説明

発光装置及び発光装置の製造方法

【課題】画素の開口率を低下させることなく、画素の発光による熱を高精度に検出することが可能な発光装置を提供する。
【解決手段】基板上に第1電極と第2電極18との間に有機層を有する発光素子30が複数の画素のそれぞれに対応して設けられ、基板から発光光が出射される発光装置1であって、第2電極18上には絶縁層20が設けられ、絶縁層20上には発光素子30により発生する熱を検出する熱電対22が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置及び発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電界発光を利用した有機EL装置は、自己発光のため視認性が高く、薄くて軽い、かつ耐衝撃性に優れるなどの優れた特徴を有することから広く注目されている。
有機EL装置の製造工程においては、一般的に発光素子の異常発光や発光欠陥等を検査するための検査工程が設けられている。ここで、発光素子の異常発光や発光欠陥等の機能不良が発生する場合、発光素子の異常な温度変化が起こることが知られている。そのため、この検査工程においては、発光光が有する熱を利用することにより、有機EL装置の異常発光や発光欠陥の検査が行われている。
【0003】
発光時における有機EL装置の温度検査工程の手法として、有機EL装置の発光光による熱を有機EL装置の外界から検出し、有機EL装置の表面温度を計測する方法が知られている。しかし、この手法では、有機EL装置を構成する外形全体の温度情報となり、有機EL装置の内部の温度情報を得ることは困難であった。有機EL素子の異常部位の発見には、有機EL素子自体の発光時の温度変化を検出することが重要となってくる。
【0004】
そこで、有機EL装置内部の発光素子の温度を直接検出する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、マトリクス状に配設された走査線と信号線の交点位置に、有機EL素子が配列されており、これらの有機EL素子に例えば熱電対を利用した温度検出器がそれぞれ対応して設けられた表示パネルが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、有機ELパネル1の周囲温度を検出するために有機ELパネル上に設置された半導体温度センサ等による温度センサ(温度検出手段)と、温度センサから出力される温度に応じたレベルを有する信号をディジタルデータである温度データに変換して制御部に出力するA−D変換器とを備える有機EL装置が開示されている。
【特許文献1】特開2002−175046号公報
【特許文献2】特開2005−316139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示される有機EL素子の温度検出方法では以下に示す問題があった。
(1)熱電対又は温度センサを画素(有機EL素子)の近傍に併設するため、画素の開口面積が狭くなり、画素の開口率が低下するという問題があった。
(2)画素近傍に併設される熱電対又は温度センサは、画素の発光層と一定の間隔を空けて併設される。従って、温度センサと発光層との間は封止用充填ガスとなるため、発光層から伝熱される熱が封止用充填ガスによって低下してしまう場合があった。従って、この場合には、発光層から伝熱する温度を高精度に検出することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、画素の開口率を低下させることなく、画素の発光による熱を高精度に検出することが可能な発光装置及び発光装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、基板上に陽極と陰極との間に有機層を有する発光素子が複数の画素のそれぞれに対応して設けられ、前記発光素子の上層側又は下層側に絶縁層を介して前記発光素子の発光により発生する熱を検出する熱電対が設けられたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、熱電対は絶縁層上に設けられるため、発光素子の発光時に発生する熱は絶縁層を介して熱電対に伝熱される。従って、従来のように、熱電対を空気層又は封止ガスを介して発光素子に併設させた場合と比較して、熱電対への熱伝導率が高くなる。これにより、任意の画素の発光素子から発生する熱を高精度に計測することができ、発光素子の温度に基づいて、発光装置の駆動時における発光素子(画素)の異常を検査することができる。
また、発光素子上に熱電対を設けるため、熱電対を発光素子に併設させる場合と比較して画素の開口率を低下させることなく熱電対を設けることができる。
【0010】
また本発明の発光装置は、前記発光素子から発光される発光光が前記基板側から出射され、前記熱電対が前記絶縁層を介して前記陰極上に設けられたことも好ましい。
【0011】
本発明の発光装置は、基板側から発光光が出射されるボトムエミッション型の発光装置である。
本発明によれば、発光光の出射側とは反対側に設けられた陰極上に絶縁層を介して熱電対が設けられるため、画素の開口率を低下させることなく熱電対を設けることができる。
【0012】
また本発明の発光装置は、前記熱電対が第1金属部と第2金属部とを有し、前記第1金属部と前記第2金属部との接触部が熱を検出する前記発光素子上に設けられたことも好ましい。
【0013】
この構成によれば、熱電対の第1金属部と第2金属部との接触部が熱を検出する発光素子(画素)上に設けられるため、発光素子に最も近接した位置に熱電対が設けられる。従って、検出する画素の発光素子から発生する熱を高精度に計測することができる。また、熱を検出したい発光素子上に接触部を設けることで、任意の位置の発光素子の熱を検出することが可能となるため、温度を検出する画素の変更の自由度が向上する。
【0014】
また本発明の発光装置は、前記複数の画素がマトリクス状に設けられ、前記熱電対が第1金属部と第2金属部とを有し、前記第1金属部が列方向に配列される前記複数の画素に沿って設けられ、前記第2金属部が行方向に配列される前記複数の画素に沿って設けられ、前記第1金属部と前記第2金属部との交差部が、前記複数の画素に対応する前記発光素子上のそれぞれに設けられたことも好ましい。
【0015】
この構成によれば、マトリクス状に設けられる複数の画素毎に第1金属部と第2金属部との交差部が設けられる。そのため、交差部を設けた全ての画素に対応する発光素子の熱を検出することも可能であるし、任意の画素に対応する発光素子の熱を選択的に検出することも可能である。
【0016】
また本発明の発光装置は、前記絶縁層の膜厚が50nm〜2000nmであることも好ましい。
【0017】
また本発明の発光装置は、絶縁層の膜厚が50nm未満の場合には、絶縁層の膜厚が薄すぎるため、陰極と熱電対とがショートしてしまうおそれがあるからである。一方、絶縁層の膜厚が2000nm超の場合には、絶縁層の膜厚が厚すぎるため、発光素子から発熱する熱の熱伝導率が低下し、発光素子から発生する熱を正確に検出することができないからである。従って、絶縁層の膜厚を上記範囲に設定することで、発光素子から発熱する熱を高精度に検出することができる。
【0018】
また本発明の発光装置は、前記熱電対の前記第1金属部及び前記第2金属部の少なくとも一方の膜厚が100nm〜1000nmであることも好ましい。
【0019】
熱電対の金属部の膜厚が100nm未満の場合には、金属部が断線するおそれがあるからである。一方、熱電対の金属部の膜厚が1000nm超の場合には、金属部の製膜時の絶縁膜へのダメージが大きくなり、また、熱電対自身の熱容量が増大することで温度センサとしての応答速度や正確な温度モニタに影響を与えるからである。従って、熱電対の金属部の膜厚を上記範囲に設定することで、金属部の断線を防止した熱電対を形成することができる。
【0020】
また本発明の発光装置は、前記熱電対が、対向ターゲットスパッタ法により形成されたことも好ましい。
【0021】
この構成によれば、対向ターゲットスパッタ法により熱電対を形成するため、絶縁層に対して低いダメージで所望の厚みの熱電対を容易に形成することができる。
【0022】
本発明の発光装置の製造方法は、上記発光装置の製造方法であって、前記発光素子の発光により発生する熱を前記熱電対を用いて検出する熱検出工程と、前記検出した発光素子の熱の温度により前記熱電対の開放端間に発生する電圧を計測する電圧計測工程と、を有することを特徴とする。
【0023】
この方法によれば、絶縁層を介して陰極上に熱電対が設けられるため、発光素子により発生する熱を熱電対を用いて高精度に検出することができる。また、検出した熱の温度により発生する電圧を計測することで、発光装置の駆動時における発光素子(画素)の異常を検査することができる。
【0024】
また本発明の発光装置の製造方法は、前記電圧計測工程において計測した電圧値と、予め設定した正常な前記発光素子の基準電圧値とに基づいて補正値を算出し、前記補正値に基づいて、前記発光素子に接続される駆動回路に供給する駆動信号を補正する工程を有することも好ましい。
【0025】
この方法によれば、計測した電圧値に基づいた補正値を走査線駆動回路等にフィードバックすることにより、発光ムラを擬似的に発光装置の均一な発光を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
また、本実施形態においては、発光層で発光した光を基板側から取り出すボトムエミッション方式の有機EL装置について説明する。
【0027】
(有機EL装置)
図1は、本実施形態の発光装置である有機EL装置1の配線構造の等価回路図である。
図1に示すように、本実施形態の有機EL装置1(発光装置)は、複数の走査線101と、走査線101に対して交差する方向に延びる複数の信号線102と、信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された回路構成を有すると共に、走査線101及び信号線102の各交点付近に、サブ画素Aが設けられている。
【0028】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチ等を備えるデータ側駆動回路104が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタ等を備える走査側駆動回路105が接続されている。さらに、サブ画素Aの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用の薄膜トランジスタ112と、このスイッチング用の薄膜トランジスタ112を介して信号線102から共有される画素信号を保持する保持容量(cap)と、該保持容量(cap)によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用の薄膜トランジスタ123と、この駆動用薄膜トランジスタ123を介して電源線103に電気的に接続したときに当該電源線103から駆動電流が与えられる陽極14と、この陽極14と陰極(対向電極)18との間に挟み込まれた有機層16とが設けられている。
【0029】
係る構成によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用の薄膜トランジスタ112がオンになると、そのときの信号線102の電位が保持容量capに保持され、該保持容量capに状態に応じて、駆動用の薄膜トランジスタ123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用の薄膜トランジスタ123のチャネルを介して、電源線103から陽極14に電流が流れ、さらに有機層16を介して陰極18に電流が流れる。有機層16は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0030】
図2は有機EL装置1を模式的に示す断面図であり、図3は図2に示す有機EL装置1に設けられた熱電対を模式的に示す上面図である。なお、図2においてTFT素子等は省略している。
【0031】
図2、図3に示すように、ガラス等からなる透明な基板10上には、マトリクス状に配列されたITOからなる矩形状の陽極14が形成されている。陽極14の周縁部には、この陽極14を区画するようにして絶縁バンク層12が形成されている。絶縁バンク層12は、無機材料からなる無機物バンク層と有機材料からなる有機物バンク層とから構成しても良い。絶縁バンク層12に区画された開口部内の陽極14上には、有機層16が形成されている。有機層16は、基板10側から正孔注入層、発光層、電子注入/輸送層等がこの順番で積層されて構成されている。絶縁バンク層12及び発光層上の全面には陰極18が形成されている。この陰極18は、カルシウム(Ca)層とアルミニウム(Al)層とが基板10側からこの順に積層されて構成されている。
【0032】
本実施形態において有機EL素子30は、陽極14と、陰極18と、陽極14と陰極18との間の有機層16とを備えている。そして、緑色、青色、及び赤色の有機EL素子30により画像表示単位となるサブ画素A(図1参照)が構成され、これらの3個のサブ画素の組み合わせにより1個の画素が構成されている。
【0033】
陰極18上の全面には例えばSiO又はSiNからなる絶縁保護膜20(絶縁膜)が形成されている。この絶縁保護膜20は、熱電対22と陰極18とを絶縁すると共に、有機層16から伝熱される熱を効率的に伝熱させるための中間層として機能する。絶縁保護膜20の膜厚としては、50nm〜2000nmであることが好ましい。絶縁保護膜20の膜厚が50nm未満の場合には、陰極18と熱電対22とがショートしてしまうからである。また、絶縁保護膜20の膜厚が2000nm超の場合には、発光層から発熱する熱の熱伝導率が低下し、正確な温度を検出することができないからである。従って、絶縁保護膜20の膜厚を上記範囲に設定することで、発光層から発熱する熱の温度を高精度に検出することができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る有機EL装置1に設けられた熱電対について説明する。
図2、図3に示すように、絶縁保護膜20上には熱電対22が形成されている。熱電対22は、互いに異なる金属材料からなる複数の第1金属線22a(第1金属部)と複数の第2金属線22b(第2金属部)とを有する。
【0035】
複数の第1金属線22aのそれぞれは、図3に示すように、列方向に配列される有機EL素子(サブ画素)30の配列方向に沿って形成され、隣接間において互いに接触しないように、行方向に等間隔で配置されている。第1金属線22aの一端部は、検査する有機EL素子30に平面視で重なる位置まで延在している。具体的には、図3に示すように、複数の第1金属線22aのそれぞれは、A−1,B−2,C−3,D−4,E−5の有機EL素子30のそれぞれに平面視で重なる位置まで延在している。
【0036】
複数の第2金属線22bは、図3に示すように、第1金属線22aの延在方向の延長線上に形成され、第1金属線22aと同一の間隔で絶縁保護膜20上に配列されている。そして、第2金属線22bの一端部は、第1金属線22aと同様に、A−1,B−2,C−3,D−4,E−5の有機EL素子30のそれぞれに平面視で重なる位置まで延在している。なお、第1金属線22a及び第2金属線22bは全ての有機EL素子(サブ画素)30列毎に形成しても良いし、検査する任意の有機EL素子(サブ画素)30列にのみ形成しても良い。
【0037】
同一の有機EL素子30列に形成される第1金属線22a及び第2金属線22bは、図3に示すように、検査する有機EL素子30上の略中央部で接触(又は接合)している。この接触部24は、図3に示すA−1,B−2,C−3,D−4,E−5の有機EL素子30の直上に設けられている。
【0038】
第2金属線22bの端部(図中下方)には、図3に示すように、第2金属線22bを行方向に跨るようにして共通金属線22cが形成され、隣接する第2金属線22b,22b同士が共通金属線22cによって接続されている。これにより、第2金属線22b,22b同士が短絡され、全ての第2金属線22bが同電位となる。なお、共通金属線22cは、第2金属線と同一工程、同一材料によって形成され、第2金属線の一部を構成している。
【0039】
熱電対22の第1金属線22a及び第2金属線22bの膜厚は100nm〜1000nmの範囲であることが好ましい。第1金属線22a及び第2金属線22bの膜厚が100nm未満の場合には、金属線が断線するおそれがあるからである。一方、金属線の膜厚が1000nm超の場合には、金属部の製膜時の絶縁膜へのダメージが大きくなり、また、熱電対自身の熱容量が増大することで温度センサとしての応答速度や正確な温度モニタに影響を与えるからである。従って、熱電対22の第1金属線22a及び第2金属線22bの膜厚を上記範囲に設定することで、金属線の断線を防止した熱電対22を形成することができる。
また、第1金属線22a及び第2金属線22bの幅W1は有機EL素子30の幅W2以下であることが好ましい。これにより、有機EL素子30から発熱する熱のみを検出することができる。
【0040】
ここで、第1金属線22a(−脚)と第2金属線22b(+脚)との材料の組み合わせとしては、クロメル/(又は)ニッケル/クロムとアルメル/ニッケル/アルミニウム/クロム、鉄とコンスタンタン、銅とコンスタンタン(銅55%,ニッケル45%)、クロメルとコンスタンタン、ナイクロシルとナイシル、白金13%ロジウムと白金、白金10%ロジウムと白金、白金30%ロジウムと白金6%ロジウム、クロメルと金/鉄、イリジウムとイリジウム50%ロジウム、タングステン5%レニウムとタングステン26%レニウム、ニッケルとニッケル18%モリブデン、パラジウム/白金/金と金/パラジウムが好適に用いられる。また、第1金属線22a及び第2金属線22bには、上記金属材料から選択される複数の材料を組み合わせた合金を用いても良い。
【0041】
本実施形態において有機EL素子30の発光による電圧値の計測には、図3に示すように、一対のプローブ26が用いられる。一対のプローブ26のそれぞれは、電圧計を有する制御部28に接続されている。また、制御部28はメモリを有しており、このメモリには発光素子が正常に発光した場合に得られる基準電圧が記憶されている。
第1金属線22aの端部(図3中上方)及び第2金属線22bの一部を構成する共通金属線22cには、図3に示すように、プローブ26を接触させて電圧の計測を行う計測部22d,22dが設けられている。
【0042】
熱電対22は、蒸着法、スパッタ法、又はインクジェット法により形成することができる。特に、対向ターゲットスパッタ法により熱電対22を形成することが好ましい。
具体的には、第1金属線22aとなる上記金属材料を絶縁保護膜20上の全面に成膜し、フォトリソグラフィー処理により成膜した金属材料を上記形状にパターニングして第1金属線22aを形成する。同様の方法により、第2金属線22b及び共通金属線22cを形成する。対向ターゲットスパッタ法によれば、絶縁保護膜20に低ダメージで熱電対22を形成することが可能となる。
【0043】
図2に戻り、陰極18及び熱電対22上には、これらを覆うようにして封止部32が設けられている。封止部32は、封止樹脂と、封止樹脂上に配置される封止基板とを有し、水又は酸素の侵入を防いで、陰極18及び有機層16の酸化を防止することができるようになっている。
【0044】
(検査方法)
次に、熱電対が設けられた有機EL装置1を用いて、各有機EL素子30の電圧値を検出する点灯検査工程について図2、図3を参照して説明する。なお、この点灯検査工程は、有機EL装置1の製造工程の一部を構成している。
【0045】
まず、検査工程において、各駆動回路に所定の信号を供給して、有機EL素子30を発光させる。有機EL素子30の発光により発熱した熱は、有機EL素子30から陰極18に伝熱され、さらに陰極18から絶縁保護膜20を介して熱電対22の第1金属線22aと第2金属線22bとの接触部24に伝熱される。熱電対22の接触部24では伝熱された熱を検出する。
【0046】
次に、図3に示すように、一対のプローブ26のうち、一方のプローブ26aを第1金属線22aの計測部22dに接触させる。同様に、他方のプローブ26bを第2金属線22bの共通金属線22cの計測部22dに接触させる。
ここで、第1金属線22a及び第2金属線22bの接触部24の温度は、検出した熱により、第1金属線22a及び第2金属線22bの計測部22dの温度よりも高くなる。なお、第1金属線22a及び第2金属線22bの計測部22d,22dの温度は略同じ一定の温度であるものとする。そのため、A−1の有機EL素子30上の第1金属線22a及び第2金属線22bの接触部24と、第1金属線22a及び第2金属線22bの計測部22d,22dと間に温度差が生じる。その結果、ゼーベック効果により、第1金属線22a及び第2金属線22bの計測部22d,22dの開放端間に電圧が発生する。
制御部28は、一対のプローブ26を介してA−1の有機EL素子30の温度変化に基づく電圧を計測する。
【0047】
電圧を計測した後、制御部28はメモリに記憶されている基準電圧値(正常時の電圧)を読み出し、計測電圧値と基準電圧値とを比較する。そして、制御部28は、計測電圧値と基準電圧値との電圧差が予め設定した閾値を越えるか、又は閾値以下であるかを判断する。これにより、閾値を越える場合には、計測した有機EL素子30が異常発光していると判断することができる。
【0048】
次に、A−1の有機EL素子30の電圧の計測が終了した後、制御部28は、プローブ26bを計測部22dに接触させたままの状態にしておき、プローブ26aを隣接する第1金属線22aの計測部22dに移動させる。そして、上述した方法と同様の方法により、B−2の有機EL素子30の電圧を計測する。このようにして、プローブ26aを隣接する第1金属線22aに順番に移動させて行き、C−3,D−4,E−5の有機EL素子30の電圧を順番に計測する。
【0049】
E−5の有機EL素子30の電圧の計測が終了した後、計測した各有機EL素子30の電圧値に基づいて、有機EL素子30が形成された基板が不良品であるか否かを判断する。
このような方法により、基板10上に形成された有機EL素子30の点灯検査工程を行う。
【0050】
なお、各有機EL素子30の電圧値を計測した後、計測した電圧値が基準電圧値の閾値を超える場合には、基準電圧値に基づいて補正値を算出し、この補正値に基づいて、制御部28に接続される走査線駆動回路やデータ線駆動回路に供給する信号(電流又は電圧の値)を可変(補正)することも可能である。
この方法によれば、計測した電圧値に基づいた補正値を走査線駆動回路等にフィードバックすることにより、発光ムラを擬似的に有機EL装置1の均一な発光を実現することができる。
【0051】
本実施形態によれば、熱電対22は絶縁保護膜20上に設けられるため、有機EL素子30の発光時に発生する熱は絶縁保護膜20を介して熱電対22に伝熱される。従って、従来のように、熱電対22を封止充填ガスを介して有機EL素子30に併設させた場合と比較して、熱電対22への熱伝導率が高くなる。これにより、任意の画素の有機EL素子30から発生する熱を高精度に計測することができ、有機EL素子30の温度に基づいて、有機EL装置1の駆動時における有機EL素子30(画素)の異常を検査することができる。
また、有機EL素子30上に熱電対22が設けられるため、熱電対22を有機EL素子30に併設させる場合と比較して画素の開口率を低下させることなく熱電対22を設けることができる。
また、本実施形態では有機EL装置1がボトムエミッション方式であるが、発光光の出射側とは反対側に設けられた陰極18上に絶縁保護膜20を介して熱電対22が設けられるため、画素の開口率を低下させることなく熱電対22を設けることができる。
【0052】
さらに、本実施形態によれば、熱電対22の第1金属線22aと第2金属線22bとの接触部24が熱を検出する有機EL素子30(画素)上に設けられるため、有機EL素子30に最も近接した位置に熱電対22が設けられる。従って、検出する有機EL素子30から発生する熱を高精度に計測することができる。また、熱を検出したい有機EL素子30上に接触部24を設けることで、任意の位置の有機EL素子30の熱を検出することが可能となるため、温度を検出する有機EL素子30の変更の自由度が向上する。
【0053】
[第2の実施の形態]
次に、本実施形態について図面を参照して説明する。
上記実施形態では、有機EL素子30列毎に1個の熱電対22の接触部24を設けていた。これに対し、本実施形態では、熱電対22をマトリクス状に形成することにより、有機EL素子30毎に熱電対22の交差部24(接触部)を設ける点において上記実施形態と異なる。なお、その他の有機EL装置1の構成は、上記第1実施形態と同様であるため、共通の構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0054】
図4は、本実施形態に係る有機EL装置1に設けられた熱電対22を模式的に示す上面図である。
絶縁保護膜20上には熱電対22が形成されている。熱電対22は、互いに異なる金属材料からなる第1金属線22aと第2金属線22bとを有する。
複数の第1金属線22aのそれぞれは、図4に示すように、列方向に配列される有機EL素子(サブ画素)30の配列方向に沿って形成され、隣接間において互いに接触しないように、行方向に等間隔で配置されている。
また、複数の第2金属線22bのそれぞれは、図4に示すように、行方向に配列される有機EL素子(サブ画素)30の配列方向に沿って形成され、隣接間において互いに接触しないように、列方向に等間隔で配置されている。
【0055】
このように、図4に示すように、第1金属線22aと第2金属線22bとは絶縁保護膜20上に格子状に形成され、第1金属線22aと第2金属線22bとの交差部24が有機EL素子30の直上に設けられている。また、この交差部24は、有機EL素子30の平面視中央部に設けられることが好ましい。
【0056】
次に、熱電対が設けられた有機EL装置1を用いて、各有機EL素子30の電圧値を検出する点灯検査工程について図2、図3を参照して説明する。
まず、一方のプローブ26aを1列目の第1金属線22aの計測部22dに接触させ、他方のプローブ26bをA行目の第2金属線22bの計測部22dに接触させる。これにより、A−1の有機EL素子30の電圧を計測する。同様にして、A−1の有機EL素子30の電圧の計測が終了した後、プローブ26bを計測部22dに接触させたままの状態にしておき、プローブ26aを隣接する2列目の第1金属線22aの計測部22dに移動させる。このようにして、プローブ26aを隣接する第1金属線22aに順番に移動させて行き、全ての有機EL素子30の電圧を順番に計測する。
【0057】
本実施形態によれば、マトリクス状に設けられる複数の有機EL素子30毎に第1金属線22aと第2金属線22bとの交差部24が設けられる。そのため、交差部24を設けた全ての画素に対応する有機EL素子30の熱を検出することも可能であるし、任意の画素に対応する有機EL素子30の熱を選択的に検出することも可能である。
また、上記第1実施形態と同様の構成を有するため、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0058】
[電子機器]
次に、本発明の電子機器の一例について説明する。
図5は、上述した有機EL装置1を備えた携帯電話(電子機器)を示した斜視図である。図5に示すように、携帯電話機600は、ヒンジ122を中心として折り畳み可能な第1ボディ106aと第2ボディ106bとを備えている。そして、第1ボディ106aには、有機EL装置601と、複数の操作ボタン127と、受話口124と、アンテナ126とが設けられている。また、第2ボディ106bには、送話口128が設けられている。
【0059】
なお、上述した有機EL装置は、携帯電話以外にも種々の電子機器に適用することができる。例えば、プロジェクタ、マルチメディア対応のパーソナルコンピュータ(PC)及びエンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルを備えた装置などの電子機器に適用することが可能である。
【0060】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上記実施形態では、有機EL装置をボトムエミッション方式とし、陰極上(有機EL素子の上層側)に絶縁保護膜を介して熱電対を形成した。これに代えて、有機EL装置をトップエミッション方式とし、陽極(有機EL素子)の下層側に絶縁膜を介して熱電対を形成しても良い。
また、上記実施形態ではアクティブマトリクス方式の有機EL装置について説明したが、パッシブ駆動型の有機EL装置を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】有機EL装置の等価回路図である。
【図2】第1実施形態に係る有機EL装置に設けられた熱電対の構成を示す断面図である。
【図3】同、有機EL装置に設けられた熱電対の構成を示す平面図である。
【図4】第2実施形態に係る有機EL装置に設けられた熱電対の構成を示す平面図である。
【図5】携帯電話の概略構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1…有機EL装置(発光装置)、 10…基板、 14…陽極、 16…有機層、 18…陰極、 20…絶縁保護膜(絶縁層)、 22…熱電対、 22a…第1金属線(第1金属部)、 22b…第2金属線(第2金属部)、 24…接触部、 30…有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に陽極と陰極との間に有機層を有する発光素子が複数の画素のそれぞれに対応して設けられ、前記発光素子の上層側又は下層側に絶縁層を介して前記発光素子の発光により発生する熱を検出する熱電対が設けられたことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記発光素子から発光される発光光が前記基板側から出射され、
前記熱電対が前記絶縁層を介して前記陰極上に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記熱電対が第1金属部と第2金属部とを有し、
前記第1金属部と前記第2金属部との接触部が熱を検出する前記発光素子上に設けられたこと特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記複数の画素がマトリクス状に設けられ、
前記熱電対が第1金属部と第2金属部とを有し、
前記第1金属部が列方向に配列される前記複数の画素に沿って設けられ、
前記第2金属部が行方向に配列される前記複数の画素に沿って設けられ、
前記第1金属部と前記第2金属部との交差部が、前記複数の画素に対応する前記発光素子上のそれぞれに設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発光装置。
【請求項5】
前記絶縁層の膜厚が50nm〜2000nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記熱電対の前記第1金属部及び前記第2金属部の少なくとも一方の膜厚が100nm〜1000nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記熱電対が、対向ターゲットスパッタ法により形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の発光装置の製造方法であって、
前記発光素子の発光により発生する熱を前記熱電対を用いて検出する熱検出工程と、
前記検出した発光素子の熱の温度により前記熱電対の開放端間に発生する電圧を計測する電圧計測工程と、
を有することを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記電圧計測工程において計測した電圧値と、予め設定した正常な前記発光素子の基準電圧値とに基づいて補正値を算出し、前記補正値に基づいて、前記発光素子に接続される駆動回路に供給する駆動信号を補正する工程を有することを特徴とする請求項8に記載の発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−227740(P2007−227740A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48330(P2006−48330)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】