説明

発光ダイオード素子及びその製造方法

【課題】製造が容易であり、エネルギー利用効率に優れ、白色光源として使用可能な発光ダイオード素子の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の柱状ナノ構造体13が表面上に形成された基板11が設置されたチャンバ内に対して、ガリウム化合物又はアルミニウム化合物を含む第1のIII族原料ガスと、V族原料ガスと、インジウム化合物を含む第2の原料ガスを供給する。第2の原料ガスの吸収端波長よりも長波長からなる光を照射する。これによって、柱状ナノ構造体13の形状に応じて発生させられる近接場光に基づき、インジウム化合物を含む第2の原料ガスが分解され、III-V族化合物半導体層15が柱状ナノ構造体13の外面上に成長される。これによって得られたIII-V族化合物半導体層15は、柱状ナノ構造体13の形状に応じたインジウムの濃度分布を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード素子及びその製造方法に関し、特に、可視光域における広い帯域の発光スペクトルを有し、白色光源として使用するのに好適な発光ダイオード素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系青色発光ダイオード素子の発明以来、発光ダイオード素子関連の技術の進展が目覚しい。その中でも、効率性、信頼性に優れた白色光源として使用可能な白色発光ダイオード素子の製造技術については、年々著しい進歩を遂げている。
【0003】
従来から提案されている白色発光ダイオード素子の製造技術の一つとしては、赤色、黄色並びに緑色の各色の発光ダイオード素子を一つのパッケージ内に実装させ、これら各発光ダイオード素子を同時に点灯させ、発光色を混色させることによって白色光を実現する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、この他の白色発光ダイオード素子の製造技術としては、青色発光ダイオード素子や、紫外線発光ダイオード素子からの光によって励起される蛍光体を発光ダイオード素子の近傍に設け、この蛍光体によって波長変換を行い、白色光を発生させる技術が提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平07−211939号公報
【特許文献2】特開2002−198573号公報
【特許文献3】特開2005−229048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されたような、三色の発光ダイオード素子を用いて白色光を実現する場合、各色の発光ダイオード素子ごとに駆動電圧、発光出力強度が異なっているため、所望の発光スペクトルを有する白色光源を実現するために、複雑な電力供給回路、並びに駆動回路を設ける必要があった。このため、三色の発光ダイオード素子を用いて白色光を実現する場合は、製造工程数が多くなり製造コストが上昇し易く、さらには、発光ダイオードを小型化しにくいという問題点があった。
【0007】
また、上述の特許文献2や特許文献3に開示されたような、蛍光体を用いて白色光を実現する場合、発光ダイオード素子から生じた光の一部が、蛍光体内において熱エネルギーに変換されたり、蛍光体内で散乱することになるため、光エネルギーの損失が大きく、エネルギー利用効率が悪いという問題点がある。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、製造が容易であり、エネルギー利用効率に優れ、白色光源として使用するのに好適な発光ダイオード素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために、複数の柱状ナノ構造体が表面上に形成された基板が設置されたチャンバ内に対して、ガリウム化合物又はアルミニウム化合物を含む第1のIII族原料ガスと、V族原料ガスと、インジウム化合物を含む第2の原料ガスとを上記チャンバ内へ供給し、上記第2のIII族原料ガスの吸収端波長よりも長波長からなる光を照射することによって、上記柱状ナノ構造体の形状に応じて発生させられる近接場光に基づき上記第2の原料ガスを分解させて、In系III-V族化合物半導体層を上記柱状ナノ構造体の外面上に成長させる工程を有することを特徴とする発光ダイオード素子の製造方法を発明した。
【0010】
即ち、本願請求項1に係る発光ダイオード素子の製造方法は、複数の柱状ナノ構造体が表面上に形成された基板が設置されたチャンバ内に対して、ガリウム化合物又はアルミニウム化合物を含む第1のIII族原料ガスと、V族原料ガスと、インジウム化合物を含む第2の原料ガスとを上記チャンバ内へ供給し、上記第2のIII族原料ガスの吸収端波長よりも長波長からなる光を照射することによって、上記柱状ナノ構造体の形状に応じて発生させられる近接場光に基づき上記第2の原料ガスを分解させて、III-V族化合物半導体層を上記柱状ナノ構造体の外面上に成長させる工程を有することを特徴とする。
【0011】
本願請求項2に係る発光ダイオード素子の製造方法は、複数の柱状ナノ構造体が表面上に形成された基板が設置されたチャンバ内に対して、ガリウム化合物又はアルミニウム化合物を含む第1のIII族原料ガスと、V族原料ガスとを上記チャンバ内へ供給し、第1のIII-V族化合物半導体層を上記柱状ナノ構造体の外面上に成長させる工程と、V族原料ガスと、インジウム化合物を含む第2のIII族原料ガスとを上記チャンバ内へ供給し、上記第2の原料ガスの吸収端波長よりも長波長からなる光を照射することによって、上記柱状ナノ構造体の形状に応じて発生させられる近接場光に基づき上記第2の原料ガスを分解させて、第2のIII-V族化合物半導体層を上記柱状ナノ構造体の外面上に成長させる工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本願請求項3に係る発光ダイオード素子の製造方法は、本願請求項1又は2に記載の発明において、上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記柱状ナノ構造体の形状に応じて形成される局所領域に近接場光を発生させ、その発生させた近接場光に基づき上記第2の原料ガスを分解させることを特徴とする。
【0013】
本願請求項4に係る発光ダイオード素子の製造方法は、請求項1〜3の何れか1項に記載の発明において、上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程の前に、上記柱状ナノ構造体の外面上に第1導電型のクラッド層を成長させる工程を更に有し、上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程の後に、上記柱状ナノ構造体の外面上に第2導電型のクラッド層を成長させる工程を更に有することを特徴とする。
【0014】
本願請求項5に係る発光ダイオード素子の製造方法は、請求項1〜3の何れか1項に記載の発明において、上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記柱状ナノ構造体と上記基板との間に第1導電型のクラッド層が積層された基板の上記柱状ナノ構造体の外面上に、当該III-V族化合物半導体層を成長させ、上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程の後に、上記柱状ナノ構造体の外面上に第2導電型のクラッド層を成長させる工程を更に有することを特徴とする。
【0015】
本願請求項6に係る発光ダイオード素子の製造方法は、請求項1〜5の何れか1項に記載の発明において、上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記柱状ナノ構造体としてZnOからなるナノロッドが形成された基板の上記柱状ナノ構造体の外周面上に、当該III-V族化合物半導体層を成長させることを特徴とする。
【0016】
本願請求項7に係る発光ダイオード素子の製造方法は、請求項1〜6の何れか1項記載の発明において、上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記第1の原料ガス及び上記V族原料ガスを、上記基板を所定温度に加熱する、又はプラズマ放電によって分解させ、当該III-V族化合物半導体層を成長させることを特徴とする。
【0017】
本願請求項8に係る発光ダイオード素子の製造方法は、請求項1〜7の何れか1項に記載の発明において、上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記第1のIII族原料ガスを供給する代わりに、分子線エピタクシー法によってガリウム原子又はアルミニウム原子を上記チャンバ内へ供給し、当該III-V族化合物半導体層を成長させることを特徴とする。
【0018】
また、本発明者は、基板と、上記基板の表面上に形成された複数の柱状ナノ構造体と、上記柱状ナノ構造体の外面上に積層され、ガリウム又はアルミニウムとインジウムとが含有されてなるIII-V族化合物半導体層とを備え、上記III-V族化合物半導体層は、上記柱状ナノ構造体の形状に応じたインジウムの濃度分布を有することを特徴とする、本願請求項9に記載の発光ダイオード素子を発明した。
【0019】
本願請求項10に係る発光ダイオード素子は、本願請求項9に記載の発明において、上記柱状ナノ構造体の外面上には、第1導電型のクラッド層、上記III-V族化合物半導体層及び第2導電型のクラッド層が順次積層されていることを特徴とする。
【0020】
本願請求項11に係る発光ダイオード素子は、本願請求項9に記載の発明において、上記柱状ナノ構造体は、上記基板上に積層された第1導電型のクラッド層上に形成され、上記柱状ナノ構造体の外面上には、上記III-V族化合物半導体層及び第2導電型のクラッド層が順次積層されていることを特徴とする。
【0021】
本願請求項12に係る発光ダイオード素子は、本願請求項10又は11に記載の発明において、上記第1導電型のクラッド層、上記III-V族化合物半導体層及び上記第2導電型のクラッド層に対して電圧を印加するための一組の電極を更に備えることを特徴とする。
【0022】
本願請求項13に係る発光ダイオード素子は、本願請求項9〜12の何れか1項記載の発明において、上記柱状ナノ構造体は、ZnOからなるナノロッドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法によって、図6に示すように、活性層15を積層させるべき層の表面において、TMIn等のIII族原料ガスやNH等のV族原料ガスが熱解離等により分解され、成長することになる。また、ナノロッド13の角部13aや境界部13bにおいて、即ち、電場強度の強い近接場光が生じやすい局所領域においては、光源43から照射される光に基づき近接場光が発生する。この発生した近接場光によって、TMInが光解離によってInに大量に分解され、その局所領域において成長することになる。ここで、In以外の原料ガスであるTMGやTMAl等よりもInの原料ガスであるTMIn等のほうが、照射される光と吸収端波長との差が小さいため、In以外の原料ガスの分解量に対してInの原料ガスは1000倍程度多い量分解されることになる。このため、その局所領域の近傍においてInの組成比が高くなり、その局所領域から離間するにつれて連続的にInの組成比が低くなることになる。即ち、本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法によって、ナノロッド13の形状に応じた、Inの濃度分布を有する活性層を得ることができる。
【0024】
また、本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法によって得られる発光ダイオード素子は、Inと他のIII族元素とを含むIn系III-V族化合物半導体層である活性層15の、Inの他のIII族元素に対する濃度分布が、ナノロッド13の形状に応じて異なっている。Inの他のIII族元素に対する濃度分布が多い部位においては、バンドギャップが小さくなって発光波長が長くなり、Inの他のIII族元素に対する濃度分布が少ない部位においては、バンドギャップが大きくなって発光波長が短くなる。このため、Inの他のIII族元素に対する濃度分布が多い部位である、ナノロッド13の角部13aや境界部13bのような、ナノロッド13の形状に応じて形成される局所領域の近傍においては、例えば、赤色のような放射光が得られ、その局所領域から離間するにつれて、例えば、赤色領域から黄色、緑、青色と連続的に色の異なる放射光が得られることになる。これは、ナノロッド13一つにつき、例えば赤色のようなバンドギャップが比較的小さい場合に得られる発光色から、青色のようなバンドギャップが比較的大きい場合に得られる発光色までの幅広い発光スペクトルの放射光を得ることが可能であること、即ち、白色光源として利用可能な活性層15を得ることが可能であることを意味している。このため、このようなナノロッド13が複数形成されている発光ダイオード素子1により、これを白色光源として用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、白色光源として使用可能な発光ダイオード素子の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
まず、本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法によって形成された発光ダイオード素子について説明する。
【0027】
図1は、本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法によって形成された、発光ダイオード素子1の構成を示しており、(a)はその概略断面側面図を、(b)はその平面図を、(c)が一部拡大断面側面図を示している。
【0028】
図1に示すように、発光ダイオード素子1は、基板11と、基板11の表面上に形成された複数のナノロッド13とを備えている。基板11上には、図1(a)や図1(c)に示すように、n型クラッド層12が積層されており、複数のナノロッド13は、そのn型クラッド層12の上に形成されている。複数のナノロッド13の外面上並びにn型クラッド層12上には、活性層15と、透明絶縁層16と、p型クラッド層17とが順次積層されている。また、n型クラッド層12の一部の上面12aは、露出されるように形成されており、その露出された上面12aに電極パッド18が取り付けられている。また、p型クラッド層17の表面には電極パッド19が取り付けられている。
【0029】
基板11は、その表面上において半導体層を堆積、成長させるために用いられるものである。基板11の材質は、例えば、サファイア(Al)やシリコンカーバイト(SiC)によって構成されるものであるが、これに限定されるものではない。
【0030】
ナノロッド13は、図2に示すように、基板11の表面に対して略直立状態となるように形成された柱状のナノ構造体である。ナノロッド13の材質は、本実施の形態において、ZnOから構成されているが、これに限定されるものではなく、例えばGaN、AlN、AlGaN若しくはAlGaInNによって構成されていてもよい。
【0031】
ナノロッド13の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の如何なる手法によって具体化されていてもよい。ナノロッド13は、例えば、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によって製造される。
【0032】
n型クラッド層12は、本実施の形態において、Siのようなn型不純物元素が導入されたGaNである。また、p型クラッド層17は、本実施の形態において、Mgのようなp型不純物元素が導入されたGaNである。なお、この他のn型クラッド層12、p型クラッド層17としては、例えば、AlNが挙げられるが、これに限定するものではなく、公知のいかなる組成のクラッド層から構成されていてもよい。
【0033】
透明絶縁層16は、基板11上に形成された複数のナノロッド15間を絶縁するとともに、複数のナノロッド15に加えられる衝撃からナノロッド15そのものを保護するために積層されるものである。また、透明絶縁層16は、ナノロッド15の表面に形成された活性層15の上部が、p型クラッド層17によって共通して電気的に連結されるようにする下地層の役割を果たす。このため、透明絶縁層16は、図1(a)に示すように、その上端部16a高さが活性層15の上端部15a高さより低くなるようにされている。透明絶縁層16の材質は特に限定されないが、例えば透明なSOG(Spin On Glass)、SiO或いはエポキシ樹脂等によって具体化される。
【0034】
電極パッド18、電極パッド19は、n型クラッド層12とp型クラッド層17とに対して電圧を印加するための一組の電極端子として取り付けられるものである。この電極パッド18、電極パッド19の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、3〜7nm程度の厚みからなり、Ti、Al、Pd、Au等から選択される何れか一種又は二種以上によって構成される。電極パッド18、電極パッド19には、図示しないワイヤがボンディングされ、これによって電圧が印加される。
【0035】
活性層15は、本発明において最も重要な半導体層である。活性層15は、p型クラッド層12からn型クラッド層17に通電した場合に、即ち、順方向に通電した場合に発光する半導体層のことをいう。活性層15は、本実施の形態において、ガリウム(Ga)と、インジウム(In)と窒素(N)とを含有し、InGaNで表されるIn系III-V族化合物半導体として構成されるものである。活性層15に含有されるGaと、Inとは、Inの主発光ピークの方が、Gaの主発光ピークよりも長波長側の波長領域に属するという条件を満たしている。
【0036】
なお、活性層15は、上述のInGaNからなるものに限定するものではなく、III族元素としてInと、アルミニウム(Al)又はGaのうちの一種又は二種とを含有するとともに、V族元素としてN、リン(P)、砒素(As)、のうちの何れか一種が含有されていればよい。活性層15は、例えば、InGaNの他に、InAlN等の3元混晶の半導体層や、AlInGaN、AlInGaPのような4元混晶の半導体層として構成されるものであるが、Inを含有する公知の3元混晶、4元混晶、5元以上の混晶の半導体層として構成されるものであれば特に限定しない。
【0037】
以下、本実施の形態においては、活性層15として、Ga並びにInとNとのIn系III-V族化合物半導体として構成される活性層15を例に説明する。
【0038】
活性層15は、図3に示すように、本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法によって、ナノロッド13の形状に応じたInの濃度分布を有するように形成されている。このInの濃度分布は、ナノロッド13の形状に応じた位置において、InGa(1−x)N(0≦x≦1)の組成比で表されるものとする。活性層15の濃度分布は、例えば、ナノロッド13の上端の角部13aの近傍や、活性層15が積層されるべき層であるn型クラッド層12とナノロッド13との境界部13bの近傍において、Gaに対するInの組成比が高く構成され、その角部13aや境界部13bから離間するにつれて、Gaに対するInの組成比が減少するようにされている。これは、後述するように、ナノロッド13の形状に応じて形成される、角部13aや境界部13bのような局所領域において、近接場光が発生することに基づいている。
【0039】
次に、図4に概略的に示すような、本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法を実現するための結晶成長装置3について説明する。
【0040】
この結晶成長装置3は、MOVPE法を実現するために用いられる装置である。
【0041】
結晶成長装置3は、チャンバ31と、チャンバ31内に配置され、基板11を載置するためのステージ33と、チャンバ31内に原料ガスを供給するための複数のガス供給管35と、チャンバ31内の原料ガス等を排気するためのガス排気管37と、チャンバ31内に光を導入するための開口窓39とを備えている。
【0042】
チャンバ31内には、n型クラッド層12や活性層15等の各半導体層の原料となる原料ガスが複数のガス供給管35から供給されている。チャンバ31内には、チャンバ31内の圧力を検出する図示しない圧力センサが設けられており、圧力センサによって検出された圧力に基づいて、ガス供給管35からのガス供給量並びにガス排気管37による排気量を調節して、チャンバ31内の内圧の自動制御が可能となっている。
【0043】
結晶成長装置3は、チャンバ31の外部であってステージ33の周囲において設けられた複数のRF(Radio Frequency)ヒータ41と、チャンバ31の内部において設けられた図示しない温度センサとを更に備えている。結晶成長装置3は、この温度センサによって検出された温度に基づいて、RFヒータ41によってチャンバ31内、特にステージ33周囲の温度を所定温度に制御可能とされている。
【0044】
結晶成長装置3には、チャンバ31の外部において、ステージ33上に光を照射するための光源43が設けられている。この光源43からは、図示しない駆動電源による制御に基づき、所定の波長を有する光が射出される。光源43から射出された光は、チャンバ31の開口窓39を介してステージ33上に載置される基板11を照射することになる。
【0045】
この光源43は、例えば、He−Neレーザー発振器、Arレーザー発振器、He−Cdレーザー発振器、Coレーザー発振器、又は半導体レーザー発振器等によって具体化される。なお、光源43から射出された光のビーム径やビーム形状を制御し、光を照射する範囲を絞るために、照射光学系を設けるようにしてもよい。
【0046】
次に、このような構成からなる結晶成長装置3により、発光ダイオード素子1を製造する方法について説明する。
【0047】
先ず、図5(a)に示すように、表面上に何も形成されていない基板11を、チャンバ31内のステージ33上に配置し、基板11上においてn型クラッド層12を成長させる。本実施の形態において、n型クラッド層12がGaNであることから、ガス供給管35からガリウム源のIII族原料ガスとしてガリウム化合物のTMG(トリメチルガリウム)、窒素源のV族原料ガスとして窒素化合物のNHを導入するとともに、Siを層内にドーピングするためのSiHを導入する。なお、GaNは、Siを導入しなくとも窒素空孔や酸素不純物等によりn型の特性を有するためSiHの導入を省略してもよい。なお、この場合、例えば、温度を400〜500℃、圧力を1torr〜760torr(大気圧)、TMG、NH及びSiHの流量をそれぞれ30〜70sccm、1000〜2000sccm、5〜20sccm程度となるように調整する。
【0048】
次に、図5(b)に示すように、n型クラッド層12上にZnOからなる複数のナノロッド13を形成させる。この場合、亜鉛源の原料ガスとして亜鉛化合物のジエチル亜鉛ガスと、酸素源の原料ガスとして酸素をガス供給管35から供給し、温度、圧力を所定範囲に調整して、ナノロッド13を形成させることになる。なお、この場合、例えば、温度を450℃±10%、圧力を1torr〜760torr(大気圧)程度となるように調整する。なお、ジエチル亜鉛ガスは、亜鉛を含む化合物からなる有機金属ガスであればよく、酸素は、二酸化窒素等の酸素元素を含む化合物からなる気体や蒸気であればよい。
【0049】
次に、図5(c)に示すように、ナノロッド13の外面上及びn型クラッド層12上に活性層15を成長させる。この場合、ガリウム源のIII族原料ガスとしてガリウム化合物のTMG、インジウム源のIII族原料ガスとしてインジウム化合物のTMIn(トリメチルインジウム)、窒素源のV族原料ガスとしてNHをガス供給管35から供給することになる。更に、活性層15を成長させるためには、インジウム源のIII族原料ガスであるTMInの吸収端波長よりも長波長からなる光を基板上11へ照射することになる。なお、この場合、基板11上の温度は、TMGやTMInが熱解離可能となる温度である500℃以上となるように調整し、更に、光源43から照射される光の波長は、TMInの吸収端波長が300nm程度であるので、320〜450nm程度となるように調整する。この光源43としては、発振される光の波長がそれぞれ325nm、350nm、410nm程度であるHe−Cdレーザー発振器、Coレーザー発振器、半導体レーザー発振器を用いることができる。また、例えば、圧力を1〜760(大気圧)torr、TMG、TMIn及びNHの流量をそれぞれ30〜70sccm、10〜40sccm、1000〜2000sccmと調整する。
【0050】
このように調整することにより、図6に示すように、TMGやTMInのIII族原料ガスやNHのV族原料ガスが、活性層15を積層させるべき層の表面である、ナノロッド13の外面上及びn型クラッド層12の表面上において、熱解離により分解され、Ga、In並びにNが堆積されることになる。また、ナノロッド13の角部13aや境界部13bにおいて、即ち、発光強度の強い近接場光が生じやすい局所領域においては、光源43から照射される光に基づき近接場光が発生する。これは、ナノロッド13の形状に応じた部位に、電場強度の異なる近接場光が発生していることを意味している。このナノロッド13の形状に応じて発生した近接場光に基づき、TMInが光解離によってInに大量に分解され、その結果、ナノロッド13の角部13aや境界部13bのような局所領域においてInが大量に堆積されることになる。そして、このようにして、Ga並びにN、Inが分解、堆積されることによって、ナノロッド13の外面上、n型クラッド層12の表面上に活性層15が成長されることになる。
【0051】
ここで、TMGの吸収端波長が250nm程度であり、TMInの吸収端波長が300nm程度であるため、320〜450nm程度の波長の光を照射した場合、後述するように、伝搬光によっては各原料ガスが光解離されないが、近接場光によっては各原料ガスが光解離されることになる。特に、照射する光の波長が原料ガスの吸収端波長から長波長側の範囲に移行するにつれて、照射される光に対する原料ガスの吸収係数が急激に減少することが知られている。このため、照射される光と吸収端波長との差がTMGよりも小さいTMInは、TMGの分解量に対して1000倍程度多い量分解されることになる。そして、このように大量に分解されて発生したInが、ナノロッド13の角部13aや境界部13bの近傍に堆積、拡散して成長し、これによって、ナノロッド13の形状に応じてInの濃度分布が異なる活性層15が形成されることになる。
【0052】
なお、Inの濃度分布が、ナノロッド13の角部13aや境界部13bから離間するにつれて連続的に減少する理由は以下の通りである。即ち、近接場光に基づき分解される原料ガスは、後述するように、非断熱過程を経て分解される。ここで、非断熱過程によって分解される原料ガスの量は、光強度と光強度勾配との積に比例しており、この非断熱過程によって分解される原料ガスは、下記の式(A)によって表されるf(r)に比例している。なお、下記式(A)における、I(r)は、位置rにおける光強度のことをいい、位置rは、例えば、それぞれが直交するx軸、y軸、z軸からなる直交座標系の座標(x、y、z)で表される位置のことをいう。
【0053】
【数1】

【0054】
近接場光の発生分布は、ナノロッド13の角部13aのような局所領域において極大となり、局所領域から離間するにつれて急激に減少する性質がある。ここで、例えば、図6で示される近接場光と表示されている範囲内のように、近接場光が発生している箇所においては、光強度勾配の値があまり変わらないが、近接場光が滲みだしている箇所から少し外れた箇所においては、光強度勾配の値が零となり、原料ガスが光解離されないこととなる。また、近接場光が発生している箇所においては、光強度勾配の値があまり変わらないが、光強度そのものは局所領域から離間するにつれて急激に減少する。このため、上記のf(r)の値が局所領域から離間するにつれて連続的に減少し、これに比例して、Inの分解量もナノロッド13の角部13a等から離間するにつれて連続的に減少することになる。
【0055】
次に、図7(a)に示すように、ナノロッド15間に透明絶縁層16を形成させる。この透明絶縁層16は、上述したSOG、SiO、エポキシ樹脂等をスピンコーティング法等を経ることによって形成される。
【0056】
次に、図7(b)に示すように、活性層15上並びに透明絶縁層16上にp型クラッド層17を成長させる。本実施の形態において、p型クラッド層17がGaNであることから、ガス供給管35からTMG、NHを含む原料ガスと、Mgを層内にドーピングするためのCpMgを導入する。この場合、例えば、温度を400〜600℃、圧力を1〜760torr、TMG、NH及びCpMgの流量をそれぞれ30〜70sccm、1000〜2000sccm、5〜20sccm程度となるように調整する。
【0057】
次に、図7(c)に示すように、電圧を印加するための電極パッド18、電極パッド10を形成させる。電極パッド18を形成させるために、n型クラッド層12が一部露出するように、図7(a)に示すような、p型クラッド層17、透明絶縁層16、活性層15、ナノロッド13の一部範囲S1をエッチング等によって選択的に除去する。次に、電極パッド18、電極パッド19を、電子ビーム蒸発法等を用いて形成する。
【0058】
上述のような工程を経て、発光ダイオード素子1が製造される。本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法によって、図6に示すように、活性層15を積層させるべき層の表面において、TMIn等のIII族原料ガスやNH等のV族原料ガスが熱解離により分解され、成長することになる。また、ナノロッド13の角部13aや境界部13bにおいて、即ち、電場強度の強い近接場光が生じやすい局所領域においては、光源43から照射される光に基づき近接場光が発生する。この発生した近接場光によって、TMInが光解離によってInに大量に分解され、その局所領域において成長することになる。ここで、In以外の原料ガスであるTMGやTMAl等よりもInの原料ガスであるTMIn等のほうが、照射される光と吸収端波長との差が小さいため、In以外の原料ガスの分解量に対してInの原料ガスは1000倍程度多い量分解されることになる。このため、その局所領域の近傍においてInの組成比が高くなり、その局所領域から離間するにつれて連続的にInの組成比が低くなることになる。即ち、本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法によって、ナノロッド13の形状に応じた、Inの濃度分布を有する活性層を得ることができる。
【0059】
また、本発明によって得られた発光ダイオード素子1は、Inと他のIII族元素とを含むIn系III-V族化合物半導体層である活性層15の、Inの他のIII族元素に対する濃度分布が、ナノロッド13の形状に応じて異なっている。Inの他のIII族元素に対する濃度分布が多い部位においては、バンドギャップが小さくなって発光波長が長くなり、Inの他のIII族元素に対する濃度分布が少ない部位においては、バンドギャップが大きくなって発光波長が短くなる。このため、Inの他のIII族元素に対する濃度分布が多い部位である、ナノロッド13の角部13aや境界部13bのような、ナノロッド13の形状に応じて形成される局所領域の近傍においては、例えば、赤色のような放射光が得られ、その局所領域から離間するにつれて、赤色領域から黄色、緑、青色と連続的に色の異なる放射光が得られることになる。これは、ナノロッド13一つにつき、例えば赤色のようなバンドギャップが比較的小さい場合の発光色から、青色のようなバンドギャップが比較的大きい場合の発光色までの幅広い発光スペクトルの放射光を得ることが可能であること、即ち、白色光源として利用可能な活性層15を得ることが可能であることを意味している。このため、このようなナノロッド13が複数形成されている発光ダイオード素子1により、これを白色光源として用いることが可能となる。
【0060】
特に、本発明における製造方法によって得られた発光ダイオード素子1は、蛍光体を用いていないため、蛍光体を用いることによって生じる光エネルギーの損失が発生せず、エネルギー利用効率に非常に優れている。
【0061】
また、従来における三色の発光ダイオード素子を利用して得られる白色発光ダイオード素子と異なり、各色の発光ダイオード素子毎に、駆動電圧、発光出力等の調整を行う必要がなく、従来技術と比較して容易に白色光を実現可能となる。
【0062】
また、本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法は、ナノロッド13の形状に応じてInのGaに対する濃度分布の異なる活性層を、チャンバ31内に所定の原料ガスを導入し、所定の波長の光を照射したうえで、従来から用いられているMOCVD法に基づき行うのみよって得られるため、製造が非常に容易となっている。
【0063】
なお、TMInのような各種原料ガスの吸収端波長よりも長波長からなる光を基板11上に照射した場合に、伝搬光によって各原料ガスが光解離されず、近接場光によってのみ各原料ガスが光解離される理由は以下のとおりである。
【0064】
図8は、TMInのような原料ガスを構成するガス分子の原子核間距離に対するポテンシャルエネルギーの関係について示している。通常、ガス分子に対して、基底準位と励起準位とのエネルギー差Ea以上の光子エネルギーをもつ光、即ち、ガス分子の吸収端波長よりも短波長からなる光(以下、この光を共鳴光という。)を照射すると、このガス分子は、励起準位へ直接励起される。この励起準位は、解離エネルギーEbを超えているため、矢印で示される方向へガス分子を光分解させて活性種や分解生成物が生成される。
【0065】
本発明においては、上述のような共鳴光をガス分子に照射して、ガス分子を励起準位にまで直接的に励起させてから光分解させる共鳴過程を利用するのではなく、ガス分子の吸収端波長よりも長波長である光(以下、この光を非共鳴光という。)を照射して発生する近接場光によって、ガス分子を光分解させる非共鳴過程を利用して、ガス分子を光分解させる。
【0066】
伝搬光を使った通常の光解離では、伝搬光の電場強度が分子サイズの空間内において均一な分布であるため、ガス分子を構成する原子核や電子のうち軽い電子のみが光に対して反応するが、原子核間距離を変化させることができない。これに対して、近接場光を使った光解離では、近接場光の電場強度が、分子サイズの空間内において激しく変位するため不均一な分布となる。このため、近接場光を使った光解離では、ガス分子の電子のみならず、原子核も反応し、原子核間距離を変化させることが可能となり、分子の振動準位への直接的な励起を生じさせることが可能となる(非断熱化学反応)。
【0067】
このように、近接場光である非共鳴光を原料ガスに照射した場合、ガス分子が分子振動準位にまで励起されることになるが、近接場光の発生していない部位においては、ガス分子が励起されないことになる。このため、本発明においては、図6に示すように、近接場光の発生しているナノロッド13の形状及び位置に応じて形成される局所領域においてのみ、光解離が発生し、それ以外の基板11並びにナノロッド13の表面においては、光解離が発生せずに、チャンバ31内を過熱することによる熱解離のみが発生することになる。
【0068】
なお、ここで、近接場光である非共鳴光を照射した場合に、ガス分子が基底準位から分子振動準位に至るまでの経路、即ち、非共鳴過程は、図9に示すような、過程T1、過程T2並びに過程T3に分類される。過程T1は、ガス分子が複数の分子振動準位を介して励起され、その結果、励起準位にまで励起された後に、活性種等に解離される過程のことをいう。また、過程T2は、ガス分子の解離エネルギーEb以上の光エネルギーをもつ光を照射した場合に、ガス分子が解離エネルギーEb以上のエネルギー準位の分子振動準位にまで励起され、その結果、活性種等に直接解離される過程のことをいう。また、過程T3は、ガス分子のEb以下の光エネルギーをもつ光を照射した場合に、ガス分子が複数の分子振動準位を介して解離エネルギーEbのエネルギー準位の分子振動準位にまで励起され、その結果、活性種等に直接解離される過程のことをいう。
【0069】
また、近接場光とは、物体の表面に伝搬光を照射した場合に、物体の表面にまとわりついて局在する非伝搬光のことをいう。この近接場光は、上述のような局所領域において非常に強い電場成分を発生させて生じることが知られている。なお、ここでいう局所領域とは、例えば、ナノロッド13の形状に応じて形成される、ナノロッド13の角部13a等のことをいう。この局所領域は、ナノロッド13の先端の形状が、その先端に向かうにつれて先鋭化される形状であれば、その先端を含む概念であり、また、ナノロッド13の形状の一部において凹凸が設けられている場合は、その凹凸がなす角部を含む概念である。また、局所領域は、ナノロッド13と、n型クラッド層12のような他の層との間の境界部13bも含む概念である。
【0070】
以上、本発明を実施するための形態について例示したが、具体的な構造や材料は多様に変形したものを適用できる。
【0071】
例えば、上述した実施の形態においては、n型クラッド層12の上に、p型クラッド層17が積層される例について説明したが、活性層15の両側に積層される半導体層は、異なる導電型の半導体層であればよく、p型クラッド層17を基板11上に積層させ、n型クラッド層12をその上に積層させるようにしてもよい。また、電極パッド18、電極パッド19の位置や形状も、上述した例に限定されず、n型クラッド層12とp型クラッド層17と、その間に介在される活性層15に対して電圧を印加できれば、他の位置や形状であってもよい。
【0072】
また、基板11やn型クラッド層12等の材質によっては、互いに隣接する層間の格子定数の差が大きくなり、層上に積層される他の層の格子欠陥等の量が増加してしまう。これを防止するために、各層間にバッファ層を積層させるようにしてもよい。このバッファ層は、この格子定数の違いを緩和させるために形成させるものであり、例えば、AlN、GaN、AlGaN、InGaN並びにInAlGaN等によって具体化される。因みに、基板11とナノロッド13並びに活性層15の格子定数が大きく異なっていない場合にもバッファ層を形成させてよいのは勿論である。
【0073】
また、上述の実施の形態においては、Gaの成長とInの成長とを同時に行う場合を例に説明したが、これらの工程を別々に行うようにしてもよい。この場合、図10(a)に示すように、n型クラッド層12上にナノロッド13を形成させた後、図10(b)に示すように、ガス供給管35からNHとTMGとを供給して、ナノロッド13の周囲並びに基板11上に第1の活性層20を成長させる。この段階においては、第1の活性層20であるIII-V族化合物半導体層中にはInが含まれず、第1の活性層20中の組成比が一定の状態となる。また、この工程における温度、圧力等の条件は、例えば、温度を400〜500℃、圧力を1torr〜760torr、TMG、NHの竜朗をそれぞれ30〜70sccm、1000〜2000sccm程度となるように調整する。
【0074】
次に、ガス供給管35からNHとTMInとを供給して、更に、Inを含有する原料ガスであるTMInを吸収端波長よりも長波長からなる光を基板上1へ照射し、ナノロッド13の形状や位置に応じて形成される局所領域において近接場光を発生させ、第1の活性層20の上に第2の活性層21としてのIII-V族化合物半導体層を成長させる。この工程における温度、圧力等の条件は、NHが熱解離可能であればよく、例えば、温度を500℃以上、圧力を1torr〜760torr、TMIn及びNHの流量をそれぞれ30〜70sccm、1000〜2000sccmと調整する。
【0075】
そして、この発生した近接場光によって、TMInを光解離によってInに分解させて、その局所領域においてInを成長させる。その後は、上述のように、透明絶縁層16、p型クラッド層17、電極パッド18、電極パッド19を設ける工程を行う。
【0076】
これによって得られた発光ダイオード素子1は、図11に示すように、ナノロッド13の表面上において積層された第1の活性層20であるGaN層上にナノロッド13の形状に応じた第2の活性層21であるInN層が積層されることになる。この場合においては、Inと他のIII族元素との組成比が連続的に異なることによる、連続的な発光スペクトルを有する放射光を得ることができないが、ナノロッド一つにつき、発光色の異なるGaN層やInN層がナノロッド13の形状に応じた箇所に形成されることとなる。このため、このようなナノロッド13が複数形成されている発光ダイオード素子1によって、その発光時においてそれぞれの層に応じた発光スペクトルを有することとなり、各層から発光される色が混色されて、これを白色光源として利用可能となる。
【0077】
また、上述の実施の形態においては、活性層15が、Ga並びにInとNとの化合物半導体として構成される例を示したが、上述したように、これがInAlN等の3元混晶、或いはAlInGaN、AlInGaP等の4元混晶の半導体層で構成されていてもよい。例えば、活性層15がInAlNで構成される場合、Alの発光ピークが200nm程度であり、Gaの発光ピークが400nm程度であることから、InAlNで構成される活性層15は、ナノロッド13の形状に応じて層中のInの濃度分布が異なることによって、その発光時において紫色から赤色までの幅広い発光スペクトルを有することになる。また、AlInGaNで構成される活性層15は、ナノロッド13の形状に応じて層中のInの濃度分布が異なることによって、その発光時において360〜370nmの発光スペクトルを有することになる。このように、本発明を適用して得られるIn系III-V族化合物半導体の活性層15は、ナノロッド13の形状に応じて層中のInの濃度分布が異なることにより、その発光時において、濃度分布に応じた帯域の広い発光スペクトルを有している。
【0078】
なお、Alを活性層15に含める場合に用いられるIII族原料ガスは、例えば、TMAl(トリメチルアルミニウム)やTEAl(トリエチルアルミニウム)が挙げられる。また、Gaを活性層15に含める場合に用いられるIII族原料ガスは、TMGの他にTEG(トリエチルガリウム)が挙げられる。また、Inを活性層15に含める場合に用いられるIII族原料ガスは、TMInの他にTEIn(トリエチルインジウム)が挙げられる。また、Pを活性層15に含める場合に用いられるV族原料ガスは、例えば、PH(ホスフィン)が挙げられる。また、Asを活性層15に含める場合に用いられるV族原料ガスは、例えば、AsH(アルシン)が挙げられる。
【0079】
また、上述の実施の形態においては、n型クラッド層12の上に直接ナノロッド13を形成させた例を示したが、基板11上に直接ナノロッド13を形成させるようにしてもよい。また、チャンバ31内に基板11を配置する場合において、n型クラッド層12及びナノロッド13が予め形成された基板11をチャンバ31内に配置してもよい。
【0080】
また、ナノロッド13はZnOから構成されるのが最も好ましい。これは、InGaNからなる活性層15とZnOからなるナノロッド13との格子定数が近い値であり、ナノロッド13上に格子欠陥の少ない活性層15を堆積可能となるためである。
【0081】
また、ナノロッド13は、その上端から、活性層15を積層させるべき層の表面にかけてまでの長さが500nm以下とされることが好ましい。これは、ZnOからなるナノロッド13の密度を低減させることが難しいため、ナノロッド13の長さが500nm超であると、一定量以上の密度のZnOのナノロッド13の下部にまで十分な量の原料ガスが行き届かず、ナノロッド13の下部において活性層15を成長させるのが困難となるためである。
【0082】
また、活性層15を成長させるにあたって、各種III族原料ガスやV族原料ガスを分解させる場合、それぞれの原料ガスを熱解離可能な所定温度にまで基板11を加熱するほかに、プラズマ放電によって分解するようにしてもよい。また、後述するように、分子線エピタクシー法によって活性層15の成長を行なってもよい。この場合においては、ガリウム化合物、アルミニウム化合物を含む原料ガスをチャンバ内に供給する代わりに、分子線エピタクシー法によってガリウム原子又はアルミニウム原子をチャンバ内へ供給して、活性層15を成長させることになる。
【0083】
また、所定の手法によって形成されるナノロッド13の代替として、電子線リソグラフィー、X線リソグラフィー、イオンビームリソグラフィ等によって基板上に複数の柱状のナノ構造体を形成し、これを利用して上述の発光ダイオード素子1を製造するようにしてもよい。
【0084】
また、チャンバ31内の温度を検出して、チャンバ31内の温度を所定領域に制御するための温度制御機構は、上述したRFヒータと温度センサとの組み合わせに限定するものではなく、公知の如何なる構成からなるものであってもよい。また、チャンバ31内の圧力を検出して、チャンバ31内の圧力を所定領域に制御するための圧力調整機構は、上述したガス排気管37と圧力センサに限定するものではなく、公知の如何なる構成からなるものであってもよい。
【0085】
また、本発明においては、MOCVD法を用いて、活性層やクラッド層等の半導体層の結晶成長を行なったが、本発明はこれに限定するものではなく、分子線エピタクシー法(Molecular Beam Epitaxy)等のような、公知の如何なる物理気相成長法、化学気相成長法を用いて半導体層を成長させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明を適用した発光ダイオード素子の構成を示す図であり、(a)はその概略断面側面図、(b)はその平面図、(c)はその一部拡大断面側面図である。
【図2】ナノロッドの構成の一例を示す概略斜視図である。
【図3】活性層のInの組成比について説明するための図である。
【図4】本発明を適用した発光ダイオード素子の製造方法を実現するための結晶成長装置の概略図である。
【図5】発光ダイオード素子の製造方法の手順について説明するための図である。
【図6】ナノロッドの周囲並びに基板上に活性層を積層させる点について説明するための図である。
【図7】発光ダイオード素子の製造方法の手順について説明するための図である。
【図8】共鳴光及び非共鳴光について説明するための図である。
【図9】非共鳴過程について説明するための図である。
【図10】発光ダイオード素子の製造方法の手順について説明するための図である。
【図11】本発明を適用した発光ダイオード素子の他の構成を示す図であり、(a)はその概略側面断面図、(b)はその一部拡大断面側面図である。
【符号の説明】
【0087】
1 発光ダイオード素子
3 結晶成長装置
11 基板
12 n型クラッド層
13 ナノロッド
13a 角部
13b 境界部
15 活性層
16 透明絶縁層
17 p型クラッド層
18、19 電極パッド
31 チャンバ
33 ステージ
35 ガス供給管
37 ガス排気管
39 開口窓
41 RFヒータ
43 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の柱状ナノ構造体が表面上に形成された基板が設置されたチャンバ内に対して、ガリウム化合物又はアルミニウム化合物を含む第1のIII族原料ガスと、V族原料ガスと、インジウム化合物を含む第2のIII族原料ガスとを上記チャンバ内へ供給し、上記第2の原料ガスの吸収端波長よりも長波長からなる光を照射することによって、上記柱状ナノ構造体の形状に応じて発生させられる近接場光に基づき上記第2の原料ガスを分解させて、III-V族化合物半導体層を上記柱状ナノ構造体の外面上に成長させる工程を有すること
を特徴とする発光ダイオード素子の製造方法。
【請求項2】
複数の柱状ナノ構造体が表面上に形成された基板が設置されたチャンバ内に対して、ガリウム化合物又はアルミニウム化合物を含む第1のIII族原料ガスと、V族原料ガスとを上記チャンバ内へ供給し、第1のIII-V族化合物半導体層を上記柱状ナノ構造体の外面上に成長させる工程と、
V族原料ガスと、インジウム化合物を含む第2のIII族原料ガスとを上記チャンバ内へ供給し、上記第2の原料ガスの吸収端波長よりも長波長からなる光を照射することによって、上記柱状ナノ構造体の形状に応じて発生させられる近接場光に基づき上記第2の原料ガスを分解させて、第2のIII-V族化合物半導体層を上記柱状ナノ構造体の外面上に成長させる工程とを有すること
を特徴とする発光ダイオード素子の製造方法。
【請求項3】
上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記柱状ナノ構造体の形状に応じて形成される局所領域に近接場光を発生させ、その発生させた近接場光に基づき上記第2の原料ガスを分解させること
を特徴とする請求項1又は2に記載の発光ダイオード素子の製造方法。
【請求項4】
上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程の前に、上記柱状ナノ構造体の外面上に第1導電型のクラッド層を成長させる工程を更に有し、
上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程の後に、上記柱状ナノ構造体の外面上に第2導電型のクラッド層を成長させる工程を更に有すること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の発光ダイオード素子の製造方法。
【請求項5】
上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記柱状ナノ構造体と上記基板との間に第1導電型のクラッド層が積層された基板の上記柱状ナノ構造体の外面上に、当該III-V族化合物半導体層を成長させ、
上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程の後に、上記柱状ナノ構造体の外面上に第2導電型のクラッド層を成長させる工程を更に有すること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の発光ダイオード素子の製造方法。
【請求項6】
上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記柱状ナノ構造体としてZnOからなるナノロッドが形成された基板の上記柱状ナノ構造体の外周面上に、当該III-V族化合物半導体層を成長させること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の発光ダイオード素子の製造方法。
【請求項7】
上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記第1のIII族原料ガス及び上記V族原料ガスを、上記基板を所定温度に加熱する、又はプラズマ放電によって分解させ、当該III-V族化合物半導体層を成長させること
を特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の発光ダイオード素子の製造方法。
【請求項8】
上記III-V族化合物半導体層を成長させる工程では、上記第1のIII族原料ガスを供給する代わりに、分子線エピタクシー法によってガリウム原子又はアルミニウム原子を上記チャンバ内へ供給し、当該III-V族化合物半導体層を成長させること
を特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の発光ダイオード素子の製造方法。
【請求項9】
基板と、
上記基板の表面上に形成された複数の柱状ナノ構造体と、
上記柱状ナノ構造体の外面上に積層され、ガリウム又はアルミニウムとインジウムとが含有されてなるIII-V族化合物半導体層とを備え、
上記III-V族化合物半導体層は、上記柱状ナノ構造体の形状に応じたインジウムの濃度分布を有すること
を特徴とする発光ダイオード素子。
【請求項10】
上記柱状ナノ構造体の外面上には、第1導電型のクラッド層、上記III-V族化合物半導体層及び第2導電型のクラッド層が順次積層されていること
を特徴とする請求項9記載の発光ダイオード素子。
【請求項11】
上記柱状ナノ構造体は、上記基板上に積層された第1導電型のクラッド層上に形成され、
上記柱状ナノ構造体の外面上には、上記III-V族化合物半導体層及び第2導電型のクラッド層が順次積層されていること
を特徴とする請求項9記載の発光ダイオード素子。
【請求項12】
上記第1導電型のクラッド層、上記III-V族化合物半導体層及び上記第2導電型のクラッド層に対して電圧を印加するための一組の電極を更に備えること
を特徴とする請求項10又は11に記載の発光ダイオード素子。
【請求項13】
上記柱状ナノ構造体は、ZnOからなるナノロッドであること
を特徴とする請求項9〜12のうち何れか1項に記載の発光ダイオード素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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