンの存在下で(正常血清,NSにおいて)増殖させたアンドロゲン非依存性LNCaP(CSS LNCap)細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)またはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウム、10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムまたはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図19】アンドロゲンの非存在下で(チャコール処理血清,CSSにおいて)増殖させたアンドロゲン非依存性LNCaP(CSS LNCaP)細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)またはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムもしくは10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムまたはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図20】アンドロゲンの存在下で(正常血清,NSにおいて)増殖させたQ293細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)もしくはLY294002(10μM)で処理した後、または非処理(対照)後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト腎臓上皮Q293細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムもしくは10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムまたはLY294002で処理して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図21】アンドロゲンの非存在下で(チャコール処理血清,CSSにおいて)増殖させたQ293細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)もしくはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト腎臓上皮Q293細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムもしくは10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムまたはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的には、腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための方法および組成物におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用、特に、栄養所要量を超える量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。本発明はまた、腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための、セレン酸またはその薬学的に許容される塩と、ホルモン除去療法、細胞増殖抑制剤、または細胞傷害剤の少なくとも1つを組み合わせた使用に関する。ある特定の態様において、本発明の方法は、癌、特に、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌(例えば、前立腺癌)の治療または予防に有用である。さらに、本発明は、ホルモン依存性癌を治療するための方法および組成物における、セレン酸またはその薬学的に許容される塩と、ホルモン除去療法、任意に、細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を組み合わせた使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌予防薬としてのセレン化合物の使用に大きな関心がある。過去20年に及ぶ研究から、乳腺(Ip, C. 1981, Cancer Res. 41 :4386-4390)、結腸(Reddy et al. 1981, Cancer Res. 47:5901-5904)、肺および前立腺 (Clark et al. 1996, Jama 276:1957-1963)の腫瘍において、セレン化合物に癌予防作用があることが述べられている。有機セレノメチオニンを用いた前立腺癌予防の第2相臨床試験および第3相臨床試験が現在行われている(Nelson et al. 1999, 前記)。
【0003】
化学予防研究に用いられるセレン化合物は大まかに無機セレン型と有機セレン型に分類することができる。無機セレンの代表的な形態である亜セレン酸ナトリウム(Na2SeO3)は比較的毒性があり、一本鎖および二本鎖切断DNA損傷を引き起こすのに対して、代表的な有機セレン実体であるセレノメチオニン(SeMet)は比較的毒性がなく、DNA損傷を引き起こさない(Lu et al. 1995, 前記; Sinha et al. 1996, 前記; Stewart et al, 1999, 前記)。
【0004】
有機セレノメチオニンは食事性セレンの主要な構成成分であり、一連の複雑な中間体を介して細胞のセレン含有タンパク質(例えば、チオレドキシン還元酵素およびグルタチオンペルオキシダーゼ)に取り込まれる(Allan et al. 1999, Annu. Rev. Nutr. 19:1-16)。これらのセレノシステイン含有セレン含有酵素(例えば、抗酸化物質グルタチオニン(glutathionine)ペルオキシダーゼおよび酸化還元を調節するチオレドキシン)は変異原性酸化ストレスに対する細胞応答に関与するので、栄養所要量を超えるセレン取り込みレベルは、細胞の還元環境を促進することによって細胞の抗癌活性を高めると長く提案されてきた(Allan et al. 1999, 前記)。
【0005】
しかしながら、セレン化合物の抗腫瘍作用の内容はセレン元素が投与される化学形態に左右されることが次第に明らかになってきている(IP, C. 1998, J. Nutr. 128:1845-1854)。メチルセレニン酸の形態をした有機セレンは、DU145前立腺癌細胞において、G1停止ならびにDNA断片化およびカスパーゼを介したPARP切断(これらはアポトーシスの2つのマーカーである)を誘導する(Jiang et al. 2001, Cancer Res. 61:3062-3070)。
【0006】
対照的に、亜セレン酸は、S期停止、およびカスパーゼ機能とは関係の無いアポトーシスDNA断片化を誘導する(Jiang et al. 2002, Mol. Cancer Ther. 1:1059-1066)。無機セレン化合物についても違いが報告されており、亜セレン酸およびセレン酸は異なる機構を介してリンパ球の成長を阻害する(Spyrou et al. 1996, Cancer Res. 56:4407-4412)。これらの違いは、部分的には、インビトロ細胞培養とインビボ研究の間の代謝およびバイオアベイラビリティの相違によって説明がつくかもしれない(Dong et al. 2003, Cancer Res. 63:52-59)。
【0007】
ホルモン依存性癌はホルモン受容体を有する腫瘍細胞を含み、これらの腫瘍細胞の成長および増殖はホルモンの存在によって促進される。ホルモン依存性腫瘍(例えば、前立腺癌、精巣癌、甲状腺癌、乳癌、卵巣癌、および子宮癌)の腫瘍細胞の成長および増殖を少なくともある一定の期間にわたって止めるために、ホルモン除去療法(外科的または化学的)が用いられる。
【0008】
前立腺癌はヒト男性における主要な癌であり、進行前立腺癌腫の成長を有する患者の治療は典型的には医学的去勢または外科的去勢を伴う(Huggins, C. and Hodges, C.V. 1941, Cancer Res. 1 :293-297)。80%までの患者が、中央値で12〜18ヶ月続く一時的応答を示した後に、去勢テストステロン値にもかかわらず、継続した腫瘍成長が明らかになる(Petrylak, D.P. 1999, Urology 54:30-35)。一旦、アンドロゲン非依存性の成長が確立したら、平均余命の中央値は9〜12ヶ月である。従来の化学療法は疼痛スコアを改善し、生活の質を高めることができるが、有意な生存上の利益を全くもたらさない。
【0009】
アンドロゲン非依存性成長への移行の根底にある分子機構は完全に理解されていない。受容体発現のアップレギュレーション、相手を選ばない(promiscuous)リガンド結合、ならびに他の成長シグナル伝達カスケードによるリガンド非依存性受容体トランス活性化を含む、アンドロゲン受容体シグナル伝達の変化が役割を果たしている可能性がある(Feldman, B.J. and Feldman, D. 2001, Nat. Rev. Cancer 1:34-45)。
【0010】
同時に、前立腺癌細胞は細胞死の誘導を防ぐ多数の機構を獲得し、これは、化学療法抵抗性の部分的な説明となる(Gurumurthy et al. 2001, Cancer Metastasis Rev. 20:225-243)。これにおけるPI3K/Akt経路の役割がますます認められてきている。Aktは、膜受容体によって刺激されたPI3Kリン酸化に応答して活性化されるセリン/スレオニンキナーゼである。次に、Aktは、Forkhead(FKHR)転写因子、Bad、カスパーゼ9、GSK-3β、およびmTORを含むアポトーシス制御に関与するいくつかのタンパク質の活性を調節する(Vivanco, I. and Sawyers, C.L. 2002, Nat. Rev. Cancer 2:289-501)。Aktの過剰活性はアンドロゲン非依存性前立腺癌においてよく見られ(多くの場合、PI3Kを不活性化するホスファターゼであるPTENの機能が低下した結果である)、アンドロゲン非依存性成長を引き起こすのに十分である(Whang et al. 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:5246-5250)。
【0011】
腫瘍細胞における放射線療法耐性もPI3K/Akt経路のアップレギュレーションと結び付けられている(Soderlund et al. 2005, Int. J. Oncol., 26:25-32; Zhan et al. 2004, Histol. Histopathol, 19:915-923; Tanno et al. 2004, Cancer Res., 64:3486-3490; Li et al. 2004, Oncogene, 23:4594-4602; McKenna et al., 2003, Genes Chromosomes Cancer, 28:330-338; Liang et al. 2003, Mol. Cancer Ther. 2:353-360)。
【0012】
セレン含有化合物を化学予防剤として臨床に使用することへの関心は、Clark et al. (1996, 前記)の発表後に広くいきわたるようになった。これらの結果は、前立腺癌の化学予防剤として栄養所要量を超えるセレノメチオニンを用いた多数のヒト臨床試験を盛んに促進した(Meuillet et al. 2004, J. Cell Biochem. 91:443-458)。しかしながら、前立腺癌の長い自然歴と比較して比較的短い介入時間を考えると、セレンは、正常な前立腺上皮から新形成へのトランスフォーメーションを阻止するのではなく、悪性細胞の成長を阻害する可能性が高い(Corcoran et al 2004, J. Urol. 171:907-910)。セレンの抗癌活性はセレン元素それ自体に関連するものではなく、セレンの化学的形態に左右されるという証拠が蓄積している(Menter et al. 2000, Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 9:1171-1182; Jiang et al. 2002, 前出; Kim et al. 2003, Biochem. Pharmacol. 66:2301-2311)。この活性の機構も不明である。
【0013】
しかしながら、投与されたセレン化合物に応じてインビボでのヒト前立腺腫瘍細胞の腫瘍進行に著しく違いがあることが注目されてきた。例えば、無機セレン酸ナトリウムは、有機セレノメチオニン、メチルセレノシステイン、またはセレン化酵母と比較して腫瘍進行を有意に遅らせる(Corcoran et al. 2004, 前記)。さらに、ある特定のセレン化合物(例えば、亜セレン酸ナトリウム)は、ある特定の用量で使用した時に細胞に対して毒性があることが見出されている(Jiang et al 2002,前記)。
【0014】
従って、癌成長を治療または予防するために適切な形態のセレン化合物を特定することが必要である。特に、より効果的な治療レジメを設計するために、癌細胞に対する様々なセレン化合物の、根底にある選択的な分子作用機構を理解する必要がある。
【発明の開示】
【0015】
発明の概要
本発明は一部、ある特定のタイプの無機セレン化合物(すなわち、セレン酸)が、特に、多量におよび栄養所要量を超える量で用いられた時に、他のセレン化合物と比較して腫瘍細胞の増殖(ホルモン非依存性腫瘍細胞およびホルモン依存性腫瘍細胞の増殖を含む)を有意に阻害するという発見に基づいている。セレン酸およびその薬学的に許容される塩は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞(特に、前立腺腫瘍細胞)に対して阻害作用を有し、細胞増殖抑制剤、細胞傷害剤、および放射線療法(放射線療法は任意に放射線増感剤と共に施される)の少なくとも1つと組み合わせて用いられた時に、腫瘍細胞成長に対して強い相乗的阻害作用を有することも見出されている。さらに、セレン酸およびその薬学的に許容される塩は、ホルモン除去療法、ならびに任意に、細胞増殖抑制剤、細胞傷害剤、および放射線療法(放射線療法は任意に放射線増感剤と共に投与される)の1つまたは複数と組み合わせて用いられた時にホルモン依存性腫瘍細胞の成長に対して阻害作用を有することが見出されている。
【0016】
従って、1つの局面において、本発明は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための方法を提供する。これらの方法は、一般的には、腫瘍細胞を、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩に曝露する工程を含む。ある態様において、Aktシグナル伝達経路の活性化は、Akt、mTOR、GSK-3β、およびFKHRより選択される少なくとも1つのメンバーの活性化を含む。このタイプの例示的な例において、Aktシグナル伝達経路の活性化はAktのリン酸化(例えば、AktのThr308残基およびSer473残基のリン酸化)を含む。他の態様において、Aktシグナル伝達経路の活性化はPTENの不活性化を含む。ある態様において、Aktシグナル伝達経路は過剰に活性化されている。ある態様において、腫瘍細胞が曝露されるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は栄養所要量を超える量である。適切には、腫瘍細胞は、口の扁平上皮癌、甲状腺癌、肝細胞癌、前立腺癌、線維肉腫、卵巣癌、子宮癌または子宮内膜癌、膵臓癌、胃癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、結腸癌、黒色腫、急性白血病、ならびに脳癌(例えば、星状細胞腫およびグリア芽細胞腫)より選択される。ある特定の態様において、腫瘍細胞は、前立腺癌細胞(ホルモン非依存性前立腺癌細胞を含む)である。
【0017】
別の局面において、本発明は、被験体において癌(特に、ホルモン非依存性癌またはホルモン依存性癌)を治療するための方法を提供する。これらの方法は、一般的には、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を被験体に投与する工程を含む。ある態様において、治療的有効量は栄養所要量を超える量である。ある特定の態様において、癌は、前立腺癌(特に、ホルモン非依存性前立腺癌またはホルモン依存性前立腺癌)である。従って、関連する局面において、本発明は、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を、前立腺癌(特に、ホルモン非依存性前立腺癌またはホルモン依存性前立腺癌)の治療を必要とする被験体に投与する工程を含む、前立腺癌を治療するための方法を提供する。
【0018】
さらに別の局面において、本発明は、ホルモン依存性の腫瘍細胞成長を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩およびホルモン除去療法に腫瘍細胞を曝露する工程を含む、腫瘍細胞のホルモン依存性成長を阻害するための方法を提供する。
【0019】
さらに別の局面において、本発明は、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩をホルモン除去療法と組み合わせて投与する工程を含む、被験体におけるホルモン依存性癌を治療するための方法を提供する。ホルモン依存性癌は、適切には、アンドロゲン依存性癌およびエストロゲン依存性癌より選択される。ある特定の態様において、ホルモン依存性癌は、前立腺癌などのアンドロゲン依存性癌である。ある態様において、ホルモン依存性癌は、前立腺癌、精巣癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮内膜癌、甲状腺癌、および下垂体癌より選択される。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0021】
なおさらなる局面において、本発明は、PC-3前立腺癌、3B6リンパ腫、BL41リンパ腫、およびHTB123/DU4473乳房腫瘍より選択される癌以外の、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0022】
なおさらなる局面において、本発明は、ホルモン依存性癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。ここで、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、ホルモン除去療法と組み合わせて投与するように処方される。
【0023】
さらに別の局面において、本発明は、癌を治療または予防するための薬学的組成物を提供する。この組成物は、一般的には、栄養所要量を超える量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩および薬学的に許容される担体を含む。
【0024】
前記で大まかに述べられた方法および使用のある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、細胞増殖抑制剤、細胞傷害剤、または放射線療法(放射線療法は任意に放射線増感剤と共に施される)の少なくとも1つと組み合わせて投与される。他の態様において、セレン酸は、少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を含む組成物に処方される。さらに他の態様において、セレン酸は、放射線療法と組み合わせて使用するために放射線増感剤を含む組成物に処方される。
【0025】
発明の詳細な説明
1.定義
特別の定義のない限り、本明細書において使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験において本明細書に記載のものと同様のまたは等価な任意の方法および材料を使用することができるが、好ましい方法および材料を説明する。本発明の目的のために、以下の用語を下記で定義する。
【0026】
冠詞「a」および「an」は、その冠詞の1つの文法上の対象または1を超える(すなわち、少なくとも1つまでの)文法上の対象を指すために本明細書において用いられる。一例として、「1つの元素(an element)」は1つの元素または1を超える元素を意味する。
【0027】
本明細書で使用する用語「約」は、基準となる数量、レベル、値、寸法、サイズ、または量に対して30%、20%、または10%と程度異なる数量、レベル、値、寸法、サイズ、または量を意味する。
【0028】
本明細書で使用する用語「Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量」とは、癌を治療もしくは予防する、または腫瘍細胞の成長を阻害するという状況では、Aktシグナル伝達経路を拮抗するのに有効な量または一連の用量のセレン酸を投与することを意味する。Aktシグナル伝達経路の拮抗は、Aktもしくは経路の上流メンバーの発現を阻止する、もしくは下げることによって、またはAkt遺伝子もしくは経路の上流遺伝子メンバーの発現産物のレベルもしくは機能活性を下げることによって、またはAktのリン酸化を阻止する、もしくは下げることによって、Aktの活性化を阻止する、もしくは下げることを含む。この量は、治療しようとする個体の健康状態および身体状態、治療しようとする個体の分類群、組成物の処方、医学的状態の評価、ならびに他の関連要因に応じて変化する。この量は、日常的な試験によって決定することができる比較的広い範囲の中に入ると予想される。ある特定の態様において、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量は、セレン酸の栄養所要量を超える量である。
【0029】
「アンドロゲン」とは、男性の性的特徴の発達を促すホルモンを意味する。アンドロゲンの非限定的な例には、テストステロン、アンドロステンジオン、ジヒドロエピアンドロステロン、およびジヒドロテストステロンが含まれる。
【0030】
用語「アンドロゲン依存性癌」または「アンドロゲン依存性腫瘍細胞」は、細胞の生存、成長、および/または増殖のためにアンドロゲンに依存する癌または腫瘍細胞を意味する。典型的には、「アンドロゲン依存性癌」は、アンドロゲン(例えば、テストステロンもしくは他の男性ホルモン)の過剰な蓄積、アンドロゲンに対するアンドロゲン受容体の感度の増大、またはアンドロゲンにより刺激される転写の増大に起因し、一般的には、アンドロゲン刺激の低下の恩恵を得る。
【0031】
用語「アンドロゲン非依存性癌」または「アンドロゲン非依存性腫瘍細胞」は、アンドロゲンの存在または非存在に非感受性の癌または腫瘍細胞を意味する。
【0032】
句「Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌」および「Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞」は、重要な細胞生存経路であるPTEN/PI3K/Akt経路が調節解除されている癌および腫瘍細胞を意味する。どの理論にも作用方法にも拘束されるつもりはないが、ホスホイノシチド3-キナーゼPI3Kの活性化が多様な栄養シグナルによって誘導されると、リン酸化脂質産物であるホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PIP3)およびホスホチジルイノシトール(phosphotidylinositol)-3,4-二リン酸(PIP2)が膜直下に蓄積すると考えられている(Vanhaesebroeck et al 2001, Annu. Rev. Biochem. 70:535; Cantley et al 2002, Science, 296:1655)。次に、これらのリン脂質の濃度が膜直下微小環境において上昇するとホスホイノシチド依存性キナーゼ(PDK-1およびPDK-2)が蓄積し、セリン/スレオニンキナーゼAktが活性化する。腫瘍抑制タンパク質PTENは、通常、PIP3をPIP2に変換する脂質ホスファターゼとして作用することによって、PI3Kの重要な負の制御因子として働く。PTENが不活性化またはPTEN機能が消失すると、Aktシグナル伝達経路は慢性的に活性化する。Aktが活性化されている、またはPTENが不活性化されている腫瘍細胞には、癌腫を含む様々なタイプの腫瘍細胞が含まれる。例えば、Aktが活性化されている、またはPTENが不活性化されている癌には、口の扁平上皮癌、甲状腺癌、下垂体癌、肝細胞癌(肝細胞癌腫を含む)、前立腺癌(前立腺癌腫を含む)、精巣癌、線維肉腫、卵巣癌(卵巣癌腫を含む)、子宮癌(子宮内膜癌を含む)、膵臓癌(膵臓癌腫を含む)、胃癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、結腸癌、黒色腫、急性白血病、ならびに脳癌(例えば、星状細胞腫およびグリア芽細胞腫)が含まれるが、これに限定されない。ある態様において、癌は、造血性新生物疾患(造血由来の過形成性細胞/新生細胞が関与する疾患(例えば、リンパ腫およびリンパ球性白血病)を含む)である。リンパ腫の非限定的な例には、T細胞リンパ腫(末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)、皮膚T細胞リンパ腫(CTCLs)、大顆粒リンパ球性白血病(LGFs)を含む)、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、および非ホジキンリンパ腫が含まれる。リンパ球性白血病の例示的な例には、低分化急性白血病(例えば、急性巨核芽球性白血病)、骨髄性疾患(急性前骨髄球性白血病(APML)、急性骨髄性白血病(AML)、および慢性骨髄性白血病(CML)を含むが、これに限定されない)、リンパ系悪性腫瘍(B細胞系列およびT細胞系列のものを含む急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、毛様細胞性白血病(HLL)、およびワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)を含むが、これに限定されない)が含まれる。
【0033】
句「Akt経路が過剰に活性化されている癌」、「Aktが過剰に活性化されている癌」などは、Aktが過剰に発現されているだけでなく、Aktのキナーゼ活性がThr308残基およびSer473残基のリン酸化によって正に高められている癌を意味する。これは、AktアイソフォームAkt3によって例証される。初代乳癌細胞株および初代前立腺癌細胞株では、Akt3 mRNAの発現レベルは正常細胞より約2〜4倍高いが、Akt3キナーゼ活性は約20〜60倍上昇している(Nakatani et al 1999, J. Biol. Chem. 274:21528)。Aktは、薬剤に耐性または抵抗性の腫瘍または癌において過剰に活性化されていることが多い。Aktが過剰に活性化されている癌またはAktが構成的に活性化されている癌の例には、アンドロゲン非依存性前立腺癌およびエストロゲン受容体欠損乳癌が含まれるが、これに限定されない。
【0034】
本明細書で使用する用語「癌腫」は、上皮細胞による被覆または裏打ちのある器官(例えば、皮膚、子宮、肺、乳房、または前立腺)において発生する癌の形態を意味する。癌腫は、周囲の器官に直接浸潤し得るが、必ずしも浸潤するとは限らず、肝臓、リンパ節、または骨などの離れた部位に転移し得る。
【0035】
本明細書および以下の特許請求の範囲の全体にわたって、状況によって特別に必要とされない限り、単語「含む(comprise)」ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの語尾変化は、述べられた整数もしくは工程または整数もしくは工程の集まりを含むことを意味するが、他の任意の整数もしくは工程または整数もしくは工程の集まりを排除することを意味しないことが理解されるだろう。
【0036】
本明細書で使用する用語「細胞増殖抑制剤」は、細胞増殖または細胞分裂を阻害することができるが、必ずしも細胞を死滅するとは限らない物質を意味する。適切には、細胞増殖抑制剤は癌細胞の増殖を阻害する。
【0037】
本明細書で使用する用語「細胞傷害剤」または「細胞傷害療法」は、細胞に対して有害であり、最終的には細胞死を引き起こす物質または療法を意味する。ある態様において、細胞傷害剤は、癌細胞などの急速に分裂している細胞を傷つけ、癌細胞死を引き起こす(特に、非癌細胞に損傷を与えることなく、または非癌細胞に対してより少なく損傷を与えながら、癌細胞死を引き起こす)。細胞傷害療法の一例は放射線療法である。
【0038】
本明細書で使用する用語「薬剤耐性」および「抵抗性」は、癌を治療するのに、または腫瘍細胞を死滅するのに通常用いられる治療に対して非応答性または部分的に非応答性の癌または腫瘍細胞を意味する。
【0039】
用語「ホルモン除去」および「ホルモン除去療法」は、癌細胞の生存および成長に必要であり得るホルモンを奪うことを意味する。ホルモン除去は、精巣または卵巣などのホルモン産生器官の外科的除去によって行われてもよく、ホルモン生合成もしくは分泌を妨げる化合物、ホルモン受容体を拮抗もしくはブロックする化合物、または手段によっては、ホルモンが生物学的効果を発揮しないようにする化合物を用いて化学的に行われてもよい。例えば、テストステロンから、より活性のあるジヒドロテストステロンへの変換は、フィナステリドなどの5α還元酵素阻害剤によってブロックすることができる。
【0040】
用語「ホルモン依存性癌」または「ホルモン依存性腫瘍細胞」は、生存、成長、および/または増殖のためにホルモンの存在に依存している癌または腫瘍細胞を意味する。ホルモン依存性癌には、前立腺癌、精巣癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮内膜癌、甲状腺癌、および下垂体癌が含まれるが、これに限定されない。
【0041】
本明細書で使用する用語「ホルモン依存性腫瘍細胞の成長を阻害する量」とは、癌を治療もしくは予防する、または腫瘍細胞の成長を阻害するという状況では、癌もしくは腫瘍細胞の成長および/もしくは増殖を阻害するのに有効な、または腫瘍細胞死を引き起こすのに有効な量または一連の用量のセレン酸を投与することを意味する。この量は、治療しようとする個体の健康状態および身体状態、治療しようとする個体の分類群、組成物の処方、医学的状態の評価、ならびに他の関連要因に応じて変化する。この量は、日常的な試験によって決定することができる比較的広い範囲の中に入ると予想される。ある特定の態様において、ホルモン依存性腫瘍細胞の成長を阻害する量は、セレン酸の栄養所要量を超える量である。
【0042】
本明細書で使用する用語「と組み合わせて」は、癌または腫瘍細胞に対する少なくとも2種類の薬剤の効果が少なくとも部分的に同じ期間にわたって生じるような、これらの薬剤による癌の治療またはこれらの薬剤への腫瘍細胞の曝露を意味する。少なくとも2種類の薬剤の投与は、1種類の組成物で同時に行われてもよく、それぞれの薬剤が別々の組成物で同時にまたは連続して投与されてもよい。
【0043】
句「腫瘍細胞の成長を阻害する」は、腫瘍細胞の成長が停止または低下し、細胞増殖または細胞分裂が停止または低下することを意味するとみなされる。これは細胞分裂停止とも知られる。腫瘍細胞の成長は、重量または体積または細胞数または細胞代謝活性(すなわち、MTTアッセイ法)によって測定することができる。
【0044】
「薬学的に許容される担体」とは、局所投与、局部投与、または全身投与において安全に使用することができる固体または液体の増量剤、希釈剤、または封入用物質を意味する。
【0045】
セレン酸に関して本明細書で使用する用語「薬学的に許容される塩」は、ヒトおよび動物への投与のために毒物学的に安全な金属イオン塩を意味する。例えば、セレン酸の適切な金属イオン塩には、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、ニッケル塩、および亜鉛塩が含まれるが、これに限定されない。セレン酸の好ましい塩は、ナトリウム塩Na2SeO4である。
【0046】
本明細書で使用する用語「放射線療法」は、癌または癌細胞(例えば、腫瘍細胞)の高エネルギー放射線による治療または高エネルギー放射線への曝露を意味する。放射線療法の有効性は、セレン酸またはその薬学的に許容される塩によって高められ得る。さらに、放射線療法は、放射線増感剤の投与によってさらに高められ得る。放射線増感剤の例示的な例には、エファプロキシラル、エタニダゾール、フルオソール、ミソニダゾール、ニモラゾール、テモポルフィン、およびチラパザミンが含まれるが、これに限定されない。
【0047】
本明細書において同義に用いられる用語「被験体」または「個体」または「患者」は、予防または治療が望まれる任意の被験体(特に、脊椎動物被験体、より詳細には、哺乳動物被験体)を意味する。本発明の範囲内にある適切な脊椎動物には、霊長類、鳥類、家畜動物(例えば、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ)、臨床検査動物(例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)、コンパニオンアニマル(例えば、ネコおよびイヌ)、ならびに捕獲された野生動物(例えば、キツネ、シカ、ディンゴ)が含まれるが、これに限定されない。好ましい被験体は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌またはホルモン依存性癌(特に、前立腺癌)の治療または予防を必要とするヒトである。しかしながら、前記の用語は症状が存在することを意味しないことが理解されるだろう。
【0048】
本明細書で使用する用語「栄養所要量を超える」は、栄養上必要であると考えられている量を上回る量を意味する。成人において、推奨されるセレン所要量は55μg/dayである。妊娠している女性および授乳している女性の推奨所要量は60〜70μg/dayである。栄養所要量を超える量のセレンは、推奨所要量以上のセレンを被験体にもたらす。例えば、セレンの栄養所要量を超える量は、0.15mg/kg〜20.0mg/kg、0.1mg/kg〜14mg/kg、0.1mg/kg〜13mg/kg、0.1mg/kg〜12mg/kg、0.1mg/kg〜10mg/kg、0.1mg/kg〜9mg/kg、0.1mg/kg〜8mg/kg、0.1mg/kg〜7mg/kg、0.1mg/kg〜6mg/kg、0.15mg/kg〜5mg/kg、0.15mg/kg〜4mg/kg、0.15mg/kg〜3mg/kg、0.15mg/kg〜2mg/kg、0.15mg/kg〜1mg/kg、特に、0.1mg/kg〜14mg/kg、さらに特に、0.15mg/kg〜5mg/kgでもよい。
【0049】
本明細書で使用する用語「治療的有効量」とは、癌を治療もしくは予防する、または腫瘍細胞の成長を阻害するという状況では、癌もしくは腫瘍細胞の成長および/もしくは増殖を阻害するのに有効な、または癌もしくは腫瘍細胞の死を引き起こすのに有効な量(単一用量または一連の用量の一部)のセレン酸またはその薬学的に許容される塩の投与を意味する。有効量は、治療しようとする個体の健康状態および身体状態、治療しようとする個体の分類群、組成物の処方、医学的状態の評価、ならびに他の関連要因に応じて変化する。この量は、日常的な試験によって決定することができる比較的広い範囲の中に入ると予想される。ある特定の態様において、治療的有効量は栄養所要量を超える量である。
【0050】
2.腫瘍細胞の成長および増殖を阻害するための方法ならびに癌を治療するための方法
本発明は一部、セレン酸が亜セレン酸などの他の形態のセレンとは対照的に、Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞の成長または増殖の阻害に有効であることを確かめたことに基づいている。従って、一局面において、本発明は、Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するための方法を提供する。この方法は、一般的には、腫瘍細胞を、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩に曝露する工程を含む。適切には、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、栄養所要量を超える量である。栄養所要量を超える量は、一般的には、約0.015mg/kg〜20.0mg/kg、通常、約0.1m/kg〜14mg/kg、より通常は、約0.15mg/kg〜5mg/kgである。
【0051】
本発明は、癌腫を含む様々なタイプの腫瘍細胞および癌に対して有効に使用することができる。例示的な例において、Aktが活性化されている癌またはPTENが不活性化されている癌には、口の扁平上皮癌、甲状腺癌、下垂体癌、肝細胞癌(肝細胞癌腫を含む)、前立腺癌(前立腺癌腫を含む)、精巣癌、線維肉腫、卵巣癌(卵巣癌腫を含む)、子宮癌(子宮内膜癌を含む)、膵臓癌(膵臓癌腫を含む)、胃癌、乳癌、肺癌、腎細胞癌、結腸癌、黒色腫、急性白血病、ならびに脳癌(例えば、星状細胞腫およびグリア芽細胞腫)が含まれるが、これに限定されない。ある態様において、癌は、造血性新生物疾患(造血由来の過形成性細胞/新生細胞が関与する疾患(例えば、リンパ腫およびリンパ球性白血病)を含む)である。リンパ腫の非限定的な例には、T細胞リンパ腫(末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL);皮膚T細胞リンパ腫(CTCLs);大顆粒リンパ球性白血病(LGFs)を含む)、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、および非ホジキンリンパ腫が含まれる。リンパ球性白血病の例示的な例には、低分化急性白血病(例えば、急性巨核芽球性白血病)、骨髄性疾患(急性前骨髄球性白血病(APML)、急性骨髄性白血病(AML)、および慢性骨髄性白血病(CML)を含むが、これに限定されない)、リンパ系悪性腫瘍(B細胞系列およびT細胞系列のものをを含む急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、毛様細胞性白血病(HLL)、およびワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)を含むが、これに限定されない)が含まれる。ある特定の態様において、腫瘍細胞は、前立腺癌または前立腺癌腫の細胞である。従って、関連する局面において、本発明は、Aktが活性化されている癌を治療するための方法を提供する。この方法は、一般的には、Aktが活性化されている癌の治療を必要とする被験体に、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を投与する工程を含む。ある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、前記で広範囲に定義された、栄養所要量を超える量である。ある態様において、癌は、前立腺癌(特に、薬剤耐性前立腺癌またはアンドロゲン非依存性前立腺癌)である。
【0052】
ある態様において、腫瘍細胞または癌は薬剤耐性である。ある態様において、腫瘍細胞または癌は過剰活性Akt経路を有する(例えば、アンドロゲン非依存性前立腺癌およびエストロゲン受容体欠損乳癌)。
【0053】
ある特定の態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤と組み合わせて投与される。細胞増殖抑制剤の非限定的な例は、(1)微小管安定化剤(タキサン、パクリタキセル、ドセタキセル、エポシロン、およびラウリマリドなどがあるが、これに限定されない);(2)キナーゼ阻害剤(この例示的な例には、Iressa(登録商標)、Gleevec、Tarceva(商標)(エルロチニブHCl)、BAY-43-9006、splitキナーゼドメイン受容体型チロシンキナーゼサブグループ阻害剤(例えば、PTK787/ZK 222584およびSU11248)が含まれる);(3)受容体キナーゼ標的化抗体(これには、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))、ベバシズマブ(Avastin(商標))、リツキシマブ(ritusan(登録商標))、ペルツズマブ(Omnitarg(商標))が含まれるが、これに限定されない);(4)mTOR経路阻害剤(この例示的な例には、ラパマイシンおよびCCI-778が含まれる);(5)Apo2L/Trail、抗血管新生剤(エンドスタチン、コンブレスタチン、アンギオスタチン、トロンボスポンジン、および血管内皮成長阻害剤(VEGI)などがあるが、これに限定されない);(6)抗新生物性免疫療法ワクチン(この代表的な例には、活性化T細胞、非特異的免疫増強剤(すなわち、インターフェロン、インターロイキン)が含まれる);(7)抗生物質細胞傷害剤(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、およびミトザントロン(mitozantrone)などがあるが、これに限定されない);(8)アルキル化剤(この例示的な例には、メルファラン、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、クロランブシル、フォテムスチン、ブスルファン、テモゾロミド、およびチオテパが含まれる);(9)ホルモン抗新生物剤(この非限定的な例には、ニルタミド、酢酸シプロテロン、アナストロゾール、エキセメスタン、タモキシフェン、ラロキシフェン、ビカルタミド、アミノグルテチミド、酢酸リュープロレリン、クエン酸トレミフェン、レトロゾール、フルタミド、酢酸メゲストロール、および酢酸ゴセレリンが含まれる);(10)生殖腺ホルモン(酢酸シプロテロンおよび酢酸メドキシプロゲステロンなどがあるが、これに限定されない);(11)代謝拮抗物質(この例示的な例には、シタラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、トポテカン、ヒドロキシウレア、チオグアニン、メトトレキセート、コラスパーゼ、ラルチトレキセド、およびカピシタビンが含まれる);(12)同化剤(ナンドロロンなどがあるが、これに限定されない);(13)副腎ステロイドホルモン(この例示的な例には、酢酸メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、およびプレドニゾンが含まれる);(14)新生物剤(イリノテカン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、エトポシド、およびダカルバジンなどがあるが、これに限定されない);ならびに(15)トポイソメラーゼ阻害剤(この例示的な例には、トポテカンおよびイリノテカンが含まれる)より選択される。
【0054】
ある態様において、細胞増殖抑制剤は核酸分子であり、適切には、アンチセンスまたはsiRNA組換え核酸分子である。他の態様において、細胞増殖抑制剤はペプチドまたはポリペプチドである。さらに他の態様において、細胞増殖抑制剤は低分子である。細胞増殖抑制剤は、薬剤の取り込みまたは送達を高めるように適切に改変されている細胞傷害剤でもよい。このような改変された細胞傷害剤の非限定的な例には、ペグ化細胞傷害薬またはアルブミン標識細胞傷害薬が含まれるが、これに限定されない。
【0055】
ある特定の態様において、細胞増殖抑制剤は微小管安定化剤であり、特に、タキサン、好ましくは、パクリタキセルである。
【0056】
ある態様において、細胞傷害剤は、アントラサイクリン(例えば、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、およびミトザントロン(mitozantrone))、CMF薬剤(例えば、シクロホスファミド、メトトレキセート、および5-フルオロウラシル)、または他の細胞傷害剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ブレオマイシン、トポテカン、イリノテカン、メルファラン、クロランブシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびマイトマイシン-C)より選択される。
【0057】
本発明はまた、セレン酸およびその薬学的に許容される塩が、ホルモン除去療法、任意に、細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤と組み合わせて用いられた時に、ホルモン依存性腫瘍細胞の成長に対して阻害作用を有することを発見したことを開示する。従って、本発明の別の局面は、被験体におけるホルモン依存性癌を治療するための方法を提供する。この方法は、一般的には、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を、ホルモン除去療法と組み合わせて投与する工程を含む。適切には、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、前記で大まかに定義された、セレン酸の栄養所要量を超える量である。ある態様において、ホルモン依存性癌は、前立腺癌、精巣癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮癌、甲状腺癌、または下垂体癌、特に、前立腺癌または乳癌より選択される。
【0058】
ホルモン除去療法は、癌または腫瘍細胞から、癌または腫瘍細胞の生存、成長、および/または増殖に必要なホルモンを奪う任意の療法であってもよい。ホルモン除去療法は、精巣または卵巣などのホルモン産生器官の除去によって外科的に行われてもよい。または、ホルモン除去療法は、ホルモン生合成もしくは分泌を妨げる化合物、ホルモン受容体を拮抗もしくはブロックする化合物、または手段によっては、ホルモンが生物学的効果を発揮しないようにする化合物を用いて化学的に行われてもよい。化学的ホルモン除去療法のための例示的な薬剤には、GnRHアゴニストまたはアンタゴニスト(例えば、セトロレリクス)、アンドロゲン受容体を妨げる薬剤(ビカルタミドなどの非ステロイド剤およびシプロテロンなどのステロイド剤を含む)、ならびにステロイド生合成を妨げる薬剤(例えば、ケトコナゾール)が含まれる。前立腺癌のホルモン除去療法としてセレン酸またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて使用するのに適した化学薬品には、非ステロイド抗アンドロゲン(例えば、ニルタミド、ビカルタミド、およびフルタミド);GnRHアゴニスト(例えば、酢酸ゴセレリン、リュープロレリン、およびトリプトレリン);5α還元酵素阻害剤(例えば、フィナステリド);ならびに酢酸シプロテロンが含まれるが、これに限定されない。乳癌におけるホルモン除去療法としてセレン酸またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて使用するのに適した化学薬品には、アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール);エキセメスタン、タモキシフェン、アミノグルテチミド、クエン酸トレミフェン、レトロゾール、酢酸メゲストロール、および酢酸ゴセレリンが含まれるが、これに限定されない。卵巣癌および子宮癌(子宮内膜癌を含む)におけるホルモン除去療法としてセレン酸またはその薬学的に許容される塩と組み合わせて使用するのに適した化学薬品には、プロゲスチン(例えば、酢酸メゲストロール、レボノルゲストロール(levonorgestrol)、およびノルゲストロール)が含まれるが、これに限定されない。
【0059】
ある態様において、ホルモン依存性癌を治療するための方法は、細胞増殖抑制剤(例えば、前記で定義された細胞増殖抑制剤)または細胞傷害剤を投与する工程をさらに含む。好ましい細胞増殖抑制剤は、微小管安定化剤(特に、タキサン、さらに特に、パクリタキセル)である。
【0060】
本発明のある特定の態様は、被験体における癌を治療するための方法に関する。この方法は、一般的には、被験体に、治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を投与する工程を含む。これらの方法を実施するために、被験体を監督する人は、被験体の特定の状態または状況に対して、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の有効な剤形を決定することができる。セレン酸の治療的有効量は、癌の治療または予防(症状(例えば、癌細胞の増殖)をこうむらないようにすること、このような症状を食い止めること、ならびに/または癌に関連する既にある症状(例えば、疼痛、体液の蓄積、尿閉、悪心、消化不良、ガス、食欲、排便の変化、および体重減少)を治療することを含む)に有効な量である。ある態様において、治療的有効量は、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の栄養所要量を超える量である。ある特定の態様において、セレン酸は、適切には、塩であるセレン酸ナトリウム(Na2SeO4)の形態をしている。
【0061】
本発明の方法において使用するための投与方法、投与されるセレン酸の量、およびセレン酸製剤を以下で議論する。癌が治療されているかどうかは、疾患の経過を示す1つまたは複数の診断パラメータを適切な対照と比較して測定することによって決定される。ヒト被験体の場合、「適切な対照」は治療前の個体でもよく、プラセボによって治療されているヒト(例えば、同年齢の対照または類似の対照)でもよい。本発明によれば、癌の治療は、(i)癌の素因があり得るが、癌と診断されていない被験体において癌を予防すること(従って、治療は癌の予防的処置となる);(ii)腫瘍形成を阻害すること(すなわち、癌の発達を止めること);または(iii)癌に起因する症状を緩和することを含む、および包含するが、これらに限定されるわけではない。
【0062】
本発明の方法は、癌と診断された個体、癌を有すると疑われる個体、感受性があることが知られている個体および癌を発症する可能性が高いと考えられている個体、または以前に治療された癌の再発を生じる可能性が高いと考えられている個体の治療に適している。
【0063】
前記の方法のある特定の態様において、癌は、前立腺癌(特に、薬剤耐性前立腺癌またはアンドロゲン非依存性前立腺癌)であり、治療は、任意に、前記で定義されたような細胞増殖抑制剤(例えば、パクリタキセルなどの微小管安定化剤)または細胞傷害剤の投与をさらに含む。
【0064】
他の態様において、前立腺癌はアンドロゲン感受性前立腺癌であり、治療は、任意に、ホルモン除去療法および/または前記で定義されたような細胞増殖抑制剤、もしくは細胞傷害剤、もしくは放射線療法(任意に、放射線増感剤と共に施される)と組み合わせて施される。適切には、ホルモン除去療法は、外科的去勢、フィネステリド、ニルタミド、酢酸シプロテロン、ビコルタミド、酢酸リュープロレリン、フルタミド、および酢酸ゴセレリンより選択される。好ましくは、細胞増殖抑制剤は、微小管安定化剤(特に、タキサン、さらに特に、パクリタキセル)である。
【0065】
本発明の方法による治療の例示的な被験体は脊椎動物(特に、哺乳動物)である。ある特定の態様において、被験体は、ヒト、ヒツジ、ウシ(cattle)、ウマ、ウシ(bovine)、ブタ、イヌ、およびネコからなる群より選択される。好ましい被験体はヒトである。
【0066】
セレン酸または薬学的に許容される塩は、抗癌剤送達の当技術分野において公知の多数の技法に従って処方されてもよい。もちろん、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、全ての製剤が全ての投与経路に適しているとは限らないことを頭に入れて、多数の手段によって投与することができる。セレン酸またはその薬学的に許容される塩は固体または液体の形態で投与することができる。適用は、経口、直腸、鼻、局所(頬および舌下を含む)、または吸入によるものでもよい。セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、従来の薬学的に許容されるアジュバント、担体、および/または希釈剤と共に投与することができる。
【0067】
固体の適用形態は、錠剤、カプセル、散剤、丸剤、香錠、坐剤、および顆粒の投与形態を含む。これらはまた、担体または添加剤(例えば、フレーバー、染料、希釈剤、軟化剤、結合剤、防腐剤、持続性薬剤、および/または封入用材料)を含んでもよい。液体の投与形態は、溶液、懸濁液、およびエマルジョンを含む。これらは前記の添加剤と共に提供されてもよい。
【0068】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の溶液または懸濁液は、操作性に適した粘度があると仮定して注射することができる。注射には粘度がありすぎる懸濁液は、必要であれば、このような目的のために設計された装置を用いて移植することができる。徐放形態は、一般的には、非経口手段または腸手段を介して投与される。非経口投与は、本発明を実施するために用いられるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の別の投与経路である。「非経口」は、注射ならびに鼻投与、腟投与、直腸投与、および頬投与に適した製剤を含む。
【0069】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の投与は経口長期投与製剤を伴ってもよい。経口投与製剤は、好ましくは、1日1回〜1日3回、徐放性カプセルもしくは錠剤の形態で、または水性溶液として投与される。セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、毎日、連続して、週1回または週3回のいずれかで静脈内投与されてもよい。
【0070】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の投与は、徐放性カプセルもしくは錠剤の形態で毎日の投与(好ましくは、1日1回)、または水溶液として1日1回の投与を含んでもよい。
【0071】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩および少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤の組み合わせは、固体または液体の形態で、1種類の製剤もしくは組成物で、または別々の製剤もしくは組成物で投与されてもよい。ある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩および1種類または複数の種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤は、1種類の錠剤もしくはカプセルとして、または別々の錠剤もしくはカプセルとして経口投与される。他の態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩および1種類または複数の種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤は、1種類の組成物または別々の組成物で静脈内投与される。
【0072】
本発明の方法は、他の公知の癌治療(例えば、外科手術、化学療法、および放射線療法があるが、これに限定されない)と組み合わせて使用することができる。ある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は、高精度放射線外部照射(conformal external beam radiotherapy)(4〜8週間にわたって分割して50〜100Grey与える)、シングルショットまたは分割照射のいずれか、高線量率近接照射療法(high dose rate brachytherapy)、永久組織内近接照射療法(permanent interstitial brachytherapy)、全身放射性同位体(例えば、ストロンチウム89)などがあるが、これに限定されない放射線療法と組み合わせて用いられる。ある態様において、放射線療法は放射線増感剤と組み合わせて施されてもよい。放射線増感剤の例示的な例には、エファプロキシラル、エタニダゾール、フルオソール、ミソニダゾール、ニモラゾール、テモポルフィン、およびチラパザミンが含まれるが、これに限定されない。他の態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩は腫瘍摘出術と組み合わせて用いられる。
【0073】
本発明はまた、癌を治療または予防するための薬学的組成物(一般的には、栄養所要量を超える量(適切には、約0.5mg〜約1.0g)のセレン酸またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物)を提供する。ある態様において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、約5.0mg〜約700mgである。例示的な例において、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の量は、単回一日量の場合、約7.5mg〜250mg、特に、50mg〜200mg、例えば、100〜150mgである。薬学的組成物は、Aktが活性化もしくは過剰に活性化されている癌またはホルモン依存性癌を治療するための薬学的組成物でもよい。ある態様において、薬学的組成物は、前立腺癌(特に、薬剤耐性前立腺癌またはアンドロゲン非依存性前立腺癌)の治療に有用である。
【0074】
ある態様において、薬学的組成物は、少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤をさらに含む。他の態様において、薬学的組成物は、ホルモン除去化学薬品をさらに含む。さらに他の態様において、薬学的組成物は、少なくとも1種類の細胞増殖抑制剤および/または細胞傷害剤ならびにホルモン除去化学薬品をさらに含む。さらに他の態様において、薬学的組成物は、放射線療法と使用するための放射線増感剤をさらに含んでもよい。
【0075】
本発明の薬学的組成物は、非免疫原性かつセレン酸と生体適合性であり、ならびにインタクトな分子として生体吸収、生分解、排泄が可能な、さらなる任意の成分を含んでもよい。製剤は使いやすい形態で供給されてもよく、投与の前にビヒクルの添加を必要とする無菌の粉末または液体として供給されてもよい。無菌であることが望ましければ、製剤は無菌条件下で作成されてもよく、混合物の個々の成分は無菌でもよく、製剤は使用前に滅菌濾過されてもよい。このような溶液は、適切な薬学的に許容される担体(緩衝液、塩、賦形剤、防腐剤などがあるが、これに限定されない)を含有してもよい。
【0076】
ある態様において、本発明の方法においてセレン酸またはその薬学的に許容される塩を投与するために、徐放経口製剤が用いられる。これらの製剤は、一般的には、血流への吸収を遅らせるために、溶解度の低いセレン酸またはその薬学的に許容される塩を含む。さらに、これらの製剤は、他の成分、薬剤、担体など(これらも、セレン酸またはその薬学的に許容される塩の吸収を遅らせるように働いてもよい)を含んでもよい。マイクロカプセル化、ポリマー捕捉システム、および浸透圧ポンプ(生体腐食性でもよく、生体腐食性でなくてもよい)もまた、カプセルまたはマトリックスからのセレン酸またはその薬学的に許容される塩の拡散を遅延または制御するために用いられてもよい。
【0077】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩は単独でまたは別の薬剤の一部として使用することができる。従って、本発明はまた、Aktが活性化されている癌を治療するための、またはホルモン依存性癌を治療するための(このような治療では薬剤はホルモン除去療法と組み合わせて投与するように処方される)、セレン酸またはその薬学的に許容される塩を含む薬剤も意図する。
【0078】
本発明がどういったものであるかということをさらにはっきりと理解できるようにし、実際に効果を発揮するために、本発明の特定の好ましい態様を、以下の限定されない実施例に関連して今から説明する。
【0079】
実施例
実施例1
セレン酸ナトリウムを用いたプロテインキナーゼB/AKT活性化の阻害による前立腺腫瘍進行の抑制
材料および方法
細胞培養
細胞培養実験は、American Type Culture Collection(Manassas, Virginia, USA)から入手したPC-3細胞株を伴った。細胞を、10%ウシ胎仔血清および1%抗生物質/抗真菌剤混合物(Invitrogen)を添加したRPMI 1641(Invitrogen)において日常的に培養した。細胞を、5%CO2において37℃に維持した。セレン酸ナトリウムおよびセレノメチオニン(Sigma)を蒸留水に溶解して10mM原液として作成し、フィルター滅菌した後に、インビトロ実験用に培地で希釈した。
【0080】
動物実験
動物実験は、BALB/cヌードマウスの使用を伴った。実験の1日目に、6週齢BALB/cヌードマウスにケタミン100mg/kgおよびキシラジン20mg/kgを腹腔内注射して麻酔した。本質的にCorcoran, N.M., Najdovska, M., and Costello, A.J. (2004), J. Urol, 171:907-910に記載のように、拡大下で1×106個のPC-3細胞(生存率95%超)を背側外側前立腺に注射した。
【0081】
実験の3日目に、全てのマウスを、D19101最小セレン食餌(分析セレン含有率0.07ppm)(Research Diets Inc., New Brunswick, New Jersey, USA)に切り替えた。次いで、飲料水に溶かして5ppmセレン(セレン酸ナトリウム)を与えるか、または何も添加していない水を与えるように、マウスを無作為に割り付けた。添加して5週間後に、マウスを選抜し、次いで、腫瘍を含む前立腺を秤量し、ノギスを用いて測定した。次いで、後腹膜腔を拡大下で頭側に向かって腎静脈のレベルまで調べ、0.5mmを超えるリンパ節を識別した。
【0082】
組織試料におけるアポトーシスの程度は、in situ TUNEL Cell Death Detection Kit(Roche Applied Science)を用いて製造業者の説明書に従って測定した。隣接する切片のH&E染色上で壊死が無い領域の中の無作為に選択された10個の視野において、高倍率(×400)で茶色に染色された細胞の数を数えた。
【0083】
腫瘍細胞の増殖率は、インビボでのBrdUの取り込みによって測定した。選抜の2時間前に、マウスに50mg/kg BrdU(Sigma)を腹腔内注射した。5μm切片を切り出し、無水エタノールで4℃で10分間固定した。切片をPBSで再水和し、DNAを変性するために、2N HClの中で37℃で1時間インキュベートした。スライドを0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.5)に浸漬することによって、酸を中和した。試料をPBSで3回洗浄した後、0.1%BSA を含むPBSで希釈した5μg/mLの濃度の抗ブロモデオキシウリジン(BrdU)モノクローナル抗体(Roche Applied Science)と、室温で1時間、次いで、4℃で一晩インキュベートした。試料をPBSで3回洗浄し、ビオチン化連結免疫グロブリン混合物(biotinylated link immunoglobulin mixture)(DAKO Corporation)と1時間インキュベートした。試料をPBSで3回洗浄した後、ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(BD Biosciences)とインキュベートし、DAB(Enhanced Liquid Substrate System, Sigma)を用いて免疫染色を明らかにした。高倍率(×400)で10個の視野を無作為に選択し、茶色に染色された細胞の数を数えた。
【0084】
PC-3成長曲線
2×105個のPC-3細胞を一晩付着させることによって、PC-3成長曲線の分析を行った。16時間後に、血清の存在下で指示した濃度のセレン酸ナトリウムを含むように培地を交換し、指定された時点まで増殖させた。次いで、上清および細胞を採取し、混合し、生細胞をトリパンブルー排除アッセイ法によって評価した。実験を三通り行った。
【0085】
BrdU取り込みアッセイ法および免疫蛍光法
BrdU取り込みアッセイ法および免疫蛍光法は、2.5×103個のPC-3細胞をプレートし、一晩付着させることによって行った。16時間後に、血清の存在下で指示した濃度のセレン酸ナトリウムを含むように培地を交換した。36時間後、セレン酸ナトリウムを含有する培地を新しくし、1μL/mLのCell Proliferation Labeling Reagent (BrdU/FrdU, Amersham Biosciences)を添加した。細胞をさらに16時間インキュベートし、次いで、PBSで3回洗浄し、4%PFAで室温で10分間固定した。
【0086】
一次抗体としてマウスモノクローナル抗BrdU抗体を使用し、二次抗体として抗マウス488 Alexaを使用した。BrdUを取り込んだ細胞のパーセントは、DAPI陽性細胞数当たりの緑色に染色された核の数を数えることによって求めた。カバーガラス1枚あたり100個のDAPI陽性細胞を数え、実験を三通り行った。
【0087】
細胞周期ブロックレベルの測定
細胞周期ブロックのレベルの測定は、血清を48時間欠乏させることによって同調させた5×105個のPC-3細胞をプレートした後に、指示した濃度のセレン酸ナトリウムを新鮮な血清含有培地に添加することを伴った。細胞を、指示した時点まで増殖させ、次いで、採取し、PBSで洗浄し、氷冷70%エタノールで15分間固定した。細胞をPBSで洗浄し、40μg/mLヨウ化プロピダム(propidum iodide)(Sigma)および100μg/L RNaseを含有するPBSに再懸濁した。それぞれの測定についてDNAヒストグラムを作成し、G1ピークおよびG2/Mピークに存在する細胞の割合を求めた。3回の独立した実験について結果を得た。
【0088】
MTT成長アッセイ法
MTT成長アッセイ法は、96ウェルプレートに1ウェル当たり1×103個のPC-3細胞をプレートし、細胞を一晩付着させることを伴った。16時間で、培地を、指示した濃度のセレン酸ナトリウムまたはセレノメチオニンを含有する新鮮な培地と交換した。セレン酸ナトリウムの成長阻害に及ぼすPI3K阻害の付加的な影響を確かめる実験のために、セレン酸ナトリウムと共に、50μMの濃度のLY294002(Promega, Madison, WI, USA)を添加した。この実験の対照には、等量のLY294002希釈剤(DMSO)を与えた。次いで、MTT成長アッセイ法を、製造業者のプロトコール(Sigma)に従って行った。
【0089】
抗体およびイムノブロッティング
特別の定めのない限り、以下の抗体を、Cell Signaling Technology(Beverly, MA, USA)から入手した:抗p27KIP1(bd Pharmingen)、抗p21CIP1、抗サイクリンd1、抗サイクリンd3、抗CDK4、抗CDK6、抗リン酸化rb(Ser807/811)、抗RB、抗リン酸化Akt(Ser473)、抗リン酸化Akt(Thre308)、抗Akt、抗リン酸化PDK1(Ser241)、抗リン酸化PDK1(Tyr373/376)、抗リン酸化GSK-3β、抗リン酸化mTOR(Ser2448)、抗mTOR、抗βIIIチューブリン(Promega)。
【0090】
細胞周期調節タンパク質に及ぼすセレン酸ナトリウムの影響を確かめるために、5×105個のPC-3細胞を、指示した時間にわたって0.5mMセレン酸ナトリウムで処理した。網膜芽細胞腫タンパク質のリン酸化に及ぼすセレン酸の影響を確かめるために、2×105細胞を一晩付着させ、次いで、血清を24時間欠乏させた後、指示した時間にわたって0.5mMセレン酸ナトリウムで処理した。PI3K/Aktシグナル伝達カスケードに関与するタンパク質のリン酸化に及ぼすセレン酸の影響を確かめるために、5×105個のPC-3細胞を10時間付着させた。細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、細胞を、指示した時間にわたって0.5mMセレン酸ナトリウムで処理した。細胞を、ELB(250mM NaCl, 50mM HEPES pH 7.0, 5mM EDTA, 0.5mM DTT, 0.2% TX100, 20mMフッ化ナトリウム, 2mMナトリウムパーバナデート(sodium pervanadate), Complete Protease Inhibitor Cocktail(Roche))で溶解した。溶解産物を4℃で15分間遠心分離した。BCAシステム(Sigma)を用いてタンパク質濃度を求め、等量のタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルの各レーンにロードした。タンパク質をPVDF(Millipore)膜に転写し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)および化学ルミネセンス(SuperSignal West Dura(Pierce)を使用する)が結合した抗マウス二次抗体または抗ウサギ二次抗体で検出した。Restore Western Blot Stripping Buffer(Pierce)を用いて、膜をストリッピングした。
【0091】
細胞トランスフェクションおよび免疫蛍光法
トランスフェクションの前日に、5×105個のPC-3細胞を24ウェルディッシュに播種し、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、0.8μgのpcDNA3-GFP-FKHRwt構築物(Dr Bill Sellers, Dana-Farber Institute, Bostonからの贈与)で一過的にトランスフェクトした。細胞を0.2% Triton X-100で透過処理し、核内容物をDAPIで染色した。カバーガラスを蛍光封入剤(DAKO)で封入した。緑色蛍光の細胞分布を、Leica落射蛍光顕微鏡を用いて二重蛍光細胞において測定した。
【0092】
統計解析
特別の定めのない限り、データは平均+SEで示した。群間の差(図1A〜D)はスチューデント検定を用いて解析し、p<0.05で有意であるとみなした。全ての統計解析は、SPSS 9.05 for Windows(SPSS, Chicago, Illinois)ソフトウェアを用いて行った。
【0093】
結果
結果から、セレン酸ナトリウムは同所性マウスモデルにおける前立腺癌腫細胞の増殖を阻害することが分かった。以下のように、セレン酸ナトリウムで処置された動物と対照群の比較を行った。図1Aに示したように腫瘍含有前立腺の重量の平均を比較し、図1Bに示したように腫瘍体積の平均を比較した。リンパ節転移の平均数も評価した。セレン酸ナトリウムは、前立腺重量指数により評価された対照と比較して原発腫瘍成長を有意に阻害することが示されたのに対して、2群間の腫瘍体積の差は有意に達しなかった。セレン酸ナトリウム群の腹膜後リンパ節の数は対照と比較して有意に少なかった(図1C)。
【0094】
セレン酸ナトリウムによって引き起こされる腫瘍成長の阻害は、腫瘍細胞増殖に及ぼす阻害作用のために、または腫瘍細胞アポトーシスの増大によって起こった可能性がある。これらの2つの機構を区別するために、対照およびセレン酸ナトリウムで処置された前立腺において、増殖細胞におけるヌクレオチド類似体BrdUの取り込みを分析し、Tunelアッセイ法を用いてアポトーシスマーカーを分析した。セレン酸ナトリウムは前立腺腫瘍対対照においてBrdU取り込みを有意に弱めたが(図1D,E)、2群間でアポトーシスに有意な差はなかった(図1D)。これらの結果から、セレン酸ナトリウムは腫瘍細胞死を増強するのではなく腫瘍細胞増殖を妨げるように作用することが分かった。
【0095】
結果から、セレン酸ナトリウムは前立腺癌腫細胞を細胞周期のG1期で止めることも分かった。インビボで観察された腫瘍進行に及ぼすセレン酸ナトリウムの阻害作用がインビトロでの腫瘍細胞成長の阻害につながるかどうか解明するために、ヒト前立腺癌腫PC-3細胞を播種し、16時間培養した。次いで、細胞を、漸増濃度のセレン酸ナトリウムの存在下または非存在下でインキュベートした。インキュベーションの24時間後、48時間後、および72時間後に、細胞の総数を数えた。図2Aに示したように、セレン酸ナトリウムの非存在下で培養したPC-3細胞の数は72時間にわたって一様に増加した。対照的に、セレン酸ナトリウムの存在下では、PC-3細胞数は用量依存的に有意に減少した。0.01mM〜0.1mMの用量では、細胞数が増加する速度は遅くなったのに対して、0.25mM〜0.5mMのさらに高い用量では全ての細胞数増加がブロックされた。これらの結果から、セレン酸ナトリウムは細胞周期の進行を妨げることが示唆された。PC-3細胞を、0.05mM〜0.25mMの濃度のセレン酸ナトリウムに、54時間、本質的に前記のように播種した。次いで、G1/S期を通過した細胞における蛍光ヌクレオチド類似体BrdU/FrdUの取り込みを、免疫蛍光顕微鏡観察によって確かめた。0.25mMセレン酸ナトリウムに54時間曝露された細胞の代表的な画像を図2Bに示した。この用量のセレン酸ナトリウムへの曝露は、BrdU/FrdU陽性核によって評価されたようにPC-3細胞のG1/S進行を著しく妨げた。
【0096】
漸増濃度のセレン酸ナトリウムの存在下または非存在下での細胞周期分布をフローサイトメトリーでも分析した。細胞周期の代表的なヒストグラムを図2Cに示し、平均パーセント値を図2Dに示した。PC-3細胞を0.25mMおよび0.5mMのセレン酸ナトリウムで24時間処理すると、G1にある細胞集団のパーセントが対照群の55%からセレン酸ナトリウム処理試料の69〜70%の範囲に増加した(図2D)。逆に、漸増濃度のセレン酸ナトリウムの存在下でインキュベートすると、G2/M期にある細胞のパーセントが対照の28%から19%および24%に減少した。48時間にわたるセレン酸ナトリウム処理によって、G1にある細胞集団のパーセントは用量依存的および時間依存的に増加したのに対して、薬物処理によってG2/M期にあるPC-3細胞のパーセントは減少した。
【0097】
セレンの癌化学予防作用はセレン微量元素の存在によって完全に説明することができず、セレン化合物それ自体がこの活性に重要であることが次第に明らかになってきている(Corcoran et al 2004, 前記; Kim et al 2003, 前記)。PC-3細胞の増殖に対する無機セレン酸ナトリウムの効果と有機セレノメチオニンの効果を、増殖指標の尺度としてMTTアッセイ法を用いて比較した。図2Eに示したように、0.25mMおよび0.5mMの用量のセレン酸ナトリウムは72時間でPC-3細胞の増殖を著しく低下させたのに対して、同じ用量のセレノメチオニンが細胞増殖を低下させる効果は低かった。セレン酸ナトリウムの最小用量0.01mMで、わずかであるが再現性のある細胞数の増加が観察された(図2E)。全体的に見て、これらのデータは、セレン酸ナトリウムがG1からS期への細胞周期進入を妨げることによって細胞増殖を阻害することを示している。
【0098】
これらの結果からまた、セレン酸ナトリウムは細胞周期阻害タンパク質のアップレギュレーションを誘導するが、セレノメチオニンは誘導しないことも分かった。増殖細胞がG1を通過する規則正しい進行は、主として、Rbのリン酸化およびE2F転写因子の放出を調節するサイクリンD/cdk4/cdk6キナーゼ複合体の連続活性化によって調節される。重要な細胞周期調節タンパク質に対するセレン酸ナトリウム処理の効果を確かめるために、本質的に既に説明したように、0.5mMセレン酸ナトリウムを用いて、24時間まで様々な期間にわたってPC-3細胞を処理した。次いで、総細胞タンパク質を分離し、サイクリンD1、D3cdk4、およびcdk6の存在についてイムノブロットアッセイ法で分析した。サイクリンD1の発現レベルは14時間から有意に低下したのに対して、cdk4レベルは6時間でピークに達し、24時間まで時間依存的に低下した(図3A)。p27KIP1およびp21CIP1/WAF1などのCDK阻害因子は細胞周期進行の重要な負の制御因子である。これらの分子は、G1期にサイクリンD/CDK複合体に結合することによってCDKキナーゼ活性をブロックして、Rb遺伝子ファミリーのメンバーのリン酸化およびG1期からS期への移行を妨げる。これらの細胞周期阻害因子に対するセレン酸ナトリウムの効果を確かめるために、同じPC-3細胞溶解産物におけるp27KIP1およびp21CIP1の発現レベルを前記のように分析した。セレン酸ナトリウムで処理すると、p27KIP1レベルは24時間まで時間依存的に増加し、レベルが低下したのに対して、p21CIP1レベルは著しく増加し、6時間でピークに達し、その後に低下した(図3A)。同じ条件下でセレン酸ナトリウムで処理したPC-3細胞では、Rb(ser807/811)リン酸化の時間依存的な著しい低下も観察された(図3B)。Pc-3細胞において、細胞周期阻害因子タンパク質p27KIP1レベルに対する無機セレン化合物の効果と有機セレン化合物の効果を比較した。図3Cに示したように、セレノメチオニンは、分析した期間にわたってp27KIP1レベルに対してほとんど効果を示さなかったのに対して、セレン酸ナトリウムは、対照(0時間)およびセレノメチオニンレベルと比較してp27KIP1総タンパク質レベルを著しく増加させた(図3C)。これらのデータは、サイクリンD1レベルおよびRbリン酸化の低下、ならびに同時に起こる細胞周期阻害タンパク質p27KIP1およびp21CIP1/WAF1の増加が、無機セレン化合物によって誘導されるG1停止の調節において重要な役割を果たしている可能性が高く、有機セレンはこれらの効果を誘導できないことを示している。
【0099】
これらの結果から、セレン酸ナトリウムはプロテインキナーゼB/Akt活性化を強力に阻害するが、セレノメチオニンは阻害しないことも分かる。腫瘍抑制タンパク質PTENが消失することによってPI3K細胞生存経路の調節が失われることは、ヒト新形成(Vivanco, I. and Sawyers, C.L. 2002, 前記)、特に、前立腺腫瘍(Visakorpi, 1999, Ann. Chir. Gynaecol, 88:11-16; Li et al 1997, Science, 275: 1943-1947)の共通の特徴である。エフェクターキナーゼAktを介するPI3K経路は、サイクリンD1の分解を妨げ、細胞周期阻害タンパク質p27KIP1およびp21WAF1/CIP1の発現に負の影響を及ぼすことによって、細胞増殖の調節において重要な役割を有する(Graff et al 2002, J. Biol. Chem., 275:24500-24505)。PC-3細胞はPTENの発現を失っており、構成的に活性化されたPI3K経路活性(Chakraborty et al 2001, Cancer Res., 61:7255-7263. Beresford et al 2001, J. Interferon Cytokine Res., 21:313-322)、特に、Aktキナーゼ活性を有する。
【0100】
セレン酸ナトリウムがPI3K経路の活性を妨げることができるかどうか確かめるために、PC-3細胞を、様々な曝露時間にわたってセレン酸ナトリウム(0.5mM)で処理した。全細胞溶解産物におけるAktのリン酸化状態を、活性化特異的抗体を用いて測定した。図4Aに示したように、セレン酸ナトリウムは、無機セレンに曝露して10分以内に、Akt Ser473およびThr308のリン酸化の一過的増加を誘導した。次いで、この増加の後に、Aktが著しくかつ長期に非活性化されたのに対して、総細胞Aktレベル(pan Akt)は本質的に変化しなかった(図3A)。Aktは、PDK1によって細胞膜でThr308がリン酸化される(Vanhaesebroeck, B. and Alessi, D.R. 2000, Biochem. J., 346 Pt3:561-576)。セレン酸ナトリウムがAktの上流にあるPDK1活性をダウンレギュレートするように作用したかどうか確かめるために、PDK1のリン酸化状態を、リン酸化特異的PDK1 ser241抗体およびtyr373/376抗体を用いて分析した。図4Bに示したように、PC-3細胞の0.5mMセレン酸ナトリウムへの6時間までの曝露は、PDK1のリン酸化状態に影響を及ぼさなかった。このことは、セレン酸ナトリウムは、PDK1キナーゼ活性をブロックすることによってAkt活性化を阻害しないことを示している。セレン酸ナトリウムを用いて観察されたAkt活性化の一過的増加がPI3K経路の上流成分に依存するかどうか確かめるために、PC-3細胞をP13K阻害剤LY294002(50μM)による前処理を行って(1時間)、または前処理を行わずに、セレン酸ナトリウム(0.5mM)で10分間処理した。図4Cにおいて観察されるように、セレン酸ナトリウムで10分間処理すると、リン酸化特異的抗体によって評価されたようにAkt活性化が増加した。しかしながら、この増加は、LY294002による前処理によって完全にブロックされた。このことは、セレン酸ナトリウムによって誘導されるAktリン酸化の一過的増加がPI3K経路の上流成分を必要とすることを示している。
【0101】
PC-3細胞を0.5mMセレン酸ナトリウムまたはセレノメチオニンで様々な時間にわたって処理し、Ser473でのAktリン酸化を評価することによって、PC-3細胞におけるAkt活性化に対する無機セレン化合物の効果を比較した。図4Dに示したように、セレノメチオニンは、測定した全ての時間でAktリン酸化に影響を及ぼすことができたのに対して、セレン酸ナトリウムはAkt活性化を著しく阻害した。
【0102】
これらの結果から、セレン酸ナトリウムは細胞生存P13K経路の下流エフェクターを阻害することもわたった。PTEN腫瘍抑制因子の下流にあるPI3Kシグナル伝達の潜在的なエフェクターには、多数のAktキナーゼ基質(例えば、BAD、カスパーゼ9、IKKα、およびForkhead転写因子FKHR、FKHRL1、およびAFX)が含まれる(Biggs, et al 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96:7421-7426; Brunet et al 1999, Cell, 96:857-868; Cardone et al 1998, Science, 282:1318-1321. Datta et al 1997, Cell, 91:231-241; Kops et al 1999, Nature, 398:630-634; Ozes et al 1999, Nature, 401:82-85; Tang et al 1999, J. Biol. Chem., 274:16741-16746)。
【0103】
PTENヌル細胞では、Forkhead転写因子ファミリーのメンバーは調節解除され、不活性であり、転写を活性化できない細胞質に異常に局在している(Nakamura et al 2000, Mol. Cell. Biol, 20:8969-8982)。このような細胞にPTEN機能を再導入すると、FKHRの核移行が誘導され、最終的に、PTENヌル細胞においてG1停止が引き起こされる(Nakamura et al 2000, 前記)。従って、PTENヌルPC-3細胞におけるセレン酸ナトリウムによるAkt活性化の阻害は、細胞質から核へのFKHRの再配置を同様に誘導するはずである。GFP-FKHR発現構築物でトランスフェクトされたPC-3細胞を、LY294002(50μM,1時間)またはセレン酸ナトリウム(0.5mM,3時間)またはセレノメチオニン(0.5mM,3時間)で処理し、蛍光Forkheadタンパク質の細胞局在化に対する処理の効果を観察した。図5AおよびBに示したように、GFP-FKHR融合タンパク質は未処理対照PC-3細胞の細胞質に局在していた。LY294002またはセレン酸ナトリウムで処理すると、GFP-FKHR融合タンパク質の細胞質から核への著しい再局在化が誘導された。しかしながら、セレノメチオニンは、GFP-FKHRの細胞質から核への再局在化を誘導できなかった。これらの結果は、重要なAkt基質タンパク質FKHRの活性化の阻害によるAktシグナル伝達のブロックにおけるセレン化合物間の選択性を裏付けている。
【0104】
Aktのさらに2つの下流エフェクター/基質が、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β,GSK-3β(Moule et al 1997, J. Biol. Chem., 272:7713-7719; Van Weeren et al 1998, J. Biol. Chem., 273:13150-13156)およびラパマイシンの哺乳動物標的であるmTORタンパク質(Nave et al 1999, Biochem. J., 344 Pt2:427-431; Sekulic et al 2000, Cancer Res., 60:3504-3513)である。
【0105】
セレン酸ナトリウムがこれらのAkt基質も活性化できるかどうか確かめるために、PC-3細胞を様々な時間にわたってセレン酸ナトリウム(0.5mM)で処理し、全細胞溶解産物を、GSK-3βおよびmTORに対するリン酸化特異的抗体でプローブした。図5Cおよび5Dに示したように、セレン酸ナトリウムは、mTORおよびGAK-3βのリン酸化状態の低下を誘導した。
【0106】
考察
前記の結果は、ホルモン抵抗性前立腺癌に対する高用量セレン酸ナトリウム添加の効果を証明している。セレン酸ナトリウムは、G1停止を誘導することによって、用量依存的および時間依存的にPC-3細胞の増殖を阻害することが示されたが、アポトーシスレベルを増大させなかった。G1停止は、細胞周期阻害タンパク質p27KIP1およびp21CIP1/WAF1の発現の増大ならびにサイクリンD1の発現の低下を伴った。Rbのリン酸化もセレン酸によって抑制された。セレン酸はセレノメチオニンとは対照的にPI3KエフェクターであるAktの活性レベルを著しく低下させた。PI3K/Akt経路の重要な下流エフェクターであるmTOR、GSK-3β、およびFKHR転写因子の活性化もセレン酸によって阻害されたが、セレノメチオニンでは阻害されなかった。これらの結果は、PI3K/Akt経路に対する無機セレン酸の特異的な阻害作用を証明し、この化合物が、癌(特に、PTENヌル腫瘍などのPI3K/Akt経路の過剰活性化によって引き起こされる癌)を治療するための療法において役に立つ可能性があることを示唆している。
【0107】
セレン酸ナトリウム対セレノメチオニンの抗腫瘍作用に関与する分子機構もまた本研究において解明されている。無機セレン酸ナトリウムは、アポトーシスに影響を全く及ぼすことなく細胞増殖を妨げることによってインビボで腫瘍進行を阻害した。インビトロで用量依存的および時間依存的なPC-3細胞増殖の低下が観察され、セレン酸ナトリウムはアポトーシス細胞の割合を高めることなくG1停止を誘導することによって、これらの細胞のS期進行を阻害することができた(これはフローサイトメトリーによって観察された)。
【0108】
細胞周期の進行はCDKによって制御される。CDKの活性はCDK阻害因子によって阻害される。G1-S移行を通る進行は、G1サイクリンおよびCDKの活性によって制御されるとみなされている。cdk1などのサイクリンはG1細胞周期進行を刺激するのに対して(Baldin et al 1993, Genes Dev., 7:812-821)、Rbは、細胞周期プロセスと遺伝子制御を結び付ける重要な下流標的であるように思われる(Weintraub et al 1995, Nature, 375:812-815)。cdk4/cdk6/サイクリンD複合体によるRbのリン酸化がRb/E2F複合体を破壊すると、E2Fは、DNA合成および細胞周期進行に必要な遺伝子を活性化できるようになる(Harbour et al 1999, Cell, 98:859-869)。
【0109】
この結果から、Rb Ser807/811のリン酸化と同様にサイクリンD1レベルが低下したのに対して、cdk6およびcdk4レベルは比較的変化しなかったことが分かる。これらの結果は、高用量セレン酸が、PC-3細胞において、重要な細胞周期進行タンパク質のレベルおよび活性化を特異的に妨げることによってG1停止を誘導することを証明している。p27KIP1レベルは高用量セレン酸への曝露後に上昇するが、高用量セレノメチオニンでは上昇しないことが分かっている。p27KIP1レベルの上昇は、血清欠乏後(Coats et al 1996, Science, 272:877-880)または接触阻止後(Polyak et al 1994, Cell 78:59-66)の、ある範囲の正常細胞における特徴であり、G1停止に必要である。p27KIP1は細胞周期進行の負の制御因子として中心的な役割を果たしており、従って、このタンパク質のレベルの上昇は、セレン酸によって誘導される観察されたG1停止の理論的な解釈をもたらす。P21CIP1発現はまた、サイクリン/CDK複合体を阻害することによって、およびDNA合成を阻害することによってG1停止を引き起こす(Johnson, G.G. and Walker, C.L. 1999, Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 39:295-312)。
【0110】
PI3K経路は、増殖および生存に関する多くの細胞機能において中心的な役割を有し、PTEN腫瘍抑制タンパク質の消失によるこの経路の調節解除は、前立腺悪性腫瘍における共通の事象である(Whang et al 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:5246-5250)。PI3K経路の活性化はサイクリンD1発現の誘導に必要とされ(Muise-Helmericks et al 1998, J. Biol. Chem. 273:29864-29872)、DU145およびPC-3前立腺癌腫細胞において、この経路をPI3K特異的阻害剤LY294002で阻害するとG1停止が起こることが最近報告されている(Gao, et al 2003, Biochem. Biophys. Res. Commun. 310:1124-1132)。PI3K経路の主要な下流エフェクターはプロテインキナーゼB/Aktである。Aktは、PTENの無い前立腺腫瘍(例えば、PC-3細胞)において構成的に活性化されている。これらの結果から、高用量セレン酸は、これらの細胞に存在する活性化Aktのレベルを著しく下げることができたが、セレノメチオニンは下げることができなかったことが分かる(PI3Kの下流にあるAkt活性化を直接誘導すると考えられているキナーゼPDK1の活性化の変化が検出されなかったので、活性化Aktのレベルに特異的に作用する効果である)(Vivanco, I. and Sawyers, C.L. 2003, 前記)。これらの結果は、セレン酸が、今のところまだ十分に特徴付けられていないホスファターゼを介して、Aktの脱リン酸を増大するように作用する可能性があることを示唆している。
【0111】
興味深いことに、Akt活性化に対するセレン酸の効果は2つの別個の作用機序に従うように思われる。最初に、セレン酸はAktリン酸化の増加を誘導する。この増加は、LY294002による前処理によって阻害されたように、PI3K依存的である。次いで、この一過的増加の後に、Akt活性化が長期間著しく阻害される。この阻害は、高用量セレン酸ナトリウムの増殖阻害がLY294002によって強まらないので、Aktの上流成分を伴わない。セレン酸ナトリウムはまた、下流AktエフェクターであるmTORおよびGSK-3βならびにFKHR転写因子の活性化を妨げることができ、このことは、セレン酸の阻害作用が重要なPI3KエフェクターキナーゼAktに焦点が合っていることと一致する。
【0112】
メチルセレニン酸もまた、処理24時間以内にDU-145細胞のG1停止ならびにカスパーゼを介した経路によるアポトーシスを誘導する(Jiang et al 2001, 前記)。3μMと低い用量でG1停止が誘導されたが、これは、アポトーシスともAktリン酸の低下とも関連しなかった(Jiang et al 2002, 前記)。しかしながら、5μMというさらに高い用量では、Akt活性化が用量依存的に低下し、カスパーゼを介したアポトーシスが開始した。LY294003によるPI3K経路の阻害は、DU-145細胞においてアポトーシスを誘導しなかった。このことは、メチルセレニン酸により誘導されるPI3K経路のブロックはアポトーシス誘導に関与しなかったことを示している(Jiang et al 2002, 前記)。低用量メチルセレニン酸は、低用量ではAkt阻害およびアポトーシスと無関係にG1停止を誘導するが、高用量ではAktをブロックし、アポトーシスを誘導し、本研究と際立った対照をなしている。セレン酸ナトリウムは、アポトーシスを誘導することなく、PI3K経路の阻害によって(具体的にはAktレベルで)G1停止を誘導した。従って、セレン酸の抗増殖作用は他のセレン化合物で観察されたものより焦点が合っているように思われる。
【0113】
本発明の発見に基づいて、および慢性Akt活性化がインビボ癌モデルにおける化学療法耐性と関連していると仮定すると(Tanaka et al 2000, Oncogene, 19:5406-5412)、腫瘍モデルでの併用療法においてセレン酸と化学療法剤を使用するための魅力的な機構基盤が得られる。
【0114】
実施例2
セレン酸ナトリウムとパクリタキセルの相乗効果による前立腺腫瘍成長の低下
材料および方法
1×106個の前立腺腫瘍PC-3細胞をヌードマウスの前立腺に注射した。3日後、セレン酸ナトリウムの形態で5ppmのセレンを、セレン酸を与えるマウスの飲料水に投与した。パクリタキセルを与える動物には、10mg/kgのパクリタキセルを10%Cremophor EL/25%エタノール/65%PBS溶液に溶解して、1週間に1回、腹腔内投与した。1群につき10匹の動物を使用した。注射の5週間後、動物を屠殺し、前立腺を取り出し、従属物を取り除き、腫瘍を秤量した。後腹膜腔をリンパ節腫脹について調べ、直径が0.5mmを超えるリンパ節を切除した。次いで、50ミクロン間隔で腫瘍をステップ切片(step section)を作成し、腫瘍体積を、デジタル化した画像から標準的な体積測定式(a+b2/2)を用いて計算した。
【0115】
結果
図6は、セレン酸とパクリタキセルが前立腺腫瘍重量を小さくするように相乗作用を示すことを証明する。対照群には、パクリタキセルを用いずにパクリタキセル可溶化担体Cremophorおよびエタノールを与えた。Cremophorは、ある程度の抗腫瘍作用を有することが知られており、恐らく、このことが、この実験においてセレン酸単独の抗腫瘍作用が対照と比較して低くないことを説明している。図6に示した結果から、セレン酸およびパクリタキセルが相乗作用を示して、セレン酸単独およびパクリタキセル単独の相加効果を上回って腫瘍重量を小さくすることが分かる。セレン酸は、重要な細胞生存経路であるPI3K/Akt経路を阻害する。この経路はヒト腫瘍の高い割合でアップレギュレートされ、この経路の過剰活性化は、化学療法剤に対する化学療法抵抗性の発生と高い相関関係がある。
【0116】
これらの結果は、セレン酸およびパクリタキセルの併用療法を用いてインビボで前立腺腫瘍を同時治療すると、いずれかの治療単独より大きな抗腫瘍作用を誘導できることを示している。セレン酸は、腫瘍細胞が化学療法薬パクリタキセルに対する化学療法抵抗性を誘導する能力を妨げることができた。従って、ヌードマウスにおいて、PC-3細胞を動物の前立腺に注射することによって前立腺腫瘍を誘導し、その後に、動物をセレン酸またはパクリタキセルを単独でまたは組み合わせて5週間治療し、次いで、腫瘍を分析した。図6に示したように、併用療法には、いずれかの治療単独の相加効果を上回る腫瘍重量の減少に著しい相乗効果があった。対照群には、パクリタキセルを用いずにパクリタキセル可溶化担体Cremophor ELおよびエタノールを与えた。Cremophor ELは抗腫瘍作用を有することが知られており、恐らく、このことが、この実験においてセレン酸が単独で対照と比較して低くないことを説明している。観察された相乗効果はインビトロよりインビボで大きい。このことは、セレン酸が血管内皮細胞ならびに腫瘍細胞それ自体の成長に対して抗血管新生作用を有し、相乗効果を説明するのは、インビボでしか観察できないこの組み合わせ効果であるという考えを裏付けている。
【0117】
図7は、腫瘍の組織切片を示す。セレン酸とパクリタキセルの組み合わせには、パクリタキセル単独と比較して腫瘍サイズおよび腫瘍体積を有意に小さくする相乗効果があることが分かる。セレン酸およびパクリタキセルのこの有意な相乗効果は、図8に示した腫瘍体積のグラフでも明らかである。
【0118】
前立腺腫瘍成長に対する薬剤の効果を確かめるために、パクリタキセル単独による治療を受けた動物および併用療法による治療を受けた動物からの腫瘍体積を測定した。図7に示したように、併用療法には腫瘍サイズの低下に対して著しい効果があり、腫瘍体積に対しても著しい効果があった(図8)。この効果は統計的に有意であった(P<0.05)。
【0119】
従って、図6〜8に示したインビボデータは、前立腺腫瘍の重量および体積を小さくするセレン酸とパクリタキセルの相乗効果を証明している。この効果は、相乗効果を示した2種類の化合物いずれかの薬剤単独の相加効果より大きかった。このことは、セレン酸が血管内皮細胞ならびに腫瘍細胞の成長に対して抗血管新生作用を有し、相乗効果を説明するのは、インビボで観察できるこの組み合わせ効果であるという発見を裏付けている。セレン酸単独では、腫瘍体積に対する効果より、腫瘍の微小血管密度の低下に対する効果の方が大きかった。これは直接的な抗血管新生作用を示している。
【0120】
実施例3
セレン酸および亜セレン酸の比較試験
材料および方法
細胞毒性
5μMまたは50μMのセレン酸ナトリウムまたは亜セレン酸ナトリウムを用いて処理した後の細胞毒性は、トリパンブルー排除による細胞毒性の測定を伴った。5×103個のヒト前立腺癌PC-3細胞を24ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMまたは50μMのセレン酸または亜セレン酸で処理した。5μMまたは50μMの用量範囲は0.1mg/kg〜1.25mg/kgに相当する。セレン酸または亜セレン酸を添加して24時間後、48時間後、72時間後、および96時間後に、細胞を採取し、生細胞のパーセント(トリパンブルー染色によって評価した)を求めた。図9のグラフに示した結果は、3回の独立した実験の平均およびSDを示している。図9から、セレン酸は細胞分裂停止性であるが、ほぼ同じ濃度の亜セレン酸は細胞傷害性であることが分かる。従って、亜セレン酸は動物における併用療法に適さないだろう。
【0121】
セレン酸の相対細胞傷害作用と亜セレン酸の相対細胞傷害作用を区別するために、ヒト前立腺癌腫細胞PC-3を、2種類の濃度5μMもしくは50μM(0.2〜1.9mg/kgの用量に相当する)のセレン酸または5μMもしくは50μM(0.18〜1.8mg/kgの用量に相当する)亜セレン酸を用いて処理した。次いで、処理を添加して24〜96時間後に連続して、組織培養ウェル中の全ての細胞を採取した。次いで、生細胞のパーセントを、トリパンブルー排除アッセイ法を用いて求めた。全ての時点ならびに低濃度および高濃度の両方でセレン酸は、これらの細胞に対して細胞傷害性でなかった。セレン酸処理試料における生細胞のパーセントは対照非処理試料と等しかった(図9)。この効果は全ての時点を通じて維持され、多くの時点について統計的有意性に達した(図9、星印の付いた時点を参照されたい)。セレン酸には、細胞に対して、証明された細胞分裂停止作用があるが、亜セレン酸には細胞傷害作用がある。
【0122】
細胞遺伝毒性
5×105個のPC-3細胞を6ウェルディッシュにプレートし、24時間後に、細胞を、1μg/mLもしくは10μg/mLのパクリタキセル、または500μM(19mg/kg)のセレン酸、または500μM(18mg/kg)の亜セレン酸を用いて指示した時間にわたって処理した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、ELB溶解緩衝液中で溶解し、全細胞溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、指示した抗体でブロットおよびプローブした。ヒストンH2AXのリン酸化はDNA損傷(典型的に、DNA二本鎖または一本鎖の切断による損傷)の数分以内に起こり、DNA損傷の非常に感度の高い測定値である。
【0123】
DNA損傷の誘導におけるセレン酸と、亜セレン酸と、タキサンであるパクリタキセルとの違いを確かめるために、これらの化合物を用いて、PC-3細胞を漸増期間にわたって処理し、次いで、溶解した。ヒストンH2A.Xのリン酸化についてタンパク質抽出物を、リン酸化特異的抗体を用いてプローブした。結果を図10に示した。図10から、亜セレン酸は遺伝毒性であり、DNA鎖の切断を誘導するのに対して、セレン酸およびパクリタキセルは誘導しないことが分かる。高濃度(500μM;19mg/kgの用量に相当する)のセレンならびに漸増濃度のパクリタキセルでさえも、ヒストンH2A.Xのリン酸化によって評価されたようにDNA損傷を誘導しなかった。対照的に、等濃度(500μM;18mg/kgの用量に相当する)の亜セレン酸は処理30分以内にDNA損傷を誘導する。これは、同じ試料において同時に起こるβチューブリンレベル低下により示されたように、この処理の全体的な毒性作用にもかかわらず、時間と共に増大する効果である(図10)。
【0124】
Akt活性化
5×105個のPC-3細胞を6ウェルディッシュにプレートし、24時間後、細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、細胞を、指示したセレン化合物(全て125μM(4〜9mg/kgの用量範囲に相当する))で6時間処理した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、ELB溶解緩衝液で溶解し、全細胞溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、最初に、活性化特異的Akt抗体(Ser408)でブロットおよびプローブし、次いで、ブロットをストリッピングし、ローディング対照として総Akt特異的抗体(pan Akt)で再プローブした。発色させたフィルムからのシグナル強度をスキャンし、総Aktレベルと相関させた活性Aktの強度をプロットした。
【0125】
Akt活性化状態に対する異なるセレン化合物の効果を比較するために、PC-3細胞を、図11に示したように7種類のセレン化合物で処理した。図11から、セレン酸ナトリウム(ATE)だけがAkt活性化を阻害し、リン酸化Aktレベルを対照(con)レベルより低く下げることが分かる。対照的に、亜セレン酸(Sel acid)、亜セレン酸ナトリウム(ITE)、二酸化セレン(SeO2)、硫化セレン(SeS2)、メチルセレノシステイン(MSC)、セレノシステイン(SeC)は全て対照(con)レベルを超えてAkt活性化を誘導する。
【0126】
高用量の亜セレン酸の効果を確かめるために、5×105個のPC-3細胞を6ウェルディッシュにプレートし、24時間後、細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、細胞を、500μM(18〜19mg/kgの用量範囲に相当する)の亜セレン酸ナトリウムまたはセレン酸ナトリウムで1時間処理した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、ELB溶解緩衝液で溶解し、全細胞溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、最初に活性化特異的Akt抗体(Ser408)でブロットおよびプローブした。
【0127】
図12から、ほぼ同じ高用量のセレン酸ナトリウム(ATE)と比較して、500μMの高用量の亜セレン酸ナトリウム(ITE)でもAkt活性化を阻害しないことが分かる。セレン酸で観察されたものとほぼ同じAkt活性化レベルを、高用量レベルの亜セレン酸が阻害できるかどうかを確かめるために、PC-3細胞を、500μM(18〜19mg/kg)のセレン酸ナトリウムまたは亜セレン酸ナトリウムで1時間処理し、Akt活性化を、リン酸化特異的抗体を用いて確かめた。この期間は、この時点で500μM(18mg/kg)の亜セレン酸が全体的なタンパク質分解を誘導しないという理由で選択された。図12に示したように、セレン酸は対照未処理細胞と比較してAkt活性化を阻害したのに対して、亜セレン酸はAkt活性化を阻害できなかった。
【0128】
アポトーシス
5×105個のPC-3細胞を6ウェルディッシュにプレートし、24時間後、細胞を、1ng/mL、10ng/mL、100ng/mL、および1μg/mL、101μg/mLパクリタキセル、または100μM、250μM、もしくは500μM(4〜19mg/kgに相当する)セレン酸ナトリウム、または100μM、250μM、もしくは500μM(3.6〜18mg/kgに相当する)亜セレン酸ナトリウムで16時間処理した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、ELB溶解緩衝液で溶解し、全細胞溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、抗切断PARP(PARP)特異的抗体および抗βチューブリン(チューブリン)特異的抗体でブロットおよびプローブした。
【0129】
亜セレン酸について証明されているように(Jiang, C. et al, 2004 Mol. Can. Ther. 3:877)、遺伝毒性損傷を誘導する薬剤はp53依存性機構を介したアポトーシスプログラムを誘発する。パクリタキセルなどの微小管安定化剤は内因性アポトーシス経路を介してアポトーシスを誘導する。セレン酸のアポトーシス促進機構と亜セレン酸のアポトーシス促進機構を区別するために、PC-3細胞を漸増濃度のこれらの化合物で16時間処理し、アポトーシスのマーカータンパク質である切断PARPのレベルを分析した。図13から、セレン酸および亜セレン酸は異なる機構を介してアポトーシスを誘導することが分かる。パクリタキセルおよびセレン酸はアポトーシス促進性PARPタンパク質の切断を誘導するのに対して、亜セレン酸は誘導しない。亜セレン酸はまた、その細胞毒性の基礎をなす細胞チューブリンの著しい分解も誘導する。従って、セレン酸および亜セレン酸は、PARPおよびチューブリンに対する効果により証明されたように異なる機構を介してアポトーシスを誘導するように思われる。全データから、Akt経路に対する様々なセレン化合物の効果ははっきりと区別されることが分かる。
【0130】
実施例4
5×104個のヒト前立腺癌アンドロゲン感受性LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、50μMセレン酸ナトリウムで処理したか、または処理しなかった(対照)。化合物を添加して72時間後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0131】
図14に示したように、セレン酸はアンドロゲン除去と相乗作用を示して、処理72時間後に親LNCaP細胞増殖を低下させた。
【0132】
実施例5
5×104個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、50μMセレン酸で処理したか、または処理しなかった(対照)。セレン酸ナトリウムを添加して72時間後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0133】
図15に示したように、セレン酸はアンドロゲン除去と相乗作用を示して、処理72時間後にCSS LNCaP細胞増殖を低下せた。アンドロゲン非依存性細胞は親LNCaP細胞よりセレン処理に対して感受性が高い。
【0134】
実施例6
1×105ヒト前立腺癌アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLy294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0135】
図16に示したように、5μMのセレン酸だけが、処理9日後に、アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞の増殖を著しく低下させる(p<0.95)。
【0136】
実施例7
1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、化合物の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0137】
図17に示したように、5μMのセレン酸だけがアンドロゲン除去と相乗作用を示して、処理9日後に、アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞の増殖を著しく低下させる(p<0.95)。
【0138】
実施例8
1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLY294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0139】
図18に示したように、5μMのセレン酸だけが、テストステロンの存在下でさえ、処理9日後に、アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞の増殖を著しく低下させる(p<0.95)。
【0140】
実施例9
1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLY294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0141】
図19に示したように、5μMのセレン酸だけがアンドロゲン除去と相乗作用を示して、処理の9日後に、アンドロゲン感受性CSS LNCaP細胞の増殖を著しく低下させる(p<0.95)。
【0142】
実施例10
1×105個のヒト腎臓上皮Q293細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLY294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0143】
図20に示したように、処理9日後に、5μMセレン酸はQ293細胞の増殖を有意にもたらさないが、PI3K阻害剤LY294002は増殖を有意にもたらす(p<0.95)。従って、セレン酸の阻害作用は細胞特異的である。
【0144】
実施例11
1×105個のヒト腎臓上皮Q293細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムまたは10μM LY294002で処理した。細胞を、セレン酸ナトリウムまたはLY294002の添加後、指示した期間で採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【0145】
図21に示したように、処理9日後に、5μMセレン酸はアンドロゲン除去(CSS培地中で増殖)と組み合わせた場合でもQ293細胞の増殖を有意にもたらさないが、PI3K阻害剤LY294002は増殖を有意にもたらす(p<0.95)。従って、セレン酸の阻害作用は細胞特異的である。
【0146】
実施例4〜11の材料および方法
細胞培養
親アンドロゲン感受性LNCaP細胞株は、American Type Culture Collection (Manassas, Virginia, USA)から入手し、10%ウシ胎仔血清および1%抗生物質/抗真菌剤混合物(Invitrogen)を添加したRPMI1641(Invitrogen)において日常的に培養した。細胞を5%CO2において37℃に維持した。アンドロゲン非依存性LNCaP細胞を選択するために、LNCaPを、5%チャコール処理血清(CSS)(Invitrogen)(全ての検出可能な微量テストステロンが除去されている)を含むRPMI1641(Invitrogen)において6〜8週間培養し、テストステロンの非存在下で自由に増殖することができるLNCaP細胞株を得た。これらの細胞をCSS LNCaPと呼ぶ。
【0147】
Q293細胞は、5%ウシ胎仔血清および1%抗生物質/抗真菌剤混合物(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)において日常的に培養したヒト腎臓上皮細胞株である。
【0148】
セレン酸ナトリウムは、蒸留水に溶解して10mM原液として作成し、フィルター滅菌した後に、インビトロ実験用に培地で希釈した。PI3K阻害剤LY294002は、50mM原液でDMSOに溶解し、インビトロ実験用に細胞培地で希釈した。
【0149】
細胞成長曲線
5×104(図1〜2)〜1×105個のLNCaP、CSS LNCaP、またはQ293細胞を一晩付着させた。数時間後、培地を、指示したように正常血清またはチャコール処理血清(CSS)の存在下でセレン酸ナトリウムまたはLY294002を含むように交換し、指定の時点まで増殖させた。次いで、上清および細胞を採取し、混合し、生細胞をトリパンブルー排除アッセイ法によって評価した。実験は三通り行った。
【0150】
統計解析
特別の定めのない限り、データは平均±SEで示した。処理群および対照群の差はペアワイズt検定を用いて解析し、p<0.05で有意であるとみなした。星印は、対応する対照値と有意に異なる値を示す。統計解析は、SPSS 9.05 for Windows(SPSS, Chicago, Illinois)ソフトウェアを用いて行った。
【0151】
本明細書において引用された全ての特許、特許出願、および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0152】
本明細書におけるどの参考文献の引用によっても、このような参考文献が本願に対する「先行技術」として利用できると認めるものであると解釈してはならない。
【0153】
明細書全体を通して、この目的は、本発明をいずれか1つの態様または特徴の特定の集まりに限定することなく、本発明の好ましい態様を説明することであった。従って、当業者であれば、本開示を考慮して、本発明の範囲から逸脱することなく、例証された特定の態様において様々な修正および変更が可能なことを理解するだろう。このような全ての修正および変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】セレン酸ナトリウムが同所性マウスモデルにおける前立腺腫瘍細胞の増殖を阻害することを示すグラフ表示および写真表示である。6週齢雄BALB/cヌードマウスの背側外側前立腺に1×106個のPC-3細胞を注射した。次いで、1群あたり10匹の動物に、5週間、飲料水に溶かして5ppmセレン酸ナトリウム(NaSe)を与えたか、処置を行わなかった(Con)。次いで、動物を選抜した。(A)図1(A)は、セレン酸ナトリウムを与えたマウスでは、腫瘍含有前立腺の重量が小さかったことを図示する。(B)図1(B)は、セレン酸ナトリウムを与えたマウスでは、ノギスを用いて測定した腫瘍体積がわずかに小さかった(が、有意でなかった)ことを図示する。(C)次いで、後腹膜腔を拡大下で頭側に向かって腎静脈のレベルまで調べ、0.5mmを超えるリンパ節の数(リンパ節数)を数えた。図1(C)は、セレン酸ナトリウムを与えたマウスでは、0.5mmを超えるリンパ節の数が少なかったことを示す。結果は平均+/-SEを示す。図1(A)および1(C)は、対照に対してp<0.05を有する。(D)図1(D)は、前立腺腫瘍試料からのBrdU陽性細胞核およびTunel陽性細胞核の集計を示す。結果は、非処理群(Con)およびセレン酸ナトリウム群(NaSe)からの4つの腫瘍試料の高倍率視野あたりの平均+/-SEを示す。(E)図1(E)は、非処理(対照)およびセレン酸ナトリウム(NaSe)前立腺腫瘍組織試料からのBrdU陽性核の代表的な免疫組織化学試料(×100倍率)を示す。
【図2】セレン酸ナトリウムがG1細胞周期ブロックを誘導することによって前立腺癌腫細胞の増殖を阻害することを示すグラフ表示および写真表示である。(A)2×105個のPC-3細胞を6ウェルプレートに播種し、16時間インキュベートした。次いで、指示した濃度のセレン酸ナトリウムを添加し、インキュベーションを指示した時点にわたって続けた。次いで、非付着細胞画分および付着細胞画分を採取し、プールし、トリパンブルー排除アッセイ法によって生細胞の総数を数えた。図1(A)は、生細胞数に対する異なる濃度のセレン酸ナトリウムの効果を図示する。(B)2.5×104個のPC-3細胞を24ウェルプレートに播種し、16時間後に、0.05mM、0.1mM、または0.25mMセレン酸ナトリウムに36時間曝露し、次いで、BrdU/FrdU増殖細胞標識試薬(Roche)をさらに16時間添加した。細胞を洗浄し、固定し、BrdU/FrdUの核への取り込みがあるかどうか染色し、細胞核を識別するためにDAP1で染色した。結果を図2(B)に示した。(C)2×105個のPC-3細胞をT25フラスコに播種し、16時間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、無血清培地中でさらに48時間インキュベートした。次いで、細胞を、0.0mM、0.1mM、0.25mM、または0.5mMセレン酸ナトリウムを含有する新鮮な血清(FCS,10%)でさらに24時間または48時間再刺激した。次いで、細胞を採取し、固定し、ヨウ化プロプリウム(proprium iodide)で染色し、FACS分析を行った。3回の独立した実験の細胞周期のG1期およびG2/M期にある細胞の平均パーセントのグラフプロットを、図2(D)に示した。(E)細胞増殖をMTTアッセイ法によって評価した。1×104個のPC-3細胞を96ウェルプレートに播種し、16時間インキュベートした。次いで、指示した濃度のセレン酸ナトリウムまたはセレノメチオニンを添加し、73時間後に、MTTアッセイ法によって細胞増殖指標を測定した。結果を図2(E)に示した。全ての結果について、示した値は、少なくとも3回の独立した実験からの平均+S.D.である。
【図3】セレン酸ナトリウムが細胞周期阻害タンパク質のアップレギュレーションおよび網膜芽細胞腫タンパク質の脱リン酸を誘導することを示す写真表示である。(A)7.5×105個のPC-3細胞を6cmディッシュに播種し、次いで、16時間後に、非同調的に増殖している細胞を、指示した時間にわたって0.5mMセレン酸ナトリウムで処理し、次いで、細胞をELB緩衝液で溶解し、等量の全細胞溶解産物(75μg)を12%SDS-PAGEゲルにおいて分離し、指示した一次抗体で膜をプローブした。結果を図3(A)に示した。(B)5×105個のPC-3細胞を6ウェルプレートに播種し、10時間インキュベートし、洗浄し、血清を16時間欠乏させ、次いで、示した時点にわたってセレン酸ナトリウム(0.5mM)で処理した。細胞をELB緩衝液で溶解し、全細胞溶解産物(75μg)を10%SDS-PAGEゲルにロードし、指示した抗体で膜をプローブした。結果を図3(B)に示した。(C)2×105個のPC-3細胞を6ウェルプレートに播種し、16時間インキュベートし、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)またはセレノメチオニン(SeMet,0.5mM)で、指示した時間にわたって処理し、全細胞溶解産物(75μg)を12.5%SDS-PAGEゲルにおいて流し、指示した抗体で膜をプローブした。結果を図3(C)に示した。
【図4】PTEN欠損PC-3細胞において、セレン酸ナトリウムは慢性Akt活性化を阻害するが、セレノメチオニンは阻害しないことを示す写真表示である。(A)PC-3細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)を指示した期間にわたって添加し、全細胞溶解産物(75μg)を10%SDS-PAGEゲルにロードし、膜をリン酸化特異的Akt抗体およびpan-Akt抗体でプローブした。結果を図4(A)に示した。(B)(A)からの同じ溶解産物(75μg)を、ローディング対照としてリン酸化特異的PDK1抗体およびβIIIチューブリン抗体でプローブした。結果を図4(B)に示した。(C)PC-3細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM,10分間)またはLY294002(50μM,1時間)を単独でまたは組み合わせて添加し、次いで、細胞を溶解し、全細胞溶解産物(75μg)を10%SDS-PAGEゲルにおいて分離し、リン酸化特異的抗体およびpan Akt抗体で膜をプローブした。結果を図4(C)に示した。(D)PC-3細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)またはセレノメチオニン(SeMet,0.5mM)で、指示した異なる期間にわたって処理し、次いで、等量の全細胞溶解産物(75μg)を10%SDS-PAGEゲルにおいて分離し、リン酸化特異的抗体およびpan Akt抗体で膜をプローブした。結果を図4(D)に示した。
【図5】セレン酸ナトリウムはForkhead転写因子の核への移行およびPI3K細胞生存経路エフェクタータンパク質活性のダウンレギュレーションを誘導するが、セレノメチオニンは誘導しないことを示すグラフ表示および写真表示である。(A)PC-3細胞を、Lipofectamine2000試薬を用いてGFP-Forkhead発現構築物(GFP-FKHR,0.8μg)でトランスフェクトし、次いで、24時間後、血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)もしくはセレノメチオニン(Se Met,0.5mM)で3時間、またはLY294002(10μM)で1時間処理した。次いで、細胞を固定し、核および細胞質のGFP蛍光状態を観察した。DAPI染色は細胞核を示している。結果を図5(A)に示した。(B)図5(B)は、(A)の結果の平均+S.D.のグラフ図を示す。全ての実験は三通り行い、各処理について少なくとも70個のトランスフェクト細胞を評価した。(C),(D)PC-3細胞から血清を16時間欠乏させ、次いで、セレン酸ナトリウム(Na2SeO4,0.5mM)で、指示した期間にわたって処理し、全細胞溶解産物((C)では75μg、(D)では100μg)をSDS-PAGEゲルにおいて分離し、指示した抗体で膜をプローブした。βIIIチューブリンは(C)ではローディング対照として働いた。非同調的に増殖しているPC-3細胞を、LY294002(10μM)と共に、または伴わずに、指示した濃度のセレン酸ナトリウム(Na2SeO4)で72時間処理した。次いで、MTTアッセイ法を用いた増殖指標のために細胞を処理した。結果は、少なくとも3回の独立した実験の平均+S.D.を示す。
【図6】マウスの前立腺腫瘍を、セレン(セレン酸の形態をしている)単独で、またはタキソール(パクリタキセル)と組み合わせて処置したインビボ結果を示すグラフ表示および写真表示である。この処置は、Cont(対照群)、セレン(セレン酸ナトリウム)、およびタキソール(パクリタキセル)を含む。対照群は、パクリタキセルを含まないパクリタキセル可溶化担体cremophorおよびエタノールで処置した。グラフのY軸は前立腺腫瘍の重量(mg)を示す。図は平均±SDを示す。
【図7】タキソール(パクリタキセル)単独で処置された前立腺腫瘍、またはタキソールとセレン酸ナトリウムを組み合わせて処置された前立腺腫瘍の組織切片を示す写真表示である。セレン酸ナトリウムおよびパクリタキセルは、前立腺腫瘍サイズを小さくするのに相乗作用を示した。図7は、パクリタキセル単独で処置した動物(タキソール)およびセレン酸ナトリウムとパクリタキセルを組み合わせて処置した動物(タキソール+セレン酸)からの腫瘍切片の画像を示す。腫瘍切片をHEで染色した。両画像とも同じ倍率で撮影し、直接比較することができる。
【図8】マウスの前立腺腫瘍を、タキソール(パクリタキセル)(T)単独で、またはセレン酸ナトリウムと組み合わせて(S+T)処置したインビボ結果を示すグラフ表示である。グラフのY軸は前立腺腫瘍の体積(mm3)を示す。図は平均+SDを示す。
【図9】5μMまたは50μMのセレン酸ナトリウムまたは亜セレン酸ナトリウムの細胞毒性作用(24時間後、48時間後、72時間後、および96時間後にトリパンブルー排除によって測定した)を示すグラフ表示である。亜セレン酸およびセレン酸の細胞毒性はトリパンブルー排除によって測定した。結果は、3回の独立した実験の平均±SDを示す。各試料の細胞総数と比較した生細胞のパーセントをY軸に示し、処理をx軸に示した。
【図10】PC-3細胞に対する1μg/mLもしくは10μg/mLのタキソール(パクリタキセル)、または500μM(19mg/kgの用量に相当する)のセレン酸ナトリウム、または500μM(18mg/kgの用量に相当する)の亜セレン酸ナトリウムの指示した時間にわたる効果を示した写真表示である。処理細胞の溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、次いで、指示した抗体でブロットおよびプローブした。亜セレン酸はDNA損傷を誘導することが示されたのに対して、セレン酸およびパクリタキセルは誘導しないことが示された。処理PC-3細胞からの全細胞溶解産物をPVDF膜に転写し、リン酸化特異的ヒストンH2A.X抗体(P H2A.X)でプローブし、次いで、膜をストリッピングし、ローディング対照(チューブリン)としてβ-チューブリン抗体で再プローブした。
【図11】Akt活性化に対する異なるセレン化合物の効果を示すグラフ表示である。処理:対照(con);セレン酸ナトリウム(ATE);亜セレン酸(Sel acid);亜セレン酸ナトリウム(ITE);二酸化セレン(SeO2);硫化セレン(SeS2);メチルセレノシステイン(MSC);およびセレノシステイン(SeC)。総Aktタンパク質レベルと相関させた活性Aktの相対シグナル強度をy軸に示した。グラフから、セレン酸ナトリウム(ATE)だけがAkt活性化を阻害し、対照(con)レベルより下にリン酸化Aktレベルを下げることが分かる。対照的に、亜セレン酸(Sel acid)、亜セレン酸ナトリウム(ITE)、二酸化セレン(SeO2)、硫化セレン(SeS2)、メチルセレノシステイン(MSC)、セレノシステイン(SeC)は全てAkt活性化を対照(con)レベルより上に誘導する。
【図12】Akt活性化に対する高用量の亜セレン酸ナトリウムおよびセレン酸ナトリウムの効果を示す写真表示である。500μMの亜セレン酸ナトリウム(ITE)は、ほぼ同じ用量のセレン酸ナトリウム(ATE)と比較してAkt活性化を阻害しない。処理されたPC-3細胞の溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、リン酸化特異的Akt抗体(ser408)P-Akt抗体を用いてブロットおよびプローブした。
【図13】1ng/mL、10ng/mL、100ng/mL、および1μg/mL、10μg/mLのタキソール(パクリタキセル)、または100μM、250μM、もしくは500μM(4〜19mg/kgの用量に相当する)のセレン酸ナトリウム(ATE)、または100μM、250μM、もしくは500μM(3.6〜18mg/kgの用量に相当する)の亜セレン酸ナトリウム(ITE)を用いてPC-3細胞を16時間処理した結果を示す写真表示である。処理された細胞の溶解産物をSDS-PAGEゲルにおいて流し、切断PARPタンパク質およびβ-チューブリン(対照)に対する特異的抗体を用いてブロットおよびプローブした。タキソールおよびセレン酸はアポトーシス促進性PARPタンパク質の切断を誘導するのに対して、亜セレン酸は誘導しないことが示された。亜セレン酸はまた、その細胞毒性の基礎をなす細胞βチューブリンの著しい分解も誘導する。
【図14】アンドロゲンの存在下または非存在下で増殖させた親LNCaP細胞を、セレン酸ナトリウム(50μM)で3日間処理した後のパーセント成長阻害を示すグラフ表示および写真表示である。5×104個のヒト前立腺癌アンドロゲン感受性LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に50μMセレン酸ナトリウムで処理したか、またはセレン酸による処理を行わなかった(対照)。セレン酸を添加して72時間後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図15】アンドロゲンの存在下または非存在下で増殖させたCSS LNCaP細胞株を、セレン酸ナトリウム(50μM)で3日間処理した後のパーセント成長阻害を示すグラフ表示である。5×104個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に50μMセレン酸ナトリウムで処理したか、またはセレン酸による処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムを添加して72時間後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図16】アンドロゲンの存在下で増殖させた親LNCaP(正常血清,NS LNCaP)細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)またはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン感受性NS LNCaP細胞を6ウェルプレートに播種し、8時間後に、セレン酸ナトリウム(5μM)、LY294002(10μM)で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸またはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図17】アンドロゲンの非存在下で(チャコール処理血清,CSSにおいて)増殖させた親NS LNCaP細胞を、セレン酸ナトリウム(5μM)またはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト前立腺癌感受性NS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウム、10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸またはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図18】アンドロゲンの存在下で(正常血清,NSにおいて)増殖させたアンドロゲン非依存性LNCaP(CSS LNCap)細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)またはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウム、10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムまたはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図19】アンドロゲンの非存在下で(チャコール処理血清,CSSにおいて)増殖させたアンドロゲン非依存性LNCaP(CSS LNCaP)細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)またはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト前立腺癌アンドロゲン非依存性CSS LNCaP細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムもしくは10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムまたはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図20】アンドロゲンの存在下で(正常血清,NSにおいて)増殖させたQ293細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)もしくはLY294002(10μM)で処理した後、または非処理(対照)後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト腎臓上皮Q293細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムもしくは10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムまたはLY294002で処理して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【図21】アンドロゲンの非存在下で(チャコール処理血清,CSSにおいて)増殖させたQ293細胞をセレン酸ナトリウム(5μM)もしくはLY294002(10μM)で処理した後の細胞増殖の時間経過を示すグラフ表示である。1×105個のヒト腎臓上皮Q293細胞を6ウェルディッシュに播種し、8時間後に、5μMセレン酸ナトリウムもしくは10μM LY294002で処理したか、または処理を行わなかった(対照)。セレン酸ナトリウムまたはLY294002を添加して3日後、5日後、および9日後に細胞を採取し、生細胞の細胞数を求めた(トリパンブルー染色によって評価した)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞の成長を阻害するための方法であって、以下の工程を含む方法:
腫瘍細胞を、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩に曝露する工程。
【請求項2】
腫瘍細胞が、Aktが過剰に活性化している腫瘍細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
腫瘍細胞が前立腺腫瘍細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
腫瘍細胞の成長がアンドロゲン非依存性または化学療法抵抗性である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩のAktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量が約0.015mg/kg〜約20.0mg/kgである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
腫瘍細胞を細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤に曝露する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
細胞増殖抑制剤が微小管安定化剤である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
微小管安定化剤がパクリタキセルである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
腫瘍細胞を、放射線療法に、任意に放射線増感剤と共に曝露する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための方法であって、以下の工程を含む方法:
このような治療を必要とする被験体に、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を投与する工程。
【請求項11】
癌が、Aktが過剰に活性化している癌である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
癌が前立腺癌である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
癌がアンドロゲン非依存性前立腺癌または化学療法抵抗性前立腺癌である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
セレン酸のAktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量が栄養所要量を超える量である、請求項10記載の方法。
【請求項15】
セレン酸のAktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量が約0.015mg/kg〜約20.0mg/kgである、請求項10記載の方法。
【請求項16】
セレン酸がセレン酸ナトリウムの形態をしている、請求項10記載の方法。
【請求項17】
細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を投与する工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項18】
細胞増殖抑制剤が微小管安定化剤である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
微小管安定化剤がパクリタキセルである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
放射線療法を、任意に放射線増感剤と組み合わせて施す工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項21】
被験体におけるホルモン依存性癌を治療するための方法であって、以下の工程を含む方法:
治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩をホルモン除去療法と組み合わせて投与する工程。
【請求項22】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量が栄養所要量を超える量である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量が約0.015mg/kg〜約20mg/kgである、請求項21記載の方法。
【請求項24】
セレン酸がセレン酸ナトリウムの形態をしている、請求項21記載の方法。
【請求項25】
ホルモン依存性癌がアンドロゲン依存性癌またはエストロゲン依存性癌より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項26】
ホルモン依存性癌が、前立腺癌、精巣癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮内膜癌、甲状腺癌、または下垂体癌より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項27】
ホルモン依存性癌がアンドロゲン依存性前立腺癌である、請求項21記載の方法。
【請求項28】
細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を投与する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項29】
細胞増殖抑制剤が微小管安定化剤である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
微小管安定化剤がパクリタキセルである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
放射線療法を、任意に放射線増感剤と共に施す工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項32】
治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を被験体に投与する工程を含む、被験体における前立腺癌を治療するための方法。
【請求項33】
前立腺癌がアンドロゲン非依存性前立腺癌または化学療法抵抗性前立腺癌である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
治療的有効量が栄養所要量を超える量である、請求項32記載の方法。
【請求項35】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量が約0.015mg/kg〜約20.0mg/kgである、請求項32記載の方法。
【請求項36】
セレン酸がセレン酸ナトリウムの形態をしている、請求項32記載の方法。
【請求項37】
細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を投与する工程をさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項38】
細胞増殖抑制剤が微小管安定化剤である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
微小管安定化剤がパクリタキセルである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
放射線療法を、任意に放射線増感剤と組み合わせて施す工程をさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項41】
Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項42】
PC-3前立腺癌、3B6リンパ腫、BL41リンパ腫、およびHTB123/DU4475乳房腫瘍より選択される癌以外の、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項43】
ホルモン除去療法と共に投与するように処方される、ホルモン依存性癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項1】
Aktシグナル伝達経路が活性化されている腫瘍細胞の成長を阻害するための方法であって、以下の工程を含む方法:
腫瘍細胞を、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩に曝露する工程。
【請求項2】
腫瘍細胞が、Aktが過剰に活性化している腫瘍細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
腫瘍細胞が前立腺腫瘍細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
腫瘍細胞の成長がアンドロゲン非依存性または化学療法抵抗性である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩のAktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量が約0.015mg/kg〜約20.0mg/kgである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
腫瘍細胞を細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤に曝露する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
細胞増殖抑制剤が微小管安定化剤である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
微小管安定化剤がパクリタキセルである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
腫瘍細胞を、放射線療法に、任意に放射線増感剤と共に曝露する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための方法であって、以下の工程を含む方法:
このような治療を必要とする被験体に、Aktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を投与する工程。
【請求項11】
癌が、Aktが過剰に活性化している癌である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
癌が前立腺癌である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
癌がアンドロゲン非依存性前立腺癌または化学療法抵抗性前立腺癌である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
セレン酸のAktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量が栄養所要量を超える量である、請求項10記載の方法。
【請求項15】
セレン酸のAktシグナル伝達経路の活性化を阻害する量が約0.015mg/kg〜約20.0mg/kgである、請求項10記載の方法。
【請求項16】
セレン酸がセレン酸ナトリウムの形態をしている、請求項10記載の方法。
【請求項17】
細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を投与する工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項18】
細胞増殖抑制剤が微小管安定化剤である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
微小管安定化剤がパクリタキセルである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
放射線療法を、任意に放射線増感剤と組み合わせて施す工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項21】
被験体におけるホルモン依存性癌を治療するための方法であって、以下の工程を含む方法:
治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩をホルモン除去療法と組み合わせて投与する工程。
【請求項22】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量が栄養所要量を超える量である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量が約0.015mg/kg〜約20mg/kgである、請求項21記載の方法。
【請求項24】
セレン酸がセレン酸ナトリウムの形態をしている、請求項21記載の方法。
【請求項25】
ホルモン依存性癌がアンドロゲン依存性癌またはエストロゲン依存性癌より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項26】
ホルモン依存性癌が、前立腺癌、精巣癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮内膜癌、甲状腺癌、または下垂体癌より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項27】
ホルモン依存性癌がアンドロゲン依存性前立腺癌である、請求項21記載の方法。
【請求項28】
細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を投与する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項29】
細胞増殖抑制剤が微小管安定化剤である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
微小管安定化剤がパクリタキセルである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
放射線療法を、任意に放射線増感剤と共に施す工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項32】
治療的有効量のセレン酸またはその薬学的に許容される塩を被験体に投与する工程を含む、被験体における前立腺癌を治療するための方法。
【請求項33】
前立腺癌がアンドロゲン非依存性前立腺癌または化学療法抵抗性前立腺癌である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
治療的有効量が栄養所要量を超える量である、請求項32記載の方法。
【請求項35】
セレン酸またはその薬学的に許容される塩の治療的有効量が約0.015mg/kg〜約20.0mg/kgである、請求項32記載の方法。
【請求項36】
セレン酸がセレン酸ナトリウムの形態をしている、請求項32記載の方法。
【請求項37】
細胞増殖抑制剤または細胞傷害剤を投与する工程をさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項38】
細胞増殖抑制剤が微小管安定化剤である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
微小管安定化剤がパクリタキセルである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
放射線療法を、任意に放射線増感剤と組み合わせて施す工程をさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項41】
Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項42】
PC-3前立腺癌、3B6リンパ腫、BL41リンパ腫、およびHTB123/DU4475乳房腫瘍より選択される癌以外の、Aktシグナル伝達経路が活性化されている癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項43】
ホルモン除去療法と共に投与するように処方される、ホルモン依存性癌を治療するための薬物の製造におけるセレン酸またはその薬学的に許容される塩の使用。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2008−513521(P2008−513521A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532721(P2007−532721)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000111
【国際公開番号】WO2006/032074
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(507092193)ベラコル セラピューティクス プロプライエタリー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000111
【国際公開番号】WO2006/032074
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(507092193)ベラコル セラピューティクス プロプライエタリー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
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