説明

皮膚老化防止・改善剤

【課題】皮膚角質層ターンオーバー促進、コラーゲン分解抑制、紫外線誘発性皮膚炎症緩和の三つの効果を、同時に発現しうる皮膚老化防止・改善剤を提供する。
【解決手段】本発明の皮膚老化防止・改善剤は、ラクトビオン酸を含有することを特徴とする。本発明の皮膚老化防止・改善剤は、角質層ターンオーバー促進作用、しわ抑制作用、ならびに、紫外線誘発性皮膚炎症緩和作用を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトビオン酸を含有する新規な皮膚老化防止・改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なヒトの皮膚トラブルには、しみ、くすみ、肌荒れ、しわ、たるみなどが挙げられる。近年、皮膚老化(老化に伴う皮膚トラブル)の概念が注目されている。「皮膚老化」は文字通り、皮膚が老化していくことを意味するものであり、その象徴的な現象として、しみ、しわ、たるみなどが挙げられる。これら皮膚の老化現象は加齢により進行するのはもちろんのこと、紫外線への暴露や喫煙、睡眠不足や大気汚染などによっても加速進行することが知られている。
【0003】
正常な表皮においては、基底層における新しい細胞の誕生と角質層からの古い角質細胞の脱落が一定のバランスで保たれている(ターンオーバー)。しみやくすみは、このバランスが崩れ、古い角質細胞の脱落が抑制されて角質層が肥厚することによって起こると考えられている。加えて、冬季の肌荒れも、このバランスが崩れることが原因であると考えられている。なお、角質層のターンオーバーが低下する原因の一つは、加齢であると考えられている。
【0004】
また、加齢や紫外線暴露により、皮膚真皮層においてコラーゲン量が著しく減少すること(例えば光老化)、皮膚障害のリスクが高まること等が知られている。コラーゲン量の減少や皮膚障害リスクの上昇は、加齢や紫外線暴露によって皮膚組織内で発生するヒドロキシラジカルが、炎症性サイトカインであるTNF−αの発現を促進したり、コラゲナーゼ(マトリクスメタロプロテアーゼ1、以下、「MMP−1」と称する場合がある)などの発現を高めることでコラーゲン線維の分解が進んだりするために起こる(非特許文献1、2参照)。TNF−αレベルの上昇は、皮膚の炎症を引き起し(日焼け、サンバーン)、肌荒れの原因となったり、また、コラーゲン量が減少することにより、肌のはり・つやが失われたりし、加えて、しわやたるみの発現が促される。
【0005】
上記のような、紫外線暴露による皮膚の炎症、肌荒れを抑えるため、種々の皮膚保護剤が開発されている。また、加齢などによる肌の新陳代謝の低下、すなわち、角質層のターンオーバーの低下を改善しうる有効成分として、α−ヒドロキシ酸(AHA)やビタミンA誘導体が知られている。AHAやビタミンA誘導体は、しわを少なくし、乾燥肌を改善し、にきびや老人性色素斑(しみ)を改善することが報告されており(非特許文献3、4参照)、数多くの化粧品に配合されている。
【0006】
AHAには、角質細胞間の接着力を緩め、角質細胞の重層を防止することにより、肌をなめらかにする効果があると考えられている。また、ビタミンA誘導体には表皮細胞の増殖と分化のバランスに影響し、角質細胞の重層化を抑制して、肌の新陳代謝を促進する効果があると考えられている。しかしながら、AHAやビタミンA誘導体は皮膚に対する刺激が強く、肌質の敏感な人は使用に耐えられない(すなわち、かゆみ、紅斑、痛み、ただれが発生する)という問題があった。
【0007】
一方、古い角質細胞を脱落させて肌の新陳代謝を促すには、細胞同士の接着に関与している蛋白質であるデスモゾームが重要な働きをしていることが知られている(非特許文献5参照)。また、角質層ターンオーバーの低下とデスモゾーム分解活性(キモトリプシン様酵素活性)の低下との間には正の相関が観られることや、角質層水分量の低下によりその酵素活性が低下することが既に報告されている(非特許文献6参照)。
【0008】
そこで、デスモゾームを構成する蛋白質の分解を促進する物質、すなわち、キモトリプシン様酵素活性の低下を抑える物質を有効成分として含有する新たな角質剥離剤や外用組成物が提案されている。例えば、プロパンジオール誘導体またはその塩を含有する外用組成物(特許文献1参照)や、L−オルニチン及び/又はその塩類を少なくとも1種含有する角質剥離促進剤(特許文献2参照)が公知となっており、該外用組成物や角質剥離促進剤を、グリコール酸であるα−ヒドロキシ酸(AHA)やビタミンA誘導体と併用することも提案されている。
【0009】
しかしながら、上記の外用組成物や角質剥離促進剤においても、角質層におけるターンオーバーの効果が不十分であり、満足な使用感を得るには改善が必要とされている。さらに、該外用組成物や角質剥離促進剤をAHAもビタミンA誘導体と併用しても、刺激性が緩和されるわけではなく、実用に際しては配合量の制限や製剤上の工夫が必要であるなどの問題があった。
【0010】
また、皮膚老化を防止したり、コラーゲンの分解を阻害したりするための、種々の天然物由来の成分が提案されている。例えば、カロチノイド類および/またはイソフラボノイド類(特許文献3参照)、キク科ヤーコンの抽出物(特許文献4参照)、イザヨイバラ果実の抽出物(特許文献5参照)、ノボタン科植物の抽出物(特許文献6参照)、ツキミソウ由来ポリフェノール化合物(特許文献7参照)などの天然物由来の成分が提案されている。
【0011】
さらに、また、紫外線暴露を直接的に予防する方法として、種々のサンスクリーン剤(特許文献8参照)などが提案され、数多くの化粧品に配合されている。また、紫外線暴露によるヒドロキシラジカルの発生を抑えるための、種々の天然物由来の成分が提案されている。例えば、ハマメリス、ナラ等の植物の抽出液(特許文献9参照)、サンペンズ、ゴカヒ等の生薬抽出物(特許文献10参照)、精製木酢液(特許文献11参照)、アミノ酸とキチン、キトサン類(特許文献12参照)などが提案されている。
【0012】
しかしながら、上記のようなサンスクリーン剤や天然物由来の成分は、使用感が悪く、皮膚への浸透性が悪いため長時間の使用に耐えない、発汗により流れ落ちるなどの問題があり、必ずしも満足のいく効果を得られなかった。また、種々の天然物由来の成分は大量に取得することが困難であるため、皮膚に対する有効量を使用するには高価となるという問題があった。また、天然物由来の抽出物であるため、皮膚への効果が何ら認められない成分や、効果を阻害する物質の混在が避けられず、必ずしも満足のいく効果を得られなかった。さらに、高活性を有する画分を取得するには、煩雑な精製操作を必要とし、さらなるコストアップを余儀なくされるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】G.Fisher et al.,N.Engl.J.Med.,337,1419−1428(1997)
【非特許文献2】A.Oxholm et al.,Br.J.Dermatol.,118,369−376(1988)
【非特許文献3】E.J.Van Scott et al.,Int.J.Dermatol.,26,90(1987)
【非特許文献4】E.J.Van Scott et al.,Skin&Allergy News,18,38(1987)
【非特許文献5】A.Lundstrom et al.,J.Invest.Dermatol.,91,216−220(1990)
【非特許文献6】J.Koyama et al.,Fragrance Journal,1,13−18(1995)
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−12512号公報
【特許文献2】特開2007−161589号公報
【特許文献3】特開2008−189675号公報
【特許文献4】特開2006−273756号公報
【特許文献5】特開2006−241148号公報
【特許文献6】特開2006−69939号公報
【特許文献7】特開2003−128511号公報
【特許文献8】特許2821405号公報
【特許文献9】特開平9−20633号公報
【特許文献10】特開平8−283172号公報
【特許文献11】特開平10−306034号公報
【特許文献12】特開2005−247700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明の課題は、皮膚に対する刺激性を抑えつつ、皮膚の古い角質を穏やか且つ速やかに除去することで角質層のターンオーバーを促進し、且つ、皮膚真皮層におけるコラーゲンの分解を確実に抑制し、しわやたるみを抑制する作用を有し、さらに、紫外線暴露による皮膚の炎症を緩和する皮膚老化防止・改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討したところ、ラクトビオン酸が皮膚の角質層のターンオーバー促進効果、コラーゲン分解抑制効果、ならびに紫外線暴露による皮膚の炎症を緩和する作用を発現することを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ラクトビオン酸を含有することを特徴とする皮膚老化防止・改善剤。
(2)角質層ターンオーバー促進作用を有することを特徴とする(1)の皮膚老化防止・改善剤。
(3)しわ抑制作用を有することを特徴とする(1)の皮膚老化防止・改善剤。
(4)紫外線誘発性皮膚炎症緩和作用を有することを特徴とする(1)の皮膚老化防止・改善剤。
(5)ラクトビオン酸を0.1〜20.0質量%含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの皮膚老化防止・改善剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ラクトビオン酸を有効成分とするため、皮膚の古い角質を穏やかに且つ速やかに除去することで、古い角質に含まれるメラニンも除去し、しみ、そばかすや肌のくすみを改善しつつ、肌の透明感を向上させる効果に優れる角質層ターンオーバー促進効果(角質層のターンオーバー促進効果)、皮膚の弾力を改善・維持しつつ、肌のはり・つやを向上させ、しわを抑制する皮膚真皮層におけるコラーゲンの分解を抑制する効果(コラーゲン分解抑制効果(すなわち、しわ抑制効果)、紫外線暴露により皮膚組織において発生するヒドロキシラジカルの発生を抑制することで、引き続き起こる炎症性サイトカインの産生を抑制し、皮膚の炎症を緩和する効果(紫外線誘発性皮膚炎症緩和作用)の三つの効果を、穏やかに且つ確実に、発現しうる皮膚老化防止・改善剤を提供することができる。さらに、本発明においては、肌への刺激を発現させることなく、皮膚角質層ターンオーバー促進、コラーゲン分解抑制、紫外線誘発性皮膚炎症緩和の三つを効果させることが可能である。さらに、ラクトビオン酸は工場的に大量生産が可能であるため、天然物由来の抽出物と比較して、安定に且つ安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】皮膚線維芽細胞増殖促進試験の結果を示すものである。
【図2】擬似老化モデル動物における角質層ターンオーバー低下改善試験の結果(実施例1、比較例1および2の各群のEGF検出量の比較)を示す写真を含む図である。すなわち、矢印で示したものが強い発色の見られる部分である。
【図3】加齢による角質層ターンオーバー低下改善試験の結果(比較例1、実施例1の各塗布部位のターンオーバー速度の比較)を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の皮膚老化防止・改善剤は、有効成分としてラクトビオン酸を含有するものである。ラクトビオン酸は角質層ターンオーバー促進効果、コラゲナーゼ阻害によるしわ抑制・改善効果、ならびに、紫外線誘発性皮膚炎症緩和効果を有する。
【0021】
本発明で用いられるラクトビオン酸の形態は特に制限されず、酸型、ラクトン型のいずれでもよく、また、ラクトビオン酸塩であってもよく、あるいはこれらの組み合わせでもよい。ラクトビオン酸塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機酸の塩が挙げられ、具体的には、ラクトビオン酸ナトリウム、ラクトビオン酸カルシウム、ラクトビオン酸カリウム、ラクトビオン酸マグネシウム、ラクトビオン酸鉄、ラクトビオン酸亜鉛などが好適に挙げられる。
【0022】
なかでも、皮膚角質層ターンオーバー促進効果、コラーゲン分解抑制効果および紫外線誘発性炎症緩和作用の観点からは、酸型のラクトビオン酸が好適に用いられる。また、皮膚への刺激性低減の観点からは、ラクトビオン酸塩が好適に用いられる。なお、ラクトビオン酸は粉末や水溶液で用いることができる。
【0023】
本発明の皮膚老化防止・改善剤におけるラクトビオン酸の配合量は、皮膚老化防止・改善剤(樹脂組成物)全量中、0.1〜20.0質量%が好ましく、1〜10質量%がさらに好ましく、1.5〜8質量%がより好ましく、2〜6質量%が最も好ましい。0.1質量%未満であると十分な効果が発揮されない場合がある。一方、20.0重量%を超えても、さほど大きな効果の向上は観られずコストの上昇になる場合があり、また、皮膚刺激性(副作用)が強まり、官能評価が低下するという問題が発生する場合がある。
【0024】
ラクトビオン酸の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を使用することができる。ラクトビオン酸の製造方法としては、例えば、乳糖を臭素ナトリウムとともに電気を印加することによって酸化する方法が知られている。また、微生物変換・発酵法によりラクトビオン酸を得る方法も知られており、具体的には、アシネトバクター属やブルクホルデリア属、アセトバクター属、グルコノバクター属などの乳糖酸化活性を有する微生物を乳糖に作用させて酸化することによって、得ることができる。なお、これらの製造方法は、特開2001−245657号公報、特開2007−28917号公報などに記載されている。
【0025】
本発明の皮膚老化防止・改善剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の皮膚老化防止成分が含有されていてもよい。他の老化防止成分としては、例えば、AHAやビタミンA誘導体などが挙げられる。
【0026】
さらに、本発明の皮膚老化防止・改善剤には、化粧品、医薬用途の外用剤などの外用組成物に慣用されている成分(その他の成分)が配合されていてもよい。その他の成分としては、具体的には、例えば、各種水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、界面活性剤、保湿剤、金属イオン封鎖剤、天然もしくは合成高分子、紫外線吸収剤、血行促進剤、各種の動植物抽出物、無機および有機粘土鉱物、疎水化処理粉末、色剤、防腐剤、酸化防止剤、色素、増粘剤、pH調整剤、香料、美白剤、皮膚賦活剤、皮膚栄養剤、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、その他の薬剤などが挙げられる。
【0027】
本発明の皮膚老化防止・改善剤は、例えば水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系など、皮膚外用剤全般にわたって適用されることが可能である。
【0028】
本発明の皮膚老化防止・改善剤は、軟膏剤などの医薬品や、化粧水、乳液、クリーム、パックなどの基礎化粧品、口紅、ファンデーションなどのメーキャップ化粧料、シャンプー、リンス、染毛剤などの頭髪用製品や日焼け止めなどの特殊化粧品などの多くの種類の皮膚外用剤にわたって適用される。
【実施例】
【0029】
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<1>実施例および比較例で用いた各種原料を下記に示す。
(1)ラクトビオン酸
和光純薬工業社製、商品名「ラクトビオン酸」
(2)グリコール酸
ナカライテスク社製、商品名「グリコール酸(結晶)」
(3)乳酸
武蔵野化学研究所社製、商品名「乳酸」
(4)グリセリン
花王社製、商品名「化粧品用濃グリセリン」
(5)1,3−ブチレングリコール
ダイセル化学工業社製、商品名「BG」
(6)エタノール
コニシ社製、商品名「局方エタノール」
(7)ポリオキシエチレンオレイルエーテル
日光ケミカルズ社製、商品名「オレス−20」
【0030】
<2>実施例および比較例における各種の測定や評価は、下記の方法により実施した。
(1)皮膚線維芽細胞増殖促進試験
ラクトビオン酸の皮膚線維芽細胞の増殖に対する促進作用を次のように評価した。
5%COインキュベータ(37℃)にて、ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ社製、商品名「NHDF」)をNHDF専用培地(クラボウ社製、商品名「106S」)中で拡大培養した。増殖したNHDF細胞を新しい専用培地に5×10個/mLの濃度で懸濁し、24穴マイクロタイタープレート(旭テクノガラス社製)に0.5mLずつ分注し、24時間前培養した。ラクトビオン酸を含有しない専用培地、ラクトビオン酸をそれぞれ0.4質量%、0.6質量%、1.0質量%、1.5質量%含有する専用培地に交換し、さらに48時間培養を継続した。細胞増殖/細胞毒性測定用試薬(同仁化学社製、商品名「CellCountingKit−8」)を50μLずつ添加し、同インキュベータ内で2時間反応させた。マイクロプレートリーダー(大日本製薬社製、商品名「VientXS」)にて450nm(参照波長;600nm)の吸光度を測定し、ラクトビオン酸を添加していないものの吸光度を100としたときの割合で比較した。すなわち、割合が高いものほど増殖促進作用が強いものであると評価し、結果を図1に示した。
【0031】
図1より明らかなように、ラクトビオン酸の添加により細胞増殖は促進した。細胞増殖割合はラクトビオン酸の添加濃度に依存していた。
【0032】
(2)コラゲナーゼ(MMP−1)活性阻害試験(IC50
ラクトビオン酸の、コラゲナーゼ(MMP−1)に対する阻害活性(IC50)を次のように評価した。なお、反応は全て50mM HEPES緩衝液(pH7.0)中で行なった。
625ppm、0.125%、0.25%、0.5%、1.0%、1.5%の6段階に濃度を設定したラクトビオン酸、グリコール酸、あるいは、乳酸と、コラゲナーゼ(BIOMOL社製、商品名「ヒト活性型MMP−1」)28U/mLを含む溶液を、96穴マイクロタイタープレート(旭テクノガラス社製)に5μLずつ分注し、5%COインキュベータ(37℃)内で1時間処理を行なった。塩化カルシウム(ナカライテスク社製)50mM、非イオン性界面活性剤(タカラバイオ社製、商品名「Brij−35」)0.1%、D5,5‘−Dithiobis(2−nitrobenzoicAcid)(和光純薬社製)2mMを含む試薬溶液1を100μLずつ添加し、35℃で2分間反応を行なった。続いて、MMP−1基質(BIOMOL社製)0.4mMを含む試薬溶液2を50μLずつ添加し、35℃で反応を行なった。試薬溶液2添加より2分後から6分後の412nmにおける吸光度上昇量を測定し、1分間の上昇量(Δ412nm)を算出した。阻害物質を添加していない場合におけるΔ412nmと比較した各添加濃度(625ppm〜1.5%)における阻害率を求め、プロビット変換により、IC50(%)(阻害率が50%になるときの濃度)を求めた。すなわち、IC50(%)の値が高いほど、強いコラゲナーゼ(MMP−1)阻害活性を有するものである。結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

表1より明らかなように、本発明の有効成分であるラクトビオン酸は強いコラゲナーゼ(MMP−1)阻害活性を有していた。その強度は乳酸の10倍以上であり、グリコール酸と同程度であった。
【0034】
(3)擬似老化モデル動物における角質層のターンオーバー低下改善試験
まず、ターンオーバー試験用サンプルを調製した。すなわち、植物ステロールを100g中1500mg含有するオイル(日清オイリオ社製、商品名「日清コレステ バランスオイル」)10mLに、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)10mL(比較例1とする)、あるいは、8%グリコール酸/生理食塩水溶液(pH3.0)10mL(比較例2とする)、あるいは、8%ラクトビオン酸/生理食塩水溶液(pH3.0)10mL(実施例1とする)を強く攪拌しながら滴下し、油中水滴型(w/o型)のクリームをそれぞれ調製した。
【0035】
次いで、上述のサンプルを用いて、ラクトビオン酸の、擬似老化モデル動物における角質層のターンオーバーの低下を改善する効果を次のように評価した。
Wistar系ラット(Jcl:Wistar、雄性、4週齢、日本クレア社より購入)を一群6匹ずつC群、G群、L群の三群に分け、粗たんぱく質含量6%の低たんぱく質飼料(日本クレア社にて調製)にて三週間飼養し、擬似老化モデルラットを作製した。擬似老化モデルラットの背部中央に、バリカンおよび除毛クリームを用いて縦5cm×横5cm程度の除毛部を作製し、除毛部上部の左右二ヵ所に5%ダンシルクロリド/エタノール溶液をおよそ5μL滴下し、標識を行なった。翌日より、C群には比較例1のサンプルを、G群には比較例2のサンプルを、L群には実施例1のサンプルをそれぞれ1日およそ200mgずつ、除毛部全域に22日間繰り返し塗布した。塗布開始時より、塗布前にブラックライト(極大波長;352nm)を当て、ダンシルクロリドの塗布部より発する蛍光を観察した。各々のサンプルを反復塗布し蛍光が消失するまでの日数を記録し、角質層ターンオーバー低下改善の指標とした。すなわち、所要日数が短いものほど改善効果が強いものであると評価した。
【0036】
また、ダンシルクロリド標識部を避けた(下方の)サンプル塗布部より縦4cm×横5cmの皮膚を摘出し、該皮膚を二等分した(10cm)。次いで、二等分した皮膚の一方について湿重量を測定し、体重より換算した体表面積分の皮膚重量を換算し、体重で割った値を単位皮膚重量(単位:g)として比較した。すなわち、単位皮膚重量が軽いものは角質剥離効果が強すぎ、すなわち皮膚に対する刺激性が強いと評価した。
【0037】
引き続いて、同皮膚をエタノール5mL中で2日×3回処理し、脱脂を繰り返した後、手術用ハサミにて細かく切り刻み、全量に0.5M酢酸水溶液10mLを加え、1日に1回転倒混和しながら、冷蔵室内で二週間静置した。遠心分離上清を回収し、キット(Sircol社製、商品名「CollagenAssayKit」)を用いて可溶性コラーゲン量(mg/10cm)を測定した。
【0038】
結果を表2に示した。なお、表2中の値は、平均値±標準偏差で表したものである。
【0039】
【表2】

【0040】
表2より明らかなように、本発明の実施例1塗布群では、ターンオーバーの改善(すなわち、ダンシルクロリド消失所要日数が短縮している)、単位皮膚重量の維持、可溶性コラーゲン量の増加が観察された。比較例2は単位皮膚重量が減少しているのに対して、実施例1では、単位皮膚重量が維持されていることから、角質剥離作用が穏やかであること、すなわち、グリコール酸と比較すると皮膚に対する刺激性が弱いということが明らかである。
【0041】
さらに、摘出した皮膚のもう一方に70%冷エタノール固定を施し、パラフィン包埋の後、3μmの切片を作製し免疫組織化学的染色に供した。脱パラフィンの後、一次抗体として抗マウスEGF(Epidermal Growth Factor、すなわち上皮成長因子)抗体を作用させ、次いで、二次抗体としてビオチン標識した抗マウスIgGヤギ抗体を作用させた。続いて、HRP(Horse Radish Peroxidase)標識ストレプトアビジンを作用させた後、DAB(Diaminobenzidine)染色を行なった。発色の強いものほどEGFの検出量が多いと評価した。結果を図2に示した。
【0042】
図2から明らかなように、本発明の実施例1塗布群では、グリコール酸を用いた比較例2塗布群と同等以上のEGFが検出され(矢印で示す部分)、EGFレセプター発現量の亢進が示唆される。EGFは上皮細胞の分裂を促進する物質、すなわち、表皮の増殖を活発にする物質であり、本発明の実施例1塗布群で観られる角質層のターンオーバーの改善を裏付けるものである。
【0043】
(4)加齢による角質層のターンオーバー低下改善試験
ラクトビオン酸の、加齢による角質層のターンオーバーの低下を改善する効果を次のように評価した。
35〜55歳の男女計20名の左右前腕内側部各一ヵ所に、5%ダンシルクロリド/エタノール溶液に浸した濾紙(ペーパーディスク 径8mm、アドバンテック社製)を1分間接触させ、ダンシルクロリド標識を作製した。翌日より、左腕には比較例1のサンプルを、右腕には実施例1のサンプルを、標識部位を中心として直径約5cmの円形に、1日およそ200mgずつ、九週間繰り返し塗布した。塗布開始時より3日おきに、塗布前にブラックライト(極大波長;352nm)を当て、ダンシルクロリドの塗布部より発する蛍光を観察した。サンプルの反復塗布により蛍光が消失するまでの日数を記録し、ターンオーバー改善の指標とした。すなわち、所要日数が短いものほど改善作用が強いと評価した。
【0044】
また、角質層水分量を、角層膜厚・水分計(アサヒバイオメッド社製、商品名「ASA−M1」)を用いて測定した。皮膚表面より微弱な交流電圧を加えた際に得られる電気伝導度(単位:μS)を測定し、角質層水分量の指標とした。すなわち、電気伝導度が大きいほど角質層水分量が多いと評価した。
【0045】
さらに、皮膚の弾力性を、Cutometer SEM575(Courage+Khazaka社製)を用いて測定した。口径2mmのプローブを用いて皮膚表面に急激に300hPaの陰圧を繰り返しかけ、皮膚の伸展能(Uf)と退縮能(Ur)の比(Ur/Uf)を求めて、これを皮膚の弾力性の指標とした。すなわち、値の大きいものほど弾力性が強いと評価した。
【0046】
結果を図3、表3に示した。なお、表3中の値は平均値±標準偏差で表したものである。
【0047】
【表3】

図3、表3より明らかなように、本発明の実施例1使用部位(右腕)では角質層のターンオーバーの亢進に加えて、角質層の水分量、皮膚の弾力性の改善、向上が観られた。
【0048】
(5)実使用による肌改善試験
まず、表4に示す割合で実使用試験用のローションサンプルをそれぞれ調製し、実施例2〜9、比較例3および4に用いた。なお、表中の単位は質量%である。
【0049】
【表4】

【0050】
次いで、肌状態を改善する効果および肌への刺激性を次のように評価した。
肌状態の改善に関しては、「しみ」「くすみ」「肌荒れ」「しわ」「たるみ」の5項目で悩む20〜50代の男女パネラー10名を一群として、上記のように調製したローションサンプルをブラインドにて1日2回、四週間繰り返し塗布し、使用前と使用後の肌状態5項目それぞれについて、「改善」「やや改善」「変化なし」「悪化」の四段階で自己官能評価により判定し、「改善」「やや改善」と判定したパネラー数の割合により、以下の基準で評価し、結果を表5に示した。
◎:「改善」「やや改善」と判定したパネラー数の割合が80%以上である。
○:「改善」「やや改善」と判定したパネラー数の割合が50%以上80%未満である。
△:「改善」「やや改善」と判定したパネラー数の割合が30%以上50%未満である。×:「改善」「やや改善」と判定したパネラー数の割合が30%未満である。
【0051】
一方、肌への刺激性について、「感じない」を0点、「ほとんど感じない」を1点、「やや感じる」を2点、「刺激を感じる」を3点の四段階で評価し、全パネラーの平均値で表した。すなわち、値の大きいものほど刺激性が強いと評価した。結果を表5に示した。
【0052】
【表5】

【0053】
表5より明らかなように、本発明の実施例2〜9使用群では肌状態の改善、向上が認められた。特に、実施例4、5では50%以上のパネラーにおいて明確な改善が認められた。また、ラクトビオン酸の含有量が4.0質量%である実施例5においても、グリコール酸の含有量が1.0質量%と低い比較例4よりも肌への刺激性が低く、穏やかであることが示された。さらに、ラクトビオン酸カルシウムを用いた実施例8、9では、肌状態の改善、向上効果がラクトビオン酸とほぼ同等であるのに加え、刺激性がより低いことが確認された。それに対して比較例3使用群では、肌状態の改善効果に劣っていた。比較例4使用群では、肌への刺激性が強いことが確認された。
【0054】
(6)ヘアレスマウスを用いた紫外線誘発性皮膚炎症緩和試験
まず、皮膚炎症緩和試験用サンプルを調製した。すなわち、エタノール/精製水/プロピレングリコール(ナカライテスク社製)=2:2:1に調整したベース溶液を調製した(比較例5)。次いで、40質量%フィチン酸水溶液(50質量%フィチン酸溶液;和光純薬工業社製より調製)2mLを18mLのベース溶液で希釈したもの(比較例6)、40質量%ラクトビオン酸水溶液2mLを18mLのベース溶液で希釈したもの(実施例10)を、それぞれ調製した。
【0055】
次いで、ラクトビオン酸の、紫外線暴露による皮膚の炎症を緩和する効果を次のように評価した。
ヘアレスマウス(Hos:HR−1、雌性、4週齢、日本エスエルシー社より購入)を一群6匹ずつC群、F群、L群の三群に分け、一週間の馴化飼育の後、個別ケージにて個別飼育を行なった。馴化飼育期間終了時より、C群には比較例5のサンプルを、F群には比較例6のサンプルを、L群には実施例10のサンプルをそれぞれ1日およそ100μLずつ、背部全域に5回/週の頻度で五週間繰り返し塗布した。塗布開始時より、塗布よりおよそ2時間後に紫外線(B波、極大波長304nm、照射強度250μW/cm)を表6の照射強度にしたがって3回/週の頻度で五週間繰り返し照射した。試験期間終了時にマウスの背部の写真撮影を行ない、紫外線誘発性皮膚炎症の程度を比較し、紅斑、ただれの程度が弱いものほど緩和効果が強いと評価した。
【0056】
【表6】

【0057】
C群、F群では皮膚の炎症(紅斑、ただれ)が確認された。しかし該皮膚の炎症は、本発明の実施例10を使用したL群では観られず、ラクトビオン酸の紫外線誘発性皮膚炎症の緩和効果が確認された。
【0058】
(7)皮膚紅斑発生抑制試験
ラクトビオン酸の、紫外線暴露による皮膚紅斑の発生を抑制する効果を次のように評価した。
20代〜50代の男性パネラー10名を一群として、I群、II群の二群に分けた。紫外線照射における最小紅斑量を次のように測定した。I群、II群のいずれにおいても、右上腕内側に10箇所、φ1cmの円形の照射部位を設定し、紫外線(B波、極大波長304nm、照射強度250μW/cm)に0、20mJ/cm、30mJ/cm、40mJ/cm、50mJ/cm、60mJ/cm、70mJ/cm、80mJ/cm、90mJ/cm、100mJ/cmの照射量で暴露した。照射24時間後に紅斑を生じた照射量を求め、最小紅斑量とした。
【0059】
引き続き、左上腕内側に、I群の10名には比較例5のサンプルを、II群の10名には実施例10のサンプルをそれぞれ1日およそ500μLずつ、5回/週の頻度で二週間繰り返し塗布した。塗布期間終了後、サンプル塗布部位(左上腕内側)について、試験開始時と同様の条件で紫外線を暴露し、最小紅斑量を求めた。最小紅斑量が大きくなったものほど紫外線による皮膚紅斑発症抑制作用が強いと評価した。結果を表7に示した。なお、表7中の値は平均値±標準偏差で表したものである。
【0060】
【表7】

【0061】
表7から明らかなように、本発明の実施例10を使用した群(II群)では、最小紅斑量の向上が認められ、ラクトビオン酸の皮膚紅斑発生抑制の効果が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトビオン酸を含有することを特徴とする皮膚老化防止・改善剤。
【請求項2】
角質層ターンオーバー促進作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚老化防止・改善剤。
【請求項3】
しわ抑制作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚老化防止・改善剤。
【請求項4】
紫外線誘発性皮膚炎症緩和作用を有することを特徴とする請求項1記載の皮膚老化防止・改善剤。
【請求項5】
ラクトビオン酸を0.1〜20.0質量%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の皮膚老化防止・改善剤。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−153090(P2011−153090A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15039(P2010−15039)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】