説明

発電プラントのための、プロセス最適化方法およびシステム

1つ以上の電力発生器ユニットを持つ発電プラントに対する負荷スケジューリングを最適化する方法およびシステムを提供する。この方法および対応するシステムは、負荷スケジューリングの際に使用される目的関数に対する1つ以上の制約を適合させる必要性を示すイベントを検出することを含む。このような検出の際に、目的関数を最適に解くために、目的関数を解析して1つ以上の制約に対する適応制約値を決定する。これらの適応制約値を使用して目的関数を解き、1つ以上の適合された制約値を持つ目的関数の解を使用して、発電プラントの1つ以上の電力発生ユニットを動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、発電プラントのための、プロセス最適化のシステムおよび方法に関し、さらに詳細に述べると、最適化方法およびシステムにおいて適応制約を使用することによる、発電プラントにおける負荷スケジューリング最適化に関する。
【背景】
【0002】
典型的に、発電プラントは、いくつかのユニットからなっており、このいくつかのユニットのそれぞれは、異なるステージの電力発生に寄与する機器のセットを持っている。このような機器は、例えば、ボイラーと、蒸気タービンと、電気発生器とを含む。発電プラントの最適な稼動に対して、重大な態様のうちの1つは、所定の電力需要を満たすために、異なるユニットと、それらの各機器との間で、最適に負荷スケジューリングすることである。
【0003】
負荷スケジューリングは、電力発生プロセスの生産性に大きな影響を与える。負荷スケジューリングの目的は、効果的かつ効率的に電力需要を満たすために、機器のそれぞれに対する異なる動作パラメータの、タイミング、値等を決めることによって電力生産時間および/またはコストを最小限にすることである。負荷スケジューリングは、通常、発電プラント制御システム中のオプティマイザによって最適化される。
【0004】
最適化の課題の目標、例えば、コストの最小化は、最適化問題に対する目的関数として表現される。最適化方法は、識別された制約内で、このような目的関数を解く。ほとんどすべての動作可能パラメータは、コスト関数として表現することができ、さまざまな動作に関係するコスト関数と、それらの結果(例えば、需要を満たさないためのペナルティ)とを解くために、オプティマイザが配備される。所望の最適化された結果を達成するために、オプティマイザからの解が、さまざまな動作に対するセットポイントを提供する。典型的に、オプティマイザは、目的関数を解くために、非線形プログラミング(NLP)、混合整数線形プログラミング(MILP)、混合整数非線形プログラミング(MINLP)等のような技術を使用する。
【0005】
目的関数の定式化では、可能性あるあらゆるものを最適に動かすための考慮のために、同じ数だけの項(燃料コスト、排出削減コスト、スタートアップおよびシャットダウンコスト、老朽化コスト、維持コスト、ペナルティコスト)を目的関数中に含めることを望む。発電プラントに対する最適解を達成するために、目的関数の定式化において、いくつかのこのような項を考慮するとき、動作パラメータ、すなわち、異なる機器に対するセットポイントの調整を行う自由度が減少するので、目的関数を解くことが難しくなる。特定の目的関数に対して考慮すべき必要な項の数は、プロセス制御システムがどのように設計されているかと、制約の値とに基づいている。項の数が、より多い場合、すなわち、項の数が、発電プラントのほとんどすべての可能性ある態様を一度で考慮する場合、または、非常に厳しい制約を持っている場合、目的関数は解を持たない可能性がある。発電プラントモデルにおいて考慮されない条件が存在するとき、または、発電プラントにおいて、オプティマイザの結果から制御可能でない条件が存在するとき、ここで記述したような、解なし問題が生じるかもしれないことにも、ここで留意してもよい。
【0006】
現在、制約のセットを仮定して目的関数が適当な時間内に解かれないシチュエーションでは、発電プラントは準最適な方法で動作される。解がないシチュエーションに加えて、最適化された解が最良の解であるか否かが、すなわち、その解が、利用可能な複数の解の中で最良であるか否かが、または、その解がわずかに準最適であるように見えたとしても、安定した態様でプラントを動作させるのに最も適しているか否かが不確かである他のシチューションが存在する。異なる制約値が存在したか否か、より良い解があり得たか否かを知らないことも、さらに多い。
【0007】
本発明は、受け入れ可能な解をオプティマイザが規定された態様で提供するように、このようなシチュエーションを識別および取り扱うための方法を記述する。さらに詳細に述べると、本技術は、いくつかの制約を識別および緩和させることによって発電プラントの動作に対する目的関数を解くための、システムおよび方法を記述する。
【簡単な説明】
【0008】
本発明の1つの態様にしたがった、1つ以上の電力発生ユニットを持つ発電プラントに対する負荷スケジューリングを最適化する方法を提供する。
【0009】
本方法は、負荷スケジューリングの際に使用される目的関数に対する1つ以上の制約を適合させる必要性を示すイベントを検出することを含む。このようなイベントの検出の際、本方法は、目的関数を最適に解くために、目的関数を解析して1つ以上の制約に対する適応制約値を決定することと、1つ以上の制約の適応制約値を使用して目的関数を解くこととを含む。この方法は、最後に、1つ以上の適合された制約値を持つ目的関数の解を使用して、発電プラントの1つ以上の発生器を動作させることとを含む。
【0010】
本発明の別の態様にしたがった、1つ以上の電力発生ユニットを持つ発電プラントに対する負荷スケジューリングを最適化するオプティマイザは、負荷スケジューリングの際に使用される目的関数に対する1つ以上の制約を適合させる必要性を示すイベントを検出する適応制約評価モジュールを有する、制約解析モジュールを備える。適応制約評価モジュールは、目的関数を最適に解くために、目的関数を解析して1つ以上の制約に対する適応制約値を決定し、そして1つ以上の制約の適応制約値を使用して、目的関数を解く。オプティマイザは、その後、1つ以上の適応制約値を持つ目的関数の解を使用して、1つ以上の電力発生ユニットを動作させるために使用されるセットポイントを発生させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付図面を参照して以下の詳細な説明を読むときに、本発明の、これらの特徴、態様、および利点、ならびに、他の特徴、態様、および利点は、より良く理解されることになるだろう。添付図面では、同じ文字は、図面全体を通して同じ部分を表している。
【図1】図1は、本発明の1つの実施形態にしたがった、簡略化した汎用の、化石燃料の発電プラント(FFPP)のブロック図表現である。
【図2】図2は、図1の発電プラントのための制御システムのブロック図表現である。
【図3】図3は、図2の制御システムのオプティマイザ中の制約解析モジュールのブロック図表現である。
【詳細な説明】
【0012】
ここで、および、特許請求の範囲中で使用されているような、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に示していない限り、複数の参照を含む。
【0013】
ここで記述したシステムおよび方法は、既存の制約を持つ解の収束のない条件の下で、または、既存の制約を持つ解が最良の解であることが明確でないときの条件の下で所望の電力需要を満たすための、発電プラントの動作の最適化に関連する。ここで記述したシステムおよび方法は、制約、それらの値を正確に規定することによって、また、最適解が毎回存在すること、すなわち、目的関数を解くために自由度が利用可能であることを確実にすることによって、発電プラントを確実に動作させるので、目的関数中で規定されているすべての項を依然として考慮しながら、最適化の解法を動的に改善させる。
【0014】
最適化された解を達成するために、本発明の新規なモジュールおよび方法は、好都合に、制約の値を動的に適合させて目的関数を解くことを提供し、利益を得る解を誘導する。発電プラントの、許容し得る利益になる結果(短期的および長期的)内で、このような適合は実行される。
【0015】
図面を参照して、これらの態様をここで説明する。
【0016】
図1は、制御システム12によって制御される、簡略化した汎用の、化石燃料の発電プラント(FFPP)10のブロック図表現であり、この制御システム12は、発電プラントを動作させるために最適解を得るための、オプティマイザ14を備える。FFPP10は、パラレルに稼動する、3つのFFPPユニット16、18、20からなる。それぞれのFFPPユニットは、3つの主要な機器、すなわち、ボイラー(B)22と、蒸気タービン(ST)24と、電気発生器(G)26とを持ち、この蒸気タービン(ST)24は、電気発生器(G)26に機械的に結合されている。動作の下で、蒸気負荷は、一般的に、u1、u2、およびu3と呼ばれ、各ボイラーによって発生される蒸気を表し、対応する燃料消費はy11、y21、y3として表現されている。操作される変数u11、u12、およびU13は、バイナリ変数であり、これは、ボイラーの状態が「オフ」であるか、または、「オン」であるかの、ボイラーの状態を規定する。発生器を動かすために、ボイラーからの蒸気は蒸気タービンに与えられる。発生器からの電力出力は、y12、y22、y32として表現されている。
【0017】
発電プラントを最適な条件で確実に動作させるために、制御システム12を使用して、発電プラント10の異なる動作パラメータを監視および制御する。発電プラントの最適な稼動について、先に説明したように、重大な態様のうちの1つは、図1中で示されているような異なるFFPPユニット間での、最適な負荷スケジューリングであり、最適化された解に対する計算は、オプティマイザ14において実行される。
【0018】
例示的な実施形態では、負荷スケジューリングの最適化問題の目的は、燃料コストや、スタートアップコストや、ランニングコストや、排出コストや、ライフタイムコストの最小化のような異なる制約を受ける、3つのFFPPユニットの間の負荷をスケジューリングすることによって電力需要を満たすことである。オプティマイザ14が、発電プラントからの入力を受け取り、最適な負荷スケジューリングのための最適化技術を適用する。最適解に基づいて、制御システム12が、発電プラント中の異なるアクチュエータにコマンドを送って、処理パラメータを制御する。
【0019】
本技術の態様にしたがうと、既存の制約を持つ解の収束のない上述のシチュエーションを、または、既存の制約を持つ解が最良の解であることが明確でないときの条件の下で、扱うための新規なモジュールを、オプティマイザ14が備えている。図2を参照して、より詳細に、これらの新規なモジュールおよび関係する方法を説明する。
【0020】
図2は、図1を参照して説明したような、制御システム12内のオプティマイザ14のブロック図表現である。オプティマイザ14内のモジュールは、履歴の、発電プラントの動作データを提供する発電プラントデータベース28からの入力と、将来の電力需要予想を提供する電力需要予想モデル30からの入力と、何らかの特定のユーザのニーズに対するユーザ入力32からの入力と、シミュレートされたデータを発電プラントに提供する発電プラントモデル34からの入力と、現在の動作データを提供する発電プラント10からの入力とを使用する。
【0021】
オプティマイザ14は、例えば、以下で示されている式1−16にしたがって目的関数を解くための最適化ソルバーモジュール36を備えている。
【0022】
上記のFFPP発電プラントに対する例示的な最適化方法において、考慮されている目的関数は、式1によって示されているような、最小化される必要があるコスト関数である。発電プラントに対する最適な負荷スケジュールを得るために、最適化問題は、式10から式16によって規定されているような制約内で解かれる。
【0023】
uに対する最適値を選ぶことによって以下のコスト関数を最小化することによって、発電プラントの最適化が実行される。
【数1】

【0024】
コスト関数(J)における項のそれぞれを、以下で説明する。
【0025】
demは、予測範囲にわたって電力需要を満たさないためのペナルティ関数である。
【数2】

【0026】
ここで、kdem el(t)は、適した重み係数であり、Ddem el(t)は、t=T,…,T+M−dtに対して、予測範囲内の電気需要の予想であり、y12、y22、y32は、各発生器によって発生された電力である。ここで、Mは、予測範囲の長さであり、Tは、現在の時間であり、そして、dtは、時間間隔である。
【0027】
fuelは、出力y11、y21、y31による、FFPP用のモデルで表される燃料消費に対するコストであり、したがって、燃料消費に対する総コストは、
【数3】

【0028】
によって与えられる。ここで、ki fuelは、燃料消費yilのコストである。
【0029】
emissionは、発電プラントによって生み出される汚染物質排出(NO、SO、CO)を削減する際に伴うコストであり、
【数4】

【0030】
によって与えられる。
【0031】
ここで、ki emissionは、電力yi2を生産するためのコスト係数である。Cst startupは、
【数5】

【0032】
によって与えられる、蒸気タービンのスタートアップに対するコストである。
【0033】
ここで、kst startupは、正数の重み係数を表している。
【0034】
st fixedは、蒸気タービンの固定したランニングコストを表している。Cst fixedは、デバイスが動作しているときのみ非ゼロであり、蒸気の流量u2のレベルに依存しない。
【数6】

【0035】
ここで、kst fixedは、タービンの使用による、(1時間あたりの)何らかの固定したコストを表している。
【0036】
st lifeは、負荷の影響による、資産の減価償却を表現しており、
【数7】

【0037】
として規定される。
【0038】
ここで、LTcomp, loadは、構成要素のライフタイムコストであり、この構成要素は、ボイラー、タービン、または、所定の負荷に対する発生器であることもある。式8の右辺上の項、
【数8】

【0039】
が、ベース負荷(LOADbase)に関する(等価運転時間)EOH消費のレートを計算する。この項は、その間ユニットがその負荷で稼動している総時間と乗算すべきである。オプティマイザが、それぞれのサンプリング時間の間、EOH消費を計算し、最終的には、すべてのサンプリングインスタンスにおけるEOH消費をコスト関数に加える。
【0040】
項、Cboiler startup、Cboiler fixed、Cboiler life等は、蒸気タービンの同義の項に類似しているので、これらの記述を省く。
【0041】
Eは、電気の販売と排出取引からのクレジットとにより得られる収入に対する項である。この項は、生産されるものと要求されるものとの間の最小限のみ売ることができることを考慮に入れなければならない。
【数9】

【0042】
ここで、Pi, el(t)は、発生される電気エネルギーに対するコスト係数である。
【0043】
上述の最適化問題は、以下の制約のうちの1つ以上を受ける。
a)ボイラーと、発生器に結合されているタービンとに対する最小限および最大限の負荷制約、等
【数10】

【0044】
b)ランプアップおよびランプダウン制約
【数11】

【0045】
c)最小限のアップ時間およびダウン時間の制約
この制約は、ユニットに対する、ある一定の最小限のアップ時間およびダウン時間を保証する。ユニットのスイッチがオフにされた場合、ユニットは、少なくとも、ある一定の時間期間の間、同じ状態のままでなければならないことを、最小限のダウン時間は意味する。同じ論理は、最小限のアップ時間に適用される。これは、オプティマイザが、ユニットを頻繁にオフまたはオンにしすぎないようにするための物理制約である。
【数12】

【0046】
ここで、toffは、ユニットがオフにされたときに、カウンティングを開始するカウンタであり、toffが、最小限のダウン時間よりも小さいとき、ユニットの状態u1は、オフ状態であるはずである。
【0047】
d)予備ユニットの容量制約
【数13】

【0048】
e)連結線の容量制約、等
【数14】

【0049】
典型的に、最適出力を得ている間、Cemission、Cfuel、Clife等のような、目的関数の定式化におけるすべての異なる態様または項を、関連する制約とともに考慮することを望む。これらの項のそれぞれが、操作される変数u11、u12、およびu13の関数であることと、制約が、これらの操作される変数に関連することとが、当業者に知られるだろう。
【0050】
先に説明したように、いくつかのこのような項を目的関数の定式化において考慮するときに、発電プラントに対する最適解を達成するために、動作パラメータ、すなわち、異なる機器に対するセットポイントの調整を行う自由度が、減少するので、目的関数を解くことが難しくなる。また、先に説明したように、得られた解が最良の解でないかもしれないシチュエーションが存在する。これらのシチュエーションに遭遇した後のアクションを、ここで以下でより詳細に説明する。
【0051】
目的関数の収束のない条件が存在するとき、または、最適化ソルバーモジュール36によって得られた解が最良の解であるか否か明確でないとき、制約解析モジュール38はアクティブ化され、双方のこれらのシチュエーションが、1つ以上の制約を適合させる必要性を示す「イベント」を生成させる。このようなイベントの検出の際に、新しい制約値を計算して目的関数を解くために制約解析モジュール38がアクティブ化される。
【0052】
図3を参照して説明するように、制約解析モジュール38が新しい制約値を決定する。
【0053】
図3をこれから参照すると、制約解析モジュール38は、1つ以上の適応制約を、すなわち、その制約の値を変更することができる制約を選択するための適応制約評価モジュール40を備え、これらの適応制約に対するこの値は、目的関数を解くためのものである。例示的な実施形態では、適応制約評価モジュール40が、発電プラントモデル34と目的関数とを使用して、操作される変数のうちのどれを、最適化のためにその制約を通して緩和させてもよい(ここでは「柔軟な操作変数」として参照される)かと、値に関してどのくらいまでかと、また、操作される変数のうちのどれを緩和させることができない(ここでは「厳しい操作変数」として参照される)かとを解析する。したがって、適応制約評価モジュール40は、最適解に到達させるために、ここでは「適応制約」として参照される、緩和すべき制約と、ここでは「適応制約値」として参照される、このような制約の新しい値とを選択する。
【0054】
1つの特定の実施形態では、適応制約および適応制約値も予め設定されていてもよく、例えば、適応制約評価モジュール40は、予め設定されている、望ましい制約値に対する定義と、また、望ましい制約値からのずれを考慮に入れる、受け入れ可能な適応制約値とを有する(すなわち、制約値をどのくらい変えることができるかが、予め定義されていてもよい)。受け入れ可能な適応制約値は、プラントを動作させるために製造業者またはシステム設計者によって特定される制限と同じか、または、この制限内であってもよい。
【0055】
さらに、目的関数の解に関する、異なる柔軟な操作変数の影響と重要性とに基づいて、この異なる柔軟な操作変数に予め割り当てられている優先順位を持つことが可能である(最小化問題)。優先順位はまた、感度解析または主成分解析のような技術を通して適応制約と適応制約値とを選択するために決定され得る。1つの例では、目的関数の解に関して最も感度のよい制約には、その値が目的関数を解くために適応制約値として最初に選択されるように最も高い優先順位が割り当てられる。
【0056】
同様に、適応制約値に予め割り当てられている優先順位が存在していてもよい。すなわち、適応制約に対する受け入れ可能な値内で、可能性ある値の2つ以上のセットが存在していてもよく、これらには、選択および使用のために優先順位が付けられてもよい。本実施形態では、既に規定されている優先順位が利用可能である場合に、適応制約評価モジュール40は、既に共に規定されている優先順位に基づいて、予め設定されている受け入れ可能な適応制約値を選択する。
【0057】
優先順位が付けられた適応制約を適用した後、解が依然として結果として生じていないシチュエーションでは、優先順位に基づいて、1つより多い適応制約を同時に緩和させることによって、その解を試みてもよい。
【0058】
別の実施形態では、適応制約評価モジュール40は、どのコスト関数が最重要なのであるかを決定するために主成分解析のような技術を実施し、次に、どの操作される変数が重要項または支配的な項であるのかを、「柔軟な操作変数」または「厳しい操作変数」として識別し、受け入れ可能な制約値を使用して、(例えば、モンテカルロ法を通して)シミュレートし、および、柔軟な操作変数に対する値となるものを識別してもよい。この柔軟な操作変数に対する値となるものは、既存の(または所望の)制約値に可能な限り近い適応制約値として適していてもよく、結果として、解を生じさせる。このケースでは、シミュレーションを通して、または、他の統計的技術(典型的には、実験計画法において使用される方法)の使用によって、どの、そして、いくつの制約を緩和させるべきかが、すなわち、いくつの適応制約を考慮できるかが、そして、どの程度まで、すなわち、このような適応制約の値となるであろうものが決定される。認識するように、適応制約と、それらの値との決定は、どの適応制約を緩和すべきかを、および、発電プラントに対する所望設定または推奨設定に近いように、どれくらいまで影響をもたらすかを最適に決定する別の最適化問題である。
【0059】
しかしながら、別の例では、たとえ、対応する柔軟な操作変数に関係する複数の制約を緩和させたとしても、選択された適応制約値のいずれもが解を満たさない、すなわち、実際には、目的関数が解けない可能性がある。このケースでは、優先順位(最初に緩和される最低の優先順位)に基づいて、または、解を提供する条件を見出すためのシミュレーションを通して決定されるように、厳しい操作変数に関係する制約も緩和させてもよい。この解は、(所望の制約から結果的に生じない)準最適解であるにもかかわらず、目的関数を満たすように選択される。
【0060】
さらにもう1つの実施形態では、現在の制約により得られた解が最良の解であるか否か明確でないことから、制約解析モジュール38がアクティブ化される場合、このシナリオでは、解析モジュールは、新しい解を見出すために、(制約の受け入れ可能な値内で規定されている)既存の制約値、厳しい操作変数および柔軟な操作変数を考慮する。このようなアクティブ化は、周期的に、および、実施される解が実際に最良の解であるか否かを決定する目的で実行されてもよく、すなわち、このようなイベントが、有限のサイクルごとに、予めプログラミングされている態様で起きることにも留意してもよい。代替的に、このようなイベントは、ユーザによりトリガされてもよい。
【0061】
適応制約評価モジュール40は、厳しい操作変数および柔軟な操作変数の両方に対して、関係する制約を選択して、厳しい操作変数が影響を与えられないように、または、厳しい操作変数が解を改善させるためにさらに厳しくされるように、関係する制約の値を適合させる。したがって、ここで、制約をただ緩和させるだけの代わりに、いくつかの制約を厳しくして、他のいくつかのものを緩和させる。これにより、解が得られ、その解が、可能性ある解の中で最良のもの(長期的にわたってより安定していて有益な解)であることも確実になる。
【0062】
シミュレーションを通して適応制約の値が決定されるケースでは、適応制約値は、最初の条件として、受け入れ可能な制約の値として選択されてもよく、新しい適応制約値はアルゴリズム的に到達され、ここで、適応制約値のうちのいくつかは、厳しい操作変数に対するものであり、値は、厳しい操作変数に対して可能な限り厳しい値でプラントを動作させるのを助けるようなものである。厳しい操作変数から結果的に生じる機能が、プラントの複数の態様/機能に影響を与えるときに、および、厳しい操作変数に対してより厳しく制御することが、プラントのすべての関連する態様/機能に対してより良く制御する助けとなるときに、このような動作は有利であるかもしれない。
【0063】
制約解析モジュール38は、したがって、目的関数の最適解を、すなわち、負荷スケジューリングの最適解を見出す。この負荷スケジューリングの最適解は、発電プラント中の異なる機器の動作パラメータとして、セットポイントをプロセス制御装置を通して送り出す、制御システムによるさらなるアクションのために制御システムに送られる。
【0064】
別の実施形態では、制約解析モジュール38は、短期および長期における、発電プラントの動作に適応制約値を使用する影響を解析するために、付加的なモジュールを、例えば、決定モジュール40を備えていてもよい。新しい値(最適化問題において使用すべき、推奨される適応制約値)の即座の影響を示すために、ここで使用したような短期的影響という用語を使用する。制約の最初の値から、制約のうちの少なくとも1つを変えることによって、すなわち、適応制約値を使用して得られた解によって、発電プラントが動作されているとき、発電プラントの動作全体に、最初の値とは異なる影響があるだろうことと、第1の値のものとは異なって、発電プラントに影響しているだろうこととが、当業者によって正しく認識されるだろう。「長期的影響」という用語に関係付けて、この影響を参照する。
【0065】
長期的には、発電プラントの動作をその予期される軌跡から望まれずに逸脱すべきことは望ましくない。そして、長期的影響は、初期または所望の制約を持つ目的関数で表現される、初期または所望の条件とは異なる条件の結果であるので、決定モジュールが、決定を行うのを助けるために、適応制約の影響を長期的に比較する。
【0066】
1つの実施形態では、適応制約を使用することによる、長期的な、発電プラントの動作への影響を補償する補償項を含めるように目的関数を修正する。補償項は、長期にわたって、適応ペナルティモジュール42によって計算される(長期は、発電プラントモデル、予想モジュール、および、需要予想のようなデータを確実に使用して、プラントの軌跡を予想できる、予測範囲、または、時間期間である)。補償項を含む修正された目的関数をチェックして、例示的なセクションにおいて以下で与えられている式17および式18中で与えられているように、適応制約値の使用が、発電プラントの動作において何らかの大きな利益をもたらしたか否かを確かめる。予測範囲内の何らかのタイムスパンにおける他の代替的な解に関しても、利益を確かめることができる。
【0067】
別の実施形態では、オプティマイザが、長期にわたって、利益に基づいて適応制約を使用して実行するような修正を続けるべきか否かを決定するために、決定モジュール40は、ユーザの介入を求めてもよく、または、設定されている有効値を使用してもよい。
【0068】
別の実施形態では、決定モジュールを使用して、新しい解、すなわち、適応制約を持つ目的関数の値を、適応制約を適用するより前に得られた値と比較して、短期的に、または、長期的に、これらの双方の影響を観察してもよい。選択は、プラントに利益のある値に基づく(補償項として表現される過度な副次的作用はなく、ここで、副次的作用は、適合された制約から結果的に生じる新しい解からの利益よりも重要でない)。
【0069】
本発明のより明確な理解のために、ここで上述した方法のいくつかの態様を示している例を以下で提示する。
【0070】
例:
図1に戻ると、電気発生器G1、G2、およびG3は、公称(標準値)45MW生産のために動作し、そして、50MW電力の最大容量を持つと考えられている。ここでは、最適化問題における、発生器の容量制約(所望の制約)に対する上限として公称容量を使用する。需要要求が高いシチュエーションでは、公称容量を上限として保つことが、「解なし」に、または、需要を満たさないための高いペナルティ持つ解につながることがある。このようなシチュエーションでは、最適解を見出すために公称値と最大値との間で上限を持つように、制約の値を適合させる。以下のセクションにおいて、制約を適合させる方法を説明する。
【0071】
現在の制約値を持つ、すなわち、45MWのような、すべての発生器に対する上限を持つコスト関数の値は、図2の最適化ソルバーモジュールから得られる。このコスト関数は、式1における支配的なコスト項と、コスト関数に寄与する支配的な変数とを見出すために、制約解析モジュール(図3)の適応制約評価モジュールにおいて使用される。支配的な変数は、主成分解析(PCA)のような統計的解析ツールを使用して識別される。例えば、すべての発生器G1、G2、およびG3が、45MWの公称容量を持つケースを考える。G1が、3つのすべてのうち最低の動作コストを持ち、G2は、G3よりもより低い動作コストを持つと仮定する。予想モデルから、電力需要が135MWよりも少ない場合、オプティマイザは、電力需要を満たすために、45MWのその公称値よりも低く、または、その公称値に等しく、すべての3つの発生器を稼動させることを選ぶだろう。しかし、電力需要が140MWである場合、電力需要を満たすために、発生器のうちのいくつかの容量を、緩和させて、その最大容量の50MWまで動作させなければならない。適応制約評価モジュールは、需要制約を満たすために、PCA技術とともに、(式8において与えられているような、減価償却コストと負荷との間の関連のような)発電プラントモデルを使用して、どの発生器の容量制約を最大値の50MWまで緩和させるべきかを決める。この解析は、例えば、式1において与えられているコスト関数中の支配的なコスト項として、コスト項CdemとCst, lifeとを識別する。また、解析は、発生器GlおよびG2の容量を、支配的な変数として識別すると考えられ、その上限容量制約値は、50MWまで緩和させるのに有利であるかもしれない。最小のコスト関数値を与える、支配的な変数に対応する新しい制約値を(統計的信頼限界も考慮して)識別するために、モンテカルロシミュレーションを使用してもよい。
【0072】
例では、発生器G1およびG2に対する、式10中の容量制約の上限を45MWと50MWとの間で変えることが、発生器の効率の低下につながることがある。最小のコスト関数値を与える、45MWと50MWとの間の最適値を決める際に、そして、発生器のEOH(等価運転時間)値を考慮する際にもシミュレーションの結果を使用してもよい。式10において与えられているような容量制約yi maxの上限は、その解析結果に基づいて変更される。適合された制約に基づく短期的コスト関数値(JST)は、式10中の適合された制約値とともに式1を使用して計算され、新しく適合された制約値を使用する結果を考慮しないかもしれず、このような目的に対する長期的影響を考慮する目的関数を使用することが望ましい。
【0073】
適応ペナルティモジュールは、長期に対して制約値を適合させるペナルティ値を計算するために、需要予想および発電プラントモデルを使用する。このペナルティ値は、式(17)によって示されているように、短期的コスト関数に対する付加的な項として使用されて、長期的コスト関数値(JLT)が計算される。考慮される例では、JLTは、式18によって与えられている。
【数15】

【0074】
ここで、Clifeは、長期的範囲にわたって、容量制約の適合された値で発生器GlおよびG2を動作させる際に、式8から計算される減価償却コストである。短期的コスト関数の適切性または長期的コスト関数の適切性は、プラントの条件(例えば、需要予想および緩和された制約の使用)に基づいており、したがって、これは、予め設定されている有効値に、または、決定モジュールによって促進されるユーザの介入に基づいて、より良く判断される。その公称値よりも高く発生器を動作させることによって、需要を満たさないことから、ペナルティを下げることからの利益が、発生器の減価償却に関係するペナルティと比較して大きい場合、新しく適合される制約値のみを、最適化の解法において使用してもよい。
【0075】
ここでは、本発明のいくつかの特徴のみを図示および記述してきたが、多くの改良および変更が、当業者に見出されるだろう。したがって、添付した特許請求の範囲は、本発明の真の精神内に含まれるようにすべてのこのような改良および変更をカバーすることを意図していることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の電力発生ユニットを持つ発電プラントに対する負荷スケジューリングを最適化する方法において、
前記方法は、
負荷スケジューリングの際に使用される目的関数に対する1つ以上の制約を適合させる必要性を示すイベントを検出することと、
前記目的関数を最適に解くために、前記目的関数を解析して前記1つ以上の制約に対する適応制約値を決定することと、
前記1つ以上の制約の前記適応制約値を使用して、前記目的関数を解くことと、
1つ以上の適合された制約値を持つ前記目的関数の解を使用して、前記発電プラントの前記1つ以上の電力発生ユニットを動作させることとを含む方法。
【請求項2】
前記目的関数を解析するステップは、
前記目的関数において支配的な項である1つ以上の操作される変数を、各優先順位とともに決定することと、
前記1つ以上の操作変数に対する前記1つ以上の適応制約値を選択することとを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上の適応制約値は、予め設定されており、予め割り当てられている関係する優先順位を持つ請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上の適応制約値は、感度解析を使用して推定される請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記操作変数は、柔軟な操作変数または厳しい操作変数のうちの少なくとも1つである請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記目的関数を解析するステップは、
前記柔軟な操作変数と前記厳しい操作変数とに基づいて、緩和および/または厳しくするための、1つ以上の適応制約を選択することと、
前記選択された1つ以上の適応制約に対する適応制約値を推定することとをさらに含む請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記目的関数を解析するステップは、前記適応制約値を適用するより前に、前記適応制約値の使用による、前記負荷スケジューリングへの、長期的影響および短期的影響を決定することを含む請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記長期的影響は、前記1つ以上の適合された制約値を持つ前記目的関数の解を使用することによる、前記発電プラントへの前記長期的影響を補償する補償項を含めるように前記目的関数を修正することによって決定される請求項7記載の方法。
【請求項9】
1つ以上の電力発生ユニットを持つ発電プラントに対する負荷スケジューリングを最適化するオプティマイザ内の制約解析モジュールにおいて、
前記制約解析モジュールは、
負荷スケジューリングの際に使用される目的関数に対する1つ以上の制約を適合させる必要性を示すイベントを検出し、
前記目的関数を最適に解くために、前記目的関数を解析して前記1つ以上の制約に対する適応制約値を決定し、
前記1つ以上の制約の前記適応制約値を使用して、前記目的関数を解くための適応制約評価モジュールを具備し、
前記オプティマイザは、前記1つ以上の適応制約値を持つ前記目的関数の解を使用して、1つ以上の電力発生ユニットを動作させるために使用されるセットポイントを発生させる制約解析モジュール。
【請求項10】
長期的負荷スケジューリングにおいて、前記1つ以上の適応制約値を使用する影響に対応する補償項を計算するための適応ペナルティモジュールと、
前記適応制約値の前記使用による、前記発電プラントへの、前記長期的影響と短期的影響とに基づいて、適応制約値を選択するための決定モジュールとをさらに具備する請求項9記載の制約解析モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−516670(P2013−516670A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546511(P2012−546511)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001103
【国際公開番号】WO2011/080547
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(594075499)アーベーベー・リサーチ・リミテッド (89)
【氏名又は名称原語表記】ABB RESEARCH LTD.
【Fターム(参考)】