説明

癌幹細胞の同定、単離、および除去の方法

白血病幹細胞の単離された集団を提供する。この細胞は、実験評価に、ならびに系統および細胞特異的産物の供給源として、ならびにそれらの細胞に影響し得る因子または分子を発見するための標的として有用である。白血病幹細胞の検出は、疾患の進行、再発、および薬剤耐性の発現を予測するのに有用である。LSCの増殖は、bカテニン経路の活性化を妨げることによって阻害され得る。1つまたは複数の造血幹細胞または前駆細胞サブセットの分布に関して血液試料を差次的に解析することによる、前白血病および白血病を臨床的に病期分類する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
白血病は、骨髄および血液における白血球の異常な増殖および発達が関与する造血器官の悪性疾患である。白血病は通常、関与する細胞の種類によって骨髄性またはリンパ性に分類される。これらの群内には慢性疾患および急性疾患が存在し、これらは持続時間および性質の点で異なる。白血病は年齢特異性を有する傾向があり、例えば急性リンパ性白血病は若年小児で好発するのに対し、急性骨髄性白血病は主に若年成人に見られる。
【0002】
特徴的な細胞表面(表現型)マーカーに基づいて造血幹細胞および骨髄前駆細胞の精製集団を単離する能力により、造血幹細胞自己複製に関与する遺伝子を同定することが可能になった。正常な造血幹細胞は、委任された造血前駆細胞とは異なり、分化せずに分裂して同一の子孫を作製する能力、すなわち自己複製する能力を有する。最近では、通常は造血幹細胞において厳重に調節されている自己複製経路の調節解除が、白血病の進行の重要な段階であると認識されている。
【0003】
慢性骨髄性白血病(CML)は、明確な臨床的および病理学的特徴を有する疾患である。CMLの原因はヒト第9染色体と第22染色体との間の特異的な染色体転座であり、この転座によって一般にフィラデルフィア染色体と称される産物が生じる。ヒト第9染色体の長腕にはチロシンキナーゼc-ablの遺伝子が存在し、ヒト第22染色体にはc-bcrの遺伝子が存在する。転座によって、チロシンキナーゼドメインをコードするエレメントを含む、ABLのプロモーター遠位の3つのエキソンが、BCRの第1または第2エキソンの下流に位置づけられる。このキメラ遺伝子、BCR-ABLは、BCRの第2エキソンを含むかどうかにより、しばしばp185bcr-ablまたはp210bcr-ablと称される融合タンパク質をコードする。p185bcr-ablは、典型的にリンパ芽球性の急性白血病を引き起こす。p210bcr-ablは通常、骨髄性またはリンパ性急性転化に進行し得るCMLを引き起こす。
【0004】
白血病の治療は、伝統的に、抗腫瘍薬を用いる化学療法、放射線療法、コルチコステロイド療法、および免疫療法に依存しており、これらは造血幹細胞の移植と組み合わせて行うことができる。治療する白血病の種類に応じて、別の療法も利用される。
【0005】
最近、腫瘍細胞の増殖にシグナルを送る経路を妨げる、シグナル伝達阻害剤と呼ばれる新しい種類の抗増殖剤が導入された。グリベック(メシル酸イマチニブ)は、フィラデルフィア染色体によって作製される構成的に活性のある異常なチロシンキナーゼを標的にする。イマチニブは、血小板増殖因子(PDGF)および幹細胞因子(SCF)の受容体型チロシンキナーゼ、c-kitの阻害剤でもあり、PDGF媒介性およびSCF媒介性事象を阻害する。
【0006】
しかし、イマチニブは、慢性期(CP)CML患者の大部分における血液学的および細胞遺伝学的寛解の誘導において有効であるにもかかわらず、ある程度、BCR-ABLの増幅、およびP210のablチロシンキナーゼ活性部位上のイマチニブの結合部位における点突然変異の結果として、患者によっては進行する場合もある。さらに、イマチニブ耐性になり、加速期(AP)または急性転化(BC)を起こす患者は、8トリソミーおよび他の染色体異常を有するクローン進化を示す場合が多く、他の発癌遺伝子の活性化が疾患の進行に寄与することが示唆される。最終的に、β-カテニンなどの造血幹細胞自己複製遺伝子の異常な過剰発現の結果として、増幅能および自己複製能が増加したHSCまたはより委任された前駆細胞における、BCR-ABLの増幅およびさらなる発癌遺伝子の活性化の役割は、非常に興味深い。
【0007】
別の骨髄性白血病、t(8;21)急性骨髄性白血病では、完全寛解した患者の骨髄はAML1-ETO転写物を産生する外見上正常な造血幹細胞を含み、寛解過程におけるその存在から、そのような造血幹細胞は白血病細胞ではなくむしろ前白血病細胞であることが示唆される(この転写物は、急性骨髄性白血病の発症に関与する。AML1-ETOは、第8染色体上のAML1遺伝子の一部と第21染色体上のETO遺伝子の一部との融合によって形成される)。同様に、ゲノムのBCR-ABLは、完全な細胞遺伝学的寛解が維持された状態にある一部のCML患者の骨髄中に持続し、健常人の白血球でも非常に低レベルで検出されており、前白血病造血幹細胞またはより分化した前駆細胞は、明白な白血病に進行するのにさらなる変異を必要とすることが示唆される。
【0008】
骨髄HSCは、自己複製する、および分化してすべての成熟血液細胞種を産生する固有の能力によって機能的に定義される。一般に、多能性前駆細胞から特定の機能を有する成熟細胞への発達の過程は、他の系統に発達する能力の進行性消失を伴う。連続した各発達段階で特定の細胞種または特定のクラスの細胞になる能力が失われていく階層が明らかになってきた。この段階的な発達過程は、ひとたび細胞が発達の選択をしたならば復帰することはできないという意味において、直線的であると見なされる。成体マウス骨髄における最も早くから知られているリンパ系委任細胞はリンパ球系共通前駆細胞(CLP)であり、最も早くから知られている骨髄委任細胞は骨髄系共通前駆細胞(CMP)である。重要なことには、これらの細胞集団は、インビトロおよびインビボ発達アッセイ法において極めて高いレベルの系統忠実度を有する。これらの細胞サブセットの完全な説明は、Akashi et al. (2000) Nature 404(6774):193、米国特許第6,465,247号;および米国特許出願第09/956,279号(骨髄系共通前駆細胞);Kondo et al. (1997) Cell 91(5):661-7、および国際公開公報第99/10478号(リンパ球系共通前駆細胞)に見出すことができ;またKondo et al. (2003) Annu Rev Imunol. 21:759-806により概説されており、これらはそれぞれ参照により本明細書に明確に組み入れられる。
【0009】
CD34+細胞は実質的にすべて、インビトロクローン形成能力を有する。しかし、CD34+細胞集団は不均一である。成熟系統マーカー(マーカーCD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD56、CD11b、CD14、およびCD15を含むLin-)を発現していないCD34+細胞の一部(1〜10%)のみが、多分化(リンパ性および骨髄性)発達能を有する。CD34+細胞の大部分(90〜99%)はCD38抗原を同時に発現しており、このサブセットは系統委任前駆細胞の大部分を含む。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
白血病幹細胞(LSC)を含む癌幹細胞が同定される。これらの細胞は、疾患の進行および化学療法剤に対する耐性に関与する。LSCは造血前駆細胞の表現型と類似した表現型を有し、この表現型は、白血病幹細胞が活性化β-カテニン経路を獲得している点で正常前駆細胞と異なる。結果として、LSCは、通常は造血幹細胞に限定されている増殖能および自己複製能を獲得する。CMLでは、疾患の進行に関与するLSCは、表現型が顆粒球/マクロファージ前駆細胞と類似している。
【0011】
本発明の別の態様では、LSCを含み得る造血幹細胞または前駆細胞の存在を解析することによる、前白血病および白血病、特に慢性白血病、例えば慢性骨髄性白血病(CML);慢性骨髄単球性白血病などの臨床病期を分類する方法を提供する。そのような方法では、例えば、血液、リンパ液、骨髄穿刺液などの血液試料を、LSC、造血幹細胞;骨髄前駆細胞;リンパ球系共通前駆細胞;巨核球前駆細胞などを含み得る1つまたは複数の造血幹細胞または前駆細胞の存在に関して差次的に解析し得り、血液のCD34+区画中の前駆細胞の分布が白血病の病期の診断となる。特に興味深い有用性は、前白血病または慢性白血病を有する患者の進行の早期診断である。
【0012】
本発明の別の態様では、単離されたLSCの組成物を提供する。この細胞は、実験評価に、ならびにこれらの細胞で特異的に発現される遺伝子を同定するのに有用なmRNA種を含む、系統および細胞特異的産物の供給源として、ならびにこの細胞に影響を及ぼし得る因子または分子を発見するための標的として有用である。LSCは、例えば、細胞に影響を及ぼす化合物をスクリーニングする方法において用いられ得る。これは、化合物を本発明の細胞集団と混合する段階、およびその後の化合物による任意の調節効果を決定する段階を含む。これは、毒性、代謝変化、または細胞機能に及ぼす効果に関する細胞の試験を含み得る。本明細書に記載するLSCの表現型により、疾患の進行、再発、および薬剤耐性の発生を予測する手段が提供される。そのような方法は、血液試料などの患者試料中の活性化β-カテニンレベルの決定;患者試料中に存在する顆粒球/マクロファージ前駆細胞の計数などを含む。
【0013】
本発明の別の態様では、β-カテニン活性化を阻害することにより、LSC増殖を阻害する方法を提供する。様々なWnt阻害剤がLSCの増殖を阻害することが示される。
【0014】
態様の詳細な説明
白血病および前白血病、特に慢性白血病、例えば慢性骨髄性白血病(CML);慢性骨髄単球性白血病などは、造血幹細胞および/または前駆細胞、特に、CMP(common myeloid progenitor);巨核球赤血球前駆細胞(MEP)、および骨髄単球系統(GMP)を含み得る骨髄系統に委任された前駆細胞の存在を解析することによって、病期分類される。病期分類は、予後診断および治療に有用である。
【0015】
本発明の1つの態様では、白血病患者の血液試料を、CD34;CD38;任意に系統パネル;およびCD90(thy-1);flk-2;IL-3Rα;CD45RA;IL-7Rの1つまたは複数のマーカーに特異的な試薬で染色する。血液細胞のCD34+サブセットにおける染色パターンを解析することにより、前駆細胞の相対分布が提供され、その分布によって白血病の病期が予測される。
【0016】
本発明の1つの態様では、白血病患者試料を、CD34、CD38、IL-3α、およびCD45RAに特異的な結合パートナーを含む試薬の混合物で染色し、造血幹細胞(CD34+CD38-);骨髄系共通前駆細胞(CD34+CD38+CD45RA- IL-3Rαlo);または骨髄単球系統前駆細胞(CD34+CD38+ CD45RA+IL-3Rαlo)、および赤血球/巨核球系統前駆細胞(CD34+CD38+ CD45RA-IL-3Rα-)の分布により、患者のCMLの進行が識別される。そのような方法は、血液試料などの患者試料中の活性化β-カテニンレベルの決定;患者試料中に存在する顆粒球/マクロファージ前駆細胞の計数などを含む。
【0017】
1つの態様においては、患者試料を対照または標準試験値と比較する。別の態様においては、患者試料を前白血病試料、または疾患経過過程における1つもしくは複数の時点と比較する。
【0018】
特に血液試料を含む、白血球を含む試料は、主要な幹細胞群と前駆細胞群を識別するのに十分な、造血幹細胞および前駆細胞に存在するマーカーに特異的な試薬で染色する。例えば抗体などの試薬は、検出可能に標識してもよいし、または染色手順において間接的に標識してもよい。本明細書で提供するデータから、前駆細胞の数および分布が白血病の病期の診断となることが実証される。
【0019】
関心対象の幹細胞/前駆細胞を識別するのに十分なマーカーの任意の組み合わせを使用することができる。関心対象のマーカーの組み合わせには、造血幹細胞(CD34+、CD38-)と前駆細胞(CD34+、CD38+)を識別するCD34およびCD38が含まれ得る。CD45RAおよびIL-3Rαを含めることも、これによって3種の既知骨髄前駆細胞サブセットが識別できるという理由で興味深い。他の態様においては、CD90を含めてもよい。CD47およびFlk2は、CMMLの指標となることが判明している。系統パネルを含めて、前駆細胞を系統委任細胞と識別することも可能である。
【0020】
このようにして得られた情報は、疾患の進行の起こしやすさ、病態の状態、および時間経過、薬剤または他の様式による治療などの環境の変化に対する反応を含む予後診断および診断に有用である。細胞はまた、治療薬および治療に反応する能力に関して分類すること、研究目的で単離すること、遺伝子発現に関してスクリーニングすることができる。分類に有用なマーカーの存在を決定するために、臨床試料を遺伝子解析、プロテオミクス、細胞表面染色、または他の手段によってさらに特徴づけることができる。例えば、遺伝子異常は疾患感受性もしくは薬剤反応性の原因となり得り、またはそのような表現型に結びつけられ得る。
【0021】
本発明の別の態様においては、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、およびルシフェラーゼ-GFPを含むその変種などの蛍光タンパク質を発現するレンチウイルスベクターを細胞または細胞集団に導入するが、構築物は検出可能なマーカーをコードする配列を含む。マーカーは、β-カテニンによって調節を受ける転写応答エレメントに機能的に連結される。活性のある核β-カテニンの存在下では、検出可能なマーカーが発現される。関心対象の幹細胞を単離または濃縮するために、GFPを発現している生細胞を選別することができる。この局面においては、この方法を使用して、関心対象の細胞の移植および/または白血病の可能性を追跡することができる。特に関心が高いのは、インビボで形質導入された細胞の位置および数を追跡する能力であり、宿主動物を屠殺することなく長期にわたってその細胞を追跡することができる。
【0022】
白血病幹細胞の特徴づけ
白血病幹細胞は、白血病の進行および薬剤耐性に関与し得る。本明細書において提供されるLSCは、造血前駆細胞の表現型と類似しているが、細胞が通常は造血幹細胞に限定されている増殖能および自己複製能を獲得している点で異なる表現型を有することが示される。
【0023】
例えばCML、AMLなどの骨髄性白血病に関して、骨髄系統前駆細胞の表現型はLSCの同定に有用である。これらの前駆細胞は、マーカーThy-1(CD90)、IL-7Rα(CD127)に関して;ならびにヒトではCD2;CD3;CD4;CD7;CD8;CD10;CD11b;CD14;CD19;CD20;CD56;およびグリコホリンA(GPA)ならびにマウスではCD2;CD3;CD4;CD8;CD19;IgM;Ter110;Gr-1を含み得る一連の系統マーカーで染色されない。マウスMEPサブセットを例外として、すべての前駆細胞がCD34陽性である。マウスでは、前駆細胞サブセットはすべて、Sca-1陰性、(Ly-6EおよびLy6A)、およびc-kit高としてさらに特徴づけられ得る。ヒトでは、3つのサブセットはすべてCD38+である。
【0024】
スチール(steel)因子(SLF)、flt-3リガンド(FL)、インターロイキン(IL)-3、IL-11、GM-CSF、トロンボポエチン(Tpo)、およびエリスロポエチン(Epo)の存在下では、CMP細胞は以下を含む様々な種類の骨髄赤血球コロニーを生じる:CFU-GEMMeg、赤芽球バースト形成細胞(BFU-E)、CFU-巨核球(CFU-Meg)、CFU-顆粒球/マクロファージ(CFU-GM)、CFU-顆粒球(CFU-G)、およびCFU-マクロファージ(CFU-M)。GMPサブセットは、上記の増殖因子に応答して、マクロファージおよび/または顆粒球を含むCFU-M、CFU-G、またはCFU-GMコロニーを生じる。一方MEPサブセットは、IL-3、GM-CSF、Tpo、およびEpoに応答して、巨核球および/または赤血球のみを含むCFU-Meg、BFU-E、またはCFU-MEPコロニーを生じるが、TpoおよびEpoの非存在下ではコロニーを形成しない。3種の骨髄前駆細胞集団はすべて、コロニー形成を開始するのにSLF、FL、およびIL-11などの「早期作用サイトカイン」を必要としない。
【0025】
これらの前駆細胞はすべて、インビボにおける迅速な分化活性が可能である。CMP細胞は、脾臓および骨髄において、Gr-1+/Mac-1+骨髄単核細胞および巨核球コロニー、ならびにTER119+赤血球細胞を生じる。GMP前駆細胞集団は、Gr-1+/Mac-1+細胞を生じ;MEP前駆細胞集団は、巨核球および赤血球細胞を生じる。
【0026】
CMLにおいて同定されるLSC(CML-LSC)は、CD34+CD38+IL-3Rα+CD45RA+であり、CD2;CD3;CD4;CD7;CD8;CD10;CD11b;CD14;CD19;CD20;CD56;およびグリコホリンA(GPA)を含み得る一連の系統マーカーに関して陰性である点で、GMPの表現型と類似した表現型を有することが示される。この細胞はインビトロで自己複製し得り;アキシン(axin)で阻害され得る活性化β-カテニン経路を有する。
【0027】
LSCの特徴づけにおいて役立ち得る他の前駆細胞サブセットには、例えばリンパ性白血病の解析におけるリンパ球系共通前駆細胞が含まれる。リンパ球系共通前駆細胞、CLPは、その細胞表面上に低レベルのc-kit(CD117)を発現する。ヒト、マウス、ラットなどのc-kitに特異的に結合する抗体は、当技術分野において周知である。または、c-kitリガンド、スチール因子(Slf)を用いて、c-kitを発現している細胞を同定することも可能である。CLP細胞は、高レベルのIL-7受容体α鎖(CDw127)を発現する。ヒトまたはマウスのCDw127に結合する抗体は、当技術分野において周知である。または、受容体に対するリガンド、IL-7の結合によって細胞が同定される。
【0028】
ヒトCLPは低レベルのCD34を発現する。ヒトCD34に特異的な抗体は市販されており、当技術分野において周知である。例えば、Chen et al. (1997) Immunol Rev 157:41-51を参照されたい。ヒトCLP細胞はまた、CD38陽性およびCD10陽性として特徴づけられる。
【0029】
CLPサブセットはまた、B220、CD4、CD8、CD3、Gr-1、およびMac-1によって例証される系統特異的マーカーの発現を欠く表現型を有する。CLP細胞は、造血幹細胞に特有なマーカーであるThy-1(CD90)の発現を欠くと特徴づけられる。CLPの表現型は、Mel-14-、CD43lo、HSAlo、CD45+、および共通サイトカイン受容体γ鎖陽性としてさらに特徴づけられ得る。
【0030】
例えば巨核球型のAMLに関しては、巨核球前駆細胞の解析もまた関心対象となり得る。MKP細胞は、CD34発現およびテトラスパニンCD9抗原に関して陽性である。CD9抗原は、4つの疎水性ドメインおよび1つのN-グリコシル化部位を有する227アミノ酸分子である。この抗原は広く発現されているが、造血系統の特定の前駆細胞上には存在しない。MKP細胞は、フィブリノーゲンおよびいくつかの他の細胞外基質分子に対する血小板受容体である、糖タンパク質IIb/IIIaインテグリンとも称されるCD41を発現し、その抗体は、例えばBD Biosciences, Pharmingen、カリフォルニア州、サンディエゴ、カタログ番号340929、555466から市販されている。MKP細胞は、受容体型チロシンキナーゼc-Kitであると見なされるCD117の発現に関して陽性である。抗体は、例えばBD Biosciences, Pharmingen、カリフォルニア州、サンディエゴ、カタログ番号340529から市販されている。MKP細胞はまた系統陰性であり、さらにThy-1(CD90)の発現に関して陰性である。
【0031】
白血病
慢性白血病には、慢性骨髄性白血病(CML);慢性骨髄単球性白血病、および慢性リンパ性白血病が含まれる。CMLのクローン性骨髄増殖は初期造血細胞の悪性形質転換によって起こり、主に骨髄またそればかりでなく骨髄以外の部位における顆粒球の著しい過剰産生によって臨床的に特徴づけられる。腫瘍クローンは、RBC、巨核球、単球、ならびにさらにはいくらかのT細胞およびB細胞を含み得る。正常な幹細胞は保持され、CMLクローンの薬剤抑制後に出現し得る。大部分の患者において、CMLクローンは加速期および最終的な急性転化に進行する。
【0032】
症候性患者では、WBC数は通常増加し、左方移動している。血小板数は正常であるか、または中程度に増加している。血液塗沫標本では、顆粒球分化の全段階が認められる。好酸球および好塩基球の絶対濃度は著しく増加し得るが、リンパ球および単球の絶対濃度は正常であり得る。骨髄は、穿刺液および生検試料において過形成性である。染色体解析により、ほとんどすべての患者においてフィラデルフィア染色体が示される。
【0033】
疾患進行の加速期には、貧血および血小板減少が起こり、好塩基球は増加し得り、顆粒球成熟は不完全となり得り、未成熟細胞の割合は増加し得る。さらなる進行は、骨髄芽球、リンパ芽球、または巨核芽球を伴う急性転化をもたらし得る。
【0034】
メシル酸イマチニブはほとんどの症例の選択薬であるが、患者は、インターフェロン、ヒドロキシ尿素、シタラビン、ならびに6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、メルファラン、およびシクロホスファミドなどの他の骨髄抑制薬でも処置され得る。造血前駆細胞移植を行わない場合、ほとんどの症例において、Ph陽性クローンは骨髄中に持続する。
【0035】
慢性骨髄単球性白血病(CMML)には2つの型が含まれる。CMMLと称される成人型、および若年性骨髄単球性白血病(JMML)または若年型慢性骨髄性白血病(JCML)と称される小児白血病の型である。CMML白血病は、骨髄性白血病に特有の特徴を有する。CMMLは、「典型的な」慢性骨髄性白血病よりも速く進行し、急性骨髄単球性白血病よりも遅く進行する。
【0036】
JMMLは、ほとんどの場合、幼児および4歳未満の小児で起こる。血液細胞および骨髄の所見は、いくつかの点で、成人型慢性骨髄単球性白血病と類似している。いずれの疾患も、骨髄細胞から発生する癌である。JMML罹患幼児は生育し得ない。低ヘモグロビン(貧血)、低血小板、および白血球数の中程度の増加が共通して見られる。血液では、常に単球および未成熟顆粒球(骨髄球)の濃度が増加しており、そのため「骨髄単球性」白血病と命名された。典型的な慢性骨髄性白血病に特有のPh染色体は存在しない。JMMLは化学療法に耐性である。若年型のこの疾患に罹患した患者の平均生存期間は、通常2年未満である。
【0037】
成人型慢性骨髄単球性白血病は、顆粒球よりもむしろ単球が増加する点を除いて、貧血、高い白血球数、および脾臓の拡大など、典型的な慢性骨髄性白血病(CML)に似た所見を有し得る骨髄増殖性疾患の範囲の一部である。細胞は、慢性骨髄性白血病を特徴づけるPh染色体またはBCR-ABL発癌遺伝子を含まない。慢性骨髄単球製白血病(CMML)に罹患したほとんどの患者は、50歳を超えている。血液細胞数はCMMLによって変動し得る。白血球数は、わずかに減少するか、正常であるか、または中程度に増加する可能性がある。2つの型のCMMLが存在する>13 x 109/L未満の単球を有する異形性型、MDS-CMML、および>13 x 109/Lの単球を有する増殖型、MPD-CMML。血液骨髄芽球は存在しないと考えられ、存在する場合には低い割合である。症例によっては、第5染色体と第12染色体の転座が起こり、PDGFR-βTEL遺伝子転座が生じる。
【0038】
慢性リンパ性白血病(CLL)は、肝臓および脾臓の進行性浸潤を伴う、骨髄、リンパ節、および他のリンパ組織が関与する、成熟して見えるリンパ球のクローン性増殖である。ほとんどの症例は、高齢患者において診断される。おそらく、骨髄でリンパ球の蓄積が始まり、それがリンパ節および他のリンパ組織に広がる。通常、疾患後期には、異常な造血から貧血、好中球減少、血小板減少、および免疫グロブリン産生の減少が生じる。CLLの伝統的な描写は、ほとんどすべての症例を示す最も頻度の高いサブタイプ(B細胞型)および稀なT細胞型のものである。さらに、他の慢性白血病パターンもCLL下に分類されている;前リンパ球性白血病、皮膚T細胞リンパ腫の白血病期、有毛細胞白血病、およびリンパ腫白血病。
【0039】
絶対的リンパ球増加および骨髄中のリンパ球増加というCLLの特徴は持続する。CBCおよび骨髄穿刺液により診断が確認される。CLLは進行性であるが、患者によっては何年もの間無症候性である場合がある。活発な進行または症状が起こるまで、治療は適応されない。特定の療法には、化学療法、コルチコステロイド、および放射線療法が含まれる。単独での、またはコルチコステロイド、フルダラビン、シクロホスファミド、ペントスタチン、リツキシマブ、およびキャンパスと組み合わせたアルキル化剤、特にクロランブシルもまた有用である。
【0040】
急性白血病は、造血幹細胞または前駆細胞の悪性形質転換から生じたクローン芽細胞による正常骨髄の置換を特徴とする、急速に進行する白血病である。急性白血病には、急性リンパ性白血病(ALL)および急性骨髄性白血病(AML)が含まれる。ALLにはCNSが関与する場合が多く、急性単芽球性白血病には歯肉が関与し、またAMLには任意の部位における局所的蓄積(顆粒球性肉腫または緑色腫)が関与する。
【0041】
主症状には、疲労、出血、および感染が含まれ、正常な造血の障害が反映される。貧血および血小板減少は非常に一般的である(75〜90%)。WBC数は減少する、正常である、または増加する可能性がある。WBC数が顕著に減少していない限り、通常、血液塗沫標本には芽細胞が認められる。ALLの芽球は、組織化学的研究、細胞遺伝学、免疫表現型検査、および分子生物学的研究により、AMLの芽球と識別され得る。一般的な染色による塗沫標本に加えて、ターミナルトランスフェラーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、スダンブラックB、ならびに特異的および非特異的エステラーゼ。
【0042】
ALLは小児で最もよく見られる悪性腫瘍であり、発生のピークは3〜5歳である。ALLはまた青年期にも起こり、成人において第2の低いピークを有する。典型的な治療は、強力な多剤併用療法の早期導入に重点を置き、これにはプレドニゾン、ビンクリスチン、アントラサイクリン、またはアスパラギナーゼが含まれ得る。他の薬剤および組み合わせは、シタラビンおよびエトポシド、ならびにシクロホスファミドである。再発は通常骨髄で起こるが、単独でまたは骨髄と同時にCNSまたは精巣でも起こり得る。多くの小児では、2度目の寛解が誘導され得るが、その後の寛解は短期である傾向がある。
【0043】
AMLの発症率は年齢と共に増加する。それは、成人に好発する急性白血病である。AMLは、化学療法または照射に付随し得る(二次性AML)。寛解誘導率はALLよりも低く、報告によれば、長期無病生存は患者の20〜40%でしか起こらない。AMLはより少ない薬剤に応答することから、治療はALLと大きく異なる。基本的な誘導療法には、ダウノルビシンまたはイダルビシンと組み合わせたシタラビンが含まれる。いくつかの療法には、6-チオグアニン、エトポシド、ビンシスチン、およびプレドニゾンが含まれる。
【0044】
前白血病状態
骨髄異形性症候群(MDS)は、一般に老齢患者に見られる一連の造血不全を示す(WHO分類を参照のこと)。発癌物質への曝露が関係している可能性がある。MDSは、赤血球、骨髄および巨核球型を含む造血細胞の異常な成熟を特徴とする。骨髄は正常であるかまたは過形成性であり、無効な造血により様々な血球減少が起こり、貧血が最もよく見られる。細胞産生障害のために、骨髄および血液において形態的細胞異常も伴う。時折、骨髄外の造血が起こり得り、肝腫大および脾腫大が生じる。骨髄線維症が時に診断時に存在し、またはMDSの過程で発症し得る。MDSクローンは不安定であり、AMLに進行する傾向がある。
【0045】
貧血は最もよく見られる臨床的特徴であり、通常、大赤血球症および赤血球大小不同症を伴う。ある程度の血小板減少も通常見られる。血液塗沫標本では、血小板の大きさが不同であり、低顆粒に見えるものもある。WBC数は正常である場合もあれば、増加、または減少している場合もある。好中球の細胞質顆粒は異常であり、赤血球大小不同症および顆粒数のばらつきを伴う。好酸球もまた、異常顆粒を有する場合がある。単球増加は慢性骨髄単球性白血病亜群の特徴であり、未熟骨髄細胞がより未分化な亜群に存在する場合もある。予後は、分類および任意の関連疾患に大きく依存する。AML化学療法に対するMDSの応答は、年齢および核型を考慮した後では、AMLの応答と類似している。
【0046】
差次的な細胞解析
患者試料中のLSCの存在は、白血病の段階の徴候となり得る。さらに、LSCの検出により、治療に対する応答をモニターすることができ、またこれは予後診断の補助となり得る。LSCの存在は、特定の白血病に関連する前駆細胞の表現型を有する細胞を定量化することによって決定し得る。例えば、CMLでは、GMP表現型を有する細胞の数を定量化することが有用である。
【0047】
細胞表面表現型を同定することに加えて、試料中の「幹細胞」の特徴を有する細胞を定量化することも有用である。これは、培養において細胞が自己複製および増殖する能力を決定することにより;またはこれらの細胞における活性化β-カテニン経路の存在を決定することにより決定し得る。例えば、β-カテニンによって調節を受ける転写応答エレメントに機能的に連結された検出可能なマーカーをコードする配列を含む核酸構築物を、細胞または細胞集団に導入することができる。活性のある核β-カテニンの存在下では、検出可能なマーカーが発現され、細胞が幹細胞であることが示される。本発明のいくつかの態様では、検出可能なマーカーは、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)またはその変種などの蛍光タンパク質である。関心対象の幹細胞を単離または濃縮するために、GFPを発現している生細胞を選別することができる。この局面において、LSCを濃縮するためにこの方法を用いることができる。
【0048】
LSCの存在に加えて、正常および白血病造血試料を解析することにより、白血病の病期の決定が可能になる。本明細書において前白血病および白血病状態と称し得る白血病の進行過程では、血液中でCD34+細胞が顕著に増殖し、薬剤治療に成功した後ではこれらの集団は劇的に減少する。さらにより顕著であるのは、この区画における細胞分布の移行の本明細書における同定であり、HSC、CMP、MEP、およびGMP集団の細胞の差次的分布は、骨髄性白血病の病期と高く相関している。リンパ性白血病における細胞の分布、特にHSCとリンパ系委任前駆細胞との間の分布もまた診断となり得る。
【0049】
成人CMML罹患患者では、血液中の造血幹細胞は正常試料に対して増加している。HSC区画はまた、薬剤耐性CMLにおいて、正常およびこの疾患の他の病期と比較して増加している。CML加速期もまた、CD34+CD38+細胞によるCD90の構成的な異常発現によって、慢性CMLまたは急性転化期CMLと識別される。CML急性転化は、CD34+CD38-前駆細胞およびCD34+CD38+前駆細胞の増殖により典型的に示される。
【0050】
予後不良AMLにおいて変異または過剰発現している頻度の高いチロシンキナーゼ、Flk2/Flt3の細胞表面発現は、進行期CMLのCD34+CD38-CD90+細胞およびCD90-Lin-細胞で上昇している。
【0051】
委任骨髄前駆細胞プロファイル(CD34+CD38+Lin-)の差次的解析により、慢性、加速、および急性転化を識別する手段が提供される。慢性期は、巨核球赤血球前駆細胞(MEP)の増殖により典型的に示される。加速期は、骨髄系共通前駆細胞(CMP)の増加によって特徴づけられる。骨髄急性転化は、正常骨髄よりも高い割合の顆粒球マクロファージ前駆細胞(GMP)によって特徴づけられる。
【0052】
イマチニブ反応性患者では、個々の骨髄前駆細胞の割合は正常に戻るが、イマチニブ耐性骨髄または末梢血は、急性転化により特有であるHSCおよびGMPの増殖を示す。
【0053】
本発明の方法において使用する臨床試料は、様々な供給源、特に血液から得られ得るが、場合によっては、骨髄、リンパ液、脳脊髄液、滑液などの試料を使用することもできる。そのような試料は、解析前に遠心分離、溶出法(elutriation)、密後勾配分離、アフェレーシス、親和性選択、パニング、FACS、Hypaqueを用いた遠心分離などにより分離し得り、通常は単核画分(PBMC)を使用する。試料が得られたならば、それを直接使用すること、凍結すること、または適切な培養液中で短期間維持することができる。細胞を維持するには種々の培地が使用できる。試料は、採血、静脈穿刺、生検試料採取などの任意の簡便な手順によって得られ得る。一般に、試料は、少なくとも約102個の細胞、より一般には少なくとも約103個の細胞、好ましくは104個、105個、またはそれ以上の細胞を含む。典型的に試料はヒト患者に由来するが、例えばウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、齧歯動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター)、霊長動物などの動物モデルが役立つ場合もある。
【0054】
標識細胞は、細胞表面マーカーの発現に関して定量化される。臨床設定においては、内蔵型装置で免疫測定を行うことが特に簡便である。多くのそのような方法は、当技術分野において周知である。装置は一般に、少なくとも3つの部分、液体移送部分、試料部分、および測定部分を有する、適切なフィルターまたは膜の連続した流路を使用する。試料部分は、試料を受け取るまで、流路の他の部分と接している液体移送から妨げられている。試料部分は試料を受け取ると、他の部分と接している液体移送に運ばれ、液体移送部分が液体と接触して、試薬溶液が試料部分を通過して測定部分に入り得る。測定部分には、酵素と前駆細胞特異的抗体との複合物が結合されていてよい。
【0055】
患者試料から得られた差次的前駆細胞解析と参照差次的前駆細胞解析の比較は、適切な演繹手順、AIシステム、統計比較などの使用により達成される。正常細胞、類似した罹患組織の細胞などの参照差次的前駆細胞解析との比較は、病期分類の指標を提供し得る。参照差次的前駆細胞解析のデータベースは、蓄積することができる。特に関心の高い解析では、疾患の加速が早期に認められるよう、例えば慢性白血病および前白血病期にある患者を追跡する。本発明の方法により、臨床症状が発現する前に加速が検出され、そのため早期の治療的介入、例えば化学療法の開始、化学療法投与量の増加、化学療法剤の選択の変化などが可能になる。
【0056】
細胞表面染色方法
細胞染色による解析は、当技術分野において周知である簡便な方法を使用し得る。正確な計数を提供する方法には蛍光活性化セルソーターがあり、セルソーターは、マルチカラーチャネル、低角および鈍角の光散乱検出チャネル、インピーダンスチャネルなど、様々な程度の精巧さを有し得る。死細胞と結合する色素(例えば、ヨウ化プロピジウム)を用いることにより、細胞を死細胞に対して選択することができる。
【0057】
親和性試薬は、上記の細胞表面分子に特異的な受容体またはリガンドであってよい。抗体試薬に加えて、ペプチド-MHC抗原およびT細胞受容体対、ペプチドリガンドおよび受容体、エフェクターおよび受容体分子などを使用することができる。抗体およびT細胞受容体はモノクローナルであってもポリクローナルであってもよく、遺伝子組換え動物、免疫化動物、ヒトまたは動物不死化B細胞、抗体またはT細胞受容体をコードするDNAベクターをトランスフェクションした細胞などによって産生され得る。抗体の作製および特異的結合メンバーとして使用する場合の抗体の適合性の詳細は当業者に周知である。
【0058】
特に興味深いのは、抗体を親和性試薬として使用することである。便利なことに、これらの抗体は分離に使用する標識と結合される。標識には、直接分離を可能にする磁気ビーズ、支持体に結合したアビジンまたはストレプトアビジンを用いて除去することができるビオチン、蛍光活性化セルソーターと共に使用できる蛍光色素などが含まれ、これらによって特定の細胞種の分離が簡便になる。有用な蛍光色素には、例えばフィコエリトリンおよびアロフィコシアニンなどのフィコビリタンパク質、フルオレセイン、ならびにテキサスレッドが含まれる。各抗体は、各マーカーを個別に選別できるように、異なる蛍光色素で標識される場合が多い。
【0059】
抗体を細胞懸濁液に添加し、利用可能な細胞表面抗原に結合するのに十分な時間インキュベートする。インキュベーションは通常少なくとも約5分であり、通常約30分未満である。分離効率が抗体の欠除によって制限されないように、十分な濃度の抗体を反応混合物中に含ませることが望ましい。適切な濃度は力価測定によって決定される。細胞を分離する培地は、細胞の生存度を維持する任意の培地である。好ましい培地は、0.1〜0.5% BSAを含むリン酸緩衝食塩水である。ウシ胎児血清、BSA、HASなどが添加される場合の多いダルベッコ変法イーグル培地(dMEM)、ハンクス基本塩溶液(HBSS)、ダルベッコリン酸衝食塩水(dPBS)、RPMI、イスコフ培地、5mM EDTA含有PBSなどを含む種々の培地が市販されており、細胞の性質に応じて使用することができる。
【0060】
次いで、標識細胞を以前に記載されている通りに細胞表面マーカーの発現に関して定量化する。臨床設定においては、内蔵型装置で免疫測定を行うことが特に簡便である。多くのそのような方法は、当技術分野において周知である。装置は一般に、少なくとも3つの部分、液体移送部分、試料部分、および測定部分を有する、適切なフィルターまたは膜の連続した流路を使用する。試料部分は、試料を受け取るまで、流路の他の部分と接している液体移送から妨げられている。試料部分は試料を受け取ると、他の部分と接している液体移送に運ばれ、液体移送部分が液体と接触して、試薬溶液が試料部分を通過して測定部分に入り得る。測定部分には、酵素と前駆細胞特異的抗体との複合物が結合されていてよい。
【0061】
β-カテニン活性化の解析
細胞の混合集団またはLSCについて濃縮した集団を、β-カテニン経路の活性化に関して解析し得る。本明細書で「検出構築物」と称する、βカテニンによって制御される転写応答エレメントに機能的に連結された検出可能なマーカーをコードする配列を含む核酸構築物を細胞または細胞集団に導入する。核βカテニンの存在下では、検出可能なマーカーが発現され、細胞が幹細胞であることが示される。この局面において、本方法を用いて、試験細胞が幹細胞であるかどうかを判定することができる。関心対象の幹細胞を単離または濃縮するために、マーカーを発現する生細胞をソーティングすることも可能である。
【0062】
プラスミドベクター、ウイルスベクター等を含む、細胞に配列を送達するための様々なベクターが当技術分野において周知である。好ましい態様において、ベクターはレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである。例えば、Baumら (1996) J Hematother 5(4):323-9;Schwarzenbergerら (1996) Blood 87:472-478;Noltaら (1996) P.N.A.S. 93:2414-2419;およびMazeら (1996) P.N.A.S. 93:206-210;Mochizukiら (1998) J Virol 72(11):8873-83を参照されたい。アデノウイルスに基づくベクターの造血細胞との使用もまた発表されており、それについてはOgnibenおよびHaas (1998) Recent Results Cancer Res 144:86-92を参照されたい。
【0063】
βカテニン転写応答エレメント(TRE)は、βカテニンによって活性化される転写因子に結合する1つまたは複数のヌクレオチドモチーフを含み得る。好ましい態様において、転写因子はLEF/TCFである。(総説に関しては、本明細書に参照として組み入れられるRooseおよびClevers (1999) Biochim Biophys Acta 1424(2-3):M23-37を参照のこと。)転写的に不活性のLEF/Tcf因子は、核内におけるβカテニンとの相互作用により強力なトランス活性化因子となる。βカテニンは細胞質に認められるが、これが活性化され核内に移行した場合に主要な生物学的作用が見られることが示され得る。このシグナル伝達経路に応答するヌクレオチドエレメントには、例えばヒトc-MYCプロモーターのKpnI〜PvuII断片に含まれるTBE1(配列番号:1;CCTTTGATT)およびTBE2(配列番号:2;GCTTTGATC)(Heら (1998) Science 281:1509を参照のこと)、LEF/TCF結合モチーフ(例えば、配列番号:3;CCTTTGATC;または配列番号:4;CCTTTGGCC)(Korinekら (1997) Science 275:1784-1787)、LEF-1結合部位(配列番号:5;GCTTTGATCTT)(Shtutmanら (1999) Proc Natl Acad Sci U S A 96(10):5522-7)、ならびに別の当技術分野で周知のものが含まれる。LEF-1/TCFに応答性の配列の教示に関して、これらの参考文献は特に参照として本明細書に組み入れられる。例えば(配列番号:13)GATCAAAGGGといったこれらの配列の相補鎖を用いることもできる。
【0064】
本発明の1つの態様において、βカテニン応答性TREは、1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上等の結合モチーフ配列(配列番号:12)X1 C T T T G Pu T Py(式中、X1はGまたはC、Puはプリン、Pyはピリミジンである)を含む。好ましい態様において、βカテニン応答性TREは、1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上等の、配列番号:12に相補的な結合モチーフ配列(配列番号:14)5' Pu A Py C A A A G X1 3'(式中、X1はGまたはC、Puはプリン、Pyはピリミジンである)を含む。
【0065】
検出可能なマーカーをβカテニンTREに機能的に連結する。多くのそのようなマーカーが当技術分野で周知であり、例えば、抗生物質耐性、基質の変色、間接的に検出される、例えばcreリコンビナーゼ、FLPリコンビナーゼ、pSR1リコンビナーゼ等といったリコンビナーゼの発現、例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質等の発光産生タンパク質の発現が挙げられる。
【0066】
本発明の好ましい態様において、マーカーは発光産生タンパク質、好ましくはGFPである。このタンパク質をコードする天然遺伝子は、生物発光クラゲAequorea victoriaからクローニングされた(Morin, J.ら、J Cell Physiol(1972) 77:313-318)。この遺伝子が利用できることにより、遺伝子発現のマーカーとしてのGFPの使用が可能となった。GFP自体は、分子量27 kDを有する283アミノ酸タンパク質である。GFPは蛍光を発するために、天然源からさらなるタンパク質を必要とせず、また天然源でのみ利用可能な基質または補因子を必要としない(Prasher, D. C.ら、Gene (1992) 111:229-233;Yang, F.ら、Nature Biotechnol (1996) 14:1252-1256;Cody, C. W.ら、Biochemistry (1993) 32:1212-1218)。GFP遺伝子の変異体は、発現を増強するのに、ならびに励起および蛍光を改変するのに有用であることが認められた。490 nmに単一の励起ピークを有するGFP-S65T(65位のセリンがスレオニンで置換されている)を使用することができる(Heim, R.ら、Nature (1995) 373:663-664);米国特許第5,625,048号)。Delagrade, S.ら、Biotechnology (1995) 13:151-154;Cormack, B.ら、Gene (1996) 173:33-38、およびCramer, A.ら、Nature Biotechnol (1996) 14:315-319によって、他の変異体もまた開示されている。さらなる変異体もまた、米国特許第5,625,048号で開示されている。適切な改変により、GFPにより放射される光のスペクトルを変更することができる。したがって、本出願においては「GFP」という用語を用いるが、この定義の範囲内に含まれるタンパク質は必ずしも緑色に出現するとは限らない。様々な形態のGFPが緑色以外の色を示すが、これらもまた「GFP」の定義の範囲内に含まれ、本発明の方法および材料において有用である。さらに、本明細書の「GFP」の範囲内に入る緑色蛍光タンパク質は、ウミシイタケRenilla reriformis等の他の生物から単離されたことに留意されたい。本発明の方法において、任意の適切でありかつ都合のよいGFP遺伝子を用いることができる。
【0067】
例えばエレクトロポレーション法、カルシウム沈殿DNA法、融合法、トランスフェクション法、リポフェクション法等の当技術分野で周知の様々な技術を用いて、標的細胞をトランスフェクションすることができる。DNAを導入する特定の方法は、本発明の実行に重要ではない。
【0068】
キャプシドタンパク質が標的細胞の感染に対して機能的であるレトロウイルスと適切なパッケージング株を併用することができる。通常、細胞およびウイルスを培地中で少なくとも約24時間インキュベートする。一般的に使用されるレトロウイルスベクターは「欠損型」である、すなわち増殖性の感染に必要なウイルスタンパク質を産生することができない。ベクターの複製は、パッケージング細胞株での増殖を必要とする。
【0069】
レトロウイルスの宿主細胞特異性は、エンベロープタンパク質、env(p120)によって決まる。エンベロープタンパク質は、パッケージング細胞株によって提供される。エンベロープタンパク質には、少なくとも3種類(同種指向性、両種指向性、および他種指向性)ある。例えばMMLVといった同種指向性エンベロープタンパク質でパッケージングされたレトロウイルスは、ほとんどのマウスおよびラット細胞腫に感染することができる。同種指向性パッケージング細胞株にはBOSC23が含まれる(Pearら (1993) P.N.A.S. 90:8392-8396)。例えば4070A(Danosら、前記)といった両種指向性エンベロープタンパク質を有するレトロウイルスは、ヒト、イヌ、およびマウスを含むほとんどの哺乳動物細胞種に感染することができる。両種指向性パッケージング細胞株にはPA12(Millerら (1985) Mol. Cell. Biol. 5:431-437);PA317(Millerら (1986) Mol. Cell. Biol. 6:2895-2902);GRIP(Danosら (1988) PNAS 85:6460-6464)が含まれる。例えばAKR envといった他種指向性エンベロープタンパク質でパッケージングされたレトロウイルスは、マウス細胞以外のほとんどの哺乳動物細胞種に感染することができる。
【0070】
レトロウイルスの5'末端および3'末端の配列は、長い末端反復配列(LTR)である。MMLV-LTR、HIV-LTR、AKR-LTR、FIV-LTR、ALV-LTR等を含む多くのLTR配列が当技術分野で周知であり、使用することが可能である。公共のデーターベースを介して、特定の配列にアクセスすることができる。天然LTR配列の様々な改変もまた周知である。5' LTRは、標的細胞のゲノムに組み込まれた後に、βカテニン遺伝子の転写を駆動する強力なプロモーターとして働く。しかしいくつかの用途のためには、発現を駆動する制御可能なプロモーターを有することが望ましい。そのようなプロモーターが含まれる場合、LTRのプロモーター機能は不活性化されることになる。これは、プロモーター機能を不活性化するのに十分である、エンハンサー反復配列およびプロモーターを含む3' LTRのU3領域の欠失により達成される。標的細胞のゲノムに組み込まれた後、5' LTRと3' LTRに再編成が起こり、その結果「自己不活性化ベクター」 と呼ばれる転写的欠陥プロウイルスが生じる。
【0071】
所望の標的細胞種、トランスフェクションした細胞またはその子孫において、適切な誘導性プロモーターを活性化する。転写の活性化により、標的細胞における転写は、基礎レベルの少なくとも約100倍、より一般的には少なくとも約1000倍増加することを意図する。例えばT細胞におけるIL-2プロモーター、B細胞における免疫グロブリンプロモーター等の、造血細胞種において誘導される様々なプロモーターが周知である。
【0072】
LSCを検出または選択するため、幹細胞であるまたは幹細胞を含むと思われる細胞または細胞集団に検出構築物を導入する。発現構築物を導入した後、検出可能なマーカーを発現するのに十分な期間、通常少なくとも12時間かつ約2週間以下で、おそらくは約1日〜約1週間、細胞を維持する。
【0073】
細胞は任意の哺乳動物種、例えば、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター等のげっ歯類、霊長類等、特にヒトから得られ得る。組織は、生きたドナーの生検もしくはアフェレーシスによって得ることができ、または死亡してから約48時間以内の死体ドナー、もしくは死亡してから約12時間以内に凍結し約-20℃未満、通常は永久に液体窒素温度(-180℃)で維持した新鮮凍結組織から得ることができる。細胞集団には、推定される幹細胞クローン、腫瘍試料、骨髄試料、胚性幹細胞、例えば神経提、腸、脾臓、肝臓といった器官、臍帯血、末梢血、動員末梢血、卵黄嚢等が含まれる。
【0074】
蛍光タンパク質である検出可能なマーカーの発現は、レーザーによりフルオロフォアの定量的レベルを検出するフローサイトメトリーによりモニターすることができる。フローサイトメトリーまたはFACSを用いて、蛍光強度ならびに細胞の大きさおよび光散乱等の他のパラメータに基づいて細胞集団を分離することもできる。染色の絶対的レベルは異なり得るが、対照に対してデータを標準化することができる。
【0075】
β-カテニンの発現に関するスクリーニングはまた、タンパク質の核局在化を含むタンパク質の機能特性または抗原性特性に基づき得る。多型を検出するように設計された様々な免疫測定法を、スクリーニングに用いることができる。検出は、β-カテニンに特異的に結合する抗体または他の特異的結合メンバーを用いて従来法に従って行う、細胞または組織学的切片の染色を利用することができる。関心対象の抗体または他の特異的結合メンバーを細胞試料に添加し、エピトープへの結合を可能にするのに十分な時間、通常は少なくとも約10分間インキュベートする。抗体は、直接検出するために、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、化学発光物質、または他の標識で標識することができる。または、二次抗体または試薬を用いてシグナルを増幅する。そのような試薬は当技術分野で周知である。例えば、一次抗体をビオチンと結合し、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合アビジンを二次試薬として添加することができる。最終的な検出では、ペルオキシダーゼの存在下で変色する基質を用いる。解離した細胞のフローサイトメトリー、顕微鏡観察、エックス線撮影、シンチレーション計数などを含む様々な方法により、抗体結合の有無を検出することができる。
【0076】
LSC組成物
上記に説明される特徴を有する細胞を濃縮する方法により、細胞の複合混合物から関心対象の細胞を分離することができる。組織から細胞を単離するため、分散または懸濁のために適切な溶液が用いられ得る。そのような溶液は一般に、一般に5〜25 mMである低濃度の許容可能な緩衝液と同時に、ウシ胎児血清および他の天然因子を都合よく添加した、例えば生理食塩水、PBS、ハンクス平衡塩類溶液等の平衡塩類溶液である。簡便な緩衝液には、HEPES、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液等が含まれる。
【0077】
分離した細胞は、通常コレクションチューブの底に血清のクッションを有する、細胞の生存度を維持する任意の適切な培地中に回収することができる。様々な培地が市販されており、細胞の性質に従って用いることができ、これにはdMEM、HBSS、dPBS、RPMI、イスコフ培地等が含まれ、ウシ胎児血清が添加されている場合が多い。
【0078】
この方法により、LSCについて高度に濃縮された組成物が達成される。対象集団は、細胞組成物の50%もしくは約50%またはそれ以上、好ましくは細胞組成物の75%もしくは約75%またはそれ以上であり、90%またはそれ以上であってもよい。所望の細胞は、表面の表現型、幹細胞に必須の特性である自己複製の能力によって同定される。濃縮された細胞集団は、直ちに使用することも、または液体窒素温度で凍結して長期間保存し、融解して再使用することも可能である。細胞は通常、10% DMSO、50% FCS、40% RPMI 1640培地中に保存する。LSCについて濃縮された細胞の集団は、以下に記載するような様々なスクリーニングアッセイ法および培養において用いることができる。
【0079】
濃縮したLSC集団は、様々な培養条件下でインビトロで培養することができる。培地は、液体、または例えばアガー、メチルセルロース等を含む半固形であってよい。細胞集団は、通常ウシ胎児血清(約5%〜10%)、L-グルタミン、チオール、特に2-メルカプトエタノール、ならびに例えばペニシリンおよびストレプトマイシンといった抗生物質を添加した、イスコフ改変DMEMまたはRPMI-1640等の適切な栄養培地に簡便に懸濁することができる。
【0080】
培地は、細胞が応答する増殖因子を含み得る。本明細書に定義する増殖因子は、培養においてまたは元の組織において、膜貫通受容体における特異的効果を介して、細胞の生存、増殖、および/または分化を促進し得る分子である。増殖因子には、ポリペプチド因子および非ポリペプチド因子が含まれる。細胞の培養において、例えばLIF、スチール因子(c-kitリガンド)、EGF、インスリン、IGF、Flk-2リガンド、IL-11、IL-3、GM-CSF、エリスロポエチン、トロンボポエチン等の多種多様な増殖因子を用いることができる。
【0081】
増殖因子に加えて、またはその代わりに、対象細胞を線維芽細胞、間質細胞、または他のフィーダー層細胞と共培養してもよい。造血細胞の培養での使用に適した間質細胞は、当技術分野で周知である。これらには、「Whitlock-Witte」(Whitlockら [1985] Annu Rev Immunol 3:213-235)または「Dexter」培養条件(Dexterら [1977] J Exp Med 145:1612-1616)で用いられるような骨髄間質細胞、および不均一な胸腺間質細胞(SmallおよびWeissman [1996] Scand J Immunol 44:115-121)が含まれる。
【0082】
患者試料から得られた差次的な前駆細胞解析またはLSC解析と参照解析の比較は、適切な演繹手順、AIシステム、統計比較などの使用により達成される。正常細胞、類似した罹患組織の細胞などの参照差次的前駆細胞解析との比較は、病期分類の指標を提供し得る。参照差次的前駆細胞解析のデータベースは、蓄積することができる。特に関心の高い解析では、疾患の加速が早期に認められるよう、例えば慢性白血病および前白血病期にある患者を追跡する。本発明の方法により、臨床症状が発現する前に加速が検出され、そのため早期の治療的介入、例えば化学療法の開始、化学療法投与量の増加、化学療法剤の選択の変化などが可能になる。
【0083】
スクリーニングアッセイ法
LSCはまた、癌幹細胞に活性を及ぼす因子および化学療法剤を検出するインビトロのアッセイ法およびスクリーニングに有用である。特に興味深いのは、ヒト細胞に活性を及ぼす薬剤のスクリーニングアッセイ法である。このためには、タンパク質結合に関する免疫測定法;細胞増殖、分化、および機能活性の決定;因子の産生などを含む、多種多様なアッセイ法を用いることができる。
【0084】
本発明の1つの態様において、LSCはβ-カテニンの活性化または発現を阻害する薬剤によって阻害される。例えば、アキシンおよび他のwnt阻害剤がLSCの増殖を阻害することが示されている。方法は、β-カテニンまたはβ-カテニンシグナル伝達経路のメンバーを対象としたスクリーニングアッセイ法を含み得る。スクリーニングするための化合物には、アキシンのファルマコフォア;アキシン模倣体;LSCにおいて活性のあるプロモーターに機能的に連結されたアキシンをコードするポリヌクレオチド;およびβ-カテニンまたはβカテニン活性化経路の他の阻害剤が含まれる。
【0085】
本明細書においては、wnt阻害剤はwntの発現または活性を下方制御する任意の薬剤を含む。関心対象の薬剤は、例えば遮断抗体などのようにwntと直接相互作用し得るか、または例えばWnt補助受容体LRP5/6および膜貫通タンパク質クレメン(Kremen)などのwnt関連タンパク質と相互作用し得る。上記した阻害剤を含む多くのwnt阻害剤が記載されており、当技術分野において周知である。
【0086】
既知wnt阻害剤には、ディッコフ(Dickkopf)(Dkk)遺伝子ファミリーのメンバーがある(Krupnik et al. (1999) Gene 238(2):3201-13を参照のこと)。ヒトDkk遺伝子ファミリーのメンバーには、Dkk-1、Dkk-2、Dkk-3、およびDkk-4、ならびにDkk-3関連タンパク質ソギー(Soggy)(Sgy)が含まれる。hDkk1〜4は2つの異なるシステインリッチドメインを含み、ドメイン内ではシステイン残基10個の位置がファミリーメンバー間で高度に保存されている。ヒトDkk遺伝子およびタンパク質の例示的な配列は、例えばGenbankアクセッション番号NM_014419(soggy-1);NM_014420(DKK4);AF177394(DKK-1);Af177935(DKK-2);NM_015881(DKK3);およびNM_014421(DKK2)のように、公的に入手することができる。
【0087】
阻害剤はまた、Dkkポリペプチドの誘導体、変種、および生物活性断片を含み得る。「変種」ポリペプチドとは、天然配列のポリペプチドと100%未満の配列同一性を有する、以下に定義する生物活性のあるポリペプチドを意味する。そのような変種には、天然配列のN末端もしくはC末端または内部に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチド;1〜40アミノ酸残基が欠失され、任意に1つまたは複数のアミノ酸残基で置換されたポリペプチド;およびアミノ酸残基が共有結合によって修飾され、生じた産物が非天然アミノ酸を有する、上記ポリペプチドの誘導体が含まれる。通常、生物活性のある変種は、天然配列ポリペプチドと少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約99%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0088】
「キメラ」Dkkポリペプチドとは、異種ポリペプチドに融合されたまたは結合されたポリペプチドまたはその一部(例えば、1つまたは複数のドメイン)を含むポリペプチドである。キメラWntポリペプチドは、一般に、天然配列Wntポリペプチドと共通の少なくとも1つの生物学的特性を共有する。キメラポリペプチドの例には、Dkkポリペプチドの一部を免疫グロブリン配列と組み合わせたイムノアドへジン、および「タグポリペプチド」に融合されたDkkポリペプチドまたはその一部を含むエピトープタグ化ポリペプチドが含まれる。タグポリペプチドは、抗体が作製され得るエピトープを提供するのに十分な残基を有するが、Dkkポリペプチドの生物活性を阻害しないように十分短い。適切なタグポリペプチドは、一般に少なくとも6個のアミノ酸残基、通常は約6〜60個のアミノ酸残基を有する。
【0089】
wntの他の阻害剤には、分泌タンパク質であるワイズ(Wise)(Itasaki et al. (2003) Development 130(18):4295-30)が含まれる。ワイズタンパク質はWnt補助受容体、リポタンパク質受容体関連タンパク質6(LRP6)と物理的に相互作用し、Wnt8とLRP6への結合に関して競合し得る。アキシンは、β-カテニンの下方制御を介してWntシグナル伝達を調節する(Lyu et al. (2003) J Biol Chem. 278(15):13487-95を参照のこと)。
【0090】
フリッツルド(Frizzled)のリガンド結合ドメイン(CRD)の可溶型もまた、wntを阻害することが示されている。フリッツルド-CRDドメインは、frizzled受容体に対するWntの結合を阻害することにより、Wnt経路を阻害することが示されている(Hsieh et al. (1999) Proc Natl Acad Sci U S A 96:3546-51;およびCadigan et al. (1998) Cell 93:767-77)。関心対象のポリペプチドには、FRP5、FRP8などが含まれる。同様に、SFRPはフリッツルド様CRDをコードする分泌分子を示し、よって可溶性受容体として機能することにより可溶性Wntアンタゴニストを表す(Krypta et al, J Cell Sci 2003 Jul 1;116(Pt 13);2627-34)。
【0091】
生物活性のある薬剤、抗増殖剤などのスクリーニングアッセイ法では、LSC組成物、通常はLSCを含む培養物を関心対象の薬剤と接触させ、マーカーの発現、細胞生存度などの出力パラメータをモニターすることにより、薬剤の効果を評価する。細胞は新たに単離しても、培養しても、β-カテニン活性化のマーカーを提供するために上記のように遺伝子改変してもよい。細胞は、例えば独立した培養物に分割し、例えば薬剤を添加するまたは添加しない。サイトカインまたはその組み合わせの存在下または非存在下といった異なる条件下で培養した、クローン培養物の環境誘発変種であってよい。応答のタイミングを含め、細胞が薬剤、特に薬理的薬剤に応答する様式は、細胞の生理的状態の重要な反映である。
【0092】
パラメータとは、定量化が可能な細胞の成分、特に、望ましくはハイスループット系で正確に測定できる成分である。パラメータは、任意の細胞成分または細胞産物であってよく、これには細胞表面決定基、受容体、タンパク質またはそれらの高次構造もしくは翻訳後修飾物、脂質、糖質、有機もしくは無機分子、例えばmRNA、DNAなどの核酸、またはそのような細胞成分に由来する部分、またはそれらの組み合わせが含まれる。ほとんどのパラメータは定量的な読み取り値を提供するが、場合によっては、半定量的または定性的結果も許容されると考えられる。読み取り値には単一の測定値も含まれ、または平均、中央値、もしくは分散なども含まれ得る。特徴的には、多くの同じアッセイ法から、各パラメータに関して一連のパラメータ読み取り値を得る。ばらつきが予想され、標準的な統計的方法を用いることによって被験パラメータセットのそれぞれに関して一連の値が得られるが、単一の値を得るために共通の統計学的方法を用いる。
【0093】
スクリーニングするための関心対象の薬剤には、数多くの化学的分類、主として有機分子を包含する既知および未知化合物が含まれ、これには有機金属分子、無機分子、遺伝子配列などが含まれ得る。本発明の重要な局面は、毒性試験などを含め、候補薬剤を評価することである。
【0094】
複雑な生物因子に加えて、候補薬剤は、構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含む有機分子を含み、典型的に少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基、多くの場合少なくとも2つの機能的化学基を含む。候補薬剤は、上記の官能基の1つまたは複数で置換された環状炭素もしくは複素環式構造および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含む場合が多い。候補薬剤はまた、ペプチド、ポリヌクレオチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造類似体、または組み合わせを含む生体分子中にも見出される。
【0095】
薬理学的活性のある薬剤、遺伝的活性分子なども含まれる。関心対象の化合物には、化学療法剤、ホルモンまたはホルモン拮抗薬などが含まれる。本発明に適した例示的な薬学的薬剤は、「The Pharmacological Basis of Therapeutics」、Goodman and Gilman, McGraw-Hill, New York, New York, (1996), Ninth editionの以下の項:Water, Salts and Ions;Drugs Affecting Renal Function and Electrolyte Metabolism;Drugs Affecting Gastrointestinal Function;Chemotherapy of Microbial Diseases;Chemotherapy of Neoplastic Diseases);Drugs Acting on Blood-Forming organs;Hormones and Hormone Antagonists;Vitamins, Dermatology;およびToxicologyに記載されているものであり、これらはすべて参照により本明細書に組み入れられる。毒素、ならびに生物兵器および化学兵器も含まれ、これについては例えば、Somani, S. M. (Ed.), 「Chemical Warfare Agents」、Academic Press, New York, 1992を参照されたい。
【0096】
被験化合物には上記の種類の分子すべてが含まれ、内容物が不明な試料もさらに含まれ得る。関心がもたれるのは、植物などの天然源に由来する天然化合物の複雑な混合物である。多くの試料が溶液中に化合物を含むが、適切な溶媒に溶解し得る固体試料もアッセイすることができる。関心対象の試料には、環境試料、例えば地下水、海水、採鉱廃棄物など;生体試料、例えば、穀物から調製した溶解物、組織試料など;製造試料、例えば、医薬品の製造過程における時間的経過;さらには分析のために調製した化合物のライブラリーなどが含まれる。関心対象の試料には、治療可能性について評価しようとする化合物、すなわち薬剤候補が含まれる。
【0097】
試料という用語には、さらさる成分、例えば、イオン強度、pH、総タンパク質濃度などに影響を及ぼす成分が添加された上記の液体も含まれる。さらに、少なくとも部分的な分画または濃縮を行うために試料を処理してもよい。生体試料は、窒素下、凍結、またはそれらの組み合わせなどによって化合物の分解を抑えるように注意を払えば、保存も可能である。使用する試料の量は測定可能な検出を行うのに十分な量であり、通常は約0.1μl〜1 mlの生体試料で十分である。
【0098】
候補薬剤を含む化合物は、合成化合物または天然化合物のライブラリーを含む多種多様な供給源から得られる。例えば、生体分子を含む多種多様な有機化合物をランダムにおよび方向性をもって合成するには、ランダムオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む多くの手段が利用できる。または、細菌、菌類、植物、および動物抽出物の形態の天然化合物ライブラリーも利用可能であり、容易に産生される。さらに、天然でまたは合成により産生されたライブラリーおよび化合物は、従来の化学的、物理的、および生化学的手段によって容易に修飾され、コンビナトリアルライブラリーを作製するのに使用することができる。周知の薬物を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等の方向性をもったまたはランダムな化学修飾に供して、構造類似体を産生してもよい。
【0099】
一般に薬剤を欠く細胞に関連した、少なくとも1つおよび通常は複数の細胞試料に薬剤を添加することにより、薬剤を生物活性に関してスクリーニングする。薬剤に応答したパラメータの変化を測定し、例えばその薬剤の存在下および非存在下での培養物、別の薬剤で得られる培養物などの参照培養物と比較することによって結果を評価する。
【0100】
薬剤は、溶液または易溶性形態で、培養下の細胞の培地に簡便に添加される。薬剤は、その他の点では静止している溶液に対して、フロースルー系において断続的もしくは連続的な流れとして添加され得るか、または大量の化合物として1回でもしくは漸増的に添加され得る。フロースルー系では2つの液体を使用し、一方は生理的に中性な溶液であり、他方は被検化合物を添加した同じ溶液である。第1液体を細胞に通過させ、次に第2液体を通過させる。単一溶液方法では、大量の被検化合物を細胞周囲の多量の培地に添加する。大量添加に伴い、またはフロースルー方法においては2つの溶液間で、培地成分の総濃度は有意に変化するべきではない。
【0101】
好ましい薬剤製剤は、製剤全体に有意な影響を及ぼし得る保存剤などのさらなる成分を含まない。したがって好ましい製剤は本質的に、生物活性化合物および生理的に許容され得る担体、例えば、水、エタノール、DMSOなどからなる。しかし、化合物が溶媒を含まない液体である場合には、製剤は、本質的に化合物そのものからなる。
【0102】
異なる薬剤濃度を用いて複数のアッセイ法を平行して行い、種々の濃度に対する異なる反応を得ることができる。当技術分野において周知であるように、薬剤の有効濃度の決定では、典型的に、1:10または他の対数規模の希釈で得られる濃度範囲を使用する。必要があれば、第2の一連の希釈物を用いて濃度をさらに精緻化してもよい。典型的には、これらの濃度の1つ、すなわち、ゼロ濃度、または薬剤の検出レベル未満の濃度、または表現型に検出可能な変化を生じない薬剤の濃度もしくはそれ未満の濃度を陰性対照とする。
【0103】
選択したマーカーの存在を定量化するには、種々の方法を利用することができる。存在する分子の量を測定する場合、従来の方法では、分子、特にパラメータに対する結合に関して特に高い親和性を有する特異的な分子を、検出可能な部分で標識するが、これは蛍光、発光、放射性、酵素的活性などであってよい。蛍光部分は、実質的に任意の生体分子、構造、または細胞種を標識するために容易に利用できる。免疫蛍光部分は、特定のタンパク質だけでなく、特定の高次構造、切断産物、またはリン酸化のような部位修飾に対して作製することもできる。個々のペプチドおよびタンパク質は、例えば、細胞内で緑色蛍光タンパク質キメラとしてそれらを発現させることによって、自家蛍光を発するように操作することができる(総説に関しては、Jones et al. (1999) Trends Biotechnol. 17(12):477-81を参照のこと)。このように、抗体を遺伝子改変してその構造の一部として蛍光色素を提供することができる。選択した標識に応じて、放射免疫アッセイ法(RIA法)または酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA法)、均一酵素免疫アッセイ法、および関連する非酵素的方法のような免疫測定法を使用し、蛍光標識以外でパラメータを測定することができる。核酸、特にメッセンジャーRNAの定量化もまた、パラメータとして興味深い。これらは、核酸ヌクレオチドの配列に依存するハイブリダイゼーション方法によって測定することができる。このような方法には、ポリメラーゼ連鎖反応法および遺伝子アレイ方法が含まれる。例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al., eds, John Wiley & Sons, New York, NY, 2000;Freeman et al. (1999) Biotechniques 26(1):112-225;Kawamoto et al. (1999) Genome Res 9(12):1305-12;およびChen et al. (1998) Genomonics 51(3):313-24を参照されたい。
【0104】
本明細書に記載のLSCならびに/またはCD34+幹細胞および前駆細胞サブセットを差次的に同定するのに十分な染色試薬を含むキットを提供し得る。関心対象のマーカーの組み合わせは、CD34およびCD38、CD45RAおよびIL-3Rαを含み得る。他の態様においては、CD90を含め得る。CD47およびFlk2は、CMMLの指標となることが判明している。系統パネルを含めて、前駆細胞を系統委任細胞と識別することも可能である。染色試薬は好ましくは抗体であり、検出可能に標識することができる。キットはまた、チューブ、緩衝液など、および使用説明書を含み得る。
【0105】
本発明が記載した特定の方法、手順、細胞株、動物種または属、および試薬に制限されず、それ自体変更され得ることが理解されなければならない。また、本明細書で使用する専門用語は、特定の態様を説明する目的のためのみに用いられ、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を制限する意図はないことも理解されなければならない。
【0106】
本明細書で使用する単数形「1つの(a)」、「ある(an)」、および「その(the)」は、特記する場合を除き、その対象物の複数形も含む。したがって、例えば「1つの細胞」についての言及は複数のそのような細胞を含み、「その培養物」についての言及は1つまたは複数の培養物および当業者に周知のその同等物を含み、以下同様である。特記されない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する当技術分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。
【0107】
実験例
実施例1
蛍光活性化セルソーティング(FACS)により、患者がイマチニブ耐性を発現する前の(CP;n=20、AP;n=24、BC;n=12)、発現する過程にある(CP=22、AP=11、BC=2)、および発現した後(AP=4、BC=1)の慢性期(CP)、加速期(AP)、および急性転化(BC)期CMLの骨髄および末梢血試料から、高度に精製された造血幹細胞(HSC)を見込みで単離した。
【0108】
方法
骨髄および末梢血試料
健常ボランティア(AllCells、カリフォルニア州、バークレー)および同種骨髄ドナー(スタンフォード大学医学部、Department of Bone Marow Transplantation、カリフォルニア州、スタンフォード)からインフォームドコンセントを得て新鮮な骨髄を採取した。また、サイトカイン(G-CSF)動員末梢血試料を同種ドナーからアフェレーシス後に採取した。スタンフォード大学メディカルセンターにおいて新たに診断された患者(CP;n=20、AP;n=24、BC;n=12)から、ならびに6〜16ヶ月間イマチニブ投与を受けた患者(CP=22、AP=11、BC=2)、およびイマチニブ耐性になった患者(AP=4、BC=1)であり、イマチニブ抵抗性患者のファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤/イマチニブ研究に登録された患者からインフォームドコンセントを得て、慢性期(CP)、加速期(AP)、および急性転化(BC)期の骨髄および末梢血試料を採取した。
【0109】
造血幹細胞および骨髄前駆細胞のフローサイトメトリー解析および細胞選別
標準的な方法に従ってフィコール密度遠心分離後に単核画分を抽出し、新鮮な状態で、または液体窒素下にて90% FCSおよび10% DMSO中で予め凍結しておいた試料を急速に融解した後に解析した。FACS解析および選別を行う前に、造血幹細胞(HSC)を、CD2 RPA-2.10;CD11b、ICRF44;CD20、2H7;CD56、B159;GPA、GA-R2(Becton Dickinson-PharMingen、サンディエゴ)、CD3、S4.1;CD4、S3.5;CD7、CD7-6B7;CD8、3B5;CD10、5-1B4;CD14、TUK4;CD19、SJ25-C1(Caltag、カリフォルニア州、サンフランシスコ)を含む系統マーカー特異的フィコエリトリン(PE)-Cy5結合抗体、ならびにAPC結合抗CD34、84G12(Becton Dickinson-Pharmingen)、ビオチン化抗CD38、HIT2(Caltag)、FITC結合抗CD90、およびPE結合抗Flk2で染色した。ストレプトアビジン結合テキサスレッド(Gibco)を用いて、ビオチン化抗体を可視化した。CD34+CD38-CD90+系統陰性(lin-)染色に基づいてHSCを同定した。
【0110】
骨髄前駆細胞を、PE結合抗IL-3Rα、9F5(Becton Dickinson-Pharmingen)およびFITC結合抗CD45RA、MEM56(Caltag)に加えて、同じ系統マーカー特異的PE-Cy5結合抗体、APC結合抗CD34、8G12(Becton Dickinson-Pharmingen)、およびビオチン化抗CD38、HIT2(Caltag)で染色し、その後CD38-BIO染色細胞を可視化するためにストレプトアビジン-テキサスレッドで染色し、死細胞を排除するためにヨウ化プロピジウム中に再懸濁した。バックグラウンド蛍光を評価するため、未染色試料およびアイソタイプ対照を含めた。染色後、599 nm色素レーザーおよび488 nmアルゴンレーザーを備えた改良型FACS Vantage(Becton Diskinson Immunocytometry Systems、カリフォルニア州、マウンテンビュー)を用いて細胞を解析し選別した。自動細胞分取単位(ACDU)システム(Becton Dickinson)を用いて、細胞を二重選別するか、またはクローン選別した。CD34+CD38-CD90+lin-に基づいて、造血幹細胞(HSC)を同定した。骨髄系共通前駆細胞(CMP)はCD34+CD38+IL-3Rα+CD45RA-lin-染色に基づいて同定し、顆粒球/マクロファージ前駆細胞(GMP)を含むそれらの子孫はCD34+CD38+IL-3Rα+CD45RA+lin-染色に基づいて、巨核球/赤血球前駆細胞(MEP)はCD34+CD38+IL-3Rα-CD45RA-lin-染色に基づいて同定した。
【0111】
造血前駆細胞アッセイ法
BSA、グルタミン、2-メルカプトエタノール、抗生物質、ならびにIL-3(20 ng/ml)、IL-6(10 ng/ml)、IL-11(10 ng/ml)、幹細胞因子(SCF、10 ng/ml)、Flt3リガンド(FL、10 ng/ml)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、50 ng/ml)、トロンボポエチン(TPO、50 ng/ml)、およびエリスロポエチン(Epo、4単位/ml)を含むヒトサイトカイン(R&D Systems)を添加したメチルセルロース培地(Methocult、Stem Cell Technologies、バンクーバー)を含む35 mmペトリ皿(Falcon)上に約100個の細胞を直接選別し、これを7% CO2インキュベーター中で37℃でインキュベートしてから14日後に、正常およびCMLの骨髄および末梢血試料による骨髄コロニー形成を評価した。連続した再プレーティング実験において、個々のコロニー(4〜17個/プレート)を採取し、IL-3、IL-6、IL-11、SCF、Flt3リガンド、GM-CSF、TPO、およびEPOを添加したメチルセルロース培地200μlに再度プレーティングし、上記のように14日後にコロニーをスコアリングした。
【0112】
共焦点蛍光顕微鏡法
正常(n=5)骨髄試料またはCML(CP=2、AP=3、BC=4、イマチニブ後=2、イマチニブ耐性=2)の骨髄もしくは末梢血試料に由来するFACSで二重選別した前駆細胞集団のサイトスピンをShandon Cytospin Cnetrifuge(500 rpm)で調製するか、または前駆細胞集団をスライドガラス上に直接選別した。スライドをPBS中で室温にて5分間洗浄し、加湿した暗下チャンバー内でPBSに溶解した1:50抗ヒトCD45-FITC抗体(Anti-Hle-1;Becton Diskinson)と共に室温で1時間インキュベートし、その後暗下でPBSにより5分間洗浄した。次にスライドを4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、その後PBSおよび0.1% Tween-20中で暗下にて室温で5分間洗浄した。0.1% Tween-20およびPBSに溶解した5%ヤギ血清、1% BSA、1:100 Fcγ受容体を添加して室温で1時間インキュベートすることにより、非特異的抗体結合をブロッキングし、次いでスライドを、PBS中の2%ヤギ血清および1% BSAで希釈した非リン酸化β-カテニンに対する2.5μg/mlの抗体(Clone 8E4マウスモノクローナルIgG、Upstate)と共に、加湿した暗下チャンバー内で室温で1時間インキュベートした。次にスライドをPBSおよび0.1% Tween-20により暗下にて室温で15分間2回洗浄し、その後、抗体希釈緩衝液中で1:1000に希釈したAlexa 594結合ヤギ抗マウス抗体(Molecular Probes)と共に1時間インキュベートした。次いで細胞をPBSおよび0.1% Tween-20で15分間2回洗浄し、PBS中のHoechst 33342(Molecular Probes)の1:1000のPBS希釈物と共に10分間インキュベートし、PBSおよび0.1% Tween-20で5分間洗浄し、その後Prolong褐色防止剤(Molecular Probes)と共にカバーガラスを加えた。
【0113】
細胞を非リン酸化(活性化)β-カテニンに特異的な抗体(Jackson labs)で染色し、次にAlexa 594結合ヤギ抗マウス抗体で染色し、また核染色としてのHoechst 33342および細胞表面を描写するためのヒトCD45に対するFITC結合抗体で染色した。対照はアイソタイプ対照および二次抗体のみを含んだ。二重光子Zeiss LSM 510共焦点蛍光顕微鏡を用いて、マルチトラックモードで共焦点像を得た。β-カテニン-Alexa594について、励起スペクトルおよび発光スペクトルはそれぞれ543 nm(100%透過)および565〜615 nmであった。Hoechst 33342を可視化するには、ビームスプリッタおよび435〜485 nmのバンドパス(20.9%透過)を使用した776 nm励起波長による二重光子レーザーシステムを使用し、一方CD45 FITCを可視化するための励起波長は10.9%透過での488 nmであった。Volocity(商標)ソフトウェアを用いて、共焦点像の三次元レンダリングを作製した。
【0114】
LEF/TCFレポーターアッセイ法
高感度GFP(eGFP)遺伝子が3つのLEF-1/TCF結合モチーフおよび1つのTATAボックスを含むLEF-1/TCF応答プロモーターの下流にクローニングされたレンチウイルスLEF/TCFレポーターを作製した。次に、このカセットを自己不活性化レンチウイルス伝達ベクタープラスミドにクローニングした。伝達ベクターをVSV-GエンベロープコードプラスミドpMD.GおよびパッケージングプラスミドCMVΔR8.74と共に293T細胞にトランスフェクションすることにより、ウイルスを作製した。上清を回収し、超遠心により濃縮した。10%ウシ胎児血清、グルタミン、抗生物質(Pen-Strep)、ならびにIL-6(10 ng/ml)、Flt3リガンド(50 ng/ml)、幹細胞因子(SCF;50 ng/ml)、およびトロンボポエチン(TPO;10 ng/ml)を含むサイトカインを添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)150μlを含む96ウェルプレート上に直接クローン選別した(200〜1000細胞/ウェル)造血幹細胞および前駆細胞集団を含む200マイクロリットルウェルに、LEF-TCF-IRES-GFPベクター(1/100)を1:100希釈で直接添加するか、またはベクターを添加しなかった。細胞を37℃、7% CO2インキュベーター中で7日間インキュベートし、次いで回収して洗浄し、ヨウ化プロピジウム中で再懸濁し、FACS解析(FACS Vantage)によりGFP発現について解析した。IL-3、IL-6、IL-11、Flt3リガンド、GM-CSF、SCF、TPO、およびEPOを添加したメチルセルロース培地(Stem Cell Technologies、バンクーバー)中で、正常およびCMLの単核細胞、HSC、およびGMPにLEF/TCF-IRES-GFPベクター(1/100)を形質導入するかまたはせず、上記のようにこれらの細胞を37℃、7% CO2インキュベーター中で14日間培養した。Zeiss倒立顕微鏡を用いてコロニー中のGFP発現を可視化し、SPOTソフトウェアを用いて撮影した。非形質導入コロニーを自家蛍光対照として使用した。
【0115】
結果
正常および造血幹細胞プロファイルの5色FACS解析から、イマチニブ療法前はCMLの骨髄および末梢血試料においてCD34+lin-細胞が拡大しているが、イマチニブ療法後にはCD34+Lin-前駆細胞が劇的に減少することが明らかになった。加速期への疾患の進行は、正常骨髄に対するCD34+CD38+Lin-前駆細胞プールの拡大(P=0.026)によって特徴づけられた。HSC区画はCML CPおよびAPでは有意に拡大していなかったが、イマチニブ耐性CML試料では増加していた。CML APはまた、CD34+CD38+細胞によるCD90の一貫した異常発現によって、慢性CMLまたは急性転化期CMLから識別され得た。CML急性転化は、CD34+CD38-前駆細胞(p=0.01)およびCD34+CD38+前駆細胞の両方の拡大によって表された。さらに、予後不良AMLにおいて変異しているかまたは過剰発現している場合が多いチロシンキナーゼ、Flk3/Flt3の表面発現は、進行期CMLのCD34+CD38-CD90+およびCD90-Lin-細胞で増加していた。
【0116】
最近同定された細胞表面マーカーを用いたFACS解析により委任骨髄前駆細胞プロファイル(CD34+CD38+Lin-)を調べることで、慢性、加速、および急性転化が特徴的な前駆細胞プロファイルを有することが示された。CML CPは巨核球赤血球前駆細胞(MEP;p=0.0000369)の拡大によって表され、CML APは骨髄系共通前駆細胞(CMP;p=0.004)の増加によって特徴づけられ、さらに骨髄急性転化試料は、正常骨髄と比較して顆粒球マクロファージ前駆細胞(GMP;p=0.02)の割合が非常に高かった(図1Aiiiならびに図1CおよびD)。イマチニブ反応性患者では、CD34+CD38-細胞およびCD34+CD38+細胞の数は減少するものの、個々の骨髄前駆細胞の割合は正常に戻るが、イマチニブ耐性骨髄または末梢血は、BC期CMLにより特有であるHSCおよびGMPの拡大を示した。イマチニブ後CMLにも造血幹細胞の拡大が存在する。
【0117】
CMLのHSCおよび骨髄前駆細胞拡大におけるBCR-ABLの役割を確認するため、イマチニブ療法前および療法後のCML CP、AP、およびBCの骨髄および末梢血に由来する高度に精製されたHSCおよび骨髄前駆細胞において、BCR-ABL発現の定量的RT-PCRを行った。HSCにおけるBCR-ABLは、CML CPからBCへの疾患の進行に伴って有意に変化しなかったが、CMPおよびGMPなどの骨髄前駆細胞によるBCR-ABLの発現は顕著に増加していた。BCR-ABLのレベルは、イマチニブ反応性患者ではHSCおよび骨髄前駆細胞の両方において減少していたが、イマチニブ耐性患者ではHSCおよびGMPにおいて増加していた。
【0118】
前駆細胞プロファイルの5色FACS解析、BCE-ABL発現の定量的RT-PCR、および細胞内β-カテニンレベルのFACS解析から、CMLの進行が、BCR-ABLを過剰発現するHSCおよびGMPの拡大によって、および骨髄前駆細胞によるβ-カテニン発現の増加によって特徴づけられることが明らかになった。同様に、活性化(非リン酸化)β-カテニンに対する抗体を用いる共焦点蛍光顕微鏡法、およびLEF/TCFレポーターアッセイ法の両方から、HSCよりもむしろ骨髄前駆細胞で核β-カテニンのレベルが上昇していることが実証された。イマチニブ耐性CMLは、骨髄前駆細胞プールの拡大およびそれと同時に起こるβ-カテニンの過剰発現を示した。CML前駆細胞にβ-カテニンを形質導入することにより、コロニーサイズが増加し、一方その阻害剤であるアキシンを形質導入するとコロニーサイズは減少した。
【0119】
実施例2
同様の実験をCMML患者の血液試料で行った。データから、CMML患者の造血幹細胞によるFlk2発現の増加が示される。
【0120】
(表1)

【0121】
表2に示すように、CMML患者では骨髄系共通前駆細胞(CMP)が増加している。
【0122】
(表2)

【0123】
実施例3
慢性骨髄性白血病(CML)の急性転化への進行は、自己複製する白血病幹細胞によって支持される。正常マウス造血幹細胞は、自己複製のためにWnt/β-カテニンシグナル伝達経路を使用する。本発明者らは、CMLにおける白血病幹細胞が自己複製のためにβ-カテニン経路を使用するかどうかを調べた。
【0124】
方法
骨髄および末梢血試料
前記の健常ボランティア(All Cells、カリフォルニア州、バークレー;n=11)から、またはスタンフォード大学およびUCLA IRB規制に従った書面によるインフォームドコンセントが得られた慢性期(n=20)、加速期(n=26)、および急性転化(n=13)にあるCML患者から、骨髄およびG-CSF動員末梢血を得た。イマチニブによる治療を受ける前の患者、6〜15ヶ月間イマチニブ投与を受けた患者(慢性期;n=22、加速期;n=11、急性転化;n=2)、およびイマチニブ耐性患者(加速期;n=5、急性転化;n=1)から細胞を採取した。慢性期の患者はインターフェロンα投与を受け、進行疾患の患者はイマチニブに加えてしばしば細胞縮小剤による治療を受けた(表1)。
【0125】
(表1A)イマチニブ前CML患者試料の特徴

【0126】
(表1B)イマチニブ後CML患者試料の特徴

【0127】
(表1C)イマチニブ耐性CML患者試料の特徴

BM=骨髄;PB=末梢血;CP=慢性期;AP=加速期;BC=急性転化;Ph+=フィラデルフィア染色体陽性;CHR=血液学的完全寛解;FTI=ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤;alloBMT=同種骨髄移植;IFN-α=インターフェロンα;ara-C=シトシンアラビノシド
【0128】
造血幹細胞および骨髄前駆細胞集団の単離
造血幹細胞(HSC;CD34+CD38-CD90(Thy1)+Lin-細胞)、ならびに骨髄系共通前駆細胞(CMP;CD34+CD38+IL-3Rα+CD45RA-)、顆粒球/マクロファージ前駆細胞(GMP;CD34+CD38+IL-3Rα+CD45RA+)、および巨核球/赤血球前駆細胞(MEP;CD34+CD38+IL-3Rα-CD45RA-)を含む骨髄前駆細胞を、上記したように正常およびCMLの単核細胞からFACSにより単離した。
【0129】
コロニー形成細胞アッセイ法
コロニー形成細胞(CFC)アッセイ法は、上記の通り行った。再プレーティング実験では、14日目に個々のコロニーを採取し、96ウェルプレートに再度プレーティングし、14日後にスコアリングした。いくつかの実験では、LEF/TCF-GFPレポーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター-β-カテニン-IRES-GFP、またはPGK-アキシン-IRES-GFPを含むレンチウイルス構築物をCFCアッセイ法に添加した(LEFはリンパ球エンハンサー因子であり、TCFはT細胞因子であり、GFPは緑色蛍光タンパク質であり、IRESはウイルスRNA中の内部リボソーム侵入部位である)。
【0130】
BCR-ABL発現に関する定量的逆転写-PCR
40〜300個の正常またはCML造血幹細胞、骨髄系共通前駆細胞、顆粒球/マクロファージ前駆細胞、または巨核球/赤血球前駆細胞(慢性期、n=4;加速期、n=7;急性転化、n=3;イマチニブ後、n=4;イマチニブ耐性、n=5)からのRNA単離、ならびにBCR-ABL、β-カテニン、LEF-1、およびHPRT発現に関する定量的逆転写-PCRは上記の通り行った。
【0131】
β-カテニンのFACS解析
FACS分離した造血幹細胞、骨髄系共通前駆細胞、顆粒球/マクロファージ前駆細胞、および巨核球/赤血球前駆細胞を0.8%パラホルムアルデヒドで固定し、0.3%サポニンで透過性にした。細胞をβ-カテニンに対するフルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合抗体(Transduction Laboratories)またはIgG1アイソタイプ対照-FITC抗体で一晩染色し、洗浄して、FACSにより解析した。
【0132】
共焦点蛍光顕微鏡法
正常(n=6)またはCMLの造血幹細胞または顆粒球/マクロファージ前駆細胞をスライドガラス上にFACS選別し、抗ヒトCD45-FITC抗体で染色し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、その後1/200希釈した(2.5μg/ml)活性化β-カテニンに対するマウスモノクローナル抗体(Clone 8E4;Upstate、ニューヨーク州、レークプラシッド)で染色し、上記のようにalexa 594結合ヤギ抗マウス抗体で検出した。Hoechst 33342(Molecular Probes)を核染色として使用した。Volocity(商標)ソフトウェアを利用し、二重光子Zeiss LSM510共焦点蛍光顕微鏡により、100x倍率で共焦点像を得た。
【0133】
LEF/TCFレポーターアッセイ法
レンチウイルスLEF/TCFレポーター(図6)を使用し、ヒトサイトカインIL-6(10 ng/ml)、Flt3リガンド(50 ng/ml)、スチール因子(SLF;50 ng/ml)、およびトロンボポエチン(10 ng/ml)に置き換えるが本質的には上記の通りに、選別した正常およびCMLの造血幹細胞および骨髄前駆細胞集団におけるLEF/TCF媒介性転写のβ-カテニン活性化についてアッセイした。
【0134】
LEF/TCF-GFP、PGK-β-カテニン-IRES-GFP、またはPGK-アキシン-IRES-GFPによるレンチウイルス形質導入
個々のコロニーをmyelocult培地(H5100、Stem Cell Technologies)50マイクロリットル中に採取して穏やかにボルテックスし、上記の通りに幹細胞因子(SCF、10 ng/ml)、Flt3リガンド(FL、10 ng/ml)、IL-3(20 ng/ml)、IL-6(10 ng/ml)、IL-11(10 ng/ml)、トロンボポエチン(TPO、50 ng/ml)、およびエリスロポエチン(EPO、4単位/ml)を含むヒトサイトカインを添加したメチルセルロース(150マイクロリットル)で、上記のLEF/TCF-GFP、ホスホグリセリン酸キナーゼ-β-カテニン-IRES-GFP、ホスホグリセリン酸キナーゼ-アキシン-IRES-GFP、またはホスホグリセリン酸キナーゼ-IRES-GFP対照ベクターを含むレンチウイルスベクターを加えてまたは加えずに再懸濁し、加湿した37℃、5% CO2インキュベーター中、96ウェルプレート(Falcon)で14日間培養した。14日目にコロニーをスコアリングし、Zeiss倒立蛍光顕微鏡を用いてGFP蛍光を解析し、SPOTソフトウェアを用いて40X倍率で顕微鏡写真を得た。
【0135】
BCR-ABL、β-カテニン、およびLEF-1の定量的RT-PCR
40〜300個の正常またはCML造血幹細胞、骨髄系共通前駆細胞、顆粒球/マクロファージ前駆細胞、または巨核球/赤血球前駆細胞からRNAを単離した。BCR-ABL Taqman定量的RT-PCR反応は、以前に記載されているP210 BCR-ABL特異的プライマーおよびP210 BCR-ABLプローブを用いて行った49。β-カテニン、LEF-1、およびHPRT(対照として)の定量的RT-PCRアッセイ法は、RNeasy Miniキット(Qiagen)を用いて単離し、オリゴ(dT)プライマーおよびSuperscript(商標)II逆転写酵素(Invitrogen)を用いて42℃で50分間逆転写した全RNAにおいて、SYBR Green core PCR試薬(Applied Biosystems)および配列特異的プライマー(以下を参照)を用いて、以下を含む特異的プライマーにより行った。

増幅は、ABI Prism 7700 Sequence Detector System(Applied Biosystems)を用いて、最初の変性(95℃で10分)後の2段階PCR(95℃で15秒および60℃で60秒)50サイクルにより行った。内因性対照としてのHPRT mRNAの増幅を使用して、試料全域にわたり反応を標準化した。異なる試料における相対標的遺伝子発現を比較するため、正常(NL)骨髄試料の1つを参照とし、平均試料値を参照値の割合として表した。
【0136】
共焦点蛍光顕微鏡法
正常(n=5)またはCML(慢性期;n=2、加速期;n=3、急性転化;n=4、イマチニブ後;n=2、イマチニブ耐性;n=2)の造血幹細胞または顆粒球/マクロファージ前駆細胞を、スライドグラス上にFACS選別した。スライドをPBS中で5分間洗浄し、抗ヒトCD45-FITC抗体(Anti-Hle-1;BD)で1時間染色し、PBSで洗浄して、4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、さらにPBS/0.1% Tween-20(PBS-T)中で5分間洗浄した。PBS-TおよびPBSに溶解した5%ヤギ血清、1% BSA、1:100 Fcγ受容体で非特異的抗体結合をブロッキングし、次いで上記の通りに核β-カテニンに対するマウスモノクローナル抗体で1時間染色した。次にスライドをPBS-Tで洗浄し、Alexa 594結合ヤギ抗マウス抗体で染色し、洗浄して、Hoechst 33342(Molecular Probes)と共に10分間インキュベートし、PBS-Tでリンスし、Prolong褐色防止剤(Molecular Probes)およびカバーガラスを被せた。二重光子Zeiss LSM 510共焦点蛍光顕微鏡により、100x倍率で共焦点像を得た。β-カテニン-Alexa594について、励起スペクトルおよび発光スペクトルはそれぞれ543 nmおよび565〜615 nmであった。Hoechst 33342を可視化するには、776 nm励起波長、ビームスプリッタ、および435〜485 nmのバンドパスを用いる二重光子レーザーシステムを使用し、一方CD45 FITCを可視化するための励起波長は488 nmであった。Volocity(商標)ソフトウェアを用いて、共焦点像の三次元レンダリングを作製した。
【0137】
結果
CMLにおける造血幹細胞および前駆細胞
FACS解析から、CMLの加速期および急性転化期の骨髄では、正常骨髄と比較してCD34+系統陰性(Lin-)細胞が拡大していることが明らかになった(図6A)。CD34+Lin-幹細胞および前駆細胞プールのうち、造血幹細胞区画(CD34+CD38-CD90+Lin-)は疾患の進行に伴って拡大していなかった(図1A)。しかし、個々の骨髄前駆細胞集団(CD34+CD38+Lin-)の評価から、正常骨髄と比較して、慢性期CMLでは巨核球/赤血球前駆細胞が増加しており(p<0.001)、加速期CMLでは骨髄系共通前駆細胞が増加しており(P=0.04)、急性転化した患者の骨髄では顆粒球/マクロファージ前駆細胞が増加している(P=0.02)ことが判明した(図1B)。イマチニブに反応する患者では、正常骨髄と比較してCD34+ Lin-細胞の数が有意に減少し(P=0.027)、また個々の骨髄前駆細胞の割合も正常に戻っているが、イマチニブ耐性CMLの試料では顆粒球/マクロファージ前駆細胞の数が増加していた(図6AおよびC)。
【0138】
定量的RT-PCR解析から、慢性期CMLでは、BCR-ABL転写物は骨髄前駆細胞よりも造血幹細胞中に多く存在することが実証された。反対に、急性転化は、骨髄前駆細胞、特に骨髄系共通前駆細胞およ顆粒球/マクロファージ前駆細胞におけるBCR-ABL転写物の増加と関連していた(図1C)。保存試料から得られた前駆細胞の数がわずかであったため、インサイチューハイブリダイゼーションでの蛍光ではなくてBCR-ABLに関するRT-PCR解析を実施した。そのため、個々の前駆細胞サブセット中にPh+細胞とPh-細胞が混在している可能性を排除することはできない。
【0139】
正常および白血病の幹細胞および前駆細胞におけるβ-カテニン活性化
FACS解析から、細胞内の全β-カテニンレベルは、CMLのどの病期においても正常造血幹細胞とCML造血幹細胞とに有意な相違がないことが明らかになった(慢性期ではP=0.36、加速期ではP=0.30、および急性転化ではP=0.33)。対照的に、加速期(P=0.009)または急性転化(P=0.04)の患者の骨髄前駆細胞では、正常ドナーの骨髄前駆細胞と比較してβ-カテニンレベルが上昇していた(図2A)。このレベルは、イマチニブ投与を受けそれに反応した患者では正常であった(図2B)。活性化(非リン酸化)β-カテニンは核に移動する(図7)。非リン酸化β-カテニンに対するモノクローナル抗体を用いた共焦点蛍光顕微鏡法により、核β-カテニンの染色強度は正常、加速期、および急性転化の造血幹細胞において同様であることが示された。しかし、急性転化を起こした患者(図3B)またはイマチニブ耐性患者の顆粒球/マクロファージ前駆細胞では、正常骨髄のそのような前駆細胞と比較して(図3C)、活性化β-カテニンが著しく増加したいた。これと一致して、核β-カテニンによる転写活性化を測定するために使用したLEF/TCF-GFPレポーターアッセイ法から、正常、慢性期、および急性転化の造血幹細胞では同様のレベルのβ-カテニン/LEF-TCF媒介性転写が活性化されているが、急性転化を起こした患者の顆粒球/マクロファージ前駆細胞ではその活性化レベルが増加していることが判明した(図3D)。さらに、LEF/TCF-GFPレポーターを形質導入した急性転化CD34+Lin-細胞に由来するコロニーは、正常対応物と比較して高いレベルのβ-カテニン/LEF/TCF媒介性転写を有した(図8)。正常な顆粒球/マクロファージ前駆細胞はβ-カテニンまたはその転写活性化補充因子、LEF-1をほとんど発現しないが、急性転化およびイマチニブ耐性CMLではそのような前駆細胞において両遺伝子の転写物が増加しており(図9)、それがβ-カテニンの核蓄積に寄与している可能性が高い。
【0140】
コロニー形成細胞アッセイ法におけるCML顆粒球/マクロファージ前駆細胞の自己複製
本発明者らは、CMLにおける顆粒球/マクロファージ前駆細胞が、β-カテニン活性化の結果として造血幹細胞の高増殖能および自己複製能を獲得するかどうかを調べた。レンチウイルスβ-カテニンを形質導入した加速期CMLのCD34+Lin-細胞は正常コロニーよりも大きなコロニーを形成したが、β-カテニンアンタゴニスト、アキシンを細胞に形質導入するとコロニーサイズは減少した(図4A、図10、および図11)。図11に示すように、細胞を他のwnt阻害剤を用いて試験した場合にも効果が認められる。
【0141】
さらに、正常な顆粒球/マクロファージ前駆細胞においてβ-カテニンを強制発現させると、再プレーティングアッセイ法において細胞に自己複製能が付与された(図4B)。CML顆粒球/マクロファージ前駆細胞は、コロニー形成細胞アッセイ法において高い再プレーティング能を有し、また骨髄コロニーを形成する能力を保持していたが、正常顆粒球/マクロファージ前駆細胞はそのような能力を有していなかった(図4C)。最後に、β-カテニンシグナル伝達の阻害剤であるアキシンをCML顆粒球/マクロファージ前駆細胞に形質導入すると、白血病細胞の再プレーティング能が減少した(図4C、図10)。
【0142】
CMLは、BCR-ABL融合遺伝子を発現する造血幹細胞のクローン拡大の結果として生じると考えられている。しかし、CMLのトランスジェニックマウスモデルを用いた最近の研究から、BCR-ABLはCMLに類似した骨髄増殖性症候群の発症には必要であるが、造血幹細胞が関与する必要はないことが示された。さらに、急性転化に進行するには、さらなる遺伝的または後生的事象が必要である。ヒトおよびマウスでは、造血幹細胞が自己複製する唯一の正常な造血細胞であり、したがって本発明者らは、これらの細胞が、遺伝的手段によろうと構成的手段によろうと、前白血病変化を蓄積し得る骨髄における唯一の細胞であることを提唱した。しかし、下流の前駆細胞が自己複製能を獲得し得る可能性もある。したがって、CMLおよび他の骨髄性白血病において白血病幹細胞を含む集団を同定すること、ならびに白血病の進行を引き起こす事象、これらの事象の結果、および白血病幹細胞およびその前駆細胞においてそれらの事象が出現する順序を同定することは非常に重要である。
【0143】
本明細書において、本発明者らはCMLにおけるいくつかの予測される知見を示す。第一に、急性転化への進行は、造血幹細胞プールの拡大ではなく、主に顆粒球/マクロファージ前駆細胞からなる骨髄前駆細胞画分の拡大と関連している。第二に、疾患の進行過程において、BCR-ABLの増幅は顆粒球/マクロファージ前駆細胞で起こり、造血幹細胞中のBCR-ABL転写物は比較的一定なままである。第三に、加速期、急性転化にある患者、またはイマチニブ耐性患者の顆粒球/マクロファージ前駆細胞では、β-カテニン経路が活性化されている。第四に、CMLにおける顆粒球/マクロファージ前駆細胞は自己複製能を有する。第五に、CMLにおけるβ-カテニン媒介性の顆粒球/マクロファージ前駆細胞自己複製は、強力かつ高度に特異的なβ-カテニンアンタゴニストであるアキシンの強制発現によって阻害される。
【0144】
慢性期CMLでは、BCR-ABL融合遺伝子の発現によって、造血幹細胞およびその子孫の増殖速度が上昇している。この増殖により骨髄増殖性症候群がもたらされるが、細胞死(アポトーシス)および分化経路は無傷のままである。CMLから急性転化への進行には以下のいくつかの事象が関与する可能性が高く:BCR-ABの増幅、アポトーシス耐性の獲得、ゲノムの不安定性、先天性および適応免疫応答からの逸脱、ならびにβ-カテニンの活性化、これらの事象により顆粒球/マクロファージ前駆細胞集団は自己複製能を獲得する(図5)。通常では自己複製能をもたない顆粒球/マクロファージ前駆細胞におけるβ-カテニンを介した自己複製の活性化は、顆粒球/マクロファージ前駆細胞プールの拡大を引く起こすばかりでなく、進行期のCMLに存在する芽球の生成においても役割を果たす。
【0145】
本研究における急性転化は骨髄系の種類のものであり、芽細胞は、GM前駆細胞とその顆粒球/単球子孫との間の段階に特有である骨髄系統マーカーを発現している。本発明者らは、そのような芽細胞は、GMPよりも成熟しており、かつ顆粒球および単球よりも成熟していないと予測する。
【0146】
慢性骨髄性白血病におけるβ-カテニン活性化の原因は未知であり、β-カテニンまたはWntシグナル伝達経路の他の成分とp210BCR-ABLが直接相互作用するかどうかは決定されていない。β-カテニン/LEF-1シグナル伝達による転写活性化の標的には、サイクリン(cyclin)D1およびc-mycが含まれる。サイクリン D1およびc-mycの転写活性化は、Src-ファミリーキナーゼプロトオンコジーンであるAblおよびBCR-ABL媒介性形質転換において重要な役割を果たすことが報告されており、したがってサイクリン D1およびc-mycはBCR-ABLとβ-カテニンとの間の最終共通経路を提供して、CMLの進行を導き得る。さらなるSrcファミリーキナーゼのファミリーメンバーもまた、β-カテニン活性化を増大させることが示されている。bmi-1、HOXB4、およびnotchなどの他のプロトオンコジーンおよび腫瘍抑制因子もまた、造血幹細胞の自己複製において役割を果たし、白血病誘発過程においてβ-カテニンと相互作用し得る。高度に精製されたCML前駆細胞における活性化β-カテニンの検出を利用して、進行、再発、またはイマチニブ耐性の発現を予測することができる。さらに、Wntシグナル伝達経路の成分は、特に変異している場合、CMLの分子治療および/または免疫療法の開発の標的を提供する。
【0147】
実施例4
様々な前駆細胞サブセットの長期白血病能を追跡するため、ヒトCML急性転化、イマチニブ耐性患者から前駆細胞を単離し、細胞選別および形質導入手順は上記の通りに行った。細胞に、マーカーとしてルシフェラーゼ-GFPを発現するレンチウイルスベクターを形質導入した。以下のように細胞をRAG2-/- γc-/-マウスに移植した。15 x 103個細胞のHSC;104個細胞のCMP;90 x 103個の全CD34+38+。蛍光カメラにより、生存マウス宿主において標識細胞の数を評価した。
【0148】
試料のデータポイントを図12に示す。マウスは、形質導入細胞の高濃度領域を示す。図13に示すように、この方法により動物において移植の動態学を容易に追跡することができる。動物を屠殺することなく移植を追跡する能力によって、長期間にわたるインビボでの正確なモニタリングが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】A) 正常(n=11)、ならびに慢性期(n=5)、加速期(n=6)、急性転化(n=4)、イマチニブ後(n=6)、およびイマチニブ耐性(n=4)骨髄のCD34+CD38-Lin-集団における造血幹細胞(CD90+)の割合を示す。B) 同じ試料のCD34+CD38+Lin-画分の割合として表した、骨髄系共通前駆細胞、顆粒球/マクロファージ前駆細胞、および巨核球/赤血球前駆細胞を含む個々の骨髄前駆細胞集団の割合を示す。統計は、Excelソフトウェアおよびスチューデントの独立両側T検定を用いて行った。C) K562(PH+細胞株)、正常骨髄(n=5)、ならびにイマチニブ前(n=14)、イマチニブ後(n=4)、およびイマチニブ耐性(n=6)CMLの造血幹細胞、骨髄系共通前駆細胞、顆粒球/マクロファージ前駆細胞、または巨核球/赤血球前駆細胞に由来するRNA 1ナノグラム当たりの平均BCR-ABL転写物(±S.E.M.)を示す。
【図2】A) 正常と慢性期(スチューデントの独立両側T検定p=0.36)、加速期(P=0.30)、および急性転化(P=0.33)CMLの造血幹細胞(上のパネル)、ならびに正常と慢性期(P=0.963)、加速期(P=0.009)、および急性転化(P=0.04)CMLの骨髄前駆細胞(下のパネル)におけるβ-カテニン-FITCの平均蛍光強度(MFI)を示す。ヒストグラムは、6つの正常試料、5つの慢性期試料、5つの加速期試料および4つの急性転化試料を示す。B) 正常(n=6)およびイマチニブ前急性転化(n=3)の造血幹細胞(左)、正常およびイマチニブ前急性転化CMLの前駆細胞(中央)、ならびに正常およびイマチニブ後の前駆細胞(右)におけるβ-カテニン-FITCの代表的な蛍光強度を示す。造血幹細胞はCD34+CD38-CD90+Lin-であり、前駆細胞はCD34+CD38+IL3Rα+Lin-である。CML加速期(P=0.025)と急性転化(P=0.027)前駆細胞、イマチニブの前と後では、β-カテニンMFIに統計的に有意な相違があった。
【図3】A) CD45 FITC(緑色);Hoechst、青色核染色;および赤色の活性化β-カテニンで染色した加速期CML CD34+Lin-細胞の共焦点蛍光顕微鏡像を示す。B) 正常(左;n=5)、加速期CML(中央;n=3)、および急性転化CML(右;n=4)の造血幹細胞および顆粒球/マクロファージ前駆細胞におけるβ-カテニン局在性を示す。C) イマチニブ耐性CML顆粒球/マクロファージ前駆細胞(中央;n=2)またはアイソタイプ対照(右;n=2)と比較した、イマチニブ耐性CML造血幹細胞(左;n=2)のβ-カテニン局在性を示す。D) ヒストグラムは、生細胞ゲートにおける最大GFP蛍光強度(MFI)に対する割合を示す。左側のヒストグラムは、正常(赤色)および慢性期CMLの造血幹細胞(青色)におけるLEF/TCF-GFP発現を表し、右側のヒストグラムは、対照としての非形質導入急性転化顆粒球/マクロファージ前駆細胞(緑色)と比較した、正常(赤色)および急性転化の顆粒球/マクロファージ前駆細胞(青色)によるLEF/TCF-GFP発現を表す。
【図4】A) 非形質導入加速期CMLコロニー、β-カテニン-IRES-GFP形質導入細胞に由来するコロニー(中央)、およびアキシン-IRES-GFP形質導入細胞に由来するコロニー(右)の位相差顕微鏡写真(40x)を示す。B) アキシンおよびβ-カテニンをレンチウイルスにより強制発現させたまたはさせない、正常造血幹細胞および顆粒球/マクロファージ前駆細胞の%再プレーティング効率のグラフを示す。C) レンチウイルスアキシン-GFPベクターを形質導入する前および後の、正常およびCML(n=3)の造血幹細胞および顆粒球/マクロファージ前駆細胞の%再プレーティング効率を示す。
【図5】CMLの進行における活性化β-カテニンの役割のモデルを示す。慢性期CMLでは、造血幹細胞集団内の細胞は、BCR-ABL発現の上昇により増幅能が増加して骨髄増殖性症候群を引き起こすが、細胞死および分化経路は無傷のままである。急性転化への進行は、高い増殖能および自己複製能をもたらし、おそらくは細胞を白血病幹細胞(LSC)にし得る、顆粒球/マクロファージ前駆細胞集団におけるβ-カテニンの活性化を含むさらなる事象によって起こる。CMLが進行するには、細胞死の回避、先天性および適応免疫応答の回避、ならびに分化における遮断を含むさらなる事象が起こらなければならない。
【図6】A) 正常骨髄(n=11)、ならびに慢性期CML(n=5)、加速期CML(n=6、P<0.05)、急性転化CML(n=4、P<0.05)、イマチニブ後CML(n=6、P<0.05)、およびイマチニブ耐性CML(n=4)試料による系統陰性画分におけるCD34+細胞の平均比率(±S.E.M.)を示す。B) 正常骨髄、慢性期CML、加速期CML、および急性転化CMLによる、CD34+CD38+Lin-細胞にゲートをかけた典型的な骨髄前駆細胞プロファイルを示す。C) イマチニブ前およびイマチニブ後CML試料による、CD34+CD38+Lin-細胞にゲートをかけた骨髄前駆細胞プロファイルを示す。
【図7】標準Wntシグナル伝達経路のモデルを示す。ディッコフ 1(Dkk)/クレメン(K)阻害のない場合では、LDL受容体関連タンパク質6(LRP6)はWnt/フリッツルド(Fz)複合体と結合し、デッシュベルド(dishevelled)(Dvl)を介してシグナルを伝達し、細胞質β-カテニンタンパク質の脱リン酸化およびアキシン/APC/GSK複合体からの解離が起こる。次いで、非リン酸化(活性化または安定化)β-カテニンは核に移動し、LEF/TCF転写因子複合体と結合し、そこでこの複合体は遺伝子発現および細胞運命の変化を媒介する。
【図8】正常(左)または急性転化CML(右)のCD34+Lin-細胞に由来するコロニーにおける活性化β-カテニンのLEF/TCF-GFPレポーターアッセイ法を示す。
【図9】正常骨髄、または慢性期、急性転化、もしくはイマチニブ耐性CML患者の造血幹細胞または顆粒球/マクロファージ前駆細胞におけるβ-カテニン(上のパネル)およびLEF-1(下のパネル)の転写物レベルを示す。転写レベルは、HPRTにより内部制御を受け、正常骨髄造血幹細胞に比例して示す。
【図10】β-カテニン(中央)およびアキシン(右)形質導入コロニーと比較した、対照加速期CMLコロニー(左)のコロニー面積(μm2)を示す。Zeiss倒立顕微鏡およびSpotソフトウェアを用いて40x倍率で顕微鏡写真を得て、さらにSpotソフトウェアを用いてコロニー表面積を測定した。
【図11】薬剤耐性CMLにおける造血幹細胞の拡大を示すグラフである。
【図12】CML慢性期(CP);加速期(AP);急性転化(BC);治療後;および薬剤耐性期の特徴的な骨髄前駆細胞プロファイルを示す。
【図13】正常HSCおよびGMP;ならびにCML患者HSCおよびGMPにおけるWnt阻害剤の効果の比較を示す。
【図14】免疫不全マウスにおけるイマチニブ耐性CMLレンチウイルスルシフェラーゼ形質導入細胞の移植の解析を示す。転写レベルは、HPRTにより内部制御を受け、正常骨髄造血幹細胞に比例して示す。
【図15】CML前駆細胞移植の動態学を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物中の細胞の少なくとも50%が白血病幹細胞(LSC)である、哺乳動物白血病幹細胞の組成物。
【請求項2】
組成物中の細胞の少なくとも75%がLSCである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
LSCがヒト細胞である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
LSCが造血前駆細胞の細胞表面表現型を有するが、活性化β-カテニン経路を獲得している、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
細胞がThy-1-、IL-7Rα(CD127)-、および系統パネル-である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
細胞がIL-3Rαlo CD45RA+としてさらに特徴づけられる、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
顆粒球単球委任前駆細胞がマウス細胞であり、かつFcγR+CD34+としてさらに特徴づけられる、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
以下の段階を含む、LSCの組成物を濃縮する方法:
Thy-1、IL-7Rα(CD127)、および系統パネルを特異的に認識する試薬とLSCを含むと考えられる試料を混合する段階;および
Thy-1-、IL-7Rα(CD127)-、および系統パネル-であるそれらの細胞を選択する段階。
【請求項9】
試料が白血病患者の血液試料である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
白血病患者が慢性骨髄性白血病患者である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
LSCを同定する方法であって、以下の段階を含み:
白血病細胞の試料に、β-カテニンによって調節を受ける転写応答エレメントに機能的に連結された検出可能なマーカーをコードする配列を含む核酸構築物を導入する段階;
該検出可能なマーカーの発現の存在を検出する段階、
該マーカーの発現が、細胞がLSC細胞であることを示す方法。
【請求項12】
マーカーが蛍光生成タンパク質である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
β-カテニンによって調節を受ける転写応答エレメントがLEF-1/TCF結合配列である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
検出マーカーを発現する細胞を選択する段階をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
白血病状態の表現型を同定する方法であって、以下の段階を含み:
該白血病状態の疑いがある患者の血液試料と、造血幹細胞および前駆細胞サブセットの細胞の分布を識別するのに十分な特異的結合メンバーを混合する段階;
該サブセット間の前駆細胞の分布を決定する段階、
前駆細胞の分布が該白血病状態の表現型を示す方法。
【請求項16】
白血病状態がMDSである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
白血病状態が骨髄性白血病である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
骨髄性白血病がCMLまたはCMMLである、請求項15記載の方法。
【請求項19】
造血幹細胞および前駆細胞サブセットがHSC、CMP、MEP、およびGMPの1つまたは複数を含む、請求項15記載の方法。
【請求項20】
特異的結合メンバーが抗体である、請求項15記載の方法。
【請求項21】
抗体がCD34およびCD38に対する特異性を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
抗体がIL-3RおよびCD45RAに対する特異性をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
系統パネルに特異的な抗体をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜23に記載の方法のいずれか1つにおいて使用するためのキット。
【請求項25】
以下の段階を含む、LSCに対する有効性に関して候補化学療法剤をスクリーニングする方法:
該薬剤を請求項1記載の細胞組成物を接触させる段階、および
該LSCに対する該薬剤の有効性を決定する段階。
【請求項26】
LSCの増殖を阻害する方法であって、該LSCとWnt/β-カテニン経路を阻害する薬剤を接触させる段階を含む方法。
【請求項27】
薬剤が、アキシン、アキシンをコードし、かつLSCで発現される転写調節エレメントに機能的に連結されたポリヌクレオチド、またはアキシンの模倣体を含む、請求項26記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2007−519398(P2007−519398A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542874(P2006−542874)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/040879
【国際公開番号】WO2005/057172
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(503174475)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (41)
【Fターム(参考)】