説明

発光素子、発光装置、表示装置および電子機器

【課題】高発光効率化および低駆動電圧化を図りつつ、発光素子の製造における歩留まりを向上させることができる発光素子、かかる発光素子を備えた発光装置、表示装置および電子機器を提供すること。
【解決手段】発光素子1は、陰極9と、陽極3と、陰極9と陽極3との間に設けられ、これらの両極間の通電により発光する赤色発光層61、青色発光層63および緑色発光層64を備える発光部6と、陽極3と赤色発光層61との間にこれらの両層に接するように設けられ、正孔注入性を有する正孔注入層4とを有し、正孔注入層4は、ベンジジン誘導体を主材料として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、発光装置、表示装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(いわゆる有機EL素子)は、陽極と陰極との間に発光層として少なくとも1層の発光性有機層を介挿した構造を有する発光素子である。このような発光素子では、陰極と陽極との間に電界を印加することにより、発光層に陰極側から電子が注入されるとともに陽極側から正孔が注入され、発光層中で電子と正孔が再結合することにより励起子が生成し、この励起子が基底状態に戻る際に、そのエネルギー分が光として放出される。
このような発光素子としては、例えば、正孔の注入性を向上させるために、陽極と発光層との間に、正孔注入層および正孔輸送層を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年では、発光素子の様々な特性(例えば電子の注入性)を向上させるために、陽極と発光層との間以外の層構成においても、発光素子を構成する層の数が多くなる傾向にある。特に、白色発光の発光素子では、赤色、青色および緑色の3層の発光層や、これらの発光層の発光バランスを調整したり長寿命化を実現したりするための中間層等が必要となり、発光素子を構成する層の数が極めて多くなる。その結果、従来では、発光素子の駆動電圧の上昇を招いてしまうと言う問題があった。
【0004】
発光素子の駆動電圧を低減するには、陽極と陰極との間の層の合計の層厚を薄くする必要がある。しかしながら、そうすると、従来の発光素子では、基板上に存在する異物が発光素子を構成する層同士の多くの層間に跨ってしまい、その結果、陽極と陰極との間でリークが発生し、欠陥品となる場合があった。そのため、従来では、発光素子の製造における歩留まりが低いと言う問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3654909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高発光効率化および低駆動電圧化を図りつつ、発光素子の製造における歩留まりを向上させることができる発光素子、かかる発光素子を備えた発光装置、表示装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の発光素子は、陰極と、
陽極と、
前記陰極と前記陽極との間に設けられ、これらの両極間の通電により発光する発光層を備える発光部と、
前記陽極と前記発光層との間にこれらの両層に接するように設けられ、正孔注入性を有する正孔注入層とを有し、
前記正孔注入層は、ベンジジン誘導体を主材料として構成されていることを特徴とする。
【0008】
陽極と発光部との間に正孔注入層しか存在しないため、発光素子を構成する層の数を少なくすることができる。その結果、発光素子の低電圧駆動化を図ることができる。
また、ベンジジン誘導体は、正孔注入性および正孔輸送性に優れる。そのため、ベンジジン誘導体を主材料として構成された正孔注入層は、陽極から正孔が効率的に注入されるとともに、その注入された正孔を発光部へ効率的に輸送することができる。そのため、発光素子の高発光効率化を図ることができる。
【0009】
また、前述したようにベンジジン誘導体が正孔注入性および正孔輸送性に優れるので、正孔注入層を厚膜化することができる。そのため、発光素子の製造過程において、陽極上に正孔注入層を形成する際に、陽極上に異物が存在していても、その異物を覆う(埋める)ように正孔注入層を形成することができる。このように正孔注入層を厚膜化することにより、かかる異物が発光素子を構成する層同士の層間に跨ることを防止または抑制することができる。その結果、発光素子を構成する層間が異物によってショートするのを防止することができる。これにより、発光素子の製造における歩留まりを向上させることができる。
【0010】
本発明の発光素子では、前記正孔注入層の平均厚さは、80〜200nmであることが好ましい。
これにより、簡単かつ確実に、発光素子の低駆動電圧化を図るとともに、陽極上に異物が存在していても、その異物を覆うように正孔注入層を形成することができる。
本発明の発光素子では、前記陽極と前記陰極との間の距離は、150〜300nmであることが好ましい。
これにより、簡単かつ確実に、発光素子の低駆動電圧化を図ることができる。
【0011】
本発明の発光素子では、前記陽極の前記正孔注入層側の面は、プラズマ処理が施されていることが好ましい。
これにより、陽極から正孔注入層への正孔注入性を向上させることができる。
本発明の発光素子では、前記陽極は、ITOで構成されていることが好ましい。
これにより、陽極から正孔注入層へ効率的に正孔を注入することができる。
【0012】
本発明の発光素子では、前記発光部は、複数の発光層を備えており、
前記正孔注入層は、前記陽極と前記複数の発光層のうちの最も前記陽極側の発光層との間にこれらの両層に接するように設けられていることが好ましい。
発光部が複数の発光層を備える発光素子は、陽極と陰極との間に存在する層の合計の厚さが大きくなる傾向となる。そのため、このような発光素子においては、駆動電圧の上昇を招きやすいため、本発明を適用することによる効果が顕著となる。
【0013】
本発明の発光素子では、前記発光部は、前記陽極側から前記陰極側に、互いに発光色の異なる第1の発光層、第2の発光層および第3の発光層がこの順で積層されており、
前記正孔注入層は、前記陽極と前記第1の発光層との間にこれらの両層に接するように設けられていることが好ましい。
これにより、所望の発光色を有する発光素子を提供することができる。例えば、第1の発光層、第2の発光層および第3の発光層の発光色を赤色、青色および緑色とすることにより、白色発光する発光素子を提供することができる。
【0014】
本発明の発光素子では、前記第1の発光層は、アセン系材料を含んで構成されていることが好ましい。
これにより、第1の発光層から正孔注入層への電子の移動を適度に制限しつつ、正孔注入層から第1の発光層への正孔輸送性を優れたものとすることができる。
本発明の発光素子では、前記アセン系材料は、ナフタセン誘導体であることが好ましい。
これにより、第1の発光層の発光効率を優れたものとしつつ、第1の発光層から正孔注入層への電子の移動を適度に制限しつつ、正孔注入層から第1の発光層への正孔輸送性を優れたものとすることができる。
【0015】
本発明の発光素子では、前記第1の発光層中における前記アセン系材料の含有量は、90〜99.99wt%であることが好ましい。
これにより、第1の発光層の発光効率を優れたものとしつつ、第1の発光層から正孔注入層への電子の移動を適度に制限しつつ、正孔注入層から第1の発光層への正孔輸送性を優れたものとすることができる。
本発明の発光素子では、前記発光部は、前記第1の発光層と前記第2の発光層との間に中間層が設けられていることが好ましい。
これにより、第1の発光層、第2の発光層および第3の発光層をバランスよく発光させることができる。
【0016】
本発明の発光素子では、前記第1の発光層は、前記陰極と前記陽極との間の通電により赤色に発光するものであり、前記第2の発光層および前記第3の発光層は、一方が前記陰極と前記陽極との間の通電により青色に発光するものであり、他方が前記陰極と前記陽極との間の通電により緑色に発光するものであることが好ましい。
これにより、第1の発光層、第2の発光層および第3の発光層をバランスよく発光させ、白色発光する発光素子を提供することができる。
本発明の発光素子では、前記正孔注入層中における前記ベンジジン誘導体の含有量は、50〜100wt%であることが好ましい。
これにより、より確実に、正孔注入層の正孔注入性および正孔輸送性を優れたものとすることができる。
【0017】
本発明の発光装置は、本発明の発光素子を備えることを特徴とする。
これにより、歩留まりを向上させるとともに、低駆動電圧化および高発光効率化を図ることができる発光装置を提供することができる。
本発明の表示装置は、本発明の発光装置を備えることを特徴とする。
これにより、優れた信頼性を有する表示装置を提供することができる。
本発明の電子機器は、本発明の表示装置を備えることを特徴とする。
これにより、優れた信頼性を有する電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発光素子を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る発光素子を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施例および比較例の発光素子の正孔注入層および正孔輸送層の合計膜厚と駆動電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の発光素子、発光装置、表示装置および電子機器を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る発光素子を模式的に示す断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1中の上側を「上」、下側を「下」として説明を行う。
【0020】
図1に示す発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)1は、白色発光する発光素子である。
このような発光素子1は、陽極3と正孔注入層4と発光部6と電子輸送層7と電子注入層8と陰極9とがこの順に積層されてなるものである。すなわち、発光素子1では、陽極3と陰極9との間に、陽極3側から陰極9側へ正孔注入層4と発光部6と電子輸送層7と電子注入層8とがこの順で積層された積層体15が介挿されている。また、発光部6は、陽極3側から陰極9側に、赤色発光層(第1の発光層)61と中間層62と青色発光層(第2の発光層)63と緑色発光層(第3の発光層)64とがこの順に積層されている。
そして、発光素子1は、その全体が基板2上に設けられるとともに、封止部材10で封止されている。
【0021】
このような発光素子1にあっては、陽極3および陰極9に駆動電圧が印加されることにより、赤色発光層61、青色発光層63、および緑色発光層64に対し、それぞれ、陰極9側から電子が供給(注入)されるとともに、陽極3側から正孔が供給(注入)される。そして、各発光層では、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。これにより、発光素子1は、R(赤色)光、G(緑色)光およびB(青色)光の合成により、白色発光する。
【0022】
基板2は、陽極3を支持するものである。本実施形態の発光素子1は、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)であるため、基板2および陽極3は、それぞれ、実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)とされている。
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。
なお、発光素子1が基板2と反対側から光を取り出す構成(トップエミッション型)の場合、基板2には、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。
【0023】
不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
また、このような発光素子1では、陽極3と陰極9との間の距離(すなわち積層体15の平均厚さ)は、150〜300nmであるのが好ましく、150〜250nmであるのがより好ましく、160〜200nmであるのがさらに好ましい。これにより、簡単かつ確実に、発光素子1の低駆動電圧化を図ることができる。
また、陽極3と陰極9との間の距離をAとし、正孔注入層4の平均厚さをBとしたときに、(A−B)は、80〜150nmであるのが好ましく、80〜130nmであるのがより好ましく、80〜100nmであるのがさらに好ましい。これにより、簡単かつ確実に、発光素子1の低駆動電圧化を図ることができる。
【0024】
以下、発光素子1を構成する各部を順次説明する。
[陽極]
陽極3は、後述する正孔注入層4を介して発光部6(赤色発光層61)に正孔を注入する電極である。この陽極3の構成材料としては、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料を用いるのが好ましい。
【0025】
陽極3の構成材料としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、陽極3は、ITOで構成されているのが好ましい。ITOは、透明性を有するとともに、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料である。これにより、陽極3から正孔注入層4へ効率的に正孔を注入することができる。
【0026】
また、陽極3の正孔注入層4側の面(図1にて上面)は、プラズマ処理が施されているのが好ましい。これにより、陽極3と正孔注入層4との接合面の化学的および機械的な安定性を高めることができる。その結果、陽極3から正孔注入層4への正孔注入性を向上させることができる。なお、かかるプラズマ処理については、後述する発光素子1の製造方法の説明において詳述する。
このような陽極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度であるのが好ましく、50〜150nm程度であるのがより好ましい。
【0027】
[陰極]
一方、陰極9は、後述する電子注入層8を介して電子輸送層7に電子を注入する電極である。この陰極9の構成材料としては、仕事関数の小さい材料を用いるのが好ましい。
陰極9の構成材料としては、例えば、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rbまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、複数層の積層体、複数種の混合層等として)用いることができる。
【0028】
特に、陰極9の構成材料として合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。かかる合金を陰極9の構成材料として用いることにより、陰極9の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
このような陰極9の平均厚さは、特に限定されないが、100〜10000nm程度であるのが好ましく、100〜500nm程度であるのがより好ましい。
なお、本実施形態の発光素子1は、ボトムエミッション型であるため、陰極9に、光透過性は、特に要求されない。
【0029】
[正孔注入層]
正孔注入層4は、陽極3からの正孔注入効率を向上させる機能を有する(すなわち正孔注入性を有する)ものである。
この正孔注入層4は、陽極3と後述する赤色発光層61との間にこれらの両層に接するように設けられている。
言い換えると、正孔注入層4は、陽極3と発光部6の複数の発光層のうちの最も陽極3側の発光層との間にこれらの両層に接するように設けられている。
【0030】
したがって、陽極3と発光部6(具体的には赤色発光層61)との間に正孔注入層4しか存在しないため、発光素子1を構成する層の数を少なくすることができる。その結果、発光素子1の低電圧駆動化を図ることができる。
そして、この前記正孔注入層4は、ベンジジン誘導体を主材料として構成されている。
ベンジジン誘導体は、正孔注入性および正孔輸送性に優れる。そのため、ベンジジン誘導体を主材料として構成された正孔注入層4は、陽極3から正孔が効率的に注入されるとともに、その注入された正孔を発光部6(赤色発光層61)へ効率的に輸送することができる。そのため、発光素子1の高発光効率化を図ることができる。
【0031】
また、前述したようにベンジジン誘導体が正孔注入性および正孔輸送性に優れるので、正孔注入層4を厚膜化することができる。そのため、後述する発光素子1の製造過程において、陽極3上に正孔注入層4を形成する際に、陽極3上に異物が存在していても、その異物を覆う(埋める)ように正孔注入層4を形成することができる。このように正孔注入層4を厚膜化することにより、かかる異物が発光素子1を構成する層同士の層間に跨ることを防止または抑制することができる。その結果、発光素子1を構成する層間が異物によってショートするのを防止することができる。これにより、発光素子1の製造における歩留まりを向上させることができる。
かかるベンジジン誘導体(正孔注入層4の構成材料)としては、ベンジジン骨格を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、下記式(4−1)で表わされる化合物(N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン)またはその誘導体である。
【0032】
【化1】

【0033】
上記式(4−1)で表わされる化合物の誘導体としては、例えば、下記式(4−2)〜(4−7)で表わされる化合物等が挙げられる。
【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
これらのベンジジン誘導体は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。このようなベンジジン誘導体は、正孔注入性および正孔輸送性に優れるとともに、気相成膜法により簡単に均質な膜(層)を形成することができる。そのため、このようなベンジジン誘導体を構成材料として用いた正孔注入層4は、特に正孔注入性および正孔輸送性に優れるものとなる。
【0041】
また、正孔注入層4には、前述したベンジジン誘導体以外の材料が含まれていてもよい。
正孔注入層4に含まれるベンジジン誘導体以外の材料としては、正孔注入性および正孔輸送性のうちの少なくとも一方の特性が優れるものを用いることができ、例えば、下記式(4a−1)〜(4a−4)で表わされるようなN,N,N’,N’−テトラフェニル−フェニレンジアミンまたはその誘導体等のアミン系材料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
【化8】

【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
このような正孔注入層4中におけるベンジジン誘導体の含有量は、特に限定されないが、50〜100wt%であるのが好ましく、70〜100wt%であるのがより好ましく、90〜100wt%であるのがさらに好ましい。これにより、より確実に、正孔注入層4中のベンジジン誘導体の正孔注入性および正孔輸送性を効果的に発揮させ、その結果、正孔注入層4の正孔注入性および正孔輸送性を優れたものとすることができる。
また、正孔注入層4の平均厚さは、80〜200nmであるのが好ましく、80〜180nmであるのがより好ましく、90〜150nmであるのがさらに好ましい。これにより、簡単かつ確実に、発光素子1の低駆動電圧化を図るとともに、陽極3上に異物が存在していても、その異物を覆うように正孔注入層4を形成することができる。
【0047】
これに対して、正孔注入層4の平均厚さが前記下限値未満であると、発光素子1の製造時において、陽極3上に存在する異物の大きさによっては、発光素子1を構成する層同士の層間のうち異物が跨る層間の数が多くなってしまい、その結果、発光素子1を構成する層間が異物によってショートしてしまう場合がある。一方、正孔注入層4の平均厚さが前記上限値を超えると、発光素子1の駆動電圧が上昇する傾向を示す。また、発光素子1の正孔注入層4以外の層の構成や材料によっては、陽極3と陰極9との間の距離(すなわち積層体15の平均厚さ)が大きくなってしまい、この点でも、発光素子1の駆動電圧が上昇する傾向を示す。
【0048】
[発光部]
上述したように、発光部6は、陽極3側から陰極9側に、赤色発光層(第1の発光層)61と中間層62と青色発光層(第2の発光層)63と緑色発光層(第3の発光層)64とがこの順で積層されている。
【0049】
(赤色発光層)
この赤色発光層(第1の発光層)61は、赤色(第1の色)に発光する赤色発光材料(第1の発光材料)を含んで構成されている。
このような赤色発光材料としては、特に限定されず、各種赤色蛍光材料、赤色燐光材料を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0050】
赤色蛍光材料としては、赤色の蛍光を発するものであれば特に限定されず、例えば、下記式(61−1)で表わされるテトラアリールジインデノペリレン誘導体等のペリレン誘導体、ユーロピウム錯体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、ポルフィリン誘導体、ナイルレッド、2−(1,1−ジメチルエチル)−6−(2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−1H,5H−ベンゾ(ij)キノリジン−9−イル)エテニル)−4H−ピラン−4H−イリデン)プロパンジニトリル(DCJTB)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)等を挙げられる。
【0051】
【化12】

【0052】
赤色燐光材料としては、赤色の燐光を発するものであれば特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられ、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つがフェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものも挙げられる。より具体的には、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム(アセチルアセトネート)(btp2Ir(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−12H,23H−ポルフィリン−白金(II)、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム、ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0053】
また、赤色発光層61の構成材料としては、前述したような赤色発光材料に加えて、この赤色発光材料がゲスト材料(ドーパント)として添加(担持)されるホスト材料(第1のホスト材料)を用いてもよい。このホスト材料は、正孔と電子とを再結合して励起子を生成するとともに、その励起子のエネルギーを赤色発光材料に移動(フェルスター移動またはデクスター移動)させて、赤色発光材料を励起する機能を有する。このような第1のホスト材料は、例えば、ゲスト材料である赤色発光材料をドーパントとして第1のホスト材料にドープして用いることができる。
【0054】
このような第1のホスト材料としては、用いる赤色発光材料に対して前述したような機能を発揮するものであれば、特に限定されないが、赤色発光材料が赤色蛍光材料を含む場合、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、下記式(61a−1)で表わされるようなアントラセン誘導体、2−t−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(TBADN)等のアントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアミン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等のキノリノラト系金属錯体、トリフェニルアミンの4量体等のトリアリールアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、下記式(61a−2)で表わされるナフタセン誘導体等のナフタセンおよびその誘導体、シロール誘導体、ジカルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ベンゾピラン誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、キノリン誘導体、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0055】
【化13】

【0056】
【化14】

【0057】
また、赤色発光材料が赤色燐光材料を含む場合、第1のホスト材料としては、例えば、3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニルカルバゾール、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、第1のホスト材料としては、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、ヘキサセン誘導体、ヘプタセン誘導体等のアセン系材料(アセン骨格を有する材料)を用いるのが好ましい。すなわち、赤色発光層61は、アセン系材料を含んで構成されているのが好ましい。これにより、赤色発光層61から正孔注入層4への電子の移動を適度に制限しつつ、正孔注入層4から赤色発光層61への正孔輸送性を優れたものとすることができる。
【0058】
特に、第1のホスト材料に用いるアセン系材料としては、テトラセン(ナフタセン)誘導体を用いるのが好ましい。これにより、赤色発光層61の発光効率を優れたものとしつつ、赤色発光層61から正孔注入層4への電子の移動を適度に制限しつつ、正孔注入層4から赤色発光層61への正孔輸送性を優れたものとすることができる。
また、赤色発光層61中におけるアセン系材料(第1のホスト材料)の含有量は、90〜99.99wt%であるのが好ましく、95〜99.9wt%であるのがより好ましい。これにより、赤色発光層61の発光効率を優れたものとしつつ、赤色発光61層から正孔注入層4への電子の移動を適度に制限しつつ、正孔注入層から第1の発光層への正孔輸送性を優れたものとすることができる。
【0059】
また、赤色発光層61に第1のホスト材料が含まれる場合、赤色発光層61中における赤色発光材料の含有量(ドープ量)は、0.01〜10wt%であるのが好ましく、0.1〜5wt%であるのがより好ましい。赤色発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができ、後述する青色発光層63や緑色発光層64の発光量とのバランスをとりつつ赤色発光層61を発光させることができる。
また、赤色発光層61の平均厚さは、特に限定されないが、1〜20nm程度であるのが好ましく、3〜10nm程度であるのがより好ましい。
【0060】
(中間層)
この中間層62は、前述した赤色発光層61と後述する青色発光層63との層間にこれらの両層に接するように設けられている。そして、中間層62は、青色発光層63から赤色発光層61へ輸送される電子の量を調節する機能を有する。また、中間層62は、赤色発光層61から青色発光層63へ輸送される正孔の量を調節する機能を有する。また、中間層62は、赤色発光層61と青色発光層63との間で励起子のエネルギーが移動するのを阻止する機能を有する。これらの機能により、赤色発光層61および青色発光層63をそれぞれ効率よく発光させることができる。この結果、各発光層をバランスよく発光させることができ、発光素子1は目的とする色(本実施形態では白色)を発光することができるものとなるとともに、発光素子1の発光効率および発光寿命の向上を図ることができる。
【0061】
このような中間層62の構成材料としては、中間層62が前述したような機能を発揮することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、正孔を輸送する機能を有する材料(正孔輸送材料)、電子を輸送する機能を有する材料(電子輸送材料)等を用いることができる。
このような中間層62に用いられる正孔輸送材料としては、中間層62が前述したような機能を発揮するものであれば、特に限定されず、例えば、前述した正孔輸送材料のうちのアミン骨格を有するアミン系材料を用いることができるが、ベンジジン系アミン誘導体を用いるのが好ましい。
【0062】
特に、ベンジジン系アミン誘導体のなかでも、中間層62に用いられるアミン系材料としては、2つ以上の芳香環基を導入したものが好ましく、テトラアリールベンジジン誘導体がより好ましい。このようなベンジジン系アミン誘導体としては、例えば、下記式(62−1)に示される化合物、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル〔1,1’−ビフェニル〕−4,4’−ジアミン(α−NPD)や、N,N,N’,N’−テトラナフチル−ベンジジン(TNB)などが挙げられる。このようなアミン系材料は、一般に、正孔輸送性に優れている。したがって、赤色発光層61から中間層62を介して青色発光層63へ正孔を円滑に受け渡すことができる。
【0063】
【化15】

【0064】
中間層62に用いることができる電子輸送材料としては、中間層62が前述したような機能を発揮するものであれば、特に限定されず、例えば、アセン系材料を用いることができる。アセン系材料は、電子輸送性に優れるため、青色発光層63から中間層62を介して赤色発光層61へ電子を円滑に受け渡すことができる。また、アセン系材料は励起子に対する耐性に優れているため、中間層62の励起子による劣化を防止または抑制し、その結果、発光素子1の耐久性を優れたものとすることができる。
【0065】
このようなアセン系材料としては、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、ヘキサセン誘導体、ヘプタセン誘導体等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体を用いるのが好ましく、アントラセン誘導体を用いることがより好ましい。アントラセン誘導体としては、例えば、前記式(61−1a)に示されるアントラセン誘導体、2−t−ブチル−9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(TBADN)等が挙げられる。
また、中間層62の平均厚さは、特に限定されないが、5〜50nm程度であるのが好ましく、10〜30nm程度であるのがより好ましい。
この中間層62は、発光素子1の層構成、各層の構成材料や厚さ等によっては、省略することができる。
【0066】
(青色発光層)
青色発光層(第2の発光層)63は、青色(第2の色)に発光する青色発光材料(第2の発光材料)を含んで構成されている。
このような青色発光材料としては、特に限定されず、各種青色蛍光材料、青色燐光材料を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0067】
青色蛍光材料としては、青色の蛍光を発するものであれば、特に限定されず、例えば、下記式(63−1)で示される化合物、ジスチリルアミン誘導体、フルオランテン誘導体、ピレン誘導体、ペリレンおよびペリレン誘導体、アントラセン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、クリセン誘導体、フェナントレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、テトラフェニルブタジエン、4,4’−ビス(9−エチル−3−カルバゾビニレン)−1,1’−ビフェニル(BCzVBi)、ポリ[(9.9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−コ−(2,5−ジメトキシベンゼン−1,4−ジイル)]、ポリ[(9,9−ジヘキシルオキシフルオレン−2,7−ジイル)−オルト−コ−(2−メトキシ−5−{2−エトキシヘキシルオキシ}フェニレン−1,4−ジイル)]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−コ−(エチルニルベンゼン)]等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0068】
【化16】

【0069】
青色燐光材料としては、青色の燐光を発するものであれば、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。より具体的には、ビス[4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C’]−ピコリネート−イリジウム、トリス[2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム、ビス[2−(3,5−トリフルオロメチル)ピリジネート−N,C’]−ピコリネート−イリジウム、ビス(4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C’)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0070】
また、青色発光層63の構成材料としては、前述したような青色発光材料に加えて、この青色発光材料がゲスト材料(ドーパント)として添加(担持)されるホスト材料(第2のホスト材料)を用いてもよい。青色発光層63に用いることのできる第2のホスト材料としては、前述した赤色発光層61の第1のホスト材料と同様のホスト材料を用いることができる。中でも、第2のホスト材料としては、アセン系材料を用いるのが好ましく、アントラセン誘導体を用いるのがより好ましい。
【0071】
青色発光層63が第2のホスト材料を含む場合、青色発光層63中における青色発光材料の含有量(ドープ量)は、0.01〜20wt%であるのが好ましく、1〜15wt%であるのがより好ましい。青色発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができ、赤色発光層61や後述する緑色発光層64の発光量とのバランスをとりつつ青色発光層63を発光させることができる。
また、青色発光層63の平均厚さは、特に限定されないが、5〜50nm程度であるのが好ましく、10〜40nm程度であるのがより好ましい。
【0072】
(緑色発光層)
緑色発光層(第3の発光層)64は、緑色(第3の色)に発光する緑色発光材料(第3の発光材料)を含んで構成されている。
このような緑色発光材料としては、特に限定されず、各種緑色蛍光材料、緑色燐光材料を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0073】
緑色蛍光材料としては、緑色の蛍光を発するものであれば特に限定されず、例えば、クマリン誘導体、キナクリドンおよびその誘導体、9,10−ビス[(9−エチル−3−カルバゾール)−ビニレニル]−アントラセン、ポリ(9,9−ジヘキシル−2,7−ビニレンフルオレニレン)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−コ−(1,4−ジフェニレン−ビニレン−2−メトキシ−5−{2−エチルヘキシルオキシ}ベンゼン)]、ポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニレン)−オルト−コ−(2−メトキシ−5−(2−エトキシルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン)]等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0074】
緑色燐光材料としては、緑色の燐光を発するものであれば特に限定されず、例えば、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。中でも、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つが、フェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものが好ましい。より具体的には、ファク−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、ビス(2−フェニルピリジネート−N,C’)イリジウム(アセチルアセトネート)、ファク−トリス[5−フルオロ−2−(5−トリフルオロメチル−2−ピリジン)フェニル−C,N]イリジウムが挙げられる。
【0075】
また、緑色発光層64はホスト材料(第3のホスト材料)を含んでいてもよい。第3のホスト材料としては、アセン系材料を用いるのが好ましく、アントラセン誘導体を用いるのがより好ましく、また、低駆動電圧化および高発光効率化の観点から、前述した青色発光層63のホスト材料(第2のホスト材料)と同種のホスト材料を用いるのが好ましい。また、緑色発光層64の発光材料は、赤色発光層61のホスト材料を発光材料として用いることができる。
【0076】
緑色発光層64が第3のホスト材料を含む場合、緑色発光層64中における緑色発光材料の含有量(ドープ量)は、0.01〜20wt%であるのが好ましく、0.5〜15wt%であるのがより好ましい。緑色発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができ、赤色発光層61や青色発光層63の発光量とのバランスをとりつつ緑色発光層64を発光させることができる。
また、緑色発光層64の平均厚さは、特に限定されないが、5〜50nm程度であるのが好ましく、10〜40nm程度であるのがより好ましい。
【0077】
(電子輸送層)
電子輸送層7は、陰極9から電子注入層8を介して注入された電子を緑色発光層64に輸送する機能を有するものである。
電子輸送層7の構成材料(電子輸送材料)としては、例えば、下記式(7−1)に示すトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
【化17】

【0079】
電子輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、0.5〜100nm程度であるのが好ましく、1〜50nm程度であるのがより好ましい。
この電子輸送層7は、発光素子1の層構成、各層の構成材料や厚さ等によっては、省略することができる。
【0080】
(電子注入層)
電子注入層8は、陰極9からの電子注入効率を向上させる機能を有するものである。
この電子注入層8の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、各種の無機絶縁材料、各種の無機半導体材料が挙げられる。
このような無機絶縁材料としては、例えば、アルカリ金属カルコゲナイド(酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物)、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらを主材料として電子注入層を構成することにより、電子注入性をより向上させることができる。特にアルカリ金属化合物(アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物等)は仕事関数が非常に小さく、これを用いて電子注入層8を構成することにより、発光素子1は、高い輝度が得られるものとなる。
【0081】
アルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe、NaO等が挙げられる。
アルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等が挙げられる。
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等が挙げられる。
アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgF、BeF等が挙げられる。
また、無機半導体材料としては、例えば、Li、Na、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Cd、Mg、Si、Ta、SbおよびZnのうちの少なくとも1つの元素を含む酸化物、窒化物または酸化窒化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
電子注入層8の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜1000nm程度であるのが好ましく、0.2〜100nm程度であるのがより好ましく、0.2〜50nm程度であるのがさらに好ましい。
この電子注入層8は、発光素子1の層構成、各層の構成材料や厚さ等によっては、省略することができる。
【0083】
(封止部材)
封止部材10は、陽極3、積層体15、および陰極9を覆うように設けられ、これらを気密的に封止し、酸素や水分を遮断する機能を有する。封止部材10を設けることにより、発光素子1の信頼性の向上や、変質・劣化の防止(耐久性向上)等の効果が得られる。
封止部材10の構成材料としては、例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Tiまたはこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。なお、封止部材10の構成材料として導電性を有する材料を用いる場合には、短絡を防止するために、封止部材10と陽極3、積層体15および陰極9との間には、必要に応じて、絶縁膜を設けるのが好ましい。
また、封止部材10は、平板状として、基板2と対向させ、これらの間を、例えば熱硬化性樹脂等のシール材で封止するようにしてもよい。
【0084】
以上のように構成された発光素子1によれば、ベンジジン誘導体を主材料として構成された正孔注入層4が陽極3と赤色発光層61との間にこれらの両層に接するように設けられているので、陽極3と赤色発光層61(発光部6)との間に正孔注入層4しか存在しないため、発光素子1を構成する層の数を少なくすることができる。その結果、発光素子1の低電圧駆動化を図ることができる。
【0085】
また、ベンジジン誘導体は、正孔注入性および正孔輸送性に優れる。そのため、ベンジジン誘導体を主材料として構成された正孔注入層4は、陽極3から正孔が効率的に注入されるとともに、その注入された正孔を赤色発光層61(発光部6)へ効率的に輸送することができる。そのため、発光素子1の高発光効率化を図ることができる。
また、前述したようにベンジジン誘導体が正孔注入性および正孔輸送性に優れるので、正孔注入層4を厚膜化することができる。そのため、発光素子1の製造過程において、陽極3上に正孔注入層4を形成する際に、陽極3上に異物が存在していても、その異物を覆う(埋める)ように正孔注入層4を形成することができる。このように正孔注入層4を厚膜化することにより、かかる異物が発光素子1を構成する層同士の層間に跨ることを防止または抑制することができる。その結果、発光素子1を構成する層間が異物によってショートするのを防止することができる。これにより、発光素子1の製造における歩留まりを向上させることができる。
特に、発光部6が複数の発光層を備える発光素子1は、陽極3と陰極9との間に存在する層の合計の厚さが大きくなる傾向となる。そのため、このような発光素子1においては、駆動電圧の上昇を招きやすいため、本発明を適用することによる効果(前述したような低駆動電圧化、高発光効率化および製造時の歩留まり向上)が顕著となる。
【0086】
また、発光部6が陽極3側から陰極9側に赤色発光層61、青色発光層63および緑色発光層64がこの順で積層されているので、赤色発光層61、青色発光層63および緑色発光層64をバランスよく発光させ、白色発光の発光素子1を提供することができる。
なお、発光層の積層順は、本実施形態のものに限定されず、例えば、青色発光層63と緑色発光層64の積層順を入れ替えても、赤色発光層61、青色発光層63および緑色発光層64をバランスよく発光させることができる。また、各発光層の発光色は、これに限定されず、発光素子1が所望の発光色で発光するように、任意に設定することができる。
【0087】
以上のような発光素子1は、例えば、次のようにして製造することができる。
[1] まず、基板2を用意し、この基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、例えば、プラズマCVD、熱CVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着等の乾式メッキ法、電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
【0088】
[2] 次に、陽極3上に正孔注入層4を形成する。
正孔注入層4は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、正孔注入層4は、例えば、正孔注入材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔注入層形成用材料を、陽極3上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0089】
正孔注入層形成用材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることもできる。かかる塗布法を用いることにより、正孔注入層4を比較的容易に形成することができる。
正孔注入層形成用材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、例えば、各種無機溶媒や、各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
なお、乾燥は、例えば、大気圧または減圧雰囲気中での放置、加熱処理、不活性ガスの吹付け等により行うことができる。
【0090】
また、本工程に先立って、陽極3の上面には、酸素プラズマ処理を施すのが好ましい。これにより、陽極3の上面を活性化すること、陽極3の上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること、陽極3の上面付近の仕事関数を調整すること等を行うことができる。その結果、陽極3上に有機物を均一に成膜することが容易となる。
このプラズマ処理としては、陽極3と正孔注入層4との接合面の化学的および機械的な安定性を高めることができるものであれば、特に限定されず、例えば、酸素プラズマ処理、窒素プラズマ処理、アルゴンプラズマ処理等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのプラズマ処理は、処理速度が速く、プラズマの発生が容易なため、陽極3のプラズマによる表面処理を効率的に行うことができる。
特に、かかるプラズマ処理としては、酸素プラズマ処理およびアルゴンプラズマ処理を組み合わせて行うのが好ましい。
【0091】
ここで、酸素プラズマ処理およびアルゴンプラズマ処理を組み合わせて行う場合、その条件としては、例えば、酸素プラズマ処理およびアルゴンプラズマ処理は、それぞれ、プラズマパワー100〜800W程度、ガス流量15〜50sccm程度、被処理部材(陽極3)の搬送速度0.5〜10mm/sec程度(処理時間0.5〜10sec)とするのが好ましい。
【0092】
[3] 次に、正孔注入層4上に、赤色発光層61を形成する。
赤色発光層61は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
[4] 次に、赤色発光層61上に、中間層62を形成する。
中間層62は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
【0093】
[5] 次に、中間層62上に、青色発光層63を形成する。
青色発光層63は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
[6] 次に、青色発光層63上に、緑色発光層64を形成する。
緑色発光層64は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
【0094】
[7] 次に、緑色発光層64上に電子輸送層7を形成する。
電子輸送層7は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、電子輸送層7は、例えば、電子輸送材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる電子輸送層形成用材料を、緑色発光層64上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0095】
[8] 次に、電子輸送層7上に、電子注入層8を形成する。
電子注入層8の構成材料として無機材料を用いる場合、電子注入層8は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセス、無機微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
[9] 次に、電子注入層8上に、陰極9を形成する。
陰極9は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合、金属微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
以上のような工程を経て、発光素子1が得られる。
最後に、得られた発光素子1を覆うように封止部材10を被せ、基板2に接合する。
【0096】
<第2実施形態>
図2は、本発明の発光素子の第2実施形態を模式的に示す断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図2中の上側、すなわち陰極9側を「上」、下側、すなわち陽極3側を「下」として説明を行う。
本実施形態にかかる発光素子1Aは、発光部が一層の発光層で構成されていること以外は、前述した第1実施形態の発光素子1と同様である。
この発光素子1は、陽極3と陰極9との間に、積層体15Aが介挿されている。この積層体15Aは、陽極3側から陰極9側に、正孔注入層4、発光部6A、電子輸送層7および電子注入層8がこの順で積層されたものである。
【0097】
発光部6Aは、発光材料を含む1つの発光層で構成されたものである。
発光部6Aに用いることのできる発光材料としては、特に限定されず、上述した赤色発光材料、青色発光材料、緑色発光材料等を適宜1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
また、発光部6Aには、発光材料を担持するホスト材料が含まれていてもよい。
このようなホスト材料としては、上述した第1の実施形態の赤色発光層61に用いることのできるホスト材料が挙げられる。
【0098】
以上のような構成によっても、本発明の第1実施形態と同様の効果が得られる。
上述したような発光素子1、1Aは、例えば、発光装置(本発明の発光装置)に用いることができる。
このような発光装置は、前述したような発光素子1、1Aを備えるため、歩留まりを向上させるとともに、低駆動電圧化および高発光効率化を図ることができる。
また、このような発光装置は、例えば照明等に用いる光源等として使用することができる。
また、発光装置中の複数の発光素子1をマトリックス状に配置することにより、ディスプレイ装置に用いる発光装置を構成することができる。
【0099】
次に、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の一例について説明する。
図3は、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
図3に示すディスプレイ装置100は、サブ画素100R、100G、100Bに対応して設けられた複数の発光素子1R、1G、1Bを備える発光装置101と、カラーフィルタ19R、19G、19Bとを有している。ここで、ディスプレイ装置100は、トップエミッション構造のディスプレイパネルである。なお、ディスプレイ装置の駆動方式としては、特に限定されず、アクティブマトリックス方式、パッシブマトリックス方式のいずれであってもよい。
【0100】
発光装置101は、基板21と発光素子1R、1G、1Bと、駆動用トランジスタ24とを有している。
基板21上には、複数の駆動用トランジスタ24が設けられ、これらの駆動用トランジスタ24を覆うように、絶縁材料で構成された平坦化層22が形成されている。
各駆動用トランジスタ24は、シリコンからなる半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
【0101】
平坦化層22上には、各駆動用トランジスタ24に対応して発光素子1R、1G、1Bが設けられている。
発光素子1Rは、平坦化層22上に、反射膜32、腐食防止膜33、陽極3、積層体15、陰極9、陰極カバー34がこの順に積層されている。本実施形態では、各発光素子1R、1G、1Bの陽極3は、画素電極を構成し、各駆動用トランジスタ24のドレイン電極245に導電部(配線)27により電気的に接続されている。また、各発光素子1R、1G、1Bの陰極9は、共通電極とされている。
【0102】
なお、発光素子1G、1Bの構成は、発光素子1Rの構成と同様である。また、図3では、図1と同様の構成に関しては、同一符号を付してある。また、反射膜32の構成(特性)は、光の波長に応じて、発光素子1R、1G、1B間で異なっていてもよい。
隣接する発光素子1R、1G、1B同士の間には、隔壁31が設けられている。
また、このように構成された発光装置101上には、これを覆うように、エポキシ樹脂で構成されたエポキシ層35が形成されている。
【0103】
カラーフィルタ19R、19G、19Bは、前述したエポキシ層35上に、発光素子1R、1G、1Bに対応して設けられている。
カラーフィルタ19Rは、発光素子1Rからの白色光Wを赤色に変換するものである。また、カラーフィルタ19Gは、発光素子1Gからの白色光Wを緑色に変換するものである。また、カラーフィルタ19Bは、発光素子1Bからの白色光Wを青色に変換するものである。このようなカラーフィルタ19R、19G、19Bを発光素子1R、1G、1Bと組み合わせて用いることで、フルカラー画像を表示することができる。
【0104】
また、隣接するカラーフィルタ19R、19G、19B同士の間には、遮光層36が形成されている。これにより、意図しないサブ画素100R、100G、100Bが発光するのを防止することができる。
そして、カラーフィルタ19R、19G、19Bおよび遮光層36上には、これらを覆うように封止基板20が設けられている。
以上説明したようなディスプレイ装置100は、単色表示であってもよく、各発光素子1R、1G、1Bに用いる発光材料を選択することにより、カラー表示も可能である。
このようなディスプレイ装置100(本発明の表示装置)は、前述したような発光装置を用いるため、優れた信頼性を有する。
【0105】
図4は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0106】
図5は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0107】
図6は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0108】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0109】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0110】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0111】
なお、本発明の電子機器は、図4のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図5の携帯電話機、図6のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0112】
以上、本発明の発光素子、発光装置、表示装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
例えば、前述した実施形態では、発光素子が1層、3層の発光層を有するものについて説明したが、発光層が2層または4層以上であってもよい。このような場合であっても、ベンジジン誘導体を主材料として構成した正孔注入層を陽極と発光層との間にこれらの両層に接するように設けることにより、上述したような効果が得られる。また、発光層の発光色としては、前述した実施形態のR、G、Bに限定されない。
【実施例】
【0113】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.発光素子の製造
(実施例1)
<1> まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板を用意した。次に、この基板上に、スパッタ法により、平均厚さ150nmのITO電極(陽極)を形成した。
そして、基板をアセトン、2−プロパノールの順に浸漬し、超音波洗浄した後、酸素プラズマ処理およびアルゴンプラズマ処理を施した。これらのプラズマ処理は、それぞれ、基板を70〜90℃に加温した状態で、プラズマパワー100W、ガス流量20sccm、処理時間5secで行った。
【0114】
<2> 次に、ITO電極上に、前記式(4−3)に示されるベンジジン誘導体を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ60nmの正孔注入層を形成した。
<3> 次に、正孔注入層上に、赤色発光層の構成材料を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ7nmの赤色発光層(第1の発光層)を形成した。赤色発光層の構成材料としては、赤色発光材料(ゲスト材料)として前記式(61−1)に示されるテトラアリールジインデノペリレン誘導体を用い、ホスト材料として前記式(61a−2)に示されるナフタセン誘導体を用いた。また、赤色発光層中の発光材料(ドーパント)の含有量(ドープ濃度)を1.0wt%とした。
【0115】
<4> 次に、赤色発光層上に、中間層の構成材料を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ20nmの中間層を形成した。中間層の構成材料としては、前記式(62−1)に示される化合物と、前記式(61a−1)に示されるアントラセン誘導体との混合物(混合比(重量比)1:1)を用いた。
<5> 次に、中間層上に、青色発光層の構成材料を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ20nmの青色発光層(第2の発光層)を形成した。青色発光層の構成材料としては、青色発光材料(ゲスト材料)として前記式(63−1)で示される化合物を用い、ホスト材料として前記式(61a−1)に示されるアントラセン誘導体を用いた。また、青色発光層中の青色発光材料(ドーパント)の含有量(ドープ濃度)は、6.0wt%とした。
【0116】
<6> 次に、青色発光層上に、緑色発光層の構成材料を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ20nmの緑色発光層(第3の発光層)を形成した。緑色発光層の構成材料としては、前記式(61a−1)に示されるアントラセン誘導体を用いた。
<7> 次に、緑色発光層上に、前記式(7−1)に示されるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ15nmの電子輸送層を形成した。
【0117】
<8> 次に、電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ1nmの電子注入層を形成した。
<9> 次に、電子注入層上に、Alを真空蒸着法により成膜した。これにより、Alで構成される平均厚さ150nmの陰極を形成した。
<10> 次に、形成した各層を覆うように、ガラス製の保護カバー(封止部材)を被せ、エポキシ樹脂により固定、封止した。
以上の工程により、白色発光する図1に示すような発光素子を製造した。
【0118】
(実施例2)
正孔注入層の平均厚さを80nmとした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
(実施例3)
正孔注入層の平均厚さを100nmとした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0119】
(実施例4)
正孔注入層の平均厚さを200nmとした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
(実施例5)
正孔注入層の平均厚さを250nmとした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0120】
(比較例1)
正孔注入層の平均厚さを40nmとするとともに正孔注入層の構成材料として前記式(4a−4)に示されるアミン系材料を用い、また、正孔注入層の形成後かつ赤色発光層の形成前に、前記式(4−3)に示されるベンジジン誘導体を真空蒸着法により成膜して、正孔注入層と赤色発光層との間に平均厚さ20nmの正孔輸送層を形成した以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0121】
(比較例2)
正孔注入層の平均厚さを50nmとするとともに、正孔輸送層の平均厚さを30nmとした以外は、前述した比較例1と同様にして発光素子を製造した。
(比較例3)
正孔注入層の平均厚さを70nmとするとともに、正孔輸送層の平均厚さを30nmとした以外は、前述した比較例1と同様にして発光素子を製造した。
(比較例4)
正孔注入層の平均厚さを100nmとするとともに、正孔輸送層の平均厚さを50nmとした以外は、前述した比較例1と同様にして発光素子を製造した。
【0122】
2.評価
実施例1〜5および比較例1〜4の発光素子について、それぞれ、20個の発光素子を用意し、直流電源を用いて輝度が2000cd/mとなるように発光素子に定電流を流し、そのときの駆動電圧(V)を測定した。
また、このとき、実施例1〜5および比較例1〜4の発光素子について、それぞれ、20個中における点灯した発光素子の数の割合を歩留まりの程度として評価した。
その結果を表1に示す。また、正孔注入層(HIL)および正孔輸送層(HTL)の合計の厚さ(すなわち陽極と赤色発光層との間の平均距離)と、駆動電圧との関係を図7に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
表1から明らかなように、実施例1〜4の発光素子は、陽極と赤色発光層との間の平均距離が比較例1〜4の発光素子と対応しているが、対応する発光素子同士を比べると、実施例の発光素子は、比較例の発光素子よりも駆動電圧が低く、製造における歩留まりも高いことが分かる。また、図7からわかるように、本発明の実施例1〜5の発光素子は、顕著に低駆動電圧化が図られている。
特に、実施例2、3の発光素子は、比較例1〜4のいずれの発光素子と比較しても、駆動電圧が低く、製造における歩留まりも高いものとなった。すなわち、実施例2、3の発光素子は、駆動電圧が極めて低く、また、製造における歩留まりも高いものとなった。
【符号の説明】
【0125】
1、1A、1B、1G、1R……発光素子 2……基板 3……陽極 4……正孔注入層 6、6A……発光部 61……赤色発光層(第1の発光層) 62……中間層 63……青色発光層(第2の発光層) 64……緑色発光層(第3の発光層) 7……電子輸送層 8……電子注入層 9……陰極 10……封止部材 15、15A……積層体 19B、19G、19R……カラーフィルタ 100……ディスプレイ装置 101……発光装置 100R、100G、100B……サブ画素 20……封止基板 21……基板 22……平坦化層 24……駆動用トランジスタ 241……半導体層 242……ゲート絶縁層 243……ゲート電極 244……ソース電極 245……ドレイン電極 27……配線 31……隔壁 32……反射膜 33……腐食防止膜 34……陰極カバー 35……エポキシ層 36……遮光層 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300……ディジタルスチルカメラ 1302……ケース(ボディー) 1304……受光ユニット 1306……シャッタボタン 1308……回路基板 1312……ビデオ信号出力端子 1314……データ通信用の入出力端子 1430……テレビモニタ 1440……パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、
陽極と、
前記陰極と前記陽極との間に設けられ、これらの両極間の通電により発光する発光層を備える発光部と、
前記陽極と前記発光層との間にこれらの両層に接するように設けられ、正孔注入性を有する正孔注入層とを有し、
前記正孔注入層は、ベンジジン誘導体を主材料として構成されていることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記正孔注入層の平均厚さは、80〜200nmである請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記陽極と前記陰極との間の距離は、150〜300nmである請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記陽極の前記正孔注入層側の面は、プラズマ処理が施されている請求項1ないし3のいずれかに記載の発光素子。
【請求項5】
前記陽極は、ITOで構成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
前記発光部は、複数の発光層を備えており、
前記正孔注入層は、前記陽極と前記複数の発光層のうちの最も前記陽極側の発光層との間にこれらの両層に接するように設けられている請求項1ないし5のいずれかに記載の発光素子。
【請求項7】
前記発光部は、前記陽極側から前記陰極側に、互いに発光色の異なる第1の発光層、第2の発光層および第3の発光層がこの順で積層されており、
前記正孔注入層は、前記陽極と前記第1の発光層との間にこれらの両層に接するように設けられている請求項6に記載の発光素子。
【請求項8】
前記第1の発光層は、アセン系材料を含んで構成されている請求項7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記アセン系材料は、ナフタセン誘導体である請求項8に記載の発光素子。
【請求項10】
前記第1の発光層中における前記アセン系材料の含有量は、90〜99.99wt%である請求項8または9に記載の発光素子。
【請求項11】
前記発光部は、前記第1の発光層と前記第2の発光層との間に中間層が設けられている請求項7ないし10のいずれかに記載の発光素子。
【請求項12】
前記第1の発光層は、前記陰極と前記陽極との間の通電により赤色に発光するものであり、前記第2の発光層および前記第3の発光層は、一方が前記陰極と前記陽極との間の通電により青色に発光するものであり、他方が前記陰極と前記陽極との間の通電により緑色に発光するものである請求項7ないし11のいずれかに記載の発光素子。
【請求項13】
前記正孔注入層中における前記ベンジジン誘導体の含有量は、50〜100wt%である請求項1ないし12のいずれかに記載の発光素子。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の発光素子を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項15】
請求項14に記載の発光装置を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項16】
請求項15に記載の表示装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−108899(P2011−108899A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263407(P2009−263407)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】