説明

癌性表現型に関連するErbB2の変異

本発明は、ErbB2遺伝子産物の変異に関する。記載の変異は、天然源のヒト腫瘍で同定される。これらの変異は、癌性表現型に関連し、ヒト被験者における癌、癌性細胞、または癌素因の診断、適切な抗癌療法の選択、および抗癌治療剤の開発の基礎として使用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ErbB2/Her2遺伝子(neu)の癌特異的変異体と、異常細胞および癌の検出におけるその使用とに関する。さらに、本発明は、癌の診断方法と、被験者の癌性細胞の検出方法と、癌治療用の治療剤の開発方法とを記述する。
【背景技術】
【0002】

癌は、いかなる年齢においても、いかなる器官のいかなる組織においても、発症する可能性がある。初期に検出されたほとんどの癌は、治癒できる可能性があり、したがって、癌の初期徴候に関して患者のスクリーニングが可能であること、ひいては初期介入が可能であることが、きわめて望ましい(たとえば、the Merck Manual of Diagnosis and Therapy (1992)16th ed., Merck & Coを参照されたい)。
【0003】
さらに、癌が異なれば、それらを治療するようにデザインされた療法に対するそれらの反応も異なる。癌はすべて、細胞の増殖、分化、および死に関与する遺伝子の変異に起因して生じるので、抗癌療法は、これらの遺伝子の産物を標的にしてそれらの活性を強化または(通常は)阻害するようにデザインされてきた。腫瘍原性遺伝子産物のモジュレーターは、治療に役立てるのであれば、特異的でなければならない。したがって、適正な療法を施すために、特定の癌においてどの遺伝子産物を標的にしなければならないかを理解することが重要である。
【0004】
癌性細胞は、無調節な増殖、分化の欠如、および局所組織を浸潤し転移する能力を示す。したがって、癌細胞は、正常細胞とは異なっており、それらの表現型特性だけでなくそれらの生化学的および分子生物学的特性によっても同定しうる可能性がある。そのような特性は、さらには、直接的もしくは間接的に細胞の増殖および分化を制御するオンコジーンとして知られる細胞遺伝子のサブセットにおいて遺伝子レベルで起こる癌性細胞の変化により決定される。
【0005】
ErbB2、Her2、およびneu遺伝子産物は、当初は、独立したオンコジーンとして同定されたが、後になって、同一であることが明らかにされた。ErbB2/Her2/neu(これ以降:ErbB2)は、表皮増殖因子(EGFR;ErbB1/Her1としても知られる)、Her3/ErbB3、およびHer4/ErbB4と密接な関係があるプロテインチロシンキナーゼである。
【0006】
癌へのErbB2の関与に関する当初の観察から、ErbB2の過剰発現が多くのヒト癌に関与しかつ予後不良に関連することが示唆された。たとえば、Semba et al. Proc. Nat. Acad. Sci. 82: 6497-6501 (1985)では、唾液腺のヒト腺癌において約30倍のErbB2増幅が観測され;Fukushige et al., Molec. Cell. Biol. 6: 955-958 (1986)では、胃癌細胞系においてErbB2遺伝子の増幅および高発現が観測され;Di Fiore et al. Science 237: 178-182 (1987)では、過剰発現だけでも正常な増殖因子レセプターすなわちErbB2に対する遺伝子がオンコジーンに変換されうることが実証され;Van de Vijver et al. New Eng. J. Med. 319: 1239-1245 (1988)では、NEUタンパク質の過剰発現と腺管癌との間の相関性が見いだされ;そしてSlamon et al. Science 244: 707-712 (1989)では、乳癌および卵巣癌(これらは、合計すると、婦人におけるすべての癌の1/3および女性における癌関連死の約1/4を占める)におけるHER2/NEUの役割が報告された。
【0007】
ErbB2の過剰発現は、乳癌におけるタキソール耐性をさらに付与する。Yu et al. Molec. Cell 2: 581-591 (1998)では、ErbB2の過剰発現がタキソール起因性アポトーシスを阻害することが見いだされた。タキソールは、MDA-MB-435乳癌細胞においてCDC2キナーゼを活性化させて、G2/M期に細胞周期停止を引き起こし、続いてアポトーシスを引き起こす。ErbB2は、CDC2を直接リン酸化することによりタキソール起因性アポトーシスに対する耐性を付与しうると思われる。
【0008】
乳癌の25〜30%において、ErbB2遺伝子が増幅され、かつErbB2が過剰発現され、それにより腫瘍の侵攻性が増大される。Slamon et al., New Eng. J. Med. 344: 783-792 (2001)では、ErbB2遺伝子産物に特異的なモノクローナル抗体であるハーセプチンにより、ErbB2を過剰発現する転移性乳癌における第一選択化学療法の臨床的有益性が増大することが見いだされた。
【0009】
より最近の研究では、ErbB2の過剰発現が癌と相関することが確認されている。たとえば、Bhattacharya et al., (2003) BBRC 307:267-273では、「ErbB2の過剰発現が乳癌で頻繁に起こり、予後不良に関連する」ことが確認されている。肺癌でも同じことが言える。たとえば、Hisch and Langer, (2004) Seminars in Oncology 31, Suppl 1:75-82では、NSCLC(非小細胞肺癌)の患者の16%〜57%においてErbB2が過剰発現されることが確認されている。
【0010】
最近、これまでわかっていなかったこととして、抗EGFR抗癌剤の効力および臨床転帰との間で相関性を示すEGFRの変異が同定された(Paez et al., (2004) Science 304:1497-1500; Lynch et al., (2004) New Engl. J. Med. 350:2129-2139; reviewed in Stratton and Futreal, (2004) Nature 430:30)。
【0011】
これらの研究から、EGFR阻害剤ゲフィチニブに反応するほとんどの癌は、これまで腫瘍形成に必要であるとみなされなかったEGFRの変異を有するものと思われる。観測された変異は、すべてEGFRの触媒キナーゼドメイン中であり、点置換(G719C、L858R、L861Q)または欠失(delE746-A750、delL747-T751insS、delL747-P753insS)であった。これらの変異が観測されたのは、ゲフィチニブ治療に反応する患者では15名中14名であったのに対して、反応しない患者では7名中0名であった。
【0012】
プロトオンコジーンからオンコジーンへの変換の既知の機序は、点変異として知られるDNA配列の単一変異の出現であり、結果として、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列が変化する。たとえば、rasオンコジーンは正常細胞中には存在しないが、それらに対応するプロトオンコジーンはすべての細胞中に存在する。野生型Rasタンパク質は、シグナルトランスダクションに関与する低分子GTP結合タンパク質である。しかしながら、ウイルスおよびヒト腫瘍に由来する多くのrasオンコジーンは、コドン番号12に点変異を有する。すなわち、通常はグリシンをコードするコドンGGCが、バリンをコードするGTCに変化した状態にある。活性である少なくとも5つの異なる置換を含めて、複数の変異がこのコドンで実証されている。この単一アミノ酸変化により、Rasタンパク質のGTPアーゼ活性は阻止されるが、依然としてGTP結合型であるので、Rasは構成的に活性化される。位置13および61のアミノ酸もまた、ヒト腫瘍に由来するrasオンコジーンにおいて高頻度で変化した状態にある。
【0013】
変異が肺癌においてErbB2の活性に関連することは、これまで明らかにされていない。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
ErbB2遺伝子および遺伝子産物の変異を本明細書に記載する。記載の変異は、天然源のヒト腫瘍で同定される。これらの変異は、癌性表現型に関連し、ヒト被験者における癌、癌性細胞、または癌素因の診断の基礎として、および癌患者における抗ErbB2療法の効力予測の基礎として、使用することが可能である。EGFRで記述される変異とは異なり、本発明に係る変異は、点変異(置換)のほかに挿入変異を包含する。
【0015】
したがって、本発明の第1の態様において、1つ以上の変異を含むヒトErbB2ポリペプチドの天然に存在する癌関連変異体を提供する。
【0016】
変異ErbB2は、神経膠腫、胃腫瘍、および特定的にはNSCLC腺癌を含めて、いくつかの腫瘍に関連することが見いだされている。好ましくは、変異ポリペプチドは、NSCLCに関連し、NSCLCを呈する患者から単離可能である。変異は、有利には、ErbB2のキナーゼドメイン中に存在する。
【0017】
驚くべきことに、抗ErbB2療法に対する癌の反応性は、患者における変異ErbB2遺伝子の存在に依存することが判明した。先行技術で仮定されたように、過剰発現されるErbB2の発現で十分である、というわけではない。変異ErbB2を発現する腫瘍は、ErbB2依存性であり、かつこれらの腫瘍は、ErbB2の活性を標的にする治療法に反応する腫瘍である、と考えられる。これとは対照的に、ErbB2が野生型形態で過剰発現される腫瘍は、抗ErbB2療法に反応しないと思われる。
【0018】
したがって、疾患に関連しかつ療法と相関するErbB2の変異体が初めて同定されたことにより、腫瘍が抗ErbB2療法に反応するかしないかの診断が可能になり、さらには腫瘍に対する療法のより効果的な選択が可能になった。
【0019】
本発明に係る変異は、アミノ酸の挿入、欠失、または置換でありうる。しかしながら、好ましくは、変異は、挿入(特定のアミノ酸鎖を複製する)または点置換である。点置換は、1個以上のアミノ酸、たとえば、2個の隣接するアミノ酸または3、4、5、もしくは6個の隣接するアミノ酸の置換を包含しうる。
【0020】
好ましくは、挿入は、位置774または779で起こり、有利には、ins774(AYVM)およびins779(VGS)よりなる群から選択される。
【0021】
好ましくは、アミノ酸置換は、位置755、914、および776のいずれか1つで起こる。有利には、アミノ酸置換は、L755P、E914K、およびG776Sよりなる群から選択される。
【0022】
さらに、本発明に係るErbB2ポリペプチドの断片を提供する。ただし、該断片は、先に記載される変異を包含する。
【0023】
第2の態様において、本発明の第1の態様に係るポリペプチドをコードする核酸またはそれに相補的な核酸を提供する。特定的には、本発明は、
本発明の第1の態様に係るErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含む本発明の第1の態様に係るErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の挿入を含む本発明の第1の態様に係るErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含み、該点変異は、ErbB2の位置2263、2704、および2326の1つ以上で起こる本発明の第1の態様に係るErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含み、該点変異は、HetTT2263/4CC、HetG2740A、またはHetG2326Aである本発明の第1の態様に係るErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の挿入を含み、該挿入は、ErbB2の位置2322または2335の1つ以上で起こる本発明の第1の態様に係るErbB2ポリペプチドをコードする核酸;ならびに1つ以上の挿入を含み、該挿入は、Het2322dup12ntまたはHet2335ins9ntである本発明の第1の態様に係るErbB2ポリペプチドをコードする核酸;
よりなる群から選択される核酸の相補体を提供する。
【0024】
さらなる実施形態では、本発明は、先に記載されるように選択される核酸に特異的にハイブリダイズする核酸を提供する。そのような核酸は、たとえば、先に記載される核酸の特異的増幅を指令するプライマーである。
【0025】
第3の態様により、本発明の第1の態様に係るポリペプチドに選択的に結合するリガンドを提供する。好ましくは、リガンドは、免疫グロブリン、たとえば抗体またはその抗原結合性フラグメントである。
【0026】
本明細書中に規定される変異は、体細胞変異である。すなわち、それらは、生殖系列を介して伝播されない。したがって、第4の態様において、
(a)ヒト被験者から天然に存在する細胞物質のサンプルを単離する工程と;
(b)該細胞物質において1つ以上のErbB2遺伝子の少なくとも一部分に由来する核酸物質を検査する工程と;
(c)そのような核酸物質が、ErbB2ポリペプチドをコードする配列中に1つ以上の変異を含むかどうか、を決定する工程と;
を含む癌原性変異の検出方法を提供する。
【0027】
好ましくは、本方法は、
(a)癌性であると推測される被験者の天然に存在する組織に由来する細胞物質の第1のサンプルと、同一被験者の非癌性組織に由来する細胞物質の第2のサンプルと、を単離する工程と;
(b)細胞物質の該サンプルの両方において1つ以上のErbB2遺伝子の少なくとも一部分に由来する核酸物質を検査する工程と;
(c)そのような核酸物質が、ErbB2ポリペプチドをコードする配列中に1つ以上の変異を含むかどうか、を決定する工程と、ただし、該変異は、癌性であると推測される組織に由来する天然に存在する細胞物質中には存在するが、非癌性組織に由来する細胞物質中には存在しない;
を含む。
有利には、変異は、先に記載されるとおりである。
【0028】
第5の態様において、
(a)被験者から細胞物質のサンプルを取得する工程と;
(b)本発明に係るリガンドを用いて該サンプルをスクリーニングする工程と;
(c)該サンプルにおいて1つ以上の変異ErbB2ポリペプチドを検出する工程と;
を含む癌原性変異の検出方法を提供する。
【0029】
有利には、変異ErbB2ポリペプチドは、本発明の第1の態様に係るポリペプチドである。
【0030】
また、本発明に係る変異体を検出するための自動化された方法、装置、およびアッセイをも提供する。
【0031】
以下の表1に示されるように、これまでに臨床サンプルにおいて4種の独立した挿入変異が同定されている。これは、未選択の原発性NSCLCにおいて少なくとも4.2%(5/120)の全存在率を示す。NSCLCの腺癌サブタイプにおける頻度は、少なくとも5/51(9.8%)である。
【0032】
これらの所見の妥当性を強調するごとく、ErbB2変異の頻度は、Paez et al. (Science, (2004) 304(5676):1497-500)により未選択の一連のNSCLCにおいてEGFR変異に対して最近報告された頻度の2倍を超える。
【0033】
これらの所見は、直接的な治療上および診断上の意義を有する。ErbB2標的化療法剤(トラスツズマブ/Herceptin(登録商標))は、転移性乳癌の治療に供することが承認されており、NSCLCで使用することについて評価段階にある。ErbB2変異を有するNSCLC患者の同定により、より合理的な試験デザインで患者を層別化したり最も反応性があると思われる腫瘍を有する患者を診断で特定したりするための非常に重要なツールを提供することが可能である。ErbB2の二量化を妨害するOmnitarg(登録商標)(ペルツズマブ)のようにErbB2を標的にする他のモノクローナル抗体は、開発中である。さらに、ErbB2変異腫瘍の患者において興味深いと思われる選択的ErbB2小分子阻害剤が報告されている(Biochem Biophys Res Commun. 2003 Jul 25;307(2):267-73;米国特許出願公開2003/0171386)。同様に、EGFRとErbB2の両方に対して等効力を有する阻害剤も興味深いと思われる(Cancer Res. 2001 Oct 1;61(19):7196-203 and Bioorg Med Chem Lett. 2003 Feb 24;13(4):637-40)。
【0034】
したがって、本発明は、患者が抗ErbB2療法に反応すると予想されるかどうかを決定する方法を提供する。本方法は、
(a)ヒト被験者から天然に存在する細胞物質のサンプルを単離する工程と;
(b)該細胞物質において1つ以上のErbB2遺伝子の少なくとも一部分に由来する核酸物質を検査する工程と;
(c)そのような核酸物質が、ErbB2ポリペプチドをコードする配列中に1つ以上の変異を含むかどうか、を決定する工程と;
を含む。
【0035】
本方法はまた、ポリペプチドレベルで実施可能であり、その場合、有利には、
(a)被験者から細胞物質のサンプルを取得する工程と;
(b)本発明に係るリガンドを用いて該サンプルをスクリーニングする工程と;
(c)該サンプルにおいて1つ以上の変異ErbB2ポリペプチドを検出する工程と;
を含む。
【0036】
好ましい実施形態では、本発明は、腫瘍に罹患している患者を治療する方法を提供する。本方法は、
(a)腫瘍がErbB2依存性であるかどうかを決定する工程と;
(b)ErbB2依存性腫瘍を有する患者をErbB2活性の阻害剤で治療する工程と;
を含む。
【0037】
本発明により提供されるように、ErbB2依存性は、ErbB2の変異を観測することにより決定可能である。有利には、変異は、先に記載される変異である。ErbB2活性の好ましい阻害剤として、Herceptin(登録商標)、Omnitarg(登録商標)、および小分子ErbB2阻害剤(たとえば、米国特許出願公開2003/0171386に示される阻害剤)が挙げられる。
【0038】
したがって、本発明はさらに、患者が、Herceptin(登録商標)またはOmnitarg(登録商標)を用いる療法に対して感受性であるかどうか、を決定する方法を提供する。本方法は、
(a)患者がErbB2依存性腫瘍に罹患しているかどうかを決定する工程と;
(b)ErbB2依存性腫瘍に罹患している患者にHerceptin(登録商標)および/またはOmnitarg(登録商標)を投与する工程と;
を含む。
【0039】
発明の詳細な説明
とくに定義がないかぎり、本明細書中で使用される科学技術用語はすべて、当技術分野(たとえば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術、および生化学)の当業者により一般に理解されるものと同一の意味を有する。分子的、遺伝的、および生化学的方法では、標準的技術が使用される。一般的には、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed. (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.およびAusubel et al., Short Protocols in Molecular Biology (1999) 4th Ed, John Wiley & Sons, Inc.;さらにはGuthrie et al., Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology, Methods in Enzymology, Vol. 194, Academic Press, Inc., (1991)、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis, et al. 1990. Academic Press, San Diego, Calif.)、McPherson et al., PCR Volume 1, Oxford University Press, (1991)、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 2nd Ed. (R. I. Freshney. 1987. Liss, Inc. New York, N.Y.)、およびGene Transfer and Expression Protocols, pp. 109-128, ed. E. J. Murray, The Humana Press Inc., Clifton, N.J.を参照されたい。これらの文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0040】
定義
本出願は、ErbB2ポリペプチド変異体を記述する。本明細書中で使用する場合、「ErbB2ポリペプチド」という用語は、ErbB2/Her2/neuによりコードされるポリペプチドを表すために使用される。したがって、「ErbB2」という用語は、すべての公知のヒトErbB2相同体および改変体、さらにはErbB2に対してErbB2相同体として同定されるのに十分な相同性を示す他のポリペプチドを包含する。この用語は、EGFRもHer3もHer4も包含しない。好ましくは、ErbB2は、NCBI accession no. NM_004448.1, GI:4758297に示される配列を有するポリペプチドとして同定される。
【0041】
「ErbB2」という用語は、好ましくは、NM_004448.1に対して85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%相同であるポリペプチドを包含する。相同性比較は、目測でまたはより一般的には容易に入手可能な配列比較プログラムを用いて実施可能である。これらの市販のコンピュータープログラムを用いれば、2つ以上の配列間の相同性パーセント(%)を計算することが可能である。
【0042】
相同性パーセントは、近接した配列にわたり計算可能である。すなわち、一方の配列を他方の配列にアライメントし、一方の配列中のそれぞれのアミノ酸を他方の配列中の対応するアミノ酸と1回に1残基ずつ直接比較する。これは、「ギャップ無し(ungapped)」アライメントと呼ばれる。典型的には、そのようなギャップ無しアライメントは、比較的少ない個数の残基(たとえば、50個未満の近接したアミノ酸)にわたり行われるにすぎない。
【0043】
これは非常に単純かつ一貫性のある方法であるが、たとえば、1つの挿入または欠失があると、それ以外は同一である配列対であっても、それ以降のアミノ酸残基がアライメントできなくなるという点が考慮されていないので、グローバルアライメントを行った場合、パーセントホモロジー(%homology)が大幅に減少する可能性がある。したがって、ほとんどの配列比較法は、全相同性スコアに過度のペナルティーを課すことなく可能性のある挿入および欠失を考慮した最適アライメントを生成するようにデザインされる。これは、局所相同性を最大化するように試行して配列アライメント中に「ギャップ」を挿入することにより達成される。
【0044】
しかしながら、これらのより複合的な方法では、同一アミノ酸の個数が同数の場合、できるかぎり少ないギャップを有する配列アライメントが、2つの比較配列間のより高い関連性を反映して、多くのギャップを有するものよりも高いスコアを達成するように、アライメント中に生じるそれぞれのギャップに「ギャップペナルティー」が割り当てられる。典型的には、ギャップの存在に比較的高いコストを課しかつギャップ中のそれぞれの後続残基により小さいペナルティーを課する「アフィンギャップコスト(Affine gap cost)」が使用される。これは、最もよく使用されるギャップスコアリングシステムである。当然ながら、ギャップペナルティーが高ければ、より少ないギャップを有する最適化アライメントが生成されるであろう。ほとんどのアライメントプログラムでは、ギャップペナルティーを変更できるようになっている。しかしながら、配列比較用のそのようなソフトウェアを使用する場合、デフォルト値を使用することが好ましい。たとえば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(下記参照)を使用する場合、アミノ酸配列に対するデフォルトギャップペナルティーは、ギャップ1つにつき-12、各伸長ごとに-4である。
【0045】
したがって、最大パーセントホモロジーの計算では、最初に、ギャップペナルティーを考慮して最適アライメントを生成することが必要である。そのようなアライメントを行うのに好適なコンピュータープログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereux et al., 1984, Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を行いうる他のソフトウェアの例としては、BLASTパッケージ(Ausubel et al., 1999 ibid - Chapter 18)、FASTA(Atschul et al., 1990, J. Mol. Biol., 403-410を参照されたい)、および一連のGENEWORKS比較ツールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。BLASTおよびFASTAはいずれも、オフライン検索およびオンライン検索で利用可能である(Ausubel et al., 1999 ibid, pages 7-58 to 7-60を参照されたい)。しかしながら、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。
【0046】
同一性に基づいて最終パーセントホモロジーを求めることが可能であるが、アライメント法自体は、典型的には、オールオアナッシング対比較に基づくものではない。その代わりに、化学的類似性または進化距離に基づいてそれぞれのペアワイズ比較にスコアを割り当てるスケール化類似性スコアマトリックスが広く使用される。一般に使用されるそのようなマトリックスの一例は、BLOSUM62マトリックス(一連のBLASTプログラムのデフォルトマトリックス)である。GCG Wisconsinプログラムでは、一般的には、パブリックデフォルト値または供給されるのであればカスタムシンボル比較表のいずれかが使用される(さらに詳しくはユーザーマニュアルを参照されたい)。GCGパッケージではパブリックデフォルト値を、またはBLOSUM62のような他のソフトウェアの場合にはデフォルトマトリックスを、使用することが好ましい。
【0047】
ソフトウェアを用いて最適アライメントを生成させた後、パーセントホモロジー、好ましくはパーセントシーケンスアイデンティティ(% sequence identity)を計算することが可能である。典型的には、ソフトウェアにより配列比較の一部分としてこれを行い、数値結果を生成させる。
【0048】
本発明に係るポリペプチドの「断片」は、本発明に従って記述される変異アミノ酸を含むポリペプチド断片である。断片は、ErbB2ポリペプチドの全長までの任意の長さでありうる。したがって、数個のアミノ酸がトランケートされたErbB2ポリペプチドさらにはより短い断片が包含する。有利には、断片は、約1250〜約5アミノ酸長、好ましくは約5〜約20アミノ酸長;有利には約10〜約50アミノ酸長である。本発明に係る断片は、抗体を産生するように動物を免疫化するのにとくに有用である。したがって、本発明に係るポリペプチドの断片は、有利には、本明細書に記載される変異ErbB2に特有な少なくとも1つの抗原決定基(エピトープ)を含む。特定のポリペプチド断片がそのような抗原特性を保持するかは、当技術分野で公知の常法により容易に決定可能である。わずか6個程度のアミノ酸残基で構成されるペプチドが免疫応答を引き起こすことが、しばしば見いだされる。
【0049】
本発明に係る「核酸」は、先に記載されるヒトErbB2ポリペプチドをコードする核酸である。この用語はさらに、先に規定される天然に存在する核酸またはその相補体にストリンジェントハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズしうるポリヌクレオチドを包含する。「ストリンジェントハイブリダイゼーション条件」とは、50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×Denhardt溶液、10%デキストラン硫酸、および20pg/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中、42℃で一晩インキュベートし、続いて、0.1×SSC中、約65℃でフィルターを洗浄することを意味する。
【0050】
本明細書中で言及される核酸は、一般的には、自然界に見いだされる天然の核酸であるが、この用語は、当技術分野で公知である改変された主鎖または塩基を有する改変された人工の核酸をその範囲内に包含しうる。
【0051】
本発明に係る断片をコードする核酸は、本発明に係る変異が組み込まれたErbB2遺伝子の特定領域を核酸増幅することにより得られるものでありうる。
【0052】
本明細書中で言及される「単離された」ポリペプチドまたは核酸とは、その元の環境(たとえば、それが自然界に存在するときの自然環境)から取り出された物質、ひいてはその自然状態から人の手を経て改変された物質を意味する。たとえば、単離されたポリヌクレオチドは、ベクターもしくは物質組成物の一部分でありうるか、または細胞内に含まれるにもかかわらず、ベクター、物質組成物、もしくは特定細胞がポリヌクレオチドの元の環境でないことが理由で「単離された」ものでありうる。好ましくは、「単離された」という用語は、ゲノムライブラリーおよびcDNAライブラリー、全細胞調製物および全細胞mRNA調製物、ゲノムDNA調製物(電気泳動により分離されてブロットの形態に転写されたものを包含する)、剪断全細胞ゲノムDNA調製物、ならびに当該技術により本発明に係るポリペプチド/核酸の際立った特徴が実証されない他の組成物、のいずれをも意味しない。
【0053】
本発明に係るポリペプチドは、1つ以上の変異を含む。「変異」は、アミノ酸の付加、欠失、または置換を包含し、有利には、アミノ酸の置換または挿入の形態の挿入を意味する。ポリペプチドレベルでのそのような変異は、1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、または置換により核酸レベルで反映される。一般的には、そのような変異は、核酸のリーディングフレームを変化させない。有利には、核酸レベルでの変化は、1つの位置もしくは2つの隣接する位置の点変異、または挿入である。
【0054】
本発明中に規定されるErbB2の変異は、天然に存在するものであり、癌原物質または他の腫瘍原性因子を適用することにより細胞内または組織内に意図的に誘導したものではない。したがって、本明細書中に規定される変異は、ヒト組織内の自然腫瘍形成をin vivoに正確に反映する。したがって、それらの検出は、人為的化学的腫瘍誘発後に齧歯動物中で同定される変異の検出よりもはるかに良好な診断基準である。
【0055】
本明細書中に規定される変異は、体細胞変異である。
「体細胞」変異とは、生物の生殖系列を介して伝播されずにその体細胞組織中で生じる変異のことである。有利には、体細胞変異は、正常/腫瘍対サンプル分析により体細胞性であると判定される変異である。
【0056】
本明細書中で使用されるアミノ酸およびヌクレオチドの番号付けはすべて、ErbB2ポリペプチドのアミノ酸+1またはそれをコードするヌクレオチド配列の最初のATGから開始される。
【0057】
「増幅」反応とは、標的核酸の特異的増幅が非標的核酸に優先して生じる核酸反応のことである。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、周知の増幅反応である。
【0058】
「免疫グロブリン」とは、2つのβシートと通常は1つの保存ジスルフィド結合とを含有する免疫グロブリン(抗体)分子に特有な免疫グロブリンフォールドを保持するポリペプチドファミリーの1つのことである。免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーは、免疫系(たとえば、抗体、T細胞レセプター分子など)における広範な役割、細胞接着(たとえばICAM分子)および細胞内シグナリング(たとえば、PDGFレセプターのようなレセプター分子)への関与を含めて、in vivoにおける細胞相互作用および非細胞相互作用の多くの側面に関与する。本発明は、好ましくは、高い特異性を有して標的抗原に結合しうる抗体に適用可能である。
【0059】
「抗体」とは、全抗体またはその抗原結合性フラグメントのことでありうる。たとえば、本発明は、FvおよびFabならびにFab’およびF(ab’)2のようなフラグメント、さらにはscFvのような抗体改変体、単一ドメイン抗体、Dab抗体、および他の抗原結合性抗体型分子を包含する。
【0060】
「癌」とは、新生物性表現型への細胞トランスフォーメーションから生じる新生物性増殖を意味すべく本明細書中で使用されるものである。そのような細胞トランスフォーメーションは、多くの場合、遺伝子変異を含み、本発明との関連では、トランスフォーメーションは、本明細書に記載される1つ以上のErbB2遺伝子の変化による遺伝子変異を含む。
【0061】
核酸の検出方法
ErbB2をコードする変異核酸の検出は、本発明との関連では、細胞トランスフォーメーションおよび癌の存在または素因を診断するために利用可能である。ErbB2遺伝子の変異は一般的にはDNAレベルで起こるので、本発明に係る方法は、ゲノムDNAさらには転写産物およびタンパク質自体の変異の検出に依拠しうる。検出された変異が実際に被験者において発現されることを保証するために、転写産物および/またはポリペプチドを分析することによりゲノムDNAの変異を確認することが望ましいこともある。
【0062】
ゲノム核酸の変異は、有利には、増幅された核酸断片の移動度シフトに基づく技術により検出される。たとえば、Chen et al., Anal Biochem 1996 Jul 15;239(1):61-9には、競合移動度シフトアッセイによる単一塩基変異の検出について記載されている。さらに、Marcelino et al., BioTechniques 26(6): 1134-1148 (June 1999)の技術に基づくアッセイは、商品化されている。
【0063】
好ましい例として、キャピラリーヘテロ二本鎖分析を用いれば、ミスマッチの存在の結果として生じるキャピラリーシステムにおける二本鎖核酸の移動度シフトに基づいて変異の存在を検出することが可能である。
【0064】
サンプルから分析用の核酸を生成させるには、一般的には、核酸増幅が必要である。多くの増幅方法は、酵素連鎖反応(たとえば、ポリメラーゼ連鎖反応、リガーゼ連鎖反応、もしくは自己持続配列複製)またはそれがクローニングされたベクターの全部もしくは一部の複製に依拠する。好ましくは、本発明に係る増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応などにより示されるような指数関数的増幅である。
【0065】
多くの標的およびシグナルの増幅方法は、文献に記載されており、たとえば、Landegren, U., et al., Science 242:229-237 (1988) and Lewis, R., Genetic Engineering News 10:1, 54-55 (1990)には、これらの方法の一般的レビューが記載されている。これらの増幅方法は、本発明に係る方法で使用可能であり、例としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、PCR in situ、リガーゼ増幅反応(LAR)、リガーゼハイブリダイゼーション、Qβバクテリオファージレプリカーゼ、転写に基づく増幅システム(TAS)、転写産物の配列決定を伴うゲノム増幅(GAWTS)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)、およびin situハイブリダイゼーションが挙げられる。種々の増幅技術に使用するのに好適なプライマーは、当技術分野で公知の方法に従って調製可能である。
【0066】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
PCRとは、とくに米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号に記載される核酸増幅方法のことである。PCRは、DNAポリメラーゼにより引き起こされるプライマー伸長反応の反復サイクルよりなる。標的DNAを熱変性させ、増幅されるDNAの対向鎖上の標的配列を囲む2種のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせる。これらのオリゴヌクレオチドは、DNAポリメラーゼと併用するためのプライマーになる。プライマー伸長によりDNAをコピーして両方の鎖の第2のコピーを作製する。熱変性、プライマーハイブリダイゼーション、および伸長のサイクルを反復することにより、標的DNAを約2〜4時間で100万倍以上に増幅することが可能である。PCRは、分子生物学的ツールであり、増幅結果を調べるための検出技術と組み合わせて使用しなければならない。PCRの利点は、約4時間で標的DNAの量を100万倍〜10億倍に増幅することにより感度が増大されることである。PCRを用いることにより、診断に関連する任意の公知の核酸を増幅することが可能である(Mok et al., (1994), Gynaecologic Oncology, 52: 247-252)。
【0067】
自己持続配列複製(3SR)
自己持続配列複製(3SR)とは、酵素カクテルおよび適切なオリゴヌクレオチドプライマーにより媒介されるリバーストランスクリプターゼ活性(室温)、ポリメラーゼ活性、およびヌクレアーゼ活性の逐次的ラウンドを介する核酸鋳型の等温増幅を含むTASの変形である(Guatelli et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1874)。RNA/DNAヘテロ二本鎖のRNAの酵素的分解を熱変性の代わりに使用する。RNアーゼHおよびすべての他の酵素を反応系に添加し、すべての工程を同一温度でかつさらなる試薬を添加することなく行う。このプロセスの後、42℃、1時間で、106〜109の増幅率が達成されている。
【0068】
連結増幅(LAR/LAS)
連結増幅反応または連結増幅システムでは、DNAリガーゼおよび4種のオリゴヌクレオチド(1本の標的鎖あたり2種のオリゴヌクレオチド)が使用される。この技術についは、Wu, D. Y. and Wallace, R. B. (1989) Genomics 4:560に記載されている。オリゴヌクレオチドは、標的DNAの隣接配列にハイブリダイズし、リガーゼにより連結される。反応系を熱変性させ、サイクルを反復する。
【0069】
Qβレプリカーゼ
この技術では、Lizardi et al. (1988) Bio/Technology 6:1197に記載されるように、一本鎖RNAを複製するバクテリオファージQβのRNAレプリカーゼを使用して標的DNAを増幅する。最初に、T7プロモーターとQβ 5'配列領域とを含むプライマーに標的DNAをハイブリダイズさせる。このプロセスでは、このプライマーを用いて、5'末端にプライマーを結合してなるcDNAをリバーストランスクリプターゼにより生成させる。これらの2工程は、TASプロトコルに類似している。得られたヘテロ二本鎖を熱変性させる。次に、Qβ 3'配列領域を含有する第2のプライマーを用いて、cDNA合成の第2のラウンドを開始する。この結果、Qβバクテリオファージの5'末端および3'末端の両方さらには活性T7 RNAポリメラーゼ結合部位を含有する二本鎖DNAが得られる。次に、T7 RNAポリメラーゼにより、Qβを模擬する新しいRNAに二本鎖DNAを転写する。十分な洗浄を行ってハイブリダイズされていないプローブをすべて除去した後、新しいRNAを標的から溶出させ、Qβレプリカーゼにより複製する。後者の反応では、約20分間で107倍の増幅率が得られる。
【0070】
他の選択肢の増幅技術を本発明で利用することが可能である。たとえば、ローリングサークル増幅(Lizardi et al., (1998) Nat Genet 19:225)は、DNAポリメラーゼにより駆動され恒温条件下で直線的または幾何級数的速度論のいずれかで環状オリゴヌクレオチドプローブを複製しうる商品化された増幅技術(RCATTM)である。
【0071】
2種の適切にデザインされたプライマーの存在下では、DNA鎖の置換えおよび超分枝化を介して幾何級数的増幅が起こり、1時間でそれぞれのサークルの1012個以上のコピーが生成される。
【0072】
単一のプライマーを使用した場合、標的のDNAコピーが何千個もタンデムに連結されてなる直鎖が、標的に共有結合されて、RCATにより数分間で生成される。
【0073】
さらなる技術の鎖置換え増幅(SDA; Walker et al., (1992) PNAS (USA) 80:392)は、特定の標的に特有の特定的に規定された配列から開始される。しかし、熱サイクルに依拠する他の技術とは異なり、SDAは、一連のプライマー、DNAポリメラーゼ、および制限酵素を利用して指数関数的に特有の核酸配列を増幅する等温プロセスである。
SDAは、標的生成段階と指数関数的増幅段階の両方を含む。
【0074】
標的生成では、二本鎖DNAを熱変性させて2つの一本鎖コピーを作製する。一連の特定的に作製されたプライマーをDNAポリメラーゼと組み合わせて(基本配列をコピーするための増幅プライマーおよび新たに形成された鎖を置き換えるためのバンパープライマー)、指数関数的増幅の可能な改変された標的を形成する。
【0075】
指数関数的増幅プロセスは、標的生成段階で得られた改変標的(制限酵素認識部位を有する一本鎖部分DNA鎖)から開始される。
【0076】
増幅プライマーをその相補的DNA配列位置でそれぞれの鎖に結合させる。次に、DNAポリメラーゼは、プライマーを利用して位置を特定し、個々のヌクレオチドを追加するための鋳型として改変標的を用いてプライマーをその3'末端から伸長させる。したがって、伸長されたプライマーは、完全な制限酵素認識部位をそれぞれの末端に含有する二本鎖DNAセグメントを形成する。
【0077】
次に、制限酵素を二本鎖DNAセグメントにその認識部位で結合させる。制限酵素は、二本鎖セグメントの一方の鎖のみを切断してニックを形成した後、認識部位から離れる。DNAポリメラーゼは、ニックを認識してその部位から鎖を伸長させ、前に形成された鎖と置き換える。したがって、標的セグメントを含有するDNA鎖を連続的に置き換えながら、制限酵素およびDNAポリメラーゼにより認識部位に反復してニックの形成および修復が施される。
【0078】
次に、それぞれの置き換えられた鎖は、上述した増幅プライマーをアニーリングさせるために利用可能である。新しいDNA鎖のニック形成、伸長、および置換えを反復してプロセスを継続させることにより、元のDNA標的が指数関数的増幅される。
【0079】
核酸を増幅させた後、単一塩基対変異を検出するために、いくつかの技術が利用可能である。そのような技術の1つは、一本鎖コンフォメーション多型(SSCP)である。SCCP検出は、電気泳動で参照DNAと比較したときの一本鎖変異DNAの異常泳動に基づく。変異により一本鎖DNAのコンホメーションが変化し、その結果、移動度シフトを生じる。蛍光SCCPでは、検出を支援するために蛍光標識化プライマーが使用される。その際、参照DNAおよび変異DNAは、蛍光標識化プライマーを用いて増幅される。増幅されたDNAの変性および急冷を行うことにより一本鎖DNA分子を生成させ、これを非変性ゲル電気泳動により検査する。
【0080】
化学的ミスマッチ切断(CMC)は、ヒドロキシルアミンと四酸化オスミウムとピペリジンとの組合せによるDNAミスマッチ塩基対の認識および切断に基づく。その際、参照DNAおよび変異DNAはいずれも、蛍光標識化プライマーを用いて増幅される。アンプリコンをハイブリダイズさせ、次に、ミスマッチT塩基に結合する四酸化オスミウムまたはミスマッチC塩基に結合するヒドロキシルアミンと、続いて改変塩基の部位で切断するピペリジンと、を用いて、切断に付す。次に、切断された断片を電気泳動により検出する。
【0081】
制限断片多型(RFLP)に基づく技術を使用することも可能である。多くの単一ヌクレオチド多型(SNP)は従来のRFLPでは分析できないが、プライマー誘導制限分析PCR(PIRA-PCR)を使用すれば、SNP依存的にPCRプライマーを用いて制限部位を導入することが可能である。好適な制限部位を導入するPIRA-PCR用のプライマーは、たとえばXiaiyi et al., (2001) Bioinformatics 17:838-839に記載されるように、計算解析によりデザインすることが可能である。
【0082】
他の選択肢の実施形態では、本発明は、RNAレベルの遺伝子発現の検出を提供する。リボ核酸ハイブリダイゼーションを利用する典型的なアッセイ方式としては、核ランオンアッセイ、RT-PCR、およびRNアーゼプロテクションアッセイ(Melton et al., Nuc. Acids Res. 12:7035)が挙げられる。利用しうる検出方法は、放射性標識、酵素標識、化学発光標識、蛍光標識、および他の好適な標識を含む。
【0083】
RT-PCRは、RNA標的を増幅するために使用される。この方法では、リバーストランスクリプターゼ酵素を用いてRNAを相補的DNA(cDNA)に変換し、次に、これをPCRにより増幅することが可能である。この方法は、RNAウイルスの検出に有用であることが実証されている。その用途は、上記のPCRの場合とは異なる。
【0084】
ポリペプチドの検出方法
本発明は、変異ErbB2遺伝子によりコードされるタンパク質を検出する方法を提供する。タンパク質は、タンパク質ゲルアッセイ、抗体結合アッセイ、または当技術分野で公知の他の検出方法により検出可能である。
【0085】
したがって、たとえば、変異ErbB2ポリペプチドは、タンパク質ゲル上の示差的移動度により、または変異アミノ酸の存在を分子量に基づいて決定しうる質量分析のような他のサイズ分析技術により、検出可能である。とくに、変異ErbB2ポリペプチドに由来するペプチドは、サイズ分析による識別が可能である。
【0086】
有利には、変異ErbB2ポリペプチドにおいて特定の点変異を正確に同定できるように、検出手段は配列特異的である。たとえば、in vivoまたはin vitroで変異ErbB2ポリペプチドを特異的に認識するポリペプチド分子またはRNA分子を開発することが可能である。
【0087】
たとえば、RNAアプタマーは、SELEXにより生成可能である。SELEXとは、標的分子にきわめて特異的に結合する核酸分子のin vitroエボリューションを行う方法のことである。たとえば、米国特許第5654151号、同第5503978号、同第5567588号、および同第5270163号、さらにはPCT公開WO 96/38579(いずれも、参照により本明細書に明示的に組み入れられるものとする)に記載されている。
【0088】
SELEX法は、オリゴヌクレオチドのライブラリーから核酸アプタマー(所望の標的に結合しうる一本鎖核酸)を選択することを含む。核酸のライブラリー(好ましくは、ランダム化配列のセグメントを含む)から出発して、SELEX法は、結合に有利な条件下でライブラリーを標的に接触させる工程と、標的分子に特異的に結合された核酸から未結合核酸を分離する工程と、核酸-標的複合体を解離させる工程と、核酸-標的複合体から解離された核酸を増幅して核酸のリガンド富化ライブラリーを生成する工程と、次に、結合の工程を反復する工程と、所望に応じたサイクル数で分離、解離、および増幅を行って標的分子に対するきわめて特異的な高親和性核酸リガンドを生成する工程と、を含む。
【0089】
SELEXは、多数の可能性のある配列および構造を含有する核酸ライブラリー内に所与の標的に対する広範にわたる結合親和性が存在するという原理に基づく。たとえば20ヌクレオチドのランダム化セグメントを含む核酸ライブラリーは、420種の可能な構造を有しうる。標的に対してより高い親和定数を有するものは、結合する可能性がかなり高いと考えられる。分離、解離、および増幅のプロセスにより、より高い結合親和性の候補物質が富化された第2の核酸ライブラリーが生成される。得られるライブラリーが1種のみもしくは数種の配列で主に構成されるようになるまで、追加の選択ラウンドにより、最良リガンドを徐々に絞り込む。次に、これらをクローニングし、その配列を決定し、そして純粋なリガンドとしての結合親和性を個別に試験することが可能である。
【0090】
所望の目標が達成されるまで、選択および増幅のサイクルを反復する。最も一般的な場合、サイクルを反復しても結合強度の有意な改良が達成されなくなるまで、選択/増幅を継続する。反復的選択/増幅方法は、少なくとも1014種の配列を含有するライブラリー中の単一種の配列改変体の単離が可能な程度に十分な感度を有する。原理的には、本方法を用いて約1018種程度の多くの異なる核酸種のサンプリングを行うことが可能である。ライブラリーの核酸は、好ましくは、ランダム化配列部分だけでなく効率的な増幅に必要な保存配列をも含む。核酸配列改変体は、ランダム化された核酸配列の合成およびランダムに切断された細胞核酸からのサイズ選択をはじめとするいくつかの方法で生成可能である。可変配列部分は、完全にもしくは部分的にランダムな配列を含有することが可能であり、さらに、ランダム化配列と組み合わせて保存配列の一部分を含有することも可能である。試験核酸中の配列変異は、選択/増幅の反復前もしくは反復中の変異誘発によりおよびクローン化アプタマーの特異的改変により、導入または増大が可能である。
【0091】
抗体
ErbB2ポリペプチドまたはそれから誘導されたペプチドを用いて、本発明に使用するための抗体を生成することが可能である。使用されるErbB2ペプチドは、好ましくは、本発明に係る変異ErbB2ポリペプチドに特異的なエピトープを含む。エピトープとして機能するポリペプチド断片は、任意の従来の手段により生成可能である(たとえば、US 4,631,211を参照されたい)。本発明では、抗原性エピトープは、好ましくは、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、より好ましくは、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも50個、最も好ましくは約15〜約30個のアミノ酸よりなる配列を含有する。免疫原性もしくは抗原性のエピトープを含む好ましいポリペプチドは、少なくとも25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100アミノ酸残基長である。
【0092】
本発明に係るErbB2ポリペプチドの抗原性エピトープを用いて、ウサギやマウスのような動物を遊離ペプチドまたは担体結合ペプチドのいずれかで免疫化することにより、たとえば、約100μgのペプチドまたは担体タンパク質とフロイントアジュバントまたは免疫応答を刺激することが知られている任意の他のアジュバントとを含有するエマルジョンの腹腔内および/または皮内注射により、抗体を生成することが可能である。固体表面に吸着された遊離ペプチドを用いるELISAアッセイなどにより検出しうる有用な力価の抗ペプチド抗体を提供するように、たとえば約2週間の間隔で、何回かの追加免疫注射が必要になることもある。免疫化動物の血清中の抗ペプチド抗体の力価は、抗ペプチド抗体の選択により、たとえば、当技術分野で周知の方法に基づいて固体担体上のペプチドへの吸着および選択された抗体の溶出を行うことにより、増大させることが可能である。
【0093】
本発明に係るErbB2ポリペプチドならびにその免疫原性および/または抗原性エピトープ断片は、他のポリペプチド配列に融合させることが可能である。たとえば、本発明に係るポリペプチドは、免疫グロブリンドメインに融合させることが可能である。ヒトCD4ポリペプチドの最初の2つのドメインと哺乳動物免疫グロブリンの重鎖もしくは軽鎖の定常領域の種々のドメインとよりなるキメラタンパク質は、in vivoで有利な性質を有することが明らかにされている(たとえば、EP 0394827; Traunecker et al., (1988) Nature, 331: 84-86を参照されたい)。上皮性関門を横切って免疫系に至る抗原の送達の増強は、IgGまたはFcIgGフラグメントのようなFcRn結合性パートナーにコンジュゲートされた抗原(たとえばインスリン)で実証されている(たとえば、WO 96/22024およびWO 99/04813を参照されたい)。
【0094】
さらに、本発明に係るポリペプチドは、融合ポリペプチドの精製を容易にするペプチドのようなマーカー配列に融合させることが可能である。好ましい実施形態では、マーカーアミノ酸配列は、とくに、pQEベクター(QIAGEN, Inc., 9259 Eton Avenue, Chatsworth, CA, 91311)中に提供されるタグのようなヘキサヒスチジンペプチドであり、その多くは、市販されている。Gentz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 821-824 (1989)に記載されるように、たとえば、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の便利な精製を提供する。精製に有用な他のペプチドタグである「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素タンパク質に由来するエピトープに対応する(Wilson et al., (1984) Cell 37: 767)。この場合、これらの上記の融合はいずれも、本発明に係る核酸またはポリペプチドを用いて工学的に操作可能である。
【0095】
好ましい実施形態では、本発明は、本明細書に記載されるErbB2変異体を特異的に認識する抗体を提供する。
【0096】
本明細書に記載される抗体は、特定的には、診断用途に必要とされる。したがって、それらは、標識のようなエフェクタータンパク質を含む改変抗体でありうる。とくに好ましいのは、in vivoにおける抗体の分布のイメージングを可能にする標識である。そのような標識は、患者の体内で容易に視覚化可能な放射性標識または金属粒子のような放射線不透性標識でありうる。さらに、それらは、組織上で視覚化可能な蛍光標識または他の標識でありうる。
【0097】
組換えDNA技術を用いて、本発明に係る抗体を改良することが可能である。その場合、診断用途または治療用途でその免疫原性を低減させるために、キメラ抗体を構築することが可能である。さらに、CDRグラフト化[欧州特許出願0 239 400(Winter)を参照されたい]および場合により骨格改変[EP 0 239 400; Riechmann, L. et al., Nature, 332, 323-327, 1988; Verhoeyen M. et al., Science, 239, 1534-1536, 1988; Kettleborough, C. A. et al., Protein Engng., 4, 773-783, 1991; Maeda, H. et al., Human Antibodies and Hybridoma, 2, 124-134, 1991; Gorman S. D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 4181-4185, 1991; Tempest P. R. et al., Bio/Technology, 9, 266-271, 1991; Co, M. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 2869-2873, 1991; Carter, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 4285-4289, 1992; Co, M. S. et al., J. Immunol., 148, 1149-1154, 1992; および, Sato, K. et al., Cancer Res., 53, 851-856, 1993]を行って抗体をヒト化することにより、免疫原性を最小限に抑えることが可能である。
【0098】
本明細書に記載される抗体は、細胞培養で生成可能である。組換えDNA技術を用いることにより、細菌細胞培養または好ましくは哺乳動物細胞培養で定型手順に従って抗体を生成することが可能である。選択された細胞培養系は、場合により、抗体産物を分泌するが、抗体産物は、非分泌細胞から単離することが可能である。
【0099】
したがって、本発明は、該抗体タンパク質をコードする第2のDNA配列に適切なリーディングフレームで連結されたシグナルペプチドをコードする第1のDNA配列に機能しうる形で連結されたプロモーターを含む発現カセットを含んでなるハイブリッドベクターでトランスフォームされた宿主(たとえば、E. coli、昆虫細胞、または哺乳動物細胞)を培養することと、該タンパク質を単離することと、含む、本発明に係る抗体の産生方法を包含する。
【0100】
in vitroにおけるハイブリドーマ細胞または哺乳動物宿主細胞の増殖は、好適な培地を用いて行われる。この培地は、慣用される標準的な培地、たとえば、Dulbecco改変イーグル培地(DMEM)またはRPMI 1640培地であり、場合より、哺乳動物血清、たとえば、ウシ胎仔血清、または微量元素、および増殖持続性サプリメント、たとえば、フィーダー細胞、たとえば、正常マウス腹腔滲出細胞、脾臓細胞、骨髄マクロファージ、2-アミノエタノール、インスリン、トランスフェリン、低密度リポタンパク質、オレイン酸などが補充される。細菌細胞または酵母細胞である宿主細胞の増殖は、同様に、当技術分野で公知の好適な培地を用いて、たとえば、細菌に対しては、LB培地、NZCYM培地、NZYM培地、NZM培地、Terrific Broth培地、SOB培地、SOC培地、2×YT培地、またはM9最少培地を用いて、および酵母に対しては、YPD培地、YEPD培地、最少培地、または完全最少ドロップアウト培地を用いて、行われる。
【0101】
in vitro生成では、比較的純粋な抗体調製物が提供され、スケールアップを行って多量の所望の抗体を得ることが可能である。たとえば、細菌細胞、酵母、または哺乳動物細胞の培養技術は、当技術分野で公知であり、例としては、エアリフト反応器中もしくは連続攪拌反応器中などにおける均一懸濁培養、または中空繊維中、マイクロカプセル中、アガロースマイクロビーズ上、もしくはセラミックカートリッジ上における固定化細胞培養(immobilized cell culture)もしくは閉込め細胞培養(entrapped cell culture)が挙げられる。
【0102】
哺乳動物細胞をin vivoで増殖させることにより、大量の所望の抗体を取得することも可能である。この目的のために、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を組織適合性哺乳動物に注射して、抗体産生腫瘍の増殖を引き起こす。場合により、注射前に、炭化水素、特定的にはプリスタン(テトラメチル−ペンタデカン)のような鉱油で、動物をプライミングする。1〜3週間後、それらの哺乳動物の体液から抗体を単離する。たとえば、好適な骨髄腫細胞とBalb/cマウスに由来する抗体産生脾臓細胞との融合により得られるハイブリドーマ細胞、または所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞系Sp2/0に由来するトランスフェクト細胞を、場合によりプリスタンで前処置されたBalb/cマウスの腹腔内に注射し、1〜2週間後、動物から腹水を採取する。
【0103】
以上および他の技術については、たとえば、Kohler and Milstein, (1975) Nature 256:495-497; US 4,376,110; Harlow and Lane, Antibodies: a Laboratory Manual, (1988) Cold Spring Harbor(参照により本明細書に組み入れられるものとする)中で論述されている。組換え抗体分子の調製技術については、上記の参考文献中、さらにはたとえば、EP 0623679、EP 0368684、およびEP 0436597(参照により本明細書に組み入れられるものとする)中に記載されている。
【0104】
細胞培養物上清は、優先的には酵素免疫アッセイ、たとえば、サンドイッチアッセイまたはドットアッセイまたは放射免疫アッセイにより、所望の抗体に関してスクリーニングされる。
【0105】
抗体を単離するために、たとえば、硫酸アンモニウムによる沈殿、ポリエチレングリコールのような吸湿性物質に対する透析、選択性膜中を透過させる濾過などにより、培養物上清中または腹水中の免疫グロブリンを濃縮することが可能である。所要および/または所望により、慣用的クロマトグラフィー法、たとえば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、DEAE-セルロースクロマトグラフィー、および/または(免疫)アフィニティークロマトグラフィー、たとえば、標的抗原もしくはプロテインAを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより、抗体を精製する。
【0106】
本発明はさらに、本発明に係るモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞に関する。本発明に係る好ましいハイブリドーマ細胞は、遺伝子的に安定であり、所望の特異性を有する本発明に係るモノクローナル抗体を分泌し、解凍および再クローニングにより冷凍貯蔵培養物から活性化させることが可能である。
【0107】
本発明は、好ましい実施形態では、抗変異ErbB2抗体の産生に関する。したがって、本発明はまた、好適な哺乳動物、たとえばBalb/cマウスを、1種以上のPDGFポリペプチドもしくはその抗原性断片、または変異ErbB2ポリペプチドを含有する抗原性担体で免疫化し、免疫化された哺乳動物の抗体産生細胞を好適な骨髄腫細胞系の細胞と融合させ、融合で得られたハイブリッド細胞をクローニングし、所望の抗体を分泌する細胞クローンを選択することを特徴とする、本発明に係るモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞系の調製方法に関する。たとえば、変異ErbB2で免疫化されたBalb/cマウスの脾臓細胞を骨髄腫細胞系PAIまたは骨髄腫細胞系Sp2/0-Ag14の細胞と融合させ、得られたハイブリッド細胞を所望の抗体の分泌に関してスクリーニングし、陽性のハイブリドーマ細胞をクローニングする。
【0108】
数ヶ月間たとえば2〜4ヶ月間にわたり、数回たとえば4〜6回、1〜100μgの変異ErbB2とフロイントアジュバントのような好適なアジュバントとを皮下および/または腹腔内に注射することにより、Balb/cマウスを免疫化し、最後の注射の2〜4日後、免疫化されたマウスから脾臓細胞を採取し、融合プロモーター、好ましくはポリエチレングリコールの存在下で骨髄腫細胞系PAIの細胞と融合させることを特徴とするハイブリドーマ細胞系の調製方法が好ましい。好ましくは、約4000の分子量の約30%〜約50%のポリエチレングリコールを含有する溶液中で、骨髄腫細胞を免疫化マウスに由来する3〜20倍過剰の脾臓細胞と融合させる。融合後、通常の骨髄腫細胞が所望のハイブリドーマ細胞よりも過剰に増殖することがないように一定の間隔でHAT培地などの選択培地が追加される以上に記載の好適な培地を用いて、細胞を増殖させる。
【0109】
本発明はまた、以上に記載される変異ErbB2に対する抗体の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードするインサートを含む組換え核酸に関する。定義によれば、そのようなDNAは、コード一本鎖DNA、該コードDNAとその相補的DNAとよりなる二本鎖DNA、またはこれらの相補的(一本鎖)DNA自体を包含する。
【0110】
そのほかに、変異ErbB2に対する抗体の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードするDNAは、重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードする確証されたDNA配列を有する酵素的もしくは化学的に合成されたDNAまたはその変異体でありうる。確証されたDNAの変異体は、1つ以上のアミノ酸が欠失しているかまたは1つ以上の他のアミノ酸と交換されている上記の抗体の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインをコードするDNAである。好ましくは、該改変は、抗体の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインのCDRの範囲外にある。そのような変異DNAはまた、1つ以上のヌクレオチドが、同一のアミノ酸をコードする新しいコドンを有する他のヌクレオチドで置換されている、サイレント変異体であることが意図される。そのような変異配列はまた、縮重配列である。縮重配列は、無制限の個数のヌクレオチドが、もともとコードされていたアミノ酸配列の変化を生じることなく他のヌクレオチドで置換される、ということから考えて、遺伝暗号の意味の範囲内で縮重している。そのような縮重配列は、それらのさまざまな制限部位ならびに/または重鎖ネズミ可変ドメインおよび/もしくは軽鎖ネズミ可変ドメインの最適発現が得られるように特定の宿主とくにE. coliにより選択される特定のコドンの頻度を利用できるので、有用でありうる。
【0111】
これに関連して、変異体という用語は、当技術分野で公知の方法に基づく確証されたDNAのin vitro変異誘発により得られるDNA変異体を包含することが意図される。
【0112】
完全な四量体免疫グロブリン分子の集合およびキメラ抗体の発現のために、重鎖および軽鎖の可変ドメインをコードする組換えDNAインサートを、重鎖および軽鎖の定常ドメインをコードする対応するDNAと融合させ、次に、たとえば、ハイブリッドベクターに組み入れた後、適切な宿主細胞に移入する。
【0113】
したがって、本発明また、ヒト定常ドメインγ、たとえば、γ1、γ2、γ3、またはγ4、好ましくはγ1またはγ4に融合された抗変異ErbB2抗体の重鎖ネズミ可変ドメインをコードするインサートを含む組換え核酸に関する。同様に、本発明は、ヒト定常ドメインκまたはλ、好ましくはκに融合された変異ErbB2に対する抗変異ErbB2抗体の軽鎖ネズミ可変ドメインをコードするインサートを含む組換えDNAに関する。
【0114】
他の実施形態では、本発明は、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとがスペーサー基により連結されている組換えポリペプチドをコードする組換えDNAに関する。このDNAは、宿主細胞における抗体の処理を容易にするシグナル配列、ならびに/または抗体の精製を容易にするペプチドおよび/もしくは切断部位および/もしくはペプチドスペーサーおよび/もしくはエフェクター分子をコードするDNAを場合により含んでいてもよい。
【0115】
本発明に係る抗体および抗体フラグメントは、診断に有用である。したがって、本発明は、本発明に係る抗体を含む診断用の組成物を提供する。
【0116】
診断用組成物の場合、抗体は、好ましくは、抗体を検出するための手段と共に提供される。この手段は、酵素、蛍光、放射性同位体、または他の手段でありうる。抗体および検出手段は、診断を目的とした診断用キットでは、同時使用、同時個別使用、または逐次的使用に供すべく、提供することが可能である。
【0117】
本発明に係る抗体は、当技術分野で公知の任意の方法により免疫特異的結合によりアッセイすることが可能である。使用しうる免疫アッセイとしては、ウエスタンブロット、放射免疫アッセイ、ELISA、サンドイッチ免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル内拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫ラジオメトリックアッセイ、蛍光免疫アッセイ、およびプロテインA免疫アッセイのような技術を用いる競合的および非競合的アッセイシステムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。そのようなアッセイは、当技術分野で常用されている(たとえば、Ausubel et al, eds, 1994, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & Sons, Inc., New York(参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい)。代表的な免疫アッセイについて、以下に簡潔に説明する。
【0118】
免疫沈降プロトコルは、一般的には、プロテインホスファターゼおよび/またはプロテアーゼ阻害剤(たとえば、EDTA、PMSF、アプロチニン、バナジン酸ナトリウム)が追加されたRIPA緩衝液(1% NP-40またはTriton X-100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、0.15M NaCl、0.01Mリン酸ナトリウム(pH7.2)、1% Trasylol)のような溶解緩衝液中で細胞の集団を溶解させることと、対象の抗体を細胞溶解物に添加することと、4℃である時間にわたり(たとえば、1〜4時間)インキュベートすることと、プロテインAおよび/またはプロテインGセファロースビーズを細胞溶解物に添加することと、4℃で約1時間以上インキュベートすることと、溶解緩衝液中でビーズを洗浄することと、ビーズをSDS/サンプル緩衝液中に再懸濁させることと、を含む。特定の抗原を免疫沈降させる対象の抗体の能力は、たとえばウェスタンブロット分析により、評価することが可能である。
【0119】
ウェスタンブロット分析は、一般的には、タンパク質サンプルを調製することと、ポリアクリルアミドゲル(たとえば、抗原の分子量に応じて8%〜20% SDS-PAGE)中でタンパク質サンプルを電気泳動することと、ポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース、PVDF、またはナイロンのような膜にタンパク質サンプルを転写することと、ブロッキング溶液(たとえば、3% BSAまたは脱脂乳を含むPBS)中で膜をブロッキングすることと、洗浄緩衝液(たとえば、PBSTween 20)中で膜を洗浄することと、ブロッキング緩衝液中に希釈された一次抗体(対象の抗体)に膜を暴露することと、洗浄緩衝液中で膜を洗浄することと、ブロッキング緩衝液中に希釈された酵素基質(たとえば、ホースラディッシュペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼ)または放射性分子(たとえば、32Pもしくは125I)にコンジュゲートされた二次抗体(一次抗体を認識する抗体、たとえば、抗ヒト抗体)に膜を暴露することと、洗浄緩衝液中で膜を洗浄することと、抗原の存在を検出することと、を含む。
【0120】
ELISAは、抗原を調製することと、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルを抗原でコーティングすることと、酵素基質(たとえば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)のような検出可能な化合物にコンジュゲートされた対象の抗体をウェルに添加することと、ある時間にわたりインキュベートすることと、抗原の存在を検出することと、を含む。ELISAでは、検出可能な化合物に対象の抗体をコンジュゲートする必要はなく、その代わりに、検出可能な化合物にコンジュゲートされた第2の抗体(対象の抗体を認識する)をウェルに添加することが可能である。さらに、ウェルを抗原でコーティングする代わりに、抗体をウェルにコーティングすることが可能である。この場合、コーティングされたウェルに対象の抗原を添加した後、検出可能な化合物にコンジュゲートされた第2の抗体を添加することが可能である。
【0121】
抗原に対する抗体の結合親和性および抗体-抗原相互作用の解離速度は、競合結合アッセイにより決定可能である。競合結合アッセイの一例は、漸増量の非標識化抗原の存在下で対象の抗体と共に標識化抗原(たとえば、3Hまたは125I)をインキュベートすることと、標識化抗原に結合された抗体を検出することと、を含む放射免疫アッセイである。特定の抗原に対する対象の抗体の親和性および結合解離速度は、スキャッチャードプロット分析によりデータから決定可能である。第2の抗体との競合についても、放射免疫アッセイを用いる決定可能である。この場合、漸増量の標識化されていない第2の抗体の存在下で、標識化化合物(たとえば、3Hまたは125I)にコンジュゲートされた対象の抗体と共に抗原をインキュベートする。
【0122】
変異ErbB2ポリペプチドの調製
本発明に係る変異ErbB2ポリペプチドは、化学合成、生物学的サンプルからの単離、およびそのようなポリペプチドをコードする核酸の発現をはじめとする任意の所望の技術により、生成可能である。また、核酸は、合成可能であるか、または変異ErbB2の生物源から単離可能である。
【0123】
したがって、本発明は、本発明に係るポリペプチドまたはその断片をコードするベクターに関する。ベクターは、たとえば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、またはレトロウイルスベクターでありうる。
【0124】
本発明に係る核酸は、宿主における増殖に対する選択性マーカーを含有するベクターの一部分でありうる。一般的には、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿のような沈殿または荷電脂質との複合体の状態で導入される。ベクターがウイルスである場合、適切なパッケージング細胞系を用いてin vitroでそれをパッケージングし、次に、宿主細胞中にトランスジュースすることが可能である。
【0125】
核酸インサートは、ファージラムダPLプロモーター、E. coli lac、trp、phoA、およびtacプロモーター、SV40初期および後期プロモーター、ならびにレトロウイルスLTRのプロモーターのような適切なプロモーターに機能的に連結される。他の好適なプロモーターは、当業者に公知である。発現構築物はさらに、転写の開始、終止のための部位と、転写領域に翻訳のためのリボソーム結合部位と、を含有する。構築物により発現される転写産物のコード部分は、好ましくは、翻訳されるポリペプチドの開始部の翻訳開始コドンと、終了部に適切に位置する終止コドン(UAA、UGA、またはUAG)と、を含む。
【0126】
記載のごとく、発現ベクターは、好ましくは、少なくとも1種の選択性マーカーを含む。そのようなマーカーとしては、真核細胞培養のためのジヒドロ葉酸還元酵素、G418、またはネオマイシン耐性の遺伝子、ならびにE. coli中および他の細菌中で培養するためのテトラサイクリン耐性、カナマイシン耐性、またはアンピシリン耐性の遺伝子が挙げられる。適切な宿主の代表例としては、細菌細胞、たとえば、E. coli細胞、Streptomyces細胞、およびSalmonella typhimurium細胞;真菌細胞、たとえば、酵母細胞(たとえば、Saccharomyces cerevisiaeまたはPichia pastoris);昆虫細胞、たとえば、Drosophila S2細胞およびSpodoptera Sf9細胞;動物細胞、たとえば、CHO細胞、COS細胞、293細胞、およびBowes黒色腫細胞;ならびに植物細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記の宿主細胞に適した培地および条件は、当技術分野で公知であり、商品化されている。
【0127】
細菌で使用するのに好ましいベクターとしては、QIAGEN, Inc.から入手可能なpQE70、pQE60、およびpQE-9;Stratagene Cloning Systems, Inc.から入手可能なpBluescriptベクター、PhagescriptベクターpNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A;ならびにPharmacia Biotech, Inc.から入手可能なptrc99a、pKK2233、pKK233-3、pDR540、pRIT5が挙げられる。好ましい真核生物ベクターとしては、Stratageneから入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXTl、およびpSG;ならびにPharmaciaから入手可能なpSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLがある。酵母系で使用するための好ましい発現ベクターとしては、pYES2、pYDl、pTEFl/Zeo、pYES2/GS、pPICZ、pGAPZ、pGAPZalph、pPIC9、pPIC3.5、pHIL-D2、pHIL-Sl、pPIC3.5K、pPIC9K、およびPA0815(いずれもInvitrogen, Carlsbad, CAから入手可能である)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0128】
宿主細胞中への構築物の導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、トランスダクション、感染、または他の方法により行うことが可能である。そのような方法は、先に参照したSambrook et al.のような多くの標準的実験マニュアルに記載されている。
【0129】
本発明に係るポリペプチドは、硫酸アンモニウム沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンもしくは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィーをはじめとする周知の方法により、組換え細胞培養物から回収および精製することが可能である。最も好ましくは、精製のために高性能液体クロマトグラフィー(「HPLC」)を利用する。
【0130】
本発明に係るポリペプチドはまた、生物源、たとえば、体液、組織、および細胞、特定的には、被験者の腫瘍組織または腫瘍であると推測される組織に由来する細胞から回収することが可能である。
【0131】
そのほかに、本発明に係るポリペプチドは、当技術分野で公知の技術を用いて化学合成することが可能である(たとえば、Creighton, 1983, Proteins: Structures and Molecular Principles, W. H. Freeman & Co., N. Y., and Hunkapiller et al., Nature, 310: 105-111 (1984)を参照されたい)。たとえば、変異ErbB2ポリペプチドの断片に対応するポリペプチドは、ペプチド合成機を用いて合成することが可能である。
【0132】
ErbB2変異
ErbB2の変異は、ヒト腫瘍細胞中で同定されている。表1には、これらの変異の位置およびそれらが同定された腫瘍が記載されている。変異は、ErbB2のキナーゼドメイン中に存在する。一対の正常/腫瘍サンプルを試験して変異が腫瘍サンプルでのみ見いだされたことから、変異のほとんどが体細胞性であることが確認されうる。
【表1】

【0133】
そのほかに、以下の変異体が癌患者のErbB2中で同定されている:
stCE17-1157 PD0312a NSCLC 腺癌 Het A560G N187S
stCE17-1163 PD0293a NSCLC 扁平上皮癌 Het C1157A A386D
stCE17-1174 DV-90 NSCLC 腺癌 Het G2524A V842I
stCE17-1379 PD0318a NSCLC 腺癌 Het C3647A A1216D
これらの改変体は、正常組織では欠如していて体細胞性であることを証明できないので、意義不明である。しかしながら、好ましい実施形態では、本発明はさらに、記載したErbB2の上記の変異を包含する。
【0134】
化合物アッセイ
本発明では、変異ErbB2の増殖活性をモジュレートしうる化合物、たとえば、医薬品のリード化合物を同定するために、変異ErbB2を標的として使用する。したがって、本発明は、アッセイに関するものであり、変異ErbB2の活性を直接的もしくは間接的にモジュレートしうる1種もしくは複数種の化合物を同定する方法を提供する。本方法は、
(a)評価される1種もしくは複数種の化合物と共に変異ErbB2をインキュベートする工程と;
(b)変異ErbB2の活性に影響を及ぼす化合物を同定する工程と;
を含む。
変異ErbB2は、本明細書中で定義されるとおりである。
【0135】
本発明のこの態様の第1の実施形態では、アッセイは、変異ErbB2に直接結合するポリペプチドを検出するように構成される。
【0136】
したがって、本発明は、細胞増殖のモジュレーターを同定する方法を提供する。本方法は、
(a)評価される1種もしくは複数種の化合物と共に変異ErbB2をインキュベートする工程と;
(b)変異ErbB2に結合する化合物を同定する工程と;
を含む。
【0137】
好ましくは、本方法はさらに、
(c)細胞に基づくアッセイにより、細胞生存能または細胞増殖をモジュレートする能力に関して、変異ErbB2に結合する化合物を評価する工程
を含む。
【0138】
変異ErbB2への結合は、当業者に公知の任意の技術により評価可能である。好適なアッセイの例としては、in vivoで相互作用を測定するツーハイブリッドアッセイシステム、アフィニティークロマトグラフィーアッセイ、たとえば、カラムに固定されたポリペプチドへの結合を含むもの、化合物と変異ErbB2との結合が結合対の一方または両方のパートナーの蛍光の変化に関連する蛍光アッセイなどが挙げられる。好ましいのは、ツーハイブリッドアッセイのように細胞内でin vivoで行われるアッセイである。
【0139】
好ましい実施形態では、変異ErbB2をコードする核酸をベクター中に連結して好適な宿主細胞中に導入し、変異ErbB2を発現するトランスフォーム細胞系を生成する。次に、変異ErbB2機能に影響を及ぼす可能性のある化合物の作用を再現性よく定性分析および/または定量分析するために、得られた細胞系を産生することが可能である。したがって、変異ErbB2の機能をモジュレートする化合物、特定的には低分子量化合物を同定するために、変異ErbB2発現細胞を利用することが可能である。したがって、変異ErbB2を発現する宿主細胞は、薬剤のスクリーニングに有用であり、変異ErbB2の活性をモジュレートする化合物を同定する方法を提供することは、本発明のさらなる目的である。該方法は、変異ErbB2をコードする異種DNAを含有する細胞(該細胞は、機能性変異体ErbB2を産生する)を、該変異ErbB2の活性をモジュレートする能力を決定すべく探索される少なくとも1種の化合物もしくは化合物の混合物またはシグナルに、暴露することと、その後、該モジュレーションにより引き起こされる変化に関して該細胞をモニタリングすることと、を含む。そのようなアッセイにより、変異ErbB2のモジュレーター、たとえば、アゴニスト、アンタゴニスト、およびアロステリックモジュレーターを同定することが可能である。本明細書中で使用する場合、変異ErbB2の活性をモジュレートする化合物またはシグナルとは、標的に対する変異ErbB2の活性が化合物またはシグナルの存在下で異なるように(該化合物またはシグナルの不在下と比較して)、変異ErbB2の活性を変化させる化合物を意味する。
【0140】
細胞に基づくスクリーニングアッセイは、リポータータンパク質、すなわち、容易にアッセイ可能なタンパク質、たとえば、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、またはルシフェラーゼの発現が、変異ErbB2基質の活性化に依存する、細胞系を構築することにより、デザイン可能である。たとえば、上記のポリペプチドのうちの1つをコードするレポーター遺伝子を、ErbB2標的により特異的に活性化される応答エレメントの制御下に、配置することが可能である。そのようなアッセイにより、変異ErbB2機能を直接モジュレートする化合物、たとえば、標的変異ErbB2のリン酸化に拮抗する化合物、または変異ErbB2の活性に必要とされる他の細胞機能を阻害もしくは強化する化合物を検出することが可能である。野生型非変異ErbB2が存在する細胞は、好適な対照を提供する。
【0141】
他の選択肢のアッセイ方式としては、生体系において増殖応答を直接評価するアッセイが挙げられる。レギュレートされない変異ErbB2の構成的発現の結果として、動物細胞において増殖表現型が生成される。変異ErbB2の可能性のあるレギュレーターの活性を評価するために、3T3繊維芽細胞のように細胞をベースとする系を使用することが可能である。
【0142】
さらなる好ましい態様において、本発明は、医薬品のリード化合物を同定する方法に関する。本方法は、
精製された変異ErbB2分子を提供する工程と;
変異ErbB2によりリン酸化されることが知られている基質および1種もしくは複数種の試験化合物と共に変異ErbB2分子をインキュベートする工程と;
基質のリン酸化をモジュレートしうる1種もしくは複数種の試験化合物を同定する工程と;
を含む。
【0143】
次に、場合により、変異ErbB2シグナリング経路に及ぼすそれらの影響を調べるために、同定された試験化合物(複数種可)をin vivo試験に付すことが可能である。
【0144】
本明細書中で使用する場合、「変異ErbB2活性」は、変異ErbB2の任意の活性、たとえば、その結合活性を意味しうるが、特定的には、変異ErbB2のリン酸化活性、ならびに/またはそれ自体でおよび/もしくはErbBファミリーの他のメンバー(たとえば、EGFR、Her3、およびHer4)と二量化する変異ErbB2の能力を意味する。したがって、本発明は、変異ErbB2による標的化合物のリン酸化および可能性のある治療剤によるこの活性のモジュレーションを検出するように構成可能である。
【0145】
変異ErbB2のリン酸化活性をモジュレートする化合物の例としては、ErbB2自体のドミナントネガティブ変異体が挙げられる。そのような化合物は、変異ErbB2の標的と競合しうるので、生体系または人工的な系において変異ErbB2の活性を低下させうる。したがって、本発明はさらに、変異ErbB2のリン酸化活性をモジュレートしうる化合物に関する。
【0146】
変異ErbB2の活性に影響を及ぼす化合物は、ほとんど任意の一般的記述が可能であり、例としては、低分子量化合物、たとえば、線状、環状、多環式、もしくはそれらの組合せでありうる有機化合物、ペプチド、ポリペプチドたとえば抗体、またはタンパク質が挙げられる。一般的には、本明細書中で使用する場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は、同義であるとみなされる。
【0147】
本発明に係る多くの化合物は、薬剤開発に有用なリード化合物でありうる。有用なリード化合物は、特定的には、抗体およびペプチド、なかでもとくに、遺伝子療法に関連する細胞内で発現される細胞内抗体であり、これらは、ペプチド治療剤または低分子量治療剤を開発するためのモデルとして使用可能である。本発明の好ましい態様において、リード化合物を用いたときに観測される相互作用を模擬する好適な低分子量化合物のデザインを容易にすべく、リード化合物と変異ErbB2または他の標的ペプチドとを共結晶化させることが可能である。
【0148】
結晶化には、たとえば、ペプチドまたはペプチド複合体の溶液を、結晶形成に必要なより低濃度の沈殿剤を含む「貯蔵緩衝液」と、好ましくは1:1の比で、混合することにより、結晶化緩衝液を調製することが含まれる。結晶形成のために、たとえば、滴定等により沈殿剤を添加し、または結晶化緩衝液と貯蔵緩衝液との間の拡散により沈殿剤の濃度のバランスをとり、沈殿剤の濃度を増大させる。好適な条件下では、沈殿剤のそのような拡散は、たとえば、より高濃度の沈殿剤を有する貯蔵緩衝液から、より低濃度の沈殿剤を有する結晶化緩衝液の方向に、沈殿剤の濃度勾配に沿って起こる。拡散は、たとえば、共通の気相中を拡散させる蒸気拡散技術により、達成可能である。公知の技術は、たとえば、「ハンギングドロップ」法または「シッティングドロップ」法のような蒸気拡散法である。蒸気拡散法では、タンパク質を含有する1滴の結晶化緩衝液を、貯蔵緩衝液のかなり多量のプールの上に垂下させるか、またはその傍に着座させる。他の選択肢として、結晶化緩衝液を貯蔵緩衝液から分離して貯蔵緩衝液中へのタンパク質の希釈を防止する半透膜を介して、沈殿剤のバランス調整を達成することが可能である。
【0149】
結晶化緩衝液では、好ましくは、ペプチドまたはペプチド/結合パートナー複合体は、30mg/mlまで、好ましくは約2mg/ml〜約4mg/mlの濃度を有する。
【0150】
結晶の生成は、次のパラメーター、すなわち、pH、塩および添加剤の存在、沈殿剤、タンパク質濃度、および温度により本質的に決定される種々の条件下で達成可能である。pHは、約4.0〜9.0の範囲内でありうる。緩衝液の濃度およびタイプは、それほど重要でないので、所望のpHに応じて変更可能である。好適な緩衝系としては、リン酸、酢酸、クエン酸、Tris、MES、およびHEPESの緩衝液が挙げられる。有用な塩および添加剤としては、たとえば、塩化物、硫酸塩、および当業者に公知の他の塩が挙げられる。緩衝液は、水混和性有機溶媒、好ましくは、100〜20000、優先的には4000〜10000の分子量を有するポリエチレングリコール、または好適な塩、たとえば、硫酸塩、特定的には硫酸アンモニウム、塩化物、クエン酸塩、もしくは酒石酸塩よりなる群から選択される沈殿剤を含有する。
【0151】
本発明に係るペプチドまたはペプチド/結合パートナー複合体の結晶は、重原子誘導体化などにより化学修飾可能である。簡潔に述べると、そのような誘導体化は、結晶中を拡散してタンパク質の表面に結合しうる重金属原子塩または有機金属化合物、たとえば、塩化鉛、チオリンゴ酸金、チメロサール、または酢酸ウラニルを含有する溶液中に結晶を浸漬することにより、達成可能である。結合された重金属原子の位置は、浸漬された結晶のX線回折分析により決定可能であり、その情報を用いて、たとえば、ペプチドの三次元モデルを構築することが可能である。
【0152】
三次元モデルは、たとえば、結晶の重原子誘導体からおよび/または結晶化により提供される構造データの全部もしくは一部から、取得可能である。好ましくは、そのようなモデルの構築は、相同性モデリングおよび/または分子置換を含む。
【0153】
予備的相同性モデルは、ErbB2自体(Cho et al., Nature 421: 756-760, 2003)のように構造が既知である任意のErbB/Herタンパク質との配列アライメントと、二次構造の予測と、構造ライブラリーのスクリーニングと、の組合せにより、作製可能である。たとえば、好適なソフトウェアプログラムを用いて変異ErbB2の配列と候補ペプチドの配列とをアライメントすることが可能である。
【0154】
ペプチドまたはペプチド複合体の二次構造を予測するために、計算ソフトウェアを使用することも可能である。ペプチド配列を変異ErbB2構造中に組み込むことが可能である。挿入/欠失を取り囲む構造断片などのような構造矛盾は、所望の長さおよび好適なコンフォメーションを有するペプチドに関して構造ライブラリーをスクリーニングすることにより、モデリングすることが可能である。側鎖のコンフォメーションの予測では、側鎖回転異性体ライブラリーを利用することが可能である。
【0155】
好適なコンピューターソフトウェアを用いて分子置換によりペプチドの結晶構造を解明するために、最終相同性モデルを使用する。分子置換の結果に従って相同性モデルの位置決めを行い、分子動力学計算を含むさらなる改良および結晶化に使用した阻害剤のモデリングによる電子密度への組込みに供する。
【0156】
ErbB2活性のアッセイ
変異ErbB2の活性は、たとえば、キナーゼ活性を測定することにより、および細胞トランスフォーメーションアッセイを介して、アッセイ可能である。
【0157】
第1の実施形態では、レセプター遺伝子の変異体を、評価される腫瘍から単離するか、該腫瘍から得られた配列情報に基づいて構築する。変異ErbB2遺伝子(複数種可)を細胞内で一時的に発現させ、次に、ウェスタンブロットにより発現を検査する。次に、変異体および野生体の発現を下流のシグナリング事象に及ぼすその影響に関してアッセイする。
【0158】
特定的には、Ras/RAF/MEK/ERK経路の活性化をアッセイする。これは、「Ras捕獲」法を用いてRas活性化アッセイを行うことを含む(Marais et al., (1998) Science 280(5360):109-12)。リン酸化形および活性形を認識する抗体を用いて、さらには直接的免疫沈降キナーゼ活性により、RAF、MEK、およびERKアッセイを検討する。
【0159】
ERK経路は、たとえば、Karasarides M, Chiloeches A, Hayward et al., Oncogene. 2004 Jun 21 [Epub ahead of print]; Wellbrock et al., Cancer Res. 2004 Apr 1;64(7):2338-42; または Wan et al., Cell. 2004 Mar 19;116(6):855-67に記載されるようにアッセイすることが可能である。
【0160】
場合により、既知の遺伝子の転写制御を調べることによりアッセイを改善することが可能である。
【0161】
PI3-キナーゼ経路のようにEGFシグナリングの下流にあることが知られている他の経路もまた、ErbB2活性の測定に利用可能である。この方法は、先に記載の方法に類似している。
【0162】
そのほかに、安定な細胞系に基づく長期アッセイを用いることも可能である。安定な系を作製し、in vitroで通常の判定基準(コロニー形成能、接触阻害低下、軟寒天中増殖)によりトランスフォーメーションに関して、さらにはヌードマウスにおいて腫瘍として増殖する能力に関して、評価する。最後に、増殖因子の不在下でマトリゲルプラグに浸潤し遊走する細胞の能力を試験するなどのより精巧なアッセイを行うことが可能である。
【0163】
たとえば、リポフェクタミン(登録商標)のようなトランスフェクション試薬を用いて、変異ErbB2を細胞系中にトランスフェクトすることが可能である。一例として、EF1aプロモーターの制御下で野生型ErbB2を発現するプラスミドpEF/c-erbB2.6をNIH3T3細胞中にトランスフェクトする。同様に、本明細書に記載される変異G776S、VGS、およびVYVMを含むpEF/c-erbB2.6の変異体で細胞をトランスフェクトする(図1参照)。Quickchange II XL Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用いて、EGFR変異誘発を行う。
【0164】
リポフェクタミン試薬(Invitrogen)をDMEM + 5% DCS中のNIH3T3細胞と併用して、トランスフェクション実験を行った。6ウェルディッシュの1ウェルあたり2.5×105個の細胞をプレーティングし、一晩培養する。
【0165】
細菌培養ディッシュ上でトランスフェクション複合体を調製する。各EGFR(ErbB2)ベクターを滅菌PBSで0.016μg/μlに希釈する。トランスフェクション1回あたり0.256μgの各EGFRベクターを使用する(1ウェルあたりの全DNAは256ngである)。それぞれのトランスフェクションに対して、13μlのPBSを細菌プレート上で3μlのリポフェクタミンと混合する。室温で15分間にわたり16μlのDNA混合物をリポフェクタミンと組み合わせる。複合体の形成中、細胞を無血清DMEMで2回洗浄し、800μlの無血清DMEMを各ウェルに添加する。200μlの無血清DMEMを各複合体(DNA/リポフェクタミン混合物)に添加し、全体積を細胞に添加する。
【0166】
6時間後、培地を除去し、細胞をDMEM+5%DCS中で2回洗浄し、次に、2mlのDMEM+5%DCSを添加する。細胞を2日間培養し、次に、NP40抽出緩衝液により採取し、ウエスタンブロッティングに供する。図3Aは、上記のプラスミドを用いた2つのトランスフェクション実験のウエスタンブロットを示している。
【0167】
上記のプラスミドおよびフォーカス形成陽性対照(Ras)でトランスフェクトされた第11継代NIH3T3細胞をフォーカス形成アッセイで使用する。細胞を800ngの各EGFR変異プラスミドでトランスフェクトする。全量800ngの全DNAを与えるのに十分なplink対照ベクター(ポリリンカー中にインサート無し)と共にRas対照を100ngでトランスフェクトする。
【0168】
24時間後、細胞をトリプシン処理し、10mlのDMEM+5% DCSの入った2つの10cm組織培養ディッシュに分ける。5、8、13、および15日目、細胞の培地を交換し、20日目、4%ホルムアルデヒド中で細胞を30分間固定することによりアッセイを終了する。図3Bは、8日後に観測された細胞のモルフォロジーを示している。
【0169】
フォーカスをカウントするために、細胞を70%エタノール中の4%(w/v)クリスタルバイオレットで染色した。直径が2mmであるフォーカスだけをカウントした。図3Cは、フォーカス形成アッセイの結果を示しており、クリスタルバイオレット染色は、図3Dに示される。
【0170】
フォーカス形成アッセイの結果は、3つの独立した実験の平均であった。本発明に係る変異体は、フォーカス形成アッセイによりin vivoで評価したときに強力なトランスフォーミング能を有する。
【0171】
検出のコンピューター的側面
変異ErbB2ポリペプチドおよび/または変異ErbB2核酸の検出は、サンプル集団の迅速な大規模並列スクリーニングを提供するように自動化可能である。変異検出のためのコンピューター化された方法は、当技術分野で公知であり、一般的には、配列決定デバイスまたはポリペプチドもしくは核酸の配列変異を検出しうる他のデバイスと、データ処理ユニットと、技術者または医師により解釈可能な形で結果を提示しうる出力デバイスと、の組合せを含むであろう。
【0172】
したがって、好ましい態様において、本発明は、ErbB2ポリペプチドをコードする天然に存在する原発性ヒト腫瘍に由来する核酸中の標的配列位置における変異を検出するための自動化された方法を提供する。本方法は、
天然に存在する原発性ヒト腫瘍に由来する核酸の増幅産物のサンプルの配列決定を行って、開始配列位置から終結配列位置まで延在する標的ドメイン中の複数の測定された塩基対同定データを特定するサンプルデータセットを提供することと;
標的配列位置の測定された塩基対同定データが標的配列位置の参照塩基対データに対応するかどうかを条件として、サンプル中の変異の存在または不在を決定することと;
決定工程により確定されたサンプル中の変異の存在または不在を示す出力を生成することと;
を含む。
【0173】
配列決定および配列中の変異の検出を行う方法は、上記に示したとおり、当技術分野で広く知られている。本発明は、本発明に係る方法を実施するための装置を提供する際にそのような方法を利用する。該装置は、
核酸のサンプルの配列を決定して、開始配列位置から終結配列位置まで延在する標的ドメイン中の測定された塩基対同定データを特定するサンプルデータセットを提供するように動作可能である配列解読デバイスと;
配列決定デバイスからサンプルデータセットを受け取るように接続されており、かつ標的配列位置の測定された塩基対同定データが標的配列位置の参照塩基対データに対応するかどうかを条件としてサンプル中の変異の存在または不在を決定するように動作可能である、データ解析ユニットと;
を備える。
【0174】
好適な配列解読デバイスとしては、自動シークエンサー、RFLPアナライザー、および移動度シフト分析装置が挙げられる。有利には、標的核酸の増幅産物の配列が分析され、装置はさらに、PCR機のような増幅デバイスを備える。
【0175】
好ましくは、装置はまた、データ解析ユニットにより決定されたサンプル中の変異の存在または不在を示す出力を生成するように動作可能である出力デバイスを備える。たとえば、出力デバイスは、グラフィカルユーザーインターフェース、オーディブルユーザーインターフェース、プリンター、コンピューター可読記憶媒体、およびコンピューター解釈可能キャリヤー媒体のうちの少なくとも1つを備えうる。
【0176】
本発明はさらに、変異ErbB2タンパク質自体を検出するように構成することが可能である。したがって、さらなる態様において、本発明は、天然に存在する原発性ヒト腫瘍に由来するErbB2ポリペプチドの単一アミノ酸変異を検出するための自動化された方法に関する。本方法は、
ErbB2ポリペプチドのサンプル中の1つ以上の標的アミノ酸にマーカーを適用することと;
マーカーを適用した後、サンプルを解読して、サンプル中のマーカーの存在または不在を決定することにより、サンプル中の単一アミノ酸変異の存在または不在を示すことと;
解読工程により決定されたサンプル中の単一アミノ酸変異の存在または不在を示す出力を生成することと;
を含む。
【0177】
マーカーは、好ましくは、単一アミノ酸変異を有していない野生型ErbB2ポリペプチドおよび変異を有する変異ErbB2ポリペプチドに示差的に結合するリガンドを含む。本発明との関連では、いずれかの形態のErbB2への優先的結合が可能である。
【0178】
本発明はさらに、ErbB2ポリペプチドのアミノ酸変異を検出するための装置を提供する。本装置は、
マーカーが組み込まれており、かつErbB2ポリペプチドのサンプル中の1つ以上の標的アミノ酸にマーカーを適用するように動作可能である、タンパク質マーキングデバイスと;
サンプル中のマーカーの存在または不在を決定することにより、サンプル中の単一アミノ酸変異の存在または不在を示すように動作可能であるマーカー解読デバイスと;
を備える。
【0179】
使用されるマーカーは、抗体でありうる。また、タンパク質マーキングデバイスは、ELISA法を実行するように構成可能である。
【0180】
有利には、タンパク質マーキングデバイスは、サンプルを好ましくは光学的に解読するように構成されたマイクロアレイヤーを備える。
【0181】
好ましくは、装置は、マーカー解読デバイスにより決定されたサンプル中の単一アミノ酸変異の存在または不在を示す出力を生成するように動作可能である出力デバイスを備える。好適な出力デバイスは、グラフィカルユーザーインターフェース、オーディブルユーザーインターフェース、プリンター、コンピューター可読記憶媒体、およびコンピューター解釈可能キャリヤー媒体のうちの少なくとも1つを備える。
【0182】
本発明の用途
本発明は、新生物性病状の検出およびそのような病状を抱えている被験者の予後の判定さらにはそのような被験者のための適切な療法に有用なErbB2ポリペプチドの新規な変異体を提供する。一般的には、本明細書に記載されるErbB2の変異の存在は、肺の腺癌の存在に関連する。
【0183】
一態様において、本発明は、癌性の細胞もしくは組織(たとえばNSCLC)を同定するかまたは新生物性表現型の出現の素因を有する細胞もしくは組織を同定する方法を提供する。本方法は、細胞または組織のErbB2遺伝子の少なくとも一部分を増幅することと;増幅産物を分析して本明細書に記載されるErbB2遺伝子の変異を検出することと;を含む。ただし、1つ以上のErbB2変異を有する細胞または組織は、癌性であるかまたは癌性病状を発症する危険性が高い状態にあるものとして分類される。好適な増幅手段としては、PCRおよびクローニングが挙げられる。
【0184】
他の実施形態では、本発明は、NSCLCに罹患している被験者のための治療方式を決定する方法に関する。本方法は、先に記載のErbB2遺伝子の領域を増幅することと;先に記載の変異の証拠があるかどうか増幅産物を分析することと;ErbB2遺伝子の変異を有していない被験者を抗ErbB2療法に反応する可能性が少ないものとして、該変異を有する被験者を抗ErbB2療法に反応する可能性がより高いものとして、分類することと;を含む。
【0185】
本発明に係る技術は、癌の可能性のある病状を同定すべくサンプルの迅速なスクリーニングを行うために、所要により、自動化することが可能である。一般的には、自動化された方法は、組織もしくは細胞のサンプルに由来する核酸の自動化された増幅、増幅された核酸中の変異の検出、たとえば蛍光検出、および/または変異の存在の表示を含むであろう。代表的な自動化された実施形態は、以上に記載したとおりである。
【0186】
したがって、本発明に係る変異ErbB2の同定は、変異ErbB2の発現に関連する疾患、障害、および/または病状を検出、診断、またはモニタリングする診断目的に使用可能である。特定的には、本発明は、本明細書に明示される変異ErbB2に関連する癌の検出、診断、および/またはモニタリングに関する。
【0187】
本発明は、癌を診断するための診断アッセイを提供する。本アッセイは、(a)本明細書中で定義されるErbB2変異体に特異的な1種以上の抗体を用いて個人の細胞または体液における変異ErbB2の発現をアッセイすること、を含む。個人に由来する生検組織中の変異ErbB2転写産物の存在は、疾患の発症の素因となることを示しうるか、または実際の臨床症状の出現前に疾患を検出する手段を提供しうる。このタイプのより確定的な診断を行うことにより、保健専門家は、適切な療法を利用することが可能になる。
【0188】
本発明に係る抗体を用いれば、当業者に公知の古典的免疫組織学的方法により生物学的サンプル中のタンパク質レベルをアッセイすることが可能である(たとえば、Jalkanen, et al., (1985) J. Cell. Biol. 101:976-985; Jalkanen, et al., (1987) J. Cell. Biol. 105:3087-3096を参照されたい)。タンパク質遺伝子発現の検出に有用な他の抗体に基づく方法としては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)や放射免疫アッセイ(RIA)のような免疫アッセイが挙げられる。好適な抗体アッセイ標識は当技術分野で公知であり、例としては、酵素標識、たとえば、グルコースオキシダーゼ;放射性同位体、たとえば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(112In)、およびテクネチウム(99Tc);発光標識、たとえば、ルミノール;ならびに蛍光標識、たとえば、フルオレセインおよびローダミン;さらにはビオチンが挙げられる。
【0189】
さらに、ErbB2の変異は、本明細書に明示されるように、核酸を分析することにより検出可能である。たとえば、変異の存在は、配列決定によりまたはSCCP分析により検出可能である。
【0190】
本発明はさらに、上記の方法で使用しうるキットを提供する。一実施形態では、キットは、1つ以上の容器中に、本発明に係る抗体、好ましくは精製抗体を含む。特定の実施形態では、本発明に係るキットは、キットに含まれる抗体と特異的に免疫反応するエピトープを含む実質的に単離されたポリペプチドを含有する。好ましくは、本発明に係るキットはさらに、対象のポリペプチドと反応しない対照抗体を含む。他の特定の実施形態では、本発明に係るキットは、対象のポリペプチドへの抗体の結合を検出するための手段を含有する(たとえば、抗体を、蛍光性化合物、酵素基質、放射性化合物、もしくは発光性化合物のような検出可能な基質にコンジュゲートさせうるか、または第1の抗体を認識する第2の抗体を検出可能な基質にコンジュゲートさせうる)。
【0191】
本発明の他の特定の実施形態では、キットは、本明細書に記載の変異ErbB2ポリペプチドに特異的な抗体を含有する血清のスクリーニングに使用するための診断用キットである。そのようなキットは、変異ErbB2ポリペプチドと反応しない対照抗体を含みうる。そのようなキットは、少なくとも1種の抗ErbB2抗体と特異的に免疫反応するエピトープを含む実質的に単離されたポリペプチド抗原を含みうる。さらに、そのようなキットは、抗原への該抗体の結合を検出するための手段を含む(たとえば、抗体を、フローサイトメトリーにより検出可能なフルオレセインやローダミンのような蛍光性化合物にコンジュゲートさせうる)。特定の実施形態では、キットは、組換えにより産生されるかまたは化学的に合成されるポリペプチド抗原を含みうる。キットのポリペプチド抗原はまた、固体担体に結合させることが可能である。
【0192】
他の実施形態では、本発明は、本発明に係る変異ErbB2ポリペプチドの抗原を含有する血清のスクリーニングに使用するための診断用キットを包含する。診断用キットは、ポリペプチド抗原またはポリヌクレオチド抗原と特異的に免疫反応する実質的に単離された抗体と、抗体へのポリヌクレオチド抗原またはポリペプチド抗原の結合を検出するための手段と、を含む。一実施形態では、抗体は、固体担体に結合される。特定の実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体でありうる。キットの検出手段は、第2の標識化モノクロナール抗体を含みうる。他の選択肢としてまたは追加として、検出手段は、標識化競合抗原を含みうる
上記の説明で引用した刊行物はすべて、参照により本明細書に組み入れられるものとする。本発明に係る記載の方法およびシステムの種々の修正形態および変更形態は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に自明なものであろう。特定の好ましい実施形態に関連させて本発明について説明してきたが、特許請求された本発明はそのような特定の実施形態に過度に限定されるものではないことを理解しなければならない。実際上、本発明を実施するための記載の形態の種々の修正形態のうち分子生物学または関連分野の当業者に自明な修正形態は、次の特許請求の範囲内に含まれるものとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】図1は、観測されたいくつかの挿入変異の位置および特質を示すErbB2の部分配列を示している。
【図2】図2は、EGFR、ErbB2、KIT、およびPDGFRAのCLUSTAL W(1.82)配列アライメントである。強調領域は、変異による影響を受けた位置およびアミノ酸を示している。PDGFRAおよびEGFRは、インフレーム欠失であり、EFGRは、ミスセンス(灰色表示)であり、KITは、インフレーム欠失と挿入の両方であり、ERBB2は、インフレーム挿入+ミスセンス(下線付き紫色表示)である。活性化セグメントのGループ、AIKモチーフ、触媒ループ、およびDFGの位置は、位置確認のために四角で囲まれて黄色で示されている。
【図3】図3は、細胞に基づくアッセイにおけるErbB2変異体のトランスフォーミング活性に関する一連の試験を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の変異を含む、ヒトErbB2ポリペプチドの天然に存在する癌関連変異体。
【請求項2】
NSCLCに関連するものである、請求項1に記載の変異ポリペプチド。
【請求項3】
前記変異がErbB2のキナーゼドメイン中に存在する、請求項1または請求項2に記載の変異ポリペプチド。
【請求項4】
前記変異が挿入である、いずれかの先行請求項に記載の変異ポリペプチド。
【請求項5】
前記変異がアミノ酸置換である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変異ポリペプチド。
【請求項6】
前記挿入が、ins774(AYVM)およびins779(VGS)よりなる群から選択される、請求項4に記載の変異ポリペプチド。
【請求項7】
前記アミノ酸置換が、L755P、E914K、およびG776Sよりなる群から選択される、請求項5に記載の変異ポリペプチド。
【請求項8】
断片が記載の変異を含む、いずれかの先行請求項に記載の変異ポリペプチドの断片。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸; 1つ以上の点変異を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸; 1つ以上の挿入を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含み、該点変異は、ErbB2の位置2263、2704、および2326の1つ以上で起こる請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含み、該点変異は、HetTT2263/4CC、HetG2740A、またはHetG2326Aである請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の挿入を含み、該挿入は、ErbB2の位置2322または2335の1つ以上で起こる請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;ならびに1つ以上の挿入を含み、該挿入は、Het2322dup12ntまたはHet2335ins9ntである請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;よりなる群から選択される核酸の相補体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の挿入を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸; 1つ以上の点変異を含み、該点変異は、ErbB2の位置2263、2704、および2326の1つ以上で起こる請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含み、該点変異は、HetTT2263/4CC、HetG2740A、またはHetG2326Aである請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の挿入を含み、該挿入は、ErbB2の位置2322または2335の1つ以上で起こる請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;ならびに1つ以上の挿入を含み、該挿入は、Het2322dup12ntまたはHet2335ins9ntである請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;よりなる群から選択される核酸に特異的にハイブリダイズする核酸。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の挿入を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含み、該点変異は、ErbB2の位置2263、2704、および2326の1つ以上で起こる請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の点変異を含み、該点変異は、HetTT2263/4CC、HetG2740A、またはHetG2326Aである請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;1つ以上の挿入を含み、該挿入は、ErbB2の位置2322または2335の1つ以上で起こる請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;ならびに1つ以上の挿入を含み、該挿入は、Het2322dup12ntまたはHet2335ins9ntである請求項1〜8のいずれか1項に記載のErbB2ポリペプチドをコードする核酸;よりなる群から選択される核酸の特異的増幅を指令する核酸プライマー。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドに選択的に結合するリガンド。
【請求項13】
免疫グロブリンである、請求項12に記載のリガンド。
【請求項14】
抗体またはその抗原結合性フラグメントである、請求項12に記載のリガンド。
【請求項15】
(a)ヒト被験者から天然に存在する細胞物質のサンプルを単離する工程と;
(b)該細胞物質において1つ以上のErbB2遺伝子の少なくとも一部分に由来する核酸物質を検査する工程と;
(c)そのような核酸物質が、ErbB2ポリペプチドをコードする配列中に1つ以上の変異を含むかどうか、を決定する工程と;
を含む、癌原性変異の検出方法。
【請求項16】
(a)癌性であると推測される被験者の天然に存在する組織に由来する細胞物質の第1のサンプルと、同一被験者の非癌性組織に由来する細胞物質の第2のサンプルと、を単離する工程と;
(b)細胞物質の該サンプルの両方において1つ以上のErbB2遺伝子の少なくとも一部分に由来する核酸物質を検査する工程と;
(c)そのような核酸物質が、ErbB2ポリペプチドをコードする配列中に1つ以上の変異を含むかどうか、を決定する工程と、ただし、該変異は、癌性であると推測される組織に由来する天然に存在する細胞物質中には存在するが、非癌性組織に由来する細胞物質中には存在しない;
を含む、癌原性変異の検出方法。
【請求項17】
前記変異が、点変異であり、かつErbB2の位置2263、2704、および2326の1つ以上で起こるか;または挿入であり、かつErbB2の位置2322もしくは2335の1つ以上で起こる、請求項15または請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記変異が、点変異であり、かつHetTT2263/4CC、HetG2740A、もしくはHetG2326Aであるか;または前記変異が、挿入であり、かつHet2322dup12ntもしくはHet2335ins9ntである、請求項18に記載の方法。
【請求項19】
(a)被験者から細胞物質のサンプルを取得する工程と;
(b)請求項12に記載のリガンドを用いて該サンプルをスクリーニングする工程と;
(c)該サンプルにおいて1つ以上の変異ErbB2ポリペプチドを検出する工程と;
を含む、癌原性変異の検出方法。
【請求項20】
前記変異ErbB2ポリペプチドが請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
核酸の増幅産物のサンプルの配列をモニタリングして、開始配列位置から終結配列位置まで延在する標的ドメイン中の測定された塩基対同定データを特定するサンプルデータセットを提供するように動作可能である配列検出デバイスと;
配列決定デバイスからサンプルデータセットを受け取るように接続されており、かつ標的配列位置の測定された塩基対同定データが標的配列位置の参照塩基対データに対応するかどうかを条件としてサンプル中の変異の存在または不在を決定するように動作可能である、データ解析ユニットと;
を備える、ErbB2ポリペプチドをコードする核酸中の標的配列位置における変異を検出するための装置。
【請求項22】
前記データ解析ユニットにより決定されたサンプル中の変異の存在または不在を示す出力を生成するように動作可能である出力デバイスをさらに含む、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記出力デバイスが、グラフィカルユーザーインターフェース;オーディブルユーザーインターフェース;プリンター;コンピューター可読記憶媒体;およびコンピューター解釈可能キャリヤー媒体のうちの少なくとも1つを備える、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
核酸の増幅産物のサンプルの配列決定を行って、開始配列位置から終結配列位置まで延在する標的ドメイン中の測定された塩基対同定データを特定するサンプルデータセットを提供することと;
標的配列位置の測定された塩基対同定データが標的配列位置の参照塩基対データに対応するかどうかを条件として、サンプル中の変異の存在または不在を決定することと;
決定工程により確定されたサンプル中の変異の存在または不在を示す出力を生成することと;
を含む、ErbB2ポリペプチドをコードする核酸中の標的配列位置における変異を検出するための自動化された方法。
【請求項25】
マーカーが組み込まれており、かつErbB2ポリペプチドのサンプル中の1つ以上の標的アミノ酸にマーカーを適用するように動作可能である、タンパク質マーキングデバイスと;
サンプル中のマーカーの存在または不在を決定することにより、サンプル中の変異の存在または不在を示すように動作可能であるマーカー解読デバイスと;
を備える、ErbB2ポリペプチドの変異を検出するための装置。
【請求項26】
前記マーカーが、変異を保有するErbB2ポリペプチドに優先的には結合するリガンドを含む、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記マーカーが、変異を有していない野生型のErbB2ポリペプチドに優先的には結合するリガンドを含む、請求項25に記載の装置。
【請求項28】
前記マーカーが抗体である、請求項25〜27のいずれか1項に記載の装置。
【請求項29】
前記タンパク質マーキングデバイスが、ELISA法を実施するように構成されている、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記タンパク質マーキングデバイスがマイクロアレイヤーを含む、請求項25に記載の装置。
【請求項31】
前記マーカー解読デバイスが、サンプルを光学的に解読するように構成されている、請求項25に記載の装置。
【請求項32】
前記マーカー解読デバイスにより決定されたサンプル中の変異の存在または不在を示す出力を生成するように動作可能である出力デバイスを備える、請求項25に記載の装置。
【請求項33】
前記出力デバイスが、グラフィカルユーザーインターフェース;オーディブルユーザーインターフェース;プリンター;コンピューター可読記憶媒体;およびコンピューター解釈可能キャリヤー媒体のうちの少なくとも1つを含む、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
ErbB2ポリペプチドのサンプル中の1つ以上の標的アミノ酸にマーカーを適用することと;
マーカーを適用した後、サンプルを解読して、サンプル中のマーカーの存在または不在を決定することにより、サンプル中の変異の存在または不在を示すことと;
解読工程により決定されたサンプル中の変異の存在または不在を示す出力を生成することと;
を含む、ErbB2ポリペプチドの変異を検出するための自動化された方法。
【請求項35】
前記変異が、ErbB2の位置2263、2704、および2326の1つ以上における点変異;HetTT2263/4CC、HetG2740A、またはHetG2326Aである点変異;ErbB2の位置2322または2335の1つ以上で起こる挿入;およびHet2322dup12ntまたはHet2335ins9ntである挿入よりなる群から選択されるものである、請求項21〜34に記載のいずれか1つに記載の装置または方法。
【請求項36】
(a)請求項1〜8のいずれか1項に記載の1種以上の変異ErbB2ポリペプチドを提供する工程と;
(b)該ポリペプチド(複数種可)を試験対象の1種以上の化合物に接触させる工程と;
(c)該1種以上の化合物と該変異ポリペプチドとの間の相互作用を検出する工程と;
を含む、抗増殖活性を有する1種以上の化合物の同定方法。
【請求項37】
前記相互作用が結合相互作用である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
(a)請求項1〜8のいずれか1項に記載の1種以上の変異ErbB2ポリペプチドを提供する工程と;
(b)ErbB2ポリペプチドに対する下流の基質を提供する工程と;
(c)試験対象の化合物(複数種可)の存在下で基質の改変を検出する工程と;
を含む、抗増殖活性を有する1種以上の化合物を同定するアッセイ。
【請求項39】
前記基質改変が直接検出される、請求項38に記載のアッセイ。
【請求項40】
前記基質が第2の基質を改変する酵素であり、この第2の改変が検出可能である、請求項38に記載のアッセイ。
【請求項41】
前記試験対象の1種もしくは複数種の化合物の不在下におけるアッセイで参照レベルが決定される、請求項36〜40のいずれか1項に記載の方法またはアッセイ。
【請求項42】
(a)ヒト被験者から天然に存在する細胞物質のサンプルを単離する工程と;
(b)該細胞物質において1つ以上のErbB2遺伝子の少なくとも一部分に由来する核酸物質を検査する工程と;
(c)そのような核酸物質が、ErbB2ポリペプチドをコードする配列中に1つ以上の変異を含むかどうか、を決定する工程と;
を含む、患者が抗ErbB2療法に反応すると予想されるかどうかを決定する方法。
【請求項43】
(a)被験者から細胞物質のサンプルを取得する工程と;
(b)本発明に係るリガンドを用いて該サンプルをスクリーニングする工程と;
(c)該サンプルにおいて1つ以上の変異ErbB2ポリペプチドを検出する工程と;
を含む、患者が抗ErbB2療法に反応すると予想されるかどうかを決定する方法。
【請求項44】
(a)腫瘍がErbB2依存性であるかどうかを決定する工程と;
(b)ErbB2依存性腫瘍を有する患者をErbB2活性の阻害剤で治療する工程と;
を含む、腫瘍に罹患している患者を治療する方法。
【請求項45】
(a)患者がErbB2依存性腫瘍に罹患しているかどうかを決定する工程と;
(b)ErbB2依存性腫瘍に罹患している患者にHerceptin(登録商標)および/またはOmnitarg(登録商標)を投与する工程と;
を含む、患者がHerceptin(登録商標)またはOmnitarg(登録商標)による療法に対して感受性を有するかどうかを決定する方法。
【請求項46】
腫瘍に由来する核酸物質を検査してErbB2遺伝子中のいずれかの1つ以上の変異の存在を同定することを含む、腫瘍がErB2依存性であるかどうかを決定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−515386(P2008−515386A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523153(P2007−523153)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002976
【国際公開番号】WO2006/010938
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(504229974)ザ ウェルカム トラスト リミテッド (4)
【Fターム(参考)】