説明

皮付き完熟果実を使用したシラップ漬けの製造方法及びそれにより製造された皮付き完熟果実のシラップ漬け

【課題】
完熟果実のシラップ漬けの製造において、組織の軟化や香り成分の消失、褐変を防止することにより、果実本来の食感や風味を高度に保持した保存性のあるシラップ漬けを簡便にしかも安価に行うことできる製造方法を提案することを目的とする。
【解決手段】
密閉可能な容器に完熟果実とシラップ液を投入して果実のシラップ漬けを製造する方法であって、シラップ液を煮沸して得た煮沸シラップ液と皮付きの完熟果実を密閉可能な容器に投入し、該容器を密閉して該容器を室温にて放置し、シラップ液の残熱で皮付きの完熟果実を殺菌し、その後前記容器ごと冷却後、腐敗や変質を防ぐために完熟果実及びシラップ液を容器ごと冷蔵することを特徴とする皮付き完熟果実のシラップ漬けの製造方法によって上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮付き完熟果実を使用したシラップ漬けの製造方法及びそれにより製造された皮付き完熟果実のシラップ漬けに関するものである。
【背景技術】
【0002】
果実のシラップ漬けは、変色や品質劣化などの防止を目的とする湯通し(ブランチング)や剥皮、種取り等を行った原料果実を、クエン酸によってpHを4.5以下に調整した糖液とともに缶や瓶などの容器に密封後、90〜100℃の温度で殺菌することにより製造する。かかる従来の製造方法では、製品が常温保存の場合が多く、やや強めの加熱条件となっており、完熟果実では、組織の軟化が起こりやすい。さらに、装置としては、連続動揺式常圧加熱殺菌装置等を使用するが、その処理能力が施設全体の製造量を決定することが多かった。
【0003】
また、従来の製造方法は加工処理や保存中での食感や外観、風味の劣化がしばしば問題となる。この問題を解決するために、劣化が比較的少ない品種や加工専用の品種、あるいは完熟前の比較的果実の肉質が硬い原料果実が主に利用されている。
【0004】
しかし、生食用の果実、とりわけ完熟果実をシラップ漬けにする場合には、ブランチングや剥皮、殺菌工程での果実組織の軟化や風味の消失、保存中の退色、褐変が著しく、従来の製造方法を完熟果実に適用した場合、満足できる品質のシラップ漬けを製造することが難しかった。
【0005】
一方で、木なりのまま完熟させたフルーツは、未熟な段階で収穫し流通過程で成熟させたフルーツよりも豊かな香味を有し、潜在的な商品価値は高い。しかし、完熟フルーツは流通の過程で、押圧されたり、温度上昇に晒されたりすることで腐りやすく、市場へ広く流通することは困難であった。
【0006】
特許文献1〜4には種々の方法により、果実本来の風味や新鮮感をシラップ漬けとして、保存する試みがなされている。しかし、完熟果実を原料とする高品質のシラップ漬けを製造する方法は開示されておらず、完熟果実の有効利用は実現されないままであった。
【0007】
例えば、特許文献1では果実入りシラップに直接通電し、発生するジュール熱で加熱殺菌する方法が開示されている。しかしかかる方法では、電極部分の過加熱や加熱ムラ、電極材金属のシラップ液への溶出などが問題となる他、通電装置や無菌充填設備の導入など超高圧処理による保存法と同様に大がかりな設備となり、高コスト化が問題となる。
【0008】
特許文献2では、褐変防止を目的に真空包装した果実をシラップ液中で開封し、果実間隙にシラップを注入した後、超高圧処理により保存性を付与する方法が開示されている。しかしこの方法も、特許文献1と同様に減圧のために大掛かりな設備が必要となり、やはりコスト増が問題となる。
【0009】
また、特許文献3では、皮付きのラ・フランスとシラップ液を容器に充填して、90℃で30分間殺菌することでラ・フランスのシラップ漬けを製造する方法が開示されているが(実施例1)、完熟フルーツをこのような高温で加熱すると、香り成分が熱により消失し、さらには果肉が軟化して商品価値が失われてしまう。
【0010】
特許文献4はカルシウムとアスコルビン酸イオンからなる保存剤に果実を浸漬し、2から5℃の低温に貯蔵する方法を開示している。しかし、低温下で果実を保存剤に浸漬するだけでは、保存期間はせいぜい3週間が限度であり、長期保存には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−289838
【特許文献2】特開平5−49431
【特許文献3】特開2008−72984
【特許文献4】特表2001−513329
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、完熟果実のシラップ漬けの製造において、組織の軟化や香り成分の消失、褐変を防止することにより、果実本来の食感や風味を高度に保持した保存性のあるシラップ漬けを簡便にしかも安価に行うことできる製造方法を提案することを目的とする。また、本発明の製造方法によって、今までになかった完熟果実のシラップ漬けを提供し、果実の新たな需要用途を拡大することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
密閉可能な容器に完熟果実とシラップ液を投入して果実のシラップ漬けを製造する方法であって、シラップ液を煮沸して得た煮沸シラップ液と皮付きの完熟果実を密閉可能な容器に投入し、該容器を密閉して該容器を室温にて放置し、シラップ液の余熱で皮付きの完熟果実を殺菌し、その後前記容器ごと冷却し、腐敗や変質を防ぐために完熟果実及びシラップ液を容器ごと冷蔵することを特徴とする皮付き完熟果実のシラップ漬けの製造方法により上記の課題を解決する。
【0014】
本発明の特徴は、果皮が付いたままの完熟果実と予め煮沸(95℃以上)したシラップ液を混合し、ラミネート袋等の容器内に密封後、室温下に放置し、その後、腐敗や変質が起こらない温度でシラップ漬けを冷蔵するという加熱殺菌方法にある。発明者らは皮付きの完熟果実と煮沸シラップ液を混合して室温に放置した場合、完熟果実は低温にて十分に殺菌され、しかも、完熟果実の品質劣化(果肉の破損や軟化、香り成分の消失など)は最小となることを見出し本発明を完成するに至った。この方法によれば、特別な加熱冷却装置が必要でなく、少量生産から大量生産まで多様な場面で利用できる。
【0015】
本発明による皮付き完熟果実のシラップ漬けの製造方法によれば、殺菌時の温度を低温とし、完熟果実ならではの豊かな香りの消失を防ぐことができる。低温とは具体的に、65〜85℃の範囲とすることが好ましく、65〜75℃とするとより好ましい。後述するように、完熟果実100重量部に対して50〜150重量部の煮沸シラップ液を密閉可能な容器に投入し、室温で10〜40分程度、より好ましくは25〜35分間程度、静置すれば、簡便に上記温度範囲で、十分な殺菌を行うことができる。保持する温度が上記の範囲を超えると、完熟果実の軟化が著しく、逆に保持する温度が上記範囲を下回ると殺菌が不十分となり、シラップ漬けが腐敗する原因となる。
【0016】
煮沸シラップ液と皮付き完熟果実を混合した後、室温で放置して殺菌をした後は、必要以上の加熱を避けるために、速やかに冷却することが好ましい。冷却の方法は送風、流水、水への浸漬等の適宜の手段により行えばよいが、流水冷却が迅速なので好ましい。
【0017】
上述の完熟果実としては、木なりのまま熟した糖度と香りがともに高い果実、木なりのまま熟し高い香りを有するが糖度が低い果実、果実の形状がいびつである等の理由により規格外となった果実、輸送過程で傷み(木なりで収穫した果実は輸送中の押圧により傷みやすい)商品価値が減じてしまった果実等が挙げられる。シラップ漬けとするので、香り高い完熟果実であれば、糖度が不十分であったり、形状がいびつであったりしても、傷んだ部分の除去などトリミングをするだけで高品質のシラップ漬けを製造する原料とすることができるのである。特に規格外の果実は低コストで調達できるので、本発明の製造方法の原料として好ましい。
【0018】
本発明において使用できる果実の種類は特に限定されない。使用できる果実の例としては、モモ、ブドウ、イチジク、ビワ、スモモ、イチゴ、キイチゴ、ブルーベリーなどが挙げられる。洋ナシやキウイフルーツ、メロン、リンゴなどの追熟により完熟する果実では、追熟操作により、その果実の最も美味しい状態を維持した一定品質のシラップ漬けを容易に製造することができる。
【0019】
完熟果実をシラップ漬けに加工するに際して、果実の種類によっては褐変が顕著となるので、ブランチングや種取りなどの前処理を行ってもよい。ブランチングは、果実に含まれるポリフェノール酸化酵素などの酵素を失活させ、褐変防止や食味の劣化防止のために行う。
【0020】
従来のブランチング処理では、その後の剥皮のために熱湯処理した果実を水冷する。本発明で使用する完熟果実では、香味成分の流出や組織の破損や軟化を生ずるため、本発明ではブランチング後は水冷による剥皮は行わない。本発明では温度低下を防ぐため、ブランチング処理を行った完熟果実を直ちに予め煮沸しておいた煮沸シラップ液とともに密閉可能な容器に投入して殺菌処理を行う。
【0021】
本発明で使用するシラップ液は、果実の風味の増強、果汁の溶出防止、さらには、保温を助けるために、一定量(後述するように、回転粘度計で90〜4200cpの粘性を付与するように調節する)の増粘剤を加えて、クエン酸によって酸性にした糖液である。上記の増粘剤としては増粘多糖類、増粘性のタンパク質、粘性の高いフルーツペースト、イモペースト等が挙げられる。
【0022】
上記の増粘多糖類としては澱粉、プルラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グァーガム、ペクチン等が挙げられる。フルーツペーストしてはモモペースト、リンゴペースト、オレンジペースト、イチゴペースト、カキペースト、アンズペースト、パパイアペースト、マンゴーペースト、キウイフルーツペースト、西洋ナシペースト、ウメペーストなどの粘性が高いものが挙げられる。また、イモペーストとしては、タンパク質やムコ多糖類の含有率の高いサトイモペーストを使用することが好ましい。増粘性のタンパク質としては、小麦タンパク質を使用することが好ましい。
【0023】
本発明の密閉容器としては、100℃以上の耐熱性を有し、密閉可能に構成された容器であれば特に限定されないが、熱シールが可能な熱可塑性樹脂製バッグであれば、きわめて簡単に完熟フルーツとシラップ液を密封できるので好ましい。この実施態様によれば、特別な設備が不要となる。すなわち、所定温度に加熱したシラップ液と、熱可塑性樹脂製バッグとシーラーがあれば、簡単にシラップ漬けを製造することができる。殺菌後の放熱は水に漬けておくだけでよいので、手間がかからない。完熟フルーツは押圧されて傷みやすく、輸送流通に向かないが、本発明によって各農家で出る規格外の完熟フルーツをシロップ漬けに加工すれば、有効利用の途がなかった完熟果実を有効利用することができる。
【0024】
具体的には、密閉容器としては、ナイロンの無延伸フィルム製のバッグや、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)製のバッグや、アルミを蒸着したポリプロピレンフィルムのバッグや、アルミ箔にPET、ポリエチレン等の樹脂をラミネートしたアルミラミネートフィルムのバッグ等が挙げられる。その他公知の容器も使用できるが、ガスバリア性に優れ、遮光性に優れた容器が好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、完熟果実の食感と風味を高度に保持した果実シラップ漬けを製造することができる。また、アントシアニン等の果皮の色素や果皮成分に由来する豊かな香味が果肉に浸透した今までにない果実のシラップ漬けを製造することができる。
【0026】
ブランチング直後の果実を煮沸シラップ液と混合することで、シラップ液の温度の低下を防いで、殺菌が不十分となることを防ぐことができる。
【0027】
本発明は65〜85℃の低温で、10〜40分の間、しかも皮付きで殺菌するので、果肉の香味成分が熱分解するおそれがない。
【0028】
シラップ液に増粘剤を添加することで、外気温や作業時間に影響されず十分な殺菌を行うことができる。
【0029】
本発明によれば、完熟果実、シラップ液等の原料と、熱可塑性樹脂製のバッグ等の密閉可能な容器、シーラー等の機器があれば、完熟果実のシラップ漬けを製造することができる。特殊な設備が不要であるため、各農家で完熟果実をシラップ漬けに加工して、簡便に遠方に輸送することが可能になる。したがって、原料の調達コストや、輸送コストを低減して、安価に高品質の果実のシラップ漬けを製造することが可能になる。
【0030】
本発明の完熟果実のシラップ漬けは高い香味を有しているため、そのまま喫食しても美味であるし、ゼリー、ジャム、ロールケーキ、チーズケーキ、アイスクリーム、パン、パイ、飲料や煮物、酢の物、ドレッシング、サラダ等の具材や調味料として用いても美味である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】a)ブランチング直後の完熟モモに等量の煮沸シラップ液(95℃)を投入した際のシラップ液の液温の変化と、b)ブランチング後の完熟モモに等量の煮沸した後、室温に放置したシラップ液(80℃)を投入した際のシラップ液の液温の変化を測定した結果を示したグラフである。
【図2】本発明の製造方法により製造した完熟マスカットのシラップ漬けの果皮とマスカット生果実の果皮をメチレンブルー染色し、両果皮を光学顕微鏡で撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、発明を実施するための形態について検討した結果を示す。
【0033】
[ブランチング]
ブランチングは、モモでは、半割、除核した果皮付の果肉を熱湯中に4分間、イチジクでも4分間、ブドウでは、1分間浸漬して行う。果実や品種により浸漬時間は多少調節するとよい。
【0034】
[煮沸シラップ液の温度]
a)500ml容量のアルミ製ラミネートスタンドパウチにブランチング直後の完熟モモ250gに95℃、30ブリックスの煮沸シラップ液を250g加えたときの温度変化と、
b)500ml容量のアルミ製ラミネートスタンドパウチにブランチング後の完熟モモ250gに80℃、30ブリックスの煮沸シラップ液を250g加えたときの温度変化と、
を図1のグラフに示した。
【0035】
上記a)とb)について、シラップ液を投入してから、30分後にアルミ製ラミネートスタンドパウチごと流水で冷却して、その後、表1に示す期間低温貯蔵(5℃)して腐敗の有無を調べた。表1から明らかなように、シラップの液温を65〜75℃、30分間保持したシラップ漬け(上記a)は1年後も腐敗の発生が見られないが(表1中では○で示した)、液温が60〜70℃で30分間保持したシラップ漬け(上記b)は貯蔵2ヶ月目には腐敗が発生した(表1では×で示した)。
【0036】
【表1】

【0037】
[煮沸シラップ液と果実の配合比]
シラップ液の保温は、ブランチング後の果肉とシラップ液の温度差、果肉とシラップ液の混合割合、果肉とシラップ液の熱伝導、シラップ液の対流、容器からの放熱、外気温等の要因で決まるが、本発明者らの検討の結果、耐熱性のポリラミネート袋を使用した場合、気温20℃、果肉100部に対し、煮沸シラップ液50〜150部の混合割合であれば、果実の種類に関係なくシラップ液温が65〜75℃、30分間以上保持できることが分かった(表2参照)。表2では、65℃以上を30分間以上保持できたものは○で示し、保持できなかったものは×で示した。配合比が上記の範囲を超えても、シラップ液の保温性は問題ないが、シラップ液の液量が大となりすぎて、シラップ液に香味成分が溶出したためか、完熟果実ならではの豊かな香味が失われてしまった。一方、配合比が上記の範囲を下回ると、加熱が不十分となり、シラップ漬けが短期間で腐りやすくなってしまった。
【0038】
【表2】

【0039】
[増粘多糖類の添加]
外気温の変化や作業性の違いに起因する保温性の低下は、シラップ液の粘度を高めることにより改善できることが分かった。増粘には、澱粉の他、プルラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム等の多糖類や小麦タンパク質が有効であった。粘度については回転粘度計で90〜4200cpの粘性をシラップに付与すれば十分であることがわかった。また、モモペーストの様に粘性の高い果汁や、サトイモペーストをシラップ液に加えた場合にも保温性が高まり、果実の風味の増強、果汁の溶出防止と相まって効果的であった。
【0040】
表3に各種配合の皮付き完熟モモのシラップ漬け保温性テスト結果を示す。2つ割り、除核、ブランチングして得た200gの皮付き完熟モモを95℃以上に煮沸した各種配合のシラップ液とともにアルミ製ラミネートスタンドパウチに密封し、30分間室温に放置したときのシラップ液温の温度変化を測定した。その結果、粘度の上昇によりシラップ液の対流が抑制され、70℃以上を維持する時間が有意に増加した。粘度は、100ml容ビーカーにそれぞれの溶液100mlを加え、25℃に保ち単一円筒型回転粘度計にてローターNo.3を用いて測定した。
【0041】
【表3】

【0042】
上記の配合1〜6に従い、皮つき完熟モモのシラップ漬けを外気温7℃に調節した作業室で製造した。具体的には、アルミ製ラミネートスタンドパウチに、皮つき完熟モモと配合1〜6を煮沸して得た煮沸シラップ液(95℃)を等量配合して、30分間、作業室(7℃)に放置して殺菌した。30分経過後、流水でパウチが素手で触れる程度に冷却した後、冷蔵庫に1年保管した。配合2〜6のいずれも腐敗を生じていなかったが、配合1のみ若干の腐敗が観察された。
【0043】
上述の配合2〜6のシラップ液を使用して製造したそれぞれのシラップ漬けを使用して、果汁飲料(ネクター)を製造したところ、それぞれの増粘剤の作用と相まって、とろみのある濃厚な飲料を製造することができた。
【0044】
以下、完熟した皮つき果実(清水白桃、ピオーネ、マスカット、イチジク)を原料として、実施例1〜5にかかるシラップ漬けを製造した。
【0045】
[実施例1]
収穫が遅くなって完熟した皮付き清水白桃1.2kgを、洗浄、2つ割り、除核、4分間ブランチングして得た1kgの清水白桃を、上白糖260g、クエン酸2g、アスコルビン酸0.5g、清水白桃の果肉ペースト390gを熱湯350gに溶かし、95℃以上に加熱した糖液とともにアルミ製ラミネート三方袋に入れて密封し、30分間室温に放置し、余熱で簡易殺菌処理した後、流水中で冷却して清水白桃のシラップ漬を得た。清水白桃とシラップの重量比は約1:1とした。官能評価は、清水白桃を使用した市販のシラップ漬に比べ、風味が豊かで、歯切れが良く、色調の黄化は認められず、清水白桃の生果としての特徴をよく残していた。Brix21、pH3.7、Aw0.931であった。冷蔵保存11ヶ月後の試作品の品質は、腐敗の発生や浮遊物もなく、一般細菌、大腸菌群とも検出されず、外観、香り、味いずれも良好であった。
【0046】
[実施例2]
皮付き完熟ピオーネ200gを、洗浄、1分間ブランチングし、上白糖46g、クエン酸0.4g、アスコルビン酸0.1g、馬鈴薯澱粉3gを熱湯154gに溶かし、95℃以上に加熱したシラップ液とともにアルミ製ラミネートスタンドパウチに密封し、30分間室温に放置し、余熱で簡易殺菌処理した後、5℃で冷蔵保存した。ピオーネとシラップ液の重量比は約1:1とした。2ヶ月間冷蔵保存したシラップ漬けはBrix21、pH3.7、Aw0.913であった。官能評価は、剥皮したピオーネを90℃の湯に30分間浸漬して殺菌し、その後本実施例と同じ組成のシラップ液に浸漬して製造したシラップ漬に比べて、風味が豊かで、歯切れが良くピオーネの生果としての特徴をよく残していた。果皮は、生果に比べ手間無く簡単に剥ける状態にあった。果肉、シラップ液は紫色に着色していた。
【0047】
[実施例3]
皮付き完熟マスカット200gを、洗浄し、2つに割り、種を除いた後、30秒間ブランチングし、上白糖46g、クエン酸0.4g、アスコルビン酸0.1gを熱湯154gに溶かし、95℃以上に加熱したシラップ液とともにアルミ製ラミネートスタンドパウチに密封し、30分間室温に放置し、余熱で簡易殺菌処理した後、5℃で冷蔵保存した。マスカットとシラップ液の重量比は約1:1とした。2ヶ月間冷蔵保存したシラップ漬けの官能評価は、剥皮したマスカットを90℃の湯に30分間浸漬して殺菌し、その後本実施例と同じ組成のシラップ液に浸漬して製造したシラップ漬に比べて、風味が豊かで、形状が保持されていた。また、生の果実に比べ、皮が剥きやすかった。
【0048】
[実施例4]
皮付き完熟イチジク250gを、洗浄、4分間ブランチングし、上白糖65g、クエン酸0.5g、アスコルビン酸0.13gを熱湯185gに溶かし、95℃以上に加熱したシラップ液とともにアルミ製ラミネートスタンドパウチに密封し、30分間室温に放置し、余熱で簡易殺菌処理した後、5℃で冷蔵保存した。イチジクとシラップの重量比は約1:1とした。2ヶ月間冷蔵保存したシラップ漬けの官能評価は、剥皮したイチジクを90℃の湯に30分間浸漬して殺菌し、その後本実施例と同じ組成のシラップ液に浸漬して製造したシラップ漬に比べて、風味が豊かで、形状が保持され、紅色が濃かった。
【0049】
[実施例5]
実施例1の容量でブランチングした皮付き完熟清水白桃600gと実施例2の容量でブランチングした皮付き完熟ピオーネ600gに対して、実施例1で使用したシラップ液1.2kgをアルミ製ラミネートスタンドパウチに密封して、実施例1と同様の方法で殺菌、冷却、冷蔵して清水白桃とピオーネのシラップ漬けを製造した。貯蔵開始後3カ月が経過してから、開封してみたところ、ピオーネの果皮に由来すると思われる色が清水白桃の果肉に浸透し、美しい外観の清水白桃のシラップ漬けを製造することができた。また、ピオーネと清水白桃のシラップ漬けを喫食してみたところ、両者の風味を兼ね備えたピオーネのシラップ漬けと清水白桃のシラップ漬けとすることができた。
【0050】
[長期保存した完熟清水白桃のシラップ漬けの官能評価]
実施例1の皮付き完熟清水白桃のシラップ漬けは貯蔵開始3週間後には、糖度の均質化が起こり、完熟白桃のシラップ漬け製品として利用可能となった。その後、2〜5℃貯蔵したところ、16ヶ月後も完熟白桃の風味と食感を高度に保持していた。16カ月が経過した皮つき完熟清水白桃シラップ漬けのパネラー3人による官能評価を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
これらの果皮はいずれも剥がれ易い状態となっており、使用時に簡単に剥皮できた。これは、加熱とシラップ液の作用により、果皮の細胞壁組織が強固になったものと思われ、引っ張り強度も高くなっていた。これは保存期間中の果肉成分の減少防止の要因ともなっており、これにより本発明の低温殺菌とあいまって、長期保存しても品質劣化が少ないシラップ漬けとなったと思われる。
【0053】
[果皮の解析]
実施例3の方法により製造した皮付き完熟マスカットのシラップ漬けの果皮を解析した。図2にはメチレンブルー染色した果皮の光学顕微鏡像を、表5には果皮の引っ張り強度の測定結果を示した。引っ張り強度は、果皮を長さ3cm、幅5mmで切取り、これを引っ張り試験用の器具に取り付け、レオメーターにて引っ張り強度を、テスト速度5cm/分、チャック間5mmで測定した。光学顕微鏡の写真は貯蔵開始後1カ月後に撮影した。
【0054】
【表5】

【0055】
また、実施例2にかかるピオーネのような有色系のブドウでは、貯蔵中に果皮の色素が果肉に移行し、今までにない風味、色合いを持つ果実シラップ漬けが得られた。果汁や果皮をシラップ液に加えることにより、果肉の色合いをさらに強くできた。また、これらの果実シラップ漬けは、ケーキ等のトッピング果実としての利用に加え、皮ごと破砕することにより、ジャムやフルーツソース、果実飲料、さらに、肉料理や魚料理の調味料として利用できることも分かった。肉料理では、肉質が柔らかくなり、魚料理の匂い消し、各種料理の照りを出すことにも利用できた。実施例4にかかる皮つきの完熟イチジクのシラップ漬けもピオーネと同様に果皮の色素と香味が果肉に浸透した今までにないシラップ漬けとなり、皮ごと破砕利用することにより、ジャム、飲料など多用途な二次加工品に利用できた。
【0056】
表6に上記の実施例2にかかる皮つき完熟ピオーネのシラップ漬けの官能評価を示す。貯蔵開始後、3ヵ月後にパネラー3名により食味評価した。
【0057】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉可能な容器に完熟果実とシラップ液を投入して果実のシラップ漬けを製造する方法であって、
シラップ液を煮沸して得た煮沸シラップ液と皮付きの完熟果実を密閉可能な容器に投入し、
該容器を密閉して該容器を室温にて放置し、シラップ液の余熱で皮付きの完熟果実を殺菌し、その後前記容器ごと冷却し、腐敗や変質を防ぐために完熟果実及びシラップ液を容器ごと冷蔵することを特徴とする皮付き完熟果実のシラップ漬けの製造方法。
【請求項2】
皮付きの完熟果実は、完熟果実をブランチング処理直後に、果実を冷却による剥皮処理を行うことなく煮沸シラップ液と混合される請求項1に記載の皮付き完熟果実のシラップ漬けの製造方法。
【請求項3】
完熟果実の殺菌は、65〜85℃の低温で、10〜40分間加熱する請求項1又は2のいずれかに記載の皮付き完熟果実のシラップ漬けの製造方法。
【請求項4】
シラップ液は増粘剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の皮付き完熟果実のシラップ漬けの製造方法。
【請求項5】
密閉可能な容器は熱シールが可能な熱可塑性樹脂製バッグである請求項1〜4のいずれかに記載の完熟フルーツを用いたシラップ漬けの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の方法で得た、果皮に含まれる香味又は色素が果肉に浸透した皮付き完熟果実のシラップ漬け。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−147391(P2011−147391A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11377(P2010−11377)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年7月22日付日本農業新聞の第10面の「「シロップ漬け」普及へ」に発表、平成21年11月29日付山陽新聞朝刊第8面の「岡山県農業開発研究所 加工の新技術開発」に発表
【出願人】(591122509)社団法人岡山県農業開発研究所 (1)
【Fターム(参考)】