説明

発泡樹脂複合構造体およびその製造方法

【課題】発泡樹脂製の母材の連通孔に充填材料を充填して成る発泡樹脂複合構造体であって、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体を実現する。
【解決手段】隣接する発泡ビーズ1c同士が融着することにより独立気泡構造が形成されており、発泡ビーズ1c間に空隙1dが形成されているとともに空隙1d間が連通することにより一の面1aから他の面1bに連通した連通孔1eが存在し、かつ、酸素指数が21より大きい母材1と、酸素指数が21より大きい充填材料4を母材1の空隙1dおよび連通孔1eに充填する充填装置10とを用意し、充填材料4の母材1に対する充填率を充填材料4の種類に応じて0.1〜4.5vol%の範囲から決定し、その決定した充填率にて充填材料4を充填装置10を用いて母材1の空隙1dおよび連通孔1eに充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発泡樹脂製の母材を利用した発泡樹脂複合構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者らは、先の出願において、差圧発生装置を用い、樹脂水性エマルションなどを発泡樹脂製の母材の連通孔に浸透させる発泡樹脂複合構造体の製造方法を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−89267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、その後、前述の製造方法により製造した発泡樹脂複合構造体の燃焼性について試験を行った。この試験は、JIS A 9511に規定されている燃焼性の測定方法に従って行った。また、母材として、酸素指数(JIS K 7201に定義されている酸素指数。以下同じ。)が21より大きい発泡樹脂製のものを使用し、充填材料として樹脂水性エマルションなどの酸素指数が21より大きいものを使用した。
【0005】
その結果、母材に対する充填材料の充填率が特定の充填率以上になると、燃焼性の要件(JIS A 9511の規定においてA種ビーズ法ポリスチレンフォーム保温材の特性の1つとして規定されている要件)を満たすことができなくなるおそれのあることが分かった。
つまり、酸素指数が21より大きい発泡樹脂製の母材に酸素指数が21より大きい充填材料を特定の充填率以上充填すると、発泡樹脂複合構造体の難燃性という特性が損なわれるおそれのあることが分かった。
【0006】
そこでこの発明は、酸素指数が21より大きい発泡樹脂製の母材の空隙および連通孔に酸素指数が21より大きい充填材料を充填して成り、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体を実現することを目的とする。なお、以下において、難燃性の判定は、JIS A 9511の規定においてA種ビーズ法ポリスチレンフォーム保温材の特性の1つとして規定されている燃焼性の要件に基づいて行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記目的を達成するため、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に記載の発明では、隣接する発泡ビーズ(1c)同士が融着することにより独立気泡構造が形成されており、前記発泡ビーズ間に空隙が形成されているとともに、前記空隙間が連通することにより一の面(1a)から他の面(1b)に連通した連通孔(1d)が存在し、かつ、酸素指数が21より大きい母材(1)の前記空隙および連通孔に充填材料(4)を充填して成る発泡樹脂複合構造体(5)であって、前記充填材料は、酸素指数が21より大きく、かつ、前記母材に対する充填率を充填材料の種類に応じて0.1〜4.5vol%の範囲から決定したものであることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発泡樹脂複合構造体(5)において、前記充填材料(4)の主成分は有機系物質であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発泡樹脂複合構造体(5)において、前記有機系物質は樹脂であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の発泡樹脂複合構造体(5)において、前記充填率が、1.0〜4.5vol%の範囲から決定されたものであることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の発泡樹脂複合構造体(5)において、前記充填率が、1.0〜2.5vol%の範囲から決定されたものであることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明では、請求項1に記載の発泡樹脂複合構造体(5)において、前記充填材料(4)の主成分は無機系物質であり、かつ、前記充填率が0.1以上1.5vol%未満の範囲から決定されたものであることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明では、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の発泡樹脂複合構造体(5)において、前記充填材料(4)は主成分に難燃剤を添加したものであることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明では、請求項7に記載の発泡樹脂複合構造体(5)において、前記難燃剤の主成分は有機系物質であることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明では、請求項7に記載の発泡樹脂複合構造体(5)において、前記難燃剤の主成分は無機系物質であることを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の発明では、請求項1ないし請求項9のいずれか1つに記載の発泡樹脂複合構造体(5)において、前記母材(1)はビーズ法ポリスチレンフォームにより形成されていることを特徴とする。なお、以下において、ビーズ法ポリスチレンフォームとは、JIS A 9511に規定されたA種ビーズ法ポリスチレンフォーム保温材の特性に一致するビーズ法ポリスチレンフォームのことをいうものとし、通常販売されているものの標準的な酸素指数は26とされている。
【0017】
ここで、ビーズ法ポリスチレンフォームにより形成された母材とは、金型内に発泡ビーズを充填し、それを加熱発泡させて成型した金型の形状通りの発泡樹脂成型体そのもの、あるいは、その発泡樹脂成型体を、加熱したニクロム線などによって溶断して作成された発泡樹脂成型体などのことである。
【0018】
請求項11に記載の発明では、請求項1ないし請求項10のいずれか1つに記載の発泡樹脂複合構造体の製造方法であって、前記母材の一の面に前記充填材料を配置する第1工程と、前記母材の一の面および他の面間に差圧を発生させて前記一の面に配置された充填材料を前記母材の空隙および連通孔に充填する第2工程と、前記母材の一の面および他の面間に差圧を発生させて前記一の面から気体を前記母材の連通孔に通す第3工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
なお、前述の各括弧内の符号は、後述する実施形態との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0020】
(請求項1ないし請求項11に係る発明の効果)
本願発明者らの実験によれば、酸素指数が21より大きい充填材料を酸素指数が21より大きい母材の空隙および連通孔に充填して成る発泡樹脂複合構造体は、充填材料の充填率を充填材料の種類に応じて0.1〜4.5vol%の範囲から決定することにより、難燃性が損なわれ難くできることが分かった。
【0021】
(請求項2に係る発明の効果)
酸素指数が21より大きく有機系物質が主成分の充填材料を充填材料の種類に応じて0.1〜4.5vol%の範囲から決定した充填率で充填した発泡樹脂複合構造体も難燃性が損なわれ難い。
【0022】
(請求項3に係る発明の効果)
酸素指数が21より大きく樹脂が主成分の充填材料を充填材料の種類に応じて0.1〜4.5vol%の範囲から決定した充填率で充填した発泡樹脂複合構造体も難燃性が損なわれ難い。
【0023】
(請求項4に係る発明の効果)
特に、請求項3に係る発明のように、酸素指数が21より大きく樹脂が主成分の充填材料を充填する場合は、その充填率の下限値を0.1から1.0vol%に上げ、1.0〜4.5vol%の範囲から充填率を決定しても、発泡樹脂複合構造体の難燃性が損なわれ難い。
【0024】
(請求項5に係る発明の効果)
特に、請求項4に係る発明において、充填率の上限値を4.5から2.5vol%に下げ、1.0〜2.5vol%の範囲から充填率を決定すれば、発泡樹脂複合構造体の難燃性がより一層損なわれ難い。
【0025】
(請求項6に係る発明の効果)
無機系物質が主成分の充填材料を充填する場合は、その種類に応じて充填率を0.1〜1.5vol%の範囲から決定すれば、発泡樹脂複合構造体の難燃性が損なわれ難い。
【0026】
(請求項7に係る発明の効果)
主成分に難燃剤を添加した充填材料を充填する場合も、その種類に応じて請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の特徴に従って充填率を決定すれば、発泡樹脂複合構造体の難燃性が損なわれ難い。
【0027】
(請求項8に係る発明の効果)
有機系物質が主成分の難燃剤を添加した充填材料を充填する場合も、その種類に応じて請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の特徴に従って充填率を決定すれば、発泡樹脂複合構造体の難燃性が損なわれ難い。
【0028】
(請求項9に係る発明の効果)
無機系物質が主成分の難燃剤を添加した充填材料を充填する場合も、その種類に応じて請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の特徴に従って充填率を決定すれば、発泡樹脂複合構造体の難燃性が損なわれ難い。
【0029】
(請求項10に係る発明の効果)
酸素指数が21より大きい母材としてビーズ法ポリスチレンフォームにより形成された母材を用いる場合でも、充填材料の充填率を充填材料の種類に応じて0.1〜4.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難くすることができる。
【0030】
(請求項11に係る発明の効果)
充填材料を母材の空隙および連通孔に充填した後に、母材の一の面から気体を母材の連通孔に通すため、充填された充填材料を母材から排出することができるので、充填材料の充填率を調節することができる。また、充填ムラを軽減して充填の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】母材1の説明図であり、(a)は母材1の斜視図、(b)は(a)に示す領域Dの拡大図である。
【図2】図1(b)に示す領域Dのさらなる拡大図であり、(a)は充填材料が空隙に充填されていない状態を示す拡大図、(b)は充填材料が空隙に充填された状態を示す拡大図である。
【図3】図1に示す母材に形成された連通孔の模式図であり、(a)は充填材料が連通孔に充填された状態を示す模式図、(b)は充填材料による膜が母材の一の面に形成された状態を示す模式図である。
【図4】装置に母材および充填材料がセットされた状態を示す縦断面図である。
【図5】実験1〜4の結果をまとめた図表である。
【図6】実験5の結果をまとめた図表である。
【図7】各実験で用いた充填材料の詳細を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明に係る発泡樹脂複合構造体の実施形態ついて図を参照しながら説明する。
[母材の構造]
発泡樹脂複合構造体を製造するための母材の構造について説明する。
図1は、母材1の説明図であり、(a)は母材1の斜視図、(b)は(a)に示す領域Dの拡大図である。図2は、図1(b)に示す領域Dのさらなる拡大図であり、(a)は充填材料が空隙に充填されていない状態を示す拡大図、(b)は充填材料が空隙に充填された状態を示す拡大図である。図3は、図1に示す母材に形成された連通孔の模式図であり、(a)は充填材料が連通孔に充填された状態を示す模式図、(b)は充填材料の膜が母材の一の面に形成された状態を示す模式図である。
【0033】
図1(b)に示すように、母材1は、ビーズ法ポリスチレンフォーム (以下、略してEPS(Expanded Polystyrene)という)により形成されており、相互に融着した多数の発泡ビーズ1cにより構成されている。隣接する発泡ビーズ1c同士が融着することにより独立気泡構造が形成されており、発泡ビーズ1c間に空隙1dが形成されている。
【0034】
また、一部の空隙1d同士は連通しており、それにより、図3に示すように、母材1には、一の面1aから他の面1bに連通した連通孔1eが多数形成されている。連通孔1eは、母材1の表面および裏面間に存在するだけでなく、表面および側面間または裏面および側面間または側面および側面間にも存在する。
【0035】
[実験]
本願発明者らは、図2(b)に示すように、母材1に形成された空隙1dに充填材料4を充填するとともに、図3に示すように、連通孔1eにも充填材料4を充填して発泡樹脂複合構造体5を製造し、充填材料4の充填率と発泡樹脂複合構造体5の難燃性との関係を求めるための実験を行った。図4は、充填装置に母材1および充填材料4がセットされた状態を示す縦断面図である。図5は実験1〜4の結果をまとめた図表であり、図6は実験5の結果をまとめた図表である。図7は各実験で用いた充填材料の詳細を示す図表である。
【0036】
(製造装置)
この実験において母材1の空隙1dおよび連通孔1eに充填材料4を充填するために用いた充填装置について図を参照して説明する。
【0037】
充填装置10は、母材1および充填材料4を収容するための容器2と、母材1の一の面1aと他の面1bとの間に差圧を発生させるための減圧装置3とを備える。容器2の上面は開口しており、その内部は中仕切り2aによって上下二つの空間に分かれている。上部空間2bは、母材1および充填材料4を収容する空間に形成されており、下部空間2cは、減圧室2dに形成されている。
【0038】
中仕切り2aには、上部空間2bから減圧室2dに連通する通気口2eが複数箇所に貫通形成されている。減圧室2dは、減圧室2dの側壁に貫通形成された排気口2fに連通しており、排気口2fは、管3aを介して減圧装置3と接続されている。この実験では、減圧装置3として、減圧室2dの圧力を調整可能な真空ポンプを使用した。
【0039】
(実験方法)
以下の各実験では、上記の充填装置10を用いた。また、母材1として、大きさが150×25×10(mm)で空隙率が3%のEPS製の母材を用いた。そして、以下の各工程によって母材1に充填材料を充填して試験片(発泡樹脂複合構造体)を製造した。
【0040】
母材1を製造装置10の中仕切り2aの上に配置し、その母材1の表面に充填材料4を配置する(第1工程)。次に、減圧装置(真空ポンプ)3を作動させ、母材1の表面および裏面間に差圧を発生させて充填材料4を母材1の空隙1dおよび連通孔1eに充填する(第2工程)。次に、母材1の表面から充填材料4が消失した後も減圧装置3を作動させて母材1の表面から空気を吸引し、充填材料4の母材1に対する充填率を制御するとともに充填ムラを軽減して充填の安定化を図る(第3工程)。また、充填材料4に混合する水量を調節することにより、充填材料4の母材1に対する充填率を調節した。
【0041】
また、充填材料4の母材1に対する充填率は、母材1に充填した充填材料4の重量(g)をA、充填材料4の比重をB、母材1の体積をCとして、充填率(vol%)=(A/B)/(0.03×C)という式を用いて算出した。また、充填装置10によって充填材料4が充填された試験片に対する燃焼性試験は、JIS-A-9511に規定されている燃焼性試験方法に従って行った。また、燃焼性試験は、各充填率に対して5回ずつ行った。つまり、1つの充填率に対して計5個の試験片を用いて燃焼性試験を行った。
【0042】
そして、JISに規定の合格基準を満たさなかった試験片の数に基づいて難燃性を評価した。JISに規定の合格基準とは、JIS−A−9511の規定に従って試験を行った結果、3秒間以内に炎が消えて、残じんがなく、かつ、燃焼限界指示線を超えて燃焼しないことである。そして、5個の試験片のうち、合格基準を満たさなかった試験片の数が3〜5個の場合を難燃性が無いとして「×」と評価し、1〜2個の場合を難燃性が損なわれ難い(難燃性が少し劣る)として「△」と評価し、0個の場合を難燃性が損なわれない(難燃性が有る)として「○」と評価した。
【0043】
〈実験1.難燃性の有機系物質を充填した場合〉
(実験1−1)
難燃性の有機系物質を母材1に充填して試験片を製造し、その試験片の難燃性を評価した。難燃性の有機系物質として、旭化成ケミカルズ株式会社製造のサランラテックスL131A(サランラテックスは旭化成ケミカルズ株式会社の登録商標)を用いた。
【0044】
サランラテックスL131Aは、塩化ビニリデン(PVDC(Poly Vinylidene Chloride))を主成分とする水性エマルションであり、酸素指数は21より大きく、一般的に主として難燃バインダーとして用いられる。サランラテックスL131Aの固形分は55%、比重は1.65、粘度は10mPa・s、表面張力は35MN/m、最低成膜温度は12〜18℃である。
【0045】
実験の結果、図5のNo.5に示すように、サランラテックスL131A(表では、難燃有機(H−PVDC)と記載)の充填率が0.1〜2.5vol%の範囲における評価結果は総て○であり、充填率が2.5vol%を超え4.5vol%以下の範囲における評価結果は総て△であった。
【0046】
この実験結果より、母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対するサランラテックスL131Aの充填率を0.1〜4.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、充填率の上限値を4.5vol%から2.5vol%に下げ、充填率を0.1〜2.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0047】
(実験1−2)
次に、母材1に充填する難燃性の有機系物質として旭化成ケミカルズ株式会社製造のサランラテックスL106Cを用いて上記の実験を行った。サランラテックスL106Cは、塩化ビニリデン(PVDC)を主成分とする水性エマルションであり、酸素指数は21より大きく、一般的に主として難燃バインダーとして用いられる。サランラテックスL106Cの固形分は55%、比重は1.55、粘度は12mPa・s、表面張力は43MN/m、最低成膜温度は0〜5℃である。
【0048】
実験の結果、図5のNo.4に示すように、サランラテックスL106C(表では難燃有機(L−PVDC)と記載)の充填率が0.1以上1.0vol%未満の範囲における評価結果は総て○であり、充填率が1.0以上2.5vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0049】
この実験結果より、母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対するサランラテックスL106Cの充填率を0.1以上2.5vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、充填率の上限値を2.5vol%から1.0vol%に下げ、0.1以上1.0vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0050】
(実験1−3)
次に、難燃性の有機系物質に可燃性の有機系物質を添加したものを充填した試験片を用いて前述の実験を行った。難燃性の有機系物質として前述のサランラテックスL131Aを用い、可燃性の有機系物質としてBASFジャパン株式会社製造のアクロナールYJ2720D(ACRONALは、ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)を用いた。アクロナールYJ2720Dは、1液常温架橋性化合物のアクリルスチレン系水性エマルション(AS樹脂)であり、酸素指数は21以下、樹脂固形分は48重量%、比重は1.0、造膜温度は6℃である。
【0051】
また、サランラテックスL131Aに対するアクロナールYJ2720Dの重量比を5/95、1/9および1/4にそれぞれ設定したものを作成し、それぞれについて同じ実験を行った。
【0052】
実験の結果、図5のNo.8に示すように、サランラテックスL131Aに対するアクロナールYJ2720D(表では可燃有機/難燃有機(AS/H−PVDC)と記載)の重量比が5/95の試験片は、充填率が0.1〜0.5vol%の範囲における評価結果は総て○であり、充填率が0.5を超え2.0vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
また、図5のNo.7に示すように、サランラテックスL131Aに対するアクロナールYJ2720D(表では可燃有機/難燃有機(AS/H−PVDC)と記載)の重量比が1/9の試験片は、充填率が0.1〜0.5vol%の範囲における評価結果は総て○であり、充填率が0.5を超え1.5vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0053】
さらに、図5のNo.9に示すように、アクロナールYJ2720D(表では可燃有機/難燃有機(AS/H−PVDC)と記載)の重量比が1/4の試験片は、充填率が0.1以上0.5vol%未満の範囲における評価結果は総て○であり、充填率が0.5以上1.5vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0054】
これらの実験結果より、サランラテックスL131AにアクロナールYJ2720Dを5/95〜1/4の重量比で添加して成る物質の母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対する充填率を0.1以上0.5vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、難燃性を損なわないで充填率を高めるためには、可燃性の有機系物質であるアクロナールYJ2720Dの添加量を少なくすれば良いことが分かった。
【0055】
〈実験2.難燃性の無機系物質を充填した場合〉
(実験2−1)
次に、難燃性の無機系物質を充填した試験片を用いて前述の実験を行った。難燃性の無機系物質として昭和電工株式会社製造のH−42Mを用いた。H−42Mは、水酸化アルミニウムであり、酸素指数は21より大きく、一般的に主として難燃バインダーとして用いられる。また、水にH−42Mを分散した分散液を作成し、それを母材1に充填して試験片を作成した。
【0056】
実験の結果、図5のNo.2に示すように、H−42M(表では難燃無機物(水酸化アルミ)と記載)の充填率が0.1volにおける評価結果は○であり、充填率が0.1を超え1.5vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0057】
この実験結果より、水酸化アルミニウムの母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対する充填率を0.1以上1.5vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、上記の充填率を0.1vol%に決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0058】
(実験2−2)
次に、難燃性の無機系物質として白石カルシウム株式会社製造のソフトン1500を用いた。ソフトン1500は、炭酸カルシウムであり、酸素指数は21より大きい。また、水にソフトン1500を分散した分散液を作成し、それを母材1に充填して試験片を作成した。
【0059】
実験の結果、図5のNo.1に示すように、ソフトン1500(表では無機物(炭酸カルシウム)と記載)の充填率が0.1volの場合の評価結果は○であり、充填率が0.1を超え1.0vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0060】
この実験結果より、ソフトン1500の母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対する充填率を0.1以上1.0vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、上記の充填率を0.1vol%に決定することにより、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0061】
〈実験3.難燃性の有機系物質に難燃性の無機系物質を添加したものを充填した場合〉
次に、難燃性の有機系物質に難燃性の無機系物質を添加したものを充填した試験片を用いて前述の実験を行った。難燃性の有機系物質として前述のサランラテックスL131Aを用い、難燃性の無機系物質として前述のソフトン1500を用いた。この混合物の固形分に対する樹脂固形分の比は、80%である。
【0062】
実験の結果、図5のNo.10に示すように、充填率が0.1〜1.5vol%における評価結果は総て○であり、充填率が1.5を超え2.0vol%以下の範囲における評価結果は総て△であった。
【0063】
この実験結果より、サランラテックスL131Aにソフトン1500を添加したもの(表では難燃有機/無機(H−PVDC/炭カル)と記載)の母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対する充填率を0.1〜2.0vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、充填率の上限値を2.0vol%から1.5vol%に下げ、充填率を0.1〜1.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0064】
〈実験4.難燃剤を添加した場合〉
(実験4−1)
次に、可燃性の有機系物質に難燃剤を添加したものを充填した試験片を用いて前述の実験を行った。可燃性の有機系物質として前述のアクロナールYJ2720Dを用い、難燃剤として丸菱油化工業株式会社製造のノンネンSM−18を用いた(ノンネンは丸菱油化工業株式会社の登録商標)。ノンネンSM−18は有機系の分散液であり、その成分は、ハロゲン・多価金属酸化物系であり、酸素指数は21より大きい。また、アクロナールYJ2720Dに対するノンネンSM−18の重量比は30%である。
【0065】
実験の結果、図6のNo.1に示すように、充填率が0.1〜0.5volにおける評価結果は総て○であり、充填率が0.5を超え3.0vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0066】
この実験結果より、アクロナールYJ2720Dに対してノンネンSM−18を重量比30%で添加して成るものの母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対する充填率を0.1以上3.0vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0067】
また、上記の充填率の上限値を3.0vol%から0.5vol%に下げ、充填率を0.1〜0.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
さらに、図5のNo.3(実験4−1)と比較して分かるように、可燃性の有機系物質であるアクロナールYJ2720Dに難燃性の有機系物質であるノンネンSM−18を添加することにより、発泡樹脂複合構造体5の難燃性を確保しながらが可燃性の有機系物質の充填率を高めることができる。
【0068】
(実験4−2)
次に、可燃性の有機系物質としてポリ酢酸ビニルメタノール溶液を用い、難燃剤として前述のノンネンSM−18を用いて前述の実験を行った。ポリ酢酸ビニルメタノール溶液の酸素指数は21以下である。ポリ酢酸ビニルメタノール溶液に対するノンネンSM−18の重量比は30%である。
【0069】
実験の結果、図6のNo.3に示すように、充填率が0.1〜0.5vol%における評価結果は総て○であり、充填率が0.5を超え3.0vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0070】
この実験結果より、ポリ酢酸ビニルメタノール溶液に対してノンネンSM−18を重量比30%で添加したもの(表ではポリ酢酸ビニルメタノール溶液/難燃剤(酢酸ビニル/SM−18)と記載)の母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対する充填率を0.1以上3.0vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、充填率の上限値を3.0vol%から0.5vol%に下げ、充填率を0.1〜0.5vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0071】
〈実験5.難燃性の有機系物質に難燃剤を添加した場合〉
(実験5−1)
次に、難燃性の有機系物質に難燃剤を添加したものを充填した試験片を用いて前述の実験を行った。難燃性の有機系物質としてハロゲン化エポキシ樹脂を用い、難燃剤として三酸化アンチモンを用いた。三酸化アンチモンは、無機系物質である。ハロゲン化エポキシ樹脂の酸素指数は21より大きい。ハロゲン化エポキシ樹脂に対する三酸化アンチモンの重量比は3%である。
【0072】
実験の結果、図6のNo.4に示すように、充填率が0.1以上1.0vol%未満における評価結果は総て○であり、充填率が1.0以上2.0vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0073】
この実験結果より、ハロゲン化エポキシ樹脂に対して三酸化アンチモンを重量比3%で添加したもの(表ではハロゲン化エポキシ樹脂/難燃剤(YL7726/三酸化アンチモン)と記載)の母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対する充填率を0.1以上2.0vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、充填率の上限値を2.0vol%から1.0vol%に下げ、充填率を0.1以上1.0vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0074】
(実験5−2)
次に、難燃性の有機系物質として前述のサランラテックスL131Aを用い、難燃剤として丸菱油化工業株式会社製造のノンネンBC−52EMを用いた。ノンネンBC−52EMは、有機系のエマルションであり、その成分は、リン・ハロゲン系化合物であり、酸素指数は21より大きい。サランラテックスL131Aに対するノンネンBC−52EMの重量比は30%である。
【0075】
実験の結果、図6のNo.2に示すように、充填率が0.1以上2.5vol%未満における評価結果は総て○であり、充填率が2.5〜4.5vol%の範囲における評価結果は総て△であった。
【0076】
この実験結果より、サランラテックスL131Aに対してノンネンBC−52EMを重量比30%で添加したもの(表では難燃有機/難燃剤(H−PVDC/BC−52EM)と記載)の母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対する充填率を0.1〜4.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0077】
また、充填率の上限値を4.5vol%から2.5vol%に下げ、充填率を0.1以上2.5vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
さらに、図5のNo.5(実験1−1)と比較して分かるように、難燃性の有機系物質であるサランラテックスL131Aのみを母材1に充填した場合と、有機系の難燃剤であるノンネンBC−52EMを添加した場合とでは、難燃性が殆ど変化しない。
【0078】
〈総括〉
前述した実験1ないし5の各実験結果を総括すると、この実施形態に係る発泡樹脂複合構造体の製造方法を実施すれば、以下の効果を奏することができることが明らかとなった。
【0079】
(1)前述した実験1ないし5から、酸素指数が21より大きい充填材料を酸素指数が21より大きい母材1の空隙1dおよび連通孔1eに充填して発泡樹脂複合構造体5を製造する場合は、その充填率が低いほど、発泡樹脂複合構造体5の難燃性を高めることができる。
【0080】
(2)また、充填する充填材料の種類に応じて充填率を0.1〜4.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造することができる。
【0081】
(3)充填材料としては、有機系物質を主成分とする充填材料を選択することができ、その有機系物質としては樹脂を選択することができる。
【0082】
(4)特に、樹脂を主成分とする充填材料を選択する場合は、その充填率の下限値を0.1から1.0vol%に上げ、1.0〜4.5vol%の範囲から充填率を決定しても、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体を製造することができる。
【0083】
(5)特に、樹脂を主成分とする充填材料を選択する場合において、充填率の上限値を4.5から2.5vol%に下げ、1.0〜2.5vol%の範囲から充填率を決定すれば、難燃性がより一層損なわれ難い発泡樹脂複合構造体を製造することができる。
【0084】
(6)充填材料としては、無機系物質を主成分とする充填材料を選択することもでき、この場合も、その種類に応じて充填率を0.1〜1.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体を製造することができる。
【0085】
(7)また、主成分に難燃剤を添加した充填材料を選択することもでき、この場合も、その種類に応じて充填率を0.1〜4.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体を製造することができる。
【0086】
(8)また、有機系物質が主成分の難燃剤を添加した充填材料を充填する場合も、その種類に応じて充填率を0.1〜4.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体を製造することができる。
【0087】
(9)また、無機系物質が主成分の難燃剤を添加した充填材料を充填する場合は、その種類に応じて充填率を0.1〜1.5vol%の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体を製造することができる。
【0088】
[他の実施形態]
(1)充填材料4を母材1の一の面から充填する際に、充填材料4が一の面に残留するようにすることもできる。たとえば、図3(b)に示すように、流動状の樹脂4を母材1の一の面1aから充填する際に、その樹脂4を一の面1aに残留させ、その残留した樹脂4を乾燥させれば、一の面を樹脂製の膜4aで覆うことができる。この製造方法によれば、樹脂製の膜4aで覆われた面に防水効果を持った発泡樹脂複合構造体5を製造することができる。
【0089】
(2)前述した実施形態では、減圧装置3を用いて母材1の一の面1aおよび他の面1b間に差圧を発生させることにより充填材料4を母材1に充填したが、母材1の一の面1aに配置した充填材料4を加圧する加圧装置を併用することもできる。たとえば、図4に示す充填装置10の上部空間2bに蓋を配置し、その蓋と充填材料4との間に形成される空間に空気を送出して加圧する。この方法によれば、母材1の一の面1aおよび他の面1b間の差圧を効率良く増大させることができるため、母材1に対する充填材料4の充填速度を速くすることができるので、発泡樹脂複合構造体5の製造効率を高めることができる。空気の送出にはエアポンプなどを用いることができる。
【0090】
(3)充填材料4を充填させたくない母材1の領域を予めフィルムなどでマスキングしておいても良い。この方法によれば、母材1の所望の領域に充填材料4を充填することができる。
【0091】
(4)加熱により蒸発成分の蒸発が促進される充填材料4を用いる場合は、充填材料4が充填された母材1を加熱して乾燥を促進させ、製造時間を短縮することもできる。
【0092】
(5)機能性物質を含む充填材料4を母材1に充填することにより、その充填された機能性物質が発揮する機能を持った発泡樹脂複合構造体5を製造することができる。たとえば、薬剤を含む流動性の樹脂を母材1に充填することにより、その充填された薬剤の効果を持った発泡樹脂複合構造体5を製造することができる。
【0093】
たとえば、生物忌避剤を分散した流動性の樹脂を母材1に充填すれば、生物忌避効果を持った発泡樹脂複合構造体5を製造することができる。また、生物忌避剤が分散された樹脂は、母材1の空隙1dのみならず連通孔1eにも充填されるため、連通孔1eに充填された樹脂の中から生物忌避剤が時間をかけて蒸発するため、長期間に亘って生物忌避効果を持続することができる。
【0094】
たとえば、上記の生物忌避効果を持った発泡樹脂複合構造体5を建築物の断熱材などに使用すれば、シロアリやゴキブリ、ダニなどの害虫を除虫、さらに防カビや抗菌の特性を付与することができる。また、その発泡樹脂複合構造体を海上構造物のフロートなどに使用すれば、フジツボなどの貝類がフロートに付着しないようにすることができる。また、生物忌避剤を母材1の内部まで充填することができるため、発泡樹脂複合構造体5の表面が剥がれたり、欠けたりした場合であっても、生物忌避効果を持続することができる。
【0095】
また、生物忌避剤をマイクロカプセルに収容し、そのマイクロカプセルが多数集合してなる粉末を分散した充填材料4を母材1に浸透させて生物忌避効果を持った発泡樹脂複合構造体5を製造することもできる。たとえば、マイクロカプセルの外殻を構成するシェル(壁材)として、外気温度が所定温度を超えると亀裂の入る性質のシェルを使用し、そのシェルに生物忌避剤をコア(芯物質)として内包する。そして、そのマイクロカプセルを粉末として分散した充填材料4を母材1に浸透させることにより、外気温度が所定温度を超えると連通孔内のマイクロカプセルに亀裂が入り、ホウ酸の成分を外気中に放出することができる。
【0096】
また、時間の経過により自然分解するシェルを用いることもできる。なお、「マイクロカプセル」とは、直径がナノメートルからミリメートルの間の微小な容器のことをいう。また、マイクロカプセルには、密閉型および多孔型のものを含む。
【0097】
(6)また、導電性の粉末を分散した充填材料4を母材1に充填し、導電性を有する発泡樹脂複合構造体5を製造することができる。導電性の粉末として金、銀、銅、ニッケル、パラヂウム、白金、コバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、アルミニウム、亜鉛、錫、鉛などの金属を粉末にしたもの、それら金属の合金を粉末にしたもの、酸化錫などの金属酸化物を粉末にしたもの、カーボンなどの導電性炭素同素体を粉末にしたも、ガラス、カーボン、マイカ、プラスチックなどの粒子の表面に導電の金属をコートしたものなどを用いることができる。
なお、銅粉には生物忌避効果があるため、銅粉を母材1に浸透させれば、生物忌避効果を持った発泡樹脂複合構造体5を製造することができる。
【0098】
(7)磁性粉末を分散した充填材料4を母材1に充填し、磁性を持った発泡樹脂複合構造体5を製造することができる。磁性粉末としてフェライト、コバルトフェライト系磁性体、メタル磁性体、CrO、γ−Fe、FeN、Baフェライトなどの粉末を用いることもできる。
【0099】
(8)充填材料4として、アクリル系、合成ゴム系、酢酸ビニル系、エチレン系、塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、エポキシ系およびウレタン系の少なくとも1つからなる溶剤型または分散型の樹脂を用いることができる。たとえば、アクリル系の溶剤型または分散型の樹脂として、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル−アクリル酸共重合物、アクリル酸エチル-スチレン-アクリルアミド共重合物、アクリル酸2エチルヘキシル-メタクリル酸-アクリル酸共重合物などを用いることができる。なお、上記の酸素指数が21以下の充填材料を用いる場合は、必要に応じて難燃剤を配合して充填材料の酸素指数を21より大きくする。
【0100】
また、合成ゴム系の溶剤型または分散型の樹脂として、スチレン-ブタジエンラテックス、スチレン-アクリルニトリル-ブタジエンラテックス、ポリブタジエンラテックスなどを用いることができる。また、酢酸ビニル系の溶剤型または分散型の樹脂として、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル-アクリル酸エチル共重合物、酢酸ビニル-メタクリル酸メチル共重合物、酢酸ビニル-べオバ共重合物、ポリビニールアルコールなどを用いることができる。また、エチレン系の溶剤型または分散型の樹脂として、ポリエチレンエマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合物、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸共重合物、エチレン-アクリルニトリル-酢酸ビニル共重合物などを用いることができる。なお、これらの樹脂を用いる場合は、必要に応じて難燃剤を配合して充填材料の酸素指数を21より大きくする。
【0101】
また、エポキシ系の溶剤型または分散型の樹脂として、エポキシ、アクリル酸ブチル-グリシジルメタクリレート-アクリルアミド共重合物などを用いることができる。また、ウレタン系の溶剤型または分散型の樹脂として、ポリウレタン、ウレタン変性アクリル酸-メタクリル酸共重合物などを用いることができる。なお、これらの樹脂を用いる場合は、必要に応じて難燃剤を配合して充填材料の酸素指数を21より大きくする。
【0102】
さらに、上記の各樹脂を水に分散してなる各種の樹脂水性エマルションを用いることができる。たとえば、エポキシ樹脂水性エマルション 、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂水性エマルション 、変性脂肪族ポリアミン樹脂水性エマルション、生分解性樹脂水性エマルションなどの樹脂水性エマルションを用いることができる。なお、これらの樹脂水性エマルションを用いる場合は、必要に応じて難燃剤を配合して充填材料の酸素指数を21より大きくする。
【0103】
(9)充填材料4を着色することもできる。その着色剤には、一般的な顔料または染料を用いることができる。顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、ドロマイト、桂砂、酸化鉄、カーボンブラック、シアニン系顔料、キナクドリン系顔料など、色材および充填剤として使用されるものがある。染料では、アゾ系染料、アントラキノン系染料、インジゴイド系染料、スチルベン系染料などがある。
【0104】
さらに、アルミフレーク、ニッケル粉、金粉、銀粉、銅粉、酸化チタンなどの金属粉を着色剤として用いても良い。
これらの着色剤によってエポキシ樹脂を着色することにより、発泡樹脂複合構造体5の色や模様を変えることができる。
【0105】
(10)母材1を形成するための発泡樹脂原料としては、特定の発泡温度において発泡するものである限り特に限定されないが、熱可塑性物質を主材とし、気体もしくは液体を発泡剤として含浸させたもの、あるいは、熱分解性の発泡剤を含有するものを好適に用いるが、両者を含有するものでも良い。また、熱可塑性物質は架橋されていても良い。
【0106】
熱可塑性物質を主材とし、気体もしくは液体を発泡剤として含浸させたものとしては、前述の実験で用いたビーズ法ポリスチレンフォームの発泡樹脂原料であるポリスチレン発泡性ビーズの他、ポリエチレン発泡性ビーズ、ポリプロピレン発泡性ビーズなどを用いても良いし、ブタン、ペンタン、フロン等の炭化水素、水、CO、Nを含浸させたものでも良い。また、熱分解性の発泡剤を含有するものとしては、下記に示す熱分解性の発泡剤および熱可塑性物質から適宜調製して用いても良い。この熱分解性の発泡剤と熱可塑性物質は、発泡剤の分解温度が熱可塑性物質の可塑化温度よりも高いことが好ましく、発泡剤の分解温度と熱可塑性物質の可塑化温度がほぼ等しくなるように選ばれることが、発泡材料を綺麗に発泡できることからさらに好ましい。
【0107】
発泡樹脂原料には、これら発泡剤と共に、成形特性を改良する目的で各種の添加剤を配合してもよい。添加助剤として、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸、亜鉛華硝酸亜鉛などの無機塩があげられる。
なお、上記の各原料によって母材1を形成する場合も母材1の酸素指数が21より大きいことが必要である。
【0108】
発泡助剤は、使用する樹脂、発泡剤、助剤の種類によって異なるが、通常熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1〜2.0重量部程度の割合で添加されることが好ましい。これは、添加量が0.1重量部以下では効果が小さく、2.0重量部以上では効果が飽和する傾向があるためである。
【0109】
発泡ビーズの大きさは、0.3ミリから5ミリが好適に用いられる。ここで発泡ビーズの大きさとは、発泡ビーズがほぼ球形の場合には平均直径とする。また、平らなものやストランド状のものの場合に発泡ビーズの大きさといえば、最も幅が小さいサイズをさすものとし、以下、発泡ビーズの大きさといえばこの例に倣うものとする。発泡ビーズの大きさが0.3ミリから5ミリのものが好適に用いられるのは、発泡ビーズの製造し易さと発泡ビーズの表面積、そして伝熱遅れによる軟化ムラが出にくいということの兼ね合いの結果である。0.3ミリより小さいビーズの使用も可能であるが、しかしこの場合、ビーズの表面積の総和が大きくなるので最終的な発泡ビーズの接触する界面の面積が大きくなり、薄膜状剛性セル壁を構成する材料がずっと多く必要となる。したがって、圧縮強度は増すものの、軽量化の効果は小さくなる。
【0110】
また、発泡ビーズ内部からの発熱を引き起こす仕組みを併用すれば、直径5ミリより大きな発泡ビーズを用いることもできる。発泡ビーズ内部からの発熱をひき起こす仕組みとしては、たとえば、発泡ビーズに金属粉を混ぜ込み高周波電磁場環境下での電磁誘導を利用することができる。
均質な発泡ビーズ構造を持つ発泡樹脂複合構造体を得るためには、発泡ビーズの大きさは、概略揃っているのが望ましい。しかし、厳密に揃っている必要はない。また、あえて発泡ビーズの大きさに分布を持たせることで、発泡ビーズ膜に特異な3次元構造を持たせることができるので、異なる大きさの発泡ビーズを混ぜて用いることもある。
【0111】
さらに、発泡材料は、たとえば予備発泡ビーズや発泡体の破砕品のような既に発泡している材料に高圧下でガスを含浸させたものでも良い。さらに、既に発泡成型されたチップ状、ストロー状などの形状の材料や発泡体の破砕品でも良く、その材料を凝縮して成型型内で加熱融着させて母材1を形成しても良い。
【0112】
(11)〈参考実験.可燃性の有機系物質を充填した場合〉
(実験A)
可燃性の有機系物質を充填した試験片を用いて前述の実験を行った。可燃性の有機系物質として前述のアクロナールYJ2720Dを用いた。
【0113】
実験の結果、図5のNo.3に示すように、アクロナール2720D(表では可燃有機(AS樹脂)と記載)の充填率が0.1volにおける評価結果は○であり、充填率が0.1を超え1.0vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0114】
この実験結果より、アクロナールYJ2720Dの母材1の空隙1dおよび連通孔1eに対する充填率を0.1以上1.0vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、上記の充填率を0.1vol%に決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0115】
(実験B)
次に、可燃性の有機系物質として中京油脂株式会社製造のセロゾール524を充填した試験片を用いて前述の実験を行った。セロゾール524は、カルナバワックスと呼ばれるワックスエマルションであり、酸素指数は21以下、比重は0.9である。
【0116】
実験の結果、図5のNo.6に示すように、セロゾール524(表では可燃有機(ワックス(カルナバ))と記載)の充填率が0.1以上0.5vol%未満における評価結果は○であり、充填率が0.5を超え1.0vol%未満の範囲における評価結果は総て△であった。
【0117】
この実験結果より、セロゾール524の母材1の空隙1dおよび連通孔1eに充填率を0.1以上1.0vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
また、上記の充填率を0.1vol%に決定すれば、難燃性が損なわれない発泡樹脂複合構造体5を製造できることが分かった。
【0118】
上述した実験A,Bから、酸素指数が21以下の充填材料、つまり、可燃性の充填材料を充填する場合は、その充填率を0.1以上1.0vol%未満の範囲から決定すれば、難燃性が損なわれ難い発泡樹脂複合構造体を製造できることが分かった。
【符号の説明】
【0119】
1・・母材、1a・・一の面、1b・・他の面、1c・・発泡ビーズ、1d・・空隙、
1e・・連通孔、2・・容器、2d・・減圧室、3・・減圧装置、
4・・充填材料、4a・・膜、5・・発泡樹脂複合構造体、10・・充填装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する発泡ビーズ同士が融着することにより独立気泡構造が形成されており、前記発泡ビーズ間に空隙が形成されているとともに、前記空隙間が連通することにより一の面から他の面に連通した連通孔が存在し、かつ、酸素指数が21より大きい母材の前記空隙および連通孔に充填材料を充填して成る発泡樹脂複合構造体であって、
前記充填材料は、酸素指数が21より大きく、かつ、前記母材に対する充填率を充填材料の種類に応じて0.1〜4.5vol%の範囲から決定したものであることを特徴とする発泡樹脂複合構造体。
【請求項2】
前記充填材料の主成分は有機系物質であることを特徴とする請求項1に記載の発泡樹脂複合構造体。
【請求項3】
前記有機系物質は樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の発泡樹脂複合構造体。
【請求項4】
前記充填率が、1.0〜4.5vol%の範囲から決定されたものであることを特徴とする請求項3に記載の発泡樹脂複合構造体。
【請求項5】
前記充填率が、1.0〜2.5vol%の範囲から決定されたものであることを特徴とする請求項4に記載の発泡樹脂複合構造体。
【請求項6】
前記充填材料の主成分は無機系物質であり、かつ、前記充填率が0.1以上1.5vol%未満の範囲から決定されたものであることを特徴とする請求項1に記載の発泡樹脂複合構造体。
【請求項7】
前記充填材料は主成分に難燃剤を添加したものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の発泡樹脂複合構造体。
【請求項8】
前記難燃剤の主成分は有機系物質であることを特徴とする請求項7に記載の発泡樹脂複合構造体。
【請求項9】
前記難燃剤の主成分は無機系物質であることを特徴とする請求項7に記載の発泡樹脂複合構造体。
【請求項10】
前記母材はビーズ法ポリスチレンフォームにより形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1つに記載の発泡樹脂複合構造体。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1つに記載の発泡樹脂複合構造体の製造方法であって、
前記母材の一の面に前記充填材料を配置する第1工程と、
前記母材の一の面および他の面間に差圧を発生させて前記一の面に配置された充填材料を前記母材の空隙および連通孔に充填する第2工程と、
前記母材の一の面および他の面間に差圧を発生させて前記一の面から気体を前記母材の連通孔に通す第3工程と、
を有することを特徴とする発泡樹脂複合構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−35462(P2012−35462A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175972(P2010−175972)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000163899)金山化成株式会社 (10)
【Fターム(参考)】