説明

発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法

【課題】 発泡ポリエチレンテレフタレートシートを用いて製品を成形する際に、厳しい成形条件であっても、引き込みしわが表面に形成されないようにし、常に外観の綺麗な成形品を得ることのできるようにする。
【解決手段】 発泡ポリエチレンテレフタレートシート4を表層の結晶化が促進する温度で加熱ロール6aにより表面処理する。室温程度に高温した後、結晶化は促進しないがシートの成形は可能となる温度に加熱部2により加熱する。加熱された発泡ポリエチレンテレフタレートシート4を該加熱されたシートの温度より低い温度に維持された一対の成形型3a,3bで挟持して所定形状に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法に関し、特に、成形型での成形時に生じがちな引き込みじわのない成形品を得ることができる発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡ポリエチレンテレフタレート(PET)シートを、成形型を用いて耐熱性の高い容器等に成形することは知られている。例えば、特許文献1(特許第2551854号公報)には、発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、当該シートの結晶化を促進させる温度以下で、かつ成形に必要な温度(130℃以上、150℃未満)に加熱された一対の面加熱板による挾持にて、シート表面の結晶化を促進させることなしにシート内部まで成形に必要な予熱を行い、その後、上記シートを、当該シートの結晶化を促進させる温度以上(160℃〜190℃)に加熱された一対の成形型によって所定の形状に成形し、しかる後、成形に必要な温度以下(40℃〜50℃)に維持された一対の成形型によって冷却することにより、耐熱性に優れた成形品を成形する方法が記載されている。
【0003】
特許文献2(特許第3021262号公報)にも、同様な発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法が記載されており、ここでは、予備加熱された発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、加熱されたシートの温度より低く、該シートの成形能を停止させない温度に維持された一対の形成型で挟持して、所定形状に成形した後、その温度が該シートの結晶化が促進する温度以上に維持された一対の成形型で挟持して、その結晶化を高める処理を行い、その後、結晶化が高められたシートを結晶化が進行しない温度に冷却するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特許第2551854号公報
【特許文献2】特許第3021262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献に記載される成形方法を採用することにより、発泡ポリエチレンテレフタレートシートを用いて耐熱性の良好な成形品を高い生産性、低コストで製造することが可能となる。本発明者らは、この方法を用いて多くの発泡ポリエチレンテレフタレートシート成形品を製造してきているが、先端部のR(曲率半径)が小さい突出部を有する形状の製品を成形するときに、該先端部の近傍に成形時の引き込みしわが現れる場合があることを経験した。このような引き込みしわが生じても成形品の機能自体には何の影響も与えないが、例えばCD(Compact Disk)あるいはDVD(Digital Video DiscまたはDigital Versatile Disk)のようなディスク等(以下、CD等と呼ぶことがある)を収納するトレーのように外観の美麗性も求められるようなものを成形する場合には、このようなしわが発生しないことが望まれる。
【0006】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、発泡ポリエチレンテレフタレートシートを用いて製品を成形する際に、厳しい成形条件であっても、引き込みしわが表面に形成されないようにし、常に外観の綺麗な成形品を得ることのできる発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法は、発泡ポリエチレンテレフタレートシートを表層の結晶化が促進する温度で表面処理する工程と、前記表面処理された発泡ポリエチレンテレフタレートシートを結晶化は促進しないがシートの成形が可能となる温度に加熱する工程と、前記加熱された発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、該加熱されたシートの温度より低い温度に維持された一対の成形型で挟持して所定形状に成形する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明において、基材となる発泡ポリエチレンテレフタレートシートは、前記した特許文献1、2に記載されるような従来公知の成形方法で用いられている発泡ポリエチレンテレフタレートシートと同じものであってよい。厚みや坪量等に特に制限はなく、成形しようとする製品特性に応じて適宜選定すればよいが、成形性を考慮すると、厚みは0.3mm〜4.0mmの間、坪量は250g/m〜900g/mの間、程度の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを用いることが実際的である。
【0009】
発泡ポリエチレンテレフタレートシートを表層の結晶化が促進する温度で表面処理する工程は、加熱ロールや面加熱手段で発泡ポリエチレンテレフタレートシートを加熱することにより行う。発泡ポリエチレンテレフタレートシートの結晶化が促進する温度は160℃〜190℃程度であり、従って、表面処理時での加熱温度はその温度以上の温度、例えば、170℃以上の温度で行う。加熱時間が長くなると内部にまで結晶化が進行して、後工程での成形性が悪くなるので好ましくなく、表層のみが結晶化するように加熱条件を設定する。
【0010】
また、加熱温度が高すぎると表層のみの結晶化を促進するように制御することが困難となるので、好ましくは、表面処理温度は、170℃〜180℃の範囲である。加熱ロールを用いて表面処理を行う場合には、ロールの温度とロール回転速度を調整することによって、また、面加熱手段を用いる場合には、面加熱手段の温度とシートの送り速度を調整することによって、表層の結晶化が所望に促進した発泡ポリエチレンテレフタレートシートが得られる。
【0011】
上記の表面処理は、シートの一方の面だけに行ってもよく、両面に行ってもよい。成形しようとする製品が、その一方の面のみが主に購買者等の目に触れるようなものである場合には、目に触れる側となるシート面のみに前記の表面処理を施せば、所期の目的は達成できる。
【0012】
表面処理後の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを室温程度に降温させた後、結晶化は促進しないがシートの成形が可能となる温度に加熱する工程を行う。表層の結晶化が促進する温度で表面処理された発泡ポリエチレンテレフタレートシートを自然放熱で室温程度に降温させた後、例えば従来知られた成形機の加熱炉内を通過させることにより、上記加熱を行うことができる。シート温度は76℃〜150℃であることが好ましく、より好ましくは、100℃〜130℃の範囲である。76℃以下では熱不足で、次工程での成形型による成形がやや困難となる。また、150℃を超えて加熱すると、シート内部の結晶化が促進して成形性が悪くなり、脆性が出て次工程での成形型による成形において割れやすくなる。加熱時間はシートの厚み等によって異なるが、シートの内部まで十分に加熱されるようにする。
【0013】
加熱後の発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、該加熱されたシートの温度より低く該シートの成形能を停止させない温度以上の温度に維持された一対の成形型で挟持して所定形状に成形する。この工程により、発泡ポリエチレンテレフタレートシートは成形型のキャビティ形状に応じて成形される。成形方法には、真空成形方法やマッチモールド成形方法等を採用できる。成形型の温度は、型を開いて成形後のシートを取り出すときに、成形品に変形が起こらないような温度であることが望ましく、好ましくは、90℃程度以下、より好ましくは50℃以下である。
【0014】
本発明者らの実験では、上記のようにして成形した成形品の表面、すなわち表層の結晶化が促進する温度で表面処理が施された側の面には、先端部のR(曲率半径)が小さい突出部となっている部分の近傍に成形時の引き込みしわは現れてなく、表面全体が美麗な成形面となっていた。本発明による方法では、成形機に発泡ポリエチレンテレフタレートシートを通す前に、表層の結晶化を促進させる温度で表面処理を施しており、そのために、表層部分の伸びが悪くなって、結果として、引き込みじわが生じるのが防止されたものと考えられる。
【0015】
上記の引き込みじわは、突出部がその側面も含めて他の領域と同じ厚さに成形しようとするときに、特に発生しやすいが、本発明による成形方法を採用することにより、その場合も、しわはまったく生じなかった。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、先端部のR(曲率半径)が小さい突出部を有する形状の製品を発泡ポリエチレンテレフタレートシートから成形するときに、先端部周辺に従来生じていた引き込みじわをなくすことができ、表面の美麗な成形品を得ることができる。成形品はシートの内部まで結晶化が進んでいないため、耐熱性が従来の成形品よりも幾分低下するが、表層の結晶化は促進しており、常温下で主に使用されるような形成品では、何の支障も生じない。また、従来の成形法のように、最後に冷却する工程を必要としないので、工程数も簡素化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は、本発明による発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法により成形された製品の一例としての上記したCD等を収納するトレーを示しており、図2は、本発明による発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法を実施するための成形装置の一例を示す概略断面図である。
【0018】
CD等を収納するトレー10は、中央にCD等を位置決めするための円筒状の突起11と、収納するCD等の外周縁に沿う形の円周壁12とを有しており、突起11と円周壁12の高さは、収納するCD等の厚さよりもやや高くされている。従来の発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法による製品の場合、円周壁11の先端部におけるR(曲率半径)が小さい突出部の近傍(図1でAとして示す領域)、あるいは直径の小さい円筒形である突起11の基盤部13からの立ち上がり部(図1でBとして示す領域)に、微小なしわ(引き込みじわ)が生じるのを避けることは困難であった。特に、円筒状の突起11や円周壁12に所要の強度を与えるために、立ち上がり壁部に基盤部13とほぼ同じ厚さを持たせるような成形方法を採用すると、引き込みじわの発生は顕著であった。本発明による成形方法を採用することにより、このような引き込みじわを生じさせることなく、所望の成形を行うことが可能となる。
【0019】
成形装置1は、面加熱部2と成形型3とを備え、成形型3は雌型3aと雄型3bからなり、図示しない液圧手段により互いに近接しまた離間する方向に移動する。なお、温度条件を除き、面加熱部2と成形型3は、従来の発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形装置における面加熱部と成形型と同じものであってよい。
【0020】
発泡ポリエチレンテレフタレートシート4は、ロール状の原反5として、面加熱部2より上流側(図では左側)に位置しており、原反5から巻き出された発泡ポリエチレンテレフタレートシート4は、回転駆動装置(不図示)を備えた一対のロール6a、6b間を通過して加熱された後、面加熱部2と成形型3とを通過する。前記したように、この発明に使用される発泡ポリエチレンテレフタレートシート4としては、厚み0.3mm〜4.0mm、坪量250g/m〜900g/m程度のものが好適に使用される。
【0021】
この例において、一対のロール6a、6bのうち、上方のロール6aは適宜の加熱手段により170℃〜180℃の温度に加熱されており、下方のロール6bは加熱手段を備えない。発泡ポリエチレンテレフタレートシート4は、回転駆動される一対のロール6a、6b間を通過することにより、加熱されたロール6aに接する側の面(上面側)は結晶化が促進する温度に曝されて表面処理される。なお、ロール6a、6bの送り速度(回転速度)により結晶化の促進程度が変化するので、最適な送り速度となるように調整する(通常、厚み0.3mm〜4.0mm、坪量250g/m〜900g/m程度のシートの場合で、2m/min〜3m/min)。
【0022】
表層の結晶化が促進する温度で表面処理された発泡ポリエチレンテレフタレートシート4は、自然放熱により室温程度まで降温した後、面加熱部2を通過する。面加熱部2はシートの両面を加熱できるようにされており、ここを通過することにより、シートの両面は100℃〜130℃に加熱される。この温度は、発泡ポリエチレンテレフタレートシート4の結晶化が促進する温度より低いので、結晶化が促進することなくシートの軟化のみが進行する。シートの中心部まで100℃〜130℃に加熱されるよう、面加熱部2の加熱領域長さを設定しておくことが好ましい。
【0023】
加熱された発泡ポリエチレンテレフタレートシート4は、次に、成形型3に入り込み、そこで雌型3aと雄型3bとの間で所要の成形が行われる。成形型3は、加熱されたシート4の温度より低い温度、好ましくは50℃よりも低い温度に維持されているが、100℃〜130℃に加熱された発泡ポリエチレンテレフタレートシート4は、その成形能が阻害されることはなく、型のキャビティ面に沿った成形が進行する。所定時間、キャビティ間に放置することにより、発泡ポリエチレンテレフタレートシート4は所望に成形されかつ冷却される。成形型3を開き、成形後の発泡ポリエチレンテレフタレートシート4を下流に送り出す。成形後のシート4は、既に冷却されているので、そこで成形品に変形が生じることはない。適宜のカッターによって所定に切断すれば、成形品が完成する。なお、多数個取りの成形による場合は、成形後に、トリミングを行えばよい。
【0024】
前記したように、本発明の方法では、発泡ポリエチレンテレフタレートシート4は、表層の結晶化が進行する温度で表面処理されており、その部分の伸びが悪くなっているために、成形時に、従来のように引き込みじわが生じるのことはない。そのために、最終的に得られる成形品は、円周壁12の先端部におけるR(曲率半径)が小さい突出部の近傍(図1でAとして示した領域)も、また、直径の小さい円筒形である突起11の基盤部13からの立ち上がり部(図1でBとして示した領域)も、しわのない平坦な面となり、美麗な表面性状を備えた成形品となる。
【実施例】
【0025】
以下、具体例並びに比較例により、この発明を説明する。
【0026】
[実施例1]
原反5から巻き出した発泡ポリエチレンテレフタレートシート(商品名:セルペットCLF−DG070EA−17B、積水化成品工業株式会社製)(厚み0.8mm、坪量350g/m)4を、図2に示す成形装置1の一対のロール6a,6bの間に通過させた。上位のロール6aは直径150mmの鉄製(表面:フッ素加工)の加熱ロールで170℃に維持されており、下位のロール6bは直径150mmのシリコンゴム製の非加熱ロールを用いた。2つのロールは回転駆動しており、シート4を2.5m/minで送り出した。
【0027】
一対のロール6a,6bを通過した発泡ポリエチレンテレフタレートシート4を、内部環境が150℃に維持されている面加熱部2内に通過させた。シートの移動速度は2.5m/min、加熱部領域の長さは2.4mとした。面加熱部2から出てきた発泡ポリエチレンテレフタレートシート4の温度を測定したところ、表裏面の温度は120℃、中心部の温度は115℃であった。
【0028】
加熱後の発泡ポリエチレンテレフタレートシート4を雌雄の成形型3内に送り込み、図1に示した形状のCD等を収納するトレー10を成形した。成形中、成形型3の温度は50℃に維持するようにした。成形後に型を開き、成形済みの発泡ポリエチレンテレフタレートシート4を送り出し、カッターでCD等を収納するトレー10を切り出した。型取り出しからカッターでの切り出しの間に、成形品の変形は見られなかった。切り出した成形品10について、図1でAの領域部分とB領域部分とを目視により観察したところ、しわの発生はなく、平坦な面となっていた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による成形方法で成形される製品の一例としてのCD等を収納するトレーを示す斜視図。
【図2】本発明による成形方法を実施するための成形装置の一例を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0030】
1…成形装置、2…面加熱部、3…成形型、4…発泡ポリエチレンテレフタレートシート、6…一対のロール、10…成形品(CD等を収納するトレー)、11…円筒状の突起、12…円周壁、13…基盤部、A,B…微小なしわ(引き込みじわ)が生じやすい領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡ポリエチレンテレフタレートシートを表層の結晶化が促進する温度で表面処理する工程と、前記表面処理された発泡ポリエチレンテレフタレートシートを結晶化は促進しないがシートの成形が可能となる温度に加熱する工程と、前記加熱された発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、該加熱されたシートの温度より低い温度に維持された一対の成形型で挟持して所定形状に成形する工程とを含むことを特徴とする発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法。
【請求項2】
厚み0.3mm〜4.0mm、坪量250g/m〜900g/mの発泡ポリエチレンテレフタレートシートを、160℃〜190℃の温度に加熱して当該シートの表層の結晶化を促進させ、次に、該表層の結晶化が促進した発泡ポリエチレンテレフタレートシートを100℃〜130℃の温度に加熱して成形可能な状態とし、次に、90℃以下の温度に維持された一対の成形型で挟持して所定形状に成形することを特徴とする発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法。
【請求項3】
成形型を50℃以下の温度に維持した状態で発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形を行うことを特徴とする請求項2に記載の発泡ポリエチレンテレフタレートシートの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−56108(P2006−56108A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239595(P2004−239595)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【出願人】(504316676)天理化工株式会社 (2)
【Fターム(参考)】