説明

発光素子、及びその製造方法

【課題】p型の窒化物半導体に接触される電極の透光性とオーミックコンタクト特性を向上させる。
【解決手段】本発明による発光素子は、光を発生する活性層5と、活性層5を被覆するp−GaN層7と、p−GaN層7の上に形成されたp−NiO膜8aと、p−NiO膜8aを被覆するように形成されたITO膜8bとを具備する。p−NiO膜8aは、p型半導体になるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(発光ダイオード)のような発光デバイスに関し、特に、窒化物半導体に対するオーミックコンタクトを実現するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)その他の窒化物半導体は、短波長の光を発生するために使用される最も典型的な半導体材料である。窒化物半導体を用いた発光デバイスの技術の開発は進展を続け、近年では、紫外線レーザも実現されている。
【0003】
窒化物半導体を用いた発光デバイスの実現において重要な技術の一つは、電極の材料やその形成方法である。特に、ガリウムを含むp型の窒化物半導体、特に、p−GaNは仕事関数が高いため、オーミックコンタクトの形成が困難である。加えて、特に面発光デバイスでは電極が透明であることが求められ、電極の光の透過率を向上することが重要である。そのため、オーミックコンタクトを実現し、更に光の透過率を向上するための電極の材料、及びその形成方法について、多くの研究及び開発がなされている。
【0004】
p型の窒化物半導体に対してオーミックコンタクトを形成するために最も広く使用される電極材料は、Au/Ni電極である。Au/Ni電極の使用については、例えば、特開平10−135515号公報、及び特開平10−209500号公報に開示されている。Au/Ni電極は、その形成の後に酸素雰囲気でアニールすると、コンタクト抵抗が一層に減少することが知られている。これは、ニッケルが酸化されて形成される酸化ニッケルの効果であると考えられている。
【0005】
しかしながら、Au/Ni電極は、透光性が充分に高くない。発明者の検討によれば、Au/Ni電極は、LEDによって発生された光の約40%を遮ってしまう。このため、オーミックコンタクトを実現しながら、透光性に優れる電極の検討が進められている。
【0006】
米国特許第6,287,947号公報は、Au/Ni電極を形成した後でNi膜を酸化するのではなく、酸化ニッケル膜を形成した後、その上にAuを形成する技術を開示している。Auの堆積の後、アニールが行われる。このアニールにより、Auが酸化ニッケル膜を突き抜けてp−GaNの表面に拡散し、オーミックコンタクトが実現される。
【0007】
加えて、特開2005−123489号公報は、ITO/Ni電極が、Au/Ni電極と比べて良好な透光性を有し、且つ、p型の窒化物半導体に対してオーミックコンタクトを実現することを開示している。この公報に開示された技術では、まず、金属のNi膜が形成され、その後、第1のITO膜が形成される。その後、酸素雰囲気中でアニールがなされる。アニールの後、第2のITO膜が形成される。
【0008】
更に、特開2005−244148号公報は、p−GaNの上に、Auで形成されたドメインコンタクト層を形成し、その上に、拡散バリア層としてNiO膜を形成し、更にそのNiO膜の上にITO膜を形成する技術を開示している。
【0009】
加えて、特開2005−123631号公報は、p−GaNで形成されたp型クラッド層の上に、NiOで形成された挿入層を形成し、その挿入層の上に、p型ドーパントが添加されたp型導電性の酸化物で形成されたオーミックコンタクト層を形成する技術を開示している。p型伝導性の酸化物としては、BeO、CaO、SrO、BaO、MgO、CdO、ZnO、MgZnO、BeZnO、ZnBaO、ZnCaO、ZnCdO、ZnSeO、ZnSO、ZnTeOが挙げられている。
【0010】
しかしながら、発明者の検討によれば、一層に良好な透光性とオーミックコンタクト特性を実現することが可能である。
【特許文献1】特開平10−135515号公報
【特許文献2】特開平10−209500号公報
【特許文献3】米国特許第6,287,947号公報
【特許文献4】特開2005−123489号公報
【特許文献5】特開2005−244148号公報
【特許文献6】特開2005−123631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、p型の窒化物半導体に接触される電極の透光性とオーミックコンタクト特性を向上するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下に述べられる手段を採用する。その手段の記述には、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号が付加されている。但し、付加された番号・符号は、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲を限定的に解釈するために用いてはならない。
【0013】
一の観点において、本発明による発光素子は、光を発生する活性層(5)と、活性層(5)を被覆し、且つ、p型導電型を有する窒化物半導体層(7)と、前記窒化物半導体層(7)の上に形成された酸化ニッケル膜(8a)と、前記酸化ニッケル膜(8a)を被覆するように形成されたITO膜(8b)とを具備する。酸化ニッケル膜(8a)は、p型半導体になるように形成されている。
【0014】
酸化ニッケル層(8a)の膜厚が、トンネル電流を流すことができる程度に薄いことは、良好なオーミックコンタクト特性を実現するために有効である。具体的には、前記酸化ニッケル層(8a)の膜厚は、8.5nm以下であることが好ましい。
【0015】
酸化ニッケル膜(8a)は、高いキャリア濃度を有するように、具体的には、1019/cm以上のキャリア濃度を有するように形成されることが好ましい。他の観点では、酸化ニッケル膜(8a)、p型の縮退半導体であるように形成されることが好ましい。
【0016】
キャリア濃度の向上という観点からは、酸化ニッケル層(8a)は、酸素ガスを含むスパッタリングガスを用いてスパッタリングを行うことによって形成されていることが好ましく、酸素ガスからなるスパッタリングガスを用いてスパッタリングを行うことによって形成されることがより好適である。
【0017】
他の観点において、本発明の発光素子の製造方法は、
光を発生する活性層(5)を形成する工程と、
活性層(5)を被覆するように、p型導電型を有する窒化物半導体層(7)を形成する工程と、
前記窒化物半導体層(7)の上に、直接に、p型導電性を有する酸化ニッケル層(8a)を形成する工程と、
前記酸化ニッケル層(8a)を被覆するようにITO膜(8b)を形成する工程
とを具備する。
【0018】
キャリア濃度の向上という観点からは、酸化ニッケル層(8a)は、酸素ガスを含むスパッタリングガスを用いてスパッタリングを行うことによって形成されることが好ましく、酸素ガスからなるスパッタリングガスを用いてスパッタリングを行うことによって形成されることが一層に好ましい。
【0019】
更に他の観点において、本発明の発光素子の製造方法は、
光を発生する活性層(5)を形成する工程と、
前記活性層(5)を被覆するように、p型導電型を有する窒化物半導体層(7)を形成する工程と、
前記窒化物半導体層(7)の上に、ニッケル膜を形成する工程と、
前記ニッケル膜の上に、酸化ニッケル膜を形成する工程と、
前記酸化ニッケル膜の形成の後で前記ニッケル膜を酸化することにより、前記ニッケル膜と前記酸化ニッケル膜から、p型導電性を有するp型酸化ニッケル層(8a)を形成する工程と、
前記p型酸化ニッケル層(8a)を被覆するようにITO膜(8b)を形成する工程
とを具備する。
【0020】
前記ニッケル膜の酸化は、前記酸化ニッケル膜の形成の後、前記酸化ニッケル膜に紫外線を照射しながらオゾン雰囲気でアニール処理を行うことによって行われることが好ましい。また、前記アニール処理の温度は、100〜200℃であることが好ましい。また、前記酸化ニッケル膜の厚さは、5〜10nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、p型の窒化物半導体に接触される電極の透光性とオーミックコンタクト特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の一実施形態の発光素子10の構成を示す断面図である。本実施形態の発光素子10は,LEDであり、サファイア基板1と,GaNバッファ層2と、n−GaN層3と、n−AlGaN層4と、活性層5と、p−AlGaN層6と、p−GaN層7とを備えている。n−GaN層3は、n型コンタクト層として機能し、n−AlGaN層は、n型クラッド層として機能する。活性層5は、光を発生する領域であり、例えば、InGaNとGaNが交互に積層されたMQW(multi quantum well)や、AlGaNとGaNが交互に積層されたMQWで形成される。p−AlGaN層6は、p型クラッド層として機能し、p−GaN層7は、p型コンタクト層として機能する。p−GaN層7の上にはアノード電極8が形成され、n−GaN層3の上にはカソード電極9が形成されている。
【0023】
このような構成の発光素子10は、典型的には、以下のようにして形成される。まず、サファイア基板1の上にGaNバッファ層2と、n−GaN層3と、n−AlGaN層4と、活性層5と、p−AlGaN層6と、p−GaN層7、及びアノード電極8が順次に形成される。アノード電極8の形成の後、アニールが行われる。その後、アノード電極8、p−GaN層7、p−AlGaN層6、活性層5、n−AlGaN層4が順次にエッチングされてn−GaN層3の表面の一部分が露出され、露出された部分にカソード電極9が形成される。
【0024】
本実施形態の発光素子10の一つの特徴は、アノード電極8の構造にある。アノード電極8は、薄い膜厚を有するp−NiO膜8aと、厚い膜厚を有するITO膜8bとで構成されている。p−NiO膜8aは、p−GaN層7の上に直接に形成され、ITO膜8bは、p−NiO膜8aの上に形成されている。
【0025】
p−NiO膜8aは、p型の導電性を有し、且つ、半導体であるように形成される。一般に、酸化ニッケル膜は、その形成条件によって、絶縁体やp型の半導体のいずれにもなり得る。また、酸化ニッケル膜は、ドーピングによってn型の半導体にもなり得る。本実施形態では、形成されたp−NiO膜8aがp型の導電性を有するように、p−NiO膜8aの形成条件が積極的に制御される。
【0026】
加えて、p−NiO膜8aは、ITO膜8bとp−GaN層7の間でトンネル電流が流れる程度に充分に薄い膜厚を有するように形成される。後述されるように、トンネル電流が流れることは、コンタクト抵抗を低減するために有効である。p−NiO膜8aを薄く形成することは、高い透光性を実現するためにも有効である。p−NiO膜の透光性は、それほど良好ではない。しかしながら、p−NiO膜8aが充分に薄い膜厚を有するように形成されることにより、アノード電極8の透光性が向上されている。好適には、p−NiO膜8aは、8.5nm以下の膜厚を有するように形成される。
【0027】
p−NiO膜8aは、高いキャリア濃度を有するように、好適には、キャリア濃度が1019/cm以上であるように形成される。p−NiO膜8aは、p型の縮退半導体であるように形成されることが好ましい。後述されるように、p−NiOx膜8aのキャリア濃度を1019/cm以上にすることは、p−NiOx膜8aの成膜条件を最適化することによって可能である。
【0028】
ITO膜8bは、透光性を保ちつつ、面内方向の抵抗値を小さくするために使用される。これは、薄いp−NiO膜8aのみでは、面内方向の抵抗値を充分に小さくすることができないからである。面内方向の抵抗値が大きいことは、アノード電極8の特性として好ましくない。透光性に優れるITO膜8bを厚く形成することにより、透光性を保ちつつ面内方向の抵抗値を小さくすることができる。
【0029】
このような構造のアノード電極8を使用することにより、低抵抗のオーミックコンタクトと、高い透光性とを同時に実現できる。発明者は、ITO/NiO電極、Au/Ni電極、及びITO/Ni電極のそれぞれについて、I−V特性及び光の透過率スペクトルを測定することによってこのことを確認した。図2A〜図2Cは、I−V特性の測定に使用された3つの試料”1”〜”3”の構造を示している。試料”1”〜”3”のいずれにおいても、サファイア基板11の上にp−GaN層12が形成され、その上に、評価対象の電極が2つ形成された。図2Aに示されているように、試料”1”では、2つのITO/NiO電極13がp−GaN層12の上に形成されている。試料”2”では、2つのAu/Ni電極14がp−GaN層12の上に形成され、試料”3”では、2つのITO/Ni電極15がp−GaN層12の上に形成されている。ITO/NiO電極13、Au/Ni電極14、及びITO/Ni電極15は、その形成の後でアニール処理が行われている。ITO/NiO電極13、Au/Ni電極14、及びITO/Ni電極15の構造、及び処理条件は、図3に示されているとおりである。試料”1”〜”3”のそれぞれについて、形成された2つの電極の間のI−V特性が計測された。
【0030】
図4は、試料”1”〜”3”のI−V特性を示すグラフである。I−V特性において電流が電圧に対して線形的に変化することは、オーミックコンタクトが得られていることを意味しており、I−V特性の傾きが大きいことは、コンタクト抵抗が小さいことを意味している。図4に示されているように、ITO/NiO電極は、I−V特性が線形的であり、且つ、Au/Ni電極、及びITO/Ni電極と比べてI−V特性の傾きが大きい。これは、ITO/NiO電極を使用することにより、コンタクト抵抗が小さいオーミックコンタクトを実現することができることを意味している。
【0031】
一方、図5は、ITO/NiO電極、Au/Ni電極、及びITO/Ni電極の光の透過率スペクトルを示すグラフである。図5に示されているように、ITO/NiO電極は、可視領域において80%〜100%の透過率を得ることができるのに対し、Au/Ni電極、及びITO/Ni電極では、70%程度の透過率しか得られない。
【0032】
このように、ITO/NiO電極は、低抵抗のオーミックコンタクトと、高い透光性とを同時に実現できる。
【0033】
発明者は、ITO/NiO電極によってオーミックコンタクトが得られるメカニズムを、次のように考えている。当業者に広く知られているように、ITO膜は、n型の縮退半導体として機能する。加えて、1019/cm以上の高いキャリア濃度を有するNiO膜は、p型の縮退半導体として機能する。これにより、図6に示されているように、ITO膜8bとp−GaN層7との間においてバンドが大きく曲がる。このため、ITO膜8bとp−GaN層7の間ではトンネル電流が流れやすく、低いコンタクト抵抗が得られる。
【0034】
トンネル電流を流すという観点から、p−NiO膜8aの膜厚は、アノード電極8の特性に影響を及ぼす重要なパラメータである。図7は、NiO膜の厚さが異なるITO/NiO電極のI−V特性を示すグラフである。ITO/NiO電極のNiO膜が厚い場合、具体的には、NiO膜の膜厚が12.5nmである場合には、オーミックコンタクト特性は良好ではない。NiO膜の膜厚が5.0nm、及び8.5nmでは、オーミックコンタクトが得られる。これは、NiO膜の膜厚は8.5nm以下であることが好適であることを意味している。特に、NiO膜の膜厚が5.0nmの場合には、良好なオーミックコンタクト特性が得られるため好適である。成膜の安定性を考えると、NiO膜の膜厚は、5nm以上であることが、現実的である。
【0035】
図6のバンド構造から理解されるように、p−NiOx膜8aのキャリア濃度が高いことは重要である。キャリア濃度が1019/cm以上であるp−NiOx膜8aは、酸素ガスを含むスパッタリングガスを用いた反応性スパッタによって形成可能である。このことは、発明者の実験によって検証されている。図8は、スパッタリングガスに含まれる酸素ガスのモル比と、酸化ニッケル膜のキャリア濃度の関係を示すグラフである。スパッタリング条件は下記のとおりである:
RF電力:100W
ターゲット:酸化ニッケル
スパッタリングガス:アルゴンガス、酸素ガス、及びそれらの混合ガス
酸素ガスのモル比:0%、60%、80%、100%
【0036】
スパッタリングガスに酸素ガスが含まれていない場合(酸素ガス:0%)には、形成された酸化ニッケル膜は絶縁性を示した。これは、酸化ニッケル膜のキャリア濃度が極めて低いことを意味している。
【0037】
一方、スパッタリングガスに酸素ガスが含まれている場合には、形成された酸化ニッケル膜はp型の導電性を示した。なお、導電型がp型であることは、ホール測定によって確認されている。図8に示されているように、酸素ガスのモル比が60%以上である場合に、1019/cm以上のキャリア濃度が得られる。特に、酸素ガスのみで構成されているスパッタリングガス(酸素ガス:100%)を使用することは、1020/cm以上の高いキャリア濃度を有するp−NiOx膜8aを形成可能にするため好適である。1020/cm以上のキャリア濃度を実現することは、ITO膜8bとp−GaN層7との間のトンネリングを促進し、接触抵抗を低減するために有効である。
【0038】
発明者は、スパッタリングガスにおける酸素ガスのモル比を増大させることによって高いキャリア濃度が得られるのは、酸素ガスのモル比の増大により、酸化ニッケルに含まれる2価のニッケルイオン(Ni2+)が3価のニッケルイオン(Ni3+)に置換されるためであると考えている。3価のニッケルイオンは、アクセプタとして機能して正孔を供給する。このような発明者の考察は、X線電子分光分析(XPS)の結果によって裏づけられている。図9Aは、100%のアルゴンガスをスパッタリングガスとして使用した場合の、酸化ニッケル膜の発光スペクトルであり、図9Bは、100%の酸素ガスをスパッタリングガスとして使用した場合の、酸化ニッケル膜の発光スペクトルである。図9Aに示されているように、100%のアルゴンガスをスパッタリングガスとして使用した場合にはNi3+に対応するピークは見出されない。一方、100%の酸素ガスをスパッタリングガスとして使用した場合には、図9Bに示されているように、発光スペクトルにNi3+に対応するピークが現れる。これは、100%の酸素ガスをスパッタリングガスとして使用して形成されたp−NiO膜8aでは、2価のニッケルイオン(Ni2+)の一部が3価のニッケルイオン(Ni3+)に置換されていることを示唆している。
【0039】
以上に説明されているように、本実施形態の発光素子10では、薄く、高いキャリア濃度を有するp−NiO膜8aと厚いITO膜8bとで構成されたITO/NiO電極がアノード電極8として使用される。これにより、アノード電極8のオーミックコンタクト特性及び透光性が向上されている。
【0040】
下記の2つの改良を行うことにより、コンタクト抵抗を更に低下させることができる:
第1に、p−NiOx膜8aの成膜の後、紫外線をp−NiOx膜8aに照射しながらオゾンを含む酸化雰囲気(以下では、単に「オゾン雰囲気」という。)でアニール処理を行うことがコンタクト抵抗の低減に好適である。紫外線を照射しながらオゾン雰囲気でアニール処理を行うことにより、p−NiOx膜8aのより完全な酸化を実現することができる。コンタクト抵抗を低減させるためには、アニール処理温度は、100〜200℃であることが好適である。
【0041】
第2に、p−NiOx膜8aの形成において、NiOx膜を反応性スパッタリングによって形成する前に、薄いNi膜をp−GaN層7の上に成長させることが好適である。Ni膜は、反応性スパッタリングによるNiOx膜の形成の際、p−GaN層7を保護する役割を果たし、コンタクト抵抗の更なる低減に寄与する。本実施形態では、NiOx膜が酸素を含む反応ガスを用いた反応性スパッタリングによって成膜されるが、スパッタの際に生成される酸素プラズマは、下地構造体に(本実施形態ではp−GaN層7に)多くのダメージを与えることが知られている。Ni膜は、酸素プラズマがp−GaN層7に与えるダメージを有効に抑制する。発明者の実験によれば、Ni膜の好適な厚さは、約50Åである。Ni膜は、その後に続くプロセスによって酸化され、最終的には、p−NiOx膜8aの一部となる。Ni膜の酸化は、例えば、p−NiOx膜8aの形成の後、酸素雰囲気でアニール処理することによって行われる。上述のように、紫外線をp−NiOx膜8aに照射しながらオゾン雰囲気でアニール処理を行う場合には、このアニール処理によってNi膜が酸化される。
【0042】
発明者は、紫外線を照射しながらのオゾン雰囲気でのアニール処理の有効性を、実験により確認した。実験で使用された試料の構造は、図2Aに示されている構造と同じである。試料は、下記の工程で作製された:
まず、サファイア基板の上にp−GaN層が形成され、その上に、Ni膜がイオンビーム蒸着法によって形成された。続いて、p−NiOx膜が上述の反応性スパッタ法によって形成された。その後、Ni膜の酸化、及びNiOx膜のより完全な酸化のために、オゾン雰囲気で紫外線を照射しながらNiOx膜のアニール処理が行われた。アニール処理温度は、150〜250℃であり、アニール処理時間は5〜10分であった。このアニール処理は、一般に使用されているUV/オゾンアッシング装置によって行われた。
【0043】
図10は、UV/オゾンアッシング装置の構成の例を示す図である。チャンバー21の内部に、処理対象(発光素子の中間構造体)を置くステージ22が設けられており、UVランプ23が、ステージ22に対向する位置に設けられる。ステージ22には、ヒータが埋め込まれている。チャンバー21には、酸素からオゾンを発生するオゾン発生器24が接続されており、オゾン発生器24は、チャンバー21に酸素とオゾンの混合ガスを供給する。チャンバー21には、更に、パージ用の窒素を供給するパージライン25が接続されている。チャンバー21の排気口には、オゾンを分解するための触媒を収容する排気処理装置26が設けられている。
【0044】
NiOx膜の成膜の後、NiOx膜の上にITO膜が形成され、最後に、窒素雰囲気でアニール処理が行われた。このアニール処理の温度は400〜700℃であり、アニール処理時間は3分であった。更に、NiOx膜とITO膜の積層体が、所望の形状を有する電極にパターニングされた。
【0045】
更に、対比試料として、オゾン雰囲気で紫外線を照射しながらアニール処理を行う代わりに、(紫外線を照射せずに)酸素雰囲気でNiOx膜のアニール処理を行った試料も作製した。このアニール処理の温度は200〜250℃であり、アニール処理時間は、3分であった。
【0046】
図11は、オゾン雰囲気で紫外線を照射しながらアニール処理を行った試料と酸素雰囲気でアニール処理を行った試料のコンタクト抵抗を示すグラフである。このグラフでは、横軸はアニール処理の温度を示しており、縦軸は、接触抵抗を示している。Ni膜の厚さ、及びその後に形成されるNiOx膜の厚さは、いずれも50Åであり、また、ITO膜の形成の後の窒素雰囲気アニールの温度は、500℃である。酸素雰囲気でアニール処理を行った試料では、接触抵抗が7×10−3〜3×10−2Ω・cmであったのに対し、オゾン雰囲気で紫外線を照射しながらアニール処理を行った試料では、接触抵抗が9×10−4〜5×10−3Ω・cmであった。この結果は、NiOx膜に対して、オゾン雰囲気で紫外線を照射しながらアニール処理を行うことの有効性を示している。図11から理解されるように、オゾン雰囲気での紫外線を照射しながらのアニール処理には、最適な範囲がある。アニール処理温度は、100〜200℃であることが好適であり、150℃付近が最適な温度である。
【0047】
Ni膜の形成の後に形成されるNiOx膜の厚さは、コンタクト抵抗に影響を及ぼす。ここでいうNiOx膜の厚さとは、(Ni膜の酸化によって形成されるNiOxを含まない)反応性スパッタによって成膜されるNiOx膜の厚さをいうことに留意されたい。図12は、NiOx膜の厚さとコンタクト抵抗の関係を示すグラフである。このグラフに示されているように、NiOx膜の厚さを50〜100Å(即ち、5nm〜10nm)にすることにより、低いコンタクト抵抗が得られる。NiOx膜の厚さが薄すぎることは、急激なコンタクト抵抗の増加をもたらす。最も好適なNiOx膜の膜厚は、約50Åである。
【0048】
ITO膜の成膜の後のアニール処理の温度も、コンタクト抵抗に影響を及ぼす。図13は、ITO膜の成膜の後のアニール処理の温度とコンタクト抵抗との関係を示すグラフである。このグラフから理解されるように、400〜500℃のアニール温度が好適である。
【0049】
なお、本実施形態では、p−GaN層7に対してオーミックコンタクトを実現する技術が提示されているが、本発明は、大きい仕事関数を有する他のp型の窒化物半導体、例えば、AlGaNやInGaNへのオーミックコンタクトを実現するために適用することもできることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の一実施形態の発光素子の構造を示す断面図である。
【図2A】図2Aは、I−V特性の測定に使用された試料の構造を示す断面図である。
【図2B】図2Bは、I−V特性の測定に使用された試料の構造を示す断面図である。
【図2C】図2Cは、I−V特性の測定に使用された試料の構造を示す断面図である。
【図3】図3は、ITO/NiO電極、Au/Ni電極、及びITO/Ni電極の構造、及びそれらに対して行われたアニール処理を説明する表である。
【図4】図4は、ITO/NiO電極、Au/Ni電極、及びITO/Ni電極のI−V特性を示すグラフである。
【図5】図5は、ITO/NiO電極、Au/Ni電極、及びITO/Ni電極のI−V特性の光透過率スペクトルを示すグラフである。
【図6】図6は、ITO/NiO電極とp−GaN層のバンド構造を示す図である。
【図7】図7は、NiO膜の膜厚が異なるITO/NiO電極それぞれのI−V特性を示すグラフである。
【図8】図8は、スパッタガスに含まれる酸素ガスのモル比と、NiO膜のキャリア濃度の関係を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、100%のアルゴンガスをスパッタリングガスとして使用した場合の、酸化ニッケル膜の発光スペクトルである。
【図9B】図9Bは、100%の酸素ガスをスパッタリングガスとして使用した場合の、酸化ニッケル膜の発光スペクトルである。
【図10】図10は、オゾン雰囲気で紫外線を照射しながらアニール処理を行った試料と酸素雰囲気でアニール処理を行った試料の接触抵抗を示すグラフである。
【図11】図11は、オゾン雰囲気で紫外線を照射しながらアニール処理を行った試料と酸素雰囲気でアニール処理を行った試料のコンタクト抵抗を示すグラフである。
【図12】図12は、NiOx膜の厚さとコンタクト抵抗の関係を示すグラフである。
【図13】図13は、ITO膜の成膜の後のアニール処理の温度とコンタクト抵抗との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
10:発光素子
1:サファイア基板
2:GaNバッファ層
3:n−GaN層
4:n−AlGaN層
5:活性層
6:p−AlGaN層
7:p−GaN層
8:アノード電極
8a:p−NiO
8b:ITO膜
9:カソード電極
11:サファイア基板
12:p−GaN層
13:ITO/NiO電極
14:Au/Ni電極
15:ITO/Ni電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を発生する活性層と、
前記活性層を被覆し、且つ、p型導電型を有する窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層の上に形成された酸化ニッケル膜と、
前記酸化ニッケル膜を被覆するように形成されたITO膜
とを具備し、
前記酸化ニッケル膜は、p型半導体になるように形成されている
発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の発光素子であって、
前記窒化物半導体層は、p型のGaNで形成されている
発光素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発光素子であって、
前記酸化ニッケル層の膜厚が、トンネル電流を流すことができる程度に薄い
発光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の発光素子であって、
前記酸化ニッケル層の膜厚が、8.5nm以下である
発光素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の発光素子であって、
前記酸化ニッケル膜が、キャリア濃度が1019/cm以上であるように形成されている
発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の発光素子であって、
前記酸化ニッケル膜が、p型の縮退半導体であるように形成されている
発光素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の発光素子であって、
前記酸化ニッケル層は、酸素ガスを含むスパッタリングガスを用いてスパッタリングを行うことによって形成された
発光素子。
【請求項8】
請求項7に記載の発光素子であって、
前記酸化ニッケル層は、酸素ガスからなるスパッタリングガスを用いてスパッタリングを行うことによって形成された
発光素子。
【請求項9】
光を発生する活性層を形成する工程と、
前記活性層を被覆するように、p型導電型を有する窒化物半導体層を形成する工程と、
前記窒化物半導体層の上に、p型導電性を有する酸化ニッケル層を形成する工程と、
前記酸化ニッケル層を被覆するようにITO膜を形成する工程
とを具備する
発光素子の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の発光素子の製造方法であって、
前記酸化ニッケル層は、酸素ガスを含むスパッタリングガスを用いてスパッタリングを行うことによって形成された
発光素子の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の発光素子の製造方法であって、
前記酸化ニッケル層は、酸素ガスからなるスパッタリングガスを用いてスパッタリングを行うことによって形成された
発光素子の製造方法。
【請求項12】
光を発生する活性層を形成する工程と、
前記活性層を被覆するように、p型導電型を有する窒化物半導体層を形成する工程と、
前記窒化物半導体層の上に、ニッケル膜を形成する工程と、
前記ニッケル膜の上に、酸化ニッケル膜を形成する工程と、
前記酸化ニッケル膜の形成の後で前記ニッケル膜を酸化することにより、前記ニッケル膜と前記酸化ニッケル膜から、p型導電性を有するp型酸化ニッケル層を形成する工程と、
前記p型酸化ニッケル層を被覆するようにITO膜を形成する工程
とを具備する
発光素子の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の発光素子の製造方法であって、
前記ニッケル膜の酸化は、前記酸化ニッケル膜の形成の後、前記酸化ニッケル膜に紫外線を照射しながらオゾン雰囲気でアニール処理を行うことによって行われる
発光素子の製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の発光素子の製造方法であって、
前記アニール処理の温度は、100〜200℃である
発光素子の製造方法。
【請求項15】
請求項12乃至14のいずれかに記載の発光素子の製造方法であって、
前記酸化ニッケル膜の厚さは、5〜10nmである
発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−60561(P2008−60561A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203446(P2007−203446)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月6日 国立大学法人電気通信大学主催の「平成17年度 電気通信大学大学院 電気通信学研究科 電子工学専攻 マイクロエレクトロニクス講座 博士前期課程 修士論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(501045021)株式会社ナノテコ (9)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】