説明

発光表示パネルの駆動方法

【課題】 特に暗い環境下において、発光素子の順方向電圧の測定に伴って発生する素子の微発光の現象が知覚されないような制御形態を採用すること。
【解決手段】 発光素子を発光表示させる発光駆動電流Ifに比較して、その値が小さな測定電流Isを前記発光素子に供給して当該発光素子の順方向電圧値Vsを得ると共に、この時に得られる順方向電圧値Vsに基づいて、発光駆動電流Ifを発光素子に供給した場合の順方向電圧値Vfを推計し、推計した前記順方向電圧値Vfに基づいて、発光素子に発光駆動電流を与える電圧源の出力電圧値を制御するように構成される。前記測定電流Isを発光素子に供給する順方向電圧測定工程S3の直前または直後に、発光素子を同一輝度に表示動作させる同一輝度表示工程S2を実行することで、順方向電圧の測定に伴う素子の微発光現象をマスキングし、目立たなくさせる効果を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)素子等の発光素子を発光駆動する技術に関し、特に多数の有機EL素子をマトリクス状に配列した発光表示パネルを駆動する際に、表示品質を一定に保つことができると共に、消費電力を低減することができるようにした発光表示パネルの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機や携帯型情報端末機(PDA)などの普及によって、高精細な画像表示機能を有し、薄型かつ低消費電力を実現することができる表示パネルの需要が増大しており、従来より液晶表示パネルがその要求を満たす表示パネルとして多くの製品に採用されてきた。一方、昨今においては自発光型表示素子であるという特質を生かした有機EL素子を用いた表示パネルが実用化され、これが従来の液晶表示パネルに代わる次世代の表示パネルとして注目されている。これは素子の発光機能層に、良好な発光特性を期待することができる有機化合物を使用することによって、実用に耐え得る高効率化および長寿命化が進んだことも背景にある。
【0003】
前記した有機EL素子は、基本的にはガラス等の透明基板上に、例えばITOによる透明電極と有機物質からなる発光機能層と金属電極とが順次積層されることで構成されている。そして、前記発光機能層は、有機発光層の単一層、あるいは有機正孔輸送層と有機発光層からなる二層構造、または有機正孔輸送層と有機発光層および有機電子輸送層からなる三層構造、さらにこれらの適切な層間に電子もしくは正孔の注入層を挿入した多層構造になされる場合もある。
【0004】
前記した有機EL素子は、電気的には図1のような等価回路で表すことができる。すなわち、有機EL素子は、発光エレメントとしてのダイオード成分Eと、このダイオード成分Eに並列に結合する寄生容量成分Cpとによる構成に置き換えることができ、有機EL素子は容量性の発光素子であると考えられている。
【0005】
この有機EL素子は、発光駆動電圧が印加されると、先ず当該素子の電気容量に相当する電荷が電極に変位電流として流れ込み蓄積される。続いて当該素子固有の一定の電圧(発光閾値電圧=Vth)を越えると、一方の電極(ダイオード成分Eのアノード側)から発光層を構成する有機層に電流が流れ初め、この電流に比例した強度で発光すると考えることができる。
【0006】
図2は、このような有機EL素子の発光静特性を示したものである。これによれば、有機EL素子は図2(a)に示すように、駆動電流Iにほぼ比例した輝度Lで発光し、図2(b)に実線で示すように駆動電圧Vが発光閾値電圧Vth以上の場合において急激に電流Iが流れて発光する。
【0007】
換言すれば、駆動電圧が発光閾値電圧Vth以下の場合には、EL素子には電流は殆ど流れず発光しない。したがって、EL素子の輝度特性は図2(c)に実線で示すように前記閾値電圧Vthより大なる発光可能領域においては、それに印加される電圧Vの値が大きくなるほど、その発光輝度Lが大きくなる特性を有している。
【0008】
一方、前記した有機EL素子は、長期の使用によって素子の物性が変化し、順方向電圧Vfが大きくなることが知られている。このために、有機EL素子は図2(b)に示したように実使用時間によって、I−V特性が矢印に示した方向(破線で示した特性)に変化し、したがって輝度特性も低下することになる。
【0009】
さらに、有機EL素子の輝度特性は、温度によって概ね図2(c)に破線で示すように変化することも知られている。すなわちEL素子は、前記した発光閾値電圧より大なる発光可能領域においては、それに印加される電圧Vの値が大きくなるほど、その発光輝度Lが大きくなる特性を有するが、高温になるほど発光閾値電圧が小さくなる。したがってEL素子は、高温になるほど小さい印加電圧で発光可能な状態となり、同じ発光可能な印加電圧を与えても、高温時は明るく低温時は暗いといった輝度の温度依存性を有している。
【0010】
さらにまた、前記したEL素子はその発光色に応じて順方向電圧に対する発光効率が異なるという問題を有しており、現状において実用化し得るR(赤色)、G(緑色)、B(青色)をそれぞれ発光するEL素子の発光効率は、概ね図2(d)に示したようにGの発光効率が高く、Rの発光効率が最も低いという状況にある。そして、これらR、G、Bを発光する各EL素子の個々においても、図2(b)および(c)で示したような経時変化および温度依存性をそれぞれ有している。
【0011】
また、前記した有機EL素子は、素子の成膜時における例えば蒸着のばらつきによっても順方向電圧Vfが変動し、これに伴って初期輝度にばらつきが発生するという問題も抱えており、入力映像信号に忠実な輝度階調を表現すること、すなわち表示品質を一定に保持させることが困難になる。
【0012】
一方、前記した有機EL素子は、電流・輝度特性が温度変化に対して安定しているのに対して、電圧・輝度特性が温度変化に対して不安定であること、また過電流が加わった場合の素子の劣化が激しいなどの理由により、一般的には定電流駆動がなされる。この場合、定電流回路に供給されるたとえばDC/DCコンバータ等による電源部からもたらされる駆動電圧VHとしては、次のような各要素を考慮して設定せざるを得ない。
【0013】
すなわち、前記要素としては、EL素子の順方向電圧Vf、EL素子の前記Vfのばらつき分VB、前記Vfの経時変化分VL、前記Vfの温度変化分VT、定電流回路が定電流動作をするのに必要なドロップ電圧VD等を挙げることができる。そして、これらの各要素が相乗的に作用した場合においても、前記定電流回路の定電流特性が十部に確保できるようにするために、駆動電圧VHとしては、前記各要素として示した各電圧の最大値を加算した値に設定する必要がある。
【0014】
しかしながら、定電流回路に供給される駆動電圧VHとして、前記のように各電圧の最大値を加算した電圧値が必要となるケースは、それ程頻繁に生ずるものではなく、通常状態においては定電流回路における電圧降下分として大きな電力損失を招来させている。したがって、これが発熱の要因になり有機EL素子および周辺回路部品等に対してストレスを与える結果となっている。
【0015】
そこで、前記したような問題を回避するために、EL素子の順方向電圧Vfを測定し、この順方向電圧Vfに基づいて定電流回路を駆動する駆動電圧VHの値を制御することで、前記した定電流回路において発生する電力損失を低減させると共に、一定の表示品質を確保しようとする発光表示パネルの駆動装置が本件出願人等よりすでに出願されており、これらは特許文献1〜3などに開示されている。
【特許文献1】特許第3390214号公報
【特許文献2】特開2002−229512号公報
【特許文献3】特開2002−366101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、前記したEL素子の順方向電圧Vfを測定する手段としては、前記特許文献1および2に開示されているように、表示パネルに配列されて発光表示を行なうEL素子を利用して、その順方向電圧Vfを引き出す手段(第1の手段)を採用することが考えられる。また、前記特許文献3に開示されているように、表示パネルに配列されて発光表示を行なうEL素子とは別に、測定用素子を表示パネル上に形成して、この測定用素子を利用してその順方向電圧Vfを引き出す手段(第2の手段)を採用することも考えられる。
【0017】
前記した第1の手段を採用する場合においては、発光表示を行なう特定の素子に対して、順方向電圧Vfを引き出すことができる引き出し線等の回路構成を予め形成しておくことで、前記順方向電圧Vfを容易に取得することができる。しかしながら、発光表示を行なう特定の素子より前記順方向電圧Vfを取得する場合においては、これに点灯駆動電流を供給する必要があるために、前記素子が発光状態になされる。
【0018】
それ故、前記した順方向電圧Vfを測定するモードにおいては、表示パネル上の一部の素子が突然不規則な発光動作を伴うことになるために、前記実情を知らないエンドユーザは故障もしくは不良であるかのような疑念を抱くという問題が発生する。このような問題を避けるために、例えばスクリーンセーバの表示中において前記順方向電圧Vfを測定し、順方向電圧の測定に伴う素子の発光が目立たなくさせる手段を採用することが考えられる。一方、このような手段を採用した場合においては、この種の表示パネルを機器に組み込む電子機器(アッセンブリ)メーカにおいては、スクリーンセーバの表示画面等に制約が加わることになり、現実的には好ましくはない。
【0019】
そこで、前記した第2の手段を採用することで、前記した第1の手段を採用することによる問題を解消させることができるものの、この第2の手段を採用することにより、以下に説明する別の問題が発生する。まず、測定用素子をパネル上に配置するために表示領域以外のスペースが若干必要になる。また測定用素子より順方向電圧Vfを取得する際に生ずる発光を遮断するために、測定用素子の配置部分にマスクを形成する必要が生ずることなどの問題が発生する。したがって、これらがパネルのサイズ増大させる要因になるだけでなく、製造工程上においてコストを上昇させる要因にもなる。
【0020】
さらに、第2の手段を採用した場合においては、前記した測定用素子と表示用素子とは時間経過と共に点灯率(点灯履歴)に差が発生し、両素子の発光特性(I−V特性)に乖離が生じて、表示用素子の適切な順方向電圧Vfを取得することが困難になるという問題も抱えることになる。
【0021】
そこで、前記発光素子を発光表示させる駆動電流に比較してその値が小さな測定電流を素子に供給し、この時の前記発光素子の順方向電圧値を測定するようにした表示パネルの駆動装置を本件出願人においてすでに出願している。これによると、値の小さな測定電流により生ずる順方向電圧値に基づいて、実際に発光駆動電流を素子に供給した場合の当該発光素子の順方向電圧値を推計することができ、その推計値によって表示パネルに供給する駆動電圧を制御するように構成することができる。
【0022】
前記した発光表示パネルの駆動装置によると、比較的小さな値の測定電流によって素子の順方向電圧を測定するので、一般的な明るい環境下においては、順方向電圧測定に伴う表示パネル上の一部の素子の不規則な発光動作がエンドユーザに認知されるという前記した問題点を解決することができる。しかしながら、前記した測定電流を素子に流すことにより発生する素子の微発光の現象は、夜間などの暗い環境下においては特に目立ち易い。したがって、エンドユーザにおいて前記した現象が知覚される場合があり、商品価値を落とすという要因になり得る。
【0023】
この発明は、発光素子の順方向電圧の測定に伴う前記したような素子の微発光を伴う問題点に着目してなされたものであり、特に暗い環境下において生ずる微発光の発生現象が知覚されないような表示パネルの制御形態を採用し、これにより先に出願した発光表示パネルの駆動装置における作用効果を享受しつつ、素子の微発光が知覚されることにより商品価値を落とすなどの問題を解消することができる発光表示パネルの駆動方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかる発光表示パネルの駆動方法における好ましい第1の態様は、請求項1に記載のとおり、複数の発光素子が具備され、当該発光素子に対して映像情報に基づく発光駆動電流を選択的に供給することで、前記映像情報を表示させる発光表示パネルの駆動方法であって、前記発光素子を発光表示させる前記発光駆動電流Ifに比較して、その値が小さな測定電流Isを前記発光素子に供給して当該発光素子の順方向電圧値Vsを得る順方向電圧測定工程を有し、前記順方向電圧測定工程は、1フレーム期間内のいずれかの期間で実行され、前記順方向電圧測定工程において得られる順方向電圧値Vsに基づいて、前記発光駆動電流Ifを発光素子に供給した場合の当該発光素子の順方向電圧値Vfを推計し、推計した前記順方向電圧値Vfに基づいて、前記発光素子に発光駆動電流を与える電圧源の出力電圧値を制御することを特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかる発光表示パネルの駆動方法における好ましい第2の態様は、請求項3に記載のとおり、複数の発光素子が具備され、当該発光素子に対して映像情報に基づく発光駆動電流を選択的に供給することで、前記映像情報を表示させる発光表示パネルの駆動方法であって、前記発光素子を発光表示させる前記発光駆動電流Ifに比較して、その値が小さな測定電流Isを前記発光素子に供給して当該発光素子の順方向電圧値Vsを得る順方向電圧測定工程と、複数の前記発光素子が同一輝度の表示動作を行う同一輝度表示工程と、次のフレームに表示する画面の表示情報に基づいて前記順方向電圧測定工程と、前記同一輝度表示工程のうちの少なくとも1つの工程を次のフレーム期間内で実行するか否かの判定を行う判定工程を有し、前記順方向電圧測定工程と前記同一輝度表示工程は、前記判定工程での判定結果に基づいて実行される点に特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明にかかる発光表示パネルの駆動方法について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。図3はその駆動方法を実現させる基本概念を説明するEL素子のI−V特性を示すものであり、その縦軸および横軸はすでに説明した図2(b)〜(d)と同様に、EL素子に流される駆動電流Iおよびこの時の順方向電圧Vの関係を示すものである。
【0027】
この発明にかかる駆動方法においては、図3に示すように発光素子としてのEL素子を発光表示させる発光駆動電流Ifに比較して、その値が小さな測定電流Isを前記EL素子に供給する電流供給工程が実行される。そして、前記測定電流IsをEL素子に供給した時の当該素子の順方向電圧値Vsを得るようになされる。この工程を順方向電圧測定工程と呼ぶことにする。
【0028】
続いて、前記順方向電圧測定工程において得られる順方向電圧値Vsに基づいて、発光駆動電流IfをEL素子に供給した場合の当該EL素子の順方向電圧値Vfが推計される。これを説明の便宜上、推計工程と呼ぶことにする。そして、前記推計工程において推計した前記順方向電圧値Vfに基づいて、EL素子に発光駆動電流を与える電圧源の出力電圧値を制御するように動作する。
【0029】
図3に示したEL素子のI−V特性は、EL素子の経時変化により、また温度依存性により図4に示すように実線から破線に示すように変化する。しかしながら、前記したように測定値Vs1よりVf1を、また測定値Vs2よりVf2を、さらに同様に測定値Vs3よりVf3を、前記I−V特性の多数の実測結果より、それぞれ推計することができる。
【0030】
これはすでに説明したように発光効率が異なるR、G、Bを発光する各EL素子の個々においても同様であり、図5に示したように測定値VsGよりVfGを、また測定値VsBよりVfBを、さらに測定値VsRよりVfRを、それぞれ前記I−V特性の実測結果からから推計することができる。そして、これらR、G、Bを発光する各EL素子の個々においても、経時変化および温度依存性をそれぞれ有しており、図4に示した例と同様の手段を利用して、その時々における順方向電圧値Vfを推計することが可能となる。
【0031】
図6は、前記した手段を利用して電圧源の出力電圧値を制御するように構成した例を説明するものであり、これはパッシブマトリクス型表示パネルの駆動装置に採用した場合を示している。このパッシブマトリクス駆動方式におけるEL素子のドライブ方法には、陰極線走査・陽極線ドライブ、および陽極線走査・陰極線ドライブの2つの方法があるが、図6に示された構成は前者の陰極線走査・陽極線ドライブの形態を示している。
【0032】
すなわち、n本の給電線としての陽極線A1〜Anが縦方向(列方向)に配列され、m本の走査線としての陰極線K1〜Kmが横方向(行方向)に配列され、各々の交差した部分(計n×m箇所)に、ダイオードのシンボルマークで示した有機EL素子E11〜Enmが配置されて、表示パネル1を構成している。
【0033】
そして、画素を構成する各EL素子E11〜Enmは、縦方向に沿う陽極線A1〜Anと横方向に沿う陰極線K1〜Kmとの各交点位置に対応して一端(EL素子の等価ダイオードにおけるアノード端子)が陽極線に、他端(EL素子の等価ダイオードにおけるカソード端子)が陰極線に接続されている。さらに、各陽極線A1〜Anはデータドライバとしての陽極線ドライブ回路2に接続され、各陰極線K1〜Kmは同じく走査ドライバとしての陰極線走査回路3に接続されてそれぞれ駆動される。
【0034】
前記陽極線ドライブ回路2には、後述する電圧源としてのDC−DCコンバータにおける昇圧回路4よりもたらされる出力電圧VHを利用して動作する定電流源I1〜InおよびドライブスイッチSa1〜Sanが備えられており、ドライブスイッチSa1〜Sanが、前記定電流源I1〜In側に接続されることにより、定電流源I1〜Inからの電流が、陰極線に対応して配置された個々のEL素子E11〜Enmに対して供給されるように作用する。また、前記ドライブスイッチSa1〜Sanは、定電流源I1〜Inからの電流を個々のEL素子に供給しない場合には、前記各陽極線を基準電位点としてのグランド電位GNDに接続できるように構成されている。
【0035】
また、前記陰極線走査回路3には、各陰極線K1〜Kmに対応して走査スイッチSk1〜Skmが備えられ、非走査選択電位として機能するクロストーク発光を防止するための後述する逆バイアス電圧生成回路5からの逆バイアス電圧VMまたは走査選択電位として機能するグランド電位のうちのいずれか一方を、対応する陰極線に接続するように作用する。これにより、陰極線を所定の周期で基準電位点(グランド電位)に設定しながら、所望の陽極線A1〜Anに定電流源I1〜Inを接続することにより、前記各EL素子を選択的に発光させるように作用する。
【0036】
一方、前記した電圧源として機能するDC−DCコンバータは、図6に示す例においては昇圧回路4としてPWM(パルス幅変調)制御を利用し、直流の出力電圧VHを生成するように構成されている。このDC−DCコンバータは、昇圧回路4の一部を構成するスイッチングレギュレータ回路6から出力されるPWM波が、スイッチング素子としてのMOS型パワーFETQ1を所定のデューティーサイクルでオン制御するように構成されている。
【0037】
すなわち、パワーFETQ1のオン動作によって、一次側のDC電圧源B1からの電力エネルギーがインダクタL1に蓄積され、パワーFETQ1のオフ動作に伴い、前記インダクタL1に蓄積された電力エネルギーは、ダイオードD1を介してコンデンサC1に蓄積される。そして、前記パワーFETQ1のオン・オフ動作の繰り返しにより、昇圧されたDC出力をコンデンサC1の端子電圧として得ることができる。
【0038】
前記DC出力電圧は、抵抗素子R11およびpnp型トランジスタQ2と、抵抗素子R12によって分圧され、前記したスイッチングレギュレータ回路6における誤差増幅器7に供給されて、誤差増幅器7において基準電圧Vrefと比較される。この比較出力(誤差出力)がPWM回路8に供給され、発振器9からもたらされる信号波のデューティを制御することで、前記出力電圧を所定の駆動電圧VHに保持するようにフィードバック制御される。
【0039】
したがって、前記したDC−DCコンバータによる出力電圧VHは、前記トランジスタQ2のエミッタ・コレクタ電極間の電気抵抗をRQ2とした場合、次の式1のように表すことができる。すなわち、コンバータの出力電圧VHはトランジスタQ2のエミッタ・コレクタ電極間の電気抵抗に依存して制御されることになる。
VH=Vref×〔(R11+RQ2+R12)/R12〕 ……(式1)
【0040】
一方、前記したクロストーク発光を防止するために利用される逆バイアス電圧生成回路5は、前記出力電圧VHを分圧する分圧回路により構成されている。すなわち、この分圧回路は、抵抗素子R13,R14およびエミッタフォロアとして機能するnpnトランジスタQ3とエミッタ抵抗R15とにより構成されており、前記トランジスタQ3のエミッタにおいて逆バイアス電圧VMを得るようにしている。
【0041】
したがって、前記トランジスタQ3におけるベース・エミッタ間電圧をVbeとして表せば、この分圧回路により得られる逆バイアス電圧VMは、次の式2ように表すことができ、前記逆バイアス電圧VMはコンバータの出力電圧VHの値に依存することになる。
VM=VH×〔R14/(R13+R14)〕−Vbe ……(式2)
【0042】
図6に示す実施の形態においては、CPU等を含む発光制御回路11に対して映像信号(映像情報)が供給され、発光制御回路11よりコントロールバスを介して前記した陽極線ドライブ回路2および陰極線走査回路3に対して前記映像信号に基づく制御信号が供給される。これにより前記映像信号に基づいて陰極走査線を所定の周期でグランド電位(走査選択電位)に設定しながら所望の陽極線に対して定電流源I1〜Inが接続される。したがって、前記各EL素子は選択的に発光し、表示パネル1上に前記映像信号に基づく画像が表示される。
【0043】
なお、図6に示す状態は、第2の陰極線K2がグランド電位GNDに設定されて走査状態になされ、この時、非走査状態の陰極線K1,K3〜Kmには、非走査選択電位である前記した逆バイアス電圧生成回路5からの逆バイアス電圧VMが印加される。したがって、ドライブされている陽極線と走査選択がなされていない陰極線との交点に接続された各EL素子がクロストーク発光するのが防止されるように作用する。
【0044】
一方、図6に示す実施の形態においては、表示パネル1における一部の給電線、すなわち第nの陽極線Anより当該陽極線の電位を引き出すことができるように構成されている。そして図6に示す構成においては逆流防止用ダイオードD2を介して、第nの陽極線Anにおける電位がサンプルホールド回路12に供給されるように構成されている。
【0045】
なお、前記サンプルホールド回路12によって得る電圧は、後で詳細に説明するようにEL素子の発光駆動電流Ifに比較して、その値が小さな測定電流Isを前記EL素子に供給した時に生ずる順方向電圧値Vsをホールドするものである。したがって、前記した逆流防止用ダイオードD2の閾値電圧等の影響を免れるためには、ダイオードD2に代えて同期検波回路を利用することが望ましい。
【0046】
前記サンプルホールド回路12によってホールドされた電圧は、A/Dコンバータ回路13においてデジタルデータに変換され、発光制御回路11に供給されるように構成されている。また発光制御回路11は、前記デジタルデータに基づいて、データテーブル14より、EL素子に発光駆動電流Ifを供給した場合に生ずる順方向電圧Vfに相当する出力電圧制御データを読み出すことができるように構成されており、データテーブル14より読み出された出力電圧制御データは、D/Aコンバータ回路15によってアナログ値に変換されて、前記したDC−DCコンバータを構成するトランジスタQ2のベース電極に供給されるように構成されている。
【0047】
図7は、図6に示す陽極線ドライブ回路2のより具体的な回路構成を示したものであり、この図7に示す構成においては定電流源より各給電線としての陽極線A1〜Anに供給される電流が、EL素子を発光駆動させるための発光駆動電流Ifと、その値が小さな測定電流Isとに切り換えて出力できる切り換え手段を構成している。すなわち、図7に示す構成においては、前記した発光制御回路11より可変電圧源21で示された正極端子に制御データ(Vdata)が供給され、これはオペアンプ22の非反転入力端に入力される。
【0048】
そして、オペアンプ22の出力端はnpn型トランジスタQ19のベース電極に接続されており、前記トランジスタQ19のエミッタ電極はオペアンプ22の反転入力端に接続されると共に、抵抗R19を介してグランド電位GNDに接続されている。すなわち、前記オペアンプ22とトランジスタQ19とは、電圧/電流変換手段を構成しており、前記発光制御回路11からの制御データ(Vdata)に応じてトランジスタQ19に流れる電流量を可変させるように動作する。
【0049】
一方、前記したDC/DCコンバータからの出力電圧ラインVHと、前記トランジスタQ19のコレクタ電極との間には、抵抗R20を介在させてpnp型トランジスタQ20のエミッタおよびコレクタ電極が接続されている。そして、前記トランジスタQ20のベースとコレクタ電極間が短絡されており、同じくpnp型トランジスタQ21〜Q2nの各ベース電極には前記トランジスタQ20のベース電位が与えられるように構成されている。また、前記各トランジスタQ21〜Q2nのエミッタ電極は、それぞれ抵抗R21〜R2nを介して前記電圧ラインVHに接続されている。これによりトランジスタQ20を制御側電流源とし、各トランジスタQ21〜Q2nを被制御側電流源とするカレントミラー回路を構成している。
【0050】
したがって、制御側電流源として機能するトランジスタQ20のコレクタ電流を、前記した可変電圧源21で示す制御データ(Vdata)により可変制御することにより、各トランジスタQ21〜Q2nにおけるコレクタ電流は、それぞれ可変制御されることになる。要するに前記各トランジスタQ21〜Q2nは、図6に示す定電流源I1〜Inとして機能し、各トランジスタQ21〜Q2nにおけるコレクタ電流は、ドライブスイッチSa1〜Sanを介して給電線としての各陽極線A1〜Anにそれぞれ供給されるように動作する。
【0051】
図6および図7に示した構成において、映像信号に基づいて表示パネル1を発光制御させる場合においては、発光制御回路11は、より高い電圧レベルの制御データ(Vdata)をオペアンプ22に与える。これにより各陽極線A1〜AnにはEL素子を発光駆動することができる発光駆動電流Ifが供給される。
【0052】
一方、発光制御回路11は例えば1フレーム期間ごとに表示パネル1に配列されたEL素子の順方向電圧を測定する動作を実行する。この場合においては、発光制御回路11は、低い電圧レベルの制御データ(Vdata)をオペアンプ22に与える。これにより各陽極線A1〜Anには前記したカレントミラー回路の作用により前記発光駆動電流Ifに比較して、その値が小さな測定電流Isが供給される。したがってこの時、図6に示したカレントミラー回路は、測定電流供給手段を構成することになる。
【0053】
この場合、図6に示すように第2の走査線K2が走査状態になされており、したがって前記したサンプルホールド回路12においては、第2の走査線K2と第nの給電線(陽極線)Anとの間に接続されたEL素子En2の順方向電圧Vsを取得することができる。したがって、前記サンプルホールド回路12は、測定電流IsをEL素子に供給した時の当該EL素子の順方向電圧値Vsを得る順方向電圧測定手段として機能する。
【0054】
前記サンプルホールド回路12においてホールドされた前記順方向電圧値Vsは、A/Dコンバータ13においてデジタルデータに変換され、発光制御回路11に供給される。発光制御回路11においては、前記順方向電圧Vsに対応したデジタルデータに基づいて、EL素子に発光駆動電流Ifを供給した場合の当該EL素子の順方向電圧値Vfに相当する出力電圧制御データをデータテーブル14より読み出すように動作する。すなわち、これは測定電流Isを発光素子に供給した時に生ずる順方向電圧Vsに基づいて、EL素子に発光駆動電流Ifを供給した場合の当該EL素子の順方向電圧値Vfを推計することになる。
【0055】
この場合、カラー表示パネルの駆動装置を対象とする場合においては、前記データテーブル14には、R,G,B各色毎に、前記順方向電圧Vsに対応した発光駆動電流Ifを供給した場合の順方向電圧Vfに相当する出力電圧制御データを引き出すことができるように構築されている。
【0056】
前記データテーブル14より引き出された順方向電圧Vfに対応する出力電圧制御データは、D/Aコンバータ回路15によってアナログ値に変換されて、前記したDC−DCコンバータを構成するトランジスタQ2のベース電極に供給される。これにより、トランジスタQ2のエミッタとコレクタ電極間の電気抵抗が制御され、コンバータの出力電圧値VHは、すでに示した式1に基づいて制御される。すなわち、前記DC−DCコンバータとそのフィードバック用の分圧回路に挿入された前記トランジスタQ2は、電源電圧制御手段として機能することになる。
【0057】
図6および図7に示す構成によると、推計した順方向電圧値Vfを利用して、電圧源の出力電圧値VHを制御するように動作するので、電圧源としてのDC−DCコンバータからはEL素子の温度依存性、および経時変化に対応した常に適切な値の出力電圧VHをもたらすことができる。
【0058】
これにより、定電流源I1〜In等において大きな電力損失を伴うことなく、一定の表示品質を確保することができる発光表示パネルを提供することができる。しかも、発光表示に用いられるEL素子を利用して、発光駆動電流Ifよりも小さな値の測定電流Isを供給することで順方向電圧値Vfを求めるようになされるので、順方向電圧の測定に伴うEL素子の不規則な発光動作が、一般的な明るい環境下においてエンドユーザに認知されるという問題も解消することができる。
【0059】
ところで、前記した構成の発光駆動装置を含む表示パネルユニットにおいては、夜間などの暗い環境下において利用した場合においては、先に説明したとおり、小さな値の測定電流により素子が不規則に微発光状態にされてこの現象が知覚される場合が生じ、ユーザに対して故障もしくは不良であるかのような疑念を抱かせる結果を招来させる。このような現象は、表示パネルに表示される映像状態が全体的に輝度が低い(暗い)場合において、特に知覚され易いことが判明している。
【0060】
そこで、前記した実施の形態においては、以下に説明するように特に夜間などにおける暗い環境下において素子の微発光状態が知覚されないような表示パネルの制御形態が採用されている。その制御形態は、測定対象となる素子に小さな値の測定電流を供給する順方向電圧測定工程を実行する直前または直後に、もしくはその直前および直後の各々において、表示パネルの画面全体を瞬時において同一輝度に設定する同一輝度表示工程を実行するように制御するものである。
【0061】
すなわち、順方向電圧測定工程の前後に、例えば画面全体を微発光させるような同一輝度表示工程を実行した場合には、順方向電圧測定工程に伴う素子の微発光が、いわばマスキングされて目立たなくなるような感覚を受け、暗い環境において順方向電圧測定工程による不規則な微発光が知覚される度合いが遥かに減少されることを本件の発明者らは知見している。
【0062】
また、前記同一輝度表示工程として、画面全体を瞬間において消灯させるように制御しても、同様に順方向電圧測定工程に伴う素子の微発光を、いわばマスキングして目立たなくするような作用がもたらされることを確認している。
【0063】
図8は、前記した同一輝度表示工程を実行する場合と実行しない場合において、順方向電圧測定工程に伴う素子の微発光が知覚される度合いを模式的に説明するものである。図8〔A〕は、同一輝度表示工程が実行されない場合を説明するものであり、(a)は1フレーム前の表示画面の最後の状態、すなわち最終走査ラインが走査されている状態を模式的に示している。次の1フレーム期間の開始時において、(c)に示すように順方向電圧測定工程が実行され、これに伴い測定対象とされる素子は微発光の状態にされる。この(c)においては白抜き部分が微発光されたことを示している。続いて、(d)に示すように次の1フレーム期間の最初の走査ラインが走査される。
【0064】
前記した図8〔A〕に示す画面の遷移によると暗い環境下においては、結果として(e)に模式的に示すように順方向電圧測定工程に伴う素子の微発光が知覚されるという現象が発生する。
【0065】
図8〔B〕は、同一輝度表示工程が実行される場合を説明するものであり、この(a),(c),(d)は、すでに説明した図8〔A〕の(a),(c),(d)と同じ画面状況を示している。図8〔B〕に示す画面遷移は、(c)で示す順方向電圧測定工程の直前に、(b)で示した同一輝度表示工程が実行される。この同一輝度表示工程は、一例として画面全体が微発光点灯になされるように制御される。
【0066】
このように同一輝度表示工程を実行することで、(c)で示す順方向電圧測定工程においてなされる測定対象の素子の微発光は、視覚的にマスキングの作用を受けた状態となり、結果として図8〔B〕の(e)に模式的に示すように順方向電圧測定工程の実行に伴う素子の微発光が知覚される度合いは減少する。
【0067】
図8〔C〕は、同一輝度表示工程が実行される場合の他の例を説明するものであり、この(a),(c),(d)は、すでに説明した図8〔A〕の(a),(c),(d)と同じ画面状況を示している。そして、図8〔C〕の(b)に模式的に示す同一輝度表示工程においては、全発光素子が消灯状態になされる。このような同一輝度表示工程を実行することによっても、結果として図8〔C〕の(e)に模式的に示したように順方向電圧測定工程の実行に伴う素子の微発光が知覚される度合いは減少する。
【0068】
図9は、前記した同一輝度表示工程を含むこの発明にかかる表示パネルの駆動方法を説明する制御ルーチンを示すものである。この制御ルーチンは例えば動作電源のオンによる表示開始でスタートされ、まずステップS1において、同一輝度表示工程が実行される。
【0069】
これは、すでに説明したとおり、表示パネルに配列された全部の発光素子を消灯状態にするかもしくは微弱点灯状態にされる。表示パネルに配列された全部の発光素子を微弱点灯状態にするには、図10に示したようにドライブスイッチSa1〜Sanを全て定電流源I1〜In側に接続し、走査スイッチSk1〜Skmを全てグランド側に接続するように制御される。この時、図7に基づいて説明したとおり、発光制御回路より低い電圧レベルの制御データ(Vdata)をオペアンプ22に与え、これにより各陽極線A1〜Anに対してその値が小さな電流を供給するようにされる。
【0070】
この同一輝度表示工程において、各発光素子としてのEL素子に供給される微弱点灯のための電流は、EL素子が予め定められた輝度で点灯するように設定されている。例えば前記表示パネルが自動車のインパネなどに配置される場合においては、好ましくは夜間等の暗い環境においては約1.0cd以下となるように、また昼間等の明るい環境においては約3.0cd以下となるような電流値が供給されるように設定される。
【0071】
このように環境の明るさに応じて、微弱点灯における電流値を制御する場合においては、特に図には示していないが、外光の明るさを検知するフォトトランジスタ等の出力を利用して、図7に示すオペアンプ22に供給する制御データ(Vdata)のレベルを制御する構成とすることが考えられる。
【0072】
なお、図9に示すステップS1においてなされる同一輝度表示工程において、表示パネルにおける全部のEL素子を消灯状態にする場合においては、図11に示したようにドライブスイッチSa1〜Sanおよび走査スイッチSk1〜Skmを全てグランド側に接続するように制御される。これにより表示パネルに配列された各EL素子の両端電圧はゼロになされ、全てのEL素子は消灯状態にされる。
【0073】
図9に戻り、同一輝度表示工程の実行後においてはステップS2に移り、順方向電圧測定工程が実行される。これはすでに説明したとおり、測定対象のEL素子に対して測定電流Isを供給し、この時の順方向電圧Vsを得るものである。図12はこの時の状態を示すものであり、例えばドライブスイッチSanのみが定電流源In側に接続され、走査スイッチSk2のみがグランド側に接続される。
【0074】
この時、図7に基づいて説明したとおり、発光制御回路より低い電圧レベルの制御データ(Vdata)がオペアンプ22に与えられ、これにより各陽極線A1〜Anに対してその値が小さな測定電流Isを供給するようにされる。したがって、表示パネル1に配列されたEL素子En2を測定対象とした順方向電圧Vsを得ることができる。
【0075】
前記ステップS2において、測定電流Isによる順方向電圧Vsを得た場合には、ステップS3に示すように検出された順方向電圧Vsから、EL素子に発光駆動電流Ifを供給した場合の順方向電圧値Vfを推計する。そしてステップS4に示すように推計した順方向電圧値Vfに基づいて、電圧源の出力電圧値VH(逆バイアス電圧値VM)を制御する動作がなされる。この動作はすでに図6に基づいて説明したとおりである。
【0076】
そしてステップS5においては、推計したVfに基づいて電圧源の出力電圧値VH(逆バイアス電圧値VM)が設定されたか否かが監視される。すなわち、ステップS5からステップS4にリターンする動作が繰り返され、電圧源の出力電圧値VH(逆バイアス電圧値VM)が推計したVfに基づくものに設定された場合に、ステップS6に移る。
【0077】
ステップS6においては映像信号に基づく走査を実行する。すなわち、1フレームにおける表示動作を実行することになる。そして、ステップS7においては、表示パネルの走査状態が監視され、1フレーム期間の最後であるか否かが判定される。ここで1フレーム期間の最後ではない(No)と判定される場合にはステップS6に戻り引き続き走査を実行する。そして、1フレーム期間の最後である(Yes)と判定された場合には、ステップ8に移る。
【0078】
ステップS8においては表示動作が終了であるか否かが監視される。すなわち、これは動作電源がオフにされたか否かが監視されており、表示動作が終了ではない(No)と判定された場合には、前記したステップS1に戻り同様の動作が継続され、表示動作が終了である(Yes)と判定された場合に図9に示す動作ルーチンは終了する。
【0079】
なお、前記した制御ルーチンにおいては、例えば図12に基づいて説明したとおり、1つのEL素子を測定対象としてその順方向電圧Vsを引き出すようになされる。したがって、前記した順方向電圧の測定対象とするEL素子は、順方向電圧測定工程ごとに異なった素子を選択するように制御されることが望ましい。例えば順方向電圧測定工程ごとに測定対象とする素子をランダムに選定することで、順方向電圧測定工程の実行に伴う素子の微発光をより目立たなくさせる効果を得ることができる。また、特定な素子のみを測定対象とした場合のように、特定の素子の劣化を進行させることを防止させることができる。
【0080】
図13は、前記した同一輝度表示工程を含む他の制御ルーチンを示すものである。なお、図13においてはすでに説明した図9に示す各ステップと同一の制御を実行するステップは同一のステップ符号で示しており、したがってその説明は省略する。この図13に示す制御ルーチンにおいては、同一輝度表示工程がステップS9で示すように、順方向電圧測定工程S2の直後においても再度実行されるようにプログラミングされている。
【0081】
このように、同一輝度表示工程を順方向電圧測定工程S2の直前および直後の各々において実行することで、順方向電圧測定工程の実行に伴う素子の微発光をマスキングさせる効果を高めることができる。なお、前記した同一輝度表示工程は順方向電圧測定工程S2の直後のみにおいて実行するようにしても、図9に示した制御ルーチンと同様の効果を得ることができる。
【0082】
また、図9および図13に示す制御ルーチンにおいては、同一輝度表示工程と順方向電圧測定工程とは1フレーム期間の最後、すなわち次の1フレーム期間の最初のタイミングにおいて実行されるようにしているが、これは1フレーム期間の途中において実行されてもよい。
【0083】
ところで、表示パネルに表示される映像状態が全体的に輝度が低い(暗い)場合において、前記した順方向電圧測定工程の実行による素子の不規則な微発光が目立つことはすでに説明したとおりである。したがって、次のフレーム期間において表示パネルに表示される映像の表示輝度が所定値よりも低い(暗い)か否かを判定し、前記判定結果によって前記同一輝度表示工程、順方向電圧測定工程を実行するようなプログラムになされていることが望まれる。
【0084】
これを実現させるために、図14に示す制御ルーチンにおいては、図9に示す制御ルーチンに対して新たにステップS10が追加されている。なお図14においては、すでに説明した図9に示す各ステップと同一の制御を実行するステップは同一のステップ符号で示しており、したがってその説明は省略する。この図14に示す制御ルーチンにおいては、ステップS10に示すように次のフレーム期間における映像の表示輝度が所定値よりも低い(暗い)か否かを判定する判定ステップが設けられている。
【0085】
そして、前記ステップS10において所定値よりも低くはない(No)と判定される場合には、ステップS1に進み、したがって図9に基づいて説明した例と同様の制御ルーチンが実行される。また前記ステップS10において所定値よりも低い(Yes)と判定される場合には、ステップS1には進まずに、ステップS6に進むように制御される。これにより、その1フレーム期間においては、前記ステップS1〜S5は実行されずにステップS6に移り、映像信号に基づく走査、すなわち次の1フレームにおける表示動作を実行することになる。
【0086】
前記ステップS10において、映像の表示輝度が低いか否かを判定する閾値(前記所定値)としては、例えば画面輝度が30cd以下の場合において、ステップS1〜S5をバイパスするように制御するようになされる。これは夜間などの暗い環境下において、しかも画面輝度が30cd以下となる条件下において、順方向電圧測定工程による不規則な微発光が知覚されることを、発明者らは実験および測定により確認している。
【0087】
前記した画面輝度が30cd以下であるか否かについては、次のフレーム期間における映像信号が画素単位でフレームメモリに書き込まれるので、このメモリに書き込まれたデータを判定することで画面輝度を推測することができる。
【0088】
なお、前記した実施の形態においては、すでに説明したとおり1つのEL素子を測定対象としてその順方向電圧Vsを引き出すように構成されている。この場合、測定対象とされるEL素子に障害がある場合においては、その順方向電圧Vsに基づいて駆動電圧VHが制御されるために、駆動電圧VHの値が極端に昇圧されるなどの危険な問題を含むことになる。
【0089】
そこで、図15に示すようにステップS11およびS12に示す制御ルーチンを、ステップS2で示す順方向電圧測定工程の後に加えることで、前記した問題を解消させることができる。すなわち、すでに説明した図9、図13、図14に示すステップS2の後に、図15に示すステップS11のルーチンが実行される。このステップS11においては測定した順方向電圧Vsが所定の範囲内であるか否かが検証され、この順方向電圧Vsが所定の範囲内である(Yes)と判定される場合においては、図9、図13、図14に示すステップS3(およびS9)に移行する。
【0090】
一方、ステップS11において順方向電圧Vsが所定の範囲内ではない(No)と判定された場合には、順方向電圧Vsの測定対象を他のEL素子に変えて、再びステップS2に移る動作が実行される。すなわち、測定対象となるEL素子において得られる前記順方向電圧値Vsが、所定の範囲内となる結果が得られるまで、前記順方向電圧測定工程を繰り返し実行することになる。なお、前記した順方向電圧Vsが所定の範囲内であるか否かを判定する閾値は、EL素子のばらつきおよび経時変化等の範囲を大きく外れているか否かの判定基準に沿って決定される。
【0091】
また、前記した実施の形態においては、表示パネルに配列された複数の前記EL素子のそれぞれに前記測定用電流Isを供給して順方向電圧Vsを得るように構成することもできる。この場合においては、一つの好ましい態様においては前記EL素子から得られた各順方向電圧値Vsの平均値に基づいて、前記発光駆動電流IfをEL素子に供給した場合の当該EL素子の順方向電圧値Vfを推計するようになされる。
【0092】
前記したように複数のEL素子から得られた各順方向電圧値Vsの平均値をとる場合においても、測定対象とされるEL素子のいずれかに障害がある場合においては、駆動電圧VHの値に影響を及ぼすことになる。それ故、この様な問題を回避するために図16に示すようにステップS21およびS22に示す制御ルーチンを、ステップS2に示す順方向電圧測定工程の後に加えることで、前記した問題を解消させることができる。
【0093】
すなわち、図16に示すステップS21およびS22は、すでに説明した図15に示すステップS11およびS12と同様な動作を実行させるものであり、ステップS21においては、複数のEL素子を測定対象とし、測定した各順方向電圧Vsの全てが所定の範囲内であるか否かを判定するようにしている。
【0094】
そして、ステップS22においては、順方向電圧Vsの測定対象を他のEL素子に変える操作が実行されるが、この場合においては、順方向電圧Vsが所定の範囲外のEL素子のみを外して、その測定対象を他のEL素子に変えることもでき、また複数の全ての測定対象のEL素子を他のEL素子に変えることもできる。
【0095】
したがって、図16に示す制御ルーチンを採用した場合においても、測定対象となる各EL素子において得られる前記順方向電圧値Vsのいずれもが、所定の範囲内となる結果が得られるまで、前記順方向電圧測定工程を繰り返し実行することになる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】有機EL素子の等価回路図である。
【図2】有機EL素子の諸特性を示した静特性図である。
【図3】この発明にかかる駆動方法を実現させる基本概念を説明する発光素子の特性図である。
【図4】同じく経時変化、温度依存性を含む基本概念を説明する特性図である。
【図5】同じく発光色が異なる発光素子を用いる場合の基本概念を説明する特性図である。
【図6】この発明にかかる駆動方法を実現させる実施の形態を示した回路構成図である。
【図7】図6における陽極線ドライブ回路の具体例を説明する回路構成図である。
【図8】同一輝度表示工程を実行する場合と実行しない場合において素子の微発光が知覚される度合いを説明する模式図である。
【図9】この発明にかかる駆動方法における第1の制御態様を説明するフロー図である。
【図10】図9に示すフローで実行される同一輝度表示工程のうち、微弱点灯状態を実現する制御状態を示す回路構成図である。
【図11】同じく同一輝度表示工程のうち、全部の発光素子を消灯状態にする制御状態を示す回路構成図である。
【図12】同じく順方向電圧測定工程を実現する制御状態を示す回路構成図である。
【図13】この発明にかかる駆動方法における第2の制御態様を説明するフロー図である。
【図14】同じく第3の制御態様を説明するフロー図である。
【図15】同じく第4の制御態様の一部を説明するフロー図である。
【図16】同じく第5の制御態様の一部を説明するフロー図である。
【符号の説明】
【0097】
1 発光表示パネル
2 陽極線ドライブ回路(データドライバ)
3 陰極線走査回路(走査ドライバ)
4 電圧源(DC−DCコンバータ)
5 逆バイアス電圧生成回路
11 発光制御回路
12 サンプルホールド回路
13 A/Dコンバータ回路
14 データテーブル
15 D/Aコンバータ回路
21 可変電圧源
22 オペアンプ
E11〜Enm 発光素子(有機EL素子)
Sa1〜San ドライブスイッチ
Sk1〜Skm 走査スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子が具備され、当該発光素子に対して映像情報に基づく発光駆動電流を選択的に供給することで、前記映像情報を表示させる発光表示パネルの駆動方法であって、
前記発光素子を発光表示させる前記発光駆動電流Ifに比較して、その値が小さな測定電流Isを前記発光素子に供給して当該発光素子の順方向電圧値Vsを得る順方向電圧測定工程を有し、
前記順方向電圧測定工程は、1フレーム期間内のいずれかの期間で実行され、
前記順方向電圧測定工程において得られる順方向電圧値Vsに基づいて、前記発光駆動電流Ifを発光素子に供給した場合の当該発光素子の順方向電圧値Vfを推計し、推計した前記順方向電圧値Vfに基づいて、前記発光素子に発光駆動電流を与える電圧源の出力電圧値を制御することを特徴とする発光表示パネルの駆動方法。
【請求項2】
複数の前記発光素子が同一輝度の表示動作を行う同一輝度表示工程をさらに有し、前記工程は1フレーム期間内のいずれかの期間で実行されることを特徴とする請求項1に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項3】
複数の発光素子が具備され、当該発光素子に対して映像情報に基づく発光駆動電流を選択的に供給することで、前記映像情報を表示させる発光表示パネルの駆動方法であって、
前記発光素子を発光表示させる前記発光駆動電流Ifに比較して、その値が小さな測定電流Isを前記発光素子に供給して当該発光素子の順方向電圧値Vsを得る順方向電圧測定工程と、
複数の前記発光素子が同一輝度の表示動作を行う同一輝度表示工程と、
次のフレームに表示する画面の表示情報に基づいて前記順方向電圧測定工程と、前記同一輝度表示工程のうちの少なくとも1つの工程を次のフレーム期間内で実行するか否かの判定を行う判定工程を有し、
前記順方向電圧測定工程と前記同一輝度表示工程は、前記判定工程での判定結果に基づいて実行されることを特徴とする発光表示パネルの駆動方法。
【請求項4】
前記同一輝度表示工程は、前記順方向電圧測定工程の前に実行されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項5】
前記同一輝度表示工程は、前記順方向電圧測定工程の後に実行されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項6】
前記同一輝度表示工程は、前記順方向電圧測定工程の前と後の各々において実行されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項7】
前記同一輝度表示工程においては、複数の前記発光素子が消灯するように駆動制御されることを特徴とする請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項8】
前記同一輝度表示工程においては、複数の前記発光素子が予め定められた輝度で点灯するように駆動制御されることを特徴とする請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項9】
前記順方向電圧測定工程と前記同一輝度表示工程は、1フレーム期間の最初に実行されることを特徴とする請求項2ないし請求項8のいずれか1項に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項10】
前記順方向電圧測定工程と前記同一輝度表示工程は、1フレーム期間の途中において実行されることを特徴とする請求項2ないし請求項8のいずれか1項に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項11】
前記順方向電圧測定工程においては、表示パネルに配列されたいずれか1つの前記発光素子に前記測定用電流Isを供給して順方向電圧Vsを得ることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項12】
前記順方向電圧の測定対象となるいずれか1つの前記発光素子は、順方向電圧測定工程ごとに異なった素子を選択することを特徴とする請求項11に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項13】
前記順方向電圧測定工程において得られた前記順方向電圧値Vsが所定の範囲内であるか否かを判定し、所定の範囲内ではないと判定された場合には、他の発光素子を対象とした順方向電圧測定工程を実行し、測定対象となる発光素子において得られる前記順方向電圧値Vsが、所定の範囲内となる結果が得られるまで、前記順方向電圧測定工程を繰り返し実行することを特徴とする請求項11に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項14】
前記順方向電圧測定工程においては、表示パネルに配列された複数の前記発光素子のそれぞれに前記測定用電流Isを供給して順方向電圧Vsを得ることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項15】
複数の前記発光素子から得られた各順方向電圧値Vsの平均値に基づいて、前記発光駆動電流Ifを発光素子に供給した場合の当該発光素子の順方向電圧値Vfを推計することを特徴とする請求項14に記載された発光表示パネルの駆動方法。
【請求項16】
前記順方向電圧測定工程において得られた前記順方向電圧値Vsの1つ以上が所定の範囲外である場合には、この時の順方向電圧測定工程における測定対象外の他の発光素子を対象とした順方向電圧測定工程を実行し、測定対象となる各発光素子において得られる前記順方向電圧値Vsのいずれもが、所定の範囲内となる結果が得られるまで、前記順方向電圧測定工程を繰り返し実行することを特徴とする請求項14に記載された発光表示パネルの駆動方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2006−284859(P2006−284859A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103990(P2005−103990)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
【Fターム(参考)】