説明

癒着防止材

【課題】(A)癒着を低減させる、(B)生体適合性に優れ、異物反応が少ない、(C)取り扱い性に優れる、(D)製造方法が容易である、(E)生体吸収性である、(F)抗菌性を有する、の6つの条件を同時に満たす癒着防止材を提供すること。
【解決手段】多糖類、脂肪族エステル及び薬剤の複合マトリックスで形成され、前記多糖類がプルラン及び/又はプルラン誘導体であり、当該多糖類の10重量%水溶液粘度は、50〜250mm/sである癒着防止材。前記脂肪族エステルが、乳酸、グリコール酸及びε−カプロラクトンの共重合体であり、当該共重合のモル比は、ポリL−乳酸/ポリグリコール酸/ポリε−カプロラクトン=60〜80/5〜15/15〜25である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用の癒着防止材に関する。本発明の癒着防止材は、生体組織の手術後の自己修復に伴って生じる癒着を低減させ、生体適合性に優れ、周辺組織の異物反応がすくなく、取り扱い殊に、濡れたときの強度、臓器への密着性、折り曲げた時の耐割れ性が優れており、再展開性が担保されている。また製造方法も容易でかつ、抗菌性を有し、生体吸収性であるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織の癒着の低減にあたっては、損傷部の組織が自己修復するまでの期間、損傷部に物理的障壁を設けて損傷部同士が癒合しないよう、物理的に隔離する方法がとられている。物理的な障壁には、ポリプロピレン樹脂やシリコーン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などが使用されてきた。しかしながらそれらの素材は、生理活性は比較的低いものの、生体内に吸収されることはないため、永続して生体内に存在することが問題になっていた。さらにそれらの素材は生体組織に対しての接着性を有することがないため、一時的に術後に損傷した患部に適応しても、ずれたりするために効果的に癒着を低減するとは言い難かった。さらには、腸の吻合などの際、生体内の常在菌により患部が感染するという事例も報告されている。
【0003】
そのような状況で、本発明の目標である、(A)癒着を低減させる、(B)生体適合性に優れ、異物反応が少ない、(C)製造方法が容易である、(D)生体吸収性である、のおのおのに満足させることを目標とした材料が検討され一部が実用化されている。しかし、本発明の目標である、(E)取り扱い性に優れる、(F)抗菌性を有する、癒着防止材は検討されていない。上記(A)から(D)を満足させるために例えば、そのような性質を満足させる素材としては、(1)ヒアルロン酸などの多糖類、(2)ポリ乳酸など生分解性ポリマー、(3)コラーゲンや牛心膜などの天然由来の材料、(4)合成高分子へのアミノ酸修飾体などが検討されてきた。
【0004】
(1)ヒアルロン酸、アルギン酸、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムやその誘導体などの多糖類を主成分に検討する試み(特許文献1及び特許文献2)は、生体適合性は有するが損傷した患部に適用した際、その場にとどまることが出来ず物理的障壁を癒着を軽減させるのに必要な期間とどまることができず、癒着の低減という目的を果たすのが困難であった。さらにはそれらの多糖類(ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、またそれらの塩、等)を乾燥させてシート状に成形する試みも行われているが(特許文献3:[0040]から[0046])多糖類は親水性であるため、濡れに対して、脆弱であり術中の取り扱い性が非常に悪い。例えば手術中にぬれたピンセットなどでの扱いができない。取り扱い性が悪いということは、経済性にも直結する。すなわち手術の際、膜が脆弱すぎるために一旦しわになると再展開できず、失敗したときの経済的な損失が大きいということである。また、多糖類を検層するときのデメリットとしては、感染に対して、弱いということがあげられる。感染症を引き起こした際に、使用した多糖類が感染した細菌の温床となるためである。また、それら多糖類を何らかの架橋剤にて架橋し生体内での存在期間を長くしようとする試み(特許文献4)も行われている。しかしながら参考文献に見られるように、前処理として、カルボキシル基を有する多糖に、カルボニルジイミダゾール、カルボニルトリアゾール、ヨウ化クロロメチルピリジリウム、ヒドロキシベンゾトリアゾール、p−ニトロフェノールp−ニトロフェニルトリフルオロアセテート、N−ヒドロキシスクシンイミド等と反応させ、かつ、特定構造のポリアミンで架橋するゲル化方法などは、生体に対しての毒性リスクが、十分評価されておらず、生体吸収性の素材に使用することは推奨はできない。また、製造方法自体も煩雑である。
【0005】
(2)ポリ乳酸などのポリエステル系生体吸収性ポリマーを用いた検討も行われている。ポリエステル系生体吸収性ポリマーは乳酸、グリコール酸、カプロラクトンやポリジオキサノンその他の脂肪族系の素材が使われるが、それらの検討の中ではそれぞれのポリマーの共重合比の検討や構造を多孔質にする試み(特許文献5)などが実施されている。さらにはそのポリマーに対して無機化合物(りん酸カルシウム)を含有させる試み(特許文献6)も存在する。しかしながらそれらの試みでは、癒着防止材として使用しようとした際の、それら生体吸収性ポリマーの根本的な問題である、生体への接着性を積極的に検討し、解決した発明は存在しない。
【0006】
(3)コラーゲンや、牛心膜を化学的に処理して、人の癒着防止材として使用しようとする試みは古くから行われてきた。しかしながら、牛からの感染症などの問題が取り立たされる現在、それらを使用することは患者のLOQの向上という観点から推奨できるものではない。
【0007】
(4)合成高分子へのアミノ酸の修飾(特許文献7)は、ポリエチレングリコールへのアミノ酸修飾などが行われているが、安全性の問題などを鑑みれば実用的な技術としては、今後も安全性などのリスク評価が積み重ねられてしかるべきである。また、製造上の問題としては、それらを容易に安定して製造することが問題である。
【0008】
(5)取り扱い性を改良する試み(特許文献8)も見受けられる。しかしながら、実質的にこの取り扱い性の改良の試みは、支持層および接着層を2つの層に分け、且つ、最外層にはシリコーン等の高分子を使用することを想定しており、所謂、粘着テープ状の構造を有する。粘着テープ状の構造では、癒着防止機能を満足させるために、臓器と臓器の間に積極的に挟みいれることを予期しているとは言えず、癒着防止性能が不十分であることが予想される。このような試みもまた、先にのべた癒着防止材としての性能すべてを満足させることはできない。
【0009】
(6)癒着防止材に抗菌性を持たせることは、検討されていない。類似の技術としてはガーゼなどの創傷被覆材にキトサンなとの抗菌性を有する物質を添加したものが製品化されている。しかしながら本発明のように腹腔内などに適応し積極的に臓器に接触するような形態、効能を検討していない。
【0010】
【特許文献1】特開昭57−167919(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−24431(特許請求の範囲及び[0014])
【特許文献3】特表2003−518167([0040]から[0046])
【特許文献4】特許第3107726号(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2000−197693(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2001−192337(特許請求の範囲)
【特許文献7】国際公開番号WO00/71602(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開2003−126235[0012]及び[0013]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現在の技術は、個々の要求性能或いは目的を達成するために、それぞれの技術分野での進歩は進んでいるが、すべての要求性能を満たすための技術の最適化は行われておらず、患者のための、現実的な癒着防止材はいまだに開発されていないことが現状である。
このような状況で、本発明では(A)癒着を低減させる、(B)生体適合性に優れ、異物反応が少ない、(C)取り扱い性に優れる、(D)製造方法が容易である、(E)生体吸収性である、(F)抗菌性を有する、の6つの条件を同時に満たすことを、鋭意検討した結果、以下の結果に詳記する発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]本発明は、多糖類、脂肪族エステル及び薬剤の複合マトリックスで形成され、
前記多糖類がプルラン及び/又はプルラン誘導体であり、当該多糖類の10重量%水溶液粘度は、50〜250mm2/sである癒着防止材を提供する。
[2]本発明は、前記脂肪族エステルが、乳酸、グリコール酸及びε−カプロラクトンの共重合体であり、当該共重合のモル比は、ポリL−乳酸/ポリグリコール酸/ポリε−カプロラクトン=60〜80/5〜15/15〜25である[1]に記載の癒着防止材を提供する。
[3]本発明は、前記薬剤がニューキノロン系の抗菌剤である[1]または[2]に記載の癒着防止材を提供する。
[4]本発明は、前記複合マトリックスがシート状で、全体の厚みが0.01mm〜5mmである[1]から[3]のいずれか1項に記載の癒着防止材を提供する。
[5]本発明は、前記シートは、少なくとも一層が脂肪族エステルより形成され、少なくとも一層が多糖類により形成されている[1]から[4]のいずれか1項に記載の癒着防止材を提供する。
[6]本発明は、前記シートは、三層より形成され、中間層が脂肪族エステルより形成され、
当該中間層の両側の層が多糖類により形成されている[1]から[5]のいずれか1項に記載の癒着防止材を提供する。
[7]本発明は、前記多糖類に前記薬剤を混合した[1]から[6]のいずれか1項に記載の癒着防止材を提供する。
[8]本発明は、三層シートより形成され、
中間層は、乳酸、グリコール酸及びε−カプロラクトンの共重合体から形成され、当該共重合のモル比は、ポリL−乳酸/ポリグリコール酸/ポリε−カプロラクトン=60〜80/5〜15/15〜25であり、
中間層の両側の層は、プルラン及び/又はプルラン誘導体から形成され、
当該プルラン及び/又はプルラン誘導体に、ニューキノロン系の抗菌剤を混合した、癒着防止剤を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では(A)癒着を低減させる、(B)生体適合性に優れ、異物反応が少ない、(C)取り扱い性に優れる、(D)製造方法が容易である、(E)生体吸収性である、(F)抗菌性を有する、の6つの条件を同時に満たす癒着防止材が完成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための材料な形態を詳細に説明する。
本発明の癒着防止材は、多糖類、脂肪族エステル及び薬剤の複合マトリックスで形成された癒着防止材に関する。
【0015】
[多糖類]
本発明は癒着防止材を形成する複合マトリックスの一成分として、多糖類を含有する。多糖類は、天然多糖類及び/又はこれらの誘導体などを含む。なおこれら多糖類のなかで、好適な多糖類としては、水溶性であり、また含水時に増粘作用を有するものが好適である。例えばプルラン及び/又はプルラン誘導体が好適である。
これら多糖類の増粘作用としては、10重量%水溶液の粘度が50〜250mm2/sであることが好ましい。50mm2/s未満であると増粘作用が弱すぎ、臓器に密着した際に、臓器との間に十分な表面張力を有することなく密着性が乏しい。また、250mm2/sを超えると、臓器表面の体液に馴染むのみ時間がかかるために、結果として表面密着性は低くなる。
また患部へ適応した際、異物反応を起こさぬよう、生体適合性を有することが必要である。さらに癒着防止材の形状によるところであるが、目的とする複合マトリックスの形状に加工可能な材料であることが必要である。さらには、その形状に加工したときの、耐屈曲疲労性や衝撃強さで表される耐割れ性は優れているほうがよい。
【0016】
[脂肪族エステル]
また本発明は癒着防止材を形成する複合マトリックスの一成分として、脂肪族エステルを含有する。脂肪族エステルは脂肪族のポリエステルであることが望ましい。目的とする癒着防止材の形状に成形できることも重要である。脂肪族のポリエステルとしては、生体内分解吸収性高分子が使用される。生体内分解吸収性高分子とは、生体内で分解吸収され、分解吸収の段階においては、加水分解や酵素分解されて最終的には代謝されて生体内より排出される高分子である。このような脂肪族のポリエステルであるところの分解吸収性高分子は、特に限定するものではないが、例えば生体内で加水分解ないし吸収される、乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトン等の脂肪族のポリエステルが好適である。これらの脂肪族ポリエステルの中で、3種程度の共重合させたものが好適である。脂肪族のポリエステル化合物としては、乳酸、グリコール酸などを、それぞれを重合単位として、単独重合や共重合が可能であり、且つ共重合単位で分解吸収速度や物性が異なるためで、それぞれの共重合比、分子量での分解吸収性や物性を制御可能であるために好適である。
【0017】
またこれらの分解吸収や物性を制御可能な脂肪族のポリエステルのうち、さらに好適なものは、ポリ乳酸/ポリグリコール酸/ポリε−カプロラクトン=60〜80/5〜15/15〜25の共重合比を有する共重合体である。
この共重合体では、ポリ乳酸の比率で物性をコントロールしているが、60mol%未満では強度が不足し、縫合に耐えられないし、80mol%を超えると、剛性が高くなりすぎて可とう性が失われる。また、グリコール酸の比率は、分解性を制御している。分解性の制御はポリ乳酸との共重合比率によっても変わるが、ポリ乳酸の共重合比率が60〜80のときは概ね、ポリグリコール酸の比率は5〜15mol%が好ましい。5mol%未満では、分解期間が長くなりすぎる可能性があり、速やかに生体内で分解されないために好ましくない。ε−カプロラクトンの比率は、可とう性など柔軟性を制御している。また、ε‐カプロラクトンの比率が、15mol%未満では柔軟性が不足し、25mol%を超えると柔軟性を得ることはできるが、分解吸収性が遅くなり、また強度も低くなりやすい。いずれにしても3成分のmol%の比率が大きく物性に関わることとなるが、好適には前記に示した、ポリL−乳酸/ポリグリコール酸/ポリε−カプロラクトン=60〜80/5〜15/15〜25の間にあることが好ましい。
【0018】
[薬剤]
本発明は癒着防止材を形成する複合マトリックスの一成分として、薬剤を含有する。癒着防止材に使用する薬剤としては、いかなるものにも限定されるものではない。癒着防止材は消化器官への適応症例が多く、消化器官には常在菌の存在が知られている。常在菌は、例えば腸管の吻合部を介して、腹腔内に拡散し、感染症を引き起こし、患部の治癒を遅くするとともに、重篤な場合は、敗血症などの生命の危機を引き起こす可能性がある。
そのようなことから本発明における癒着防止材への適応は抗菌剤が好ましく、さらにその中では広範な抗菌スペクトルを有する、ニューキノロン系の抗菌剤が好ましい。
さらには、ニューキノロン系の抗菌剤には、スパルフロキサシン、エンロフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、シプロフロキサシン、ロメフロキサシン、トスフロキサシン、フレロキサシン、レボフロキサシン又はこれらの混合物などがあるが、その中でも好適なものはノルフロキサシンである。
【0019】
[形状]
本発明の癒着防止材の形状としては、上記3成分からなる複合マトリックスであればいかなる形状であっても許容されるが、複合マトリックスを利用するに当たっては、層状(シート状ともいう)であることが好適である。また、複合マトリックスの複合化に関しては、組み合わせたそれぞれの性能を発揮するため、本発明の最良の実施形態では層状の構造である。詳しくは、脂肪族エステルと多糖類の層がそれぞれ存在し、機能を発現できるようにした。さらに詳述すれば、図1に例示するように、内層2(中間層)に脂肪族エステルの層を形成し、その両側の外層3、4に多糖類の層を形成して、三層構造としたものである。
薬剤成分は薬剤の効能や目的とする効果によって、考慮するべきであるが、上記の抗菌剤の場合、外層3、4の多糖類に含有(混合)させることが望ましい。
更に、それらの三層構造のシートの全体の厚みは、内層の脂肪族エステルの物性にもよるが、厚みは、0.1から5mm、好ましくは0.2mm以下である。薄膜であれば、生体内に導入した際、臓器と臓器の間を想定するが、そもそも間隙などない腹腔内に入れるので、その構造は薄膜のほうが好都合である。
【実施例】
【0020】
実施例1
(共重合体からなる内層の作製)
重量平均分子量が11万の乳酸/グリコール酸/カプロラクトンの共重合体をホットプレスにて0.035mmに成形し内層を得た。乳酸/グリコール酸/カプロラクトンの共重合体の共重合比は表1に記載の3種類を用いた。
(多糖類からなる外層の作製)
多糖類1.5%水溶液を作製し、その多糖類量に対して0.3重量%になるようにノルフロキサシンを添加し、加熱し溶解させた。その水溶液25mLを約40cm2に垂涎し、50℃のオーブン中で乾燥させて、外層となるキャストフィルムを得た。多糖類は、表1及び表2に記載の4種類を用いた。
【表1】

(実験用サンプルの作製)
前記内層の両面に外層を積層し、ホットプレスによって圧着し、3層構造の複合マトリックスを作製した。複合マトリックスは、表2の共重合体と多糖類の組み合わせによって、計9種類作製した。前記3層構造、3成分からなる複合マトリックスを5cm×5cm、厚さ0.1mmに切り出して、実験用のサンプルを作製した。
(動物実験)
ラットの盲腸の一部と、腹壁を損傷させ、その間に複合マトリックス(2cm×2cm)を挿入した。2週間後、4週間後に開腹し目視により癒着の程度を確認した(各5症例)。その際、手術における取り扱い性の良し悪しを、医師に確認した。
【0021】
【表2】

【0022】
[結果のまとめ]
実施例のNO1は、実使用に問題はなかった。
実施例のNO2は、実使用に問題はなかった(膜の色は、淡黄色)
比較例のNO3は、適応した際周辺組織に異物反応を生じた。製造時にキャストフィルムで厚みの均一な薄膜を作製するのが困難であった。
比較例のNO4、15は、製造時に多糖類の薄膜を作製するのが困難であり、作製した薄膜は脆かった。
比較例のNO5、8、11は、多糖類を使用していないので臓器との密着性が乏しく、癒着を防止するまで臓器間に留まることが出来ず、癒着を軽減する性能が乏しかった。
比較例のNO6、7、8は、3ヵ月後の分解吸収性が乏しかった。また、膜が柔軟すぎて、製造上、煩雑であった。
比較例のNO9、10、11は、3ヵ月後の分解吸収性が乏しかった。また膜が硬くなりすぎて臓器の曲線部への適応が困難であった。
比較例のNO12、13、14、15は、脂肪族エステルを使用していないため、臓器間に長時間依存することができず、癒着を低減する性能が乏しかった。
【0023】
【表3】

【0024】
実施例2
(実験用サンプルの作製)
実施例1と同様に、本発明の実施例のサンプルとして、3層構造からなる複合マトリックス(20mm×20mm、厚さ0.1mm)を作製した。なお抗菌剤(ノルフロキサシン)の添加量を、多糖類に対して重量比0.3重量%(サンプルNO16)と3重量%(サンプルNO17)のものを二種類作製した。比較例のサンプルとして、カルボキシメチルセルロースとヒアルロン酸ナトリウムのみからなるキャスト膜(20mm×20mm、厚さ0.07mm、抗菌剤の添加なし)を二種類作製した。それぞれサンプルNO18、NO19。
ラットを開腹し大腸より便じゅうを採取した。大腸菌のみを分離培養し増量させた後、菌数を109CFU/mlの溶液を作成した。ラットを開腹し、正中創直下にサンプルNO16、17(実施例)(20×20mm)、サンプルNO18、19(比較例)(20mm×20mm)を留置し、大腸菌浮遊液1ml滴下し、縫合閉鎖した。3日後にそれぞれのラットの腹壁を綿棒で擦過し、生存率を確認した。綿棒より採取された標本を白金耳により、徐々に希釈してはん種し培養してディスクのコロニーの状態を肉眼的に確認し細菌を測定した。結果を表4に示す。
【0025】
【表4】

表4の結果より、比較例のサンプルNO18、19では、膜の留置により大腸菌が増え腹膜炎を悪化させている可能性が考えられる。本発明の実施例のサンプルNO16、17は、ノルフロキサシンを含むことにより大腸菌の増加を防いでいると考えられる。
【0026】
以上のように、本発明の癒着防止材は、癒着防止性能、安全性(生体適合性)、取り扱い性、製造性、吸収性(3ヶ月間)、抗菌性の6つの条件をみたしている。また、本癒着防止用の3成分のマトリックスは、様々な部位や局面で使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の癒着防止材の一例を示す概略図
【符号の説明】
【0028】
1 癒着防止材
2 内層
3、4 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類、脂肪族エステル及び薬剤の複合マトリックスで形成され、
前記多糖類がプルラン及び/又はプルラン誘導体であり、当該多糖類の10重量%水溶液粘度は、50〜250mm2/sであることを特徴とする癒着防止材。
【請求項2】
前記脂肪族エステルが、乳酸、グリコール酸及びε−カプロラクトンの共重合体であり、当該共重合のモル比は、ポリL−乳酸/ポリグリコール酸/ポリε−カプロラクトン=60〜80/5〜15/15〜25であることを特徴とする請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項3】
前記薬剤がニューキノロン系の抗菌剤であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の癒着防止材。
【請求項4】
前記複合マトリックスがシート状で、全体の厚みが0.01mm〜5mmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1の請求項に記載の癒着防止材。
【請求項5】
前記シートは、少なくとも一層が脂肪族エステルより形成され、少なくとも一層が多糖類により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1の請求項に記載の癒着防止材。
【請求項6】
前記シートは、三層より形成され、中間層が脂肪族エステルより形成され、
当該中間層の両側の層が多糖類により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1の請求項に記載の癒着防止材。
【請求項7】
前記多糖類に前記薬剤を混合したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1の請求項に記載の癒着防止材。
【請求項8】
三層シートより形成され、
中間層は、乳酸、グリコール酸及びε−カプロラクトンの共重合体から形成され、当該共重合のモル比は、ポリL−乳酸/ポリグリコール酸/ポリε−カプロラクトン=60〜80/5〜15/15〜25であり、
中間層の両側の層は、プルラン及び/又はプルラン誘導体から形成され、
当該プルラン及び/又はプルラン誘導体に、ニューキノロン系の抗菌剤を混合した、ことを特徴とする癒着防止剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−109979(P2008−109979A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293575(P2006−293575)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【出願人】(503091895)
【出願人】(503091910)
【出願人】(503091921)
【出願人】(503091943)
【出願人】(505040833)
【Fターム(参考)】