説明

皮膚角層水分量、コレステロール量測定方法

【課題】染色や転写などの工程を必要とすることなく簡便且つ正確に重層度を測定する方法を提供する。
【解決手段】共焦点レーザー顕微鏡を用いて、採取した角層試料が発する自家蛍光を強度測定し、角層水分量とコレステロール量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚角層水分量、コレステロール量測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の状態を知る上で重要な要素として、角層の水分量、コレステロール量があり、皮膚状態評価のための指標とされている。
特許文献1(特開2004−97436号公報)には、皮膚の角層水分量が少ない場合は表皮のバリア機能が低下していると判断することができることが開示されている。角層水分量の測定方法として、「皮膚の角層に存在する水分量である角層水分量の測定方法としては、高周波電流を用いて皮膚の電気インピータンスを測定する方法、例えば3.5MHzの高周波電流を直径2mmのカードリングからなる電極を通して皮膚に流してコンダクタンスを測るSkicon−200(IBS社製)や電気容量から水分量を推定するCorneometer(Courage+Khazaka Germany社製)等を用い測定する方法、赤外線スペクトルを用いる方法、マイクロ波を用いる方法、光音響による方法等が挙げられるが、その中でも高周波電流皮表コンダクタンスを測定する方法が好ましい。[0013]」と紹介されている。その他、皮膚の状態を把握する因子の測定として、この特許文献には、スティンギングテストにより、被験物質である皮膚刺激性化学物質の感覚刺激性を判定する試験を行い敏感肌と非敏感肌を判断する方法、経皮水分蒸散量(TEWL)の測定方法、重層剥離量の測定方法、共焦点レーザー顕微鏡による表皮の厚さと真皮乳頭密度の測定方法、電気刺激感受性(知覚閾値)の測定方法、神経成長因子(NGF)産生量の測定方法などが紹介されている。
【0003】
特許文献2(特開2002−265347号公報)には、角層には角質細胞と細胞間脂質があって、細胞間脂質はセラミド、コレステロール 、脂肪酸などを成分としてラメラ構造を形成し、角層 バリアー機能において重要な役割を演じていることが明らかになっており、角層 バリアー機能が低下する種々の皮膚疾患や、肌荒れなどの皮膚トラブルにおいて、細胞間脂質が形態的にまた組成的にも乱れていることにより裏付けられていると、紹介されている。細胞間脂質に存在するコレステロール量が多いと肌のバリア機能に優れ、角質水分量を維持すると考えられている。
【0004】
角層を光学顕微鏡で観察すると、角層は半透明であり、視野がぼやけるので角層剥離の重層度を評価することは困難である。そこで、一般的に角層をゲンチアナバイオレット、ブリリアントグリーンで染色した後に光学顕微鏡で観察し、角層が重なっている色の濃い部分を目視評価するか、画像解析することが行われている。しかし、染色ムラや角層ごとの染色され易さの違いにより、正確な重層度を評価することが困難であった。また、染色操作が煩雑であり、染色操作によって角層が剥離する危険性もあった。
【0005】
染色せずにそのまま角質細胞を観察する方法として、特許文献3(特許第3709382号公報)には、紫外線下で顕微鏡やビデオマイクロスコープを介して撮影し、角質細胞の形状認識、及び面積測定を行った技術が開示されている。
特許文献4(特開2006−17688号公報)には、顕微鏡下、乃至は、拡大ビデオでの観察下、油浸オイルで封入されたスライドグラス上の角層細胞に、紫外線光源より紫外線を照射し、紫外線によって励起される、角層細胞の蛍光強度を指標として皮膚より採取した角層細胞のケラチンの立体構造を鑑別する方法が開示されている。具体的には、(1)粘着テープを使用し、テープストリップにより皮膚より角層細胞を採取する、(2)(1)の角層細胞の付着した粘着テープを、そのままスライドグラスに貼り付け、有機溶剤(キシレン等)中で一夜浸漬し、テープの粘着剤を軟化及び/又は溶解させ、スライドグラス上に角層細胞標本を転移させる、(3)の標本の角層細胞数を減少させ、スライドグラス上に角層細胞数1個の標本を作成し、油浸オイルを滴下し、カバーグラスをのせて封入する、(4)(3)の標本を、拡大観察手段の元にセットし、メタルハライド光源或いはLED光源の絞りを調節しながら紫外線を照射し、角層細胞の自家蛍光を観察し、その画像を取り込む、(5)(4)の取り込んだ画像の輝度を解析し、その代表値を算出し、角層細胞固有の蛍光強度と推定する、(6)条件の異なる角層細胞の蛍光強度を比較し、角層細胞のケラチンの立体構造の差異を鑑別する、とされている。
特許文献5(特開2005−348991号公報)には、皮膚より採取した角層細胞に紫外線を照射し、該紫外線によって発光する蛍光強度によって、角層細胞におけるβシート型のケラチンの存在割合の推定及び/又は皮膚柔軟性を鑑別する方法が、開示されている。
特許文献6(特許3980774号公報)には、非医療的使用を目的とする敏感肌鑑別法として、(1)年齢の異なるパネラーの角質細胞を各季節毎に採取し、これら採取した角質細胞の面積を測定し、これら角質細胞の面積の結果を回帰分析することにより、年齢を説明変数とする標準角質細胞面積を求める回帰式を各季節毎に予め用意し、(2)敏感肌か否かを鑑別する被験者に対し、その被験者の角質細胞を採取し、その角質細胞の面積を測定し、(3)上記(2)で被験者から角質細胞を採取した季節及び被験者の年齢を考慮することにより、上記(1)で得られた回帰式を用いて、被験者の年齢に対応した標準角質細胞面積を得て、(4)上記(3)で得られた標準角質細胞面積と上記(2)で得られた被験者の角質細胞面積とを比較し、上記(2)で得られた被験者の角質細胞面積が上記(3)で得られた標準角質細胞面積より50〜200μm2小さい場合に、敏感肌であると鑑別する、非医療目的の敏感肌の鑑別法が、開示されている。この角質細胞の面積測定法としては、角質細胞を粘着剤つきのディスクを用い、角質細胞を採取し、これを粘着テープに転写し、ブリリアントグリーンで染色した後、顕微鏡下角質細胞面積を測定する方法が採用されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−97436号公報
【特許文献2】特開2002−265347号公報
【特許文献3】特許第3709382号公報
【特許文献4】特開2006−17688号公報
【特許文献5】特開2005−348991号公報
【特許文献6】特許3980774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、染色や転写などの工程を必要とすることなく簡便且つ正確に角質層の状態を知る技術を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)共焦点レーザー顕微鏡を用いて、採取した角質層試料が発する自家蛍光強度を測定し、該測定データに基づいて、角質層の水分量を測定する方法。
(2)共焦点レーザー顕微鏡を用いて、採取した角質層試料が発する自家蛍光強度を測定し、該測定データに基づいて、角質層のコレステロール量を測定する方法。
(3)波長450〜600nmの自家蛍光を観察することを特徴とする(1)又は(2)記載の角質層の水分量あるいはコレステロール量を測定する方法。
(4)(1)〜(3)のいずれかの測定方法によって得られた角質層の水分量あるいはコレステロール量を基礎として非医療目的として皮膚状態を評価する方法。
【発明の効果】
【0009】
共焦点レーザー顕微鏡をもちいて剥離した角質試料を直接的に、試料が発する自家蛍光の強度を観察することにより、角質水分量及びコレステロール量を測定することができる。
スライドグラスを肌に押しつけて剥がして得られた試料を用いるので、試料の採取が障害を与えることなく容易に行うことができ、電極や溶解分析等の作業を行うこともなくそのまま共焦点レーザー顕微鏡観察によって、データが得られるので、簡便性と即時性がある。
簡便且つ客観的に正確にストリッピング試料を用いた角層の水分量やコレステロール量の状態からその人の顔や手などの皮膚の状態を知ることができるので、皮膚の状態を勘案した非医療目的とする客観的な化粧品の選定、化粧方法を選択、アドバイスすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
被験者の頬や手、腕などの対象部位に対して、スライドグラスに樹脂製粘着剤を薄く塗布し、適当な粘着力を持った半渇き状態で皮膚に圧着し、角層を粘着採取して、共焦点レーザー顕微鏡観察用角層試料とする。共焦点レーザー顕微鏡により、自家蛍光強度データを得て、別途従来法で得た角層の水分量とコレステロール量と比較した。本発明では、自家蛍光とは蛍光誘導体化せずに角層自体が発する蛍光を意味する。自家蛍光として波長450〜600nmを用いることが好ましい。
共焦点レーザー顕微鏡に用いる光源としてレーザー光(固体レーザー、液体レーザー、ガスレーザー、半導体レーザー)を用いることができる。レーザーは光の収束に優れているので、レーザー光を走査して平面分解能の高い観察、測定が可能となる。従来の角層の蛍光観察、測定では隣接する角層からの反射光、蛍光が妨害するため、角層細胞が隣接しないようにばらばらにする前処理が必要であったが、本発明の共焦点レーザー顕微鏡を用いた測定では、剥離角層をそのまま観察、測定することが可能である。
本発明に用いるレーザー光の波長は400〜460nmである。レーザー光による照射波長を400nm以上とすることで、蛍光の退色を防ぎ、接着剤などの剥離角層以外の物質の励起を防ぐことができる。460nmを超えると、蛍光強度が弱まり、観察が困難となる。
検出波長範囲は、450〜600nmである。450nm未満であると、直接反射光の影響を受ける。600nmを超えると蛍光強度が弱まり、観察が困難となる。
光学断層スライス像を得るために、検体を乗せるステージが0.1〜5μm刻みで、垂直方向に0.1〜10μm移動できる装置を用いることが好ましい。
【0011】
共焦点レーザー顕微鏡にて、角層面積が最大となる高さに共焦点を合わて、角層の画像1(図1参照)を採取した。Scion Corporation製画像解析ソフトScion Imageを用いて画像1の角層の有無を輝度の閾値により区別する。角層が存在しているとみなす閾値以上の自家蛍光(470-475nm)強度を角層が存在しているとみなした画素で平均して、角層の自家蛍光強度の測定値とする。
【0012】
別途採取した角層を、従来手法を用いて角層水分量とコレステロール量を測定し、本願発明の共焦点レーザー顕微鏡を用いた測定値と比較した結果、従来手法と相関関係が認められた。共焦点レーザー顕微鏡で測定した蛍光強度値をもって、信頼性が高い角層の水分量及びコレステロール量の指標とすることができる。
コレステロールは角層細胞間脂質の構成成分の一種であり、コレステロール量が多いと皮膚のバリア機能が優れると予測できる。
【実施例】
【0013】
前腕内側部の皮膚から角層を採取して、470-475nmの自家蛍光に着目して蛍光強度を測定し、角質水分量とコレステロール量との比較検討を行った。
[共焦点レーザー顕微鏡による角層自家蛍光強度の測定 ]
1.共焦点レーザー顕微鏡観察用角層採取
スライドグラスに樹脂製粘着剤を薄く塗布し、適当な粘着力を持った半渇き状態で皮膚に圧着し、角層を粘着採取した。採取試料は、それぞれ表2、表3に示す者から提供を受けた。なお、従来例も同様である。
【0014】
2.共焦点レーザー顕微鏡による測定
共焦点レーザー顕微鏡(OLYMPUS FV-1000)による自家蛍光像(ここで自家蛍光とは蛍光誘導体化せずに角層自体が発する蛍光を意味する)を用いて、角層の剥離状態を観察し、データを採取した。
【0015】
2.1 装置
共焦点レーザー顕微鏡(OLYMPUS FV-1000)
【0016】
2.2 重層剥離度の測定
共焦点レーザー顕微鏡の条件設定を表1に示す。重層剥離となっているので、最大面積となる角層の高さ位置の画像を画像1として得る。なお、角層は重層剥離を起こしていることが多く、特に、皮膚バリア機能が低下している場合は重層剥離度が大きいと考えられているので、共焦点の高さ方向のレベルを角層の最大データが得られる位置を選択した(図1参照)。重層剥離状態を参考に画像2に示す。画像2は画像1から共焦点の位置を5μm高くした角層の画像である。
なお、×20レンズの焦点深度は5.1μmなので、画像1と画像2の画像情報はほぼ分離される。画像解析ソフトScion Imageを用いて画像1、2の角層の有無を輝度の閾値により区別した。画像1と画像2の角層面積を求め、以下の式により重層剥離度(%)を算出した。尚、1枚のスライドグラスから4箇所撮影し、測定値を平均した。画像1,2の例を図2、3に示す。
【0017】
〔数1〕
重層剥離度(%)=(画像2の角層面積/画像1の角層面積)×100 (式1)
【0018】
【表1】

【0019】
[3.従来手法による角質層水分量測定とコレステロール量の測定]
3.1 角層水分量の測定
前腕内側部を水洗し、10分後にIBS社製skicon−200(電気伝導度測定)を用いて角層水分量を測定した。被験者は、表2に示す12名である。
【0020】
3.2 コレステロール測定用角層の採取
前腕内側部洗浄15分後に、次のように角層の採取を行った。被験者は、表3に示す9名である。
幅1.5cm、長さ5cmのセロハンテープ(ニチバン)を用いて2箇所、2回ずつ(合計4枚)角層を粘着採取した。
【0021】
3.2.1 コレステロール量の測定
角層を採取したセロハンテープを遠沈管に入れ、酢酸エチル:メタノール=1:4混液6mLを加え、5分超音波処理した。その後、テープを取り除き、乾固させた後にクロロホルム:メタノール=2:1混液400μLに溶解した。角層などを遠沈し、上清をガスクロマトグラフィーで分析し、コレステロール量を測定した。
カラム:DB-1 0.15μm×0.53mmI.D. 15m
温度 :100℃→200℃(15℃/分)→270℃(5℃/分)
検出器:FID
キャリャーガス:He 18mL/分
【0022】
[4.自家蛍光強度と角質水分量、重層剥離度の比較]
自家蛍光強度、角質水分量、重層剥離度の測定結果を表2に示す。自家蛍光強度と角質水分量のグラフを図4に示す。
自家蛍光強度と角質水分量との相関係数は0.766であり、高い相関関係を示した。従って、自家蛍光強度を測定することにより、肌の乾燥度を評価することができる。
自家蛍光強度と重層剥離度との相関係数は−0.051であり、全く相関関係が認められなかった。従って、自家蛍光強度は重層剥離度に影響されない。
【0023】
【表2】

【0024】
[5.自家蛍光強度とコレステロール量、重層剥離度の比較]
自家蛍光強度、コレステロール量、重層剥離度の測定結果を表3に示す。自家蛍光強度とコレステロール量のグラフを図5に示す。
自家蛍光強度とコレステロール量との相関係数は0.513であり、相関関係を示した。従って、自家蛍光強度を測定することにより、肌のコレステロール量を評価することができる。コレステロールは細胞間脂質であり、コレステロール量が多いと肌のバリア機能に優れ、角質水分量を維持すると考えられる。
自家蛍光強度と重層剥離度との相関係数は0.39であり、相関関係が認められなかった。自家蛍光強度が重層剥離度に影響されないことを確認できた。
尚、本測定結果の自家蛍光強度の検出幅と、表2の自家蛍光強度の検出幅は大きく異なる。これは、本測定の自家蛍光強度のノイズ幅が大きく、角層の存在を識別する閾値を表2と比べて大きくし、その結果、自家蛍光強度の低い角層部分がデータから除かれたためである。従って、本測定結果を示す表3と表2の結果を直接比較することはできない。
【0025】
【表3】

【0026】
したがって、スライドグラスに付着させた剥離角層試料を直接共焦点レーザー顕微鏡を利用して、自家蛍光強度を測定することにより、角質層に含まれる水分量及びコレステロール量を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】共焦点レーザー顕微鏡を使用した重層剥離の撮影方法(CLSM)を示す模式図
【図2】共焦点レーザー顕微鏡画像1
【図3】共焦点レーザー顕微鏡画像2
【図4】自家蛍光強度と角質水分量の関係を示すグラフ
【図5】自家蛍光強度とコレステロール量の関係を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共焦点レーザー顕微鏡を用いて、採取した角質層試料が発する自家蛍光強度を測定し、該測定データに基づいて、角質層の水分量を測定する方法。
【請求項2】
共焦点レーザー顕微鏡を用いて、採取した角質層試料が発する自家蛍光強度を測定し、該測定データに基づいて、角質層のコレステロール量を測定する方法。
【請求項3】
波長450〜600nmの自家蛍光を観察することを特徴とする請求項1又は2記載の角質層の水分量あるいはコレステロール量を測定する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの測定方法によって得られた角質層の水分量あるいはコレステロール量を基礎として非医療目的として皮膚状態を評価する方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−250773(P2009−250773A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98668(P2008−98668)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】