説明

白血球溢出を低下させる幹細胞の使用

本発明は、一般に、白血球溢出を低下させる因子を分泌する細胞によって、炎症を低下させることに関する。具体的には、本発明は、血管内皮細胞における細胞接着分子の発現をダウンレギュレートする因子を分泌する細胞を使用する方法に関する。細胞接着分子の発現をダウンレギュレートさせると、溢出が低下するように、上記内皮細胞への白血球接着が低下する。その最終結果は、炎症の低下である。上記細胞は、多能性特徴を有する非胚性の非生殖細胞である。これらは、多能性のマーカーの発現および広い分化能を含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、白血球溢出を低下させる因子を分泌する細胞によって炎症を低下させることに関する。具体的には、本発明は、血管内皮細胞における細胞接着分子の発現をダウンレギュレートする因子を分泌する細胞を使用する方法に関する。細胞接着分子の発現をダウンレギュレートさせると、溢出が低下するように、上記内皮細胞への白血球接着が低下する。最終結果は、炎症の低下である。従って、本発明は、所望でない炎症成分と関連する病的状態(心血管疾患を含む)を処置する方法を提供する。本発明はまた、上記細胞が内皮細胞における細胞接着分子の発現をダウンレギュレートする能力を調節する因子をスクリーニングするための創薬方法に関する。本発明はまた、被験体への投与のための細胞を提供するのに使用され得る細胞バンクに関し、上記バンクは、内皮細胞における細胞接着分子の発現をダウンレギュレートし、白血球接着および溢出を低下させることに関して、所望の効力を有する細胞を含む。本発明はまた、特定の所望の効力がある細胞を含む組成物に関する。本発明はまた、投与されるべき上記細胞の所望の効力を評価するためのアッセイを含む、上記細胞を投与する前に行われる診断法に関する。本発明はさらに、処置されている被験体に対する上記細胞の効果を評価するための処置後診断アッセイに関する。本発明はまた、薬学的組成物における所望の効力がある細胞に関する。上記細胞は、多能性特徴を有する、非胚性の非生殖細胞である。これらは、多能性のマーカーの発現および広い分化能を含み得る。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
(炎症)
急性炎症のプロセスは、周辺組織への血漿タンパク質および白血球の滲出を許容するように変化する、損傷した組織に位置する血管によって開始される。上記組織への流体の増大した流れは、炎症と関連する特徴的な腫脹を引き起こす。上記血管は、顕著な血管変化(血管拡張、増大した透過性、および血流が遅くなること)を受け、これは、種々の炎症メディエーターの作用によって誘導される。血管の増大した透過性は、上記組織への血漿の移動をもたらし、血液内の上記細胞の濃度の増加に起因して、鬱血が生じる。鬱血は、上記組織への白血球の動員に重要なプロセスである、白血球が上記内皮に沿って辺縁趨向することを可能にする。正常の血流は、これを妨げる。なぜなら、上記血管の周辺に沿った剪断力が、上記血液中の細胞を上記血管の中央部へ移動させるからである。よって、上記変化は、血管を構成する上記内皮および基底膜を通過する白血球の溢出を可能にする。いったん組織中に入ると、上記細胞は、走化性勾配に沿って移動して、損傷部位に達する。上記損傷部位では、上記細胞は、刺激物を除去し、上記組織を修復しようとし得る。
【0003】
白血球が血液から上記組織へと上記血管を通過して移動することは、溢出として公知であり、幾つかの明白な工程に分けられ得る:
(1)炎症部位に位置する内皮への白血球局在化および動員−上記内皮細胞への辺縁趨向および接着を含む:白血球の動員は、レセプター媒介性である。炎症の生成物(例えば、ヒスタミン)は、内皮細胞表面のP−セレクチンの急激な発現を促進する。このレセプターは、白血球表面の炭水化物リガンドには弱く結合し、上記白血球が、その結合が作られ、壊されるにつれて、上記内皮表面に沿って「ローリング」することを可能にする。損傷した細胞からのサイトカインは、内皮細胞上にE−セレクチンの発現を誘導し、E−セレクチンは、P−セレクチンと同様に機能する。サイトカインはまた、内皮細胞上にインテグリンリガンドの発現を誘導し、このことは、白血球をさらに減速させる。これら弱く結合した白血球は、損傷組織において生じたケモカインによって活性化されなければ、自由に脱着する。活性化は、上記内皮細胞表面のリガンドに対して結合したインテグリンレセプターの親和性を増大させ、上記白血球を上記内皮へしっかり結合させる。
【0004】
(2)血管外遊出というプロセスを介した上記内皮を横切る移動(遊出として公知):ケモカイン勾配による刺激により、上記接着した白血球は内皮細胞の間を移動し、上記基底膜を通過して上記組織に入る。
【0005】
(3)走化性を介した上記組織内での白血球の移動:上記組織間質に達した白血球が、発現したインテグリンおよびCD44を介して細胞外マトリクスタンパク質に結合して、上記白血球が上記部位からなくならないようにする。化学誘引物質は、上記白血球を走化性勾配に沿って、炎症の源へと移動させる。
【0006】
白血球溢出は、循環系から組織損傷または感染の部位へ向かう、白血球の移動である。このプロセスは、先天性免疫応答のうちの一部を形成し、非特異的白血球の動員を伴う。単球もまた、それらのマクロファージへの発達の間に、感染または組織損傷の非存在下でこのプロセスを利用する。
【0007】
白血球溢出は、主に、後毛細血管細静脈において起こり、ここでは、血流力学的剪断力が最小化される。このプロセスは、以下で「化学誘引」、「ローリング接着」、「密な接着(tight adhesion)」および「(内皮)遊出」として概説されるいくつかの工程において理解され得る。白血球動員は、これら工程のうちのいずれかが抑制されるときにはいつも停止することが実証された。
【0008】
(化学誘引)
病原体の認識および病原体による活性化の際に、罹患組織に常在するマクロファージは、サイトカイン(例えば、IL−1、TNF−αおよびケモカイン)を放出する。IL−1およびTNF−αは、感染部位近傍の血管の内皮細胞が細胞接着分子(セレクチンを含む)を発現するようにさせる。循環白血球は、ケモカインの存在に起因して、損傷の部位または感染の部位に向かって局在化する(localised)。
【0009】
(ローリング接着)
ベルクロ(velcro)と同様に、循環白血球上の炭水化物リガンドは、限界に近い親和性(marginal affinity)で上記血管の内壁上のセレクチン分子に結合する。このことは、白血球を減速させ、上記血管壁の内表面に沿ったローリングを開始させる。このローリング運動の間に、セレクチンとそれらのリガンドとの間で一時的な結合が形成され、破壊される。
【0010】
(密な接着)
同時に、マクロファージから放出されたケモカインは、上記ローリングしている白血球を活性化し、表面インテグリン分子をデフォルトの低親和性状態から、高い親和性状態へと切り替えさせる。これは、内皮細胞が放出するケモカインおよび可溶性因子によるインテグリンのジャクスタクリン活性化(juxtacrine activation)を介して補助される。活性化状態において、インテグリンは、内皮細胞上で発現された相補的レセプターに、高親和性で密に結合する。このことは、続いている血流の剪断力にも拘わらず、上記白血球の固定化を引き起こす。
【0011】
(遊出)
上記白血球の細胞骨格は、上記内皮細胞の一面に上記白血球が拡がる様式で認識される。この形態において、白血球は偽足を伸ばし、内皮細胞の間の間隙を通って通過する。上記白血球の遊出は、上記白血球および内皮細胞の表面で見いだされるPECAMタンパク質が、相互作用し、上記細胞を上記内皮を通って効率的に通過させる場合におこる。上記白血球は、基底膜を分解するプロテアーゼを分泌し、このことは、上記白血球が上記血管から脱出することを可能にする(血管外遊出として公知のプロセス)。いったん間質液に入ると、白血球は、走化性勾配に沿って、損傷の部位または感染の部位に向かって移動する。
【0012】
炎症部位における好中球蓄積は、細胞接着分子(白血球上のCD18インテグリン、およびセレクチン(上記内皮上のP−セレクチンおよびE−セレクチン、ならびに上記白血球上のL−セレクチン)を含む)の特定の群によって媒介される。このことは、白血球がCD18またはセレクチン炭水化物リガンドの発現が遺伝的に欠損している、白血球接着不全症候群(例えば、白血球接着不全II型)を有する患者の研究によって裏付けられる。
【0013】
(セレクチン)
セレクチンは、組織マクロファージによる内皮細胞のサイトカイン活性化直後に発現される。活性化された内皮細胞は、最初に、P−セレクチン分子を発現するが、活性化後2時間以内に、E−セレクチン発現が優勢になる。内皮セレクチンは、白血球膜貫通糖タンパク質上の炭水化物(シアリル−Lewisを含む)と結合する。
【0014】
P−セレクチン:P−セレクチンは、活性化された内皮細胞および血小板で発現される。P−セレクチンの合成は、トロンビン、ロイコトリエンB4、補体フラグメントC5a、ヒスタミン、TNF−αまたはLPSによって誘導され得る。これらサイトカインは、内皮細胞表面に予め形成されたP−セレクチンを提示している、該内皮細胞中のヴァイベル・パラーデ小体の外在化(externalization)を誘導する。P−セレクチンは、PSGL−1をリガンドとして結合する。
【0015】
E−セレクチン:内皮白血球接着分子−1は、サイトカインで刺激した内皮細胞によって発現される。上記内皮白血球接着分子−1は、血管内層(vascular lining)への細胞の接着を媒介することによって、炎症部位での血液白血球の蓄積を担うと考えられる。内皮白血球接着分子−1は、LYAM1の構造的特徴(レクチン様ドメインおよびEGF様ドメイン、続いて、6個の保存されたシステイン残基を含む短いコンセンサス反復(SCR)ドメインの存在を含む)と相同な構造的特徴を示す。これらタンパク質は、細胞接着分子のセレクチンファミリーの一部である(非特許文献1;非特許文献2)。E−セレクチンの合成が、P−セレクチン合成の直後に続き、サイトカイン(例えば、IL−1およびTNF−α)によって誘導される。E−セレクチンは、PSGL−1およびESL−1と結合する。
【0016】
L−セレクチン:L−セレクチンは、いくつかの白血球で構成的に発現され、リガンドとしてGlyCAM−1、MadCAM−1およびCD34と結合することが公知である。
【0017】
いくつかのセレクチンの抑制された発現は、よりゆっくりとした免疫応答を生じる。L−セレクチンが生成されない場合、上記免疫応答は、P−セレクチン(これはまた、白血球によって生成され得る)が互いに結合する場合、10倍緩徐になり得る。P−セレクチンは、高親和性で互いに結合し得るが、それほど頻繁には起こらない。なぜなら、そのレセプター部位の密度は、より小さなE−セレクチン分子でより低いからである。これにより、最初の白血球ローリング速度が増大し、ゆっくりとしたローリング相が長期化する。
【0018】
(インテグリン)
細胞接着に関与するインテグリンは、主に白血球で発現される。ローリングしている白血球上のβ2インテグリンは、内皮細胞接着分子に結合し、細胞移動を停止させる。
【0019】
LFA−1は、循環白血球に見いだされ、内皮細胞上のICAM−1およびICAM−2と結合する。
【0020】
Mac−1は、循環白血球に見いだされ、内皮細胞上のICAM−1と結合する。
【0021】
VLA−4は、白血球および内皮細胞に見いだされ、走化性を促進する;これはまた、VCAM−1と結合する。
【0022】
細胞外ケモカインを介する細胞活性化は、予め形成されたβ2インテグリンを細胞貯蔵から放出させる。インテグリン分子は、細胞表面へと移動し、高アビディティ斑に集合する。細胞内インテグリンドメインは、サイトゾル因子(例えば、タリン、α−アクチニンおよびビンクリン)による媒介を介して上記白血球細胞骨格と会合する。この会合は、上記インテグリンの三次構造においてコンホメーションシフトを引き起こし、このことは、上記結合部位へのリガンド接近を可能にする。二価カチオン(例えば、Mg2+)はまた、インテグリン−リガンド結合に必要とされる。
【0023】
インテグリンリガンドであるICAM−1およびVCAM−1は、炎症性サイトカインによって活性化される一方で、ICAM−2は、いくつかの内皮細胞によって構成的に発現されるが、炎症性サイトカインによってダウンレギュレートされる。ICAM−1およびICAM−2は、2個の相同なN末端ドメインを共有し:ともに、LFA−1に結合し得る。
【0024】
走化性の間に、上記細胞外マトリクスの成分へのβ1インテグリンの:フィブロネクチンへのVLA−3、VLA−4およびVLA−5の、ならびにコラーゲンおよび他の細胞外マトリクス成分へのVLA−2およびVLA−3の結合によって、細胞移動が促進される。
【0025】
(サイトカイン)
溢出は、上記炎症性応答によって生成されるバックグラウンドサイトカイン環境によって調節され、それは特定の細胞抗原とは無関係である。最初の免疫応答において放出されるサイトカインは、血管拡張を誘導し、血管表面に沿った電気的変化を低くする。血流は遅くなり、分子間結合が促進される。
【0026】
IL−1は、常在するリンパ球および血管内皮を活性化する。
【0027】
TNF−αは、血管透過性を高め、血管内皮を活性化する。
【0028】
CXCL8(IL−8)は、白血球を組織損傷/感染部位に向けて誘導する走化性勾配を形成する(CCL2は、CXCL8に類似の機能を有し、単球溢出およびマクロファージへの発達を誘導する);また、白血球インテグリンを活性化する。
【0029】
炎症における溢出プロセスをまとめた総説記事が入手可能である。非特許文献3;非特許文献4;および非特許文献5を参照のこと。
【0030】
CD15(3−フコシル−N−アセチル−ラクトサミン)は、分化抗原(免疫学的に重要な分子である)のクラスターである。CD15は、糖タンパク質、糖脂質およびプロテオグリカンに発現され得る炭水化物接着分子(タンパク質ではない)である。
【0031】
CD15は、ファゴサイトーシスおよび走化性を媒介し、好中球上で見いだされ;ホジキン病、いくつかのB細胞慢性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、および大部分の急性非リンパ性白血病を有する患者において発現される。これはまた、Lewis xおよびSSEA−1(ステージ特異的胎児性抗原1)といわれ、マウス多能性幹細胞のマーカーを表し、ここでそれは、着床前胚における細胞の接着および移動において重要な役割を果たす。これは、FUT4(フコシルトランスフェラーゼ4)およびFUT9によって合成される。
【0032】
CD15s
上記シアリルLewis xオリゴサッカリド決定基は、白血球のE−セレクチンおよびP−セレクチン媒介性接着に関する白血球カウンターレセプターの必須の成分である。このオリゴサッカリド分子は、顆粒球、単球、およびナチュラル・キラー細胞の表面に表される。これらセレクチンへの白血球接着の形成は、最終的に、白血球が血管樹を離れ、リンパ系組織および炎症部位へと動員されることを可能にするプロセスにおいて、初期の重要なステップである。Natsukaら, J.Biol.Chem.269:16789−16794(1994)およびSasakiら, J.Biol.Chem.269:14730−14737(1994)は、上記シアリルLewis x決定基を合成し得るヒト白血球α−1,3−フコシルトランスフェラーゼ、FUT7をコードするcDNAを単離した。
【0033】
Natsukaらは、FUT7が哺乳動物細胞において発現された場合に、上記cDNAが、細胞表面シアリルLewis x部分(しかし、Lewis x決定基でも、Lewis A決定基でも、シアリルLewis a決定基でも、VIM−2決定基でもない)の合成を誘導したことを見いだした。Sasakiらは、FUT7が、E−セレクチンに結合する上記シアリルLewis x部分を合成するインビボの能力を実証し、白血球におけるFUT7の制限された発現を報告した。
【0034】
Chenら, Proc.Nat.Acad.Sci.103:16894−16899(2006)は、活性化されたT細胞(特に、Th1細胞)は、シアリルLewis xを発現するが、休止T細胞は、発現しないことを注記した。レポーター分析を使用して、彼らは、FUT7の転写をTBETが促進し、GATA3が抑制することを示した。TBETは、GATA3がその標的DNAに結合することに干渉したが、GATA3はまた、TBETがFUT7プロモーターに結合することに干渉した。GATA3は、リン酸化依存性様式で、ヒストンデアセチラーゼ−3およびHDAC5を動員することによって、ならびにTBETのN末端に結合することにおいてCBP/p300と競合することによって、FUT7転写を調節した。T細胞におけるFUT7およびシアリルLewis xの最大発現は、GATA3のROG媒介性抑制によって得られた。Chenら(2006)は、上記GATA3/TBET転写因子複合体がリンパ球ホーミングレセプターの細胞系特異的発現を調節し、複合糖質が、この複合体によって調節されて、Th1リンパ球およびTh2リンパ球サブセットにおける細胞系特異的発現を得ると結論づけた。
【0035】
セレクチンPリガンド、またはP−セレクチン糖タンパク質リガンド(PSGL1)は、骨髄性細胞および刺激したTリンパ球上のP−セレクチンに対する高親和性カウンターレセプターである。よって、それは、これら細胞を、P−セレクチンを発現する活性化された血小板または内皮細胞に繋ぐことにおいて重要な役割を果たす。
【0036】
フローサイトメトリー、イムノブロット、およびフローチャンバ分析に基づいて、Fuhlbriggeら,Nature 389:978−981(1997)は、フコシルトランスフェラーゼ−7によって媒介されるPSGL1の差次的な翻訳後修飾が、T細胞においてP−セレクチンおよびE−セレクチンの両方と結合する皮膚リンパ球関連抗原(CLA)の発現を調節するということを提案した。CLA陽性T細胞は、モノクローナル抗体HECA−452との反応性によって規定される皮膚ホーミング記憶T細胞である。CLA陽性T細胞は、多くの炎症性皮膚障害(乾癬を含む)において皮膚病変部に侵襲する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】Watsonら,J.Exp.Med.(1990)172:263〜272
【非特許文献2】Collinsら,J.Biol.Chem.(1991)266:2466〜2473
【非特許文献3】Steeber,D.およびTedder,T.、Immunologic Research,(2000)22/2−3:299〜317
【非特許文献4】Steeberら,FSAEB J,(1995)9:866〜873
【非特許文献5】Wagner,D.およびFrenette,P.,Blood,(2008)111:5271〜5281
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0038】
(発明の要旨)
本発明は、概して、炎症を低下させる方法に関する。
【0039】
本発明は、より具体的には、白血球(好中球、リンパ球、および単球)の溢出を低下させる方法に関する。
【0040】
本発明は、より具体的には、循環系から周辺組織への白血球浸潤を低下させる方法に関する。
【0041】
本発明はまた、血管への白血球の接着を低下させる方法に関する。
【0042】
本発明はまた、血管内皮への白血球接着を低下させる方法に関する。
【0043】
本発明はまた、血管壁における内皮細胞への白血球接着を低下させる方法に関する。
【0044】
本発明はまた、内皮細胞における接着分子の発現をダウンレギュレートする方法に関する。
【0045】
本発明はまた、内皮細胞活性化を低下させる方法に関する。
【0046】
本発明はまた、血管内皮における内皮細胞活性化を低下させる方法に関する。
【0047】
内皮細胞活性化は、炎症性サイトカインへの曝露から生じ得る。サイトカインとしては、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1(IL−1)、アンフィレグリン、LPSおよび他のToll様レセプターリガンド(病的(pathogenic)ペプチド(例えば、fMLP)、損傷組織に由来するペプチド(例えば、フィブロネクチンフラグメント))、トロンビン、ヒスタミン、酸素ラジカル、およびIFN−γが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の状況において、活性化は、血管内皮細胞における細胞接着分子のアップレギュレーションを含む。
【0048】
本発明はまた、血管壁における内皮細胞が白血球上の接着リガンドまたは接着部分に結合する能力を低下させる方法に関する。これらリガンドまたは部分としては、PSGL−1、ESL−1、CD15s、α4−インテグリン、CD44、β2−インテグリン、L−セレクチン、CD99、およびJAMが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
白血球としては、好中球、単球、およびリンパ球が挙げられるが、これらに限定されない。リンパ球は、B細胞およびT細胞を含む。T細胞は、CD4細胞、CD8細胞、γδT細胞、およびナチュラル・キラー細胞を含む。
【0050】
内皮細胞に発現され、ダウンレギュレーションを受けやすい細胞接着分子としては、E−セレクチン、VCAM、ICAM(1,2)、P−セレクチン、CD99、PECAM−1、JAM、ESAM、およびオステオポンチン(VCAMの共レセプター)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
一実施形態において、I−CAMおよびP−セレクチンは、外傷性脳損傷を有する被験体における内皮細胞上でアップレギュレートされる。
【0052】
本発明は、細胞接着分子発現を低下させることに関する。発現は、細胞内および細胞外の両方であり得、例えば、内皮細胞表面上であり得る。よって、発現は、内皮細胞が培養された状態である場合に、これら分子が細胞培養培地へ分泌されるのが低下するように、低下させられ得る。細胞外発現および細胞表面発現は、タンパク質レベルでの発現を低下させることを含む。細胞内発現は、細胞内での転写および翻訳の両方を低下させることを含む。
【0053】
本発明によれば、上記効果(すなわち、炎症、溢出、内皮細胞への白血球接着、接着分子の発現など)のうちの全ての低下は、白血球および/または内皮細胞を、胚性幹細胞(しかし非胚性組織に由来する)の多能性特徴のうちのいくつかを有する非胚性の非生殖細胞に曝すことによって、達成される。
【0054】
本発明によれば、上記効果のうちの全ては、細胞または上記細胞によって馴化培地を投与することによって達成され得る。細胞としては、胚性幹細胞の特徴を有するが、非胚性組織に由来する非胚性の非生殖細胞が挙げられるが、これらに限定されない。このような細胞は、多能性であり得、多能性マーカーを発現し得る(例えば、oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1、sox−2、nanog、SSEA−1およびSSEA−4のうちの1種以上)。多能性の他の特徴は、1種より多くの胚葉(例えば、外胚葉、内胚葉、および中胚葉の胚性胚葉のうちの2つまたは3つ)の細胞型へ分化する能力を含み得る。このような細胞は、培養において不死化されていてもよいし、形質転換されていてもよいし、そうでなくてもよい。このような細胞は、形質転換されることなく高度に拡大されていてもよいし、通常の核型を維持していてもよい。例えば、一実施形態において、上記非胚性の非生殖細胞は、上記細胞が形質転換されておらず、通常の核型を有する場合、少なくとも10〜40回の細胞倍加(例えば、30回、40回、50回、60回、またはこれを超える)を経験し得る。上記細胞は、30回を超える集団倍加(細胞倍加)(例えば、35回、40回、45回、50回、またはこれを超える)を達成し得るように、テロメラーゼ活性を発現し得る。しかし、上記のように、上記細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1、sox−2、nanog、SSEA1、またはSSEA4のうちの1種以上をさらに発現し得る。このような細胞は、内胚葉、外胚葉、および中胚葉の胚系列のうちの2種の各々の少なくとも1種の細胞型へと分化し得、そして3種全てへの分化を含み得る。さらに、それらは、腫瘍形成性であってもよいし、そうでなくてもよい(例えば、奇形腫を生じない)。細胞が形質転換されているかまたは腫瘍形成性であり、そしてその細胞を融合するために使用することが望まれる場合、このような細胞は、腫瘍への細胞増殖を防ぐ処置によるなどして、インビボで腫瘍を形成できないように無能にされ得る。このような処置は、当該分野で周知である。このような細胞は、本明細書に記載される効果を自然に達成し得る(すなわち、これを行うために遺伝子改変も薬学的改変もされない)。しかし、天然の発現因子(expressor)は、効力を増大させるように遺伝子改変または薬学的改変され得る。
【0055】
上記効果を達成するためのこれら細胞の特性に鑑みると、上記細胞は、上記効果のうちのいずれかを達成する細胞の能力を調節する薬剤をスクリーニングする、創薬法において使用され得る。このような薬剤としては、低有機分子、アンチセンス核酸、siRNA DNAアプタマー、ペプチド、抗体、非抗体タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、および化学誘引物質が挙げられるが、これらに限定されない。次いで、上記薬剤は、上記細胞の効力を増大させて、上記効果のうちのいずれかを達成するために使用され得る。
【0056】
例として、このアッセイは、TNF−α、IFN−γ、またはIL−1β、またはこれらの組み合わせによる上記細胞の予備処理を特定して、上記内皮細胞分子のアップレギュレーションを阻害するか、またはこれら分子の発現をダウンレギュレートする細胞を産生するために使用されてきた。いくつかの細胞は、上記接着分子の発現をダウンレギュレートする(またはアップレギュレーションを阻害する)因子を産生するために、活性化された内皮細胞とともに培養されなければならない。よって、未処理の細胞(活性化された内皮細胞に曝されていない)は、所望の薬剤に曝され得、次いで、内皮細胞活性化、接着部分の発現、または上記効果のうちのいずれかに対するそれらの効果をアッセイされる。
【0057】
本願において記載される効果は、上記細胞から分泌される因子によって引き起こされ得るので、上記細胞のみならず、上記細胞を培養することから生じた馴化培地もまた、上記効果を達成するために有用である。このような培地は、上記分泌された因子を含み、従って、上記細胞の代わりに使用され得るか、または上記細胞に添加され得る。よって、細胞が使用される場合、培地もまた、有効であり、置換されるかまたは添加され得ることは、理解されるべきである。
【0058】
上記効果を達成するためのこれら細胞の特性に鑑みると、細胞バンクは、上記効果を達成するための所望の効力を有することについて選択される細胞を含むように樹立され得る。よって、本発明は、上記効果のうちのいずれかを達成する能力についてそのような細胞をアッセイし、所望の効力を有する細胞を選択してバンクにすることを包含する。上記バンクは、上記被験体に投与する薬学的組成物を作製するための供給源を提供する。細胞は、上記バンクから直接使用されてもよいし、使用前に拡大されてもよい。
【0059】
よって、本発明はまた、これら細胞を被験体に投与する前に行われる診断手順に関し、上記予備診断手順は、上記効果のうちの1つ以上を達成する上記細胞の効力を評価する工程を包含する。上記細胞は、細胞バンクから得てもよく、直接使用されてもよいし、投与前に拡大されてもよい。いずれの場合においても、上記細胞は、所望の効力について評価される。あるいは、上記細胞は、上記被験体に由来し得、投与前に拡大され得る。この場合、同様に、上記細胞は、投与前に所望の効力について評価される。
【0060】
効力について選択された上記細胞は、選択手順の間に必ずアッセイするが、所望のレベルにおいて上記細胞がなお有効であることを確実にするために、処置のために被験体に投与する前に上記細胞を再びアッセイすることが好ましく、賢明であり得る。貯蔵の間に細胞がたいていは凍結される細胞バンクなどで、任意の期間にわたって上記細胞が貯蔵されていることが特に好ましい。
【0061】
上記細胞での処置の方法に関して、上記細胞の最初の単離と被験体への投与との間では、調節のための複数の(すなわち、逐次的な)アッセイが存在し得る。これは、上記細胞が、この時間枠内で起こる操作後に、所望のレベルで上記効果をなお達成し得ることを確実にするためである。例えば、上記細胞の各拡大後に、アッセイが行われ得る。細胞が細胞バンクで貯蔵される場合、それらは、貯蔵から解放された後にアッセイされ得る。細胞が凍結されている場合、それらは、融解後にアッセイされ得る。細胞バンクからの上記細胞が拡大される場合、それらは、拡大後にアッセイされ得る。好ましくは、最終細胞産生物の一部(すなわち、上記被験体に物理的に投与されるもの)が、アッセイされ得る。
【0062】
本発明はまた、上記効果のうちの1つ以上を達成する、このような細胞の効力を評価することによって、上記細胞の投与量を確立する方法に関する。
【0063】
本発明はさらに、効能を評価するために、上記細胞を投与した後の処置後診断アッセイを含む。上記診断アッセイとしては、被験体からの、アッセイに敏感に反応する本明細書に記載される効果のうちのいずれかが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明はまた、所望の効力を有する細胞の集団を含む組成物に関する。このような集団は、被験体への投与におよび/または細胞が被験体への投与に直接使用され得るかまたは投与前に拡大され得る細胞バンクに適切な薬学的組成物として見いだされ得る。
【0065】
本発明の方法および組成物は、炎症を伴う任意の疾患を処置するために有用である。ここでその炎症の構成要素は、細胞接着分子による血管内皮細胞への白血球接着を伴う。これは、心血管における急性および慢性の状態(例えば、急性心筋梗塞);中枢神経系傷害における急性および慢性の状態(例えば、脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷);末梢血管疾患における急性および慢性の状態;肺における急性および慢性の状態(例えば、喘息、ARDS);自己免疫における急性および慢性の状態(例えば、関節リウマチ、多発性硬化症、狼瘡、強皮症);乾癬における急性および慢性の状態;胃腸における急性および慢性の状態(例えば、移植片対宿主病、クローン病)を含む。
【0066】
しかし、上記状態のうちのいずれかの処置のために、このような細胞;すなわち、本明細書に記載される効果のうちの1つ以上について評価され、上記状態の処置のための投与の前に、効果の所望のレベルについて選択された細胞を使用することは得策であり得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、MultiStemが、ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)においてTNF−αによってE−セレクチン、V−CAMおよびI−CAMのアップレギュレーションを調節することを示す。(A)細胞をコンフルエント近くにまで増殖した後、内皮細胞を、単独で、またはMultiStemと共培養した状態で、TNF−αで72時間にわたって活性化した。次いで、細胞を、E−セレクチン、V−CAMまたはI−CAMの発現について、フローサイトメトリーまたはPCRによって分析した。(B〜E)TNF−α誘導性内皮細胞接着分子表面発現が、細胞用量依存性様式でMultiStemの存在下で低下する。HAECは、MultiStemとともに、TNF−α(10ng/ml)の存在下で72時間にわたって共培養した場合に、E−セレクチン発現(B,C)、V−CAM発現(D)およびI−CAM発現(E)の低下した細胞表面アップレギュレーションを示す。E−セレクチンおよびV−CAMを発現する細胞の数を、TNF−αでこれらマーカーを発現するように誘導した総細胞数のパーセンテージとして決定し、表した。I−CAMについては、全ての細胞が、活性化する前にすら、いくらかのレベルの発現を有した。従って、細胞あたりのシグナルの強度を計算し、そのデータを、上記TNF−α誘導性シグナルのパーセンテージとして表す。
【図2】図2は、MultiStemは、ヒト肺内皮細胞(HPMEC)における細胞表面接着分子のアップレギュレーションまたはIL−1βによる細胞表面接着分子のアップレギュレーションを阻害することを示す。(A)HPMECは、HAECと同様に、MultiStemとともに、TNF−α(10ng/ml)の存在下で72時間にわたって共培養した場合に、E−セレクチン発現、V−CAM発現、およびI−CAM発現の低下した細胞表面アップレギュレーションを示す。細胞表面発現を、FACSによって測定した。(B)別の炎症性サイトカインであるIL−1βによる細胞表面マーカーの誘導がまた、MultiStemとの共培養によってHAECにおいて低下した。
【図3】図3は、MultiStemが、転写レベルにおいて細胞接着分子のアップレギュレーションを調節することを示す。(A)可溶性E−セレクチン(sE−セレクチン)のレベルを、MultiStemおよび内皮細胞(HAECまたはHPMEC)の共培養に由来する培地において、ELISAによって測定した。(B)mRNAを、異なるMultiStemの細胞用量とともに、TNF−αの非存在下または存在下での72時間の共培養後に、HAECから単離した。定量的RT−PCRを、E−セレクチン、V−CAM、I−CAMおよびGAPDHについて行った。MultiStemは、未処理コントロール細胞と比較して、TNF−α誘導性のE−セレクチン、V−CAMおよびI−CAMのmRNA発現を低下させた。
【図4】図4は、MultiStemとは異なり、MSCが、TNF−αでの活性化に際して、内皮細胞における接着分子の細胞表面発現を阻害しないことを示す。(A−C)TNF−α誘導性内皮細胞接着分子表面発現は、MSCの存在下で変化しないのに対して、MultiStemとの共培養は、接着分子発現を低下させる。HAECは、MSCとともに、TNF−α(10ng/ml)の存在下で72時間にわたって共培養した場合、E−セレクチン発現、V−CAM発現およびI−CAM発現の細胞表面アップレギュレーションにおいて変化を示さない。
【図5】図5は、TNF−αおよびMultiStemの存在下で共培養した内皮細胞への好中球接着が、TNF−α単独とインキュベートした内皮細胞への結合と比較して低下していることを示す。(A)単独またはMultiStemとの72時間のインキュベーションの後、活性化したおよび不活性化した内皮細胞を、活性化好中球と1分間にわたってインキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、写真撮影した。結合した好中球の数を、3連で各状態を写真撮影し、各高倍率(10×)で、結合した好中球の数を計数することによって、決定した。(B)MultiStem共培養した内皮細胞に結合した好中球の数は、コントロール内皮細胞と比較して、有意に低下した。(C)MultiStem共培養内皮細胞への低下した好中球結合を図示する代表的な写真。
【図6】図6は、好中球浸潤が、AMIの3日後にビヒクル処置した心臓と比較して、MultiStem処置した心臓において有意に低下していることを示す。(A)急性心筋梗塞を、永久的なLAD結紮によって誘導した。全てのラットはAMIを受け、続いて、ビヒクルコントロール(PBS)またはラットMultiStem(1000万個の細胞)のいずれかを直接注射した。好中球浸潤を、処置動物および未処置動物に由来する心臓切片においてエラスターゼ染色を示す細胞によって測定した。表1は、各動物に由来するエラスターゼ陽性細胞の平均数を示す(4個の切片を、1動物あたり試験した)。(B)好中球浸潤を、エラスターゼ染色によって測定した。上記コントロール群は、手術の3日後に、MultiStem処置動物(12.185PMN/hpf)と比較して、有意により高いレベル(35.25PMS/hpf)のエラスターゼ染色を有した(p=0.005823)。(C)MultiStem処置動物および未処置動物における好中球レベルの代表図(エラスターゼ染色によって測定の場合)。
【図7】図7は、炎症の間に白血球動員を媒介する複数の逐次的ステップを示す。白血球は捕捉され、P−セレクチンおよびE−セレクチン、ならびにそれらのリガンドであるP−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)およびE−セレクチンリガンド−1(ESL−1)上をローリングし始める。いくらかの白血球(例えば、リンパ球または造血幹細胞および前駆細胞)はまた、α4インテグリンおよびその内皮レセプターである血管細胞接着分子−1(VCAM−1)上をローリングする。L−セレクチンは、リンパ系組織におけるHEVに対するリンパ球ローリングに重要である。炎症が進行するにつれて、白血球ローリング速度は低下し、このことは、セレクチンリガンドおよびGタンパク質共役レセプター(GPCR)からの活性化シグナルの組込みを可能にする。これら活性化シグナルは、ゆっくりとローリングする白血球の分極(polarization)ならびに白血球−白血球相互作用を介した二次的つなぎとめを通じて白血球動員をさらに可能にする大きな極へのL−セレクチンおよびPSGL−1のクラスター化をもたらす。白血球活性化は、インテグリンの親和性およびアビディティを増強し、内皮細胞上で発現される細胞間接着分子−1(ICAM−1)に対するしっかりとした接着をもたらす。接着性白血球は、微小血管系を調べ、遊出が考えられる部位を探すために、連続して側方へ移動する。白血球は、接合部接着分子(junctional adhesion molecule)(JAM)、CD99および血小板/内皮−細胞接着分子−1(PECAM−1)、内皮細胞選択的接着分子(ESAM)間での相互作用を介した接合部(傍細胞)経路を通じて、または代わりに上記内皮細胞(経細胞経路)を通じて、伝統的に遊出し得る。
【発明を実施するための形態】
【0068】
(発明の詳細な説明)
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、および試薬などに限定されず、よって変動し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語法は、特定の実施形態のみを記載する目的のものであり、開示される発明の範囲(これは、特許請求の範囲によってのみ規定される)を限定することは意図しない。
【0069】
上記節の標題は、本明細書において構成上の目的のみで使用され、記載される主題を限定する様式とは如何様にも解釈されない。
【0070】
本願の方法および技術は、別段示されなければ、当該分野で周知の従来の方法、および本明細書全体を通じて引用されかつ考察される種々の一般的およびより具体的な参考文献に記載されるような従来の方法に従って一般に行われる。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)およびAusubelら,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)、ならびにHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)を参照のこと。
【0071】
(定義)
「1つの、ある(a)」または「1つの、ある(an)」とは、本明細書において1つのまたは1つより多いこと;少なくとも1つを意味する。複数形が本明細書において使用される場合、それは、一般に、単数形を含む。
【0072】
本明細書で使用される場合、用語「接着する(adhere(s))、接着(adherence)、接着(adhesion)」などは、インビボの場合、溢出を生じるに十分な白血球および内皮細胞の会合に言及する。本発明の状況内で、本発明の試薬によって低下または妨げられる接着は、このような十分な状態とともに起こるものである。インビトロ適用において、接着の程度(アビディティ)は、必ずしもそのレベルにあるわけではない。例えば、創薬の状況において、より低い次数のアビディティを有する接着(結合)を検出することは、望ましい場合がある。
【0073】
「細胞バンク」は、将来使用するために、増殖させられ、貯蔵された細胞の産業的名称である。細胞は、アリコートに分けて貯蔵され得る。細胞は、貯蔵から外れて直接使用され得るか、または貯蔵後に拡大され得る。これは、投与のために利用可能な細胞の「在庫がある」ので便利である。上記細胞は、直接投与してよいか、またはそれが貯蔵から解放された場合に適切な賦形剤と混合され得るように、薬学的に受容可能な賦形剤中で既に貯蔵されていてもよい。細胞は、凍結されてもよいし、生存能を保護する形態で、別の方法で貯蔵されてもよい。本発明の一実施形態において、細胞バンクが作られ、ここで上記細胞は、上記効果(例えば、1種以上の接着分子の発現を低下させる)のうちの1種以上を達成するために増強された効力について選択されている。貯蔵から解放された後および上記被験体への投与の前に、上記細胞を効力について再びアッセイされることは好ましいことであり得る。このことは、本願において記載されるか、別の方法で当該分野で公知の上記アッセイのうちのいずれかを使用して直接的または間接的に行われ得る。次いで、所望の効力を有する細胞は、処置のために、上記被験体に投与され得る。
【0074】
「同時投与する」とは、互いをともに、一緒に、共調して(2種以上の薬剤の同時または逐次的な投与を含む)投与することを意味する。
【0075】
「含んでいる、含む(comprising)」とは、他の限定なく、必然的に、他の何が含まれ得るかに関するいかなる制限も除外もなしに、指示対象を含むことを意味する。例えば、「xおよびyを含む組成物」とは、たとえどのような他の成分が上記組成物中に存在する可能性があろうが、xおよびyを含む任意の組成物を包含する。同様に、xが上記方法において唯一の工程であるか、工程のうちの1つに過ぎないかに関わらず、たとえどのくらい多くの他の工程があろうが、工程の比較においてどの程度xが単純であろうが複雑であろうが、「工程xを包含する方法」は、xが実施される任意の方法を包含する。語根「含む(Comprise)」の語を使用する、「〜から構成される(Comprised of)」および類似の語句は、「含んでいる、含む(comprising)」の類義語として本明細書で使用され、同じ意味を有する。
【0076】
「〜から構成される」は、含んでいる、含むの類義語である(上記を参照のこと)。
【0077】
「馴化(された)細胞培養培地」とは、当該分野で周知の用語であり、細胞が増殖した培地をいう。本明細書において、これは、上記細胞が、本願において記載される結果(細胞接着分子の発現を低下させる;内皮細胞への白血球の接着を低下させる;溢出を低下させるなどが挙げられる)のうちのいずれかを達成するのに有効である因子を分泌するのに十分な時間にわたって増殖されることを意味する。
【0078】
馴化細胞培養培地とは、上記培地へと因子を分泌するように細胞が培養された培地に言及する。本発明の目的のために、細胞は、このような因子の有効量を生じるように、十分な回数の細胞分裂を介して増殖され得、その結果、上記培地が、白血球の接着を低下させ、従って溢出を低下させるなどをするように、細胞接着分子の発現を低下させる。細胞は、当該分野で公知の方法のうちのいずれか(遠心分離、濾過、免疫除去(例えば、タグ化抗体および磁性カラムを介して)およびFACSソーティングが挙げられるが、これらに限定されない)によって上記培地から除去される。
【0079】
「減少する」または「低下する」とは、上記効果を低下させるか、または上記効果を完全に妨げる(例えば、白血球溢出、接着、接着部分の発現、もしくは本明細書に記載される効果のうちのいずれかを低下させる)ことを意味する。
【0080】
「EC細胞」は、奇形癌といわれる癌のタイプの分析から発見された。1964年に、研究者らは、奇形癌における単一の細胞が単離でき、培養状態で未分化のままであることを注記した。このタイプの幹細胞は、胚性癌細胞(EC細胞)として公知になった。
【0081】
「有効(な)量」とは、一般に、望ましい局所効果または全身効果(例えば、溢出をもたらす接着に影響を及ぼすことによって、望ましくない炎症効果を改善するのに有効である)を提供する量を意味する。例えば、有効量は、有益なまたは望ましい臨床結果を実現するために十分な量である。上記有効量は、1回の投与において一度に全て、または数回の投与において上記有効量を提供する分割量において、提供され得る。有効量とみなされるものの正確な決定は、各被験体に関する因子の個々(被験体の大きさ、年齢、傷害、および/または処置している疾患または傷害、ならびに上記傷害が生じるかまたは上記疾患が始まって以来の時間の量が挙げられる)に基づき得る。当業者は、当該分野で慣用的であるこれら考慮事項に基づいて、所定の被験体について有効な量を決定し得る。本明細書で使用される場合、「有効用量」は、「有効量」と同じことを意味する。
【0082】
「有効な経路」とは、一般に、所望の区画、系、または位置への薬剤の送達を提供する経路を意味する。例えば、有効な経路は、有益なまたは望ましい臨床結果を実現するに十分な上記薬剤の量を、望ましい作用部位に提供するために薬剤がそれを介して投与され得る経路である。
【0083】
「胚性幹細胞(ESC)」は、当該分野で周知であり、多くの異なる哺乳動物種から調製されてきた。胚性幹細胞は、胚盤胞として公知の初期段階の胚の内部細胞塊から得られる幹細胞である。それらは、3つの主な胚葉:外胚葉、内胚葉、および中胚葉の全ての誘導体へと分化し得る。これらは、成人の身体における220より多くの細胞型の各々を含む。上記ES細胞は、胎盤を除いて、上記身体における任意の組織になり得る。桑実胚の細胞のみが、全能であり、全ての組織および胎盤になり得る。ESCに類似のいくつかの細胞は、除核した受精卵へと体細胞の核を核移入することによって.産生され得る。
【0084】
「溢出」とは、その容器から流体が漏れ出ることに言及する。炎症の場合、溢出は、毛細管からその周辺組織への白血球の移動に言及する。これはまた、「発明の背景」において考察されている。
【0085】
用語「含む、包含する(includes)」の使用は、限定することを意図しない。
【0086】
「増大する、増加する(increase)」または「増大、増加(increasing)」は、既存の効果(例えば、白血球溢出、接着、接着部分の発現、または本明細書に記載される効果のうちのいずれか)がない場合に全体的に誘導すること、または上記効果の程度を増大させることを意味する。
【0087】
「人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells)(IPSCまたはIPS細胞))」とは、例えば、分化度の低い表現型を体細胞に対して付与する外因性遺伝子を導入することによって、再プログラムされた体細胞である。次いで、これら細胞は、分化度の低い子孫へと分化するように誘導され得る。IPS細胞は、2006に最初に発見されたアプローチ(Yamanaka,S.ら,Cell Stem Cell,1:39−49(2007))の改変を使用して得た。例えば、一例において、IPS細胞を作るために、科学者は、皮膚細胞で開始し、これを、次いで、細胞DNAへと遺伝子を挿入するためにレトロウイルを使用する標準的実験技術によって改変した。一例において、上記挿入した遺伝子は、Oct4、Sox2、Lif4、およびc−myc(胚性幹細胞様状態に細胞を維持する天然の調節因子として一緒に作用することが公知である)であった。これら細胞は、文献に記載されてきた。例えば、Wernigら,PNAS,105:5856−5861(2008);Jaenischら,Cell,132:567−582(2008);Hannaら,Cell,133:250−264(2008);およびBrambrinkら,Cell Stem Cell,2:151−159(2008)を参照のこと。これら参考文献は、IPSCおよびこれらを産生する方法を教示するために参考として援用される。このような細胞が、特定の培養条件(特定の薬剤への曝露)によって作られ得ることもまた、考えられる。
【0088】
用語「単離された」とは、インビボでは細胞(単数または複数)と会合している1個以上の細胞または1種以上の細胞成分と会合していない上記細胞(単数または複数)に言及する。「富化された集団」とは、インビボでまたは初代培養において、1種以上の他の細胞型と比較して、所望の細胞の数の相対的増加を意味する。
【0089】
しかし、本明細書で使用される場合、用語「単離された」とは、幹細胞のみの存在を示すのではない。むしろ、用語「単離された」とは、上記細胞が、それらの天然の組織環境から取り出され、上記通常の組織環境と比較した場合に、より高濃度で存在することを示す。よって、「単離された」細胞集団は、幹細胞に加えて複数の細胞型をさらに含んでいてもよく、さらなる組織成分を含んでいてもよい。これはまた、例えば、細胞倍加の観点で表され得る。細胞は、インビボでまたはその本来の組織環境(例えば、骨髄、末梢血、脂肪組織など)でのその本来の数と比較して富化されているように、インビトロまたはエキソビボで、10回、20回、30回、40回またはそれより多くの倍加を受ける場合がある。
【0090】
「MAPC」とは、「多能性成体前駆細胞」の頭字語である。本願において、上記用語は、細胞型、すなわち、胚性幹細胞の特徴を有する非胚性幹細胞を示すために使用される。MAPCは、分化の際に、1種より多くの胚葉(例えば、2種の胚葉または3種全ての胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉)の細胞系列を生じ得る。MAPCは、テロメラーゼ、Oct 3/4(すなわち、Oct 3A)、rex−1、rox−1およびsox−2、ならびにSSEA−4のうちの1種以上を発現し得る。MAPCにおける用語「成体」とは、非限定的である。それは、非胚性体細胞に言及する。MAPCは、核型としては正常であり、インビボで奇形腫を形成しない。この頭字語は、骨髄から単離された多能性細胞を記載するために、PCT/US2000/21387において最初に使用された。しかし、これら細胞が骨髄から単離された後に、多能性マーカーおよび/または分化能を有する他の細胞が発見され、本発明の目的のために、本明細書に記載される効果に関しては、「MAPC」と最初に示したそれらの細胞と機能的に等価であり得る。
【0091】
用語「MultiStem(登録商標)」は、高度に拡大可能であり、核型としては正常であり、インビボで奇形腫を形成しない、非胚性の非生殖細胞の商品名である。これは、1種より多くの胚葉の細胞系列へと分化し得る。上記細胞は、テロメラーゼ、oct3/4、rex−1、rox−1、sox−2、およびSSEA4のうちの1種以上を発現し得る。MultiStem(登録商標)は、本願において開示される細胞培養法(特に、低酸素および高血清)に従って調製される。
【0092】
「薬学的に受容可能なキャリア」とは、本発明において使用される細胞のための任意の薬学的に受容可能な媒体である。このような媒体は、等張性、細胞代謝、pHなどを維持し得る。上記媒体は、インビボでの被験体への投与と適合性であり、従って、細胞送達および処置のために使用され得る。
【0093】
用語「効力」とは、上記細胞(または上記細胞に由来する馴化培地)が本願において記載される種々の効果を達成する能力に言及する。よって、効力とは、種々のレベルでの上記効果((1)炎症を低下させること;(2)白血球浸潤(好中球、リンパ球、または単球)を低下させること;(3)接着(例えば、白血球(CD4およびCD8リンパ球が挙げられるが、これらに限定されない)上のシアル酸の付いたLewis抗原xへのセレクチンの接着)を低下させること;ならびに(4)内皮細胞上の細胞接着分子(ICAM、VCAM、E−セレクチン、およびP−セレクチンが挙げられるが、これらに限定されない)の発現を低下させることが挙げられるが、これらに限定されない)に言及する。
【0094】
「原始胚性生殖細胞(Primordial embryonic germ cell)」(PG細胞またはEG細胞)は、多くの分化度の低い細胞型を産生するために培養および刺激され得る。
【0095】
「前駆細胞」は、それらの最終まで分化した子孫の特徴をうちの一部(しかし全てではない)を有する、幹細胞の分化の間に産生される細胞である。規定される前駆細胞(例えば、「心臓前駆細胞」)は、ある系列になることが約束されているが、特定のまたは最終まで分化した細胞型になることが約束されているわけではない。用語「前駆体」とは、頭字語「MAPC」において使用される場合、これら細胞を特定の系列に限定しない。前駆細胞は、上記前駆細胞より高度に分化している子孫細胞を形成し得る。
【0096】
用語「低下する」とは、本明細書で使用される場合、妨げる、ならびに減少させることを意味する。処置の状況において、「低下させる」ことは、1種以上の臨床的症状を妨げることまたは改善することの両方についてである。臨床的症状は、処置されないままであれば、上記被験体の生活の質(健康)に対して負の影響を有するまたは将来有する症状(またはそれより多くの症状)である。これはまた、上記生物学的効果(例えば、溢出を低下させること、内皮細胞上の接着分子をダウンレギュレートすること、内皮細胞への白血球の接着を低下させること、周辺組織への白血球浸潤を低下させること、白血球の結合を低下させることなど)に当てはまり、その最終結果は、炎症の有害な作用を改善する。
【0097】
所望のレベルの効力(例えば、1種以上の接着分子の発現を低下させることについて)を有する細胞を「選択」することは、細胞を(アッセイによってのように)同定すること、単離すること、および拡大することを意味し得る。これは、上記細胞が親細胞集団から単離されたその親細胞集団より高い効力を有する集団を作り得る。
【0098】
細胞を選択することは、所望の効果があるか否かを決定するためのアッセイを含み、かつその細胞を得ることもまた含む。上記細胞は、上記細胞がその効果を誘導する薬剤とともにインキュベートもされず、その薬剤に曝されもしない点で、その効果を天然に有し得る。上記細胞は、上記アッセイを行う前に、上記効果を有することが公知でなくてもよい。上記効果は、遺伝子発現および/または分泌に依存し得るので、上記効果を引き起こす遺伝子のうちの1つ以上に基づいても選択され得る。
【0099】
選択は、組織中の細胞からであり得る。例えば、この場合、細胞は、所望の組織から単離され、培養において拡大され、所望の効果について選択され、選択された細胞は、さらに拡大される。
【0100】
選択はまた、エキソビボ(例えば、培養細胞)の細胞からであり得る。この場合、上記培養細胞のうちの1つ以上が、上記効果についてアッセイされ、得られた上記効果を有する細胞がさらに拡大され得る。
【0101】
細胞はまた、増強した効果について選択され得る。この場合、上記増強した細胞が得られる上記細胞集団は、既に上記効果を有している。増強した効果は、親集団におけるよりも1細胞あたりの上記効果の平均量がより高いことを意味する。
【0102】
上記増強した細胞が親集団から選択されるその親集団は、実質的に均質(同じ細胞型)であり得る。この集団から増強した細胞などを得るための1方法は、単一の細胞または細胞プールを作り、これら細胞または細胞プールを上記効果についてアッセイして、上記効果を天然に有するクローンを得(上記細胞を、上記効果の調節因子で処理することとは対照的に)、次いで、天然に増強したそれら細胞を拡大することである。
【0103】
しかし、細胞は、内因性細胞経路の効果を増強する1種以上の薬剤で処理され得る。従って、実質的に均質な集団が、調節を増強するために処理され得る。
【0104】
上記集団が実質的に均質でなければ、処理されるべき上記親細胞集団が、上記有効な細胞型の少なくとも100個(ここで増強した効果が求められる)を含むことが好ましく、より好ましくは、上記細胞の少なくとも1,000個、およびさらにより好ましくは、上記細胞の少なくとも10,000個を含むことが好ましい。処理後に、この亜集団は、公知の細胞選択技術によって異質な集団から回収され得、所望であれば、さらに拡大され得る。
【0105】
従って、上記効果の所望のレベルは、所定の先行集団におけるレベルより高いレベルであり得る。例えば、組織から初代培養へと置かれ、上記効果を有することが具体的に設計されていない培養条件によって単離された細胞は、親集団を提供し得る。このような親集団は、1細胞あたりの平均的効果を増強するように処理され得るか、またはより高い効果を発現する上記集団内の細胞(単数または複数)についてスクリーニングされ得る。次いで、このような細胞は、より高い(所望の)効果を有する集団を提供するために拡大され得る。
【0106】
「自己再生」とは、複製娘幹細胞が娘幹細胞から生じたその娘幹細胞と同一の分化能を有する複製娘幹細胞を産生する能力に言及する。この状況において使用される類似の用語は、「増殖(proliferation)」である。
【0107】
「幹細胞」とは、自己再生を経験し得(すなわち、同じ分化能を有する子孫)、そしてまた分化能がより制限された子孫細胞を生じ得る細胞を意味する。本発明の状況においては、幹細胞はまた、より分化した細胞を包含し、上記細胞は、例えば、核移入によって、より初期の幹細胞との融合によって、特定の転写因子の導入によって、または特定の条件下での培養によって、脱分化している。例えば、Wilmutら,Nature,385:810−813(1997);Yingら,Nature,416:545−548(2002);Guanら,Nature,440:1199−1203(2006);Takahashiら,Cell,126:663−676(2006);Okitaら,Nature,448:313−317(2007);およびTakahashiら,Cell,131:861−872(2007)を参照のこと。
【0108】
分化はまた、特定の化合物の投与、または脱分化を引き起こすインビトロまたはインビボでの物理的環境への曝露によって、引き起こされ得る。幹細胞はまた、異常な組織(例えば、奇形癌およびいくつかの他の供給源(例えば、胚様体(これらは、胚性組織から得られるという点で胚性幹細胞と考えることができるが、内部細胞塊から直接得られるのではない))から得られ得る。幹細胞はまた、幹細胞機能と関連した遺伝子を非幹細胞(例えば、人工多能性幹細胞)へと導入することによって産生され得る。
【0109】
「被験体」とは、脊椎動物(例えば、哺乳動物(例えば、ヒト))を意味する。哺乳動物としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、およびブタが挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
用語「治療上有効な量」とは、哺乳動物における任意の治療的応答を生じることが決定された薬剤の量に言及する。例えば、有効な抗炎症治療剤は、上記親の生存力を長期化し得、そして/または明白な臨床的症状を阻害し得る。上記用語の意味内で治療上有効である処置は、本明細書で使用される場合、たとえ上記処置が疾患の結果自体を改善しないとしても、被験体の生活の質を改善する処置を含む。このような治療上有効な量は、当業者によって容易に確認される。従って、「処置する」ことは、このような量を送達することを意味する。従って、処置(treating)は、炎症の任意の病的症状を予防または改善し得る。
【0111】
「処置する(treat)、処置する(treating)」、または「処置(treatment)」は、本発明に関して広く使用され、各々のこのような用語は、とりわけ、欠損、機能不全、疾患、または他の有害なプロセス(治療に干渉するものおよび/または治療から生じるものを含む)を予防、改善、阻害、または治癒することを包含する。
【0112】
(幹細胞)
本発明は、好ましくは、脊椎動物種(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、飼い慣らされた動物、家畜、および他の非ヒト哺乳動物)の幹細胞を使用して実施され得る。これらとしては、以下に記載される細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
(胚性幹細胞)
もっともよく研究された幹細胞は、制限されない自己再生および多能性の分化能を有するような、胚性幹細胞(ESC)である。これら細胞は、胚盤胞の内部細胞塊から得られるか、または着床後胚(胚性生殖細胞(embryonal germ cell)またはEG細胞)の原始生殖細胞から得られ得る。ES細胞およびEG細胞は、最初は、マウスから、後に、多くの異なる動物から、およびより近年では、非ヒト霊長類およびヒトからも得られるようになった。マウスの胚盤胞または他の動物の胚盤胞へ導入される場合、ESCは、上記動物の全ての組織に寄与し得る。ES細胞およびEG細胞は、SSEA1(マウス)およびSSEA4(ヒト)に対する抗体での陽性染色によって、同定され得る。例えば、米国特許第5,453,357号;同第5,656,479号;同第5,670,372号;同第5,843,780号;同第5,874,301号;同第5,914,268号;同第6,110,739号;同第6,190,910号;同第6,200,806号;同第6,432,711号;同第6,436,701号、同第6,500,668号;同第6,703,279号;同第6,875,607号;同第7,029,913号;同第7,112,437号;同第7,145,057号;同第7,153,684号;および同第7,294,508号(これらの各々は、胚性幹細胞、ならびに胚性幹細胞を作製し拡大する方法を教示するために参考として援用される)を参照のこと。よって、ESCおよびESCを単離し、拡大する方法は、当該分野で周知である。
【0114】
多くの転写因子および外因性サイトカインが同定されてきており、これらは、インビボでの胚性幹細胞の効力の状態に影響を及ぼす。幹細胞の多能性に関与することが記載されるべき第1の転写因子は、Oct4である。Oct4は、POU(Pit−Oct−Unc)ファミリーの転写因子に属し、遺伝子の転写を活性化し得、プロモーター領域またはエンハンサー領域内で「オクタマーモチーフ」といわれるオクタマー配列を含み得るDNA結合タンパク質である。Oct4は、卵筒が形成されるまで受精接合子(fertilized zygote)の卵割可能なステージの時期に発現される。Oct3/4の機能は、分化誘導遺伝子(すなわち、FoxaD3、hCG)を抑制し、多能性を促進する遺伝子(FGF4、Utf1、Rex1)を活性化することである。Sox2(高移動度群(high mobility group)(HMG)box転写因子のメンバーである)は、Oct4と協同して、上記内部細胞塊において発現される遺伝子の転写を活性化する。胚性幹細胞におけるOct3/4発現が、特定のレベルの間で維持されることは、必須である。Oct4発現レベルの50%超の過剰発現またはダウンレギュレーションは、それぞれ、初期の内胚葉/中胚葉または栄養外胚葉の形成とともに、胚性幹細胞の運命を変える。インビボでは、Oct4欠損胚は、胚盤胞ステージへと発達するが、上記内部細胞塊の細胞は、多能性ではない。代わりに、それら細胞は、胚体外栄養膜系列(extraembryonic trophoblast lineage)に沿って分化する。Sall4(哺乳動物のSpalt転写因子)は、Oct4の上流の調節因子であり、従って、発生学の初期相の間にOct4の適切なレベルを維持することは重要である。Sall4レベルが、特定の閾値より下に低下する場合、栄養外胚葉細胞は、上記内部細胞塊へと異所性に拡大する。多能性に必要とされる別の転写因子は、Nanogであり、これは、ケルト族の「ティル・ナ・ノーグ(Tir Nan Og)」:常若の国に倣って名付けられた。インビボでは、Nanogは、ぎっしりと詰まった桑実胚のステージから発現され、その後、内部細胞塊に規定され、着床ステージによってダウンレギュレートされる。Nanogのダウンレギュレーションは、多能性細胞の制御されない拡大を回避し、原腸形成の間に多系列分化を可能にするために重要であり得る。Nanogヌル胚(5.5日で単離される)は、無秩序な胚盤胞からなり、主に、胚体外内胚葉を含み、識別可能な原外胚葉を含まない。
【0115】
(非胚性幹細胞)
幹細胞は、大部分の組織において同定されてきた。おそらく、最もよく特徴付けられたのは、造血幹細胞(HSC)である。HSCは、細胞表面マーカーおよび機能的特徴を使用して精製され得る中胚葉由来の細胞である。HSCは、骨髄、末梢血、臍帯血、胎児肝臓、および卵黄嚢から単離されている。HSCは、造血を開始し、複数の造血系列を生成する。致死的に照射された動物に移植される場合、HSCは、赤血球、好中球−マクロファージ、巨核球、およびリンパ系造血細胞プールを再生息させ得る。HSCはまた、いくらかの自己再生細胞分裂を経験するように誘導され得る。例えば、米国特許第5,635,387号;同第5,460,964号;同第5,677,136号;同第5,750,397号;同第5,681,599号;および同第5,716,827号を参照のこと。米国特許第5,192,553号は、ヒト新生児または胎児の造血幹細胞もしくは前駆細胞を単離する方法を報告する。米国特許第5,716,827号は、Thy−1前駆体(progenitor)であるヒト造血細胞、およびそれらをインビトロで再生するための適切な増殖培地を報告する。米国特許第5,635,387号は、ヒト造血細胞およびそれらの前駆体(presursor)を培養する方法およびデバイスを報告する。米国特許第6,015,554号は、ヒトリンパ系細胞および樹状細胞を再構築する方法を記載する。よって、HSCおよびこれらを単離し、拡大する方法は、当該分野で周知である。
【0116】
当該分野で周知の別の幹細胞は、神経幹細胞(NSC)である。これら細胞は、インビボで増殖し得、少なくともいくつかの神経細胞を連続して再生し得る。エキソビボで培養される場合、神経幹細胞は、増殖するように誘導され得、ならびにニューロンおよびグリア細胞の異なるタイプへ分化し得る。脳へ移植される場合、神経幹細胞は生着し得、神経細胞およびグリア細胞を生成し得る。例えば、Gage F.H.,Science,287:1433−1438(2000)、Svendsen S.N.ら,Brain Pathology,9:499−513(1999)、およびOkabe S.ら,Mech Development,59:89−102(1996)を参照のこと。米国特許第5,851,832号は、脳組織から得られる多能性神経幹細胞を報告する。米国特許第5,766,948号は、新生児脳半球から神経芽細胞を産生することを報告する。米国特許第5,564,183号および同第5,849,553号は、哺乳動物の神経堤幹細胞の使用を報告する。米国特許第6,040,180号は、哺乳動物の多能性CNS幹細胞の培養物から、分化したニューロンのインビトロでの生成を報告する。WO 98/50526およびWO 99/01159は、神経上皮幹細胞、乏突起神経膠細胞−星状細胞前駆体、および系列が制限された神経前駆体の生成および単離を報告する。米国特許第5,968,829号は、胚性の前脳から得られる神経幹細胞を報告する。よって、神経幹細胞およびこれらを作製し、拡大する方法は、当該分野で周知である。
【0117】
当該分野で広く研究されてきた別の幹細胞は、間葉幹細胞(MSC)である。MSCは、胚性中胚葉に由来し、多くの供給源(とりわけ、成体骨髄、末梢血、脂肪、胎盤および臍帯血が挙げられる)から単離され得る。MSCは、多くの中胚葉組織(筋肉、骨、軟骨、脂肪、および腱が挙げられる)へと分化し得る。これら細胞に関する文献はかなり存在する。例えば、米国特許第5,486,389号;同第5,827,735号;同第5,811,094号;同第5,736,396号;同第5,837,539号;同第5,837,670号;および同第5,827,740号を参照のこと。また、Pittenger,M.ら,Science,284:143−147(1999)を参照のこと。
【0118】
成体幹細胞の別の例は、代表的には、脂肪吸引、続いて、コラゲナーゼを使用したADSCの遊離によって、脂肪から単離された脂肪由来成体幹細胞(ADSC)である。ADSCは、脂肪からより多くの細胞を単離することが可能であることを除いて、骨髄由来のMSCに多くの点で類似している。これら細胞は、骨、脂肪、筋肉、軟骨、および神経へと分化することが報告されている。単離方法は、米国2005/0153442に記載された。
【0119】
当該分野で公知の他の幹細胞としては、消化管幹細胞、表皮幹細胞、および「卵円形細胞」ともいわれている肝幹細胞(Potten,C.,ら,Trans R Soc Lond B Biol Sci,353:821−830(1998)、Watt,F.,Trans R Soc Lond B Biol Sci,353:831(1997);Alisonら,Hepatology,29:678−683(1998))が挙げられる。
【0120】
1種より多くの胚性胚葉の細胞型へと分化し得ることが報告された他の非胚性の細胞としては、臍帯血由来の細胞(米国特許出願公開第2002/0164794号)、胎盤由来の細胞(米国特許出願公開第号2003/0181269号を参照のこと)、臍帯マトリクス由来の細胞(Mitchell,K.E.ら,Stem Cells,21:50−60(2003))、小さな胚様の幹細胞由来の細胞(Kucia,M.ら,J Physiol Pharmacol,57 Suppl 5:5−18(2006))、羊水の幹細胞由来の細胞(Atala,A.,J Tissue Regen Med,1:83−96(2007))、皮膚由来の前駆体由来の細胞(Tomaら,Nat Cell Biol,3:778−784(2001))、および骨髄由来の細胞(米国特許出願公開第2003/0059414号および同第2006/0147246号を参照のこと)(これらの各々は、これら細胞を教示するために参考として援用される)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
(体細胞再プログラミングのストラテジー)
いくつかの異なるストラテジー(例えば、核移植、細胞融合、および培養誘導性再プログラミング)が、分化した細胞の胚性の状態への変換を誘導するために使用されてきた。核移入は、体細胞核を除核した卵母細胞に注射することを包含する。これは、代理母へ移入する際にクローン(「生殖クローニング)を生じ得るか、または培養での外植の際に、遺伝的にマッチした胚性幹(ES)細胞(「体細胞核移入」、SCNT)を生じ得る。体細胞とES細胞との細胞融合は、多能性ES細胞の全ての特徴を示すハイブリッドの生成を生じる。培養における体細胞の外植は、多能性または複能性(multipotent)であり得る不死細胞系を選択する。現在では、精原幹細胞は、出生後の動物に由来し得る多能性細胞の唯一の供給源である。規定された因子での体細胞の形質導入は、多能性状態への再プログラミングを開始し得る。これら実験的アプローチは、広範に検討されてきた(Hochedlinger and Jaenisch,Nature,441:1061−1067(2006)およびYamanaka,S.,Cell Stem Cell,1:39−49(2007))。
【0122】
(核移入)
核移植(NT)はまた、体細胞核移入(SCNT)ともいわれ、ドナー体細胞由来の核を、除核した除核した卵母細胞(ogocyte)へと導入して、クローン化した動物(例えば、ヒツジのドリー)を生み出すことを表す(Wilmutら,Nature,385:810−813(1997)。NTによる生きた動物の発生は、安定である一方、最終まで分化した後生的状態を含む体細胞の後生的な状態が、不可逆的には固定されてはいないが、新たな生物の発生を指向し得る胚状態に再プログラムされ得ることを示した。胚の発生および疾患に関与する基本的な後生的機構を解明するための刺激的な実験的アプローチを提供することに加えて、核クローニング技術は、患者特異的移植医療のために潜在的に重要である。
【0123】
(体細胞と胚性幹細胞との融合)
未分化状態への体細胞核の後生的再プログラミングは、胚性細胞と体細胞との融合によって産生したマウスハイブリッドにおいて実証された。種々の体細胞と、胚性癌細胞(Solter,D.,Nat Rev Genet,7:319−327(2006)、胚性生殖細胞(EG)、またはES細胞(Zwaka and Thomson,Development,132:227−233(2005))との間のハイブリッドは、上記親の胚性細胞と多くの特徴を共有し、このことは、上記多能性の表現型が、このような融合生成物において優勢であることを示す。マウスのように(Tadaら,Curr Biol,11:1553−1558(2001))、ヒトES細胞は、融合後の体細胞核を再プログラムする能力を有する(Cowanら,Science,309:1369−1373(2005));Yuら,Science,318:1917−1920(2006))。サイレントな多能性マーカー(例えば、Oct4)の活性化または不活性な体細胞X染色体の再活性化は、上記ハイブリッド細胞において体細胞ゲノムの再プログラミングの分子的証拠を提供した。DNA複製は、多能性マーカーの活性化(これは、融合の2日後に最初に観察される)に必須であり(Do and Scholer,Stem Cells,22:941−949(2004))、ES細胞におけるNanogの強制された過剰発現が、神経幹細胞との融合のときに多能性を促進する(Silvaら,Nature,441:997−1001 (2006))ことが示唆された。
【0124】
(培養誘導性再プログラミング)
多能性細胞は、胚の供給源(例えば、卵割球および胚盤胞の上記内部細胞塊(ICM)(ES細胞)、原外胚葉(EpiSC細胞)、原始生殖細胞(EG細胞)、および出生後精原幹細胞(「maGSCsm」、「ES様」細胞)から得られてきた。以下の多能性細胞は、それらのドナー細胞/組織とともに、以下のとおりである:病的(parthogenetic)ES細胞は、マウス卵母細胞に由来する(Narasimhaら,Curr Biol,7:881−884(1997));胚性幹細胞は、卵割球に由来した(Wakayamaら,Stem Cells,25:986−993(2007));内部細胞塊(供給源は該当なし)(Egganら,Nature,428:44−49 (2004));胚性生殖細胞および胎児性癌細胞は、原始生殖細胞に由来した(Matsuiら,Cell,70:841−847(1992));GMCS、maSSC、およびMASCは、精原幹細胞に由来した(Guanら,Nature,440:1199−1203(2006);Kanatsu−Shinoharaら,Cell,119:1001−1012(2004);およびSeandelら,Nature,449:346−350(2007));EpiSC細胞は、原外胚葉に由来する(Bronsら,Nature,448:191−195(2007);Tesarら,Nature,448:196−199(2007));病的ES細胞は、ヒト卵母細胞に由来した(Cibelliら,Science,295L819(2002);Revazovaら,Cloning Stem Cells,9:432−449 (2007));ヒトES細胞は、ヒト胚盤胞に由来した(Thomsonら,Science,282:1145−1147(1998));MAPCは、骨髄に由来した(Jiangら,Nature,418:41−49(2002);Phinney and Prockop,Stem Cells,25:2896−2902(2007));臍帯血細胞(臍帯血に由来する)(van de Venら,Exp Hematol,35:1753−1765(2007));ニューロスフェア由来細胞は、神経細胞に由来した(Clarkeら,Science,288:1660−1663(2000))。生殖細胞系列(例えば、PGCまたは精原幹細胞)に由来するドナー細胞は、インビボで単能性であることが公知であるが、多能性ES様細胞(Kanatsu−Shinoharaら,Cell,119:1001−1012(2004)またはmaGSC(Guanら,Nature,440:1199−1203(2006)が、長期のインビトロ培養後に単離され得ることが示された。これら多能性細胞型の大部分は、インビトロで分化可能および奇形腫形成の能力があった一方で、ES、EG、EC、および精原幹細胞由来のmaGCSまたはES様細胞のみが、より厳しい基準によって多能性であった。なぜなら、それらは、出生後キメラを形成し、上記生殖系列に寄与できたからである。近年になって、複能性成体精原幹細胞(MASC)は、成体マウスの精巣の精原幹細胞から得られ、これら細胞は、ES細胞の発現プロフィールとは異なる(Seandelら,Nature,449:346−350(2007))が、着床後マウス胚の原外胚葉に由来するEpiSC細胞(Bronsら,Nature,448:191−195(2007);Tesarら,Nature,448:196−199(2007)))に類似の発現プロフィールを有した。
【0125】
(規定された転写因子による再プログラミング)
TakahashiおよびYamanakaは、ES様状態に戻した再プログラミングされた体細胞を報告した(Takahashi and Yamanaka,Cell,126:663−676(2006))。彼らは、マウス胚性線維芽細胞(MEF)および成体線維芽細胞を、4種の転写因子であるOct4、Sox2、c−myc、およびKlf4のウイルス媒介性形質導入、続いて、上記Oct4標的遺伝子Fbx15の活性化について選択した後に多能性ES様細胞へと成功裏に再プログラムした(図2A)。活性化したFbx15を有する細胞は、造り出されたiPS(人工多能性幹)細胞であり、奇形腫を形成する能力によって多能性であることが示されたが、それらは、生きたキメラを産生することはできなかった。この多能性の状態は、上記形質導入したOct4遺伝子およびSox2遺伝子の連続するウイルス発現に依存したのに対して、上記内因性Oct4遺伝子およびNanog遺伝子は、発現されなかったかまたはES細胞より低いレベルで発現されたかのいずれかであり、それらそれぞれのプロモーターは、大部分メチル化されていることが見出された。これは、上記Fbx15−iPS細胞が、ES細胞に対応しなかったが、再プログラミングの不完全な状態を表した可能性があるという結論と一致する。遺伝的実験は、Oct4およびSox2が、多能性には必須であることを確立した(Chambers and Smith,Oncogene,23:7150−7160(2004);Ivanonaら,Nature,442:5330538(2006);Masuiら,Nat Cell Biol,9:625−635(2007))が、再プログラミングにおける2種の癌遺伝子c−mycおよびKlf4の役割は、あまり明確ではない。これら癌遺伝子のうちのいくつかは、実際に、再プログラミングには重要ではない可能性がある。なぜなら、マウスおよびヒト両方のiPS細胞は、c−myc形質導入の非存在下で得られたが、効率は低かったからである(Nakagawaら,Nat Biotechnol,26:191−106(2008);Werningら,Nature,448:318−324(2008);Yuら,Science,318:1917−1920(2007))。
【0126】
(MAPC)
MAPCは、「複能性成体前駆細胞」(非ES、非EG、非生殖)の頭字語である。MAPCは、少なくとも2種の細胞型(例えば、3種全ての原始胚葉(外胚葉、中胚葉、および内胚葉)へと分化する能力を有する。ES細胞において見いだされた遺伝子は、MAPCにおいても見いだされ得る(例えば、テロメラーゼ、Oct 3/4、rex−1、rox−1、sox−2)。Oct 3/4(ヒトにおけるOct 3A)は、ES細胞および生殖細胞に特異的であるようである。MAPCは、MSCより原始前駆細胞集団を表す(Verfaillie,C.M.,Trends Cell Biol 12:502−8(2002)、Jahagirdar,B.N.ら,Exp Hematol,29:543−56(2001);Reyes,M. and C.M.Verfaillie,Ann N Y Acad Sci,938:231−233(2001);Jiang,Y.ら,Exp Hematol,30896−904(2002);および(Jiang,Y.ら,Nature,418:41−9.(2002))。
【0127】
ヒトMAPCは、米国特許第7,015,037号および米国特許出願第10/467,963号に記載される。MAPCは、他の哺乳動物において同定された。例えば、マウスMAPCはまた、米国特許第7,015,037号および米国特許出願第10/467,963号に記載される。ラットMAPCはまた、米国特許出願第10/467,963号に記載される。
【0128】
これら参考文献は、Catherine Verfaillieによって初めて単離されたMAPCを説明するために参考として援用される。
【0129】
(MAPCの単離および増殖)
MAPC単離方法は、当該分野で公知である。例えば、米国特許第7,015,037号および米国特許出願第10/467,963号を参照のこと。これらの方法は、MAPCの特徴付け(表現型)とともに、本明細書に参考として援用される。MAPCは、複数供給源(骨髄、胎盤、臍帯および臍帯血、筋肉、脳、肝臓、脊髄、血液または皮膚が挙げられるが、これらに限定されない)から単離され得る。従って、骨髄吸引物、脳生検または肝臓生検、および他の器官から得ること、ならびにこれら細胞において発現される(または発現されない)遺伝子に依存して(例えば、機能アッセイまたは形態アッセイ(例えば、上記参考の出願(本明細書に参考として援用される)において開示されているもの)によって)、当業者に利用可能な陽性選択または陰性選択の技術を使用して、上記細胞を単離することは可能である。
【0130】
(米国特許第7,015,037号に記載されるヒト骨髄に由来するMAPC)
MAPCは、一般的な白血球抗原CD45も赤芽球特異的グリコホリン−A(Gly−A)も発現しない。上記細胞の混合集団を、Ficoll Hypaque分離に供した。次いで、上記細胞を、抗CD45抗体および抗Gly−A抗体を使用して陰性選択に供し、CD45細胞およびGly−A細胞の集団を除去し、次いで、残存する約0.1%の骨髄単核球を回収した。細胞をまた、フィブロネクチンコーティングしたウェルに播種し、2〜4週間にわたって下記のように培養して、CD45細胞およびGly−A細胞を除去した。接着性骨髄細胞の培養物において、多くの接着性間質細胞が、細胞倍加30回あたりで複製老化を経験し、細胞のより均質な集団が、拡大し続け、長いテロメアを維持する。
【0131】
あるいは、陽性選択は、細胞特異的マーカーの組み合わせを介して細胞を単離するために使用され得る。陽性選択および陰性選択両方の技術が、当業者に利用可能であり、陰性選択目的に適切な多くのモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体もまた、当該分野で利用可能であり(例えば、Leucocyte Typing V,Schlossman,ら,Eds.(1995) Oxford University Pressを参照のこと)、多くの供給元から市販されている。
【0132】
細胞集団の混合物からの哺乳動物細胞分離のための技術はまた、Schwartzら,米国特許第5,759,793号(磁性分離)、Baschら,1983(イムノアフィニティクロマトグラフィー)、およびWysocki and Sato,1978(蛍光標示式セルソーティング)によって記載されてきた。
【0133】
(米国特許第7,015,037号に記載されるMAPCの培養)
本明細書で記載される単離されたMAPCは、本明細書中および米国特許第7,015,037号(これら方法について参考として援用される)に開示される方法を使用して培養され得る。
【0134】
細胞は、低血清培養培地または無血清培養培地中で培養され得る。MAPCを培養するために使用される無血清培地は、米国特許第7,015,037号に記載される。多くの細胞は、無血清培地または低血清培地中で増殖させた。この場合、上記培地には、1種以上の増殖因子が補充される。一般に使用される増殖因子としては、骨形性タンパク質、塩基性(basis)線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、および上皮増殖因子が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、米国特許第7,169,610号;同第7,109,032号;同第7,037,721号;同第6,617,161号;同第6,617,159号;同第6,372,210号;同第6,224,860号;同第6,037,174号;同第5,908,782号;同第5,766,951号;同第5,397,706号;および同第4,657,866号(全て、無血清培地で細胞を増殖させることを教示するために参考として援用される)を参照のこと。
【0135】
(さらなる培養法)
さらなる実験において、MAPCが培養される密度は、約100細胞/cmまたは約150細胞/cm〜約10,000細胞/cm(約200細胞/cm〜約1500細胞/cm〜約2000細胞/cmを含む)まで変動し得る。上記密度は、種間で変動し得る。さらに、最適密度は、培養条件および細胞供給源に依存して変動し得る。培養条件および細胞の所定のセットについて最適な密度を決定することは、当業者の技術範囲内である。
【0136】
また、約10%より低い(約1〜5%および特に、3〜5%を含む)有効大気酸素濃度が、培養中のMAPCの単離、増殖および分化の間のいずれのときにも使用され得る。
【0137】
細胞は、種々の血清濃度(例えば、約2〜20%)下で培養され得る。ウシ胎仔血清が使用され得る。より高い血清が、より低い酸素分圧と組み合わせて使用され得る(例えば、約15〜20%)。細胞は、培養ディッシュへの接着前に選択される必要はない。例えば、Ficoll勾配後に、細胞は、直接播種され得る(例えば、250,000〜500,000/cm)。接着性のコロニーは拾いあげられ得、場合によってはプールされ得、拡大され得る。
【0138】
実施例における実験手順で使用される一実施形態において、高血清(約15〜20%)および低酸素(約3〜5%)条件を、細胞培養に使用した。具体的には、コロニー由来の接着性細胞を播種し、約1700〜2300細胞/cmの密度において、18%血清および3% 酸素中で(PDGFおよびEGFとともに)継代した。
【0139】
MAPCに特異的な実施形態において、補充物は、MAPCが3種全ての系列へと分化する能力を維持することを可能にする細胞因子または細胞成分である。これは、未分化状態の特異的マーカーの発現によって示され得る。MAPCは、例えば、Oct 3/4(Oct 3A)を構成的に発現し、高レベルのテロメラーゼを維持する。
【0140】
(細胞培養)
以下に列挙した成分全てに関しては、米国特許第7,015,037号(これは、これら成分を教示するために参考として援用される)を参照のこと。
【0141】
一般に、本発明に有用な細胞は、当該分野で入手可能でありかつ周知の培養培地中で維持および拡大され得る。また、哺乳動物血清での細胞培養培地の補充が企図される。さらなる補充物はまた、最適な増殖および拡大のための必要な微量元素を上記細胞に供給するために、有利には使用され得る。ホルモンもまた、細胞培養において有利には使用され得る。脂質および脂質キャリアもまた、細胞のタイプおよび分化した細胞の運命に依存して、細胞培養培地を補充するために使用され得る。また、フィーダー細胞層の使用が企図される。
【0142】
細胞はまた、「3D」(凝集した)培養物において増殖させられ得る。例は、PCT/US2009/31528(2009年1月21日出願)である。
【0143】
いったん培養で確立されると、細胞は、新鮮なまま使用され得るか、または例えば、40% FCSおよび10% DMSOを含有するDMEMを使用して、凍結し、凍結ストックとして貯蔵され得る。培養細胞の凍結ストックを調製する他の方法はまた、当業者に利用可能である。
【0144】
(薬学的処方物)
米国特許第7,015,037号は、薬学的処方物を教示するために参考として援用される。特定の実施形態において、上記細胞集団は、送達に適合した、および送達に適した(すなわち、生理学的に適合性の)組成物内に存在する。
【0145】
いくつかの実施形態において、被験体への投与のための上記細胞(または馴化培地)の純度は、約100%(実質的に均質)である。他の実施形態において、上記純度は、95%〜100%である。いくつかの実施形態において、上記純度は、85%〜95%である。特に、他の細胞と混合する場合、そのパーセンテージは、約10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、または90%〜95%であり得る。または単離/純度は、細胞倍加の観点から表され得、ここで上記細胞は、例えば、10〜20回、20〜30回、30〜40回、40〜50回またはそれより多くの細胞倍加を経験している。
【0146】
所定の適用のために上記細胞を投与するための処方物の選択は、種々の要因に依存する。これらの中で顕著なのは、被験体の種、処置される状態の性質、上記被験体におけるその状態および分布、施されている他の治療および薬剤の性質、最適な投与経路、上記経路を介した生存力、投与レジメン、ならびに当業者に明らかな他の要因である。例えば、適切なキャリアおよび他の添加物の選択は、正確な投与経路および特定の剤形の性質に依存する。
【0147】
細胞/媒体の水性懸濁物の最終処方物は、代表的には、上記懸濁物のイオン強度を等張性(すなわち、約0.1〜0.2)および生理的pH(すなわち、約pH6.8〜7.5)に調節することを包含する。上記最終処方物はまた、代表的には、流体の潤滑剤を含む。
【0148】
いくつかの実施形態において、細胞/媒体は、単位注射剤形(例えば、液剤、懸濁物、またはエマルジョン)において処方される。細胞/媒体の注射に適した薬学的処方物は、代表的には、滅菌の水溶液および分散物である。注射用処方物のキャリアは、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝化食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒であり得る。
【0149】
当業者は、本発明の方法において投与されるべき組成物中の細胞および選択肢的な添加物、ビヒクル、および/またはキャリアの量を容易に決定し得る。代表的には、任意の添加物(上記細胞に加えて)は、溶液中に(例えば、リン酸緩衝化食塩水中に)0.001〜50 wt%の量で存在する。上記活性成分は、マイクログラムからミリグラムの桁で存在する(例えば、約0.0001〜約5 wt%、好ましくは、約0.0001〜約1 wt%、最も好ましくは、約0.0001〜約0.05 wt%または約0.001〜約20 wt%、好ましくは、約0.01〜約10 wt%、および最も好ましくは、約0.05〜約5 wt%)。
【0150】
上記細胞の投与量は、広い制限内で変動し、各特定の場合における個々の要件に適合される。一般に、非経口投与の場合、レシピエントの体重1kgあたり約0.01〜約2000万個の細胞を投与することは習慣的である。細胞数は、上記レシピエントの体重および状態、投与の回数または頻度、および当業者に公知の他の変数に依存して変動する。上記細胞は、上記組織または器官に適した経路によって投与され得る。例えば、上記細胞は、全身に、すなわち、非経口的に、静脈内投与によって投与され得るか、または特定の組織または器官が標的とされ得る;上記細胞は、皮下投与を介してまたは特定の所望の組織へと投与することによって、投与され得る。
【0151】
上記細胞は、約0.01〜約5×10細胞/mlの濃度で適切な賦形剤中に懸濁され得る。注射溶液のための適切な賦形剤は、上記細胞とおよび上記レシピエントと生物学的にかつ生理学的に適合性のもの(例えば、緩衝化食塩溶液または他の適切な賦形剤)である。上記投与のための組成物は、適切な滅菌性および安定性に従う標準的方法に従って、処方、製造、および貯蔵され得る。
【0152】
(リンパ造血組織への投与)
これら組織へ投与するための技術は、当該分野で公知である。例えば、骨髄内注射は、細胞を、代表的には、後部腸骨稜の骨髄腔へ直接注射することを包含し得るが、腸骨稜、大腿骨、脛骨、上腕骨、または尺骨における他の部位を含み得る;脾臓注射は、脾臓へのラジオグラフィーでガイドした注射、または腹腔鏡法または開腹術を介した脾臓の外科的曝露を含み得る;パイエル板、GALT、またはBALTへの注射は、開腹術または腹腔鏡下注射手順を要し得る。
【0153】
(投与)
ヒトまたは他の哺乳動物に対する用量は、当業者によって、過度の実験なくして、本開示、本明細書で引用された文書、および当該分野での知識から決定され得る。本発明の種々の実施形態に従って使用されるのに適した細胞/媒体の用量は、多くの要因に依存する。一次治療および補助的治療のために投与されるべき最適用量を決定するパラメーターは、一般に、以下のうちのいくつかまたは全てを含む:処置される疾患およびその病期;被験体の種、被験体の健康状態、性別、年齢、体重、および代謝速度;被験体の免疫応答性;施されている他の治療;ならびに上記被験体の病歴または遺伝子型から予期される潜在的合併症。上記パラメーターとしてはまた、以下が挙げられ得る:上記細胞が、同系であるのか、自己由来であるのか、同種異系であるのか、または異種であるのか;それらの効力(比活性);有効であるように、上記細胞/媒体について標的化されなければならない部位および/または分布;ならびにこのような上記部位の特徴(例えば、細胞/媒体への接近可能性および/または細胞の移植)。さらなるパラメーターとしては、他の因子(例えば、増殖因子およびサイトカイン)との同時投与が挙げられる。所定の状況における最適な用量はまた、上記細胞/媒体が処方される方法、それらが投与される方法、および上記細胞/媒体が、投与後の標的部位において局在化する程度を考慮に入れる。
【0154】
細胞の最適用量は、自己由来の、骨髄単核球移植のために使用される用量範囲にあり得る。かなり純粋な細胞調製のために、種々の実施形態における最適用量は、1回の投与あたり、レシピエント体重1kgあたり10〜10細胞の範囲である。いくつかの実施形態において、1回の投与あたりの上記最適用量は、10〜10細胞/kgの間である。多くの実施形態において、上記1回の投与あたりの最適用量は、5×10〜5×10細胞/kgである。参照によれば、前述における高い方の用量は、自己由来の骨髄単核球移植において使用される有核細胞の用量に類似である。上記低い方の用量のうちのいくらかは、自己由来の骨髄単核球移植において使用される1kgあたりのCD34細胞の数に類似である。
【0155】
種々の実施形態において、細胞/媒体は、初期用量で投与され得、その後、さらなる投与によって維持され得る。細胞/媒体は、最初にある方法によって投与され得、その後、同じ方法または1種以上の異なる方法によって投与され得る。上記レベルは、上記細胞/媒体の進行中の投与によって維持され得る。種々の実施形態は、最初に、または上記被験体におけるそれらのレベルを維持するため、または両方のためかのいずれかで上記細胞/媒体を静脈内注射によって投与する。種々の実施形態において、他の剤形が、上記患者の状態および本明細書の他の箇所で議論される他の要因に依存して、使用される。
【0156】
細胞/媒体は、広い範囲の時間にわたって、多くの頻度で投与され得る。一般に、処置の長さは、上記疾患プロセスの長さ、適用されている治療の効能、ならびに処置されている被験体の状態および応答に比例する。
【0157】
(使用)
本発明の細胞は、本願において記載される種々の生物学的機構を介して最終的に炎症を低下させる1種以上の因子を分泌するので、上記細胞の投与は、上記に列挙されるように、任意の数の病状における、望ましくない炎症を低下させるのに有用である。
【0158】
さらに、他の使用は、本願において記載される生物学的機構の知識によって提供される。これらのうちの1つとしては、創薬が挙げられる。この局面は、上記細胞の抗炎症効果を調節する能力について1種以上の化合物をスクリーニングすることを包含する。これは、第1に、以下のうちのいずれかを低下させる上記細胞の能力についてのアッセイを開発することを含む:(1)炎症、(2)溢出、(3)内皮細胞−白血球結合、(4)内皮細胞における接着分子の発現(RNAおよび/またはタンパク質)、(5)上記接着細胞分子と結合する(白血球上に位置する)同族リガンドの発現(このリガンドの発現が、上記内皮細胞によって調節される場合)、ならびに(6)内皮細胞によるサイトカインの産生。よって、上記アッセイは、インビボまたはインビトロで行われるように設計され得る。調節アッセイは、上記活性化状態を任意の所望のレベルで(例えば、形態、遺伝子発現、機能など)評価し得る。上記アッセイは、単離された血管内皮を含み得る。あるいは、上記アッセイは、内皮から部分的にまたは完全に取り出された血管内皮細胞(内皮細胞株および内皮細胞系、天然および組換えの両方を含む)を含み得る。しかし、上記アッセイはまた、結合親和性を有することが公知の単離された細胞成分(例えば、上記内皮細胞に発現される接着分子および白血球に見いだされるそれらの同族結合リガンド)を含み得る。従って、上記細胞接着分子および上記同族白血球リガンドを発現または分泌する組換え細胞は、結合をアッセイするために使用され得る。または、上記単離されたリンパ球結合パートナーは、上記内皮接着分子(例えば、P−セレクチンまたはE−セレクチンおよびCD15s;ICAM−1またはICAM−2およびLFA−1;ICAMおよびMac−1;VCAM−1およびVLA−4)を発現する細胞とともに使用され得る。
【0159】
上記アッセイは、活性化サイトカイン(例えば、TNF−α、またはIL−1β)を含み得る。上記サイトカインは、単独で、上記アッセイのための基本を形成し得る。例えば、上記細胞/媒体は、TNF−αと結合する能力、または細胞ベースのレセプターアッセイにおいてまたは可溶性レセプターとのTNF−αレセプターの競合的インヒビターとして作用する能力についてアッセイされ得る。結合していないTNF−αは、直接検出され得るか、または上記結合していないTNF−αについてのアッセイは、TNF−αの生物学的効果のうちのいずれかについてのアッセイを含み得る。このことはまた、他の活性化サイトカイン(例えば、IL−1)のうちのいずれかに当てはまる。
【0160】
または、上記アッセイは、上記細胞/媒体が、レセプターベースのアッセイにおいてNFκBを、NFκBによって制御されるプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子で調節する(増大させる、減少させる)能力を包含し得る。次いで、上記アッセイは、上記細胞/媒体の効果を増大または減少させる化合物/薬剤についてスクリーニングするために使用される。
【0161】
遺伝子発現は、タンパク質またはRNAを直接アッセイすることによって評価され得る。これは、当該分野で利用可能な周知の技術のうちのいずれかを介して(例えば、FACSおよび他の抗体ベースの検出法、およびPCRならびにのハイブリダイゼーションベースの検出法によって)行われ得る。間接的なアッセイはまた、発現(例えば、公知の結合パートナーのうちのいずれかへの結合)について使用され得る。
【0162】
発現/分泌についてのアッセイとしては、ELISA、Luminex、qRT−PCR、抗因子ウェスタンブロット、および組織サンプルまたは細胞に対する因子免疫組織化学が挙げられるが、これらに限定されない。
【0163】
細胞および馴化培地中の調節因子の定量的検出は、市販のアッセイキット(例えば、2工程の差し引きの抗体ベースのアッセイに依拠するR&D Systems)を使用して行われ得る。
【0164】
本発明は、本明細書に記載されるように、増大した効力を有する細胞を産生する方法を包含する。よって、本発明は、上記細胞が、本明細書に記載される効果のうちのいずれかを有する能力を増大する化合物を、上記細胞を化合物に曝し、上記細胞が任意の所望のレベルにおいて上記効果を達成する能力についてアッセイすることによって、同定する方法を包含する。一実施形態において、いくつかの細胞は、本明細書に記載される効果を有する因子を産生する前に、活性化された内皮細胞との接触を必要とし得る。これら細胞は、「未処理」と示され得る。よって、一実施形態において、本願に記載される創薬に関する化合物の使用によって、活性化された内皮細胞の効果の代わりになることは考えられる。一実施形態において、例えば、本発明者らは、IL−1β、TNF−α、およびIFN−γの組み合わせが、実施例の節において簡潔に記載されるように、活性化された内皮細胞との接触の代わりになり得ることが見いだされた。よって、細胞は、この置換を可能にする化合物を同定するために任意の数の化合物でスクリーニングされ得る。次いで、これらの化合物は、本願において記載される治療的使用のうちのいずれかについて未処理細胞を予備処理するために、ならびに臨床的、治療的、および診断的適用、および細胞バンク化のために有用な組成物を生成するために使用され得る。
【0165】
(特定のアッセイの例)
1.MAPCと共培養した後、またはMAPCに由来する馴化培地とともにインキュベートした後に、接着分子の存在を試験するための内皮細胞のFACS分析
2.MAPCとの内皮細胞共培養物に、またはMAPCに由来する馴化培地とともにインキュベートした内皮細胞共培養物に結合する好中球の定量
3.MAPCと共培養後、またはMAPCに由来する馴化培地と共にインキュベートした後に、プロモーターベースのシステムを使用するNF−kB活性の定量
4.内皮層を、MAPCとともに共培養したか、またはMAPCに由来する馴化培地とともにインキュベートした後に、ECISベースのシステムまたは類似のシステムを使用する、内皮層を介した白血球溢出の定量。
【0166】
効力についてのアッセイはまた、上記細胞によって分泌される活性因子を検出することによって行われ得る。これらとしては、グルココルチコイド、HB−EGF、IL−10、プロスタグランジンA1、IL−13、IL−1R、IL−18R、IFN−R、TNF−R1、TNF−R2、IL−4、IL−11、IFN−β、TGF−β1、β2、β3、 プロスタグランジンE2、SPP1、CYLD、エラスターゼ、VEGF、IL−33、チモシンB4、およびTGF−β、アドレノメデュリンが挙げられ得る。検出は、直接的(例えば、RNAまたはタンパク質アッセイを介して)であってもよいし、間接的(例えば、これら因子の1種以上の生物学的効果についての生物学的アッセイ)であってもよい。
【0167】
本発明のさらなる使用は、臨床投与のための細胞を提供する細胞バンクの確立である。一般に、この手順の基本的部分は、種々の治療上の臨床実践場面における投与について所望の効力を有する細胞を提供することである。
【0168】
創薬のために有用な同じアッセイのうちのいずれかはまた、上記バンクのために細胞を選択することに、ならびに投与のためにバンクから細胞を選択することに適用され得る。
【0169】
よって、バンキング手順において、上記細胞(もしくは媒体)は、上記効果のうちのいずれかを達成する能力についてアッセイされる。次いで、上記効果のうちのいずれかについての所望の効力を有する細胞が選択され、これら細胞は、細胞バンクを作るための基礎を形成する。
【0170】
効力が、外因性化合物(例えば、大きなコンビナトリアルライブラリーで上記細胞をスクリーニングすることを介して発見された化合物)での処置によって増大され得ることもまた、企図される。これら化合物ライブラリーは、低分子有機分子、アンチセンス核酸、siRNA DNAアプタマー、ペプチド、抗体、非抗体タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、および化学誘引物質が挙げられるが、これらに限定されない薬剤のライブラリーであり得る。例えば、細胞は、増殖および製造手順の間のいずれかのときにこのような薬剤に曝され得る。唯一の要件は、上記所望のアッセイが、上記薬剤が効力を増大させるか否かを評価するために十分な回数が行われることである。上記に記載される一般的な創薬プロセスの間に見いだされるこのような薬剤は、バンキングの前の最後の継代の間により有利に適用され得る。
【0171】
細胞は、このドナーから得られる細胞産生物が、臨床実践場面において使用されるほどに安全であることを決定するために、特定の試験要件を経験した適格な骨髄ドナーから単離される。単核球は、手動または自動化した手順のいずれかを使用して単離される。これら単核球は、培養状態に置かれ、上記細胞が細胞培養容器の処理表面に接着することが可能となる。上記MAPC細胞を、上記処置表面に拡大させておき、培地交換は、2日目および4日目におこなう。6日目に、上記細胞は、機械的手段または酵素的手段のいずれかによって上記処理基材から取り出され、細胞培養容器の別の処理表面へと再度播種される。8日目および10日目に、上記細胞は、以前のように上記処理表面から取り出され、再度播種される。13日目に、上記細胞は、上記処理表面から取り出され、洗浄され、低温保護物質と合わせられ、最終的には、液体窒素中で凍結される。上記細胞を少なくとも1週間にわたって凍結したのち、上記細胞のアリコートを取り出し、上記細胞バンクの有用性を決定するために効力、同一性、滅菌性および他の試験について試験する。このバンクにおけるこれら細胞は、それらを融解し、それらを培養状態に置いて使用することができるか、または潜在的適応症を処置するために凍結物からそれらを使用し得る。
【0172】
別の使用は、効能および上記細胞の投与後の有益な臨床効果についての診断アッセイである。上記適応症に依存して、評価するべき利用可能なバイオマーカーが存在し得る。例えば、高レベルのC反応性タンパク質は、急性炎症応答と関連する。有益な臨床効果を決定するためにCRPのレベルがモニターされ得る。
【0173】
さらなる使用は、上記細胞を被験体に投与する前に予備処置診断として上記結果のうちのいずれかを上記細胞が達成する効力を評価することである。
【0174】
(組成物)
本発明はまた、本明細書に記載される効果(すなわち、炎症、溢出、接着、内皮活性化の低下など)のうちのいずれかを達成するための特定の効力を有する細胞集団に関する。上記のように、これら集団は、所望の効力を有する細胞を選択することによって確立される。これら集団は、他の組成物(例えば、特定の効力を有する集団を含む細胞バンク、および特定の所望の効力を有する細胞集団を含む薬学的組成物)を作製するために使用される。
【実施例】
【0175】
(実施例1)
MultiStem(登録商標)は、この実施例に記載される実験手順において使用されるMAPC細胞調製物の商標化された名称である。
【0176】
(複能性成体始原細胞は、活性化後の内皮細胞接着分子表面発現を調節し、AMI後の炎症を低下させる)
(原理/バックグラウンド)
炎症部位への免疫細胞の局在化は、損傷および感染に対する免疫応答の重要な一部である。炎症に応答して、白血球、リンパ球および単球を含む免疫細胞は、内皮細胞層に結合し、これを横断して損傷部位へと遊出する1、2。内皮細胞は、トロンビン、ヒスタミン、炎症性サイトカイン(例えば、TNF−α、インターロイキン1β)および酸素ラジカルによって活性化され得、これは、E−セレクチン、V−CAMおよびI−CAM−1を含む接着分子のアップレギュレーションをもたらす3-5。内皮細胞の細胞表面の細胞接着分子のアップレギュレーションは、活性化免疫細胞が、接着し、ローリングし、内皮細胞バリアを横断して遊出することを可能にする
【0177】
上記免疫系の移動は、感染および創傷治癒に対する免疫応答の重要な一部であるが、虚血性損傷後の炎症は、細胞毒性および死を与え得る。例えば、急性心筋梗塞後、好中球浸潤の増大は、血栓溶解治療および最初の血管形成術で処置された患者における有害事象のリスクの増大と関連する6−8。心筋梗塞に対する炎症応答の程度は、梗塞サイズおよびその後の左心室(LV)リモデリングを決定することにおいて重要な役割を有する9,10。上記心臓への好中球の局在化は、左心室リモデリングに寄与するプロテアーゼおよび反応性酸素種(ROS)を放出することによって心筋損傷を与える。さらに、好中球は、「逆流しない(no reflow)」と記載される現象において毛細管をブロックすることによって、微小血管および毛細管の損傷を与える11。Tヘルパー1(Th1)細胞への炎症性不均衡は、左室拡張、収縮期機能不全および低下した機能に寄与する12。従って、AMI後の上記好中球および炎症性細胞応答の調節は、心筋への損傷を低下させるための一助になる。
【0178】
MultiStem(登録商標)は、前臨床モデルにおいてAMI後に心機能を改善することが既に示され、かつ現在第I相臨床試験中の、拡大されたヒト臨床グレードの同種異系の複能性成体始原細胞である13−15。直接左前下行枝結紮による心筋梗塞誘導後の梗塞周辺部位へのMultiStemの送達は、動物モデルにおいて改善された心機能を生じる。ビヒクルコントロールと比較すると、これら研究におけるMultiStem処置動物は、改善した左心室収縮能、減少した瘢痕領域、増大した血管密度および改善した心筋エネルギー特性を示した14、16、17。低レベルのMultiStemの移植、および心筋または内皮細胞へのMultiStemの最小限の分化に起因して、AMIの間のMultiStemの利益は、パラクリン効果に由来すると考えられる。
【0179】
以前の研究から、齧歯類およびヒトのMultiStemが、強力な免疫抑制特性を示すことが実証され、MultiStem培養物が、インビトロで非免疫原性であり、かつ抗体活性化T細胞増殖を抑制し得ることが実証された13、15。MultiStemの免疫抑制または抗炎症特性は、内皮細胞へと拡大し、MultiStemが、一部は、好中球浸潤の低下を生じる内皮細胞活性化および免疫細胞接着の免疫調節を介して、AMIの間に利益を付与し得るという仮定が立てられた。
【0180】
この研究において、MultiStemを、細胞表面に対する細胞接着分子のアップレギュレーションを試験することによって、MultiStemが、内皮細胞活性化を調節し得るか否かを決定するために試験した。MultiStemと大動脈または肺の内皮細胞との共培養は、TNF−αでの活性化の際に内皮細胞の細胞表面に対して、E−セレクチン、V−CAMの、およびより低い程度には、I−CAMのアップレギュレーションを妨げることを見いだした。E−セレクチンのアップレギュレーションは、上記細胞表面からの増大した切断の結果ではないようである。代わりに、MultiStemは、V−CAM、I−CAM、およびE−セレクチンの転写を減少させることによって、細胞表面のアップレギュレーションを調節する。MultiStemとの共培養の際に観察された細胞表面接着分子発現の低下は、未処理コントロールと比較して、内皮細胞への好中球結合の減少を生じる。この活性は、全ての骨髄由来接着性幹細胞に共通ではない。なぜなら、MSCは、TNF−αでの活性化の際に、V−CAM、E−セレクチン、またはI−CAMの細胞表面アップレギュレーションも調節できないからである。これら結果は、MSCおよびMultiStemが、炎症シグナルに応じて異なる分泌プロフィールを有することを示唆する。減少した内皮細胞活性化が、急性心筋梗塞後の炎症および好中球浸潤を低下させ得るか否かを決定するために、虚血事象によって誘導された上記炎症応答を低下させることに対するMultiStemの効果を、AMIのラットモデルにおいて試験した。減少したレベルの好中球浸潤が見いだされ、ビヒクル処置コントロールと比較して、永続的なLAD結紮後のMultiStem処置心臓において減少したレベルの好中球組織エラスターゼと相関した。
【0181】
(材料および方法)
(細胞培養)
ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)を、Lonza(Walkersville,MD, http://www.lonza.com)から購入し、製造業者の指示に従って、Lonzaの内皮増殖培地−2(EGM−2)を使用して、継代7まで培養した。ヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)を、ScienCell(Carlsbad,CA,www.sciencellonline.com)から購入し、製造業者の指示に従って、ScienCellの内皮細胞培地(ECM)を使用して、継代4まで培養した。ヒト間葉性幹細胞(MSC)をLonzaから購入し、製造業者の指示に従って、Lonzaの間葉性幹細胞増殖培地(MSCGM)を使用して、継代6まで培養した。ヒトMultiStemを、記載されるように培養した18
【0182】
(内皮共培養アッセイ)
HAECまたはHPMECのいずれかを、6ウェルの0.4μm膜トランスウェルプレート(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA, http://www.fishersci.com)の底に、1×10細胞/cmで、それらそれぞれの増殖培地中に播種し、加湿5% CO、37℃雰囲気中、3日間にわたってインキュベートした。上記培地を吸引し、上記細胞をPBSですすいだ。2mlのMultiStem(登録商標)培地をウェル毎に添加し、1:1、1:4、1:10、または1:20(HAEC:MultiStem)を含む挿入物を添加した。1mlのMultiStem培地におけるMultiStemを、上記ウェル中に配置した。10ng/mlの、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO, http://www.sigmaaldrich.com)の組換えヒト腫瘍壊死因子α(rhTNFα)を各ウェルに添加した。内皮細胞単独(−rhTNFα)、内皮細胞単独+10ng/ml rhTNFα、および1:1共培養物(−rhTNFα)からなるコントロールもまた設定した。コントロールを、3ml MultiStem培地中で行った。次いで、上記サンプルを、加湿5% CO、37℃雰囲気中で3日間にわたってインキュベートした。あるいは、MSCおよびMSCGMを、比較研究のために、MultiStemおよびMultiStem培地の代わりに使用した。上記アッセイをまた、rhTNFαの代わりにSigma−Aldrichの10ng/ml 組換えヒトインターロイキン1β(rhIL−1β)を使用して行った。
【0183】
(フローサイトメトリー分析)
細胞を、50/50 PBS/酵素フリー(Millipore,Billerica,MA,http://www.millipore.com)を使用して6ウェルプレートから剥がし、1600rpmで5分間にわたって遠心分離し、600μlのPBS中に再懸濁した。各サンプルを、フローサイトメトリー染色のために3本のチューブに等分した。上記細胞を、BD Pharmingen(San Jose,CA, http://www.bdbiosciences.com)のCD106 FITC結合体化(V−CAM1)、 CD54 PE結合体化(I−CAM1)、またはCD62E PE結合体化(E−セレクチン)のいずれかに対する抗体20μlと40分間にわたって4℃で暗所にてインキュベートした。さらに、アイソタイプコントロールを、FITCマウスIgG1κまたはPEマウスIgG1κ(BD Pharmingen)を使用して行った。上記細胞を、2mlのPBSで洗浄し、1600rpmにおいて5分間にわたって遠心分離した。その上清を廃棄し、上記細胞を、200μlのPBS+1% パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences,Hatfield,PA, http://www.electronmicroscopysciences.com)中に再懸濁した。フローサイトメトリー分析を、488nmアルゴンレーザーを備えたFACSVantage SEフローサイトメーター(Becton Dickinson Immunocytometry Systems,San Jose,California)で実施した。PE(FL2)蛍光からの放射を、585/42バンドパスフィルタを用いて検出した。データ取得および分析は、CellQuestTMソフトウェア(Becton Dickinson)を使用して行った。
【0184】
(免疫蛍光)
12mm顕微鏡用カバーグラス(Fisher Scientific)を、共培養アッセイのために上記HAECを播種する前に、上記6ウェルトランスウェルプレートの底に配置した。上記細胞を、10% ロバ血清(Jackson ImmunoResearch Laboratories,West Grove,PA, http://www.jacksonimmuno.com)で室温において1時間にわたってブロッキングし、続いて、1:50希釈のマウス抗ヒトE−セレクチンモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA,http://www.scbt.com)とともに4℃で穏やかに振盪しながら一晩インキュベートした。次いで、上記細胞を、5分間にわたって4回、各々PBS−Tで洗浄し、続いて、1:400希釈のロバ抗マウスAlexaFluor 488(Invitrogen,Carlsbad,CA,http://www.invitrogen.com)で室温において1時間にわたってインキュベートした。次いで、上記細胞を、PBS−Tで各々5分間にわたって4回洗浄した。Leica顕微鏡(Leica,Microsystems,Bannockburn,IL,http://www.leica−microsystems.com)、OptronicsカメラおよびMagnafireソフトウェア(Optronics,Goleta,CA,http://www.optronics.com)を使用して、100×倍率において画像を得た。
【0185】
(ELISA)
上記培地を、上記共培養アッセイ後に回収し、2倍希釈したサンプルを、製造業者の指示に従って、可溶性E−セレクチン(R&D Systems,Minneapolis,MN, http://www.rndsystems.com)についてのELISAで使用した。
【0186】
(RT−PCR)
細胞を、0.25% トリプシン−EDTA(Invitrogen)を使用して上記6ウェルトランスウェルプレートから剥がし、遠心分離し、1.8ml 溶解緩衝液中に再懸濁した。RNAを、製造業者の指示に従って、Absolutely RNA Miniprepキット(Stratagene,La Jolla,CA,http://www.stratagene.com)を使用して抽出した。上記RNAを、65μlの提供された溶出緩衝液中に溶出した。RT−PCRを、100pmol ランダムプライマー(Promega,Madison,WI,http://www.promega.com)を使用して行った。RT陽性およびRT陰性、ならびに水を、96ウェルプレートで実施した。
【0187】
(好中球結合アッセイ)
好中球を、健康なボランティアの末梢血から単離した。単離後、好中球を、LPS(0.1μg/ml)を37℃において10分間添加することによって、10分間にわたって活性化した。HAECを、上記のように72時間にわたって、TNF−α、MultiStemまたはMSCとともに、またはそれらなしでインキュベートした。次いで、上記培地を除去し、上記細胞を洗浄し、次いで、内皮細胞を、活性化した好中球とともに1分間にわたってインキュベートした。次いで、上記内皮細胞を、PBSで4回洗浄して、いかなる結合していない好中球をも除去した。複数回の洗浄後に、内皮細胞に結合している好中球を、顕微鏡検査し(20×対物レンズ)、写真撮影した。上記内皮層に結合した好中球を、各視野において計数した。各条件を3連で行い、1ウェルあたり3視野を写真撮影した。
【0188】
(動物研究)
細胞調製−細胞中者の各日に、MultiStemを融解し、生存能について試験した。90%超の生存能を示す細胞を、PBS中に、5000万細胞/mLで再懸濁した。以前の融解実験から、MultiStem細胞が、最大8時間にわたってこれら条件下で95%超生存のままであることが示された。
【0189】
動物手術−この研究において記載される全ての実験動物手順を、Cleveland Clinic Foundationの動物調査委員会(Cleveland,Ohio,USA)によって承認されたプロトコルの下で行った。雄性Lewisラット(体重150〜175gの間)に、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の混合物のi.p.注射で麻酔をかけ、80回の呼吸/分において室内の空気を換気した(RSP1002,Kent Scientific Corp,Torrington,CT)。前壁の心筋梗塞を、胸骨切開および左前下行枝動脈の外科的結紮によって、25匹のラットにおいて誘導した。上記縫合に対して遠位の組織の白化(blanching)によって上記LADの結紮を確認した。LAD結紮後、1000万個のLewisラットMultiStem細胞(5000万個細胞/ml)またはPBS単独を、上記梗塞領域周辺の領域の心臓へ注射した。動物を、手術の3日後に屠殺した。10匹の動物からの心臓(5匹はビヒクル処置で、5匹は、MultiStem処置)を、OCT中に包埋し、凍結薄切片のために使用した。切片を、その後、(好中球数を決定するために)エラスターゼについて染色した。
【0190】
(統計)
統計分析を、適宜p<0.05を統計的に有意として受容したスチューデントT検定または事後分析を伴うANOVAを用いて行った。エラーバーは、標準偏差として表される。
【0191】
(結果)
(MultiStemは、活性化の際に細胞接着分子のアップレギュレーションを妨げる)
接着分子の発現は、炎症性サイトカイン(例えば、TNF−α)への曝露の際に、内皮細胞の細胞表面で劇的に増加する。MultiStemがこの応答を調節するか否かを試験するために、MultiStemを、ヒト大動脈内皮細胞(HAEC)と、TNF−αの存在下または非存在下で3日間にわたってトランスウェル中で共培養した。その後、E−セレクチン、V−CAMおよびI−CAMの細胞表面発現を、FACs分析または免疫染色によって測定した(図1A)。72時間後に、TNF−αは、非活性化コントロールと比較して、MultiStemの非存在下において3種全てのマーカーの高レベルを誘導した。しかし、本発明者らは、MultiStemの存在下で、E−セレクチン(図1B)(p=0.0149)およびV−CAM(p=0.0037)の表面発現を有する細胞数が、有意に低下することを見いだした(図1B)。さらに、I−CAMの細胞表面発現のレベルは、MultiStemの最高用量において低下した(p=0.001)(図1C)。MultiStemによる細胞表面接着分子のアップレギュレーションの調節は、細胞用量依存性であり、MultiStemの濃度が減少するにつれて低下し、異なるドナーに由来するMultiStemで再現性がある(データは示さず)。この効果がTNF−αに特異的であったのか否かを調べるために、この実験を、インターロイキン1β(Il−1β)を使用して反復した。TNF−αでの結果と同様に、MultiStemとの共培養は、Il−1βで活性化した場合にコントロールと比較して細胞表面への接着分子(E−セレクチン、V−CAMおよびI−CAM)のアップレギュレーションを阻害した(図2B)。
【0192】
次に、MultiStemの存在下での細胞接着分子の表面発現のダウンレギュレーションが、大動脈内皮特異的応答であるか否か、または他の内皮細胞系がまた、同様の様式でMultiStemに応答するかを決定した。ヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)を、これら細胞が、HAECSに類似の様式でMultiStemに応答してTNF−α誘導性細胞接着分子の細胞表面発現をダウンレギュレートするかを調査するために試験した(図2A)。TNF−α誘導性E−セレクチン(p<0.0001)およびV−CAM(p<0.0001)をそれらの細胞表面に発現するHPMECの数は、MultiStemとの共培養後に低下した。同様に、I−CAM細胞表面発現はまた、最高用量のMultiStemと共培養した細胞において有意に低下した(p=0.028)(図2A)。これら実験は、トランスウェルにおいて行ったので、MultiStemと内皮細胞との間の直接相互作用は、MultiStemが内皮細胞接着マーカーの活性化を調節するために必要とされない。従って、これらのデータは、MultiStemから分泌された可溶性因子が、パラクリン様式で、内皮表面接着分子の発現を低下するように作用することを示唆する。
【0193】
(MultiStemは、接着分子の脱落を増大させないで、むしろ、接着分子RNA発現の誘導を妨げることによって機能する)
MultiStemが接着分子(例えば、E−セレクチン)の細胞表面発現を減少させ得る1つの考えられる機構は、上記細胞表面からのそれら分子の切断を増大させることである。上記細胞表面からの接着分子の切断は、メタロプロテアーゼ(例えば、TACE/ADAM17)を含む異なるプロテアーゼによって媒介される。以前の研究から、可溶性接着分子が病的であり得、好中球活性化に寄与し得ることが示唆された19、20。MultiStemでの処置を、これがE−セレクチン表面脱落を増大させることによってE−セレクチン表面発現を減少させるかどうかを決定するために試験した。MultiStemの存在下または非存在下で内皮細胞によって馴化培地へと分泌された可溶性E−セレクチンのレベルを、ELISAによって測定した。HAECまたはHPMECSのいずれかとのMultiStemの共培養物から回収された馴化培地中では、sE−セレクチン濃度において増大は見いだされなかった(図3A,データは示さず)。逆に、可溶性E−セレクチンの減少が、最高の比でMultiStemと共培養したTNF−α活性化HAEC(p<0.001)およびHPMEC(p<0.001)に由来する培地中で見いだされた。このことは、E−セレクチンの表面発現の減少が、可溶性E−セレクチンの脱落におけるその後の低下とともに、減少した表面発現の結果であることを示唆する(図3A)。従って、E−セレクチンの表面発現における減少は、上記細胞表面からのこの分子の切断の増大に起因せず、このことは、内皮細胞の表面での細胞接着分子の減少が、これら分子のタンパク質分解切断の結果ではないことを意味する。
【0194】
細胞表面接着分子であるE−セレクチン、V−CAMおよびI−CAMは全て、炎症性サイトカイン(例えば、TNF−α)で処理された場合に、内皮細胞において転写が活性化されるので、MultiStemが転写レベルにおいてこれら接着分子の制御を調節させ得るかどうかを決定した(図3)。内皮細胞(HAECS)を、TNF−αの存在下または非存在下で72時間にわたって、MultiStemと共培養した。その後、上記内皮細胞からRNAを単離し、cDNAへと逆転写した。次いで、定量的PCRを、E−セレクチン、V−CAM、I−CAMおよびGAPDHに対するプライマーを使用して行った。mRNAの発現レベルを、全てGAPDHレベルに対して正規化した(図3B)。これらの結果は、E−セレクチン、V−CAM、およびI−CAMのmRNAレベルが、MultiStemの存在下で低下することを示しており、このことは、MultiStemが、これら遺伝子のTNF−αによるアップレギュレーションを阻害することを示唆する。類似の結果が、MultiStemを肺内皮細胞(HPMEC,データは示さず)と共培養した場合に認められた。TNF−αによるV−CAM、I−CAMおよびE−セレクチンの転写活性化は、NF−κB依存性である。このことは、MultiStemが、あるレベルにおいてNF−κBシグナル伝達を調節し得ることを示唆する。
【0195】
(MultiStemとは異なり、MSCは、細胞接着分子発現を有意に調節しない)
他の骨髄由来幹細胞はまた、T細胞増殖を妨げ、ナチュラル・キラー細胞機能を抑制し、免疫障害(例えば、クローン病および動物モデルにおけるGVHD)を調節することによって免疫機能を調節することが示されている。内皮細胞活性化に対するMultiStemの免疫調節効果がまた、他の幹細胞系によって生成されるかどうかを評価するために、内皮細胞を、TNF−αの存在下で72時間にわたってMSCと共培養し、その後、細胞接着分子の細胞表面発現を試験した。驚くべきことに、TNF−α誘導性の内皮細胞接着分子の表面発現は、未処理コントロールと比較して、MSCの存在下で変化しないのに対して、MultiStemは、接着分子発現を有意に低下させる(図4A〜C)。E−セレクチン表面発現の僅かな減少は、最高用量においてMSCで認められたが、この変化は、MultiStemの存在下で認められた低下より有意に小さかった(図4A)。従って、MSCは、TNF−αによる接着分子のアップレギュレーションを調節しない。これら結果は、MultiStemが、MSCからの機能的に異なる分泌プロフィールを有し、このことは、それらの生物学的活性の差異を反映していることを示す。
【0196】
(活性化内皮細胞とMultiStemとの共培養は、好中球結合を妨げる)
内皮細胞の細胞表面の細胞接着分子のアップレギュレーションは、免疫細胞(例えば、好中球)のローリングおよびしっかりとした接着にとって重要であることが示されている。MultiStemによる上記細胞表面への接着分子のアップレギュレーションの調節が、内皮細胞への好中球結合に影響を与えるに十分であるかどうかを決定するために、MultiStem処理した内皮細胞への好中球結合を、未処理の内皮細胞と比較した。内皮細胞を、コンフルエントな単層へと増殖させ、MultiStemの存在下または非存在下で、TNF−αで72時間にわたって処理した。好中球を、少なくとも2名の異なるドナーから単離し、LPS(0.1μg/ml)の添加によって活性化し、1分間にわたって内皮細胞とインキュベートした。複数回の洗浄後、内皮細胞および好中球の結合を、顕微鏡検査し(10×対物レンズ)、写真撮影した。上記内皮層に結合した好中球を、各視野で計数した(図5A)。ごく低レベルの活性化されたまたは活性化されていない好中球は、活性化されていない内皮細胞に結合した。しかし、TNF−αで活性化すると、有意な増大が、予測されるように、結合した好中球において認められた(図5B)。内皮細胞を、MultiStemと予備インキュベートした場合、好中球結合は、有意に低下した(p<0.0001)。これら結果は、内皮細胞での接着分子発現の変化が、好中球への内皮細胞層の結合特性を変化させるに十分であることを実証する。対照的に、上記TNF−α活性化の間のMSCと上記内皮細胞との共培養は、好中球結合を変化させなかった。さらに、TNF−αにより活性化された内皮細胞が、単独で、またはMSCとの共培養において好中球に曝された場合、より長く薄い細胞型へと内皮細胞形態が顕著に変化し、細胞−細胞接触が減少した(図5C)。TNF−α活性化した場合にMultiStemと共培養した内皮細胞において、上記細胞形態は、それほど変化せず、細胞−細胞接触は、維持される。これらデータは、MultiStemが活性化された内皮細胞を機能的に変化させることを示唆する。従って、MultiStemを、これがインビボでの好中球移動に影響を及ぼし得るかどうかを決定するために試験した。
【0197】
(MultiStemでの処置は、LAD誘導性急性心筋梗塞後の好中球浸潤を減少させる)
以前の動物研究から、直接の左前下行枝結紮によって誘導された心筋梗塞後の梗塞周辺部位へのMultiStemの直接注射が、改善された心機能を生じることが示されている14、15。この報告における結果は、MultiStemが、TNF−αの存在下で、接着分子(E−セレクチン、V−CAMおよびI−CAM)の細胞表面発現をダウンレギュレートし得ることを示す。これら分子は、上記内皮を介した好中球接着および溢出に重要である。虚血後の心臓への好中球浸潤は、有害であり得かつ虚血傷害後の心機能の低下を生じ得る10、11ので、MultiStem処置後の心機能における改善は、一部は、低下した炎症およびAMI後の梗塞周辺領域への好中球浸潤に起因するとの仮説が立てられた。この仮説を試験するために、心臓に存在する好中球のレベルを、ラットにおいて心筋梗塞誘導後に調べた。
【0198】
前壁の心筋梗塞を、左前下行枝動脈の結紮(LAD結紮)によってラットにおいて誘導した。LAD結紮後、1000万個のLewisラットMultiStem細胞またはPBS単独を、梗塞領域周辺の領域において心臓へ注入した。動物を、炎症応答がそのピークに達する、手術3日後に屠殺した。10匹の動物(5匹はビヒクル処置、5匹はMultiStem処置)の心臓から切片を作製し、エラスターゼに関して染色して、好中球浸潤の程度を決定した。好中球浸潤を、処置動物および未処置動物の両方について梗塞周辺領域内(梗塞組織の0.25〜0.5cm内)で調べた(図6)。
【0199】
AMIおよび細胞処置の3日後に、MultiStem処置動物は、ビヒクル処置コントロールと比較して、梗塞周辺領域への有意に少ない好中球浸潤を示した(1高倍率視野(Hpf)あたり12.185個の好中球 対 35.25個の好中球/Hpf,p=0.005823)(図6A〜C)。エラスターゼ陽性細胞を、動物1匹あたり4個の高倍率視野において計数し、平均した(図6B,C)。これら結果は、MultiStemが、AMI後の心臓に対して抗炎症効果を有することを確認する。これらデータはまた、培養中のTNF−α活性化の際の内皮細胞接着分子のアップレギュレーションにおいて観察された減少が、MultiStemの存在下での上記内皮細胞バリアの機能的変化へとインビボで翻訳され得ることを示唆する。
【0200】
(結論)
この研究において、MultiStemを、これが炎症刺激に応じて内皮細胞の活性化を調節し得るかどうかを決定するために試験した。MultiStemは、大規模に拡大した臨床グレードの複能性始原細胞(MAPC)である。その結果は、大動脈および肺両方の内皮細胞が、未処置コントロールと比較して、MultiStemと共培養したとき、TNF−αまたはIL−1βで活性化された場合に接着分子(E−セレクチン、V−CAMおよびI−CAM)の細胞表面発現を低下させたことを示す。さらに、上記実験は、E−セレクチン発現の減少が、上記細胞表面からのこの分子の低下脱落に起因しないことを実証する。むしろ、V−CAM、E−セレクチンおよびI−CAMのmRNA発現は、TNF−α処理内皮細胞単独と比較して低下しており、このことは、MultiStemが、炎症シグナルに応じてこれらタンパク質の転写の増大を調節していることを示唆する。さらに、活性化された内皮細胞への好中球接着がまた、内皮細胞がTNF−α活性化の間にMultiStemとインキュベートされた場合に減少することを観察した。これら変化がインビボで関連するかどうかを調べるために、MultiStemでの処置を試験して、上記処置が、虚血傷害後の炎症を調節するかどうかを決定した。実際には、好中球浸潤は、ビヒクルコントロールと比較して、ラットにおいてAMIの3日後に、MultiStem処置動物における梗塞周辺において低下した。
【0201】
MultiStemの存在下で活性化された内皮細胞上の細胞接着分子のダウンレギュレーションに関与する分子機構は、未だ特徴付けられていない。しかし、上記共培養研究をトランスウェルで行ったので、MultiStemは、1種以上の可溶性因子(これは、その後、これらインテグリンおよびセレクチンの転写を妨げるかダウンレギュレートするように内皮細胞に対して作用する)を上記培地へと分泌しているはずである。サイトカイン(例えば、TNF−αまたはIL−1β)の、これらのレセプターへの結合の際に、内部シグナル伝達の開始は、NF−κBシグナル伝達依存性転写を生じる。E−セレクチン、I−CAMおよびV−CAMの転写は、全てNF−κB依存性であり、このことは、MultiStemが、NF−κBシグナル伝達を調節し得ることを示唆する。
【0202】
MSCは、他の状況において免疫調節特性を有することが示されたが、MSCは、活性化内皮細胞の細胞接着分子アップレギュレーションを、これらの細胞と共培養された場合に、妨げなかった。V−CAMおよびI−CAMの発現は、MSCの任意の用量との共培養の際に、いかなるダウンレギュレーションをも示さなかった。最高用量のMSCにおいて、E−セレクチンは、未処理コントロールと比較して、上記細胞表面から中程度に低下した。しかし、E−セレクチン表面発現は、内皮細胞がMultiStemと共培養された場合より有意に高かった。さらに、活性化された内皮細胞をより低い用量でMSCと共培養した場合、E−セレクチンに対して何ら効果は認められなかった。これら結果は、いくつかの意味を有する。第1に、T細胞増殖を調節するためにMSCによって利用される機構は、内皮細胞表面マーカーをダウンレギュレートするためにMultiStemによって利用される機構とは異なり、このことは、幹細胞が、複数の経路を介して免疫機能を調節し得ることを示唆する。第2に、これら結果は、MultiStemおよびMSCが、異なる分泌プロフィールを有し、これらのプロフィールは、これら2つの細胞型の機能的活性の差異を反映していることを意味する。これら差異は、どの細胞型が最もよく種々の臨床適応症を潜在的に処置し得るか(各細胞型は、異なるクラスの適応症における使用に最もよく適している)を知らせ得る。これら幹細胞型とそれらの作用機構との間の差異へのさらなる研究は、これら課題を明らかにする一助となる。
【0203】
内皮細胞に対するMultiStemの効果は、AMIの状況において試験されてきたが、上記内皮へのリンパ球および白血球の接着は、炎症プロセスの重要な一部であり、従って、多くの障害(他の虚血性傷害(例えば、脳卒中)ならびに免疫障害(例えば、GVHD、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、および多発性硬化症)が挙げられる)において有害である。上記結果は、MultiStemが、2種の異なるサイトカイン(TNF−αおよびIl−1β)での活性化の際に、少なくとも2種の内皮細胞型(大動脈内皮細胞型および肺内皮細胞型)において細胞接着分子のアップレギュレーションを調節することを示す。この研究は、MultiStemの免疫調節活性が、複数の内皮細胞型および炎症シグナルに拡がることを示唆する。従って、MultiStemでの処置は、上皮を介した免疫細胞の浸潤が、増大した傷害および損傷を生じる障害において利益を付与し得る。
【0204】
(参考文献)
【0205】
【化1】

【0206】
【化2】

(実施例2)
(ダウンレギュレーションに関して増大する効力)
上記内皮細胞アッセイは、MultiStemと活性化された内皮細胞または活性化されたT細胞との共培養を模倣する、MultiStemの処置レジメンを同定するために使用されてきた。以前に、本発明者らは、MultiStemと活性化された内皮細胞との共培養が、上記内皮細胞アッセイにおけるMultiStemの抗炎症活性を誘導するために必要とされる(E−セレクチン、I−CAMおよびV−CAMのダウンレギュレーション)ことを見いだした。言い換えると、通常の培養条件下で増殖したMultiStemから回収された馴化培地は、TNF−aまたはサイトミックス(cytomix)での活性化後に、内皮細胞接着分子をダウンレギュレートするには不十分であった。しかし、本発明者らは、MultiStemを3日間にわたって「サイトミックス」(TNF−α、インターフェロン−γおよびインターロイキン1βが各々10ng/mlの混合物)で処理した実験を行った。本発明者らは、その後、この処理後のMultiStemから上記馴化培地を回収した。次いで、この馴化培地を、上記内皮細胞アッセイにおいてMultiStemの代替物として使用した(TNF−aまたはサイトミックスのいずれかで活性化した内皮細胞に、この馴化培地を添加し、2日または3日間培養した)。本発明者らは、馴化していない基礎培地または通常の条件下で培養したMultiStemから集めた培地とは異なり、この「サイトミックス」処理培地は、内皮細胞接着分子のアップレギュレーションを妨げるに十分であることを見いだした。この培地は、MultiStemと上記活性化された内皮細胞との共培養物の代わりとなり得た。本発明者らは、その後、この培地を利用して、この培地がT細胞増殖アッセイにおいてMultiStemとT細胞との共培養物の代わりにし得るかどうかを試験し、未処理MultiStemからの馴化培地とは異なり、それがCD3/CD28によって誘導されるT細胞増殖を妨げるに十分であることを見いだした。
【0207】
従って、本発明者らは、MultiStemのサイトミックスでの処理が、T細胞活性化および内皮細胞接着分子アップレギュレーションを妨げるために必要とされるMultiStemの上記抗炎症活性を誘導するに十分であると結論づけた。これは、上記内皮細胞アッセイを使用して発見された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(1)白血球溢出を低下させる、(2)血管内皮または単離された内皮細胞への白血球接着を低下させる、(3)内皮細胞のサイトカイン媒介性活性化を低下させる、(4)内皮細胞での1種以上の細胞接着分子の発現を低下させる、のうちの1つ以上の所望の効力を有する細胞を得る方法であって、該方法は、
上記(1)〜(4)の効果のうちの1つ以上について所望の効力を有する細胞を評価し、選択する工程であって、該細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1、またはrox−1のうちの1種以上を発現し、そして/または内胚葉、外胚葉、および中胚葉の胚葉のうちの少なくとも2種以上の細胞型へと分化し得る非胚性の非生殖細胞である、工程
を包含する、方法。
【請求項2】
被験体における炎症を処置する方法であって、該方法は、該被験体に、治療上有効な量においてかつ治療結果を達成するに十分な時間にわたって、請求項1に記載の選択された細胞を投与する工程を包含する、方法。
【請求項3】
細胞バンクを構築する方法であって、該方法は、請求項1に記載の選択された細胞を、被験体への将来の投与のために、拡大しかつ保存する工程を包含する、方法。
【請求項4】
創薬の方法であって、該方法は、請求項1に記載の選択された細胞と、因子とを接触させて、該細胞が事象(1)〜(4)のうちのいずれかをもたらす能力に対する該因子の効果を評価する工程、を包含する、方法。
【請求項5】
以下:
(1)白血球溢出を低下させる、(2)血管内皮または単離された内皮細胞への白血球接着を低下させる、(3)内皮細胞のサイトカイン媒介性活性化を低下させる、(4)内皮細胞での1種以上の細胞接着分子の発現を低下させる、のうちの1つ以上を達成するための所望の効力について評価されかつ選択された細胞を含む組成物であって、
該細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1、またはrox−1のうちの1種以上を発現し、そして/または内胚葉、外胚葉、および中胚葉の胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化し得る非胚性の非生殖細胞である、
組成物。
【請求項6】
前記サイトカインは、TNF−αおよびIL−1からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
サイトカイン媒介性活性化は、前記内皮細胞において、E−セレクチン、P−セレクチン、VCAM−1、ICAM、およびVCAM−2のうちの1種以上の発現の増大を生じる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記内皮細胞において発現が低下させられる前記細胞接着分子は、E−セレクチン、P−セレクチン、VCAM−1、ICAM、およびVCAM−2のうちの1種以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
以下:
1)白血球溢出を低下させる、(2)血管内皮または単離された内皮細胞への白血球接着を低下させる、(3)内皮細胞のサイトカイン媒介性活性化を低下させる、(4)内皮細胞での1種以上の細胞接着分子の発現を低下させる、のうちの1つ以上をもたらすための細胞の効力を増大させる方法であって、該方法は、細胞と、IFN−γ、IL−1β、およびTNF−αとを接触させて、効果(1)〜(4)のうちの1つ以上を達成する細胞を産生する工程
を包含し、該細胞は、oct4、テロメラーゼ、rex−1、またはrox−1のうちの1種以上を発現し、そして/または内胚葉、外胚葉、および中胚葉の胚葉のうちの少なくとも2種の細胞型へと分化し得る非胚性の非生殖細胞である、
方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−500012(P2013−500012A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521750(P2012−521750)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/042726
【国際公開番号】WO2011/011500
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VELCRO
【出願人】(510012658)エイビーティー ホールディング カンパニー (5)
【Fターム(参考)】