説明

発泡充填部材

【課題】 発泡シートを簡易に保持して、構造物の空間を確実に充填することのできる、発泡充填部材を提供すること。
【解決手段】 発泡シート2を断面円弧形状に形成した後、その発泡シート2に巻回ベルト6を巻回して、その巻回ベルト6の遊端を、ベルト挿通部7の挿通口11に挿通して、巻回ベルト6の係止凹部14に、可撓片12の係止爪13を係止させ、巻回ベルト6の巻回長さを調整する。その後、構造物に挿通板8を差し込んで、内側係止板9と外側係止板10とで構造物を挟持することにより、固定部5によって構造物の間の空間や中空構造物の内部空間に、巻回ベルト6に保持される発泡シート2を固定して、発泡温度に加熱する。これにより、発泡シート2が発泡して、その空間を隙間なく充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の空間を充填する発泡体を形成するための発泡充填部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のピラーなどの中空構造物では、制振性や防音性を確保すべく、その内部空間を発泡体で充填することが知られている。そして、そのような発泡体を形成するために、発泡充填部材が用いられている。発泡充填部材は、中空構造物の内部空間に配置され、外部からの加熱により発泡して発泡体を形成し、その発泡体により内部空間を充填する。
【0003】
例えば、中空パネルの内部充填領域に未発泡で固形の発泡充填材を設置し、その後、外部加熱によって発泡充填材を発泡させることで、その発泡に基づく発泡体を内部充填領域に充填させる中空パネルの発泡充填方法であって、発泡充填材を、弾性変形してロール状に巻かれるシート状発泡基材により構成し、シート状発泡基材をロール状に巻いて内部充填領域に配置することで、シート状発泡性基材を、そのロール状の弾性変形に基づく弾発力によって内部充填領域に保持し、その後、シート状発泡基材を加熱発泡させることで、その発泡に基づく発泡体を内部充填領域に充満させる中空パネルの発泡充填方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−63443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載される発泡充填方法では、シート状発泡性基材を、そのロール状の弾性変形に基づく弾発力によって内部充填領域に保持するため、シート状発泡性基材のずれにより、ロール状が安定して保持されず、その結果、中空パネルの内部充填領域を確実に充填できないという不具合がある。
また、シート状発泡性基材のロール状を保持するために、シート状発泡性基材をロール状に巻いた状態でクリップを貫通させて係止させると、シート状発泡性基材を穿孔しなければならず、穿孔の手間がかかるという不具合がある。
【0005】
本発明の目的は、発泡シートを簡易に保持して、構造物の空間を確実に充填することのできる、発泡充填部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の発泡充填部材は、構造物の空間を充填する発泡体を形成するための発泡充填部材であって、発泡材料から、シート状に形成されている発泡シートと、前記発泡シートを構造物の空間に固定するための固定部材とを備え、前記固定部材は、前記構造物に固定するための固定部と、前記発泡シートを前記発泡シートの長手方向に直交する幅方向に沿って周回する周回部とを備えており、前記発泡シートは、その幅方向両端縁が互いに近接する方向に湾曲または屈曲される状態で、前記周回部に保持されていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の発泡充填部材では、前記周回部は、周回長さが調整可能とされていることが好適である。
また、本発明の発泡充填部材では、前記周回部には、その周回方向途中において、前記周回部を連結または解除可能な係合部が設けられていることが好適である。
また、本発明の発泡充填部材では、前記発泡シートの曲げ弾性率が、2〜180MPaであることが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発泡充填部材によれば、発泡シートを穿孔せずとも、固定部材の周回部において、発泡シートを、その幅方向両端縁が互いに近接する方向に湾曲または屈曲される状態で保持することができる。そのため、発泡シートを簡易に保持して、構造物の空間を確実に充填することができる。その結果、制振性や防音性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の発泡充填部材の一実施形態を示す斜視図、図2は、図1に示す発泡充填部材の側面図、図3は、図1に示す発泡充填部材の組立段階での断面図である。
図1において、この発泡充填部材1は、構造物の間の空間や中空構造物の内部空間を充填する発泡体を形成するために用いられ、発泡シート2と、発泡シート2を構造物の間の空間や中空構造物の内部空間に固定するための固定部材としてのクリップ3とを備えている。
【0010】
発泡シート2は、加熱(例えば、120〜210℃前後)により発泡する発泡材料からシート状に形成されている。
発泡材料としては、特に制限されず、公知の発泡性ポリマーが用いられる。発泡性ポリマーとしては、特に制限されないが、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリケトンなどの樹脂、例えば、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)などのゴムなどが挙げられる。好ましくは、エチレン・酢酸ビニル共重合体が用いられる。エチレン・酢酸ビニル共重合体を用いることにより、発泡倍率を高くすることができる。これら発泡性ポリマーは、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0011】
また、発泡材料には、発泡性ポリマーを発泡および硬化させるために、さらに、例えば、架橋剤、発泡剤、必要により発泡助剤などが適宜配合される。
架橋剤としては、特に制限されないが、例えば、加熱により分解され、遊離ラジカルを発生して分子間または分子内に架橋結合を形成させる公知のラジカル発生剤が用いられる。より具体的には、例えば、ジクミルパーオキサイド、1,1−ジターシャリブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジターシャリブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジターシャリブチルパーオキシヘキシン、1,3−ビス(t−ブチルパ−オキシイソプロピル)ベンゼン、ターシャリブチルパーオキシケトン、ターシャリブチルパーオキシベンゾエートなどの有機過酸化物などが挙げられる。
【0012】
また、発泡性ポリマーが加硫可能である場合には、架橋剤として公知の加硫剤を用いることができる。そのような加硫剤としては、特に制限されないが、例えば、硫黄、硫黄化合物類、セレン、酸化マグネシウム、一酸化鉛、酸化亜鉛、ポリアミン類、オキシム類、ニトロソ化合物類、樹脂類、アンモニウム塩類などが挙げられる。
これら架橋剤は、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。また、架橋剤の配合割合は、特に制限されないが、例えば、発泡性ポリマー100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは、0.5〜7重量部である。
【0013】
また、加硫剤を用いる場合には、加硫促進剤を併用することができる。加硫促進剤としては、例えば、ジチオカルバミン酸類、チアゾール類、グアニジン類、スルフェンアミド類、チウラム類、キサントゲン酸類、アルデヒドアンモニア類、アルデヒドアミン類、チオウレア類などの公知の加硫促進剤が挙げられる。このような加硫促進剤は、1種または2種以上を適宜選択して用いることができ、その配合割合は、発泡性ポリマー100重量部に対して、0.1〜5重量部である。
【0014】
また、加硫促進剤とは反対に、成形性の調節などを目的として、例えば、有機酸やアミン類などの公知の加硫遅延剤などを適宜配合することもできる。
また、発泡剤としては、特に制限されないが、例えば、公知の無機系発泡剤や有機系発泡剤が用いられる。無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類などが挙げられる。
【0015】
また、有機系発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレート、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸アミドなどのアゾ系化合物、例えば、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミド、トリニトロトリメチルトリアミンなどのニトロソ系化合物、例えば、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、パラトルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド、アリルビス(スルホニルヒドラジド)などのヒドラジド系化合物、例えば、p−トルイレンスルホニルセミカルバジド、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)などのセミカルバジド系化合物、例えば、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタンなどのフッ化アルカン、例えば、5−モルホリル−1,2,3,4−チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物などが挙げられる。
【0016】
また、これら発泡剤のなかでも、発泡性ポリマーの軟化温度以上で分解してガスを発生し、かつ、後述する発泡体の形成時において、ほとんど発泡しないものが、組成に応じて適宜選択される。好ましくは、120〜210℃前後で発泡するものが用いられる。
これら発泡剤は、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。また、発泡剤の配合割合は、特に制限されないが、例えば、発泡性ポリマー100重量部に対して、5〜50重量部、好ましくは、10〜30重量部である。
【0017】
なお、発泡剤の配合量は、発泡シート2の発泡時において、その発泡倍率が5〜25倍程度、好ましくは、10〜20倍程度で、実質的に独立気泡を生じさせる範囲であることが好適である。発泡剤の配合量が少なすぎると、発泡シート2が十分に発泡せず、一方、発泡剤の配合量が多すぎると、発泡により得られる発泡体の樹脂だれによる空隙を生じ、いずれも充填性が抵下する。
【0018】
発泡助剤としては、特に制限されないが、例えば、発泡剤の種類に応じて適宜公知の発泡助剤を選択することができ、より具体的には、例えば、尿素を主成分とする尿素系化合物、例えば、酸化亜鉛、酸化鉛などの金属酸化物、例えば、サリチル酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸またはその金属塩などが挙げられる。好ましくは、高級脂肪酸金属塩が用いられる。
【0019】
これら発泡助剤は、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。また、発泡助剤の配合割合は、特に制限されないが、例えば、発泡性ポリマー100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは、5〜10重量部である。
さらに、発泡材料には、その目的および用途によって、得られる発泡体の物性に影響を与えない範囲において、例えば、安定剤、補強材、充填剤、軟化剤や、さらには必要に応じて、例えば、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料、着色剤、防カビ剤、難燃剤などの公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0020】
そして、発泡シート2は、例えば、まず、上記した各成分を上記した配合割合において配合した後、例えば、ミキシングロール、加圧式ニーダーなどを用いて混練して、発泡材料を調製する。次いで、発泡材料を、プレスやカレンダーロールなどを用いてシート状に連続成形するか、あるいは、押出成形機を用いてシート状に連続成形する。その後、所定幅の帯状に加工することにより、得ることができる。
【0021】
このように、発泡シート2をシート状に形成することにより、発泡シート2を、連続成形によって、生産効率よく、低コストで生産することができる。
また、このようにして得られる発泡シート2は、厚みが、構造物の形状により適宜調整されるが、一般的には、0.5〜6.0mm、好ましくは、1.0〜5.0mmに設定される。0.5mm未満では、構造物の間の空間や中空構造物の内部空間を十分に充填できない場合があり、6.0mmを超えると、構造物の間の空間や中空構造物の内部空間が狭い場合に、取付(挿入)が困難となる場合がある。
【0022】
また、発泡シート2は、曲げ弾性率が、2〜180MPa、好ましくは、2〜150MPaに設定される。このように設定されることによって、発泡シート2には、適度の屈曲性および反発弾性が付与される。なお、曲げ弾性率が、2MPa未満では、発泡シート2が加熱時にダレてしまい、充填不良を生じる場合がある。一方、180MPaを超えると、発泡シート2の反発が大きくなり過ぎて、構造物に対する取付時の作業性が低下する場合がある。
【0023】
また、発泡シート2は、後述するクリップ3の巻回ベルト6によって巻回されやすいように、長手方向に沿う切り目4が形成されている。この切り目4は、幅方向(発泡シート2の長手方向に直交する方向、以下、「長手方向」および「幅方向」は、特に言及が限り、発泡シート2の長手方向および幅方向を基準とする。)に間隔を隔てて複数形成されている。
【0024】
クリップ3は、硬質樹脂からなり、射出成形などによって、一体成形されており、図1および図2に示すように、発泡シート2を内部空間22に固定するための固定部5と、発泡シート2を幅方向に沿って周回する周回部としての巻回ベルト6とを一体的に備えている。
固定部5は、ベルト挿通部7と、ベルト挿通部7から下方(長手方向および幅方向と直交する方向を便宜的に上下方向とする。以下同じ。)に向けて突出する挿通板8と、挿通板8の基端側から長手方向外方に突出する内側係止板9と、挿通板8の遊端側から内側係止板9と対向するように突出する外側係止板10とを備えている。
【0025】
ベルト挿通部7は、側面視略矩形状をなし、側面視略T字状の挿通口11が形成されている。この挿通口11には、可撓片12が設けられている。
可撓片12は、挿通口11の側面視中央の最深部に配置され、図3に示すように、ベルト挿通部7の挿通口11の下面の幅方向一端からその上面に向かって延び、挿通口11の上面と巻回ベルト6を挿入可能な隙間が隔てられるように、幅方向他端へ向かって屈曲する断面略L字形状に形成されている。この可撓片12における幅方向一端から幅方向他端までの途中には、後述する巻回ベルト6の係止凹部14に係止する係止爪13が、上方に向かって突出するように形成されている。
【0026】
可撓片12は、その幅方向一端を基端、その幅方向他端を遊端として、常には、係止爪13が巻回ベルト6の係止凹部14に係止され、遊端を下方に向かって撓ませることにより、係止爪13が巻回ベルト6の係止凹部14から係止解除されるように、弾性変形可能に設けられている。
また、この可撓片12において、係止爪13は、常には、巻回ベルト6の緩和方向のスライド移動を規制するように、係止凹部14に対して係止され、巻回ベルト6の締付方向のスライド移動を許容するように、係止凹部14に対して係止解除されるように、幅方向一端側が斜面となる正断面視略直角三角形状に形成されている。
【0027】
挿通板8は、図1および図2に示すように、ベルト挿通部7の下面から下方に向かって突出する正面視略矩形薄板形状に形成されている。この挿通板8は、幅方向に沿って配置され、ベルト挿通部7の下面の側面視中央から突出するように形成されている。
内側係止板9は、弾性変形可能な可撓性の薄板からなり、挿通板8の基端側から、側面視において挿通板8に対して対称であって、長手方向外方に延び、その遊端が下方に傾斜する略ハの字状となるように、突出形成されている。
【0028】
外側係止板10は、弾性変形可能な可撓性の薄板からなり、挿通板8の遊端側から、側面視において挿通板8に対して対称であって、内側係止板9に向かって延び、その遊端が内側係止板9の途中とわずかな間隔を隔てて対向する略V字状となるように、突出形成されている。
巻回ベルト6は、幅方向に沿って湾曲する帯状をなし、その基端が固定部5のベルト挿通部7の上面に固定されている。この巻回ベルト6は、基端から遊端までの長さが、発泡シート2を幅方向に沿って巻回できるような長さとして形成されている。
【0029】
また、この巻回ベルト6には、巻回ベルト6の長手方向(発泡シート2の幅方向)において、互いに間隔を隔てて複数の係止凹部14が形成されている。各係止凹部14は、巻回ベルト6の表面(発泡シート2と接触する裏面と反対側の表面)に、平面視略矩形状の凹部として形成されている。
そして、この発泡充填部材1は、まず、図3(a)に示すように、発泡シート2の幅方向両端縁が互いに近接するように、発泡シート2を切り目4に沿って屈曲させることにより、発泡シート2を断面円弧形状に形成した後、巻回ベルト6を、断面円弧形状に形成された発泡シート2に巻回して、その巻回ベルト6の遊端を、ベルト挿通部7の挿通口11に挿通して、巻回ベルト6の係止凹部14に、可撓片12の係止爪13を係止させる。これによって、発泡シート2は、断面円弧形状に保持された状態で、巻回ベルト6に保持される。
【0030】
次いで、発泡シート2が所望の大きさ(直径)となるまで、巻回ベルト6の遊端を、係止爪13に対して、巻回ベルト6の締付方向にスライド移動させて、巻回ベルト6の巻回長さを調整する。すると、図3(b)に示すように、巻回ベルト6は、発泡シート2を締付けながら縮径され、発泡シート2が所望の大きさ(直径)となる。
なお、係止爪13は、巻回ベルト6の締付方向にスライド移動させると、スライド移動の途中では、順次対向する係止凹部14に対して係止解除されながら、巻回ベルト6の締付方向のスライド移動を許容し、発泡シート2が所望の大きさ(直径)となったときには、対応する係止凹部14に対して係止され、巻回ベルト6の緩和方向のスライド移動を規制する。
【0031】
これによって、発泡シート2を、充填すべき構造物の間の空間や、充填すべき中空構造物の内部空間の大きさに合わせて、所望の大きさに形成することができる。
そして、このようにして形成される発泡充填部材1は、構造物に挿通板8を差し込んで、内側係止板9と外側係止板10とで構造物を挟持することにより、固定部5によって構造物の間の空間や中空構造物の内部空間に、巻回ベルト6に保持される発泡シート2を固定して、発泡温度(例えば、120〜210℃前後)に加熱すれば、発泡により、その空間を隙間なく充填することができる。そのため、このような発泡充填部材1は、特に制限されることなく、制振、防音、さらには、防塵、断熱、緩衝、水密などを目的として、構造物の空間に充填する、例えば、防振材、防音材、防塵材、断熱材、緩衝材、止水材などとして、各種の産業製品の発泡充填部材1として、用いることができる。
【0032】
そして、この発泡充填部材1によれば、発泡シート2を穿孔せずとも、クリップ3の巻回ベルト6において、発泡シート2を、所望の大きさの断面円弧形状となる状態で保持することができる。そのため、発泡シート2を簡易に保持して、構造物の空間を確実に充填することができる。その結果、制振性や防音性を向上させることができる。
なお、上記の説明では、1つの発泡シート2を1つのクリップ3で保持したが、発泡シート2の長さによっては、1つの発泡シート2を複数のクリップ3で保持することもできる。
【0033】
より具体的には、この発泡充填部材1を用いて、中空構造物として、例えば、自動車のピラーの内部空間を発泡により充填すれば、発泡により形成された発泡体により、エンジンの振動や騒音、あるいは、風きり音などが車室内に伝達されることを有効に防止することができる。
次に、この発泡充填部材1を用いて、自動車のピラーの内部空間を充填する方法を、図4を参照して、説明する。
【0034】
この方法では、まず、上記した巻回ベルト6の締付けにより、充填すべきピラー21の内部空間22の大きさに対応して、発泡シート2を断面円弧形状に形成する。
次いで、この方法では、図4(a)に示すように、ピラー21の内部空間22に、発泡充填部材1を設置する。ピラー21は、断面略凹状のインナパネル24およびアウタパネル25を備えており、ピラー21の内部空間22に発泡充填部材1を設置するには、まず、発泡充填部材1をインナパネル24に固定する。
【0035】
発泡充填部材1をインナパネル24に固定するには、まず、クリップ3において、固定部5の挿通板8を、外側係止板10をその弾性力に抗して挿通板8に近接するように撓ませながら、インナパネル24の所定位置に穿孔された固定孔26に、インナパネル24の内側面(アウタパネル25との対向面)から外側面に向かって挿通する。そして、挿通板8とともに外側係止板10を、固定孔26の外側面から露出させる。すると、外側係止板10は、その弾性力により、挿通板8から離間するように復元して、インナパネル24の外側面に弾性的に当接する。一方、内側係止板9は、挿通板8が固定孔26に挿通された状態では、インナパネル24の内側面に弾性的に当接する。つまり、インナパネル24は、固定孔26に挿通板8が挿通されるとともに、その固定孔26の近傍において、内側係止板9と外側係止板10とで挟持される。これによって、クリップ3の固定部5がインナパネル24に固定される。
【0036】
その後、発泡充填部材1が固定されたインナパネル24と、アウタパネル25との両端のフランジ部を対向当接させて、溶接により接合する。これによって、発泡充填部材1は、ピラー21の閉断面とされた内部空間22に固定される。
その後、この方法では、ピラー21の内周面に、防錆処理を施した後に、例えば、その後の焼付塗装時の乾燥ライン工程での加熱(例えば、110〜190℃)によって、発泡充填部材1を発泡、架橋および硬化させることにより、図4(b)に示すように、発泡体23を形成し、この発泡体23によってピラー21の内部空間22を隙間なく充填する。
【0037】
なお、発泡体23の形状、設置位置、配置方向および配置数などは、ピラー21の形状などに応じて適宜選択される。また、ピラー21は、より具体的には、車両ボディのフロントピラー、サイドピラーあるいはリヤピラーから選択される。
また、発泡体は、その密度(発泡体の重量(g)/発泡体の体積(cm))が、例えば、0.04〜0.2g/cm、さらには、0.05〜0.1g/cmであり、また、発泡時の発泡倍率が、5〜25倍、さらには、10〜20倍であることが好適である。
【0038】
そして、このような発泡充填部材1では、クリップ3の巻回ベルト6によって、発泡シート2を、予め、ピラー21の内部空間22の大きさに対応する断面円弧形状に保持することができるので、発泡シート2を、ピラー21の内部空間22に最適な大きさで、安定して配置することができる。そのため、発泡シート2を、発泡シート2のずれにより保持形状が崩れることもなく、最適な大きさで安定して発泡させることができるので、発泡体23によって、内部空間22を確実かつ安定して、隙間なく充填することができる。
【0039】
図5は、本発明の発泡充填部材の他の実施形態を示す斜視図、図6は、図5に示す発泡充填部材の正面図である。以下、図5および図6を参照して、本発明の発泡充填部材の他の実施形態について説明する。
図5において、この発泡充填部材1は、構造物の間の空間や中空構造物の内部空間を充填する発泡体を形成するために用いられ、発泡シート2と、発泡シート2を構造物の間の空間や中空構造物の内部空間に固定するための固定部材としてのクリップ31とを備えている。
【0040】
発泡シート2は、上記と同様に、加熱(例えば、120〜210℃前後)により発泡する発泡材料からシート状に形成されている。また、発泡シート2は、後述するクリップ31の枠部33によって周回されやすいように、長手方向に沿う切り目4が形成されている。この切り目4は、幅方向中央に形成されている。
クリップ31は、硬質樹脂からなり、射出成形などによって、一体成形されており、図5および図6に示すように、発泡シート2を内部空間22に固定するための固定部32と、発泡シート2を幅方向に沿って周回する周回部としての枠部33とを一体的に備えている。
【0041】
固定部32は、枠部33の下面から下方に向けて突出する挿通板34と、枠部33の下面から、挿通板34を挟んで幅方向両外方であって、斜め下方に向かって突出する内側係止板35と、挿通板34の遊端側から内側係止板35と対向するように突出する外側係止板36とを備えている。
挿通板34は、枠部33の下面から下方に向かって突出する側面視略矩形薄板形状に形成されている。この挿通板34は、長手方向に沿って配置され、枠部33の下面の正面視中央から突出するように形成されている。
【0042】
内側係止板35は、弾性変形可能な可撓性の薄板からなり、枠部33の下面から、正面視において挿通板34に対して対称であって、幅方向両外方であって、斜め下方に向かって突出する略ハの字状に突出形成されている。
外側係止板36は、弾性変形可能な可撓性の薄板からなり、挿通板34の遊端側から、正面視において挿通板34に対して対称であって、内側係止板35に向かって延び、その遊端が内側係止板35の途中と間隔を隔てて対向する略U字状となるように、突出形成されている。
【0043】
枠部33は、幅方向に沿って配置され、後述する挿入爪40の爪係合部41に対する係合状態において、正面視略矩形枠状の角筒形状に形成されている。この枠部33は、挿入爪40の爪係合部41に対する係合状態において、固定部32が連結される底板37と、底板37の幅方向両端部から上方に屈曲し、互いに対向する両側板38と、両側板38の上端間に架設され、底板37と対向する天板39とを備えている。この枠部33では、底板37に対して両側板38が一体的に形成されるとともに、一方の側板38に対して天板39が一体的に形成され、天板39の他端と、他方の側板38の上端とが、連続しないように形成されている。また、一方の側板38の上端と天板39の一端との境界部分には、切込42が形成されており、これによって、天板39の他端が、その一端を支点として、上下方向に撓むように形成されている。より具体的には、天板39は、図6の仮想線で示すように、常には、天板39の他端と、他方の側板38の上端とが、間隔を隔てて対向する状態であり、次に述べる挿入爪40の爪係合部41に対する係合状態において、天板39の他端と他方の側板38の上端とが連結される状態となる。
【0044】
また、枠部33の周回方向途中であり、天板39の他端と、他方の側板38の上端とには、枠部33を連結または解除可能な係合部としての、挿入爪40および爪係合部41が、それぞれ設けられている。
挿入爪40は、天板39の他端から、下方に向かって屈曲する板状をなし、その遊端が鉤状に形成されている。
【0045】
また、爪係合部41は、正面視略L字薄板状をなし、その遊端が鉤状に形成されている。爪係合部41は、鉤状に形成される遊端から連続する平板部分が、他方の側板38と、挿入爪40を受け入れ可能な間隔を隔てて対向するように配置され、その基端が他方の側板38の上下方向途中に連結されている。
そして、この発泡充填部材1は、まず、図6に示すように、発泡シート2の幅方向両端縁が互いに近接するように、発泡シート2を切り目4に沿って屈曲させることにより、発泡シート2を断面略V字形状に形成した後、その断面略V字形状に形成された発泡シート2を、クリップ3の枠部33における底板37と両側板38との間に挿入する。次いで、天板39を、天板39の弾性力に抗して上面から押圧すれば、天板39は、図6の仮想線に示す状態から、図6の実線で示すように、その遊端が下方へ移動して、挿入爪41が、他方の側板38と爪係合部41との間に挿入され、挿入爪41の遊端と爪係合部41の遊端とが係合される。これによって、枠部33が、断面略V字形状に形成された発泡シート2を幅方向に沿って周回し、発泡シート2が枠部33に保持される。
【0046】
そして、このようにして形成される発泡充填部材1は、上記と同様に、構造物に挿通板34を差し込んで、内側係止板35と外側係止板36とで構造物を挟持することにより、固定部32によって構造物の間の空間や中空構造物の内部空間に、枠部33に保持される発泡シート2を固定して、発泡温度(例えば、120〜210℃前後)に加熱すれば、発泡により、その空間を隙間なく充填することができる。そのため、このような発泡充填部材1は、上記と同様に、特に制限されることなく、制振、防音、さらには、防塵、断熱、緩衝、水密などを目的として、構造物の空間に充填する、例えば、防振材、防音材、防塵材、断熱材、緩衝材、止水材などとして、各種の産業製品の発泡充填部材1として、用いることができる。
【0047】
そして、この発泡充填部材1でも、発泡シート2を穿孔せずとも、クリップ31の枠部33において、発泡シート2を、挿入爪41と爪係合部41との係合により、簡易に保持して、構造物の空間を確実に充填することができる。その結果、制振性や防音性を向上させることができる。
なお、上記の説明では、1つの発泡シート2を1つのクリップ31で保持したが、発泡シート2の長さによっては、1つの発泡シート2を複数のクリップ31で保持することもできる。
【0048】
そして、この発泡充填部材1を用いて、中空構造物として、例えば、自動車のピラーの内部空間を発泡により充填すれば、発泡により形成された発泡体により、エンジンの振動や騒音、あるいは、風きり音などが車室内に伝達されることを有効に防止することができる。
次に、この発泡充填部材1を用いて、自動車のピラーの内部空間を充填する方法を、図7を参照して、説明する。
【0049】
この方法では、まず、充填すべきピラー21の内部空間22の大きさに対応する枠部33を備えるクリップ31において、発泡シート2を保持させる。
次いで、この方法では、図7(a)に示すように、ピラー21の内部空間22に、発泡充填部材1を設置する。ピラー21は、断面略凹状のインナパネル24およびアウタパネル25を備えており、ピラー21の内部空間22に発泡充填部材1を設置するには、まず、発泡充填部材1をインナパネル24に固定する。
【0050】
発泡充填部材1をインナパネル24に固定するには、上記と同様に、クリップ31において、固定部32の挿通板34を、外側係止板36をその弾性力に抗して挿通板34に近接するように撓ませながら、インナパネル24の所定位置に穿孔された固定孔26に、インナパネル24の内側面(アウタパネル25との対向面)から外側面に向かって挿通する。そして、挿通板34とともに外側係止板36を、固定孔26の外側面から露出させる。すると、外側係止板36は、その弾性力により、挿通板34から離間するように復元して、インナパネル24の外側面に弾性的に当接する。一方、内側係止板35は、挿通板34が固定孔26に挿通された状態では、インナパネル24の内側面に弾性的に当接する。つまり、インナパネル24は、固定孔26に挿通板34が挿通されるとともに、その固定孔26の近傍において、内側係止板35と外側係止板36とで挟持される。これによって、クリップ31の固定部32がインナパネル24に固定される。
【0051】
その後、発泡充填部材1が固定されたインナパネル24と、アウタパネル25との両端のフランジ部を対向当接させて、溶接により接合する。これによって、発泡充填部材1は、ピラー21の閉断面とされた内部空間22に固定される。
そして、この方法では、ピラー21の内周面に、防錆処理を施した後に、図7(b)に示すように、例えば、その後の焼付塗装時の乾燥ライン工程での加熱(例えば、110〜190℃)によって、発泡充填部材1を発泡、架橋および硬化させることにより、発泡体23を形成し、この発泡体23によってピラー21の内部空間22を隙間なく充填する。
【0052】
そして、このような発泡充填部材1では、枠部33によって、発泡シート2を、予め、ピラー21の内部空間22の大きさに対応する断面略V字形状に保持することができるので、発泡シート2を、ピラー21の内部空間22に最適な大きさで、安定して配置することができる。そのため、発泡シート2を、発泡シート2のずれにより保持形状が崩れることもなく、最適な大きさで安定して発泡させることができるので、発泡体23によって、内部空間22を確実かつ安定して、隙間なく充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の発泡充填部材の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す発泡充填部材の側面図である。
【図3】図1に示す発泡充填部材の組立段階での断面図であって、(a)は、発泡シートに巻回ベルトを巻回する工程、および、(b)は、巻回ベルトの巻回長さを調整する工程を示す。
【図4】図1に示す発泡充填部材を用いて、自動車のピラーの内部空間を充填する方法の一実施形態の工程図であって、(a)は、発泡充填部材をピラーに設置する工程、(b)は、加熱により発泡充填部材を発泡、架橋および硬化させることにより、発泡体によってピラーの内部空間を充填する工程を示す。
【図5】本発明の発泡充填部材の他の実施形態を示す斜視図である。
【図6】図5に示す発泡充填部材の正面図である。
【図7】図5に示す発泡充填部材を用いて、自動車のピラーの内部空間を充填する方法の一実施形態の工程図であって、(a)は、発泡充填部材をピラーに設置する工程、(b)は、加熱により発泡充填部材を発泡、架橋および硬化させることにより、発泡体によってピラーの内部空間を充填する工程を示す。
【符号の説明】
【0054】
1 発泡充填部材
2 発泡シート
3 クリップ
5 固定部
6 巻回ベルト
31 クリップ
32 固定部
33 枠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の空間を充填する発泡体を形成するための発泡充填部材であって、
発泡材料から、シート状に形成されている発泡シートと、前記発泡シートを構造物の空間に固定するための固定部材とを備え、
前記固定部材は、前記構造物に固定するための固定部と、前記発泡シートを前記発泡シートの長手方向に直交する幅方向に沿って周回する周回部とを備えており、
前記発泡シートは、その幅方向両端縁が互いに近接する方向に湾曲または屈曲される状態で、前記周回部に保持されていることを特徴とする、発泡充填部材。
【請求項2】
前記周回部は、周回長さが調整可能とされていることを特徴とする、請求項1に記載の発泡充填部材。
【請求項3】
前記周回部には、その周回方向途中において、前記周回部を連結または解除可能な係合部が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の発泡充填部材。
【請求項4】
前記発泡シートの曲げ弾性率が、2〜180MPaであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の発泡充填部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−69669(P2007−69669A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256711(P2005−256711)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】