説明

発熱性組成物用還元鉄粉及びその製造方法並びに発熱性組成物

【課題】発熱温度を維持しつつ、水素ガス発生量を低減させ、かつ作業性、環境性や経済性等に不具合が生じることのない発熱性組成物用還元鉄粉及びその製造方法、並びに発熱性組成物を提供すること。
【解決手段】カルシウム含有量が0.3重量%以上である発熱性組成物用還元鉄粉、鉄粉原料を還元剤を用いて加熱還元する発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法であって、該還元剤中にカルシウム化合物を添加する発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法、並びに該還元鉄粉を用いた発熱性組成物を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨てカイロ等の発熱性組成物用還元鉄粉及びその製造方法、並びに発熱性組成物に関し、詳しくは発熱温度を維持しつつ、水素ガス発生量を低減させた発熱性組成物用還元鉄粉及びその好適な製造方法、並びに発熱性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨てカイロ等に用いられる発熱性組成物は、鉄粉等の金属粉、食塩等の反応助剤、水及び活性炭等の保水剤を混合して形成される。この発熱性組成物は、大気中の酸素と金属粉とが緩慢に発熱して長時間の発熱が維持される。
【0003】
使い捨てカイロは、発熱剤組成物を通気性の内袋に収納し、さらに使用時まで大気との接触を避けるため非通気性包材からなる保存用外袋又は容器に密封包装され、使用時に保存用外袋又は容器から内袋を取り出して使用するものである。その他、発熱性組成物は食品加熱剤やヘヤーカラー等への応用が提案されている。
【0004】
金属粉としては、鉄、亜鉛、アルミニウム、スズ等を粉状又は粒状にしたものが挙げられるが、鉄粉が一般的に用いられる。鉄粉としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、鋳鉄粉又はこれらの混合粉が用いられている。
【0005】
この発熱性組成物は、上述したように使用するまで非通気性包材からなる保存用外袋又は容器内に密封されて保管されている。上記した金属粉として鉄粉を用いた場合には、保管中に鉄粉と反応助剤を溶解した水との間に局部電池反応が起こり、水素ガスが発生するという問題が顕著であった。この水素ガスの発生は急激ではないが、継続的であるため、保存用外袋又は容器内の水素ガスが高濃度となり、内圧から膨張、破裂や漏れたガスから引火の危険性が生じる。
【0006】
このような水素ガスの発生を抑制するために、特許文献1(特開昭55−56180号公報)には、発熱組成物にアルカリ性物質を含有させることが提案されている。また、特許文献2(特開昭57−172973号公報)には、発熱組成物にアルカリとアルカリ弱酸塩を含有させることが提案されている。
【0007】
しかし、特許文献1及び2のように、水溶性のアルカリやアルカリ性塩類を含有させた場合には、鉄粉表面の酸化反応が抑制されて、発熱特性が低下するという問題がある。しかも、これらの成分は水溶性であるため、水中に広く分散するので、鉄粉表面に作用して水素ガスの発生を抑制するためには高濃度が必要となるため、経済的に不利である。
【0008】
一方、特許文献3(特開平8−41447号公報)には、緩発熱性組成物に用いられる原料鉄粉に硫化カルシウムを一定量含有させることが記載されている。また、特許文献4(特開平8−183951号公報)には、緩発熱性組成物に用いられる原料鉄粉にチオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩粉末を一定量含有させることが記載されている。しかし、特許文献3で使用される硫化カルシウムは、大気中で不安定な物質で工業的にあまり有用でないため、非常に高価な試薬しか市販されておらず、しかも不快な臭気があって人の呼吸器や皮膚を刺激するという欠点がある。また、特許文献4で使用されるチオ硫酸塩は、酸と反応すると有害な二酸化イオウを発生し、発熱性組成物とした時に問題が生じる。
【0009】
また、これら特許文献3及び4は、鉄粉に硫化カルシウムやチオ硫酸塩を添加する工程を必要とし、特に特許文献4では、鉄粉をpH8〜10に調整する必要がある。
【0010】
【特許文献1】特開昭55−56180号公報
【特許文献2】特開昭57−172973号公報
【特許文献3】特開平8−41447号公報
【特許文献4】特開平8−183951号公報
【0011】
上述したように、従来技術においては、発熱温度を維持しつつ、水素ガス発生量を低減させ、かつ作業性、環境性や経済性等に不具合が生じることのない発熱性組成物用還元鉄粉及びその製造方法は得られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、発熱温度を維持しつつ、水素ガス発生量を低減させ、かつ作業性、環境性や経済性等に不具合が生じることのない発熱性組成物用還元鉄粉及びその製造方法、並びに発熱性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討した結果、鉄粉原料を還元剤を用いて還元鉄粉を製造する際に、還元剤中にカルシウム化合物を添加し、還元鉄粉にカルシウムを含有させることによって、上記目的が達成し得ることを知見し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、カルシウム含有量が0.3重量%以上、好ましくは0.4〜0.6重量%であることを特徴とする発熱性組成物用還元鉄粉を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、鉄粉原料を還元剤を用いて加熱還元する発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法であって、該還元剤中にカルシウム化合物を添加することを特徴とする発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法を提供するものである。
【0016】
本発明に係る発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法において、上記鉄粉原料の鉄全鉄100重量部に対して、カルシウム化合物をカルシウムに換算して0.25重量%以上添加することが好ましく、0.35〜0.57重量%添加することがさらに好ましい。
【0017】
本発明に係る発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法において、還元剤としては石炭及び/又はコークスが好ましく用いられる。
【0018】
また、本発明は、上記還元鉄粉を用いたことを特徴とする発熱性組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る還元鉄粉を用いた発熱性組成物は、発熱温度を維持しつつ、水素ガス発生量を低減させ、かつ作業性、環境性や経済性等に不具合が生じることがない。また、本発明の製造方法は、鉄粉の原料段階でカルシウムを含有させるため、上記還元鉄粉が、製造工程を増加させることなく、安価で、かつ安定した品質のものが比較的に容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0021】
<本発明に係る発熱性組成物用還元鉄粉>
本発明に係る発熱性組成物用還元鉄粉は、カルシウムを0.3重量%以上、好ましくは0.4〜0.6重量%含有する。この範囲でカルシウムを含有することによって、発熱温度を維持しつつ、水素ガス発生量を低減させることができる。カルシウムの含有量が0.3重量%未満では、水素ガス発生量を低減することができず、カルシウムの含有量が0.6重量%を超えると、発熱温度が低下する。
【0022】
<本発明に係る発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法>
本発明に係る発熱性組成物用還元鉄粉は、鉄粉原料を還元剤を用いて加熱還元して得られる。鉄粉原料としては、鉄鉱石、ミルスケール等が用いられる。加熱還元温度は1100℃程度が一般的である。還元剤としては、石炭及び/又はコークスが一般的に用いられる。
【0023】
本発明に係る製造方法では、還元剤中にカルシウム化合物を添加する。カルシウム化合物としては炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等が用いられる。
【0024】
カルシウム化合物の添加量は、鉄粉原料の全鉄100重量に対して、カルシウムに換算して0.25重量部以上が好ましく、0.35〜0.57重量部がさらに好ましい。カルシウムの添加量が0.25重量%未満では、得られる還元鉄粉のカルシウム含有量が0.3重量%未満となり、水素ガス発生量を低減することができない。カルシウムの添加量が0.57重量%を超えると、得られる還元鉄粉のカルシウム含有量が0.6重量%超となり、発熱温度が低下する。
【0025】
<本発明に係る発熱性組成物>
本発明に係る発熱性組成物は、上記還元鉄粉を用いるものである。この還元鉄粉と反応助剤、水及び保水剤等とを混合して発熱性組成物とし、使い捨てカイロ等として用いられる。
【0026】
以下、実施例等に基づき本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0027】
鉄粉原料として鉄鉱石を用い、炭酸カルシウムを添加した還元剤(コークス)を用いて1100℃で加熱還元してカルシウム含有量0.33重量%の還元鉄粉を得た。還元剤中の炭酸カルシウムの添加量は、鉄粉原料の全鉄100重量部に対して、カルシウムに換算して0.28重量部であった。
【実施例2】
【0028】
鉄粉原料として鉄鉱石を用い、炭酸カルシウムを添加した還元剤(コークス)を用いて1100℃で加熱還元してカルシウム含有量0.43重量%の還元鉄粉を得た。還元剤中の炭酸カルシウムの添加量は、鉄粉原料の全鉄100重量部に対して、カルシウムに換算して0.39重量部であった。
【実施例3】
【0029】
鉄粉原料として鉄鉱石を用い、炭酸カルシウムを添加した還元剤(コークス)を用いて1100℃で加熱還元してカルシウム含有量0.52重量%の還元鉄粉を得た。還元剤中の炭酸カルシウムの添加量は、鉄粉原料の全鉄100重量部に対して、カルシウムに換算して0.44重量部であった。
【実施例4】
【0030】
鉄粉原料として鉄鉱石を用い、炭酸カルシウムを添加した還元剤(コークス)を用いて1100℃で加熱還元してカルシウム含有量0.59重量%の還元鉄粉を得た。還元剤中の炭酸カルシウムの添加量は、鉄粉原料の全鉄100重量部に対して、カルシウムに換算して0.55重量部であった。
【実施例5】
【0031】
鉄粉原料として鉄鉱石を用い、炭酸カルシウムを添加した還元剤(コークス)を用いて1100℃で加熱還元してカルシウム含有量0.71重量%の還元鉄粉を得た。還元剤中の炭酸カルシウムの添加量は、鉄粉原料の全鉄100重量部に対して、カルシウムに換算して0.72重量部であった。
【比較例】
【0032】
鉄粉原料として鉄鉱石を用い、還元剤(コークス)を用いて1100℃で加熱還元してカルシウム含有量0.01重量%の還元鉄粉を得た。還元剤中に炭酸カルシウムを添加しなかった。
【0033】
実施例1〜5及び比較例によって得られた還元鉄粉を用いて、水素ガス発生量及び発熱温度を測定した。鉄粉原料中の全鉄量、還元後のカルシウム分析値、水素ガス発生量及び発熱温度は下記の方法によって測定した。これらの結果を表1に示す。
【0034】
(鉄粉原料中の全鉄量)
鉄粉原料(鉄鉱石)中の全鉄定量方法(JIS M 8212−1983)に準拠して測定した。
【0035】
(還元後のカルシウム分析値)
ICP分光分析(JIS G 1258)に準拠して測定した。装置:島津製作所社製ICPS−1000IV
【0036】
(水素ガス発生量)
還元鉄粉30gと保水剤27.7gを250ccのポリ瓶に入れ、3分間機械攪拌により混合した。混合後、不織布の袋に入れてカイロのようにし、アルミ状の袋を外袋としてこれに入れた。アルミ状の袋は、アルミ箔7μm、セロファン(300#)20μm、サンドポリ15μm、アルミ内側ポリ20μmからなる積層体を袋状にしたものである。
【0037】
次に、500ccの水を張った1000ccのメスシリンダーで初期のカイロの体積を測定し、その後50℃、湿度80%に設定された恒温槽中で48時間保持した。十分冷却後、再度500ccの水を張った1000ccのメスシリンダーでカイロの体積を測定し、初期の体積との差を算出し、水素ガス発生量とした。測定個数は5個とし、その平均値で示した。
【0038】
(発熱温度)
図1及び図2に示す測定装置により発熱温度を測定した。図1は、測定装置の上面図、図2は、図1のA−A’部分の断面図である。図1及び図2において、1は測定装置外板、2は熱電対、3は100ccガラス製ビーカー、4は保温用タオル(2重巻)、5は試料(鉄粉)、6はプラスチック板をそれぞれ示す。
【0039】
鉄粉100gと食塩水(20%)8.2mlを250ccのポリ瓶に入れ、3分間機械攪拌により混合した。ポリ瓶は5個準備し、上記の操作を繰り返し、測定用サンプル5個を調製した。ポリ瓶には蓋を閉じて空気が入らないようにした。
【0040】
各々のポリ瓶から内容物を100ccのガラス製ビーカーに移し替え、上記測定装置にセットした。直ちに測定を開始し、10分後温度を読み取った。測定個数を5個とし、その平均値で示した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜5は、比較例に比較して、水素ガス発生量が低減されている。しかし、還元鉄粉のカルシウム含有量の増加に伴って発熱温度が低下するので、水素ガス発生量と発熱温度のバランスから実施例2〜4が特に好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る発熱性組成物用還元鉄粉は、発熱性組成物に用いたとき、発熱温度を維持しつつ、水素ガス発生量を低減させ、かつ作業性、環境性や経済性等に不具合が生じることがない。また、本発明の製造方法は、鉄粉の原料段階でカルシウムを含有させるため、上記還元鉄粉が、製造工程を増加させることなく、安価で、かつ安定した品質のものが比較的に容易に得られる。
従って、本発明は、使い捨てカイロ等の発熱性組成物に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、発熱温度の測定に用いられる測定装置である。
【図2】図2は、図1のA−A’断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1:測定装置外板
2:熱電対
3:100ccガラス製ビーカー
4:保温用タオル(2重巻)
5:試料(鉄粉)
6:プラスチック板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム含有量が0.3重量%以上であることを特徴とする発熱性組成物用還元鉄粉。
【請求項2】
カルシウム含有量が0.4〜0.6重量%である請求項1記載の発熱性組成物用還元鉄粉。
【請求項3】
鉄粉原料を還元剤を用いて加熱還元する発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法であって、該還元剤中にカルシウム化合物を添加することを特徴とする発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法。
【請求項4】
上記鉄粉原料の全鉄100重量部に対して、カルシウム化合物をカルシウムに換算して0.25重量部以上添加する請求項3記載の発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法。
【請求項5】
上記鉄粉原料の全鉄100重量部に対して、カルシウム化合物をカルシウムに換算して0.35〜0.57重量部添加する請求項4記載の発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法。
【請求項6】
上記還元剤が石炭及び/又はコークスである請求項3、4又は5記載の発熱性組成物用還元鉄粉の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の還元鉄粉を用いたことを特徴とする発熱性組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−222763(P2008−222763A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59752(P2007−59752)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000231970)パウダーテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】