説明

皮膚外用剤

【課題】水への溶解性が高く、且つ2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼン(還元型)を放出できる化合物からなる美白剤および発毛促進剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)


(式中RおよびRはそれぞれ水素原子または窒素置換基を有するカルボン酸残基を意味し、Rはデカイソプレニル基等を意味する。)で表される2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩を含有する皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚外用剤、特にユビキノン類縁体を含有する皮膚外用剤の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄料、分散液、軟膏、洗剤、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤等の皮膚外用剤には、これらに所定の薬効を付与することを目的として種々の薬効成分が加えられている。哺乳動物に最も多く存在する2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン化合物はユビキノン-10であり、側鎖に炭素50個からなるデカイソプレニル基を有するため脂溶性が非常に高く水に全く溶けない化合物である。このユビキノン-10の水難溶性は皮膚外用剤において配合可能な剤形が限定されるなど、配合上の制約がある。一方、ユビキノン-10は細胞膜中に広く分布するが、抗酸化作用が強く非常に有用な還元体であるユビキノール-10の細胞膜中存在量はα-トコフェロールに比較して1/10程度であり少ない。2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼン化合物(還元型)の抗酸化作用を効率よく発揮させるためには効率的な還元体の供給が望まれる。しかしながら、還元体の供給は体内の還元酵素の能力に依存しているのが現状である。ユビキノン-10の水分散系としてエマルジョン、リポゾーム、ミクロ粒子、ナノ粒子の脂質を用いる処方が公知である(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。また、高濃度の界面活性剤と脂質とポリエチレングリコールを使用する処方特許(特許文献5)、中鎖脂肪酸モノグリセリドと植物油からなる処方特許(特許文献6)、リン脂質との混合物(特許文献7)が従来技術として挙げられる。これらの文献は、いずれも酸化型の2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン化合物の水分散系を作ることによって難溶性の問題を解決するものであり、還元体である2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼン化合物のバイオアベイラビリティの確保のための問題は解決できていない。2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン化合物の水難溶性に起因する薬物送達上の問題と、その2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼン(還元型)への還元過程による薬物送達上の問題を同時に解決できる2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼン化合物の誘導体が提案されている(特許文献8)。しかし、特許文献8には、この化合物が生体内で2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼン(還元型)を放出することが記載されているが、この化合物自体が示す薬効について何ら記載されておらず、皮膚外用剤の有効成分としての薬効を示すか否かについては全く記載がない。
【特許文献1】WO 95/05164
【特許文献2】米国特許No. 4,824,669
【特許文献3】米国特許No. 4,636,381
【特許文献4】米国特許No. 4,483,873
【特許文献5】WO 86/04503
【特許文献6】特開昭63−188623
【特許文献7】米国特許No. 4,684,520
【特許文献8】特開2003−104945
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記従来技術に鑑みてなされたもので、水への溶解性が高く、且つ2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼン(還元型)を放出できる特定の構造を有する化合物からなる美白剤および発毛促進剤を提供するとともに、かかる薬効剤を用いることによって、良好な薬効を示す皮膚外用剤、特に美白効果および発毛促進効果に優れた皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは前記課題を解決するため、下記一般式(I)
【化1】

(式中RおよびRはそれぞれ水素原子または窒素置換基を有するカルボン酸残基を意味し,窒素置換基を有するカルボン酸残基が、アミノ酸、N-アシルアミノ酸、N-アルキルアミノ酸、N,N-ジアルキルアミノ酸、側鎖に水酸基、チオール基、カルボキシル基を有するアミノ酸、ピリジンカルボン酸およびそれらの塩の残基からなる群より選択され、少なくとも一方は窒素置換基を有するカルボン酸残基である。R
【0005】
【化2】

で示される基を意味する。nは1〜10の整数を意味する。)
で表される2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩の少なくとも一種類を含有する皮膚外用剤を提供する。
【0006】
また、別の観点から、本発明は、前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩の少なくとも一種類を美白剤として含有する皮膚外用剤;前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩の少なくとも一種類を発毛促進剤として含有する皮膚外用剤;前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩の少なくとも一種類を抗酸化剤として含有する皮膚外用剤;前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩からなる美白剤;前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩からなるメラニン生成抑制剤;前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩からなるメラノサイト樹状突起生成抑制剤;前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩からなる発毛促進剤;前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩の美白剤としての使用方法;前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩の発毛促進剤としての使用方法;前記2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩の抗酸化剤としての使用方法;を提供する。
【発明の効果】
【0007】
前記一般式(I)で表される2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩は、水溶性が高く、しかもメラニン生成抑制効果および発毛促進効果を示すことから、化粧料、医薬部外品、医薬品等の皮膚外用剤のための幅広い製剤への配合が可能な美白成分および発毛促進成分として有用であり、これを含有する本発明の皮膚外用剤は、美白効果及び発毛促進効果に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明は、下記一般式(I):
【化1】

(式中RおよびRはそれぞれ水素原子または窒素置換基を有するカルボン酸残基を意味し,窒素置換基を有するカルボン酸残基が、アミノ酸、N-アシルアミノ酸、N-アルキルアミノ酸、N,N-ジアルキルアミノ酸、側鎖に水酸基、チオール基、カルボキシル基を有するアミノ酸、ピリジンカルボン酸およびそれらの塩の残基からなる群より選択される少なくとも一方は窒素置換基を有するカルボン酸残基である。R
【0009】
【化2】

で示される基を意味する。nは1〜10の整数を意味する。)
で表される2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩の少なくとも一種類を含有する皮膚外用剤に関する。前記一般式(I)で表される化合物又はその塩は、単独で皮膚外用剤に含有させることもできるし、その塩として皮膚外用剤に配合することもできる。
【0010】
式中、窒素置換基を有するカルボン酸残基が、アミノ酸、N-アシルアミノ酸、N-アルキルアミノ酸、N,N-ジアルキルアミノ酸、ピリジンカルボン酸およびそれらのハロゲン化水素酸塩またはアルキルスルフォン酸塩の残基からなる群より選択される少なくとも一種であることが好適である。窒素置換基を有するカルボン酸残基は、窒素原子に対し水素原子ないし、1または2のアルキル基、アシル基が結合したものが好適である。このアルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、1-メチルプロピル基、tert-ブチル基、1-エチルプロピル基、イソアミル基などを例示することが可能であり、特にメチル基、エチル基が好ましい。また、アシル基を有する場合の炭化水素鎖も同様に定義可能である。
【0011】
アミノ基とカルボニル基の間は、好ましくは炭素数1〜7の直鎖、分岐または環状のアルキレン基で結合される。分岐状のアルキレン基とは、例えばイソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、1-エチルプロピルなどのアルキル基から誘導されたアルキレン基を意味する。環状アルキレン基とは、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、あるいはメチルシクロヘキサン環などを構造中に含むアルキレン基を意味する。アルキレン基として特に好ましいのは、メチレン基あるいはエチレン基である。
【0012】
ハロゲン化水素酸塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩などが好ましい。本発明において、ハロゲン化水素酸塩は融点が原体のキノン化合物よりも高くなる場合が多く、製剤化にあたっての取り扱いが容易になる利点がある。また、アルキルスルフォン酸塩としては、メタンスルフォン酸塩などが例示される。
【0013】
一般式(II)
【化3】

(式中R
【0014】
【化4】

で示される基を意味する。nは1〜10の整数を意味する。)
【0015】
【化5】

(式中R
【0016】
【化5】

で示される基を意味する。nは1〜10の整数を意味する。)
【0017】
前記一般式(I)で表される化合物の製造方法は種々考えられるが、代表的な方法を述べれば以下の通りである。一般式(II)で表される2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンを還元剤で還元し、一般式(III)で表される2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンとし、この2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンと窒素置換基を有するカルボン酸、若しくはその反応性酸誘導体またはこれらのハロゲン化水素酸塩とを常法によりエステル化反応を行うことにより、前記一般式(I)で表される化合物を製造することができる。ここで用いる還元剤は水素化ホウ素ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウム、トリーn-ブチルフォスフィン、塩化亜鉛、塩化第1スズなどを挙げることができる。
【0018】
本発明にかかる2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体の製造方法は、1級または2級アミノ基あるいは側鎖に水酸基、チオール基を有するアミノ酸の各官能基をtert-ブトキシカルボニル基(以下t-BOC基と略記)、ベンジルオキシカルボニル基(以下Z基と略記)、9-フルオレニルメトキシカルボニル基(以下FMOC基と略記)などの適切な保護基で保護して用い、N,N-ジアルキルアミノ酸またはピリジンカルボン酸はハロゲン化水素酸塩を用いてジシクロヘキシルカルボジイミド(以下DCCと略記)、塩酸1-メチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(以下EDCと略記)、N,N-ジサクシニミドオギザレート(以下DSOと略記)などの活性エステル化試薬の存在下に反応を行うことが好ましい結果を与える。この際溶媒としてはピリジンが好ましい。
【0019】
また、反応性酸誘導体を用いる方法では、酸ハロゲナイトとりわけ酸クロリドを用いる方法が好ましい結果を与える。この際溶媒としては無水ベンゼン−無水ピリジン混合物が好ましい。ハロゲン化水素酸塩およびアルキルスルフォン酸塩は常法により遊離のアミノ酸エステルとハロゲン化水素酸またはアルキルスルフォン酸を反応させて製造する。N-アシルアミノ酸エステルを製造した後、常法によりハロゲン化水素酸で脱保護基化することによってハロゲン化水素酸塩を製造することができる。
【0020】
前記一般式(I)で表される化合物又はその塩は、ヒト皮膚三次元培養モデルを用いたメラノサイト成長およびメラニン生成抑制試験において顕著な抑制作用を示す美白剤である。また、前記一般式(I)で表される化合物又はその塩は、C3Hマウスを用いた体毛成長促進効果試験において顕著な体毛成長促進効果を示す、発毛促進剤である。さらに、前記一般式(I)で表される化合物又はその塩は、水溶性が高く、水性皮膚外用剤への配合が容易である。その結果、前記化合物及びその塩の可溶化のために界面活性剤等の添加剤を別途添加する必要がなく、配合上及び安全性上有利である。なお、本明細書において、「美白効果」とは、メラニン生成に対する抑制効果のみをいうのではなく、例えば、色素沈着の抑制、肌のくすみ、日焼け等による皮膚の黒化の防止及び改善等の効果を含めて最も広義に解釈する必要がある。
【0021】
本発明の皮膚外用剤は、上記一般式(I)で表される2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体又はその塩を含有する。その含有量は、好ましくは0.00001〜6質量%である。この範囲内であれば、前記化合物を安定に配合することができ、優れた薬効を発揮できる。
【0022】
本発明の皮膚外用剤の配合形態の例としては、特に限定されず、例えば、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄料、分散液、軟膏、洗剤、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤等の、いずれの形態の化粧料であっても外用医薬品であってもよい。
本発明の皮膚外用剤には、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、通常、化粧料や医薬部外品、外用医薬品等の製剤に使用される成分、すなわち、水、アルコール、油剤、界面活性剤、金属石けん、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、美白剤、抗炎症剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、リンス剤、酵素、ホルモン剤、ビタミン類等を加えることができる。
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[合成例]下記製造方法A〜Dに示す方法により表1〜3に示す2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼン誘導体を製造した。
【0024】
製造方法A
アミノ酸0.1molを蒸留水-ジオキサン(1:1,v/v)100mlに溶解し、トリエチルアミン30mlを加え、ジ-tert-ブチルジカルボネートを徐々に加え30分間室温で撹拌する。減圧下ジオキサンを留去し、炭酸水素ナトリウム水溶液(0.5 M)50mlを加え酢酸エチル100mlで洗う。酢酸エチル層を50mlの炭酸水素ナトリウム水溶液で洗い、水層を合わせて氷冷下でクエン酸水溶液(0.5 M)を加えて酸性(pH3)とし、塩化ナトリウムを飽和させた後、酢酸エチルで抽出する(100ml x 3)。抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下溶媒を留去し、油状残渣をイソプロピルエーテルを加えるか、または冷却して結晶化させて、N-t-BOC-アミノ酸を得る。2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ベンゾキノン(ユビキノン-10)1.16 mmolをイソプロピルエーテル100 mlに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム2.8 mmolをメタノール15mlに懸濁させて加え、溶液の黄色が無色になるまで室温で撹拌する。反応液にアルゴンガスを飽和させた蒸留水100mlを加えイソプロピルエーテル層を洗う、分液後イソプロピルエーテル層を無水硫酸ナトリウムで脱水し減圧下溶媒を留去し2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ジヒドロキシベンゼン(ユビキノール-10)を得る。2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ジヒドロキシベンゼンにN-t-BOCアミノ酸2.8mmol、DCC 2.8mmol、無水ピリジン30mlを加え雰囲気をアルゴンガスに置換した後、室温で24時間撹拌する。溶媒を減圧下留去し、残渣に酢酸エチルを加えて可溶性画分を抽出する(100ml x 2回)。抽出液を減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(溶離溶媒;n-ヘキサン:酢酸エチル,85:15)で分離精製し、2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-ベンゼン 1,4-ビスーN-t-BOC-アミノ酸エステルを得る。2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニルベンゼン 1,4-ビスーN-t-BOC-アミノ酸エステルを少量のアセトンに溶解し、塩酸-ジオキサン(3.5N)をエステル結合量の約20倍量の塩酸量に相当する量を加え脱保護基化を行う。反応終了後溶媒を減圧留去し、残渣をアセトンで再結晶して2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニルベンゼン 1,4-ビスアミノ酸エステルの塩酸塩を得る。
【0025】
製造方法B
2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ベンゾキノン(ユビキノン-10)1.16 mmolをイソプロピルエーテル100 mlに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム2.8 mmolをメタノール15mlに懸濁させて加え、溶液の黄色が無色になるまで室温で撹拌する。反応液にアルゴンガスを飽和させた蒸留水100mlを加えイソプロピルエーテル層を洗う。分液後イソプロピルエーテル層を無水硫酸ナトリウムで脱水し減圧下溶媒を留去し2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ジヒドロキシベンゼン(ユビキノール-10)を得る。2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ジヒドロキシベンゼンにN-t-BOCアミノ酸1.4mmol、DCC 1.4mmol、無水ピリジン30mlを加え雰囲気をアルゴンガスに置換した後、室温で24時間撹拌する。溶媒を減圧下留去し、残渣に酢酸エチルを加えて可溶性画分を抽出する(100ml x 2回)。抽出液を減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(溶離溶媒;n-ヘキサン:酢酸エチル,85:15)で分離精製し、2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-4-ヒドロキシベンゼン 1-N-t-BOC-アミノ酸エステルと2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1-ヒドロキシベンゼン 4-N-t-BOC-アミノ酸エステルを得る。2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-4-ヒドロキシベンゼン 1-N-t-BOC-アミノ酸エステル、若しくは2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1-ヒドロキシベンゼン 4-N-t-BOC-アミノ酸エステルを少量のアセトンに溶解し、塩酸-ジオキサン(3.5N)をエステル結合量の約20倍量の塩酸量に相当する量加え脱保護基を行う。反応終了後溶媒を減圧留去し、残渣をアセトンで再結晶して2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-4-ヒドロキシベンゼン 1-アミノ酸エステルの塩酸塩、および2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1-ヒドロキシベンゼン 4-アミノ酸エステルの塩酸塩を得る。
【0026】
製造方法C
2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ベンゾキノン(ユビキノン-10)1.16 mmolをイソプロピルエーテル100 mlに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム2.8 mmolをメタノール15mlに懸濁させて加え、溶液の黄色が無色になるまで室温で撹拌する。反応液にアルゴンガスを飽和させた蒸留水100mlを加えイソプロピルエーテル層を洗う、分液後イソプロピルエーテル層を無水硫酸ナトリウムで脱水し減圧下溶媒を留去し2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ジヒドロキシベンゼン(ユビキノール-10)を得る。2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ジヒドロキシベンゼンに塩酸N,N-ジアルキルアミノ酸2.8mmol、DCC 2.8mmol、無水ピリジン30mlを加え雰囲気をアルゴンガスに置換した後、室温で24時間撹拌する。溶媒を減圧下留去し、残渣を蒸留水に懸濁させ炭酸水素ナトリウムを加えてpH7〜8にした後に酢酸エチルで可溶性画分を抽出する(100ml x 3回)。抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水後減圧下溶媒を留去し,残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(溶離溶媒;n-ヘキサン:酢酸エチル,85:15)で分離精製し、2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニルベンゼン 1,4-ビスーN,N-ジアルキルアミノ酸エステルを得る。2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニルベンゼン 1,4-ビスーN,N-ジアルキルアミノ酸エステルを少量のn-ヘキサンに溶解し2倍モル量の塩酸-ジオキサンを加え溶媒を減圧下留去し、残渣をアセトンで再結晶して2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニルベンゼン 1,4-ビスーN,N-ジアルキルアミノ酸エステルの塩酸塩を得る。
【0027】
製造方法D
2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ベンゾキノン(ユビキノン-10)1.16 mmolをイソプロピルエーテル100 mlに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム2.8 mmolをメタノール15mlに懸濁させて加え、溶液の黄色が無色になるまで室温で撹拌する。反応液にアルゴンガスを飽和させた蒸留水100mlを加えイソプロピルエーテル層を洗う、分液後イソプロピルエーテル層を無水硫酸ナトリウムで脱水し減圧下溶媒を留去し2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ジヒドロキシベンゼン(ユビキノール-10)を得る。2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1,4-ジヒドロキシベンゼンに塩酸N,N-ジアルキルアミノ酸2.8mmol、DCC 2.8mmol、無水ピリジン30mlを加え雰囲気をアルゴンガスに置換した後、室温で24時間撹拌する。溶媒を減圧下留去し、残渣を蒸留水に懸濁させ炭酸水素ナトリウムを加えてpH7〜8にした後に酢酸エチルで可溶性画分を抽出する(100ml x 3回)。抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水後減圧下溶媒を留去し,2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-4-ヒドロキシベンゼン 1-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルと2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1-ヒドロキシベンゼン 4-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルを得る。2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-4-ヒドロキシベンゼン 1-N,N-ジアルキルアミノ酸エステル、若しくは2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1-ヒドロキシベンゼン 4-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルを少量のn-ヘキサンに溶解し、2倍モル量の塩酸-ジオキサンを加え、溶媒を減圧下留去し、残渣をアセトンで再結晶して2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-4-ヒドロキシベンゼン 1-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルと、2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカイソプレニル-1-ヒドロキシベンゼン 4-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルの塩酸塩を得る。
【0028】
以下、本発明にかかる化合物の具体的化学式およびその物性、製造方法について、表1,2,3に示す。なお、実施例1〜6については、質量分析(m/z,FAB-MS)および核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR,δ(ppm,内部標準TMS))を表2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【実施例1】
【0032】
メラノサイト樹状突起生成抑制効果
MEL-300ヒト皮膚3次元モデル(正常ヒト表皮メラニン細胞を含む正常ヒト皮膚角化細胞)を用いて,化合物4および化合物5のメラニン生成抑制効果を評価した。MEL-300皮膚モデルカップを、EPI-100-LLMM維持培地を0.9 mlずつ入れた6ウェルプレートに移し、1時間、37℃、5% CO25にてプリインキュベート、維持培地を吸引除去し、新しい維持培地5mlに交換後、MEL-300皮膚モデルカップ内に化合物4および化合物5の30 mmol/l溶液を添加し培養した。対照群には0.2%エタノール溶液を添加した。対照群には0.2%エタノール溶液を添加した。2日ごとに維持培地および被検物質を交換し,7日間培養した。培養7日後にヒト皮膚3次元モデルのカップ内側の細胞写真を撮影し、画像解析によりメラノサイトの面積の割合(%)を算出した。有意差検定はPost-hoc テスト(Scheffe法)により行い、有意水準は5%とした。図1から明らかな様に、化合物4及び化合物5は有意にメラノサイト樹状突起生成を抑制した。
【実施例2】
【0033】
メラニン合成抑制試験
MEL-300ヒト皮膚3次元モデル(正常ヒト表皮メラニン細胞を含む正常ヒト皮膚角化細胞)を用いて,化合物4および化合物5のメラニン生成抑制効果を評価した。MEL-300皮膚モデルカップを、EPI-100-LLMM維持培地を0.9 mlずつ入れた6ウェルプレートに移し、1時間、37℃、5% CO25にてプリインキュベート、維持培地を吸引除去し、新しい維持培地5mlに交換後、MEL-300皮膚モデルカップ内に化合物4および化合物5の30 mmol/l溶液を添加し培養した。対照群には0.2%エタノール溶液を添加した。陽性対象群には30 mmol/lコウジ酸溶液を添加した。2日ごとに維持培地および被検物質を交換し,14日間培養した。培養14日後に、MEL-300皮膚モデルカップより培養皮膚片を取り出し、0.05mM EDTAおよび1%トリス塩酸溶液を含む1%SDS水溶液で浸漬し、5mg/mLプロティナーゼK溶液を加え、37℃で一晩反応させた。反応後よく撹拌し、培養皮膚片を完全に破砕した。反応液に500mM炭酸ナトリウム溶液および30%過酸化水素水を加え、80℃で30分加温し、冷却後、クロロホルム/メタノール溶液(2:1)を加え、遠心分離した上清の405nmの吸光度を測定した。同様に処理した各濃度のメラニン溶液の吸光度より検量線を作成し、培養皮膚片のメラニン量を定量した。有意差検定はPost-hoc テスト(Scheffe法)により行い、有意水準は1%とした。ヒト皮膚3次元モデルに化合物4および化合物5を添加することにより,メラニンの生成量が有意に減少した(図2)。このことから、化合物4および化合物5がメラニン生成抑制作用を有することが明らかであり、美白剤として機能することが明らかになった。
【実施例3】
【0034】
マウス体毛成長促進効果
毛周期の休止期にあたる7週齢の雄性C3H/HeN
マウスの背部被毛を電気バリカン(0.05mm刃)および電気シェーバーで剃毛し、剃毛翌日から剃毛部位に一日一回、化合物4および化合物5の50μmol/g 軟膏を0.1mlずつ塗布した。塗布にはコーンラージ棒を用い,対照群にはコーンラージ棒による塗布刺激のみを与えた。塗布開始から18日目のマウス背部画像を撮影し、画像解析により剃毛部総面積に対する被毛再生面積の割合を算出し,毛再生率(%)とした。有意差検定はPost-hoc テスト(Scheffe法)により行い、有意水準は5%とした。
化合物4および化合物5を含有する軟膏を塗布することにより、毛再生率(%)が有意に増加した(図3)。この結果より、化合物4および化合物5が体毛成長促進効果を有することが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる化合物のメラノサイト樹状突起生成抑制効果の説明図である。
【図2】本発明にかかる化合物のメラニン合成抑制効果の説明図である。
【図3】本発明にかかる化合物のマウス体毛成長促進効果の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中RおよびRはそれぞれ水素原子または窒素置換基を有するカルボン酸残基を意味し,窒素置換基を有するカルボン酸残基が、アミノ酸、N-アシルアミノ酸、N-アルキルアミノ酸、N,N-ジアルキルアミノ酸、側鎖に水酸基、チオール基、カルボキシル基を有するアミノ酸、ピリジンカルボン酸およびそれらの塩の残基からなる群より選択され、少なくとも一方は窒素置換基を有するカルボン酸残基である。R
【化2】

で示される基を意味する。nは1〜10の整数を意味する。)
で表される2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩を含有する皮膚外用剤。
【請求項2】
請求項1に記載の2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩が美白剤であることを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項3】
請求項1に記載の2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩が発毛促進剤であることを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項4】
請求項1に記載の2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ジヒドロキシベンゼンカルボン酸エステル誘導体またはその塩が抗酸化剤であることを特徴とする皮膚外用剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−231077(P2008−231077A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77207(P2007−77207)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】