説明

発泡不良現象を抑えた塩素含有樹脂組成物

【課題】フラッシュやシルバーストリークを防止、抑制しつつ、物性面でも実用に耐えうる無毒系塩素含有樹脂組成物、特に射出成型用の無毒系塩素含有樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】塩素含有樹脂100質量部と、第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物0.01〜5質量部とを含有する塩素含有樹脂組成物であって、前記第1の被覆層は、未被覆のアルカリ土類金属水酸化物の質量100質量%に対してSiO換算にて0.1〜20質量%のシリカを含有する塩素含有樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物を含有する塩素含有樹脂組成物に関する。詳しくは、本発明は表面にシリカ含有被覆層を有するアルカリ土類金属水酸化物を含有することにより、無毒系射出成型用樹脂組成物特有の発泡現象(シルバーストリークなど)等の外観不良を著しく改善し、低減することができる塩素含有樹脂組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
塩素含有樹脂は、高温になると塩化水素を発生し、分解が進行することが知られている。塩素含有樹脂の成型は、通常加熱下で行われることから、加工時の分解を抑えるため、塩素含有樹脂には安定剤が添加される。
【0003】
上記安定剤としては、鉛化合物等の有害金属を含む安定剤が従来多く使用されてきた。しかしながら、昨今の環境問題等を考慮し、鉛等の有害金属を含まない無毒系安定剤へと代替されつつある。
【0004】
この無毒系安定剤は、通常、ポリオール、有機酸亜鉛、アルカリ土類金属水酸化物等を主体にした組成からなる混合物である。ポリオールや有機酸亜鉛化合物は、塩素含有樹脂組成物の変色を防止するのに使用されている。また水酸化マグネシウムや水酸化カルシウム等のアルカリ土類水酸化物は、動的せん断時における分解抑制剤として使用されている。
【0005】
しかしながら、鉛系安定剤と比較して、無毒系安定剤は耐熱性能が乏しいという欠点を有する。そのため、無毒系安定剤を樹脂組成物に添加し、当該樹脂組成物を加熱・成型する際には、その耐熱不足等を起因としたフラッシュやシルバーストリーク(銀条)と言われる外観不良が頻繁に発生するという問題があった。このように従来の無毒系安定剤は、安定剤として実用的に用いることが困難であり、外観不良の生じない無毒系安定剤の開発が望まれていた。
【0006】
例えば特許文献1には、アルカリ土類金属水酸化物の応用例としてアルカリ土類金属水酸化物粒子の表面にアルカリ土類珪酸塩の層を形成したものが開示されている。しかしアルカリ土類金属水酸化物粒子表面にアルカリ土類珪酸塩を形成させたものを塩素含有樹脂組成物に配合しても、射出成型体の外観不良を抑制することはできなかった。
【0007】
一方、特許文献2には、難燃剤として有用なシリカ被覆水酸化マグネシウムが開示されているが、塩素含有樹脂組成物への配合は教示されておらず、塩素含有樹脂組成物の安定剤としての有効性についても不明であった。特に、特許文献2には、シリカ被覆水酸化マグネシウムは耐酸性が高く、実施例では塩化水素と反応させてもガスを発生しない旨が記載されている。従って特許文献2で得られるシリカ被覆水酸化マグネシウムには、加工時の塩化水素の発生を抑制し、分解を抑えるという塩素含有樹脂の安定剤としての効果はないことが示唆されていた。
【特許文献1】特開2003−40616号明細書
【特許文献2】特開平1−320219号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フラッシュやシルバーストリーク等の外観不良現象は、一般的に、耐熱不足による脱塩酸反応によるフラッシュが原因と考えられていた。しかし本発明者らは、鋭意検討の結果、無毒系射出成型用安定剤を用いた際に発生するフラッシュやシルバーストリークの原因として、下記式(1)で表されるように、射出時の急激な発熱により塩素含有樹脂から発生する塩化水素等の酸性物質と無毒系安定剤中のアルカリ土類金属水酸化物との反応により生成する水がその一因であることを特定した。
M(OH)+2HCl→MCl+2HO 式(1)
M:アルカリ土類金属(またはアルカリ土類金属イオン)
【0009】
上記特許文献1のようなアルカリ土類金属水酸化物粒子の表面にアルカリ土類珪酸塩の層を形成したものを使用しても発泡が抑制できなかったのは、上記のような機構によるものと推測できる。すなわちアルカリ土類珪酸塩は、胃酸中和剤として利用されている珪酸マグネシウムが用いられていることからも分かるように、容易に酸性物質と反応するため、上述の通り樹脂組成物内で水が生成するため、アルカリ土類珪酸塩の層を形成したのでは発泡を抑制するには不十分であると推測される。
【0010】
一方、無毒系射出成型用安定剤から、フラッシュやシルバーストリーク等の原因であるアルカリ土類金属水酸化物を除去してしまうと、フラッシュ等の外観不良は軽減できるものの、他の物性、特に動的耐熱性や静的耐熱性等の耐熱性が実用に耐えうるレベルには至らない。耐熱性が低下すると樹脂の分解が生じることから、アルカリ土類金属水酸化物を添加しなければ、連続生産に耐え得る性能は得られない。
【0011】
また、アルカリ土類金属水酸化物の代わりに、アルカリ金属水酸化物や酸化物、またはアルカリ土類金属酸化物を添加した場合、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物では、塩基性が強すぎて、樹脂の劣化を促進することになる。また、水溶性の性質を持つ化合物が多く、塩素含有樹脂組成物の安定剤としては、不向きである。アルカリ土類金属酸化物も酸性物質との反応で、脱水することになり、フラッシュ等の発泡現象を抑制するには至らない。
【0012】
つまり、従来技術(水酸化マグネシウムや水酸化カルシウムあるいは、アルカリ土類珪酸塩被覆アルカリ土類金属水酸化物など)を塩素含有樹脂組成物に配合し、射出成型に用いた場合、射出時の急激な発熱によって生成する水に起因するフラッシュやシルバーストリークを防止、抑制しつつ、満足する物性を満たす塩素含有樹脂組成物を提供することは困難であった。
【0013】
一方で、上記特許文献2のように、表面に耐酸処理(シリカコート)された水酸化アルカリ土類金属自体は従来から知られていたが、これらは難燃剤としての使用を開示するものであり、成型時、特に射出成型時における発泡抑制効果は知られていなかった。上記特許文献2の実施例等でも実際に示されているように、従来、表面に耐酸処理(シリカコート)された水酸化アルカリ土類金属は、ハロゲン化水素等との反応性はないか、あるいはほとんどないものと考えられていた。
【0014】
これに対し、本発明者らは、表面に特定の耐酸処理を施した水酸化アルカリ土類金属が、塩素含有樹脂の加工に必要な特性である動的耐熱性を損なうことなく、発泡現象(シルバーストリークやフラッシュ)を抑制でき、塩素含有樹脂の発泡抑制剤としての用途に適用できることを新たに見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題に対し、本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の表面処理を行ったアルカリ土類金属水酸化物を塩素含有樹脂組成物に使用することにより、樹脂劣化により生成する酸性物質との反応(水の生成)を遅延、抑制できることを発見した。本発明は、フラッシュやシルバーストリークを防止、抑制しつつ、物性面でも実用に耐えうる無毒系塩素含有樹脂組成物、特に射出成型用の無毒系塩素含有樹脂組成物を提供するものである。
【0016】
すなわち本発明は、塩素含有樹脂100質量部と、
第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物0.01〜5質量部と
を含有する塩素含有樹脂組成物であって、
上記第1の被覆層は、未被覆のアルカリ土類金属水酸化物の質量100質量%に対してSiO換算にて0.1〜20質量%のシリカを含有する
塩素含有樹脂組成物に関する。
【0017】
好ましい実施形態によれば、上記第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物は、さらに高級脂肪酸、高級脂肪酸アルカリ金属塩、多価アルコール高級脂肪酸エステル、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、シランカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、チタネートカップリング剤、オルガノシラン、オルガノシロキサン及びオルガノシラザンから選ばれる少なくとも1種の表面処理剤から形成される第2の被覆層を有する上記塩素含有樹脂組成物に関する。
【0018】
更に好ましい実施形態によれば、上記塩素含有樹脂組成物は、射出成型用塩素含有樹脂組成物である上記塩素含有樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、成型時、特に射出成型時において、シルバーストリーク、フラッシュ等の発泡現象に基づく外観不良現象を大幅に改善した無毒性の塩素含有樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明において、塩素含有樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、後塩素化ポリ塩化ビニル及び塩化ゴム、並びに、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体等の塩化ビニル系共重合体を挙げることができる。好ましくは、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、後塩素化ポリ塩化ビニル、塩化ビニル系共重合体であり、特に好ましくはポリ塩化ビニルである。
【0021】
更に、上記以外にも、塩素含有樹脂の具体例として、上記塩素含有樹脂とポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−3−メチルブテン等のα−オレフィン重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のα−オレフィン共重合体、ポリスチレン、アクリル樹脂、スチレンと他の単量体(例えば、無水マレイン酸、ブタジエン、アクリロニトリル等)との共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体とのブレンド物等を挙げることができる。また塩素含有樹脂に、必要に応じて、強化剤樹脂や加工助剤(ポリメチルメタクリレート樹脂、塩素化ポリエチレン等)を添加してもよい。
【0022】
上記塩素含有樹脂の製造方法は特に限定されず、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法等の公知の方法によって製造することができる。
【0023】
特に制限されないが、本発明は射出成型時に最も顕著な外観不良抑制効果を発揮できることから、上記塩素含有樹脂は、射出成型可能な塩素含有樹脂であるのが好ましい。
【0024】
本発明による塩素含有樹脂組成物は、第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物を含有する。
【0025】
当該アルカリ土類金属水酸化物は、これまで難燃剤として利用されることが提案されていたものであるが(特開2003−253266号明細書)、従来、表面に耐酸処理(シリカコート)された水酸化アルカリ土類金属は、ハロゲン化水素等との反応性はないか、あるいはほとんどないものと考えられていた(上記特許文献2参照)。特開2003−253266号明細書においても、特定の表面処理を施すことにより、水酸化マグネシウム粒子を難燃剤として配合した難燃性樹脂の耐酸性を向上することを目的として使用されており、当該明細書内には、本願発明のように成型時、特に射出成型時における発泡抑制効果を教示する記載は見られない。
【0026】
これに対し、本発明者らは、表面に特定の耐酸処理を施した水酸化アルカリ土類金属が、塩素含有樹脂の加工に必要な特性である動的耐熱性を損なうことなく、発泡現象(シルバーストリークやフラッシュ)を抑制でき、塩素含有樹脂の発泡抑制剤としての用途に適用できることを新たに見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0027】
なお、水酸化マグネシウムを樹脂の難燃剤用途に用いる場合、通常、樹脂100質量部に対し、概ね10〜500質量部の難燃剤が使用される(例えば特開2001−312925号明細書、特許請求の範囲参照)。また実際、特開2001−312925号明細書の実施例においては、樹脂100質量部に対し、150質量部の難燃剤が使用されている。これに対し、本願発明は、塩素含有樹脂100質量部に対し、0.01〜5質量部(好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部、特に好ましくは0.1〜1質量部)の第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物を含有する組成物である。このように、難燃剤用途においては通常大量のアルカリ土類金属水酸化物を要するのに対し、本願発明では、樹脂に対し少量で十分に発泡抑制効果を発揮できる。このように、本願において発泡抑制剤として使用されるアルカリ土類金属水酸化物は、従来難燃剤用途として使用されてきた水酸化マグネシウムとは用途上明確に区別されるものである。
【0028】
本明細書においては、被覆前後のアルカリ土類金属水酸化物を区別するために、第1の被覆層を形成する前のアルカリ土類金属水酸化物を、「未被覆(の)アルカリ土類金属水酸化物」ともいう。
【0029】
本明細書においては、「被覆」とは、アルカリ土類金属水酸化物の表面の少なくとも一部分を、または全表面を覆うことを意味する。また「被覆層」とは、アルカリ土類金属水酸化物の表面の少なくとも一部分を、または全表面を覆う層を意味する。
【0030】
上記未被覆のアルカリ土類金属水酸化物としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウムの水酸化物が挙げられる。中でもカルシウム、マグネシウムが好ましく、マグネシウムが特に好ましい。また上記未被覆のアルカリ土類金属水酸化物は、天然品であっても、合成品であってもよく、特に限定されるものではない。例えば、天然鉱石を粉砕して得られた粉末、アルカリ土類金属塩水性溶液をアルカリで中和して得られた粉末、アルカリ土類金属水酸化物粒子をホウ酸塩、リン酸塩、水溶性亜鉛塩等のような適当な改質剤で処理した粉末等が挙げられる。また、アルカリ土類金属水酸化物粒子は、亜鉛、コバルト、銅、ニッケル、鉄等の異種金属元素を含む固溶体であってもよい。
【0031】
また上記未被覆のアルカリ土類金属水酸化物を合成する方法は、特に限定されず、例えば常温・常圧下での中和反応を行う方法でもよいが、好ましくは、高温・高圧下における、アルカリ土類金属塩と水酸化物との間の水熱反応により好適にアルカリ土類金属水酸化物を得ることができる。具体的には、アルカリ土類金属の塩化物に、塩基性物質を加熱下で反応させること等により、所望のアルカリ土類金属水酸化物を得ることができる。
【0032】
上記アルカリ土類金属水酸化物は、単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
上記第1の被覆層は、上記未被覆のアルカリ土類金属水酸化物の質量100質量%に対してSiO換算にて0.1〜20質量%のシリカを含有する層である。本発明において「シリカ」とは、式SiO・nHO(0≦n≦2)で表される含水又は非含水のケイ素酸化物を意味する。従って「未被覆のアルカリ土類金属水酸化物の質量100質量%に対してSiO換算にて・・・質量%」という割合は、シリカの総質量から、シリカに含まれる水分子の質量を除いた質量の、未被覆のアルカリ土類金属水酸化物の総質量に対する百分率を意味する。第1の被覆層中のシリカの含有量は、好ましくは未被覆のアルカリ土類金属水酸化物に対してSiO換算にて0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。上記含有量が0.1質量%よりも少ないときは、酸性物質との反応による水の生成を抑制する効果が十分に発揮されず、他方、上記含有量が20質量%よりも多いときは、酸性物質とアルカリ土類金属水酸化物間の反応はほとんど起こらないが、動的耐熱性等の他の物性が著しく損なわれることになり、好ましくない。
【0034】
本発明の塩素含有樹脂組成物は、塩素含有樹脂100質量部に対し、第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物0.01〜5質量部を含有する。第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物の含有量が0.01質量部より少ない場合には、実質的な耐熱性向上効果が確認できず、一方5質量部を超えると、実用には耐えうるものの変色しやすくなり、またコストも高くなる。上記含有量は0.1〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましく、0.1〜1質量部が特に好ましい。
【0035】
上記アルカリ土類金属水酸化物の表面に第1の被覆層を形成する方法は、特に限定されず、乾式被覆法(メカノケミカル反応)や湿式沈殿法やゾル混合乾燥法等の各方法を採用することができる。
【0036】
その一例として、次のような方法を挙げることができる。まず、5〜100℃の範囲の温度、好ましくは、50〜95℃の範囲の温度で、アルカリ土類金属水酸化物粒子、好ましくは水酸化マグネシウム粒子の存在下、水溶性のケイ酸塩を酸で中和し、該アルカリ土類金属水酸化物粒子の表面にシリカを析出させる。これによりアルカリ土類金属水酸化物粒子の表面にシリカを含有する被覆層を設けることができる。
【0037】
特に限定されないが、より具体的には、水酸化アルカリ土類金属粒子の水性スラリーを60℃以上、好ましくは、60〜95℃に保持しつつ、これに未被覆のアルカリ土類金属水酸化物粒子に対してSiO換算にて0.1〜20質量%の水溶性のケイ酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウム)を加える。得られた混合物に酸(例えば、硫酸や塩酸)を40分以上かけて加えて、上記スラリーをpH6〜10、好ましくは、6〜9.5まで中和する。これによりアルカリ土類金属水酸化物粒子の表面にシリカを含有する被覆層を設けることができる。
【0038】
この方法において、上記酸を加える時間の上限は、特に限定されるものではないが、生産効率の観点から、3時間程度であるのが好ましい。
【0039】
特に限定されないが、別の例としては以下のような方法も挙げられる。まず、アルカリ土類金属水酸化物粒子の水性スラリーを60℃以上、好ましくは、60〜95℃に保持する。温度を維持しつつ、未被覆のアルカリ土類金属水酸化物粒子に対してSiO換算にて0.1〜20質量%の水溶性のケイ酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウム)と、酸(例えば、硫酸や塩酸)とをほぼ当量比にて同時に40分以上かけて加える。その後、必要に応じて、更に酸を加えて、pH6〜10、好ましくは、6〜9.5まで中和する。この方法によってもアルカリ土類金属水酸化物粒子の表面にシリカを含有する第1の被覆層を設けることができる。
【0040】
上述の方法において、上記水溶性のケイ酸塩は、アルカリ土類金属水酸化物に対して、SiO換算にて、好ましくは、1〜20質量%の範囲で、より好ましくは、3〜20質量%の範囲で用いられる。
【0041】
なお上述の方法において、水性スラリーとは、スラリーの分散媒が水又は水と水溶性有機溶剤の混合物を含む懸濁液をいい、水性溶液とは、同様に、溶液の溶媒が水又は水と水溶性有機溶剤の混合物を含む溶液をいう。
【0042】
またアルカリ土類金属水酸化物粒子の水性スラリーとは、水溶性アルカリ土類金属塩(例えば、塩化マグネシウムや硝酸マグネシウム等)の水性溶液を、水酸化ナトリウムやアンモニア等のアルカリで中和し、アルカリ土類金属水酸化物を沈殿させて得られる水性スラリーや、アルカリ土類金属水酸化物粒子を水性媒体中に分散して得られる水性スラリーをいう。
【0043】
上述したように、アルカリ土類金属水酸化物のスラリーに水溶性ケイ酸塩を添加した後、酸(例えば、硫酸)を加えて、上記ケイ酸塩を中和し、又は上記スラリーに水溶性ケイ酸塩と酸とを同時に加えて、上記ケイ酸塩を中和することによって、アルカリ土類金属水酸化物粒子の表面にシリカを析出させ、かくして、アルカリ土類金属水酸化物粒子の表面にシリカを含有する被覆層を形成することができる。しかし、このようにして、シリカ含有被覆層を形成したアルカリ土類金属水酸化物のスラリーは、濾過性が劣る場合がある。
【0044】
この濾過性を改善するために、上記第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物を、さらに高級脂肪酸、高級脂肪酸アルカリ金属塩、多価アルコール高級脂肪酸エステル、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、シランカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、チタネートカップリング剤、オルガノシラン、オルガノシロキサン及びオルガノシラザンから選ばれる少なくとも1種の(第2の)表面処理剤にて表面処理し、第2の被覆層をアルカリ土類金属水酸化物表面上に形成するのが好ましい。
【0045】
本態様においては、説明上、上述の「未被覆のアルカリ土類金属水酸化物に対してSiO換算にて0.1〜20質量%のシリカを含有する被覆層」を「第1の被覆層」、上記表面処理剤にて表面処理することにより形成される層を「第2の被覆層」と呼ぶ。なお、上述したとおり、第1、第2の被覆層共に、「被覆」とは、アルカリ土類金属水酸化物の表面の少なくとも一部分を、または全表面を覆うことを意味する。また「被覆層」とは、アルカリ土類金属水酸化物の表面の少なくとも一部分を、または全表面を覆う層を意味する。
【0046】
このように、第1の被覆層、及び第2の被覆層の両方を有するアルカリ土類金属水酸化物を含有する塩素含有樹脂組成物は、本発明の好ましい態様を構成する。
【0047】
第1の被覆層と第2の被覆層の構造は特に限定されず、第1の被覆層を内層、第2の被覆層を外層とする複層であってもよく、その逆に第2の被覆層を内層、第1の被覆層を外層とする複層であってもよい。またアルカリ土類金属水酸化物の表面上に部分的に第1の被覆層が形成されている場合は、同一面上の残りの部分に第2の被覆層が形成されていてもよい。また第1の被覆層と第2の被覆層は明確な境界を有している必要はなく、部分的に複合構造を採っていてもよい。本願発明の効果を損ねないものである限り、いずれの構造を採っていてもよいが、スラリーの濾過性を改善するという観点から、第1の被覆層を内層、第2の被覆層を外層とする複層、又は、アルカリ土類金属水酸化物の表面上に部分的に第1の被覆層が形成されており、同一面上の残りの部分に第2の被覆層が形成されている構造、のいずれかであるのが好ましい。
【0048】
上記高級脂肪酸としては、例えば、炭素数12〜24の飽和又は不飽和の高級脂肪酸を挙げることができる。限定されないが、具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の炭素数12〜24の飽和脂肪酸、並びにオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の炭素数12〜24の不飽和高級脂肪酸を挙げることができる。また上記高級脂肪酸のアルカリ金属塩としては、これらの脂肪酸の塩が挙げられ、ナトリウム塩やカリウム塩が好ましい。
【0049】
上記多価アルコール脂肪酸エステルの具体例としては、限定されないが、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート等を挙げることができる。
【0050】
上記アニオン系界面活性剤としては、限定されないが、例えば、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコールの硫酸エステル塩、ポリエチレングリコールエーテルの硫酸エステル塩、アミド結合硫酸エステル塩、エステル結合硫酸エステル塩、エステル結合スルホネート、アミド結合スルホン酸塩、エーテル結合スルホン酸塩、エーテル結合アルキルアリルスルホン酸塩、エステル結合アルキルアリルスルホン酸塩、アミド結合アルキルアリルスルホン酸塩等を挙げることができる。
【0051】
上記リン酸エステルとしては、限定されないが、リン酸トリエステル、ジエステル、モノエステル又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0052】
上記リン酸トリエステルの具体例としては、限定されないが、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ヒドロキシルフェニルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、オレイルホスフェート、ステアリルホスフェート等を挙げることができる。
【0053】
また、ジエステル又はモノエステル(即ち酸性リン酸エステル)の具体例としては、限定されないが、例えば、メチルアシッドホスフェート(モノメチルエステルとジメチルエステルとの混合物)、エチルアシッドホスフェート(モノエチルエステルとジエチルエステルとの混合物)、イソプロピルアシッドホスフェート(モノイソプロピルエステルとジイソプロピルエステルとの混合物)、ブチルアシッドホスフェート(モノブチルエステルとジブチルエステルとの混合物)、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート(モノ−2−エチルヘキシルエステルとジ−2−エチルヘキシルエステルとの混合物)、イソデシルアシッドホスフェート(モノイソデシルエステルとジイソデシルエステルとの混合物)、ジラウリルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート(モノラウリルエステルとジラウリルエステルとの混合物)、トリデシルアシッドホスフェート(モノトリデシルアシッドホスフェートとジトリデシルアシッドホスフェートとの混合物)、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート(モノステアリルエステルとジステアリルエステルとの混合物)、イソステアリルアシッドホスフェート(モノイソステアリルエステルとジイソステアリルエステルとの混合物)、オレイルアシッドホスフェート(モノオレイルエステルとジオレイルエステルとの混合物)、ベヘニルアシッドホスフェート(モノベヘニルエステルとジベヘニルエステルとの混合物)等を挙げることができる。
【0054】
これらの酸性リン酸エステルは、金属塩、例えば周期律表第Ia、IIa、IIb及びIIIaから選ばれる少なくとも1種の金属の塩であってもよい。好ましい具体例として、上記ジエステル又はモノエステルのリチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩等を挙げることができる。
【0055】
本明細書において、上記シランカップリング剤とは、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メルカプト基、塩素原子等から選ばれる反応性官能基と共に、アルコキシル基に代表される加水分解性基を有するオルガノシランをいう。
【0056】
従って、上記シランカップリング剤としては、限定されないが、例えば、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0057】
上記アルミニウムカップリング剤としては、限定されないが、例えば、アセチルアルコキシアルミニウムジイソプロピレートを例示することができる。
【0058】
上記チタネートカップリング剤としては、限定されないが、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチルアミノエチル)チタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート等を例示することができる。
【0059】
上記オルガノシランとしては、代表的には、アルキル基及び/又はアリールと共にアルコキシル基のような加水分解性基を有する有機ケイ素化合物が挙げられる。具体例としては、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0060】
上記オルガノシロキサンとしては、オルガノジシロキサンを含むオルガノシロキサンオリゴマーやオルガノポリシロキサンが挙げられる。限定されないが、オルガノジシロキサンの具体例としては、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、ヘキサフェニルジシロキサン、ナトリウムメチルシリコネート等を挙げることができる。また、限定されないが、オルガノシロキサンオリゴマーとしては、例えば、メチルフェニルシロキサンオリゴマーやフェニルシロキサンオリゴマー等を挙げることができる。
【0061】
本発明によれば、オルガノシロキサンとしては、特に、オルガノポリシロキサンが好ましい。なかでも、所謂シリコーンオイルと呼ばれるものが好適に用いられる、そのようなオルガノポリシロキサンの具体例として、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルポリシクロシロキサン等の所謂ストレートシリコーンオイルを挙げることができる。
【0062】
また、種々の有機基を有する所謂変性シリコーンオイルも好ましく用いられる。そのような変性シリコーンオイルとして、例えば、ポリエーテル変性、エポキシ変性、アミノ変性、カルボキシル変性、メルカプト変性、カルビノール変性、メタクリル変性、長鎖アルキル変性シリコーンオイル等を挙げることができるが、しかし、これらに限定されるものではない。
【0063】
上記オルガノシラザンとしては、限定されないが、例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ヘキサエチルシクロトリシラザン、メチルポリシラザン、フェニルポリシラザン等を挙げることができる。
【0064】
特に本発明によれば、表面処理剤としてシランカップリング剤が好ましく、シランカップリング剤の中でも、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランやメチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0065】
上記の第2の表面処理剤は、表面処理において、未被覆のアルカリ土類金属水酸化物に対して0.03〜10質量%、好ましくは、0.1〜5質量%、特に好ましくは、1〜3質量%の範囲で用いられる。
【0066】
第2の被覆層を形成するための表面処理剤による表面処理の方法は特に限定されず、湿式、乾式のいずれでも行うことができる。
【0067】
一例として、アルカリ土類金属水酸化物粒子を湿式にて表面処理する方法としては、限定されないが、以下のような方法が挙げられる。まず上述したように、アルカリ土類金属水酸化物のスラリー中にてアルカリ土類金属水酸化物粒子の表面に、シリカを含有する第1の被覆層を形成する。次いで、第1の被覆層を有するアルカリ土類金属水酸化物のスラリーに、エマルジョン、水性溶液又は分散液等の適宜の形態にて表面処理剤を加え、温度20〜95℃、好ましくは30℃〜95℃の加熱下に、pH6〜12の範囲で攪拌、混合する。その後、アルカリ土類金属水酸化物粒子を濾過し、得られた粒子を水洗し、乾燥し、粉砕すればよい。
【0068】
また、アルカリ土類金属水酸化物粒子を乾式にて表面処理する方法としては、限定されないが、以下のような方法が挙げられる。まず、上述したように、アルカリ土類金属水酸化物のスラリー中にてアルカリ土類金属水酸化物粒子の表面にシリカを含有する第1の被覆層を形成する。次いでアルカリ土類金属水酸化物粒子を濾過し、得られたアルカリ土類金属水酸化物粒子を水洗し、乾燥し、粉砕する。その後、5〜300℃、好ましくは30〜300℃の加熱下において、粉砕後の粒子を上記表面処理剤と攪拌、混合すればよい。
【0069】
上記アルカリ土類水酸化物の表面に形成される第2の被覆層の質量は、限定されないが、未被覆のアルカリ土類金属水酸化物に対して、合計量で、0.03〜10質量%の範囲にあることが適当である。好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは1〜3質量%である。
【0070】
本発明による塩素含有樹脂組成物は、必要に応じて、他の添加剤を適宜に配合することができる。そのような添加剤として、例えば、可塑剤、潤滑剤、充填剤、酸化防止剤、熱安定化剤、核剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、相溶化剤、耐光剤、顔料、発泡剤、防カビ剤等を挙げることができる。
【0071】
本発明の塩素含有樹脂組成物の調製方法については特に限定されないが、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ニーダ混練機、バンバリーミキサー等を用いて各成分を混練することによって塩素含有樹脂組成物を得ることができる。
【0072】
また、本発明の塩素含有樹脂組成物は、用途や目的に応じて、例えば、射出成型、押出成型、ブロー成型、プレス成型、真空成型、カレンダー成型、トランスファー成型、積層成型等、適宜の手段によって種々の成型品の製造に好適に用いることができる。中でも本発明は射出成型時のフラッシュやシルバーストリーク等の外観不良を抑制する上で最も効果を発揮する。従って上記塩素含有樹脂組成物は、射出成型用塩素含有樹脂組成物であるのが好ましい。また当該射出成型用塩素含有樹脂組成物を射出成型に用いるのが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明を説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0074】
<被覆層を有するアルカリ土類水酸化物の調製>
(合成例A)
水5Lを張った反応器に4モル/Lの塩化マグネシウム水溶液16.7Lと14.3モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液8.4Lとを攪拌下に同時に加えた後、170℃で1時間水熱反応を行った。このようにして得られた水酸化マグネシウムを濾過し、水洗した。得られたケーキを水中で再び懸濁させて、水酸化マグネシウムの水スラリー(150g/L)を得た。上記水酸化マグネシウムのスラリー(150g/L)20Lを80℃に加温し、ケイ酸ナトリウムをSiOとして150g加えた後、更に、スラリーのpHが9になるまで、硫酸を1時間かけて加えた。このスラリーを80℃で1時間熟成させ、水酸化マグネシウム粒子の表面に高密度のシリカ含有被覆層を形成した。得られたスラリーから被覆水酸化マグネシウム粒子を濾過にて分離、水洗し、乾燥し、粉砕して、本発明の塩素含有樹脂組成物の一成分であるアルカリ土類金属水酸化物を得た。
【0075】
(合成例B)
合成例Aで得たシリカ処理前水酸化マグネシウムのスラリー(150g/L)20Lを80℃に加温し、ケイ酸ナトリウムをSiOとして300g加えた後、更に、スラリーのpHが9になるまで、硫酸を1時間かけて加えた。このスラリーを80℃で1時間熟成させ、水酸化マグネシウム粒子の表面に高密度のシリカ含有被覆層を形成した。次いで、得られた水酸化マグネシウム粒子のスラリーに、あらかじめ0.3%酢酸とメタノール50%を含む水性溶液にて加水分解させたγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン90gを含むエマルジョンを加え、80℃で1時間攪拌した。その後、得られたスラリーを濾過して、被覆水酸化マグネシウム粒子を分離した。得られた被覆水酸化マグネシウム粒子を水洗し、乾燥し、粉砕して、本発明の塩素含有樹脂組成物の一成分であるアルカリ土類金属水酸化物を得た。
【0076】
(合成例C)
水酸化カルシウムの水スラリー(150g/L)20Lを攪拌下、80℃に加温し、これにケイ酸ナトリウムをSiO換算にて30g加えた。その後、更に、スラリーのpHが9になるまで、硫酸を1時間かけて加えた。このスラリーを80℃で1時間熟成させ、水酸化カルシウム粒子の表面に高密度のシリカ含有被覆層を形成した。次いで、得られた被覆水酸化カルシウム粒子のスラリーにあらかじめ0.3%酢酸とメタノール50%を含む水性溶液にて加水分解させたヘキシルトリメトキシシラン90gを含むエマルジョンを加え、80℃で1時間攪拌した。その後、得られたスラリーを濾過して水酸化カルシウム粒子を分離した。得られた被覆水酸化カルシウム粒子を水洗し、乾燥し、粉砕して、本発明の塩素含有樹脂組成物の一成分であるアルカリ土類金属水酸化物を得た。
【0077】
(調製例)
<塩素樹脂含有組成物の調製及びシートの作成>
表1、2の実施例、比較例に示す各配合成分を、8インチロールを用いて170℃にて5分間混練し、塩素樹脂含有組成物を調製した。各塩素樹脂含有組成物をシート状に成型し、0.3mm厚のシートを得た。
【0078】
<シートの評価>
(プレス発泡性)
上記調製例で作成したシートを220℃電気プレスにて予熱1分、2分間プレス(加圧4.9MPa(50kgf/cm))した。プレス後のシート表面における気泡の有無を目視にて確認した。気泡が有る場合は×、無い場合は○とした。
【0079】
(動的耐熱性)
上記調製例で作成したシートを細かく裁断し、東洋精機製ラボプラストミル50C−150型(R−60)に65g仕込み、200℃×30rpmで混練し、トルクが上昇するまでの時間を測定した。
【0080】
(静的オーブン耐熱性)
作成したシートを3cm×4cmのシートに切断し、200℃ギアオーブンにて老化させ、その際の変色程度を目視にて評価した。
◎:非常に良好 (変色なし)
○:良好 (ほぼ変色なし)
△:許容レベル(わずかに変色あり)
×:不良(著しい変色あり)
【0081】
(静的プレス耐熱性)
作成したシートを200℃電気プレスにて予熱1分、2分間プレス(加圧4.9MPa(50kgf/cm))し、その際の変色程度を目視にて評価した。
◎:非常に良好 (変色なし)
○:良好 (ほぼ変色なし)
△:許容レベル(わずかに変色あり)
×:不良(著しい変色あり)
【0082】
<射出成型体の評価>
(射出成型によるフラッシュ発生度の評価)
表1、2中に示す各配合成分を20L高速ミキサーにて攪拌し、120℃まで昇温した。その後、速やかに40℃まで冷却し、射出成型テスト用コンパウンドを得た。得られたコンパウンドを、日精樹脂工業製40T射出成型機(バレル160℃、ノズル190℃)にて射出成型を行い、得られた成型品の発泡の有無(フラッシュの有無)を目視にて確認した。発泡が有る場合は×、無い場合は○とした。
【0083】
(成分の説明)
実施例、比較例では以下のアルカリ土類金属水酸化物成分を用いた。
(実施例)
実施サンプルA:合成例Aに記載の水酸化マグネシウム粒子
実施サンプルB:合成例Bに記載の水酸化マグネシウム粒子
実施サンプルC:合成例Cに記載の水酸化カルシウム粒子
(比較例)
比較水酸化マグネシウム:神島化学製水酸化マグネシウム#200
比較水酸化カルシウム:日の丸工業製 消石灰特号
比較成分A:特開2003−40616号明細書(上記特許文献1)記載の実施例1に記載の珪酸アルカリ土類金属被覆水酸化マグネシウムを再現したもの
【0084】
また参考例1として、従来品の鉛系安定剤を用いた例を表2に示した。
三塩基性硫酸鉛:堺化学工業製 TL−7000
二塩基性亜硫酸鉛:堺化学工業製 NB−2000
ステアリン酸鉛:堺化学工業製 SL−1000
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
表1に示すように、本願実施例の塩素含有樹脂組成物は、いずれの実施例においても射出成型時に発泡(フラッシュ)が全く発生しなかった。これは、有害性から代替の要望が強い鉛系の安定剤を使用した場合(参考例1)と遜色のないレベルであった。
【0088】
一方、未被覆の水酸化マグネシウムや水酸化カルシウムを配合した比較例1〜2及び4〜7や、珪酸アルカリ土類金属被覆水酸化マグネシウムを配合した比較例8においては、射出成型時に発泡(フラッシュ)による外観不良が生じた。またアルカリ土類金属水酸化物を添加しなかった比較例3では、一般に「焼け」と呼ばれる黒化現象が生じ、実用に耐えうるものではなかった。このように、実施例、比較例に示す結果から、射出成型時において発泡(フラッシュ)を抑制することができるという本願発明の有利な効果が実証された。
【0089】
またその他の物性についても、実施例の塩素含有樹脂組成物の物性は、鉛系安定剤を用いた従来品(参考例1)と遜色のないものであったのに対し、比較例の組成物においては、発泡性や耐熱性等のいずれか又は全ての物性において実用に耐えうる程度の満足な物性を満たさなかった。このように、有毒な鉛系安定剤を含有する従来の塩素含有樹脂組成物の代替品として、本願発明の塩素含有樹脂組成物を用いうることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有樹脂100質量部と、
第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物0.01〜5質量部と
を含有する塩素含有樹脂組成物であって、
前記第1の被覆層は、未被覆のアルカリ土類金属水酸化物の質量100質量%に対してSiO換算にて0.1〜20質量%のシリカを含有する
塩素含有樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1の被覆層を表面に有するアルカリ土類金属水酸化物は、さらに高級脂肪酸、高級脂肪酸アルカリ金属塩、多価アルコール高級脂肪酸エステル、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、シランカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、チタネートカップリング剤、オルガノシラン、オルガノシロキサン及びオルガノシラザンから選ばれる少なくとも1種の表面処理剤から形成される第2の被覆層を有する
請求項1に記載の塩素含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩素含有樹脂組成物は、射出成型用塩素含有樹脂組成物である
請求項1または2に記載の塩素含有樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−70681(P2010−70681A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241161(P2008−241161)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】