発光装置および電子機器
【課題】簡易な構成で発光素子の階調を補正する。
【解決手段】複数の発光素子Eは、複数の信号線14の各々に対応して配置されて階調信号Xに応じた階調に制御される。補正回路42は、複数の発光素子Eの各々の階調データPを順次に取得して補正階調データQを生成する。信号線駆動回路34は、補正回路42から順次に供給される補正階調データQを信号線14毎に分配するとともに分配後の各補正階調データQに応じた階調信号Xを前記各信号線14に出力する。補正回路42は、複数の発光素子Eの各々の階調データPを、当該発光素子Eの過去の補正階調データQに対応した参照データRを利用して補正する
【解決手段】複数の発光素子Eは、複数の信号線14の各々に対応して配置されて階調信号Xに応じた階調に制御される。補正回路42は、複数の発光素子Eの各々の階調データPを順次に取得して補正階調データQを生成する。信号線駆動回路34は、補正回路42から順次に供給される補正階調データQを信号線14毎に分配するとともに分配後の各補正階調データQに応じた階調信号Xを前記各信号線14に出力する。補正回路42は、複数の発光素子Eの各々の階調データPを、当該発光素子Eの過去の補正階調データQに対応した参照データRを利用して補正する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子などの発光素子を駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子の階調(輝度)を補正する技術が従来から提案されている。例えば、発光素子の電気的な特性(例えば両端間の電圧と階調または電流との関係)が温度に応じて変化するという性質を考慮して、特許文献1には、温度の変化に起因した発光素子の階調の誤差を補償する技術が開示されている。具体的には、走査線毎に設置された温度検出体(サーミスタ)の検出温度に応じて各走査線の電位を制御することで発光素子の階調の誤差が補償される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−214824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、発光素子の階調を補正する技術のもとでは、補正に必要な要素を設置することで発光装置の構成が複雑化または大型化するという問題がある。例えば、特許文献1の技術では、走査線毎に温度検出体が設置されるから、発光装置が大型化するとともに製造コストが増大する。以上の事情に鑑みて、本発明は、簡易な構成で発光素子の階調を補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る発光装置は、複数の信号線の各々に対応して配置されて階調信号に応じた階調に制御される複数の発光素子と、複数の発光素子の各々の階調データを順次に取得して補正階調データを生成する補正手段と、補正手段から順次に供給される補正階調データを信号線毎に分配するとともに分配後の各補正階調データに応じた階調信号を対応する信号線に出力する信号線駆動回路とを具備し、補正手段は、複数の発光素子の各々の階調データを、当該発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データを利用して補正する。以上の構成においては、過去の補正階調データに対応した参照データを利用して階調データが補正されるから、簡易な構成で発光素子の階調を補正することが可能である。
【0006】
例えば、参照データに対応する過去の補正階調データの示す階調が高いほど、新たな補正階調データの示す階調が低くなるように、補正手段が階調データを補正する構成によれば、発光素子の温度を検出する要素(例えばサーミスタ)を必要とせずに、各発光素子の温度の変化に起因した階調の誤差を低減することが可能である。例えば、補正手段は、参照データの示す階調が高いほど小さくなるように算定された係数を乗算することで階調データを補正する。また、補正手段による補正後の補正階調データが信号線毎に分配される(すなわち、各信号線に対応する複数の補正階調データの生成に補正手段が共用される)から、分配後の階調データを補正する構成と比較して、補正手段の個数が削減されるという利点もある。
【0007】
本発明の好適な態様において、複数の発光素子は、複数の走査線と複数の信号線との各交差に対応して配列され、複数の走査線の各々を順次に選択する走査線駆動回路と、補正手段が生成した補正階調データに応じた参照データを保持する記憶回路とを具備し、信号線駆動回路は、走査線の選択に同期して順次に階調信号を出力し、補正手段は、参照データを記憶回路から取得して階調データを補正する。以上の構成においては、参照データが記憶回路に保持されるから、補正手段が特定の画素回路の階調データを補正する適切な時点で、当該画素回路の過去の補正階調データに応じた参照データを補正回路が取得できるという利点がある。
【0008】
さらに好適な態様において、信号線駆動回路は、補正手段から供給される補正階調データを順次に後段に転送する複数の転送回路を含み、記憶回路は、複数の転送回路による転送後の補正階調データに応じた参照データを保持する。以上の態様においては、複数の転送回路による転送で補正階調データが遅延するから、補正回路による生成の直後の補正階調データに応じた参照データが記憶回路に保持される構成(記憶回路による参照データの保持前に補正階調データに遅延が付与されない構成)と比較して、参照データを所定の時点まで遅延させるために記憶回路に必要となる容量が削減されるという利点がある。
【0009】
なお、補正階調データに対応した参照データを保持する構成は、補正階調データをそのまま参照データとして記憶回路に保持する構成と、補正階調データを所定の規則で変換した参照データを記憶回路に保持する構成とを包含する。後者の構成として、例えば、補正階調データのビット列のうちの一部のビット(例えば上位に位置する1以上のビット)を参照データとして保持する構成を採用すれば、記憶回路に必要な容量が削減されるという利点がある。
【0010】
本発明の好適な態様において、補正手段は、複数の発光素子のうちの一の発光素子の階調データを、当該一の発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データと、当該一の発光素子に隣合う少なくとも1個の発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データとを利用して補正する。以上の態様においては、一の発光素子の階調データの補正に他の発光素子の参照データが使用されるから、周囲の発光素子の温度の変化に起因した各発光素子の階調の誤差も低減される。例えば、補正手段は、一の発光素子の一方側に位置する発光素子の参照データと、一の発光素子の他方側に位置する発光素子の参照データとの加算値が大きいほど小さくなるように算定された係数を乗算することで一の発光素子の階調データを補正する。
【0011】
補正手段による補正の方法は、参照データを変数とした演算に限定されない。具体的には、補正後の階調データの生成に参照データを直接的には使用しない構成も採用される。例えば、補正手段は、複数の範囲のうち過去の階調データに対応した参照データの数値が属する範囲について設定された係数を使用して階調データを補正する。
【0012】
本発明に係る発光装置は各種の電子機器に利用される。電子機器の典型例は、発光装置を表示装置として利用した機器である。本発明に係る電子機器としてはパーソナルコンピュータや携帯電話機が例示される。もっとも、本発明に係る発光装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(露光ヘッド)としても本発明の発光装置が適用される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発光装置のブロック図である。
【図2】発光装置の動作のタイミングチャートである。
【図3】画素回路の回路図である。
【図4】信号線駆動回路および記憶回路のブロック図である。
【図5】第2実施形態における信号線駆動回路および記憶回路のブロック図である。
【図6】第3実施形態における補正回路の動作のフローチャートである。
【図7】変形例に係る発光装置のブロック図である。
【図8】電子機器(パーソナルコンピュータ)の斜視図である。
【図9】電子機器(携帯電話機)の斜視図である。
【図10】電子機器(携帯情報端末)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る発光装置のブロック図である。発光装置100は、画像を表示する表示装置として電子機器に搭載される。図1に示すように、発光装置100は、発光素子Eを含む複数の画素回路PXが配列された画素部(表示領域)10と、各画素回路PXを駆動する駆動回路30と、駆動回路30を制御する制御回路40と、発光素子Eの輝度の補正に使用されるデータを保持する記憶回路50とを具備する。駆動回路30は、走査線駆動回路32と信号線駆動回路34とを含んで構成される。
【0015】
画素部10には、x方向に延在するM本の走査線12と、x方向に交差するy方向に延在するN本の信号線14とが形成される(MおよびNは自然数)。各画素回路PXは、走査線12と信号線14との各交差に対応して配置され、x方向およびy方向に沿って縦M行×横N列の行列状に配列する。なお、以下の説明においては、第m行(m=1〜M)に関連する要素の符号に便宜的に添字[m]を付加し、第m行の第n列(n=1〜N)に関連する要素の符号に便宜的に添字[m,n]を付加する場合がある。
【0016】
制御回路40は、各画素回路PXの駆動に使用される信号を駆動回路30に出力する。例えば、制御回路40は、図2の垂直走査期間F(……,F[k-1],F[k],……)や水平走査期間H(H[1],……,H[m-1],H[m],H[m+1],……,H[M])を規定する同期信号を走査線駆動回路32および信号線駆動回路34に供給する。また、制御回路40は、各行のN個の画素回路PXの各々に割当てられた期間(ドット周期)を規定するクロック信号(ドットクロック)CLXや、図2のように水平走査期間Hの始点を規定するラッチ信号LPを生成して信号線駆動回路34に供給する。なお、以下の説明においては、垂直走査期間F[k]に関連する要素の符号に便宜的に添字_kを付加する場合がある。
【0017】
図1の走査線駆動回路32は、M系統の走査信号Y(Y[1]〜Y[M])の出力でM本の走査線12の各々を順次に選択する。図2に示すように、第m行の走査線12に出力される走査信号Y[m]は、各垂直走査期間F内の第m番目の水平走査期間H[m]にて選択電位(走査線12の選択を意味するアクティブレベル)に制御され、水平走査期間H[m]以外で非選択電位(非アクティブレベル)に維持される。
【0018】
図1の制御回路40には、各画素回路PXの階調(発光素子Eの輝度)を指定する階調データPが上位装置(図示略)から順次に供給される。図2に示すように、第m行に位置するN個の画素回路PXの各々の階調データP(P[m,1]〜P[m,N])は、第m行が選択される水平走査期間H[m]の直前の水平走査期間H[m-1]内に、第N列から第1列に向かう順番(P[m,N]→P[m,N-1]→……→P[m,2]→P[m,1])でクロック信号CLXに同期して制御回路40に供給される。階調データPは、例えば、最低階調を意味するゼロから最高階調を意味する255までの256段階の何れかの数値を指定する8ビットのデジタルデータである。
【0019】
図1に示すように、制御回路40は、階調データPを補正する補正回路42を含んで構成される。補正回路42は、1個の画素回路PXの階調データPが上位装置から供給されるたびに当該階調データPを補正して出力する。補正回路42による補正後の階調データ(以下「補正階調データ」という)Qは順次に信号線駆動回路34に供給される。例えば、第m行に位置するN個の画素回路PXの各々の補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]は、図2に示すように、水平走査期間H[m-1]において、第N列から第1列に向かう順番(Q[m,N]→Q[m,N-1]→……→Q[m,2]→Q[m,1])でクロック信号CLXに同期して順次に信号線駆動回路34に出力される。なお、図1では補正回路42を制御回路40に搭載したが、補正回路42は制御回路40とは別個の回路として実装され得る。
【0020】
図1の信号線駆動回路34は、各画素回路PXに階調を指示する階調信号X(X[1]〜X[N])を走査線駆動回路32による走査線12の選択に同期してN本の信号線14の各々に出力する。具体的には、信号線駆動回路34は、制御回路40(補正回路42)から順次に供給される補正階調データQを信号線14毎のN系統に点順次で分配し、分配後の各系統の補正階調データQ(Q[m,1]〜Q[m,N])に応じた階調信号X(X[1]〜X[N])を生成してN本の信号線14に並列に出力する。図2に示すように、第m行の走査線12が選択される水平走査期間H[m]にて第n列の信号線14に出力される階調信号X[n]は、第m行の第n列に位置する画素回路PXの階調データP[m,n]に応じた電位V[m,n]に設定される。
【0021】
図3は、画素回路PXの回路図である。図3においては、第m行の第n列に位置する1個の画素回路PXのみが代表的に図示されている。図3に示すように、画素回路PXは、発光素子Eと駆動トランジスタTDRと選択スイッチTSLと保持容量Cとを含んで構成される。なお、駆動トランジスタTDRや選択スイッチTSLの導電型は、図3の例示から任意に変更される。
【0022】
発光素子Eと駆動トランジスタTDRとは、高位側電源VHと低位側電源(接地電位)VLとの間に直列に配置される。発光素子Eは、陽極と陰極との間に有機EL(Electroluminescence)材料の発光層を介在させた有機EL素子である。発光素子Eの陰極は低位側電源VLに接続される。発光素子Eは、駆動電流IDRの電流量に応じた輝度で発光する。
【0023】
駆動トランジスタTDRは、自身のゲートの電位に応じて駆動電流IDR(ソース−ドレイン間の電流)の電流量を制御するPチャネル型の薄膜トランジスタである。駆動トランジスタTDRのソースは高位側電源VHに接続され、ドレインは発光素子Eの陽極に接続される。
【0024】
保持容量Cは、駆動トランジスタTDRのゲートと高位側電源VH(または他の定電位線)との間に介在して駆動トランジスタTDRのゲートの電位を保持する。選択スイッチTSLは、駆動トランジスタTDRのゲートと第n列の信号線14との間に介在して両者の電気的な接続(導通/非導通)を制御するNチャネル型の薄膜トランジスタである。第m行の各画素回路PXの選択スイッチTSLのゲートは第m行の走査線12に接続される。
【0025】
走査信号Y[m]が水平走査期間H[m]にて選択電位に設定されると、第m行の各画素回路PXの選択スイッチTSLがオン状態に変化するから、信号線14に供給されている階調信号X[n]の電位V[m,n]が選択スイッチTSLを介して駆動トランジスタTDRのゲートに供給される。駆動トランジスタTDRのゲートの電位は、走査信号Y[m]が非選択電位に設定されることで選択スイッチTSLがオフ状態に遷移しても保持容量Cによって電位V[m,n]に保持される。以上の状態においては、駆動トランジスタTDRのゲートの電位V[m,n]に応じた電流量の駆動電流IDRが高位側電源VHから駆動トランジスタTDRを経由して発光素子Eに供給される。したがって、発光素子Eは、第m行の走査線12の選択時(水平走査期間H[m])における階調信号X[n]の電位V[m,n]に応じた階調(輝度)に制御される。
【0026】
図4は、信号線駆動回路34および記憶回路50のブロック図である。図4に示すように、信号線駆動回路34は、分配回路342と出力回路344とを含んで構成される。分配回路342は、制御回路40から順次に(シリアルに)供給される補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]をN系統に分配し、出力回路344は、分配回路342による分配後のN系統の補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]から階調信号X[1]〜X[N]を生成して各信号線14に出力する。分配回路342にはクロック信号CLXが供給され、出力回路344にはラッチ信号LPが供給される。
【0027】
分配回路342は、信号線14の本数に相当するN段の転送回路(例えばフリップフロップ)62で構成される。各転送回路62は、前段の転送回路62(第1段目の転送回路62については補正回路42)が出力する補正階調データQを、クロック信号CLXに同期した時点で順次に取込んで出力する。第m行の走査線12が選択される水平走査期間H[m]の始点では、図4に示すように、第m行のN個の画素回路PXの補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]が分配回路342から出力回路344に並列に出力される状態となる。
【0028】
出力回路344は、N段の保持回路64とN段の変換回路66とで構成される。各保持回路64には共通のラッチ信号LPが供給される。第n段目の保持回路64(例えばラッチ回路)は、第n段目の転送回路62が出力する補正階調データQ[m,n]を、制御回路40からのラッチ信号LPが規定する水平走査期間H[m]の始点にて取込むとともに当該補正階調データQ[m,n]の出力を維持する。第n段目の変換回路66(例えば電圧出力型のD/A変換器)は、第n段目の保持回路64が出力する補正階調データQ[m,n]に応じた電位V[m,n]の階調信号X[n]を生成して第n列目の信号線14に出力する。したがって、水平走査期間H[m]においては、図2に示すように、補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]に応じた階調信号X[1]〜X[N]がN本の信号線14に並列に出力される。
【0029】
図4の記憶回路50は、補正回路42が生成した補正階調データQ[m,n]を順次に参照データR[m,n]として保持するメモリである。記憶回路50に保持された参照データR[m,n]は、所定の時間だけ保持(遅延)されたうえで、クロック信号CLXに同期して記憶回路50から補正回路42に順次に出力される。具体的には、垂直走査期間F[k-1]における第m行の第n列の画素回路PXの補正階調データQ[m,n]_k-1は、参照データR[m,n]_k-1として記憶回路50に保持され、図2に示すように、直後の垂直走査期間F[k]における当該画素回路PXの階調データP[m,n]_kが補正回路42に供給される時点で、記憶回路50から補正回路42に出力される。
【0030】
図4に示すように、記憶回路50は、(M-1)段の記憶部52を含んで構成される。各記憶部52は、N個の参照データR(補正階調データQ)を保持できる容量のラインバッファ回路である。第1段目の記憶部52は、分配回路342のうち第N段目(最終段)の転送回路62がクロック信号CLXに同期して順次に出力する補正階調データQを取込んで参照データRとして保持する。例えば、分配回路342と同様に、分配回路342から出力される補正階調データQ[m,n]をクロック信号CLXに同期して順次にシフトするN段の転送回路が、第1段目の記憶部52として採用される。
【0031】
第2段目から第(M-2)段目までの各記憶部52は、ラッチ信号LPが規定する水平走査期間Hの始点において、前段の記憶部52が記憶するN個の参照データR(R[m,1]〜R[m.N])を並列に取込んで保持する。第(M-1)段目(最終段)の記憶部52は、第(M-2)段目の記憶部52が出力するN個の参照データR(R[m,1]〜R[m,N])をクロック信号CLXに同期して順次に出力する。したがって、図2に示すように、垂直走査期間F[k-1]内の階調データP[m,n]_k-1の補正(補正階調データQ[m,n]_k-1の生成)から垂直走査期間Fの時間が経過した時点t0では、垂直走査期間F[k]の階調データP[m,N]_kが上位装置から補正回路42に供給されると同時に、垂直走査期間F[k-1]の補正階調データQ[m,N]_k-1に相当する参照データR[m,N]_k-1が記憶回路50から補正回路42に供給される。
【0032】
補正回路42は、記憶回路50から供給される参照データR[m,n]_k-1(過去の補正階調データQ[m,n]_k-1)を利用して垂直走査期間F[k]内の階調データP[m,n]_kを補正することで、垂直走査期間F[k]内の画素回路PXの階調を指定する補正階調データQ[m,n]_kを生成する。具体的には、補正回路42は、参照データR[m,n]_k-1の示す階調が高いほど補正階調データQ[m,n]_kの示す階調が低くなるように、階調データP[m,n]_kを補正する。
【0033】
例えば、補正回路42は、以下の数式(1)の演算を実行することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する。数式(1)の係数αは、数式(1a)で定義されるように、参照データR[m,n]_k-1の示す数値(階調)が大きいほど小さくなるように算定される(α≦1)。
Q[m,n]_k=P[m,n]_k×α ……(1)
α=1−R[m,n]_k-1/d ……(1a)
【0034】
数式(1a)の除数dは、参照データR[m,n]_k-1が階調データP[m,n]_kの補正に寄与する度合の指標となる数値である。すなわち、除数dが小さいほど、補正階調データQ[m,n]_kに対する参照データR[m,n]_k-1の影響は大きくなる。除数dは、階調データP[m,n]_kから補正階調データQ[m,n]_kへの変化が発光素子Eの階調の変化に過度に影響しないように(例えば、発光素子Eの階調の変化が観察者に知覚されないように)、実験的または統計的に選定される。ただし、利用者が除数dを適宜に設定できる構成も好適である。また、除数dを2のべき乗とすれば、数式(1a)の除算を補正階調データQ[m,n]_k-1のビットシフトのみで実現できる(補正回路42の演算が簡素化される)という利点がある。
【0035】
いま、参照データR[m,n]_k-1がゼロから255までの範囲内で設定されることを考慮して除数dを1024(=210)に設定すると、係数αは、0.75以上かつ1以下の範囲内で可変に設定される。したがって、参照データR[m,n]_k-1が、最低階調(発光素子Eの非発光)を意味するゼロである場合、補正回路42が生成する補正階調データQ[m,n]_kは補正前の階調データP[m,n]_kから変化しない(α=1)。他方、参照データR[m,n]_k-1が、最低階調を意味する255である場合、補正回路42が生成する補正階調データQ[m,n]_kは、補正前の階調データP[m,n]_kに0.75を乗算した数値(階調)を指定する。
【0036】
以上の形態においては、画素回路PXに過去に指定された階調に応じて階調データPが補正される。具体的には、画素回路PXに過去に指定された階調が高いほど(すなわち発光素子Eに供給される駆動電流IDRの電流量が大きいほど)、補正階調データQの階調が低くなるように階調データPが補正される。したがって、垂直走査期間F[k-1]における補正階調データQ[m,n]_k-1の階調が高いほど、直後の垂直走査期間F[k]における補正階調データQ[m,n]_kの階調は低くなる。高階調に駆動されるほど(すなわち駆動電流IDRの電流量が大きいほど)発光素子Eの温度は上昇するから、第1実施形態によれば、駆動電流IDRの供給(すなわち発光)に起因した発光素子Eの温度の上昇が抑制される。すなわち、発光素子Eの温度の検出する要素(例えばサーミスタ)を必要とせずに、各発光素子Eの温度の変化に起因した階調の誤差を低減することが可能である。
【0037】
ところで、階調データPを補正する構成としては、各行の階調データP[m,1]〜P[m,N]をN系統に分配してから補正する構成(以下「対比例」という)も採用される。対比例においては、例えば、補正前の階調データPが制御回路40から分配回路342の第1段目の転送回路62に順次に供給され、第n段の転送回路62から出力される階調データP[m,n]_kを参照データR[m,n]_k-1に応じて補正して第n段の保持回路64に出力する補正回路が、第n段の転送回路62と第n段の保持回路64との間に配置される。しかし、対比例の構成ではN個の補正回路が必要であるから、信号線駆動回路34の回路規模や消費電力が増大するという問題がある。他方、第1実施形態においては、N列分の階調データP[m,1]〜P[m,N]の補正に共通の補正回路42が利用されるから、対比例と比較して信号線駆動回路34の回路規模や消費電力が削減されるという利点がある。
【0038】
<B:第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の各形態において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上と同じ符号を付して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0039】
図5は、第2実施形態における信号線駆動回路34および記憶回路50のブロック図である。第2実施形態の記憶回路50は、第1実施形態と同様の(M-1)段の記憶部52に加え、保持部54および保持部56を含んで構成される。保持部54は、第(M-1)段目(最終段)の記憶部52が出力する参照データRをクロック信号CLXに同期して順次に取込むとともに当該参照データRの出力を保持する。同様に、保持部56は、保持部54が出力する参照データRをクロック信号CLXに同期して順次に取込むとともに当該参照データRの出力を保持する。記憶回路50から出力される参照データRと保持部54から出力される参照データRと保持部56から出力される参照データRとが補正回路42に供給される。
【0040】
さらに詳述すると、第m行の第n列の画素回路PXの垂直走査期間F[k]における階調データP[m,n]_kが上位装置から補正回路42に供給される時点では、図5に示すように、当該画素回路PXの過去の補正階調データQ[m,n]_k-1に対応する参照データR[m,n]_k-1が保持部54から補正回路42に供給されるほか、参照データR[m,n-1]_k-1が記憶部52から補正回路42に供給され、参照データR[m,n+1]_k-1が保持部56から補正回路42に供給される。参照データR[m,n-1]_k-1は、第m行の第n列の画素回路PXに対してx方向の負側に位置する第(n-1)列目の画素回路PXの過去の補正階調データQ[m,n-1]_k-1に相当し、参照データR[m,n+1]_k-1は、第m行の第n列の画素回路PXに対してx方向の正側に位置する第(n+1)列目の画素回路PXの過去の補正階調データQ[m,n+1]_k-1に相当する。
【0041】
補正回路42は、垂直走査期間F[k-1]における第n列の参照データR[m,n]_k-1と第(n-1)列の参照データR[m,n-1]_k-1と第(n+1)列の参照データR[m,n+1]_k-1とに応じて階調データP[m,n]_kを補正することで垂直走査期間F[k]の補正階調データQ[m,n]_kを生成する。さらに詳述すると、補正回路42は、第n列(自列)の参照データR[m,n]_k-1の示す階調が高いほど、新たな補正階調データQ[m,n]_kの示す階調が低くなり、かつ、第(n-1)列の参照データR[m,n-1]_k-1または第(n+1)列の参照データR[m,n+1]_k-1が高いほど、新たな補正階調データQ[m,n]_kの示す階調が低くなるように、階調データP[m,n]_kを補正する。
【0042】
例えば、補正回路42は、以下の数式(2)の演算を実行することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する。数式(2)の係数βは数式(2a)で定義される。数式(2b)で定義されるように、第n列の参照データR[m,n]_k-1が大きいほど数式(2a)の係数β1は大きくなる(数式(2)の係数βは小さくなる)。また、数式(2c)で定義されるように、第(n-1)列の参照データR[m,n-1]_k-1と第(n+1)列の参照データR[m,n+1]_k-1との加算値が大きいほど数式(2a)の係数β2は大きくなる(数式(2)の係数βは小さくなる)。
Q[m,n]_k=P[m,n]_k×β ……(2)
β=1−(β1+β2) ……(2a)
β1=R[m,n]_k-1/d1 ……(2b)
β2=(R[m,n-1]_k-1+R[m,n+1]_k-1)/d2 ……(2c)
【0043】
なお、x方向の負側に画素回路PXが存在しない第1列の画素回路PXの階調データP[m,1]_kは、自列の参照データR[m,1]_k-1と第2列の参照データR[m,2]_k-1とに応じて補正される。すなわち、数式(2c)における参照データR[m,n-1]_k-1がゼロに設定される。同様に、第N列の画素回路PXに対してx方向の正側に画素回路PXは存在しないから、階調データP[m,N]_kは、第N列の参照データR[m,N]_k-1と第(N-1)列の参照データR[m,N-1]_k-1とに応じて補正される。すなわち、数式(2c)における参照データR[m,n+1]_k-1がゼロに設定される。
【0044】
数式(2b)の除数d1が小さいほど、参照データR[m,n]_k-1が階調データP[m,n]_kの補正に寄与する度合が大きくなる。同様に、数式(2c)の除数d2が小さいほど、参照データR[m,n-1]_k-1と参照データR[m,n+1]_k-1との加算値が階調データP[m,n]_kの補正に寄与する度合が大きくなる。除数d1および除数d2は、階調データP[m,n]_kから階調データQ[m,n]_kへの変化が発光素子Eの階調の変化に過度に影響しないように(例えば、発光素子Eの階調の変化が観察者に知覚されないように)、実験的または統計的に選定される。ただし、利用者が除数d1や除数d2を適宜に設定できる構成も好適である。
【0045】
発光素子Eの電気的な特性は、他の発光素子Eの温度の上昇よりも自身の温度の上昇の影響を強く受ける。そこで、他の画素回路PXの参照データR[m,n±1]_k-1よりも自身の参照データR[m,n]_k-1のほうが階調データP[m,n]_kの補正に寄与する度合が大きくなるように、除数d1は除数d2よりも小さい数値に設定される。また、除数d1や除数d2を2のべき乗に設定すれば、数式(2b)や数式(2c)の除算を参照データRのビットシフトのみで実現できるという利点がある。
【0046】
例えば、除数d1を1024(=210)に設定するとともに除数d2を4096(=212)に設定すると、数式(2b)の係数β1はゼロ以上かつ0.25以下の数値となり、数式(2c)の係数β2はゼロ以上かつ0.12以下の数値となる。したがって、係数βは、0.63(=1−(0.25+0.12))以上かつ1以下の範囲内で可変に設定される。すなわち、第n列の参照データR[m,n]_k-1および隣接列の参照データR[m,n±1]_k-1の双方が最低階調を意味するゼロである場合、第n列の補正階調データQ[m,n]_kは補正前の階調データP[m,n]_kから変化しない(β=1)。一方、参照データR[m,n]_k-1および参照データR[m,n±1]_k-1の双方が最高階調を意味する255である場合、第n列の補正階調データQ[m,n]_kは、補正前の階調データP[m,n]_kに0.63を乗算した数値(階調)を指定する。
【0047】
第2実施形態においては、各発光素子Eの過去の補正階調データQ[m,n]_k-1に対応する参照データR[m,n]_k-1が階調データP[m,n]_kの補正に使用されるから、第1実施形態と同様の効果が実現される。さらに、第n列の発光素子Eの階調データP[m,n]_kの補正に第(n±1)列の各発光素子Eの参照データR[m,n±1]_k-1が使用されるから、周囲の発光素子Eの温度の変化に起因した各発光素子Eの階調の誤差も低減されるという利点がある。
【0048】
<C:第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図6は、第3実施形態の動作のフローチャートである。階調データP[m,n]_kが上位装置から供給されるたびに補正回路42が図6の処理を実行する。垂直走査期間F[k]内の階調データP[m,n]_kの供給時に、過去の補正階調データQ[m,n]_k-1に相当する参照データR[m,n]_k-1が補正回路42に供給される動作は第1実施形態と同様である。
【0049】
図6に示すように、補正回路42は、記憶回路50から供給される参照データR[m,n]_k-1の数値が閾値DTH_Lを下回るか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1の結果が肯定である場合(R[m,n]_k-1<DTH_L)、補正回路42は、所定の係数γ1を階調データP[m,n]_kに乗算することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する(ステップS2)。係数γ1は例えば1に設定される。したがって、ステップS2では階調データP[m,n]_kがそのままの内容で補正階調データQ[m,n]_kとして出力される(ステップS2)。
【0050】
ステップS1の結果が否定である場合、補正回路42は、参照データR[m,n]_k-1の数値が閾値DTH_Hを下回るか否かを判定する(ステップS3)。閾値DTH_Hは、閾値DTH_Lを上回る数値に設定される。ステップS3の結果が肯定である場合(DTH_L≦R[m,n]_k-1<DTH_H)、補正回路42は、所定の係数γ2を階調データP[m,n]_kに乗算することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する(ステップS4)。係数γ2は、ステップS2の係数γ1を下回る数値に設定される(γ2<γ1=1)。したがって、参照データR[m,n]_k-1が閾値DTH_Lから閾値DTH_Hまでの中間調を指定する場合(S3:YES)の補正階調データQ[m,n]_kは、参照データR[m,n]_k-1の数値がゼロから閾値DTH_Lまでの低階調を指定する場合(S1:YES)の補正階調データQ[m,n]_kを下回る。
【0051】
一方、ステップS3の結果が否定である場合(R[m,n]_k-1≧DTH_H)、補正回路42は、所定の係数γ3を階調データP[m,n]_kに乗算することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する(ステップS5)。係数γ3は、ステップS4の係数γ2を下回る数値に設定される(γ3<γ2<γ1)。したがって、参照データR[m,n]_k-1が閾値DTH_Hを上回る高階調を指定する場合(S3:NO)の補正階調データQ[m,n]_kは、参照データR[m,n]_k-1が閾値DTH_Lから閾値DTH_Hまでの中間調を指定する場合(S3:YES)の補正階調データQ[m,n]_kを下回る。以上のように、画素回路PXに対して過去に指定された階調が高いほど、補正階調データQの階調が低くなるように階調データPが補正される。したがって、第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0052】
以上に例示した閾値(DTH_L,DTH_H)や係数(γ1〜γ3)は、階調データP[m,n]_kから補正階調データQ[m,n]_kへの変化が発光素子Eの階調の変化に過度に影響しないように(例えば、発光素子Eの階調の変化が観察者に知覚されないように)、実験的または統計的に選定される。なお、参照データR[m,n]_k-1の数値の範囲を区分した区間毎に別個の係数(γ1〜γ3)を適用する以上の構成では、参照データR[m,n]_k-1が1個の区間内で変化した場合でも、補正に適用される係数は変化しない。したがって、補正前の階調データP[m,n]_kと補正階調データQ[m,n]_kとの関係を参照データR[m,n]_k-1に応じて精緻に制御するという観点からすると、参照データR[m,n]_k-1の数値の範囲を更に細分化することが望ましい。ただし、参照データR[m,n]_k-1の数値の範囲が細分化されるほど補正回路42による判定の回数が増加する。一方、第1実施形態や第2実施形態のように補正階調データQ[m,n]_kの演算の変数として直接的に参照データR[m,n]_k-1を使用する態様では、参照データR[m,n]_k-1の大小の判定を不要としながら、階調データP[m,n]_kと補正階調データQ[m,n]_kとの関係を参照データR[m,n]_k-1に応じて精緻に制御できるという利点がある。
【0053】
以上の例示から理解されるように、参照データR[m,n]_k-1を変数とする演算で補正階調データQ[m,n]_kを算定する態様(第1実施形態や第2実施形態)に加えて、補正階調データQ[m,n]_kの算定に適用される係数(γ1〜γ3)を決定するための判定に参照データR[m,n]_k-1を利用する態様(すなわち、補正階調データQ[m,n]_kの演算に直接的には参照データR[m,n]_k-1を使用しない態様)も本発明は包含する。
【0054】
<D:変形例>
以上の各形態は様々に変形される。各形態に対する変形の具体的な態様を以下に例示する。なお、以下の例示から2以上の態様を任意に選択して組合わせてもよい。
【0055】
(1)変形例1
以上の各形態においては、複数の画素回路PXがx方向およびy方向にわたって行列状に配列された発光装置100を例示したが、図7に示すように、N個の画素回路PXがx方向のみに配列された発光装置100Aにも本発明は適用される。各画素回路PXを行単位で選択する必要は無いから、発光装置100Aにおいては図1の走査線12や走査線駆動回路32が省略される。信号線駆動回路34は、水平走査期間H[m]における階調信号X[n]の電位V[n]を補正階調データQ[n]_mに応じて制御する。以上の発光装置100Aは、例えば、電子写真方式の画像形成装置の像担持体(例えば感光体ドラム)を露光する露光装置として利用される。
【0056】
水平走査期間H[m]内の第n列の画素回路PXの階調データP[n]_mが上位装置から補正回路42に供給される時点では、図7に示すように、直前の水平走査期間H[m-1]における当該画素回路PXの補正階調データQ[n]_m-1に応じた参照データR[n]_m-1が補正回路42に供給される。補正階調データQ[n]_m-1は、分配回路342の各転送回路62による転送で、補正回路42による生成から水平走査期間Hの時間だけ遅延したうえで、階調データP[n]_mの補正のために補正回路42に供給される。図7のように補正階調データQを分配回路342のN個の転送回路62で順次に転送する構成では、分配回路342に対する補正階調データQの入力から出力までに水平走査期間Hが経過するから、第N段の転送回路62から出力された補正階調データQ[n]_m-1が参照データR[n]_m-1として順次に補正回路42に供給される。したがって、図1の記憶回路50は不要である。
【0057】
なお、水平走査期間H[m]における第n列の画素回路PXの階調データP[n]の補正に、直前の水平走査期間H[m-1]における第n列の画素回路PXの階調データP[n]_m-1と、当該画素回路PXに隣接する画素回路PXの階調データP(P[n±1]_m-1)とを利用する第2実施形態の構成や、補正階調データQ[n]_m-1の数値の範囲に応じた係数を階調データP[n]_mの補正に利用する第3実施形態の構成は、N個の画素回路PXを単列に配置した図7の構成にも同様に適用される。
【0058】
(2)変形例2
以上の形態においては、補正階調データQを参照データRとして階調データPの補正に利用したが、補正階調データQと参照データRとが共通する必要はない。例えば、補正階調データQ[m,n]_kのビット列のうちの一部のビット(例えば上位に位置する1個以上のビット)のみが参照データR[m,n]_kとして階調データPの補正に利用され得る。以上の構成によれば、記憶回路50に必要な容量や参照データRの伝送線の本数が削減されるという利点がある。また、補正階調データQ[m,n]_kに対する所定の処理で参照データR[m,n]_kを生成する構成も採用される。
【0059】
また、階調データPを補正する方法は適宜に変更される。例えば、以上の各形態においては、階調データP[m,n]_kと係数(α,β,γ1〜γ3)との乗算で補正階調データQ[m,n]_kを生成したが、階調データP[m,n]_kと係数(α,β,γ1〜γ3)との加算や減算で補正階調データQ[m,n]_kを生成する構成も採用される。以上の説明から理解されるように、各形態における補正回路42は、発光素子Eの過去の補正階調データQ[m,n]_k-1に対応した参照データR[m,n]_k-1を利用して当該発光素子Eの階調データP[m,n]_kを補正する要素として包括される。
【0060】
(3)変形例3
以上の各形態においては、補正回路42が生成した補正階調データQを分配回路342の各転送回路62で転送したうえで記憶回路50に格納する構成を例示したが、補正回路42が生成した補正階調データQを直接に記憶回路50に供給して参照データRとして保持する構成も採用される。ただし、補正階調データQを補正回路42から直接に記憶回路50に供給する構成では、各転送回路62による転送による遅延が補正階調データQに付与されないから、記憶回路50には、走査線12の本数に相当するM段の記憶部52が必要となる。他方、以上の各形態においては、各転送回路62による補正階調データQの転送後に参照データRが記憶回路50に格納される(すなわち、水平走査期間Hに相当する遅延が分配回路342にて付与される)から、記憶回路50に必要な記憶部52の段数は(M-1)段である。すなわち、以上の各形態によれば、補正階調データQを補正回路42から直接に記憶回路50に供給する構成と比較して、記憶回路50に必要な容量が削減されるという利点がある。
【0061】
(4)変形例4
第2実施形態において、第m行の第n列に位置する画素回路PXの階調データP[m,n]_kの補正に利用される参照データRは、第(n-1)列の参照データR[m,n-1]_k-1や第(n+1)列の参照データR[m,n+1]に限定されない。例えば、第m行の第n列に位置する画素回路PXの階調データP[m,n]_kの補正には、当該画素回路PXのy方向の負側に位置する画素回路PXの参照データR[m-1,n]_k-1や、y方向の正側に位置する画素回路PXの参照データR[m+1,n]_k-1が利用され得る。
【0062】
階調データP[m,n]_kの補正に利用される参照データRの個数も任意に変更される。例えば、第m行の第n列に位置する画素回路PXの階調データP[m,n]_kの補正に、当該画素回路PXに対してx方向の両側に位置する各画素回路PXの参照データR[m,n±1]_k-1と、y方向の両側に位置する各画素回路PXの参照データR[m±1,n]_k-1とを利用する形態も採用される。また、第m行の第n列の画素回路PXに対してx方向の負側に位置する複数の画素回路PXの参照データR(例えばR[m,n-2]_k-1,R[m,m-1]_k-1)と、x方向の正側に位置する複数の画素回路PXの参照データR(例えばR[m,n+1]_k-1,R[m,n+2]_k-1)とを、階調データP[m,n]_kの補正に利用してもよい。
【0063】
(5)変形例5
有機EL素子は発光素子の例示に過ぎない。例えば、無機EL素子やLED(Light Emitting Diode)素子などの発光素子が配列された発光装置にも以上の各態様と同様に本発明が適用される。すなわち、本発明における発光素子は、電気エネルギの供給で発光する被駆動素子(典型的には電流駆動型の自発光素子)として包括される。
【0064】
<E:応用例>
次に、以上の各態様に係る発光装置100を利用した電子機器について説明する。図8ないし図10には、発光装置100を表示装置として採用した電子機器の形態が図示されている。
【0065】
図8は、発光装置100を採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、各種の画像を表示する発光装置100と、電源スイッチ2001やキーボード2002が設置された本体部2010とを具備する。
【0066】
図9は、発光装置100を適用した携帯電話機の構成を示す斜視図である。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002と、各種の画像を表示する発光装置100とを備える。スクロールボタン3002を操作することによって、発光装置100に表示される画面がスクロールされる。
【0067】
図10は、発光装置100を適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す斜視図である。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002と、各種の画像を表示する発光装置100とを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった様々な情報が発光装置100に表示される。
【0068】
なお、本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図8から図10に例示した機器のほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。また、本発明に係る発光装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、電子写真方式の画像形成装置において露光により感光体ドラムに潜像を形成する露光装置としても本発明の発光装置は利用される。
【符号の説明】
【0069】
100,100A……発光装置、10……画素部、12……走査線、14……信号線、PX……画素回路、E……発光素子、30……駆動回路、32……走査線駆動回路、34……信号線駆動回路、342……分配回路、344……出力回路、62……転送回路、64……保持回路、66……変換回路、40……制御回路、42……補正回路、50……記憶回路、52……記憶部、54,56……保持部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子などの発光素子を駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子の階調(輝度)を補正する技術が従来から提案されている。例えば、発光素子の電気的な特性(例えば両端間の電圧と階調または電流との関係)が温度に応じて変化するという性質を考慮して、特許文献1には、温度の変化に起因した発光素子の階調の誤差を補償する技術が開示されている。具体的には、走査線毎に設置された温度検出体(サーミスタ)の検出温度に応じて各走査線の電位を制御することで発光素子の階調の誤差が補償される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−214824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、発光素子の階調を補正する技術のもとでは、補正に必要な要素を設置することで発光装置の構成が複雑化または大型化するという問題がある。例えば、特許文献1の技術では、走査線毎に温度検出体が設置されるから、発光装置が大型化するとともに製造コストが増大する。以上の事情に鑑みて、本発明は、簡易な構成で発光素子の階調を補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る発光装置は、複数の信号線の各々に対応して配置されて階調信号に応じた階調に制御される複数の発光素子と、複数の発光素子の各々の階調データを順次に取得して補正階調データを生成する補正手段と、補正手段から順次に供給される補正階調データを信号線毎に分配するとともに分配後の各補正階調データに応じた階調信号を対応する信号線に出力する信号線駆動回路とを具備し、補正手段は、複数の発光素子の各々の階調データを、当該発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データを利用して補正する。以上の構成においては、過去の補正階調データに対応した参照データを利用して階調データが補正されるから、簡易な構成で発光素子の階調を補正することが可能である。
【0006】
例えば、参照データに対応する過去の補正階調データの示す階調が高いほど、新たな補正階調データの示す階調が低くなるように、補正手段が階調データを補正する構成によれば、発光素子の温度を検出する要素(例えばサーミスタ)を必要とせずに、各発光素子の温度の変化に起因した階調の誤差を低減することが可能である。例えば、補正手段は、参照データの示す階調が高いほど小さくなるように算定された係数を乗算することで階調データを補正する。また、補正手段による補正後の補正階調データが信号線毎に分配される(すなわち、各信号線に対応する複数の補正階調データの生成に補正手段が共用される)から、分配後の階調データを補正する構成と比較して、補正手段の個数が削減されるという利点もある。
【0007】
本発明の好適な態様において、複数の発光素子は、複数の走査線と複数の信号線との各交差に対応して配列され、複数の走査線の各々を順次に選択する走査線駆動回路と、補正手段が生成した補正階調データに応じた参照データを保持する記憶回路とを具備し、信号線駆動回路は、走査線の選択に同期して順次に階調信号を出力し、補正手段は、参照データを記憶回路から取得して階調データを補正する。以上の構成においては、参照データが記憶回路に保持されるから、補正手段が特定の画素回路の階調データを補正する適切な時点で、当該画素回路の過去の補正階調データに応じた参照データを補正回路が取得できるという利点がある。
【0008】
さらに好適な態様において、信号線駆動回路は、補正手段から供給される補正階調データを順次に後段に転送する複数の転送回路を含み、記憶回路は、複数の転送回路による転送後の補正階調データに応じた参照データを保持する。以上の態様においては、複数の転送回路による転送で補正階調データが遅延するから、補正回路による生成の直後の補正階調データに応じた参照データが記憶回路に保持される構成(記憶回路による参照データの保持前に補正階調データに遅延が付与されない構成)と比較して、参照データを所定の時点まで遅延させるために記憶回路に必要となる容量が削減されるという利点がある。
【0009】
なお、補正階調データに対応した参照データを保持する構成は、補正階調データをそのまま参照データとして記憶回路に保持する構成と、補正階調データを所定の規則で変換した参照データを記憶回路に保持する構成とを包含する。後者の構成として、例えば、補正階調データのビット列のうちの一部のビット(例えば上位に位置する1以上のビット)を参照データとして保持する構成を採用すれば、記憶回路に必要な容量が削減されるという利点がある。
【0010】
本発明の好適な態様において、補正手段は、複数の発光素子のうちの一の発光素子の階調データを、当該一の発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データと、当該一の発光素子に隣合う少なくとも1個の発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データとを利用して補正する。以上の態様においては、一の発光素子の階調データの補正に他の発光素子の参照データが使用されるから、周囲の発光素子の温度の変化に起因した各発光素子の階調の誤差も低減される。例えば、補正手段は、一の発光素子の一方側に位置する発光素子の参照データと、一の発光素子の他方側に位置する発光素子の参照データとの加算値が大きいほど小さくなるように算定された係数を乗算することで一の発光素子の階調データを補正する。
【0011】
補正手段による補正の方法は、参照データを変数とした演算に限定されない。具体的には、補正後の階調データの生成に参照データを直接的には使用しない構成も採用される。例えば、補正手段は、複数の範囲のうち過去の階調データに対応した参照データの数値が属する範囲について設定された係数を使用して階調データを補正する。
【0012】
本発明に係る発光装置は各種の電子機器に利用される。電子機器の典型例は、発光装置を表示装置として利用した機器である。本発明に係る電子機器としてはパーソナルコンピュータや携帯電話機が例示される。もっとも、本発明に係る発光装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(露光ヘッド)としても本発明の発光装置が適用される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発光装置のブロック図である。
【図2】発光装置の動作のタイミングチャートである。
【図3】画素回路の回路図である。
【図4】信号線駆動回路および記憶回路のブロック図である。
【図5】第2実施形態における信号線駆動回路および記憶回路のブロック図である。
【図6】第3実施形態における補正回路の動作のフローチャートである。
【図7】変形例に係る発光装置のブロック図である。
【図8】電子機器(パーソナルコンピュータ)の斜視図である。
【図9】電子機器(携帯電話機)の斜視図である。
【図10】電子機器(携帯情報端末)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る発光装置のブロック図である。発光装置100は、画像を表示する表示装置として電子機器に搭載される。図1に示すように、発光装置100は、発光素子Eを含む複数の画素回路PXが配列された画素部(表示領域)10と、各画素回路PXを駆動する駆動回路30と、駆動回路30を制御する制御回路40と、発光素子Eの輝度の補正に使用されるデータを保持する記憶回路50とを具備する。駆動回路30は、走査線駆動回路32と信号線駆動回路34とを含んで構成される。
【0015】
画素部10には、x方向に延在するM本の走査線12と、x方向に交差するy方向に延在するN本の信号線14とが形成される(MおよびNは自然数)。各画素回路PXは、走査線12と信号線14との各交差に対応して配置され、x方向およびy方向に沿って縦M行×横N列の行列状に配列する。なお、以下の説明においては、第m行(m=1〜M)に関連する要素の符号に便宜的に添字[m]を付加し、第m行の第n列(n=1〜N)に関連する要素の符号に便宜的に添字[m,n]を付加する場合がある。
【0016】
制御回路40は、各画素回路PXの駆動に使用される信号を駆動回路30に出力する。例えば、制御回路40は、図2の垂直走査期間F(……,F[k-1],F[k],……)や水平走査期間H(H[1],……,H[m-1],H[m],H[m+1],……,H[M])を規定する同期信号を走査線駆動回路32および信号線駆動回路34に供給する。また、制御回路40は、各行のN個の画素回路PXの各々に割当てられた期間(ドット周期)を規定するクロック信号(ドットクロック)CLXや、図2のように水平走査期間Hの始点を規定するラッチ信号LPを生成して信号線駆動回路34に供給する。なお、以下の説明においては、垂直走査期間F[k]に関連する要素の符号に便宜的に添字_kを付加する場合がある。
【0017】
図1の走査線駆動回路32は、M系統の走査信号Y(Y[1]〜Y[M])の出力でM本の走査線12の各々を順次に選択する。図2に示すように、第m行の走査線12に出力される走査信号Y[m]は、各垂直走査期間F内の第m番目の水平走査期間H[m]にて選択電位(走査線12の選択を意味するアクティブレベル)に制御され、水平走査期間H[m]以外で非選択電位(非アクティブレベル)に維持される。
【0018】
図1の制御回路40には、各画素回路PXの階調(発光素子Eの輝度)を指定する階調データPが上位装置(図示略)から順次に供給される。図2に示すように、第m行に位置するN個の画素回路PXの各々の階調データP(P[m,1]〜P[m,N])は、第m行が選択される水平走査期間H[m]の直前の水平走査期間H[m-1]内に、第N列から第1列に向かう順番(P[m,N]→P[m,N-1]→……→P[m,2]→P[m,1])でクロック信号CLXに同期して制御回路40に供給される。階調データPは、例えば、最低階調を意味するゼロから最高階調を意味する255までの256段階の何れかの数値を指定する8ビットのデジタルデータである。
【0019】
図1に示すように、制御回路40は、階調データPを補正する補正回路42を含んで構成される。補正回路42は、1個の画素回路PXの階調データPが上位装置から供給されるたびに当該階調データPを補正して出力する。補正回路42による補正後の階調データ(以下「補正階調データ」という)Qは順次に信号線駆動回路34に供給される。例えば、第m行に位置するN個の画素回路PXの各々の補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]は、図2に示すように、水平走査期間H[m-1]において、第N列から第1列に向かう順番(Q[m,N]→Q[m,N-1]→……→Q[m,2]→Q[m,1])でクロック信号CLXに同期して順次に信号線駆動回路34に出力される。なお、図1では補正回路42を制御回路40に搭載したが、補正回路42は制御回路40とは別個の回路として実装され得る。
【0020】
図1の信号線駆動回路34は、各画素回路PXに階調を指示する階調信号X(X[1]〜X[N])を走査線駆動回路32による走査線12の選択に同期してN本の信号線14の各々に出力する。具体的には、信号線駆動回路34は、制御回路40(補正回路42)から順次に供給される補正階調データQを信号線14毎のN系統に点順次で分配し、分配後の各系統の補正階調データQ(Q[m,1]〜Q[m,N])に応じた階調信号X(X[1]〜X[N])を生成してN本の信号線14に並列に出力する。図2に示すように、第m行の走査線12が選択される水平走査期間H[m]にて第n列の信号線14に出力される階調信号X[n]は、第m行の第n列に位置する画素回路PXの階調データP[m,n]に応じた電位V[m,n]に設定される。
【0021】
図3は、画素回路PXの回路図である。図3においては、第m行の第n列に位置する1個の画素回路PXのみが代表的に図示されている。図3に示すように、画素回路PXは、発光素子Eと駆動トランジスタTDRと選択スイッチTSLと保持容量Cとを含んで構成される。なお、駆動トランジスタTDRや選択スイッチTSLの導電型は、図3の例示から任意に変更される。
【0022】
発光素子Eと駆動トランジスタTDRとは、高位側電源VHと低位側電源(接地電位)VLとの間に直列に配置される。発光素子Eは、陽極と陰極との間に有機EL(Electroluminescence)材料の発光層を介在させた有機EL素子である。発光素子Eの陰極は低位側電源VLに接続される。発光素子Eは、駆動電流IDRの電流量に応じた輝度で発光する。
【0023】
駆動トランジスタTDRは、自身のゲートの電位に応じて駆動電流IDR(ソース−ドレイン間の電流)の電流量を制御するPチャネル型の薄膜トランジスタである。駆動トランジスタTDRのソースは高位側電源VHに接続され、ドレインは発光素子Eの陽極に接続される。
【0024】
保持容量Cは、駆動トランジスタTDRのゲートと高位側電源VH(または他の定電位線)との間に介在して駆動トランジスタTDRのゲートの電位を保持する。選択スイッチTSLは、駆動トランジスタTDRのゲートと第n列の信号線14との間に介在して両者の電気的な接続(導通/非導通)を制御するNチャネル型の薄膜トランジスタである。第m行の各画素回路PXの選択スイッチTSLのゲートは第m行の走査線12に接続される。
【0025】
走査信号Y[m]が水平走査期間H[m]にて選択電位に設定されると、第m行の各画素回路PXの選択スイッチTSLがオン状態に変化するから、信号線14に供給されている階調信号X[n]の電位V[m,n]が選択スイッチTSLを介して駆動トランジスタTDRのゲートに供給される。駆動トランジスタTDRのゲートの電位は、走査信号Y[m]が非選択電位に設定されることで選択スイッチTSLがオフ状態に遷移しても保持容量Cによって電位V[m,n]に保持される。以上の状態においては、駆動トランジスタTDRのゲートの電位V[m,n]に応じた電流量の駆動電流IDRが高位側電源VHから駆動トランジスタTDRを経由して発光素子Eに供給される。したがって、発光素子Eは、第m行の走査線12の選択時(水平走査期間H[m])における階調信号X[n]の電位V[m,n]に応じた階調(輝度)に制御される。
【0026】
図4は、信号線駆動回路34および記憶回路50のブロック図である。図4に示すように、信号線駆動回路34は、分配回路342と出力回路344とを含んで構成される。分配回路342は、制御回路40から順次に(シリアルに)供給される補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]をN系統に分配し、出力回路344は、分配回路342による分配後のN系統の補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]から階調信号X[1]〜X[N]を生成して各信号線14に出力する。分配回路342にはクロック信号CLXが供給され、出力回路344にはラッチ信号LPが供給される。
【0027】
分配回路342は、信号線14の本数に相当するN段の転送回路(例えばフリップフロップ)62で構成される。各転送回路62は、前段の転送回路62(第1段目の転送回路62については補正回路42)が出力する補正階調データQを、クロック信号CLXに同期した時点で順次に取込んで出力する。第m行の走査線12が選択される水平走査期間H[m]の始点では、図4に示すように、第m行のN個の画素回路PXの補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]が分配回路342から出力回路344に並列に出力される状態となる。
【0028】
出力回路344は、N段の保持回路64とN段の変換回路66とで構成される。各保持回路64には共通のラッチ信号LPが供給される。第n段目の保持回路64(例えばラッチ回路)は、第n段目の転送回路62が出力する補正階調データQ[m,n]を、制御回路40からのラッチ信号LPが規定する水平走査期間H[m]の始点にて取込むとともに当該補正階調データQ[m,n]の出力を維持する。第n段目の変換回路66(例えば電圧出力型のD/A変換器)は、第n段目の保持回路64が出力する補正階調データQ[m,n]に応じた電位V[m,n]の階調信号X[n]を生成して第n列目の信号線14に出力する。したがって、水平走査期間H[m]においては、図2に示すように、補正階調データQ[m,1]〜Q[m,N]に応じた階調信号X[1]〜X[N]がN本の信号線14に並列に出力される。
【0029】
図4の記憶回路50は、補正回路42が生成した補正階調データQ[m,n]を順次に参照データR[m,n]として保持するメモリである。記憶回路50に保持された参照データR[m,n]は、所定の時間だけ保持(遅延)されたうえで、クロック信号CLXに同期して記憶回路50から補正回路42に順次に出力される。具体的には、垂直走査期間F[k-1]における第m行の第n列の画素回路PXの補正階調データQ[m,n]_k-1は、参照データR[m,n]_k-1として記憶回路50に保持され、図2に示すように、直後の垂直走査期間F[k]における当該画素回路PXの階調データP[m,n]_kが補正回路42に供給される時点で、記憶回路50から補正回路42に出力される。
【0030】
図4に示すように、記憶回路50は、(M-1)段の記憶部52を含んで構成される。各記憶部52は、N個の参照データR(補正階調データQ)を保持できる容量のラインバッファ回路である。第1段目の記憶部52は、分配回路342のうち第N段目(最終段)の転送回路62がクロック信号CLXに同期して順次に出力する補正階調データQを取込んで参照データRとして保持する。例えば、分配回路342と同様に、分配回路342から出力される補正階調データQ[m,n]をクロック信号CLXに同期して順次にシフトするN段の転送回路が、第1段目の記憶部52として採用される。
【0031】
第2段目から第(M-2)段目までの各記憶部52は、ラッチ信号LPが規定する水平走査期間Hの始点において、前段の記憶部52が記憶するN個の参照データR(R[m,1]〜R[m.N])を並列に取込んで保持する。第(M-1)段目(最終段)の記憶部52は、第(M-2)段目の記憶部52が出力するN個の参照データR(R[m,1]〜R[m,N])をクロック信号CLXに同期して順次に出力する。したがって、図2に示すように、垂直走査期間F[k-1]内の階調データP[m,n]_k-1の補正(補正階調データQ[m,n]_k-1の生成)から垂直走査期間Fの時間が経過した時点t0では、垂直走査期間F[k]の階調データP[m,N]_kが上位装置から補正回路42に供給されると同時に、垂直走査期間F[k-1]の補正階調データQ[m,N]_k-1に相当する参照データR[m,N]_k-1が記憶回路50から補正回路42に供給される。
【0032】
補正回路42は、記憶回路50から供給される参照データR[m,n]_k-1(過去の補正階調データQ[m,n]_k-1)を利用して垂直走査期間F[k]内の階調データP[m,n]_kを補正することで、垂直走査期間F[k]内の画素回路PXの階調を指定する補正階調データQ[m,n]_kを生成する。具体的には、補正回路42は、参照データR[m,n]_k-1の示す階調が高いほど補正階調データQ[m,n]_kの示す階調が低くなるように、階調データP[m,n]_kを補正する。
【0033】
例えば、補正回路42は、以下の数式(1)の演算を実行することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する。数式(1)の係数αは、数式(1a)で定義されるように、参照データR[m,n]_k-1の示す数値(階調)が大きいほど小さくなるように算定される(α≦1)。
Q[m,n]_k=P[m,n]_k×α ……(1)
α=1−R[m,n]_k-1/d ……(1a)
【0034】
数式(1a)の除数dは、参照データR[m,n]_k-1が階調データP[m,n]_kの補正に寄与する度合の指標となる数値である。すなわち、除数dが小さいほど、補正階調データQ[m,n]_kに対する参照データR[m,n]_k-1の影響は大きくなる。除数dは、階調データP[m,n]_kから補正階調データQ[m,n]_kへの変化が発光素子Eの階調の変化に過度に影響しないように(例えば、発光素子Eの階調の変化が観察者に知覚されないように)、実験的または統計的に選定される。ただし、利用者が除数dを適宜に設定できる構成も好適である。また、除数dを2のべき乗とすれば、数式(1a)の除算を補正階調データQ[m,n]_k-1のビットシフトのみで実現できる(補正回路42の演算が簡素化される)という利点がある。
【0035】
いま、参照データR[m,n]_k-1がゼロから255までの範囲内で設定されることを考慮して除数dを1024(=210)に設定すると、係数αは、0.75以上かつ1以下の範囲内で可変に設定される。したがって、参照データR[m,n]_k-1が、最低階調(発光素子Eの非発光)を意味するゼロである場合、補正回路42が生成する補正階調データQ[m,n]_kは補正前の階調データP[m,n]_kから変化しない(α=1)。他方、参照データR[m,n]_k-1が、最低階調を意味する255である場合、補正回路42が生成する補正階調データQ[m,n]_kは、補正前の階調データP[m,n]_kに0.75を乗算した数値(階調)を指定する。
【0036】
以上の形態においては、画素回路PXに過去に指定された階調に応じて階調データPが補正される。具体的には、画素回路PXに過去に指定された階調が高いほど(すなわち発光素子Eに供給される駆動電流IDRの電流量が大きいほど)、補正階調データQの階調が低くなるように階調データPが補正される。したがって、垂直走査期間F[k-1]における補正階調データQ[m,n]_k-1の階調が高いほど、直後の垂直走査期間F[k]における補正階調データQ[m,n]_kの階調は低くなる。高階調に駆動されるほど(すなわち駆動電流IDRの電流量が大きいほど)発光素子Eの温度は上昇するから、第1実施形態によれば、駆動電流IDRの供給(すなわち発光)に起因した発光素子Eの温度の上昇が抑制される。すなわち、発光素子Eの温度の検出する要素(例えばサーミスタ)を必要とせずに、各発光素子Eの温度の変化に起因した階調の誤差を低減することが可能である。
【0037】
ところで、階調データPを補正する構成としては、各行の階調データP[m,1]〜P[m,N]をN系統に分配してから補正する構成(以下「対比例」という)も採用される。対比例においては、例えば、補正前の階調データPが制御回路40から分配回路342の第1段目の転送回路62に順次に供給され、第n段の転送回路62から出力される階調データP[m,n]_kを参照データR[m,n]_k-1に応じて補正して第n段の保持回路64に出力する補正回路が、第n段の転送回路62と第n段の保持回路64との間に配置される。しかし、対比例の構成ではN個の補正回路が必要であるから、信号線駆動回路34の回路規模や消費電力が増大するという問題がある。他方、第1実施形態においては、N列分の階調データP[m,1]〜P[m,N]の補正に共通の補正回路42が利用されるから、対比例と比較して信号線駆動回路34の回路規模や消費電力が削減されるという利点がある。
【0038】
<B:第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の各形態において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上と同じ符号を付して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0039】
図5は、第2実施形態における信号線駆動回路34および記憶回路50のブロック図である。第2実施形態の記憶回路50は、第1実施形態と同様の(M-1)段の記憶部52に加え、保持部54および保持部56を含んで構成される。保持部54は、第(M-1)段目(最終段)の記憶部52が出力する参照データRをクロック信号CLXに同期して順次に取込むとともに当該参照データRの出力を保持する。同様に、保持部56は、保持部54が出力する参照データRをクロック信号CLXに同期して順次に取込むとともに当該参照データRの出力を保持する。記憶回路50から出力される参照データRと保持部54から出力される参照データRと保持部56から出力される参照データRとが補正回路42に供給される。
【0040】
さらに詳述すると、第m行の第n列の画素回路PXの垂直走査期間F[k]における階調データP[m,n]_kが上位装置から補正回路42に供給される時点では、図5に示すように、当該画素回路PXの過去の補正階調データQ[m,n]_k-1に対応する参照データR[m,n]_k-1が保持部54から補正回路42に供給されるほか、参照データR[m,n-1]_k-1が記憶部52から補正回路42に供給され、参照データR[m,n+1]_k-1が保持部56から補正回路42に供給される。参照データR[m,n-1]_k-1は、第m行の第n列の画素回路PXに対してx方向の負側に位置する第(n-1)列目の画素回路PXの過去の補正階調データQ[m,n-1]_k-1に相当し、参照データR[m,n+1]_k-1は、第m行の第n列の画素回路PXに対してx方向の正側に位置する第(n+1)列目の画素回路PXの過去の補正階調データQ[m,n+1]_k-1に相当する。
【0041】
補正回路42は、垂直走査期間F[k-1]における第n列の参照データR[m,n]_k-1と第(n-1)列の参照データR[m,n-1]_k-1と第(n+1)列の参照データR[m,n+1]_k-1とに応じて階調データP[m,n]_kを補正することで垂直走査期間F[k]の補正階調データQ[m,n]_kを生成する。さらに詳述すると、補正回路42は、第n列(自列)の参照データR[m,n]_k-1の示す階調が高いほど、新たな補正階調データQ[m,n]_kの示す階調が低くなり、かつ、第(n-1)列の参照データR[m,n-1]_k-1または第(n+1)列の参照データR[m,n+1]_k-1が高いほど、新たな補正階調データQ[m,n]_kの示す階調が低くなるように、階調データP[m,n]_kを補正する。
【0042】
例えば、補正回路42は、以下の数式(2)の演算を実行することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する。数式(2)の係数βは数式(2a)で定義される。数式(2b)で定義されるように、第n列の参照データR[m,n]_k-1が大きいほど数式(2a)の係数β1は大きくなる(数式(2)の係数βは小さくなる)。また、数式(2c)で定義されるように、第(n-1)列の参照データR[m,n-1]_k-1と第(n+1)列の参照データR[m,n+1]_k-1との加算値が大きいほど数式(2a)の係数β2は大きくなる(数式(2)の係数βは小さくなる)。
Q[m,n]_k=P[m,n]_k×β ……(2)
β=1−(β1+β2) ……(2a)
β1=R[m,n]_k-1/d1 ……(2b)
β2=(R[m,n-1]_k-1+R[m,n+1]_k-1)/d2 ……(2c)
【0043】
なお、x方向の負側に画素回路PXが存在しない第1列の画素回路PXの階調データP[m,1]_kは、自列の参照データR[m,1]_k-1と第2列の参照データR[m,2]_k-1とに応じて補正される。すなわち、数式(2c)における参照データR[m,n-1]_k-1がゼロに設定される。同様に、第N列の画素回路PXに対してx方向の正側に画素回路PXは存在しないから、階調データP[m,N]_kは、第N列の参照データR[m,N]_k-1と第(N-1)列の参照データR[m,N-1]_k-1とに応じて補正される。すなわち、数式(2c)における参照データR[m,n+1]_k-1がゼロに設定される。
【0044】
数式(2b)の除数d1が小さいほど、参照データR[m,n]_k-1が階調データP[m,n]_kの補正に寄与する度合が大きくなる。同様に、数式(2c)の除数d2が小さいほど、参照データR[m,n-1]_k-1と参照データR[m,n+1]_k-1との加算値が階調データP[m,n]_kの補正に寄与する度合が大きくなる。除数d1および除数d2は、階調データP[m,n]_kから階調データQ[m,n]_kへの変化が発光素子Eの階調の変化に過度に影響しないように(例えば、発光素子Eの階調の変化が観察者に知覚されないように)、実験的または統計的に選定される。ただし、利用者が除数d1や除数d2を適宜に設定できる構成も好適である。
【0045】
発光素子Eの電気的な特性は、他の発光素子Eの温度の上昇よりも自身の温度の上昇の影響を強く受ける。そこで、他の画素回路PXの参照データR[m,n±1]_k-1よりも自身の参照データR[m,n]_k-1のほうが階調データP[m,n]_kの補正に寄与する度合が大きくなるように、除数d1は除数d2よりも小さい数値に設定される。また、除数d1や除数d2を2のべき乗に設定すれば、数式(2b)や数式(2c)の除算を参照データRのビットシフトのみで実現できるという利点がある。
【0046】
例えば、除数d1を1024(=210)に設定するとともに除数d2を4096(=212)に設定すると、数式(2b)の係数β1はゼロ以上かつ0.25以下の数値となり、数式(2c)の係数β2はゼロ以上かつ0.12以下の数値となる。したがって、係数βは、0.63(=1−(0.25+0.12))以上かつ1以下の範囲内で可変に設定される。すなわち、第n列の参照データR[m,n]_k-1および隣接列の参照データR[m,n±1]_k-1の双方が最低階調を意味するゼロである場合、第n列の補正階調データQ[m,n]_kは補正前の階調データP[m,n]_kから変化しない(β=1)。一方、参照データR[m,n]_k-1および参照データR[m,n±1]_k-1の双方が最高階調を意味する255である場合、第n列の補正階調データQ[m,n]_kは、補正前の階調データP[m,n]_kに0.63を乗算した数値(階調)を指定する。
【0047】
第2実施形態においては、各発光素子Eの過去の補正階調データQ[m,n]_k-1に対応する参照データR[m,n]_k-1が階調データP[m,n]_kの補正に使用されるから、第1実施形態と同様の効果が実現される。さらに、第n列の発光素子Eの階調データP[m,n]_kの補正に第(n±1)列の各発光素子Eの参照データR[m,n±1]_k-1が使用されるから、周囲の発光素子Eの温度の変化に起因した各発光素子Eの階調の誤差も低減されるという利点がある。
【0048】
<C:第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図6は、第3実施形態の動作のフローチャートである。階調データP[m,n]_kが上位装置から供給されるたびに補正回路42が図6の処理を実行する。垂直走査期間F[k]内の階調データP[m,n]_kの供給時に、過去の補正階調データQ[m,n]_k-1に相当する参照データR[m,n]_k-1が補正回路42に供給される動作は第1実施形態と同様である。
【0049】
図6に示すように、補正回路42は、記憶回路50から供給される参照データR[m,n]_k-1の数値が閾値DTH_Lを下回るか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1の結果が肯定である場合(R[m,n]_k-1<DTH_L)、補正回路42は、所定の係数γ1を階調データP[m,n]_kに乗算することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する(ステップS2)。係数γ1は例えば1に設定される。したがって、ステップS2では階調データP[m,n]_kがそのままの内容で補正階調データQ[m,n]_kとして出力される(ステップS2)。
【0050】
ステップS1の結果が否定である場合、補正回路42は、参照データR[m,n]_k-1の数値が閾値DTH_Hを下回るか否かを判定する(ステップS3)。閾値DTH_Hは、閾値DTH_Lを上回る数値に設定される。ステップS3の結果が肯定である場合(DTH_L≦R[m,n]_k-1<DTH_H)、補正回路42は、所定の係数γ2を階調データP[m,n]_kに乗算することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する(ステップS4)。係数γ2は、ステップS2の係数γ1を下回る数値に設定される(γ2<γ1=1)。したがって、参照データR[m,n]_k-1が閾値DTH_Lから閾値DTH_Hまでの中間調を指定する場合(S3:YES)の補正階調データQ[m,n]_kは、参照データR[m,n]_k-1の数値がゼロから閾値DTH_Lまでの低階調を指定する場合(S1:YES)の補正階調データQ[m,n]_kを下回る。
【0051】
一方、ステップS3の結果が否定である場合(R[m,n]_k-1≧DTH_H)、補正回路42は、所定の係数γ3を階調データP[m,n]_kに乗算することで補正階調データQ[m,n]_kを算定する(ステップS5)。係数γ3は、ステップS4の係数γ2を下回る数値に設定される(γ3<γ2<γ1)。したがって、参照データR[m,n]_k-1が閾値DTH_Hを上回る高階調を指定する場合(S3:NO)の補正階調データQ[m,n]_kは、参照データR[m,n]_k-1が閾値DTH_Lから閾値DTH_Hまでの中間調を指定する場合(S3:YES)の補正階調データQ[m,n]_kを下回る。以上のように、画素回路PXに対して過去に指定された階調が高いほど、補正階調データQの階調が低くなるように階調データPが補正される。したがって、第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0052】
以上に例示した閾値(DTH_L,DTH_H)や係数(γ1〜γ3)は、階調データP[m,n]_kから補正階調データQ[m,n]_kへの変化が発光素子Eの階調の変化に過度に影響しないように(例えば、発光素子Eの階調の変化が観察者に知覚されないように)、実験的または統計的に選定される。なお、参照データR[m,n]_k-1の数値の範囲を区分した区間毎に別個の係数(γ1〜γ3)を適用する以上の構成では、参照データR[m,n]_k-1が1個の区間内で変化した場合でも、補正に適用される係数は変化しない。したがって、補正前の階調データP[m,n]_kと補正階調データQ[m,n]_kとの関係を参照データR[m,n]_k-1に応じて精緻に制御するという観点からすると、参照データR[m,n]_k-1の数値の範囲を更に細分化することが望ましい。ただし、参照データR[m,n]_k-1の数値の範囲が細分化されるほど補正回路42による判定の回数が増加する。一方、第1実施形態や第2実施形態のように補正階調データQ[m,n]_kの演算の変数として直接的に参照データR[m,n]_k-1を使用する態様では、参照データR[m,n]_k-1の大小の判定を不要としながら、階調データP[m,n]_kと補正階調データQ[m,n]_kとの関係を参照データR[m,n]_k-1に応じて精緻に制御できるという利点がある。
【0053】
以上の例示から理解されるように、参照データR[m,n]_k-1を変数とする演算で補正階調データQ[m,n]_kを算定する態様(第1実施形態や第2実施形態)に加えて、補正階調データQ[m,n]_kの算定に適用される係数(γ1〜γ3)を決定するための判定に参照データR[m,n]_k-1を利用する態様(すなわち、補正階調データQ[m,n]_kの演算に直接的には参照データR[m,n]_k-1を使用しない態様)も本発明は包含する。
【0054】
<D:変形例>
以上の各形態は様々に変形される。各形態に対する変形の具体的な態様を以下に例示する。なお、以下の例示から2以上の態様を任意に選択して組合わせてもよい。
【0055】
(1)変形例1
以上の各形態においては、複数の画素回路PXがx方向およびy方向にわたって行列状に配列された発光装置100を例示したが、図7に示すように、N個の画素回路PXがx方向のみに配列された発光装置100Aにも本発明は適用される。各画素回路PXを行単位で選択する必要は無いから、発光装置100Aにおいては図1の走査線12や走査線駆動回路32が省略される。信号線駆動回路34は、水平走査期間H[m]における階調信号X[n]の電位V[n]を補正階調データQ[n]_mに応じて制御する。以上の発光装置100Aは、例えば、電子写真方式の画像形成装置の像担持体(例えば感光体ドラム)を露光する露光装置として利用される。
【0056】
水平走査期間H[m]内の第n列の画素回路PXの階調データP[n]_mが上位装置から補正回路42に供給される時点では、図7に示すように、直前の水平走査期間H[m-1]における当該画素回路PXの補正階調データQ[n]_m-1に応じた参照データR[n]_m-1が補正回路42に供給される。補正階調データQ[n]_m-1は、分配回路342の各転送回路62による転送で、補正回路42による生成から水平走査期間Hの時間だけ遅延したうえで、階調データP[n]_mの補正のために補正回路42に供給される。図7のように補正階調データQを分配回路342のN個の転送回路62で順次に転送する構成では、分配回路342に対する補正階調データQの入力から出力までに水平走査期間Hが経過するから、第N段の転送回路62から出力された補正階調データQ[n]_m-1が参照データR[n]_m-1として順次に補正回路42に供給される。したがって、図1の記憶回路50は不要である。
【0057】
なお、水平走査期間H[m]における第n列の画素回路PXの階調データP[n]の補正に、直前の水平走査期間H[m-1]における第n列の画素回路PXの階調データP[n]_m-1と、当該画素回路PXに隣接する画素回路PXの階調データP(P[n±1]_m-1)とを利用する第2実施形態の構成や、補正階調データQ[n]_m-1の数値の範囲に応じた係数を階調データP[n]_mの補正に利用する第3実施形態の構成は、N個の画素回路PXを単列に配置した図7の構成にも同様に適用される。
【0058】
(2)変形例2
以上の形態においては、補正階調データQを参照データRとして階調データPの補正に利用したが、補正階調データQと参照データRとが共通する必要はない。例えば、補正階調データQ[m,n]_kのビット列のうちの一部のビット(例えば上位に位置する1個以上のビット)のみが参照データR[m,n]_kとして階調データPの補正に利用され得る。以上の構成によれば、記憶回路50に必要な容量や参照データRの伝送線の本数が削減されるという利点がある。また、補正階調データQ[m,n]_kに対する所定の処理で参照データR[m,n]_kを生成する構成も採用される。
【0059】
また、階調データPを補正する方法は適宜に変更される。例えば、以上の各形態においては、階調データP[m,n]_kと係数(α,β,γ1〜γ3)との乗算で補正階調データQ[m,n]_kを生成したが、階調データP[m,n]_kと係数(α,β,γ1〜γ3)との加算や減算で補正階調データQ[m,n]_kを生成する構成も採用される。以上の説明から理解されるように、各形態における補正回路42は、発光素子Eの過去の補正階調データQ[m,n]_k-1に対応した参照データR[m,n]_k-1を利用して当該発光素子Eの階調データP[m,n]_kを補正する要素として包括される。
【0060】
(3)変形例3
以上の各形態においては、補正回路42が生成した補正階調データQを分配回路342の各転送回路62で転送したうえで記憶回路50に格納する構成を例示したが、補正回路42が生成した補正階調データQを直接に記憶回路50に供給して参照データRとして保持する構成も採用される。ただし、補正階調データQを補正回路42から直接に記憶回路50に供給する構成では、各転送回路62による転送による遅延が補正階調データQに付与されないから、記憶回路50には、走査線12の本数に相当するM段の記憶部52が必要となる。他方、以上の各形態においては、各転送回路62による補正階調データQの転送後に参照データRが記憶回路50に格納される(すなわち、水平走査期間Hに相当する遅延が分配回路342にて付与される)から、記憶回路50に必要な記憶部52の段数は(M-1)段である。すなわち、以上の各形態によれば、補正階調データQを補正回路42から直接に記憶回路50に供給する構成と比較して、記憶回路50に必要な容量が削減されるという利点がある。
【0061】
(4)変形例4
第2実施形態において、第m行の第n列に位置する画素回路PXの階調データP[m,n]_kの補正に利用される参照データRは、第(n-1)列の参照データR[m,n-1]_k-1や第(n+1)列の参照データR[m,n+1]に限定されない。例えば、第m行の第n列に位置する画素回路PXの階調データP[m,n]_kの補正には、当該画素回路PXのy方向の負側に位置する画素回路PXの参照データR[m-1,n]_k-1や、y方向の正側に位置する画素回路PXの参照データR[m+1,n]_k-1が利用され得る。
【0062】
階調データP[m,n]_kの補正に利用される参照データRの個数も任意に変更される。例えば、第m行の第n列に位置する画素回路PXの階調データP[m,n]_kの補正に、当該画素回路PXに対してx方向の両側に位置する各画素回路PXの参照データR[m,n±1]_k-1と、y方向の両側に位置する各画素回路PXの参照データR[m±1,n]_k-1とを利用する形態も採用される。また、第m行の第n列の画素回路PXに対してx方向の負側に位置する複数の画素回路PXの参照データR(例えばR[m,n-2]_k-1,R[m,m-1]_k-1)と、x方向の正側に位置する複数の画素回路PXの参照データR(例えばR[m,n+1]_k-1,R[m,n+2]_k-1)とを、階調データP[m,n]_kの補正に利用してもよい。
【0063】
(5)変形例5
有機EL素子は発光素子の例示に過ぎない。例えば、無機EL素子やLED(Light Emitting Diode)素子などの発光素子が配列された発光装置にも以上の各態様と同様に本発明が適用される。すなわち、本発明における発光素子は、電気エネルギの供給で発光する被駆動素子(典型的には電流駆動型の自発光素子)として包括される。
【0064】
<E:応用例>
次に、以上の各態様に係る発光装置100を利用した電子機器について説明する。図8ないし図10には、発光装置100を表示装置として採用した電子機器の形態が図示されている。
【0065】
図8は、発光装置100を採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、各種の画像を表示する発光装置100と、電源スイッチ2001やキーボード2002が設置された本体部2010とを具備する。
【0066】
図9は、発光装置100を適用した携帯電話機の構成を示す斜視図である。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002と、各種の画像を表示する発光装置100とを備える。スクロールボタン3002を操作することによって、発光装置100に表示される画面がスクロールされる。
【0067】
図10は、発光装置100を適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す斜視図である。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002と、各種の画像を表示する発光装置100とを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった様々な情報が発光装置100に表示される。
【0068】
なお、本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図8から図10に例示した機器のほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。また、本発明に係る発光装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、電子写真方式の画像形成装置において露光により感光体ドラムに潜像を形成する露光装置としても本発明の発光装置は利用される。
【符号の説明】
【0069】
100,100A……発光装置、10……画素部、12……走査線、14……信号線、PX……画素回路、E……発光素子、30……駆動回路、32……走査線駆動回路、34……信号線駆動回路、342……分配回路、344……出力回路、62……転送回路、64……保持回路、66……変換回路、40……制御回路、42……補正回路、50……記憶回路、52……記憶部、54,56……保持部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の信号線の各々に対応して配置されて階調信号に応じた階調に制御される複数の発光素子と、
前記複数の発光素子の各々の階調データを順次に取得して補正階調データを生成する補正手段と、
前記補正手段から順次に供給される前記補正階調データを前記信号線毎に分配するとともに分配後の各補正階調データに応じた前記階調信号を対応する信号線に出力する信号線駆動回路とを具備し、
前記補正手段は、複数の発光素子の各々の階調データを、当該発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データを利用して補正する
発光装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記参照データに対応する前記過去の補正階調データの示す階調が高いほど、新たな補正階調データの示す階調が低くなるように、前記階調データを補正する
請求項1の発光装置。
【請求項3】
前記複数の発光素子は、複数の走査線と前記複数の信号線との各交差に対応して配列され、
前記複数の走査線の各々を順次に選択する走査線駆動回路と、
前記補正手段が生成した補正階調データに応じた参照データを保持する記憶回路とを具備し、
前記信号線駆動回路は、前記走査線の選択に同期して順次に前記階調信号を出力し、
前記補正手段は、前記参照データを前記記憶回路から取得して階調データを補正する
請求項1または請求項2の発光装置。
【請求項4】
前記信号線駆動回路は、前記補正手段から供給される補正階調データを順次に後段に転送する複数の転送回路を含み、
前記記憶回路は、前記複数の転送回路による転送後の補正階調データに応じた参照データを保持する
請求項3の発光装置。
【請求項5】
前記記憶回路は、前記補正階調データのビット列のうちの一部のビットを前記参照データとして記憶する
請求項3または請求項4の発光装置。
【請求項6】
前記補正手段は、前記複数の発光素子のうちの一の発光素子の階調データを、当該一の発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データと、当該一の発光素子に隣合う少なくとも1個の発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データとを利用して補正する
請求項1から請求項5の何れかの発光装置。
【請求項7】
前記補正手段は、前記一の発光素子の一方側に位置する発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データと、前記一の発光素子の他方側に位置する発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データとの加算値が大きいほど小さくなるように算定された係数を乗算することで前記一の発光素子の階調データを補正する
請求項6の発光装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかの発光装置を具備する電子機器。
【請求項1】
複数の信号線の各々に対応して配置されて階調信号に応じた階調に制御される複数の発光素子と、
前記複数の発光素子の各々の階調データを順次に取得して補正階調データを生成する補正手段と、
前記補正手段から順次に供給される前記補正階調データを前記信号線毎に分配するとともに分配後の各補正階調データに応じた前記階調信号を対応する信号線に出力する信号線駆動回路とを具備し、
前記補正手段は、複数の発光素子の各々の階調データを、当該発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データを利用して補正する
発光装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記参照データに対応する前記過去の補正階調データの示す階調が高いほど、新たな補正階調データの示す階調が低くなるように、前記階調データを補正する
請求項1の発光装置。
【請求項3】
前記複数の発光素子は、複数の走査線と前記複数の信号線との各交差に対応して配列され、
前記複数の走査線の各々を順次に選択する走査線駆動回路と、
前記補正手段が生成した補正階調データに応じた参照データを保持する記憶回路とを具備し、
前記信号線駆動回路は、前記走査線の選択に同期して順次に前記階調信号を出力し、
前記補正手段は、前記参照データを前記記憶回路から取得して階調データを補正する
請求項1または請求項2の発光装置。
【請求項4】
前記信号線駆動回路は、前記補正手段から供給される補正階調データを順次に後段に転送する複数の転送回路を含み、
前記記憶回路は、前記複数の転送回路による転送後の補正階調データに応じた参照データを保持する
請求項3の発光装置。
【請求項5】
前記記憶回路は、前記補正階調データのビット列のうちの一部のビットを前記参照データとして記憶する
請求項3または請求項4の発光装置。
【請求項6】
前記補正手段は、前記複数の発光素子のうちの一の発光素子の階調データを、当該一の発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データと、当該一の発光素子に隣合う少なくとも1個の発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データとを利用して補正する
請求項1から請求項5の何れかの発光装置。
【請求項7】
前記補正手段は、前記一の発光素子の一方側に位置する発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データと、前記一の発光素子の他方側に位置する発光素子の過去の補正階調データに応じた参照データとの加算値が大きいほど小さくなるように算定された係数を乗算することで前記一の発光素子の階調データを補正する
請求項6の発光装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかの発光装置を具備する電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−191137(P2010−191137A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34902(P2009−34902)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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