説明

発熱具

【課題】発熱部に含まれる水と経皮吸収性薬剤との良好な乳化が達成され、経皮吸収性薬剤が発熱部中に均一に分散した発熱具を提供すること。
【解決手段】 被酸化性金属、経皮吸収性薬剤、該薬剤の溶解剤、界面活性剤及び水を含有する発熱部を有する発熱具であって、前記溶解剤が、
A)炭化水素油、エステル油、一価のアルコール、脂肪酸、シリコーン油、グリセライド及び植物油よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の25℃で液状の油剤からなる第1の溶解剤、及び
B)多価アルコールからなる第2の溶解剤
を含有する発熱具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に適用して温感を付与する発熱具に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、金属粉、塩類及び水からなり、金属粉の酸化に伴って水蒸気を放出する水蒸気発生組成物を有する水蒸気発生体を提案した(特許文献1参照)。この水蒸気発生組成物中には化粧料成分又は薬剤成分を分散させてある。この水蒸気発生体によれば、温熱水蒸気とともに化粧料成分又は薬剤成分を持続的に着用者の皮膚へ供給できるという利点がある。化粧料成分や薬剤成分としては、精油類、メントール等の香り成分、植物エキス類等が用いられる。これらの成分は、それが水不溶性である場合、該成分を界面活性剤等の分散剤とともに水に分散させて乳化して水蒸気発生組成物中に添加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−187727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし単純に分散剤で分散させただけでは、前記の成分による効果の発現に時間を要する場合がある。また、その効果も十分でない場合がある。
本発明の課題は、前述した従来技術よりも薬剤成分の効果が一層発揮されやすい発熱具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、発熱部における薬剤の乳化・分散性及びその放出性について鋭意検討を行ったところ、経皮吸収性薬剤を特定の2種類の溶解剤及び界面活性剤とともに発熱部に添加すると、経皮吸収性薬剤の乳化・分散性が良好となり、経皮吸収性薬剤が発熱組成物中に均一に行き渡り、経皮吸収性薬剤や溶解剤や界面活性剤による発熱の阻害が最小限に抑えられ、発熱温度を良好に維持できることを見出した。更に、この経皮吸収性薬剤の乳化状態は、発熱具使用時には適度に不安定化するため、経皮吸収性薬剤の良好な放出が達成されることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、被酸化性金属、経皮吸収性薬剤、該薬剤の溶解剤、界面活性剤及び水を含有する発熱部を有する発熱具であって、前記溶解剤が、
A)炭化水素油、エステル油、一価のアルコール、脂肪酸、シリコーン油、グリセライド及び植物油よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の25℃で液状の油剤からなる第1の溶解剤、及び
B)多価アルコールからなる第2の溶解剤を含有する発熱具を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発熱部の発熱に起因する経皮吸収性薬剤からの皮膚への放出性が著しく良好になり、該薬剤の生理作用を効果的に付与することができる。また、発熱温度を発熱部全体にわたって均一にすることができるとともに、発熱温度を一定温度に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の発熱具の一実施形態としての蒸気温熱具を示す平面図である。
【図2】図2(a)及び(b)はそれぞれ、図1に示す蒸気温熱具の使用状態を示す説明図である。
【図3】図3は、図1に示す蒸気温熱具の分解斜視図である。
【図4】図4は、接合手段による2枚のシートの接合部位と、発熱体との位置関係を示す平面図である。
【図5】図5(a)は、図4におけるVa−Va線断面図であり、図5(b)は、図4におけるVb−Vb断面図である。
【図6】図6は、図1に示す蒸気温熱具における発熱体を示す一部破断斜視図である。
【図7】図7は、薬剤放出量測定装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1は本発明の発熱具の一実施形態としての蒸気温熱具を示す平面図である。本実施形態の蒸気温熱具1は、大別して袋体10と発熱体20とから構成されており、発熱体20は袋体10内に収容されている。蒸気温熱具1は、発熱体20に含まれる発熱部から発生した所定温度に加熱された水蒸気及び経皮吸収性薬剤を、着用者の着用部位に持続的に供給するために用いられるものである。
【0010】
なお、本実施形態の蒸気温熱具1は、図1に示すように2つの蒸気温熱具が連結した形状であっても良い。この場合、図2(a)に示すように2つを連結した状態で、又は図2(b)に示すように2つを切り離して別々に着用者の身体に直接貼り付けて使用される。切り離しのために、袋体10における縦中心線Lに沿って直線状の切れ込み(スリット)15(図1参照)や、ミシン目(図示せず)を設けておいても良い。
【0011】
図3には図1の蒸気温熱具の分解斜視図が示されている。袋体10は、着用者の肌に近い側に位置する第1のシート11と、着用者の肌から遠い側に位置する第2のシート12を有している。2枚のシート11,12は同形であり、長辺及び短辺を有する略矩形となっている。2枚のシート11,12はそれらを重ね合わせ、それらの周縁部を接合手段13によって接合することで、内部に空間を有する袋体10となされる。接合手段13としては、例えばホットメルト粘着剤等の各種接着剤、ヒートシール、超音波シール等が用いられる。シート11,12としては、通気性を有し、好ましくは伸縮性を有していればその種類に特に制限はないが、特に第1のシート11は着用者の身体に直接触れるものなので、風合いが良好な材料から構成されることが好ましい。具体的にはPET(ポリエチレンテレフタレート)等のポリエステル、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリアクリル等の合成繊維;セルロース、シルク、コットン、ウール等の天然繊維;又はそれらを複合した繊維等を原料とする繊維シートが挙げられる。特に弾性繊維を含むエアスルー不織布やスパンボンド不織布等が好ましい。
【0012】
発熱体20は、発熱体20に含まれる発熱部21から発生した所定温度に加熱された水蒸気を、袋体10を通じて着用者の身体に適用するために用いられるものである。発熱体20は略正方形状のものである。発熱体20は、上述した袋体10における空間に収容されている。この場合、発熱体20は、その各辺が袋体10における長辺及び短辺の方向を向くように袋体10内に収容されている。
【0013】
図1に示すように、袋体10の寸法は発熱体20の寸法よりも大きく、袋体10を構成する2枚のシート11,12は、発熱体20の周縁から外方へ延出している。本実施形態においては、略矩形の袋体10に、略正方形の発熱体20が収容されているが、袋体10及び発熱体20の形状は類似形状でもよい。また、これらは、例えば円形状、楕円形状、矩形状、略菱形形状、そら豆形状など種々の形状をとることもできる。
【0014】
図3に示すように、蒸気温熱具1の袋体10における第1のシート11の面上には、蒸気温熱具1を使用者の身体に固定するための固定手段2が設けられている。固定手段2は、第1のシート11の四辺の周縁部の全域に所定の幅をもって存在している。固定手段2としては例えば、ホットメルト粘着剤等の接着剤を用いることができる。
【0015】
図4並びに図5(a)及び(b)には、接合手段13による2枚のシート11,12の接合部位と、発熱体20との位置関係が示されている。図4に示すように、接合手段13は、2枚のシート11,12の四辺の周縁部の全域に所定の幅をもって存在している。発熱体20に関しては、図4及び図5(a)に示すように、その上辺部及び下辺部のみが接合手段13と重なるように配置されている。したがって発熱体20は、その上辺部及び下辺部のみが、接合手段13と接合されており、図5(b)に示すように発熱体20におけるそれ以外の部位は2枚のシート11,12と非接合状態になっている。
【0016】
袋体10が伸縮性を有する場合、発熱体20は、袋体10の伸縮性が損なわれないような態様で袋体10の内面に固定されている。具体的には、上述の図4に示すとおり、発熱体20はその上辺部及び下辺部において袋体10に固定されている。これによって、蒸気温熱具1の持ち運びの途中や、蒸気温熱具1を着用者の身体に貼り付けている間に、袋体10の内部で発熱体20の位置ずれが起こることが防止される。したがって発熱体20は、水蒸気を施したい部位にとどまることになる。袋体10の伸縮性が損なわれない限り、袋体10と発熱体20との固定位置は、図4に示す形態に特に制限ないが、蒸気温熱具1を平面視したときに、袋体10と発熱体20とが重なった部位において、袋体10が伸縮可能になるように固定されることが、袋体10の伸びしろを大きくとることができるので好ましい。
【0017】
図6には、袋体10に収容される発熱体20を一部切り欠いた状態の斜視図が示されている。発熱体20は、発熱部21及び該発熱部21を収容する収容体22を備えている。収容体22は扁平なものであり、発熱体20の輪郭をなしている。収容体22は、複数のシート材が貼り合わされることで、発熱部21が収容される袋状空間が形成されたものである。扁平な形状を有する収容体22は、着用者の肌に近い側に位置する第1の面23、及びそれと反対側であり、使用者の肌から遠い側に位置する第2の面24を有している。
【0018】
発熱部21は被酸化性金属が酸素と接触することによる酸化反応で生じた熱を利用して、所定温度に加熱された水蒸気を発生するとともに経皮吸収性薬剤が放出される部位である。本発明では、発熱部21は被酸化性金属及び水に加え、経皮吸収性薬剤、該薬剤の溶解剤、界面活性剤、反応促進剤及び電解質を含有する。以下、それぞれの剤について説明する。
【0019】
《被酸化性金属について》
本発明において被酸化性金属としては、酸化作用を受けて発熱する金属であれば特に制限はない。例えば、鉄、アルミニウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の粉末や繊維が挙げられる。これらの中でも取り扱い性、安全性、製造コスト等の点から鉄粉が好ましく用いられる。被酸化性金属が粉末である場合その粒径は0.1〜300μmであることが好ましく、特に粒径が0.1〜150μmのものを全被酸化性金属のうち50質量%以上の割合で含有するものを用いることが好ましい。被酸化性金属は、発熱部21中に好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは30〜70質量%、特に好ましくは45〜65質量%の割合で含まれていると、十分な発熱量が確保され好適である。
【0020】
《反応促進剤について》
本発明において反応促進剤とは、被酸化性金属への酸素保持/供給剤としての機能を有するものである。なお、特に水分保持剤として作用するものを用いることが好ましい。例えば活性炭(椰子殻炭、木炭粉、暦青炭、泥炭、亜炭)、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、シリカ等が挙げられる。これらの中でも保水能、酸素供給能、触媒能を有する点から活性炭が好ましい。
【0021】
反応促進剤の粒径は、被酸化性金属と効果的に接触し得る点から0.1〜500μmであることが好ましい。特に粒径が0.1〜200μmのものを全反応促進剤のうちの50質量%以上含有するものを用いることが好ましい。反応促進剤は、発熱部21中に好ましくは0.1〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%、特に好ましくは3〜10質量%の割合で含まれているとその反応促進作用を発揮するにあたり好適である。
【0022】
《水について》
本発明において水は、発熱部21中に好ましくは10〜50質量%、更に好ましくは15〜40質量%、特に好ましくは20〜35質量%の割合で含まれていると被酸化性金属の酸化反応が良好に促進されるのみならず、十分な水蒸気が発生するため好ましい。
【0023】
《電解質について》
本発明において電解質とは、水に溶解して電解液となるものである。特に、被酸化性金属の酸化反応を更に促進するものであることが好ましく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも取り扱い性、安全性、製造コスト等の点から塩化ナトリウムが特に好ましい。電解質は、発熱部21中に好ましくは0.1〜15質量%、更に好ましくは0.5〜14質量%、特に好ましくは1〜12質量%の割合で含まれる。この割合で含まれていると、電解質の存在下においても、界面活性剤による経皮吸収性薬剤の発熱組成物中での乳化・分散性が妨げられることなく、更に発熱温度を良好に維持できるため好ましい。
【0024】
《経皮吸収性薬剤について》
本発明における経皮吸収性薬剤とは、発熱具の発熱によって放出され、皮膚から吸収され、局所及び全身への生理活性作用を奏するものであり、化粧品用・医薬用に一般に用いられている経皮吸収性薬剤である。具体的には、カンフル、リモネン、ゲラニオール、セドロール、シトロネロールなどの香料類、ハッカ油、ペパーミント油、ラベンダー油、ユーカリ油、ジンジャー油などの精油類、l−メントール及びdl−メントールのようなメントール、メントール誘導体(例えば、乳酸メンチル)などの冷感剤、トウガラシチンキ、ノニル酸ワニリルアミド、カプサイシンなどの温感剤、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジルなどの血行促進剤、アルブチン、コウジ酸、L−アスコルビン酸、L-アスコルビン酸誘導体などの美白剤、レチノールなどの抗シワ剤、リドカイン、テトラカインなどの局所麻酔剤、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、インドメタシン、ジクロフェナクナトリウム、フェルビナク、ケトプロフェンなどの非ステロイド系消炎鎮痛剤、塩酸エペリゾンなどの骨格筋弛緩薬、ミコナゾール、クロトリマゾール等の抗真菌剤、エストラジオールやテストステロン等のホルモン剤、クロニジン等の降圧剤、ニトログリセリンや硝酸イソソルビド等の血管拡張剤、ニコチン等の禁煙補助剤、ツロブテール等の気管支拡張剤、スコポラミン等の鎮痙薬、フェンタニルなどの癌性疼痛用薬剤が挙げられる。
【0025】
中でも、メントール、メントール誘導体、カンフル、リモネン及びゲラニオール、シトロネロール等のモノテルペンや、セドロール等のセスキテルペンや、これらを含むハッカ油及びペパーミント油等の精油や、サリチル酸メチル及びサリチル酸グリコール等のサリチル酸エステルは、発熱に伴い発熱具からこれらの薬剤が放出されるときに、温熱によって経皮吸収のバリア層である角層内での薬剤の拡散性が飛躍的に高まることから、経皮吸収が促進されるので特に効果的である。
【0026】
また、経皮吸収性薬剤は、好ましくは、化合物の疎水性親水性を示す指標である分配係数(1−オクタノール/水)、すなわち、logPowが好ましくは0.5〜13、より好ましくは1.0〜5である。logPowがこの範囲であると、発熱部の発熱に起因する経皮吸収性薬剤の皮膚への放出性が良好になり、該薬剤の生理作用を効果的に付与することができる。すなわち、このように薬剤の親油性が高いと水を含有する当該発熱部からの薬剤放出性がより高まるとともに、皮膚のバリア層である角層への透過性が十分達成され、温熱による経皮吸収促進作用が良好になり薬剤の効果が十分に発揮できる。
【0027】
また、経皮吸収性薬剤の分子量は好ましくは50〜1000、より好ましくは100〜500である。分子量がこの範囲であると経皮吸収性薬剤が発熱組成物中により均一に行き渡るとともに、発熱部の発熱に起因する経皮吸収性薬剤の皮膚への放出性が良好になり、また、温熱による経皮吸収促進効果が良好になり十分に薬剤の効果を発揮でき、該薬剤の生理作用を効果的に付与することができる。
【0028】
これらのうち、メントール、メントール誘導体、ハッカ油、ペパーミント油、カンフル、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジル、カプサイシン、トウガラシチンキなどの血行促進作用を有する薬剤は、温熱による血行促進効果が加わることで、その効果を更に高めることができるので好適に使用される。また、非ステロイド性消炎鎮痛剤も、温熱による鎮痛効果と相まってより一層疼痛緩和に対して効果的であるため、好適に使用される。
【0029】
特に、l−メントール及びdl−メントールのようなメントール、メントール誘導体、ハッカ油、ペパーミント油などを用いると、血行促進効果、鎮痛効果、筋弛緩作用などの温熱効果を有したまま、皮膚に清涼感を付与することができるため暑熱感が抑制されることで、夏場などの暑熱感を感じやすい環境下においても、使用性を飛躍的に高めることができる。
【0030】
前記の各種経皮吸収性薬剤は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。着用者の身体に適度な生理的な作用を与え得る点から、経皮吸収性薬剤はその合計量で、発熱部21中に好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%、一層好ましくは0.5〜3質量%の割合で含まれている。2種以上を混合して用いる場合には、その一種としてメントール、メントール誘導体、ハッカ油及びペパーミント油を用いることが、薬剤の経皮吸収性が高まるため、温熱による経皮吸収促進効果と相まってより一層効果的である。
【0031】
《溶解剤について》
本発明において溶解剤としては、以下の2種類の溶解剤(第1の溶解剤及び第2の溶解剤)を組み合わせたものが用いられる。第1の溶解剤及び第2の溶解剤を併用することで経皮吸収性薬剤を水に十分に溶解又は分散することができるだけでなく発熱具の発熱時に経皮吸収性薬剤を良好に放出させることができる。
・A)炭化水素油、エステル油、一価のアルコール、脂肪酸、シリコーン油、グリセライド及び植物油よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の25℃で液状の油剤からなる第1の溶解剤
・B)多価アルコールからなる第2の溶解剤
【0032】
第1の溶解剤は、炭化水素油、エステル油、一価のアルコール、脂肪酸、シリコーン油、グリセライド及び植物油よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の25℃で液状の油剤からなる。具体的には、流動パラフィン、スクワラン等の炭化水素油、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、2−エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコールなどのエステル油、2−ヘキシルデカノール、2−オクチルドデカノール、2−デシルテトラデカノール、イソステアリルアルコールなどの一価のアルコール、イソステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、シクロメチコンなどの環状又は直鎖状のシリコーン油、ジオレイン酸ジグリセライドなどのモノグリセライド、ジエチルヘキシルモノグリセライドなどのジグリセライド、トリカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンなどのトリグリセライド、ホホバ油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ひまし油などの植物油等が挙げられる。これらのうち、とりわけ炭素数16〜22の一価の高級アルコールは経皮吸収性薬剤との相溶性が高いため、より少量で経皮吸収性薬剤を発熱組成物中に均一に配合可能である。そのため、発熱への影響が少なくなり、更に発熱具の発熱時に異臭等の発生が観察されないことから特に好ましい。
【0033】
第1の溶解剤は、発熱部21中に好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは0.05〜3質量%、特に好ましくは0.1〜1質量%の割合で含まれていると、十分な発熱量が確保され好適である。第1の溶解剤と経皮吸収性薬剤との質量比(第1の溶解剤/経皮吸収性薬剤)が、好ましくは0.01〜2.0、更に好ましくは0.05〜1.0、一層好ましくは0.1〜0.5である。
【0034】
第2の溶解剤として用いられる多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール200やポリエチレングリコール400等のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール等が挙げられる。これらのうちポリエチレングリコールは、界面活性剤による経皮吸収性薬剤の乳化分散性を保ちつつ経皮吸収性薬剤の放出性を効果的に高めることができるので好ましく用いられる。
【0035】
第2の溶解剤は、発熱部21中に好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは0.05〜3質量%、特に好ましくは0.1〜2質量%の割合で含まれていると、十分な発熱量が確保されるとともに、発熱部からの薬剤放出性が向上するため好適である。第2の溶解剤と経皮吸収性薬剤との質量比(=第2の溶解剤/経皮吸収性薬剤)は、好ましくは0.1〜5、更に好ましくは0.5〜3、一層好ましくは1〜2である。両溶解剤をこの割合で含有させることで、発熱の阻害が最小限に抑えられ、発熱部の発熱に起因する経皮吸収性薬剤の良好な放出が達成され、経皮吸収性薬剤が本来有する生理的な作用が効果的に発揮される。
【0036】
溶解剤の組み合わせは経皮吸収性薬剤と水との相溶性や、界面活性剤と水との親和性に対する影響度を考慮して選択される。すなわち、第1の溶解剤と第2の溶解剤との好ましい組み合わせは、第1の溶解剤として一価の高級アルコールを用い、第2の溶解剤として多価アルコールを用いる組み合わせである。この組み合わせを用いることで、経皮吸収性薬剤と発熱部21中の水との乳化が一層首尾良く行われ、発熱の阻害が最小限に抑えられ、かつ、発熱具の発熱時に経皮吸収性薬剤の良好な放出が達成され、経皮吸収性薬剤が本来有する生理的な作用が一層効果的に発揮される。具体的には、第1の溶解剤として特に好ましく用いられるものは、2−オクチルドデカノール、2−ヘキシルデカノール等である。一方、第2の溶解剤として特に好ましく用いられるものは、ポリエチレングリコール、とりわけ分子量が200〜600のポリエチレングリコールである。なお、溶解剤は、経皮吸収性薬剤の溶解が可能な物質であり、かつ身体に害のない有機溶剤であることが好ましい。
【0037】
《界面活性剤について》
本発明において界面活性剤としては、化粧品、医薬品等に用いられ得るものであれば、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤のいずれをも用いることができる。中でも発熱部21に含まれる電解質水溶液と経皮吸収性薬剤との乳化を首尾よく行うことができ乳化安定性が高く、かつ、発熱部の発熱により経皮吸収性薬剤が良好に放出させることができ、かつ、発熱部21の発熱を阻害しづらいという観点から、非イオン界面活性剤を用いることが有利である。
【0038】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸グリセリン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等を用いることができる。これらの界面活性剤のうち、ポリオキシエチレン系界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸グリセリン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等、中でもポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリオキシエチレンアルキルエーテル等は、第2の溶解剤と相互作用を呈し界面活性剤の水との親和力に作用するため好ましい。中でも特に、HLBが好ましくは10〜20、更に好ましくは12〜18、一層好ましくは13〜17のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンアルキルエーテル、とりわけポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を用いると良い。なお、HLB値はGriffinの式(J. Soc. Cosmet. Chem., 1, 311(1949))により求めたものである。
【0039】
発熱部21中の界面活性剤の含有量は0.01〜5質量%が好ましく、更に好ましくは0.05〜3質量%、特に好ましくは0.1〜2質量%である。このような含有量であれば、経皮吸収性薬剤及び溶解剤の発熱組成物中での分散がより良好となるため、発熱組成物中において経皮吸収性薬剤をより均一に配合可能であり、発熱部の発熱により経皮吸収性薬剤が良好に放出させることができ、更に発熱への影響も少なくなるため好ましい。とりわけ、第2の溶解剤の含有量との関係で、第2の溶解剤/界面活性剤の質量比は、好ましくは0.1〜5、更に好ましくは0.5〜2である。界面活性剤の使用量がこの範囲内の比率であると、発熱部21の発熱が一層阻害されにくくなり、且つ、経皮吸収性薬剤と発熱部21に含まれる水との乳化安定性が一層高くなり、且つ、経皮吸収性薬剤の良好な放出が達成されるからである。
【0040】
発熱部21は、例えば発熱シート又は発熱粉体等の形態を呈する。発熱部21が発熱シートの場合には、発熱シートは、被酸化性金属、反応促進剤及び繊維状物を含有する成形シートに、経皮吸収性薬剤、該経皮吸収性薬剤の溶解剤、界面活性剤、電解質及び水を含有する経皮吸収性薬剤含有電解液を注入して構成されていることが好ましい。ここで、繊維状物としては、コットン、カボック、木材パルプ、非木材パルプ等の天然繊維、又は例えばレーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラ等の半合成繊維やナイロン、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン等の合成高分子繊維等を用いることができる。これら繊維状物は、発熱シートの強度確保及び繊維状物の水分散性の点から、その平均繊維長が好ましくは0.1〜50mm、更に好ましくは0.2〜20mmである。発熱シートとしては、湿式抄造により得られたシート状物や、発熱粉体を紙等で挟持してなる積層体等が挙げられる。そのような発熱シートは、例えば本出願人の先の出願に係る特開2003−102761号公報に記載の湿式抄造法や、ダイコーターを用いたエクストルージョン法を用いて製造することができる。
【0041】
一方、発熱部21が発熱粉体からなる場合には、発熱粉体は、被酸化性金属、反応促進剤、経皮吸収性薬剤、該経皮吸収性薬剤の溶解剤、界面活性剤、電解質及び水を含んで構成されていることが好ましい。蒸気温熱具1が貼付して使用されるものである場合には、発熱シート及び発熱粉体のうち、どのような姿勢においても水蒸気を均一に適用し得る点から、発熱シートを用いることが好ましい。また、発熱シートは、発熱粉体に比較して、発熱の温度分布を均一化することが容易であり、また、被酸化性金属の担持能力が優れている点からも有利である。
【0042】
発熱体20を構成する収容体22における第1の面23は空気及び水蒸気の透過が可能なように通気性を有している。一方、第2の面24は、空気及び水蒸気の透過の程度が第1の面23よりも低くなっている。すなわち第2の面24は第1の面23よりも難通気性であるか、又は非通気性である。第2の面24が難通気性であるか、それとも非通気性であるかは、蒸気温熱具1の具体的な用途に応じて適宜選択される。
【0043】
発熱体20は、その第1の面23の側が着用者の肌側に向き、第2の面24の側が衣類側(外側)に向くように使用される。発熱部21の発熱によって発生した水蒸気及び経皮吸収性薬剤の放出成分は、収容体22及び袋体10を通じ、対象物である着用者の肌に付与されるようになっている。
【0044】
発熱体20における第1の面23及び第2の面24はいずれもシート材から構成されている。そして発熱体20の収容体22はその周縁に、第1の面23及び第2の面24をそれぞれ構成するシート材の周縁部を互いに接合して形成された閉じた形状の周縁接合部25を有している。周縁接合部25は連続に形成されている。収容体22は、周縁接合部25よりも内側の部分において第1の面23と第2の面24とが非接合状態になっている。それによって収容体22には、発熱部21を収容する単一の袋状空間が形成されている。図5(a)及び(b)に示すように、発熱部21は収容体22に形成されている空間のほぼ全域を占めるように収容されている。図5(a)及び(b)では発熱部21は収容体22の袋状空間に単に収容されているが、発熱部21が発熱シートの場合、収容体22の内面の一部と発熱部21とを、発熱を妨げない範囲で接着剤等の接合手段を用いて固定しても良い。
【0045】
ここで、通気度はJIS P8117によって測定される値であり、一定の圧力のもとで100mlの空気が6.45cm2の面積を通過する時間で定義される。したがって、通気度が大きいことは空気の通過に時間がかかること、すなわち通気性が低いことを意味している。逆に、通気度が小さいことは通気性が高いことを意味している。このように、通気度の大小と通気性の高低とは逆の関係を示す。本実施形態において、第1の面23及び第2の面24の通気性を比較すると、第1面23の方が、第2の面24よりも高くなっている。すなわち、先に述べたとおり、第2の面24は非通気性であるか、又は難通気性(即ち、通気性を有するものの、第1の面23よりも低い通気性を有している)である。
【0046】
収容体22は、通気面である第1の面23と、それに対向する非通気面である第2の面24とを有する扁平な形態をしており、通気面である第1の面13を通じて蒸気温熱が発生するようになされている。あるいは、収容体22は、通気面である第1の面23と、それに対向する難通気面である第2の面24とを有する扁平な形態をしており、通気面である第1の面23を通じて蒸気温熱が発生するようになされている。第2の面24が難通気性である場合、第1の面23と第2の面24の通気度をバランスさせることで、空気は第2の面24を通じて優先的に収容体22内に流入するとともに、水蒸気は第1の面23を通じて優先的に放出される。
【0047】
第2の面24が難通気性である場合、該第2の面24を通じての空気の流入を確保しつつ、該面24を通じての水蒸気の放出を抑制させる観点から、第2の面24の通気度を、第1の面23の通気度の1.5倍以上、特に2倍以上とすることが好ましい。あるいは、第1の面23の通気度と第2の面24の通気度との比(第1の面/第2の面)を0.7以下、特に0.4以下とすることも好ましい。これによって、第2の面24を通じての水蒸気の放出を一層減じさせることができ、かつ第1の面23を通じての水蒸気の放出を一層増加させることができる。一方、第2の面24が非通気性である場合、収容体22内への空気の流入、及び水蒸気の発生は、専ら第1の面23を通じて行われる。
【0048】
本実施形態においては、上述のとおり発熱体20の発熱部21に経皮吸収性薬剤、その溶解剤及び界面活性剤が含まれている。これらの剤は本発明の特定の溶解剤や界面活性剤を用いることで十分な酸化が達成されるものの、発熱部21に含まれている被酸化性金属の酸化を若干妨げる傾向にあるので、発熱部21の発熱特性や水蒸気発生特性が低下する傾向がある。そこで本実施形態においては、第1の面23の通気度を、従来の蒸気温熱具に比べて若干高くして、被酸化性金属の酸化を促進させることが有利である。この観点から、第1の面23の通気度を、好ましくは5000〜25000秒/(100ml)、更に好ましくは8000〜22000秒/(100ml)、一層好ましくは10000〜20000秒/(100ml)とする。一方、第2の面24に関しては、これが難通気性である場合、該面24の通気度を30000秒/(100ml)以上、特に40000秒/(100ml)以上とすることが好ましい。
【0049】
発熱体20における第1の面23及び第2の面24はいずれもシート材から構成されている。通気度を支配しかつ粉体の漏れ出しを防止するシート材としては、メルトブローン不織布や透湿性フィルムが好適に用いられる。透湿性フィルムは、熱可塑性樹脂及び該樹脂と相溶性のない有機又は無機のフィラーの溶融混練物をフィルム状に成形し、一軸又は二軸延伸して得られたものであり、微細な多孔質構造になっている。種々の通気度及び透湿度を有するシート材を組み合わせて積層シートを構成することで、第1の面23及び第2の面24の通気度を所望の値に設定する自由度が増す。
【0050】
蒸気温熱具1は、その使用前は、その全体が酸素バリア性を有する包装材(図示せず)によって包装されて、発熱部21が空気中の酸素と接触しないようになっている。酸素バリア性の材料としては、例えばその酸素透過係数(ASTM D3985)が10cm3・mm/(m2・day・MPa)以下、特に2cm3・mm/(m2・day・MPa)以下であるようなものが好ましい。具体的にはエチレン−ビニルアルコール共重合体やポリアクリロニトリル等のフィルム、又はそのようなフィルムにセラミック若しくはアルミニウム等を蒸着したフィルムやアルミラミフィルムが挙げられる。
【0051】
蒸気温熱具1は、例えば次の方法で製造される。発熱部21が粉体組成物の場合は、発熱部21を構成する全ての成分を混合すれば良いが、好ましい製造方法としては、次のとおりである。あらかじめ、被酸化性金属及び反応促進剤等の発熱部21を構成する固形分を混合し、一方で、電解質を水に溶解した水溶液に対して、経皮吸収性薬剤、溶解剤及び界面活性剤の混合物を攪拌乳化(300rpm・10分)した経皮吸収性薬剤含有電解液を調製しておき、該固形分に該経皮吸収性薬剤含有電解液を添加混合することで発熱部21が得られ、これを収容体22に収納することで、発熱体20を製造できる。
【0052】
一方、発熱部21が成形シートの場合、被酸化性金属、反応促進剤及び繊維状物を含有する成形シートを作製し、次いで該成形シートに、あらかじめ前記と同じ方法で調製しておいた経皮吸収性薬剤含有電解液を注入することで発熱部21が得られ、これを収容体22に収納することで、発熱体20を製造できる。このような方法で発熱体20を製造することで、経皮吸収性薬剤を発熱部21の全域に均一に行きわたらせることができる。得られた発熱体20は、これを袋体10内に収容することで、蒸気温熱具1が製造される。
【0053】
これらの方法で製造すると、界面活性剤、溶解剤、経皮吸収性薬剤及び電解質含有水溶液が発熱組成物中に同時に添加されることとなるので、経皮吸収性薬剤が発熱組成物中に均一に行き渡り、発熱もより安定化する。特に発熱部21が成形シートの場合、界面活性剤、溶解剤、経皮吸収性薬剤及び電解質含有水溶液の成形シートへの浸透性が著しく向上し、経皮吸収性薬剤の発熱組成物中での均一性が改善される。また、発熱もより安定化することができる。
【0054】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態は、本発明の発熱具を蒸気温熱具に適用した例であるが、本発明は、蒸気温熱具以外の発熱具、例えば使い捨てカイロとして知られている、水蒸気の外部への透過量が著しく少ない発熱具にも同様に適用することができる。この場合、温熱によって皮膚血流が亢進するため、薬剤の皮下組織への移行性が高まり、経皮吸収促進効果が得られる。尤も、経皮吸収性薬剤が着用者に生理的に作用する程度は、水蒸気によってバリア層である皮膚角層が膨潤され、薬剤が皮膚により浸透していくため、蒸気温熱の発生を伴う前記実施形態の発熱具の方が高い。例えば経皮吸収性薬剤として冷感剤を用いた場合、該冷感剤の作用による清涼感の増強効果は、蒸気温熱の発生を伴う前記実施形態の発熱具の方が高い。
【0055】
また、前記実施形態においては、発熱体20が伸縮性を有する袋体10に収容されていたが、この袋体として伸縮性を有していないものを用いてもよい。
【0056】
また前記実施形態の蒸気温熱具1は、これを着用者の身体に貼り付けて使用するものであったが、これに代えて蒸気温熱具1を衣類に貼り付けて使用したり、マスクやアイマスクとして使用したり、手で身体にあてがって使用してもよい。蒸気温熱具1を衣類に貼り付ける場合には、袋体10における第2のシート12の表面に、粘着剤等からなる固定手段を設ければよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0058】
〔実施例1〕
図1ないし図6に示す実施形態の蒸気温熱具1を、以下の手順で作製した。
(1)シート状発熱部21の作製
<成形シートの原料組成物配合>
・被酸化性金属:鉄粉、同和鉱業株式会社製、商品名「RKH」:83%
・繊維状物:パルプ繊維(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、商品名 NBKP「Mackenzi(CSF200mlに調整)」):8%
・反応促進剤:活性炭(日本エンバイロケミカル株式会社製、商品名「カルボラフィン」、平均粒径45μm)9%
【0059】
前記原料組成物の固形分(被酸化性金属、繊維状物及び活性炭の合計)100部に対し、カチオン系凝集剤であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC(株)製、商品名「WS4020」)0.7部及びアニオン系凝集剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)製、商品名「HE1500F」0.18部を添加した。更に、水(工業用水)を、固形分濃度が12%となるまで添加しスラリーを得た。
【0060】
<抄造条件>
前記スラリーを用い、これを抄紙ヘッドの直前で0.3%に水希釈し、傾斜型短網抄紙機によって、ライン速度15m/分にて抄紙して湿潤状態の成形シートを作製した。
【0061】
<乾燥条件>
成形シートをフェルトで挟持して加圧脱水し、そのまま140℃の加熱ロール間に通し、含水率が5%以下になるまで乾燥した。乾燥後の坪量は450g/m2、厚さは0.45mmであった。このようにして得られた成形シートの組成を熱重量測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6200)を用いて測定した結果、鉄83%、活性炭9%、パルプ8%であった。
【0062】
<成形シートへの経皮吸収性薬剤含有電解液注入>
得られた成形シートを49mm×49mmに切り取り、3枚を重ね合わせ、該成形シート100部に対し以下の表1に示す組成で調製したメントール含有電解液を45部注入した。発熱部21の全質量に対するメントールの割合は0.9%、2−オクチルドデカノールの割合は0.2%、ポリエチレングリコールの割合は1.4%及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.)(HLB14.0)の割合は0.9%であった。毛管現象を利用してこれらを成形シート全体に浸透させて、矩形のシート状発熱部21を得た。
【0063】
【表1】

【0064】
(2)発熱体20の作製
収容体22における第1の面23及び第2の面24を、以下のフィルムから構成して発熱体20を得た。この発熱体20を、以下の伸縮性シート11,12からなる袋体10内に収容した。シート11,12及び発熱体20の固定にはSIS共重合体からなるホットメルト粘着剤を用いた。更に第1の伸縮性シート11の表面に、SIS共重合体からなるホットメルト粘着剤の固定手段2を設けた。このようにして蒸気温熱具1を得た。
【0065】
収容体22における第1の面23は通気度15000秒/100mlのポリエチレン製透湿フィルムから構成され、第2の面24は通気度60000秒/100mlのポリエチレン製透湿フィルムから構成されていた。袋体10における伸縮性シート11は、坪量38g/m2のポリエチレンテレフタレート不織布から構成され、伸縮性シート12は、坪量50g/m2のポリプロピレン不織布から構成されていた。
【0066】
〔比較例1〕
以下の表2に示す組成でメントール含有電解液を調製し、実施例1と同じ方法で蒸気温熱具を作製した。
【0067】
【表2】

【0068】
〔評価1〕
実施例1及び比較例1の蒸気温熱具について、以下の薬剤放出量測定装置を用いて発熱に伴いシートから放出されるメントール量を定量した。その結果、表3に示すとおり、第2の溶解剤であるポリエチレングリコールを含有する実施例1の蒸気温熱具からは、2時間で1.9mgのメントールが回収されたのに対し、比較例1の蒸気温熱具からは1.0mgのメントールが回収された。表3の結果から明らかなように本発明を用いた蒸気温熱具は高いメントール放出性が認められた。
【0069】
【表3】

【0070】
<放出量測定装置>
図7に示すように、35℃に加温したホットプレート30上に、実施例1又は比較例1の蒸気温熱具1を、フッ化ビニル樹脂の袋体(例えば、テドラーバッグ)31に封入した。フッ化ビニル樹脂の袋体31には2本の管32,33の一端が接続されている。管32の他端は、流量計34を介して空気の供給源(図示せず)に接続されている。管33の他端の端部は、エタノールを入れた容器35内に浸漬されている。フッ化ビニル樹脂の袋体31は、その全体をポリプロピレン製の不織布36で覆い、断熱する。また、不織布36の上におもり37を載せて、フッ化ビニル樹脂の袋体31内に空気を流入させたときに蒸気温熱具1が動かないようにした。空気の供給源(図示せず)から管32を介してフッ化ビニル樹脂の袋体31内に空気を流入(100ml/分)させながら、発熱に伴い放出される気体を、管33を介してエタノール中に排出することで、メントールをエタノール中に回収した。2時間後の回収量をガスクロマトグラフィー(「Agilent Technologies社」の「6890N Network GC system」)で定量した。なお、フッ化ビニル樹脂の袋体31内に封入した蒸気温熱具1は、図1に示す2つが連結した蒸気温熱具1を切り離した一方のものである。
【0071】
〔評価2〕
実施例1及び比較例1の蒸気温熱具を用いて、左右肩における貼付試験を実施した。被験者10名の、左右いずれかの片側の肩に、実施例1の蒸気温熱具、残りの片側に比較例1の蒸気温熱具を6時間貼付した後の清涼感の早さ及び強さを評価した。結果を表4に示す。表4の結果から明らかなとおり、本発明においてはメントールの高い放出性により、メントールに由来する顕著に高い清涼感を有した。
【0072】
【表4】

【0073】
〔実施例2〜11〕
発熱部を構成する成分の割合を、以下の表5に示すとおりとする以外は、実施例1と同様にして蒸気温熱具を得た。得られた蒸気温熱具を、5名のパネラーの肩に貼付した。貼付した状態での清涼感、臭い(メントール香以外の異臭)及び総合評価を、以下の基準でパネラーに評価させた。最も人数の多い評価を選び表2に示す。なお、同表には、実施例1及び比較例1の評価結果も併せて記載してある。
【0074】
〔清涼感〕
6:非常に強く好ましい清涼感を感じる。
5:非常に好ましい清涼感を感じる。
4:適度な清涼感を感じる。
3:清涼感がやや弱い。
2:清涼感が弱すぎる。
1:清涼感を感じない。
【0075】
〔臭い〕
◎:異臭を感じない。
○:弱い異臭を感じる。
×:強い異臭を感じる。
【0076】
〔総合評価〕
◎: 暑熱環境で非常に快適。
○: 暑熱環境で快適。
△: 暑熱環境であまり快適でない。
×: 暑熱環境で快適でない。
【0077】
【表5】

【0078】
表5に示す結果から明らかなように、各実施例の蒸気温熱具は、清涼感を使用者に付与し得るものであり、しかも異臭の発生が抑制されたものであることが判った。これに対して、比較例1の蒸気温熱具は、異臭の発生はないものの、使用者に清涼感を付与する効果が極めて低いものであることが判った。
【符号の説明】
【0079】
1 蒸気温熱具(発熱具)
10 袋体
11 第1の伸縮性シート
12 第2の伸縮性シート
20 発熱体
21 発熱部
22 収容体
23 第1の面
24 第2の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被酸化性金属、反応促進剤、経皮吸収性薬剤、該薬剤の溶解剤、界面活性剤、電解質及び水を含有する発熱部を有する発熱具であって、
前記溶解剤が、
A)炭化水素油、エステル油、一価のアルコール、脂肪酸、シリコーン油、グリセライド及び植物油よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の25℃で液状の油剤からなる第1の溶解剤、及び
B)多価アルコールからなる第2の溶解剤
を含有する発熱具。
【請求項2】
第1の溶解剤と経皮吸収性薬剤との質量比(第1の溶解剤/経皮吸収性薬剤)が0.01〜2.0である請求項1記載の発熱具。
【請求項3】
第2の溶解剤と経皮吸収性薬剤との質量比(第2の溶解剤/経皮吸収性薬剤)が0.1〜5.0である請求項1又は2記載の発熱具。
【請求項4】
経皮吸収性薬剤がl−メントール及びdl−メントール、それらの誘導体、ハッカ油、並びにペパーミント油からなる群より選択される経皮吸収性薬剤の1種及び2種以上を含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の発熱具。
【請求項5】
第2の溶解剤がポリエチレングリコールである請求項1ないし4のいずれかに記載の発熱具。
【請求項6】
界面活性剤が非イオン性界面活性剤である請求項1ないし5のいずれかに記載の発熱具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−20991(P2011−20991A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230938(P2009−230938)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】