説明

発光装置、照明装置および車両用前照灯

【課題】小型で高輝度かつ高光束の光源であって、長期間使用可能な光源として機能することができる発光装置および照明装置を提供する。
【解決手段】ヘッドランプ1は、レーザ光を出射する半導体レーザ2と、半導体レーザ2が出射したレーザ光を受けて発光する発光部5とを備えている。発光部5は、耐熱性蛍光体が耐熱性透明封止材の中に分散されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度光源として機能する発光装置および当該発光装置を備えた照明装置、車両用前照灯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、励起光源として発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)や半導体レーザ(LD;Laser Diode)等の半導体発光素子を用い、これらの励起光源から生じた励起光を、蛍光体を含む発光部に照射することによって発生する蛍光を照明光として用いる発光装置の研究が盛んになってきている。このような発光部に関する技術の例が特許文献1〜5に開示されている。
【0003】
特許文献1には、ケース用部材をセラミックで形成し、蛍光体を低融点ガラスに分散し、充填部材を低融点ガラスにした窒化ガリウム系LEDが開示されている。この発光装置では、上述のように各部材を無機素材化することにより、短波長の光による当該部材の劣化を抑制し、長寿命化を図っている。
【0004】
特許文献2には、蛍光材料としての蛍光ガラスを低融点ガラスに分散させることで、水分による蛍光材料の劣化を防止する発光デバイスが開示されている。低融点ガラスとしてNb系、B系、P−F系、P−ZnO系、SiO−B−La系、SiO−B系が例示されている。
【0005】
特許文献3には、蛍光体が分散された低融点ガラスからなる蛍光体分散部材を、透明な樹脂と発光ダイオードとの間に備える発光ダイオードランプが開示されている。発光ダイオードから出射される紫外線が蛍光体分散部材によって低減されるため、紫外線による樹脂の劣化が抑制され、発光ダイオードランプの長寿命化を図ることができる。低融点ガラスとしてPbO−SiO−B系、PbO−P−SnF系が挙げられている。
【0006】
特許文献4には、ケイ酸塩ガラス中に蛍光体を分散させた波長変換部材を備える発光装置が開示されている。ケイ酸塩ガラスとして、特にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硼酸、燐酸、亜鉛酸化物のいずれか一種以上を含有するものが好ましいことが記載されている。蛍光体とガラス粉末とを混合し、加熱プレス成形により波長変換部材を得ることができると記載されている。
【0007】
特許文献5には、蛍光体を封止する母材に適したガラスとして、Al,SiO,ZrO、ZnO,ZnSe、AlN,GaNが開示されている。また、蛍光体としては、Cuで賦活された硫化カドミ亜鉛やセリウムで賦活されたYAG系蛍光体、LAG系蛍光体が挙げられている。その他、YAG、LAG、BAM、BAM:Mn、CCA、SCA、SCESN、SESN、CESN、CASBN、CaAlSiN:Euを使用できると記載されている。また、半導体レーザ素子を覆うキャップと蛍光体とを接合するために、低融点ガラス(SnO−P系、CuO−P系、Bi系)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−200531号公報(2004年7月15日公開)
【特許文献2】特開2004−273798号公報(2004年9月30日公開)
【特許文献3】特開2006−32500号公報(2006年2月2日公開)
【特許文献4】特開2007−324239号公報(2007年12月13日公開)
【特許文献5】特開2009−105125号公報(2009年5月14日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発光部に含まれる蛍光体を励起するための光源として、一般的な発光ダイオードではなく半導体レーザを用いることで、励起光を効率良く狭い領域に集光することができるため、より輝度の高い光源を実現することができる。しかしながら、上記特許文献の発明では、ハイパワーのレーザ光で発光部を励起することを想定しておらず、そのようなレーザ光を発光部に照射すれば、発光部が劣化してしまうという問題が生じることを本発明の発明者が見出した。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、その目的は、小型で高輝度かつ高光束の光源であって、耐熱性の高い発光部を備える発光装置、および当該発光装置を備える照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る発光装置は、上記の課題を解決するために、レーザ光を出射する半導体レーザと、上記半導体レーザが出射したレーザ光を受けて発光する発光部とを備え、上記発光部は、耐熱性蛍光体が耐熱性透明封止材の中に分散されているものであることを特徴としている。
【0012】
上記の構成によれば、半導体レーザが出射したレーザ光が発光部に照射されると当該発光部が発光する。
【0013】
発光部をハイパワーのレーザ光で励起すると、発光部が激しく劣化することを本発明の発明者は見出した。発光部の劣化は、発光部に含まれる蛍光体そのものの劣化とともに、蛍光体を取り囲む封止材の劣化によって主に引き起こされる。例えば、酸窒化物蛍光体の一例であるサイアロン蛍光体は、レーザ光が照射されると60〜80%の効率で光を発生させるが、残りは熱となって放出される。この熱によって蛍光体および封止材が劣化すると考えられる。
【0014】
上記の構成によれば、発光部は、耐熱性蛍光体を耐熱性透明封止材の中に分散させることによって形成されている。それゆえ、熱による発光部の劣化を防止することができ、その結果、小型で高輝度かつ高光束の光源であって、長期間使用可能な光源として機能する発光装置を実現できる。
【0015】
また、上記耐熱性蛍光体は、少なくとも0℃から560℃までの温度範囲内での熱処理を行っても、当該熱処理後にある温度で測定された上記耐熱性蛍光体の量子効率が、当該熱処理前に上記ある温度で測定された上記量子効率よりも、誤差範囲を超えて低下しないものであることが好ましい。
【0016】
一般的に蛍光体の量子効率は、その周囲の温度(環境温度)が上がると低下し、その後、環境温度が低下すれば回復する。通常、この温度に依存した量子効率の変化(量子効率の温度依存性)は可逆的に起こる。しかし、蛍光体をある温度以上に加熱する(高熱処理と称する)と、量子効率の温度依存性が変化し、高熱処理後の所定温度(例えば室温)での量子効率が、高熱処理前の上記所定温度での量子効率よりも低下することがある。この量子効率の低下は不可逆的なものである。
【0017】
上記の構成によれば、560℃近くまで加熱されても耐熱性蛍光体の量子効率の温度依存性は、ほとんど変化しない。つまり、熱処理後にある温度(例えば、室温)で測定された量子効率は、熱処理前に上記ある温度で測定された量子効率と比較してほとんど低下しない。
【0018】
そのため、耐熱性蛍光体を耐熱性透明封止材の中に封止するなどの目的のために当該耐熱性蛍光体を一時的に高温で加熱した場合でも、耐熱性蛍光体の発光効率がほとんど低下しない。
【0019】
従って、発光部の製造に伴う温度上昇など、周囲の温度上昇により耐熱性蛍光体が劣化することを防止できる。
【0020】
なお、温度変化に対する量子効率の変化が、熱処理前後において、量子効率を測定する温度範囲の全てにわたって全く変化しないことが必要であるわけではなく、特定の温度範囲において測定される量子効率が、熱処理の前後で所定の範囲内の差に収まればよい。または、特定の温度範囲における耐熱性蛍光体の量子効率の温度依存性が、熱処理の前後でほとんど変化しなければよい。上記特定の温度範囲は、当業者によって適宜設定されればよい。
【0021】
また、上記耐熱性蛍光体は、酸窒化物系蛍光体、またはIII−V族化合物半導体からなるナノ粒子蛍光体であることが好ましい。
【0022】
これらの蛍光体は耐熱性に優れているため、耐熱性に優れた発光部を実現できる。
【0023】
また、上記耐熱性透明封止材は、低融点ガラスであり、上記発光部における、上記耐熱性蛍光体と上記耐熱性透明封止材との質量比は、0.5:100以上、20:100以下であることが好ましい。
【0024】
また、上記耐熱性透明封止材は、有機無機ハイブリッドガラスであり、上記発光部における、上記耐熱性蛍光体と上記有機無機ハイブリッドガラスとの質量比は、5.13:200以上、50:200以下であることが好ましい。
【0025】
封止材の材質および蛍光体との混合比を調整することにより、蛍光体の熱による劣化を抑制できることを本発明の発明者が見出した。具体的には、耐熱性透明封止材を低融点ガラスまたは有機無機ハイブリッドガラスとし、上記混合比とすることにより、レーザ光照射に伴う発光部の発熱を抑制し、熱による蛍光体の劣化を抑制することができる。
【0026】
また、上記酸窒化物蛍光体は、Caα−SiAlON(silicon aluminum oxynitride):Ce蛍光体、Caα−SiAlON:Eu蛍光体、β−SiAlON:Eu蛍光体またはCASN:EU蛍光体またはSCASN:Eu蛍光体を含むことが好ましい。
【0027】
これらの酸窒化物系蛍光体は耐熱性に優れているため、耐熱性に優れた発光部を実現できる。
【0028】
また、上記発光部に照射される上記レーザ光の照射密度は、0.1W/mm以上50W/mm以下であることが好ましい。
【0029】
上記の構成により、高輝度を有する照明光を生成でき、特にヘッドランプに好適に適応できる発光装置を実現できる。
【0030】
また、上記発光装置を備える照明装置および上記発光装置を備える車両用前照灯も本発明の技術的範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る発光装置は、以上のように、レーザ光を出射する半導体レーザと、上記半導体レーザが出射したレーザ光を受けて発光する発光部とを備え、上記発光部は、耐熱性蛍光体が耐熱性透明封止材の中に分散されている構成である。
【0032】
それゆえ、発光部の劣化を防止することができ、小型で高輝度かつ高光束の光源であって、長期間使用可能な光源として機能する発光装置を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係るヘッドランプの概略構成を示す図である。
【図2】(a)は、上記ヘッドランプが備える半導体レーザの回路図を模式的に示したものであり、(b)は、上記半導体レーザの基本構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の別の本実施形態に係るヘッドランプの概略構成を示す図である。
【図4】SCASN蛍光体の内部および外部量子効率と熱処理温度との関係を示すグラフである。
【図5】熱処理を施した後の蛍光体の、異なる波長の光の吸収率を示すグラフである。
【図6】本実施形態に係るヘッドランプの概略構成を示す図である。
【図7】蛍光体としてCaα−SiAlON:CeおよびCaα−SiAlON:Euを使用した場合の発光スペクトルを示す図である。
【図8】本発明のさらに別の実施形態に係るヘッドランプの概略構成を示す図である。
【図9】蛍光体としてβ−SiAlON:EuおよびCASN:Euを使用した場合の発光スペクトルを示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るレーザダウンライトが設置された天井の断面図である。
【図11】上記レーザダウンライトの断面図である。
【図12】上記レーザダウンライトの設置方法の変更例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1〜図3に基づいて説明すれば、以下のとおりである。ここでは、本発明の照明装置として、自動車用の走行用前照灯(ハイビーム)の配光特性基準を満たすヘッドランプ(車両用前照灯)1を例に挙げて説明する。ただし、本発明の照明装置は、自動車以外の車両・移動物体(例えば、人間・船舶・航空機・潜水艇・ロケットなど)のヘッドランプとして実現されてもよいし、その他の照明装置として実現されてもよい。その他の照明装置として、例えば、サーチライト、プロジェクター、家庭用照明器具を挙げることができる。
【0035】
<ヘッドランプ1の構成>
まず、本実施形態に係るヘッドランプ1の構成について図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るヘッドランプ1の概略構成を示す図である。同図に示すように、ヘッドランプ1は、半導体レーザ2、非球面レンズ3、導光部4、発光部5、反射鏡6および透明板7を備えている。半導体レーザ2、導光部4および発光部5によって発光装置の基本構造が形成されている。
【0036】
(半導体レーザ2)
半導体レーザ2は、励起光を出射する励起光源として機能するものである。この半導体レーザ2は1つでもよいし、複数設けられてもよい。また、半導体レーザ2として、1つのチップに1つの発光点を有するものを用いてもよいし、複数の発光点を有するものを用いてもよい。本実施形態では、1チップに1つの発光点を有する1つの半導体レーザ2を用いている。
【0037】
半導体レーザ2は、例えば、1チップに1つの発光点(1ストライプ)を有し、405nm(青紫色)のレーザ光を発振し、光出力が1.0W、動作電圧が5V、電流が0.7Aのものであり、直径5.6mmのパッケージ(ステム)に封入されているものである。半導体レーザ2が発振するレーザ光は、405nmに限定されず、380nm以上470nm以下の波長範囲にピーク波長を有するレーザ光であればよい。
【0038】
なお、380nmより小さい波長のレーザ光を発振する良質な短波長用の半導体レーザを作製することが可能であれば、本実施の形態の半導体レーザ2として、380nmより小さい波長のレーザ光を発振するように設計された半導体レーザを用いることも可能である。
【0039】
半導体レーザ2の光出力は、1W以上20W以下であり、発光部5に照射されるレーザ光の光密度(照射密度)は、0.1W/mm以上50W/mm以下であることが好ましい。この範囲の光出力であれば、車両用のヘッドランプに要求される光束および輝度を実現できるとともに、高出力過ぎるレーザ光によって発光部5が極度に劣化することを防止できる。すなわち、高光束かつ高輝度でありながら、長寿命の光源を実現できる。
【0040】
非球面レンズ3は、各半導体レーザ2から発振されたレーザ光を、導光部4の一方の端部である光入射面4aに入射させるためのレンズである。例えば、非球面レンズ3として、アルプス電気製のFLKN1 405を用いることができる。上述の機能を有するレンズであれば、非球面レンズ3の形状および材質は特に限定されないが、405nm近傍の透過率が高く、かつ耐熱性のよい材料であることが好ましい。
【0041】
(導光部4)
導光部4は、半導体レーザ2が発振したレーザ光を集光して発光部5(発光部5のレーザ光照射面)へと導く円錐台状の導光部材であり、非球面レンズ3を介して半導体レーザ2と光学的に結合している。導光部4は、半導体レーザ2が出射したレーザ光を受光する光入射面4a(入射端部)と当該光入射面4aにおいて受光したレーザ光を発光部5へ出射する光出射面4b(出射端部)とを有している。
【0042】
光出射面4bの面積は、光入射面4aの面積よりも小さい。そのため、光入射面4aから入射した各レーザ光は、導光部4の側面に反射しつつ前進することにより収束されて光出射面4bから出射される。
【0043】
導光部4は、石英ガラス、アクリル樹脂その他の透明素材で構成する。また、光入射面4aおよび光出射面4bは、平面形状であっても曲面形状であってもよい。
【0044】
非球面レンズ3および導光部4の結合効率(半導体レーザ2から出射されるレーザ光の強度に対する、導光部4の光出射面4bから出射されるレーザ光の強度の割合)は90%である。このため、半導体レーザ2から出射された12Wのレーザ光は、非球面レンズ3および導光部4を通過すると、光出射面4bから10.8Wのレーザ光として出射される。
【0045】
なお、導光部4は、後述するように角錐台状であってもよく、光ファイバーであってもよく、半導体レーザ2からのレーザ光を発光部5に導くものであればよい。また、導光部4を設けずに、半導体レーザ2からのレーザ光を非球面レンズ3を介して、または直接に発光部5に照射してもよい。半導体レーザ2と発光部5との間の距離が短い場合には、このような構成が可能になる。
【0046】
(発光部5)
発光部5は、導光部4の光出射面4bから出射されたレーザ光を受けて発光するものであり、レーザ光を受けて発光する耐熱性蛍光体(以下、単に蛍光体と称する)が耐熱性透明封止材(以下、単に封止材と称する)の中に分散されたものである。
【0047】
上記蛍光体は、例えば、酸窒化物系の蛍光体またはIII−V族化合物半導体のナノメータサイズの粒子を用いた半導体ナノ粒子蛍光体であり、青色、緑色および赤色の蛍光体が低融点ガラスに分散されている。半導体レーザ2は、405nm(青紫色)のレーザ光を発振するため、発光部5に当該レーザ光が照射されると白色光が発生する。それゆえ、発光部5は、波長変換部材であるといえる。発光部5の組成の詳細については後述する。
【0048】
なお、半導体レーザ2は、450nm(青色)のレーザ光(または、440nm以上490nm以下の波長範囲にピーク波長を有する、いわゆる「青色」近傍のレーザ光)を発振するものでもよく、この場合には、上記蛍光体は、黄色の蛍光体、または緑色の蛍光体と赤色の蛍光体との混合物である。黄色の蛍光体とは、560nm以上590nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。緑色の蛍光体とは、510nm以上560nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。赤色の蛍光体とは、600nm以上680nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。
【0049】
発光部5は、透明板7の内側(光出射面4bが位置する側)の面において、反射鏡6の焦点位置またはその近傍に固定されている。発光部5の位置の固定方法は、この方法に限定されず、反射鏡6から延出する棒状または筒状の部材によって発光部5の位置を固定してもよい。
【0050】
発光部5の形状は、特に限定されず、直方体であっても、円筒状であってもよい。本実施形態では、発光部5は、直径3.5mm、厚さ2mmの円柱状である。この場合、半導体レーザ2からのレーザ光を受けるレーザ光照射面およびレーザ光照射面に対向する面の面積は、約9.6mmである。
【0051】
また、発光部5のレーザ光照射面と発光面との間の厚みは2mmでなくともよい。上記厚みは、レーザ光が発光部5において全て白色光に変換されるか、またはレーザ光が発光部5において十分に散乱される厚みであればよい。つまり、人体に有害なコヒーレント光の全てが、無害なインコヒーレント光に変換されるだけの厚みを発光部5が有していればよい。
【0052】
ここで必要とされる発光部5の厚みは、発光部5における封止材と蛍光体との割合に従って変化する。発光部5における蛍光体の含有量が多くなれば、レーザ光が白色光に変換される効率が高まるため発光部5の厚みを薄くできる。
【0053】
(反射鏡6)
反射鏡6は、発光部5が出射したインコヒーレント光(以下、単に「光」と称する)を反射することにより、所定の立体角内を進む光線束を形成するものである。すなわち、反射鏡6は、発光部5からの光を反射することにより、ヘッドランプ1の前方へ進む光線束を形成する。この反射鏡6は、例えば、金属薄膜がその表面に形成された曲面形状(カップ形状)の部材であり、反射した光の進行方向に開口している。
【0054】
(透明板7)
透明板7は、反射鏡6の開口部を覆う透明な樹脂板であり、発光部5を保持している。この透明板7を、半導体レーザ2からのレーザ光を遮断するとともに、発光部5においてレーザ光を変換することにより生成された白色光(インコヒーレント光)を透過する材質で形成することが好ましい。なお、透明板7として、樹脂板以外に無機ガラス板等も使用できる。
【0055】
発光部5によってコヒーレントなレーザ光は、そのほとんどがインコヒーレントな白色光に変換される。しかし、何らかの原因でレーザ光の一部が変換されない場合も考えられる。このような場合でも、透明板7によってレーザ光を遮断することにより、レーザ光が外部に漏れることを防止できる。なお、このような効果を期待せず、かつ透明板7以外の部材によって発光部5を保持する場合には、透明板7を省略することが可能である。
【0056】
<発光部5の組成>
発光部をハイパワーのレーザ光で励起すると、発光部が激しく劣化することを本発明の発明者は見出した。発光部の劣化は、発光部に含まれる蛍光体そのものの劣化とともに、蛍光体を取り囲む封止材の劣化によって主に引き起こされる。例えば、サイアロン蛍光体は、レーザ光が照射されると60〜80%の効率で光を発生させるが、残りは熱となって放出される。この熱によって封止材が劣化すると考えられる。
【0057】
それゆえ、封止材および蛍光体の材質を適切に選択することは、発光部の寿命を延ばす上で非常に重要である。このような観点から、発光部5を、封止材としてのガラス材の内部に蛍光体が分散されているものにしている。封止材をガラス材にすることにより、蛍光体を励起させるとき発生する熱によって封止材が著しく劣化することを防止できる。
【0058】
(封止材の材質および混合比)
封止材として、無機ガラスやいわゆる有機無機ハイブリッドガラスを用いることができ、特に低融点ガラスが好ましい。低融点ガラスとしては、ガラス転移点が600℃以下のものが好ましく、SiO、B、ZnOのいずれか1つを少なくとも含むことが好ましい。SiO、B、またはZnOを加えることにより、低融点ガラスを安定化させながら、ガラス転移点と焼成温度とを低下させることができ、かつ透明性を保つことができる。
【0059】
封止材として低融点ガラスを用いた場合、蛍光体と低融点ガラスとの混合比を体積比として表すと、この体積比は、1:1000以上、1:1以下であることが好ましい。ここで、上記蛍光体は、白色にするために混合済みの蛍光体総量を指す。また、低融点ガラスについては、密度がおよそ3g/cm〜7g/cmである。蛍光体と低融点ガラスとの混合比を質量比として表すと、その質量比(蛍光体:低融点ガラス)の範囲は、0.5:100以上、20:100以下であることが好ましい。
【0060】
上記低融点ガラスとして、硼珪酸ガラス(SiO−B)にCaO−BaO−LiO−NaOを加えて低融点化したガラス材を用いている。このガラス材は、蛍光体材料に対して反応性が高くない。同様に蛍光体材料との反応が低い低融点ガラスであれば、ほぼ同様の結果が得られると考えられる。逆に、蛍光体と反応するガラス材の場合、焼成して発光部を作るだけで蛍光体の発光効率が低下してしまう可能性がある。
【0061】
また、封止材として有機無機ハイブリッドガラスを用いた場合、蛍光体と有機無機ハイブリッドガラスとの好ましい質量比(蛍光体:ハイブリッドガラス)の範囲は、5.13:200以上50:200以下であることが好ましい。
【0062】
上述の数値範囲は、発明者が実験により算出したものである。この実験では、複数の異なる混合比を有するサンプル(焼成後)についてそれぞれ発光効率を算出し、実用性に耐える発光効率を実現できる混合比の範囲を特定した。ハイブリッドガラスとガラス材とでは、その比重が異なるため、好ましい混合比の範囲を別々に算出している。
【0063】
封止材として低融点ガラスを用いる場合、蛍光体と低融点ガラスとの質量比が0.5:100以上であれば、作製した発光部5の中にムラなく蛍光体を分散させることができる。また、0.5:100よりも蛍光体濃度が薄い場合、大半の励起光がそのまま発光部5を透過してしまい、十分な照明光を得ることができない。それゆえ、上記質量比は0.5:100以上であることが好ましい。
【0064】
なお、本発明の照明装置を透過型のレーザ照明器具として実現する場合は、上記質量比は、1.0:100以上であることがさらに好ましい。1.0:100以上であれば、励起光として使用されるレーザ光を蛍光体粒子によって散乱させてコヒーレント性を低下させることができるようになる。
【0065】
一方、もし20:100よりも蛍光体濃度を濃くした場合、発光部5の表面が荒れて非常にもろい状態になるため、物理的接触等で発光部5の一部が欠けやすくなったりする。それゆえ、上記質量比は、20:100以下であることが好ましい。
【0066】
なお、上記質量比が20:100の近傍(ただし、20:100を超えない)であれば、作製した発光部5の表面はかなり蛍光体がむき出しになるため平坦性が低下するが、発光部として使用するには問題ない。もし、発光部表面の平坦性を必要とするのであれば、上記質量比を15:100以下とすることが好ましい。
【0067】
また、1.0:100以上15:100以下の範囲、例えば3:100や5:100、7:100などで作製した場合、分散性、ムラ、表面状態等問題ない発光部5を作製することができる。従って、所望の色温度、色度に合わせて、この範囲(1:100〜15:100)で作製すれば、高効率で、形状再現性等に優れた発光部が高歩留まりで実現可能である。
【0068】
蛍光体と封止材との分散比は、発光部の発熱効率(逆の観点から言えば、放熱効率)に影響を与える。100%蛍光体であれば、発光部の発熱は大きくなり、発光部の劣化が早くなる。発光部を適量の封止材で封止することにより、蛍光体の発熱を抑制することができる。
【0069】
このように、蛍光体と封止材との混合比を適切に設定することにより、発光部5の発光効率および耐熱性を高めることができる。
【0070】
(蛍光体の材質)
発光部5に用いる蛍光体としては、酸窒化物蛍光体と通称されるものが好ましい。例えば、代表的な酸窒化物蛍光体であるSiAlON蛍光体は、窒化ケイ素のシリコン原子の一部がアルミニウム原子に、窒素原子の一部が酸素原子に置換された物質である。窒化ケイ素(Si)にアルミナ(Al)、シリカ(SiO)および希土類元素などを固溶させて作ることができる。
【0071】
酸窒化物系蛍光体のその他の例として、CASN(CaAlSiN)蛍光体およびSCASN((Sr,Ca)AlSiN)蛍光体を挙げることができる。後述するように、SCASN蛍光体は、耐熱性ではCASN蛍光体よりも劣るが、発光ピーク波長がより短波長化しているという特徴がある。
【0072】
発光部5は、例えば、SiOとBとZnOとを2:2:1の割合で含む低融点ガラスとCaα−SiAlON:CeとCASN:Euとを重量比で10:2:1で混合したものである。
【0073】
蛍光体の別の好適な例としては、III−V族化合物半導体のナノメータサイズの粒子を用いた半導体ナノ粒子蛍光体を例示することができる。
【0074】
半導体ナノ粒子蛍光体の特徴の一つは、同一の化合物半導体(例えばインジュウムリン:InP)を用いても、その粒子径をナノメータサイズに変更することにより、量子サイズ効果によって発光色を変化させることができる点である。例えば、InPでは、粒子サイズが3〜4nm程度のときに赤色に発光する(ここで、粒子サイズは透過型電子顕微鏡(TEM)にて評価した)。
【0075】
また、この半導体ナノ粒子蛍光体は、半導体ベースであるので蛍光寿命が短く、励起光のパワーを素早く蛍光として放射できるのでハイパワーの励起光に対して耐性が強いという特徴もある。これは、この半導体ナノ粒子蛍光体の発光寿命が10ナノ秒程度と、希土類を発光中心とする通常の蛍光体材料に比べて5桁も小さいためである。
【0076】
さらに、上述したように、発光寿命が短いため、レーザ光の吸収と蛍光体の発光を素早く繰り返すことができる。その結果、強いレーザ光に対して高効率を保つことができ、蛍光体からの発熱を低減させることができる。
【0077】
よって、発光部5が熱により劣化(変色や変形)するのをより抑制することができる。これにより、光の出力が高い発光素子を光源として用いる場合に、発光装置の寿命が短くなるのをより抑制することができる。
【0078】
<半導体レーザ2の構造>
次に半導体レーザ2の基本構造について説明する。図2(a)は、半導体レーザ2の回路図を模式的に示したものであり、図2(b)は、半導体レーザ2の基本構造を示す斜視図である。同図に示すように、半導体レーザ2は、カソード電極19、基板18、クラッド層113、活性層111、クラッド層112、アノード電極17がこの順に積層された構成である。
【0079】
基板18は、半導体基板であり、本願のように蛍光体を励起する為の青色〜紫外の励起光を得る為にはGaN、サファイア、SiCを用いることが好ましい。一般的には、半導体レーザ用の基板の他の例として、Si、GeおよびSiC等のIV属半導体、GaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSbおよびAlNに代表されるIII−V属化合物半導体、ZnTe、ZeSe、ZnSおよびZnO等のII−VI属化合物半導体、ZnO、Al、SiO、TiO、CrOおよびCeO等の酸化物絶縁体、並びに、SiNなどの窒化物絶縁体のいずれかの材料が用いられる。
【0080】
アノード電極17は、クラッド層112を介して活性層111に電流を注入するためのものである。
【0081】
カソード電極19は、基板18の下部から、クラッド層113を介して活性層111に電流を注入するためのものである。なお、電流の注入は、アノード電極17・カソード電極19に順方向バイアスをかけて行う。
【0082】
活性層111は、クラッド層113及びクラッド層112で挟まれた構造になっている。
【0083】
また、活性層111およびクラッド層113の材料としては、青色〜紫外の励起光を得る為にはAlInGaNから成る混晶半導体が用いられる。一般に半導体レーザの活性層・クラッド層としては、Al、Ga、In、As、P、N、Sbを主たる組成とする混晶半導体が用いられ、そのような構成としても良い。また、活性層111およびクラッド層113は、Zn、Mg、S、Se、TeおよびZnO等のII−VI属化合物半導体によって構成されていてもよい。
【0084】
また、活性層111は、注入された電流により発光が生じる領域であり、クラッド層112及びクラッド層113との屈折率差により、発光した光が活性層111内に閉じ込められる。
【0085】
さらに、活性層111には、誘導放出によって増幅される光を閉じ込めるために互いに対向して設けられる表側へき開面114・裏側へき開面115が形成されており、この表側へき開面114・裏側へき開面115が鏡の役割を果す。
【0086】
ただし、完全に光を反射する鏡とは異なり、誘導放出によって増幅される光の一部は、活性層111の表側へき開面114・裏側へき開面115(本実施の形態では、便宜上表側へき開面114とする)から出射され、励起光L0となる。なお、活性層111は、多層量子井戸構造を形成していてもよい。
【0087】
なお、表側へき開面114と対向する裏側へき開面115には、レーザ発振のための反射膜(図示せず)が形成されており、表側へき開面114と裏側へき開面115との反射率に差を設けることで、低反射率端面である、例えば、表側へき開面114より励起光L0の大部分が発光点103から照射されるようにすることができる。
【0088】
クラッド層113・クラッド層112は、n型およびp型それぞれのGaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSb、及びAlNに代表されるIII−V属化合物半導体、並びに、ZnTe、ZeSe、ZnSおよびZnO等のII−VI属化合物半導体のいずれの半導体によって構成されていてもよく、順方向バイアスをアノード電極17及びカソード電極19に印加することで活性層111に電流を注入できるようになっている。
【0089】
クラッド層113・クラッド層112および活性層111などの各半導体層との膜形成については、MOCVD(有機金属化学気相成長)法やMBE(分子線エピタキシー)法、CVD(化学気相成長)法、レーザアブレーション法、スパッタ法などの一般的な成膜手法を用いて構成できる。各金属層の膜形成については、真空蒸着法やメッキ法、レーザアブレーション法、スパッタ法などの一般的な成膜手法を用いて構成できる。
【0090】
<発光部5の発光原理>
次に、半導体レーザ2から発振されたレーザ光による蛍光体の発光原理について説明する。
【0091】
まず、半導体レーザ2から発振されたレーザ光が発光部5に含まれる蛍光体に照射されることにより、蛍光体内に存在する電子が低エネルギー状態から高エネルギー状態(励起状態)に励起される。
【0092】
その後、この励起状態は不安定であるため、蛍光体内の電子のエネルギー状態は、一定時間後にもとの低エネルギー状態(基底準位のエネルギー状態または励起準位と基底準位との間の準安定準位のエネルギー状態)に遷移する。
【0093】
このように、高エネルギー状態に励起された電子が、低エネルギー状態に遷移することによって蛍光体が発光する。
【0094】
白色光は、等色の原理を満たす3つの色の混色、または補色の関係を満たす2つの色の混色で構成でき、この原理・関係に基づき、半導体レーザから発振されたレーザ光の色と蛍光体が発する光の色とを、上述のように組み合わせることにより白色光を発生させることができる。
【0095】
<実験例1>
発光部5から出射される光のスペクトルに関する実験結果について説明する。
【0096】
(発光スペクトル)
図3は、蛍光体としてCaα−SiAlON:CeおよびCASN:Euを使用した場合の発光スペクトルを示す図である。グラフの横軸は、蛍光体が発する光の波長を示し、縦軸は当該光の強度を示している。
【0097】
発光部5の封止材として、SiOとBとZnOとを2:2:1の割合で含む低融点ガラスを使用した。この低融点ガラスとCaα−SiAlON:CeとCASN:Euとを重量比で30:3:1で混合し、加熱溶解させて、円柱形状(直径3.5mm、厚さ2mm)の発光部5を形成した。
【0098】
半導体レーザ2から放射された出力1Wのレーザ光を、非球面レンズ3を用いて直径3.5mmの円錐状ビームとし、発光部5に照射した。照射光密度は0.1W/mmである。この実験では導光部4は使用していない。
【0099】
発光スペクトルを測定したところ、Caα−SiAlON:Ceについて、約507nmをピークとするスペクトルが得られた。また、CASN:Euについて、約650nmをピークとするスペクトルが得られた。
【0100】
本実施形態の低融点ガラスでは、ホウ珪酸ガラスにZnOを添加することによってガラスを安定化させながら、ガラス転移点と焼成温度を低下でき、かつ透明性を保つ効果を得ることができた。
【0101】
上述の封止材に酸窒化物蛍光体であるSiAlON蛍光体とCASN蛍光体とを分散させることにより、レーザ光励起でも劣化しにくい蛍光体発光部を実現することができた。
【0102】
<実験例2>
次に、SCASN蛍光体をガラス材の中に分散させることによって形成した発光部5の耐熱性に関する実験について説明する。
【0103】
SCASN蛍光体はCASN蛍光体にさらにSr(ストロンチウム)が入った蛍光体であり、(酸)窒化物蛍光体の一種である。このSCASN蛍光体は、Srの影響により耐熱性の面ではCASN蛍光体よりも劣ると考えられる。ちなみに、SiAlON蛍光体は、結晶的にCASN蛍光体よりも強固であり、CASN蛍光体よりも耐熱性が高いと考えられる。
【0104】
それゆえ、耐熱性に関して、SiAlON蛍光体>CASN蛍光体>SCASN蛍光体という関係が成立する。そのため、SCASN蛍光体が耐えられる温度であれば、SiAlON蛍光体およびCASN蛍光体も耐えられると考えられる。
【0105】
(実験方法)
大気中、所定の温度まで30分でSCASN蛍光体を昇温し、その温度で30分間加熱を行った後、内部および外部量子効率および吸収率を室温で測定した。このような実験を、熱処理温度を変えて複数回行った。その結果を図4および図5に示した。
【0106】
図4は、SCASN蛍光体の内部および外部量子効率と熱処理温度との関係を示すグラフである。グラフの縦軸は、量子効率を示し、グラフの横軸は、SCASN蛍光体を熱処理したときの処理温度を示している。また、実線のグラフが内部量子効率の変化を示し、破線のグラフが外部量子効率の変化を示している。
【0107】
図4に示すように、0℃での実験結果は、熱処理をしない場合のSCASN蛍光体の内部および外部量子効率を示しており、内部および外部量子効率は、熱処理温度が560℃程度までは、熱処理による影響は見られなかった。しかし、熱処理温度がさらに上昇すると内部および外部量子効率は、顕著に低下した。
【0108】
この事実から、本発明で使用される耐熱性蛍光体は、少なくとも0℃から560℃までの温度範囲内での熱処理を行っても、当該熱処理後にある温度で測定された量子効率が、当該熱処理前に上記ある温度で測定された量子効率よりも、誤差範囲を超えて低下しないものであるといえる。
【0109】
図5は、熱処理を施した後の蛍光体の、異なる波長の光の吸収率を示すグラフである。図5に示すように、SCASN蛍光体の、異なる波長の光についての光吸収率は、熱処理温度が600℃までは室温(熱処理なし)の光吸収率と比較して大差は見られないが、少なくとも熱処理温度が700℃以上では顕著な変化が見られた。具体的には、熱処理温度が700℃、800℃になると、それらより低い温度の熱処理を施した場合と比較して明らかに光吸収率が異なっており、蛍光体が変質していることが分かる。
【0110】
これらの実験結果から、大気中でのSCASN蛍光体の耐熱温度は、600℃未満であることが分かった。このSCASN蛍光体の劣化の原因は、SCASN蛍光体中に含まれる窒素が抜けてしまうためであると考えられる。そのため、窒素中で熱処理を行えばSCASN蛍光体の窒素抜けを抑制することができ、発光効率の低下を抑えることができる可能性がある。
【0111】
例えば、ヘッドランプ1において、反射鏡6および透明板7によって形成される空間に窒素ガスを充填し、窒素ガス中で発光部5にレーザ光を照射することにより発光部5の熱耐性を高めることができる可能性がある。
【0112】
<ヘッドランプ1の効果>
以上のように、ヘッドランプ1では、発光部5から出射される光の光束を低下させずに発光部5の劣化を防止でき、ヘッドランプに要求される輝度を実現しつつ、長寿命のヘッドランプ1を実現できる。さらに、発光部5が長寿命になることにより、発光部5を取り替えるための手間および費用を削減することができる。
【0113】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図6〜図7に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0114】
図6は、本実施形態に係るヘッドランプ20の概略構成を示す図である。同図に示すように、ヘッドランプ20は、ヘッドランプ1とは異なり、ロッドレンズである非球面レンズ31、導光部41、発光部51を備えている。
【0115】
導光部41は、半導体レーザ2が発振したレーザ光を光入射面41aにおいて受光し、光出射面41bから出射することにより当該レーザ光を発光部51へと導く角錐台状の導光部材であり、非球面レンズ31を介して半導体レーザ2と光学的に結合している。導光部41は、導光部4と形状が異なっているだけで、材質については導光部4と同じである。なお、導光部4と同様に導光部41を省略してもよい。
【0116】
発光部51は、縦1.2mm×横0.4mm×奥行き0.5mmの直方体であり、発光部5とは、その形状が異なっている。日本国内で法的に規定されている車両用ヘッドランプの配光パターン(配光分布)は、鉛直方向に狭く、水平方向に広いため、発光部51の形状を、水平方向に対して横長(断面略長方形形状)にすることにより、上記配光パターンを実現しやすくなる。
【0117】
本実施形態では、発光部51は、Caα−SiAlON:CeとCaα−SiAlON:Euとを蛍光体として用い、SiOとBとZnOをベースにBaOを添加した低融点ガラスに前記蛍光体を分散させたものである。低融点ガラスにBaOを添加することでガラスの化学的耐久性、非結晶化など安定化を向上させることができる。
【0118】
また、本実施形態では、半導体レーザ2は、1チップ10ストライプ(1チップに10個の発光点)のものであり、発振波長が405nm、光出力が10W、動作電圧が5V、電流が6A、消費電力が30Wであり、直径9mmステムに実装されたものである。このような半導体レーザ2を1個使用している。
【0119】
<実験例3>
発光部51から出射される光のスペクトルに関する実験結果について説明する。
【0120】
図7は、蛍光体としてCaα−SiAlON:CeおよびCaα−SiAlON:Euを使用した場合の発光スペクトルを示す図である。グラフの横軸は、蛍光体が発する光の波長を示し、縦軸は当該光の強度を示している。
【0121】
蛍光体保持物質として、SiOとBとBaOとを2:2:1の割合で含む低融点ガラスを使用した。この低融点ガラスとCaα−SiAlON:CeとCaα−SiAlON:Euとを重量比で20:1:1で混合し、加熱プレス成形で、直方体形状(縦1.2mm×横0.4mm×奥行き0.5mm)の発光部51を形成した。
【0122】
発光スペクトルを測定したところ、Caα−SiAlON:Ceについて、約507nmをピークとするスペクトルが得られた。また、CASN:Euについて、約650nmをピークとするスペクトルが得られた。
【0123】
半導体レーザ2から放射されるレーザ光(出力10W)は、非球面レンズ31によって、例えば、縦1mm×横0.2mmに成形され、光密度50W/mmで発光部51を励起する。なお、この実験では導光部41は使用していない。
【0124】
発光スペクトルを測定したところ、Caα−SiAlON:Ceについて、実験例と同様に約507nmをピークとするスペクトルが得られた。また、Caα−SiAlON:Euについて、約585nmをピークとするスペクトルが得られた。
【0125】
本実施形態では、非常に安定な酸窒化物蛍光体を使用していることにより、特に高出力・高光密度のレーザ光励起であっても発光部が劣化することのないレーザ照明光源を実現することができた。
【0126】
〔実施の形態3〕
本発明の他の実施形態について図8〜図9に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0127】
図8は、本実施形態に係るヘッドランプ30の概略構成を示す図である。同図に示すように、ヘッドランプ30は、ヘッドランプ1とは異なり、20個の半導体レーザ2、20個の非球面レンズ3、導光部42、発光部52、光ファイバー固定具8を備えている。
【0128】
半導体レーザ2は、実施の形態1の半導体レーザ2と同様のものであり、1チップに1つの発光点を有し、光出力が1.0Wのものである。それゆえ、合計20Wの放射束の光が複数の半導体レーザ2から出射される。
【0129】
導光部42は、20本の光ファイバー42aの束であり、20個の半導体レーザ2が発振したレーザ光を、各光ファイバー42aによって発光部52へと導く導光部材である。なお半導体レーザ2、非球面レンズ3、光ファイバー42aの数は一致していればよく、20個に限定されない。
【0130】
光ファイバー42aは、中芯のコアを、当該コアよりも屈折率の低いクラッドで覆った2層構造をしている。コアは、レーザ光の吸収損失がほとんどない石英ガラス(酸化ケイ素)を主成分とするものであり、クラッドは、コアよりも屈折率の低い石英ガラスまたは合成樹脂材料を主成分とするものである。
【0131】
例えば、光ファイバー42aは、コアの径が200μm、クラッドの径が240μm、開口数NAが0.22の石英製のものであるが、光ファイバー42aの構造、太さおよび材質は上述のものに限定されず、光ファイバー42aの長軸方向に対して垂直な断面は矩形であってもよい。
【0132】
非球面レンズ3は、半導体レーザ2から発振されたレーザ光を、光ファイバー42aの一方の端部である入射端部に入射させる。
【0133】
光ファイバー42aの他方の端部である出射端部は、光ファイバー固定具8によって束ねられており、直径5mmのビームが発光部52に照射される。このときの光密度は、20W/mmである。光ファイバー42aの出射端部は、当該出射端部から出射されるレーザ光が発光部52に照射されるように当該発光部52に対して位置決めされている。
【0134】
発光部52は、直径5.2mm、厚さ1mmの円柱形を有している。この発光部52は、PbOを含むSiO−B系の低融点ガラスに、蛍光体としてβ−SiAlON:EuおよびCASN:Euを分散させたものである。
【0135】
<実験例4>
発光部52から出射される光のスペクトルに関する実験結果について説明する。
【0136】
図9は、蛍光体としてβ−SiAlON:EuおよびCASN:Euを使用した場合の発光スペクトルを示す図である。グラフの横軸は、蛍光体が発する光の波長を示し、縦軸は当該光の強度を示している。
【0137】
封止材として、SiOとBとPbOとを2:2:1の割合で含む低融点ガラスを使用した。この低融点ガラスとβ−SiAlON:EuとCASN:Euとを質量比で50:3:1で混合し、加熱プレス成形で、加熱溶解させて、円柱形状(直径5.2mm、厚さ1mm)の発光部5を形成した。
【0138】
この発光部5にレーザ光を照射したところ、β−SiAlON:Euについて、約540nmをピークとするスペクトルが得られた。また、CASN:Euについて、約650nmをピークとするスペクトルが得られた。
【0139】
この実施例においても、出力20Wとし、光密度20W/mmもの高出力、高光密度のレーザ光励起に耐える蛍光体発光部を実現することができた。
【0140】
〔実施の形態4〕
本発明の他の実施形態について図10〜図12に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1〜3と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0141】
ここでは、本発明の照明装置の一例としてのレーザダウンライト200について説明する。レーザダウンライト200は、家屋、乗物などの構造物の天井に設置される照明装置であり、半導体レーザ2から出射したレーザ光を発光部5に照射することによって発生する蛍光を照明光として用いるものである。
【0142】
なお、レーザダウンライト200と同様の構成を有する照明装置を、構造物の側壁または床に設置してもよく、上記照明装置の設置場所は特に限定されない。
【0143】
図10は、レーザダウンライト200が設置された天井の断面図である。図11は、レーザダウンライト200の断面図である。図10〜図11に示すように、レーザダウンライト200は、天板400に埋設され、照明光を出射する発光ユニット210と、光ファイバー42を介して発光ユニット210へレーザ光を供給するLD光源ユニット220とを含んでいる。LD光源ユニット220は、天井には設置されておらず、ユーザが容易に触れることができる位置(例えば、家屋の側壁)に設置されている。このようにLD光源ユニット220の位置を自由に決定できるのは、LD光源ユニット220と発光ユニット210とが光ファイバー42によって接続されているからである。この光ファイバー42は、天板400と断熱材401との間の隙間に配置されている。
【0144】
(発光ユニット210の構成)
発光ユニット210は、図11に示すように、筐体211、光ファイバー42、発光部5および透光板213を備えている。
【0145】
筐体211には、凹部212が形成されており、この凹部212の底面に発光部5が配置されている。凹部212の表面には、金属薄膜が形成されており、凹部212は反射鏡として機能する。
【0146】
また、筐体211には、光ファイバー42を通すための通路214が形成されており、この通路214を通って光ファイバー42が発光部5まで延びている。光ファイバー42の出射端部5aと発光部5との位置関係は上述したものと同様である。
【0147】
透光板213は、凹部212の開口部をふさぐように配置された透明または半透明の板である。この透光板213は、透明板9と同様の機能を有するものであり、発光部5の蛍光は、透光板213を透して照明光として出射される。透光板213は、筐体211に対して取外し可能であってもよく、省略されてもよい。
【0148】
なお、ダウンライトでは、ヘッドランプの場合とは異なり、理想的な点光源は要求されず、発光点が1つというレベルで十分である。それゆえ、発光部5の形状、大きさおよび配置に関する制約は、ヘッドランプの場合よりも少ない。
【0149】
(LD光源ユニット220の構成)
LD光源ユニット220は、半導体レーザ2、非球面レンズ3および光ファイバー42を備えている。
【0150】
光ファイバー42の一方の端部である入射端部5bは、LD光源ユニット220に接続されており、半導体レーザ2から発振されたレーザ光は、非球面レンズ3を介して光ファイバー42の入射端部5bに入射される。
【0151】
図11に示すLD光源ユニット220の内部には、半導体レーザ2および非球面レンズ3が一対のみ示されているが、発光ユニット210が複数存在する場合には、発光ユニット210からそれぞれ延びる光ファイバー42の束を1つのLD光源ユニット220に導いてもよい。この場合、1つのLD光源ユニット220に複数の半導体レーザ2と非球面レンズ3との対(または、複数の半導体レーザ2と1つのロッド状レンズ32との対)が収納されることになり、LD光源ユニット220は集中電源ボックスとして機能する。
【0152】
(レーザダウンライト200の設置方法の変更例)
図12は、レーザダウンライト200の設置方法の変更例を示す断面図である。同図に示すように、レーザダウンライト200の設置方法の変形例として、天板400には光ファイバー42を通す小さな穴402だけを開け、薄型・軽量の特長を活かしてレーザダウンライト本体(発光ユニット210)を強力な粘着テープ等を使って天板400に貼り付けるということもできる。この場合、レーザダウンライト200の設置に係る制約が小さくなり、また工事費用が大幅に削減できるというメリットがある。
【0153】
(変更例)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0154】
また、励起光源として、半導体レーザ以外の固体レーザを用いてもよい。ただし、半導体レーザを用いる方が、励起光源を小型化できるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は、高輝度で長寿命な発光装置、特に車両用等のヘッドランプに適用することができる。
【符号の説明】
【0156】
1 ヘッドランプ(発光装置、車両用前照灯)
2 半導体レーザ
5 発光部
20 ヘッドランプ(発光装置、車両用前照灯)
30 ヘッドランプ(発光装置、車両用前照灯)
51 発光部
52 発光部
200 レーザダウンライト(照明装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射する半導体レーザと、
上記半導体レーザが出射したレーザ光を受けて発光する発光部とを備え、
上記発光部は、耐熱性蛍光体が耐熱性透明封止材の中に分散されているものであることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
上記耐熱性蛍光体は、少なくとも0℃から560℃までの温度範囲内での熱処理を行っても、当該熱処理後にある温度で測定された上記耐熱性蛍光体の量子効率が、当該熱処理前に上記ある温度で測定された上記量子効率よりも、誤差範囲を超えて低下しないものであることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
上記耐熱性蛍光体は、酸窒化物系蛍光体、またはIII−V族化合物半導体からなるナノ粒子蛍光体であることを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
上記耐熱性透明封止材は、低融点ガラスであり、
上記発光部における、上記耐熱性蛍光体と上記耐熱性透明封止材との質量比は、0.5:100以上、20:100以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
上記耐熱性透明封止材は、有機無機ハイブリッドガラスであり、
上記発光部における、上記耐熱性蛍光体と上記有機無機ハイブリッドガラスとの質量比は、5.13:200以上、50:200以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
上記酸窒化物蛍光体は、Caα−SiAlON(silicon aluminum oxynitride):Ce蛍光体、Caα−SiAlON:Eu蛍光体、β−SiAlON:Eu蛍光体またはCASN:EU蛍光体またはSCASN:Eu蛍光体を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
上記発光部に照射される上記レーザ光の照射密度は、0.1W/mm以上50W/mm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の発光装置を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の発光装置を備えることを特徴とする車両用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−121968(P2012−121968A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272777(P2010−272777)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】