説明

発熱源を一体化させて熱効率の良いスライドガラス基板又はシャーレ

【課題】従来、光学顕微鏡下での加温冷却観察において、スライドガラス等を加熱する場合、架台上に別途発熱板を介する方法が用いられるが、間接的加熱であるため熱伝導効果は不十分であり、又ヒーター全面を均一に発熱させる必要があった。
【解決手段】1個の基盤上に単一発熱又は、複数の異種温度発熱させる透明導電膜ヒーターをスライドガラス基板又はシャーレへ一体化させる。基盤上の分画領域又は複数のウェル構造部をレーザを用い加工する。図3の3個の分画又は3ウェル構造に於いて、局所的に制御する為に電極Aは3個の陽極構造とし、電極Bを陰極とし電気的に接続する。高温部の形状はクシ歯の加工路を1本設け、中温部はスリットを2本設け、低温部はスリットを3本設ける。温度表示は示温表示材を貼付ける。発熱反応促進には該基盤を音響振動子の端子部に接触させる。更に冷却又は昇降温は、該基盤の底面に冷却伝導路を金属薄で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡観察時における試料加熱冷却装置に関するものである。熱源が一体化されたスライドガラス又はシャーレの加熱冷却部において、サンプルと試薬を混合し、その反応を任意な温度で発熱又は冷却させるように固定する機構を有する保持具ホルダーを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光学顕微鏡下で加温観察において、スライドガラス基板又はシャーレ等を加熱する場合、顕微鏡架台上に透明導電膜を用いた発熱板とする方法、装置が用いられていた。
【特許文献1】特開平7−301750 北里サプライ
【特許文献2】特開平10−239591 東海ヒット
しかしこれらの方法では、この発熱板を通じてスライドガラス基板又はシャーレ等を加温する為に、間接的としかならず、その熱伝導効果を満足させるものではなく、省エネ、コンパクト化には課題があった。
さらにヒーター全面を均一に発熱させる為の課題があった。それらの提案は、透明導電膜の通電発熱状態が不均一となって昇温するという課題に対して、透明導電膜をエッチングパターン加工したり、電極部の工夫などの提案が有った。
【特許文献3】特開2001−215473 横河電機
【特許文献4】特開2003−176154 旭硝子
【特許文献5】特開平8−88077 三井東圧
【0003】
本発明者らは実願2007−3673号において、樹脂製若しくはガラス製のスライドガラス基板又はバイオ基板上に透明導電膜によるヒーターを一体化させたものを提案し、且つヒーター部を均一発熱できるようにスリット形状加工を設けた抵抗回路と機能したものを提供できることを開示し、又、このヒーター回路の加工はレーザートリミング法で簡単に加工する事ができるものであった。しかし該考案は、基板上のヒーター発熱を均一等温とするものであり、異なった発熱域への対応には、スリット加工回路だけでは不十分であった。又、基板上の発熱状態を知らしめる機構がなかった。
さらに、この透明導電膜を加熱部とする構造だけでは、加温時間の短縮化、冷却方法への対応に課題を残した。
【0004】
一方従来からバイオ基板を加熱促進する方法としてマイクロリアクター技術が考案発明されている。その中で、超音波振動子による撹拌効果としては、バイオ基板上に音響振動子を搭載するという提案がある。
【特許文献6】特開2006−153877 アフィメトリックス
【特許文献7】特開2007−93266 セイコーインスツルメント
しかし、これらの方法では、バイオ基板(チップ)上に、高価な半導体技術製法を用いる事となり、より簡単な製法で、加熱促進をさせる撹拌効果方法を検討する余地が有った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、単一基盤上に分画された領域又は1つ以上の複数とするウェルを有した構造からなる、樹脂製又はガラス製のスライドガラス又はシャーレにあって、その分画された領域又は各ウェル毎に、低温、中温、高温域として機能できるようにした透明導電膜からなるヒーター発熱部の抵抗回路を、レーザー加工装置を用いて簡便に加工製造提供することである。尚この効果を生じせしめるにはウェル構造を必要としない場合も有る。
【0006】
本発明の別の目的は、発熱状態を知らしめる機構として温度インジケータを設け利便性と安全性を提供することである。
【0007】
さらにその発熱昇温時間を短縮化する為に音響振動子である超音波振動子等により微小振動を発生する機構を、該基板を保持、固定するホルダー部に設けて、加熱促進機構として撹拌反応を起こさせるものを提供することである。
【0008】
ヒートサイクル又は冷却試験にも対応できるように電子冷却部を固定ホルダーに内臓し、その冷却効果を得る為に銅、アルミなどの金属膜による冷却伝導路をスライドガラス又はシャーレ上に設けたものを提供することである。
【0009】
本発明の該基板の発熱温度は予め設定されたものを使用する事を想定しているので、その印加電源部はシンプル、コンパクトな形態で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、単一基盤上に分画された領域又は1つ以上の複数とするウェル構造部毎に、異なる発熱が可能となるようにするもので、そのヒーターとなる透明導電膜を用いて異なる発熱分布をコントロールする抵抗回路を設計し加工する事にある。即ち予め高温用、中温用又は低温用としての発熱温度が設定された抵抗回路パターンを形成する事でもある。先ず、図2の2ウェル構造において各々高温と低温域に対応できる様にする場合は、例えば高温域は65℃、低温域は50℃としての開発例を示す。発熱を左右するものは表面抵抗値を変化させる事であるから、透明導電膜をヒーター回路と見立てて、回路を形成し横棒状のスリット加工をほどこす。先ず高温部側からスリット加工を施しその抵抗値は低く、次いで中温域、続いて低温域を加工形成していく。低温域部内ではその抵抗値は高温域の約2倍以上となる様に回路加工を行う。
【0011】
この抵抗回路加工は、レーザーを用いて行う事ができる。この発明に利用したレーザー設備はYAGレーザーを用いた。電圧100V、12Wクラス(サンクス株式会社製)。当該基板サイズでの加工時間は約5秒である。一方で従来透明導電膜を抵抗回路として有効に作用させる為には、フォトエッチング法により導電膜上にフォトマスクなどを置いてさらに導電性金属材料を積層成膜し、その後エッチング処理を行って回路形成するようなプロセスを用いていたが、本方法ではこのようなプロセスを無くす事ができる。
【特許文献8】特開2006−286434 関西パイプ工業
【0012】
発熱温度表示は簡便にできるものとして示温表示材がある。これらの発熱材料はワックス成分からできており、インク形状又はシール材として供給されているものが一般的で有り、該基盤の発熱エリアに対応する部位へ、インクを塗布又はシールを貼り付けて温度インジケータとして利用する。
【0013】
発熱反応促進用として、該基盤を固定するホルダー内に該基盤の端子部に接触するようにして、微小振動を生ぜしめる音響振動子を設ける構造とする。該基盤上の各ウェルの容積が数10マイクロリットルと少ないが、このウェル容器内での、サンプルと試薬を撹拌させる。微小振動による音響エネルギーの伝幡により、撹拌効果を生ぜしめるこの振動子には、圧電体などによる超音波振動子又はモーターを利用し、その共振現象を利用するには約20Hz以上のものを用いる。
【0014】
該基盤を発熱させるには、予め発熱温度設計した回路パターン設計がなされているので、複雑な制御部を不要とした電源部で対応させるものである。ここで用いる電源仕様は、主電源AC100V、制御DC0〜24V、3.2W(Max)といった省電力を用いる。
【0015】
上記載の基板又はシャーレを冷却又は昇温・下温させる為に、該基板上又はシャーレ底面に、伝導路パターンを、図5、6の図示のようにヒーター部となる透明導電膜の部位を阻害しない範囲で、伝導性に優れる銅又はアルミなどの金属薄膜加工を行なう。この金属薄膜加工は、物理的成膜法か、又は箔形成されたものを用いる。
【0016】
この伝導路パターンは、図7に図示する固定ホルダー内部に冷却源とするペルチェ素子と接触させる事により冷却伝導が行われ冷却効果を得ることになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、予め想定する任意な発熱を可能とする透明導電膜を用いた透明ヒーターと一体化されたものでスライドガラス基板又はシャーレとして、加温又は冷却の熱伝導ロスの少ない実験用器具としての利便性が高まるものである。
【0018】
又、想定される電極を印加するだけで、複雑な電源制御部を不用とする省電力の加熱装置である。
【0019】
さらに1つの基盤上に複数の異種温度ゾーンを同時に設ける事ができるので、一度に複数の温度比較反応実験ができたり、その温度ゾーンに対応するウェル内の試薬などの撹拌促進効果機構が付与されているのでマイクロリアクターとしての応用が可能となる。冷却機構と併用すると簡便なヒートサイクル試験装置ともなる。
【0020】
一方、加熱に伴う発熱状態を明示化する事により、より器具の動作状態のチェック、並びに使用の安全性を訴える事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の非限定的な実施例を基に説明を行う。
【0022】
図3は、本発明のスライドガラス基板の実施例の形態を示す平面図の透明ヒーター回路部である。本実施例は分画された領域又は複数のウェル部対応の加熱例であるが、これが流路の場合でも同じ事である。図では、3個に分画された領域又はウェル部を図示してある。
【0023】
以下に本発明のヒーターを一体化させた該スライドガラス基板をバイオ基板用に用いた例を図面を基に説明する。先ず、バイオ基板としては、DNAチップ等と呼称されているが、その加熱反応部として、微小な流路又はウェルが用意されている。そのDNAを明らかにする手法としてPCR(Polymerase Chain Reaction)が有る。これは、そのDNAを増幅するのに、温度による加熱法が採られており、通常3つの温度ゾーン(50℃、72℃、95℃)を繰返して反応をさせる事が知られている。しかし本発明はこの3つの温度ゾーンを同時に同一基盤上で発熱実現をさせる試みで有る。
【0024】
図1はその時の3つの温度ゾーンに対応させた3ウェルを有したものである。図1の該基板はその斜視図である。各ウェルの高温度発熱は95℃、中温度は72℃、低温度は50℃である。尚、発熱部となる抵抗パターン回路は図3を用いて説明を行う。
【0025】
透明ヒーター部を形成するには、透明導電膜面上に表面抵抗となるよう領域を設け電流の流れを局所的にコントロールする事によって、発熱ゾーンを作る事である。その為に、その流れ(抵抗回路)を作る事で、本発明者らは実願2007−3673において、均一発熱部させる方式として、スリット状の加工を提案してきている。
【0026】
その提案は次のものである。先ず、成膜厚としては一般に低抵抗回路(30Ω/cm前後)の場合は厚膜を行い、高抵抗回路(1KΩ/cm)の場合は薄膜を形成する。抵抗回路では、膜厚と抵抗値(Ω/cm)の関係は比例関係にあり、高抵抗では薄膜が必要となるので、抵抗値が外部環境に影響され易い。発熱の仕組みは、印加電圧、透明体ヒーター部分の面積、電極間距離等の設計を最適化して行う必要がある。各々に区分されたヒーターとして均一に発熱させる為に、その透明導電膜の両端上下にスリット状パターンを加工し、その両端対角の位置に電極形成をし導通させるもの。スリット位置はヒーター面積の1/3のところを目処に、回路幅は凡そ1mm以下とする。有効発熱エリアを広くする時は回路長さを大きく採るパターン設計を行う。
【0027】
図2、3、4は、その各々の発熱域に対応させた抵抗パターン回路図である。電極相当部の電極Aを陽極とし、電極Bを陰極として電気的に接続するように形成されている。尚本例の図3のように、3つの温度域実現に対応するヒーター回路としては並列法が相応しく、電極Aは3個の陽極構造として、A、A、Aとし、図4では、4個のA、N、A、Aとする陽極構造として図示してある。理由は直列法では、3個又は4個の抵抗ヒーター部の加算となり、個々の発熱部の温度調整が取りづらくなるという弊害が有るからである。
【0028】
透明導電膜面上に表面抵抗回路をYAGレーザー装置を用いてクシ歯形など形状でトリミング加工を行う。
【0029】
図1の該基板のサイズは縦76mm×横28mm×厚み1.5mm、各ウェルサイズは5mm×5mm×深さ1mmとして想定して有る。図4のシャーレのサイズは外径97mm×高さ17mmとして想定して有る。
【0030】
先ず発熱想定エリアは裏面全体とし、ここへ透明導電膜の成膜を行う。本発明者らは実願2007−3637号において透明ヒーターの開発試作を行い、その実験で発熱80℃を達成する為にはそのシート抵抗値は37Ω/cmが最適である事を得た。本例ではより高温を発熱させる為に、膜厚1800Å、シート抵抗値18Ω/cmとなる条件で成膜を行う。
【0031】
図3において、各発熱部の温度設定に対応する抵抗値とW数を勘案する。高温部(95℃)の形状は、クシ歯のスリット巾0.1mmの加工路を1本設け、3ヶ所の温度域を連結する回路幅は3mmとする。中温部(72℃)の形状は、スリット加工路を2本設け、回路幅は3mmとする。低温部(50℃)の形状は、スリット加工路を3本設け、回路幅は3mmとする。即ち、高温部の抵抗値は、18Ω/cm、W数は、3.5W、中温部の抵抗値は、72Ω/cm、W数は、2.34W、低温部の抵抗値は、162Ω/cm、W数は、1.21W、となるように回路パターンを設計する事で可能となる。
【0032】
次いで上記設計回路パターンに基づき、電極相当部以外の端部と、クシ歯となるスリット加工部をYAGレーザー装置を用いて除去を行う。
斜線部は除去されない透明導電膜部である。除去部は空白と、実線で示されているクシ歯のスリット部位である。
【0033】
図4は、4つの温度ゾーン、例えば95℃、72℃、50℃、40℃をシャーレ基盤上に発熱させる為の抵抗パターン回路図で有る。
【0034】
スライドガラス基板上に冷却伝導路パターンを形成するには、熱伝導に優れる金属薄膜を図5に図示するような形で配置加工を行なう。伝導性に優れる銅又はアルミなどの金属薄膜による冷却伝導路を、ヒーター部となる透明導電膜の部位の他にそれを阻害しない範囲で、平行又は垂直に配置し、尚金属薄膜は物理的成膜法か、箔形成されたフィルムを貼付ける。
【0035】
同様にシャーレ底面上に冷却伝導路パターンを形成するには、熱伝導に優れる金属薄膜を図6に図示するような形で配置加工を行なう。
【0036】
冷却と温度の昇温・下温させるには、図7記載の固定ホルダー内に1つ以上の冷却ペルチェ素子を冷却源として、その素子端子部を介して冷却伝導路パターンを冷却させる。
【0037】
図7は、当該スライドガラス基板の使用想定図である。但し、電極部は図示を省いてある。ヒーターと一体になった該基板(1)を、電極と接続されている固定ホルダー(9)に挿入を行い所定の位置にセットして使用するものである。該基板(1)を挿入後、固定ホルダー保持ガイド(10)で圧接固定を十分に行い下部電極と接触させる。
【0038】
該基板(1)がセットされたら、分画された領域又は各ウェル内に試料を滴下させ、場合によっては上部を図示しないカバーガラスで封印させる。
【0039】
セットが完了したら、図示しない電源コンセントを用いて通電を行う。場合によっては、超音波発生器(11)からの信号を受けて、音響振動子(12)を発振させる事により、撹拌動作を行う。
【0040】
所定の温度に到達すると、温度インジケータ(8)部位が着色変化するようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る樹脂製又はガラス製のスライドガラス又はシャーレの概要図である。
【図2】本発明に係るスライドガラス基板上の2分画された領域又は2つのウェル構造部対応のヒーター発熱部の抵抗回路の平面図である。
【図3】本発明のスライドガラス基板上の3つの温度領域を可能とする透明ヒーター回路部の平面図である。
【図4】本発明のシャーレ基盤上の4つの温度領域を可能とする透明ヒーター回路部の平面図である。
【図5】冷却伝導路を設けたスライドガラス模式図である。
【図6】冷却伝導路を設けたシャーレの模式図である。
【図7】スライドガラス基板を発熱又は冷却させ且つ固定する機構を有する保持具ホルダーの使用参考模式図である。
【符号の説明】
【0042】
1.基板
2.シャーレ
3.分画された領域、ウェル
4.透明ヒーター・透明導電膜
5.抵抗パターン
6.電極A
7.電極B
8.温度インジケータ
9.固定ホルダー
10.固定ホルダー保持ガイド
11.超音波発生器
12.音響振動子
13.ホルダー側電極A
14.ホルダー側電極B
15.冷却伝導路
16.電子冷却素子
17.スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの基盤上に分画された領域又は複数のウェル部を、低温並びに中温及び高温と異温度の発熱調整と発熱均一化が可能となるように、透明導電膜による発熱部にあって、縦又は横からなる形状のスリット加工を概基盤上に施し、その発熱部を一体化させた構造を特長とする樹脂製又はガラス製のスライドガラス基板又はシャーレ。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂製又はガラス製のスライドガラス基板又はシャーレにあって、その発熱部の発熱状態を温度示温材などを用いて表示を可能とする温度インジケータ部を有する構造としたもの。
【請求項3】
請求項1記載のスライドガラス基板又はシャーレを固定保持するにあたって、その分画された領域又は複数のウェル部の流路内の試薬とサンプルの反応促進の為に撹拌を生ぜしめる音響振動子機構を有している当該基板又はシャーレの保持及び固定の為のホルダー。
【請求項4】
請求項1記載の樹脂製又はガラス製のスライドガラス基板又はシャーレにあって、温度の昇温下温対応と冷却効果を生じせしめる為に請求項3記載のホルダー内に別途設けた冷却源による冷却伝導を促進可能となる銅、アルミなどの金属膜による伝導路を配置する構造としたもの。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−93126(P2009−93126A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285543(P2007−285543)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(303058568)
【Fターム(参考)】