説明

白金触媒前駆体の製造方法

本発明は、白金担持触媒の前駆体の製造方法に関する。本発明の目的は、比較的高い活性を有する白金担持触媒が得られる白金触媒を製造する方法を提供することにある。この目的のため、本発明の方法は、次のステップを含む;a)空孔を有する担体材料に亜硫酸白金酸を含浸させ、b)含浸後のゼオライト材料を保護ガス中で焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、白金担持触媒の前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固状担体の表面に比較的小さい貴金属粒子が担持された貴金属担持触媒は、様々な遊離体を所望の中間産物若しくは最終産物に変化させるため、又は、異なる石油処理分画を化学的に精製するために、特に合成化学や石油化学における工程で用いられる。さらに、貴金属担持触媒は、具体的には、燃焼機関からの排ガスの浄化における酸化触媒としても用いられる。
【0003】
貴金属が付着して担持された触媒は、通常、多段階を経る方法によって製造される。例えば、第1段階では、担体材料に所望の貴金属の貴金属塩溶液を含浸させる。担体材料から溶媒を取り除いた後の次の段階では、さらに担体材料が次の段階において焼成され、貴金属が熱処理によって酸化物に変化し得る。そして、さらなる段階では、貴金属成分は、例えば、水素、一酸化炭素、又は湿式化学還元剤によって、触媒として活性であり高度に分散された酸化状態0の貴金属へと変化する。貴金属担持触媒は、最終段階にて、例えばオイルによる湿式安定化、又は、付着した貴金属粒子の事前酸化(不動態化)による安定化により、貯蔵目的のために安定化され得る。
【0004】
貴金属担持触媒の活性は、通常、貴金属粒子の大きさに影響される。従来知られている貴金属担持触媒は、触媒として活性な表面における還元に付随して起こる、貴金属粒子のより大きなユニットへの焼結が原因となって、使用中に活性が低下する。所謂この熱劣化プロセスの速度は、触媒が使用される温度水準の影響を受ける。正確には、使用温度が前記劣化プロセスの速度を増加させ、焼結傾向の増大に伴って担体材料表面における貴金属粒子の移動性が増大することが原因であると仮定されている。
【0005】
高温における使用時に高い活性を有し、熱劣化プロセスがごくわずかである触媒を製造するために、既に従来数多くの試みが行われてきた。Kubanekら(非特許文献1)は、例えば、MFI(SH27)の構造タイプのゼオライトにPt前駆体化合物Pt(NH34(NO32を含浸させ、そして、前駆体化合物が付着したゼオライトを保護ガス雰囲気中で焼成するという製造について記載している。Pt(NH34(NO32が用いられるとき、自動還元が比較的高い温度において起こる。しかしながら、このようにして製造された白金担持触媒は、比較的低活性であり、熱劣化を比較的受けやすい傾向にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Microporous and Mesoporous Materials 77 (2005) 89-96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ、本発明の課題は、詳しくは、従来知られていた白金触媒と比較して高い活性を有する白金担持触媒を製造できる白金触媒前駆体の製造方法を提供することにある。
【0008】
さらには、本発明の課題は、比較的低い熱劣化傾向を示し、そのため長い耐用期間にわたりほとんど変化しない触媒活性を維持する白金担持触媒を製造することができる、白金触媒前駆体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、
a)空孔を有する担体材料に亜硫酸白金酸を含浸させること、
b)含浸後の担体材料を保護ガス中で焼成すること、
のステップを含む方法によって達成される。
【0010】
驚くべきことに、本発明の方法によって、白金成分が酸化状態0へ変化された後に優れた活性を特徴とする白金担持触媒をもたらす白金触媒前駆体を得ることができることが見出された。
【0011】
さらに、驚くべきことに、空孔を有する担体材料に亜硫酸白金酸を含浸させ、保護ガス雰囲気下で含浸後の担体材料を焼成することにより、白金触媒前駆体を得ることができ、白金成分の酸化状態0への還元により、比較的高い温度において非常に低い熱劣化傾向を示し比較的長い耐用期間にわたり触媒活性がほとんど変化せず維持される白金担持触媒を製造できるということが達成された。
【0012】
本発明の方法によって製造された白金触媒のこれらの特徴は、特に高温での使用中において耐えるために提供され、従来の方法で製造された対応する白金触媒、例えば酸化触媒においては、非常に焼結しやすいという傾向に伴って起こる主に高温による白金の高移動性が原因で、急速な熱劣化が生じやすい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の方法によって製造された本発明の第1の触媒(1)及び第1の比較触媒(2)のXRDスペクトル。
【図2】時間に対する加熱段階における第1の触媒(四角)、劣化後の第1の触媒(丸)、及び第1の比較触媒(三角)のプロパン転化率。
【図3】時間に対する一定温度段階(550℃)における第1の触媒(四角)、第1の比較触媒(三角)のプロパン転化率。
【図4】温度に対する冷却段階における第1の触媒(四角)、第1の比較触媒(三角)のプロパン転化率。
【図5】本発明の方法によって製造された本発明の第2の触媒(11)、第2及び第3の比較触媒のXRDスペクトル(一部)。
【図6】温度に対する加熱段階における本発明の第2の触媒(11)、第2の比較触媒(13)及び第3の比較触媒(12)のプロパン転化率。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法によって、白金触媒前駆体、及び、続く還元から最終的に白金担持触媒、即ち、酸化状態0のPtを有する白金担持触媒が製造され得る。白金触媒は、酸化状態0のPtに加え、いくらかの酸化状態を有するか若しくは酸化状態0の、好ましくは貴金属の1種又はそれ以上のさらなる遷移金属を含む金属触媒であってもよく、また、触媒上活性な金属として酸化状態0のPtのみを含む純白金触媒であってもよい。仮に、Ptに加えて、酸化状態0のさらなる遷移金属も白金触媒に存在すると、金属は、純金属粒子状で、又は、合金粒子状で存在し得る。本発明の範囲内で、Ptに加え、例えばAgのような、少なくとも1種の酸化状態0のさらなる遷移金属をも含む白金触媒を製造するためには、例えば、金属成分が酸化状態0に変化する前に、空孔を有する担体材料に亜硫酸白金酸及びさらなる対応する遷移金属化合物を含浸させることができる。
【0015】
本発明の方法によって得られる触媒は、金属としてPtのみが含まれている触媒に限定されないということが指摘される。白金に加え、還元が困難な金属酸化物も存在することがあり得る。
【0016】
本発明の方法の1ステップでは、空孔を有する担持材料に亜硫酸白金酸が含浸される。亜硫酸白金酸(白金サルファイトアシッド)は、従来知られており、しばしば“PSA”と称される。亜硫酸白金酸は、化学情報番号(CAS)61420-92-6に指定されており、例えば、ヘレウス社(ハナウ ドイツ)から10.4%の亜硫酸白金酸溶液として、市場で自由に入手可能である。
【0017】
本発明の方法では、亜硫酸白金酸は、好ましくは、0.01〜15重量%のPt(金属)を含む亜硫酸白金酸の水溶液の態様で用いられる。本発明の方法では、0.1〜8重量%のPt(金属)を含む亜硫酸白金酸の水溶液の態様で亜硫酸白金酸を用いることがより好ましく、さらに好ましくは、1〜6重量%のPt(金属)を含む亜硫酸白金酸の水溶液の態様、特に好ましくは、2.5〜3.5重量%のPt(金属)を含む亜硫酸白金酸の水溶液の態様で用いる。最も好ましくは、本発明の方法において、亜硫酸白金酸を2.8〜3.3重量%のPt(金属)を含む亜硫酸白金酸の水溶液の態様で用いる。
【0018】
本発明の方法の好ましい実施形態によれば、該方法は、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分を酸化状態0に変化させるステップをさらに含む。亜硫酸白金酸が含浸された担体材料は、焼成後に還元ステップを受ける。本発明の方法が、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分を酸化状態0に変化させる上記ステップを有する場合、本発明の方法は、酸化状態0のPtに加えて、1種又はそれ以上の、酸化状態0のさらなる遷移金属、特に貴金属を白金触媒が含み得る白金担持触媒の製造方法に関する。
【0019】
焼成された亜硫酸白金酸の白金成分は、湿式化学的経路、即ち還元作用を有する溶液によっても、また、乾式化学的経路、即ち還元作用を有するガスによっても酸化状態0へと変化され得る。焼成された亜硫酸白金酸の白金成分は、乾式化学的経路によって酸化状態0へと変化されることが、本発明においては好ましい。結果として、比較的高い温度で単純な作業手順において白金成分の迅速且つ完全な還元を促進する還元を行えるという可能性がある。
【0020】
本発明の方法のより好ましい実施形態において、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分が低くとも100℃で酸化状態0に変化することが提供される。これに関連して、白金成分が100〜400℃の温度で還元されることが好ましく、200℃〜350℃の温度で還元されることがより好ましく、275℃〜325℃の温度で還元されることがさらに好ましく、300℃の温度で還元されることが特に好ましい。
【0021】
上述したように、本発明では、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分が乾式化学的経路によって酸化状態0へと変化されることが好ましい。原則として、例えば、水素、一酸化炭素、エチレン又はメタノール、エタノール等のような、白金成分が還元され得る、ガス状又はガス状になり得るどのような還元剤でも用いられ得る。本発明の特に好ましい実施形態においては、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分が水素によって酸化状態0へと変化する。
【0022】
還元剤として水素が用いられた場合、例えば窒素のような不活性ガス、又は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、及び/又はキセノンのような希ガスで水素が希釈されることが好ましく、なかでも窒素は、特にコスト上有利であり、従って本発明において好ましい。例えば、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分を酸化状態0へと変化させるのは、好ましくは0.1重量%〜100重量%の水素、より好ましくは3〜5重量%の水素を含む雰囲気中での還元によるものであることが好ましく、そして、残部が不活性ガスであることが本発明では好ましい。
【0023】
例えば、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分を酸化状態0へと変化させるのは、10重量%〜60重量%の水素、好ましくは15〜30重量%の水素を含む雰囲気中での還元によるものであり、残部が不活性ガスであることが本発明ではさらに好ましい。
【0024】
本発明の方法の結果得られた白金触媒の硫黄含量を極力少なくするため、含浸後の担体材料を保護ガス中で焼成し、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分を酸化状態0へと変化させるステップを複数回行うことが、本発明の方法の好ましい実施形態において提供され得る。例えば、上記の2つのステップは、それぞれ2、3、4、又は5回実施され、これにより白金成分が各焼成ステップの後で酸化状態0に変化する。
【0025】
本発明の範囲内で好ましくは、還元は、短くとも1分間の持続時間で実行し、好ましくは短くとも30分間、さらに好ましくは短くとも1時間、最も好ましくは短くとも3時間であり、4又は5時間の持続時間が最も好ましい。
【0026】
本発明の範囲内では、原則として、空孔を有する担持材料には、当業者により知られたどのような方法によっても従来の技術により亜硫酸白金酸が含浸され、該担持材料が適切なものになると考えられる。本発明の好ましい方法の例としては、担体材料の上に亜硫酸白金酸を噴霧すること、担体材料を亜硫酸白金酸溶液に浸漬すること、又は、空孔容積に相当する容量の溶液を担体材料に加える、いわゆる初期湿潤法−インシピエントウェットネス法(空孔充填法)がある。
【0027】
亜硫酸白金酸溶液が噴霧によって担体材料の上に塗布された場合、噴霧は、本発明において、当業者に知られた従来技術によるどのような噴霧方法によっても実施できる。
【0028】
担体材料を溶液に浸漬することにより亜硫酸白金酸溶液が塗布された場合、この操作は、最初に担体材料を亜硫酸白金酸溶液に浸漬し、そして次に例えば吸引により、担体材料の表面に接することなく溶液を取り除くことにより実施される。
【0029】
本発明においては、初期湿潤法により担体材料に亜硫酸白金酸を含浸させることが特に好ましい。該方法では、空孔を有する担体材料が含浸剤、つまり亜硫酸白金酸の溶液を取り込み、溶液の容積が担体材料の空孔容積と一致し、そのため、溶液が取り込まれた後、ゼオライト材料が外見上は乾燥し且つ流動性がある。初期湿潤法は、よく知られた空孔充填方法として当業者にも知られている。
【0030】
本発明の空孔を有する担体材料は、本発明の課題に適し当業者に知られたどのような担体材料であってもよい。空孔を有する担体材料は、好ましくは、空孔を有する無機の担体材料である。
【0031】
空孔を有する担体材料は、単分散性又は多分散性の空孔分布を有する担体材料であることが好ましい。
【0032】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、担体材料が、酸化チタニウム;γ−、θ−、又はΔ−酸化アルミニウム;酸化セリウム;酸化ケイ素;酸化亜鉛;酸化マグネシウム;酸化アルミニウムケイ素;炭化ケイ素及びケイ酸マグネシウムからなる群より選択された材料、又は、上記材料の2種又はそれ以上の混合物を含む。さらに好ましくは、担体材料は、上記材料の1種又は混合物である。
【0033】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、担体材料がゼオライトであることが提供される。本発明の範囲内で示されるゼオライト材料は、国際鉱物学協会(D.S. Coombsら, Can. Mineralogist, 35, 1997, 1571)の定義に従い、四面体同士が結合した構造により特徴付けられる構造を有する結晶性の物質である。各四面体は、中央の元素を取り囲む4つの酸素原子からなり、その構造は、水分子又は頻繁に交換し得る格子外カチオンによって通常は占拠されている孔路状及び空隙状の開口空洞を含んでいる。材料の孔路は、ゲスト化合物が接近できる程度に十分に大きい。水和した材料では、通常約400℃より低い温度で脱水が起こり、該脱水は、大部分が可逆的である。
【0034】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、ゼオライト材料は、ミクロ孔又はメソ孔のゼオライト材料である。“ミクロ孔ゼオライト材料”及び“メソ孔ゼオライト材料”との用語は、IUPAC(国際純正・応用化学連合)に従った多孔質固体の階級に沿って、それぞれ、2nmより小さい直径の空孔を有するゼオライト材料、及び、2nmから50nmの直径の空孔を有するゼオライト材料であると理解される。
【0035】
本発明の方法で用いられるゼオライト材料は、好ましくは、次の構造タイプの1種に相当し得る:ABW, ACO, AEI, AEL, AEN, AET, AFG, AFI, AFN, AFO, AFR, AFS, AFT, AFX, AFY, AHT, ANA, APC, APD, AST, ASV, ATN, ATO, ATS, ATT, ATV, AWO, AWW, BCT, BEA, BEC, BIK, BOG, BPH, BRE, CAN, CAS, CDO, CFI, CGF, CGS, CHA, CHI, CLO, CON, CZP, DAC, DDR, DFO, DFT, DOH, DON, EAB, EDI, EMT, EON, EPI, ERI, ESV, ETR, EUO, EZT, FAR, FAU, FER, FRA, GIS, GIU, GME, GON, GOO, HEU, IFR, IHW, ISV, ITE, ITH, ITW, IWR, IWV, IWW, JBW, KFI, LAU, LEV, LIO, LIT, LOS, LOV, LTA, LTL, LTN, MAR, MAZ, MEI, MEL, MEP, MER, MFI, MFS, MON, MOR, MOZ, MSE, MSO, MTF, MTN, MTT, MTW, MWW, NAB, NAT, NES, NON, NPO, NSI, OBW, OFF, OSI, OSO, OWE, PAR, PAU, PHI, PON, RHO, RON, RRO, RSN, RTE, RTH, RUT, RWR, RWY, SAO, SAS, SAT, SAV, SBE, SBS, SBT, SFE, SFF, SFG, SFH, SFN, SFO, SGT, SIV, SOD, SOS, SSY, STF, STI, STT, SZR, TER, THO, TON, TSC, TUN, UEI, UFI, UOZ, USI, UTL, VET, VFI, VNI, VSV, WEI, WEN, YUG 及び ZON。なかでもベータ(BEA)構造タイプのゼオライト材料が特に好ましい。上記の3文字コードの命名は、“ゼオライト命名法のIUPAC委員会”のものと対応する。
【0036】
本発明においては、好ましくは、ゼオライト名が特定構造タイプを示していない(http://www.iza-structure.org/databasesを参照)、“MCM”の文字名でまとめられた族のメソ孔ゼオライト材料の一部が挙げられる。MCM-41又はMCM-48と称されるメソ孔ケイ酸塩が本発明において特に好ましい。MCM-48は、メソ孔の3D構造を有し、この構造を通して孔における触媒的に活性な金属がとりわけ容易に接近できる。MCM-41は、特に好ましく、単一サイズのメソ孔の六方晶配列を有する。MCM-41ゼオライト材料は、好ましくは100を超え、より好ましくは200を超え、さらに好ましくは300を超えるSiO2/Al23モル比を有する。本発明の範囲内で用いられるさらに好ましいメソ孔ゼオライト材料は、文字通り、MCM-1, MCM-2, MCM-3, MCM-4, MCM-5, MCM-9, MCM-10, MCM-14, MCM-22, MCM-35, MCM-37, MCM-49, MCM-58, MCM-61, MCM-65 又は MCM-68 と称されるものである。
【0037】
本発明の方法においてどのゼオライト材料が用いられるかは、主に、本発明の方法によって製造される触媒の使用目的による。使用目的に対応して、例えば、構造タイプ、空孔の直径、孔路の直径、化学的配置、イオン交換性だけでなく活性特性といった、ゼオライト材料の特性を調整する数多くの手法が従来知られている。
【0038】
本発明の方法において用いられるゼオライト材料としては、例えば、ケイ酸塩、ケイ酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸ケイ素アルミニウム、リン酸アルミニウム金属、リンケイ酸アルミニウム金属、ケイ酸アルミニウムガリウム、ケイ酸ガリウム、ホウ酸アルミニウムケイ酸、ホウケイ酸塩、又はケイ酸チタニウムが挙げられ、なかでもケイ酸アルミニウム及びケイ酸チタニウムが特に好ましい。
【0039】
“ケイ酸アルミニウム”との用語は、国際鉱物学協会(D.S. Coombsら, Can. Mineralogist, 35, 1997, 1571)の定義に従い、一般式Mn+[(AlO2x(SiO2yxH2Oの空間的ネットワーク構造を有する結晶性物質であり、共通の酸素原子によって結合されたSiO4/2及びAlO4/2四面体で構成され、規則的な3次元ネットワークを形成している。Si/Al=y/xの原子比は、隣り合う負に荷電した2つのAlO4/2四面体が互いに隣り合うことを妨げるという、所謂“レーベンシュタイン規則”に従い、常に1以上である。低いSi/Al原子比で金属が交換できる、より多くのサイトがあることも可能であるが、ゼオライトが徐々に熱的に不安定になる。
【0040】
本発明の範囲内において、上記したゼオライト材料は、例えばNa及び/又はKの態様、アルカリ土類の態様、アンモニウムの態様などのアルカリの態様でも、又はHの態様でも用いられ得る。さらに、混合された態様でゼオライト材料を用いることも可能である。
【0041】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、ステップa)及びステップb)の間に乾燥ステップを行うことが提供され得る。
【0042】
乾燥ステップは、含浸と焼成との間において実施する。乾燥温度は、好ましくは25℃及び250℃の間、より好ましくは50℃及び200℃の間、さらに好ましくは100℃及び180℃の間、特に好ましくは120℃である。
【0043】
乾燥は、好ましくは1分間を超える期間の間、より好ましくは1時間を超える期間の間、さらに好ましくは5時間を超える期間の間、よりさらに好ましくは12時間を超える期間の間実施され、なかでも10時間の乾燥時間が特に好ましい。これに関連して、乾燥ステップの持続時間が48時間の期間を超えず、好ましくは24時間の期間を超えないことにより、さらに利点がある。
【0044】
“焼成”との用語は、一般的には、例えば処理された材料またはその成分を物質的に又は構造的に変化させる目的で、高温で加熱することを意味する。例えば、熱分解、相転移、又は揮発性物質の除去が、焼成によって成し遂げられ得る。
【0045】
本発明の範囲内において、焼成は、好ましくは300℃〜1200℃の温度範囲で、より好ましくは300℃〜1000℃の温度範囲で、さらに好ましくは400℃〜950℃の温度範囲で、特に好ましくは700℃〜900℃の温度範囲で、最も好ましくは730℃〜900℃の温度範囲で実施される。
【0046】
焼成は、低くとも750℃の温度で実施されることが具体的にはさらに好ましい。低くとも750℃の温度での焼成の間、白金及び空孔を有する担体材料の重量に対して例えば3重量%の高い白金付着量であるにも関わらず、ほとんど硫黄のない白金触媒が、本発明の方法によって得られる。このように、本発明の方法によって、例えば、白金及び担体材料の重量に対して1〜5重量%の白金を含み、白金及び担体材料の重量に対して0.004重量%未満の硫黄含有量を有する白金触媒が製造され得る。硫黄は、貴金属に対して特に触媒毒として作用することから、硫黄含有量が低いことは、非常に利点がある。
【0047】
焼成中の加温速度は、好ましくは0.5℃/分〜5℃/分、より好ましくは1℃/分〜4℃/分、そして特に好ましくは2℃/分である。
【0048】
最高温度における焼成の持続時間は、好ましくは1分間〜48時間の範囲であり、より好ましくは30分間〜12時間の範囲であり、特に好ましくは1時間〜7時間の範囲であり、なかでも5時間又は6時間の焼成持続時間が特に好ましい。
【0049】
本発明の範囲内において、焼成は、保護ガス中で実施される。保護ガスは、例えば意図しない化学反応を防ぐために、不活性な保護雰囲気として用いられ得るガス又はガス混合物である。本発明の範囲内において、特に、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、又はキセノンといった希ガスが、又は上記の2種又はそれ以上の混合物が保護ガスとして用いられ、なかでもアルゴンが保護ガスとして特に好ましい。希ガスの他にも、又は希ガスに加えて、例えば窒素も保護ガスとして用いられ得る。
【0050】
本発明により提供される代表的な方法は、
a)空孔を有する担体材料、具体的にはゼオライト材料、具体的にはBEAの構造タイプを有するゼオライト材料又はMCM族のゼオライト材料、好ましくはケイ酸アルミニウム又はケイ酸チタニウムゼオライト材料に、亜硫酸白金酸、具体的には亜硫酸白金酸溶液を、好ましくは、初期湿潤法によって含浸させること、
b)好ましくは750℃を超えて、保護ガス、好ましくはアルゴン中で、含浸後の担体材料を焼成すること、
c)任意的に、好ましくは水素による還元によって、好ましくは低くとも100℃の温度で、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分を酸化状態0へ変化させること、
のステップを有する。
【0051】
さらには、本発明は、本発明の方法で得ることができる触媒前駆体又は触媒に関する。本発明の方法によって、従来知られている対応する白金触媒と比較して、優れた活性だけでなく、熱劣化に対して優れた耐性により特徴付けられる白金担持触媒を得ることができ、又は、上述した利点を有する白金触媒へ変化し得る触媒前駆体を得ることができる。
【0052】
具体的には、本発明は、
a)空孔を有する担体材料、具体的にはゼオライト材料、好ましくはBEAの構造タイプを有するゼオライト材料又はMCM族のゼオライト材料に、亜硫酸白金酸を、初期湿潤法によって含浸させること、
b)120℃の温度で12時間の期間の間、含浸後の担体材料を乾燥すること、
c)5時間の期間の間790℃で、アルゴン中で、含浸及び乾燥された担体材料を焼成すること、
のステップを含む方法によって得ることができる触媒前駆体に関する。
【0053】
具体的には、さらに本発明は、
a)空孔を有する担体材料、具体的にはゼオライト材料、好ましくはBEAの構造タイプを有するゼオライト材料又はMCM族のゼオライト材料に、亜硫酸白金酸を、初期湿潤法によって含浸させること、
b)120℃の温度で12時間の期間の間、含浸後の担体材料を乾燥すること、
c)5時間の期間の間790℃で、アルゴン中で、含浸及び乾燥された担体材料を焼成すること、
d)300℃の温度で5時間の期間の間、5容量%の水素を含む窒素のガスによって、白金成分を還元することにより、焼成された亜硫酸白金酸の白金成分を酸化状態0に変化させること、
のステップを含む方法によって得ることができるPt担持触媒に関する。
【0054】
さらに本発明は、触媒のXRDスペクトルにおいて白金元素のシグナルがなく、酸化状態0の白金である、空孔を有する担体材料、好ましくはゼオライト材料を含む触媒に関する。そのような触媒は、本発明の方法によって製造され得る。触媒のXRDスペクトルにおいてPtシグナルがないことは、担体材料の外表面に、白金回折像によってX線照射で回折できる大きさの金属粒子がほぼないか又は全くないことによると推測される。
【0055】
本発明の触媒のゼオライト材料は、国際鉱物学協会(D.S. Coombsら, Can. Mineralogist, 35, 1997, 1571)の定義に従い、四面体同士が結合した構造により特徴付けられる構造を有する結晶性の物質であると解釈され得る。各四面体は、中央の元素を取り囲む4つの酸素原子からなり、その構造は、水分子又は頻繁に交換し得る格子外カチオンによって通常は占拠されている孔路状及び空隙状の開口空洞を含んでいる。材料の孔路は、ゲスト化合物が接近できる程度に十分に大きい。水和した材料では、通常約400℃より低い温度で脱水が起こり、該脱水は、大部分が可逆的である。
【0056】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、ゼオライト材料は、ミクロ孔又はメソ孔のゼオライト材料である。“ミクロ孔ゼオライト材料”及び“メソ孔ゼオライト材料”との用語は、IUPAC(国際純正・応用化学連合)に従った多孔質固体の階級に沿って、それぞれ、2nmより小さい直径の空孔を有するゼオライト材料、及び、2nmから50nmの直径の空孔を有するゼオライト材料であると理解される。
【0057】
本発明の触媒のゼオライト材料は、好ましくは、次の構造タイプの1種に相当し得る:
ABW, ACO, AEI, AEL, AEN, AET, AFG, AFI, AFN, AFO, AFR, AFS, AFT, AFX, AFY, AHT, ANA, APC, APD, AST, ASV, ATN, ATO, ATS, ATT, ATV, AWO, AWW, BCT, BEA, BEC, BIK, BOG, BPH, BRE, CAN, CAS, CDO, CFI, CGF, CGS, CHA, CHI, CLO, CON, CZP, DAC, DDR, DFO, DFT, DOH, DON, EAB, EDI, EMT, EON, EPI, ERI, ESV, ETR, EUO, EZT, FAR, FAU, FER, FRA, GIS, GIU, GME, GON, GOO, HEU, IFR, IHW, ISV, ITE, ITH, ITW, IWR, IWV, IWW, JBW, KFI, LAU, LEV, LIO, LIT, LOS, LOV, LTA, LTL, LTN, MAR, MAZ, MEI, MEL, MEP, MER, MFI, MFS, MON, MOR, MOZ, MSE, MSO, MTF, MTN, MTT, MTW, MWW, NAB, NAT, NES, NON, NPO, NSI, OBW, OFF, OSI, OSO, OWE, PAR, PAU, PHI, PON, RHO, RON, RRO, RSN, RTE, RTH, RUT, RWR, RWY, SAO, SAS, SAT, SAV, SBE, SBS, SBT, SFE, SFF, SFG, SFH, SFN, SFO, SGT, SIV, SOD, SOS, SSY, STF, STI, STT, SZR, TER, THO, TON, TSC, TUN, UEI, UFI, UOZ, USI, UTL, VET, VFI, VNI, VSV, WEI, WEN, YUG 及び ZON。なかでもベータ(BEA)構造タイプのゼオライト材料が特に好ましい。上記の3文字コードの命名は、“ゼオライト命名法のIUPAC委員会”のものと対応する。
【0058】
本発明においてさらに好ましくは、ゼオライト名が特定構造タイプを示していない(http://www.iza-structure.org/databasesを参照)、“MCM”の文字名でまとめられた族のメソ孔ゼオライト材料の一部が挙げられる。MCM-41又はMCM-48と称されるメソ孔ケイ酸塩が本発明において特に好ましい。MCM-48は、メソ孔の3D構造を有し、この構造を通して孔における触媒的に活性な金属がとりわけ容易に接近できる。MCM-41は、特に好ましく、単一サイズのメソ孔の六方晶配列を有する。MCM-41ゼオライト材料は、好ましくは100を超え、より好ましくは200を超え、さらに好ましくは300を超えるSiO2/Al23モル比を有する。本発明の範囲内で用いられるさらに好ましいメソ孔ゼオライト材料は、文字通り、MCM-1, MCM-2, MCM-3, MCM-4, MCM-5, MCM-9, MCM-10, MCM-14, MCM-22, MCM-35, MCM-37, MCM-49, MCM-58, MCM-61, MCM-65 又は MCM-68 と称されるものである。
【0059】
本発明の触媒においてどのゼオライト材料が含まれるかは、主に、本発明の触媒の使用目的による。使用目的に対応して、例えば、構造タイプ、空孔の直径、孔路の直径、化学的配置、イオン交換性だけでなく活性特性といった、ゼオライト材料の特性を調整する数多くの手法が従来知られている。
【0060】
本発明の触媒のゼオライト材料としては、例えば、ケイ酸塩、ケイ酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸ケイ素アルミニウム、リン酸アルミニウム金属、リンケイ酸アルミニウム金属、ケイ酸アルミニウムガリウム、ケイ酸ガリウム、ホウ酸アルミニウムケイ酸、ホウケイ酸塩、又はケイ酸チタニウムが挙げられ、なかでもケイ酸アルミニウム及びケイ酸チタニウムが特に好ましい。
【0061】
“ケイ酸アルミニウム”との用語は、国際鉱物学協会(D.S. Coombsら, Can. Mineralogist, 35, 1997, 1571)の定義に従い、一般式Mn+[(AlO2)x(SiO2)y]xH2Oの空間的ネットワーク構造を有する結晶性物質であり、共通の酸素原子によって結合されたSiO4/2及びAlO4/2四面体で構成され、規則的な3次元ネットワークを形成している。Si/Al=y/xの原子比は、隣り合う負に荷電した2つのAlO4/2四面体が互いに隣り合うことを妨げるという、所謂“レーベンシュタイン規則”に従い、常に1以上である。低いSi/Al原子比で金属が交換できる、より多くのサイトがあることも可能であるが、ゼオライトが徐々に熱的に不安定になる。
【0062】
本発明の触媒において、上記したゼオライト材料は、例えばNa及び/又はKの態様、アルカリ土類の態様、アンモニウムの態様などのアルカリの態様でも、又はHの態様でも存在し得る。さらに、ゼオライト材料が、例えばアルカリ/アルカリ土類混合の態様などの混合の態様で存在することも可能である。
【0063】
本発明の触媒のさらに好ましい実施形態では、白金及び担体材料の重量に対して1〜10重量%の白金を含む触媒が提供され得る。本発明の方法によって、比較的多い白金担持量であるにも関わらずXRDスペクトルにおいて白金シグナルがなく、また、比較的多い白金付着量であるにも関わらず熱劣化に対して高い耐性を有する白金担持触媒を得ることができるということが見出された。さらには、これと関連して、本発明の触媒のさらに好ましい実施形態では、白金及び担体材料の重量に対して、1〜10重量%、より好ましくは2〜5重量%、さらに好ましくは2.2〜4.5重量%、特に好ましくは2.5〜3.5重量%、最も好ましくは3重量%の白金を含む触媒が提供され得る。
【0064】
本発明の触媒のさらに好ましい実施形態では、酸化状態0のさらなる金属がない触媒が提供され得る。
【0065】
上述したように、本発明の触媒のさらに好ましい実施形態では、担体材料は、ベータ構造タイプのゼオライト材料、又は、MCM族からのゼオライト材料である。
【0066】
加えて、本発明の触媒のさらに好ましい実施形態では、ゼオライト材料のBET表面積が100〜1500m2/g、好ましくは150〜1000m2/g、より好ましくは200〜600m2/gであることが提供され得る。BET表面積は、DIN 66132に従い、窒素吸着による一点法によって決定される。
【0067】
本発明の触媒のさらに好ましい実施形態では、触媒が粉体状、起伏形状、板状に形成されていることが提供され得る。好ましい形状としては、例えば、球状、環状、円筒状、穿孔を有する円筒状、三葉状、又は円錐状が挙げられ、また、好ましい板状形状としては、例えば、ハニカム状体が挙げられる。
【0068】
金属担持触媒の分散は、金属粒子の全金属原子の総数に対する、担体の全金属粒子における表面全金属原子数の比である。一般的に、分散値が比較的高い場合、できるだけ多くの金属原子が自由に触媒反応に使用されることが好ましい。このことは、金属担持触媒の分散値が比較的高いと、特有の同じ触媒活性が比較的少ない金属使用量で達成され得るということを意味する。本発明の触媒のさらに好ましい実施形態では、白金粒子の分散は、50〜100%、好ましくは55〜90%、さらに好ましくは60〜90%、特に好ましくは75〜85%である。分散値は、DIN 66136-2に従い水素によって決定される。
【0069】
原則として、白金ができるだけ小さい粒子で触媒に存在することが本発明において好適である。しかしながら、好ましい平均粒子直径は、触媒が用いられる利用態様だけでなく、空孔分散度、並びに、特に担体材料の空孔半径及び孔路半径にも左右される。本発明の触媒のさらに好ましい実施形態では、金属粒子は、担体材料の空孔直径より小さく且つ孔路直径より大きい平均直径を有する。従って、金属粒子は、担体材料に力学的に保持され、この結果、本発明の触媒が熱劣化に対して高い耐性を有することとなる。例えば、金属粒子は、0.5〜5nmの平均直径、好ましくは0.5〜4nmの平均直径、より好ましくは0.5〜3nmの平均直径、さらに好ましくは0.5〜2nmの平均直径を有する。平均粒子直径は、好ましくは、担体材料を分解して、透過型電子顕微鏡(TEM)により残存したPt粒子を測定することにより決定される。
【0070】
さらに、本発明は、700℃を超える温度で実施される触媒プロセスにおける本発明の触媒の使用に関する。
【0071】
本発明の使用における好ましい実施形態では、触媒プロセスは、好ましくは自動車、船舶、列車の排ガスのような産業排ガス又は自動車の排ガスの浄化である。
【実施例】
【0072】
次の例は、発明を説明する図面と関連して示されている。
【0073】
(試験例1)
35のSi/Al2原子比を有しHの態様でありベータ(BEA)構造タイプの粉体状ケイ酸アルミニウムゼオライト材料(20g)に、初期湿潤法によって3.2重量%Pt(金属として計算)を含む21.9mlの亜硫酸白金酸水溶液を含浸させた。乾燥BEAの水吸収は、9.2gH2O/10gBEA(120℃で終夜)である。12.96gのH2OをPSA溶液に加えた。溶液は、3.2重量%のPt濃度(含浸はこの溶液で実施)であった。
含浸の後、ゼオライト材料を120℃温度で終夜乾燥させた。
乾燥の後、含浸後のゼオライト材料を770℃の温度で5時間の期間の間アルゴン雰囲気中で焼成した。加熱速度は、2℃/分であり、加熱及び焼成段階の間のアルゴン容量の流速は、2 l/分であった。
焼成後、白金が付着したゼオライト材料は、5時間の間5容量%水素を含む窒素のガス(2 l/分)によって300℃の温度で還元した。加熱速度は、2℃/分とした。
【0074】
(試験例2)
試験例1で得られた触媒を、空気中で650℃の温度で10時間劣化させるために(加熱速度:10℃/分)焼成した。
【0075】
(比較試験例1)
焼成を空気中で行ったという点のみ相違し、試験例1と同様にして触媒を製造した。
【0076】
<XRD測定>
試験例1及び比較試験例1で製造した触媒をX線回折法により測定した。測定したXRDスペクトルを図1に示す。試験例1及び比較試験例1のスペクトルは、それぞれ参照番号1及び2で示されている。
【0077】
試験例1で製造された触媒のXRDスペクトル(アルゴン中で焼成)では、Ptシグナルが示されていないが、一方、比較試験例1で製造された触媒のXRDスペクトル(空気中で焼成)では、明確なPtシグナルが示されている。即ち、約40°における2シータ値のシグナルは、Pt(110)反射であり(110はミラー指数)、約46.5°における2シータ値のシグナルは、Pt(200)反射である。
【0078】
試験例1の触媒においてPt反射がないことは、比較的高い焼成温度にも関わらず、ゼオライト材料の外表面において大きな白金塊が形成されておらず、白金がゼオライト材料中において大部分非常に分散された状態で存在していることを暗示している。
【0079】
<元素分析>
実施された元素分析の範囲内において、試験例1の触媒は、0.004重量%未満の硫黄含量であり、一方、比較試験例1の触媒は0.155重量%の硫黄含量であることが示された。
【0080】
<活性試験1>
試験例1及び2、比較試験例1で製造された触媒を、下記試験条件下において活性試験としてのプロパン転化に供した。
試験条件:
粒子サイズ 0.5-1.25 mm
温度履歴 室温(RT)→ 550℃ (5h)→RT
加熱速度 10°C/分
冷却速度 20°C/分
CO濃度 800 ppm
プロパン濃度 200 ppm
ガス空間速度(GHSV) 100 000 h-1
初期重量 7 g
触媒容積 14 ml
【0081】
図2は、温度に対する加熱段階におけるプロパン転化測定の曲線を示しており、図3は、時間に対する一定温度段階の間におけるプロパン転化の曲線を示しており、図4は、温度に対する冷却段階におけるプロパン転化の曲線を示しており、試験例1及び2、比較試験例1の触媒の曲線は、それぞれ四角、丸、及び三角で示されている。
【0082】
加熱段階においては、試験例1及び比較試験例1の2種の触媒は、同じ活性を示し、そして約95%の転化を達成している(図2)。一定温度段階においては、空気中で焼成した比較試験例1の触媒の活性は、明らかに低下しており、一方で、アルゴン中で焼成された試験例1の触媒は、一定温度段階の全てにおいてほぼ同じ活性を示している(図3)。冷却段階においては、試験例1の触媒は、比較試験例1と比較して優れた活性を示してもいる(図4)。試験例1の触媒の曲線は、加熱段階及び冷却段階においてほぼ一定である(図2及び4)。
【0083】
試験例2の熱劣化を受けた触媒は、より低い温度範囲において明らかに活性が低下していることが示されているが、550℃での試験例1の非劣化触媒の転化率に達している。
【0084】
(比較試験例2)
27のSi/Al原子比を有するアンモニウムの態様のMFI(ZSM-5)構造タイプの粉体状ケイ酸アルミニウムゼオライト材料20gに、初期湿潤法によって(NH34Pt(NO32態様の3重量%白金(ゼオライト材料及び白金の重量に対して金属として計算)を含浸させた。
含浸の後、ゼオライト材料を120℃の温度で終夜乾燥させた。
乾燥の後、含浸された後のゼオライト材料を790℃の温度で5時間の期間の間アルゴン雰囲気中で焼成した。室温から300℃への加熱速度は、0.3℃/分とし、300℃から790℃への加熱速度は、4℃/分とし、そして、加熱及び焼成段階におけるアルゴンの容積流量は、2 l/分とした。(NH34Pt(NO32の分解は、還元的な方法で進め、結果として酸化状態0のPtが焼成中に形成される。
【0085】
(比較試験例3)
ゼオライト材料として、35のSi/Al2原子比を有しHの態様でありベータ(BEA)構造タイプの粉体状ケイ酸アルミニウムゼオライト材料を用いたという点のみ相違し、比較試験例2と同様にして触媒を製造した。
【0086】
(試験例3)
ゼオライト材料として、35のSi/Al2原子比を有しHの態様でありベータ(BEA)構造タイプの粉体状ケイ酸アルミニウムゼオライト材料を用いたという点のみ相違し、比較試験例2と同様にして触媒を製造し、室温から790℃への加熱速度を2℃/分とし、焼成後に白金が付着したゼオライト材料を5容量%の水素を含む窒素(2 l/分)により300℃の温度で5時間の期間の間還元した。加熱速度は、2℃/分とした。
【0087】
<XRD測定2>
試験例3及び比較試験例2及び3で製造した触媒をX線回折法により測定した。測定したXRDスペクトルは、図5に一部が示されており、試験例3並びに比較試験例2及び3のスペクトルは、それぞれ11、13、及び12の参照番号が付されている。
【0088】
試験例3で製造された触媒のXRDスペクトルは、約40°の2シータ値においてPt反射を示さず、一方、比較試験例2及び3で製造された触媒のXRDスペクトルは、明確なPt反射を示している。実際、約40°の2シータにおけるシグナルは、Pt(110)反射である。
【0089】
試験例3の触媒においてPt反射がないことは、大きい白金粒子がゼオライト材料の外表面に形成されず白金がゼオライト材料において非常に分散された状態で存在しているということを暗示している。
【0090】
<活性試験2>
試験例3、比較試験例2及び3で製造された触媒を、下記試験条件下において活性試験としてのプロパン転化に供した。
試験条件:
粒子サイズ 0.5-1.25 mm
温度履歴 室温(RT)→ 550℃
加熱速度 10°C/分
冷却速度 20°C/分
CO濃度 800 ppm
プロパン濃度 200 ppm
ガス空間速度(GHSV) 100 000 h-1
初期重量 7 g
触媒容積 14 ml
【0091】
図6は、温度に対する加熱段階におけるプロパン転化の測定曲線を示しており、試験例3の曲線、比較試験例2及び3の触媒の曲線は、それぞれ参照番号11、13及び12が付与されている。この活性試験は、本発明の方法によって製造された本発明の触媒の優れた活性を明確に示している。
【0092】
使用されたプロパンの50%が転化するライトオフ温度は、試験例3で製造された触媒では243℃であり、比較試験例2及び3で製造された触媒では、それぞれ498℃及び356℃である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)空孔を有する担体材料に亜硫酸白金酸を含浸させること、
b)含浸後の担体材料を保護ガス中で焼成すること、
のステップを含む方法。
【請求項2】
焼成後の亜硫酸白金酸の白金成分を酸化状態0へと変化させること、
のステップをも含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
焼成後の亜硫酸白金酸の白金成分を低くとも100℃の温度で酸化状態0へと変化させることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
焼成後の亜硫酸白金酸の白金成分を水素によって酸化状態0へと変化させることを特徴とする請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
含浸後の担体材料を保護ガス中で焼成するステップ、及び、焼成後の亜硫酸白金酸の白金成分を酸化状態0へと変化させるステップが複数回実施されることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記含浸が初期湿潤法によって実施されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記担体材料が無機担体材料であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記担体材料が、酸化チタニウム;γ−、θ−、又はΔ−酸化アルミニウム;酸化セリウム;酸化ケイ素;酸化亜鉛;酸化マグネシウム;酸化アルミニウムケイ素;炭化ケイ素及びケイ酸マグネシウムからなる群より選択された材料、又は、上記材料の2種又はそれ以上の混合物を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記担体材料がゼオライト材料であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ゼオライト材料がミクロ孔又はメソ孔のゼオライト材料であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ゼオライト材料がベータ構造タイプのゼオライト材料であることを特徴とする請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記ゼオライト材料がMCM族からのゼオライト材料であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ゼオライト材料がケイ酸アルミニウム又はケイ酸チタニウムであることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップa)及び前記ステップb)の間に乾燥ステップを行うことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記焼成が低くとも750℃の温度で実施されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記保護ガスがアルゴンであることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項の方法により得られた触媒前駆体又は触媒。
【請求項18】
空孔を有する担体材料と酸化状態0の白金とを含み、触媒のXRDスペクトルに白金元素シグナルがないことを特徴とする触媒。
【請求項19】
1〜5重量%の白金を含むことを特徴とする請求項18に記載の触媒。
【請求項20】
前記担体材料がベータ構造タイプのゼオライト材料であることを特徴とする請求項18又は19に記載の触媒。
【請求項21】
700℃を超える温度で実施される触媒プロセスにおける、請求項17〜20のいずれか1項に記載の触媒の使用。
【請求項22】
触媒プロセスが産業排ガス又は自動車排ガスの浄化であることを特徴とする請求項21に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−520596(P2011−520596A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508824(P2011−508824)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003333
【国際公開番号】WO2009/138204
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(508131358)ズード−ケミー アーゲー (30)
【Fターム(参考)】