説明

発光性遷移金属錯体

【課題】本発明は、遷移金属錯体からなる励起発光素子用の蛍光体あるいは燐光体、及びその製造方法、ならびにそれを用いた発光素子に関する。
【解決手段】本発明に係る発光素子用遷移金属錯体は、遷移金属原子に2〜3個の配位子が結合した遷移金属錯体であることを特長とし、該遷移金属錯体は、従来のものとは異なる発光特性を有することから、新規で有用な発光素子として使用することができる。また、該配位子が有機物からなるものであることから形状を自由に変化させて発光素子とすることができ、工業的にきわめて有用なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属錯体からなる励起発光素子用の蛍光体あるいは燐光体、及びその製造方法、ならびにそれを用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、LED等に用いる発光素子として好適な蛍光体あるいは燐光体に関する。
【0003】
本発明に係る蛍光体あるいは燐光体は、LED用発光体素子として提供することができ、また、他の照明用途や、表示デバイス分野でも、液晶のバックライトやCRT用の発光体にも応用することができる。さらに、FED(電界放射型ディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレイ)、EL(エレクトロルミネッセンス)などの電子表示デバイスにも応用できる。
【0004】
LED用の発光体としては、無機化合物の固体(粉末)からなる発光体が用いられている(例えば、特許文献1参照。)が、ポリマー性樹脂中に発光体を練り込んで樹脂組成物とし、その樹脂組成物を励起光発光素子部の上に塗布、モールドして製造することから、発光体がポリマー性樹脂などの部材への親和性が高く、加工が容易で、溶剤に溶解して塗布するなど形状変化の自由度の高さを有する有機性の発光体が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−63239号公報
【特許文献2】特開2005−255773号公報
【特許文献3】特開2006−193573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、遷移金属錯体からなる励起発光素子用の蛍光体あるいは燐光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、かかる状況下、上記の課題を解決すべく、遷移金属錯体からなる発光体について鋭意検討した結果、ある種の有機性配位子に、特定の遷移金属元素が4配位結合した遷移金属錯体が、紫外線で励起され発光することを見出すに至った(特許文献2及び3参照。)。
【0008】
さらに、遷移金属錯体からなる発光体についての研究を進めた結果、式(1)で示される構造を有することを特徴とする発光性遷移金属錯体が、特長ある発光特性を示し、特に2配位結合の遷移金属錯体が有用な発光特性を有する蛍光体あるいは燐光体であることを見出した。


(1)
(式(1)中、Mは、Cu、Zn、Ag、Cd、Au、Hg、Pt、Pdの遷移金属イオンのいずれかであり、配位基LまたはLは、Xあるいは、Mに配位しているYとZを有する複素環で、その複素環は縮環構造を形成していてもいなくても良い。Xはハロゲン化物イオンまたは対アニオンClO、PF、BF
、CFSO、B(C)のいずれかであるが、LおよびLが共にXであることはない。YはN、S、P、Oの原子である。Zは −CR=CR−, −N=CR−, −NR−, または−O−である。ここで、LがXの場合は、Lに結合するlinkerがなくてもよい。R、R、R、Rは水素原子、もしくは炭素数1から20の範囲の有機基である。Rは水素原子、ハロゲン原子もしくは炭素数1から20の範囲の有機基であり、R2は水素原子、ハロゲン原子もしくは炭素数1から20の範囲の有機基である。R、R、R、R、R、Rのうちいずれかが縮環構造を形成する場合、R、R、R、R、R、Rのうち2つ以上が互いに連結して環を形成しても良い。linkerは、炭素原子数が1から20の範囲の直鎖または分岐のアルキレン基であり、該アルキレン基中の1つもしくは隣接しない2つ以上のメチレン基は、−O−、−CO−、−O−CO−、−CH=CH−、−C≡C−、−N=N−のいずれか1つ以上で置き換えられてもよく、該アルキレン基中の水素原子は、ハロゲン原子で置き換えられてもよい。basementは、炭素数が1から30の範囲の炭化水素基かまたはN、S、P、Oからなる群より選ばれる1種以上を含有し炭素数が1から30の範囲のヘテロ化合物残基を表す。Tは、basementに結合するn個の有機基であって、炭素原子数が1から20の範囲の直鎖または分岐のアルキル基であり、該アルキル基中のメチレン基および水素原子は上記linkerの場合と同様に置換されてもよい。nは0以上5以下の整数である。複数個のR、R、R、R、R、R、X、Y、Z、linker、basementが存在する場合、これらは互いに独立である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の発光素子用遷移金属錯体は、2〜3配位結合した錯体であり、従来の遷移金属錯体とは異なる発光特性を有することから有用な発光素子として使用することができるのみならず、該配位子が有機物からなるので形状を自由に変化させて素子に設置することができ、工業的にきわめて有用なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】発光性遷移金属錯体の基本構造を示す図である。
【図2】1,3,5−トリス(2−(6−メチル−2−ピリジニル)エチル)−2,4,6−トリエチルベンゼン(Com−1)と塩素原子を配位子とする2配位銅錯体の立体構造式を示す図である。
【図3】1,3,5−トリス(2−(2−ピリジニル)エチル)−2,4,6−トリエチルベンゼンと塩素原子を配位子とする2配位銅錯体の立体構造式を示す図である。
【図4】1,3,5−トリス(2−(6−メチル−2−ピリジニル)エチル)−2,4,6−トリエチルベンゼン(Com−1)と塩素原子を配位子とする2配位銅錯体の発光特性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明について詳しく説明する。本発明は、式(1)で示される構造を有することを特徴とする発光性遷移金属錯体が、特長ある発光特性を有する蛍光体あるいは燐光体である。


(1)
(式(1)中、Mは、Cu、Zn、Ag、Cd、Au、Hg、Pt、Pdの遷移金属イオンのいずれかであり、配位基LまたはLは、Xあるいは、Mに配位しているYとZを有する複素環で、その複素環は縮環構造を形成していてもいなくても良い。Xはハロゲン化物イオンまたは対アニオンClO、PF、BF
、CFSO、B(C)のいずれかであるが、LおよびLが共にXであることはない。YはN、S、P、Oの原子である。Zは −CR=CR−, −N=CR−, −NR−, または−O−である。ここで、LがXの場合は、Lに結合するlinkerがなくてもよい。R、R、R、Rは水素原子、もしくは炭素数1から20の範囲の有機基である。Rは水素原子、ハロゲン原子もしくは炭素数1から20の範囲の有機基であり、R2は水素原子、ハロゲン原子もしくは炭素数1から20の範囲の有機基である。R、R、R、R、R、Rのうちいずれかが縮環構造を形成する場合、R、R、R、R、R、Rのうち2つ以上が互いに連結して環を形成しても良い。linkerは、炭素原子数が1から20の範囲の直鎖または分岐のアルキレン基であり、該アルキレン基中の1つもしくは隣接しない2つ以上のメチレン基は、−O−、−CO−、−O−CO−、−CH=CH−、−C≡C−、−N=N−のいずれか1つ以上で置き換えられてもよく、該アルキレン基中の水素原子は、ハロゲン原子で置き換えられてもよい。basementは、炭素数が1から30の範囲の炭化水素基かまたはN、S、P、Oからなる群より選ばれる1種以上を含有し炭素数が1から30の範囲のヘテロ化合物残基を表す。Tは、basementに結合するn個の有機基であって、炭素原子数が1から20の範囲の直鎖または分岐のアルキル基であり、該アルキル基中のメチレン基および水素原子は上記linkerの場合と同様に置換されてもよい。nは0以上5以下の整数である。複数個のR、R、R、R、R、R、X、Y、Z、linker、basementが存在する場合、これらは互いに独立である。)
【0012】
式(1)中の配位基Lは、XあるいはYとZを有する複素環構造を示し、その複素環と縮環構造を形成していてもいなくても良い。前記Xは、ハロゲン化物イオンであるF、Cl、Br、I、または対アニオンClO、PF、BF
、CFSO、B(C5)4より選ばれる1種以上が好ましく、Cl種が最も好ましい。
【0013】
前記XがMに配位する数は、0個または1個であり、LがXの場合には、linkerはなくてもよい。
【0014】
式(1)中のMが、2配位結合する銅イオンである場合には、特異的に配位子と銅および配位子が、ほぼ直線上に配列する特性がある。
【0015】
前記のYとZを有する複素環構造は、具体的には、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ビピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、フェナントロリン等が挙げられ、また含窒素複素環には、酸素原子を含む複素環でもよく、オキサゾール、オキサゼン、オキサジン、さらに、硫黄原子を含むものでもよく、チアゾール、ベンゾチアゾールなどを挙げられる。
これら各複素環に結合している任意の水素原子が別の置換基RまたはRが結合していてもよい。
【0016】
置換基RまたはRとしては、フッ素基、(−F)、塩素基(−Cl)、臭素基(−Br)、ヨウ素基(−I)、メチル基(−CH)、エチル基(−CHCH)、プロピル基(−CHCHCH)、イソプロピル基(−CH(CH)、t−ブチル基(-C(CH)、ジメチルアミノ基(−N(CH)、メトキシ基(−OCH)等が挙げられる。
【0017】
なかでも、含窒素複素環化合物の中でも6−メチルピリジン残基がLとして最も好ましい。
【0018】
式(1)におけるlinkerは、炭素原子数が1から20の範囲の直鎖または分岐のアルキレン基であり、該アルキレン基中の1つもしくは隣接しない2つ以上のメチレン基は、−O−、−CO−、−O−CO−、−CH=CH−、−C≡C−、−N=N−のいずれか1つ以上で置き換えられてもよく、該アルキレン基中の水素原子は、ハロゲン原子で置き換えられてもよい。該アルキレン基の炭素原子数は、1から15が好ましく、1から10がより好ましく、1から5がさらに好ましい。最も好ましくは2であり、エチレン基である。ただし、式(1)におけるLがXの場合には、linkerはなくてもよい。
【0019】
式(1)においてbasementに結合しているn個のTは互いに独立に、Tは炭素原子数が1から20の範囲の直鎖または分岐のアルキル基であり、該アルキル基中のメチレン基および水素原子は上記linkerの場合と同様に置換されてもよい。アルキル基の炭素原子数は、1から15が好ましく、1から10がより好ましく、1から5がさらに好ましい。最も好ましくは2の場合であり、すなわちTがエチル基の場合である。
【0020】
中のnは、basementに結合する有機基Tの数であり、0以上5以下の範囲の整数である。nが0の場合、Tは水素原子を意味する。nは、2以上6以下の範囲が好ましく、最も好ましくは3である。
【0021】
式(1)におけるbasementは、炭素数が1から30の範囲の炭化水素基かまたはN、S、P、Oからなる群より選ばれる1種以上を含有し炭素数が1から30の範囲のヘテロ化合物残基を表し、その価数は(n+3)価である。basementとしては、直鎖または分岐のアルキレン基、芳香族炭化水素a残基(a=n+3)およびN、S、P、Oからなる群より選ばれる1種以上の原子を含有するヘテロ化合物のa残基(a=n+3)が挙げられる。前記アルキレン基としては、一般式、−(CH−(kは1以上30以下)で示される直鎖または分岐の鎖状構造よりは環状構造を有するものが好ましく、具体的には、シクロヘキサンa残基、アダマンタンa残基などが挙げられる。前記芳香族炭化水素としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ペリレンなどが挙げられる。N、S、P、Oからなる群より選ばれる1種以上を有してなる前記ヘテロ化合物としては、ピリジン、フラン、チオフェンなどが挙げられる。これらの化合物の中で、芳香族炭化水素が好ましく、ベンゼンが最も好ましい。
【0022】
配位子として、L:6−メチルピリジン1残基、basement:ベンゼン6残基、linker:エチレン基、T:エチル基(n=3)の組み合わせからなる化合物が特長的な発光性を示すので、より好ましく、最も好ましくは、linkerのエチレン基がbasementのベンゼン環の1、3、5位に、Tのエチル基がbasementのベンゼン環の2、4、6位に結合しており、Lの6−メチルピリジン1残基の2位にlinkerが結合している化合物(1,3,5−トリス(2−(6−メチル−2−ピリジニル)エチル)−2,4,6−トリエチルベンゼン:Com−1)である。


Com−1
Com−1の化学式中のMeは、メチル基を示す。
【0023】
本発明の蛍光体をなす遷移金属錯体においては、遷移金属イオンと配位子から構成される擬似一分子構造を構成してもよいが、配位子の配位結合部が分子の外側に向いて金属イオンと配位結合し、多次元発散型配位結合を形成してもよい。
【0024】
次に、本発明の励起発光体の製造方法について説明する。
まず、本発明の発光体に用いる配位子は、次のようにして合成することができるが、合成方法はこれに限定されるものではない。
【0025】
例えば、本発明の蛍光体をなすLとして最も好ましい化合物である1,3,5−トリス(2−(6−メチル−2−ピリジニル)エチル)−2,4,6−トリエチルベンゼンは、次のスキームに従って合成することができる。
1,3,5−トリエチルベンゼンをホルムアルデヒド、亜鉛、臭化水素酸、酢酸共存下において、95℃で下記式(2)に従って反応させることにより、1,3,5−トリス(ブロモメチル)−2,4,6−トリエチルベンゼンを合成することができる(参考文献:
C.Walsdorff,et al.,J.Chem.Res.,1996,(S)282,(M)1601-1609)。

(2)
【0026】
そして、2,6−ジメチルピリジンをTHF中において、−80℃でn−ブチルリチウムでメチル基をリチオ化し、これと、先に合成した1,3,5−トリス(ブロモメチル)−2,4,6−トリエチルベンゼンを下記式(3)に従って反応させることにより、目的とする1,3,5−トリス(2−(6−メチル−2−ピリジニル)エチル)−2,4,6−トリエチルベンゼンを合成することができる。

(3)
【0027】
遷移金属錯体は、目的の遷移金属錯体を構成する配位子と金属塩のモル比が所定の比率になるように秤量し、金属塩と配位子をそれぞれ別々の溶剤(金属イオンにはアセトン、アセトニトリルなど、配位子には酢酸エチル、塩化メチレンなどを用いることができる。)に溶解し、液相拡散法により得て、結晶を調製することができる。また、例えば最少量のアセトニトリル等の溶剤に加熱溶解し、溶液を冷却させることによって、結晶性固体を得ることができる。また、過剰量の溶剤で溶解した後、極低温にするか、溶剤を蒸発させるか、または貧溶媒(例えばメタノールなど)を添加して溶解度を低下させるなどして、結晶性固体を得ることもできる。遷移金属イオンが酸化されやすい場合は、嫌気雰囲気下(例えば、グローブボックスを用いるなどしてO濃度が1体積ppm未満で、HO濃度が1体積ppm未満とすることができる。)で行うことが好ましい。ただし、例えば、遷移金属イオンが銅イオンであり、対アニオンが塩化物イオンの場合は、嫌気雰囲気でなくてもよい。このとき、銅イオン源としてCuClを用いることができる。そして、得られた銅錯体の結晶は、ろ過によって取り出すことができ、洗浄してもよい。
【0028】
本発明の遷移金属錯体を調製するための出発原料として用いる銅塩、配位性有機化合物、溶剤は高純度(98%以上)であることが好ましい。
配位子の調製、または錯体の調製にはガラス管を含むガラス性の反応容器、またはグラスライニングした反応槽、攪拌媒体としては、フッ素樹脂コーティングした攪拌子、ガラス製、またはグラスライニングした攪拌翼を用いることができる。
【0029】
本発明の発光体を構成する配位子の溶解は、室温から溶剤の沸点より20℃高い温度範囲にて行うことができる。沸点より高い場合は、還流装置を取り付ける。
【0030】
高分子(樹脂を含む)中に本発明の発光体を存在させるには、高分子溶液中に、遷移金属塩、配位子となる低分子の有機化合物を共存させ、溶剤を留去することで可能である。その他、遷移金属錯体を粉末にし、高分子中に混練して分散させることでも可能である。
【0031】
遷移金属錯体の同定は、元素分析、質量分析、IR、UV−vis、蛍光測定、ESR、XRD、4軸、イオンプレート法などの構造解析装置を用いて、直接的または間接的に行うことが可能である。
【0032】
さらに、上記方法にて得られる遷移金属錯体を、例えば、ボールミル、振動ミル、アトライター、ジェットミル等の工業的に通常用いられている粉砕装置を用いて粉砕することができる。また、分級し、粒度を揃えることができる。また、微粒化には、錯体溶液を静電噴霧やエマルジョン法などにより微小の液滴を調製し、乾燥してもよい。
【0033】
本発明の遷移金属錯体からなる発光体は、例えば特開2003−272527号公報に開示されている水銀フリー蛍光ランプなどに利用できる。ここで、発光体の塗布は、ガラスパイプ内に銅錯体からなる本発明の発光体の溶液を流し込んで乾燥させるかまたは、または発光体を溶剤に分散させたスラリーを塗布し、溶剤を乾燥することで、発光体層を形成する。その後、ガラスパイプ端部を封止、希ガス封入後、他端も封止して密閉する。その後、外部電極を形成することにより、水銀フリー蛍光ランプ(希ガスランプ)を製造することができる。
【0034】
なお、本発明の発光体は、錯体の原料溶液や原料と樹脂の混合溶解液を各種基板へ展開することで、または、ゼオライト、MCM−41などのマイクロポーラス、メソポーラス材料内に浸潤させた後に、溶剤を留去、乾燥することで、細孔の表面に析出させ、薄膜を形成することが可能である。また、粘土鉱物やLB膜の積層構造の中に錯体を存在させることも可能である。微粒子化した金属錯体は、非溶解性溶剤に分散の後、スピンコーター、アプリケーター、スクリーン印刷などで薄膜、厚膜の生成が可能である。このように本発明の発光体は有機物からなるので、形状を自由に変化させることができ、様々な部材へ導入することもできるなど、励起発光素子の設計に自由度を付与するものである。
【0035】
本発明の発光体は、可視光、紫外線、真空紫外線、真空紫外線よりも短波長の光、電子注入、電界、熱、応力、超音波、電磁波以外の放射線の何れか1種以上の励起源により発光させることができるので、三波長型蛍光ランプなどの紫外線発光素子、LEDなどの紫外・可視励起発光素子、CRTなどの電子線励起発光素子、高分子LED、有機ELなどの電子注入励起発光素子、フィルムバッチなどの電磁波以外の放射線による励起発光素子にも用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
得られた化合物の同定には以下の装置を使用した。
IRスペクトル:島津製作所製 FTIR−8200PC(KBr錠剤法:固体試料をKBrに分散し、ペレット化し測定)、UV−visスペクトル:Hewlett
Packard社製 8453Photo diode array分光光度計(固体試料を硫酸バリウムに分散し、試料基板に載せ、光の反射より、吸収を見る)、H−NMR:JEOL
FT−NMR(固体試料を重溶媒(重クロロホルム)に溶解し、測定)、マススペクトル:JEOL社製JMS−700T Tandem MS−station質量分析計、ESI−MS(Electro
Spray Ionization mass spectra)、単結晶X線構造解析:リガク社製 RAXIS−RAPIDイメージングプレート(0.2mm角程度の結晶をガラスファイバー上またはキャピラリー中にマウントし、X線を照射し、その回折像より、構造解析(teXsan)を行った。)、発光特性:蛍光分光装置(JOBIN YVON社製 SPEX FLUOROLOG)を用いて測定した。
【0037】
配位子 1,3,5−トリス(2−(6−メチル−2−ピリジニル)エチル)−2,4,6−トリエチルベンゼン(Com−1)の調製
100mL二口反応容器に回転子を入れ、二方コックとセプタムキャップを取り付け、容器全体を減圧乾燥し、二口反応容器内を窒素下に保った。2,6−ジメチルピリジン (1.60g、14.9mol)、脱水 THF(40mL)を加えて溶かした後、液体窒素を使ったアセトン浴を用いて反応系を−94℃まで冷却した。次いでn−ブチルリチウム(9.6mL、15.0mmol)を加えた。溶液の色は赤褐色に変化し、冷アセトン浴を外して3時間程度放置した後、溶液の色は濃赤褐色に変化した。この溶液を、再びアセトン浴を用いて−94℃
まで冷却し、1,3,5−トリス(ブロモメチル)−2,4,6−トリエチルベンゼン(2.0g,4.5mmol)の脱水THF溶液(40mL)に溶かした溶液を、10分間程度でゆっくりと滴下した。滴下後、この溶液を室温まで昇温して
16時間撹拌した。次に、開放系にして反応を終了させ、溶媒をエバポレーターで留去した。得られた残渣に28%アンモニア水(10mL)と塩化メチレン(25mL)を加えて撹拌し、脱塩を行った後、塩化メチレン層を集めた。さらにクロロホルム(25mLx3)で抽出した。エバポレーターで濃縮し、カラムクロマトグラフィー(充填剤:アルミナ,
展開溶媒:クロロホルム:ヘキサン=1:2)で原点成分を除去した。さらにカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル,展開溶媒酢酸エチル:クロロホルム=1:1)により Rf =0.18の成分を集めた。溶媒をエバポレーターで留去した後、減圧乾燥したところ、 収量2.06g、収率87%で1,3,5−トリス(2−(6−メチル−2−ピリジニル)エチル)−2,4,6−トリエチルベンゼンを得た。
得られたものを同定した結果以下のとおりの分析値を得た。
IR(KBr):3060(s,spC−H), 2965, 2928, 2870(s,spC−H), 1590(s), 1577(s),1455(s),1375(m) cm-1
H−NMR(400MHz,CDCl) δ1.21 (t,9H,PhCHCH,J=7.4Hz),2.58(s,9H,6−CH−py)2.74(q,6H,PhCHCH,J=7.4 Hz),294−3.01(q,12H,PhCHCH2,J=6.3Hz),6.92(d,3H,3−H−py,J=76Hz),7.00(d,3H,5−H−py,J=7.6Hz),7.49(t,3H,4−H−py,J=7.6Hz)
ESI−MS(pos):m/z = 520.5((L+H)),calcd for C36 46
【0038】
配位子 1,3,5−トリス(1−メチル−2−イミダゾリルエチル)−2,4,6−トリエチルベンゼン(Com−2)の調製
100mL二口反応容器に回転子を入れ、二方コックとセプタムキャップを取り付け、容器全体を減圧乾燥し、二口反応容器内を窒素下に保った。二口反応容器を窒素下にして、脱水エタノール(8mL)、1,2−ジメチルイミダゾール(0.356g,3.42mmol)、テトラメチルエチレンジアミン(0.5mL,3.42mmol)を加え攪拌した。液体窒素を使いアセトン浴を用いて反応系を−94℃まで冷却した。
そして、n−ブチルリチウム(2.43mL,3.42mmol)を加えた。この時、溶液は黄色に変化した。1時間攪拌後、1,3,5−トリス(ブロモメチル)−2,4,6−トリエチルベンゼン(0.505g,1.15mmol)を脱水THF溶液(4mL)に溶かした溶液を10分間程度でゆっくり加えた。さらにTHF(4mL)で洗浄して加えた。黄色の溶液から徐々に白濁した。冷アセトン浴(−94℃)は取り外し、油浴を用いて40℃で一晩温めた。薄層クロマトグラフィー (展開溶媒:クロロホルム、I法で検出)で反応が進んでいることを確認した。n−ブチルリチウムを蒸留水(2mL)で失活させた後、エバポレーターで蒸発乾固させ、CHCNに溶解させて溶けない沈殿を吸引ろ過により取り除いた。そして、得られたろ液をエバポレーターで濃縮した。エチルエーテルを加えて1時間静置して、その後デカンテーションによりエチルエーテル層を除去し、エチルエーテルに溶ける成分を取り除いた。残渣として得られた淡黄色の油状物質に塩化メチレンを加え、塩化メチレンに可溶な成分を溶出した。集めた塩化メチレン層をエバポレーターで乾固させ、得られた淡黄色の粉末を集めて、収量0.413g、収率74%で1,3,5−トリス(1−メチル−2−イニダゾリルエチル)−2,4,6−トリエチルベンゼンを得た。
得られたものを同定した結果以下のとおりの分析値を得た。
IR(KBr):2970(s), 2934(m), 2909(m),2872(m,spC−H), 1636(s), 1529(m),1496(s),1462(s), 1415(m),1378(m,C=C,C=N),1283(m) cm-1
H−NMR(400MHz,CDCl) δ1.22 (t,9H,PhCHCH,J=6.96Hz),2.68 (q,6H,PhCHCH,J=7.56Hz),2.87,3.11(q,12H,PhCHCH,J=8.68Hz),3.51(s, 9H, CH−Im),6.82、7.01(d,6H,4,5−H−Im)
FAB−MSm/z
= 487.4((M+H)),391.3((M−CH),96.1((C))
HRMS
m/z = 487.3546(487.3549 calcd for C30 43
【0039】
配位子Com−1及びCom−2と銅イオンからなる銅錯体は再結晶法によって得た。
【0040】
遷移金属錯体の発光輝度・スペクトルは、蛍光分光装置(JOBIN YVON社製 SPEX FLUOROLOG)を用い測定した。
【0041】
得られた銅錯体をアルミナ基板上に塗布し、それを二枚の平面電極がある真空排気系に設置し、放電ガス(Xe5%−Ne95%混合ガス)を充填し一定の圧力にする。平面電極に高周波電圧をかけ、放電させて、基板上の銅錯体と発光させて発光素子とした。
【0042】
Com−1及び塩素を配位子とする銅錯体の発光特性:


(図4)
蛍光スペクトル(反射)は、固体粉末サンプルをろ紙に付着させた試料を、積分球を装備したShimazu UV2550を用いて測定した。固体サンプルの燐光スペクトルは、ろ紙に付着させた試料をJASCO FP−6300を用いて測定した。
発光特性:図4に示すとおりの発光特性を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される構造を有することを特徴とする発光性遷移金属錯体。


(1)
(式(1)中、Mは、Cu、Zn、Ag、Cd、Au、Hg、Pt、Pdの遷移金属イオンのいずれかであり、配位基LまたはLは、Xあるいは、Mに配位しているYとZを有する複素環で、その複素環は縮環構造を形成していてもいなくても良い。Xはハロゲン化物イオンまたは対アニオンClO、PF、BF
、CFSO、B(C)のいずれかであるが、LおよびLが共にXであることはない。YはN、S、P、Oの原子である。Zは −CR=CR−, −N=CR−, −NR−, または−O−である。ここで、LがXの場合は、Lに結合するlinkerがなくてもよい。R、R、R、Rは水素原子、もしくは炭素数1から20の範囲の有機基である。Rは水素原子、ハロゲン原子もしくは炭素数1から20の範囲の有機基であり、R2は水素原子、ハロゲン原子もしくは炭素数1から20の範囲の有機基である。R、R、R、R、R、Rのうちいずれかが縮環構造を形成する場合、R、R、R、R、R、Rのうち2つ以上が互いに連結して環を形成しても良い。linkerは、炭素原子数が1から20の範囲の直鎖または分岐のアルキレン基であり、該アルキレン基中の1つもしくは隣接しない2つ以上のメチレン基は、−O−、−CO−、−O−CO−、−CH=CH−、−C≡C−、−N=N−のいずれか1つ以上で置き換えられてもよく、該アルキレン基中の水素原子は、ハロゲン原子で置き換えられてもよい。basementは、炭素数が1から30の範囲の炭化水素基かまたはN、S、P、Oからなる群より選ばれる1種以上を含有し炭素数が1から30の範囲のヘテロ化合物残基を表す。Tは、basementに結合するn個の有機基であって、炭素原子数が1から20の範囲の直鎖または分岐のアルキル基であり、該アルキル基中のメチレン基および水素原子は上記linkerの場合と同様に置換されてもよい。nは0以上5以下の整数である。複数個のR、R、R、R、R、R、X、Y、Z、linker、basementが存在する場合、これらは互いに独立である。)
【請求項2】
前記式(1)において、basementが6置換のベンゼン残基、linkerがアルキレン基、Rがアルキル基、である請求項1記載の発光性遷移金属錯体。
【請求項3】
前記式(1)において、Mが2配位の銅イオンである請求項2記載の発光性銅錯体。
【請求項4】
前記式(1)において、linkerのエチレン基がbasementのベンゼン環の1、3、5位に、basementのベンゼン環の2、4、6位にエチル基が結合しており、Lが1価のピリジン残基または6−メチルピリジン残基で、その2位にlinkerが結合している請求項3記載の発光性銅錯体。
【請求項5】
前記式(1)において、LまたはLのいずれか一方が塩化物イオンであり、そのLまたはLにlinkerが結合していない請求項4記載の発光性銅錯体。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載の発光性遷移金属錯体を用いてなる蛍光発光素子もしくは燐光発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−174052(P2010−174052A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14911(P2009−14911)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】