説明

発泡シート用樹脂組成物および発泡シート

【課題】圧縮回復性に優れた発泡シートを与える発泡シート用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エチレンに由来する構造単位(a1)5〜35重量部、およびビニルエステルに由来する構造単位(a2)95〜65重量部を含み、流動中点が90〜160℃であり、トルエン不溶分が30重量%未満である、エチレン・ビニルエステル系共重合体を含有する水性エマルジョン(A)と、平均粒子径が15〜30μmであり、粒度分布の変動係数CVが30%以下であり、内包ガス量が10〜30%である熱膨張性中空球体(B)と、無機フィラー(C)とを含有することを特徴とする発泡シート用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡シート用樹脂組成物、およびこの組成物を発泡してなる発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流動中点が110〜170℃、トルエン不溶分が30重量%未満であるエチレン・ビニルエステル系共重合体含有水性エマルジョンと、熱膨張性中空球体と、無機フィラーとを含む発泡シート用樹脂組成物が知られている(特許文献1)。
【0003】
この組成物を発泡してなる発泡シートは、難燃性、発泡性、耐ひび割れ性、および機械的強度などの特性に優れるとともに、さらに耐ブロッキング性に優れることが開示されている。
【特許文献1】特開2003−13396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らが上記特許文献1に記載の技術を使用して作製した6.5〜8.5倍の高発泡倍率の発泡シートについて検討したところ、圧縮回復性が十分でないという問題が明らかになった。ここで、圧縮回復性とは、保存時の発泡シート自体の自重や、施工時のローラー押さえによって発生したへこみやエンボス凹凸の潰れの回復性のことをいう。
【0005】
本発明の目的は、発泡倍率、圧縮回復性、エンボス性の全てを兼ね備え、優れた発泡シートを与える発泡シート用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る発泡シート用樹脂組成物は、エチレンに由来する構造単位(a1)5〜35重量部、およびビニルエステルに由来する構造単位(a2)95〜65重量部を含み、流動中点が90〜160℃であり、トルエン不溶分が30重量%未満である、エチレン・ビニルエステル系共重合体を含有する水性エマルジョン(A)と、平均粒子径が15〜30μmであり、下記式で表される粒度分布の変動係数CVが30%以下であり、内包ガス量が10〜30%である熱膨張性中空球体(B)と、無機フィラー(C)を含有することを特徴とする。
【数2】

【0007】
上記式において、nは粒子径を測定した熱膨張性中空球体の個数であり、iは1〜nである。粒度分布の変動係数Cvは、数値が小さいほど粒度が均一に近いことを意味する。
【0008】
本発明の発泡シート用樹脂組成物において、前記(A)成分は、分散剤として界面活性剤および保護コロイドを含み、(界面活性剤/保護コロイド)の重量比が25/75〜90/10であることが好ましい。
【0009】
本発明の発泡シート用樹脂組成物においては、前記(A)成分の固形分100重量部に対して、熱膨張性中空球体(B)2〜30重量部と、無機フィラー(C)20〜350重量部とを含有することが好ましい。
【0010】
本発明に係る発泡シートは、上記の組成物を発泡せしめて得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発泡倍率、圧縮回復性、エンボス性の全てを兼ね備え、優れた発泡シートを与える発泡シート用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
本発明において、(A)成分は、エチレンに由来する構造単位(a1)5〜35重量部、およびビニルエステルに由来する構造単位(a2)95〜65重量部を含有し、流動中点が90〜160℃、好ましくは110〜150℃程度であり、トルエン不溶分が30重量%未満、好ましくは0.1〜20%程度である、エチレン・ビニルエステル系共重合体を含有する水性エマルジョンである。流動中点が90℃未満だと圧縮回復性が悪くなる傾向があり、流動中点が160℃を超えると発泡性が劣る傾向がある。
【0014】
(A)成分の流動中点の測定方法を説明する。まず、(A)成分をJIS K6828の4.9の条件に準じて乾燥する。次に、内径1mm×長さ1mmのダイを有する内径10mmのシリンダを80℃に加熱した後、得られた乾燥樹脂約1.7gをシリンダに充填して360秒間予熱する。続いて、ピストン圧2.9MPaで加重しながら、6℃/minの速度で昇温し、ダイから樹脂が流れ出ることによってピストンが7.5mm押し下げられたときのシリンダの加熱温度を流動中点とする。流動中点の測定装置としては、たとえばフローテスターCFT−500(島津製作所製)が用いられる。
【0015】
(A)成分のトルエン不溶分の測定方法を説明する。(A)成分をJIS K6828の4.9の条件に準じて、室温にて乾燥した後、得られた乾燥樹脂を細かく裁断し、0.5gの乾燥樹脂を100mlのトルエンを用いて95℃で3時間抽出した後、300メッシュの金網でろ過し、回収される不溶分の重量を測定してトルエン不溶分とする。
【0016】
(A)成分を構成するエチレン・ビニルエステル系共重合体は、エチレンに由来する構造単位(a1)、ビニルエステルに由来する構造単位(a2)を含有する。また、必要に応じて、エチレンおよびビニルエチレンと共重合可能で、エチレンおよびビニルエステルとは異なるモノマー(以下、共重合可能なモノマーという)に由来する構造単位(a3)を含有していてもよい。
【0017】
(A)成分における、エチレンに由来する構造単位(a1)の含有量は、(A)成分の固形分100重量部に対して、5〜35重量部、好ましくは8〜30重量部程度である。
【0018】
構造単位(a2)を構成するビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどが挙げられる。ビニルエステルのなかでも、酢酸ビニル、および酢酸ビニルとその他のビニルエステルとの併用が好適である。
【0019】
(A)成分における、ビニルエステルに由来する構造単位(a2)の含有量は、(A)成分の固形分100重量部に対して、95〜65重量部である。
【0020】
構造単位(a3)を構成する共重合可能なモノマーとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどの(メタ)アクリル酸類;クロトン酸、イタコン酸(半エステルを含む)、マレイン酸(半エステルを含む)などのカルボキシル基含有モノマーおよびその無水物;N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのN−メチロール誘導体モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、多価アルコールのモノ(メタ)アクリレートや多価アルコールのモノアリルエーテルなどのヒドロキシ基含有モノマー;ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのアミノ基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有モノマー;アクリルアミド、メタアクリルアミド、マレインアミドなどのアミド基含有モノマー;ビニルスルホン酸ソーダ、メタリルスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダなどのスルホン基含有モノマー;トリアリルイソシアヌレート;ビニルトリクロロシラン、ビニルメトシキシランなどのビニルシラン;塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル;スチレン;ブタジエンなどのオレフィン類などが挙げられる。共重合可能なモノマーのうちでも、(メタ)アクリル酸類、N−メチロール誘導体モノマーおよびトリアリルイソシアヌレートが好ましく、とりわけ、アクリル酸、アクリル酸−2−エチルヘキシル、N−メチロールアクリルアミド、トリアリルイソシアヌレートが好適である。異なる2種以上の共重合可能なモノマーを使用してもよい。
【0021】
(A)成分における、共重合可能なモノマーに由来する構造単位(a3)の含有量は、(A)成分の固形分100重量部に対して、30重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
【0022】
(A)成分を構成するエチレン・ビニルエステル系共重合体のガラス転移温度は、通常−25〜15℃程度であり、好ましくは−10〜5℃程度である。ガラス転移温度が−25℃より低いと、得られる発泡シートの耐ブロッキング性が低下する傾向にあるので好ましくない。また、ガラス転移温度が15℃よりも高いと、得られる発泡シートの耐寒性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0023】
(A)成分は、通常、水性エマルジョンの形態にあるが、たとえば特開平6−24820号公報に記載のように再乳化性粉末樹脂の形態であってもよい。
【0024】
(A)成分の製造方法としては、たとえば、エチレン、ビニルエステルおよび必要に応じて共重合可能なモノマーを、界面活性剤および保護コロイドを分散剤として乳化させ、加圧下に乳化重合することにより、共重合体を含有する水性エマルジョンとして得る方法が挙げられる。
【0025】
(A)成分の製造に使用される界面活性剤としては、たとえば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルカリ硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステルなどのアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤が挙げられる。なかでも、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体が好適である。
【0026】
(A)成分の製造に使用される保護コロイドとしては、たとえば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体があげられる。なかでも、部分ケン化ポリビニルアルコールおよび完全ケン化ポリビニルアルコールが好ましく、とりわけ80〜100%ケン化したポリビニルアルコールが好適である。ポリビニルアルコールとしては、通常、重合度が300〜3000程度であるものが用いられる。
【0027】
界面活性剤と保護コロイドの重量比(固形分)は、通常、(界面活性剤/保護コロイド)=25/75〜90/10であり、好ましくは25/75〜85/15である。界面活性剤の重量比が25以上であればトルエン不溶分が30重量%未満になる傾向があるため好ましい。
本発明においては、2種以上の(A)成分を混合して用いてもよい。
【0028】
本発明において、(B)成分である熱膨張性中空球体は、重合性モノマーを重合させたポリマーからなるシェルの中空部に、内包ガスとなる低沸点液体(揮発性膨張剤)を内包させたマイクロカプセルである。このような熱膨張性中空球体は、分散安定剤を含有する水相分散媒体中に、重合性モノマー、低沸点液体、重合開始剤などを含む重合性混合物を添加し、攪拌混合して微細な液滴を分散させた状態で、昇温して液滴状の重合性混合物を懸濁重合させることにより製造される。(B)成分である熱膨張性中空球体の平均粒子径、粒度分布の変動係数は、たとえば上記の攪拌混合による分散工程を制御することによって調整することができ、内包ガス量は添加する低沸点液体の量で調整できる。
【0029】
(B)成分である熱膨張性中空球体のシェルに使用される重合性モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマルニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、β−カルボキシ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系モノマー、アクリルアミド、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミド、ブタジエンなどが挙げられる。これらの重合性モノマーは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。重合性モノマーの組み合わせは、用途に応じて、ポリマーの軟化温度、耐熱性、耐薬品性などを考慮して選択することができる。たとえば、塩化ビニリデンを含む共重合体およびニトリル系モノマーを含む共重合体はガスバリヤー性に優れている。また、特許第2131557号にも示されているように、ニトリル系モノマーを80重量%以上含む共重合体は、耐熱性、耐薬品性に優れている。
【0030】
(B)成分である熱膨張性中空球体のシェルは、必要に応じて、架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤としては、たとえば、ジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、トリアクリルホルマール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸1,3−ブチルグリコール、トリアリルイソシアネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
(B)成分である熱膨張性中空球体のシェルを重合によって調製する際に用いられる重合開始剤には、過酸化物やアゾ化合物など公知のものを用いることができる。重合開始剤としては、たとえば、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキサイド、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられるが、これらに限定されない。好適には、重合性モノマーに可溶な油溶性の重合開始剤が使用される。
【0032】
(B)成分である熱膨張性中空球体に含まれる内包ガスとなる低沸点液体としては、熱膨張時にシェルの軟化点以下でガスになるものが用いられる。内包ガスとしては、プロパン、プロピレン、ブテン、ノルマルブタン、イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、ノルマルペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、オクタン、イソオクタン、デカンなどが挙げられる。好適には、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、石油エーテルなどを単独でまたは2種以上混合して用いる。
【0033】
(B)成分である熱膨張性中空球体は、平均粒子径が15〜30μm、粒度分布の変動係数CVが30%以下、内包ガス量が10〜30%のものである。粒度分布の変動係数CVが30%を超えると、熱膨張性中空球体の破壊により発泡シートの表面がでこぼこに粗くなってしまう。上記のような熱膨張性中空球体を発泡させると、発泡時のシェル厚が0.07〜0.18μmとなり、得られる発泡シートの圧縮回復性を改善できる。
【0034】
熱膨張性中空球体の平均粒子径は、マイクロトラック粒度分析計(たとえば日機装製)によって測定できる。平均粒子径は体積平均で求めている。
【0035】
熱膨張性中空球体の内包ガス量は、以下のようにして算出する。乾燥した熱膨張性中空球体に有機溶剤を添加して球体外壁を膨潤させた後、高温で破壊し、揮発分を測定する。一方、水分測定装置によって乾燥した熱膨張性中空球体の水分を測定しておく。揮発分から水分を差し引いたものを内包ガス量(%)とする。
【0036】
発泡時の熱膨張性中空球体のシェル厚は、以下のようにして測定する。予め発泡前の熱膨張性中空球体の断面をレーザー顕微鏡で観察してシェル厚を測定しておく。(A)成分であるエチレン・ビニルエステル系共重合体含有水性エマルジョンとして、たとえば流動中点が130〜150℃、トルエン不溶分が15重量%以下、エチレン含有量が15〜20重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体を含む水性エマルジョン(A’)を用意し、水性エマルジョン(A’)と炭酸カルシウム(無機フィラー)と熱膨張性中空球体とをドライ比で、水性エマルジョン(A’):炭酸カルシウム:熱膨張性中空球体=100:60:10となるように配合し、180℃×30秒の条件で発泡させて発泡倍率を求める。このときの条件は最大発泡条件であり、得られる発泡倍率は最大発泡倍率である。そして、発泡前の熱膨張性中空球体のシェル厚と最大発泡倍率に基づいて、発泡時の熱膨張性中空球体のシェル厚を計算によって算出する。
【0037】
発泡時のシェル厚が0.07μm未満であると、発泡シートの圧縮回復率が低下する傾向があるため好ましくない。発泡時のシェル厚が0.18μmを超えると、発泡シートのエンボス性が劣り、ローラーを押し付けたときに良好にエンボスを形成することが困難になる。これは、発泡シートのシェル厚の厚い中空球体が存在すると、中空球体の反発がつよくなるためである。
【0038】
発泡前の熱膨張性中空球体の平均粒子径が15μm未満であると、発泡後のシェル厚が薄くなり、発泡シートの圧縮回復性が劣る傾向があるため好ましくない。発泡前の熱膨張性中空球体の平均粒子径が30μmを超えると、発泡シートにエンボスを形成することが困難になり表面性が劣るため好ましくない。
【0039】
熱膨張性中空球体の内包ガス量が10%未満であると、中空球体の発泡倍率が小さくなり、発泡シートに形成したエンボスが潰れる傾向があるため好ましくない。熱膨張性中空球体の内包ガス量が30%を超えると、中空球体が膨張しすぎて発泡後のシェル厚が薄くなり、発泡シートの圧縮回復性が劣る傾向があるため好ましくない。
【0040】
本発明においては、(B)成分として2種以上の熱膨張性中空球体を用いてもよい。本発明の組成物において、(B)成分である熱膨張性中空球体の含有量は、(A)成分の固形分100重量部あたり2〜30重量部、好ましくは5〜15重量部である。熱膨張性中空球体が2重量部未満であると、発泡性が不足する傾向があるので好ましくない。熱膨張性中空球体が30重量部を超えると発泡シートの機械的強度が低下する傾向があるので好ましくない。
【0041】
本発明において、(C)成分である無機フィラーとしては、たとえば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪砂、クレー、タルク、シリカ類、二酸化チタン、ケイ酸マグネシウムなどが挙げられる。なかでも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタンが好適である。
【0042】
本発明の組成物において、(C)成分である無機フィラーの含有量は、(A)成分の固形分100重量部あたり20〜350重量部、好ましくは50〜150重量部である。無機フィラーが20重量部未満であると、難燃性が低下する傾向があるため好ましくない。無機フィラーが350重量部を超えると、発泡性、発泡シートの機械的強度および耐ひび割れ性が劣る傾向があるため好ましくない。
【0043】
本発明の発泡シート用樹脂組成物には、たとえば、染料、顔料、増粘剤、分散剤、臭素化エポキシ樹脂などの無機フィラー以外の難燃剤、光沢剤、チキソ性付与剤、密着付与剤、界面活性剤などの表面調整剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、酸化防止剤および帯電防止剤などの添加剤を含有させてもよい。また、発泡シートの圧縮回復性に悪影響を与えない範囲で、本発明以外のEVAエマルジョン、水性ポリウレタン、SBR、アクリルエマルジョンなど他のエマルジョン、または水溶性樹脂を配合してもよい。
【0044】
本発明に係る発泡シート用樹脂組成物から発泡シートを製造するには、たとえばダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースロールコーターなどのコーティングで、シート基材に樹脂組成物を塗布し、乾燥、印刷、発泡処理、エンボス加工を施す方法などが用いられる。
【0045】
組成物が塗布されるシート基材としては、たとえば、普通紙、新聞紙、リサイクル紙、難燃紙、剥離紙、塗工紙などの紙、布、プラスチックシート、金属薄膜など、発泡処理、エンボス加工などを施工し得るものが挙げられる。
【実施例】
【0046】
[EVAエマルジョンの製造]
本実施例においては、酢酸ビニルの全使用量を100重量部とし、これを基準にして他の成分の配合量を調整した。
【0047】
実施例1
初期仕込みとして、酢酸ビニル75重量部、ポリビニルアルコール(クラレ社製「ポバール203」、ケン化度88モル%、平均重合度300)0.60重量部(ポリビニルアルコールの全使用量の40%に相当する)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル非イオン界面活性剤(花王社製「エマルゲン1135S−70」1.50重量部、ポリオキシエチレンプロピレン縮合物非イオン界面活性剤(旭電化工業社製「ブルロニックL64」)2.25重量部、および水36重量部を用いた。エマルゲン1135S−70の不揮発分は70%なので、エマルジョン重合に使う。本実施例では、界面活性剤/保護コロイド=68.4/31.6なので、請求項2の25/75〜90/10の範囲を満たしている。攪拌しながらエチレンを供給し、重合を開始した。重合を25℃から開始し、段階的に60℃まで昇温した後、重合完了まで60℃に保った。重合中は反応容器の気相部をエチレン雰囲気とし、エチレンを加圧して45kg/cm2に保持した。重合触媒としてはレドックス系のものを用いた。還元剤としてエリソリビン酸ナトリウムを酢酸ビニルの全量に対して0.30重量部、酸化剤としては過酸化水素を酢酸ビニルの全量に対して0.12重量部使用し、還元剤の8%を初期仕込み時に一括添加し、残りの還元剤および酸化剤を重合中に連続で添加した。
【0048】
重合開始後、後添加として、酢酸ビニル25重量部およびポリビニルアルコール(前記のものに同じ)0.90重量部を連続的に添加した。後添加を重合開始1時間後から始めて7時間後に終了した。反応系内の酢酸ビニルの残存量が1%以下になったところで重合反応を終了した。得られた水性エマルジョンは、エチレン/酢酸ビニルの重量比が18/82であり、ガラス転移温度が0℃である共重合体を含み、固形分が73.1%、粘度が4000mPa・s、pHが5.1、トルエン不溶分が10%、熱流動中点が140℃であった。これをEVAエマルジョンA1という。
【0049】
[熱膨張性中空球体の製造]
本実施例では、特開2004−959号公報に記載されている方法に従って、熱膨張性中空球体を製造した。
【0050】
イオン交換水600gに、塩化ナトリウム150g、アジピン酸−ジエタノールアミン縮合物1.5g、コロイダルシリカ20%水溶液80gを加えた後、硫酸でpHを4に調整し、均一に混合してこれを水相とする。アクリロニトリル180g、メタクリロニトリル105g、メタクリル酸メチル15g、ジメタクリル酸トリメチロールプロパン1g、イソペンタン100g、アゾビスイソブチロニトリル1gを混合、撹拌、溶解し、これを油相とする。水相と油相を混合し、クレアミックスで10000rpm・2分間撹拌して懸濁液とする。これを1.5L加圧反応器に移し、窒素置換をした後、撹拌しつつ70℃で15時間反応した。得られた反応生成物をろ過し、平均粒径が29μm、変動係数Cvが22%、内包ガス量が23%である熱膨張性中空球体(MC1)を得た。
【0051】
実施例2
イソペンタンを85g、クレアミックスの回転数を15000rpmとした以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。得られた反応生成物をろ過し、平均粒径が23μm、変動係数Cvが30%、内包ガス量が20%である熱膨張性中空球体(MC2)を得た。
【0052】
比較例1
イオン交換水700gに、アジピン酸−ジエタノールアミン縮合物2g、コロイダルシリカ20%水溶液80gを加えた後、硫酸でpHを4に調整し、均一に混合してこれを水相とする。アクリロニトリル180g、メタクリル酸メチル120g、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン1g、イソペンタン150g、アゾビスジメチルバレロニトリル1gを混合、撹拌、溶解し、これを油相とする。水相と油相を混合し、TKホモミクサーで7000rpm・3分間撹拌して懸濁液とする。これを1.5L加圧反応機に移し、窒素置換して後、撹拌しつつ60℃で12時間反応した。得られた反応生成物をろ過し、平均粒径が7μm、変動係数Cvが54%、内包ガス量が32%である熱膨張性中空球体(MC3)を得た。
【0053】
比較例2
コロイダルシリカを100g、イソペンタンを110g、クレアミックスの回転数を15000rpmとした以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。得られた反応生成物をろ過し、平均粒径が9μm、変動係数Cvが24%、内包ガス量が25%である熱膨張性中空球体(MC4)を得た。
【0054】
比較例3
コロイダルシリカを70g、イソペンタンを60gとした以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。得られた反応生成物をろ過し、平均粒径が31μm、変動係数Cvが21%、内包ガス量が15%である熱膨張性中空球体(MC5)を得た。
【0055】
[熱膨張中空球体の粒子径、シェル厚、内包ガス量、組成物の発泡倍率、および発泡時のシェル厚の測定]
熱膨張中空球体の粒子径は、日機装製マイクロトラック粒度分析計で測定した。
【0056】
発泡前の熱膨張中空球体のシェル層は、中空球体断面をオリンパス製走査型共焦点レーザー顕微鏡(型式OLS1100)で観察して測定した。
【0057】
内包ガス量は以下のようにして算出した。乾燥した中空球体1gに有機溶剤(アセトニトリル)を30ml加え、30分間静置し、十分に膨潤させた後、高温にして中空球体を破壊し、揮発分を測定する。これとは別に、水分測定装置で乾燥した中空球体の水分を求めておき、下記式に従って内包ガス量を算出した。
内包ガス量(%)=揮発分(%)−水分(%)。
【0058】
組成物の発泡倍率は以下のようにして求めた。水性エマルジョン(A’)として上記のEVAエマルジョンA1を用いた。EVAエマルジョンA1/炭酸カルシウム/熱膨張性中空球体=100/60/10(ドライ比)になるように配合した組成物を、アプリケータで上質紙の上に0.2mm塗工し、発泡剤が発泡しない温度域で乾燥させ塗料塗膜の膜厚を測定する。熱処理(180℃×30秒)を行い、発泡後の塗工厚さを測定する。下記の式に従って発泡倍率を求める。
【0059】
発泡倍率=発泡後の塗工層の厚み/発泡前の塗工層の厚み
(発泡後の塗工層の厚み=発泡後の全層の厚み−上質紙の厚み、
発泡前の塗工層の厚み=発泡前の全層の厚み−上質紙の厚み)。
【0060】
発泡時の中空球体のシェル厚は、発泡前の熱膨張性中空球体が元のシェル厚から、上記で得られた発泡倍率まで、真球のまま膨張したと仮定して算出した。
これらの測定値を下記表1に示す。
【0061】
[壁紙塗料組成物および発泡壁紙の製造例]
下記表1に示すように、EVAエマルジョンの固形分100重量部、熱膨張性中空球体10重量部、分散剤1.5重量部、無機フィラー(炭酸カルシウム)80重量部、消泡剤0.9重量部、ブロッキング防止剤0.5重量部、湿潤剤1.1重量部、無機顔料15重量部を配合して発泡壁紙用塗料組成物を調製し、下記のようにして発泡壁紙を作製した。
基材:壁紙原紙、塗工量:140g/m2(ドライ)
乾燥条件:熱風乾燥機90℃×3分、発泡条件:180℃×30秒間。
【0062】
以下のようにして、発泡壁紙の発泡倍率、圧縮回復率、エンボス性を調べた。
(1)発泡倍率
発泡倍率=(発泡後の壁紙の発泡層厚さ)/(発泡前の壁紙組成物乾燥塗膜の厚さ)
(2)圧縮回復率
面圧250g/cm2×24時間荷重の条件で加圧した後、解圧し、24時間後の厚みを測定した。
圧縮回復率=(解圧24時間後の発泡壁紙厚み)×100/(加圧前の壁紙の厚み)
(3)エンボス性
メカニカルエンボスを実施した。図1にエンボス加工した壁紙の断面図を示す。図1に示すように、基材1上に発泡壁紙2が形成されている。発泡壁紙2は、エチレン・ビニルエステル系共重合体21中に無機フィラー(図示せず)および発泡した中空球体22が分散した構造を有する。発泡壁紙2の表面が印刷面3となっており、この面にエンボス4が加工されている。ここで、エンボス版の版柄の再現性が良好なものを○、エンボス版の再現性が不良なものを×として評価した。
これらの結果を表1に併記する。表1からわかるように、実施例1および2の発泡壁紙は、発泡倍率が高く、しかも95%以上の高い圧縮回復率および良好なエンボス性の両立を実現できる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】エンボス加工した壁紙の断面図。
【符号の説明】
【0064】
1…基材、2…発泡壁紙、21…エチレン・ビニルエステル系共重合体、22…中空球体、3…印刷面、4…エンボス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンに由来する構造単位(a1)5〜35重量部、およびビニルエステルに由来する構造単位(a2)95〜65重量部を含み、流動中点が90〜160℃であり、トルエン不溶分が30重量%未満である、エチレン・ビニルエステル系共重合体を含有する水性エマルジョン(A)と、
平均粒子径が15〜30μmであり、下記式で表される粒度分布の変動係数CVが30%以下であり、内包ガス量が10〜30%である熱膨張性中空球体(B)と、
【数1】

無機フィラー(C)を含有することを特徴とする発泡シート用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分は、分散剤として界面活性剤および保護コロイドを含み、(界面活性剤/保護コロイド)の重量比が25/75〜90/10であることを特徴とする請求項1に記載の発泡シート用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分の固形分100重量部に対して、熱膨張性中空球体(B)2〜30重量部と、無機フィラー(C)20〜350重量部とを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の発泡シート用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物を発泡せしめて得られることを特徴とする発泡シート。

【図1】
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【公開番号】特開2008−37956(P2008−37956A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212178(P2006−212178)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】