説明

発光素子用の透明導電性基板の設計方法

【課題】透光性基板、光散乱部、及び透明電極層から構成される透明導電性基板を有する発光素子における前記透明導電性基板の設計を、容易且つ正確に行うことができる発光素子用の透明導電性基板の設計方法を提供する。
【解決手段】透光性基板2、光散乱部3、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成され、発光素子の外層に設けられた透明導電性基板1の設計方法である。互いに異なる構造を有する光散乱部3が設けられた複数の試験用基板5を作製する。各試験用基板5の透明電極層4側の表面に外部から透明電極層4に向けて照射される光の略全部を透明電極層4内に取り入れるための光投入手段6を取り付ける。光投入手段6に向けて光を入射すると共に光の入射角度を変動させ、透光性基板2側からの出射光の光量を入射角度ごとに計測する。この計測結果に基づいて、複数の試験用基板5の構造から、発光素子に設けられる透明導電性基板1の構造を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子等の発光素子の最外層に設けられることで、前記発光素子へ給電する機能と発光素子からの発光を透過して外部へ出射する機能とを発揮する透明導電性基板の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における上記透明導電性基板1の設計方法について、有機エレクトロルミネッセンス素子Aの場合を例に挙げて説明する。
【0003】
図13は透光性基板2上に透明電極層4、有機発光層7、光反射性電極層8が順次形成された有機エレクトロルミネッセンス素子Aを示す。符号9は有機発光層7中に存在する発光点を示す。
【0004】
この有機エレクトロルミネッセンス素子Aにおいて、有機発光層7の発光点9から透光性基板2側に向けて斜めに伝播する光23の光路について説明する。実際には光反射性電極層8へ出射する光も存在するが、ここでは省略している。
【0005】
光が屈折率の高い媒質から屈折率の低い媒質へ伝播する際、前記媒質間の界面では両者の屈折率に応じて、スネルの法則に基づく臨界角が決定される。前記臨界角以上の角度で伝播する光は前記媒質間の界面で全反射し、屈折率の高い媒質に閉じ込められて導波光として失われる。
【0006】
ところで、有機エレクトロルミネッセンス素子Aに設けられる透光性基板2には、すぐれた透明性、強度、低コスト、ガスバリア性、耐薬品性、耐熱性等が要請され、そのために前記透光性基板2として無機ガラスが広く使用されている。一般的なソーダライムガラスの屈折率は1.52程度である。
【0007】
また、透明電極層4には透明性と電気伝導性が要求され、このような観点から透明電極層4はスズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等で形成されている。ITOやIZOの屈折率は、組成、成膜方法、結晶構造などにより変化するが、ITOの屈折率はおよそ1.7〜2.3の範囲であり、IZOの屈折率はおよそ1.9〜2.4の範囲であって、これらは非常に高屈折率な材料である。
【0008】
また、有機発光層7は、ホール輸送層12、発光層13、電子輸送層14等で構成される。この有機発光層7の形成に用いられる発光材料や電子輸送性材料、ホール輸送性材料などの有機材料は、一般的にベンゼン環をその分子構造内に多く含んだπ共役結合系の化合物であるため、その屈折率はおよそ1.6〜2.0であり、一般的な有機材料に比べて屈折率が高い。
【0009】
このように屈折率が大気10、透光性基板2、有機発光層7、透明電極層4の順に大きくなる場合、有機エレクトロルミネッセンス素子Aの有機発光層7の発光点9から透光性基板2側に向けて斜めに伝播する光は、透光性基板2と大気10の界面や、透明電極層4と透光性基板2との界面において、入射角度が臨界角を超える場合に全反射する。例えば図13において、有機発光層7の屈折率が1.7、透明電極層4の屈折率が1.9、透光性基板2の屈折率が1.52、大気10の屈折率が1である場合に、発光層13の発光点9から伝播する光23は、有機発光層7と透明電極層4との界面では透明電極層4の方が屈折率の方が高いために全反射せず、全ての光23が透明電極層4内に伝播する。一方、透明電極層4と透光性基板2との界面では、透明電極層4の方が屈折率が高いため、前記光の入射角度が臨界角を超えるとこの光23が前記界面で全反射し、導波光となって透明電極層4内に閉じ込められる。また透光性基板2と大気10との界面では、透光性基板2の方が屈折率が高いため、前記光の入射角度が臨界角を超えるとこの光23が前記界面で全反射し、導波光となって透光性基板2内に閉じ込められる。
【0010】
発光点9から伝播する光の総量の対する、上記導波光や透光性基板2から大気10へ出射する光の割合を、立体角を考慮して概算すると、大気10へ出射する光が約20%、透光性基板2における導波光が約35%、透明電極層4における導波光が約45%となる。このような導波光の存在によって、有機エレクトロルミネッセンス素子Aからの光の取り出し効率が悪くなる。
【0011】
上記導波光を大気10へ出射することで光の取り出し効率を向上するために、有機エレクトロルミネッセンス素子Aに光の反射・屈折角を乱れされる領域(光散乱部3)を設けることが提案されている(特許文献2,3参照)。このような光散乱部3を設ければ、層間の界面におけるスネルの法則を崩し、全反射条件にある光を低減して光の取り出し効率を向上することができる。
【0012】
例えば図5に示される有機エレクトロルミネッセンス素子Aでは透明電極層4と透光性基板2との間に光散乱部3が介在することで、本来透明電極層4を導波して失われる光23が光散乱部3を介して透光性基板2へ伝播し、また図6に示される有機エレクトロルミネッセンス素子Aでは透光性基板2の外面側に光散乱部3が設けられることで、本来透光性基板2を導波して失われる光23が光散乱部3を介して大気10へ出射する。
【0013】
このような光散乱部3を形成する手法として、例えば透光性の基体上に、単粒子層状に並べられた透光性粒子を含む光拡散層を形成すること(特許文献1参照)が挙げられる。
【0014】
特許文献2及び特許文献3では、上記のように光散乱部3が設けられる場合に、有機エレクトロルミネッセンス素子Aからの大気10への出射光量を向上するための設計方法が提案されている。この設計方法では、透光性基板2から大気10へ出射される光の正面輝度値と50〜70°方向の輝度値が次の式(1)の関係を満たすように、有機エレクトロルミネッセンス素子Aを設計する。或いは更に発光点9と光反射性電極層8の表面との間の寸法をd、有機発光層7中の発光層13における発光材料の蛍光発光スペクトルのピーク波長をλ、有機発光層7中の発光層13と光反射性電極層8との間に介在する電子輸送層14等の有機層の屈折率をnとした場合に次の式(2)の関係を満たすように、有機エレクトロルミネッセンス素子Aを設計する。
【0015】
(正面輝度値)<(50〜70°方向の輝度値) …(1)
(0.3/n)λ<d<(0.5/n)λ …(2)
この設計方法では、有機エレクトロルミネッセンス素子Aの正面方向に出射する光は干渉により弱め合ってしまうが、通常は導波光として素子内に閉じ込められる広角度成分の光が強め合って出射するようにして、全体として出射光量を増大させようとするものである。
【0016】
しかし、式(1)を満たすような有機エレクトロルミネッセンス素子Aを設計するためには、実際に有機エレクトロルミネッセンス素子Aを試作して発光輝度を計測しなければならず、また最適な設計を行うためには構成の異なる複数の有機エレクトロルミネッセンス素子Aを試作して各素子についての計測を行う必要があり、コスト的、時間的な負担が大きくなってしまう。
【0017】
また、式(2)を満たすように有機エレクトロルミネッセンス素子Aを設計するとしても、光散乱部3の特性に合わせた有機エレクトロルミネッセンス素子Aの設計がなされなければ、光散乱部3の効果を最大限引き出して出射光量を増大させることは難しい。
【0018】
尚、特許文献3には、光散乱部3について、透明材料中にこれとは屈折率の異なる平均粒子径が0.2〜20μmの透明材料または不透明材料を分散分布させて光散乱部3を形成することや、光散乱部3に平均粒子径が1〜100nmの微粒子が分散分布した透明な平坦化層を形成することも開示されているが、出射光量を向上するための具体的な屈折率や粒子径を決定することは開示されていない。
【0019】
このため、有機エレクトロルミネッセンス素子Aからの出射光量を向上させるために光散乱部3の構造を最適化するための簡易な方法が求められている。このような方法として、図14に示す方法が考えられる。
【0020】
当該方法では、透光性基板2、光散乱部3、及び透明電極層4が積層した構造を有する複数の試験用基板5を作製する。各試験用基板5において、透光性基板2及び透明電極層4は同一の構造を有し、光散乱部3は互いに異なる構造を有している。この各試験用基板5に透明電極側から光を入射すると共に前記光の入射角度を変動させ、透光性基板2側からの出射光の光量を前記入射角度ごとに計測する。そして、この計測結果に基づいて、出射光量が大きくなるような光散乱部3の構造を選択することで、有機エレクトロルミネッセンス素子Aからの出射光量を増大させることができる。当該方法は、有機エレクトロルミネッセンス素子Aそのものを試作することなく光散乱部3の構成を最適化することができるという利点がある。また当該方法は有機エレクトロルミネッセンス素子Aに限らず、透光性基板2、光散乱部3、及び透明電極層4から構成される構造体(透明導電性基板1という)を有する発光素子全般に適用することができる。
【0021】
しかし、上記方法により光散乱部3の構造を最適化しようとしても、透明電極層4は大気10よりも屈折率が大きいため、大気10から試験用基板5の透明電極層4へ光を入射させる際に臨界角を超えて広角度で入射する光は大気10と透明電極層4との界面で全反射し、試験用基板5内を伝播しない。光散乱部3は素子内を広角度で伝播する光を外部へ出射するために設けられるものであるため、前記のように試験用基板5内に広角度で光が伝播しない場合には、光散乱部3の構成を最適化することができなくなってしまう。
【特許文献1】特開2001−356207号公報
【特許文献2】特開2004−296423号公報
【特許文献3】特開2004−296429号公報
【特許文献4】特開2005−239506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、透光性基板、光散乱部、及び透明電極層から構成される透明導電性基板を有する発光素子における前記透明導電性基板の設計を行うにあたり、所望の発光性能を有する発光素子を得るための透明導電性基板の設計を容易且つ正確に行うことができる発光素子用の透明導電性基板の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
第一の発明に係る発光素子用の透明導電性基板1の設計方法は、透光性基板2、光散乱部3、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成され、発光素子の外層に設けられることによって発光素子へ給電する機能と発光素子からの発光を透過して外部へ出射する機能とを発揮する透明導電性基板1の設計方法である。本方法では、互いに異なる構造を有する光散乱部3が設けられた複数の試験用基板5を作製する。各試験用基板5の透明電極層4側の表面に外部から透明電極層4に向けて照射される光の略全部を透明電極層4内に取り入れるための光投入手段6を取り付ける。前記光投入手段6に向けて光を入射すると共に前記光の入射角度を変動させ、透光性基板2側からの出射光の光量を前記入射角度ごとに計測する。前記計測結果に基づいて、前記複数の試験用基板5の構造から、発光素子に設けられる透明導電性基板1の構造を選択する。
【0024】
第一の発明によれば、光投入手段6へ光が入射する際、入射角が広角度であってもこの光の略全部が試験用基板5の透明電極層4内に取り入れられ、光散乱部3の性能に応じた光量の光が試験用基板5の透光性基板2から大気10に出射する。このため、複数の各試験用基板5についての、入射角度ごとの出射光の光量の計測結果に基づけば、試験用基板5における光散乱部3の性能を評価することができる。この光散乱部3の性能の評価に基づいて、所望の性能を有する試験用基板5を選択し、この試験用基板5の構造を発光素子における透明導電性基板1として採用することができる。
【0025】
第二の発明に係る発光素子用の透明導電性基板1の設計方法は、光散乱部3、透光性基板2、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成され、発光素子の外層に設けられることによって発光素子へ給電する機能と発光素子からの発光を透過して外部へ出射する機能とを発揮する透明導電性基板1の設計方法である。本方法では、互いに異なる構造を有する光散乱部3が設けられた複数の試験用基板5を作製する。各試験用基板5の透明電極層4側の表面に外部から透明電極層4に向けて照射される光の略全部を透明電極層4内に取り入れるための光投入手段6を取り付ける。前記光投入手段6に向けて光を入射すると共に前記光の入射角度を変動させ、光散乱部3側からの出射光の光量を前記入射角度ごとに計測する。前記計測結果に基づいて、前記複数の試験用基板5の構造から、発光素子に設けられる透明導電性基板1の構造を選択する。
【0026】
第二の発明によれば、光投入手段6へ光が入射する際、入射角が広角度であってもこの光の略全部が試験用基板5の透明電極層4内に取り入れられ、光散乱部3の性能に応じた光量の光が試験用基板5の光散乱部3から大気10に出射する。このため、複数の各試験用基板5についての、入射角度ごとの出射光の光量の計測結果に基づけば、試験用基板5における光散乱部3の性能を評価することができる。この光散乱部3の性能の評価に基づいて、所望の性能を有する試験用基板5を選択し、この試験用基板5の構造を発光素子における透明導電性基板1として採用することができる。
【0027】
上記第一及び第二の発明では、上記光投入手段6が、試験用基板5における透明電極層4の屈折率との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有する半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bであることが好ましい。
【0028】
この場合、外部から透明電極層4に向けて照射される光の略全部を透明電極層4内に容易に取り入れることができる。
【0029】
第三の発明に係る発光素子用の透明導電性基板1の設計方法は、光散乱部3、透光性基板2、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成され、発光素子の外層に設けられることによって発光素子へ給電する機能と発光素子からの発光を透過して外部へ出射する機能とを発揮する透明導電性基板1の設計方法である。本方法では、光散乱部3及び透光性基板2が積層して形成されると共に、互いに異なる構造を有する光散乱部3が設けられた複数の試験用基板5を作製する。各試験用基板5の透光性基板2側の表面に外部から透光性基板2に向けて照射される光の略全部を透光性基板2内に取り入れるための光投入手段6を取り付ける。前記光投入手段6に向けて光を入射すると共に前記光の入射角度を変動させ、光散乱部3側からの出射光の光量を前記入射角度ごとに計測する。前記計測結果に基づいて、前記複数の試験用基板5の構造から、発光素子に設けられる透明導電性基板1における光散乱部3及び透光性基板2の構造を選択する。
【0030】
第三の発明によれば、光投入手段6へ光が入射する際、入射角が広角度であってもこの光の略全部が試験用基板5の透光性基板2内に取り入れられ、光散乱部3の性能に応じた光量の光が試験用基板5の光散乱部3から大気10に出射する。このため、複数の各試験用基板5についての、入射角度ごとの出射光の光量の計測結果に基づけば、試験用基板5における光散乱部3の性能を評価することができる。この光散乱部3の性能の評価に基づいて、所望の性能を有する試験用基板5を選択し、この試験用基板5の構造を発光素子における透明導電性基板1の透光性基板2及び透明電極層4の構成として採用することができる。
【0031】
上記第三の発明では、上記光投入手段6が、試験用基板5における透光性基板2の屈折率との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有する半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bであることが好ましい。
【0032】
この場合、外部から透光性基板2に向けて照射される光の略全部を透明電極層4内に容易に取り入れることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、透光性基板2、光散乱部3、及び透明電極層4から構成される透明導電性基板1を有する発光素子における前記透明導電性基板1の設計を行うにあたり、発光素子自体を試作することなく、複数の試験用基板5のみを作製し、これらの試験用基板5を用いて光散乱部3の性能を評価して、発光素子の透明導電性基板1を設計することができ、所望の発光性能を有する発光素子を得るための透明導電性基板1の設計を容易且つ正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0035】
[発光素子及び透明導電性基板1]
図5,6に、本発明によって設計される透明導電性基板1を備えた発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子A)の構成の例を示す。
【0036】
図5は、後述する第一の実施形態で設計される透明導電性基板1を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子Aの一例を示す。
【0037】
透明導電性基板1は、透光性基板2、光散乱部3、及び透明電極層4がこの順番に積層した構造を有する。この透明導電性基板1における透明電極層4の、光散乱部3とは反対側の面に、有機発光層7、光反射性電極層8が、この順に順次積層成形されることで、有機エレクトロルミネッセンス素子Aが形成されている。
【0038】
透光性基板2は、例えば、ソーダライムガラスや無アルカリガラスなどの透明ガラス板や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エポキシ等の樹脂、フッ素系樹脂等から任意の方法によって作製されたプラスチックフィルムやプラスチック板などを用いることができる。この透光性基板2は、通常は透明電極層4よりも低い屈折率を有する材質で形成されるが、透明電極層4よりも高い屈折率を有する材質で形成されても良い。このような高屈折率の透光性基板2としては、透明電極層4の有する屈折率に応じて適宜の材質から形成されるが、例えば高屈折率の光学ガラスから形成される。高屈折率の光学ガラスとしては、例えばSiO2を1〜6重量%、B23を16〜25重量%、CaOを13〜20重量%、ZrO2を1〜8重量%、La23をが20〜29重量%、TiO2を13〜16重量%、Nb25を10〜20重量%、SnOを0.01〜1重量%、Sb23を0.01〜1重量%の範囲で含有するものが挙げられる。また、前記成分に加えて、更にBaOとK2Oのうち少なくとも一方を含有すると共に、BaOとK2Oの含有量が共に2重量%以下であるような高屈折率の光学ガラスも挙げられる。
【0039】
光散乱部3は、光の反射・屈折角を乱れされる領域として機能する。この光散乱部3は、全反射角以上の角度にある光の伝送角が効率良く全反射角以下の伝送角に乱され、素子内部の導波光をより多く外部に出射できるように形成されたものであれば、特に制限されず、従来提案されているものがそのまま適用される。例えば、ポリエステル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂等の透明なバインダー樹脂と、このバインダー樹脂中に分散分布すると共にこの透明材料中とは異なる屈折率を有するシリカ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、プラスチック粒子、液晶粒子等の粒子や気泡などで構成される散乱粒子層で構成される。また、この散乱粒子層に積層して、イミド系樹脂等の透明樹脂にて平坦化層を形成することで、散乱粒子層と平坦化層とで構成される光散乱部3を形成しても良い。平坦化層を形成するための透明樹脂には、必要に応じて散乱粒子層中の粒子よりも粒径の小さい微細粒子が混入されていても良い。前記平坦化層は、光散乱部3に積層して透明電極層4が形成される場合に光散乱部3を平滑化することで、透明電極層4を平滑に形成するために設けられる。
【0040】
透明電極層4は、後述する光反射性電極層8と共に、発光素子への給電を行うために設けられる。有機エレクトロルミネッセンス素子Aにおいては、前記透明電極層4は、通常は発光層13にホールを注入するための陽極として機能する。この場合、透明電極層4は仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物、あるいはこれらの混合物からなる電極材料で形成されることが好ましく、特に仕事関数が4eV以上の電極材料で形成されることが好ましい。このような電極材料としては、例えば、金などの金属、CuI、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO2、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)等、PEDOT、ポリアニリン等の導電性高分子及び任意のアクセプタ等でドープした導電性高分子、カーボンナノチューブなどの導電性光透過性材料が挙げられる。透明電極層4は、例えば、光散乱部3の表面にこれらの電極材料が真空蒸着法やスパッタリング法、塗布等の方法により薄膜に成膜されることで形成される。この透明導電層の光透過率は70%以上であることが好ましい。また、透明導電層のシート抵抗は数百Ω/□以下であることが好ましく、特に100Ω/□以下であることが好ましい。透明導電層の厚みは、光透過率、シート抵抗等の特性が好ましくは前記範囲となるように適宜調整される。透明導電層の厚み範囲は、透明導電層を構成する電極材料によって異なるが、500nm以下が好ましく、特に10〜200nmの範囲が好ましい。
【0041】
このように構成される透明導電性基板1は、発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子A)の外層に設けられることによって発光素子へ給電する機能と発光素子からの発光を透過して外部へ出射する機能とを発揮する。
【0042】
この透明導電性基板1における透明電極層4に積層して、有機発光層7と光反射性電極層8とが形成されることで、有機エレクトロルミネセンス素子が構成される。有機発光層7は、発光材料を含む発光層13を備え、また必要に応じて電子注入層、電子輸送層14、正孔注入層、ホール輸送層12等の適宜の有機層を備える積層構造を有する。図示の例では、光反射性電極層8と発光層13との間に電子輸送層14が介在し、透明電極層4と発光層13との間にホール輸送層12が介在している。これらの各層の材質は、有機エレクトロルミネッセンス素子Aに適用されている適宜のものが採用され、特に制限されない。
【0043】
このような構成を有する有機エレクトロルミネッセンス素子Aでは、発光層13で発光し、素子内を伝播して透明電極層4に到達した光23の殆どは全反射せず光散乱部3で拡散し、この光の殆どは透光性基板2内へ伝播する。従って、本来透明電極層4内を導波する光が大気10へ出射して、発光量が増大する。
【0044】
図6は、後述する第二及び第三の実施形態で設計される透明導電性基板1を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子Aの一例を示す。
【0045】
透明導電性基板1は、光散乱部3、透光性基板2、及び透明電極層4がこの順番に積層した構造を有する。この透明導電性基板1における透明電極層4の、光散乱部3とは反対側の面に、有機発光層7、光反射性電極層8が、この順に順次積層成形されることで、有機エレクトロルミネッセンス素子Aが形成されている。それ以外の構成は、図5に示す場合と同様である。但し、光散乱部3の表面に透明電極層4が形成されていないため、光散乱部3には平坦化層が設けられていなくても良い。
【0046】
このような構成を有する有機エレクトロルミネッセンス素子Aでは、発光層13で発光し、素子内を伝播して透光性基板2に到達した光23の殆どは全反射せず光散乱部3で拡散し、この光23の殆どは大気10に出射する。従って、本来透光性基板2内を導波する光が大気10へ出射して、発光量が増大する。
【0047】
[第一の実施形態]
第一の実施形態を図1に示す。本実施形態では、透光性基板2、光散乱部3、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成された構造を有する透明導電性基板1の設計を、複数の試験用基板5を使用した計測結果に基づいて行う。
【0048】
複数の試験用基板5として、透光性基板2、光散乱部3、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成された構造をものを作製して使用する。各試験用基板5間では、透光性基板2及び透明電極層4は全て同一構成を有し、光散乱部3は互いに異なった構成を有する。
【0049】
互いに異なった構成を有する光散乱部3としては、例えば光散乱部3を構成する散乱粒子層中のバインダー樹脂の種類、含有量等、前記散乱粒子層中の粒子の種類、粒径、含有量等、散乱粒子層の厚み等が互いに異なる光散乱部3が形成される。また光散乱部3が平坦化層を備える場合には、例えば平坦化層の材質、膜厚等が互いに異なる光散乱部3が形成される。
【0050】
この各試験用基板5の透明電極層4側の表面に光投入手段6を取り付ける。この光投入手段6は、外部から透明電極層4に向けて光が照射されると、この光の略全部を透明電極層4内に取り入れる機能を有する。この光投入手段6として、例えば試験用基板5における透明電極層4の屈折率との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有する半球レンズ6aや半円筒レンズ6bが使用される。特に半球レンズ6aや半円筒レンズ6bの屈折率が、透明電極層4の屈折率と同一であることが好ましい。
【0051】
上記半球レンズ6aとは、一面側が平面に形成され、他面側が半球面に形成されたレンズである。半球レンズ6aは、一般に球面側から入射した光を集光するレンズとして用いられる。この半球レンズ6aの平面側を透明電極層4の表面と密接させる。尚、半球レンズ6aと透明電極層4との間には、透明電極層4の屈折率との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有するマッチングオイルを介在させることで、半球レンズ6aと透明電極層4との間の空気の介在を抑制し、これにより光の入射効率を向上するようにしても良い。
【0052】
また、半円筒レンズ6bとは、一面側が平面に形成され、他面側が半円筒面に形成されたレンズである。この半円筒レンズ6bの平面側を透明電極層4の表面と密接させる。尚、半球円筒レンズと透明電極層4との間には、半球レンズ6aの場合と同様にマッチングオイルを介在させても良い。
【0053】
この試験用基板5に取り付けられた光投入手段6に向けて光23を入射する。光投入手段6が半球レンズ6aである場合には、前記光23を半球レンズ6aの中心点24に向けて入射する。一方、光投入手段6が半円筒レンズ6bである場合には、前記光23を半円筒レンズ6bの中心軸上の点25へ向けて、この中心軸と直交する方向へ入射する。
【0054】
光23が半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bに入射する際、この半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bの他面側の表面に対する光23の入射角度は0°となるため、光23は大気10と半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bとの界面で全反射せずに、半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bの内部を伝播する。更に半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bの屈折率が透明電極層4の屈折率との屈折率差が±0.1以内であるため、半球レンズ6a又は半円筒レンズ6b内を伝播する光23は、半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bと透明電極層4との界面で全反射せず、透明電極層4内を伝播する。このため、外部から透明電極層4に向けて照射される光23の略全部が、透明電極層4内に取り入れられる。
【0055】
透明電極層4を伝播する光23は、光散乱部3を通過する際、透明電極層4と光散乱部3との界面、並びに光散乱部3と透光性基板2との界面での光の反射・屈折角が乱されて、全反射が抑制される。これにより、光散乱部3が設けられない場合には透明電極層4と透光性基板2との界面で全反射するような、入射角度が広角度の光23が、透光性基板2を伝播し、光散乱部3の性能に応じた光量の光23が透光性基板2から大気10に出射する。
【0056】
この試験用基板5から出射する光の光量を、PMA(分光測光装置)や輝度計等で計測する。このとき、光投入手段6への光23の入射角度(透明電極層4の表面と垂直な線を0°とした場合の入射角度)を変動させ、透光性基板2側から出射する光23の光量を前記入射角度ごとに計測する。この結果、試験用基板5から出射する光23の光量の、入射角依存性が導出される。
【0057】
上記計測結果に基づいて、光散乱部3の性能に基づく各試験用基板5の性能を評価することができる。そして、所望の性能を有する試験用基板5を選択して、この試験用基板5の構造を発光素子における透明導電性基板1として採用することができる。
【0058】
このようにして透明導電性基板1の設計を行うにあたり、光投入手段6として上記のように半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bを用いると、入射する光23の殆どを簡便な構成にて透明電極層4に取り込むことができる。特に、半球レンズ6aが使用される場合は入射する光23の方向を半球レンズ6aの中心点24に向けて合わせる必要があって、入射する光23の入射方向の調整軸が3軸(図4(a)中のx軸、y軸及びz軸)であるの対して、半円筒レンズ6bが使用される場合には入射する光23の入射方向を半円筒レンズ6bの中心軸上の点25に向けて合わせれば良く、前記調整軸が2軸(図4(b)中のx軸及びz軸)となって、入射方向の調整の手間が削減される。
【0059】
尚、光投入手段6はこれら半球レンズ6aや半円筒レンズ6bに限られず、適宜の構成が採用される。例えば透明電極層4との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有するマッチングオイルの浴が光投入手段6として使用されても良い。この場合、試験用基板5を前記マッチングオイルの浴中に浸漬した状態で、この試験用基板5に光を入射し、出射する光を計測する。但し、この場合はマッチングオイルの浴中に投光器や計測器を入れなければならないため、上記のような半球レンズ6aや半円筒レンズ6bを使用する方が、簡便な計測が可能となる。
【0060】
また、光投入手段6として、上記半球レンズ6a等に代えて、試験用基板5における透明電極層4との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有するプリズムを使用し、このプリズムによって透明電極層4に入射する光の角度を変えて出射光を計測してもよい。
【0061】
[第二の実施形態]
図2に第二の実施形態を示す。本実施形態では、第一の実施形態とは異なる構造を有する透明導電性基板1の設計を行う。すなわち、本実施形態では、光散乱部3、透光性基板2、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成された構造を有する透明導電性基板1の設計を、複数の試験用基板5を使用した計測結果に基づいて行う。
【0062】
複数の試験用基板5として、光散乱部3、透光性基板2、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成された構造のものを作製して使用する。各試験用基板5間では、透光性基板2及び透明電極層4は全て同一構成を有し、光散乱部3は互いに異なった構成を有する。
【0063】
互いに異なった構成を有する光散乱部3としては、第一の実施形態について説明したものと同様のものが形成される。
【0064】
この各試験用基板5の透明電極層4側の表面に光投入手段6を取り付ける。この光投入手段6は、外部から透明電極層4に向けて光が照射されると、この光の略全部を透明電極層4内に取り入れる機能を有する。この光投入手段6としては、第一の実施形態について説明したものと同様のものが使用される。
【0065】
この試験用基板5に取り付けられた光投入手段6に向けて光23を入射する。光投入手段6が半球レンズ6aである場合には、前記光23を半球レンズ6aの中心点24に向けて入射する。一方、光投入手段6が半円筒レンズ6bである場合には、前記光23を半円筒レンズ6bの中心軸上の点25に向けて、この中心軸と直交する方向へ入射する。
【0066】
光23が半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bに入射すると、第一の実施形態の場合と同様に、外部から透明電極層4に向けて照射される光23の略全部が、透明電極層4内に取り入れられる。
【0067】
透明電極層4を伝播する光23は、透光性基板2へ伝播し更に、光散乱部3を通過する。このとき、透光性基板2と光散乱部3との界面、並びに光散乱部3と大気10との界面での光23の反射・屈折角が乱されて、全反射が抑制される。これにより、光散乱部3が設けられない場合には透光性基板2と大気10との界面で全反射するような、入射角度が広角度の光が大気10へ出射し、光散乱部3の性能に応じた光量の光23が透光性基板2から大気10に出射する。
【0068】
この試験用基板5から出射する光23の光量を、PMAや輝度計等で計測する。このとき、光投入手段6への光23の入射角度(透明電極層4の表面と垂直な線を0°とした場合の入射角度)を変動させ、透光性基板2側から出射する光23の光量を前記入射角度ごとに計測する。この結果、試験用基板5から出射する光23の光量の、入射角依存性が導出される。
【0069】
上記計測結果に基づいて、光散乱部3の性能に基づく各試験用基板5の性能を評価することができる。そして、所望の性能を有する試験用基板5を選択して、この試験用基板5の構造を発光素子における透明導電性基板1として採用することができる。
【0070】
[第三の実施形態]
図3に第三の実施形態を示す。本実施形態では、第二の実施形態の場合と同様に、光散乱部3、透光性基板2、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成された構造を有する透明導電性基板1の設計を、複数の試験用基板5を使用した計測結果に基づいて行う。
【0071】
複数の試験用基板5としては、第二の実施形態とは異なり、光散乱部3及び透光性基板2が積層して形成された構造のものを作製して使用する。各試験用基板5間では、透光性基板2は全て同一構成を有し、光散乱部3は互いに異なった構成を有する。
【0072】
互いに異なった構成を有する光散乱部3としては、第一及び第二の実施形態について説明したものと同様のものが形成される。
【0073】
この各試験用基板5の透光性基板2側の表面に光投入手段6を取り付ける。この光投入手段6は、外部から透光性基板2に向けて光が照射されると、この光の略全部を透光性基板2内に取り入れる機能を有する。この光投入手段6としては、第一及び第二の実施形態と同様に例えば半球レンズ6aや半円筒レンズ6b等が使用されるが、この半球レンズ6a、半円筒レンズ6b等の屈折率は、試験用基板5における透光性基板2との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有することが好ましく、また透光性基板2と同一の屈折率を有することが更に好ましい。
【0074】
この試験用基板5に取り付けられた光投入手段6に向けて光23を入射する。光投入手段6が半球レンズ6aである場合には、前記光23を半球レンズ6aの中心点24に向けて入射する。一方、光投入手段6が半円筒レンズ6bである場合には、前記光23を半円筒レンズ6bの中心軸上の点25に向けて、この中心軸と直交する方向へ入射する。
【0075】
光23が半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bに入射する際、この半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bの他面側の表面に対する光23の入射角度は0°となるため、入射する光23は大気10と半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bとの界面で全反射せずに、半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bの内部を伝播する。更に半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bの屈折率が透光性基板2の屈折率との屈折率差が±0.1以内であるため、半球レンズ6a又は半円筒レンズ6b内を伝播する光23は、半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bと透明電極層4との界面で全反射せず、透明電極層4内を伝播する。このため、外部から透明電極層4に向けて照射される光23の略全部が、透明電極層4内に取り入れられる。
【0076】
透光性基板2を伝播する光23は、光散乱部3を通過する際、透光性基板2と光散乱部3との界面、並びに光散乱部3と大気10との界面での光の反射・屈折角が乱されて、全反射が抑制される。これにより、光散乱部3が設けられない場合には透光性基板2と大気10との界面で全反射するような、入射角度が広角度の光23が大気10に出射し、このとき光散乱部3の性能に応じた光量の光23が大気10へ出射する。
【0077】
この試験用基板5から出射する光23の光量を、PMAや輝度計等で計測する。このとき、光投入手段6への光23の入射角度(透光性基板2の表面と垂直な線を0°とした場合の入射角度)を変動させ、光散乱部3側から出射する光23の光量を前記入射角度ごとに計測する。この結果、試験用基板5から出射する光23の光量の、入射角依存性が導出される。
【0078】
上記計測結果に基づいて、光散乱部3の性能に基づく各試験用基板5の性能を評価することができる。そして、所望の性能を有する試験用基板5を選択して、この試験用基板5の構造を、発光素子の透明導電性基板1における、透光性基板2及び光散乱部3の構造として採用することができる。
【0079】
このようにして透明導電性基板1の設計を行うにあたり、光投入手段6として上記のように半球レンズ6a又は半円筒レンズ6bを用いると、入射する光23の殆どを簡便な構成にて透明電極層4に取り込むことができる。特に、半球レンズ6aが使用される場合は入射する光23の方向を半球レンズ6aの中心点24に向けて合わせる必要があって、光23の入射方向の調整軸が3軸(図4(a)中のx軸、y軸及びz軸)であるのに対して、半円筒レンズ6bが使用される場合には光23の入射方向を半円筒レンズ6bの中心軸上の点25に向けて合わせれば良く、前記調整軸が2軸(図4(b)中のx軸及びz軸)となって、入射方向の調整の手間が削減される。
【0080】
尚、光投入手段6はこれら半球レンズ6aや半円筒レンズ6bに限られず、適宜の構成が採用される。例えば透光性基板2との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有するマッチングオイルの浴が光投入手段6として使用されても良い。この場合、試験用基板5を前記マッチングオイルの浴中に浸漬した状態で、この試験用基板5に光を入射し、出射光を計測する。但し、この場合はマッチングオイルの浴中に投光器や計測器を入れなければならないため、上記のような半球レンズ6aや半円筒レンズ6bを使用する方が、簡便な計測が可能となる。
【0081】
また、光投入手段6として、上記半球レンズ6a等に代えて、試験用基板5における透光性基板2との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有するプリズムを使用し、このプリズムによって透光性基板2に入射する光の角度を変えて出射光を計測してもよい。
【実施例】
【0082】
[実施例1]
第一の実施形態に相当する具体的な実施例について説明する。
【0083】
複数の試験用基板5を作製するにあたり、透光性基板2として無アルカリガラス板(No.1737,コーニング社製)を用いた。
【0084】
この透光性基板2に、散乱粒子層と平坦化層とを備える光散乱部3を形成した。この際、まずバインダー樹脂となるシリコーンレジン溶液を調製した。テトラエトキシシラン86.8gにイソプロピルアルコール803.5gを加え、さらにγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン34.7g及び0.1Nの硝酸75gを加え、ディスパーを用いてよく混合することによって、シリコーンレジン溶液が得られた。
【0085】
得られたシリコーンレジン溶液を40℃恒温槽中で2時間攪拌し、重量平均分子量が1050のバインダー形成材料としてのシリコーンレジン5質量%溶液を得た。
【0086】
このシリコーンレジン溶液に、メチルシリコーン粒子(粒子径2μm,GE東芝シリコーン製,トスパール120)を、このメチルシリコーン粒子の含有量が、メチルシリコーン粒子及びシリコーンレジン(縮合化合物換算)の固形分質量の総量に対して80質量%となるように添加し、ホモジナイザーで分散させることで、メチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液を得た。尚、「縮合化合物換算」とは、例えばシリコーンレジンがテトラアルコキシシランの場合は、シリコーンレジン中に存在する全Si原子をSiO2で換算した場合の質量、トリアルコキシシランの場合はSiO1.5で換算した場合の質量である。
【0087】
このメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液を、透光性基板2の表面にスピンコーターによって1000rpmの条件で塗布した後、乾燥した。このとき、前記メチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液の塗布・乾燥回数を各試験用基板5ごとに2,4,6,8回と異ならせる。その後、このメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液の塗膜を200℃で30分間焼成する熱処理を施すことで、バインダー樹脂中にメチルシリコーン粒子が分散した散乱粒子層を形成した。
【0088】
次に、この散乱粒子層の表面にイミド系樹脂(OPTMATE製,HRI1783,nD=1.78,濃度18%)をスピンコーターによって2000rpmの条件で塗布・乾燥した後、200℃で30分間焼成する熱処理を施すことで、厚み約4μmの平坦化層を形成した。これにより、光散乱部3を形成した。
【0089】
次に、この光散乱部3の表面に、ITO(スズドープ酸化インジウム)のターゲット(東ソー製)を用いたスパッタを行い、厚み150nmのITO膜を形成する。このITO膜をAr雰囲気下200℃で1時間加熱するアニール処理を施し、シート抵抗18Ω/□の透明電極層4を形成した。これにより、光散乱部3を構成する散乱粒子層の厚みが互いに異なる複数の試験用基板5を得た。
【0090】
この複数の各試験用基板5に対し、次のような試験を行った。
【0091】
まず、試験用基板5の透明電極層4の外面に、図1に示すように光投入手段6として、前記透明電極層4の屈折率と同一の屈折率を有する半球レンズ6aを前記透明電極層4の屈折率と同等の屈折率(屈折率差±0.1以内)を有するマッチングオイルを介して取り付けた。この試験用基板5に取り付けられた半球レンズ6aの球面に向けて、外部から可視光域の光23を照射した。この光23の入射方向は、この光が半球レンズ6aの中心点24を通過するように調整した。また、透明電極層4の表面を基準にした光23の入射角度を、0°〜80°の範囲で変動させると共に、透光性基板2側から出射する光23の光量を、5°刻みの入射角度ごとにPMAで計測した。
【0092】
図7に、入射角度ごとの透光性基板2側から出射する光23の光量(放射束)の計測値を示す。前記計測値は、各入射角度における透光性基板2側から出射する光23の光量の、可視光域全体の積分値を、入射角度0°の場合を1として規格化した値である。図7のグラフ中における■は散乱粒子層の形成時におけるメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液の塗布回数が2回、◇は4回、▲は6回、○は8回であった場合での、試験用基板5についての計測値を、それぞれ示す。
【0093】
また、各試験用基板5について、半球レンズ6aを用いないこと以外は、上記と同様に入射角度ごとの透光性基板2側から出射する光23の光量を計測した。その結果を図8に示す。
【0094】
図8によれば、入射角度が30°より大きくなると、出射する光23の計測値がほぼ0になっている。これは、光23の入射角度が広角度になると、大気10と透明電極層4との間の屈折率差によって光23が全反射するためである。
【0095】
これに対して、半球レンズ6aを用いた場合には、図7に示すように、入射角度が広角度となった場合であっても透光性基板2側から出射する光23が計測された。これにより、入射角度が広角度であっても、光散乱部3によって透明電極層4と透光性基板2との間での光23の全反射が抑制されて、透光性基板2側から出射する光23の光量が増大していることが確認できる。
【0096】
また、複数の各試験用基板5では、散乱粒子層の形成時の塗布回数が増大するほど、広角度側での出射する光23の光量が増大しており、塗布回数が8回の場合に出射する光23の光量が最も大きくなっている。このため、複数の試験用基板5のうち、前記塗布回数が8回の場合の試験用基板5では、光散乱部3の光取り出し性能が最も高いと判断される。
【0097】
本実施例により、散乱粒子層の形成時の塗布回数が8回である場合の試験用基板5の構造を、発光素子における透明導電性基板1の構造として選択することができる。このように透明導電性基板1の構造を設計することで、発光素子の光取り出し効率が向上すると判断される。
【0098】
尚、各試験用基板5の性能を評価する際には、図7に示される光23の光量を、入射角度で積分した値を導出し、この値を各試験用基板5間で比較して、前記値が大きいほど試験用基板5の性能が高いと判断しても良い。
【0099】
次に、本実施例により設計された透明導電性基板1を備える発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子A)の光取り出し性能を検証した結果を示す。
【0100】
本実施例のように散乱粒子層の形成時の塗布回数を2,4,6,8回とした各試験用基板5について、この各試験用基板5の透明導電性基板1の表面にα−NPD(4,4'−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル)からなる厚み40nmのホール輸送層12、Rubrene(5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン)を6質量%ドープしたAlq3(トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体)からなる厚み40nmの発光層13、下記[化1]に示すTmPyPhBからなる厚み100nmの電子輸送層14を順次積層して、有機発光層7を形成した。更にこの有機発光層7にAlからなる厚み80nmの光反射性電極層8を積層して形成し、複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子Aを得た。
【0101】
【化1】

【0102】
また、光散乱部3を有しない以外は上記各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子Aと同一の構成を有する基準用有機エレクトロルミネッセンス素子Aを作製した。
【0103】
この各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子A、並びに基準用有機エレクトロルミネッセンス素子Aの電極間に0.4mAの電流を通電し、各素子から出射する光23の全光束を輝度計により計測した。
【0104】
各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子から出射する光23の計測値を、図9に示す。この計測値は、基準用有機エレクトロルミネッセンス素子Aの場合の全光束の計測値を1として規格化した値である。また横軸の数値は、散乱粒子層の形成時の塗布回数を示し、各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子Aに対応する。
【0105】
この結果によると、光散乱部3を備えることで有機エレクトロルミネッセンス素子Aから出射する光23の光量が増大することが確認され、且つ、本実施例のように散乱粒子層の形成時の塗布回数が8回となるように透明導電性基板1を設計すると、光取り出し効率が最も高くなることが確認される。
【0106】
尚、第一の実施形態における透明導電性基板1の設計方法は、本実施例に限られず、材質、構成等が変更された種々の透明導電性基板1の設計に適用される。例えば透明電極層4の材質、膜厚等を変更したり、透光性基板2を、上記のような無アルカリガラスではなく、特許文献4に開示されているような陽極(ITO膜)と同様以上の屈折率を有する高屈折率のガラスで形成する場合にも、第一の実施形態における透明導電性基板1の設計方法が採用され得る。また、本実施例では各試験用基板5間で光散乱部3における散乱粒子層の厚みを変更しているが、各試験用基板5間で光散乱部3の構成を異ならせるのであれば、例えば光散乱部3を構成する散乱粒子層中のバインダー樹脂の種類、含有量等、前記散乱粒子層中の粒子の種類、粒径、含有量等、散乱粒子層の厚み等が互いに異なる光散乱部3が形成され、或いは平坦化層の材質、膜厚等が互いに異なる光散乱部3が形成されても良い。
【0107】
[実施例2]
第二の実施形態に相当する具体的な実施例について説明する。
【0108】
複数の試験用基板5を作製するにあたり、透光性基板2として無アルカリガラス板(No.1737,コーニング社製)を用いた。
【0109】
この透光性基板2に、散乱粒子層からなる光散乱部3を形成する。この際、まず上記実施例1の場合と同一の組成を有するメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液を調製し、このメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液を、透光性基板2の一面にスピンコーターによって1000rpmの条件で塗布した後、乾燥した。このとき、前記メチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液の塗布・乾燥回数を各試験用基板5ごとに2,4,6,8回と異ならせた。その後、このメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液の塗膜を200℃で30分間焼成する熱処理を施すことで、バインダー樹脂中にメチルシリコーン粒子が分散した散乱粒子層からなる光散乱部3を形成した。
【0110】
次に、透光性基板2の、光散乱部3が設けられていない他面に、ITO(スズドープ酸化インジウム)のターゲット(東ソー製)を用いたスパッタを行い、厚み150nmのITO膜を形成した。このITO膜をAr雰囲気下200℃で1時間加熱するアニール処理を施し、シート抵抗18Ω/□の透明電極層4を形成した。
【0111】
これにより、光散乱部3を構成する散乱粒子層の厚みが互いに異なる複数の試験用基板5を得た。
【0112】
この複数の各試験用基板5に対し、次のような試験を行った。
【0113】
まず、試験用基板5の透明電極層4の外面に、図2に示すように光投入手段6として、前記透明電極層4の屈折率と同一の屈折率を有する半球レンズ6aを前記透明電極層4の屈折率と同等の屈折率(屈折率差±0.1以内)を有するマッチングオイルを介して取り付けた。この試験用基板5に取り付けられた半球レンズ6aの球面に向けて、外部から可視光域の光23を照射した。この光23の入射方向は、この光23が半球レンズ6aの中心点24を通過するように調整した。また、透明電極層4の表面を基準にした光23の入射角度を、0°〜80°の範囲で変動させると共に、光散乱部3側から出射する光23の光量を、5°刻みの入射角度ごとにPMAで計測した。
【0114】
図10に、入射角度ごとの出射する光23の光量(放射束)の計測値を示す。前記計測値は、各入射角度における出射する光23の光量の、可視光域全体の積分値を、入射角度0°の場合を1として規格化した値である。図11のグラフ中における■は散乱粒子層の形成時におけるメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液の塗布回数が2回、◇は4回、▲は6回、○は8回であった場合での、試験用基板5についての計測値を、それぞれ示す。
【0115】
図10に示すように、各試験用基板5では、入射角度が広角度となった場合であっても光散乱部3側から出射する光23が計測された。これにより、入射角度が広角度であっても、光散乱部3によって透光性基板2と大気10との間での光23の全反射が抑制されて、出射光量が増大していることが確認できる。
【0116】
また、複数の各試験用基板5では、散乱粒子層の形成時の塗布回数が増大するほど、広角度側での出射する光23の光量が増大しており、塗布回数が8回の場合に出射する光23の光量が最も大きくなっている。このため、複数の試験用基板5のうち、前記塗布回数が8回の場合の試験用基板5では、光散乱部3の光取り出し性能が最も高いと判断される。
【0117】
本実施例により、散乱粒子層の形成時の塗布回数が8回である場合の試験用基板5の構造を、発光素子における透明導電性基板1の構造として選択することができる。このように透明導電性基板1の構造を設計することで、発光素子の光取り出し効率が向上すると判断される。
【0118】
尚、各試験用基板5の性能を評価する際には、図10に示される出射する光23の光量を、入射角度で積分した値を導出し、この値を各試験用基板5間で比較して、前記値が大きいほど試験用基板5の性能が高いと判断しても良い。
【0119】
次に、本実施例により設計される透明導電性基板1を備える発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子A)の光取り出し性能を検証した結果を示す。
【0120】
上記事例のように散乱粒子層の形成時の塗布回数を2,4,6,8回とした各試験用基板5について、この各試験用基板5の透明導電性基板1の表面にα−NPDからなる厚み40nmのホール輸送層12、Rubreneを6質量%ドープしたAlq3からなる厚み40nmの有機発光層7、上記[化1]に示すTmPyPhBからなる厚み100nmの電子輸送層14を順次積層して形成し、有機発光層7を形成した。この有機発光層7の表面に、Alからなる厚み80nmの光反射性電極層8を積層して形成し、複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子Aを得た。
【0121】
また、光散乱部3を有しない以外は上記各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子Aと同一の構成を有する基準用有機エレクトロルミネッセンス素子Aを作製した。
【0122】
この各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子A、並びに基準用有機エレクトロルミネッセンス素子Aの電極間に0.4mAの電流を通電し、各素子から出射する光23の全光束を輝度計により計測した。
【0123】
各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子から出射する光23の計測値を、図11に示す。この計測値は、基準用有機エレクトロルミネッセンス素子Aの場合の全光束の計測値を1として規格化した値である。また横軸の数値は、散乱粒子層の形成時の塗布回数を示し、各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子Aに対応する。
【0124】
この結果によると、光散乱部3を備えることで有機エレクトロルミネッセンス素子Aから出射する光23の光量が増大することが確認され、且つ、本実施例のように散乱粒子層の形成時の塗布回数が8回となるように透明導電性基板1を設計すると、光取り出し効率が最も高くなることが確認される。
【0125】
第二の実施形態における透明導電性基板1の設計方法は、本実施例に限られず、材質、構成等が変更された種々の透明導電性基板1の設計に適用される。例えば透明電極層4の材質、膜厚等を変更したり、透光性基板2を、上記のような無アルカリガラスではなく、特許文献4に開示されているような陽極(ITO膜)と同様以上の屈折率を有する高屈折率のガラスで形成する場合にも、第二の実施形態における透明導電性基板1の設計方法が採用され得る。また、本実施例では各試験用基板5間で光散乱部3における散乱粒子層の厚みを変更しているが、各試験用基板5間で光散乱部3の構成を異ならせるのであれば、既述の通り、例えば光散乱部3を構成する散乱粒子層中のバインダー樹脂の種類、含有量等、前記散乱粒子層中の粒子の種類、粒径、含有量等、散乱粒子層の厚み等が互いに異なる光散乱部3が形成されても良い。
【0126】
[実施例3]
第三の実施形態に相当する具体的な実施例について説明する。
【0127】
複数の試験用基板5を作製するにあたり、透光性基板2として無アルカリガラス板(No.1737,コーニング社製)を用いた。
【0128】
この透光性基板2に、散乱粒子層からなる光散乱部3を形成した。この際、まず上記実施例1の場合と同一組成を有するメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液を調製し、このメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液を、透光性基板2の一面にスピンコーターによって1000rpmの条件で塗布した後、乾燥した。このとき、前記メチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液の塗布・乾燥回数を各試験用基板5ごとに2,4,6,8回と異ならせた。その後、このメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液の塗膜を200℃で30分間焼成する熱処理を施すことで、バインダー樹脂中にメチルシリコーン粒子が分散した散乱粒子層からなる光散乱部3を形成した。
【0129】
これにより、光散乱部3を構成する散乱粒子層の厚みが互いに異なる複数の試験用基板5を得た。
【0130】
この複数の各試験用基板5に対し、次のような試験を行った。
【0131】
まず、図3に示すように、試験用基板5の透光性基板2の外面に、光投入手段6として、前記透光性基板2の屈折率と同一の屈折率を有する半球レンズ6aを前記透光性基板2の屈折率と同等の屈折率(屈折率差±0.1以内)を有するマッチングオイルを介して取り付けた。この試験用基板5に取り付けられた半球レンズ6aの球面に向けて、外部から可視光域の光23を入射した。この光23の入射方向は、この光23が半球レンズ6aの中心点24を通過するように調整した。また、透光性基板2の表面を基準にした光23の入射角度を、0°〜80°の範囲で変動させると共に、光散乱部3側から出射する光23の光量を、5°刻みの入射角度ごとにPMAで計測した。
【0132】
図12に、入射角度ごとの出射する光23の光量(放射束)の計測値を示す。前記計測値は、各入射角度における出射する光23の光量の、可視光域全体の積分値を、入射角度0°の場合を1として規格化した値である。図14のグラフ中における■は散乱粒子層の形成時におけるメチルシリコーン粒子分散シリコーンレジン溶液の塗布回数が2回、◇は4回、▲は6回、○は8回であった場合での、試験用基板5についての計測値を、それぞれ示す。
【0133】
図12に示すように、各試験用基板5では、入射角度が広角度となった場合であっても光散乱部3側から出射する光23が計測された。これにより、入射角度が広角度であっても、光散乱部3によって透光性基板2と大気10との間での光23の全反射が抑制されて、出射光量が増大していることが確認できる。
【0134】
また、複数の各試験用基板5では、散乱粒子層の形成時の塗布回数が増大するほど、広角度側での出射する光23の光量が増大しており、塗布回数が8回の場合に出射する光23の光量が最も大きくなっている。このため、複数の試験用基板5のうち、前記塗布回数が8回の場合の試験用基板5では、光散乱部3の光取り出し性能が最も高いと判断される。
【0135】
本実施例により、散乱粒子層の形成時の塗布回数が8回である場合の試験用素子の構造を、光散乱部3、透光性基板2、及び透明電極層4がこの順番に積層して形成される透明導電性基板1における光散乱部3及び透光性基板2の構造として選択することができる。このように透明導電性基板1の構造を設計することで、発光素子の光取り出し効率が向上すると判断される。
【0136】
尚、各試験用基板5の性能を評価する際には、図12に示される出射する光23の光量を、入射角度で積分した値を導出し、この値を各試験用基板5間で比較して、前記値が大きいほど試験用基板5の性能が高いと判断しても良い。
【0137】
次に、本実施例により設計される透明導電性基板1を備える発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子A)の光取り出し性能を検証した結果を示す。
【0138】
上記事例のように散乱粒子層の形成時の塗布回数を2,4,6,8回とした各試験用基板5について、この各試験用基板5の透光性基板2の、光散乱部3が設けられていない他面に、ITO(スズドープ酸化インジウム)のターゲット(東ソー製)を用いたスパッタを行い、厚み150nmのITO膜を形成した。このITO膜をAr雰囲気下200℃で1時間加熱するアニール処理を施し、シート抵抗18Ω/□の透明電極層4を形成した。これにより、透明導電性基板1を形成した。
【0139】
この透明導電性基板1における透明電極層4の表面にα−NPDからなる厚み40nmのホール輸送層12、Rubreneを6質量%ドープしたAlq3からなる厚み40nmの有機発光層7、上記[化1]に示すTmPyPhBからなる厚み100nmの電子輸送層14、Alからなる厚み80nmの光反射性電極層8を、順次積層して形成し、複数の試験用有機エレクトロルミネッセンス素子Aを得た。
【0140】
また、光散乱部3を有しない以外は上記各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子Aと同一の構成を有する基準用有機エレクトロルミネッセンス素子Aを作製した。
【0141】
この各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子A、並びに基準用有機エレクトロルミネッセンス素子Aの電極間に0.4mAの電流を通電し、各素子から出射する光23の全光束を輝度計により計測した。
【0142】
各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子から出射する光23の計測値は、図11と同じ結果になる。この計測値は、基準用有機エレクトロルミネッセンス素子Aの場合の全光束の計測値を1として規格化した値である。また横軸の数値は、散乱粒子層の形成時の塗布回数を示し、各試験用有機エレクトロルミネッセンス素子Aに対応する。
【0143】
この結果によると、光散乱部3を備えることで有機エレクトロルミネッセンス素子Aから出射する光23の光量が増大することが確認され、且つ、本実施例のように散乱粒子層の形成時の塗布回数が8回となるように透明導電性基板1を設計すると、光取り出し効率が最も高くなることが確認される。
【0144】
第三の実施形態における透明導電性基板1の設計方法は、本実施例に限られず、材質、構成等が変更された種々の透明導電性基板1の設計に適用される。例えば透明電極層4の材質、膜厚等を変更したり、透光性基板2を、上記のような無アルカリガラスではなく、特許文献4に開示されているような陽極(ITO膜)と同様以上の屈折率を有する高屈折率のガラスで形成する場合にも、第三の実施形態における透明導電性基板1の設計方法が採用され得る。また、本実施例では各試験用基板5間で光散乱部3における散乱粒子層の厚みを変更しているが、各試験用基板5間で光散乱部3の構成を異ならせるのであれば、既述の通り、例えば光散乱部3を構成する散乱粒子層中のバインダー樹脂の種類、含有量等、前記散乱粒子層中の粒子の種類、粒径、含有量等、散乱粒子層の厚み等が互いに異なる光散乱部3が形成されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の第一の実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の第二の実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明の第三の実施形態を示す概略断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、試験用基板に対する光の入射位置を示す平面図である。
【図5】本発明の第一の実施形態で設計される透明導電性基板が設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の第二及び第三の実施形態で設計される透明導電性基板が設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す概略断面図である。
【図7】実施例1における試験用基板から出射する光の、入射角度ごとの計測値を示すグラフである。
【図8】半球レンズが使用されない場合の、実施例1における試験用基板から出射する光の、入射角度ごとの計測値を示すグラフである。
【図9】実施例1における試験用有機エレクトロルミネッセンス素子から出射する光の計測値を示すグラフである。
【図10】実施例2における試験用基板から出射する光の、入射角度ごとの計測値を示すグラフである。
【図11】実施例2及び実施例3における試験用有機エレクトロルミネッセンス素子から出射する光の計測値を示すグラフである。
【図12】実施例3における試験用基板から出射する光の、入射角度ごとの計測値を示すグラフである。
【図13】従来技術の一例を示す概略の断面図である。
【図14】従来技術の他例を示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0146】
1 透明導電性基板
2 透光性基板
3 光散乱部
4 透明電極層
5 試験用基板
6 光投入手段
6a 半球レンズ
6b 半円筒レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板、光散乱部、及び透明電極層がこの順番に積層して形成され、発光素子の外層に設けられることによって発光素子へ給電する機能と発光素子からの発光を透過して外部へ出射する機能とを発揮する透明導電性基板の設計方法であって、
透光性基板、光散乱部、及び透明電極層がこの順番に積層して形成され、且つ前記光散乱部が互いに異なる構成を有する複数の試験用基板を作製し、
各試験用基板の透明電極層側の表面に外部から透明電極層に向けて照射される光の略全部を透明電極層内に取り入れるための光投入手段を取り付け、
前記光投入手段に向けて光を入射すると共に前記光の入射角度を変動させ、透光性基板側からの出射光の光量を前記入射角度ごとに計測し、
前記計測結果に基づいて、前記複数の試験用基板の構造から、発光素子に設けられる透明導電性基板の構造を選択することを特徴とする発光素子用の透明導電性基板の設計方法。
【請求項2】
光散乱部、透光性基板、及び透明電極層がこの順番に積層して形成され、発光素子の外層に設けられることによって発光素子へ給電する機能と発光素子からの発光を透過して外部へ出射する機能とを発揮する透明導電性基板の設計方法であって、
光散乱部、透光性基板、及び透明電極層がこの順番に積層して形成され、且つ前記光散乱部が互いに異なる構造を有する複数の試験用基板を作製し、
各試験用基板の透明電極層側の表面に外部から透明電極層に向けて照射される光の略全部を透明電極層内に取り入れるための光投入手段を取り付け、
前記光投入手段に向けて光を入射すると共に前記光の入射角度を変動させ、光散乱部側からの出射光の光量を前記入射角度ごとに計測し、
前記計測結果に基づいて、前記複数の試験用基板の構造から、発光素子に設けられる透明導電性基板の構造を選択することを特徴とする発光素子用の透明導電性基板の設計方法。
【請求項3】
上記光投入手段が、試験用基板における透明電極層の屈折率との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有する半球レンズ又は半円筒レンズであることを特徴とする請求項1又は2記載の発光素子用の透明導電性基板の設計方法。
【請求項4】
光散乱部、透光性基板、及び透明電極層がこの順番に積層して形成され、発光素子の外層に設けられることによって発光素子へ給電する機能と発光素子からの発光を透過して外部へ出射する機能とを発揮する透明導電性基板の設計方法であって、
光散乱部及び透光性基板が積層して形成され、且つ前記光散乱部が互いに異なる構造を有する複数の試験用基板を作製し、
各試験用基板の透光性基板側の表面に外部から透光性基板に向けて照射される光の略全部を透光性基板内に取り入れるための光投入手段を取り付け、
前記光投入手段に向けて光を入射すると共に前記光の入射角度を変動させ、光散乱部側からの出射光の光量を前記入射角度ごとに計測し、
前記計測結果に基づいて、前記複数の試験用基板の構造から、発光素子に設けられる透明導電性基板における光散乱部及び透光性基板の構造を選択することを特徴とする発光素子用の透明導電性基板の設計方法。
【請求項5】
上記光投入手段が、試験用基板における透光性基板の屈折率との屈折率差が±0.1以内となる屈折率を有する半球レンズ又は半円筒レンズであることを特徴とする請求項4に記載の発光素子用の透明導電性基板の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−33851(P2010−33851A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194161(P2008−194161)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】