説明

発泡ポリウレタンエラストマーの製造方法

【課題】安価で取扱いの容易なジイソシアネート化合物を使用しながらも、高い耐久性、特に高荷重時の高い耐久性を達成せしめた発泡ポリウレタンエラストマーの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオールおよび3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネートを反応させて得られる末端イソシアネート基含有プレポリマーに、水、分子量48〜200の低分子量グリコールおよび数平均分子量Mn 1000〜3000の高分子量グリコールの混合物よりなる発泡剤を撹拌混合し、発泡反応を行って発泡ポリウレタンエラストマーを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡ポリウレタンエラストマーの製造方法に関する。さらに詳しくは、自動車サスペンション部の補助スプリングなどの自動車用弾性体部品として有効に用いられる発泡ポリウレタンエラストマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細なセル構造を有する発泡ポリウレタンエラストマーは制震性、衝撃吸収性にすぐれており、高荷重時の動的特性、耐久性、耐ヘタリ性の観点から自動車サスペンション部の補助スプリングなどとして多く使用されている。特に、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)をベースとした発泡ポリウレタンエラストマーは、屈曲疲労特性にすぐれており、高耐久性が要求される補助スプリング部位に多く使用されている。しかるに、NDIは他のジイソシアネート化合物と比べて原料単価が高く、かつ反応性に富んでいることから取扱いが難しいといった問題があった。
【0003】
自動車用補助スプリングの破損メカニズムは、まず繰り返し屈曲変形により材料自体が発熱し、その際の温度によって材料の物理的特性が低下し、局所的な亀裂が発生することによるものと考えられる。従って、耐久性にすぐれた補助スプリング用材料は、高温環境下においても物理的特性が低下しないという性質が必要不可欠であり、これには強固な架橋構造を有するポリウレタン分子鎖の高次元構造が必要となる。しかるにジイソシアネート、高分子量ジオールおよび鎖延長剤(低分子量ジオール)を一括混合(ワンショット法)あるいは高分子量ジオールをあらかじめジイソシアネートと反応させてプレポリマーを調製したのち低分子量ジオールを用いて鎖延長を行う(プレポリマー法)といった従来の製造方法では、NDI以外の芳香族ジイソシアネートを用いてかかる強固な架橋構造を有するポリウレタン分子鎖の高次元構造を実現することはできなかった。
【非特許文献1】プラスチック機能性高分子材料事典 426頁 産業調査会 事典出版センター 2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、安価で取扱いの容易なジイソシアネート化合物を使用しながらも、高い耐久性、特に高荷重時の高い耐久性を達成せしめた発泡ポリウレタンエラストマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる本発明の目的は、ポリオールおよび3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネートを反応させて得られる末端イソシアネート基含有プレポリマーに、水、分子量48〜200の低分子量グリコールおよび数平均分子量Mn 1000〜3000の高分子量グリコールの混合物よりなる発泡剤を撹拌混合し、発泡反応を行って発泡ポリウレタンエラストマーを製造する方法によって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る方法を用いることにより製造される発泡ポリウレタンエラストマーは、3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネート(トリジンジイソシアネート;TODI)といった安価で取扱いが容易なジイソシアネート化合物をベースとした発泡ウレタンエラストマーにおいても、TODIをプレポリマー成分として用いることにより、原料単価の高いNDIをベースとしたものと同等の物性特性を有するといったすぐれた効果を奏する。
【0007】
具体的には、一般的なゴム材料の引張試験方法において、100℃の雰囲気下に1時間保管し、同温度雰囲気下で破断時伸び試験を行った破断時伸び率は、常温雰囲気下での破断時伸び率の75%以上を維持しており、高温雰囲気下における物理的特性の低下が小さいといった特性を有する。
【0008】
これは、本発明のポリウレタンエラストマーの製造方法での発泡硬化反応において、最初に反応性の高い水や低分子量グリコールがウレタンプレポリマー中に存在する過剰量のジイソシアネートモノマーと反応することでハードセグメントが成長し、その後反応性の低い高分子量グリコールが残存したイソシアネート基と反応してソフトセグメントを形成するため、ハードセグメントとソフトセグメントが長鎖化し、ミクロ相分離がより進行することで、物理的架橋性が高くなるためであると考えられる。
【0009】
従って、NDI以外の安価なジイソシアネート化合物をポリオールに反応させて得られた発泡ポリウレタンエラストマーであっても、従来は適用が困難であるとされていた高耐久性が要求される自動車用スプリングなどの自動車用弾性体部品として有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ポリオールとしては、末端活性水素を有する長鎖グリコールである数平均分子量Mnが500〜4000、好ましくは1000〜3000、水酸基価が30〜150、好ましくは40〜100のものであれば特に限定されず、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系、シリコーン系、1,4-ポリブタジエン系、1,2-ポリブタジエン系、ひまし油系等の各種ポリオールおよびこれらの混合物が用いられる。また、ポリオールのMnが1000〜3000と規定されるのは、これ以下のMnでは、発泡ポリウレタンエラストマーの柔軟性が損なわれて脆くなり、一方これ以上のMnでは、発泡ポリウレタンエラストマーが低硬度となってしまい、十分な材料強度を得ることができないことによる。
【0011】
ポリオールと反応させるジイソシアネートとしては、3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネート(TODI)が、ポリオールのOH当量当りイソシアネート基が1〜5当量、好ましくは1〜4当量となるような割合で用いられる。ジイソシアネート成分が、これよりも少なく用いられると末端イソシアネート基含有プレポリマーが形成されず、一方これより多い割合で用いられると発泡ポリウレタンエラストマーの硬度が上昇し、緩衝部品としての使用に不向きとなる。
【0012】
ポリオールおよびジイソシアネートは、約90〜130℃で約15分間乃至約1時間程度反応させてプレポリマーを生成させる。
【0013】
発泡剤としては、末端イソシアネート基含有プレポリマー100重量部当り、水0.1〜5.0重量部、好ましくは0.2〜3.0重量部、分子量48〜200、好ましくは62〜160の低分子量グリコール0.1〜5.0重量部、好ましくは0.2〜3.0重量部および数平均分子量Mn1000〜3000、好ましくは1000〜2000の高分子量グリコール0.5〜70重量部、好ましくは1〜50重量部が用いられる。低分子量グリコールが用いられないと、ハードセグメントを成長させることができず、反対に高分子量グリコールが用いられないと、ソフトセグメントを成長させることができないため、いずれの場合にもハードセグメントとソフトセグメントを長鎖化させることができず、物理的架橋性を高めることができなくなる。
【0014】
低分子量グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどが、高分子量グリコールとしては、好ましくはプレポリマー形成に用いられた範疇のもの、さらに好ましくは同種のポリオールが用いられ、具体的にはエチレンアジペートポリエステルポリオール、エチレンブチレンアジペートポリエステルポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが用いられる。高分子量グリコールのMnが1000〜3000と規定されるのは、これ以下のMnでは、柔軟性を必要とするソフトセグメントを形成することができず、一方これ以上のMnでは、発泡剤が高粘度となり、取扱いが難しくなるため好ましくないことによる。
【0015】
また発泡剤とともに、セル構造を決定させる成分としてシリコーン整泡剤などの整泡剤が、一般にプレポリマー100重量部当り、0.1〜3.0重量部、好ましくは0.2〜2.0重量部の割合で用いられることが好ましい。また、ポリウレタン化反応に際しては、アミン化合物等を触媒として反応に関与させることができる。上記各成分以外にも、さらに充填剤、2価金属の酸化物または水酸化物、滑剤等を必要に応じて適宜配合して用いることができる。
【0016】
これらの発泡剤、整泡剤および触媒は、生成プレポリマーに混合され、所定容積の金型を用いて注型成形することによってポリウレタン化反応が進行する。離型後、好ましくは約80〜150℃で約5〜24時間程度二次架橋(アニール)することにより、発泡ポリウレタンエラストマー成形品が得られる。
【実施例】
【0017】
次に、実施例について本発明を説明する。ここに記載された各実施例、比較例、参考例では、発泡ポリウレタンエラストマーが次のような条件下で使用され、成形された。
プレポリマー温度:約70〜80℃
発泡剤温度:約50〜60℃
金型温度:約50〜60℃
離型時間:約15〜20分間
二次架橋:120℃、24時間
成形は、成形密度0.5g/cm3のシート形状および自動車サスペンション用補助スプリング形状の評価用サンプルとして成形され、シート形状への成形は、30×60×150mmに成形されたブロックを二次加硫後に30×60×2mmスライスすることにより行われた。
【0018】
実施例1
数平均分子量Mn 2,000、水酸基価56のエチレンアジペート系ポリエステルポリオール100重量部を120℃で溶融させた後、予め120℃に熱した反応器に仕込み、撹拌しながらTODI 40重量部を加えて30分間反応させ、ウレタンプレポリマーを得た。また、60℃で溶融させた数平均分子量Mn 2,000、水酸基価56のエチレンアジペート系ポリエステルポリオール3937重量部に、水150重量部、1,4-ブタンジオール150重量部、整泡剤100重量部、アミン系触媒10重量部を加え、これらを2時間撹拌混合して発泡剤を得た。
【0019】
上記温度条件下で、ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:26.3の重量比率で混合し、撹拌して発泡反応を行い、成形した後、二次加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0020】
実施例2
実施例1において、発泡剤成分中、1,4-ブタンジオールの代わりにトリメチロールプロパン149重量部が用いられた。
【0021】
実施例3
数平均分子量Mn 2,000、水酸基価67のエチレンアジペート系ポリエステルポリオール100重量部を120℃で溶融させた後、予め120℃に熱した反応器に仕込み、撹拌しながらTODI 40重量部を加えて30分間反応させ、ウレタンプレポリマーを得た。また、60℃で溶融させた数平均分子量Mn 2,000、水酸基価56のエチレンアジペート系ポリエステルポリオール4436重量部に、水150重量部、1,4-ブタンジオール150重量部、整泡剤100重量部、アミン系触媒10重量部を加え、これらを2時間撹拌混合して発泡剤を得た。
【0022】
ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:26.0の重量比率で混合し、発泡反応および加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0023】
比較例1
実施例1において、TODI量を30重量部に変更し、またエチレンアジペート系ポリエステルポリオールを用いずに、他の各成分をそれぞれ同量用いて発泡剤が調製された。
【0024】
ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:2.0の重量比率で混合し、発泡反応および加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0025】
比較例2
比較例1において、発泡剤成分中、1,4-ブタンジオールの代わりにトリメチロールプロパン149重量部が用いられた。
【0026】
比較例3
実施例1において、TODIの代わりにMDI 45重量部を用いたウレタンプレポリマーが、またエチレンアジペート系ポリエステルポリオール量が2480重量部に、アミン系触媒量が8重量部にそれぞれ変更された発泡剤が用いられた。
【0027】
ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:23.0の重量比率で混合し、発泡反応および加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0028】
参考例
数平均分子量Mn 2,000、水酸基価56のエチレンアジペート系ポリエステルポリオール100重量部を120℃で溶融させた後、予め120℃に熱した反応器に仕込み、撹拌しながらNDI 20重量部を加えて30分間反応させてウレタンプレポリマーを得た。また、水150重量部、1,4-ブタンジオール150重量部、整泡剤100重量部、アミン系触媒2重量部を2時間撹拌混合し、発泡剤を得た。
【0029】
ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:1.5の重量比率で混合し、発泡反応および加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0030】
以上の各実施例、比較例および参考例で得られたシート形状の評価用サンプルを用いて、ガラス転移点、硬さ、引張強さ、破断時伸びおよび圧縮永久歪が、また自動車サスペンション用補助スプリング形状の評価用サンプルを用いて、補助スプリング耐久性についての測定が行われた。
硬さ:スプリング式アスカーC型
引張強さ、破断時伸び:JIS K6261準拠(サンプル形状:ダンベル状3号形)
圧縮永久歪:JIS K6262準拠(13mm径、2mm厚シート3枚重ね、25%圧縮、80℃×70時間)
補助スプリング耐久性:10kN×1Hz×10万回圧縮後の亀裂有無で評価
亀裂が発生したものについては亀裂発生時の圧縮回数で評価
【0031】
得られた結果は、配合比とともに次の表に示される。

実施例 比較例
1 2 3 1 2 3 参考例
〔組成〕
−ウレタンポリマー−
ポリエステルポリオール(OH価56) 100 100 100 100 100 100
〃 (OH価67) 100
TODI 40 40 40 30 30
MDI 45
NDI 20
−発泡剤−
ポリエステルポリオール(OH価56) 33.39 33.39 33.34 28.68
H2O 1.27 1.27 1.13 0.95 0.95 1.73 0.68
1,4-ブタンジオール 1.27 1.13 0.95 1.73 0.68
トリメチロールプロパン 1.26 0.95
シリコーン系整泡剤(東レ・ダウコー 0.85 0.85 0.75 0.64 0.64 1.16 0.45
ニングシリコーン製品SH193 OIL)
アミン系触媒 0.08 0.08 0.08 0.06 0.06 0.09 0.01
(エアープロダクツジャパン製品DABCO)
〔測定項目〕
ガラス転移点(℃) -38 -39 -39 -36 -39 -35 -34
硬さ 75 74 74 75 74 76 73
引張強さ
常温(MPa) 〔A〕 5.5 5.7 5.7 5.4 5.7 5.8 6.2
100℃(MPa) 〔B〕 1.5 1.5 1.5 1.2 1.2 1.3 1.7
維持率(〔B〕/〔A〕) 27 26 26 22 21 22 27
破断時伸び率
常温(%) 〔C〕 490 500 490 480 480 440 420
100℃(%) 〔D〕 400 380 400 270 300 350 350
維持率(〔D〕/〔C〕) 82 76 82 56 63 80 83
圧縮永久歪(%) 24 21 21 28 21 29 22
補助スプリング耐久性(10万回圧縮) ○ ○ ○ 7000 ○ ○ ○
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明方法により得られた発泡ポリウレタンエラストマー成形物は、物理的架橋性に富んだ高次元構造を有しているため、繰返し圧縮により材料が発熱した環境に対しても強固なゴム弾性を維持しており、したがって高耐久機能が要求される自動車サスペンション部の補助スプリング材料などの自動車用弾性体部品として有効に使用される。
【0033】
こうした用途以外にも、例えばキャスタ、ロール、パッキン、シール材、防振部品、ボールジョイント等の機械・自動車・精密部品、シューソール、スキーブーツ、スノーチェーン等のスポーツ・レジャー用品、またコンベアベルト、キーボードシート、ガスケット、自動車配線等の電線、ロープ被覆などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールおよび3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネートを反応させて得られる末端イソシアネート基含有プレポリマーに、水、分子量48〜200の低分子量グリコールおよび数平均分子量Mn 1000〜3000の高分子量グリコールの混合物よりなる発泡剤を撹拌混合し、発泡反応を行うことを特徴とする発泡ポリウレタンエラストマーの製造方法。
【請求項2】
ポリオールとして数平均分子量が500〜4000のポリオールが用いられる請求項1記載の発泡ポリウレタンエラストマーの製造方法。
【請求項3】
高分子量グリコールとしてイソシアネート基含有プレポリマー合成に用いられたものと同じポリオールが用いられる請求項1または2記載の発泡ポリウレタンエラストマーの製造方法。
【請求項4】
末端イソシアネート基含有プレポリマー100重量部当り、水が0.1〜5.0重量部、低分子量グリコールが0.1〜5.0重量部、高分子量グリコールが0.5〜70重量部用いられる請求項1記載の発泡ポリウレタンエラストマーの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法により製造された発泡ポリウレタンエラストマー。
【請求項6】
自動車用弾性体部品として用いられる請求項5記載の発泡ポリウレタンエラストマー。
【請求項7】
自動車用弾性体部品が自動車サスペンション部の補助スプリングである請求項6記載の発泡ポリウレタンエラストマー。

【公開番号】特開2008−56730(P2008−56730A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231973(P2006−231973)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】